この発明は、自動車用自動変速装置の変速ユニットとして、或はポンプ等の各種産業機械の運転速度を調節する為の変速装置として利用するトロイダル型無段変速機及び無段変速装置の改良に関し、動力を伝達する転がり接触部(トラクション部)に、運転状況に応じた最適な押し付け力を付与できる構造を実現するものである。
自動車用変速装置としてトロイダル型無段変速機を使用する事が、例えば特許文献1、非特許文献1、2等の多くの刊行物に記載され、且つ、一部で実施されて周知である。又、変速比の変動幅を大きくすべく、トロイダル型無段変速機と差動ユニットである遊星歯車式変速機とを組み合わせた無段変速装置も、例えば特許文献2〜7に記載される等により、従来から広く知られている。図6〜7は、このうちの特許文献6〜7に記載された、入力軸を一方向に回転させたまま出力軸を停止させられる、所謂ギヤードニュートラル状態を実現できるモードを備えた無段変速装置を示している。このうちの図6は無段変速装置のブロック図を、図7は、この無段変速装置を制御する油圧回路を、それぞれ示している。
エンジン1の出力は、ダンパ2を介して、入力軸3に入力される。この入力軸3に伝達された動力は、直接又はトロイダル型無段変速機4を介して、差動ユニットである遊星歯車式変速機5に伝達される。そして、この遊星歯車式変速機5の構成部材の差動成分が、クラッチ装置6、即ち、図7の低速用、高速用各クラッチ7、8を介して、出力軸9に取り出される。又、上記トロイダル型無段変速機4は、それぞれが第一、第二のディスクである入力側、出力側各ディスク10、11と、複数個のパワーローラ12と、それぞれが支持部材である複数個のトラニオン(図示省略)と、アクチュエータ13(図7)と、押圧装置14と、変速比制御ユニット15とを備える。このうちの入力側、出力側各ディスク10、11は、互いに同心に、且つ相対回転自在に配置されている。又、上記各パワーローラ12は、互いに対向する上記入力側、出力側各ディスク10、11の内側面同士の間に挟持されて、これら入力側、出力側各ディスク10、11同士の間で動力(力、トルク)を伝達する。又、上記各トラニオンは、上記各パワーローラ12を回転自在に支持している。
又、上記アクチュエータ13は、油圧式のもので、上記各パワーローラ12を支持した上記各トラニオンを、それぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させて、上記入力側ディスク10と出力側ディスク11との間の変速比を変える。又、上記押圧装置14は、油圧の導入に伴ってこの油圧に比例した押圧力を発生させる油圧式のものであり、上記入力側ディスク10と上記出力側ディスク11とを互いに近付く方向に押圧する。又、上記変速比制御ユニット15は、上記入力側ディスク10と出力側ディスク11との間の変速比を所望値にする為に、上記アクチュエータ13の変位方向及び変位量を制御する。
図示の例の場合、上記変速比制御ユニット15は、制御器16と、この制御器16からの制御信号に基づいて切り換えられる、ステッピングモータ17と、(第一)ライン圧制御用電磁開閉弁18と、電磁弁19と、シフト用電磁弁20と、これら各部材17〜20により作動状態を切り換えられる制御弁装置21とにより構成している。尚、この制御弁装置21は、変速比制御弁22と、差圧シリンダ23と、補正用制御弁24a、24bと、高速クラッチ用、低速クラッチ用各切換弁25、26(図7)とを合わせたものである。このうちの変速比制御弁22は、上記アクチュエータ13への油圧の給排を制御するものである。又、上記差圧シリンダ23は、前記トロイダル型無段変速機4を通過する力(動力、トルク、通過トルク、伝達トルク)に応じて、このトロイダル型無段変速機4の変速比を補正すべく、上記変速比制御弁22の切換状態を調節する為のものである。又、上記補正用制御弁24a、24bは、上記差圧シリンダ23への圧油の給排を制御するものである。更に、上記高速クラッチ用、低速クラッチ用各切換弁25、26は、前記低速用、高速用各クラッチ7、8への圧油の導入状態を切り換えるものである。
又、前記ダンパ2部分から取り出した動力により駆動されるオイルポンプ27(図7の27a、27b)から吐出した圧油は、上記制御弁装置21や上記押圧装置14等に送り込まれる。即ち、油溜28(図7)から吸引されて上記オイルポンプ27a、27bにより吐出された圧油は、押圧力調整弁29、及び、低圧側調整弁30(図7)により所定圧に調整自在としている。これら両調整弁29、30のうち、上記押圧装置14並びに手動油圧切換弁31側に送る油圧を調整する為の上記押圧力調整弁29は、例えば特許文献8等にも詳しく記載されている様に、リリーフ弁としての機能を備えたもので、第一〜第三のパイロット部32〜34を備える。このうちの第一、第二のパイロット部32、33は、前記入力側ディスク10と前記出力側ディスク11との間で伝達される力(動力、トルク、伝達トルク、通過トルク)の大きさに応じて、この押圧力調整弁29の開弁圧を目標値に調節する為のものである。この為に、前記パワーローラ12を支持する支持部材(トラニオン)を枢軸の軸方向に変位させる為のアクチュエータ13にピストン35を挟んで設けた、1対の油圧室36a、36b同士の間に存在する油圧の差(差圧)を、差圧取り出し弁37を介して、上記第一、第二のパイロット部32、33に導入している。
これに対して、第三のパイロット部34は、上記トロイダル型無段変速機4の変速比、このトロイダル型無段変速機4の内部に存在する潤滑油(トラクションオイル)の温度、駆動源であるエンジン1の回転速度等、上記伝達される力以外の運転条件に応じて、上記押圧力調整弁29の開弁圧を上記目標値から、上記押圧装置14に発生させるべき押圧力の最適値に応じた油圧の必要値に調節(減圧)する為のものである。この為に、前記制御器16からの指令により制御されるライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉(デューティー比制御)に基づき、上記第三のパイロット部34に所定圧の圧油を導入している。そして、上記第一〜第三のパイロット部32〜34に導入する油圧を適切に調節する事により(第一、第二のパイロット部32、33に通過トルクの大きさに応じた油圧を導入すると共に、第三のパイロット部34に制御器16の指令に基づいて調節された油圧を導入する事により)、上記押圧力調整弁29の開弁圧、延いては、上記押圧装置14が発生する押圧力を、上記トロイダル型無段変速機4の運転状況に応じて、適正に規制している。
例えば、図8は、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度(単位時間当たりの開いている時間の割合)と減圧量(押圧力調整弁29の開弁圧の低下量)との関係の1例を示している。上記制御器16は、この様な関係を基に、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉を調節(デューティー比制御)し、上記押圧力調整弁29の開弁圧、延いては上記押圧装置14に導入する油圧を上記目標値から上記必要値に調節する事により、この押圧装置14が発生する押圧力を適正に規制している。尚、図示の例の場合は、上記押圧力調整弁29と、差圧取り出し弁37と、制御器16と、ライン圧制御用電磁開閉弁18とが、特許請求の範囲に記載した油圧調整手段に相当する。又、上記制御器16と、ライン圧制御用電磁開閉弁18と、上記押圧力調整弁29(のうちの第三のパイロット部34への油圧の導入に基づき変位する部分)とが、特許請求の範囲に記載した補正手段に相当する。
又、上記押圧力調整弁29により調整された圧油は、前記手動油圧切換弁31と、前記高速クラッチ用切換弁25又は低速クラッチ用切換弁26とを介して、前記低速用クラッチ7又は高速用クラッチ8の油圧室内に送り込み自在としている。尚、これら低速用、高速用各クラッチ7、8のうちの低速用クラッチ7は、減速比を大きくする{変速比無限大(ギヤードニュートラル状態)を含む}低速モードを実現する際に接続されると共に、減速比を小さくする高速モードを実現する際に接続を断たれる。これに対して、上記高速用クラッチ8は、上記低速モードを実現する際に接続を断たれると共に高速モードを実現する際に接続される。又、これら低速用、高速用各クラッチ7、8への圧油の給排状態は、前記シフト用電磁弁20の切り換えに応じて切り換えられる。
又、特許文献9には、トロイダル型無段変速機を通過するトルク(通過トルク)が急変動した際に、油圧式の押圧装置が発生する押圧力が一時的に低下するのを防止する発明が記載されている。即ち、この特許文献9に記載された構造の場合には、上記通過トルクが急増する際に、上記押圧装置の油圧室内に導入する油圧を高める信号を、この油圧室内に導入する圧油を制御する為の制御ユニットに送る。この為、上記トルクが急変動する際にも、上記押圧装置が発生する押圧力を適正値に維持する事ができ、伝達効率及び耐久性の確保を図れる。
ところで、前述の図6〜7に示した従来構造の場合、次の点で、押圧装置14の発生する押圧力、延いては転がり接触部に加わる押し付け力を適正に調節できなくなる可能性がある。即ち、前述の様な従来構造の場合、例えば上記押圧装置14やこの押圧装置14に圧油を送り込む油路38等(プライマリーライン)で(一時的に)油漏れが生じたり、押圧力調整弁29やライン圧制御用電磁開閉弁18等で機械的作動誤差や応答遅れ等が生じた場合に、この様な異常に伴う油圧の変化を検出できない。この為、制御器16により算出される目標値と必要値との差に応じて上記押圧力調整弁29の開弁圧を調節(減圧)している際に、上述の様な異常が生じても、この様な異常に伴う油圧の変化に対応できず、上記押圧装置14に導入する油圧を適正に調節できなくなる可能性がある。
例えば、上記油漏れや機械的作動誤差等に基づき上記押圧装置14に導入される油圧が異常低下した場合には、この様な異常低下に加えて上記目標値と必要値との差に相当する分、上記押圧力調整弁29の開弁圧が低下し、上記押圧装置14に導入される油圧が過度に低下する可能性がある。この様な場合には、上記押圧装置14の発生する押圧力が不足し、上記転がり接触部で滑りを生じる可能性がある。そして、この様な滑りを生じた場合には、この転がり接触部で過度の摩耗や温度上昇を生じ、耐久性が低下すると共に、トロイダル型無段変速機4の伝達効率が低下する可能性がある。一方、これとは逆に、例えば上記機械的作動誤差や応答遅れ等に基づき上記押圧力調整弁29の開弁圧が、上記目標値と必要値との差の分低下しなかった場合には、上記押圧装置14に導入される油圧が必要値よりも大きい値となり、この油圧が過大になった状態のままとなる可能性がある。この様な場合には、上記押圧装置14の発生する押圧力が過大になり、上記転がり接触部に過度の押し付け力が加わる。そして、この様な過度の押し付け力に基づき、この転がり接触部で弾性変形量や接触面積が増大し、耐久性が低下すると共に、トロイダル型無段変速機4の伝達効率が低下する可能性がある。
この様な事情に鑑みて、本発明者等は先に次の発明をした(先発明:特願2005−76945号)。即ち、押圧力調整弁29の開弁圧を調節すべく、制御器16の指令に応じて行なう目標値から必要値への減圧を、押圧装置14に導入される油圧の実測値をフィードバックしつつ行なう技術を発明した。より具体的には、上記押圧装置14に導入する油圧(押圧力調整弁29の開弁圧)の必要値への減圧を、この必要値と上記実測値の差に応じて調節する技術を発明した。例えば、この実測値が必要値に比べて大きい場合は、上記押圧装置14に導入する油圧を小さく(ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度を大きくして押圧力調整弁29の開弁圧の減圧の程度を大きく)したり、或いは逆に小さい場合は、同じく油圧を大きく(ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度を小さく乃至0にして押圧力調整弁の開弁圧の減圧の程度を小さく乃至0に)する。又、上記先発明の場合は、入力側、出力側各ディスク10、11の内側面と各パワーローラ12の周面との転がり接触部で滑りが生じているか否かを判定し、この滑りが生じていると判定した場合に、上記押圧装置14に導入する油圧を大きく(ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度を小さく乃至0にして押圧力調整弁29の開弁圧の減圧の程度を小さく乃至0に)する技術に就いても開示されている。
但し、この様な先発明の場合は、ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度が0の状態、即ち、上記押圧力調整弁29の開弁圧が、上記入力側ディスク10と出力側ディスク11との間で伝達される力(動力、トルク、伝達トルク、通過トルク)の大きさに応じて設定される目標値に調整された状態から、この開弁圧延いては押圧装置14に導入される油圧を更に大きくする事はできない。この為、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度が0の状態(押圧力調整弁29の開弁圧が目標値の状態)で、例えば上記押圧装置14の押圧力が十分ではなく、転がり接触部で滑りが生じた場合には、この滑りを防止すべく上記開弁圧(押圧装置14に導入される油圧)を大きくする事はできない。この為、この様な滑りに基づき、耐久性や伝達効率が低下する可能性がある。
特開2001−317601号公報
特開平1−169169号公報
特開平10−196759号公報
特開2003−307266号公報
特開2000−220719号公報
特開2004−225888号公報
特開2004−211836号公報
特開2004−76940号公報
特開2004−169719号公報
青山元男著、「別冊ベストカー 赤バッジシリーズ245/クルマの最新メカがわかる本」、株式会社三雄社/株式会社講談社、平成13年12月20日、p.92−93
田中裕久著、「トロイダルCVT」、株式会社コロナ社、2000年7月13日
本発明のトロイダル型無段変速機及び無段変速装置は、上述の様な事情に鑑みて、動力を伝達する転がり接触部(トラクション部)に、運転状況に応じた最適な押し付け力を付与でき、しかも、第一、第二ディスク同士の間で伝達する力の大きさに応じて設定される油圧の目標値を超えて、この油圧を増大させる事のできる構造を実現すべく発明したものである。
本発明のトロイダル型無段変速機及び無段変速装置のうち、請求項1に記載したトロイダル型無段変速機は、第一、第二のディスクと、複数のパワーローラと、複数個の支持部材と、アクチュエータと、変速比制御ユニットと、押圧装置とを備える。
このうちの第一、第二のディスクは、互いに同心に、且つ相対回転自在に配置されている。
又、上記各パワーローラは、互いに対向する上記第一、第二のディスクの内側面同士の間に挟持されて、これら第一、第二のディスク同士の間で動力を伝達する。
又、上記各支持部材は、上記各パワーローラを回転自在に支持する。
又、上記アクチュエータは、油圧式のもので、上記各支持部材を、それぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させて、上記第一のディスクと上記第二のディスクとの間の変速比を変える。
又、上記変速比制御ユニットは、上記変速比を所望値にする為に、上記アクチュエータの変位方向及び変位量を制御する。
又、上記押圧装置は、油圧の導入に伴ってこの油圧に比例した押圧力を発生させる油圧式のもので、上記第一のディスクと上記第二のディスクとを互いに近付く方向に押圧するものである。
そして、この押圧装置に導入する油圧を調整する為の油圧調整手段は、この押圧装置に導入する油圧の調整を、上記第一のディスクと上記第二のディスクとの間で伝達する力の大きさに応じて設定される油圧の目標値から、上記押圧装置に発生させるべき押圧力の最適値に応じた油圧の必要値に、補正手段により調節(補正)する事により行なうものである。
特に、本発明のトロイダル型無段変速機に於いては、上記補正手段は、上記押圧装置に導入する油圧を上記目標値から減圧する減圧補正手段と、上記押圧装置に導入する油圧を上記目標値から増圧する増圧補正手段とを備えたものとしている。そして、これら増圧補正手段と減圧補正手段とにより、上記目標値と必要値との差に応じて上記油圧の調節を行なうと共に、この油圧の調節を、上記押圧装置に導入される油圧の実測値と比較しつつ行なう。この為に、この押圧装置に導入される油圧の実測値を、上記アクチュエータに設けた1対の油圧室内のそれぞれの油圧を検出する油圧センサにより、これら両油圧室内の油圧の和として検出する。
又、請求項8に記載した無段変速装置は、トロイダル型無段変速機と、複数の歯車を組み合わせて成る歯車式の差動ユニットとを備える。
このうちの差動ユニットは、上記トロイダル型無段変速機を構成する第一のディスクと共に入力軸により回転駆動される第一の入力部と、同じく第二のディスクに接続される第二の入力部とを有し、これら第一、第二の入力部同士の間の速度差に応じた回転を取り出して出力軸に伝達するものである。
特に、本発明の無段変速装置に於いては、上記トロイダル型無段変速機を、上述の様なトロイダル型無段変速機としている。
上述の様に構成する本発明のトロイダル型無段変速機及び無段変速装置によれば、押圧装置の発生する押圧力、延いては転がり接触部に加わる押し付け力を、運転状況に応じて適切に調節できる。即ち、上記押圧装置に導入される油圧を測定し、この測定した実測値と比較しつつ、補正手段によりこの油圧を必要値に調節する。この為、油漏れ、機械的作動誤差、応答遅れ等が生じた場合でも、この様な異常に基づく油圧の変化を検出し、この油圧の変化に応じてこの油圧の調節(例えば押圧力調整弁の開弁圧の調節)を行なえる。この為、上記押圧装置に導入される油圧(押圧力調整弁の開弁圧)、延いては上記押圧装置の発生する押圧力(転がり接触部に加わる押し付け力)を、運転状況に応じた最適な値に調節できる。しかも、上記補正手段を、上記押圧装置に導入する油圧を上記目標値から減圧する減圧補正手段と、上記押圧装置に導入する油圧を上記目標値から増圧する増圧補正手段とを備えたものとしている。この為、第一、第二ディスク同士の間で伝達する力の大きさに応じて設定される油圧の目標値を超えて、この油圧を増大させる事ができる(目標値よりも大きな必要値を設定できる)。即ち、上記油圧が目標値に調節された状態で、例えば転がり接触部で滑りが生じた場合でも、上記増圧補正手段の作動に基づき上記油圧を増大させる事で、上記滑りを防止できる。この為、この様な滑りに基づく耐久性や伝達効率の低下を防止できる。
更に、本発明の場合には、アクチュエータに設けた1対の油圧室内のそれぞれの油圧を検出する油圧センサにより、これら両油圧室内の油圧の和として検出するので、簡素な構造で、押圧装置に導入される油圧の実測値を得られる。
又、上述の様な本発明を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、押圧装置に導入される油圧の実測値をAとし、必要値をBとした場合に、これら実測値Aと必要値Bとの差(A−B)が、正の値で、且つ、予め設定した第一の閾値αを超えた{(A−B)>α>0}と判定された場合に、補正手段により上記油圧を低下させる。又、請求項3に記載した発明の様に、上記実測値Aと必要値Bとの差(A−B)が、負の値で、且つ、予め設定した第二の閾値β未満{(A−B)<β<0}であると判定された場合に、上記補正手段により上記油圧を増大させる。又、請求項4に記載した発明の様に、上記実測値Aと必要値Bとの差(A−B)が、予め設定した第一の閾値α以下で、且つ、同じく第二の閾値β以上{β≦(A−B)≦α}と判定された場合に、補正手段による上記油圧の調節(補正)の程度をそのまま維持する。
この様に構成すれば、油漏れ、機械的作動誤差、応答遅れ等の異常に基づき押圧装置に導入される油圧が変化しても、この変化に応じて上記減圧速度を調節(例えば押圧力調整弁の開弁圧の調節)する事で、この油圧が必要値からずれる事を防止できる。この為、この油圧が過大のまま、或いは、過度に低下したままとなる事を防止して、上記押圧装置が発生する押圧力、延いては転がり接触部の押し付け力を、運転状態に応じた最適な値に調節できる。
又、上述の様な本発明を実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した発明の様に、押圧装置に導入される油圧の実測値Aが第三の閾値γよりも小さい(A<γ)と判定された場合に、補正手段により上記油圧を増大させる。この場合に、請求項6に記載した発明の様に、上記第三の閾値γを、予め設定した押圧装置が発生すべき最低限の押圧力を得る為に必要な値(予め設計的に求めた値)とする。又は、請求項7に記載した発明の様に、上記第三の閾値γを、第一のディスクと第二のディスクとの間で伝達する力、これら第一のディスクと第二のディスクとの間の変速比、内部に存在する潤滑油の温度を含む、上記押圧装置が発生すべき適切な押圧力に影響を及ぼす複数の状態量から求められる、その時点の押圧装置が発生すべき最低限の押圧力を得る為に必要な値とする。
この様に構成すれば、油漏れ、機械的作動誤差等の異常に基づき押圧装置に導入される油圧が大きく低下しても、必要最低限の押圧力を確保できる。
又、上述の様な本発明を実施する場合に好ましくは、上記第一のディスクと第二のディスクとの間の変速比を、変速比制御ユニットを構成する駆動部材又はこの駆動部材により変位させられる部材(駆動部材等)の変位量に基づいて求める。例えば、上記変速比制御ユニットを構成する駆動部材が、アクチュエータの油圧室内に圧油を供給する変速比制御弁を切り換える為のステッピングモータである場合には、このステッピングモータの駆動量(ステップ数)に基づき、第一のディスクと第二のディスクとの間の変速比を求める。 この様に構成すれば、第一のディスクと第二のディスクとの間の変速比を、転がり接触部(トラクション部)で生じる滑りに拘らず、パワーローラの傾きに対応した変速比として求める事ができる。即ち、上記変速比制御ユニットを構成する駆動部材等の変位量は、この変速比制御ユニットにより制御されるアクチュエータの動きに基づいて揺動するパワーローラの傾き(傾転量、揺動量)、延いてはこの傾きに対応する変速比と相関関係を有する。この為、この相関関係に基づき、上記駆動部材等の現在の変位量に対応する変速比を求める事で、上記滑りに拘らず、上記パワーローラの傾きに対応した変速比を求める事ができる。又、上述の様にステッピングモータの駆動量に基づき変速比を求める場合には、この変速比を求める為の構造を簡素に構成でき、装置の小型化、軽量化を図れる。
又、本発明を実施する場合に好ましくは、第一のディスクと第二のディスクとの間で伝達する力(動力、トルク、伝達トルク、通過トルク)の大きさに応じて設定される油圧の目標値を、アクチュエータに設けた1対の油圧室同士の圧力差に基づいて設定する。
この様に構成すれば、複雑な装置を必要とする事なく上記伝達する力を取り出して、押圧装置に導入する油圧をこの伝達する力の大きさに応じて設定される目標値(伝達する力に比例した値)に調節できる。
又、本発明を実施する場合に好ましくは、押圧装置に発生させるべき押圧力の最適値に応じた油圧の必要値を、第一のディスクと第二のディスクとの間で伝達する力、これら第一のディスクと第二のディスクとの間の変速比、内部に存在する潤滑油の温度を含む、上記押圧装置が発生すべき適切な押圧力に影響を及ぼす複数の状態量に応じて求める。
この様に構成すれば、押圧装置が発生すべき適切な押圧力に影響を及ぼす複数の状態量に応じて、この押圧装置の発生する押圧力を最適な値に細かく調節できる。この為、この押圧力、延いては転がり接触部の押し付け力をより適正に調節して、更なる伝達効率及び耐久性の確保を図れる。
図1〜5は、本発明の実施例を示している。尚、本実施例の特徴は、転がり接触部の押し付け力を適正に調節すべく、押圧装置14に導入する油圧の制御を実際の油圧(実測値)を求めつつ行なうと共に、この油圧の大きさを調節する為の補正手段を、第一、第二ライン圧制御用電磁開閉弁18、39により構成した点にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図5〜6に示した従来構造と同様であるから、重複する説明は省略若しくは簡略にし、以下、本実施例の特徴部分を中心に説明する。
本実施例の場合は、上記補正手段を、減圧補正手段を構成する第一ライン圧制御用電磁開閉弁18と、増圧補正手段を構成する第二ライン圧制御用電磁開閉弁39と、これら第一、第二各ライン圧制御用電磁開閉弁18、39の開閉に基づく油圧の導入に応じてその開弁圧を変化させて、上記押圧装置14に導入する油圧を調整する押圧力調整弁29aとにより構成している。又、この押圧力調整弁29aは、第一〜第四のパイロット部32〜34、40を備える。このうちの第一、第二のパイロット部32、33は、入力側ディスク10と出力側ディスク11との間で伝達される力(動力、トルク、伝達トルク、通過トルク)の大きさに応じて、この押圧力調整弁29aの開弁圧を目標値に調節する為のものである。この為に、パワーローラ12を支持する支持部材(トラニオン)を枢軸の軸方向に変位させる為のアクチュエータ13にピストン35を挟んで設けた、1対の油圧室36a、36b同士の間に存在する油圧の差(差圧)を、差圧取り出し弁37を介して、上記第一、第二のパイロット部32、33に導入している。
一方、第三、第四のパイロット部34、40は、上記トロイダル型無段変速機4の変速比、このトロイダル型無段変速機4の内部に存在する潤滑油(トラクションオイル)の温度、駆動源であるエンジン1の回転速度等、上記伝達される力以外の運転条件に応じて、上記押圧力調整弁29aの開弁圧を上記目標値から、上記押圧装置14に発生させるべき押圧力の最適値に応じた油圧の必要値に調節する為のものである。この為に、制御器16からの指令により制御される上記第一ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉(デューティー比制御)に基づき、上記第三のパイロット部34に所定圧の圧油を導入すると共に、同じく上記第二ライン圧制御用電磁開閉弁39の開閉(デューティー比制御)に基づき、上記第四のパイロット部40に所定圧の圧油を導入している。
図4(A)は、上記第一ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度(単位時間当たりの開いている時間の割合)と減圧量(押圧力調整弁29aの開弁圧の低下量)との関係の1例を、図4(B)は、上記第二ライン圧制御用電磁開閉弁39の開度(単位時間当たりの開いている時間の割合)と増圧量(押圧力調整弁29aの開弁圧の増大量)との関係の1例を、それぞれ示している。又、図5は、上記第一ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度を基準とした、目標値に対する減圧量及び増圧量(押圧力調整弁29aの開弁圧の目標値からの低下量、増大量)の関係の1例を示している。この図5の斜格子部分が、上記第一、第二各ライン圧制御用電磁開閉弁18、39の開閉に基づき押圧装置14に導入される油圧(開弁圧)を調節できる範囲になる。上記制御器16は、この様な関係を基に、上記第一、第二各ライン圧制御用電磁開閉弁18、39の開閉を調節(デューティー比制御)し、上記押圧力調整弁29aの開弁圧、延いては上記押圧装置14に導入する油圧を調節する。
より具体的には、上記押圧力調整弁29aの開弁圧をその時点の値から小さくして、上記押圧装置14に導入する油圧を低下させる場合は、上記第一ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度をその時点の値から大きくしたり、上記第二ライン圧制御用電磁開閉弁39の開度をその時点の値から小さくする。一方、上記押圧力調整弁29aの開弁圧をその時点の値から大きくして、上記押圧装置14に導入する油圧を増大させる場合には、上記第一ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度をその時点の値から小さくしたり、上記第二ライン圧制御用電磁開閉弁39の開度をその時点の値から大きくする。そして、この様に第一、第二各ライン圧制御用電磁開閉弁18、39の開閉を調節(デューティー比制御)する事により、上記押圧力調整弁29aの開弁圧、延いては、上記押圧装置14に導入する油圧を、上記目標値から必要値に調節し、この押圧装置14が発生する押圧力を運転状況に応じた最適な値に規制する。
尚、上記第一、第二各ライン圧制御用電磁開閉弁18、39の両方を作動させるか、これら各電磁開閉弁18、39のうちの一方の電磁開閉弁18(39)のみを作動させるかは、その時点のこれら各電磁開閉弁18、39の開度に応じて決定する。例えば、上記押圧装置14に導入する油圧(押圧力調整弁29aの開弁圧)を低下させる場合は、上記第二ライン圧制御用電磁開閉弁39の開度が0になるまで作動(デクリメント)させてから、上記第一ライン圧制御用電磁開閉弁18を作動させる(開度を大きくする)事ができる。又、上記押圧装置14に導入する油圧(押圧力調整弁29aの開弁圧)を増大させる場合は、上記第一ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度が0になるまで作動(デクリメント)させてから、上記第二ライン圧制御用電磁開閉弁39を作動させる(開度を大きくする)事ができる。
更に、本実施例の場合は、上述の様に行なう押圧力調整弁29aの開弁圧の調節を、上記押圧装置14に導入される油圧の実測値と比較しつつ行なう。尚、図示の例では、上記押圧装置14に導入される油圧の実測値を検出する為の第一の油圧センサ41を、上記押圧装置14の油圧室42内に設けているが、本発明を実施する場合には、この様な第一の油圧センサ41を設けずに、前記アクチュエータ13を構成する1対の油圧室36a、36b内のそれぞれの油圧を検出する第二の油圧センサ43a、43b(図1の43)により、これら両油圧室36a、36b内の油圧の和として検出する。そして、この様に検出する上記実測値を上記押圧力調整弁29aの開弁圧の調節(第一、第二各ライン圧制御用電磁開閉弁18、39のデューティー比制御)にフィードバックすべく、上記制御器16に次の機能を持たせている。
即ち、運転時に上述の様に検出される実測値Aと、前述の様に制御器16で求められる必要値B(伝達力、変速比、潤滑油の温度等の、押圧装置14が発生すべき適切な押圧力に影響を及ぼす複数の状態量に応じて求められる最適な値)との差(A−B)が、正の値で、且つ、予め設定した第一の閾値αを超えた{(A−B)>α>0}と判定された場合に、上記押圧装置14に導入する油圧(押圧力調整弁29aの開弁圧)をその時点の値よりも小さく(低下)する機能を持たせている。より具体的には、上記第一ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度をその時点の値よりも大きくしたり、上記第二ライン圧制御用電磁開閉弁39の開度をその時点の値よりも小さくする機能を持たせている。
例えば、上記第一、第二各ライン圧制御用電磁開閉弁18、39の開度がそれぞれ50%の状態で、上記実測値Aと上記必要値Bとの差が第一の閾値αを超えたと判定された場合は、この第一の閾値αとのずれ量に応じて、上記第一ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度を50%よりも大きくしたり(例えば60%、75%、100%等にしたり)、上記第二ライン圧制御用電磁開閉弁39の開度を50%よりも小さくする(例えば40%、25%、0%等にする)。尚、上記第一の閾値αは、チューニング等により決定されるヒステリシスであり、実験等により予め求めた最適値に設定する。
又、運転時に上述の様に検出される実測値Aと上記制御器16で求められる必要値Bとの差(A−B)が、負の値で、且つ、予め設定した第二の閾値β未満{(A−B)<β<0}であると判定された場合に、上記押圧装置14に導入する油圧(押圧力調整弁29aの開弁圧)をその時点の値よりも大きく(増大)する機能も、上記制御器16に持たせている。より具体的には、上記第一ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度をその時点の値よりも小さくしたり、上記第二ライン圧制御用電磁開閉弁39の開度をその時点の値よりも大きくする機能を持たせている。例えば、上記第一、第二各ライン圧制御用電磁開閉弁18、39の開度がそれぞれ50%の状態で、上記実測値Aと上記必要値Bとの差が第二の閾値β未満であると判定された場合は、この第二の閾値βとのずれ量に応じて、上記第一ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度を50%よりも小さくしたり(例えば40%、25%、0%等にしたり)、上記第二ライン圧制御用電磁開閉弁39の開度を50%よりも大きくする(例えば60%、75%、100%等にする)。
尚、上記第二の閾値βも、チューニング等により決定されるヒステリシスであり、実験等により予め求めた最適値に設定する。又、上記実測値Aと必要値Bとの差(A−B)が、予め設定した第一の閾値α以下で、且つ、同じく第二の閾値β以上{β≦(A−B)≦α}と判定された場合は、上記押圧装置14に導入する油圧(押圧力調整弁29aの開弁圧)をその時点の値を維持する。より具体的には、上記第一、第二各ライン圧制御用電磁開閉弁18、39の開度をその時点の値のまま維持する。
更に本実施例の場合は、上記実測値Aが第三の閾値γよりも小さい(A<γ)と判定された場合に、上記押圧装置14に導入する油圧(押圧力調整弁29aの開弁圧)をその時点の値よりも大きくする機能も、上記制御器16に持たせている。上記第三の閾値γは、予め設定した、上記押圧装置14が発生すべき最低限の押圧力を得る為に必要な油圧とする事ができる。又、上記第三の閾値γを、その時点の、トロイダル型無段変速機4の変速比(パワーローラ12の傾きに対応する変速比)、並びに、アクチュエータ13の油圧室36a、36bの油圧の差に基づき算出される伝達トルク(トロイダル型無段変速機4に入力されるトルク)、油温センサ44により検出される、内部に存在する潤滑油の温度、その他上記押圧装置14が発生すべき押圧力に影響を及ぼす状態量から求められる、この押圧装置14に発生すべき最低限の押圧力を得る為に必要な値とする事もできる。そして、上記実測値Aがこの様な第三の閾値γよりも小さい(A<γ)と判定された場合に、上記第一ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度をその時点の値よりも小さくしたり{より好ましくは最低(0%)にしたり}、上記第二ライン圧制御用電磁開閉弁39の開度をその時点の値よりも大きく{より好ましくは最大(100%)に}し、上記押圧装置14に導入する油圧(押圧力調整弁29aの開弁圧)をその時点の値よりも大きくする。
上述の様な制御器16が備える機能に就いて、図3のフローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した作業は、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行なわれる。
先ず、上記制御器16は、ステップ1で、前記第一の油圧センサ41、或いは、1対の第二の油圧センサ43a、43bにより、その時点での押圧装置14に導入される油圧の実測値Aを検出する。次いで、ステップ2で、この実測値Aが第三の閾値γ、即ち、予め設定した、上記押圧装置14が発生すべき最低限の押圧力を得る為に必要な油圧PL_MIN_1よりも小さい(A<PL_MIN_1)か否かを判定する。このステップ2で、上記実測値Aが上記PL_MIN_1よりも小さいと判定した場合は、上記押圧装置14或いはこの押圧装置14に圧油を供給する為の油路38等(プライマリーライン)に異常があると判定し、ステップ3に示す様に、上記第一ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度をその時点の値よりも小さく{より好ましくは最低(0%)に}したり、上記第二ライン圧制御用電磁開閉弁39の開度をその時点の値よりも大きく{より好ましくは最大(100%)に}し、上記押圧装置14に導入する油圧(押圧力調整弁29aの開弁圧)をその時点の値よりも大きくする。この結果、上記押圧装置14が発生する押圧力が上昇する。
一方、上記ステップ2で、上記実測値Aが上記PL_MIN_1以上(A≧PL_MIN_1)と判定した場合には、続くステップ4で、上記制御器16は、その時点での上記押圧装置14に導入する油圧の必要値Bを算出する。即ち、その時点での、トロイダル型無段変速機4の変速比、並びに、前記アクチュエータ13の油圧室36a、36bの油圧の差に基づき算出される伝達トルク(トロイダル型無段変速機4を通過するトルク)、油温センサ44(図1)により検出される、無段変速装置を納めたケーシング内の潤滑油(トラクションオイル)の温度、その他上記押圧装置14が発生すべき適切な押圧力に影響を及ぼす状態量(例えばエンジン1の回転速度等)に応じて、上記押圧装置14に発生させるべき押圧力の最適値に応じた油圧の必要値Bを算出する。
尚、本実施例の場合は、上記トロイダル型無段変速機4の変速比を、変速比制御ユニット15を構成する変速比制御弁22を切り換える為のステッピングモータ17の駆動量に基づいて求める。即ち、上記トロイダル型無段変速機4の変速比と、上記ステッピングモータ17の駆動量であるステップ数との相関関係を予め求めて、上記制御器16のメモリに記憶させておき、この記憶させた相関関係に基づいて、現在のステッピングモータ17のステップ数に対応する変速比として求める。尚、上記変速比は、入力側、出力側各回転センサ45、46が検出する入力側ディスク10の回転速度と出力側ディスク11の回転速度とに基づいて算出する事もできる。但し、この様に変速比を算出する場合、前述の様に、転がり接触部(トラクション部)で滑りを生じた場合に、算出された変速比が、パワーローラ12の傾きに対応する変速比とずれる可能性がある。そして、この様な変速比に基づいて、上記押圧装置14に導入する油圧の調節(必要値の算出)を行なうと、上記トラクション部の滑りを増大させる可能性がある。そこで、本実施例の場合には、上述の様に予め求めた(トラクション部で滑りが生じていない状態での)上記トロイダル型無段変速機4の変速比と、上記ステッピングモータ17の駆動量であるステップ数との相関関係に基づいて、上記変速比を求める。
上述の様にステップ4で押圧装置14に導入する油圧の必要値Bを算出したならば、続くステップ5に示す様に、その時点の運転状況に応じた、押圧装置14に発生すべき最低限の押圧力(余裕代を零若しくは僅少にした押圧力)を得る為に必要な値PL_MIN_2を算出する。即ち、その時点の、トロイダル型無段変速機4の変速比(パワーローラ12の傾きに対応する変速比)、並びに、アクチュエータ13の油圧室36a、36bの油圧の差に基づき算出される伝達トルク(トロイダル型無段変速機4を通過するトルク)、油温センサ44により検出される、内部に存在する潤滑油の温度、その他上記押圧装置14が発生すべき押圧力に影響を及ぼす状態量から求められる、この押圧装置14に発生すべき最低限の押圧力を得る為に必要な値PL_MIN_2を算出する。
この様な閾値PL_MIN_2は、例えば上記必要値Bの0.9倍(PL_MIN_2=0.9B)、より好ましくは、0.95倍(PL_MIN_2=0.95B)とする事ができる。そして、続くステップ6で、上記実測値Aが、上記閾値PL_MIN_2よりも小さい(A<PL_MIN_2)か否かを判定する。このステップ6で、上記実測値Aが上記PL_MIN_2よりも小さいと判定した場合は、前記ステップ3に進み、前記第一ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度をその時点の値よりも小さくしたり、前記第二ライン圧制御用電磁開閉弁39の開度をその時点の値よりも大きくし、上記押圧装置14に導入する油圧(押圧力調整弁29aの開弁圧)をその時点の値よりも大きくする。この結果、上記押圧装置14が発生する押圧力が上昇する。
一方、上記ステップ6で、上記実測値Aが上記PL_MIN_2以上(A≧PL_MIN_2)と判定した場合には、続くステップ7で、上記実測値Aと上記必要値Bとの差dPL=(A−B)を求める。そして、続くステップ8で、この差dPLが、予め設定した第二の閾値β未満{dPL<β<0}であるか否かを判定する。このステップ8で、上記差dPLが第二の閾値β未満であると判定した場合は、上記ステップ3に進み、上記第一ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度をその時点の値よりも小さくしたり、上記第二ライン圧制御用電磁開閉弁39の開度をその時点の値よりも大きくし、上記押圧装置14に導入する油圧(押圧力調整弁29aの開弁圧)をその時点の値よりも大きくする。この結果、上記押圧装置14が発生する押圧力が上昇する。
一方、上記ステップ8で、上記差dPLが第二の閾値β未満でない(第二の閾値β以上である)と判定した場合は、ステップ9で、上記差dPLが予め設定した第一の閾値αを超えている{dPL>α>0}か否かを判定する。このステップ9で、上記差dPLが第一の閾値αを超えていると判定した場合は、ステップ10に進み、上記第一ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度をその時点の値よりも大きくしたり、上記第二ライン圧制御用電磁開閉弁39の開度をその時点の値よりも小さくし、上記押圧装置14に導入する油圧(押圧力調整弁29aの開弁圧)をその時点の値よりも小さくする。この結果、上記押圧装置14が発生する押圧力が低下する。一方、上記ステップ9で、上記差dPLが第一の閾値αを超えていない{第一の閾値α以下で、且つ、第二の閾値β以上(β≦dPL≦α)である}と判定した場合は、ステップ11で、上記第一、第二各ライン圧制御用電磁開閉弁18、39の開度をそのまま維持して、上記押圧装置14に導入する油圧(押圧力調整弁29aの開弁圧)をそのままの値とする。この結果、上記押圧装置14が発生する押圧力は、そのままの値に維持される。
上述の様な本実施例によれば、上記押圧装置14の発生する押圧力、延いては転がり接触部に加わる押し付け力を、運転状況に応じて適切に調節できる。即ち、上記押圧装置14に導入される油圧を測定し、この測定した実測値Aと比較しつつ、この油圧を必要値Bに調節する。この為、油漏れ、機械的作動誤差、応答遅れ等が生じた場合でも、この様な異常に基づく油圧の変化を検出し、この油圧の変化に応じてこの油圧の調節(押圧力調整弁29aの開弁圧の調節)を行なえる。この為、上記押圧装置14に導入される油圧(押圧力調整弁29aの開弁圧)、延いては上記押圧装置14の発生する押圧力(転がり接触部に加わる押し付け力)を、運転状況に応じた最適な値に調節できる。しかも、この様な油圧の調節を、第一、第二各ライン圧制御用電磁開閉弁18、39により行なう。この為、入力側、出力側両ディスク10、11同士の間で伝達する力の大きさに応じて設定される油圧の目標値を超えて、この油圧を増大させる事ができる。即ち、上記油圧が目標値に調節された状態で、例えば転がり接触部で滑りが生じた場合でも、上記第二ライン圧制御用電磁開閉弁39の開度を大きく(或いは上記第一ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度を小さく)し、上記油圧(開弁圧)を増大させる事で、上記滑りを防止できる。この為、この様な滑りに基づく耐久性や伝達効率の低下を防止できる。
尚、本実施例の場合は、押圧力調整弁29aの第三、第四各パイロット部34、40に、第一、第二各ライン圧制御用電磁開閉弁18、39により調節された油圧を導入し、この押圧力調整弁29aの開弁圧を調節している。この様な第一、第二各ライン圧制御用電磁開閉弁18、39に換えて、それぞれ電動ポンプ等により調整された油圧を上記第三、第四各パイロット部に導入する事で、上記開弁圧を調節する事もできる。
以上の説明は、本発明を、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とを組み合わせると共に、入力軸を一方向に回転させたまま、出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転、逆転に切り換えられる、所謂ギヤードニュートラル状態を実現できるモード(低速モード)を備えた無段変速装置に適用した場合に就いて説明した。但し、本発明は、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とを組み合わせると共に、トロイダル型無段変速機のみで動力を伝達するモード(低速モード)と、差動ユニットである遊星歯車式変速機により主動力を伝達し、上記トロイダル型無段変速機により変速比の調節を行なう、所謂パワースプリット状態を実現するモード(高速モード)とを備えた無段変速装置に適用する事もできる。又、自動車用の自動変速機としてだけでなく、各種産業用の変速機としても利用できる。又、トロイダル型無段変速機の構造に関しては、ハーフトロイダル型、フルトロイダル型の何れでも良い。更には、トロイダル型無段変速機単体で構成する無段変速装置にも適用できる。
本発明の実施例を示す、無段変速装置のブロック図。
この無段変速装置に組み込むトロイダル型無段変速機の変速比並びに押圧装置の発生する押圧力を調節する為の機構を示す油圧回路図。
実施例の特徴となる動作を示すフローチャート。
第一、第二各ライン圧制御用電磁開閉弁の開度と押圧力調整弁の開弁圧の減圧量、増圧量との関係の1例をそれぞれ示す線図。
第一ライン圧制御用電磁開閉弁の開度を基準とした、押圧力調整弁の開弁圧の目標値からの減圧量並びに増圧量との関係の1例を示す線図。
従来の無段変速装置のブロック図。
この無段変速装置に組み込むトロイダル型無段変速機の変速比並びに押圧装置の発生する押圧力を調節する為の機構を示す油圧回路図。
(第一)ライン圧制御用電磁開閉弁の開度と押圧力調整弁の開弁圧の減圧量との関係の1例を示す線図。
符号の説明
1 エンジン
2 ダンパ
3 入力軸
4 トロイダル型無段変速機
5 遊星歯車式変速機
6 クラッチ装置
7 低速用クラッチ
8 高速用クラッチ
9 出力軸
10 入力側ディスク
11 出力側ディスク
12 パワーローラ
13 アクチュエータ
14 押圧装置
15 変速比制御ユニット
16 制御器
17 ステッピングモータ
18 (第一)ライン圧制御用電磁開閉弁
19 電磁弁
20 シフト用電磁弁
21 制御弁装置
22 変速比制御弁
23 差圧シリンダ
24a、24b 補正用制御弁
25 高速クラッチ用切換弁
26 低速クラッチ用切換弁
27、27a、27b オイルポンプ
28 油溜
29、29a 押圧力調整弁
30 低圧側調整弁
31 手動油圧切換弁
32 第一のパイロット部
33 第二のパイロット部
34 第三のパイロット部
35 ピストン
36a、36b 油圧室
37 差圧取り出し弁
38 油路
39 第二ライン圧制御用電磁開閉弁
40 第四のパイロット部
41 第一の油圧センサ
42 油圧室
43、43a、43b 第二の油圧センサ
44 油温センサ
45 入力側回転センサ
46 出力側回転センサ