JP4726095B1 - 落下防止装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】レベル2地震動を超える地震動であっても、橋桁や橋梁等の上部構造の落下を効果的に抑制することができる落下防止装置を提供する。
【解決手段】上部構造2に接続される第一支持部21と、下部構造3に接続される第二支持部31と、第一支持部21及び第二支持部31に接続される連結部材4と、連結部材4の両端に配置され連結部材4の位置を固定するとともに衝撃を緩和する緩衝機構5と、緩衝機構5と第一支持部21との間に配置されるエネルギー吸収部材6と、エネルギー吸収部材6及び緩衝機構5を覆う保護部材7と、を備え、エネルギー吸収部材6は、低降伏点材により形成される筒部61と、筒部61に接続され緩衝機構5に当接する蓋部62と、を有する。
【選択図】図1

Description

本発明は、橋桁や橋梁等の上部構造が橋脚や橋台等の下部構造から落下することを防止する落下防止装置に関し、特に、大地震時に効果的に作用する落下防止装置に関する。
想定外の地振動の発生、周辺地盤の破壊、構造部材の予測しない振動等により、想定を超える地震力や変位又は変形が橋等の陸上構造物や海上構造物に生じる場合がある。かかる不測の事態が生じた場合であっても、橋桁や橋梁等の上部構造が橋脚や橋台等の下部構造から落下することを防止する必要があり、種々の落下防止装置が提案されている(特許文献1〜特許文献3)。なお、一般に、橋の落下防止装置を落橋防止装置と称する。
例えば、特許文献1には、橋桁の端部に固定された筒状部材と、前記筒状部材の内部に収容され、連結部材が挿通される筒状の緩衝部材とを備え、前記緩衝部材は内外周に内周テーパ面及び外周テーパ面を有し、前記内周テーパ面と前記連結部材との間に内側環状空隙が形成され、前記外周テーパ面と前記筒状部材の内周との間に外側環状空隙が形成され、前記連結部材に作用する衝撃力により、前記緩衝部材が半径方向に膨出可能となっていることを特徴とする落橋防止装置が開示されている。かかる落橋防止装置では、緩衝部材に所定の空隙を形成することにより、緩衝部材の緩衝効果を高め、安全性の向上を図っている。
また、特許文献2には、橋桁の端部に設けられ連結ケーブルが挿通される挿通孔を有するブラケットと、このブラケットから突出する連結ケーブルの端部に固定されたストッパとを備え、前記ブラケットと前記ストッパとの間の連結ケーブルの外周に、互いに隣接するものどうしが逆向きとなるように多数の皿ばね状部材を嵌合配置し、前記各皿ばね状部材は、互いに隣接するものどうしが当接する外周縁が平坦面に形成されていることを特徴とする落橋防止装置が開示されている。また、皿ばね状部材には、降伏後の延びが大きいSS400等の低降伏点鋼が用いられる旨も開示されている。かかる落橋防止装置では、橋桁の変位が小さい通常の地震時にはコイルスプリングが作用し、橋桁の変位が大きい大地震時には皿ばね状部材が作用するように構成されている。皿ばね状部材は、降伏点に達した後、塑性変形して地震のエネルギーを吸収する。
また、特許文献3には、橋桁と橋桁又は橋桁と下部工からなる連結対象どうしを橋軸に沿う垂直平面上で相対変位可能に連結する第1、第2連結手段を有し、上記第2連結手段が、上記第1連結手段と比べて、降伏耐力又は降伏点が小さく降伏後の伸びが大きい部材を主要構成とし、しかも変位許容範囲が小さいことを特徴とする橋桁の落橋防止装置が開示されている。かかる落橋防止装置では、大地震が起きたときに、第2連結手段によって地震エネルギーを吸収し、橋桁の連結状態を確実に維持できるようにしている。
特許第3124500号公報 特許第4145196号公報 特開2002−294627号公報
ところで、橋の耐震設計では、道路橋示方書によれば、橋の供用期間中に発生する確率が高い地震動(レベル1地震動)及び橋の供用期間中に発生する確率は低いが大きな強度をもつ地震動(レベル2地震動)の二段階のレベルの設計地震動を考慮しなければならないとされている。また、近年では、落橋防止装置の設計に際し、レベル2地震動を超える地震動(以下、本明細書において「レベル3地震動」という。)を考慮することが好ましいとされている。
しかしながら、特許文献1に記載された落橋防止装置では、緩衝部材の緩衝力を向上させることにより装置の小型化を図ることはできるものの、レベル3地震動に耐え得る構造にはなっていなかった。
また、特許文献2に記載された落橋防止装置では、複数の皿ばね状部材を塑性変形させることにより、地震エネルギーを吸収しているが、皿ばね状部材は、弾性力により変形して最大限圧縮された後に塑性変形されるため、塑性変形できる軸方向の長さが短く、地震エネルギーを効果的に吸収することができないという問題があった。
また、特許文献3に記載された落橋防止装置では、降伏耐力又は降伏点が小さく降伏後の伸びが大きい第2連結手段により、地震エネルギーを吸収することができ、レベル3地震動に耐え得る構造が提供されるものの、第2連結手段が露出しており、風雨に曝されてしまうことから、錆びが生じ易く、経年劣化が早いという問題があった。
また、上述したこれらの問題は、落橋防止装置に限られるものではなく、橋以外の陸上構造物や海上構造物における落下防止装置においても同様に生じ得る問題である。
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、レベル2地震動を超える地震動であっても、橋桁や橋梁等の上部構造の落下を効果的に抑制することができる落下防止装置を提供することを目的とする。
本発明によれば、一端が上部構造に接続され、他端が下部構造に接続され、前記上部構造の前記下部構造からの落下を防止する落下防止装置であって、前記上部構造に接続される第一支持部と、前記下部構造に接続される第二支持部と、前記第一支持部及び前記第二支持部に接続される連結部材と、該連結部材の両端に配置され前記連結部材の位置を固定するとともに衝撃を緩和する緩衝機構と、該緩衝機構と前記第一支持部又は前記第二支持部との間に配置されるエネルギー吸収部材と、該エネルギー吸収部材及び前記緩衝機構を覆う保護部材と、を備え、前記緩衝機構は、前記連結部材の端部に配置された緩衝材と、該緩衝材の背面に配置されたコイルスプリングと、を有し、前記エネルギー吸収部材は、低降伏点金属により形成される筒部と、該筒部に接続され前記緩衝材に当接する蓋部と、を有する、ことを特徴とする落下防止装置が提供される。
前記エネルギー吸収部材は、例えば、レベル2地震動を超える地震動が発生した場合に相当する力が作用した場合に、塑性変形して地震エネルギーを吸収する部材である。
前記コイルスプリングの長さ又は弾性力を調節することにより、レベル2地震動を超える地震動が発生した場合又はレベル2地震動以下の地震動が発生した場合に、前記エネルギー吸収部材に対して塑性変形し得る力が作用するように構成してもよい。
前記筒部は、前記第一支持部又は前記第二支持部に当接する底部を有していてもよいし、内部に同心上に配置された内筒部を有していてもよい。
前記連結部材の長さを延長する延長部材と、該延長部材及び前記連結部材を連結する結合部材と、前記連結部材の延長部分に挿通されるスペーサと、を有していてもよい。
前記第一支持部は、前記上部構造に接続される固定部と、該固定部に回動可能に接続された揺動部と、を有し、該揺動部に前記連結部材が接続されていてもよい。
前記上部構造は、例えば、橋桁又は橋梁であってもよいし、前記下部構造は、例えば、橋脚又は橋台であってもよい。
上述した本発明に係る落下防止装置によれば、低降伏点金属により形成されたエネルギー吸収部材を緩衝機構と第一支持部又は第二支持部との間に配置したことにより、レベル2地震動を超える地震動であっても、エネルギー吸収部材の塑性変形によって、橋桁や橋梁等の上部構造の落下を効果的に抑制することができる。また、エネルギー吸収部材を筒形状に形成したことにより、エネルギー吸収部材の変形できる軸方向の長さを任意に設定することができ、地震エネルギーを効果的に吸収することができる。また、エネルギー吸収部材を保護部材の中に封入したことにより、エネルギー吸収部材を風雨から保護することができ、錆びの発生を抑制し、経年劣化の進行を抑制することができる。
本発明の第一実施形態に係る落下防止装置の全体構成図である。 図1に示した落下防止装置の部分拡大図であり、(a)は平常時、(b)は変形時、を示している。 図1に示した落下防止装置の作用を示す図であり、(a)は平常時、(b)はレベル1地震動時、(c)はレベル2地震動時、(d)はレベル3地震動時、を示している。 図1に示したエネルギー吸収部材の変形例を示す図であり、(a)は第一変形例、(b)は第二変形例、(c)は第三変形例、(d)は第四変形例、を示している。 本発明の第二実施形態に係る落下防止装置を示す図であり、(a)は部分拡大図、(b)はスペーサの変形例、(c)は図5(b)におけるC−C断面矢視図、を示している。 本発明の第三実施形態に係る落下防止装置を示す図であり、(a)は全体構成図、(b)は変形例、を示している。 図6(a)に示した落下防止装置の据付方法を示す図であり、(a)は支持部設置工程、(b)は第一支持部挿通工程、(c)は第二支持部挿通工程、(d)連結部材固定工程、を示している。
以下、本発明の落下防止装置に係る第一実施形態について、図1〜図3を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の第一実施形態に係る落下防止装置の全体構成図である。図2は、図1に示した落下防止装置の部分拡大図であり、(a)は平常時、(b)は変形時、を示している。図3は、図1に示した落下防止装置の作用を示す図であり、(a)は平常時、(b)はレベル1地震動時、(c)はレベル2地震動時、(d)はレベル3地震動時、を示している。
本発明の第一実施形態に係る落下防止装置1は、図1及び図2に示したように、一端が上部構造2に接続され、他端が下部構造3に接続され、上部構造2の下部構造3からの落下を防止する落下防止装置であって、上部構造2に接続される第一支持部21と、下部構造3に接続される第二支持部31と、第一支持部21及び第二支持部31に接続される連結部材4と、連結部材4の両端に配置され連結部材4の位置を固定するとともに衝撃を緩和する緩衝機構5と、緩衝機構5と第一支持部21との間に配置されるエネルギー吸収部材6と、エネルギー吸収部材6及び緩衝機構5を覆う保護部材7と、を備え、エネルギー吸収部材6は、低降伏点金属により形成される筒部61と、筒部61に接続され緩衝機構5に当接する蓋部62と、を有する。
前記上部構造2及び前記下部構造3は、例えば、橋等の陸上構造物や海上構造物を構成する構造物の総称であり、下部構造3の上に上部構造2が配置された位置関係を有する。以下、落下防止装置1が落橋防止装置の場合を前提として説明する。すなわち、以下の説明において、上部構造2は橋桁や橋梁等を意味し、下部構造3は橋脚や橋台等を意味する。落下防止装置1は、かかる上部構造2と下部構造3とを連結部材4で連結することにより、上部構造2の地震時における相対移動を制限し、下部構造3からの落下を防止する。特に、本実施形態に係る落下防止装置1は、レベル2地震動を超える地震動、すなわち、レベル3地震動が生じた際に効果的に作用する。
上部構造2と下部構造3との間には、落下防止装置1の他に、主として、レベル2地震動以下の地震によるエネルギーを吸収する支承32、伸縮装置33、変位制限装置34等が配置されることが多い。下部構造3は、上部構造2を載置する支持面3aと、上部構造2の側面に沿って形成された壁面3bと、を有し、支持面3aには、ゴム製の支承32が配置され、支承32の上に上部構造2が載置される。また、壁面3bと上部構造2との間には伸縮装置33が配置される。かかる支承32の歪み及び伸縮装置33の伸縮により地震時における上部構造2のエネルギーが吸収される。さらに、支持面3aには、変位制限装置34も配置される。変位制限装置34は、支持面3aに立設された鋼棒を上部構造2の底面に形成された凹部に挿通することによって形成される。変位制限装置34は、鋼棒が凹部の壁部に押し付けられることによって物理的に上部構造2の移動を拘束する。支持面3aには、支承32が破壊した際に生じる上部構造2の落差をなくすための段差防止部材を配置するようにしてもよい。また、上部構造2と下部構造3との係止部分の長さ(係止長さ)を桁かかり長Sと称する。
また、上部構造2には第一支持部21が設置され、下部構造3には第二支持部31が設置されている。第一支持部21及び第二支持部31は、例えば、複数の鋼板により構成されたブラケットであり、それぞれ、連結部材4に対して略垂直に配置された垂直プレート21a,31aを有する。かかる第一支持部21及び第二支持部31には、従来から使用されているものをそのまま使用することができ、例えば、連結部材4の外周を囲うような箱状に形成されていてもよいし、連結部材4を支持する偏向具を備えていてもよい。なお、第一支持部21及び第二支持部31を上部構造2及び下部構造3に固定するアンカーについては、図を省略してある。
また、図1では、上部構造2の底部に第一支持部21を設置し、下部構造3の側面部に第二支持部31を設置しているが、上部構造2の側面部に第一支持部21を設置してもよいし、第一支持部21及び第二支持部31は略水平となる位置に設置してもよい。
前記連結部材4は、上部構造2と下部構造3とを連結する部材であり、例えば、PCケーブルにより構成される。PCケーブルは、プレストレストコンクリート構造物の緊張材として用いる鋼線である。本実施形態における連結部材4には、従来から使用されている連結部材を使用することができ、PCケーブルに限定されるものではなく、鋼棒やチェーン等であってもよい。
連結部材4の一端は、第一支持部21の垂直プレート21aに形成された貫通孔に挿通され、垂直プレート21aの背面に配置されたエネルギー吸収部材6及び緩衝機構5を介してナット8により固定されている。緩衝機構5は、硬質ゴム等により形成される緩衝材51と、緩衝材51の背面に接続された止圧板52と、止圧板52の背面に配置されたコイルスプリング53と、コイルスプリング53の位置を固定する止め部材54と、を有する。緩衝機構5を構成する各部品は連結部材4の一端に挿通され、ナット8により締め付けられて固定される。かかる緩衝機構5により、連結部材4が軸方向に移動した際に生じる衝撃が緩和される。特に、コイルスプリング53は、連結部材4の大きな移動に対して作用し、緩衝材51は、コイルスプリング53が圧縮された際の衝撃に対して作用する。
連結部材4の他端は、第二支持部31の垂直プレート31aに形成された貫通孔に挿通され、垂直プレート31aの背面に配置された緩衝機構5´を介してナット8により固定されている。緩衝機構5´は、硬質ゴム等により形成される緩衝材51´と、緩衝材51´の背面に接続された止圧板52´と、止圧板52´の位置を固定する止め部材54´と、を有する。緩衝機構5´を構成する各部品は連結部材4の他端に挿通され、ナット8により固定される。かかる緩衝機構5´により、連結部材4が軸方向に移動した際に生じる衝撃が緩和される。一般に、コイルスプリング53は、緩衝機構5又は緩衝機構5´のいずれか一方に配置されていればよく、第一支持部21側に配置されることが多い。なお、連結部材4の他端には、緩衝機構5´を覆う保護カバーを配置するようにしてもよい。
前記エネルギー吸収部材6は、緩衝機構5と第一支持部21との間に配置されるとともに低降伏点金属により形成される部材である。エネルギー吸収部材6は、例えば、図2(a)に示したように、低降伏点金属により形成される筒部61と、筒部61に接続され緩衝機構5に当接する蓋部62と、を有する。
筒部61は、例えば、低降伏点鋼やアルミニウム合金等の低降伏点金属により円筒状に形成される。低降伏点金属は、一般構造用圧延鋼材や溶接構造用圧延鋼材に比べ降伏点が低い金属である。特に、低降伏点鋼は、添加元素を極力低減した純鉄に近い鋼材であり、従来の軟鋼と比較して強度が低く、延性が極めて高い鋼材である。かかる性質を有する低降伏点金属を連結部材4の固定部に配置することにより、図2(b)に示したように、第一支持部21と緩衝機構5との間で筒部61が塑性変形(例えば、降伏又は座屈)してダンパーとして作用し、地震エネルギーを吸収することができる。
エネルギー吸収部材6のエネルギー吸収量は、筒部61の材質、板厚、径の大きさ、軸方向長さ等の条件を調整することにより任意に設定することができ、例えば、レベル2地震動を超える地震動が発生した場合に塑性変形(例えば、降伏又は座屈)するように調整される。すなわち、エネルギー吸収部材6は、レベル2地震動を超える地震動が発生した場合に相当する力が作用した場合に、塑性変形して地震エネルギーを吸収する部材である。なお、筒部61が降伏するか、座屈(例えば、屈服座屈)するかは、筒部61の板厚に対する軸方向長さによって変化し、一般に、軸方向長さが短い場合に降伏し、長い場合に座屈することとなる。本実施形態において、降伏又は座屈を明確に区別する必要はなく、必要となるエネルギー吸収量及び筒部61の形状から、作用しやすい方を適宜選択すればよい。
筒部61の長さLは、例えば、上部構造2及び下部構造3の桁かかり長S(係止長さ)の0.75倍以下に設定される。このように、筒部61をL≦0.75×Sの条件を満足するように設計することにより、筒部61が塑性変形した場合であっても、支持面3a上に道路橋示方書に基づく0.25×S以上の余裕を残した状態で、上部構造2と下部構造3との相対移動を防止し、上部構造2の下部構造3からの落下を抑制することができる。
蓋部62は、筒部61よりも強度が高い、一般構造用圧延鋼材や溶接構造用圧延鋼材により構成され、連結部材4を挿通する開口部を有する。蓋部62は、緩衝機構5の緩衝材51を支持する円板形状の部材である。かかる蓋部62と緩衝材51との接触により、地震等によって連結部材4に生じる力が略均等に筒部61に伝達される。なお、蓋部62は、筒部61に溶接するようにしてもよい。
なお、図1では、エネルギー吸収部材6を第一支持部21側に配置した場合を図示したが、第一支持部21側に配置できないような場合には、第二支持部31側に配置するようにしてもよい。この場合、緩衝機構5´もコイルスプリング53を有する緩衝機構5に変更することが好ましい。
前記保護部材7は、エネルギー吸収部材6及び緩衝機構5を覆うカバー部材又はキャップである。かかる保護部材7を配置することにより、少なくともエネルギー吸収部材6を風雨から保護することができ、エネルギー吸収部材6の錆びの発生や経年劣化の進行を抑制することができる。なお、エネルギー吸収部材6の表面に防錆塗料を塗布するようにしてもよい。
ここで、上述した落下防止装置1の作用について、図3を参照しつつ説明する。図3(a)は、地震が生じていない平常時を示している。かかる平常時は、落下防止装置1には大きな負荷が生じておらず、エネルギー吸収部材6は、図2(a)に示したように、塑性変形していない状態になっている。なお、説明の便宜上、橋軸方向Xにおいて、平常時における上部構造2の位置を原点(0地点)とする。
図3(b)は、レベル1地震動が生じた状態を示している。レベル1地震動は、いわゆる中小規模の地震に相当する。レベル1地震動が生じた場合には、主として、支承32、伸縮装置33及び変位制限装置34によって、地震エネルギーが吸収される。具体的には、図示したように、地震エネルギーによって、支承32は歪み、伸縮装置33は伸縮し、変位制限装置34の鋼棒は上部構造2に押し付けられ、これらの作用により地震エネルギーが吸収される。また、落下防止装置1において、地震の揺れによって生じる変位X及び衝撃は、主として、緩衝機構5のコイルスプリング53によって吸収される。
図3(c)は、レベル2地震動が生じた状態を示している。レベル2地震動は、いわゆる大規模の地震に相当する。レベル2地震動が生じた場合には、主として、支承32、変位制限装置34及び落下防止装置1によって、地震エネルギーが吸収される。具体的には、図示したように、地震エネルギーによって、支承32は大きく歪み(場合によっては破壊される。)、伸縮装置33は破壊され、変位制限装置34の鋼棒は上部構造2に押し付けられて塑性変形し、落下防止装置1の連結部材4が上部構造2及び下部構造3の間で緊張し、これらの作用により地震エネルギーが吸収される。このとき、落下防止装置1に生じる衝撃及び変位Xは緩衝機構5,5´によって吸収される。また、レベル2地震動以下の地震では、エネルギー吸収部材6は塑性変形しないため、図3(c)の状態では、エネルギー吸収部材6はまだ降伏も座屈もしていない。
図3(d)は、レベル2地震動を超えるレベル3地震動が生じた状態を示している。レベル3地震動が生じた場合には、主として、落下防止装置1によって、地震エネルギーが吸収される。図示したように、地震エネルギーによって、支承32及び変位制限装置34はさらに大きく歪み(場合によっては破壊される。)、上部構造2が下部構造3の支持面3aから落下しないように、落下防止装置1が作用する。すなわち、レベル3地震動が生じた場合に、エネルギー吸収部材6は、変位Xから変位Xの範囲内において、図2(b)に示したように、塑性変形して地震エネルギーを吸収する。
エネルギー吸収部材6は、図2に示したように、長さLの範囲内で塑性変形し、それ以上の連結部材4の移動を制限する。したがって、連結部材4は、最大でも筒部61の長さLだけ延長された状態を維持するように構成されており、上部構造2の橋軸方向X(水平方向)の移動は変位Xに制限される。ここで、道路橋示方書によれば、(S−X)≧0.25×Sとなるように設計される。したがって、筒部61の長さLは、0.75×S以下となるように設定され、好ましくは、橋軸方向Xに投影した筒部61の長さが0.75×S以下となるように設定され、さらに好ましくは、橋軸方向Xに投影した筒部61の長さが(0.75×S−X)以下となるように設定される。
本実施形態に係る落下防止装置1では、低降伏点金属により形成されたエネルギー吸収部材6を配置したことにより、レベル2地震動を超える地震動であっても、エネルギー吸収部材6の塑性変形によって、橋桁や橋梁等の上部構造2の落下を効果的に抑制することができる。また、エネルギー吸収部材6を筒形状に形成したことにより、エネルギー吸収部材6の変形できる軸方向の長さLを任意に設定することができ、地震エネルギーを効果的に吸収することができ、上部構造2の落下を効果的に抑制することができる。
上述した第一実施形態では、エネルギー吸収部材6は、レベル2地震動を超える地震動が発生した場合に相当する力が作用した場合に、塑性変形して地震エネルギーを吸収する部材であるところ、図3(d)に示したように、レベル2地震動を超える地震動が発生した場合にエネルギー吸収部材6が塑性変形するように調整されている。
ところで、このエネルギー吸収部材6に作用する力は、コイルスプリング53の長さ又は弾性力を調整することにより、変更することができる。例えば、第一実施形態に示したナット8を締め付けてコイルスプリング53の長さを変更したり、長さの短いコイルスプリング53に変更したり、第一実施形態に示したコイルスプリング53よりも弾性力が低いものに変更したりすることにより、早い段階で緩衝機構5が効かなくなる状態にして、エネルギー吸収部材6に高い負荷をかけることができる。したがって、レベル2地震動以下の地震動が発生した場合であっても、エネルギー吸収部材6に対して、レベル2地震動を超える地震動が発生した場合に相当する力を作用させることができ、塑性変形させることができる。
このように、レベル2地震動以下の地震動が生じた際に、エネルギー吸収部材6を塑性変形可能にした場合には、より早い段階から地震エネルギーを吸収することができ、例えば、支承32、伸縮装置33、変位制限装置34等の一部を省略したり、小型化又は簡略化したり、地震動による支承32、伸縮装置33、変位制限装置34等の破壊を抑制することができる。
すなわち、本実施形態に係る落下防止装置1では、緩衝機構5はコイルスプリング53を有し、コイルスプリング53の長さ又は弾性力を調節することにより、レベル2地震動を超える地震動が発生した場合又はレベル2地震動以下の地震動が発生した場合に、エネルギー吸収部材6に対して塑性変形し得る力が作用するように構成されている。
次に、上述したエネルギー吸収部材6の変形例について、図4を参照しつつ説明する。ここで、図4は、図1に示したエネルギー吸収部材の変形例を示す図であり、(a)は第一変形例、(b)は第二変形例、(c)は第三変形例、(d)は第四変形例、を示している。なお、上述した第一実施形態と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。
図4(a)に示した第一変形例は、筒部61が第一支持部21に当接する底部63を有するものである。かかる底部63を配置することにより、エネルギー吸収部材6と第一支持部21の垂直プレート21aとの間で広い接触面積を確保することができ、筒部61に対して、より均等に抗力を負荷することができる。底部63は、蓋部62と同様に、一般構造用圧延鋼材や溶接構造用圧延鋼材により構成され、連結部材4を挿通する開口部を有する。なお、底部63は、筒部61に溶接するようにしてもよい。
図4(b)に示した第二変形例は、底部63の表面に緩衝材64を配置したものである。底部63及び第一支持部21の垂直プレート21aは、いずれも鋼材により構成されているため、寸法誤差や歪み等により接触面が安定しない場合も想定され得る。そこで、底部63と垂直プレート21aとの間に緩衝材64を配置して、筒部61に対して、より均等に抗力を負荷することができるようにしてもよい。緩衝材64は、例えば、緩衝材51と同様の硬質ゴムにより構成される。
図4(c)に示した第三変形例は、筒部61が内部に同心上に配置された内筒部65を有するものである。内筒部65は、筒部61よりも径が小さく、筒部61と同心上に配置される。また、内筒部65の板厚は、筒部61の板厚と同じであることが好ましいが、それよりも厚くても薄くてもよい。また、筒部61は、径の大きさの異なる複数の内筒部65を有していてもよい。内筒部65の径は、例えば、筒部61の径に対して均等な間隔となるように設定される。また、内筒部65の板厚や径の大きさは、具体的には、筒部61が塑性変形する際に、均等に負荷がかかって所定の地震エネルギーを吸収できるように設定される。
図4(d)に示した第四変形例は、筒部61を多角形状に形成したものである。筒部61は、円筒形状に限定されるものではなく、図示したような六角形状であってもよいし、四角形状、五角形状、八角形状等の多角形状であってもよい。また、図示しないが、筒部61は、波板を筒状に形成したものであってもよい。
次に、上述した落下防止装置1の他の実施形態について説明する。ここで、図5は、本発明の第二実施形態に係る落下防止装置を示す図であり、(a)は部分拡大図、(b)はスペーサの変形例、(c)は図5(b)におけるC−C断面矢視図、を示している。図6は、本発明の第三実施形態に係る落下防止装置を示す図であり、(a)は全体構成図、(b)は変形例、を示している。なお、上述した第一実施形態と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。
図5(a)に示した第二実施形態は、連結部材4の長さを延長する延長部材41と、延長部材41及び連結部材4を連結する結合部材42と、連結部材4の延長部分に挿通されるスペーサ43と、を有する。かかる第二実施形態は、エネルギー吸収部材6を配置する際に連結部材4の長さが不足する場合に適用される。
延長部材41は、例えば、鋼棒又は連結部材4と同じPCケーブルにより構成される。結合部材42は、例えば、両端部に螺子穴が形成されたカプラーであり、一端に連結部材4が螺合され、他端に延長部材41が螺合される。また、結合部材42は、延長部材41に予め接続された定着部であってもよい。
かかる延長部材41及び結合部材42により、連結部材4の長さを延長した場合、コイルスプリング53だけでは延長部分を埋めることはできないため、スペーサ43を使用する。スペーサ43は、略円筒形状を有し、例えば、止圧板52とコイルスプリング53との間に配置される。図5(a)に示したスペーサ43は、コイルスプリング53が配置される側に蓋部43aを有し、コイルスプリング53を支持できるように構成されている。一方、止圧板52が配置される側は、止圧板52が円板形状を有するため、蓋部を配置する必要はないが、スペーサ43の強度等を考慮して蓋部を設けるようにしてもよい。また、スペーサ43の周面には、開口部43bが形成されている。開口部43bを形成することにより、開口部43bを介して、結合部材42の着脱作業を行うことができる。
図5(b)及び(c)にスペーサ43の変形例を示す。かかるスペーサ43は、両端に配置された蓋部43aと、蓋部43aの間に配置された複数の柱状部材43cと、を有する。かかる構成によっても、図5(a)と同様に、開口部43bを有するスペーサ43を形成することができる。かかるスペーサ43は、いわゆるラムチェアー(台座又は受台)と称することもできる。
上述した第二実施形態に係る落下防止装置1では、第一実施形態と同様の効果を奏するとともに、例えば、既設の落下防止装置1において、連結部材4にエネルギー吸収部材6を配置する余裕がない場合であっても、延長部材41によって連結部材4を延長することができ、エネルギー吸収部材6を配置する余裕を形成することができる。
図6に示した第三実施形態は、第一支持部21が、上部構造2に接続される固定部22と、固定部22に回動可能に接続された揺動部23と、を有し、揺動部23に連結部材4が接続されたものである。その他の構成(例えば、緩衝機構5やエネルギー吸収部材6等)については、第一実施形態と同様であるため、詳細な説明を省略する。揺動部23は、固定部22にピン結合されており、図示したように、橋軸方向に回動可能に構成されている。なお、ピン結合に替えて、ユニバーサルジョイント等を利用してもよい。
ここで、図7は、図6(a)に示した落下防止装置の据付方法を示す図であり、(a)は支持部設置工程、(b)は第一支持部挿通工程、(c)は第二支持部挿通工程、(d)連結部材固定工程、を示している。
図7(a)に示した支持部設置工程は、第一支持部21を上部構造2に設置し、第二支持部31を下部構造3に設置する工程である。このとき、第一支持部21は、重力により、揺動部23が固定部22に対して釣り合いが取れた状態(例えば、略水平状態)になっている。なお、第一支持部21及び第二支持部31を固定するアンカーの図は省略してある。
図7(b)に示した第一支持部挿通工程は、第一支持部21の揺動部23に連結部材4の一端を挿通する工程である。連結部材4は、第一支持部21の揺動部23に第二支持部31側から挿通される。このとき、揺動部23は、固定部22に対して回動可能であるため、任意の角度に変更することができる。したがって、例えば、図1に示した第一支持部21と上部構造2との間に連結部材4を引き込む余裕がない場合であっても、第三実施形態を採用することにより、図7(b)に示したように、揺動部23を略水平にした状態で連結部材4の一端を挿通して引き込むことができる。
また、図1に示した第一支持部21では、垂直プレート21aが連結部材4に対して垂直となるように位置決めする必要があるが、第三実施形態における第一支持部21によれば、揺動部23が任意の角度に回動できるため、かかる位置決めをする必要がなく、容易に第一支持部21を設置することができる。
図7(c)に示した第二支持部挿通工程は、第二支持部31に連結部材4の他端を挿通する工程である。連結部材4は、第二支持部31の垂直プレート31aに形成された貫通孔に第一支持部21側から挿通される。このとき、第一支持部21の揺動部23は任意に回動させることができるため、連結部材4を第一支持部21に挿通した状態で、容易に連結部材4の他端を第二支持部31の垂直プレート31aに挿通することができる。
図7(d)に示した連結部材固定工程は、連結部材4を第一支持部21及び第二支持部31に固定する工程である。連結部材4の第一支持部21側の端部には、エネルギー吸収部材6及び緩衝機構5が挿通され、ナット8が締め付けられて固定される。その後、エネルギー吸収部材6及び緩衝機構5を覆う保護部材7が第一支持部21に固定される。また、連結部材4の第二支持部31側の端部には、緩衝機構5´が挿通され、ナット8が締め付けられて固定される。
また、図6(b)に示した第三実施形態の変形例のように、第二支持部31をユニバーサルジョイント等により回動可能に構成するようにしてもよい。かかる構成により、図1に示した第二支持部31の垂直プレート31aの位置決めをする必要がなく、容易に第二支持部31を設置することができ、容易に連結部材4を接続することができる。具体的には、第二支持部31は、下部構造3に接続される固定部35と、固定部35に回動可能に接続された揺動部36と、を有し、揺動部36に連結部材4が接続される。揺動部36は、ユニバーサルジョイント等の自在継手により固定部35に接続されており、上下方向及び左右方向に任意に回動できるように構成される。かかる構成により、連結部材4の角度や第一支持部21と第二支持部31との橋幅方向のズレを容易に吸収することができる。
なお、図6(b)に示した第三実施形態の変形例では、緩衝機構5´を図示していないが、緩衝機構5´は、揺動部36と連結部材4との接続部に配置してもよいし、固定部35と揺動部36との接続部に配置してもよいし、緩衝機構5´の機能を第一支持部21側の緩衝機構5に持たせるようにしてもよい。
本発明は上述した実施形態に限定されず、橋以外の陸上構造物や海上構造物にも適用することができる等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
1 落下防止装置
2 上部構造
3 下部構造
4 連結部材
5,5´ 緩衝機構
6 エネルギー吸収部材
7 保護部材
21 第一支持部
22 固定部
23 揺動部
31 第二支持部
41 延長部材
42 結合部材
43 スペーサ
53 コイルスプリング
61 筒部
62 蓋部
63 底部
65 内筒部

Claims (8)

  1. 一端が上部構造に接続され、他端が下部構造に接続され、前記上部構造の前記下部構造からの落下を防止する落下防止装置であって、
    前記上部構造に接続される第一支持部と、前記下部構造に接続される第二支持部と、前記第一支持部及び前記第二支持部に接続される連結部材と、該連結部材の両端に配置され前記連結部材の位置を固定するとともに衝撃を緩和する緩衝機構と、該緩衝機構と前記第一支持部又は前記第二支持部との間に配置されるエネルギー吸収部材と、該エネルギー吸収部材及び前記緩衝機構を覆う保護部材と、を備え、
    前記緩衝機構は、前記連結部材の端部に配置された緩衝材と、該緩衝材の背面に配置されたコイルスプリングと、を有し、
    前記エネルギー吸収部材は、低降伏点金属により形成される筒部と、該筒部に接続され前記緩衝材に当接する蓋部と、を有する、
    ことを特徴とする落下防止装置。
  2. 前記エネルギー吸収部材は、レベル2地震動を超える地震動が発生した場合に相当する力が作用した場合に、塑性変形して地震エネルギーを吸収する部材である、ことを特徴とする請求項1に記載の落下防止装置。
  3. 前記コイルスプリングの長さ又は弾性力を調節することにより、レベル2地震動を超える地震動が発生した場合又はレベル2地震動以下の地震動が発生した場合に、前記エネルギー吸収部材に対して塑性変形し得る力が作用するように構成した、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の落下防止装置。
  4. 前記筒部は、前記第一支持部又は前記第二支持部に当接する底部を有する、ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の落下防止装置。
  5. 前記筒部は、内部に同心上に配置された内筒部を有する、ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の落下防止装置。
  6. 前記連結部材の長さを延長する延長部材と、該延長部材及び前記連結部材を連結する結合部材と、前記連結部材の延長部分に挿通されるスペーサと、を有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の落下防止装置。
  7. 前記第一支持部は、前記上部構造に接続される固定部と、該固定部に回動可能に接続された揺動部と、を有し、該揺動部に前記連結部材が接続されている、ことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の落下防止装置。
  8. 前記上部構造は橋桁又は橋梁であり、前記下部構造は橋脚又は橋台である、ことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の落下防止装置。
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