JP4753067B2 - 板ガラスの成形方法 - Google Patents

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Description

本発明は、各種電子機器用基板、具体的には、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ等のフラットパネルディスプレイやセンサの基板、固体撮像素子やレーザーダイオード等の半導体パッケージ用カバーガラスとして使用できる板ガラスの成形方法に関する。
近年、電子機器産業の発達に伴って、各種電子機器、とりわけ液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ及びプラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの基板、或いは固体撮像素子等のカバーガラスとして、肉厚0.3〜3.0mmの板ガラスが多量に用いられるに至っている。これらの板ガラスは、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウンドロー法及びフロート法に代表される各種の方法で成形されているのが実情であるが、これらの中でも、特にオーバーフローダウンドロー法は、表面のうねりや粗さが小さく且つ表面品位に優れた板ガラスを得ることができる成形方法として知られている。
詳述すれば、オーバーフローダウンドロー法は、くさび状の断面形状を有する成形体に連続的に供給される溶融ガラスを、成形体の頂部から両側面に沿って流下させることにより、成形体の下端部で融合させて一枚の板状形態にし、この形態になった板状ガラスを、引張りローラで挟持しつつ下方に引き抜くことによって、最終的に固化された板ガラスを成形する方法である。この場合、引張りローラは、板状ガラスの幅方向両端部のみを挟持するのが通例であるため、その僅かな挟持部位(有効面を逸脱する部位)を除外すれば、何ものにも触れられていない表面を持つ板ガラスを成形することが可能となり、これにより表面品位に優れた板ガラスが得られることになる。そのため、この成形方法によれば、コスト高の原因となる研磨工程が不要になるが、その一方で、液晶ディスプレイ等に用いられるような大型で薄肉の板ガラスを成形する場合には、反りが大きくなる傾向にある。
このような傾向に則して、液晶ディスプレイ用のガラス基板の反りが大きいと、その上に薄膜電気回路を形成する際に、露光距離が設計通りにならなくなったり、液晶を挟む二枚の板ガラス(基板)間のギャップにムラが生じて表示性能が損なわれるという問題が生じる。特に、テレビ用の液晶ディスプレイの場合には、薄膜電気回路が複雑であり、また高い表示性能が要求されるため、基板に対する反りの要求が非常に厳しくなる。尚、板ガラスを成形した後、それを定盤上に載置した状態で熱処理を施すことによって、反りを改善することは可能であるが、熱処理工程が加わると、コスト高となるため好ましくない。
このような背景から、オーバーフローダウンドロー法で反りの小さい板ガラスを成形する技術が各種提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
特開平5−163032号公報 特開平10−291826号公報
ところで、上記の特許文献1に開示されたオーバーフローダウンドロー法による板ガラスの製造装置によれば、成形体の下方での融合直後の板状ガラスに表裏両側から接近する中空遮断板を設けることによって、板ガラスの反りや肉厚ムラを小さくする手段が採られている。
しかしながら、このような手段では、成形体から下方に離れた板状ガラスが引張りローラの引張り力のみで引き抜かれるため、薄肉で大型の板ガラスを成形する場合には、板状ガラスの横方向(幅方向)と縦方向とに十分な張力が付与されず、反りが発生し易くなる。
しかも、近年においては、板ガラスの薄肉・大型化に加えて、生産性が重視されていることから、上記のように成形体と引張りローラとの間に中空遮断板を介在させていても、極めて短時間で中空遮断板の間を板ガラスが通過してしまったのでは、中空遮断板を配置したことによる効果を十分に得ることができず、設備に無駄が生じる。
一方、上記の特許文献2に開示されたオーバーフローダウンドロー法による板ガラスの製造装置によれば、成形体の下方に板状ガラスの両端部を挟持する一対の冷却ローラを設け、冷却ローラの周速度を引張りローラの周速度よりも小さくすることによって、板ガラスの反りを改善する手段が採られている。この手段によれば、冷却ローラと引張りローラとの相互作用によって、板状ガラスの横方向と縦方向とに張力を加えることが可能となり、反りの低減が期待できる。
しかしながら、この特許文献2に開示の手段によるにしても、近年において、板ガラスの薄肉・大型化に伴って、反りの発生が顕著化した点と、生産性の向上を図ることが困難になった点とを勘案すれば、未だ解決すべき問題が残存している。
すなわち、オーバーフローダウンドロー法で、板ガラスの肉厚を小さくする要請に応じるには、引張りローラの周速度を大きくせねばならないことに加えて、板ガラスの生産性を高める要請に応じる場合にも、成形体に供給する溶融ガラスを増量しながら、引張りローラの周速度を大きくせねばならない。
それにも拘らず、特許文献2には、引張りローラの周速度を大きくすると、板状ガラスと冷却ローラとの間でスリップが生じるという事項、詳しくは冷却ローラの周速度が引張りローラの周速度の30%よりも小さいとスリップが生じるという事項が記載されている。然るに、このようなスリップが生じると、板状ガラスの移動速度が不安定となって、横方向に収縮が生じ、或いは縦横方向に十分な張力が付与されず、反りが発生し易くなることから、近年における板ガラスの薄肉・大型化や生産性向上の要請に適切に応じつつ、高品質の板ガラスを成形することが困難となる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、板ガラスの薄肉・大型化に伴う反りの発生の顕著化及び生産性向上の困難化の問題を回避して、高品質の板ガラスを製造することを技術的課題とする。
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、薄肉・大型の板ガラス、例えば、厚みが0.7mm以下で且つ有効幅が1200mm以上の板ガラスをオーバーフローダウンドロー法で効率良く生産するに当たり、引張りローラの周速度を大きくしつつ、板状ガラスの幅方向の収縮を抑え、反りの低減を図るためには、冷却ローラの配設状態並びにそれらの駆動形態を改善する必要があることを見出した。
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであり、くさび状の断面形状を有する成形体の頂部から両側面に沿って溶融ガラスを流下させることにより、前記成形体の下端部で融合して板状になった板状ガラスを、引張りローラで挟持しつつ下方に引き抜く板ガラスの成形方法において、前記成形体と引張りローラとの間に、前記板状ガラスの幅方向両端部を挟持して冷却し、幅方向の収縮を最小限に抑えるための冷却ローラを上下方向に複数個設け、最上部の冷却ローラのみに回転駆動力を付与し、厚みが0.7mm以下で且つ有効幅が1200mm以上の板ガラスを得ることを要旨とする。
このような成形方法によれば、板状ガラスの幅方向両端部が、上下方向の二箇所以上で冷却ローラにより挟持されて冷却されるため、板状ガラスの幅方向の収縮が最小限に抑えられる。詳述すると、オーバーフローダウンドロー法で板ガラスを成形する場合、成形体から離れた板状ガラスは、下方に引張られるに伴って徐々に板幅が収縮しようとするが、これに対しては、先ず成形体から離れた直後であって未だ軟化変形し易い状態にある板状ガラスの幅方向両端部を、最上部の冷却ローラ(主冷却ローラ)で挟持するようにすれば、上述の板幅の収縮を抑えることができる。加えて、板状ガラスは、主冷却ローラで挟持して冷却した後においても、その下方で更に幅方向に収縮しようとするが、これに対しては、主冷却ローラの下方に配設した別の冷却ローラ(補助冷却ローラ)が、板状ガラスの幅方向両端部を挟持するため、板状ガラスが主冷却ローラを離れた後における上述の幅方向の収縮を抑えることができる。しかも、この補助冷却ローラは、回転駆動力が付与されない非駆動ローラであるため、板状ガラスの移動速度(流下速度)に合った状態で補助冷却ローラが回転することになり、これにより両者の間にスリップは生じ難くなる。従って、薄肉・大型の板ガラスを効率良く生産する目的で、引張りローラの周速度を大きくした場合であっても、板状ガラスと冷却ローラとの間で不当なスリップを生じさせることなく、板状ガラスの幅方向両端部を安定して冷却し、幅方向の収縮を抑えることが可能となる。また、このような状態で板状ガラスが下方に引張られ、横方向(幅方向)と縦方向とに張力が働いた状態で固化することになるため、薄肉・大型で反りの小さい板ガラスを容易に成形することが可能となる。尚、冷却ローラは、上下方向における個数が増加するに連れて、板状ガラスの幅方向の収縮を抑える効果が大きくなるが、製造条件やコストを考慮すると、上下方向に2〜5個(対)の冷却ローラを配設することが妥当である。
この場合において、前記複数個の冷却ローラにおける上下に隣り合う冷却ローラの相互間距離は、300mm以下であることが好ましい。
すなわち、複数個の冷却ローラのうち、最上部の主冷却ローラ以外の補助冷却ローラについては、回転駆動力を付与するための駆動手段が必要でないため、上下に隣り合う冷却ローラの全ての相互間距離(中心軸間の距離)を上述のように300mm以下と短くしても、取付スペース面での問題を生じることなく、適正に複数個の冷却ローラを配置することができる。この場合、例えば最上部の主冷却ローラと、その直下の補助冷却ローラとの相互間距離が300mmを超えると、既述の板状ガラスの収縮を抑える効果が小さくなるという不具合を招くが、両者の相互間距離が300mm以下であれば、板状ガラスの収縮を十分に抑えることが可能となる。これらの事項を総合的に勘案すれば、各冷却ローラの相互間距離は、好ましくは250mm以下、より好ましくは200mm以下とすることもできる。
また、前記最上部の冷却ローラの周速度Aと、前記引張りローラの周速度Bとの比率B/Aは、3.5〜20にすることが好ましい。
すなわち、オーバーフローダウンドロー法で板ガラスを成形する場合、薄肉で大型の板ガラスを効率良く生産しようとすると、引張りローラの周速度を大きくする必要があるのに対して、板状ガラスの幅方向両端部を適切に冷却しようとすると、冷却ローラ、特に最上部の主冷却ローラの周速度を小さくする必要がある。その場合、主冷却ローラの周速度Aと、引張りローラの周速度Bとの差が小さいと、換言すれば上記の比率B/Aが小さいと、引張りローラの周速度を大きくして生産性を高めるような条件とすることが困難になるばかりでなく、主冷却ローラにより板状ガラスを適正に冷却した上で、板状ガラスの安定した移動速度を確保できるような条件とすることが困難になる。そのため、薄肉・大型の板ガラスを成形するに際して、生産性を高めた上で、反りを小さくできるような成形条件とすることは極めて困難となる。しかしながら、この成形方法では、主冷却ローラの周速度Aと引張りローラの周速度Bとが適正に充分相違するような設定、具体的には上記の比率B/Aが3.5以上とされているので、薄肉・大型の板ガラスの生産性の向上を図りつつ、反りを小さくすることが可能となる。一方、冷却ローラの周速度Aと引張りローラの周速度Bとの差が不当に大きいと(上記の比率B/Aが不当に大きいと)、成形条件が不安定となり、所望の形状の板ガラスが安定して得られ難くなる。そこで、この成形方法では、上記の比率B/Aを20以下としている。尚、以上の事項を総合的に勘案すれば、上記の比率B/Aにおける下限は4であることがより好ましく、その上限は15であることがより好ましい。
更に、前記複数個の冷却ローラは、内部が中空であり、その中空部を流通する冷媒としては、気体や液体を使用することができる。
本発明に係る成形方法、板状ガラスが引張りローラの下流側で固化することにより、厚みが0.7mm以下で且つ有効幅が1200mm以上(好ましくは1500mm以上、より好ましくは2000mm以上)の板ガラスを得るためのものであり、これに加えて、反り率が0.03%以下の板ガラスを得ることができる。ここで、「反り率が0.03%以下」とは、理想平面(具体的には精密定盤の上面)に板ガラスを表面が上向きとなる状態で載置した場合に、長辺に沿う方向における理想平面と板ガラスの裏面との間の最大離反距離(反り量)を長辺の全長で除算して得られる第1の反り率と、短辺に沿う方向における理想平面と板ガラスの裏面との間の最大離反距離(反り量)を短辺の全長で除算して得られる第2の反り率と、理想平面に板ガラスを表面が下向きとなる状態で載置した場合に、長辺に沿う方向における理想平面と板ガラスの表面との間の最大離反距離(反り量)を長辺の全長で除算して得られる第3の反り率と、短辺に沿う方向における理想平面と板ガラスの表面との間の最大離反距離(反り量)を短辺の全長で除算して得られる第4の反り率とのうち、最も値の大きい反り率が0.03%以下であることを意味する。
また、以上の成形方法により成形される板ガラスは、ディスプレイ用基板に適しており、特に液晶ディスプレイ用基板として好適である。
すなわち、オーバーフローダウンドロー法で成形されてなる両面が無研磨面であって、厚みが0.7mm以下、短辺の長さが1000mm以上、長辺の長さが1200mm以上、反り率が0.03%以下の板ガラスを、特に液晶ディスプレイ用基板として使用すると、その基板上に薄膜電気回路を形成する際に、露光距離が設計通りにならなくなったり、液晶を挟む二枚の板ガラス(基板)間のギャップにムラが生じて表示性能が損なわれる等の問題を解消することができる。
以上のように本発明によれば、薄肉・大型の板ガラスを効率良く生産する目的で、引張りローラの周速度を大きくした場合であっても、板状ガラスと冷却ローラとの間で不当なスリップを生じさせることなく、板状ガラスの幅方向両端部を安定して冷却し、幅方向の収縮を抑えることが可能となるとなるばかりでなく、このような状態で板状ガラスが下方に引張られ、横方向(幅方向)と縦方向とに張力が働いた状態で固化することになるため、薄肉・大型(厚みが0.7mm以下で且つ有効幅が1200mm以上)で反りの小さい板ガラスを容易に成形することが可能となる。
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
図1は、板ガラスの成形方法の実施状況を示す概略側面図、図2は、その概略正面図である。ここでは、板ガラスの成形方法の説明に先立ち、図1及び図2に基づいて、板ガラスの成形方法の実施に用いられる成型装置の構成を説明する。この成形装置1の基本的構成は、縦断面形状がくさび状をなし且つ頂部にオーバーフロー溝2aが形成された成形体2と、成形体2の頂部から溢れ出た溶融ガラスYを板状ガラスGとして引き抜く引張りローラ3と、成形体2の下端部2bから引張りローラ3に至るガラス成形経路の途中に配置された上側の主冷却ローラ4及び下側の補助冷却ローラ5とを備えている。これらの各構成要素2、3、4、5は、耐火煉瓦からなる炉壁6により取り囲まれている。また、成形体2の側面2cの周辺、この実施形態では炉壁6の側壁部内面には、成形体2の側面2cを流下するガラス(溶融ガラス)を縦横方向にゾーン加熱することが可能な複数のヒータ7が成形体2の両側方にそれぞれ配設されている。
引張りローラ3は、板状ガラスGの幅方向両端部のみを挟持するものであって、それぞれの端部に一対ずつ計四個を備えている。そして、板状ガラスGの表側に存する二個の引張りローラ3は、軸部材3aで連結されて一体回転可能とされると共に、その裏側に存する二個の引張りローラ3も軸部材3aで連結されて一体回転可能とされ、これらの引張りローラ3には、回転駆動力が付与されるようになっている。また、主冷却ローラ4も、板状ガラスGの幅方向両端部のみを挟持するものであり、それぞれの端部に一対ずつ計四個を備えているが、板状ガラスGの表側に存する二個の主冷却ローラ4は分離され、それらが独立して回転可能とされると共に、その裏側に存する二個の主冷却ローラ4も分離され、それらが独立して回転可能とされている(補助冷却ローラ5も同様)。そして、主冷却ローラ4は、回転駆動力が付与される駆動ローラとされているのに対して、補助冷却ローラ5は回転駆動力が付与されずに空転する非駆動ローラとされている。
引張りローラ3、主冷却ローラ4及び補助冷却ローラ5は、ステンレスまたは耐熱鋼もしくはセラミックス等で形成される。更に、これらのローラ4、5は、内部が中空となっており、その中空部を通じて軸方向先端部付近まで冷媒が流通可能とされている。この場合、冷媒としては、気体や液体を使用することができる。
そして、主冷却ローラ4は、成形体2の頂部から両側面2cに沿って溶融ガラスYが流下して、成形体2の下端部2bで融合することにより、一枚の板状となった直後の板状ガラスGを挟持して冷却し得る位置に配設されている。詳述すると、この主冷却ローラ4は、板状ガラスGの幅方向両端部における粘度が、105.2〜108.6dPa・sの時、より好ましくは105.7〜107.5dPa・s(更に好ましくは106.0〜107.0dPa・s)の時に、その両端部を挟持する位置に保持されている。そして、このような条件を満たすべく、成形体2の下端部2bから主冷却ローラ4の中心軸までの距離aは、30〜200mm、より好ましくは30〜100mmに設定されている。この場合、主冷却ローラ4と補助冷却ローラ5との相互間距離b、つまり主冷却ローラ4の中心軸と補助冷却ローラ5の中心軸との距離bは、300mm以下、好ましくは250mm以下、より好ましくは200mm以下に設定され、何れの場合も下限値は50mmであることが好ましい。
また、主冷却ローラ4の周速度と引張りローラ3の周速度との比は、1:3.5〜1:20、より好ましくは1:4〜1:15に設定されている。加えて、補助冷却ローラ5の周速度は、主冷却ローラ4の周速度以上の範囲内で、引張りローラ3の周速度の80%未満となるような位置に設けられる。これは、補助冷却ローラ5の周速度が引張りローラ3の周速度の80%を超えると、板状ガラスGに対する冷却作用が著しく低下して、幅方向の収縮を効率良く抑えることが困難となることに由来する。このような観点から、補助冷却ローラ5の周速度は、引張りローラ3の周速度の70%未満となるような位置に設けることがより好ましい。
以上のような構成を備えた成形装置1によれば、成形体2に供給されてその頂部から側面2cに沿って流下する溶融ガラスYは、ヒータ7により粘度を調整されつつ、成形体2の下端部2bで融合して一枚の板状となり、この板状ガラスGが引張りローラ3により挟持されて下方に引き抜かれていく。この引張りローラ3による引き抜きが行われる初期段階においては、成形体2から離れた直後で未だ軟化変形し易い状態の板状ガラスGの幅方向両端部を主冷却ローラ4が挟持しているので、この挟持によって主冷却ローラ4の配設位置における板状ガラスGの幅方向の収縮が抑制される。また、板状ガラスGは、主冷却ローラ4で挟持して冷却した後であっても、その下方で更に幅方向に収縮しようとするため、補助冷却ローラ5が仮に存在しないとしたならば、図2に鎖線(符号X)で示すように板状ガラスGが幅方向に収縮して、最終的に幅の広い板ガラスを得ることが出来なくなるが、この実施形態のように補助冷却ローラ5を配設しておけば、板状ガラスGの幅方向の収縮を適切に抑制することができる。この事を勘案すれば、補助冷却ローラ5は、最上段の主冷却ローラ4と最下段の引張りローラ3との間に、複数段(例えば2段から4段)に配設されていることが好ましい。
一方、主冷却ローラ4は、板状ガラスGの幅方向両端部に接触して、その接触部周辺を適度に冷却するが、板状ガラスGにおける主冷却ローラ4との接触部の粘度は、既述のように適度に低いため、生産性を高めるべく引張りローラ3の周速度を大きくしても、板状ガラスGと主冷却ローラ4との間でスリップは生じ難くなる。しかも、成形体2の下端部2bから主冷却ローラ4の中心軸までの距離は、既述のように適度に短くされているため、板状ガラスGにおける主冷却ローラ4との接触部の粘度を効果的に低くすることができる。更に、引張りローラ3の周速度は、主冷却ローラ4の周速度に比して、既述のように適度に大きくされているので、板状ガラスGの移動阻害を阻止した上で、生産性を大幅に高めることが可能となる。
このようにして、板状ガラスGが下方に引き抜かれていく途中においては、補助冷却ローラ5によっても板状ガラスGの幅方向両端部が挟持されて補助的に冷却が行われるが、補助冷却ローラ5は、板状ガラスGの移動速度(流下速度)に合わせて回転するため、補助冷却ローラ5と板状ガラスGとの間でスリップが生じ難くなる。このため、薄肉・大型の板ガラスを効率良く生産する目的で、引張りローラ3の周速度を大きくしても、板状ガラスGと両冷却ローラ4、5との間で不当なスリップが生じなくなり、板状ガラスGの幅方向両端部を安定して冷却しつつ、幅方向の収縮を的確に抑えることが可能となる。しかも、このような状態で板状ガラスGが下方に引張られ、横方向と縦方向とに張力が働いた状態で固化することになるため、薄肉・大型で且つ反り率の小さい板ガラスを容易に成形することが可能となる。
上記の成形方法によると、薄肉で大型の板ガラスを製造する場合でも、反りの極めて小さい板ガラスを成形することができる。図3は、上記の成形方法を用いて最終的に得られた板ガラスを誇張して示す概略断面図である。同図に示すように、この板ガラス8は、表面及び裏面の両面が無研磨面である矩形をなし、厚みtが0.7mm以下、短辺の長さL1が1000mm以上、長辺の長さ(L2)が1200mm以上、反り率が0.03%以下である。ここで、反り率とは、精密定盤の上面Jに板ガラス8を載置して、長辺に沿う方向における精密定盤の上面Jと板ガラス8の下面との間の最大離反距離(反り量)S1を長辺の全長L1で除算して得られる長辺側の反り率{(S1/L1)×100}と、短辺に沿う方向における精密定盤の上面Jと板ガラス8の下面との間の最大離反距離(反り量)S2を短辺の全長L2で除算して得られる短辺側の反り率{(S2/L2)×100}との両者を含む。そして、上述の「反り率が0.03%以下」とは、精密定盤の上面Jに板ガラス8を表面が上向きの状態で載置した場合における長辺側の反り率と短辺側の反り率、及び、精密定盤の上面Jに板ガラス8を表面が下向きの状態で載置した場合における長辺側の反り率と短辺側の反り率との計四つの反り率のうち、最も値の大きい反り率が、0.03%以下であることを意味する(下記の「0.02%以下」及び「0.01%以下」についても同様)。
この場合、板ガラス8の反り率は、0.02%以下、更には0.01%以下にすることも可能である。また、板ガラス8の有効幅を長くすることにより、短辺の長さL1及び長辺の長さL2を、何れも1500mm以上、更には2000mm以上にすることも可能である。更に、板ガラス8の厚みtは、0.65mm以下、更には0.60mm以下にすることも可能である。ただし、板ガラス8の厚みtが薄すぎると、強度が著しく低下して成形性が低下するため、この厚みtは、0.03mm以上、更には少なくとも0.1mm以上であることが好ましい。
また、この板ガラス8は、歪点が630℃以上、30〜380℃における熱膨張係数が28〜40×10-7/℃、密度が2.60g/cm3以下、液相温度における粘度が105.8dPa・s以上であって、耐薬品性(耐バッファードフッ酸性や耐塩酸性)に優れていることが好ましい。このような特性を有する板ガラス8は、液晶ディスプレイ基板として用いる場合に特に好適である。この場合、液相温度における粘度が上記のように105.8dPa・s以上であれば、比較的低い温度で板状ガラスを成形しても、ガラス中に失透物が発生せず、成形性が向上するために好ましく、この事を勘案すれば、105.9dPa・s以上であることがより好ましい。
更に、この板ガラス8の組成は、質量%で、SiO2 55〜70%、Al23 12〜22%、B23 3〜15%、アルカリ土類金属酸化物 2〜20%を含有し、アルカリ金属酸化物を実質的に含有していない(換言すれば、アルカリ金属酸化物は質量%で、0.1%以下である)。板ガラス8が、このような組成であると、特に液晶ディスプレイ用基板として好適であり、また、このような組成範囲内で、各構成成分の含有量を適宜組み合わせることにより、上述のような特性を備えた板ガラス8が得られる。
上記のガラス組成範囲の限定理由は、以下に示す通りである。即ち、第1に、SiO2が少なくなり過ぎると、ガラスの耐薬品性が低下し易くなり、これとは逆に、多くなり過ぎると、ガラスの溶融性が悪化すると共に、ガラス中に失透異物(クリストバライト)が生じ易くなる。従って、SiO2の含有量は、50〜70%が妥当であり、好ましくは55〜68%である。第2に、Al23が少なくなり過ぎると、液相温度が上昇し、ガラス中に失透異物(クリストバライト)が生じ易くなると共に、ガラスの歪点が低下し、これとは逆に、多くなり過ぎると、ガラスの耐バッファードフッ酸性が低下すると共に、失透性が低下し、ガラス中にムライトや長石系の失透異物が発生し易くなる。従って、Al23の含有量は、10〜19%が妥当であり、好ましくは11〜18%である。第3に、B23は、融剤として働き、ガラスの高温粘性を下げ、溶融性を改善する成分であって、このB23が少なくなり過ぎると、融剤としての働きが不十分になると共に、ガラスの耐バッファードフッ酸性が低下し、これとは逆に、多くなり過ぎると、ガラスの歪点が低下し、耐熱性が悪化すると共に、耐酸性が悪化する。従って、B23の含有量は、5〜15%が妥当であり、好ましくは7〜14%である。第4に、アルカリ土類金属酸化物(MgO+CaO+SrO+BaO)が少なくなり過ぎると、ガラスの溶融性が悪化したり、液相温度が上昇し易くなり、これとは逆に、多くなり過ぎると、ガラスの密度が大きくなり易くなる。従って、アルカリ土類金属酸化物の含有量は、5〜20%が妥当であり、好ましくは7〜18%である。以上の成分の他に、溶融性、耐失透性、耐酸性の改善や熱膨張係数の調整を行うため、ZnO、P25、ZrO2、Y23、Nb23、La23、TiO2等の成分を、各々5%以下で含有させてもよく、また清澄剤であるAs23、Sb23、Cl、F、SO3等の成分を各々2%まで含有させてもよい。但し、ガラス中にアルカリ金属酸化物(Li2O、Na2O、K2O)を含有すると、これらの成分が、基板上に形成される半導体素子に拡散し、半導体素子に悪影響を与えるため、実質的に含有しないことが望まれる。従って、これらの成分の含有量は、0.1%以下に抑えるべきである。
本発明の実施例1として、図1及び図2に示す成形装置1と基本的構成が同一の装置を用いて、質量%で、SiO2 60%、Al23 15%、B23 10%、CaO 6%、SrO 6%、BaO 2%、清澄剤 1%の組成を有する板ガラス(日本電気硝子株式会社製OA−10)を成形した。この装置における成形体2の幅方向の長さは2500mm、成形体2の下端部2bから主冷却ローラ4の中心軸までの距離aは100mm、主冷却ローラ4と補助冷却ローラ5との相互間距離bは200mmである。尚、主冷却ローラ4及び補助冷却ローラ5の冷媒は、何れも空気である。この成形に際しては、ヒータ7によって、成形体2の両側面2cに沿って流下する溶融ガラスYや、成形体2の下端部2bと主冷却ローラ4との間の板状ガラスGを加熱し、板状ガラスGの幅方向両端部の粘度が106.9dPa・sの時に、当該端部を主冷却ローラ4で挟持するようにした。また、引張りローラ3の周速度を200cm/分、主冷却ローラ4の周速度を40cm/分、補助冷却ローラ5の周速度を140cm/分とした。
このような条件の下で成形された板ガラスは、板幅が2200mm、幅方向中央部の厚みが0.7mmであって、厚みが0.7mm±0.05mmの範囲に収まる有効幅は、1900mm以上であった。この板ガラスを、短辺が1870mm、長辺が2200mmの寸法になるように切断加工し、その反り率を算出したところ、短辺側と長辺側との双方共に0.01%以下であった。また、この板ガラスは、歪点が660℃、30〜380℃における熱膨張係数が37×10-7/℃、密度が2.49g/cm3、液相温度における粘度が106dPa・s以上であり、耐バッファードフッ酸性と耐塩酸性にも優れていた。尚、歪点は、ASTM C336−71の方法に基づいて測定し、熱膨張係数は、押棒式熱膨張測定装置によって測定し、密度は、周知のアルキメデス法に基づいて測定した。板ガラスの液相温度における粘度は、先ず粒径300〜500μmに粉砕したガラスを白金ボートに充填し、温度勾配炉内に8時間保持し、顕微鏡を用いて内部に結晶が析出した最も高い温度を求め、その温度を液相温度とし、周知の白金球引き上げ法により、液相温度に対応する粘度を測定することによって求めた。耐バッファードフッ酸性は、ガラス表面を光学研磨した後、20℃に保持された38.7質量%フッ化アンモニウム、1.6質量%フッ酸からなるバッファードフッ酸溶液に30分間浸漬した後、その表面状態を観察することによって評価し、また耐塩酸性は、ガラス表面を光学研磨してから、80℃に保持された10質量%塩酸水溶液に24時間浸漬した後、その表面状態を観察することによって評価した。上記の板ガラスは、表面の変化が認められず、耐薬品性に優れていた。
本発明の実施例2として、引張りローラ3の周速度を220cm/分、主冷却ローラ4の周速度を33cm/分、補助冷却ローラ5の周速度を155cm/分としたこと以外は、全て上記の実施例1と同様にして板ガラスを製造した。
このようにして得られた板ガラスは、板幅が2250mm、幅方向中央部の厚みが0.63mmであって、厚みが0.63mm±0.05mmの範囲に収まる有効幅は、1950mm以上であった。この板ガラスを、短辺が1950mm、長辺が2200mmの寸法になるように切断加工し、その反り率を算出したところ、短辺側と長辺側との双方共に0.01%以下であった。
本発明の実施例3として、成形体2の幅方向長さを2000mmとし、引張りローラ3の周速度を500cm/分、主冷却ローラ4の周速度を40cm/分、補助冷却ローラ5の周速度を300cm/分としたこと以外は、全て上記の実施例1と同様にして板ガラスを製造した。
このようにして得られた板ガラスは、板幅が1600mm、幅方向中央部の厚みが0.2mmであって、厚みが0.2mm±0.05mmの範囲内に収まる有効幅は、1200mm以上であった。そして、この板ガラスを、短辺が1200mm、長辺が1400mmの寸法となるように切断加工し、その反り率を算出したところ、短辺側と長辺側との双方共に0.02%以下であった。
本発明の実施形態に係る板ガラスの成形方法を実施するための成形装置の要部を示す概略側面図である。 前記成形装置の要部を示す概略正面図である。 前記成形装置を用いてなる成形方法により得られた板ガラスを誇張して示す概略断面図である。
符号の説明
1 成形装置
2 成形体
2b 成形体の下端部
2c 成形体の側面部
3 引張りローラ
4 冷却ローラ
5 補助冷却ローラ
7 ヒータ
8 板ガラス
Y 溶融ガラス
G 板状ガラス
a 成形体の下端部から冷却ローラの中心軸までの距離
b 複数の冷却ローラの相互間距離

Claims (7)

  1. くさび状の断面形状を有する成形体の頂部から両側面に沿って溶融ガラスを流下させることにより、前記成形体の下端部で融合して板状になった板状ガラスを、引張りローラで挟持しつつ下方に引き抜く板ガラスの成形方法において、
    前記成形体と引張りローラとの間に、前記板状ガラスの幅方向両端部を挟持して冷却し、幅方向の収縮を最小限に抑えるための冷却ローラを上下方向に複数個設け、最上部の冷却ローラのみに回転駆動力を付与し、厚みが0.7mm以下で且つ有効幅が1200mm以上の板ガラスを得ることを特徴とする板ガラスの成形方法。
  2. 前記複数個の冷却ローラにおける上下に隣り合う冷却ローラの相互間距離が300mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の板ガラスの成形方法。
  3. 前記最上部の冷却ローラの周速度Aと、前記引張りローラの周速度Bとの比率B/Aを、3.5〜20にすることを特徴とする請求項1または2に記載の板ガラスの成形方法。
  4. 前記複数個の冷却ローラは、内部が中空であり、その中空部を流通する冷媒が、気体であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の板ガラスの成形方法。
  5. 前記引張りローラよりも下流側で固化してなる板ガラスの反り率が0.03%以下であることを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の板ガラスの成形方法。
  6. ディスプレイ用基板として使用される板ガラスを成形することを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の板ガラスの成形方法。
  7. 前記ディスプレイ用基板が、液晶ディスプレイ用基板であることを特徴とする請求項に記載の板ガラスの成形方法。
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