JP4763391B2 - 半導電性フィルム、半導電性シームレスベルト及びこれらの製造方法 - Google Patents

半導電性フィルム、半導電性シームレスベルト及びこれらの製造方法 Download PDF

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本発明は、半導電性フィルム及び半導電性シームレスベルトに関し、更に詳しくは電子写真方式やインクジェット方式の画像形成装置における転写ベルト、あるいは帯電ロール、転写ロール又は現像ロールなどのロールの被覆チューブとして好適な半導電性フィルム及びシームレスベルト及びこれらの製造方法に関する。
電気・電子機器の分野において、静電気を精密に制御することができる樹脂材料が求められている。例えば、電子写真方式の複写機やファクシミリ、レーザービームプリンターなどの画像形成装置(電気写真複写機、静電記録装置など)においては、帯電、露光、現像、転写、定着、除電の各工程を経て、画像が形成されている。これら各工程では、静電気を精密に制御することが必要である。具体的に、電子写真方式の画像形成装置においては、一般に、(1)感光体ドラム表面を均一且つ一様に帯電する工程、(2)露光により感光体ドラム表面に静電潜像(静電荷像)を形成する工程、(3)現像剤(トナー)によって静電潜像を可視像(トナー像)に現像する工程、(4)感光体ドラム上のトナーを転写材(例えば、転写紙)上に転写する工程、(5)転写材上のトナーを加圧加熱して融着する定着工程、及び感光体ドラム上に残留するトナーを清掃するクリーニング工程などの各工程によって、画像が形成されている。また、インクジェット方式のプリンターにおいては、高画質化と高速化とを達成する目的で、抵抗値を制御したベルトを用いて印刷用紙を支持させたり、インク像を樹脂製のベルトやロールの表面に形成させてから印刷用紙に転写したりする印刷方法が試みられている。
このような画像形成装置に装着されているベルト又はロールは、1×105〜5×1013Ωcm程度の体積抵抗率を有することが要求される。例えば、帯電ロールやベルトを用いた帯電方式では、電圧を印加した帯電ロール又はベルトを感光体ドラムに接触させて、直接、感光体ドラム表面に電荷を与え、一様且つ均一に帯電させている。現像ロールを用いた現像方式では、現像ロールとトナー供給ロールとの間の摩擦力により、トナーを現像ロールの表面に帯電状態で付着させ、これをトナー層厚規制ブレードで一様にならした後、感光体ドラム表面の静電潜像に対して電気吸引力により飛翔させて現像する。転写ロール又はベルトを用いる転写方式では、転写ロール又はベルトにトナーと反対の極性を有する電圧を印加して電界を発生させ、この電界によりベルト上に静電気を発生させたり除電させたりすることによって、感光体上のトナーを転写材上に転写する。
したがって、画像形成装置における帯電ロールやベルトなどの電荷制御部材には、適度に低い範囲の体積抵抗率を有することが要求される。また、体積抵抗率は電荷制御部材において一様であることが必要であり、部分的に体積抵抗率が異なると、感光体表面などを一様かつ均一に帯電させることができず、高品質の画像を得ることができない。
また、樹脂材料から形成されているOA機器の外装材や部品などは、塵埃やトナーなどを吸引すると、外観を損ねたり、故障の原因となる。電子工業における半導体デバイスやLCDなどの製造工程で使用される樹脂製の装置や部品、ICやLSIなどの電子部品を包装するためのフィルムや容器は、静電気により塵埃を吸着すると、電子部品の品質を損なう。そのため、これらの用途に使用される樹脂材料には、1×105〜5×1013Ωcm程度の体積抵抗率を付与して、静電気防止性を持たせることが求められている。
このような用途に使用されるフィルムやベルトの素材として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は、耐熱性、耐候性、耐薬品性、耐溶剤性、耐オゾン性、耐汚染性、非粘着性、難燃性、易加工性などの面で優れている。帯電ロール又はベルト、現像ロール、転写ロール又はベルト等の電荷制御部材の用途に好適であると期待されている。ところが、PVDFなどのフッ素樹脂は、他の多くの樹脂と同様に、体積抵抗率が大きく、半導電性ではない。そのため、画像形成装置における帯電ロールやベルトなどの電荷制御部材として利用するために、精密に体積抵抗率と表面抵抗を制御したPVDFフィルムやベルトが求められている。
一般に、樹脂材料やその成形品の電気抵抗率を下げる方法として、(1)フィルムやベルトの表面に有機系帯電防止剤を塗布する方法、(2)樹脂に有機系帯電防止剤を練り込む方法、(3)樹脂にカーボンブラックや金属粉などの導電性フィラーを練り込む方法、及び(4)樹脂に電解質を練り込む方法が知られている。
しかしながら、(1)の方法は、PVDFが、非粘着性に優れているため、フィルムやベルトに有機系帯電防止剤を塗布しても、成形品表面を拭いたり洗浄したりすることによって、容易に脱落してしまうため、長期間の制電効果が期待できない。(2)の方法では、有機系帯電防止剤として、界面活性剤や親水性樹脂を用いている。界面活性剤を用いる方法では、成形品表面から界面活性剤をブリードアウトさせることにより、帯電防止性を付与する機構を採用しているため、温度や湿度などの環境の変化によって、体積抵抗率や帯電防止性が大きく変化する。ポリエーテルエステルアミドやポリエチレンオキサイド等の親水性樹脂を配合する方法では、PVDFの優れた防汚性を維持することが困難であったり、弾性率が低下したり、あるいは、体積抵抗率や帯電防止性の湿度依存性が大きくなるなどの問題がある。
前記(3)の方法として、本発明者らは、PVDF系樹脂100重量部に対して、アルキル4級アンモニウム亜硫酸塩を0.03〜10重量部配合することによって、105〜1013Ωcmの範囲で所望の体積抵抗率を安定して均一に精度良く発揮することができ、且つ環境湿度変化による体積抵抗率と表面抵抗率の変化が小さいPVDF系フィルムとベルトとを提案した(特許文献2)。
しかしながら、このアルキル4級アンモニウム亜硫酸塩を配合したPVDF系フィルムとベルトは、樹脂中にアルキル4級アンモニウム亜硫酸塩が均一に溶媒和しているために、これらのフィルムとベルトの防汚性は単体のPVDFフィルムと比較すると劣るものであった。このため、インクジェット方式の画像形成装置においては、インクがベルト表面に固着するなどの問題があった。また、電子写真方式の画像形成装置の転写ベルトにおいては、接触によってアルキル4級アンモニウム亜硫酸塩が感光体に移行し画像が不鮮明になる場合があった。
電子写真方式の画像形成装置において転写ベルトは、厚み方向の体積抵抗が1×105〜5×1013Ωcmで、表面抵抗をできるだけ高くすることが高画質化のために求められている。ところが、樹脂中にアルキル4級アンモニウム亜硫酸塩を均一に分散させたフィルムやベルトは、体積抵抗率に対して表面抵抗率が一義的に決まってしまうため、体積抵抗率と表面抵抗を個別に設計することはできなかった。
また、本発明者らは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂にテトラブチルアンモニウム硫酸水素塩など特定の4級アンモニウム塩と導電性カーボンブラックとを添加することにより、4級アンモニウム塩の配合割合を小さくしても、半導電性領域内での体積抵抗率の設計幅を広げることができ、所望の体積抵抗率を安定に精度良く発現し、部位による体積抵抗率のばらつきも小さい半導電性ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物が得られることを知見した(特許文献3)。
しかし、PVDFにカーボンブラックなどを添加した半導電体とPVDFの誘電体とを積層した2層フィルムやベルトの場合、各層の表面抵抗は各々の半導電層と誘電層との値が発現されるが、厚み方向の体積抵抗率としては体積抵抗率が高い誘電層の影響が支配的になるために、1×105〜5×1013Ωcmにすることは困難だった。
要するに、従来の半導電性シームレスベルトや半導電性フィルムは、耐熱性、耐候性、耐薬品性、耐溶剤性、耐オゾン性、耐汚染性、非粘着性、難燃性、易加工性などの特性と、厚み方向の体積抵抗率及び表面抵抗を所望の範囲内にすること、とを両立することができなかった。
特公平6−99053号公報 特開平11−323052号公報 特開2000−319470号公報
従って、本発明の目的は、耐熱性、耐候性、耐薬品性、耐溶剤性、耐オゾン性、耐汚染性、非粘着性、難燃性、易加工性などのPVDFの優れた特性を損なうことなく、厚み方向の体積抵抗率と、表面抵抗とを所望の範囲内に制御した半導電性フィルム及び半導電性シームレスベルトを提供することにある。特に、電子写真方式やインクジェット方式の画像形成装置における転写ベルト、あるいは帯電ロール、転写ロール、現像ロールなどのロール用被覆チューブとして好適な体積抵抗率及び表面抵抗を有する半導電性シームレスベルト及び半導電性フィルムを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記半導電性フィルム及び半導電性シームレスベルトの効率的な製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルト全体の厚み方向の体積抵抗率及びフィルム又はシームレスベルトの基材層と表面層との表面抵抗の比(表面層/基材層)を特定の範囲内とすることにより、上記目的を達成しうることを知見し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とイオン性導電剤とを含んでなる基材層と、少なくともポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む表面層と、からなる半導電性フィルムであって、半導電性フィルム全体の厚み方向の体積抵抗率が1×105〜5×1013Ωcmであり、前記基材層と前記表面層との表面抵抗の比(表面層/基材層)が2〜1000の範囲内であることを特徴とする半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルトを提供することにより、上記目的を達成するものである。
本発明の半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルトにおいて、基材層に用いられるポリフッ化ビニリデン系樹脂と表面層に用いられる前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂とは同一の樹脂であることが好ましい。
また、本発明の半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルトにおいて用いることができるイオン性導電剤は、アルキル4級アンモニウム塩であることが好ましい。特に、テトラブチルアンモニウムの硫酸水素塩であることが好ましい。
本発明の半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルトは、ヤング率が1.0GPa以上であることが好ましい。
また、本発明は、フィードブロック又はマルチマニホールドを有する多層ダイを用いてフィルム状に溶融共押出成形する半導電性フィルムの製造方法であって、ポリフッ化ビニリデン系樹脂にイオン性導電剤を0〜0.5重量%配合した表面層の形成原料を押出機に供給し、ポリフッ化ビニリデン系樹脂にイオン性導電剤を1〜10重量%配合した基材層の形成原料を他の押出機に供給し、表面層の形成材料と基材層の形成材料とを同時に多層ダイに溶融押出して成形することを特徴とする前記半導電性フィルムの製造方法を提供するものである。
また、本発明は、マルチマニホールドを有する環状ダイを用いてシームレスチューブを溶融共押出成形するシームレスベルトの製造方法であって、ポリフッ化ビニリデン系樹脂にイオン性導電剤を0〜0.5重量%配合した表面層の形成原料を押出機に供給し、ポリフッ化ビニリデン系樹脂にイオン性導電剤を1〜10重量%配合した基材層の形成原料を他の押出機に供給し、表面層の形成材料と基材層の形成材料とを同時に環状ダイに溶融押出して成形することを特徴とする半導電性シームレスベルトの製造方法を提供するものである。
本発明の半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルトは、耐熱性、耐候性、耐薬品性、耐溶剤性、耐オゾン性、耐汚染性、非粘着性、難燃性、易加工性などのPVDFの優れた特性を損なうことなく、厚み方向の体積抵抗率と表面抵抗を任意に制御することができる。特に、電子写真方式やインクジェット方式の画像形成装置における転写ベルト、あるいは帯電ロール、転写ロール、現像ロールなどのロール用被覆チューブとして好適な体積抵抗率及び表面抵抗を有する。
また、本発明の半導電性フィルムの製造方法によれば、上記半導電性フィルムを効率的に製造することができる。
また、本発明の半導電性シームレスベルトの製造方法によれば、上記半導電性シームレスベルトを効率的に製造することができる。
本発明の半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルトは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とイオン性導電剤とを含んでなる基材層と、少なくともポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む表面層とからなる。
本発明において用いることができるポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等を挙げることができる。これらのポリフッ化ビニリデン系樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の中でも、耐汚染性、耐オゾン性、耐溶剤性の観点からは、フッ化ビニリデンのホモポリマーであるPVDFが好ましい。柔軟性や引き裂き強度などの観点からは、フッ化ビニリデンを主構成要素とするフッ化ビニリデン共重合体を単独で、あるいはPVDFとブレンドして使用することが好ましい。接着性を向上させるには、官能基を導入したポリフッ化ビニリデン共重合体が好適に使用される。ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、他のフッ素樹脂とブレンドしてもよい。また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の耐汚染性、耐オゾン性、耐薬品性などをそれほど低下させない範囲で、フッ素樹脂以外の熱可塑性樹脂、例えばアクリル樹脂などをブレンドしてもよい。
本発明の半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルトにおいて、基材層と表面層とを構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂は同一種でも異種でもよいが、同一種であることが好ましい。基材層と表面層とを構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂の種類が大きく異なると、層間での剥離が生じる場合がある。また、基材層と表面層とを構成する異種の樹脂間の結晶化挙動、線膨張係数、吸湿による体積変化などの相違が大きいと、半導電性フィルム又はシームレスベルトがカールしたり歪んだりする場合がある。さらに、基材層と表面層とを構成する樹脂が異なるとイオンの移行が阻害される場合もある。基材層と表面層とを構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂を同一種とする場合には、これらの問題が生じないので特に好ましい。
本発明において用いることができるイオン性導電剤は、通常イオン性導電剤として用いられるものであれば特に制限はないが、ポリフッ化ビニリデン系樹脂との親和性が良く、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の加工温度(一般的には200℃〜270℃、典型的には230℃)で分解や揮発が少ないことが好ましい。具体的には、イオン性導電剤としては、アルキル4級アンモニウム塩が好ましく用いられ、中でも下記一般式(I)で表されるアルキル4級アンモニウムの硫酸水素塩が好ましく、その中でもテトラブチルアンモニウムの硫酸水素塩を好ましく用いることができる。
Figure 0004763391
(式中、R,R,R,Rは、それぞれアルキル基を示す。)
〜Rの各々のアルキル基が有する炭素原子数は1〜10であるのが好ましく、1〜4が特に好ましい。
本発明の半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルトにおけるイオン性導電剤の含有率は、表面層表面では最も少なく、基材層表面では最も多くなるように分布が傾斜しており、表面抵抗の比で表した場合に、表面層表面の表面抵抗は基材層表面の表面抵抗の2〜1000倍、好ましくは5〜100倍、さらに好ましくは10〜100倍となる。表面層表面の表面抵抗が基材層表面の表面抵抗の2倍未満であると、表面抵抗を高くすることによる高画質化の効果が得られず、表面抵抗が比較的低い場合には表面層の防汚性が劣り、表面抵抗が比較的高い場合には体積抵抗率が高くなりすぎるなどの不都合を生じる場合があり、好ましくない。一方、1000倍を超えると、半導電性フィルム又はシームレスベルトの厚み方向に電圧を印加した際に、表面抵抗の高い表面層に電圧が集中して絶縁破壊を生じたり、感光体や帯電ロールなどと半導電性フィルム又はシームレスベルトとの間で放電現象が発生する場合があるので好ましくない。
また、基材層表面の表面抵抗は、好ましくは1×106〜5×1011Ωであり、更に好ましくは1×107〜5×1011Ω、最も好ましくは1×109〜5×1010Ωである。一方、表面層表面の表面抵抗は、好ましくは1×109〜5×1014Ωであり、更に好ましくは1×1010〜5×1013Ω、最も好ましくは1×1011〜5×1012Ωである。この範囲であれば、ポリフッ化ビニリデン樹脂の防汚性(表面エネルギーが小さいほど防汚性が高い)が損なわれることなく高画質化効果が得られ、画像形成装置における転写ベルトとして好ましく使用することができる。よって、本発明の半導電性フィルムにおいて、表面層はインクなどによる汚染を実質的に防止することができる。
本発明の半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルトにおいては、JIS K6911に準拠して測定した半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルト全体の厚み方向の体積抵抗率が1×105〜5×1013Ωcmであり、好ましくは1×107〜5×1012Ωcm、更に好ましくは1×109〜5×1011Ωcmである。半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルト全体の厚み方向の体積抵抗率がこの範囲にあれば、電子写真方式やインクジェット方式の画像形成装置における転写ベルト、あるいは帯電ロール、転写ロール又は現像ロールなどのロールの被覆チューブとして所望の静電気防止性を実現することができる。
本発明の半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルトを転写ベルトとして使用する場合、ベルトが歪むと、ベルト上に形成されるトナー画像の歪みや色ずれの原因になるため十分に高い弾性率が必要になる。また、インクジェットプリンターの紙搬送ベルトとして使用する場合にも、紙搬送ベルトが歪むと用紙に形成される画像の歪みの原因になるため十分に高い弾性率が必要になる。好ましい引っ張り弾性率(ヤング率)は1.0GPa以上、更に好ましくは1.2GPa以上である。また、異物の巻き込みなどによって割れたりすることがないように、適度な柔軟性が必要となる。好ましい引っ張り破壊伸びは10%以上、更に好ましくは50%以上である。
本発明の半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルト全体の厚みは、通常20〜500μm、好ましくは40〜200μm、更に好ましくは50〜150μmである。20μm未満であるとフィルム強度が十分でなくなる場合があり、500μmを超えると柔軟性が不十分となる場合があるので、上述の範囲内とするのが好ましい。基材層の厚さは半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルト全体の厚みを100%とした場合に60〜90%とするのが好ましく、70〜80%とするのが更に好ましく、表面層の厚さは10〜40%とするのが好ましく、20〜30%とするのが更に好ましい。表面層の厚さが全体の厚みの10%未満であると、基材層からのイオンの移行により、表面層と基材層との表面抵抗の比率が小さくなりすぎてしまう。表面層の厚さが全体の厚みの40%よりも厚いと、表面抵抗が高い表面層の体積抵抗率が半導電性フィルム又はシームレスベルト全体の体積抵抗率を支配してしまい、転写ベルトとして使用した場合に印刷画質が低下する。
また、本発明の半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルトの厚みムラは、最大厚み(T)と最小厚み(t)との比(T/t)が、通常2以下、好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.1以下である。この範囲内にあれば、厚みムラが小さく、高画質化効果を得ることができる。厚みムラが2を越えると、転写精度が劣化するので好ましくない。
また、本発明の半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルトの基材層及び表面層には、所望により他の添加剤を含有させることができる。他の添加剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、カオリン、タルク、マイカ、フェライト、チタン酸カリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ニッケル、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ガラス粉、石英粉末、金属粉、無機顔料、有機金属塩などの粒状又は粉末状フィラー、;ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維、チタン酸カリウム繊維などの繊維状フィラーなどが挙げられる。これらのフィラーは、本発明の目的を阻害しない範囲内で、使用目的に応じて、適宜配合することができる。本発明においては、さらに、例えば、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、有機顔料、無機顔料、紫外線吸収剤、界面活性剤、無機酸、有機酸、pH調整剤、架橋剤、カップリング剤等の汎用の添加剤を本発明の目的を阻害しない範囲内で適宜配合することもできる。また、機械的物性の向上や着色を目的として、本発明の半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルトの表面抵抗及び体積抵抗率に影響を与えない範囲で、カーボンブラック、黒鉛及び炭素繊維などを添加してもよい。この場合の添加量は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂100重量部に対して1重量部未満、好ましくは0.5重量部未満である。
本発明の半導電性フィルム又は半導電性シームレスベルトにおいては、上記基材層及び上記表面層以外に、この種のフィルムに用いられる他の層を適宜形成してもよい。
次に、本発明の半導電性フィルムの製造方法について説明する。
本発明の半導電性フィルムの製造方法は、フィードブロック又はマルチマニホールドを有する多層ダイを用いてフィルム状に溶融共押出成形する。ポリフッ化ビニリデン系樹脂にイオン性導電剤を0〜0.5重量%、好ましくは0〜0.1重量%配合した表面層の形成原料を押出機に供給し、ポリフッ化ビニリデン系樹脂にイオン性導電剤を1〜10重量%、好ましくは2〜6重量%配合した基材層の形成原料を他の押出機に供給し、該表面層の形成材料と該基材層の形成材料とを同時に該多層ダイに溶融押出して成形する。
溶融共押出成形は、連続的に行うのが好ましく、その際採用される好ましい条件は、成形温度が好ましくは210〜260℃であり、冷却温度が好ましくは0〜120℃である。具体的には、2層マニホールドダイの各層にそれぞれ別の単軸押出機から、それぞれ表面層用原料と基材層用原料とを供給し、2層マニホールドダイ内部で接合し、接合された2層が溶融状態にある樹脂を2層マニホールドダイのダイリップから直下に、冷却ロール上に押出し、冷却ロール上で冷却固化することにより、成形することができる。
なお、予めフッ化ビニリデン系樹脂に高濃度のイオン性導電剤を含有させたマスターバッチを作成しておき、成形時に必要な濃度に樹脂で希釈してから、成形加工工程に供することもできる。
次に、本発明の半導電性シームレスベルトの製造方法について説明する。
本発明の半導電性シームレスベルトの製造方法は、マルチマニホールドを有する環状ダイを用いてシームレスチューブを溶融共押出成形するシームレスベルトの製造方法であって、ポリフッ化ビニリデン系樹脂にイオン性導電剤を0〜0.5重量%、好ましくは0〜0.1重量%配合した表面層の形成原料を押出機に供給し、ポリフッ化ビニリデン系樹脂にイオン性導電剤を1〜10重量%、好ましくは2〜6重量%配合した基材層の形成原料を他の押出機に供給することを特徴とする前記シームレスベルトの製造方法を提供するものである。
溶融共押出成形は、連続的に行うのが好ましく、例えば、複数の単軸スクリュー押出機とマルチマニホールドを有するスパイラル環状ダイを用いて、ダイのリップから直下に押出し、0〜100℃の範囲内に制御した内部冷却マンドレルによって内径を制御しながら引き取る方法などが挙げられる。溶融共押出成形の条件としては、成形温度が好ましくは210〜260℃であり、冷却温度が好ましくは0〜50℃である。具体的には、2層マニホールド環状ダイの各層に、それぞれ別の単軸押出機から、それぞれ表面層用原料と基材層用原料とを供給し、2層マニホールドダイ内部で接合し、接合された2層が溶融状態にある樹脂を2層マニホールドダイの環状ダイリップから直下に押出し、環状の溶融樹脂の内側を円筒状の冷却マンドレルに接触させながら一定の速度で引き取ることにより、ベルト上に冷却固化することにより、シームレスベルトに成形することができる。
なお、予めフッ化ビニリデン系樹脂に高濃度のイオン性導電剤を含有させたマスターバッチを作成しておき、成形時に必要な濃度に樹脂で希釈してから、成形加工工程に供することもできる。
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明する。
なお、物性の測定法は次の通りである。
(1)厚み測定
成形物の厚みは、ダイヤルゲージ厚み計(小野測器社製、商品名「DG-911」)で測定した。
(2)体積抵抗率
JIS K6911に準拠して、リング状プローブ(商品名「URSプロ−ブ」三菱化学社製、内側の電極の外径5.9mm、外側の電極の内径11.0mm、外側電極の外径17.8mm)と測定ステージ(商品名「レジテーブルUFL」三菱化学社製)の導電面との間に試料を挟み、約3kg重の圧力で押さえつけつつ、プローブの内側電極と測定ステージとの間に100Vの電圧を印可して、抵抗率測定装置(商品名:ハイレスタUP、三菱化学社製)により求めた。
(3)表面抵抗
JIS K6911に準拠して、リング状プロープ(商品名「URSプローブ」三菱化学社製、内側の電極の外径5.9mm、外側の電極の内径11.0mm、外側電極の外径17.8mm)と測定ステージ(商品名:「レジテーブルUFL」三菱化学社製)の絶縁面との間に試料を挟み、約3kg重の圧力で押さえつけつつ、プローブの内側電極とプローブの外側電極との間に100Vの電圧を印可して抵抗率測定装置(商品名「ハイレスタUP」三菱化学社製)により求めた。
(4)平均値及びバラツキの算出
厚み及び体積抵抗率の測定において、これらの値を測定すべき試料の表面積1m2当たり任意に選んだ20点の測定点について測定し、その最大値、最小値及び平均値(算術平均)を求めた。バラツキは、最大値/最小値を算出することにより求めた。
(5)引張弾性率及び引張破断伸び
JIS K 7113に従って、幅10mm及び長さ100mmの短冊形試験片を用い、引張試験器(TENSILON RTM100型、オリエンテック社製)により、引張速度50mm/分及びチャック間距離50mmの条件で測定した。測定個数n=5を測定し、算術平均を算出した。
(6)インク付着性
インクジェットプリンターのインクカートリッジ(リコー社商品名「RC-1M11」)からインクを取り出し、試料表面に刷毛で塗布した。目視でインクが均一に塗布される場合(インク付着性が高い=インクにより汚染される)は×、インクをはじいて塗布が困難な場合(インク付着性が低い=インクにより汚染され難い)は○とした。
[実施例1〜4及び比較例1〜4]
表1に示す添加率でイオン性導電剤として(CNHSO(広栄化学工業社製:以後、TBAHSという)をポリフッ化ビニリデン(呉羽化学工業(株)製、商品名「KF#1000」:以後、PVDFという)に配合した樹脂(実施例1〜4及び比較例1及び2)、アセチレンブラック(電気化学社製、商品名「デンカブラック」:以後、CBという)を配合した樹脂(比較例3)、イオン性導電剤を配合しなかった樹脂(比較例4)を基材層材料としてφ40mmの単軸スクリュー押出機に供給した。無添加のPVDFを表面層材料としてφ30mmの単軸スクリュー押出機に供給した。基材層材料を単軸スクリュー押出機から、2層マニホールドを有するスパイラル環状ダイ(リップの内径210mm、外径212mm、クリアランス1mm)の内層に供給し、表面層材料を外層に供給し、スパイラル環状ダイ内部で接合させ、接合された2層が溶融状態にある樹脂を環状ダイリップから直下に同時に押出し、25℃に制御したφ130mmの内部冷却マンドレルによって内径を制御しながら引き取り、400mmの長さに切断して、φ127mmの折り目のないシームレスベルトを作製した。この時の外層(表面層)と内層(基材層)との厚みは、各押出機の押出量から算出した。断面の目視による観察では外層(表面層)と内層(基材層)との界面は確認できなかった。得られたシームレスベルトの物性を測定した。その結果を表1及び2に示す。
Figure 0004763391
表1に示す結果より、表面層の厚みが10μm厚くなると表面層の表面抵抗は1桁大きくなるが、基材層の厚みが10μm薄くなっても基材層の表面抵抗は余り変化がないことがわかる。このことから、基材層に配合されたイオン性導電剤は基材層にとどまらず、表面層にまで移動して、シームレスベルト内部ではイオン性導電剤の含浸量が傾斜し、イオン性導電剤を配合していない表面層にも導電性を付与し(表面抵抗を低下させ)ていると考えられる。したがって、基材層へのイオン性導電剤の配合量及び表面層と基材層との厚みの比率を調節することによって、表面層に導電剤を配合しなくても所望の表面抵抗(導電性)を付与することができる。
Figure 0004763391
表1及び2より、本発明の半導電性シームレスベルトは、電子写真方式やインクジェット方式の画像形成装置における転写ベルト、あるいは帯電ロール、転写ロール、現像ロールなどのロール用被覆チューブとして好適な体積抵抗率、表面抵抗(導電性)、耐インク汚染性及び引張弾性率のすべてを実現できることがわかる。

Claims (12)

  1. ポリフッ化ビニリデン系樹脂、及びアルキル4級アンモニウム塩であるイオン性導電剤を含んでなる基材層と、少なくともポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む表面層とからなる半導電性フィルムであって、
    半導電性フィルム全体の厚み方向の体積抵抗率が1×105〜5×1013Ωcmであり、
    前記基材層と前記表面層との表面抵抗の比(表面層/基材層)が2〜1000の範囲内であることを特徴とする半導電性フィルム。
  2. 前記基材層に用いられる前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂と前記表面層に用いられる前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂とが同一の樹脂であることを特徴とする請求項1記載の半導電性フィルム。
  3. 前記アルキル4級アンモニウム塩が、テトラブチルアンモニウムの硫酸水素塩であることを特徴とする請求項1記載の半導電性フィルム。
  4. ヤング率が1.0GPa以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の半導電性フィルム。
  5. 前記基材層と前記表面層との厚みの比率は、基材層:表面層=60〜90:40〜10の範囲にあることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の半導電性フィルム。
  6. フィードブロック又はマルチマニホールドを有する多層ダイを用いてフィルム状に溶融共押出成形する半導電性フィルムの製造方法であって、
    ポリフッ化ビニリデン系樹脂に、アルキル4級アンモニウム塩であるイオン性導電剤を0〜0.5重量%配合した表面層の形成原料を押出機に供給し、ポリフッ化ビニリデン系樹脂にアルキル4級アンモニウム塩であるイオン性導電剤を1〜10重量%配合した基材層の形成原料を他の押出機に供給し、
    該表面層の形成材料と該基材層の形成材料とを同時に該多層ダイに溶融押出して成形することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導電性フィルムの製造方法。
  7. ポリフッ化ビニリデン系樹脂、及びアルキル4級アンモニウム塩であるイオン性導電剤を含んでなる基材層と、少なくともポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む表面層とからなる半導電性シームレスベルトであって、
    半導電性フィルム全体の厚み方向の体積抵抗率が1×105〜5×1013Ωcmであり、
    前記基材層と前記表面層との表面抵抗の比(表面層/基材層)が2〜1000の範囲内であることを特徴とする半導電性シームレスベルト。
  8. 前記基材層に用いられる前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂と前記表面層に用いられる前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂とが同一の樹脂であることを特徴とする請求項7記載の半導電性シームレスベルト。
  9. 前記アルキル4級アンモニウム塩が、テトラブチルアンモニウムの硫酸水素塩であることを特徴とする請求項7記載の半導電性シームレスベルト。
  10. ヤング率が1.0GPa以上であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の半導電性のシームレスベルト。
  11. 前記基材層と前記表面層との厚みの比率は、基材層:表面層=60〜90:40〜10の範囲にあることを特徴とする請求項7〜10の何れかに記載の半導電性のシームレスベルト。
  12. マルチマニホールドを有する環状ダイを用いてシームレスチューブを溶融共押出成形するシームレスベルトの製造方法であって、
    ポリフッ化ビニリデン系樹脂に、アルキル4級アンモニウム塩であるイオン性導電剤を0〜0.5重量%配合した表面層の形成原料を押出機に供給し、ポリフッ化ビニリデン系樹脂にアルキル4級アンモニウム塩であるイオン性導電剤を1〜10重量%配合した基材層の形成原料を他の押出機に供給し、
    該表面層の形成材料と該基材層の形成材料とを同時に環状ダイに溶融押出して成形することを特徴とする請求項7〜11の何れか1項に記載のシームレスベルトの製造方法。
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