JP4739640B2 - 水性樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は低温焼付に対応可能な付着性を有し、耐汚染性、耐水性に優れた新規な水性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂は化学的安定性が高く、廉価であり、物性バランスが優れ、リサイクル可能である等の理由により、自動車部品、家庭用電化製品、雑貨類向け成型品を中心に使用量が増加している。しかし、オレフィン系樹脂は非極性であるため、基材として用いた場合、基材表面の塗装や接着が困難であるという欠点を有する。そこで、塩素化ポリプロピレン、或いは酸変性・塩素化した塩素化樹脂をプライマー、あるいは塗料、インキ、接着剤の構成要素として使用するのが一般的である。
【0003】
従来、この塩素化樹脂は、トルエン、キシレン等の芳香族有機溶剤に溶解して使用されていたが、環境問題、安全衛生の観点から水性化の試みが広く行われている(特公平8-6009号、特開平5-209006号、特開平6-80738号、特許2769958号、WO90/12656等)。しかし、これら水性樹脂には、基材へ塗布した後の乾燥・焼付工程で、溶剤系樹脂と比較して多大なエネルギーと時間を必要とする問題がある。この問題を解決するため、塩素化樹脂の水性分散液の高濃度化及び水性分散液の低温焼付対応が求められるようになってきている。しかし、近年においてはポリオレフィン基材の高剛性化が進んでおり、特に80〜90℃程度の低温焼付条件では従来の塩素化樹脂発底の水性分散液では十分な付着力が得られず、対応が困難になってきている。低温焼付に対応する手段の一つとして原料ポリプロピレンの軟化温度を下げる、あるいは塩素化樹脂の分子量を上げる等の方法が有効である。しかし、従来のチーグラ・ナッタ系触媒を用いる重合法で軟化温度を下げるためには、エチレンあるいは他のα−オレフィンの組成比を上げる必要があり、結果として付着性は低下する。一方、塩素化樹脂の分子量を上げると、水性化工程での溶融粘度増加による分散不良が起こったり、得られた最終製品の粘度が高くなり過ぎる等の問題を生じる。
【0004】
また、従来のポリプロピレン、プロピレンとエチレンあるいは他のα−オレフィンの共重合体は分子量分布が比較的広いために、酸変性あるいは塩素化後も付着性や耐溶剤性、耐エンジンオイル性、耐牛脂性等を低下させる一因である低分子量成分の割合が高くなる。これらの問題は、変性ポリオレフィンを極性の高い溶剤で抽出等を行い、低分子量成分を除去することによってある程度の改善は可能である。しかし、物性的には満足のいくレベルでなく、塩素化樹脂の製造工程が複雑になるばかりか、変性ポリオレフィンの歩留まりが低くなるために非効率かつ不経済である。
これらの課題に対して、本発明者等は特願2002-58419において、メタロセン触媒の存在下で重合されたポリプロピレン系ランダム共重合体を発底とした、低温付着性、耐水性、耐溶剤性等に優れたカルボキシル基含有塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体の水性分散液を見出すに至った。
【0005】
しかしながら更に検討を重ねたところ、特願2002-58419の水性分散液を、例えばワンコート塗料として使用したところ、耐汚染性(耐エンジンオイル性、耐牛脂性など)や耐水性が満足のいくレベルに至っていないことが新たに認められた。これは、塩素化ポリオレフィンがエンジンオイルや牛脂等によって簡単に汚染されるため、塗膜にこれらが直接触れると塗膜が溶けてしまうためであり、この様な問題を抱える塩素化樹脂を水性化しても、水性化後も上記課題が未解決のまま残るばかりでなく、水性化工程において界面活性剤を使用するため、従来の溶剤系樹脂と比較して耐水性が大きく劣るためである。このため、特別な場合を除いて、変性ポリオレフィンの水性分散液の用途はプライマーや接着剤用途に限定されており、たとえばワンコート塗料のような水やエンジンオイル等と直接接触する可能性のある用途への使用は極めて困難であるのが現状である。
【0006】
これらの課題に対して、ポリオレフィン系水性樹脂を変性することによって、諸物性を向上させる試みがなされている。例えば、ポリオレフィン系水性樹脂に対して不飽和単量体をグラフトする方法等であり、既存技術としては特開2001-213922号報、特開平10-298490、特開平10-298233号報、特開平9-316134号報、特開平8-176309号報、特開平5-209006号報等が挙げられるが、これらの既存技術においては従来のチーグラ・ナッタ系触媒を用いて製造されたポリオレフィンを使用しているため、低温付着性、耐水性、耐汚染性(耐牛脂性、耐エンジンオイル性等)を十分に満足していないのが現状である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
以上のような状況において、本発明は低温焼付に対応可能な付着性を有し、耐汚染性、耐水性等に優れた水性樹脂組成物を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、これらの課題を解決するために鋭意検討を行った結果、メタロセン触媒の存在下で重合されたポリプロピレン系ランダム共重合体を発底とした、カルボキシル基含有塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体の水性樹脂組成物に、重合可能な不飽和単量体を乳化重合反応することによって得られた水性樹脂組成物がこれらの課題を解決することを見出した。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明で用いられるポリプロピレン系ランダム共重合体は、公知の方法(特開2001-206914など)で製造することができる。例えば、反応釜にプロピレン、エチレン、水素を供給しながら連続的にアルキルアルミニウムとメタロセン触媒を添加しながら製造を行う。
【0010】
本発明で使用されるポリプロピレン系ランダム共重合体は、重合触媒としてメタロセン触媒を用いて、主成分であるプロピレンを共重合して得られるが、コモノマーとしてエチレン、および、その他のα−オレフィンを使用してランダム共重してもかまわない。その他のα−オレフィンとしては、炭素数4以上のオレフィンからなる群から少なくとも1種を選択することができる。炭素数4以上のオレフィンとしては、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等が挙げられ、メタロセン触媒を用いることにより、チーグラー・ナッタ触媒よりも、共重合しうるコモノマーの範囲を広げることが可能である。
【0011】
本発明で使用されるメタロセン触媒としては、公知のものが挙げられ、具体的には以下に述べる成分(A)及び(B)、さらに必要に応じて(C)を組み合わせて得られる触媒が望ましい。
成分(A);共役五員環配位子を少なくとも一個有する周期律表4〜6族の遷移金属化合物であるメタロセン錯体。
成分(B);化合物(B)とメタロセン錯体(A)を反応させることにより、該メタロセン錯体(A)を活性化することのできる助触媒(イオン交換性層状ケイ酸塩)。
成分(C);有機アルミニウム化合物。
【0012】
かくして得られたポリプロピレン系ランダム共重合体は、従来のチーグラー・ナッタ触媒を用いて得られたポリオレフィンよりも軟化温度が低く、分子量分布も狭いという特徴があり、焼き付け温度が比較的低温であってもオレフィン系基材に対しても優れた低温付着性、耐水性、耐汚染性等を有する。
また、メタロセン触媒を用いて製造されたポリオレフィンで一般に市販されているものとしては、ウィンテック(日本ポリケム(株)製)などを挙げることができ、本発明においても使用することが可能である。
【0013】
本発明で用いられるポリプロピレン系ランダム共重合体は、示差走査型熱量計(以下、DSC)で測定される融点(以下、Tm)が115〜165℃のものが好ましく、オレフィン組成や重合条件は適宜選択できる。165℃より高いと溶剤溶解性が低下する。115℃より低いと素材への付着性が低下する。より好ましくは115〜135℃の低融点ポリプロピレン系ランダム共重合体である。なお、本発明におけるTmの測定は、DSC(セイコー電子工業製)を用い、約5mgの試料を200℃で5分間融解後、40℃まで10℃/minの速度で降温して結晶化した後に、更に10℃/minで200℃まで昇温して融解した時の融解ピーク温度及び融解終了温度で評価した値である。
【0014】
本発明で用いられるポリプロピレン系ランダム共重合体は、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機等を使用し、融点以上350℃以下の温度でラジカル発生剤の存在下で公知の方法で熱減成したもの、あるいは熱減成しないものを、単独あるいは混合して使用しても構わない。熱減成に用いるラジカル発生剤は公知のものの中より適宜選択することが出来るが、特に有機過酸化物系化合物が望ましい。上記有機過酸化物系化合物としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート等があげられる。
また、本発明では、上記のようにして得られたポリプロピレン系ランダム共重合体を単独、あるいは2種類以上を併用して用いることができるが、特に、Tmが115〜165℃の範囲内のものを用いることが好ましい。さらに、従来のチーグラ・ナッタ系触媒を用いる重合法で得られたポリオレフィンを混合しても構わない。混合量は用途にもよるが、全樹脂において50重量%まで混合することができる。
【0015】
本発明で用いられるカルボキシル基含有塩素化変性ポリプロピレン系ランダム共重合体は、上記ポリプロピレン系ランダム共重合体に、α,β-不飽和カルボン酸またはその無水物、および塩素を導入することにより得られるが、その製造は次に挙げる2つの方法により製造可能である。すなわち、上記ポリプロピレン系ランダム共重合体にあらかじめα,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト重合させた後、塩素化反応を行う方法(第一の方法)と、塩素化反応を行った後にα,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト重合させ方法(第二の方法)である。第一の方法の方が、最終的な水性樹脂組成物の諸物性が優れる。以下にその具体的な製造方法を例示する。
【0016】
第一の方法において、まず上記ポリプロピレン系ランダム共重合体にα,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト共重合する方法は、ラジカル開始剤の有無によらずグラフト重合できるが、ラジカル発生剤を用いる方が好ましい。ラジカル発生剤は、公知のものの中より適宜選択することが出来るが、特に有機過酸化物系化合物が望ましい。例えばベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物を用いることが好ましい。ラジカル発生剤の種類や使用量は反応条件により適宜選択できるが、プロピレン系ランダム共重合体(固形分)に対して、0.1〜5重量%程度使用することが望ましい。これより少ないとグラフト反応率が低下し、多くてもグラフト反応率の低下や内部架橋、低分子量化等の副反応が生じる。また、カルボキシル基含有ポリプロピレン系ランダム共重合体の調製は、ラジカル発生剤の存在下で上記ポリプロピレン系ランダム共重合体を融点以上に加熱溶融して反応させる方法(溶融法)と、上記樹脂を有機溶剤に溶解させた後にラジカル発生剤の存在下で加熱撹拌して反応させる方法(溶液法)に大別される。溶融法の場合には、バンバリーミキサー、ニーダー、押し出し機等を使用して融点以上300℃以下の温度で短時間で反応させるので、操作が簡単であるという利点がある。一方、溶液法に於いては、有機溶剤としてトルエン、キシレン等の芳香族系溶剤を使うことが望ましいが、他にエステル系溶剤、ケトン系溶剤等を一部混合して使用しても差し支えない。反応温度は50℃以上、溶媒の沸点以下の温度で実施できる。但し、α,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト共重合した後に塩素化反応をする場合は、上記溶媒を揮発させ、クロロホルム等の塩素化溶媒に置き換える必要があるため、第一の方法では溶融法の方が好ましい。
【0017】
次に、第一の方法では、α,β-不飽和カルボン酸またはその無水物のグラフト共重合に続いて、塩素化反応が行われるが、これは公知の方法で容易に実施できる。例えば、α,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト共重合したカルボキシル基含有ポリオレフィンを、水、クロロホルム等の媒体に分散又は溶解し、触媒の存在下あるいは紫外線照射下において加圧又は常圧下に50〜130℃の温度範囲で塩素ガスを吹き込むことにより行われる。50℃未満では塩素化反応が不均一となり、溶剤溶解性が悪化し、130℃より高いと塩素化反応中に低分子化が起こり、接着性や印刷適性が低下する。
一方、塩素化反応を行った後α,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト重合させる第二の方法では、まず、上記ポリプロピレン系ランダム共重合体をクロロホルム等の塩素系溶剤に溶解し、第一の方法と同様に塩素化反応を行って塩素化ポリオレフィンを製造した後、溶媒をトルエン、キシレン等の溶媒に変更し、次いでα,β-不飽和カルボン酸またはその無水物のグラフト重合を第一の方法と同様に行う。
【0018】
第一の方法および第二の方法において、α、β−不飽和カルボン酸又はその無水物、開始剤の添加順序、方法等は適宜選択できる。また、反応終了時に減圧工程を設け、残留するモノマー類を取り除くこともできる。本発明では、溶剤抽出等の低分子量成分除去工程を設けなくとも諸物性が優れることを特徴としているが、低分子量成分除去を行っても当然構わない。低分子量成分除去を行う場合には、α、β−不飽和カルボン酸又はその無水物をグラフト重合させた後に行うのが好ましい。低分子量成分は極性の高い溶剤で抽出除去されるが、溶剤は原料樹脂の分子量によって適宜選択し、抽出後の変性樹脂の分散度が3.0以下であることが好ましい。ここで言う分散度とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPC、標準物質:ポリスチレン樹脂)によって測定された重量平均分子量(以下Mwと略す)と数平均分子量(以下Mnと略す)によって算出された値である。
【0019】
本発明において、ポリプロピレン系ランダム共重合体にα,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト共重合する目的は、本発明の水性分散液をプライマーとして使用した場合に、上塗り塗料との付着性を付与するためであり、更に水への分散性を高めるためである。塩素化ポリオレフィンは元来極性は低く、そのままではプライマー(下塗り剤)として使用した場合、PP素材との付着性は良好であるが、極性の高い上塗り塗料(例えばポリウレタン塗料、メラミン塗料)との付着性はほとんどない。従って、α,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト共重合することによって塩素化ポリオレフィンの極性を高めることが重要になる。使用できるα,β-不飽和カルボン酸またはその無水物としては、例えば、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アコニット酸及びこれらの無水物、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、メサコン酸などが例示できる。これら不飽和カルボン酸又はその無水物を単独あるいは組み合わせて使用できるが、ポリオレフィン樹脂へのグラフト性を考慮すると無水マレイン酸が最も適している。本発明において、α,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト共重合によって導入する量は、原料ポリオレフィンに対して0.1〜20重量%が最適である。この範囲より含有量が少ないと良好な水性分散液が得られず、付着性等も低下し、逆に多すぎると未反応の不飽和カルボン酸又はその無水物が多く発生したり、耐水性等が低下するため好ましくない。より好ましくは、1.0〜10重量%である。尚、α、β−不飽和カルボン酸又はその無水物のグラフト重量%は、アルカリ滴定法、あるいはFT-IR法により求めることができる。
【0020】
カルボキシル基含有塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体中の塩素含有率は、低いほどオレフィン系基材への付着性は良くなるが、低すぎると樹脂の軟化点、融点が上昇するため、低温焼付け時の付着性が低下する。また、塩素含有率が高くなるとポリプロピレン系樹脂との付着性が低下するため、塩素含有率は5〜40重量%、好ましくは15〜30重量%が最適である。尚、カルボキシル基含有塩素化プロピレン系ランダム共重合体の塩素化度は、JIS K 7210に準じて滴定により求められる。
【0021】
本発明で用いるカルボキシル基含有塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体のMwは、10,000〜300,000である。10,000未満では樹脂の凝集力が不足し、300,000を超えるとインキ及び接着剤のハンドリングが低下するため好ましくない。尚、本発明におけるMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPC、標準物質:ポリスチレン樹脂)によって測定された値である。
【0022】
また、塩素化ポリオレフィンは紫外線や、高熱にさらされると脱塩酸を伴い劣化する。特に、乳化工程で加熱されたり、機械的なせん断力を受けると脱塩酸しやすい。カルボキシル基含有塩素化変性ポリオレフィンが脱塩酸により劣化を起こすと、樹脂の着色とともにPP基材への付着性低下等の物性低下をはじめ、遊離する塩酸により水性分散液の安定性が低下したり、作業環境の悪化を引き起こすことから、安定剤の添加は必須である。安定剤として特に好ましいのはエポキシ化合物である。エポキシ化合物は特に限定されないが、塩素化樹脂と相溶するものが好ましく、エポキシ当量が100から500程度のもので、一分子中にエポキシ基を1個以上有するエポキシ化合物が例示できる。たとえば、天然の不飽和基を有する植物油を過酢酸などの過酸でエポキシ化したエポキシ化大豆油やエポキシ化アマニ油、また、オレイン酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸等の不飽和脂肪酸をエポキシ化したエポキシ化脂肪酸エステル類、シクロヘキセンオキサイド、α−ピネンオキサイド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の脂環式エポキシ化合物、ビスフェノールAや多価アルコールとエピクロルヒドリンを縮合した、例えばビスフェノールAグリシジルエーテル、エチレングリコールグリシジルエーテル、プロピレングリコールグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が例示される。その他、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、s−ブチルフェニルグリシジルエーテル、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、フェノールポリエチレンオキサイドグリシジルエーテル等に代表されるモノエポキシ化合物類が例示される。また、ポリ塩化ビニル樹脂の安定剤として使用されている、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸鉛等の金属石鹸類、ジブチル錫ジラウレート、ジブチルマレート等の有機金属化合物類、ハイドロタルサイト類化合物も使用でき、これらを併用して使用してかまわない。エポキシ化合物の使用量はエポキシ当量や使用条件により適宜選択できるが、カルボキシル基含有塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体に対して0.1〜10重量%が好ましい。0.1重量%より少ないと安定剤としての効果がなく、10重量%より多いと不経済であるだけでなく、物性低下を起こすこともある。エポキシ化合物は、乳化工程前に添加して熱や機械的せん断力により発生する遊離塩酸を補足できるし、あるいは乳化後に別に水性化されたエポキシ化合物を添加し、貯蔵時や使用時に遊離塩酸によってpHが変動することの無いよう調整することもできる。
【0023】
次に、本発明においては上記方法で得られたカルボキシル基含有塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体を水性樹脂組成物とするが、ここで言う水性樹脂組成物とはエマルションの状態であるものを示し、公知の方法により得ることができる。例えば、カルボキシル基含有塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体を約100℃で溶融させ、安定剤、少量の有機溶剤、必要により界面活性剤及び塩基性物質を加えて溶融混錬した後、80〜98℃の水を加えてW/O型エマルションを形成させ、引き続き水を加えながらO/W型エマルションに転相させる方法を用いることができる。
【0024】
乳化装置としては、例えば円筒型反応機にアンカー型攪拌羽根やマックスブレンド型攪拌羽根を供えたもの、あるいは、更にホモジナイザー、ディスパー等の高速撹拌機を備えたもの、例えば、ハーモテック(エム・テクニック製)、ハイビスディスパーミックス(特殊機化工業製)、コンビミックス(特殊機化工業製)等、さらに、二軸押出機等を使用できる。また、攪拌装置を備えたオートクレーブ等の装置を用いて加圧下、100℃以上の温度で乳化することもできる。
本発明において、乳化時に、界面活性剤を用いると、より安定な水性分散液が得られる効果があり、特に濃度が高い水性分散液を得る場合に用いるとよい。界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、蔗糖エステル、ソルビタンアルキルエステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコールエステル、ポリグリセリンエステル、脂肪酸アルカノールアミド、脂肪酸モノグリセリド、ポリオキシアルキレンアルキルアミン等のノニオン界面活性剤が挙げられる。アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤を前記ノニオン界面活性剤と併用し、水性分散液の分散性向上等を行うことができるが、塗膜の耐水性を著しく低下させるため、極少量の使用に限られる。界面活性剤の種類、添加量は、適宜選択できるが、カルボキシル基含有塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体に対して、5〜30重量%(対固形分)が好ましい。5重量%より少ない場合は水性分散液の安定性が悪くなり、逆に30重量%を越えると耐水性が著しく低下するため好ましくない。さらに、カルボキシル基含有塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体に対して、上記界面活性剤および塩基性物質を併用して乳化すると、カルボキシル基を塩基性物質で中和して水への分散性を向上させることができる。塩基性物質としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N、N−ジメチルエタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モルホリン等を例示することができる。使用する塩基性物質の種類、量は適宜選択できるが、水性分散液のpHが6〜9.5、好ましくは7〜8.5になるよう設計する。pHが6より小さいと分散性が低下し、9.5より大きいと塩酸の脱離が著しく好ましくない。
【0025】
さらに、本発明においては、上記製法により得られたカルボキシル基含有塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体の水性樹脂組成物に対して、重合可能な不飽和単量体、界面活性剤、ラジカル発生剤、また必要に応じて連鎖移動剤等を添加して重合反応を行うが、本発明で使用される不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-メプロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボニル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフラメル、(メタ)アクリル酸2-メトキシメチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸等の(メタ)アクリル酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール等のジ(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸またはそれらの無水物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、および有機アミン塩、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ドデシル酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニル化合物、スチレン、メチルスチレン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸有機アミン、ビニルナフタレン、ビニルピリジン、マレイミド、N-メチルマレイミド、アクリロニトリル、シアン化ビニリデン、フマル酸ジベンジル、フマル酸ジイソプロピル等が挙げられる。これらの単量体は単独で使用しても二種以上を併用しても構わない。但し、PP基材に対する付着性を考慮すると、不飽和単量体中にメタクリル酸シクロヘキシルを含有していることが好ましい。また、重合反応中の粒子の化学的安定性を考慮すると、不飽和単量体中にメタクリル酸2-ヒドロキシエチルを含有していることが好ましい。
【0026】
また、本発明の重合反応で使用される界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、反応性界面活性剤が挙げられ、陰イオン性界面活性剤としては、オクチルスルホン酸塩、ドデシルスルホン酸塩、テトラデシルスルホン酸塩等のアルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンオクチルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンドデシルエーテルスルホン酸塩等のポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸塩、ナトリウムスルホリシエノート、アルキルスルホン酸塩、脂肪酸塩等が挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、オクチルアミン酢酸塩、デシルアミン酢酸塩、ドデシルアミン酢酸塩などのアルキルアミン塩、モノアルキルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、エチレンオキサイド付加型アンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。両性界面活性剤としては、ジメチルアルキルドデシルベダイン、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン等のアルキルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等のアルキルアミンオキサイド等が挙げられる。反応性乳化剤としては第一工業製薬(株)製のアクアロンRNシリーズ、HSシリーズ、日本乳化剤(株)製のAntoxMS-60、MS−2N、RA−1120、旭電化工業(株)製のアデカリアソープNE−10、NE−20等が挙げられる。また、水性分散液の分散性を向上させる目的で、非イオン界面活性剤や水性高分子を前記界面活性剤と併用しても構わない。非イオン界面活性剤としてはポリオキシアルキレンアルキルエステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、蔗糖エステル、ソルビタンアルキルエステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコールエステル、ポリグリセリンエステル、脂肪酸アルカノールアミド、脂肪酸モノグリセリド、ポリオキシアルキレンアルキルアミン等が挙げられ、水性高分子としては天然系ではコーンスターチ、小麦、米、馬鈴薯などの澱粉や、デキストラン、キチン・キトサン等の天然高分子多糖類、アラビアゴム、トラガンゴム等の植物ガム質、やまいも、こんにゃく、トロロアオイ等の植物粘質物、アルギン酸、フノリ、寒天等の海草類、大豆グルー、グルテン等の植物性タンパク質、ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の動物性タンパク質などが挙げられる。また、半合成系ではポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、酸化澱粉、燐酸エステル化澱粉、エーテル化澱粉、冷水可溶性澱粉や酵素変性澱粉などの各種変性澱粉などが挙げられる。界面活性剤の使用量は適宜変更可能であるが、耐水性等を考慮するとごく少量であることが望ましく、不飽和単量体100重量部に対して0.5〜10重量部の範囲で使用可能である。
【0027】
また、本発明で使用されるラジカル発生剤としては、過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウムなどの過硫酸塩や、酸化・還元反応によってラジカルを発生し比較的低温での重合に用いられるレドックス系ラジカル発生剤等が挙げられ、不飽和単量体100重量部に対して0.1〜10重量部の範囲で使用される。
【0028】
重合反応は、ポリプロピレン系ランダム共重合体をα,β-不飽和カルボン酸またはその無水物および塩素で変性して得られたカルボキシル基含有塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体の水性樹脂組成物、界面活性剤、ラジカル発生剤、助剤、水の混合組成物に対して、不飽和単量体を添加して行うが、不飽和単量体の添加方法は一括添加、分割添加のいずれであってもかまわない。但し、一括添加の場合は、重合発熱等を考慮して反応温度やラジカル発生剤量を調節する必要がある。重合時の反応温度は30〜80℃程度が好ましい。また、不飽和単量体の重合率は99%以上であることが好ましく、未反応の不飽和単量体が多い場合は貯蔵安定性が劣り、長期保存した場合や高温下で保存した場合にゲル化する可能性がある。
また、本発明においてはカルボキシル基含有塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体の水性樹脂組成物の配合部数は10〜70重量部が好ましく、10重量部より少ない場合は付着性が劣る傾向にある。70重量部より多い場合は耐汚染性が劣るだけでなく耐水性が劣る傾向にある。より好ましくは20〜60重量部である。また、不飽和単量体の配合部数は30〜90重量部が好ましく、30重量部より少ない場合は耐汚染性が劣る傾向にあり、90重量部より多い場合は付着性が劣る傾向にある。より好ましくは40〜80重量部である。なお、ここで言う重量部はカルボキシル基含有塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体の水性樹脂組成物を固形分換算したときの重量部である。
【0029】
また、本乳化重合により得られた水性樹脂組成物の重量平均分子量は20,000〜1,000,000であることが好ましく、20,000より小さい場合は耐汚染性の改善効果が小さくなる傾向にある。一方、1,000,000を越える場合は付着性が低下する傾向にある。また、平均粒子径は0.03〜3.0μmであることが好ましく、0.03μmより小さい場合は粘度が高くなりすぎる傾向にある。一方、3.0μmより大きい場合は貯蔵安定性が劣り、経時的に沈降、凝集、二層分離などが起こりやすい傾向にある。
【0030】
また、水性樹脂組成物の固形分濃度は5.0〜60wt%が好ましく、用途により適宜選択しても構わない。但し、高すぎても低すぎても作業効率が損なわれるため、作業効率を損なわない範囲で適宜調節する。また、水性樹脂組成物に含有される有機溶剤が好ましくない場合は、減圧留去等の方法により溶剤を留去しても構わない。また、該水性樹脂組成物から得られる塗膜はそれだけでバランスのとれた物性を示すが、必要であれば他の水性樹脂、例えば水性ウレタン樹脂、水性ブロックイソシアネート、水性エポキシ樹脂、水性アクリル樹脂、水性フェノール樹脂、水性アミノ樹脂、水性アルキド樹脂、水性塩化ゴム、水性シリコン樹脂、あるいは各種変性ポリオレフィンの分散液等をさらに添加して用いても差し支えない。また、本発明においては必要に応じて添加剤を水性樹脂組成物に添加しても構わない。添加剤としてはアルコール類、有機溶剤、粘度調製剤、酸化防止剤、安定剤、色素剤、顔料、腐食防止剤等が挙げられる。
【0031】
かくして得られた水性樹脂組成物は、ポリオレフィン系のフィルム、シート、成型物に適用できるプライマー、塗料、インキ、あるいは接着剤等として用いることができる。水性樹脂組成物単独で使用してもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で、乾燥速度を速めるための溶剤、pH調製剤、顔料、その他粘度調整剤、一次防錆剤、消泡剤、濡れ性改善剤、流動助剤、防カビ剤等の添加剤を必要量加えて用いてもよい。
【0032】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その範囲に限定されるものではない。なお、例中の部及び%は特に断らない限り、それぞれ重量部及び重量%を示している。
【0033】
【実施例】
〈評価項目および評価方法〉
(1)MFR(Melt Flow Rate)
JIS−K−6758ポリプロピレン試験方法のメルトフローレート(条件:230℃、加重2.16kgf)により測定した。
(2)融点
DSC測定装置(EXTER6000、セイコー電子製)を用い、試料約5mgを採り、200℃で5分間融解した。その後、40℃まで10℃/minの速度で降温して結晶化した後に、更に10℃/minで200℃まで昇温して、融解したときの融解ピーク温度及び融解終了温度で評価した。
(3)重量平均分子量
GPC(HLC-8120GPC、東ソ−製)を用い、標準物質としてポリスチレン樹脂を使用して測定を行った。
(4)塩素含有率
JIS−K7229に準じて測定を行った。
(5)不飽和カルボン酸又はその無水物グラフト量
アルカリ滴定法により求めた。
(6)B型粘度
測定試料を25℃の恒温槽で一昼夜浸漬後、B型粘度計(東京計器製)を用いて、回転数60rpmの条件下で、#1ローターを用いて測定を行った。
(7)平均粒子径
粒度分布測定装置(ZETASIZER 3000HS、シスメックス製)を用いて測定を行った。
(8)付着性
カッターナイフを用いて、刃先が素地に達するように試験片表面に2mm×2mmの碁盤目を100個刻み、その上からセロファンテープ(ニチバンCT-24)を貼り付け、180゜方向に10回引き剥がした後に残った碁盤目の数を数えた。
(9)耐湿性
試験片を50℃、98%RHの雰囲気中に5日間放置した後に、塗膜表面のブリスター発生状況を目視評価した。また、塗膜の素地に達するまでカッターナイフで切れ目(×印)を入れ、その上にセロファンテープを貼り付けて5回引き剥がしたあとの付着性を評価した。
(10)耐温水性
40℃の温水に試験片を10日間浸漬し、耐湿性と同様にブリスターの発生状況および付着性を評価した。
(11)耐牛脂性
牛脂(和光製薬(株)製)約1gを塗膜面に塗布し、80℃の乾燥機中に30分放置後、塗膜塗膜表面の牛脂を拭き取り、試験前後の塗膜表面の状態変化を目視で評価した。
◎:全く変化無し、○:殆ど変化無し、△:艶退け、×:表面溶ける
(12)耐エンジンオイル性
刷毛を用いてエンジンオイルを塗膜面に均一に塗布し、80℃の乾燥機中に2時間放置後、塗膜表面のエンジンオイルを取り除き、試験前後の塗膜表面の状態変化を目視で評価した。
◎:全く変化無し、○:殆ど変化無し、△:艶退け、×:表面溶ける
【0034】
[試作例1]
メタロセン触媒を使用して製造したプロピレン系ランダム共重合体(ウィンテック、日本ポリケム(株)製 MFR=7.0g/10min、Tm=125℃)100部、粉末状無水マレイン酸(日本油脂製)4部、ジ−t−ブチルパーオキサイド2部を混練した。その後、二軸押出機(L/D=60、φ15mm、第1バレル〜第8バレル)に供給し、滞留時間が5分、回転数300rpm、バレル温度が120℃(第1、2バレル)、180℃(第3、4バレル)、100℃(第5バレル)、130℃(第6〜8バレル)の条件で反応を行い、第6、7、8バレルで減圧処理を行い、無水マレイン酸変性プロピレン系ランダム共重合体を得た。この樹脂2kgをグラスライニングされた50L容反応釜に投入し、20Lのクロロホルムを加えた。2kg/cm2の圧力下、紫外線を照射しながら、ガス状の塩素を反応釜底部より吹き込み塩素化した。途中抜き取りを行い、それぞれ溶媒であるクロロホルムをエバポレーターで留去し、固形分30%に調整した。このクロロホルム溶液に、安定剤(t−ブチルフェニルグリシジルエーテル)を対樹脂1.5重量%加えた後、二軸押出機(L/D=34、φ40mm、第1バレル〜第7バレル)に供給し、滞留時間が10分、回転数50rpm、バレル温度が90℃(第1〜6バレル)、70℃(第7バレル)の条件で固形化を行った。第1、4、5、6バレルで減圧処理を行い、無水マレイン酸変性塩素化プロピレン系ランダム共重合体を得た。得られた無水マレイン酸変性塩素化プロピレン系ランダム共重合体のMwは80,000、分散度は3.4、無水マレイン酸グラフト率は2.4%となり、塩素含有率は20.5%と15.6%の2種類のものが得られた。
次に、撹拌機(アンカー型攪拌羽根付き)、冷却管、温度計および滴下ロートを取り付けた2L容4つ口フラスコ中に、得られた無水マレイン酸変性塩素化プロピレン系ランダム共重合体のうち塩素含有率が20.5重量%のものを200g、界面活性剤(エソミンT/25、ライオンアクゾ製)33g、安定剤(ステアリルグリシジルエーテル)8g、キシレン36gを添加し、95℃で30分溶融・混練した。次に2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール8gを5分かけて添加し、5分保持した後、90℃の温水970gを40分かけて添加した。減圧処理を行い、キシレンを除去した後、室温まで攪拌しながら冷却し、試作品1を得た。試作品1の固形分は30重量%、pH=7.8で、粘度は13mPa・sであり、平均粒子径は120nmであった。
【0035】
[試作例2]
試作例1において、塩素含有率が20.5%の無水マレイン酸変性塩素化プロピレン系ランダム共重合体の代わりに、試作例1で得られた塩素含有率15.6%のものを使用した以外は、試作例1と同様に水性樹脂組成物を調製し試作品2を得た。試作品2の固形分は30%、pH=7.3で、粘度は21mPa・sであり、平均粒子径は150nmであった。
【0036】
[試作例3]
試作例1と同様に試作品1を調製し、さらにキシレンを留去、固形分調整して試作品3を得た。試作品3の固形分は30%、pH=7.7で、粘度は11mPa・sであり、平均粒子径は120nmであった。
【0037】
[試作例4]
無水マレイン酸変性プロピレン系ランダム共重合体を、90℃で5時間、メチルエチルケトン抽出した以外は、試作品1と同様に試作品4を得た。試作品4の固形分は30%、pH=7.7で、粘度は14mPa・sであり、平均粒子径は125nmであった。また、Mwは110,000、分散度は2.8であった。
【0038】
[試作例5]
チーグラ・ナッタ触媒を使用して得られたプロピレン−エチレン共重合体(エチレン含量5%、溶融粘度830mPa・s/180℃、Tm=126℃)を使用して、試作例1に準じて無水マレイン酸変性塩素化プロピレン−エチレン共重合体を得た。得られた無水マレイン酸変性塩素化プロピレン−エチレン共重合体の重量平均分子量は70,000、分散度は4.3、無水マレイン酸グラフト重量は2.5%、塩素含有率は19.8%と15.1%の2種類のものが得られた。
次に、塩素含有率19.8%の無水マレイン酸変性塩素化プロピレン−エチレン共重合体を使用した以外は、試作例1と同様に試作品5を調製した。試作品5の固形分は30%、pH=7.3で、粘度は21mPa・sであり、平均粒子径は150nmであった。
【0039】
[試作例6]
試作例5において、塩素含有率が19.8%の無水マレイン酸変性塩素化プロピレン系ランダム共重合体の代わりに、試作例5で得られた塩素含有率15.1%のものを使用した以外は、試作例5と同様に試作品6を調製した。試作品6の固形分は30%、pH=7.3で、粘度は23mPa・sであり、平均粒子径は160nmであった。
【0040】
[試作例7]
無水マレイン酸変性プロピレン系ランダム共重合体を、90℃で5時間、メチルエチルケトン抽出した以外は、試作品5と同様に試作品7を得た。また、Mwは100,000、分散度は3.2であった。
試作品7の固形分は30重量%、pH=7.4で、粘度は24mPa・sであり、平均粒子径は160nmであった。
【0041】
<実施例1>
撹拌機(アンカー型攪拌羽根付き)、冷却管、温度計および滴下ロートを取り付けた2L容4つ口フラスコ中に、試作品1を387g、イオン交換水418g、乳化剤として固形分35.0%のラウリル硫酸ナトリウム17g、ラジカル発生剤として過硫酸アンモニウム4.5gを添加し、フラスコ内を窒素充填したのちに70℃に加温して5分保持後、スチレン10部、メタクリル酸メチル10部、メタクリル酸シクロヘキシル60部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル20部よりなる不飽和単量体の混合液174gを約1時間かけて滴下した。この間、液温が70℃±1℃になるように調節した。不飽和単量体の混合液を滴下後、70℃で約3時間保持後、更に80℃で1時間炊き上げ、冷却、ブローして固形分約30%の水性樹脂組成物を得た。ブロー後、5%苛性ソーダでpHを7に調製して評価用サンプルとした。粘度は20mPa.s、平均粒子径は150nm、重量平均分子量は100,000であった。
【0042】
<実施例2>
スチレン15部、メタクリル酸メチル30部、メタクリル酸シクロヘキシル50部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル5部よりなる不飽和単量体の混合液174gを使用した以外は、実施例1に従って水性樹脂組成物を調製した。粘度は19mPa.s、平均粒子径は160nm、重量平均分子量は120,000であった。
【0043】
<実施例3>
試作品1の代わりに、試作品2を使用した以外は、実施例1に従って水性樹脂組成物を調製した。粘度は20mPa.s、平均粒子径は160nm、重量平均分子量は110,000であった。
【0044】
<実施例4>
試作品1の代わりに、試作品3を使用した以外は、実施例1に従って水性樹脂組成物を調製した。粘度は15mPa・s、平均粒子径は140nm、重量平均分子量は120,000であった。
【0045】
<実施例5>
試作品1の代わりに、試作品4を使用した以外は、実施例1に従って水性樹脂組成物を調製した。粘度は19mPa・s、平均粒子径は150nm、重量平均分子量は160,000であった。
【0046】
<比較例1>
試作品1の代わりに、試作品5を使用した以外は、実施例1に従って水性樹脂組成物を調製した。粘度は23mPa・sであり、平均粒子径は170nm、重量平均分子量は110,000であった。
【0047】
<比較例2>
試作品1の代わりに、試作品6を使用した以外は、実施例1に従って水性樹脂組成物を調製した。粘度は23mPa・sであり、平均粒子径は170nm、重量平均分子量は110,000であった。
【0048】
<比較例3>
試作品1の代わりに、試作品7を使用した以外は、実施例1に従って水性樹脂組成物を調製した。粘度は23mPa・sであり、平均粒子径は170nm、重量平均分子量は120,000であった。
以上の評価結果を表1に示した。
【0049】
【表1】
【0050】
【発明の効果】
表1から明らかなように、実施例1〜5は低温付着性が優れ、耐湿性、耐温水性、耐牛脂性、耐エンジンオイル性が非常に優れている。これに対して比較例1、2、3は全ての物性が劣る。よって、本発明の効果は明らかである。
従って本発明の水性樹脂組成物は特にプライマー、塗料、インキ、接着剤用の樹脂として有効である。
Claims (4)
- メタロセン触媒を用いて製造された、示差走査型熱量計による融点が115〜135℃のイソタクチックポリプロピレン系ランダム共重合体を、α,β-不飽和カルボン酸またはその無水物および塩素で変性して得られたカルボキシル基含有塩素化プロピレン系ランダム共重合体の水性樹脂組成物(固形分換算)10〜70重量部に、メタクリル酸シクロヘキシルおよび/またはメタクリル酸2−ヒドロキシエチルを含有する重合可能な不飽和単量体30〜90重量部を水中で乳化重合することにより得られ、かつ、乳化重合により得られた水性樹脂組成物の樹脂の重量平均分子量が20,000〜1,000,000であり、かつ、乳化重合により得られた水性樹脂組成物の樹脂の平均粒子径が0.03〜3.0μmであることを特徴とする水性樹脂組成物。
- カルボキシル基含有塩素化プロピレン系ランダム共重合体の重量平均分子量が10,000〜300,000であることを特徴とする請求項1項記載の水性樹脂組成物。
- カルボキシル基含有塩素化プロピレン系ランダム共重合体中のポリプロピレン成分100重量部に対して、無水マレイン酸含有率が0.5〜10重量部であることを特徴とする請求項1から2までのいずれか1項記載の水性樹脂組成物。
- カルボキシル基含有塩素化プロピレン系ランダム共重合体中のポリプロピレン成分100重量部に対して、塩素含有率が5〜40重量部であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の水性樹脂組成物。
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