JP2004281277A - 半導電性シート及び半導電性樹脂組成物 - Google Patents
半導電性シート及び半導電性樹脂組成物 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004281277A JP2004281277A JP2003072397A JP2003072397A JP2004281277A JP 2004281277 A JP2004281277 A JP 2004281277A JP 2003072397 A JP2003072397 A JP 2003072397A JP 2003072397 A JP2003072397 A JP 2003072397A JP 2004281277 A JP2004281277 A JP 2004281277A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- parts
- mass
- semiconductive
- resin
- semiconductive sheet
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Landscapes
- Delivering By Means Of Belts And Rollers (AREA)
- Compositions Of Macromolecular Compounds (AREA)
- Conductive Materials (AREA)
- Discharging, Photosensitive Material Shape In Electrophotography (AREA)
- Dry Development In Electrophotography (AREA)
- Cleaning In Electrography (AREA)
- Electrophotography Configuration And Component (AREA)
- Electrostatic Charge, Transfer And Separation In Electrography (AREA)
Abstract
【課題】均一な半導電性領域の体積抵抗率を示し、弾性率と破断伸びが共に優れ、耐クリープ性、加工性、耐折り曲げ性、耐ブロッキング性が良好で、所望により高度に難燃化することが可能な電荷制御部材として好適に使用される。
【解決手段】(A)結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂45〜90質量部、(B)ポリカーボネート樹脂5〜45質量部、および(C)非結晶性ポリエステル樹脂5〜30質量部とを(A)+(B)+(C)の合計量が100質量部となるように含有し、更に(D)導電性カーボンブラック10〜30質量部を含有する樹脂組成部を溶融成形して体積抵抗率が1.0×103〜1.0×1013Ω・cmの範囲内である半導電性シートを製造する。
【選択図】 なし
【解決手段】(A)結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂45〜90質量部、(B)ポリカーボネート樹脂5〜45質量部、および(C)非結晶性ポリエステル樹脂5〜30質量部とを(A)+(B)+(C)の合計量が100質量部となるように含有し、更に(D)導電性カーボンブラック10〜30質量部を含有する樹脂組成部を溶融成形して体積抵抗率が1.0×103〜1.0×1013Ω・cmの範囲内である半導電性シートを製造する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱可塑性ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂と導電性カーボンブラックとを含有する樹脂組成物から溶融成形されてなる半導電性シート、該半導電性シートから形成された電荷制御部材、及び該半導電性シートの成形材料として好適な半導電性樹脂組成物に関する。本発明において、半導電性シートとは、厚み250μm以上の典型的なシートだけではなく、厚み250μm未満のフィルムをも含むものとする。
【0002】
【従来の技術】
半導電性領域の体積抵抗率を有する合成樹脂シートは、電荷制御部材として様々な分野で使用されている。その代表的な分野としては、電子写真方式や静電記録方式の複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリなどの画像形成装置が挙げられる。
【0003】
例えば、電子写真方式の複写機では、(1)感光体表面を均一かつ一様に帯電させる帯電工程、(2)パターン状に露光することにより、感光体表面に静電潜像を形成する露光工程、(3)現像剤(トナー)を付着させて、感光体表面の静電潜像を可視像(トナー像)とする現像工程、(4)感光体表面のトナー像を転写材(転写紙やOHPシートなど)上に転写する転写工程、(5)転写材上のトナー像を融着させる定着工程、(6)感光体表面の残留トナーを清掃するクリーニング工程、(7)感光体表面の残留電荷を消滅させる除電工程などの各工程によって、画像が形成されている。
【0004】
このような画像形成装置においては、前記各工程での機能を担うために、ベルト、ローラ、ドラム、ブレードなどの各種形状を有する多数の部材が配置されている。このような部材としては、例えば、帯電部材(例えば、帯電ベルト、帯電ローラ)、感光体ドラム(例えば、感光体層とそれを支持するためのベルト状またはローラ状支持体)、現像部材(例えば、現像ローラ、現像ベルト)、現像剤層厚規制部材(例えば、トナー層厚規制ブレード)、転写部材(例えば、転写ベルト、中間転写ベルト、転写ローラ)、クリーニング部材(例えば、クリーニングブレード)、除電部材(例えば、除電ブレード、除電ベルト、除電ローラ)、紙搬送部材などが挙げられる。ベルト部材は、通常、エンドレスベルトやチューブの形状を有している。ローラ部材は、ローラ状基体上に樹脂またはゴムの被覆層を有する被覆ローラである。
【0005】
前記各工程では、静電気または電荷を厳密に制御する必要があるため、各工程で使用される部材の多くは、適度の導電性を有することが求められている。例えば、帯電ベルトを用いた帯電方式では、電圧を印加した帯電ベルトを感光体表面に接触させることにより、帯電ベルトから感光体表面に直接電荷を与えて帯電させている。非磁性一成分現像剤を用いた現像方式では、感光体に対向して現像ローラを配置し、現像ローラとトナー供給ローラとの間の摩擦力により、トナーを現像ローラ表面に帯電状態で付着させ、これをトナー層厚規制ブレードで均一な厚みにならした後、感光体表面の静電潜像に対して電気吸引力により移行させている。エンドレスベルトを用いた転写方式では、エンドレスベルトにより転写材を搬送するとともに、該ベルトにトナーとは逆極性の電荷を付与して転写電界を形成し、クーロン力で感光体表面のトナー像を転写材上に転写している。
【0006】
このような各種部材の多くは、それぞれの機能を発揮するために、部材全体または少なくとも表面層が適度の導電性を有すること、より具体的には、半導電性領域に属する103〜1013Ωcmの範囲内の体積抵抗率を有することが求められている。これらの部材は、半導電性であることにより、電荷制御機能を発揮することができるため、電荷制御部材であるということができる。近年、このような電荷制御部材として、適度の導電性を付与した合成樹脂材料により成形されたものが汎用されるに至っている。
【0007】
画像形成装置における電荷制御部材は、半導電性領域の体積抵抗率を有することが求められているが、その体積抵抗率は、該部材の場所によるバラツキが小さく実質的に均一であることが望ましい。例えば、場所による体積抵抗率のバラツキが大きい帯電ベルトを用いると、感光体表面を均一かつ一様に帯電させることができない。同様に、場所による体積抵抗率のバラツキが大きい転写ベルトを用いると、感光体表面のトナー像を正確に転写材上に転写することができない。その結果、高品質の画像を得ることができなくなる。
【0008】
また、電荷制御部材は、高度の耐久性を有することが求められている。電荷制御部材がエンドレスベルトである場合、2本以上のロールを用いて長期間にわたって駆動される。ローラ部材である場合には、高速回転させられる。そのため、電荷制御部材には、このような過酷な稼動条件に耐えるだけの十分な耐久性が必要とされる。特に機械的特性として、弾性率(引張弾性率)と伸び(引張破断伸び)が共に優れていることが求められる。例えば、中間転写ベルトの引張弾性率が低すぎると、ベルトに歪みが生じて、耐久性が損なわれるだけではなく、ベルト上に転写されたトナー像の歪みや色ずれの原因となる。トナー像の歪みや色ずれは、ベルトの耐クリープ性が不足する場合に起るベルト周長の経時的伸びによっても生ずる。電荷制御部材の引張破断伸びが低すぎると、柔軟性が不足して、異物の巻き込み等による割れが発生し易くなる。ベルト部材の耐折り曲げ性が劣悪であると、破断し易くなる。
【0009】
さらに、電荷制御部材には、耐熱性に優れていることが求められている。画像形成装置内は、稼動中、比較的高温状態になるが、電荷制御部材は、そのような高温条件下で変形したり、他の部材に溶着したりしないだけの耐熱性を有することが必要である。また、電荷制御部材及び該部材を装着した機器は、車輌や船舶などにより輸送されることが多いが、輸送中の車内または船内の温度が80℃程度にまで上昇することは稀ではない。このような高温雰囲気下に長期間にわたって曝された場合であっても、部材同士が互いに溶着したり、他の部材に溶着したりしないだけの十分な耐熱性(高温での耐ブロッキング性)を有することが求められる。
【0010】
これらに加えて、電荷制御部材は、多くの場合、難燃性を有することが望ましい。電子写真複写機などに装着されている電荷制御部材は、100Vから数kVまたはそれ以上の高電圧が印加される場合があるため、スパークや加熱による引火の危険に曝されている。このため、電荷制御部材には、他の諸特性を著しく損なうことなく、高度の難燃性を付与できることが望ましい。
【0011】
フッ素樹脂に導電性カーボンブラックを分散させた樹脂組成物により形成された電荷制御部材は、耐熱性と難燃性に優れている。しかし、フッ素樹脂は、使用後の焼却処分が難しいため、廃棄物処理に難点がある。導電性カーボンブラックを分散させたポリイミドワニスは、湿式成形する必要があるため、半導電性シートやシームレスベルトに成形するのに、多大の製造コストを必要とする。
【0012】
熱可塑性ポリエステル樹脂に導電性フィラーを配合した樹脂組成物を用いて、感光体ドラムの支持体(特開昭61−13256号公報)、通電感熱転写記録リボン用フィルム(特開昭63−139786号公報)、電子写真感光層保持用フィルム(特開昭63−188153号公報)、導電性シームレスベルト(特開平7−178795号公報)などを溶融成形する技術が知られている。熱可塑性ポリエステル樹脂と熱可塑性エラストマーと導電性成分とを含有する樹脂組成物から溶融成形されたシームレスベルトも提案されている(特開平10−6411号公報)。
【0013】
前記電荷制御部材では、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリブチレンナフタレート(PBN)樹脂などの汎用の結晶性ポリエステル樹脂が用いられている。しかし、これらの結晶性ポリエステル樹脂を用いたのでは、電子写真複写機などの画像形成装置用として満足できる特性を有する電荷制御部材を得ることは極めて困難である。
【0014】
例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂は、耐熱性や機械的物性が良好であるもののガラス転移温度(約30℃)付近で物性が大きく変化するため、室温付近で用いられる電子写真装置の電荷制御部材としては適さない。
【0015】
また、結晶性のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂に導電性カーボンブラックを配合した樹脂組成物から成形された半導電性シートは、引張弾性率は高いものの、耐折り曲げ性が悪いため、電子写真複写機などの電荷制御部材とするには脆すぎるという欠点がある。この樹脂組成物に難燃剤を配合すると、半導電性シートの脆化が顕著になる。
【0016】
他方、非結晶性ポリエステル樹脂に導電性カーボンブラックを配合した樹脂組成物を溶融成形してなる接触式帯電電極用導電性シートが提案されている(特開平7−161224号公報)。また、芳香族ポリエステル樹脂に揮発分が少ない導電性カーボンブラックを配合した樹脂組成物からなる導電性プラスチックシートが提案されており、芳香族ポリエステル樹脂として、非結晶性ポリエステル樹脂も例示されている(特開平7−216199号公報)。しかし、これらの導電性シートは、非結晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度(80℃付近)で軟化して、シート同士がブロッキングにより溶着したり、他部材にブロッキングするなどの不都合を生ずる。そのため、これらの導電性シートは、接触式帯電電極用導電性シート(特開平7−161224号公報)、ICまたはICを搭載した電子機器部品の包装材料(特開平7−216199号公報)として使用することができるものの、電子写真複写機、プリンターなどの画像形成装置用の電荷制御部材としては、不適当なものである。
【0017】
また、上記したPET樹脂に導電性カーボンブラックを配合した樹脂組成物から成形された半導電性シートは、引張弾性率は高いものの、クリープが大きいためにレーザープリンターや電子写真複写機の転写レベルとしては、ベルト径が伸びたり、内接するローラーの型が付き易いという欠点がある。環境温度が高ければシートのクリープは更に顕著になる。
【0018】
樹脂シートのクリープ特性や弾性率を改良する手段として、ガラスファイバーやカーボンファイバーなどの短繊維を高充填する方法が知られているが、シートが極端に脆くなり、半導電性ベルトとして使用するには適さない。
【0019】
他方、ポリカーボネート(PC)樹脂はガラス転移温度が130℃程度と比較的高いことから60℃程度でのクリープは小さい。しかしながら、PET樹脂よりも更に脆いため、PC樹脂単独に導電性カーボンブラックを配合して半導電性ベルトとして使用するには適さない。
【0020】
特開平4−342759号公報には、ポリカーボネート(PC)/ポリエステル/カーボンブラック(CB)からなる組成物が開示されているが、これは単にポリマーアロイとしてのPC/ポリエステルに優れた黒味(漆黒性)を与えるために比表面積が1000m2/g以上であるCBを添加した組成物を提供するものであって、その組成物の導電性については一切開示されておらず、また電荷制御部材として用いられる半導電性シートに要求されるような耐熱性や機械物性は問題とされていない。また特開2001−164102号公報には、PC/ポリエステル/CBからなる組成物が開示されているが、実施例においては、ポリエステルとしてポリブチレンテレフタレート(PBT)のみが用いられており、上述したPBTが室温付近にガラス転移温度を持つことに伴なう物性の不安定化の問題は実質的に解決されているとは言い難い。
【0021】
また、特開平4−198359号公報には、PC/ポリエステル/アセチレンブラックからなる半導電性樹脂組成物が開示されているが、ここでも実施例において用いられているポリエステルはPBTのみであり、またPCを主成分として用いるため、得られる生成物は脆く且つ耐溶剤性、耐オゾン性が劣るものになりがちである。
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、導電性カーボンブラックを含有し、ポリエステルとポリカーボネートを主成分とする樹脂組成物から溶融成形されてなる半導電性シートであって、均一な半導電性領域の体積抵抗率を示し、弾性率と破断伸びが共に優れ、更に耐クリープ性が良好であり、且つ加工性、耐折り曲げ性、耐ブロッキング性が良好で、所望により高度に難燃化することが可能な半導電性シートを提供することにある。
【0023】
また、本発明の目的は、該半導電性シートから形成された電荷制御部材を提供することにある。さらに、本発明の目的は、該半導電性シートの成形材料として好適な半導電性樹脂組成物を提供することにある。
【0024】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、結晶性PET樹脂と、PC樹脂と、非結晶性ポリエステル樹脂と、導電性カーボンブラックとを特定割合で含有する樹脂組成物を用いて半導電性シートを成形したところ、引張弾性率と引張破断伸びが共に優れ、耐クリープ性が良好であり、柔軟性や耐ブロッキング性も良好な半導電性シートの得られることを見出した。熱可塑性ポリエステル樹脂として、結晶性PET樹脂と、PC樹脂と、非結晶性ポリエステル樹脂とを特定割合で併用することにより、前記諸特性が得られることに加えて、所望の半導電性領域の体積抵抗率を有する半導電性シートを安定して精度良く製造することができる。本発明の半導電性シートは、再溶融加工によっても、体積抵抗率の変動が小さく、柔軟性が低下することもない。
【0025】
本発明の半導電性シートは、電子写真方式や静電記録方式の画像形成装置におけるエンドレスベルト、チューブ、ブレード、積層ベルト、被覆ローラなどの電荷制御部材に形成することができ、そして、これらの電荷制御部材は、優れた機能と耐久性を発揮する。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0026】
【課題を解決するための手段】
かくして、本発明によれば、
(A)示差走査熱量計による熱分析で180〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知される結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂45〜90質量部、
(B)ポリカーボネート樹脂5〜45質量部、および
(C)示差走査熱量計による熱分析で180〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知されない非結晶性ポリエステル樹脂5〜30質量部、
を(A)+(B)+(C)の合計量が100質量部となるように含有し、更に
(D)導電性カーボンブラック10〜30質量部を含有する樹脂組成物から溶融成形された体積抵抗率が1.0×103〜1.0×1013Ω・cmの範囲内である半導電性シートが提供される。
【0027】
また、本発明によれば、該半導電性シートから形成された電荷制御部材が提供される。
【0028】
さらに、本発明によれば、
(A)示差走査熱量計による熱分析で180〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知される結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂45〜90質量部、
(B)ポリカーボネート樹脂5〜45質量部、および
(C)示差走査熱量計による熱分析で180〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知されない非結晶性ポリエステル樹脂5〜30質量部、
を(A)+(B)+(C)の合計量が100質量部となるように含有し、更に
(D)導電性カーボンブラック10〜30質量部、
を含有する半導電性樹脂組成物が提供される。
【0029】
【発明の実施の形態】
(A)結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂
本発明で使用する結晶性PET樹脂は、示差走査熱量計(DSC)による熱分析で180〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知される結晶性のPET樹脂である。このようなピークは、180〜300℃の範囲内に少なくとも1つあればよい。結晶融解熱(ΔH)は、好ましくは25J/g以上、より好ましく50J/g以上である。
【0030】
本発明で使用する結晶性PET樹脂とは、上記のように結晶融解ピーク温度と結晶融解熱(ΔH)で定義されるものであって、本質的に明瞭な結晶性を有しているPET樹脂を意味している。ただし、結晶性PET樹脂であっても、成形条件によっては非晶性の成形品とすることも可能である。例えば、結晶性PET樹脂を溶融押出成形した後、急冷することにより結晶化度の低い非晶性シートに成形することが可能である。このような非晶性シートは、熱処理や二次成形加工時の熱履歴を受けると結晶化する。
【0031】
結晶性PET樹脂としては、PETのホモポリマー、またはテレフタール酸とエチレングリコールとその他の共重合成分とから合成された共重合体を使用することができる。共重合成分の割合は、通常20モル%未満、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。共重合成分の割合が高くなりすぎると、PET樹脂の結晶性が損なわれて半導電性シートの耐熱性が低下する。
【0032】
結晶性PET樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分との等モルの反応により合成される。共重合成分の割合は、ジカルボン酸成分100モル%とジオール成分100モル%の合計200モル%を基準として算出する。例えば、ジオール成分のエチレングリコール(EG)の一部をプロピレングリコール(PG)に置き換えて、EG90モル%とPG10モル%からなるジオール成分(合計100モル%)とした場合、共重合体中のテレフタル酸とEGから形成されるエチレンテレフタレート繰り返し単位の割合が90モル%となり、テレフタル酸とPGとから形成されるプロピレンテレフタレート繰り返し単位の割合が10モル%となる。この場合、共重合成分であるPGの割合を10モル%という。
【0033】
共重合成分としては、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、キシリレングリコール、ビスフェノールA、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分;イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸などのジカルボン酸成分;などが挙げられる。結晶性PET樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
結晶性PET樹脂は、導電性カーボンブラックや難燃剤を分散することによって低分子量化する傾向を示す。そのため、本発明で使用する結晶性PET樹脂の分子量は、比較的高いものであることが望ましい。結晶性PET樹脂の固有粘度〔IV〕は、好ましくは0.9〜1.5、更に好ましくは1.1〜1.4、特に好ましくは1.2〜1.3である。固有粘度が低いほど、半導電性シートが脆化し易くなり、高すぎると、加工が難しくなる。
【0035】
(B)ポリカーボネート樹脂
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネートが好適に用いられるが、特に好ましくは、ビスフェノールA繰り返し単位を含む樹脂が用いられる。ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、通常の範囲であればよいが、成形加工性及び物性上の観点から、好ましくは15,000〜40,000、より好ましくは18,000〜35,000であることが望ましい。
【0036】
(C)非結晶性ポリエステル樹脂
本発明で使用する非結晶性ポリエステル樹脂は、DSCによる熱分析で100〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知されない非結晶性のポリエステル樹脂である。この結晶融解熱(ΔH)は、好ましくは5J/g以下、より好ましく3J/g以下、最も好ましくは実質的にゼロJ/gである。本発明で使用する非結晶性ポリエステル樹脂は、本質的に非結晶性であって、如何なる成形条件によっても結晶化しないものであることが望ましい。
【0037】
このような非結晶性ポリエステル樹脂は、PETやPBTなどのポリエステル樹脂のジカルボン酸成分及び/またはジオール成分の一部を他の共重合成分で置き換えて、結晶性を低下若しくは消失させたコポリエステルである。共重合成分の割合は、通常20〜50mol%、好ましくは25〜40mol%、より好ましくは30〜35mol%である。共重合成分の割合が低すぎると、ポリエステル樹脂に結晶性が現われたり、結晶性の程度が高くなり、半導電性シートの引張破断伸びや柔軟性が低下する。
【0038】
共重合成分の割合は、ジカルボン酸成分とジオール成分の合計200モル%を基準として算出する。例えば、PET樹脂を構成するジオール成分のエチレングリコール(EG)の一部を1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)に置き換えて、EG70モル%とCHDM30モル%からなるジオール成分(合計100モル%)とした場合、共重合体中のテレフタル酸とEGから形成される繰り返し単位の割合が70モル%となり、テレフタル酸とCHDMとから形成される繰り返し単位の割合が30モル%となる。この場合、共重合成分であるCHDMの割合を30モル%という。
【0039】
共重合成分としては、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、キシリレングリコール、ビスフェノールA、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサジメタノールなどのジオール成分;イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸などのジカルボン酸成分;などが挙げられる。これら非結晶性ポリエステル樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
本発明で使用する非結晶性ポリエステル樹脂の中でも、ジカルボン酸成分がテレフタル酸を主体とするものであり、かつ、グリコール成分がエチレングリコール(EG)と1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を主体とするものが好ましい。より具体的に、本発明で使用する非結晶性ポリエステル樹脂としては、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合成分とする非結晶性ポリエチレンテレフタレート共重合体(PETG)であることが好ましい。PETGは、PET樹脂を構成するグリコール成分であるエチレングリコール(EG)の一部を1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)に置き換えたコポリエステルである。EGの一部をCHDMに置き換えて共重合させると、CHDMの共重合割合がある範囲内で結晶化度が実質的にゼロのコポリエステル(PET−G)が得られる。
【0041】
非結晶性のPET−Gにおいて、グリコール成分中のCHDMの割合は、EGよりも少なく、好ましくは25〜40モル%、より好ましくは30〜35モル%程度である。これに対応して、EGの割合は、好ましくは60〜75モル%、より好ましくは65〜70モル%となる。PET−Gは、イーストマンケミカル社から「EASTAR PETG6763」(CHDM=31±3モル%)の商品名で市販されているものがあり、本発明では、この市販品を好適に用いることができる。もちろん、前記で定義した「DSCによる熱分析で100〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知されない非結晶性のポリエステル樹脂」であれば、その他のグレードの市販品や合成品も使用することができる。
【0042】
本発明で使用する非結晶性ポリエステル樹脂の引張弾性率は、好ましくは0.5GPa以上、より好ましくは1.0GPa以上、特に好ましくは1.8GPa以上である。この引張弾性率が低すぎると、半導電性シートの引張弾性率が低くなりすぎる。
【0043】
(D)導電性カーボンブラック
本発明で使用する導電性カーボンブラックとしては、比表面積が30〜300m2/g程度のものが好ましい。その例としては、アセチレンブラック、オイルファーネスブラックなどがあるが、これらの中でも、アセチレンの熱分解法により製造されたアセチレンブラックが好ましい。導電性カーボンブラックは、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、水分の存在下で加水分解を受けやすいが、導電性カーボンブラックの中には水分を主成分とする揮発分を比較的多量に含有するものがある。本発明で使用する導電性カーボンブラックは、揮発分が好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下であることが望ましい。
【0045】
導電性カーボンブラックのDBP吸油量は、好ましくは100〜300ml/100g、より好ましくは100〜200ml/100gの範囲内である。導電性カーボンブラックのDBP吸油量が低すぎると、半導電性シートの導電性が不足し、高すぎると熱可塑性ポリエステル樹脂への分散性が悪くなる。
【0046】
(E)ナイロン12樹脂
本発明の好ましい態様においては、上記成分(A),(B),(C)および(D)に加えて、ナイロン12樹脂(E)を配合する。これにより、半導電性樹脂組成物の、特に押出成形時の加工性が改善され、厚みむらの少ない半導電性シートが安定して精度良く製造可能となることが見出されている。
【0047】
より詳しくは、PET樹脂にカーボンブラックを分散させる際、PET樹脂が熱履歴によって低分子量化して粘度が下がる場合がある。また、PCとPETの分散不良によって、シート厚みむらが著しく大きくなる場合がある。このような場合はナイロン12を添加することにより、混合樹脂の粘度が増大し、押出圧力が高くなり、安定した厚みのシートを製膜できるようになる。これらの作用がどのような反応によるものか詳細は不明だが、これら溶融樹脂がエステルアミド交換反応によってPET樹脂とPC樹脂とに作用し、分散性の改良と増粘効果をもたらすものと考えられる。
【0048】
本発明で使用するナイロン12樹脂としては、ナイロン12のホモポリマー、ナイロン12に官能基を付与した樹脂、ナイロン12を末端処理した樹脂、及びナイロン12と他の重合可能なモノマーとの共重合体を挙げることができる。これらの樹脂は、23℃の水中飽和吸水率が2%以下であることが好ましい。また、樹脂硬度は、ショアD硬度で60〜80が好ましい。これらナイロン12系樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合せて使用することができる。
【0049】
ナイロン12系樹脂の中でも、耐衝撃性に優れ、かつ吸湿による物性の変化が小さいナイロン12のホモポリマーが好適に用いられる。数平均分子量は通常1万〜6万の範囲で、2万〜5万の範囲が好ましく、3万〜4万の範囲が特に好ましい。数平均分子量が低すぎると押出加工時の樹脂粘度が低下し成形性が悪くなり、高すぎるとPET樹脂への分散が難しくなる。
【0050】
(F)難燃剤
本発明では、所望により難燃剤を使用することができる。本発明で使用する難燃剤としては、ハロゲン系、燐系、ポリマー系、オリゴマー系、無機系などがあり、特に制限されないが、結晶性PET樹脂の加工温度である250〜280℃の範囲内の温度で分解しないものであることが望ましい。
【0051】
難燃剤としては、例えば、臭素化ポリエステル、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリスチレン、テトラブロモビスフェノールA、へキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、デカブロモジフェニルオキサイド、エチレンビスペンタブロモフェニル、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ペンタブロモベンジルアクリレートなどのハロゲン系難燃剤;三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、三酸化ビスマス、アンチモン酸ナトリウム、ホウ酸亜鉛、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどの無機系難燃剤;赤燐、トリフェニルホスフェート、ポリ燐酸メラミン、ポリ燐酸アンモニウム、燐酸エステルアミド、芳香族縮合燐酸エステル類などの燐系難燃剤;などが挙げられる。
【0052】
難燃剤は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。本発明の半導電性シートが画像形成装置の電荷制御部材として使用される場合には、難燃剤の中でも燐系難燃剤が好ましく、その中でも平均粒径15μm以下の赤燐微粉末がより好ましい。
【0053】
(G)ワックス
本発明では、導電性カーボンブラックの分散性の向上と熱可塑性ポリエステル樹脂の劣化防止のために、ワックスを添加することが望ましい。ワックスとしては、天然ワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、アルキルエステル酸エステルワックスなどが挙げられるが、モンタン酸エステルワックスが特に好ましい。
【0054】
(H)その他の添加剤
本発明では、所望によりその他の添加剤を適宜添加することができる。その他の添加剤としては、タルク、マイカ、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ゼオライト、ガラス、酸化亜鉛、酸化鉄、黒鉛、無機物、有機金属塩、酸化全属の粉末、繊維フィラーなどの充填剤;酸化防止剤、可塑剤、有機顔料、無機顔料、界面活性剤、カップリング剤、その他の樹脂やエラストマーなどが挙げられる。これらの添加剤は、それぞれの使用目的に応じて適量を使用することができる。
【0055】
[ポリエステル樹脂組成物]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、(A)結晶性PET樹脂45〜95質量部、(B)ポリカーボネート樹脂5〜45質量部および(C)非結晶性ポリエステル樹脂5〜30質量部を(A)+(B)+(C)の合計量が100質量部となるように含有し、更に、(D)導電性カーボンブラック10〜30質量部を必須成分として含有するものである。
【0056】
結晶性PET樹脂(A)の配合量は、好ましくは55〜82質量部、より好ましくは63〜78質量部である。結晶性PET樹脂の配合量が少なすぎると、引張弾性率、耐熱性、耐ブロッキングなどが低下し、多すぎると、引張破断伸びや柔軟性が低下する。
【0057】
ポリカーボネート(PC)樹脂(B)の配合量は、好ましくは9〜36質量部、より好ましくは14〜27質量部である。PC樹脂の配合量が少な過ぎると耐クリープ性が低下し、多過ぎると引張破断伸びや柔軟性が低下する。
【0058】
非結晶性ポリエステル樹脂(C)の配合量は、好ましくは6〜27質量部であり、より好ましくは9〜18質量部である。非結晶性ポリエステル樹脂の配合量が少なすぎると、半導電性シートの引張破断伸びや柔軟性が低下して、耐久性が損なわれ易くなり、多すぎると、耐クリープ性、耐熱性および引張弾性率が低下する。
【0059】
導電性カーボンブラック(D)の配合量は、樹脂成分(A)+(B)+(C)の合計量100質量部に対して、好ましくは15〜25質量部、より好ましくは17〜22質量部である。導電性カーボンブラックの配合量が少なすぎると、所望の半導電性領域の導電性を得ることが困難になったり、半導電性シートの場所による導電性のバラツキが大きくなり易く、多すぎると、半導電性シートが脆くなり易くなる。
【0060】
ナイロン12(E)を添加する場合、その配合量は、好ましくは3〜20質量部、更に好ましくは5〜15質量部である。ナイロン12の配合量が少な過ぎると押出加工性の改善に関して充分な効果が得られず、ナイロン12の配合量が多過ぎると弾性率が低くなり、クリープが大きくなる。
【0061】
難燃剤(G)を添加する場合、その配合量は、樹脂成分(A)+(B)+(C)の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.5〜15質量部である。難燃剤の配合量が少なすぎると、半導電性シートを十分に難燃化することができず、多すぎると、引張破断伸びや柔軟性が低下する。難燃剤として赤燐粉末を使用する場合には、比較的少量でも高度の難燃化を達成することができる。
【0062】
ワックス(H)を添加する場合、その配合量は、樹脂成分(A)+(B)+(C)の合計量100質量部に対して、好ましくは0.05〜2質量部、より好ましくは0.1〜1質量部である。ワックスの配合量が少なすぎると、添加による導電性カーボンブラックの分散性やポリエステル樹脂の劣化防止などの添加効果が小さくなり、多すぎると、ブリードアウトし易くなる。
【0063】
[半導電性シート]
本発明のポリエステル樹脂組成物を調製するには、結晶性PET樹脂、PC樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂、導電性カーボンブラック、必要に応じて、ナイロン12、難燃剤、ワックス、その他の添加剤を、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミル、ニーダー等の混練機に供給して、溶融混練し、ペレット化する方法を採用することが好ましい。混練機に投入する各成分は、予めブラベンダなどの混合機で良く混合しておくことが望ましい。
【0064】
導電性カーボンブラックや難燃剤は、これらの成分を高濃度で含有する樹脂組成物からなるマスターバッチ(ペレット)を製造し、成形時にマスターバッチを樹脂成分(ペレット)とペレットブレンドすることができる。
【0065】
半導電性シートの成形方法としては、押出機の先端に取り付けたTダイのスリップから溶融状態の該樹脂組成物を押出し、エアーナイフなどで冷却ドラム上に密着させつつ冷却固化する方法が挙げられる。別な方法としては、Tダイのリップから溶融状態で押出されたシートの両端部のみを指示しつつ引き取り、シート中央部は冷却ロールなどに密着させずに冷却固化する方法などが挙げられる。
【0066】
Tダイの代りに環状ダイを用いて、半導電性シートを直接シームレスベルトまたはチューブとして成形することもできる。シームレスベルトまたはチューブの望ましい連続的な溶融押出成形法としては、1軸スクリュー押出機とスパイラル環状ダイを用い、溶融樹脂組成物を該ダイのリップから直下に環状に押し出し、内部冷却マンドレル方式によって環状体の内径を制御しながら引き取る方法が挙げられる。
【0067】
本発明の半導電性シートの厚みは、用途に応じて適宜定めることができ、通常20〜1,000μm、好ましくは30〜500μm、より好ましくは40〜250μm、特に好ましくは50〜200μmである。半導電性シートの厚みが薄すぎると強度が低下し、厚すぎると柔軟性が低下する。
【0068】
本発明の半導電性シートの体積抵抗率(平均値)は、1.0×103〜1.0×1013Ωcmの範囲内に調整され、用途に応じて、この範囲内から所望の体積抵抗率となるように、各成分の種類と配合量を調節する。例えば、半導電性シートを現像ローラの被覆チューブ、感光体ベルト若しくはロールの被覆チューブ、除電ベルト若しくはロールの被覆チューブまたは除電ブレードとして使用する場合には、その体積抵抗率を好ましくは1.0×103〜1.0×109Ωcm、より好ましくは1.0×103〜1.0×106Ωcmの範囲内に調節する。
【0069】
半導電性シートを紙搬送ベルトとして使用する場合は、その体積抵抗率を好ましくは1.0×108〜1.0×1013Ωcm、より好ましくは1.0×1010〜1.0×1012Ωcmの範囲内に調節する。半導電性シートを転写ベルト若しくはロールの被覆チューブ、帯電ベルト若しくはロールの被覆チューブまたは帯電ブレードとして使用する場合には、その体積抵抗率を好ましくは1.0×105〜1.0×1013Ωcm、より好ましくは1.0×107〜1011Ωcmの範囲内に調節する。
【0070】
半導電性シートは、場所による体積抵抗率のバラツキができるだけ小さいものであることが均一な電荷制御機能を発揮する上で望ましい。半導電性シートが電荷制御部材として満足に機能するには、体積抵抗率の最大値が最小値の30倍以内にあることが必要とされる、本発明によれば、表面積1m2当たり任意に選んだ20点で測定した体積抵抗率の最大値が最小値の10倍以下、さらには、1〜6倍の範囲内の半導電性シートを得ることができる。
【0071】
半導電性シート、該シートから成形された電荷制御部材、及び該部材を装着した機器などが使用される環境は、室内の常温環境であるが、窓際などに設置された機器が稀に50〜60℃の温度に曝される場合がある。一方、樹脂材料は温度が高くなるほど一定荷重でのクリープが大きくなる。そこで該電荷制御部材は60℃環境で使用する際でもクリープが充分に小さいことが求められる。
【0072】
半導電性シート、該シートから形成された電荷制御部材、及び該部材を装着した機器などは、車輌や船舶などにより輸送されることが多いが、輸送中の車内または船内の温度が80℃程度にまで上昇することは稀ではない。このような高温雰囲気下に長期間にわたって曝された場合であっても、半導電性シート同士や部材同士が互に溶着したり、他の部材に溶着したりしないだけの十分な耐熱性(高温での耐ブロッキング性)を有することが求められる。
【0073】
そのため、半導電性シートは、通常80℃以下、好ましくは90℃以下、より好ましくは100℃以下の温度で、シート同士が溶着したり、強固にブロッキングすることのない耐熱性を有するものであることが望ましい。本発明の半導電性シートは、重ね合わせた状態で80℃の温度に2週間保持したとき、シート相互間にブロッキングが発生しない。
【0074】
電荷制御部材が例えば転写ベルトである場合、該ベルトが歪むと、ベルト上に形成されるトナー画像の歪みや色ずれの原因になる。そのため、半導電性シートは、十分に高い弾性率を有することが望ましい、また、ベルト部材は、異物の巻き込み等によって割れたりすることが無いように、適度な柔軟性を有することが望ましい。本発明の半導電性シートは、引張弾性率と引張破断伸びが共に優れており、上記要求に応えることができるものである。
【0075】
具体的に、本発明の半導電性シートは、引張弾性率が好ましくは1.8MPa以上、より好ましくは1.9MPa以上、特に好ましくは2.0MPa以上であり、その上限値は、通常2.6MPa程度である。本発明の半導電性シートの引張破断伸びは、難燃剤を含有しない場合は、好ましくは100%以上、より好ましくは200%以上である。難燃剤を含有する場合の引張破断伸びは、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上である。
【0076】
本発明の半導電性シートは、難燃剤を含有させることにより難燃化することができる。本発明の半導電性シートは、UL−94VTM難燃性試験で好ましくはVTM−2,より好ましくはVTM−1またはVTM−0の高度の難燃性を示すものである。結晶性のポリエステル樹脂を用いて得られる半導電性シートは、柔軟性が不十分となりがちで有り、難燃剤を含有させると脆化がさらに進行する傾向を示す。これに対し、本発明の半導電性シートは、併せて非結晶性ポリエステル樹脂を含有するため、難燃剤を含有させることによる、引っ張り破断伸び及び再溶融成形後の耐折り曲げ強度の低下が少ない。
【0077】
本発明の半導電性シートは、再溶融させた後に徐冷しても、結晶化による脆化が少ない。したがって、本発明の半導電性シートを加熱シームで接着してエンドレスベルト状に成形しても、シーム個所が脆くなり難い。半導電性シートの脆化は、折り曲げ試験による破断折り曲げ回数で評価することができる。具体的に、本発明の半導電性シートは、260℃で5分間加熱溶融させる条件下での再溶融テスト後、JIS P−8115に準拠した折り曲げ試験での破断折り曲げ回数が、好ましくは20回以上、より好ましくは30回以上であり、難燃剤を含有しない場合には、好ましくは100回以上、より好ましくは150回以上、特に好ましくは200回以上である。
【0078】
本発明の半導電性シートを加熱シームで接着してエンドレスベルト状に成形する場合、シートの加熱個所(再溶融個所)は、一部分でもシート全体でも構わない。
【0079】
本発明の半導電性シートは、成形時に直接シームレスベルトやチューブとして製造することができる。それ以外の通常のシート状で得られる場合には、半導電性シートを二次加工することにより、各種の電荷制御部材に形成することができる。その一つの方法は、前述の半導電性シートの加熱シームによるベルト(エンドレスベルトまたはチューブ)の成形である。
【0080】
本発明の半導電性シートは、他の素材から形成されたシート状基体(例えば、ポリイミドフィルムからなるベルト)上に被覆することにより、積層ベルトに形成することができる。また、本発明の半導電性シートは、他の導電性シートや半導電性シート、あるいは絶縁シートなどと2層以上に積層してもよい。積層するには、界面を接着剤で張り合わせても、共押出しにより多層シートとして成形してもよい。さらに、本発明の半導電性シートは、ローラ状基体(例えば、芯金)上に被覆することにより、被覆ローラを形成することができる。本発明の半導電性シートの表面は、用途に応じて、他の樹脂をコーティングしたり、金属蒸着したり、艶消し加工してもよい。本発明の半導電性シートは、再加熱に際しての脆化が少ないので、これら二次加工に際して、加熱をすることに支障がない。
【0081】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。物性の測定方法は、以下の通りである。
【0082】
(1)厚み測定:
成形品の厚みは、ダイヤルゲージ厚み計(小野測器社製、商品名:DG−911)で測定した。
【0083】
(2)体積抵抗率:
体積抵抗率が1.0×108Ωcm以上の試料については、リング状プローブ(三菱化学社製、商品名URSプローブ;内側電極の外径5.9mm、外側電極の内径11.0mm、外側電極の外径17.8mm)と測定ステージ(三菱化学社製、商品名レジテーブルUFL)との間に試料を挟み、約3kg重の圧力で押さえつけつつ、プローブの内側の電極と測定ステージとの間に100Vの電圧を印加し、抵抗率測定装置(三菱化学社製、商品名ハイレスタUP)で体積抵抗率を求めた。リング電極法による体積抵抗率測定法の詳細は、JIS−K6911に記載されている。
【0084】
体積抵抗率が1.0×108Ωcm未満、1.0×106Ωcm以上の試料については、印加電圧を10Vにして、体積抵抗率が108Ωcm以上の試料と同様にして体積抵抗率を求めた。体積抵抗率が1.0×106Ωcm未満の試料については、四探針プローブ(三菱化学社製、商品名PSPプローブ;ピン間隔1.5mm)と抗率測定装置(三菱化学社製、商品名ロレスタHP)を用いて体積抵抗率を求めた。四探針法による体積抵抗率測定法の詳細は、JIS−K7194に記載されている。
【0085】
(3)平均値の算出:
上記した厚み及び体積抵抗率の測定は、これらの値を測定すべき試料の表面積1m2当たり任意に選んだ20点の測定点について測定し、その最大値、最小値、平均値(算術平均)を求めた。
【0086】
(4)引張弾性率及び引張破断伸び:
JIS K−7113に準拠し、幅10mm、長さ100mmの短冊型試験片を用い、引張試験機(オリエンテック社製、商品名テンシロンRTM100型)により引張速度50mm/分、チャック間距離50mmの条件で測定した。
【0087】
(5)折り曲げ試験:
JIS P−8115に準拠し、幅15mmの短冊型試験片を用い、MIT耐柔疲労試験機により屈曲角度135度(左右)、折り曲げ速度175cps、荷重9.8Nの条件で測定した。n=5で測定し、算術平均を算出した。
【0088】
(6)クリープ
セイコーインスツルメンツ社製TMA(型式:EXSTAR6000)と石英製引張治具を用い、60℃1時間でのクリープ(μm)を測定した。具体的には、厚み50μm、幅3mmのサンプルシートを、つかみ具間距離(サンプル長さ)20mmで治具に固定し、60℃で1時間放置した後30℃に冷却したときのサンプル長さを“L0”再び60℃に昇温して1時間放置した後、30℃に冷却したときのサンプル長さを“L1”としたとき、
【数1】
クリープ=(L1−L0)/L0×100(%)
とした。サンプルシートには引張荷重は82gf(一定)を掛け続けた。
【0089】
(7)示差走査熱量計(DSC)による熱分析:
示差走査熱量測定装置(メトラー社製、製品名DSC30)とデータプロセッサ(メトラー社製、製品名TC10A)とを用い、試料(ペレット)を下記条件により熱分析した。試料は、75℃で10時間コンディショニングした後、測定に供した。ファーストランにより、結晶融解ピーク温度と結晶融解熱(ΔH)を求めた。測定条件は、試料重量10mg、測定開始温度30℃、測定終了温度300℃、昇温速度10℃/分である。
【0090】
(8)再溶融テスト:
予め体積抵抗率を測定した試験シート片を、厚さ0.5mmの平滑な2枚の鉄板の間に挟み、260℃のオーブンで5分間加熱して溶融させた後、23℃の室温で自然冷却した。鉄板の表面には、予め離型剤を塗布しておいた。冷却後、試験シート片の破断折り曲げ回数を評価した。
【0091】
(9)難燃性:
UL−94VTM難燃性試験(装置・機器部品用プラスチック素材の燃焼性試験)により、半導電性シートの難燃性を評価した。
【0092】
(実施例1〜9、比較例1〜5)
表1に示す組成の原料を1軸スクリュー押出機に供給して、リップクリアランス0.7mmのT型ダイからシート状に溶融押出し、直ちに30℃の冷却ロールによって冷却して、厚みが約100μmのシート(フィルム)に成形した。ただし、導電性カーボンブラックは、予め濃度30質量%(結晶性PET樹脂(A)への希釈物)のマスターバッチペレットを作成しておき、これを他の成分と共に押出機に供給して押出機内でペレットブレンドした。マスターバッチペレットの作成には、2軸スクリュー押出機を用いた。このようにして得られた半導電性シートの物性を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
<使用原料>
(A)PET:結晶性PET樹脂;クラレ社製、商品名クラペットKS−710B4[固有粘度=1.25,DSC結晶融解ピーク温度=237℃、結晶融解熱(ΔH)=62J/g]、
(B)PC:ビスフェノールA繰り返し単位を含むポリカーボネート樹脂;出光石油化学社製、商品名タフロンIRE2200[メルトフロー値=12cm3/10分]、
(C)PET−G:非結晶性ポリエステル樹脂;イーストマンケミカル社製、商品名EASTER6763[固有粘度=0.70,DSC結晶融解ピーク温度77℃、結晶融解熱(ΔH)=4J/g]、
(D)CB:アセチレンブラック;電気化学工業社製、商品名デンカブラック[揮発分=0.03質量%,DBP吸油量=125ml/100g,pH=9]、
(E)Ny12:ナイロン12;宇部興産社製、商品名:3035U(数平均分子量=35,000)、
(F)赤燐:燐化学工業社製、商品名ノーバエクセルF5(平均粒径=1μm)、
(G)ワックス:モンタン酸エステルワックス;クラリアントン社製、商品名リコワックス(Licowax)E
【0095】
上記表1の結果から明らかなように、結晶性PET樹脂(A)、ポリカーボネート樹脂(B)、導電性カーボンブラック(C)および非結晶性ポリエステル樹脂(D)を所定の割合で含む本発明の半導電性樹脂組成物を成形して得られた半導電性シートは、高い引張弾性率および引張破断伸び、小さいクリープ特性を兼ね備え、更に安定した体積抵抗率ならびに再溶融加熱成形後の良好な耐折り曲げ強度を示す(実施例1〜3)。更に難燃剤を含む実施例4の半導電性シートは、耐折り曲げ強度を含む他の物性を良好に維持しつつ、難燃性が付与されている。
【0096】
これに対し、非結晶性ポリエステル樹脂(D)を含まない比較例1〜7の半導電性シートは再加熱後の耐折り曲げ強度が著しく低下している。またポリカーボネート樹脂(B)を含まない比較例7および8の半導電性シートはクリープが著しく増大している。
【0097】
【発明の効果】
上述したように本発明によれば、103〜10Ω・cmの範囲で所定の体積抵抗率を安定して均一に精度よく再現し、クリープが小さく、弾性率と引張破断伸びが共に優れ、加工性、耐ブロッキング性、難燃性に優れた半導電性シートが低コストで提供される。更に電子写真方式の複写機、レーザープリンター、ファクシミリなどの画像形成装置の、電荷制御部材として好適に使用される半導電性ベルト、チューブ、シートなどが提供される。
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱可塑性ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂と導電性カーボンブラックとを含有する樹脂組成物から溶融成形されてなる半導電性シート、該半導電性シートから形成された電荷制御部材、及び該半導電性シートの成形材料として好適な半導電性樹脂組成物に関する。本発明において、半導電性シートとは、厚み250μm以上の典型的なシートだけではなく、厚み250μm未満のフィルムをも含むものとする。
【0002】
【従来の技術】
半導電性領域の体積抵抗率を有する合成樹脂シートは、電荷制御部材として様々な分野で使用されている。その代表的な分野としては、電子写真方式や静電記録方式の複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリなどの画像形成装置が挙げられる。
【0003】
例えば、電子写真方式の複写機では、(1)感光体表面を均一かつ一様に帯電させる帯電工程、(2)パターン状に露光することにより、感光体表面に静電潜像を形成する露光工程、(3)現像剤(トナー)を付着させて、感光体表面の静電潜像を可視像(トナー像)とする現像工程、(4)感光体表面のトナー像を転写材(転写紙やOHPシートなど)上に転写する転写工程、(5)転写材上のトナー像を融着させる定着工程、(6)感光体表面の残留トナーを清掃するクリーニング工程、(7)感光体表面の残留電荷を消滅させる除電工程などの各工程によって、画像が形成されている。
【0004】
このような画像形成装置においては、前記各工程での機能を担うために、ベルト、ローラ、ドラム、ブレードなどの各種形状を有する多数の部材が配置されている。このような部材としては、例えば、帯電部材(例えば、帯電ベルト、帯電ローラ)、感光体ドラム(例えば、感光体層とそれを支持するためのベルト状またはローラ状支持体)、現像部材(例えば、現像ローラ、現像ベルト)、現像剤層厚規制部材(例えば、トナー層厚規制ブレード)、転写部材(例えば、転写ベルト、中間転写ベルト、転写ローラ)、クリーニング部材(例えば、クリーニングブレード)、除電部材(例えば、除電ブレード、除電ベルト、除電ローラ)、紙搬送部材などが挙げられる。ベルト部材は、通常、エンドレスベルトやチューブの形状を有している。ローラ部材は、ローラ状基体上に樹脂またはゴムの被覆層を有する被覆ローラである。
【0005】
前記各工程では、静電気または電荷を厳密に制御する必要があるため、各工程で使用される部材の多くは、適度の導電性を有することが求められている。例えば、帯電ベルトを用いた帯電方式では、電圧を印加した帯電ベルトを感光体表面に接触させることにより、帯電ベルトから感光体表面に直接電荷を与えて帯電させている。非磁性一成分現像剤を用いた現像方式では、感光体に対向して現像ローラを配置し、現像ローラとトナー供給ローラとの間の摩擦力により、トナーを現像ローラ表面に帯電状態で付着させ、これをトナー層厚規制ブレードで均一な厚みにならした後、感光体表面の静電潜像に対して電気吸引力により移行させている。エンドレスベルトを用いた転写方式では、エンドレスベルトにより転写材を搬送するとともに、該ベルトにトナーとは逆極性の電荷を付与して転写電界を形成し、クーロン力で感光体表面のトナー像を転写材上に転写している。
【0006】
このような各種部材の多くは、それぞれの機能を発揮するために、部材全体または少なくとも表面層が適度の導電性を有すること、より具体的には、半導電性領域に属する103〜1013Ωcmの範囲内の体積抵抗率を有することが求められている。これらの部材は、半導電性であることにより、電荷制御機能を発揮することができるため、電荷制御部材であるということができる。近年、このような電荷制御部材として、適度の導電性を付与した合成樹脂材料により成形されたものが汎用されるに至っている。
【0007】
画像形成装置における電荷制御部材は、半導電性領域の体積抵抗率を有することが求められているが、その体積抵抗率は、該部材の場所によるバラツキが小さく実質的に均一であることが望ましい。例えば、場所による体積抵抗率のバラツキが大きい帯電ベルトを用いると、感光体表面を均一かつ一様に帯電させることができない。同様に、場所による体積抵抗率のバラツキが大きい転写ベルトを用いると、感光体表面のトナー像を正確に転写材上に転写することができない。その結果、高品質の画像を得ることができなくなる。
【0008】
また、電荷制御部材は、高度の耐久性を有することが求められている。電荷制御部材がエンドレスベルトである場合、2本以上のロールを用いて長期間にわたって駆動される。ローラ部材である場合には、高速回転させられる。そのため、電荷制御部材には、このような過酷な稼動条件に耐えるだけの十分な耐久性が必要とされる。特に機械的特性として、弾性率(引張弾性率)と伸び(引張破断伸び)が共に優れていることが求められる。例えば、中間転写ベルトの引張弾性率が低すぎると、ベルトに歪みが生じて、耐久性が損なわれるだけではなく、ベルト上に転写されたトナー像の歪みや色ずれの原因となる。トナー像の歪みや色ずれは、ベルトの耐クリープ性が不足する場合に起るベルト周長の経時的伸びによっても生ずる。電荷制御部材の引張破断伸びが低すぎると、柔軟性が不足して、異物の巻き込み等による割れが発生し易くなる。ベルト部材の耐折り曲げ性が劣悪であると、破断し易くなる。
【0009】
さらに、電荷制御部材には、耐熱性に優れていることが求められている。画像形成装置内は、稼動中、比較的高温状態になるが、電荷制御部材は、そのような高温条件下で変形したり、他の部材に溶着したりしないだけの耐熱性を有することが必要である。また、電荷制御部材及び該部材を装着した機器は、車輌や船舶などにより輸送されることが多いが、輸送中の車内または船内の温度が80℃程度にまで上昇することは稀ではない。このような高温雰囲気下に長期間にわたって曝された場合であっても、部材同士が互いに溶着したり、他の部材に溶着したりしないだけの十分な耐熱性(高温での耐ブロッキング性)を有することが求められる。
【0010】
これらに加えて、電荷制御部材は、多くの場合、難燃性を有することが望ましい。電子写真複写機などに装着されている電荷制御部材は、100Vから数kVまたはそれ以上の高電圧が印加される場合があるため、スパークや加熱による引火の危険に曝されている。このため、電荷制御部材には、他の諸特性を著しく損なうことなく、高度の難燃性を付与できることが望ましい。
【0011】
フッ素樹脂に導電性カーボンブラックを分散させた樹脂組成物により形成された電荷制御部材は、耐熱性と難燃性に優れている。しかし、フッ素樹脂は、使用後の焼却処分が難しいため、廃棄物処理に難点がある。導電性カーボンブラックを分散させたポリイミドワニスは、湿式成形する必要があるため、半導電性シートやシームレスベルトに成形するのに、多大の製造コストを必要とする。
【0012】
熱可塑性ポリエステル樹脂に導電性フィラーを配合した樹脂組成物を用いて、感光体ドラムの支持体(特開昭61−13256号公報)、通電感熱転写記録リボン用フィルム(特開昭63−139786号公報)、電子写真感光層保持用フィルム(特開昭63−188153号公報)、導電性シームレスベルト(特開平7−178795号公報)などを溶融成形する技術が知られている。熱可塑性ポリエステル樹脂と熱可塑性エラストマーと導電性成分とを含有する樹脂組成物から溶融成形されたシームレスベルトも提案されている(特開平10−6411号公報)。
【0013】
前記電荷制御部材では、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリブチレンナフタレート(PBN)樹脂などの汎用の結晶性ポリエステル樹脂が用いられている。しかし、これらの結晶性ポリエステル樹脂を用いたのでは、電子写真複写機などの画像形成装置用として満足できる特性を有する電荷制御部材を得ることは極めて困難である。
【0014】
例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂は、耐熱性や機械的物性が良好であるもののガラス転移温度(約30℃)付近で物性が大きく変化するため、室温付近で用いられる電子写真装置の電荷制御部材としては適さない。
【0015】
また、結晶性のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂に導電性カーボンブラックを配合した樹脂組成物から成形された半導電性シートは、引張弾性率は高いものの、耐折り曲げ性が悪いため、電子写真複写機などの電荷制御部材とするには脆すぎるという欠点がある。この樹脂組成物に難燃剤を配合すると、半導電性シートの脆化が顕著になる。
【0016】
他方、非結晶性ポリエステル樹脂に導電性カーボンブラックを配合した樹脂組成物を溶融成形してなる接触式帯電電極用導電性シートが提案されている(特開平7−161224号公報)。また、芳香族ポリエステル樹脂に揮発分が少ない導電性カーボンブラックを配合した樹脂組成物からなる導電性プラスチックシートが提案されており、芳香族ポリエステル樹脂として、非結晶性ポリエステル樹脂も例示されている(特開平7−216199号公報)。しかし、これらの導電性シートは、非結晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度(80℃付近)で軟化して、シート同士がブロッキングにより溶着したり、他部材にブロッキングするなどの不都合を生ずる。そのため、これらの導電性シートは、接触式帯電電極用導電性シート(特開平7−161224号公報)、ICまたはICを搭載した電子機器部品の包装材料(特開平7−216199号公報)として使用することができるものの、電子写真複写機、プリンターなどの画像形成装置用の電荷制御部材としては、不適当なものである。
【0017】
また、上記したPET樹脂に導電性カーボンブラックを配合した樹脂組成物から成形された半導電性シートは、引張弾性率は高いものの、クリープが大きいためにレーザープリンターや電子写真複写機の転写レベルとしては、ベルト径が伸びたり、内接するローラーの型が付き易いという欠点がある。環境温度が高ければシートのクリープは更に顕著になる。
【0018】
樹脂シートのクリープ特性や弾性率を改良する手段として、ガラスファイバーやカーボンファイバーなどの短繊維を高充填する方法が知られているが、シートが極端に脆くなり、半導電性ベルトとして使用するには適さない。
【0019】
他方、ポリカーボネート(PC)樹脂はガラス転移温度が130℃程度と比較的高いことから60℃程度でのクリープは小さい。しかしながら、PET樹脂よりも更に脆いため、PC樹脂単独に導電性カーボンブラックを配合して半導電性ベルトとして使用するには適さない。
【0020】
特開平4−342759号公報には、ポリカーボネート(PC)/ポリエステル/カーボンブラック(CB)からなる組成物が開示されているが、これは単にポリマーアロイとしてのPC/ポリエステルに優れた黒味(漆黒性)を与えるために比表面積が1000m2/g以上であるCBを添加した組成物を提供するものであって、その組成物の導電性については一切開示されておらず、また電荷制御部材として用いられる半導電性シートに要求されるような耐熱性や機械物性は問題とされていない。また特開2001−164102号公報には、PC/ポリエステル/CBからなる組成物が開示されているが、実施例においては、ポリエステルとしてポリブチレンテレフタレート(PBT)のみが用いられており、上述したPBTが室温付近にガラス転移温度を持つことに伴なう物性の不安定化の問題は実質的に解決されているとは言い難い。
【0021】
また、特開平4−198359号公報には、PC/ポリエステル/アセチレンブラックからなる半導電性樹脂組成物が開示されているが、ここでも実施例において用いられているポリエステルはPBTのみであり、またPCを主成分として用いるため、得られる生成物は脆く且つ耐溶剤性、耐オゾン性が劣るものになりがちである。
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、導電性カーボンブラックを含有し、ポリエステルとポリカーボネートを主成分とする樹脂組成物から溶融成形されてなる半導電性シートであって、均一な半導電性領域の体積抵抗率を示し、弾性率と破断伸びが共に優れ、更に耐クリープ性が良好であり、且つ加工性、耐折り曲げ性、耐ブロッキング性が良好で、所望により高度に難燃化することが可能な半導電性シートを提供することにある。
【0023】
また、本発明の目的は、該半導電性シートから形成された電荷制御部材を提供することにある。さらに、本発明の目的は、該半導電性シートの成形材料として好適な半導電性樹脂組成物を提供することにある。
【0024】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、結晶性PET樹脂と、PC樹脂と、非結晶性ポリエステル樹脂と、導電性カーボンブラックとを特定割合で含有する樹脂組成物を用いて半導電性シートを成形したところ、引張弾性率と引張破断伸びが共に優れ、耐クリープ性が良好であり、柔軟性や耐ブロッキング性も良好な半導電性シートの得られることを見出した。熱可塑性ポリエステル樹脂として、結晶性PET樹脂と、PC樹脂と、非結晶性ポリエステル樹脂とを特定割合で併用することにより、前記諸特性が得られることに加えて、所望の半導電性領域の体積抵抗率を有する半導電性シートを安定して精度良く製造することができる。本発明の半導電性シートは、再溶融加工によっても、体積抵抗率の変動が小さく、柔軟性が低下することもない。
【0025】
本発明の半導電性シートは、電子写真方式や静電記録方式の画像形成装置におけるエンドレスベルト、チューブ、ブレード、積層ベルト、被覆ローラなどの電荷制御部材に形成することができ、そして、これらの電荷制御部材は、優れた機能と耐久性を発揮する。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0026】
【課題を解決するための手段】
かくして、本発明によれば、
(A)示差走査熱量計による熱分析で180〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知される結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂45〜90質量部、
(B)ポリカーボネート樹脂5〜45質量部、および
(C)示差走査熱量計による熱分析で180〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知されない非結晶性ポリエステル樹脂5〜30質量部、
を(A)+(B)+(C)の合計量が100質量部となるように含有し、更に
(D)導電性カーボンブラック10〜30質量部を含有する樹脂組成物から溶融成形された体積抵抗率が1.0×103〜1.0×1013Ω・cmの範囲内である半導電性シートが提供される。
【0027】
また、本発明によれば、該半導電性シートから形成された電荷制御部材が提供される。
【0028】
さらに、本発明によれば、
(A)示差走査熱量計による熱分析で180〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知される結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂45〜90質量部、
(B)ポリカーボネート樹脂5〜45質量部、および
(C)示差走査熱量計による熱分析で180〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知されない非結晶性ポリエステル樹脂5〜30質量部、
を(A)+(B)+(C)の合計量が100質量部となるように含有し、更に
(D)導電性カーボンブラック10〜30質量部、
を含有する半導電性樹脂組成物が提供される。
【0029】
【発明の実施の形態】
(A)結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂
本発明で使用する結晶性PET樹脂は、示差走査熱量計(DSC)による熱分析で180〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知される結晶性のPET樹脂である。このようなピークは、180〜300℃の範囲内に少なくとも1つあればよい。結晶融解熱(ΔH)は、好ましくは25J/g以上、より好ましく50J/g以上である。
【0030】
本発明で使用する結晶性PET樹脂とは、上記のように結晶融解ピーク温度と結晶融解熱(ΔH)で定義されるものであって、本質的に明瞭な結晶性を有しているPET樹脂を意味している。ただし、結晶性PET樹脂であっても、成形条件によっては非晶性の成形品とすることも可能である。例えば、結晶性PET樹脂を溶融押出成形した後、急冷することにより結晶化度の低い非晶性シートに成形することが可能である。このような非晶性シートは、熱処理や二次成形加工時の熱履歴を受けると結晶化する。
【0031】
結晶性PET樹脂としては、PETのホモポリマー、またはテレフタール酸とエチレングリコールとその他の共重合成分とから合成された共重合体を使用することができる。共重合成分の割合は、通常20モル%未満、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。共重合成分の割合が高くなりすぎると、PET樹脂の結晶性が損なわれて半導電性シートの耐熱性が低下する。
【0032】
結晶性PET樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分との等モルの反応により合成される。共重合成分の割合は、ジカルボン酸成分100モル%とジオール成分100モル%の合計200モル%を基準として算出する。例えば、ジオール成分のエチレングリコール(EG)の一部をプロピレングリコール(PG)に置き換えて、EG90モル%とPG10モル%からなるジオール成分(合計100モル%)とした場合、共重合体中のテレフタル酸とEGから形成されるエチレンテレフタレート繰り返し単位の割合が90モル%となり、テレフタル酸とPGとから形成されるプロピレンテレフタレート繰り返し単位の割合が10モル%となる。この場合、共重合成分であるPGの割合を10モル%という。
【0033】
共重合成分としては、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、キシリレングリコール、ビスフェノールA、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分;イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸などのジカルボン酸成分;などが挙げられる。結晶性PET樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
結晶性PET樹脂は、導電性カーボンブラックや難燃剤を分散することによって低分子量化する傾向を示す。そのため、本発明で使用する結晶性PET樹脂の分子量は、比較的高いものであることが望ましい。結晶性PET樹脂の固有粘度〔IV〕は、好ましくは0.9〜1.5、更に好ましくは1.1〜1.4、特に好ましくは1.2〜1.3である。固有粘度が低いほど、半導電性シートが脆化し易くなり、高すぎると、加工が難しくなる。
【0035】
(B)ポリカーボネート樹脂
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネートが好適に用いられるが、特に好ましくは、ビスフェノールA繰り返し単位を含む樹脂が用いられる。ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、通常の範囲であればよいが、成形加工性及び物性上の観点から、好ましくは15,000〜40,000、より好ましくは18,000〜35,000であることが望ましい。
【0036】
(C)非結晶性ポリエステル樹脂
本発明で使用する非結晶性ポリエステル樹脂は、DSCによる熱分析で100〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知されない非結晶性のポリエステル樹脂である。この結晶融解熱(ΔH)は、好ましくは5J/g以下、より好ましく3J/g以下、最も好ましくは実質的にゼロJ/gである。本発明で使用する非結晶性ポリエステル樹脂は、本質的に非結晶性であって、如何なる成形条件によっても結晶化しないものであることが望ましい。
【0037】
このような非結晶性ポリエステル樹脂は、PETやPBTなどのポリエステル樹脂のジカルボン酸成分及び/またはジオール成分の一部を他の共重合成分で置き換えて、結晶性を低下若しくは消失させたコポリエステルである。共重合成分の割合は、通常20〜50mol%、好ましくは25〜40mol%、より好ましくは30〜35mol%である。共重合成分の割合が低すぎると、ポリエステル樹脂に結晶性が現われたり、結晶性の程度が高くなり、半導電性シートの引張破断伸びや柔軟性が低下する。
【0038】
共重合成分の割合は、ジカルボン酸成分とジオール成分の合計200モル%を基準として算出する。例えば、PET樹脂を構成するジオール成分のエチレングリコール(EG)の一部を1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)に置き換えて、EG70モル%とCHDM30モル%からなるジオール成分(合計100モル%)とした場合、共重合体中のテレフタル酸とEGから形成される繰り返し単位の割合が70モル%となり、テレフタル酸とCHDMとから形成される繰り返し単位の割合が30モル%となる。この場合、共重合成分であるCHDMの割合を30モル%という。
【0039】
共重合成分としては、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、キシリレングリコール、ビスフェノールA、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサジメタノールなどのジオール成分;イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸などのジカルボン酸成分;などが挙げられる。これら非結晶性ポリエステル樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
本発明で使用する非結晶性ポリエステル樹脂の中でも、ジカルボン酸成分がテレフタル酸を主体とするものであり、かつ、グリコール成分がエチレングリコール(EG)と1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を主体とするものが好ましい。より具体的に、本発明で使用する非結晶性ポリエステル樹脂としては、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合成分とする非結晶性ポリエチレンテレフタレート共重合体(PETG)であることが好ましい。PETGは、PET樹脂を構成するグリコール成分であるエチレングリコール(EG)の一部を1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)に置き換えたコポリエステルである。EGの一部をCHDMに置き換えて共重合させると、CHDMの共重合割合がある範囲内で結晶化度が実質的にゼロのコポリエステル(PET−G)が得られる。
【0041】
非結晶性のPET−Gにおいて、グリコール成分中のCHDMの割合は、EGよりも少なく、好ましくは25〜40モル%、より好ましくは30〜35モル%程度である。これに対応して、EGの割合は、好ましくは60〜75モル%、より好ましくは65〜70モル%となる。PET−Gは、イーストマンケミカル社から「EASTAR PETG6763」(CHDM=31±3モル%)の商品名で市販されているものがあり、本発明では、この市販品を好適に用いることができる。もちろん、前記で定義した「DSCによる熱分析で100〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知されない非結晶性のポリエステル樹脂」であれば、その他のグレードの市販品や合成品も使用することができる。
【0042】
本発明で使用する非結晶性ポリエステル樹脂の引張弾性率は、好ましくは0.5GPa以上、より好ましくは1.0GPa以上、特に好ましくは1.8GPa以上である。この引張弾性率が低すぎると、半導電性シートの引張弾性率が低くなりすぎる。
【0043】
(D)導電性カーボンブラック
本発明で使用する導電性カーボンブラックとしては、比表面積が30〜300m2/g程度のものが好ましい。その例としては、アセチレンブラック、オイルファーネスブラックなどがあるが、これらの中でも、アセチレンの熱分解法により製造されたアセチレンブラックが好ましい。導電性カーボンブラックは、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、水分の存在下で加水分解を受けやすいが、導電性カーボンブラックの中には水分を主成分とする揮発分を比較的多量に含有するものがある。本発明で使用する導電性カーボンブラックは、揮発分が好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下であることが望ましい。
【0045】
導電性カーボンブラックのDBP吸油量は、好ましくは100〜300ml/100g、より好ましくは100〜200ml/100gの範囲内である。導電性カーボンブラックのDBP吸油量が低すぎると、半導電性シートの導電性が不足し、高すぎると熱可塑性ポリエステル樹脂への分散性が悪くなる。
【0046】
(E)ナイロン12樹脂
本発明の好ましい態様においては、上記成分(A),(B),(C)および(D)に加えて、ナイロン12樹脂(E)を配合する。これにより、半導電性樹脂組成物の、特に押出成形時の加工性が改善され、厚みむらの少ない半導電性シートが安定して精度良く製造可能となることが見出されている。
【0047】
より詳しくは、PET樹脂にカーボンブラックを分散させる際、PET樹脂が熱履歴によって低分子量化して粘度が下がる場合がある。また、PCとPETの分散不良によって、シート厚みむらが著しく大きくなる場合がある。このような場合はナイロン12を添加することにより、混合樹脂の粘度が増大し、押出圧力が高くなり、安定した厚みのシートを製膜できるようになる。これらの作用がどのような反応によるものか詳細は不明だが、これら溶融樹脂がエステルアミド交換反応によってPET樹脂とPC樹脂とに作用し、分散性の改良と増粘効果をもたらすものと考えられる。
【0048】
本発明で使用するナイロン12樹脂としては、ナイロン12のホモポリマー、ナイロン12に官能基を付与した樹脂、ナイロン12を末端処理した樹脂、及びナイロン12と他の重合可能なモノマーとの共重合体を挙げることができる。これらの樹脂は、23℃の水中飽和吸水率が2%以下であることが好ましい。また、樹脂硬度は、ショアD硬度で60〜80が好ましい。これらナイロン12系樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合せて使用することができる。
【0049】
ナイロン12系樹脂の中でも、耐衝撃性に優れ、かつ吸湿による物性の変化が小さいナイロン12のホモポリマーが好適に用いられる。数平均分子量は通常1万〜6万の範囲で、2万〜5万の範囲が好ましく、3万〜4万の範囲が特に好ましい。数平均分子量が低すぎると押出加工時の樹脂粘度が低下し成形性が悪くなり、高すぎるとPET樹脂への分散が難しくなる。
【0050】
(F)難燃剤
本発明では、所望により難燃剤を使用することができる。本発明で使用する難燃剤としては、ハロゲン系、燐系、ポリマー系、オリゴマー系、無機系などがあり、特に制限されないが、結晶性PET樹脂の加工温度である250〜280℃の範囲内の温度で分解しないものであることが望ましい。
【0051】
難燃剤としては、例えば、臭素化ポリエステル、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリスチレン、テトラブロモビスフェノールA、へキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、デカブロモジフェニルオキサイド、エチレンビスペンタブロモフェニル、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ペンタブロモベンジルアクリレートなどのハロゲン系難燃剤;三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、三酸化ビスマス、アンチモン酸ナトリウム、ホウ酸亜鉛、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどの無機系難燃剤;赤燐、トリフェニルホスフェート、ポリ燐酸メラミン、ポリ燐酸アンモニウム、燐酸エステルアミド、芳香族縮合燐酸エステル類などの燐系難燃剤;などが挙げられる。
【0052】
難燃剤は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。本発明の半導電性シートが画像形成装置の電荷制御部材として使用される場合には、難燃剤の中でも燐系難燃剤が好ましく、その中でも平均粒径15μm以下の赤燐微粉末がより好ましい。
【0053】
(G)ワックス
本発明では、導電性カーボンブラックの分散性の向上と熱可塑性ポリエステル樹脂の劣化防止のために、ワックスを添加することが望ましい。ワックスとしては、天然ワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、アルキルエステル酸エステルワックスなどが挙げられるが、モンタン酸エステルワックスが特に好ましい。
【0054】
(H)その他の添加剤
本発明では、所望によりその他の添加剤を適宜添加することができる。その他の添加剤としては、タルク、マイカ、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ゼオライト、ガラス、酸化亜鉛、酸化鉄、黒鉛、無機物、有機金属塩、酸化全属の粉末、繊維フィラーなどの充填剤;酸化防止剤、可塑剤、有機顔料、無機顔料、界面活性剤、カップリング剤、その他の樹脂やエラストマーなどが挙げられる。これらの添加剤は、それぞれの使用目的に応じて適量を使用することができる。
【0055】
[ポリエステル樹脂組成物]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、(A)結晶性PET樹脂45〜95質量部、(B)ポリカーボネート樹脂5〜45質量部および(C)非結晶性ポリエステル樹脂5〜30質量部を(A)+(B)+(C)の合計量が100質量部となるように含有し、更に、(D)導電性カーボンブラック10〜30質量部を必須成分として含有するものである。
【0056】
結晶性PET樹脂(A)の配合量は、好ましくは55〜82質量部、より好ましくは63〜78質量部である。結晶性PET樹脂の配合量が少なすぎると、引張弾性率、耐熱性、耐ブロッキングなどが低下し、多すぎると、引張破断伸びや柔軟性が低下する。
【0057】
ポリカーボネート(PC)樹脂(B)の配合量は、好ましくは9〜36質量部、より好ましくは14〜27質量部である。PC樹脂の配合量が少な過ぎると耐クリープ性が低下し、多過ぎると引張破断伸びや柔軟性が低下する。
【0058】
非結晶性ポリエステル樹脂(C)の配合量は、好ましくは6〜27質量部であり、より好ましくは9〜18質量部である。非結晶性ポリエステル樹脂の配合量が少なすぎると、半導電性シートの引張破断伸びや柔軟性が低下して、耐久性が損なわれ易くなり、多すぎると、耐クリープ性、耐熱性および引張弾性率が低下する。
【0059】
導電性カーボンブラック(D)の配合量は、樹脂成分(A)+(B)+(C)の合計量100質量部に対して、好ましくは15〜25質量部、より好ましくは17〜22質量部である。導電性カーボンブラックの配合量が少なすぎると、所望の半導電性領域の導電性を得ることが困難になったり、半導電性シートの場所による導電性のバラツキが大きくなり易く、多すぎると、半導電性シートが脆くなり易くなる。
【0060】
ナイロン12(E)を添加する場合、その配合量は、好ましくは3〜20質量部、更に好ましくは5〜15質量部である。ナイロン12の配合量が少な過ぎると押出加工性の改善に関して充分な効果が得られず、ナイロン12の配合量が多過ぎると弾性率が低くなり、クリープが大きくなる。
【0061】
難燃剤(G)を添加する場合、その配合量は、樹脂成分(A)+(B)+(C)の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.5〜15質量部である。難燃剤の配合量が少なすぎると、半導電性シートを十分に難燃化することができず、多すぎると、引張破断伸びや柔軟性が低下する。難燃剤として赤燐粉末を使用する場合には、比較的少量でも高度の難燃化を達成することができる。
【0062】
ワックス(H)を添加する場合、その配合量は、樹脂成分(A)+(B)+(C)の合計量100質量部に対して、好ましくは0.05〜2質量部、より好ましくは0.1〜1質量部である。ワックスの配合量が少なすぎると、添加による導電性カーボンブラックの分散性やポリエステル樹脂の劣化防止などの添加効果が小さくなり、多すぎると、ブリードアウトし易くなる。
【0063】
[半導電性シート]
本発明のポリエステル樹脂組成物を調製するには、結晶性PET樹脂、PC樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂、導電性カーボンブラック、必要に応じて、ナイロン12、難燃剤、ワックス、その他の添加剤を、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミル、ニーダー等の混練機に供給して、溶融混練し、ペレット化する方法を採用することが好ましい。混練機に投入する各成分は、予めブラベンダなどの混合機で良く混合しておくことが望ましい。
【0064】
導電性カーボンブラックや難燃剤は、これらの成分を高濃度で含有する樹脂組成物からなるマスターバッチ(ペレット)を製造し、成形時にマスターバッチを樹脂成分(ペレット)とペレットブレンドすることができる。
【0065】
半導電性シートの成形方法としては、押出機の先端に取り付けたTダイのスリップから溶融状態の該樹脂組成物を押出し、エアーナイフなどで冷却ドラム上に密着させつつ冷却固化する方法が挙げられる。別な方法としては、Tダイのリップから溶融状態で押出されたシートの両端部のみを指示しつつ引き取り、シート中央部は冷却ロールなどに密着させずに冷却固化する方法などが挙げられる。
【0066】
Tダイの代りに環状ダイを用いて、半導電性シートを直接シームレスベルトまたはチューブとして成形することもできる。シームレスベルトまたはチューブの望ましい連続的な溶融押出成形法としては、1軸スクリュー押出機とスパイラル環状ダイを用い、溶融樹脂組成物を該ダイのリップから直下に環状に押し出し、内部冷却マンドレル方式によって環状体の内径を制御しながら引き取る方法が挙げられる。
【0067】
本発明の半導電性シートの厚みは、用途に応じて適宜定めることができ、通常20〜1,000μm、好ましくは30〜500μm、より好ましくは40〜250μm、特に好ましくは50〜200μmである。半導電性シートの厚みが薄すぎると強度が低下し、厚すぎると柔軟性が低下する。
【0068】
本発明の半導電性シートの体積抵抗率(平均値)は、1.0×103〜1.0×1013Ωcmの範囲内に調整され、用途に応じて、この範囲内から所望の体積抵抗率となるように、各成分の種類と配合量を調節する。例えば、半導電性シートを現像ローラの被覆チューブ、感光体ベルト若しくはロールの被覆チューブ、除電ベルト若しくはロールの被覆チューブまたは除電ブレードとして使用する場合には、その体積抵抗率を好ましくは1.0×103〜1.0×109Ωcm、より好ましくは1.0×103〜1.0×106Ωcmの範囲内に調節する。
【0069】
半導電性シートを紙搬送ベルトとして使用する場合は、その体積抵抗率を好ましくは1.0×108〜1.0×1013Ωcm、より好ましくは1.0×1010〜1.0×1012Ωcmの範囲内に調節する。半導電性シートを転写ベルト若しくはロールの被覆チューブ、帯電ベルト若しくはロールの被覆チューブまたは帯電ブレードとして使用する場合には、その体積抵抗率を好ましくは1.0×105〜1.0×1013Ωcm、より好ましくは1.0×107〜1011Ωcmの範囲内に調節する。
【0070】
半導電性シートは、場所による体積抵抗率のバラツキができるだけ小さいものであることが均一な電荷制御機能を発揮する上で望ましい。半導電性シートが電荷制御部材として満足に機能するには、体積抵抗率の最大値が最小値の30倍以内にあることが必要とされる、本発明によれば、表面積1m2当たり任意に選んだ20点で測定した体積抵抗率の最大値が最小値の10倍以下、さらには、1〜6倍の範囲内の半導電性シートを得ることができる。
【0071】
半導電性シート、該シートから成形された電荷制御部材、及び該部材を装着した機器などが使用される環境は、室内の常温環境であるが、窓際などに設置された機器が稀に50〜60℃の温度に曝される場合がある。一方、樹脂材料は温度が高くなるほど一定荷重でのクリープが大きくなる。そこで該電荷制御部材は60℃環境で使用する際でもクリープが充分に小さいことが求められる。
【0072】
半導電性シート、該シートから形成された電荷制御部材、及び該部材を装着した機器などは、車輌や船舶などにより輸送されることが多いが、輸送中の車内または船内の温度が80℃程度にまで上昇することは稀ではない。このような高温雰囲気下に長期間にわたって曝された場合であっても、半導電性シート同士や部材同士が互に溶着したり、他の部材に溶着したりしないだけの十分な耐熱性(高温での耐ブロッキング性)を有することが求められる。
【0073】
そのため、半導電性シートは、通常80℃以下、好ましくは90℃以下、より好ましくは100℃以下の温度で、シート同士が溶着したり、強固にブロッキングすることのない耐熱性を有するものであることが望ましい。本発明の半導電性シートは、重ね合わせた状態で80℃の温度に2週間保持したとき、シート相互間にブロッキングが発生しない。
【0074】
電荷制御部材が例えば転写ベルトである場合、該ベルトが歪むと、ベルト上に形成されるトナー画像の歪みや色ずれの原因になる。そのため、半導電性シートは、十分に高い弾性率を有することが望ましい、また、ベルト部材は、異物の巻き込み等によって割れたりすることが無いように、適度な柔軟性を有することが望ましい。本発明の半導電性シートは、引張弾性率と引張破断伸びが共に優れており、上記要求に応えることができるものである。
【0075】
具体的に、本発明の半導電性シートは、引張弾性率が好ましくは1.8MPa以上、より好ましくは1.9MPa以上、特に好ましくは2.0MPa以上であり、その上限値は、通常2.6MPa程度である。本発明の半導電性シートの引張破断伸びは、難燃剤を含有しない場合は、好ましくは100%以上、より好ましくは200%以上である。難燃剤を含有する場合の引張破断伸びは、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上である。
【0076】
本発明の半導電性シートは、難燃剤を含有させることにより難燃化することができる。本発明の半導電性シートは、UL−94VTM難燃性試験で好ましくはVTM−2,より好ましくはVTM−1またはVTM−0の高度の難燃性を示すものである。結晶性のポリエステル樹脂を用いて得られる半導電性シートは、柔軟性が不十分となりがちで有り、難燃剤を含有させると脆化がさらに進行する傾向を示す。これに対し、本発明の半導電性シートは、併せて非結晶性ポリエステル樹脂を含有するため、難燃剤を含有させることによる、引っ張り破断伸び及び再溶融成形後の耐折り曲げ強度の低下が少ない。
【0077】
本発明の半導電性シートは、再溶融させた後に徐冷しても、結晶化による脆化が少ない。したがって、本発明の半導電性シートを加熱シームで接着してエンドレスベルト状に成形しても、シーム個所が脆くなり難い。半導電性シートの脆化は、折り曲げ試験による破断折り曲げ回数で評価することができる。具体的に、本発明の半導電性シートは、260℃で5分間加熱溶融させる条件下での再溶融テスト後、JIS P−8115に準拠した折り曲げ試験での破断折り曲げ回数が、好ましくは20回以上、より好ましくは30回以上であり、難燃剤を含有しない場合には、好ましくは100回以上、より好ましくは150回以上、特に好ましくは200回以上である。
【0078】
本発明の半導電性シートを加熱シームで接着してエンドレスベルト状に成形する場合、シートの加熱個所(再溶融個所)は、一部分でもシート全体でも構わない。
【0079】
本発明の半導電性シートは、成形時に直接シームレスベルトやチューブとして製造することができる。それ以外の通常のシート状で得られる場合には、半導電性シートを二次加工することにより、各種の電荷制御部材に形成することができる。その一つの方法は、前述の半導電性シートの加熱シームによるベルト(エンドレスベルトまたはチューブ)の成形である。
【0080】
本発明の半導電性シートは、他の素材から形成されたシート状基体(例えば、ポリイミドフィルムからなるベルト)上に被覆することにより、積層ベルトに形成することができる。また、本発明の半導電性シートは、他の導電性シートや半導電性シート、あるいは絶縁シートなどと2層以上に積層してもよい。積層するには、界面を接着剤で張り合わせても、共押出しにより多層シートとして成形してもよい。さらに、本発明の半導電性シートは、ローラ状基体(例えば、芯金)上に被覆することにより、被覆ローラを形成することができる。本発明の半導電性シートの表面は、用途に応じて、他の樹脂をコーティングしたり、金属蒸着したり、艶消し加工してもよい。本発明の半導電性シートは、再加熱に際しての脆化が少ないので、これら二次加工に際して、加熱をすることに支障がない。
【0081】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。物性の測定方法は、以下の通りである。
【0082】
(1)厚み測定:
成形品の厚みは、ダイヤルゲージ厚み計(小野測器社製、商品名:DG−911)で測定した。
【0083】
(2)体積抵抗率:
体積抵抗率が1.0×108Ωcm以上の試料については、リング状プローブ(三菱化学社製、商品名URSプローブ;内側電極の外径5.9mm、外側電極の内径11.0mm、外側電極の外径17.8mm)と測定ステージ(三菱化学社製、商品名レジテーブルUFL)との間に試料を挟み、約3kg重の圧力で押さえつけつつ、プローブの内側の電極と測定ステージとの間に100Vの電圧を印加し、抵抗率測定装置(三菱化学社製、商品名ハイレスタUP)で体積抵抗率を求めた。リング電極法による体積抵抗率測定法の詳細は、JIS−K6911に記載されている。
【0084】
体積抵抗率が1.0×108Ωcm未満、1.0×106Ωcm以上の試料については、印加電圧を10Vにして、体積抵抗率が108Ωcm以上の試料と同様にして体積抵抗率を求めた。体積抵抗率が1.0×106Ωcm未満の試料については、四探針プローブ(三菱化学社製、商品名PSPプローブ;ピン間隔1.5mm)と抗率測定装置(三菱化学社製、商品名ロレスタHP)を用いて体積抵抗率を求めた。四探針法による体積抵抗率測定法の詳細は、JIS−K7194に記載されている。
【0085】
(3)平均値の算出:
上記した厚み及び体積抵抗率の測定は、これらの値を測定すべき試料の表面積1m2当たり任意に選んだ20点の測定点について測定し、その最大値、最小値、平均値(算術平均)を求めた。
【0086】
(4)引張弾性率及び引張破断伸び:
JIS K−7113に準拠し、幅10mm、長さ100mmの短冊型試験片を用い、引張試験機(オリエンテック社製、商品名テンシロンRTM100型)により引張速度50mm/分、チャック間距離50mmの条件で測定した。
【0087】
(5)折り曲げ試験:
JIS P−8115に準拠し、幅15mmの短冊型試験片を用い、MIT耐柔疲労試験機により屈曲角度135度(左右)、折り曲げ速度175cps、荷重9.8Nの条件で測定した。n=5で測定し、算術平均を算出した。
【0088】
(6)クリープ
セイコーインスツルメンツ社製TMA(型式:EXSTAR6000)と石英製引張治具を用い、60℃1時間でのクリープ(μm)を測定した。具体的には、厚み50μm、幅3mmのサンプルシートを、つかみ具間距離(サンプル長さ)20mmで治具に固定し、60℃で1時間放置した後30℃に冷却したときのサンプル長さを“L0”再び60℃に昇温して1時間放置した後、30℃に冷却したときのサンプル長さを“L1”としたとき、
【数1】
クリープ=(L1−L0)/L0×100(%)
とした。サンプルシートには引張荷重は82gf(一定)を掛け続けた。
【0089】
(7)示差走査熱量計(DSC)による熱分析:
示差走査熱量測定装置(メトラー社製、製品名DSC30)とデータプロセッサ(メトラー社製、製品名TC10A)とを用い、試料(ペレット)を下記条件により熱分析した。試料は、75℃で10時間コンディショニングした後、測定に供した。ファーストランにより、結晶融解ピーク温度と結晶融解熱(ΔH)を求めた。測定条件は、試料重量10mg、測定開始温度30℃、測定終了温度300℃、昇温速度10℃/分である。
【0090】
(8)再溶融テスト:
予め体積抵抗率を測定した試験シート片を、厚さ0.5mmの平滑な2枚の鉄板の間に挟み、260℃のオーブンで5分間加熱して溶融させた後、23℃の室温で自然冷却した。鉄板の表面には、予め離型剤を塗布しておいた。冷却後、試験シート片の破断折り曲げ回数を評価した。
【0091】
(9)難燃性:
UL−94VTM難燃性試験(装置・機器部品用プラスチック素材の燃焼性試験)により、半導電性シートの難燃性を評価した。
【0092】
(実施例1〜9、比較例1〜5)
表1に示す組成の原料を1軸スクリュー押出機に供給して、リップクリアランス0.7mmのT型ダイからシート状に溶融押出し、直ちに30℃の冷却ロールによって冷却して、厚みが約100μmのシート(フィルム)に成形した。ただし、導電性カーボンブラックは、予め濃度30質量%(結晶性PET樹脂(A)への希釈物)のマスターバッチペレットを作成しておき、これを他の成分と共に押出機に供給して押出機内でペレットブレンドした。マスターバッチペレットの作成には、2軸スクリュー押出機を用いた。このようにして得られた半導電性シートの物性を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
<使用原料>
(A)PET:結晶性PET樹脂;クラレ社製、商品名クラペットKS−710B4[固有粘度=1.25,DSC結晶融解ピーク温度=237℃、結晶融解熱(ΔH)=62J/g]、
(B)PC:ビスフェノールA繰り返し単位を含むポリカーボネート樹脂;出光石油化学社製、商品名タフロンIRE2200[メルトフロー値=12cm3/10分]、
(C)PET−G:非結晶性ポリエステル樹脂;イーストマンケミカル社製、商品名EASTER6763[固有粘度=0.70,DSC結晶融解ピーク温度77℃、結晶融解熱(ΔH)=4J/g]、
(D)CB:アセチレンブラック;電気化学工業社製、商品名デンカブラック[揮発分=0.03質量%,DBP吸油量=125ml/100g,pH=9]、
(E)Ny12:ナイロン12;宇部興産社製、商品名:3035U(数平均分子量=35,000)、
(F)赤燐:燐化学工業社製、商品名ノーバエクセルF5(平均粒径=1μm)、
(G)ワックス:モンタン酸エステルワックス;クラリアントン社製、商品名リコワックス(Licowax)E
【0095】
上記表1の結果から明らかなように、結晶性PET樹脂(A)、ポリカーボネート樹脂(B)、導電性カーボンブラック(C)および非結晶性ポリエステル樹脂(D)を所定の割合で含む本発明の半導電性樹脂組成物を成形して得られた半導電性シートは、高い引張弾性率および引張破断伸び、小さいクリープ特性を兼ね備え、更に安定した体積抵抗率ならびに再溶融加熱成形後の良好な耐折り曲げ強度を示す(実施例1〜3)。更に難燃剤を含む実施例4の半導電性シートは、耐折り曲げ強度を含む他の物性を良好に維持しつつ、難燃性が付与されている。
【0096】
これに対し、非結晶性ポリエステル樹脂(D)を含まない比較例1〜7の半導電性シートは再加熱後の耐折り曲げ強度が著しく低下している。またポリカーボネート樹脂(B)を含まない比較例7および8の半導電性シートはクリープが著しく増大している。
【0097】
【発明の効果】
上述したように本発明によれば、103〜10Ω・cmの範囲で所定の体積抵抗率を安定して均一に精度よく再現し、クリープが小さく、弾性率と引張破断伸びが共に優れ、加工性、耐ブロッキング性、難燃性に優れた半導電性シートが低コストで提供される。更に電子写真方式の複写機、レーザープリンター、ファクシミリなどの画像形成装置の、電荷制御部材として好適に使用される半導電性ベルト、チューブ、シートなどが提供される。
Claims (17)
- (A)示差走査熱量計による熱分析で180〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知される結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂45〜90質量部、
(B)ポリカーボネート樹脂5〜45質量部、および
(C)示差走査熱量計による熱分析で180〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知されない非結晶性ポリエステル樹脂5〜30質量部、
を(A)+(B)+(C)の合計量が100質量部となるように含有し、更に
(D)導電性カーボンブラック10〜30質量部を含有する樹脂組成物から溶融成形された体積抵抗率が1.0×103〜1.0×1013Ω・cmの範囲内である半導電性シート。 - (A)+(B)+(C)の合計量100質量部に対して、
(E)ナイロン12の1〜35質量部、
を更に含有する、請求項1に記載の半導電性シート。 - (A)結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂が、0.9〜1.5の範囲内の固有粘度[IV]を有するものである請求項1または2に記載の半導電性シート。
- 非結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂(C)が、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を含み、ジオール成分として25〜40モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノールと60〜75モル%のエチレングリコールとを含むコポリエステルである請求項1〜3のいずれかに記載の半導電性シート。
- 導電性カーボンブラック(B)が、アセチレンブラックである請求項1〜4のいずれかに記載の半導電性シート。
- (F)難燃剤を0.1〜10質量部の割合で更に含有する請求項1〜5のいずれかに記載の半導電性シート。
- 難燃剤が、赤燐粉末である請求項6に記載の半導電性シート。
- (G)ワックスを0.05〜2質量部の割合で更に含有する請求項1〜7のいずれかに記載の半導電性シート。
- 表面積1m2当り任意に選んだ20点で測定した体積抵抗率の最大値が最小値の10倍以下である請求項1〜9のいずれかに記載の半導電性シート。
- 60℃で55kgf/cm2の荷重を1時間かけたときのクリープが0.15%以下である請求項1〜9のいずれかに記載の半導電性シート。
- 引張弾性率が1.8MPa以上で、かつ、引張破断伸びが20%以上である請求項1〜11のいずれかに記載の半導電性シート。
- 重ね合せた状態で80℃の温度に2週間保持したとき、シート相互間にブロッキングが発生しない請求項1〜11のいずれかに記載の半導電性シート。
- 請求項1〜12のいずれかに記載の半導電性シートから成形された電荷制御部材。
- 半導電性シートから形成されたエンドレスベルト、チューブまたはブレードの形態である請求項13に記載の電荷制御部材。
- 基体上に半導電性シートから形成された被覆層を有する積層ベルトまたは被覆ローラの形態である請求項13に記載の電荷制御部材。
- (A)示差走査熱量計による熱分析で180〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知される結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂45〜90質量部、
(B)ポリカーボネート樹脂5〜45質量部、および
(C)示差走査熱量計による熱分析で180〜300℃の範囲内に10J/g以上の結晶融解熱(ΔH)を有するピークが検知されない非結晶性ポリエステル樹脂5〜30質量部、
を(A)+(B)+(C)の合計量が100質量部となるように含有し、更に
(D)導電性カーボンブラック10〜30質量部
を含有する半導電性樹脂組成物。 - 組成物が(A)+(B)+(C)の合計量100質量部に対して、
(E)ナイロン12の1〜35質量部、
を更に含有する、請求項16に記載の半導電性樹脂組成物。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003072397A JP2004281277A (ja) | 2003-03-17 | 2003-03-17 | 半導電性シート及び半導電性樹脂組成物 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003072397A JP2004281277A (ja) | 2003-03-17 | 2003-03-17 | 半導電性シート及び半導電性樹脂組成物 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004281277A true JP2004281277A (ja) | 2004-10-07 |
Family
ID=33288599
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2003072397A Pending JP2004281277A (ja) | 2003-03-17 | 2003-03-17 | 半導電性シート及び半導電性樹脂組成物 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004281277A (ja) |
Cited By (19)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2006139206A (ja) * | 2004-11-15 | 2006-06-01 | Bridgestone Corp | 導電性エンドレスベルトおよびこれを用いた画像形成装置 |
JP2006206703A (ja) * | 2005-01-27 | 2006-08-10 | Mitsubishi Engineering Plastics Corp | 導電性熱可塑性樹脂組成物 |
JP2006213766A (ja) * | 2005-02-01 | 2006-08-17 | Mitsubishi Chemicals Corp | 導電性熱可塑性樹脂組成物 |
JP2006243300A (ja) * | 2005-03-02 | 2006-09-14 | Ricoh Co Ltd | 画像処理装置用半導電性部材 |
JP2006267626A (ja) * | 2005-03-24 | 2006-10-05 | Yuka Denshi Co Ltd | 画像形成装置用エンドレスベルト及び画像形成装置 |
JP2007231200A (ja) * | 2006-03-02 | 2007-09-13 | Mitsubishi Plastics Ind Ltd | 熱可塑性樹脂シート |
JP2007241089A (ja) * | 2006-03-10 | 2007-09-20 | Bridgestone Corp | 導電性エンドレスベルト |
JP2007302734A (ja) * | 2006-05-09 | 2007-11-22 | Sumitomo Bakelite Co Ltd | 樹脂組成物 |
JP2008044179A (ja) * | 2006-08-11 | 2008-02-28 | Sumitomo Rubber Ind Ltd | 導電性ベルトとその製造方法、該導電性ベルトを備えた画像形成装置 |
JP2009500518A (ja) * | 2006-11-23 | 2009-01-08 | チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド | 難燃性熱可塑性樹脂組成物 |
JP2009025787A (ja) * | 2007-06-19 | 2009-02-05 | Bridgestone Corp | 導電性エンドレスベルト |
JP2009069495A (ja) * | 2007-09-13 | 2009-04-02 | Canon Chemicals Inc | ローラ、プロセスカートリッジ及び電子写真装置 |
JP2009069599A (ja) * | 2007-09-14 | 2009-04-02 | Canon Chemicals Inc | ローラ、プロセスカートリッジ及び電子写真装置 |
JP2009145557A (ja) * | 2007-12-13 | 2009-07-02 | Bridgestone Corp | 導電性エンドレスベルトおよびそれを用いた画像形成装置 |
JP2010254797A (ja) * | 2009-04-24 | 2010-11-11 | Shin Etsu Polymer Co Ltd | ポリカーボネート樹脂系難燃性フィルムの製造方法 |
JP2010276937A (ja) * | 2009-05-29 | 2010-12-09 | Bridgestone Corp | 導電性エンドレスベルト |
CN103589144A (zh) * | 2013-10-29 | 2014-02-19 | 安徽安缆模具有限公司 | 一种不透光透红外线的汽车连接件用尼龙pa12材料 |
JP2015172644A (ja) * | 2014-03-11 | 2015-10-01 | 富士ゼロックス株式会社 | クリーニングブレード、クリーニング装置、プロセスカートリッジ、および画像形成装置 |
JP2016186067A (ja) * | 2015-03-27 | 2016-10-27 | コニカミノルタ株式会社 | 熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び複写機やプリンター用外装部品の製造方法 |
-
2003
- 2003-03-17 JP JP2003072397A patent/JP2004281277A/ja active Pending
Cited By (20)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2006139206A (ja) * | 2004-11-15 | 2006-06-01 | Bridgestone Corp | 導電性エンドレスベルトおよびこれを用いた画像形成装置 |
JP2006206703A (ja) * | 2005-01-27 | 2006-08-10 | Mitsubishi Engineering Plastics Corp | 導電性熱可塑性樹脂組成物 |
JP2006213766A (ja) * | 2005-02-01 | 2006-08-17 | Mitsubishi Chemicals Corp | 導電性熱可塑性樹脂組成物 |
JP2006243300A (ja) * | 2005-03-02 | 2006-09-14 | Ricoh Co Ltd | 画像処理装置用半導電性部材 |
JP2006267626A (ja) * | 2005-03-24 | 2006-10-05 | Yuka Denshi Co Ltd | 画像形成装置用エンドレスベルト及び画像形成装置 |
JP2007231200A (ja) * | 2006-03-02 | 2007-09-13 | Mitsubishi Plastics Ind Ltd | 熱可塑性樹脂シート |
JP2007241089A (ja) * | 2006-03-10 | 2007-09-20 | Bridgestone Corp | 導電性エンドレスベルト |
JP2007302734A (ja) * | 2006-05-09 | 2007-11-22 | Sumitomo Bakelite Co Ltd | 樹脂組成物 |
JP2008044179A (ja) * | 2006-08-11 | 2008-02-28 | Sumitomo Rubber Ind Ltd | 導電性ベルトとその製造方法、該導電性ベルトを備えた画像形成装置 |
JP2009500518A (ja) * | 2006-11-23 | 2009-01-08 | チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド | 難燃性熱可塑性樹脂組成物 |
JP2009025787A (ja) * | 2007-06-19 | 2009-02-05 | Bridgestone Corp | 導電性エンドレスベルト |
JP2009069495A (ja) * | 2007-09-13 | 2009-04-02 | Canon Chemicals Inc | ローラ、プロセスカートリッジ及び電子写真装置 |
JP2009069599A (ja) * | 2007-09-14 | 2009-04-02 | Canon Chemicals Inc | ローラ、プロセスカートリッジ及び電子写真装置 |
JP2009145557A (ja) * | 2007-12-13 | 2009-07-02 | Bridgestone Corp | 導電性エンドレスベルトおよびそれを用いた画像形成装置 |
JP2010254797A (ja) * | 2009-04-24 | 2010-11-11 | Shin Etsu Polymer Co Ltd | ポリカーボネート樹脂系難燃性フィルムの製造方法 |
JP2010276937A (ja) * | 2009-05-29 | 2010-12-09 | Bridgestone Corp | 導電性エンドレスベルト |
CN103589144A (zh) * | 2013-10-29 | 2014-02-19 | 安徽安缆模具有限公司 | 一种不透光透红外线的汽车连接件用尼龙pa12材料 |
JP2015172644A (ja) * | 2014-03-11 | 2015-10-01 | 富士ゼロックス株式会社 | クリーニングブレード、クリーニング装置、プロセスカートリッジ、および画像形成装置 |
US9291985B2 (en) | 2014-03-11 | 2016-03-22 | Fuji Xerox Co., Ltd. | Cleaning blade, process cartridge, and image forming apparatus |
JP2016186067A (ja) * | 2015-03-27 | 2016-10-27 | コニカミノルタ株式会社 | 熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び複写機やプリンター用外装部品の製造方法 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP2004281277A (ja) | 半導電性シート及び半導電性樹脂組成物 | |
US8283031B2 (en) | Semiconductive film, electric charge control member and process for producing the semiconductive film | |
JP4979058B2 (ja) | 電子写真装置に用いられるベルト及び電子写真装置 | |
JP4845944B2 (ja) | 導電性エンドレスベルト | |
JP2006267626A (ja) | 画像形成装置用エンドレスベルト及び画像形成装置 | |
JP2845059B2 (ja) | シームレスベルト | |
JP5428598B2 (ja) | 画像形成装置用積層ベルト及びその製造方法並びに画像形成装置 | |
JP3948227B2 (ja) | エンドレスベルト、画像形成装置用ベルト及び画像形成装置 | |
JP4337606B2 (ja) | 画像形成装置用ベルト及び画像形成装置 | |
JP2009075148A (ja) | 導電性エンドレスベルト | |
JP3891160B2 (ja) | 画像形成装置用ベルト及び画像形成装置 | |
JP4315045B2 (ja) | 画像形成装置用ベルト及び画像形成装置 | |
JP2004059811A (ja) | 半導電性シート及びポリエステル樹脂組成物 | |
JP4391142B2 (ja) | 半導電性樹脂組成物、その製造方法、半導電性シート、及び電荷制御部材 | |
JP4057376B2 (ja) | 半導電性樹脂組成物、半導電性シート及び電荷制御部材 | |
JP4763391B2 (ja) | 半導電性フィルム、半導電性シームレスベルト及びこれらの製造方法 | |
JP2004269632A (ja) | 導電性シート、その製造方法、及び電荷制御部材 | |
JP4740566B2 (ja) | 半導電性フィルム、その製造方法及び電荷制御部材 | |
JP2007246607A (ja) | フィルム、シームレスベルト、導電性フィルム、導電性シームレスベルト及びこれらの製造方法 | |
JP2008268910A (ja) | 導電性エンドレスベルト | |
JP3758500B2 (ja) | エンドレスベルト、画像形成装置用ベルト及び画像形成装置 | |
JP4793940B2 (ja) | 導電性エンドレスベルト | |
JP2010145630A (ja) | 導電性エンドレスベルト | |
JP5052146B2 (ja) | ポリアリーレンチオエーテル系半導電性フィルム、該フィルムより形成された電荷制御部材、無端ベルトおよび該無端ベルトを用いた画像形成装置用転写ベルト | |
JP4103339B2 (ja) | 半導電性ベルト、中間転写体、画像形成装置 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20060127 |
|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20080822 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20080902 |
|
A02 | Decision of refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02 Effective date: 20090106 |