JP4729783B2 - 黒色鋼板 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は黒色鋼板に関し、より詳しくは、クロムを含有しない組成物を用いて、耐食性に優れ、かつ白色化等の色調変化および低光沢化を引き起こさない、耐傷付き性、耐指紋性に優れた黒色鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、表面を黒色化処理した黒色鋼板は、パソコン、複写機等の事務機器、エアコン等の家電製品、自動車部品、内装建材などに広く使用されている。黒色鋼板は、亜鉛系めっき鋼板の表面に黒色塗料を塗布したり、Zn−Niめっき鋼板のめっき面を黒色化処理(例えば、陽極電解、陰極処理、交番電解法、陽極酸化)して製造される場合がある。
【0003】
しかし、前者の場合は、下地を十分に隠蔽するためには、黒色塗料の塗膜厚を厚くする必要があり、また、プレス成形時に塗膜が破壊した場合には耐食性が劣化する。
【0004】
後者の場合は、黒色化処理によって光沢が失われ、また耐食性が劣化するため、クロメート処理し、さらにクリヤー皮膜を施したり、あるいは樹脂/クロメート混合型塗料を塗布する必要があった。しかし、クロメート処理液や樹脂/クロメート混合型塗料は、6価クロムを含有するため、製造工程からの廃水には、水質汚染防止法に規定される特別な処理を行う必要があり、コストアップの原因となる欠点を有している。さらに、クロムイオンによって鋼板表面の色調が黄色や緑色に変化することを防止できなかった。
【0005】
そこで、鋼板、特に亜鉛系めっき鋼板の白錆の発生を防止するため、クロムを用いない表面処理技術が求められ、例えば、下記の各種提案がなされている。
▲1▼特開平5−195244号公報には、(a)少なくとも4個のフッ素原子と、チタン、ジルコニウム等の少なくとも1個の元素とからなる陰イオン成分(例えば、TiF6 2- で示されるフルオロチタン酸)、(b)コバルト、マグネシウム等の陽イオン成分、(c)pH調節のための遊離酸および(d)有機樹脂を含有するクロムフリー組成物を用いる金属の表面処理方法が提案されている。
【0006】
▲2▼特開平9−241856号公報には、(a)水酸基含有共重合体、(b)リン酸、および(c)銅、コバルト、鉄、マンガンなどの金属のリン酸塩を含有するクロムフリーの金属表面処理用組成物が提案されている。
【0007】
▲3▼特開平11−50010号公報には、(a)ポリヒドロキシエーテルセグメントと不飽和単量体の共重合体セグメントを有する樹脂、(b)リン酸および(c)カルシウム、コバルト、鉄、マンガン、亜鉛などの金属のリン酸塩を含有するクロムフリーの金属表面処理用組成物が提案されている。
【0008】
▲4▼特開平11−106945号公報には、(a)マンガン、コバルト、亜鉛などの多価金属イオン、(b)フルオロ酸、リン酸、酢酸などの酸、(c)シランカップリング剤および(d)重合単位2〜50の水溶性重合体を水性媒体に溶解した水溶性表面処理剤が提案されている。
【0009】
前記▲1▼〜▲4▼の方法または組成物等によって、金属板を十分な付着量の表面処理剤(被覆剤、コーティング剤)で被覆した場合、すなわち、十分な膜厚の皮膜を設けた場合には、まずまずの耐食性が得られる。しかし、例えば、金属板の凸部などの一部が露出するような皮膜が施されていたり、膜厚が薄過ぎる場合には、耐食性が極めて不十分であった。つまり、金属板に対する表面処理剤の被覆率が100%の場合にのみ、耐食性が得られるが、被覆率が100%未満の場合には不十分な耐食性しか得られなかった。一方、これらの方法または組成物等によって全面に厚い皮膜を形成すると、プレス成形後の外観が白色化するという問題があった。
【0010】
さらに、前記▲1▼〜▲3▼の方法または組成物等は、いずれもリン酸塩を用いるが、乾燥後の皮膜中にリン酸化合物が固体として残留した場合、鋼板表面の色調、特に光沢度や明度が著しく変化するという問題がある。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる事情に鑑み、クロムを含有しない組成物を用いるため、鋼板の処理工程および得られた表面処理鋼板の使用時に6価クロムの処理等の特別の廃水処理が不要であるとともに、耐食性に優れ、かつ白色化等の色調変化および低光沢化を引き起こさない、耐傷付き性および耐指紋性に優れた黒色鋼板を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するため、鋭意検討した結果、Zn−Niめっき鋼板の黒色化処理表面に、金属イオン、水分散性有機樹脂および酸を含む金属表面処理組成物を塗布して極薄い皮膜を形成すれば、耐食性に優れ、色調と光沢を同時に確保できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0013】
すなわち、本発明は、黒色化処理されたZn−Niめっき鋼板の表面に、金属イオン、水分散性有機樹脂および酸を含む金属表面処理組成物を塗布して形成された皮膜層を有する黒色鋼板であって、前記水分散性有機樹脂が下記(a)、(b)および(c)の条件を満足することを特徴とする黒色鋼板を提供するものである。
(a)ガラス転移温度:10〜80℃
(b)溶解度パラメータ:9.8以下
(c)屈折率:1.55以下
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の黒色鋼板について、詳細に説明する。
本発明の黒色鋼板は、黒色化処理されたZn−Niめっき鋼板の表面に、金属イオン、水分散性有機樹脂および酸を含む金属表面処理組成物を塗布して形成された皮膜層を有するものである。
【0015】
本発明の黒色鋼板の基材であるZn−Niめっき鋼板は、特に限定されず、通常、Niの質量%が5〜20質量%の含有割合のZn−Niめっき層を有する鋼板である。素地鋼板も特に限定されず、常用されるSPCCや深絞り用冷延鋼板、SPCD、SPCEでよい。
【0016】
また、黒色化処理も、特に限定されず、陽極電解、陰極処理、交番電解法、陽極酸化等のいずれの方法によって黒色化処理されたものでもよい。特に、本発明は、低コストで、良好な黒色度が得られる点で、陽極電解処理によって黒色化処理されたZn−Niめっき鋼板が好ましい。
【0017】
本発明において、黒色化処理されたZn−Niめっき鋼板の表面に皮膜層を形成するために用いられる金属表面処理組成物(以下、「塗料組成物」という)の必須成分である金属イオンは、Al,Mg,Mn,Zn,Co,Ti,Su,Ni,Fe,Zr,Sr,Y,Nb,Cu,Ca,V,Ba等が挙げられ、これらの金属イオンは1種または2種以上が塗料組成物に含まれていてもよい。これらの中でも、アルミニウムイオンAl3+、マグネシウムイオンMg2+およびマンガンイオンMnZ+の3種が、緻密な皮膜が形成されることから薄くても十分な耐食性を有し、飛躍的に黒色鋼板の耐食性が向上する点で、好ましい。
【0018】
また、金属イオンとして、Alイオン、MgイオンおよびMnイオンの3種からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属イオンに、Zn,Co,Ti,Sn,Ni,Fe,Zr,Sr,Y,Nb,Cu,Ca,VおよびBaからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属のイオンを、リン酸、硝酸、炭酸、硫酸等の無機塩、酢酸等の有機塩、または水酸化物の状態で表面処理組成物に付加して使用するのが好ましい。さらに、Znのリン酸塩、酢酸塩等の水溶液を表面処理組成物(以下「塗料組成物」といもいう)に付加して使用するのが好ましい。
【0019】
上述のとおり、金属イオンは、リン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、フッ酸塩等の塩、または酸化物、水酸化物、金属を溶解して供給される。好ましいのは、Al,Mg,Mnのリン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、水酸化物の溶液である。これらの金属塩を構成する酸は、塗料組成物の必須成分の一つである酸の供給源ともなり得る。
【0020】
塗料組成物の固形分に占める金属イオンの含有量は0.1〜50質量%が好ましく、0.1〜20質量%が特に好ましい。0.1質量%未満では、得られる黒色鋼板の耐食性が劣り、50質量%を超えると溶接性が劣化する傾向がある。金属塩を複数使用する場合は、各金属塩は0.5〜40質量%の範囲とするのが好ましい。
【0021】
塗料組成物の必須成分である水分散性有機樹脂として、例えば、カルボキシル基および水酸基を含有しない不飽和単量体と、カルボキシル基含有単量体を、それぞれ1種もしくは2種以上共重合して得られる共重合体を用いることができる。前記不飽和単量体としては、例えば、スチレン;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸iso−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸のアルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸iso−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸のアルキルエステルなどが挙げられる。カルボキシル基含有単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0022】
水分散性有機樹脂として、さらに酸性水溶液(pH1〜3)中で安定に均一分散することができる樹脂を用いることができる。例えば、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系の従来の金属材料の表面処理に使用されていたものが挙げられる。これらは2種以上併用することもできる。
【0023】
この水分散性有機樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が20〜80℃、好ましくは30〜80℃であるものである。Tgが20℃未満である水分散性有機樹脂を用いると、皮膜を乾燥させた後でも耐ブロッキング性に劣り、Tgが80℃を超えると加工時の鋼板変形に皮膜が追従せずに皮膜破壊が生じ、加工後耐食性が劣化する。
【0024】
また、水分散性有機樹脂は、溶解度パラメータが9.8以下、好ましくは9.7未満であるものである。本発明において、溶解度パラメータ(SP値)は(SP)2 =ρ(ΔH−RT)/M(ρ:モノマー密度、M:分子量、ΔH:蒸発熱、R:気体定数、T:温度,25℃)で示される親水性および疎水性の指標であり、極性が大きい樹脂ほどΔHが大となるため、SPも大きくなる。すなわち、SPが大であることは親水性を有する樹脂であることを示す。2種以上の単量体による水分散性有機樹脂については、各単量体のSPを質量比換算により算出することができる。水分散性有機樹脂のSPが9.8を超えた場合、塗料組成物を塗布・乾燥後の耐食性が低下する。なお、SP値が9.8以下の水溶性有機樹脂を得るためには、2種以上の単量体の重合比を考慮し、SP値が9.8を超える単量体を使用する場合は、必ず9.8未満の単量体を使用する必要がある。
【0025】
さらに、水分散性有機樹脂固体の屈折率は1.55以下、好ましくは1.50未満である。この屈折率は、2種以上の単量体による水分散性有機樹脂については、各単量体の屈折率を含有質量比の割合で加算することにより算出できる。水分散性有機樹脂の屈折率が1.55以上である場合、塗料組成物を塗布・乾燥後の色調が低下、具体的には白色化してしまう。
【0026】
塗料組成物に占める水分散性有機樹脂の混合比率(固形分質量比)、すなわち(b)水分散性有機樹脂/{(a)金属イオン+(b)水分散性有機樹脂+(c)酸}で示される比率が、50〜98質量%であることが好ましい。水分散性有機樹脂の混合比率が50質量%未満であると塗料組成物の塗布によって色調変化が生じるおそれがあり、一方、98質量%を超えると耐食性が低下するおそれがある。混合比率は60〜95質量%が、さらに好ましく、75〜95質量%が特に好ましい。また、塗料組成物に上記以外の成分を含有する場合は、これら成分を合わせた固形分の合計量に対する(d)水分散性有機樹脂の混合比率が上記範囲であるのが好ましい。
なお、水分散性有機樹脂とは粒子径が0.05μm以上の樹脂骨格中の極性基により水に分散している樹脂であり、界面活性剤を少量含有していてもよい。
【0027】
本発明の塗料組成物の必須成分である酸は、黒色化処理後の鋼板の表面をエッチングし、塗料組成物によって形成される皮膜の鋼板との密着性をさらに向上させ、皮膜剥離を防止し、耐食性を向上させる作用とともに、塗料組成物のpHを1.0〜3.0に調整する作用をする。用いられる酸は、リン酸、酢酸、硝酸およびフッ酸から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。酸は、前記したように、金属イオンとの金属塩として供給してもよい。
【0028】
また、酸として2価以上の金属に配位可能である有機酸も使用できる。特に前記例示した4種の酸に、該有機酸の少なくとも1種を、さらに併用させると、耐食性がさらに向上する。有機酸は、黒色化処理後の鋼板のエッチングを促進するとともに、金属イオンに配位し、皮膜をより緻密にするために有効である。用いられる有機酸としては、例えば、オキサル酢酸、トリカルバリル酸、クエン酸、イソクエン酸、コハク酸、リンゴ酸、グルタル酸等が挙げられる。
【0029】
塗料組成物に前記有機酸を配合する場合、その含有量は特に限定されないが、塗料組成物の固形分に対して1〜10質量%であるのが好ましい。1質量%未満であると、その効果が十分でなく、未架橋点が増大し、かえって皮膜の緻密化を妨げるおそれがある。逆に、10質量%を超えると、塗料組成物としての安定性が保持できない。
【0030】
塗料組成物の固形分に占める酸の含有量は特に限定されないが、1〜20質量%が好ましく、さらに好ましくは5〜15質量%である。1質量%未満であると、pHを前記範囲に調整することができず、黒色化処理後の鋼板のエッチングが不十分になり、耐食性が低下する。一方、20質量%を超えると、黒色化処理後の鋼板の溶解が早過ぎ、表面に外観むらが生じる傾向がある。
【0031】
本発明において、塗料組成物には、鋼板に塗布時のハジキ防止、塗料組成物の安定性の点から、水分散性有機樹脂の重合時に使用する以外に、さらに界面活性剤を配合してもよい。界面活性剤としては、pH1〜3の環境下で安定なものであればよい。
【0032】
さらに、塗料組成物に多価フェノールカルボン酸を配合するのが好ましい。これにより耐食性をさらに改善できる。多価フェノールカルボン酸としては、タンニン酸没食子酸などが好適であり、塗料組成物の固形分の0.1〜20質量%の割合で配合するのがよい。
【0033】
また、本発明において、塗料組成物は、水溶性樹脂を含有しないことが好ましい。水溶性樹脂は骨格中の極性基により水中でイオン化し、水溶化する樹脂であるが、この水溶性樹脂は前述の多価フェノールカルボン酸等との相互作用により塗料安定性が低下させる傾向がある。
【0034】
本発明において、塗料組成物にカップリング剤を含有させると、得られる黒色鋼板の表面の耐指紋性を向上させることができる点で、好ましい。
【0035】
カップリング剤は、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、ビニル基、メルカプト基およびメタアクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有するカップリング剤であることが好ましい。特に好ましいのは、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤であり、これらから選ばれる少なくとも1種である。
【0036】
シランカップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0037】
チタンカップリング剤としては、例えば、ジ−イソプロポキシビス(アセチルアセトナトチタン、ジヒドロキシビス(ラクタト)チタン、ジイソプロポキシ−ビス−(2,4−ペンタジオネート)チタニウム、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート等が挙げられる。
【0038】
ジルコニウムカップリング剤としては、例えば、アセチルアセトンジルコニウムブチレート、ジルコニウムラクテート、ジルコニウムアセテート等が挙げられる。
【0039】
塗料組成物にカップリング剤を配合する場合、そのカップリング剤の含有量は、従来、金属材料を表面処理する際に、表面処理剤(組成物)、塗料に添加される量と同程度であれば、十分である。
【0040】
また、皮膜の緻密性を上げるため、塗料組成物に金属酸化物を含有させることができる。金属酸化物は、シリカ(SiO2 )、MgO,ZrO2 ,Al2 3 ,SnO2 ,Sb2 3 ,Fe2 3 およびFe3 4 からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0041】
金属酸化物は、従来、金属材料を表面処理する際の表面処理剤(組成物)、塗料に添加されている量と同程度使用すれば十分な効果を発揮することができる。
【0042】
本発明において、塗料組成物は水性媒体に溶解ないし分散して使用される。溶液ないし分散液は、好ましくは固形分濃度が5〜40質量%、さらに好ましくは10〜30質量%に調整される。
【0043】
水性媒体は、水または水と混合可能な有機溶剤または無機溶剤との混合媒体である。混合媒体の混合比率は特に制限されないが、固形分濃度は5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%に調整される。有機溶剤としては、ブチルセロソルブが好ましい。
【0044】
塗料組成物に、その他の性能を付与するためにワックスやその他の通常使用される各種添加剤を含有させてもよい。
【0045】
本発明の黒色鋼板の製造は、Zn−Niめっき鋼板の表面を黒色化処理した後、鋼板の上に、前記した塗料組成物を、塗布または接触させ、リンガーロールで押圧し、乾燥して、硬化皮膜を形成させる。該塗料組成物を塗布するには、ロールコート、スプレー塗装、刷毛塗り、浸漬塗装、カーテンフローなどの方法を用いることもできる。
【0046】
形成される皮膜の膜厚は0.1〜3.0μmが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5μmである。0.1μm未満であると、皮膜が黒色化処理後の鋼板を被覆しきれず、耐食性が劣化する。逆に3.0μmを超えると、プレス成形後、外観が白色化する。また曲げ部に塗膜クラックが発生しやすくなる場合がある。
【0047】
本発明の黒色鋼板において、塗料組成物を塗布して形成される皮膜は、塗料組成物が含有する特定の金属イオンがZn−Niめっき層と反応し、緻密な皮膜層を形成し、その緻密な皮膜層の表面に水分散性有機樹脂による皮膜層が形成されたものである。
【0048】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
(実施例1〜14、比較例1〜4)
Zn−Niめっき鋼板を、それぞれ異なる方法で黒色化処理した下記鋼板A〜Cに、下記の水分散性有機樹脂A〜F、4種の金属塩A、P、CおよびN、ならびに水酸化物H(金属イオンの配合比:パターンA〜D)、酸A〜D、有機酸A〜C、多価フェノールカルボン酸A〜B、およびシランカップリング剤A〜C、金属酸化物A〜Cを表1に記載した割合で混合して得られた塗料組成物をロールコートした。15秒で鋼板温度が170℃となるように加熱して乾燥・硬化させ、所定の膜厚の皮膜を形成させ、黒色鋼板の試験片を作成した。
【0049】
黒色鋼板A〜C(板厚0.7mm)
板A:陽極電解処理鋼板
板B:陰極処理鋼板
板C:交番電解処理鋼板
【0050】
水分散性有機樹脂A〜F
樹脂A:スチレン−nブチルアクリレート重合体
(計算SP:9.77、計算屈折率:1.52、Tg:60℃、粒子径:0.1μm)
樹脂B:エチレンメタクリレートブチルアクリレート重合体
(計算SP:9.69、計算屈折率:1.43、Tg:60℃、粒子径:0.2μm)
樹脂C:スチレン−エチルメタアクリレート重合体(計算SP:9.72、計算屈折率:1.48)、Tg:60℃、粒子径:0.3μm)
樹脂D:スチレン−2エチルヘキシルアクリレート−メタアクリレート
(計算SP:9.62、計算屈折率:1.55、Tg:60℃、粒子径:0.1μm)
樹脂E:メチルメタクリレート−エチルアクリレート重合体
(計算SP:10.5、計算屈折率:1.43、Tg:60℃、粒子径:0.2μm)
樹脂F:ポリスチレン
(計算SP:9.90、計算屈折率:1.60、Tg:100℃)
【0051】
金属塩
塩A:酢酸塩
塩P:リン酸塩
塩C:炭酸塩
塩N:硝酸塩
H:水酸化物
【0052】
金属イオンの配合比(A、B、C、D)
パターンA:Mg2+/Mn2+/Al3+/Men+=1/1/1/0
パターンB:Mg2+/Mn2+/Al3+/Men+=1/1/1/1
パターンC:Mg2+/Mn2+/Al3+/Men+=2/1/1/1
パターンD:Mg2+/Mn2+/Al3+/Meln+/Me2n+=1/1/1/1/1
【0053】
酸の種類
A:リン酸
B:酢酸
C:フッ酸
D:硝酸
【0054】
有機酸
A:トリカルバリル酸
B:クエン酸
C:コハク酸
【0055】
多価フェノールカルボン酸A〜B
樹脂A:タンニン酸
樹脂B:没食子酸
【0056】
シランカップリング剤
シランA:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
(KBM403:信越化学工業社製)
シランB:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
(KBM402:信越化学工業社製)
【0057】
金属酸化物
酸化物A:シリカ(SiO2
酸化物B:MgO
【0058】
各試験片について、平面部耐食性、色調変化、光沢値、ブロッキング性、耐曲げ性、耐指紋性および耐傷つき性を、下記の試験方法に従って評価した。結果を表3に示す。
【0059】
<平板部耐食性>
試験片を50mm×100mmの大きさに剪断後、端面部をシールし、塩水噴霧試験(JIS Z−2371)を行った。120時間後の白錆発生面積率を測定し、下記の評価基準に従って評価した。
◎:5%以下
○:5%超 10%以下
△:10%超 20%以下
×:20%超
【0060】
<色調変化>
黒色鋼板の表面に、塗料組成物を塗布する前後の色調(L*)の変化(ΔL*)を分光式色差計(“SQ2000”:日本電色社製)を用いて測定し、下記の評価基準に従って評価した。
◎:ΔL*が20未満
△:ΔL*が20以上 25以下
×:ΔL*が25超
【0061】
<光沢値>
黒色鋼板の表面に塗料組成物を塗布後の光沢(G値)を分光式色差計(“SQ2000”:日本電色社製)を用いて測定し、下記の評価基準に従って評価した。
◎:光沢 10超 30以下
△:光沢 5超 10以下
×:光沢 5以下
【0062】
<ブロッキング性>
皮膜面同士を内側にして重ね合わせた2枚の試験片を、2.94×105 N・mのトルクで締めつけた状態で、40℃の恒温槽に6時間浸漬した。その後、2枚の試験片を剥がし、剥がした際の粘着状況により耐ブロッキング性を下記の3段階の基準で評価した。
◎:粘着なし(試験片の自重により剥離)
△:若干粘着あり(試験片の自重により剥離しないが、容易に引き剥がし可能)
×:粘着あり(剥離困難)
【0063】
<耐曲げ性>
試験片を100mm×20mmに剪断後、OT曲げを実施し、曲げ部を実体顕微鏡(倍率20倍)で観察し、皮膜のクラックの有無を写真撮影して観察し、下記の基準で評価した。
◎:クラックなし
△:クラック若干あり(幅方向でクラック面積20%未満)
×:クラック発生大(幅方向でクラック面積20%以上)
【0064】
<耐指紋性>
試験片に白色ワセリンを塗布し、塗布前後の色調(L値、a値、b値)の変化を分光式色差計(“SQ2000”:日本電色社製)を用いて測定し、下記式で示されるΔEを求め、下記の基準で評価した。
ΔE=(ΔL2 +Δa2 +Δb2 1/2
【0065】
◎:ΔEが1以下
○:ΔEが1超 2以下
△:ΔEが2超 3以下
×:ΔEが3超
【0066】
<耐傷つき性>
試験片(20mm×200mm)について、荷重9.8MPa、摺動速度20mm/秒、摺動温度25℃の条件で摺動試験を行った後、表面を実体顕微鏡(倍率:10倍)で観察し、下記の基準で評価した。
◎:傷つきなし(巾方向で傷つき面積5%未満)
△:傷つき多め(巾方向で傷つき面積5%以上 20%未満)
×:傷つき多い(巾方向で傷つき面積20%以上)
【0067】
【表1】
Figure 0004729783
【0068】
【表2】
Figure 0004729783
【0069】
【表3】
Figure 0004729783
【0070】
【発明の効果】
本発明の黒色鋼板は、クロムを含有しない組成物を用いるため、クロムを含有しない、いわゆる無公害のノンクロメート表面処理鋼板であり、鋼板の処理工程および得られた表面処理鋼板の使用時に6価クロムの処理等の特別の廃水処理が不要である。また、特に耐食性に優れ、かつ白色化等の色調変化および低光沢化を引き起こさない、耐傷付き性および耐指紋性に優れたものである。

Claims (2)

  1. 黒色化処理されたZn−Niめっき鋼板の表面に、金属イオン、水分散性有機樹脂および酸を含む金属表面処理組成物を塗布して形成された皮膜層を有する黒色鋼板であって、前記水分散性有機樹脂がカルボキシル基および水酸基を含有しない不飽和単量体と、カルボキシル基含有単量体を、それぞれ1種もしくは2種以上共重合して得られる共重合体であって、下記(a)、(b)および(c)の条件を満足し、
    前記金属イオンとして、Alイオン、MgイオンおよびMnイオンの3種を含有し、
    前記酸が、リン酸、酢酸、硝酸およびフッ酸から選ばれる少なくとも1種であり、
    前記金属表面処理組成物の固形分に占める前記金属イオンの含有量が0.1〜20質量%であり、
    前記金属表面処理組成物の固形分に占める前記水分散性有機樹脂の含有量が50〜98質量%であり、
    前記金属表面処理組成物の固形分に占める前記酸の含有量が1〜20質量%であることを特徴とする黒色鋼板。
    (a)ガラス転移温度:20〜80℃
    (b)溶解度パラメータ:9.8以下
    (c)屈折率:1.55以下
  2. 前記金属表面処理組成物が、Zn,Co,Ti,Sn,Ni,Fe,Zr,Sr,Y,Nb,Cu,Ca,VおよびBaからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属のイオンをさらに含有し、前記金属表面処理組成物の固形分に占める金属イオンの含有量が0.1〜20質量%である請求項1に記載の黒色鋼板。
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