JP4731455B2 - 腐食試験方法及び装置 - Google Patents

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Description

本発明は、腐食試験方法及び装置に係り、特に、電子機器等の設置環境に依存して生じる腐食(大気腐食)に対する長期的な信頼性を評価する腐食試験方法及び装置に関する。
公衆電話ボックスや無人の電気通信用建屋などの直接外気の影響を受ける場所で使用する電子機器等では、大気腐食に対する長期的な信頼性を評価する必要がある。
腐食試験としては、JISで定められているものとして、塩水噴霧試験(JIS Z 2371)や湿潤試験(JIS K 2246、JIS K 5600−7−2)などがある。
塩水噴霧試験は、食塩水(5wt%−NaCl)を試料表面に噴霧(80cm当たり1.5ml/h(降水量として、時間当たり0.19mm/cm))して生じた腐食の面積から耐蝕性を判定するものである。試験時間は、概ね150h以下であり、電子機器関連部品の試験では50h程度である。
しかしながら、表面吸着水が生じるとされる相対湿度80%RHが、年間1500hを超える日本(北海道を除く)において、製品寿命として5年を考えた場合、上記の試験時間は7500h(1500h×5)と比較して著しく短い。
また、塩水噴霧試験を大気腐食の加速試験として用いる場合の加速係数も明らかになっておらず、米国の塩水噴霧試験規格であるASTM B 117−03(邦訳版)には、「自然環境における性能の予測は、単独のデータとして使用された場合、ほとんど塩水噴霧の結果と相関されたことはない」とも記載されている。
一方、湿潤試験(JIS K 2246)は、試料(さび止め油)を被覆した試験片を湿潤状態に規定時間保持した後のさびの発生度を調べるものである。なお、JIS K 2246、JIS K 5600−7−2では、温度50±1℃、湿度95%RH以上の湿潤環境で評価することを規定している。
しかしながら、湿潤試験では、蒸留水(脱イオン水)での加湿となるため、試験雰囲気中に電解質の存在が無く、大気腐食環境を再現できない。また、仮に、湿潤試験で加湿に用いる水にNaCl水溶液を用いた場合においても、その水蒸気にはNaClが含まれないことから大気腐食環境を試験装置内で実現することはできない。
JIS Z 2371、「塩水噴霧試験方法」、平成12年2月20日改正 JIS K 2246、「さび止め油」、平成6年7月1日改正 JIS K 5600−7−2、「塗料一般試験方法 ― 第7部:塗膜の長期耐久性 ― 第2節:耐湿性(連続結露法)」、平成11年4月20日制定 JIS Z 2382、「大気環境の腐食性を評価するための環境汚染因子の測定」、平成10年6月20日制定
このように、従来の塩水噴霧試験や湿潤試験は、大気腐食環境を十分に反映したものではなく、大気中で使用される電子機器等の信頼性を評価するための腐食試験としては不十分であった。また、従来の湿潤試験では、試験装置内に大気腐食環境を実現することはできなかった。
本発明の目的は、試験装置内に大気腐食環境を実現し、大気腐食環境を十分に反映した試験を行うことができる腐食試験方法及び装置を提供することにある。
本発明の一観点によれば、電解質の水溶液を霧化して前記電解質を含む霧粒子を生成し、前記電解質を含む霧粒子を加熱して前記電解質を含む水蒸気を生成し、前記電解質を含む水蒸気に試験試料を暴露し、前記試験試料の耐腐食性を評価することを特徴とする腐食試験方法が提供される。
また、本発明の他の観点によれば、試験試料を設置する試験槽と、電解質の水溶液を霧化して前記電解質を含む霧粒子を生成する霧化器と、前記電解質を含む霧粒子を加熱して前記電解質を含む水蒸気を生成し、前記試験槽に導入する加熱器とを有することを特徴とする腐食試験装置が提供される。
また、本発明の更に他の観点によれば、電解質を含む水蒸気が存在する試験雰囲気の形成方法であって、電解質の水溶液を霧化して前記電解質を含む霧粒子を生成し、前記電解質を含む霧粒子を加熱して前記電解質を含む水蒸気を生成する試験雰囲気の形成方法が提供される。
また、本発明の更に他の観点によれば、電解質を含む水蒸気が存在する試験雰囲気を形成する試験雰囲気形成装置であって、電解質の水溶液を霧化して前記電解質を含む霧粒子を生成する霧化器と、前記電解質を含む霧粒子を加熱して前記電解質を含む水蒸気を生成する加熱器とを有する試験雰囲気形成装置が提供される。
本発明によれば、電解質の水溶液を霧化して電解質を含む霧粒子を生成し、電解質を含む霧粒子を加熱して電解質を含む水蒸気を生成することにより、試験環境を形成するので、実際の大気と同様の、表面吸着水と大気浮遊塩とが共存する試験環境を容易に実現することができる。これにより、大気腐食環境を十分に反映した腐食試験を行うことができる。
また、試験環境に応じて、電解質を含む水蒸気を安定して供給することができる。これにより、表面吸着水と電解質が共存する大気腐食環境を、例えばJISの湿潤試験と同じ温湿度条件で、安定して構築することができる。
その結果、ボックスや無人の電気通信用建屋に代表される電子機器が直接外気の影響を受ける場所での大気腐食を再現でき、従来の湿潤試験や塩水噴霧試験では明らかにできなかった電子機器の設置環境に依存して生じる腐食について、長期的なデータを取得することができ、電子機器の長期信頼性を向上することができる。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態による腐食試験方法及び装置について図1乃至図3を用いて説明する。
図1は本実施形態による腐食試験装置の構造を示す概略図、図2は本実施形態による腐食試験方法を示すフローチャート、図3は電解質を含む霧粒子の加熱に伴う挙動を説明する図である。
はじめに、本実施形態による腐食試験装置について図1を用いて説明する。
試験試料を設置する試験槽10は、断熱材よりなる断熱壁12によって囲まれている。試験槽10内には、調温/調湿室14が設けられている。試験槽10内において、仕切り28を隔てて調温/調湿室14に隣接する空間が、試験試料を設置する空間である。
仕切り28を設けているのは、調温/調湿室14で温度/湿度をコントロールした(加湿)空気を、試料を設置する空間に導入した方が、温度/湿度を高精度にコントロールできるからである。例えば、大容量/大容積の試験槽10の全体を一隅からコントロールしようとした場合、温度/湿度の設定値に安定するまでの所要時間が大きくなるからである。
調温/調湿室14内には、除湿/冷却器16と、加湿器17と、加熱器18とが設置されている。また、試験槽10内には、乾球温度センサ20と湿球温度センサ22とが設けられている。湿球温度センサ22には、湿布24が巻き付けられている。加湿器17及び湿布24には、試験槽10外に設けられた純水タンク26から純水を供給できるようになっている。
試験槽10には、また、試験雰囲気を形成して試験槽10内に導入するための試験雰囲気形成装置30が接続されている。試験雰囲気形成装置30は、電解質の水溶液である試験水が貯蔵された試験水タンク32から供給された試験水を霧化する霧化器34と、霧化器34により霧化された試験水を加熱して試験槽10に導入する加熱器36とを有している。試験水タンク32と霧化器34との間、霧化器34と加熱器36との間には、電磁弁38,40がそれぞれ設けられている。
試験槽10及び試験雰囲気形成装置30には、ドレイン42,44がそれぞれ設けられている。ドレイン44は、電磁弁46を介して霧化器34に接続されている。また、純水タンク26、試験水タンク32及び霧化器34には、水位センサ48,50,52がそれぞれ設けられている。
次に、本実施形態による腐食試験方法について図1乃至図3を用いて説明する。
まず、試験水タンク32内に、試験水である電解質の水溶液を注入する(ステップS11)。試験水タンク32内の試験水量は、水位センサ50によってモニタし、水位センサ50からのデータにもとにして必要に応じて補給する。
試験水としては、例えば純水1000gにNaClを0.07g(1.2ミリmol/リットル)溶かしたNaCl水溶液を用いることができる。なお、降雨水中に含まれる電解質の量は、降雨時間の経過とともに変化し、降雨開始2h前後に最大値を示し、その後急激に減少することが知られている。上記試験水のNaCl濃度は、降雨水中に含まれる平均的なイオン濃度である0.3ミリmol/リットルの4倍であるが、試験槽10の調温/調湿室14で50℃/90%RH程度に調整した場合、平均的な大気腐食環境(=浮遊イオン量)になると推定される。
試験水の電解質濃度を高めることにより(例えば、純水1000gにNaClを0.3g(5.0ミリmol/リットル)溶かしたNaCl水溶液を用いる)、大気腐食の加速試験を行うようにしてもよい。用いる電解質及びその濃度は、試験目的等に応じて適宜設定することが望ましい。
電解質としては、雨水をイオン分析したときに得られる陽イオンのNa、Mg2+、NH 、K、Ca2+、Liと、陰イオンのCl、SO 2−、NO 、F、NO 、Br、PO 3−の組み合わせである、NaCl、MgCl、KCl、MgSO、NaNO、Mg(NOなど、水に溶ける物質を適用することができる。特に、毒性が無く取り扱いが容易なNaClやMgClなどが望ましい。
次いで、霧化器34の水位センサ52からのデータをもとに電磁弁38を開閉し、霧化器34内の試験水の量を調節する(ステップS12)。
次いで、霧化器34内の試験水量が適正値になった後、霧化器34を作動して試験水を霧化する(ステップS13)。これにより、電解質を含む霧粒子を生成することができる。なお、霧化器34としては、水中で超音波振動を発振させる超音波法を用いた霧化器や、水を回転板上に滴下するディスクアトマイズ法を用いた霧化器を適用することができる。
次いで、加熱器36を、例えば60℃程度の温度に加熱する。
次いで、加熱器36の昇温を待ってから電磁弁40を開放し、霧化器34内の霧を加熱器36内に導入する。
図3は電解質を含む霧粒子の加熱に伴う挙動を説明する図である。
霧化器34により霧化された霧粒子60の粒子径は、概ね3μm程度である。電解質としてNaClを用いた試験水の霧粒子60の中には、NaイオンとClイオンとが含まれている(図3(a))。
霧粒子60を含む室温25℃の空気を60℃程度に加熱すると、両温度間で空気の飽和水蒸気量が5.7倍に増加するため、霧粒子60を包む空気中の湿度は20%RH以下に低下する。この湿度低下と霧粒子60の昇温とが相俟って、霧粒子60からHO分子が水蒸気62として蒸発する(図3(b))。
これにより、霧粒子60の粒子径は1μm以下のサイズまで小さくなる。すなわち、霧粒子60は水蒸気化し、電解質を含む水蒸気64となる(図3(c))。
こうして、霧化器34から導入された霧粒子は熱せられてHO分子が蒸発し、粒子径は水蒸気レベルまで小さくなる(ステップS14)。
霧粒子から蒸発した水蒸気62及び電解質を含む水蒸気64は、加熱器36に続く調温/調湿室14に導入される(ステップS15)。
試験水を霧化だけでなく水蒸気化しているのは、霧の状態で調温/調湿湿14に導入した場合、その自重によって下方の床面に降りていきやすくなり、一部が結露等するなどして、結果的に試験槽10に供給した電解質量と試験槽10内に浮遊する電解質量に大きな差が生じる虞があるからである。水蒸気化することで、試験槽10内に供給した電解質を、そのまま試験槽10内に浮遊させることができる。
次いで、調温/調湿室14において、乾球温度センサ20及び湿球温度センサ22により、調温/調湿室14内の温度及び相対湿度を測定する。そして、測定した温度及び相対湿度が設定値と異なる場合には、調温/調湿室14内の温度及び相対湿度が設定値となるように、除湿/冷却器16、加湿器17、加熱器18を適宜制御する。
具体的には、調温/調湿室14内の温度及び湿度が設定値よりも低い場合には、除湿器(除湿/冷却器16)をオフ、加湿器をオンにして、調温/調湿室14内の湿度を上げる。また、加熱器18をオン、冷却器(除湿/冷却器16)をオフにして、調温/調湿室14内の温度を上げる。
調温/調湿室14内の温度が設定値よりも低く湿度が設定値よりも高い場合には、除湿器(除湿/冷却器16)をオン、加湿器17をオフにして、調温/調湿室14内の湿度を下げる。また、加熱器18をオン、冷却器(除湿/冷却器16)をオフにして、調温/調湿室14内の温度を上げる。
調温/調湿室14内の温度が設定値よりも高く湿度が設定値よりも低い場合には、除湿器(除湿/冷却器16)をオフ、加湿器17をオンにして、調温/調湿室14内の湿度を上げる。また、加熱器18をオフ、冷却器(除湿/冷却器16)をオンにして、調温/調湿室14内の温度を下げる。
調温/調湿室14内の温度及び湿度が設定値よりも高い場合には、除湿器(除湿/冷却器16)をオン、加湿器17をオフにして、調温/調湿室14内の湿度を下げる。また、加熱器18をオン、冷却器(除湿/冷却器16)をオフにして、調温/調湿室14内の温度を上げる。
このようにして、調温/調湿室14内の温度及び湿度が設定値に保たれるように、フィードバック制御を行う。これにより、調温/調湿室14から連続する試験槽10内の温度及び湿度は、所定の設定値に制御される(ステップS16)。
このようにして、試験槽10内に、温度及び湿度が設定値に保たれ、水蒸気62及び電解質を含む水蒸気64が存在する試験環境が形成される。すなわち、試験槽10内には、表面吸着水と大気中に浮遊する塩(電解質)が共存する試験環境を実現することができる。
大気浮遊塩は、高湿環境下で生じる表面吸着水に溶解して金属を腐食する。このときの表面吸着水中の電解質濃度は、降雨水中に含まれる電解質の濃度に近似すると推定される。すなわち、大気浮遊塩は、降雨の開始とともに雨滴に接触して取り込まれるが、このときに大気浮遊塩が雨滴に溶け込む挙動が、大気浮遊塩が表面吸着水に溶け込むメカニズムと同等であるからである。したがって、電解質を含む水蒸気64が存在する試験槽10内の試験環境は、大気腐食を評価するための環境として有用である。
次いで、試験環境が形成された試験槽10内に、評価対象の試料を設置する(ステップS17)。
次いで、試料を所定の時間、試験槽10内の試験環境に暴露する(ステップS18)。
次いで、所定の時間、試験環境に暴露した試料を取り出し、表面観察などの評価を行う(ステップS19)。
上記試験水を用い、試験槽10内に、温度49℃、相対湿度80%RHの試験環境を作り、無電界Niめっき皮膜を形成した金属板を放置した。2000h後に取り出して表面観察したところ、無電界Niめっき皮膜に腐食生成物が生じていた。
一方、従来の恒温恒湿槽を用いて、温度49℃、相対湿度80%RHの試験環境を作り、無電界Niめっき皮膜を形成した金属板を放置した。2000h後に取り出して表面観察したところ、無電界Niめっき皮膜に腐食生成物は生じていなかった。
以上の結果から、本実施形態による腐食試験装置により形成される試験環境は、電解質の影響を反映した大気環境に相当するものであることが判った。したがって、この腐食試験装置を用いた信頼性評価は、公衆電話ボックスや無人の電気通信用建屋などの直接外気の影響を受ける場所で使用する電子機器等では、大気腐食に対する長期的な信頼性を評価するうえで有用である。
このように、本実施形態によれば、電解質の水溶液を霧化して電解質を含む霧粒子を生成し、電解質を含む霧粒子を加熱して電解質を含む水蒸気を生成することにより、試験環境を形成するので、実際の大気と同様の、表面吸着水と大気浮遊塩とが共存する試験環境を容易に実現することができる。これにより、大気腐食環境を十分に反映した腐食試験を行うことができる。
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態による腐食試験方法及び装置について図4及び図5を用いて説明する。なお、図1乃至図3に示す第1実施形態による腐食試験方法及び装置と同様の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略し或いは簡潔にする。
図4は本実施形態による腐食試験方法及び装置の原理を説明するグラフ、図5は本実施形態による腐食試験装置の構造を示す概略図である。
第1実施形態による腐食試験方法では、装置の外部に設置した試験水タンク32から霧化器34に供給される試験水を一旦霧化し、次にその霧粒子を60℃に昇温して水蒸気へと状態変化した後に試験槽10内へ導入している。ここで、試験水の霧粒子が水の沸点である100℃よりも大幅に低い温度(〜60℃)で水蒸気へと状態変化するのは、霧粒子が内在している空気が昇温に伴って、その飽和水蒸気量が大きく増加したためと推定される。
しかしながら、60℃の水蒸気を、例えばJIS K 2246やJIS K 5600−7−2などに規定される試験方法と同様の50℃に設定した試験槽10内に導入する場合を考えると、50℃における飽和水蒸気量は60℃の飽和水蒸気量の2/3程度であり大きく減少することから、50℃への温度降下によって水蒸気が肥大化して霧粒子に状態変化することが考えられる。この結果、試験槽10内で目標とする試験環境を構築することができず、所望の試験を行うことができなくなる虞がある。
また、試験水タンク32から霧化器34に供給される試験水は、霧化の過程で超音波振動によって昇温することから、生成した霧粒子が内在する空気の温度も上昇することになる。50℃の水蒸気を生成しようとする場合、霧粒子が内在する空気の温度上昇は、昇温に伴って増加する飽和水蒸気量の増加分を低下させることとなり、水蒸気への状態変化を妨げる虞がある。
本実施形態では、水蒸気化した試験水が霧粒子に状態変化するのを防止して適切な試験環境を構築しうる腐食試験方法及び装置を示す。
図4は本実施形態による腐食試験方法の原理を説明するグラフである。
図4に示すように、室温状態(25℃)における飽和水蒸気量は、約23.0[g/m]である。室温状態における霧粒子が内在する空気の湿度は、霧化器34で生じた霧粒子によって、当初の50%RHから95%RH以上まで上昇する。室温状態の霧粒子が内在する空気の湿度が95%RHであるとすると、霧粒子が内在する空気中の水蒸気量は、約21.9[g/m]となる。一方、60℃における飽和水蒸気量は、約130[g/m]である。したがって、室温状態の霧粒子を60℃に昇温すると、飽和水蒸気量は5.7倍程度に増加し、結果的に60℃における相対湿度が16.8%程度に低下して、霧粒子が水蒸気へと状態変化する。
以上の結果を考慮すると、50℃への昇温に伴う飽和水蒸気量の増加が少なくとも5.7倍程度あれば、霧化器34により霧化した霧粒子を安定して水蒸気へと状態変化させることができるものと考えられる。
50℃における飽和水蒸気量は、図4に示すように、約82.8[g/m]である。霧粒子を50℃に昇温することに伴って霧粒子が内在する空気中の飽和水蒸気量が5.7倍に増加するためには、昇温前の飽和水蒸気量が約14.5[g/m]であることが必要である。この条件を満たす空気の温度は、図4に示すように、約17℃である。
すなわち、霧粒子が内在する17℃の空気を50℃に昇温することで、飽和水蒸気量が5.7倍程度に増加し、結果的に50℃における相対湿度が17.5%以下に低下して、霧粒子を水蒸気へと状態変化させることができる。
なお、上記の説明では、霧粒子が内在する空気を60℃に昇温した場合の実験例に基づき、昇温に伴う飽和水蒸気量の増加を5.7倍と仮定したが、昇温に伴う飽和水蒸気の増加が3.6倍程度以上であれば、50℃で電解質を含む水蒸気を得ることができる。
この条件を満たすような霧粒子が内在する空気を得る手段としては、霧化する試験水の温度を下げる方法がある。試験水の温度を下げると、低温の霧粒子が空気中に内在することとなり、結果的に、霧粒子が内在する空気の温度を下げることができる。また、霧化器34内部の試験水を温度制御することで、霧化時の超音波振動の印加に伴う液温上昇を防止することができ、霧粒子から水蒸気への状態変化を安定化させることができる。
図5は、本実施形態による腐食試験装置の構造を示す概略図である。図5は、図1に示す腐食試験装置において、本実施形態による腐食試験装置に特徴的な霧化器34及び加熱器36の部分のみを抜き出したものである。図5では、霧化器34と加熱器36との間の電磁弁40は記載を省略している。他の構成部分については、図1に示す第1実施形態による腐食試験装置と同様である。
霧化器34内には、試験水タンク32から送られた試験水を霧化のために一時的に貯蔵する試験水槽70が設けられている。試験水槽70内には、試験水の温度を測定する温度計72と、試験水の温度を制御する温度調節器74とが設けられている。また、霧化器34には、生成した霧粒子を内在する空気の温度を測定する温度計76が設けられている。温度計72,76及び温度調節器74には、図示しない制御装置が接続されており、霧粒子が内在する空気の温度に応じて試験水槽70内の試験水の温度を制御できるようになっている。
加熱器36は、霧化器34により生成された霧を内在する空気を伝搬する石英ガラス管80と、石英ガラス管80内を伝搬する霧が内在する空気を昇温するためのヒータ82とを有している。ヒータ82には、ヒータ82の温度を制御する温度調節器84が設けられている。石英ガラス管80の出口部分には、ヒータ82により昇温されて水蒸気化した試験水の温度を測定する温度計86が設けられている。温度計86及び温度調節器84には、図示しない制御装置が接続されており、石英ガラス管80から放出された水蒸気の温度に応じてヒータ82の温度を制御できるようになっている。
次に、本実施形態による腐食試験方法について図1、図2及び図5を用いて説明する。
まず、試験水タンク32内に、試験水である電解質の水溶液を注入する(ステップS11)。
次いで、霧化器34の水位センサ52からのデータをもとに電磁弁38を開閉し、霧化器34内の試験水の量を調節する(ステップS12)。
次いで、霧化器34内の試験水量が適正値になった後、霧化器34を作動して試験水を霧化する(ステップS13)。これにより、電解質を含む霧粒子を生成することができる。
この際、霧化器34の試験水槽70内の試験水が霧化の過程での超音波振動によって昇温することを防止するために、温度調節器74によって試験水槽70内の試験水の温度を所定値に制御する。超音波式の霧化器では、良好な霧化を実現するために、試験水の水位を最適な状態に維持することが重要である。かかる観点から、試験水の水位に影響を及ぼさない温度調節器74として、図示するような熱媒体をパイプ内に循環させる液体循環式温度調節器が好ましい。
次いで、霧化器34により生成された霧粒子が内在する空気の温度を、温度計76により測定する。測定した空気の温度が所定の温度からずれている場合には、図示しない制御装置を介して温度調節器74により試験水槽内の試験水の温度を制御し、霧化器34により生成される霧粒子が内在する空気の温度を所定値に調節する。
ここでは、霧化器34により生成された霧粒子が内在する空気の温度が、例えば17℃になるように、温度調節器74を制御するものとする。
次いで、霧化器34により生成された霧粒子が内在する空気を、加熱器36に導入する。加熱器36内に導入された空気中の霧粒子は、石英ガラス管80を伝搬する過程でヒータ82により昇温され、水蒸気化する(ステップS14)。
次いで、加熱器36から放出される水蒸気の温度を、温度計86により測定する。温度計86により測定した水蒸気の温度が所定値からずれている場合には、図示しない制御装置を介して温度調節器84によりヒータ82を制御し、加熱器36から放出される水蒸気の温度を所定値に調節する。
ここでは、加熱器36から放出される水蒸気の温度が、JISの試験方法に用いられる温度である50℃になるように、温度調節器を制御するものとする。霧粒子が内在する17℃の空気を50℃に昇温することで、飽和水蒸気量が5.7倍程度に増加し、結果的に50℃における相対湿度が17.5%以下に低下して、霧粒子を水蒸気へと状態変化させることができる。
なお、加熱器36から放出される水蒸気の温度が、試験槽10内の温度以下、例えば50℃以下になるように制御すれば、試験槽10内に導入した水蒸気が霧粒子に状態変化するのを防止することができる。
次いで、加熱器36により生成した水蒸気を、調温/調湿室14により温度及び湿度が設定値に保たれた試験槽10内に導入する。
この際、加熱器36により生成した50℃の水蒸気を、例えばJIS K 2246やJIS K 5600−7−2などのJISの試験方法と同様の50℃設定の試験槽10内に導入しても、状態変化することはなく、試験槽10内で目標とする試験環境を構築することができる。
この後、ステップS16〜S19に示す第1実施形態による腐食試験方法と同様にして、試料の評価を行う。
次に、本実施形態による腐食試験装置を用いて実際に水蒸気を生成した結果について説明する。
図5に示すように、液体循環式の温度調節器74を有する超音波型の霧化器34と、ヒータ82付きの石英ガラス管80を有する加熱器36とを組み合わせ、試験水の温度を12〜32℃の範囲で変化し、石英ガラス管80出口の気体の温度が50℃になるように、ヒータ82の温度を調整した。そして、石英ガラス管80の出口から放出された気体の状態を調べるために、石英ガラス管80の出口から放出された気体を暗室に導入して白色光を照射し、気体が霧粒子を含むか否かを判定した。
この結果を、表1にまとめる。
Figure 0004731455
表1に示すように、試験水の温度T或いは昇温前における霧粒子が内在する空気の温度Tが25℃以下の場合には、50℃に昇温した気体は水蒸気の状態であった。これに対し、試験水の温度T及び昇温前に置ける霧粒子が内在する空気の温度Tが25℃よりも高い場合には、50℃に昇温した気体は霧粒子を含む状態であった。
以上のことから、50℃に昇温した気体が水蒸気の状態であるためには、試験水の温度T或いは昇温前における霧粒子が内在する空気の温度Tを25℃以下に設定する必要があることが判る。
この結果を、50℃における飽和水蒸気量(82.8g/m)と、霧粒子が内在する空気の温度における飽和水蒸気量との比から考察すると、昇温による飽和水蒸気量の増加量を3.6倍以上にすることにより、50℃で電解質を含む水蒸気が得られることが判る(表1参照)。
このように、本実施形態によれば、試験槽10内の試験環境に応じて、電解質を含む水蒸気を安定して供給することができる。これにより、表面吸着水と電解質が共存する大気腐食環境を、例えばJISの湿潤試験と同じ温湿度条件で、安定して構築することができる。
[変形実施形態]
本発明は上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、電解質としてNaClを用いたが、MgClその他の電解質を用いてもよい。
また、上記実施形態では、1.2ミリmol/リットルの濃度のNaCl水溶液を試験水として用いたが、より高濃度の水溶液を用いて加速試験を行ってもよい。
また、上記第2実施形態では、JISの試験方法を考慮して、試験槽10内に導入する水蒸気の温度を50℃としたが、水蒸気の温度は50℃に限定されるものではない。水蒸気の温度は、試験槽10内の試験環境の温度に応じて適宜設定することができる。この場合、試験環境の温度における飽和水蒸気量が、試験水の霧粒子が内在する空気の昇温前の温度における飽和水蒸気量に対して3.6倍以上になるように、試験水や加熱器36の温度を制御すればよい。
以上詳述した通り、本発明の特徴をまとめると以下の通りとなる。
(付記1) 電解質の水溶液を霧化して前記電解質を含む霧粒子を生成し、
前記電解質を含む霧粒子を加熱して前記電解質を含む水蒸気を生成し、
前記電解質を含む水蒸気に試験試料を暴露し、前記試験試料の耐腐食性を評価する
ことを特徴とする腐食試験方法。
(付記2) 付記1記載の腐食試験方法において、
前記試験試料を温度及び湿度が一定の試験槽内に設置し、前記電解質を含む前記水蒸気を前記試験槽内に導入する
ことを特徴とする腐食試験方法。
(付記3) 付記2記載の腐食試験方法において、
前記試験槽内の温度は、50±1℃であり、
前記試験層内の相対湿度は、95%以上である
ことを特徴とする腐食試験方法。
(付記4) 付記1乃至3のいずれか1項に記載の腐食試験方法において、
前記電解質の水溶液の温度を25℃以下に制御する
ことを特徴とする腐食試験方法。
(付記5) 付記1乃至4のいずれか1項に記載の腐食試験方法において、
前記電解質を含む水蒸気の温度における飽和水蒸気量が、前記電解質を含む霧粒子が内在する空気の加熱前の温度における飽和水蒸気量の3.6倍以上になるように、前記電解質の水溶液の温度を制御する
ことを特徴とする腐食試験方法。
(付記6) 付記4又は5記載の腐食試験方法において、
液体循環式の温度調節器により、温度前記電解質の水溶液の温度を制御する
ことを特徴とする腐食試験方法。
(付記7) 付記1乃至6のいずれか1項に記載の腐食試験方法において、
前記電解質を含む水蒸気の温度が50℃以下になるように、前記電解質を含む霧粒子を加熱する際の温度を制御する
ことを特徴とする腐食試験方法。
(付記8) 付記1乃至7のいずれか1項に記載の腐食試験方法において、
前記電解質は、NaClである
ことを特徴とする腐食試験方法。
(付記9) 付記1乃至8のいずれか1項に記載の腐食試験方法において、
前記電解質を含む霧粒子の粒径が1μm以下になるように、前記電解質を含む霧粒子を加熱する
ことを特徴とする腐食試験方法。
(付記10) 付記1乃至9のいずれか1項に記載の腐食試験方法において、
前記電解質の水溶液は、超音波法又はディスクアトマイズ法により霧化する
ことを特徴とする腐食試験方法。
(付記11) 試験試料を設置する試験槽と、
電解質の水溶液を霧化して前記電解質を含む霧粒子を生成する霧化器と、
前記電解質を含む霧粒子を加熱して前記電解質を含む水蒸気を生成し、前記試験槽に導入する加熱器と
を有することを特徴とする腐食試験装置。
(付記12) 付記11記載の腐食試験装置において、
前記霧化器は、前記電解質の水溶液の温度を制御する温度調節器を有する
ことを特徴とする腐食試験装置。
(付記13) 付記12記載の腐食試験装置において、
前記温度調節器は、液体循環式の温度調節器である
ことを特徴とする腐食試験装置。
(付記14) 付記12又は13記載の腐食試験装置において、
前記温度調節器は、前記電解質の水溶液の温度を25℃以下に制御する
ことを特徴とする腐食試験装置。
(付記15) 付記12乃至14のいずれか1項に記載の腐食試験装置において、
前記温度調節器は、前記電解質を含む水蒸気の温度における飽和水蒸気量が、前記電解質を含む霧粒子が内在する空気の加熱前の温度における飽和水蒸気量の3.6倍以上になるように、前記電解質の水溶液の温度を制御する
ことを特徴とする腐食試験装置。
(付記16) 付記11乃至15のいずれか1項に記載の腐食試験装置において、
前記加熱器は、前記電解質を含む水蒸気の温度が50℃以下になるように、前記電解質を含む霧粒子を加熱する
ことを特徴とする腐食試験装置。
(付記17) 付記11乃至16のいずれか1項に記載の腐食試験装置において、
前記試験槽内の温度及び湿度を測定する測定装置と、
前記測定装置の測定結果に応じて前記試験槽内の温度及び湿度を一定に保つ制御装置と
を更に有することを特徴とする腐食試験装置。
(付記18) 付記11乃至17のいずれか1項に記載の腐食試験装置において、
前記試験槽は、前記試験試料を設置する第1の空間と、前記試験槽内の温度及び湿度を調整する第2の空間とを有する
ことを特徴とする腐食試験装置。
(付記19) 電解質を含む水蒸気が存在する試験雰囲気の形成方法であって、
電解質の水溶液を霧化して前記電解質を含む霧粒子を生成し、
前記電解質を含む霧粒子を加熱して前記電解質を含む水蒸気を生成する
ことを特徴とする試験雰囲気の形成方法。
(付記20) 電解質を含む水蒸気が存在する試験環境を形成する試験雰囲気形成装置であって、
電解質の水溶液を霧化して前記電解質を含む霧粒子を生成する霧化器と、
前記電解質を含む霧粒子を加熱して前記電解質を含む水蒸気を生成する加熱器と
を有することを特徴とする試験雰囲気形成装置。
本発明の第1実施形態による腐食試験装置の構造を示す概略図である。 本発明の第1実施形態による腐食試験方法を示すフローチャートである。 電解質を含む霧粒子の加熱に伴う挙動を説明する図である。 本発明の第2実施形態による腐食試験方法及び装置の原理を説明するグラフである。 本発明の第2実施形態による腐食試験装置の構造を示す概略図である。
符号の説明
10…試験槽
12…断熱壁
14…調温/調湿室
16…除湿/冷却器
17…加湿器
18,36…加熱器
20…乾球温度センサ
22…湿球温度センサ
24…湿布
26…純水タンク
30…試験環境形成装置
32…試験水タンク
34…霧化器
38,40,46…電磁弁
42,44…ドレイン
48,50,52…水位センサ
60…霧粒子
62…水蒸気
64…電解質を含む水蒸気
70…試験水槽
72,76,86…温度計
74,84…温度調節器
80…石英ガラス管
82…ヒータ

Claims (8)

  1. 電解質の水溶液を霧化して前記電解質を含む霧粒子を生成し、
    前記電解質を含む霧粒子を加熱して前記電解質を含む水蒸気を生成し、
    前記電解質を含む水蒸気に試験試料を暴露し、前記試験試料の耐腐食性を評価する
    ことを特徴とする腐食試験方法。
  2. 請求項1記載の腐食試験方法において、
    前記試験試料を温度及び湿度が一定の試験槽内に設置し、前記電解質を含む前記水蒸気を前記試験槽内に導入する
    ことを特徴とする腐食試験方法。
  3. 請求項1又は2記載の腐食試験方法において、
    前記電解質を含む水蒸気の温度における飽和水蒸気量が、前記電解質を含む霧粒子が内在する空気の加熱前の温度における飽和水蒸気量の3.6倍以上になるように、前記電解質の水溶液の温度を制御する
    ことを特徴とする腐食試験方法。
  4. 試験試料を設置する試験槽と、
    電解質の水溶液を霧化して前記電解質を含む霧粒子を生成する霧化器と、
    前記電解質を含む霧粒子を加熱して前記電解質を含む水蒸気を生成し、前記試験槽に導入する加熱器と
    を有することを特徴とする腐食試験装置。
  5. 請求項4記載の腐食試験装置において、
    前記霧化器は、前記電解質の水溶液の温度を制御する温度調節器を有する
    ことを特徴とする腐食試験装置。
  6. 請求項4又は5記載の腐食試験装置において、
    前記試験槽内の温度及び湿度を測定する測定装置と、
    前記測定装置の測定結果に応じて前記試験槽内の温度及び湿度を一定に保つ制御装置と
    を更に有することを特徴とする腐食試験装置。
  7. 電解質を含む水蒸気が存在する試験雰囲気の形成方法であって、
    電解質の水溶液を霧化して前記電解質を含む霧粒子を生成し、
    前記電解質を含む霧粒子を加熱して前記電解質を含む水蒸気を生成する
    ことを特徴とする試験雰囲気の形成方法。
  8. 電解質を含む水蒸気が存在する試験雰囲気を形成する試験雰囲気形成装置であって、
    電解質の水溶液を霧化して前記電解質を含む霧粒子を生成する霧化器と、
    前記電解質を含む霧粒子を加熱して前記電解質を含む水蒸気を生成する加熱器と
    を有することを特徴とする試験雰囲気形成装置。
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