JP4739728B2 - (ジチオ)リン酸エステル系潤滑油添加剤、ならびにこれを含有する潤滑油組成物およびグリース組成物 - Google Patents

(ジチオ)リン酸エステル系潤滑油添加剤、ならびにこれを含有する潤滑油組成物およびグリース組成物 Download PDF

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Description

本発明は、特定の構造を有する(ジチオ)リン酸エステル系潤滑油添加剤、特に、パーフルオロポリエーテル油に好適に添加することができる(ジチオ)リン酸エステル系潤滑油添加剤、ならびにこれを含有する潤滑油組成物およびグリース組成物に関する。
パーフルオロポリエーテル油は、低揮発性であり、熱安定性、酸化安定性、耐放射線性、耐薬品性、耐溶剤性等に優れることから、高温や高真空環境等の特殊環境下での潤滑基油又はグリース基油として用いられているが、潤滑性、特に耐摩耗性、極圧性、耐焼付き性、及び防錆性は充分とは言えない。このため潤滑油添加剤を添加することになるが、鉱油等に添加される潤滑油添加剤は、パーフルオロポリエーテル油には溶解しないものが多く、パーフルオロポリエーテル油に溶解する潤滑油添加剤が検討されている。
リン原子を含有する潤滑油添加剤としては、フルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基を有するホスホン酸(例えば、特許文献1及び2を参照)、フルオロアルキル基を有するリン酸トリエステル又はパーフルオロポリエーテル基を有するリン酸エステル(例えば、特許文献3〜6を参照)等が知られている。
しかしながら、フッ素原子も含有するこのようなホスホン酸は、防錆性には優れるが、耐摩耗性や極圧性が不十分であり、従来知られたフッ素原子も含有するこのようなリン酸エステルは、α位又はβ位の炭素にフッ素原子が結合したアルコールのリン酸エステルであるため、金属部材を腐食する問題があった。
一方、α位及びβ位の炭素にフッ素原子が結合していないフルオロアルキルエーテルアルコールのリン酸エステル及びその塩が、離型剤(例えば、特許文献7を参照)として有用であることは知られているが、パーフルオロポリエーテル油への溶解性、潤滑性(耐摩耗性及び耐焼付き性)及び防錆性等については、知られていなかった。
特開2003−27079号公報 特開昭61−254697号公報 米国特許第3308207号明細書 米国特許第3308208号明細書 米国特許第3306855号明細書 特開平6−136379号公報 特開昭58−180598号公報
従って、本発明が解決しようとする課題は、パーフルオロポリエーテル油に溶解し、これに優れた潤滑性(耐摩耗性及び耐焼付き性)及び防錆性を与え、金属部材を腐食することのない潤滑油添加剤を提供することにある。
そこで本発明者等は鋭意検討し、下記の一般式(1)で表される、α位及びβ位の炭素にはフッ素原子が結合していないフルオロアルキルエーテルアルコールの(ジチオ)リン酸エステル及びその塩を添加した潤滑油組成物およびグリース組成物が、本来有する各種の優れた物性を損なうことなく、パーフルオロポリエーテル油に、潤滑性(耐摩耗性及び耐焼付き性)及び防錆性を更に与えることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の一般式(1):
Figure 0004739728
(式中、R炭素数2〜6のパーフルオロアルキル基を表わし、R、RおよびRは炭素数1〜3のパーフルオロアルキレン基を表わし、Rは炭素数1〜2のパーフルオロアルキレン基を表わし、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表わし、Xは酸素原子又は硫黄原子を表わし、a+b+cは1〜10の数を表わし、nは1又は2の数を表わす。)で表わされる(ジチオ)リン酸エステルの亜鉛塩又はモリブデン塩からなる潤滑油添加剤である。
また、本発明は、これらの(ジチオ)リン酸エステルの亜鉛塩又はモリブデン塩からなる潤滑油添加剤を、パーフルオロポリエーテル油100質量部に対して0.01〜20質量部含有する潤滑油組成物である。
更に、本発明は、これらの(ジチオ)リン酸エステルの亜鉛塩又はモリブデン塩からなる潤滑油添加剤を含有するグリース組成物である。
本発明の効果は、パーフルオロポリエーテル油のような低極性の潤滑基油にも溶解し、これに良好な潤滑性(耐摩耗性及び耐焼付き性)及び防錆性を与え、金属部材を腐食することのない(ジチオ)リン酸エステル系潤滑油添加剤を提供することにある。
一般式(1)において、R炭素数2〜6のパーフルオロアルキル基を表す。例えば、パーフルオロエチル、パーフルオロプロピル、パーフルオロブチル、パーフルオロペンチル、パーフルオロヘキシル等が挙げられる。
これらの中でも、パーフルオロポリエーテル油に対する溶解性が高いこと、優れた潤滑性及び熱安定性を与えることから、炭素数3〜4のパーフルオロアルキル基が好ましい。
一般式(1)において、R、RおよびRは、炭素数1〜3のパーフルオロアルキレン基を表わす。炭素数1〜3のパーフルオロアルキレン基としては、例えば、ジフルオロメチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、モノ(トリフルオロメチル)トリフルオロエチレン等が挙げられる。
これらの中でも、入手が容易であること、温和な反応条件で重合が進行すること、パーフルオロポリエーテル油に対する溶解性が高いこと、優れた潤滑性及び熱安定性を与えることから、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンが好ましく、ヘキサフルオロプロピレンが最も好ましい。
一般式(1)において、Rは、炭素数1〜2のパーフルオロアルキレン基を表わす。炭素数1〜2のパーフルオロアルキレン基としては、例えば、ジフルオロメチレン、テトラフルオロエチレンが挙げられる。
一般式(1)において、Rは、炭素数2〜4のアルキレン基を表わす。炭素数2〜4のアルキレン基としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレンが挙げられる。
一般式(1)において、a、bおよびcは、炭素数1〜3のパーフルオロアルキルエーテルの繰り返し単位の数であり、0〜100の数を表わす。パーフルオロポリエーテル油に対する溶解性が高いこと、優れた潤滑性を与えることから、a+b+cは1〜10の数であり、1〜3の数であることが好ましい。
一般式(1)において、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表わす。耐摩耗性に優れることから、Xは硫黄原子であることが好ましい。
一般式(1)において、nは、(ジチオ)リン酸の持つ3つの酸性基の内のエステル化された酸性基の数であり、1又は2の数を表わす。Xが酸素原子である場合には、潤滑性に優れることから、nが1であるリン酸モノエステル又はその塩と、nが2であるリン酸ジエステル又はその塩との混合物であることが好ましいが、Xが硫黄原子である場合には、耐熱性に優れることから、nが2であるジチオリン酸ジエステル又はその塩が好ましい。
一般式(1)で表わされる(ジチオ)リン酸エステルは、下記の一般式(2)で表わされるアルコールを、公知の方法でリン酸エステル化又はジチオリン酸エステル化することにより得られる。
Figure 0004739728
(式中、R、R、R、R、R、R、a、b及びcは、一般式(1)中と同様に定義される。)
リン酸エステル化の方法としては、例えば、上記の一般式(2)で表わされるアルコールに五酸化二リンを反応させる方法、アルコール(2)にオキシ塩化リンを反応させた後加水分解する方法、アルコール(2)及びオルトリン酸を脱水縮合する方法等が挙げられる。中でも、アルコール(2)に五酸化二リンを反応させる方法は、温和な条件で反応が進行し、副生成物も少ないことから好ましい。アルコール(2)と五酸化二リンとの反応比は、五酸化二リン中のリン原子1モルに対して、アルコール(2)が1〜2モルであることが好ましく、1.2〜1.8モルであることが更に好ましく、1.3〜1.7モルであることが最も好ましい。反応温度は、10〜100℃であることが好ましく、20〜80℃であることが更に好ましく、30〜60℃であることが最も好ましい。
また、ジチオリン酸エステル化の方法としては、アルコール(2)に五硫化二リンを反応させる方法等が挙げられる。アルコール(2)と五硫化二リンとの反応比は、五硫化二リン中のリン原子1モルに対して、アルコール(2)が1.6〜2.5モルであることが好ましく、1.8〜2.3モルであることが更に好ましく、1.9〜2.2モルであることが最も好ましい。反応温度は、40〜100℃であることが好ましく、50〜90℃であることが更に好ましく、60〜80℃であることが最も好ましい。
アルコール(2)は、例えば、下記の(a)〜(d)の一連の反応により得ることができる(例えば、特開昭61‐30441号公報、特開平4‐103553号公報、および米国特許第317484号公報を参照)。
(a)トリフルオロ酢酸フルオライド(CFCOF)、炭素数2〜4のフルオロアルキレンオキシド及びフッ化セシウム触媒を用い、特開昭61−254697号公報及び米国特許第3317484号公報に記載の酸フッ化物合成法に準じて合成を行い、得られる酸フッ化物を加水分解して、下記一般式(3)で表わされるフルオロアルキレンエーテルカルボン酸に変換する。
Figure 0004739728
(b)上記一般式(3)で表わされるフルオロアルキレンエーテルカルボン酸を、酸化銀を用いて銀塩に変換した後、ヨウ素を反応させて、下記一般式(4)で表わされるヨウ素化物に変換する。
Figure 0004739728
また、一般式(4)のヨウ素化合物は、特開平5‐194298号公報に記載のように、炭素数2〜4のフルオロアルキレンオキシドを、金属フッ化物−非プロトン性溶媒系中でオリゴマー化し、得られるフルオロアルキレンエーテル酸フッ化物を、LiI、MgI等のアルカリ金属ヨウ化物もしくはアルカリ土類金属ヨウ化物−非プロトン溶媒中でハロゲン交換反応させて酸ヨウ化物に転換し、次に紫外線照射により脱カルボニル化させることにより得ることもできる。
(c)上記一般式(4)で表わされるヨウ素化物は、例えば、アゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物又はパーオキサイドのラジカル付加触媒存在下、炭素数2〜4のオレフィンに付加させることにより、下記一般式(5)で表わされるヨウ素化物に変換される。
Figure 0004739728
(d)上記一般式(5)で表わされるヨウ素化物は、例えば発煙硫酸と反応させ対応する硫酸エステルに変え、それを加水分解することにより、上記一般式(2)で表わされるアルコールに変換される。
(a)の反応における炭素数2〜4のフルオロアルキレンオキシドとしては、例えば、テトラフルオロエチレンオキシド、3,3,3−トリフルオロプロピレンオキシド、ヘキサフルオロプロピレンオキシド、ヘキサフルオロオキセタン、オクタフルオロブチレンオキシド等が挙げられる。
(c)の反応における炭素数2〜4のオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブチレン、2−ブチレン等が挙げられる。
更に、一般式(5)で表されるヨウ素化合物を、アルコール溶液中アルカリ金属水酸化物と反応させて含フッ素不飽和化合物を合成し、炭素数2以上の第1アルコールもしくは炭素数3以上のアルコール化合物と、遊離基開始剤の存在下に反応させ、含フッ素アルコール(2)を合成することもできる(例えば、米国特許3532659号明細書、特開平5-201900号公報、および特開平8-301802号公報参照)。
一般式(1)で表わされる(ジチオ)リン酸エステルは、パーフルオロポリエーテル油に溶解し、優れた潤滑性を与えるが、無機金属化合物との塩にすると、加水分解に対する安定性や耐腐食性も向上する。このような塩としては、亜鉛、モリブデンである金属との塩;これらの金属塩を更に有機アミンと反応させた複塩等が挙げられる。
これらの金属塩の中でも、特にM(Mは金属原子を表し、x=1、y=3)で表される金属酸化物や、M(x=2、y=2、z=2)で表される金属硫酸化物との塩は、潤滑性が優れている。
これらの金属(硫)酸化物塩の中でも、酸化亜鉛との塩である酸性リン酸エステル亜鉛塩及びジチオリン酸エステル亜鉛塩(ZnDTP)、三酸化モリブデンとの塩である酸性リン酸エステルモリブデン塩(MoAP)、及びモリブデン硫酸化物との塩であるジチオリン酸エステル硫化オキシモリブデン塩(MoDTP)が好ましく、ZnDTP、MoAP、及びMoDTPが更に好ましく、ZnDTP及びMoAPが最も好ましい。
なお、一般式(1)で表わされる(ジチオ)リン酸エステルの塩は、従来公知の製造方法に準じて製造できる。例えば、ZnDTPは、特開平10−045771号公報、特開平11−322771号公報等;MoAPは、特開昭62−39696号公報、特開昭62−43491号公報等;MoDTPは、特開昭61−106587号公報、特開昭61−087690号公報等に、それぞれ記載されている製造方法に準じて製造してもよい。一般式(1)で表わされる(ジチオ)リン酸エステルは撥水撥油性が高いことから、これの製造においては、フッ素系有機溶媒を使用することが反応性の観点から好ましい。このようなフッ素系有機溶媒としては、例えば、トリクロロトリフルオロエタン、ジクロロペンタフルオロプロパン、ヘプタフルオロシクロペンタン、メチルパーフルオロブチルエーテル等が挙げられる。
本発明の潤滑油添加剤は、パーフルオロポリエーテル油に対する溶解性が高く、優れた潤滑性(耐摩耗性及び耐焼付き性)、防錆性及び耐熱性等を与えることから、パーフルオロポリエーテル油用の潤滑油添加剤として、好適に添加することができる。パーフルオロポリエーテル油としては、例えば、下記の一般式(6)〜(10)で表わされるパーフルオロポリエーテル化合物等が挙げられる。
パーフルオロポリエーテル油は、一般式:
RfO(CFO)(CO)q(CO)Rf (6)
Rf:パーフルオロ低級アルキル基
p,q,r:0または正の整数
で表わされる。
更に具体的には、次のようなものが用いられる。
RfO(CFCFO)(CFO)Rf (7)
(ここで、m+n=3〜200、m:n=10〜90:90〜10であり、CFCFO基およびCFO基は主鎖中ランダムに結合されている)これは、テトラフルオロエチレンの光酸化重合で生成した前駆体を完全にフッ素化することにより得られる。
RfO[CF(CF)CFO](CFO)Rf (8)
(ここで、m+n=3〜200、m:n=10〜90:90〜10であり、CFCFO基およびCFO基は主鎖中ランダムに結合されている)これは、ヘキサフルオロプロペンの光酸化重合で生成した前駆体を完全にフッ素化することにより得られる。
RfO[CF(CF)CFO](CFCFO)(CFO)Rf (9)
(ここで、m+n+l=3〜200、l:m=1〜199:199〜1、(l+m):n=10〜90:90〜10であり、CF(CF)CFO基、CFCFO基およびCFO基は主鎖中ランダムに結合されている)これは、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロペンの光酸化重合で生成した前駆体を完全にフッ素化することにより得られる。
RfO(CFXCFO)CFY (10)
(ここで、XおよびYはFまたはCF基であり、m=3〜50である)これは、フッ化セシウム触媒の存在下に、ヘキサフルオロプロペンオキシドまたはテトラフルオロエチレンオキシドをアニオン重合させ、得られた末端CFXCOF基をフッ素ガスで処理することにより得られる。
F(CFCFCFO)CFCF (11)
これは、フッ化セシウム触媒下に、2,2,3,3−テトラフルオロオキセタンをアニオン重合させ、得られた含フッ素ポリエーテル(CHCFCFO)を、紫外線照射下に約160〜300℃でフッ素ガスで処理することによって得られ、m=2〜100である。
以上のようなパーフルオロポリエーテル油を含有する潤滑油組成物は、パーフルオロポリエーテル油として十分に使用し得るだけでなく、シール性を考慮してグリースとしても有効に使用することができる。この場合には増稠剤が更に添加される。
増稠剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(以下PTFE)が一般的に用いられる。
これらの増稠剤は、グリース組成物中約0.5〜50重量%、好ましくは約1〜40重量%の割合で添加される。50重量%より多く用いられると、グリース組成物が硬くなりすぎて十分な潤滑性を発揮できなくなり、0.5重量%未満用いられると、増稠効果が十分でない。
パーフルオロポリエーテル油に対する本発明の潤滑油添加剤の配合量があまりに少ない場合には、潤滑性の向上効果が不十分となる場合があり、あまりに多い場合には、添加量に見合う効果が得られないばかりか、温度−粘度特性、耐熱性、加水分解に対する安定性等に悪影響が出る場合がある。このため、パーフルオロポリエーテル油100質量部対する本発明の潤滑油添加剤の配合量は、0.01〜20質量部であることが好ましい。
特に、液状の潤滑油として使用する場合には、0.01〜5質量部であることが好ましく、0.05〜3質量部であることが更に好ましく、0.1〜1質量部であることが最も好ましい。
また、グリースとして使用する場合には、0.05〜20質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部であることが更に好ましく、0.5〜5質量部であることが最も好ましい。
パーフルオロポリエーテル油に本発明の潤滑油添加剤を含有させた潤滑油組成物およびグリース組成物は、更に、酸化防止剤、染料、顔料、増稠剤、固体潤滑剤、防錆剤、腐食防止剤等を含有してもよい。
パーフルオロポリエーテル油に本発明の潤滑油添加剤を含有させた潤滑油組成物およびグリース組成物は、従来からパーフルオロポリエーテル油が使用されていた用途に広く使用でき、パーフルオロポリエーテル油本来の優れた各種物性を損なうことなく、更に、高温・高加重下に使用される用途にも好適に使用できる。
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例中の「部」及び「%」は、特に記載が無い限り質量基準である。また製造には、アルコール(2)として、下記の化学式で表されるフルオロアルキルエーテルアルコール(12)を使用した。以下、これを単にエーテルアルコール(12)という。
Figure 0004739728
基油として、以下のパーフルオロポリエーテル油を用いた。
[基油]
A:Rf(CFCFCFO)Rf 粘度(40℃)210mm/秒 分子量8500
B:RfO[CF(CF)CFO]Rf 粘度(40℃)100mm/秒 分子量3500
C:RfO[CF(CF)CFO]Rf 粘度(40℃)400mm/秒 分子量7500
D:Rf[CF(CF)CF](CFO)Rf 粘度(40℃)400mm/秒 分子量8000
E:Rf(CFCFO)(CFO)Rf、 粘度(40℃)85mm/秒 分子量8000
Rfはパーフルオロ低級アルキル基
増稠剤として、以下のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いた。
[増稠剤]
イ:乳化重合法ポリテトラフルオロエチレン(分子量約10〜20万、平均一次粒径0.2μm)
ロ:けん濁重合法ポリテトラフルオロエチレン(分子量約1〜10万、平均一次粒径5μm)
増稠剤率はすべて30%とした。
潤滑油添加剤として、以下の添加剤1〜5およびF〜Lを用いた。これらの製造法や化学構造等の詳細を、以降の段落に記載する。
[添加剤1(製造例1)]
攪拌機、温度計及び窒素ガス導入管を備えた2000mLのガラス製フラスコにエーテルアルコール(12)を662g(1モル)仕込み、窒素ガス雰囲気下50〜60℃にて攪拌しながら、五酸化二リン50g(リンとして、0.68モル)を1時間かけて徐々に投入した。投入終了後、80℃にて2時間熟成した。その後水360g(20モル)を投入し、80℃にて30分撹拌した後30分静置したところ、水層と油層とに分離した。この水層を廃棄した後、100℃にて、フラスコ内の圧力が1kPaになるまで加熱減圧することにより脱水し、本発明の潤滑油添加剤であるリン酸エステル531gを得た。この製造例1のリン酸エステルは、無色油状液体であり、リンの含有量は3.0%であった。また、この製造例1のリン酸エステルを31P−NMR(内部標準:オルトリン酸)により分析したところ、−1.60ppm、0.75ppm及び2.00ppmにピークが検出された。これらのピークの積分値より、この製造例1のリン酸エステルは、リン酸モノエステル41モル%、リン酸ジエステル58モル%、及びリン酸トリエステル1モル%の混合物であることがわかった。
[添加剤2(製造例2)]
攪拌機、温度計及び窒素ガス導入管を備えた200mLのガラス製フラスコに、製造例1のリン酸エステル54g、酸化亜鉛4.1g(0.05モル)、水18g(1.0モル)及び溶媒としてフッ素系有機溶媒のジクロロトリフルオロプロパン50gを仕込み、窒素ガス雰囲気下50〜60℃にて5時間反応させた。反応終了後、未反応の酸化亜鉛をろ過により除去し、100℃にてフラスコ内の圧力が1kPaになるまで加熱減圧することにより水及び溶媒を除去し、本発明のリン酸エステル亜鉛塩58gを得た。この製造例2のリン酸エステル亜鉛塩は、無色油状液体であり、分析の結果、亜鉛の含有量は3.0%、リンの含有量は2.8%であった。
[添加剤3(製造例3)]
製造例2と同様のガラス製フラスコに、製造例1のリン酸エステル54g、三酸化モリブデン7.2g(0.05モル)、水18g(1.0モル)及びフッ素系有機溶媒としてジクロロトリフルオロプロパン50gを仕込み、窒素ガス雰囲気下50〜60℃にて5時間反応させた。反応終了後、未反応の三酸化モリブデンをろ過により除去し、100℃にてフラスコ内の圧力が1kPaになるまで加熱減圧することにより水及び溶媒を除去し、本発明のリン酸エステルモリブデン塩58gを得た。この製造例3のリン酸エステルモリブデン塩は、青色油状液体であり、分析の結果、モリブデンの含有量は3.5%、リンの含有量は2.5%であった。
[添加剤4(製造例4)]
製造例2と同様のガラス製フラスコに、製造例1のリン酸エステル54g及びジエチルアミン5.1g(0.07モル)を仕込み、窒素ガス雰囲気下30〜40℃にて1時間混合することにより、本発明のリン酸エステルアミン塩を得た。この製造例4のリン酸エステルアミン塩は淡黄色油状液体であり、分析の結果、窒素の含有量は3.5%、リンの含有量は2.5%であった。
[添加剤5(製造例5)]
製造例1と同様のガラス製フラスコに、エーテルアルコール(12)662g(1モル)及び粉末状の五硫化二リン56g(リンとして、0.5モル)を仕込み、窒素ガス雰囲気下100℃にて5時間反応させることによりジチオリン酸エステル55gを得た。このジチオリン酸エステル55gに、酸化亜鉛5.7g(0.07モル)、水5.4g(0.3モル)、触媒として硝酸亜鉛六水塩0.15g(0.5ミリモル)及びフッ素系有機溶媒としてジクロロトリフルオロプロパン50gを加え、窒素ガス雰囲気下70〜80℃にて5時間反応させた。反応終了後、未反応の酸化亜鉛をろ過により除去し、100℃にてフラスコ内の圧力が1kPaになるまで加熱減圧することにより水及び溶媒を除去し、本発明のジチオリン酸エステル亜鉛塩60gを得た。この製造例5のジチオリン酸エステル亜鉛塩は、淡黄色油状液体であり、元素分析の結果、亜鉛の含有量は3.5%、リンの含有量は2.5%、硫黄の含有量は2.0%であった。
比較例には、以下の添加剤F〜Lを用いた。
[添加剤F]
添加剤Fとして、次の化合物(13)を用いた。化合物(13)は、長鎖フルオロアルキル基がリン原子に直接結合している点、およびリン酸酸性基が全てエステル化された中性化合物である点(塩は形成出来ない)において、本発明の潤滑油添加剤に比較して異なっている。
Figure 0004739728
[添加剤G]
添加剤Gとして、次の化合物(14)を用いた。化合物(14)は、長鎖フルオロアルキル基がリン原子に直接結合している点において、本発明の潤滑油添加剤に比較して異なっている。
Figure 0004739728
[添加剤H]
添加剤Hとして、次の化合物(15)を用いた。化合物(15)は、フルオロアルキル基中にエーテル性酸素原子が含まれない点、およびリン酸酸性基が全てエステル化されている中性化合物である点(塩は形成出来ない)において、本発明の潤滑油添加剤に比較して異なっている。
Figure 0004739728
[添加剤I]
添加剤Iとして、次の化合物(16)を用いた。化合物(16)は、フルオロアルキル基中にエーテル性酸素原子が含まれない点、およびリン酸酸性基が全てエステル化されている中性化合物である点(塩は形成出来ない)において、本発明の潤滑油添加剤に比較して異なっている。
Figure 0004739728
[添加剤J]
添加剤Jとして、リン酸2−エチルヘキシルとリン酸ビス(2−エチルヘキシル)との等モル混合物を用いた。これらの化合物は、いずれもフルオロアルキル基を含まない点において、本発明の潤滑油添加剤に比較して異なっている。
[添加剤K]
添加剤Kとして、比較例5のリン酸エステル混合物のジエチルアミン塩(リン/窒素=1/1(モル比))を用いた。この混合物も、フルオロアルキル基を含まない点において、本発明の潤滑油添加剤に比較して異なっている。
[添加剤L]
添加剤Lとして、ビス(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛塩を用いた。この化合物も、フルオロアルキル基を含まない点において、本発明の潤滑油添加剤に比較して異なっている。
以上を用いて、以下の表1に纏めた通り、実施例1〜21、比較例1〜7とした。
なお、実施例1、4、8、10、13、15、19、21は参考例である。
Figure 0004739728
<溶解性試験>
添加剤1〜5及びF〜Lの潤滑油添加剤のいずれかを、基油A〜Eのいずれかに3%添加し、十分に加熱撹拌した後、25℃にて24時間保存した後の状態を目視し、下記の基準でこれらの潤滑油添加剤のこれらの基油への溶解性を評価した。結果を表2に示す。
○:透明に溶解しており、溶解性良好
△:透明に溶解しているが、淀みがみられる。又は若干の白濁がみられる。
×:分離または白濁が見られ、溶解性不良
<潤滑性試験:耐摩耗性>
この溶解性試験の結果が良好であった実施例1〜9(潤滑油組成物)、実施例10〜21(グリース組成物)、比較例1〜4及び無添加例について、下記の条件にてこれら組成物の耐摩耗性試験を行い、試験球の摩耗痕径を測定した。結果を表2に示す。なお、摩耗痕径が小さいほど、耐摩耗性が良好であることを示している。なお、比較例5〜7については、溶解性試験の結果が良好でなかったので、耐摩耗性試験は行っていない。
[試験条件]
試 験 機 器:シェル式高速4球試験機
回 転 数:1800rpm
荷 重:314N
試 験 温 度:75℃
試 験 時 間:15分
潤滑油添加剤の添加量:1%
<潤滑性試験:耐焼付き性>
溶解性試験の結果が良好であった実施例1〜9(潤滑油組成物)、実施例10〜21(グリース組成物)、比較例1〜4及び無添加例について、下記の条件にてこれら組成物の耐焼付き性試験を行い、焼付きが発生し、試験継続が不可能な状態になるまでの時間(分)を測定した。結果を表2に示す。なお、この時間が長いほど、耐焼付き性が良好であることを示している。なお、比較例5〜7については、溶解性試験の結果が良好でなかったので、耐摩耗性試験は行っていない。
[試験条件]
試 験 機 器:シェル式高速4球試験機
回 転 数:1200rpm
荷 重:392N
試 験 温 度:室温
潤滑油添加剤の添加量:3%
<防錆性試験>
JIS K2246(錆止め油)の潤滑油型錆止め油の錆止め性能試験(湿潤試験)に準じ、240時間後の試験片における錆の発生度により、下記の基準により、実施例1〜21及び比較例1〜4の組成物の防錆性を評価した。なお、これらにおいて、各種潤滑油添加剤の各種基油への添加量は1%であり、錆の発生数は、試験片の中央部分に測定板(1辺が5mmの正方形が縦10個、横10個、計100個刻まれた透明板)を重ね合わせ、目視により錆が発生している正方形の数を数え、錆の発生数とした。結果を表2に示す。
◎:錆の発生数が0であり、防錆性が良好
○:錆の発生数が1〜10であり、防錆性がやや良好
△:錆の発生数が11〜25であり、防錆性がやや不良
×:錆の発生数が26〜100であり、防錆性が不良
Figure 0004739728
表2から分かるように、実施例1〜9の本発明の潤滑油組成物については、溶解性及び防錆性は全て良好であり、潤滑性に関しても、耐摩耗性試験における摩耗痕径結果は0.2〜0.3mm台と良好であり、耐焼付き性試験における焼付きまでに要する時間も25分〜1時間近くを要しており、良好である。
同じく、実施例10〜21の本発明のグリース組成物の防錆性も全て良好であり、耐摩耗試験における摩耗痕径結果も、耐焼付き性試験における焼付きまでに要する時間も良好である。
これに対し比較例1〜7の潤滑油組成物は、溶解性が悪い例も見受けられ、優れた防錆性を与えない例も多い。潤滑性に関しても、耐摩耗性試験における摩耗痕径結果は0.5mm台以上であり実施例1〜9に比較して劣り、耐焼付き性試験における焼付きまでに要する時間も7分以下であり、実施例1〜9に比較して極端に劣っている。
以上から明らかなように、本発明の潤滑油添加剤はパーフルオロポリエーテル油によく溶解し、良好な潤滑性(耐摩耗性及び耐焼付き性)及び防錆性も示しており、総合的に優れた結果を与えた。

Claims (5)

  1. 下記の一般式(1):
    Figure 0004739728
    (式中、R炭素数2〜6のパーフルオロアルキル基を表わし、R、RおよびRは炭素数1〜3のパーフルオロアルキレン基を表わし、Rは炭素数1〜2のパーフルオロアルキレン基を表わし、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表わし、Xは酸素原子又は硫黄原子を表わし、a+b+cは1〜10の数を表わし、nは1又は2の数を表わす。)で表わされる(ジチオ)リン酸エステルの亜鉛塩又はモリブデン塩からなる潤滑油添加剤。
  2. パーフルオロポリエーテル油100質量部に対して、請求項1に記載の潤滑油添加剤を0.01〜20質量部含有する潤滑油組成物。
  3. パーフルオロポリエーテル油100質量部に対して、請求項1に記載の潤滑油添加剤を0.01〜10質量部含有する潤滑油組成物。
  4. 請求項1に記載の潤滑油添加剤を含有するグリース組成物。
  5. パーフルオロポリエーテル油100質量部に対して、請求項1に記載の潤滑油添加剤を0.01〜10質量部、および増稠剤を1〜40質量部含有するグリース組成物。
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