以下、図面を参照して本発明の実施の形態を具体的に説明する。各図面を通して、同一の部分または対応する部分には、同一の符号を付与している。
図1は本発明の両面記録装置の一実施形態の全体構成を示す斜視図であり、図2は図1の矢印A方向から見た、記録装置の全体構成を示す側断面図である。なお、本実施形態の両面記録装置は、被記録媒体に向けてインクを吐出して記録を行うインクジェット記録方式を採用した記録装置である。被記録媒体としては、紙、プラスチックシート、布、金属シート、あるいは板状部材など、種々の材質からなる記録用シート材4が用いられる。
図1および図2に示すように、本実施形態の両面記録装置の基本構成、すなわち記録ユニット本体(記録装置本体)1は、ベース72およびシャーシ10と、給紙部と、シート材搬送部と、記録部と、メンテナンス部と、電気制御部と、シート材反転部(「自動反転部」または「自動両面ユニット」とも言う)2と、各種リフト機構からなる。
本実施形態では、給紙部から1枚ずつ供給された記録用シート材を、シート材搬送部によって記録部に搬送し、その第1の面(表側の面)に記録を行った後、シート材搬送部が記録用シート材を逆方向に搬送してシート材反転部に送り、シート材反転部が記録用シート材を表裏反転させてから再度記録部へ搬送し、第2の面(裏側の面)に記録を行う。そして、リフト機構等によって、表面側の記録時と裏側の面側の記録時とで、記録部と記録用シート材の間の間隔を変えることができるものである。
[給紙部]
給紙部は、後述する圧板41上に積載された複数枚の記録用シート材4から、記録動作ごとに1枚ずつ記録用シート材4を引き出してシート材搬送部に送る自動給紙部、すなわちメインASF(Automatic Sheet Feeder)37である。このメインASF37は、図1,2に示すように、主に、土台となるASFベース38と、記録用シート材4を積載する圧板41と、圧板41上に移動可能に設けられているサイドガイド42と、圧板41上の記録用シート材4を送り出すための給紙ローラ39と、複数枚の記録用シート材4を1枚ずつに分離する分離ローラ40と、給紙動作時に給紙ローラ39と分離ローラ40のニップ部より先に進んでしまった記録用シート材4の先端を所定位置まで戻すための戻し爪43と、メインASF37からの記録用シート材4の進行方向を1方向に規制するASFフラップ44とを有している。
圧板41は、ASFモータ46に連結されている不図示のカムに当接しており、かつ不図示の圧板ばねによって給紙ローラ39に向けて付勢されている。従って、圧板41は、カムの作用によって、給紙ローラ39に当接する状態と、給紙ローラ39から離れた状態とをとり得る。
サイドガイド42は、記録用シート材4の幅方向の位置の基準となるものであり、記録すべき記録用シート材4の幅方向の位置ずれを防いで、所定の位置に給紙するための案内部材である。
分離ローラ40は、給紙ローラ39に圧接され、かつ記録用シート材4の搬送方向と逆方向に所定の戻り回転トルクを有しており、給紙ローラ39との間に複数の記録用シート材4が引き出されてしまった場合には、給紙ローラ39に接する記録用シート材4以外の記録用シート材4を元の圧板41へ向けて押し戻すことができる。
戻し爪43は、給紙動作終了時に分離ローラ40と給紙ローラ39の近傍に残っている記録用シート材4を、圧板41上の所定位置まで確実に押し戻すものである。
ASFフラップ44は、不図示のASFフラップばねによって、シート材経路を狭めるように付勢されている。ASFフラップ44は傾斜しており揺動可能であるため、記録用シート材4がシート材経路を正方向(給紙部から記録部へ向かう方向)へ通過することは許容し、逆方向(記録部から給紙部へ向かう方向)へ進入することは妨げる。
[シート材搬送部]
シート材搬送部は、図1,2に示すように、紙送りローラ(搬送ローラ)21と、ピンチローラ22と、ピンチローラホルダ23と、ピンチローラばね24と、紙送りローラプーリ25と、LFモータ(ラインフィードモータ)26と、コードホイール27と、プラテン29と、第1の排紙ローラ30および第2の排紙ローラ31と、第1の拍車列32および第2の拍車列33と、拍車ベース34と、ガイド部材(通紙ガイド)70を有している。
紙送りローラ(搬送ローラ)21は記録用シート材4を紙送り(搬送)するためのものであり、ピンチローラホルダ23に回転可能に保持されているピンチローラ22が、ピンチローラばね24によって紙送りローラ21に圧接されて従動する。紙送りローラプーリ25は紙送りローラ21に固定されており、紙送りローラ21はLFモータ26によって駆動され、紙送りローラ21の回転角度はコードホイール27によって検出される。プラテン29は、後述する記録ヘッド11に対向して記録用シート材4を支持する。第1の排紙ローラ30は、紙送りローラ21と協働して記録用シート材4を搬送し、第2の排紙ローラ31は第1の排紙ローラ30の下流側に設けられている。第1の拍車列32は、第1の排紙ローラ30に対向して記録用シート材4を保持する回転体であり、第2の拍車列33は、第2の排紙ローラ31に対向して記録用シート材4を保持する回転体である。第1の拍車列32と第2の拍車列33は、拍車ベース34に回転可能に保持されている。ガイド部材(通紙ガイド)70は、記録用シート材4の先端を、紙送りローラ21とピンチローラ22の間のニップ部へ導く。
紙送りローラ21とピンチローラ22は、記録用シート材4を通過させるニップ部を構成している。ピンチローラ22の中心は、紙送りローラ21の中心に対して、第1排紙ローラ30に近づく方向に若干オフセットした位置に取り付けられている。従って、記録用シート材4の進入角度(接線方向角度)は水平より若干傾くので、記録用シート材4の先端が的確にニップ部までガイドされるように、ピンチローラホルダ23とガイド部材70により形成されるシート材経路は、記録用シート材を角度を付けて搬送するように構成されている。
[記録部]
記録部は、図1,2に示すように、記録用シート材4にインクを吐出して記録を行う記録手段である記録ヘッド11と、記録ヘッド11へ供給するインクを蓄えているインクタンク12と、記録ヘッド11およびインクタンク12を保持して走査(主走査)するためのキャリッジ13と、キャリッジ13を案内支持するガイドシャフト14と、ガイドシャフト14と平行にキャリッジ13を案内支持するガイドレール15と、キャリッジ13を駆動するためのキャリッジベルト(タイミングベルト)16と、プーリを介してキャリッジベルト16を駆動するキャリッジモータ17と、キャリッジモータ17のプーリと対向してキャリッジベルト16を張架するアイドラプーリ20と、キャリッジ13の位置を検出するためのコードストリップ18とを有している。
本実施形態の記録ヘッド11は、インクジェット記録方式のヘッドであり、図示しないが、インクタンク12に接続される複数のインク流路が形成されており、インク流路はプラテン29と対向する面(吐出口面)に配された吐出口まで連通している。列をなす複数の吐出口のそれぞれの内部には、インク吐出用のアクチュエータ(エネルギー発生手段)が配されている。このアクチュエータとしては、例えば、液体の膜沸騰圧力を生じさせるための電気熱変換体(発熱素子)や、ピエゾ素子等の電気機械変換体(電気−圧力変換素子)などが用いられる。この記録ヘッド11は、後述するヘッドドライバ307の信号がフレキシブルフラットケーブル73を介して伝達され、記録データに応じてインク滴を吐出することが可能である。
記録ヘッド11を搭載するキャリッジ13は、シャーシ10に固定されたガイドシャフト14とシャーシ10の一部であるガイドレール15とによって案内支持された状態で、キャリッジモータ17とアイドラプーリ20との間に掛けられたキャリッジベルト16を介してキャリッジモータ17の駆動力が伝達されることによって、記録用シート材4の搬送方向と交差する方向(通常は直交する方向)に往復走査(移動)する。また、キャリッジ13にはCR(キャリッジ)エンコーダ19が設けられており、CRエンコーダ19は、シャーシ10に設けられたコードストリップ18を読み取って、記録ヘッド11が適切なタイミングで記録用シート材4に向けてインク滴を吐出するためのデータを提供する。前記したシート材搬送部によって記録用シート材4が所定量(1行のピッチ)だけ搬送(紙送り)されると、キャリッジ10が走査しつつ記録ヘッド11が1行分の記録を行う。1行分の記録が終了すると、再びシート材搬送部が記録用シート材4を所定量(1行のピッチ)だけ搬送する。このように、シート材搬送部による記録用シート材4の搬送と、キャリッジ13の走査および記録ヘッド11による記録とを交互に繰り返すことによって、記録用シート材4の全面にわたる記録動作が可能である。
[メンテナンス部]
図1に示すメンテナンス部は、記録ヘッド11のインク吐出性能を維持回復したり、インクタンク12を交換する時に記録ヘッド11のインク流路にインクを行き渡らせたりする際に作動するメンテナンスユニット36である。メンテナンスユニット36は、例えば、記録ヘッド11の吐出口面(吐出口が配列された面)に当接して吐出口を保護するキャップを含むキャッピング機構、吐出口をキャッピングしたキャップ内に負圧を発生させて吐出口からインクを吸引排出させる吸引回復機構、吐出口の周辺部を拭き取り清掃するワイピング機構などから構成されており、記録ヘッド11の吐出口の目詰まりを防止したり、記録ヘッド11の吐出口面の紙粉等による汚れを解消したりすることで、記録ヘッド11の記録動作を正常状態に維持回復するとともに、インクタンク12を交換する際にインク吸引を行う。そのため、メンテナンスユニット36は、キャリッジ13のホームポジション(待機ポジション)で記録ヘッド11と対向するように設置されている。そして、記録ヘッド11の吐出口内のインクをリフレッシュすべくインクを吸い出す際には、キャップを吐出口面に押圧させ、吸引ポンプを駆動してキャップ内を負圧とすることによって、インクを吸引排出する。また、インク吸引後に吐出口面にインクが付着している場合や、吐出口面に紙粉等の異物が付着した場合には、ワイパーを吐出口面に当接させ平行に移動させることによって、吐出口面をワイピング(拭き取り清掃)してインクや異物等の付着物を除去する。
[電気制御部]
両面記録装置に設けられた制御基板301にまとめられている、各部材の電気制御部は、図21に示すように、CPU310と、ROM311と、RAM312と、ヘッドドライバ307と、モータドライバとを有し、CR(キャリッジ)エンコーダセンサ19、LFエンコーダセンサ28、PE(ペーパーエンド)センサ67、リフトカムセンサ69、シート材反転部センサ(両面ユニットセンサ)130、PGセンサ303、およびASFセンサ305を含む検出部と、LFモータ26と、CRモータ17と、ASFモータ46と、PGモータ302と、記録ヘッド11と、ホスト装置(ホストコンピュータ)308などが接続されている。CPU310は記録装置の制御を司り制御指令を出すものであり、ROM311には制御データなどが書き込まれており、RAM312は記録データ等を展開する領域となる。ヘッドドライバ307は記録ヘッド11を駆動し、モータドライバは各モータを駆動する。CR(キャリッジ)エンコーダセンサ19は、キャリッジ13に搭載されてコードストリップ18を読み取る。LFエンコーダセンサ28は、シャーシ1に取り付けられたコードホイール27を読み取る。PEセンサ67はPEセンサレバー66の動作を検知する。リフトカムセンサ69はリフトカム軸58の動作を検知する。シート材反転部センサ(両面ユニットセンサ)130はシート材反転部2の着脱を検知する。PGセンサ303はメンテナンスユニット36の動作を検知する。ASFセンサ305はメインASF37の動作を検知する。ASFモータ46はメインASF37を駆動し、PGモータ302はメンテナンスユニット36を駆動する。ホスト装置308は、電気接続の仲立ちをするI/F(インターフェース)309を介して接続されて記録データを記録装置に送ることができる。
[シート材反転部]
シート材反転部(「自動両面ユニット」または「自動反転部」とも言う)2は、シート状の単票紙である記録用シート材の表裏に、操作者の手を煩わせることなく自動的に記録を行うために、記録用シート材を反転させるものである。このシート材反転部2は、図2に示すように、記録用シート材4を搬送する反転部ローラである第1の両面ローラ108および第2の両面ローラ109と、第1の両面ローラ108に従動する第1の反転部ピンチローラ(第1の両面ピンチローラ)112と、第2の両面ローラ109に従動する第2の反転部ピンチローラ(第2の両面ピンチローラ)113と、記録用シート材4の進行方向を決めるために回転可能に支持されている可動フラップである切替フラップ104と、回転可能に支持されており記録用シート材4がシート材反転部2から出ていく時に開閉する出口フラップ106とを有している。
両面ユニット2は、進入してきた記録用シート材4を、第2の両面ローラ109と第2の両面ピンチローラ113によって挟持して進行方向を転換させ、さらに、第1の両面ローラ108と第1の両面ピンチローラ112によって挟持して、図2の矢印d方向に搬送し、最終的には記録用シート材4の進行方向を180度変えて(転換して)水平に排出するものである。
[リフト機構]
さらに、本実施形態の両面記録装置では、前記した各部の動作や設定を調整するための各種のリフト機構が設けられている。本実施形態では、主に、ピンチローラ22のリリース機構と、ピンチローラばね24の圧力調整機構と、シート材検知レバー(PE(ペーパーエンド)センサレバー)66のリリース機構と、ガイド部材(通紙ガイド)70の上下機構と、キャリッジ13の上下機構が設けられている。
ピンチローラリリース機構、ピンチローラばね圧力調整機構、PEセンサレバーリリース機構、通紙ガイド上下機構、およびキャリッジ上下機構は、リフトカム軸58の回転によって作動する。すなわち、図3に示すように、リフトカム軸58に、ピンチローラホルダ押圧カム59と、ピンチローラばね押圧カム60と、PEセンサレバー押圧カム61と、通紙ガイド押圧カム65がそれぞれ固定されているので、リフトカム軸58の回転に同期してそれぞれのカムが回転する。そして、ピンチローラホルダ押圧カム59はピンチローラホルダ23に当接している。ピンチローラばね押圧カム60はピンチローラばね24の作用点となる。通紙ガイド押圧カム65は通紙ガイド70に当接し、通紙ガイド70は通紙ガイドばね71によって所定方向に付勢されている。PEセンサレバー押圧カム61は、記録用シート材4に接触して先端や後端を検知するPE(ペーパーエンド)センサレバー66に当接し、PEセンサレバー66はPEセンサ67の露出状態と遮蔽状態を切り替え可能である。PEセンサレバー66は、PEセンサレバーばね68によって所定方向に付勢されている。そして、リフトカム軸58の角度は、リフトカム軸遮蔽板62と、リフトカム軸遮蔽板62によって露出状態と遮蔽状態が切り替えられるリフトカムセンサ69によって認識される。すなわち、リフトカム軸58の初期位置や回転状態は、リフトカムセンサ69が、リフトカム軸遮蔽板62によって露出状態と遮蔽状態を切り替えられることにより認識される。ただし、本発明はこのような構成に限定されるものではなく、必要に応じてそれぞれを独立して駆動する機構を採用してもよい。
<ピンチローラリリース機構およびピンチローラばね圧力調整機構>
ピンチローラ22のリリース機構は、余分な記録用シート材4を圧板41側に再引き込みするために、ピンチローラ22を紙送りローラ21からリリースさせる(離れさせる)ように動作するものである。
ピンチローラばね24の圧力調整機構は、ピンチローラ22が紙送りローラ21に圧接する圧力(ばね力)を変動させるための圧力調整機構である。本実施形態では、ピンチローラ22を離れさせる(リリースする)ために、ピンチローラホルダ23全体を回転させるように構成されている。ピンチローラ22が紙送りローラ21に圧接している状態では、ピンチローラばね24がピンチローラホルダ23を付勢しているので、ピンチローラホルダ23をリリース方向に回転させるとピンチローラばね24のばね力に抗して回転することになり、ピンチローラホルダ23をリリースするための負荷の増大や、ピンチローラホルダ23自体に加わる応力の増大などの弊害がある。これを防止するために、ピンチローラホルダ23のリリースの際にピンチローラばね24の圧力を減じる機構(圧力調整機構)が設けられている。
図4は、ピンチローラリリース機構およびピンチローラばね圧力調整機構の動作を模式的に示す部分側面図である。図4(a)は、ピンチローラホルダ押圧カム59が初期位置にあり、ピンチローラばね24の圧力が標準状態にあり、ピンチローラ22が紙送りローラ21に圧接している状態を示す。ピンチローラホルダ23は、ピンチローラホルダ軸23aがシャーシ10の軸受部に軸受けされて回転自在に支持されており、所定角度範囲にわたって揺動可能に構成されている。ピンチローラホルダ23の一端にはピンチローラ22が回転可能に支持されており、他端にはピンチローラホルダ押圧カム59との当接領域が設けられている。
図4(a)に示すように、ピンチローラばね24は、一端がピンチローラホルダ23のピンチローラ22に当接して力点となり、他端がピンチローラばね押圧カム60で支持され、中間部がシャーシ10の支持部により支持されている捩じりコイルばねである。このようなピンチローラばね24によって、ピンチローラ22は所定圧力で紙送りローラ21に圧接している。この状態で紙送りローラ21が回転すると、紙送りローラ21とピンチローラ22のニップ部に挟持された記録用シート材4の搬送が行える。
図4(a)に示す状態から、リフトカム軸58が図4(b)の矢印a方向に回転すると、図4(b)に示すように、ピンチローラホルダ押圧カム59がピンチローラホルダ23に当接し、ピンチローラホルダ23が徐々に矢印b方向に揺動させられ、ピンチローラ22は紙送りローラ21からリリースされる(離れさせられる)。図4(b)に示す状態では、ピンチローラばね押圧カム60の小径部がピンチローラばね24に当接し、ピンチローラばね24のねじれ角度θ2が図4(a)に示す状態のねじれ角度θ1よりも大きくなっているため、ばね加重が低減し、ピンチローラホルダ23には殆ど加重(応力)がかかっていない。この状態では、紙送りローラ21とピンチローラ22の間には所定量の隙間Hが形成されており、記録用シート材4を大まかに案内するだけで、その先端を容易にニップ部に挿入することが可能である。
図4(b)に示す状態から、リフトカム軸58が矢印a方向にさらに回転すると、図4(c)に示すように、ピンチローラホルダ押圧カム59とピンチローラホルダ23の当接は解除され、ピンチローラホルダ23は図4(c)の矢印c方向に回転して元の状態(図4(a)に示す状態)に戻り、ピンチローラばね押圧カム60のピンチローラばね24との当接部は、図4(a)に示す状態の当接部と、図4(b)に示す状態の当接部の中間の大きさの半径の部分である。従って、図4(c)に示す状態は、ピンチローラ22は図4(a)に示す状態と同様に紙送りローラ21に圧接しているが、圧接力が弱い軽圧接状態である。そして、ピンチローラばね24のねじれ角度θ3は、図4(a)に示す状態のねじれ角度θ1よりも若干小さいので、紙送りローラ21にピンチローラ22を圧接させる力は若干小さくなっている。
リフトカム軸58の1回転の間に、ピンチローラリリース機構およびピンチローラばね圧力調整機構は、前記した図4(a)の状態から、図4(b)の状態、図4(c)の状態を経て、図4(a)に示す標準状態に戻る。リフトカム軸58の回転位置を調整して図4(c)に示す状態をとることによって、通常よりも厚い記録用シート材4が紙送りローラ21とピンチローラ22の間に挟持された場合に、ピンチローラばね24のねじれ角度が通常より大きくなり、それによってピンチローラホルダ23に対する発生荷重が大きくなることを防止することができる。従って、本実施形態では、リフトカム軸58の回転位置を調整して、図4(a)に示す標準状態と図4(c)に示す軽圧接状態とを使い分けることによって、通常の厚さの記録用シート材4の場合も、厚い記録用シート材4の場合も、紙送りローラ21の軸にかかる回転負荷を平準化することができる。
<PEセンサレバーリリース機構>
シート材検知レバーであるPEセンサレバー66のリリース機構について説明する。PEセンサレバー66は、記録用シート材4が正方向(給紙部から記録部へ向かう方向)に進行する時に記録用シート材4の先端や後端の位置を正確に検知できるように、記録用シート材4の面に対して所定の角度をもって揺動するように取り付けられている。そのため、逆方向(記録部から給紙部へ向かう方向)に記録用シート材4が進行した場合には、記録用シート材4の端部がPEセンサレバー66に引っ掛かってしまったり、搬送中の記録用シート材4にPEセンサレバー66の先端が食い込んでしまったりするという技術的課題がある。そこで本実施形態においては、記録用シート材4の表裏反転工程の途中まで、PEセンサレバー66をシート材経路から離れさせてしまい、記録用シート材4に当接しないように、リリース機構が構成されている。
図5は、PEセンサレバー上下機構の動作を模式的に示す部分側面図である。図5(a)は、PEセンサレバー押圧カム61が初期位置にあり、PEセンサレバー(シート材検知レバー)66がフリーになっている状態を示している。PEセンサレバー66は、PEセンサレバー軸66aがシャーシ10の軸受部に軸受けされて、回転自在に支持されている。図5(a)に示す状態では、PEセンサレバー66はPEセンサレバーばね68に付勢されて、PEセンサレバー66の遮蔽板部がPEセンサ67を遮蔽している。この状態で、記録用シート材4がPEセンサレバー66の位置を通過すると、PEセンサレバー66は記録用シート材4の端部に押されて時計方向に回転し、PEセンサ67が遮蔽板部から開放されて露出状態となる。これによって、記録用シート材4の存在を検出することができる。この遮光および露出の状態で記録用シート材(記録用シート材)の先端および後端を検知することができる。
図5(b)は、PEセンサレバー66がロックされた状態を模式的に示す部分側面図である。図5(b)に示すようにPEセンサレバー押圧カム61が矢印a方向へ回転すると、PEセンサレバー66のカムフォロワ部が押し上げられて、矢印b方向へ揺動する。この状態では、PEセンサレバー66の端部(記録用シート材4が当接する部分)はピンチローラホルダ23よりも内側に隠れてしまい、記録用シート材4が通過する際にも、記録用シート材4とPEセンサレバー66が当接しなくなる。従って、この状態で記録用シート材4を矢印b方向に搬送しても、記録用シート材4がPEセンサレバー66に当たってジャミング等の不具合を起こすことが無くなる。
なお、このPEセンサレバー66のリリース機構は、他の手段または構成に置き換えることも可能である。すなわち、前述した技術的課題を解決するための手段として、PEセンサレバー66の先端にコロなどを設け、記録用シート材4が逆方向に進行しても、コロを回転させて円滑に通過できるようにして、前記した技術的課題を解決する手段を採用してもよい。また、PEセンサレバー66の揺動角度を大きく取り、記録用シート材4が逆方向に搬送された時には、PEセンサレバー66が通常とは逆方向に揺動するようにして、前述した技術的課題を解決する手段を採用してもよい。
<通紙ガイド上下機構>
通紙ガイド70の上下機構について説明する。通常、通紙ガイド70は、メインASF37から給紙される記録用シート材4を紙送りローラ21に案内するため、前記した通り、記録用シート材4を、水平に対し若干傾いた経路でLFローラ21のニップ部に円滑に導くように、LFローラ21の位置から水平よりも若干上向きの角度に位置している(図2,6(a)参照)。しかしながら、このままだと、記録用シート材4が図2の矢印b方向(逆方向)に搬送されると再びメインASF37に向かって案内されてしまうが、本実施形態では、記録部にて第1の面に記録された記録用シート材4をシート材反転部2に導くために、水平な経路に円滑に案内する必要がある。そのため、通紙ガイド70が水平になるように角度を変えるために、通紙ガイド70を上下する上下機構が設けられている。
図6は、通紙ガイド上下機構の動作を模式的に示す部分側面図である。図6(a)は通紙ガイド70の上昇状態を示している。図6(a)に示すように、通紙ガイド70は通常、弾性部材である通紙ガイドばね71により持ち上げられる方向に付勢されており、不図示のストッパに突き当たる位置が上昇位置として設定されている。メインASF37から給紙された記録用シート材4が通過する場合には、通紙ガイド70は通紙ガイドばね71の作用により上昇状態を保っている。ただし、通常より大きな力がかかった場合には、通紙ガイド70は通紙ガイドばね71のばね力に抗して下降できるように構成されている。
図6(b)は、通紙ガイド70の下降状態を示している。図6(b)に示すように、リフトカム軸58に固定された通紙ガイド押圧カム65が矢印a方向に回転すると、通紙ガイド押圧カム65が、通紙ガイド70の一部である通紙ガイドカムフォロワ部70aに当接して徐々に押圧していく。これによって、通紙ガイド70は、矢印b方向に回転させられ、通紙ガイドばね71のばね力に抗して押し下げられる。この下降状態では、通紙ガイド70のシート材経路に対向する部分は略水平になり、シート材経路はほぼ完全にストレートになる。これにより、記録用シート材4が紙送りローラ21より逆方向に搬送される際には、記録用シート材4は水平に搬送され、記録用シート材4の表側の面の既に記録が行われた部分が、シート材経路の上面(天井部)に押し付けられることが無くなる。
<キャリッジ上下機構>
キャリッジ13の上下機構は、ピンチローラホルダ23がリリース状態(紙送りローラ21から離れた状態)になった時に、ピンチローラホルダ23の先端がキャリッジ13に近づき、両者が当接してキャリッジ13の主走査方向の移動の妨げとなることを防止するためのものである。そのため、キャリッジ13の上下機構は、ピンチローラホルダ23のリリース動作に同期してキャリッジ13を上昇させる。また、このキャリッジ13の上下機構は、他の用途にも応用でき、例えば、厚い記録用シート材に記録する際に記録手段としての記録ヘッド11が記録用シート材と接触しないようにするために、記録ヘッド11を退避する目的で移動させる際にも利用することができる。
図7は、キャリッジ上下機構を示す斜視図である。ガイドシャフト14は、図1に示すようにシャーシ10の両側面に支持されており、右ガイドシャフトカム14aと左ガイドシャフトカム14bが取り付けられている。右ガイドシャフトカム14aのギア部は、カムアイドラギア53を介してリフトカムギア52と接続されている。ガイドシャフト14は、上下方向のガイド長穴57内に嵌合しており、図7の矢印Z方向には移動可能であるが、矢印X方向およびY方向の移動は規制されている。
図7に示すキャリッジ上下機構において、通常はガイドシャフト14はガイドシャフトばね74によって下方向(矢印Zと反対方向)に付勢されている。カムアイドラギア53が回転すると、右ガイドシャフトカム14aおよび左ガイドシャフトカム14bがガイド斜面56と当接することにより、ガイドシャフト14は回転しながら上下方向に移動するように構成されている。
図8は、キャリッジ上下機構の動作を模式的に示す部分側面図である。図8(a)は、キャリッジ13が標準位置である第1キャリッジポジションにある場合を示している。この状態では、ガイドシャフト14はシャーシ10のガイド長孔57の下限に突き当てられて位置決めされており、ガイドシャフトカム14aとガイド斜面56は接触していない。この第1キャリッジポジションにおいては、記録ヘッド11の端面(吐出口面)と記録用シート材4との間に比較的短い間隔S1が生じる。この間隔S1は、標準的な厚さおよび材質の記録用シート材4を正常な状態で記録する際に適しており、良好な記録品位が達成できるように計算された間隔(第1の間隔)である。
この第1キャリッジポジションからリフトカム軸58が回転すると、リフトカム軸58に固定されたリフトカムギア52が回転し、リフトカムギア52と係合しているカムアイドラギア53を介して右ガイドシャフトカムギア14cが回転し、図8(b)に示すようにキャリッジ13が少し高い第2キャリッジポジションに移動する。なお、この時、リフトカムギア52と右ガイドシャフトカムギア14cを同じ歯数にしておくと、リフトカム軸58とガイドシャフト14は同じ方向にほぼ同じ角度回転する。全く同じ角度で回転しないのは、リフトカムギア52とカムアイドラギア53は回転軸が固定されているのに対し、右ガイドシャフトカムギア14cは回転軸であるガイドシャフト14自身が上下動を行うため、ギア間距離が変動するからである。
このように、リフトカム軸58が図8の矢印a方向に回転すると、ガイドシャフト14は矢印b方向に回転する。この回転により、右ガイドシャフトカム14aおよび左ガイドシャフトカム14bがそれぞれ、固定されているガイド斜面56に当接し、ガイドシャフト14の移動方向が前記した通りシャーシ10のガイド長孔57により上下方向のみに規制されているため、ガイドシャフト14は第2キャリッジポジションに移動する。この第2キャリッジポジションにおいては、記録ヘッド11の端面(吐出口面)と記録用シート材4との間に、間隔S1より僅かに長い間隔S2(第2の間隔)が生じる。この第2キャリッジポジションは、記録用シート材4の変形が大きく、第1キャリッジポジションで記録用シート材4と記録ヘッド11が当接してしまうような場合に設定すると好適である。
第2キャリッジポジションからリフトカム軸58がさらに回転すると、右ガイドシャフトカム14aおよび左ガイドシャフトカム14bのカム面のうち半径がより大きい部分がガイド斜面56と当接し、ガイドシャフト14はさらに高い位置(図8(c)に示す第3キャリッジポジション)へ移動する。この第3キャリッジポジションにおいては、記録ヘッド11の端面(吐出口面)と記録用シート材4との間に長い間隔S3が生じる。この第3キャリッジポジションは、通常よりも厚い記録用シート材4を使用する場合などに好適である。なお、図8(a)〜(c)には、判りやすくするために間隔S1〜S3を拡大して図示している。
<リフトカム軸の駆動機構>
以上説明したリフト機構、すなわちピンチローラリリース機構、ピンチローラばね圧力調整機構、PEセンサレバーリリース機構、通紙ガイド上下機構、およびキャリッジ上下機構を作動させるリフトカム軸の駆動機構について、図9の斜視図を参照して説明する。
本実施形態においては、リフトカム軸58の駆動源である、メインASF37を駆動するASFモータ46(図9にはギア類を示すために上半分を省略して図示)と、メインASF37と連動するASF遊星ギア49と、ASF遊星ギア49と係合するリフト入力ギア50と、リフト入力ギア50からの動力を減速しつつ伝達するリフト減速ギア列51と、ピンチローラホルダ23を昇降させるリフトカム軸58と、リフトカム軸58に直結しているリフトカムギア52と、ガイドシャフト14を片側に付勢するガイドシャフトばね55と、ガイドシャフト14に直結しているガイドシャフトギア53と、ガイドシャフトギア53のカムが摺動するガイド斜面56が設けられている。
ASFモータ46は、その回転方向および回転量が制御されて、メインASF37を動作させるとともに、ASFモータ46に取り付けられたギアの次段に位置するASF振り子アーム47と、ASF振り子アーム47の中心に取り付けられたASF太陽ギア48と、ASF振り子アーム47の端部に取り付けられてASF太陽ギア48と係合するASF遊星ギア49と、リフトカム軸58に固定された振り子ロックカム63と、振り子ロックカム63に作用して揺動する振り子ロックレバー64を介して、リフトカム軸58を動作させる。
ASFモータ46の回転方向により駆動力伝達方向が決定される。リフトカム軸58を動作させる場合には、ASFモータ46を図9の矢印a方向に回転させる。すると、ASFモータ46に取り付けられたギアがASF太陽ギア48を回転させる。ASF太陽ギア48とASF振り子アーム47は所定の摩擦力を持って回転可能に接触しているので、ASF太陽ギア48の回転方向(矢印b方向)にASF振り子アーム47が揺動する。すると、ASF遊星ギア49が次段のリフト入力ギア50と係合する。これにより、ASFモータ46の駆動力が、リフト減速ギア列51を介してリフトカムギア52まで伝達される。この時、ASF振り子アーム47が矢印b方向に振れているため、メインASF37を駆動するギア列への駆動力は切断された状態になっている。
一方、メインASF37を駆動する場合には、ASFモータ46を図9の矢印aと反対方向に回転させることにより、前記したのとは逆に、ASF振り子アーム47が矢印bと反対方向に振れる。これにより、ASF遊星ギア49とリフト入力ギア50との係合が解除され、ASF振り子アーム47に設けられたもう一つのASF遊星ギア49が、メインASF37につながるギア列と係合して、メインASF37が駆動される。
なお、本実施形態においては、ASFモータ46としていわゆるステッピングモータを使用し、これをオープンループで制御している。また、DCモータなどにエンコーダを使用してクローズドループ制御としても良いことは言うまでもない。
駆動力伝達に遊星ギア機構を使用している場合には、被駆動側がマイナスの負荷になった場合、すなわち、リフト機構とメインAFS37のうちの駆動されない方が負荷を受けることなく解放されている場合、振り子ロックレバー64が動いてギアの係合が外れてしまい、被駆動側が駆動源よりも位相が進んでしまう、いわゆる先回りが起こってしまう可能性がある。これを防止するために、本実施形態では、振り子ロックカム63と振り子ロックレバー64を配している。リフトカム軸58が所定角度範囲にある場合には、振り子ロックカム63のカム面形状により振り子ロックレバー64が図9の矢印c方向に揺動し、振り子ロックレバー64がASF振り子アーム47に係合して、メインASF37を駆動する側に戻れないように固定する。これにより、ASF遊星ギア49がリフト入力ギア50と常時噛み合った状態となるので、ASFモータ46とリフトカム軸58は常に同期して回ることになる。また、振り子ロックカム63が所定角度範囲に戻ってくると、振り子ロックレバー64が矢印cと反対方向に戻り、ASF振り子アーム47のロックが解除されて、ASFモータ46を逆転させればメインASF側に駆動が伝達できる状態に復帰する。
以上説明したリフトカム軸58の駆動機構により、ピンチローラ22のリリース、PEセンサレバー66のロック、ピンチローラばね24の圧力調整、通紙ガイド70の上下動作、キャリッジ13の上下動作が可能になる。
<リフト機構の相関動作>
次に、これら5種類の可動機構(リフト機構)がどのように相関して動作するかを説明する。図10は、キャリッジ13、ピンチローラ22、PEセンサレバー66、通紙ガイド70の動作を示す模式的部分側面図である。
図10(a)は、リフト機構が第1ポジションにある場合を示す。この状態では、ピンチローラ22は紙送りローラ21に圧接した状態にあり、PEセンサレバー66はフリーの状態にあり、ピンチローラばね24(図4参照)は通常圧力で圧接しており、通紙ガイド70は上昇状態にあり、キャリッジ13は第1キャリッジポジションにある。
この図10(a)に示す状態は、通常の記録用シート材4を用いた記録動作、あるいはシート材反転部(自動両面ユニット)2での記録用シート材反転後のレジストレーション取り等に使用されるポジションである。なお、前記した通り、キャリッジ13はガイドシャフト14に沿って移動可能に案内支持されており、ガイドシャフト14をシャーシ10に形成されたガイド長孔57に沿って上下動させることにより上下動可能に構成されている。
図10(b)は、リフト機構が第2ポジションにある場合を示す。この状態では、ピンチローラ22は紙送りローラ21に圧接した状態にあり、PEセンサレバー66はフリーの状態にあり、ピンチローラばね24は通常圧力で圧接しており、通紙ガイド70は上昇状態にあり、キャリッジ13は第2キャリッジポジションにある。この状態は、リフト機構の第1ポジションと比較すると、キャリッジ13の高さ位置が異なるだけである。この状態は、記録用シート材4の変形が大きく、記録用シート材4と記録ヘッド11が擦れてしまうおそれがある場合や、僅かに厚い記録用シート材4を使用する場合などに使用されるポジションである。
図10(c)は、リフト機構が第3ポジションにある場合を示す。この状態では、ピンチローラ22は紙送りローラ21からリリースされて(離れて)所定の隙間が空いた状態にあり、PEセンサレバー66は上方に退避してロック(係止)された状態にあり、ピンチローラばね24は圧接力を弱められた状態にあり、通紙ガイド70は下降状態にあり、キャリッジ13は最も高い第3キャリッジポジションにある。リフト機構の第2ポジションと比較すると、全ての状態が変化して、シート材経路が完全に開放され、記録用シート材4の引き込みが可能になった状態である。この状態は、記録用シート材4の表面記録終了後に記録用シート材4を図2の矢印b方向に搬送する場合や、厚い記録用シート材4を挿入する場合などに使用されるポジションである。
図10(d)は、リフト機構が第4ポジションにある場合を示す。この状態では、ピンチローラ22は紙送りローラ21に圧接しており、PEセンサレバー66は上方に退避してロック(係止)された状態にあり、ピンチローラばね24は若干弱い圧力で圧接されており、通紙ガイド70は下降状態にあり、キャリッジ13は最も高い第3キャリッジポジションにある。この状態は、リフト機構の第3ポジションと比較すると、ピンチローラ22が圧接状態に戻され、ピンチローラばね24の圧接する圧力が若干弱くなるように変化している。この状態は、自動両面記録時の記録用シート材4の再引き込み後に、シート材反転部である自動両面ユニット2に向けて記録用シート材4を搬送する場合や、厚い記録用シート材4を使用して記録する際に使用されるポジションである。
本実施形態においては、記録装置の動作に鑑みて、リフト機構を図10(a)〜図10(d)に示す4つのポジションのいずれかに位置させるものであり、4つのポジションに限定することによって機構を簡略化している。すなわち、リフトカム軸58が1回転する間に、第1ポジション→第2ポジション→第3ポジション→第4ポジション→第1ポジションと循環してポジションが変化するようにしている。
なお、図11には、前記したリフト機構の動作状態を表すタイミングチャートを示しており、図11のタイミングチャートを参照することによって、図4〜図10に示した内容がよりわかり易くなる。図11の横軸はリフトカム軸58の角度を360度の範囲で示しており、各角度位置におけるそれぞれの機構要素のポジションを示している。リフトカム軸58とガイドシャフト14を同期して動作させることによって、リフトカム軸58の角度をリフトカムセンサ69(図3参照)で検知し、ASFモータ46(図21参照)の回転角度を制御するだけで、複数の機構を同時に作動させることができる。
ただし、本発明はこれに限定されず、それぞれの機構要素が適宜独立して動作するように構成してもよい。また、ピンチローラばね24の圧力調整機構は必須ではなく、ピンチローラホルダ23の剛性が充分に高い場合や、LFモータ26の負荷変動を問題にしない場合には省略可能である。また、メインASF37の配置などにより、通紙ガイド70が水平でも、上手く紙送りローラ21のニップ部に記録用シート材先端をガイドできる機構であれば、通紙ガイド70の上下機構は無くてもよい。
[本実施形態の動作の説明]
次に、本実施形態の両面記録装置によって記録用シート材に記録を行う方法について説明する。まず、本実施形態における記録方法のうちの特徴的な各工程についての説明を行う。
<給紙動作>
図21に示すホスト装置308からインターフェース(I/F)309を介して制御基板301に記録データが送られると、RAM312が記録データを格納し、CPU310が記録動作開始指令を出して記録動作が開始する。記録動作が開始すると、まず給紙動作が行われる。図1,2に示す、給紙部であるメインASF37は、圧板41上に複数枚積載されている記録用シート材4から、記録動作ごとに1枚ずつ引き出してシート材搬送部に送る。具体的には、給紙動作開始指令を受けてASFモータ46が正方向に回転し、図示しないが、その動力は、ギア列を介して、圧板41を保持しているカムを回転させる。ASFモータ46の回転によってカムが回転すると、圧板41は、カムに押さえられた状態から解除され、不図示の圧板ばねの作用によって給紙ローラ39に向けて付勢される。同時に、給紙ローラ39が記録用シート材を搬送する方向に回転し、圧板41に積載されている記録用シート材のうち一番上の1枚の搬送が開始される。
しかし、給紙ローラ39と記録用シート材4との間の摩擦力や記録用シート材4同士の摩擦力等の条件によっては、複数枚の記録用シート材4が同時に送り出されてしまうことがある。その場合には、給紙ローラ39に圧接されかつ記録用シート材4の搬送方向と逆方向に所定の戻り回転トルクを有する分離ローラ40が作用し、この分離ローラ40は、給紙ローラ39に接する記録用シート材4以外の記録用シート材4を元の圧板41へ向けて押し戻す。このような動作により、記録用シート材4を1枚だけシート材搬送部へ搬送する。なお、給紙動作終了時には、カムの動作によって分離ローラ40は給紙ローラ39との圧接状態から解除され所定の距離だけ離され、その際に戻し爪43が回転して、分離ローラ40の作用により戻された記録用シート材4を、圧板41上の所定位置まで確実に押し戻す。
<シート材搬送動作>
メインASF37から1枚の記録用シート材4が搬送されていく際には、記録用シート材4の先端は、不図示のASFフラップばねでシート材経路を狭めるように付勢されているASFフラップ44(図2参照)に当接するが、ASFフラップ44を押し退けて通過する。記録用シート材4の記録動作が終了して記録用シート材後端がASFフラップ44を通過すると、ASFフラップ44は元の付勢状態に戻ってシート材経路が閉ざされるので、記録用シート材4が逆方向に多少搬送されてもメインASF37まで戻ることはない。
このようにして給紙部から搬送された1枚の記録用シート材4は、シート材搬送部の紙送りローラ(搬送ローラ)21とピンチローラ22の間のニップ部に向けて搬送される。
メインASF37によって搬送された記録用シート材4は、停止状態の紙送りローラ21とピンチローラ22のニップ部に突き当てられる。この時、メインASF37によって、所定のシート材経路の長さよりもやや長い距離だけ記録用シート材4を搬送することにより、給紙ローラ39と紙送りローラ21の間で記録用シート材4はループ状に撓む。このループ(撓み)が真っ直ぐに戻ろうとする力によって、記録用シート材4の先端は紙送りローラ21とピンチローラ22のニップ部に押圧される。それによって、記録用シート材4の先端は紙送りローラ21に倣って平行になり、いわゆるレジストレーション取り動作が完了する。レジストレーション取り動作が完了した後、記録用シート材4を正方向(第1排紙ローラ30に向けて進行していく方向)に移動させる方向に、LFモータ(搬送モータ)26が回転(正転)を開始する。
その後、給紙ローラ39への駆動力供給が停止され、給紙ローラ39は記録用シート材4に従動して回転するようになる。この時点で、記録用シート材4は紙送りローラ21とピンチローラ22のみによって搬送されるようになる。
記録用シート材4の先端は、漸次第1の排紙ローラ30および第1の拍車列32のニップ部と、第2の排紙ローラ31および第2の拍車列33のニップ部に到達する。第1の排紙ローラ30と第2の排紙ローラ31の周速は紙送りローラ21の周速とほぼ等しく設定され、かつ紙送りローラ21と第1の排紙ローラ30および第2の排紙ローラ31とは不図示のギア列で接続されているので、第1の排紙ローラ30および第2の排紙ローラ31は紙送りローラ21と同期して回転し、それによって、記録用シート材4は弛んだり引っ張られたりすることなく安定して記録部へ搬送される。
<第1の記録動作>
搬送されてきた記録用シート材4に対し、記録部では、まず表側の面に記録を行う。すなわち、記録用シート材4を一時停止させた状態で、記録ヘッド11を搭載しているキャリッジ13が、ガイドシャフト14とガイドレール15に案内されながらキャリッジモータ17からキャリッジベルト16を介して駆動力が伝達されることによって、記録用シート材4の搬送方向と交差する方向(通常は直交する方向)に往復走査(移動)するとともに、図21に示すヘッドドライバ307からフレキシブルフラットケーブル73を介して伝達された記録信号に従って記録ヘッド11が記録用シート材にインクを吐出して1行分の記録を行う。1行分の記録が終了すると、シート材搬送部が記録用シート材4を、プラテン29に設けられたリブに沿って、1行分のピッチだけ記録用シート材を搬送(紙送り)する。キャリッジの走査および記録ヘッド11からのインク吐出と、記録用シート材4の1行分のピッチずつの搬送とを交互に繰り返すことによって、記録用シート材の表側面の全面の記録動作を行う。
ここで、表側の面記録時の記録範囲について説明する。記録ヘッド11は、紙送りローラ21と第1の排紙ローラ30との間に、図2に示す吐出口領域N(「記録領域」または「インク吐出領域」とも言う)を有しているが、吐出口に至るインク流路の配置の都合や、インクを吐出させるアクチュエータ(吐出エネルギー発生手段)への配線の都合などにより、紙送りローラ21のニップ部の直近に吐出口領域Nを配置することは通常困難である。従って、記録用シート材4が紙送りローラ21とピンチローラ22で挟持されている範囲では、紙送りローラ21のニップ部より下流側に、例えば図2に示す長さD1だけ離れた位置に端部が来るように記録ヘッド11を配置せざるを得ず、その結果、記録用シート材4は、ニップ部に挟まれた部分に長さD1を加えた領域には記録を行うことができない。
このような記録用シート材4の下端の記録不可能な余白領域を小さくするために、本実施形態では、紙送りローラ21とピンチローラ22のニップ部から記録用シート材4が離脱し、第1の排紙ローラ30および第2の排紙ローラ31に先端部が挟持されるのみで搬送されるようにして、記録を続行する。これにより、下端の余白領域が実質的にゼロになるような記録動作が可能になる。しかしこのようにすると、表側の面の記録後に、後述するようにシート材反転部2に向けて図2の矢印b方向に記録用シート材を搬送しようとする際に、紙送りローラ21とピンチローラ22のニップ部へ記録用シート材4の後端部を円滑に挿入させることが困難であり、いわゆるジャミングが発生する可能性が高い。本実施形態では、ジャミングを回避するために、前記したピンチローラリリース機構を用いて、図4(b)に示すようにピンチローラ22を紙送りローラ21からリリースさせて(離れさせて)所定の隙間を作り、その隙間に記録用シート材4の端部を引き込んでから、図4(a),(c)に示すように再度ピンチローラ22を紙送りローラ21に圧接することにより、図2の矢印b方向への記録用シート材の搬送を可能にしている。
<引き込み動作>
前記したように、両面記録方法では、表側の面の記録を終了した後に、記録用シート材4を、メインASF37の下方に設けられた水平経路を図2の矢印b方向に搬送する。シート材反転部である両面ユニット2はメインASF37の後方に配置されているので、記録用シート材4を、水平な経路から両面ユニット2内へ導き、図2中の矢印c方向へ搬送する。
図12は、記録用シート材4の表側の面の記録終了後に、記録用シート材を紙送りローラ21のニップ部に再度引き込む工程を説明するための模式的側面図である。図12(a)は、記録用シート材4の表側の面の記録が終了し、記録用シート材4が、第1の排紙ローラ30および第1の拍車列32と、第2の排紙ローラ31および第2の拍車列33によって挟持されている状態を示している。第1の拍車列32および第2の拍車列33は、対応する排紙ローラ30,31に押圧されて従動回転する回転体で構成されている。この時、リフト機構は前記した第1ポジションあるいは第2ポジションの状態にある。
前記した通り、図12(a)に示す状態まで記録用シート材4を前進させて記録を行うと、記録用シート材4の後端部一杯まで記録ヘッド11の吐出口列(「吐出ノズル列」または「インク吐出部」とも言う)が対向できるので、記録用シート材4に下端の余白領域を作ることなく記録することが可能である。
次に、リフト機構を図12(b)に示すような第3ポジションに移行させ、ピンチローラ22と紙送りローラ21の間に所定量の隙間をあける。これによって、記録用シート材4の後端が多少波打っていたり、上に反り返っていたりしても、容易に引き込めるようにする。なお、この時に、ピンチローラホルダ23とキャリッジ13が干渉することはないので、キャリッジ13は主走査方向のどの位置にあっても構わない。
図12(a)の状態から第1排紙ローラ30を矢印方向に回転させて、記録用シート材4は図2の矢印b方向に搬送し(以下、この方向に記録用シート材4を搬送することを「バックフィード」または「逆方向搬送」と言う)、図12(b)に示すようにピンチローラ22の下まで移動させて停止させる。この状態で停止させる理由は、主として、本実施形態の記録装置が湿式のインクジェット記録方式を採用しているため、記録用シート材4の記録済み面(図12の上面)は、記録動作直後でインクで濡れた状態にあり、直ぐにピンチローラ22と紙送りローラ21で圧接してしまうと、ピンチローラ22にインクが転写され、そのインクが再び記録用シート材4に再転写され、記録用シート材4に汚れを発生させてしまう可能性があるからである。すなわち、図12(b)に示す状態では、記録用シート材4は、インクが乾燥するまで待機している状態である。
記録用シート材4を、図12(a)に示す位置ではなく、紙送りローラ21を逆方向に回転させて図12(b)の位置までバックフィードしてから乾燥待機させる理由は、記録用シート材4の変形によるところが大きい。すなわち、湿式のインクジェット記録方式で記録用シート材4に記録を行った場合には、記録用シート材4が水分を吸収するためにシート材を構成する繊維が膨張し、記録用シート材4が伸びることがある。記録されるパターンにより、記録用シート材4に伸びる部分と伸びない部分が混在する場合があり、そのような場合には、特に顕著に凹凸が形成される。凹凸の大きさは、主に記録用シート材が水分を吸収し始めてからの時間に依存し、時間が経つにつれて凹凸が増大していって、所定の変形量に収束する。長時間経過して記録用シート材4の端部の変形量が大きくなると、ピンチローラ22を紙送りローラ21から遠ざけていても、記録用シート材をニップ部に進入させる際に端部がピンチローラ22に干渉してジャミングを起こしてしまう可能性がある。これを防止するために、記録終了後、記録用シート材4の凹凸の変形が大きくならないうちにバックフィードして、ピンチローラ22の下まで記録用シート材4を移動させておくようにしている。以上の理由により、記録用シート材4を図12(b)に示す位置までバックフィードした状態で、記録用シート材4の記録済み部分のインクが乾燥するのを待つ。紙送りローラ21とピンチローラ22が離れた状態(リリース状態)の両者の隙間は、通常、記録用シート材4の第1の面(表側の面)に記録した後の記録用シート材4の変形量より大きくなるように設定されている。
図12(c)は、記録用シート材4をシート材反転部である自動両面ユニット2に向けて搬送(逆方向搬送)している状態を示している。記録用シート材4の記録済み部分が乾燥し、ピンチローラ22に圧接してもインクを転写しない状態になったら、リフト機構を図10(d)に示すような第4ポジションに移行させ、記録用シート材4をピンチローラ22と紙送りローラ21で挟持する。この状態で紙送りローラ21を逆方向に駆動し、記録用シート材4をバックフィードする。この時、PEセンサレバー66は上方に回転させられロックされているので、PEセンサレバー66の先端が記録用シート材4に食い込んだり、記録済み部分を擦って剥がしてしまうようなことはない。また、通紙ガイド70は下降状態にあるので、その通紙面は略水平になっており、自動両面ユニット2に向けて記録用シート材4を真っ直ぐに搬送することができる。なお、本実施形態では、通常状態では通紙ガイド70が上昇状態にあるが、本発明はこれに限定されるものではなく、通紙ガイド70の通常状態を下降状態としてもよい。すなわち、通常の待機状態をリフト機構の第3ポジションあるいは第4ポジションとしておき、メインASF37からの給紙動作時に第1ポジションに移動するように構成することも可能である。このように構成すると、剛性の強い記録用シート材4を排紙ローラ側から挿入する際に、円滑に挿入することが可能となる。
なお、図12(b)に示す状態における停止時間(乾燥待機時間)を左右する、インクの乾燥に要する時間について補足説明する。インクがピンチローラ22に転写するおそれがあるかどうか、言い換えれば、記録用シート材4に打ち込まれたインクが乾燥しているかどうかは、数々の条件に左右される。すなわち、記録用シート材4の種類、使用インクの種類、使用インクの重ね打ち込み方法、使用インクの単位面積あたりの打ち込み量(例えば記録したデータの単位面積あたりの密度)、記録動作を行っている環境の温度、記録動作を行っている環境の湿度、記録動作を行っている環境の気体の流速等の条件である。大まかに言うと、表面にインク受容層を持ち、インクを素早く内部に導ける記録用シート材4を用いると、インクは早く乾燥しやすい。また、インクの粒子が小さく記録用シート材の内部に浸透しやすい、染料等を主成分としたインクを使用すれば、早く乾燥しやすい。また、化学的に反応するインクを使用し、記録用シート材表面に重ねて打ち込むことで固化させるようにすれば、早く乾燥しやすい。また、単位面積あたりに打ち込むインク量を少なくすれば、早く乾燥しやすい。また、記録動作を行っている環境の温度を高くすれば、早く乾燥しやすい。また、記録動作を行っている環境の湿度を低くすれば、早く乾燥しやすい。また、記録動作を行っている環境の気体の流速を速くすれば、早く乾燥しやすい。以上のように、いくつかの条件により必要な乾燥時間が決定されるので、本実施形態においては、所定のインクシステムを用いて、一般的な使用条件(一般的な記録用シート材および一般的な記録動作環境)で記録を行った際に必要な乾燥時間を標準値として指定し、予測可能な条件によって乾燥時間を変動させる構成を用いている。
この予測可能な条件とは、単位面積あたりの打ち込みインク量であるが、その他にも、環境温度検知手段や、環境湿度検知手段、環境風速検知手段等を併用すれば、さらに乾燥待機時間を細かく予測することも可能である。例えば、図21に示すホスト装置308から受信したデータをRAM312上に記憶し、単位面積あたりの打ち込みインク量を計算して、その最大値とROM311に記録されている所定閾値とを比較して、乾燥待機時間を決定することができる。すなわち、単位面積あたりの打ち込みインク量の最大値が大きい場合は、乾燥待機時間を長くし、逆に小さい場合には、乾燥待機時間を短くすることで、記録パターンによる乾燥待機時間を最適化することができる。
また、記録に使用したインクの種類が、染料系インクであるか、顔料系インクであるかによっても乾燥待機時間が異なるが、染料系インクの場合は乾燥しやすいために乾燥待機時間を短くし、顔料系インクの場合は乾燥しにくいために乾燥待機時間を長くする。また、周囲温度が高いときには、乾燥しやすいので、乾燥待機時間を短くし、周囲温度が低いときには、乾燥しにくいので、乾燥待機時間を長くする。また、周囲湿度が高いときには乾燥しにくいので、乾燥待機時間を長くし、周囲湿度が低いときには乾燥しやすいので、乾燥待機時間を短くする。また、表面にインク受容層を持ち、打ち込まれたインクをすぐにシート材の内部に取り込むような記録用シート材の場合には、記録用シート材表面は乾燥しやすいので、乾燥待機時間を短くし、撥水性の強い被記録用シート材の場合には、乾燥しにくいので、乾燥待機時間を長くする。
<反転動作>
図2に示すように、両面ユニット2内では、記録用シート材4は、第2の両面ローラ109と第2の両面ピンチローラ113に挟持されて進行方向を転換し、さらに、第1の両面ローラ108と第1の両面ピンチローラ112に挟持されて図2の矢印d方向に搬送され、最終的には進行方向を180度変えて水平なシート材経路に戻る。このように、表側の面の記録終了後の記録用シート材4は、メインASF37の下方にある水平な経路と、メインASF37の後方にあるシート材反転部2とによって表裏反転されることにより、記録部に再度搬送されて裏側の面の記録を行うことが可能になる。
図13,14は、シート材反転部である自動両面ユニット2のシート材経路および搬送用ローラを示す模式的側断面図である。図13,14に示すように、シート材反転部2の内部には、シート材反転部(自動両面ユニット)2の構造体およびシート材搬送経路の一部を構成するシート材反転部フレーム(両面ユニットフレーム)101と、両面ユニットフレーム101の内部に固定されシート材搬送経路の一部を構成する内ガイド102と、両面ユニットフレーム101の後方に開閉自在に配されシート材搬送経路の一部を構成するリアカバー103と、切替フラップばね105により所定方向に付勢されている切替フラップ(可動フラップ)104と、出口フラップばね107により所定方向に付勢されている出口フラップ106と、ゴム部分である第1の両面ローラゴム110を含む第1の反転部ローラ(両面ローラ)108と、ゴム部分である第2の両面ローラゴム111を含む第2の反転部ローラ(両面ローラ)109が設けられている。
図12(c)に示す状態から紙送りローラ21が逆方向に回転させて、記録用シート材4をシート材反転部2に搬送する時には、出口フラップ106は出口フラップばね107に付勢されて、図13に示すように、導入路を一方向に限定している。このため、記録用シート材4は、図13の矢印a方向に進行していく。それから記録用シート材4は、可動フラップである切替フラップ104に当たる。通常の両面記録が可能な記録用シート材4の場合には、切替フラップ104が回転しないように切替フラップばね105の荷重が設定されており、記録用シート材4は切替フラップ104と両面ユニットフレーム101との間の経路に沿って進行する。そのまま記録用シート材4は、記録済み面(表側の面)が第2の両面ローラ109の第2の両面ローラゴム111に当接し、未記録面(裏側の面)が高潤滑性の高分子樹脂でできた第2の両面ピンチローラ113に当接する状態で、両者の間に挟持されていく。
この時、後述する駆動機構により、第1の両面ローラ108および第2の両面ローラ109と紙送りローラ21の周速度は略同一に設定されているので、記録用シート材4と第2の両面ローラ109の間に滑りを生じることなく搬送されていく。また、周速度が略同一であることにより、記録用シート材4が弛んだり張力がかかることもない。第2の両面ローラ109により進行方向を変えられると、記録用シート材4はリアカバー103に沿って進行し、同様に第1の両面ローラ108の第1の両面ローラゴム110と第1の両面ピンチローラ112との間に挟持されていく。
記録用シート材4は、第1の両面ローラ108により再度進行方向を変えられて、図13の矢印b方向に搬送される。第1および第2の両面ローラ108,109は記録用シート材4の表裏および搬送方向を反転させるための反転ローラを構成している。そのまま記録用シート材4が進行すると、記録用シート材4の先端が出口フラップ106に当接する。出口フラップ106は非常に弱い荷重の出口フラップばね107によって付勢されているので、記録用シート材4自体が出口フラップ106を押しのけて自動両面ユニット2を出ていく。記録用シート材4の進行方向先端が出口フラップ106を出ていく時には、記録用シート材4の進行方向後端は既に出口フラップ106の下を通過するように、自動両面ユニット2内のシート材経路の長さが設定されているので、記録用シート材4自体の先端部と後端部とが擦れ合うことはない。
なお、詳細は後述するが、記録用シート材4の表側の面に記録を行う際に、PEセンサレバー66によって記録用シート材4の長さを測定することが可能なので、紙送りローラ21から第2の両面ローラ109までの距離、あるいは第1の両面ローラ108から紙送りローラ21までの距離より短い記録用シート材4や、シート材反転部(自動両面ユニット)2の出口フラップ106から一周して出口フラップ106まで戻ってくる距離よりも長い記録用シート材4が挿入された際には、表側面の記録が終了した段階で警告を出し、自動両面ユニット2へ記録用シート材4を搬送(逆方向搬送)することなく排紙してしまうように構成されている。
ここで、記録用シート材4の記録済み面を第1の両面ローラゴム110および第2の両面ローラゴム111側に向けて記録用シート材4を搬送する理由について説明する。第1の両面ローラゴム110や第2の両面ローラゴム111は駆動側であり、第1の両面ピンチローラ112や第2の両面ピンチローラ113は従動側であるので、記録用シート材4は駆動側ローラに追従して搬送され、従動側は記録用シート材4との摩擦力により回転させられることになる。この時、第1の両面ピンチローラ112や第2の両面ピンチローラ113を支持する回転軸の軸損が十分に小さければ良いが、何らかの原因で軸損が上昇した場合、記録用シート材4と第1の両面ピンチローラ112や第2の両面ピンチローラ113との間で滑りが生じる可能性がある。記録用シート材4に記録された部分は、ローラとの当接によりインクが転写しない程度には乾燥しているが、比較的強く擦られた場合には記録用シート材4の表面からインクが剥離してしまう可能性もある。仮に、記録用シート材4の記録済み面が第1の両面ピンチローラ112や第2の両面ピンチローラ113側に接して、それらのローラとの間で滑りが生じた場合、強く擦られて記録済み面のインクが剥離してしまう可能性がある。それを防止するために、本実施形態では、駆動側部材が記録済み面(表側の面)に当接し、従動部材が未記録面(裏側の面)に当接するような配置になっている。
さらに、このような配置には次の理由も挙げられる。すなわち、駆動側の第1の両面ローラ108あるいは第2の両面ローラ109は、記録用シート材4の屈曲半径により制約があるため、ある程度大きな直径にせざるを得ないが、第1の両面ピンチローラ112や第2の両面ピンチローラ113は小径化することが可能である。従って、自動両面ユニット2をコンパクトに設計するためには、第1の両面ピンチローラ112や第2の両面ピンチローラ113を小径に設計することが多い。また、基本的には記録用シート材4の記録済み面からインクがローラ側に転写しないが、ほんの少量ずつ転写して、記録済み面に当接するローラが徐々にインクで汚されていくことがある。小径化されたローラの場合は、ローラ外周が記録用シート材4と接触する頻度が高くなるため、大径のローラに比べて汚れていく速度が速くなるので、小径ローラは汚れに対して不利であると言える。以上の理由により、本実施形態においては、装置の小型化とローラの汚れの観点から、記録用シート材4の記録済み面(表側の面)に当接する側に、直径の大きい第1の両面ローラ108および第2の両面ローラ109を置く配置としている。
さらにまた、このような配置には次のような他の理由も挙げられる。すなわち、片方が駆動される一対のローラでシート材を挟持して搬送する場合には、搬送量を正確にするために駆動側を摩擦係数の高い材質とし、従動側を摩擦係数の低い材質とし、ニップ部の面積(ニップ面積)を大きくするためにどちらかを弾性材から構成することが多い。通常は、比較的低コストで高い摩擦係数が得られ、弾性にも富んでいるゴム類素材(ゴム状弾性材)を駆動側ローラの材質として用いるのが普通である。また、搬送力を増すために、エラストマー等を含むゴム類の表面に粗い研磨を施し、故意に微小な凹凸を付ける方法もよく用いられる。この場合は、従動側を、表面の摩擦係数が比較的小さい高分子樹脂で構成することが一般的である。微小な凹凸の付いたゴム類と平滑な高分子樹脂の表面とを比較した場合、記録用シート材4の記録済み面に当接させると、どちらもインクの汚れが付着するが、微小な凹凸の付いたゴム類ではその凹凸で汚れを保持するため、記録用シート材4に汚れを再転写することが少ないのに対し、平滑な高分子樹脂では汚れが剥離して記録用シート材4に再転写することが多いので、ゴム類を記録用シート材4の記録済み面に当接させる方が有利であると言える。以上の理由により、本実施形態においては、記録用シート材4の記録済み面(表側の面)に当接する側にゴム類素材のローラを配し、未記録面(裏側の面)に当接する側に高分子樹脂素材のローラを配するようにしている。
<高剛性の記録用シート材の処理>
次に、以上説明した自動両面ユニット(シート材反転部)2を用いて、剛性の高い記録用シート材に記録を行う場合の動作を説明する。剛性の高い記録用シート材とは、例えば、厚さが2mm〜3mm程度の厚紙や、円板状や異形の記録用シート材を所定トレイに載せたまま搬送する場合などが想定される。そのような記録用シート材は剛性が高いので、シート材反転部2の両面ローラの直径に倣う程には湾曲できず、自動両面記録を行うことはできない。しかし、シート材反転部2を記録装置に装着したままの状態でそのような高剛性の記録用シート材の片面に記録を行うことは可能である。
記録用シート材4の剛性が高い場合には、メインASF37を利用して給紙することができないので、その場合は、ストレートなシート材経路を用いるために、排紙ローラ側から紙送りローラ21側に向かって記録用シート材4を給紙する。その際の自動両面ユニット(シート材反転部)2の動作を以下に説明する。
図14は、切替フラップ104の動作を説明する模式的側断面図である。図14(a)は、前述した通常の記録用シート材4を使用して自動両面記録を行う状態を示す。この状態では、切替フラップばね105は、記録用シート材4の押圧力に抗してストッパに切替フラップ104を付勢し続けるので、記録用シート材4は反転用のシート材経路に案内(ガイド)される。
図14(b)は、剛性の高い記録用シート材4を使用する状態を示す。剛性の高い記録用シート材4が自動両面ユニット2に搬送されると、記録用シート材4は出口フラップ106の下を通って切替フラップ104に当接する。切替フラップばね105は、剛性の高い記録用シート材4が挿入されて切替フラップ104を押圧するとその押圧力で切替フラップ104を退避させられる程度のばね荷重に設定されているので、剛性の高い記録用シート材4の進行に従って反時計方向(図14(b)の矢印方向)に揺動して退避する。そのため、剛性の高い記録用シート材4は、第1の両面ローラ108と第2の両面ローラ109との間に設けられた第2のシート材経路である退避パス131に導かれる。リアカバー103の退避パス131に相当する部位には孔(「通孔」または「開口」とも言う)が開けられているので、長尺の、剛性の高い記録用シート材4を使用する場合でも、シート材反転部(自動両面ユニット)2に干渉して搬送が制限されることはない。
なお、本発明の趣旨は図14(b)に示す前記した構成に限定されるものではない。すなわち、本発明の実施に際しては、上下2つの両面ローラ108、109の間に退避パス131を設けることは必須ではない。例えば、以下に説明するような構成を採用することもできる。図22は、略水平なシート材経路の上方に、大径の反転部ローラ(両面ローラ)を配置して構成されたシート材反転部(自動両面ユニット)を示す模式的側断面図である。図22において、切替フラップ104は不図示の切替フラップばねにより付勢されており、その切替フラップばねのばね力(押圧力)は、剛性の高い記録用シート材4が当接した際に切替フラップ104が回転できるような荷重に設定されている。図22においても、図13および図14の各部に対応する部分をそれぞれ同じ符号で示し、それらの詳細については、前述の説明を参照することにし、ここでは詳細な説明は省略する。
従って、剛性の低い記録用シート材4の場合は、第1の反転部ローラ(両面ローラ)108の図22の矢印c方向の回転により、記録用シート材4は図22の矢印a方向へ進行するが、剛性の高い記録用シート材4の場合は、切替フラップ104を押し退けて、図22の矢印b方向の退避パス131へ進行する。これにより、長尺の剛性の高い記録用シート材4を使用する場合でも、シート材反転部(自動両面ユニット)2に干渉して搬送が制限されることはない。以上説明した通り、本実施形態の自動両面ユニット2においては、2通りのシート材経路を有しており、自動両面ユニット2を取り外すことなく、剛性が高く湾曲できない記録用シート材4を含む)への片面記録を行うことも可能である。
<自動両面ユニットの駆動機構>
次に、シート材反転部としての自動両面ユニット2のローラ類の駆動機構について説明する。図15は、本発明を適用した記録装置の一実施形態(図1参照)を、図2とは反対側から見て、自動両面ユニット2のローラ類の駆動機構の構成を示す模式的側断面図である。図16は、その自動両面ユニット2のローラ類の駆動機構の動作を説明するための模式的側断面図である。この駆動機構について説明すると、LFモータ26からの動力が両面伝達ギア列115を介して両面太陽ギア116まで伝達される。そして、両面太陽ギア116を回転中心として揺動可能な揺動アーム(両面振り子アーム)117に、第1の両面遊星ギア118と第2の両面遊星ギア119が回転可能に取り付けられ、両面太陽ギア116と係合している。両面振り子アーム117には、両面振り子アームばね132が取り付けられている。
第1の反転ディレイギア121が第2の両面遊星ギア119と係合可能で、第1の反転ディレイギア121と、それと同軸に設けられている第2の反転ディレイギア122には、反転ディレイギアばね123によって相対的な付勢力が与えられている。第1の両面ローラ(反転部ローラ)108に固定されている第1の両面ローラギア125と、第2の両面ローラ(反転部ローラ)109に固定されている第2の両面ローラギア126は、両面ローラアイドラギア124によって接続されている。スパイラル溝ギア120が、アイドラギアを介して両面太陽ギア116と係合している。そして、スパイラル溝ギア120の溝に係合して揺動するストップアーム127が、ストップアームばね128によってセンタリングされている。
前述した通り、本実施形態では、シート材反転部である自動両面ユニット2の駆動力は、紙送りローラ21を駆動するLFモータ26より得られる。このような構成にすることにより、紙送りローラ21と第1の反転部ローラ(両面ローラ)108あるいは第2の反転部ローラ(両面ローラ)109とが協働して記録用シート材4を搬送する際に、起動停止のタイミングをほぼ完全に同期させ記録用シート材搬送速度をほぼ同一にすることができるので、このような構成を採るのが好適である。
両面太陽ギア116と両面振り子アーム117との間に適度な摩擦力が働くように構成されており、両面振り子アーム117は両面太陽ギア116の回転方向に従って揺動する。ここで、紙送りローラ21が記録用シート材4を排紙方向に搬送する方向にLFモータ26を回転させる方向を正方向、自動両面ユニット2側へ記録用シート材を搬送する方向にLFモータ26を回転させる方向を逆方向とすると、LFモータ26が正方向に回転したときには、両面太陽ギア116は図15の矢印a方向に回転する。両面太陽ギア116の回転に伴って、両面振り子アーム117も図15の矢印a方向に揺動する。すると、第1の両面遊星ギア118が両面ローラアイドラギア124に係合し、両面ローラアイドラギア124を回転させる。両面ローラアイドラギア124の回転に伴い、第1の両面ローラギア125が図15の矢印c方向へ回転し、同じく第2の両面ローラギア126が図15の矢印d方向へ回転する。図15の矢印c方向および矢印d方向は、第1の両面ローラ108および第2の両面ローラ109がそれぞれシート材反転部(自動両面ユニット)2内で記録用シート材4を搬送する方向である。
LFモータ26が逆方向に回転したときには、両面太陽ギア116は図15の矢印b方向に回転する。両面太陽ギア116の回転に伴って、両面振り子アーム117も基本的に図15の矢印b方向へ揺動する。すると、第2の両面遊星ギア119が第1の反転ディレイギア121に係合する。第1の反転ディレイギア121と第2の反転ディレイギア122は、相対するスラスト面から互いに突起が突出しており、第2の反転ディレイギア122を固定して考えた時、第1の反転ディレイギア121を1回転させると突起同士が噛み合うクラッチ手段の役割を果している。
第2の両面遊星ギア119が第1の反転ディレイギア121に係合する前は、第1の反転ディレイギア121と第2の反転ディレイギア122との間は、反転ディレイギアばね123により前記した突起同士が離れる方向に付勢されており、第1の反転ディレイギア121が回転開始してからほぼ一回転した後に、第2の反転ディレイギア122が回転を開始する。このようにLFモータ26が逆方向に回転を開始してから、第2の反転ディレイギア122が回転を開始するまでの期間が、第1の両面ローラ108および第2の両面ローラ109が停止しているディレイ期間となる。
第2の反転ディレイギア122が回転すると、両面ローラアイドラギア124を介して、第1の両面ローラギアを図15の矢印c方向へ、第2の両面ローラギアを図15の矢印d方向へと回転させる。これは、LFモータ26を正方向に回転させたときの回転方向と同じ方向である。このような機構により、LFモータ26の回転方向に係わらず、第1の両面ローラ108および第2の両面ローラ109を、常に記録用シート材4を搬送する方向に回転させることができる。
ここで、スパイラル溝ギア120の作用について説明する。スパイラル溝ギア120は、外周にギア面が形成され、片方の端面に最内周および最外周に無限軌道を備えた螺旋状の溝が切られたカムが形成されているものである。このスパイラル溝ギア120は、本実施形態においては、アイドラギアを介して両面太陽ギア116と接続されているので、両面太陽ギア116と同方向に同期して回転する。スパイラル溝ギア120の溝には、ストップアーム127の一部であるフォロワピン127aが係合しているので、スパイラル溝ギア120の回転に伴ってストップアーム127は揺動する。例えば、スパイラル溝ギア120が図15の矢印e方向に回転すると、フォロワピン127aが内周に引き込まれるので、ストップアーム127は図15の矢印g方向に揺動する。そのままスパイラル溝ギア120が図15の矢印e方向に回転し続けても、フォロワピン127aは最内周の無限軌道に入るので、ストップアーム127は所定位置で停止する。
逆に、スパイラル溝ギア120が図15の矢印f方向に回転すると、フォロワピン127aが外周に向けて移動するので、ストップアーム127は図15の矢印h方向に揺動する。こちらも同様に、スパイラル溝ギア120が図15の矢印f方向に回転し続けると、フォロワピン127aは最外周の無限軌道に入り、ストップアーム127は所定位置で停止する。なお、スパイラル溝ギア120の回転方向が変わった時に、最外周および最内周の無限軌道から螺旋状溝に円滑に移動できるように、ストップアームばね128が、ストップアーム127を、その移動範囲中央付近をセンターとしてセンタリングしている。
このような動作をするストップアーム127は、図16に示すように、両面振り子アーム(揺動アーム)117に取り付けられた両面振り子アームばね(揺動アームばね)132に作用する。両面振り子アームばね132は、両面振り子アーム117に取り付けられ、ストップアーム127方向に延びている弾性部材である。また、両面振り子アームばね132の先端は、常にストップアーム127よりもスパイラル溝ギア120の中心方向に位置している。
このような位置関係により、LFモータ26が正方向に回転した時に、次のような作用を与える。すなわち、LFモータ26が逆方向に回転して記録用シート材4をシート材反転部2へ搬送し、表裏反転させて記録用シート材4が紙送りローラ21まで戻ってきた時、図16(c)に示すようにストップアーム127はスパイラル溝ギア120の最外周の無限軌道に係合している。その後、LFモータ26を正方向に回転させて裏側の面の記録を行う際には、ストップアーム127はスパイラル溝ギア120の内周に向かって移動する。LFモータ26が正方向に回転している時は、揺動アーム117は図15の矢印a方向に揺動して動力を伝達しているので、図16(d)に示すようにストップアーム127が内周に向かってくる途中で両面振り子アームばね132と当接する。
LFモータ26が正方向にさらに回転すると、ストップアーム127はさらに内周に移動して両面振り子アームばね132を弾性変形させるので、両面振り子アーム117は、第1の両面遊星ギア118と両面ローラアイドラギア124の歯面同士が噛み合う時に圧力角方向に作用する力および両面振り子アーム117を図15の矢印a方向に揺動させる力と、両面振り子アームばね132の反発力の力のバランスで、両面振り子アーム117の姿勢が決まる。本実施形態の場合は、両面振り子アームばね132の反発力を小さく設定してあるので、ストップアーム127が図16(e)に示すように最内周の無限軌道に入った位置にいても、両面振り子アームばね132を弾性変形させるだけで、第1の両面遊星ギア118と両面ローラアイドラギア124の間の動力伝達は継続して行われる。
LFモータ26が間欠的に駆動されて回転および停止を繰り返している時に、停止状態となっても第1の両面遊星ギア118と両面ローラアイドラギア124の歯面同士は重なったままなので、両者の噛み合いが外れることはない。しかし、記録用シート材4の裏側の面の記録が終了して、自動両面ユニット2への駆動伝達が不要になったときには、LFモータ26の負荷を低減するために駆動を切断した方が好ましい。よって、駆動伝達を切断したい場合には以下の方法が実施される。
すなわち、ストップアーム127が最内周の無限軌道に入っていて、両面振り子アームばね132が弾性変形している状態で、図16(f)に示すように少しだけLFモータ26を逆方向に回転させる。両面振り子アームばね132の反発力によって両面振り子アーム117は図15の矢印b方向に回ろうとしているところを第1の両面遊星ギア118と両面ローラアイドラギア124の歯面同士の重なりによって止めている状態から、歯面同士の重なりを外す方向の回転を与えるので、両面振り子アーム117は一気に図15の矢印b方向へと回転することになる。両面振り子アーム117が図15の矢印b方向へ一旦回転してしまうと、弾性変形していた両面振り子アームばね132が元の形状に戻るので、LFモータ26を正方向に回転させても両面振り子アームばね132とストップアーム127が干渉するため、第1の両面遊星ギア118と両面ローラアイドラギア124が噛み合う位置まで両面振り子アーム117は揺動できない。よって、この状態からは、所定量のLFモータ26の逆方向回転を経ないと、自動両面ユニット2内の両面振り子アーム117以降に駆動力は伝達されない。両面振り子アーム117までの駆動は、単にギア列を回転させるだけなので、LFモータ26に掛かる負荷は僅少であり、自動両面ユニット2が付いていない場合の負荷と殆ど差がない。
なお、ストップアーム127が最内周の無限軌道にある状態から、LFモータ26が逆方向に回転した場合には、両面振り子アームばね132とストップアーム127の間には何も作用を及ぼさないので、前述した通り第1の反転ディレイギア121へ駆動伝達することができる。
以上の説明から明らかなように、図15および図16の構成によれば、紙送りローラ21と記録部Nとシート材反転部2とを備え、記録部Nで記録用シート材4の第1の面(表側の面)に記録した後、紙送りローラにて記録用シート材4をシート材反転部に搬送し、反転後の記録用シート材を再度紙送りローラで挟持して記録用シート材の第2の面(裏側の面)に記録する両面記録装置において、第1の面に記録した後、紙送りローラの駆動を開始してから記録用シート材の先端がシート材反転部の反転部ローラ109に挟持されるまでの間に、反転部ローラが紙送りローラ108,109と同期回転を開始するように構成されている。また、記録用シート材4をシート材反転部2に搬送する第1の回転方向(逆方向の回転)に、紙送りローラ21を所定量回転することで接続する第1のクラッチ手段により、反転部ローラ108,109が紙送りローラ21と同期回転を開始するように構成されている。
[両面記録方法]
次に、前記した自動両面ユニット2のローラ類の駆動機構の動作を含めて、本実施形態の自動両面記録の動作の詳細を図20のフローチャートを参照して説明する。
自動両面記録が開始されると、ステップS1で記録用シート材4の給紙が行われ、例えばメインASF37などから紙送りローラ21に向けて記録用シート材4が供給される。次に、ステップS2で表側の面の記録が行われる。これは、片面のみの記録の場合と同様の動作である。この時のローラ類の駆動機構の状態は図16(a)に示す状態である。すなわち、自動両面ユニット2の駆動機構を初期化した後に、LFモータ26が正方向に回転中の状態であり、自動両面記録時の表側の面の記録動作中や、自動両面記録を使用しない通常の記録動作中などの状態である。この状態では、ストップアーム127のフォロワピン127aはスパイラル溝ギア120の最内周の無限軌道にあり、両面振り子アーム(揺動アーム)117が図15および図16の矢印a方向に揺動しようとすると、両面振り子アーム117は、そのアームばね132がストップアーム127に当接してそれ以上回転できず、第1の両面遊星ギア118が両面ローラアイドラギア124と係合できないので、LFモータ26からの駆動力は第1の両面ローラギア125および第2の両面ローラギア126に伝達されない。この状態では、第1の両面ピンチローラ112あるいは第2の両面ピンチローラ113の圧力を受けて軸損が発生している第1の両面ローラ108あるいは第2の両面ローラ109が回転しないので、LFモータ26が受ける負荷は少ない。
次に、ステップS3で、表面記録が終了した時点でPEセンサ67で記録用シート材4の後端を検知できたかどうかを確認する。すなわち、この時にPEセンサ67が記録用シート材4を検知していたら、まだ記録用シート材4の表面の後端が到達していないので、ステップS4で、そのままLFモータ26を正方向に回転させ、記録用シート材4の表面後端がPEセンサレバー66を通過してさらに少し行った位置p2まで移動させる。次に、ステップS5で、PEセンサ67が記録用シート材4の表面先端を検知してから表面後端を検知するまでに記録用シート材4を搬送した量から、記録用シート材4の長さを計算する。前述したように、記録用シート材4の長さが所定長L1よりも短い場合は、紙送りローラ21から第2の両面ローラ109あるいは第1の両面ローラ108から紙送りローラ21までの搬送の間にローラに届かなくなってしまうため、自動両面記録動作から除外することが必要である。また、記録用シート材4の長さが所定長L2よりも長い場合は、記録用シート材4の記録済み面同士が紙送りローラ21から自動両面ユニット2までのシート材経路中で交錯してしまうことになり好ましくないので、自動両面記録動作から除外することが必要である。この条件で、自動両面記録動作から除外する判断をした場合は、ステップS6に進み、LFモータ26を正方向に回転させて、そのまま記録用シート材4を排紙してしまう。条件に適合した場合は、次にステップS7に進み、リフト機構を図10(c)に示すような第3ポジションにしてピンチローラ22をリリースさせる(離れさせる)。
次に、ステップS8で、記録用シート材4の表側の面の後端がすでにピンチローラ22の近傍の位置p1よりも下流側まで搬送されてしまっているかどうかを確認する。すでに下流側まで送られてしまっている場合は、ピンチローラ22を圧接状態に戻した時に、確実に紙送りローラ21とピンチローラ22に挟持されるように、ステップS9で、表面後端がp1にくるまで、LFモータ26を逆方向に回転させてバックフィードする。この時のローラ類の駆動機構の状態は、図16(b)に示す状態である。なお、ステップS2からステップS8にかけては、なるべく動作が停止しないようにして、前述した通り、記録用シート材4が変形する前にステップS9を実施することが望ましい。一方、表面後端がp1より上流側にある場合は、そのままピンチローラ22を圧接すれば確実に記録用シート材4を挟持することが可能なので、そのままステップS10に進む。
図16(b)は、LFモータ26の逆方向の回転が開始した直後の状態を示す。すなわち、表側の面の記録終了後にバックフィードが開始された直後(図12(b)の状態)や、メインASF37からの給紙後の頭出し量調整のためにLFモータ26を逆転させた時の状態である。この時は、両面振り子アーム117が図15および図16の矢印b方向に揺動しようとするのを妨げるものは何もないので、第2の両面遊星ギア119が第1の反転ディレイギア121に係合する。それに伴い、第1の反転ディレイギア121は回転を開始するが、ほぼ1回転するまでは第2の反転ディレイギア122には駆動力が伝達されないので、両面ローラアイドラギア124は回転せず、第1の両面ローラ108および第2の両面ローラ109は動作しない。従って、この状態でもまだLFモータ26が受ける負荷は少ない。このような状態を設定しているのは、自動両面記録動作において記録用シート材4をバックフィードさせた時に、紙送りローラ21から第2の両面ローラ109までは距離があるので、記録用シート材4の先端が第2の両面ローラ109に到達するまでは、第2の両面ローラ109は回転する必要がないためである。また、前述した通り、通常記録時の頭出し量調整時などに、不必要に第1の両面ローラ108あるいは第2の両面ローラ109が回転しないようにするためである。
次に、ステップS10で、記録用シート材4の表側の面の記録済みインクが乾燥するまで待機する。必要乾燥時間は前述のように幾つかの要因により変動するので、乾燥待機時間t1は可変のパラメータとすることが可能である。具体的には、記録用シート材4の種類、インクの種類、インクの重ね打ち込み方法、インクの単位面積あたりの打ち込み量、環境温度、環境湿度、環境風速等の条件を勘案してt1を決定する。
次に、ステップS11でリフト機構を図10(d)に示すような第4ポジションにする。これにより、再び紙送りローラ21とピンチローラ22が記録用シート材4を挟持する。そして、ステップS12で乾燥待機時間t2だけ待機する。これは、ステップS10で乾燥待機時間t1を実施した場合には使用しなくても良く、t2=0として次のステップに進むことも可能である。時間t2だけ待機するのは、例えば、記録用シート材4の後端部に記録動作を行っておらず余白部分が存在している場合には、ステップS10でt1=0として直ぐに余白部分にピンチローラ22を圧接するように制御しても何ら支障がないが、そのまま直ぐにバックフィードして被記録用シート材4の搬送を行うと乾燥前のインクがピンチローラ22に転写してしまう可能性があるので、そのような場合にはここで乾燥待機時間t2を設定するのが好都合だからである。
ステップS13で、LFモータ26を逆方向に回転させ、記録用シート材を所定量x1だけバックフィードする。このステップS13で記録用シート材4を自動両面ユニット2まで搬送し、表裏反転させる。このステップS13が終了した時点で、裏側の面の先端は紙送りローラ21より少し手前まで戻ってきている。ここでのローラ類の駆動機構の状態は図16(c)で示す状態であり、これはLFモータ26を逆方向にさらに回転させ続けた状態である。すなわち、記録用シート材4をバックフィードして自動両面ユニット2で反転させている間の状態である。図16(b)の状態から、反転ディレイギア121がほぼ1回転すると、第1の反転ディレイギア121のスラスト方向に突出した突起が、対向して設けられた第2の反転ディレイギア122の突起に係合して、第1の反転ディレイギア121と第2の反転ディレイギア122が一体となって回転を始める。第2の反転ディレイギア122が回転を始めると、第2の反転ディレイギア122は両面ローラアイドラギア124と常時係合しているので、両面ローラアイドラギア124および第1の両面ローラギア125と第2の両面ローラギア126が回転する。これにより、第1の両面ローラ108は図15の矢印c方向に、第2の両面ローラ109は図15の矢印d方向にそれぞれ回転する。
すなわち、本実施形態においては、第1の面(表側の面)に記録した後、紙送りローラ21の駆動を開始してから記録用シート材4の先端がシート材反転部2の反転部ローラ109に挟持されるまでの間に、反転部ローラ109が前記紙送りローラ21と同期回転を開始するように構成されている。また、上記した構成においては、記録用シート材4をシート材反転部2に搬送する第1の回転方向(逆方向の回転)に紙送りローラ21を所定量回転することで接続する第1のクラッチ手段(図15,16参照)により、反転部ローラ109が紙送りローラ21と同期回転を開始するように構成されている。そして、第1のクラッチ手段として、遊星ギア118,119を保持する揺動アーム117を拘束する機構120,127,132を含む構成が採用されている。
次に、裏側の面の先端を、紙送りローラ21とピンチローラ22のニップ部に挟持させる際の、いわゆるレジストレーション動作について説明する。まずステップS14で、現在使用している記録用シート材4が低剛性の薄いシート材か、高剛性の厚いシート材かを確認して、それによって制御を切り替える。記録用シート材4の剛性の判断は、プリンタドライバ等でユーザが設定する記録用シート材の種類によってもよいし、記録用シート材の厚みを測定する検知手段を使用して判断してもよい。なお、ここで制御を2つに分けるのは、記録用シート材4の剛性により記録用シート材4を撓ませてループを作った際の挙動が異なるからである。
まず、比較的低剛性の薄い記録用シート材4の場合について説明する。図18は、薄い記録用シート材4を使用した場合の、裏側の面の先端のレジストレーション動作を示す模式的側断面図である。ステップS13でのLFモータ26の逆方向回転により、図18(a)に示すように記録用シート材4を反転させる搬送が行われる。ステップS13が終了した時点で、記録用シート材4の裏側の面の先端は、おおよそ通紙ガイド70の近辺に戻ってきている。薄い記録用シート材4の場合には、次にステップS15に進む。ステップS15では、リフト機構を動作させて、図10(a)に示すような第1ポジションに移行させる。これにより、通紙ガイド70を上昇させる。
図18(b)はステップS15が終了した状態を示す。前述したように、ピンチローラ22の中心は、紙送りローラ21の中心に対して第1排紙ローラ30側に若干オフセットして配置されているので、紙送りローラ21とピンチローラ22のニップ部は、記録用シート材4が搬送されてきた略水平線に対して若干の角度を持って傾いている。レジストレーション動作前に通紙ガイド70を上昇位置に戻すことにより、記録用シート材4の裏側の面の先端を、この傾いたニップ部に円滑に導くことが可能になる。次に、ステップS16で、LFモータ26を逆方向に回転させ、記録用シート材4を紙送りローラ21へ向けてさらに搬送する。次に、ステップS17で、PEセンサ67で記録用シート材4の裏側の面の先端を検知する。裏側の面の先端が検知できたら、ステップS18へ進む。
次に、ステップS18で、PEセンサ67によって裏側の面の先端を検知した位置から、紙送りローラ21までの距離より少しだけ長い距離x2だけ記録用シート材4を搬送する。これにより、記録用シート材4の裏側の面の先端は紙送りローラ21とピンチローラ22のニップ部まで到達し、記録用シート材4の、さらに余分に搬送された部分(長さx2)は撓んでループを形成する。図18(c)は、ステップS18が終了したときの状態を示す。通紙ガイド70を上昇位置にしたことにより、シート材経路の高さ方向の隙間は小さくなっているが、記録用シート材4の剛性が比較的低いので、ループは容易に形成され、撓み(ループ)を解消しようとする力が記録用シート材4を押し進めるので、記録用シート材4の裏側の面の先端部が、逆転を続ける紙送りローラ21とピンチローラ22のニップ部に倣って紙送りローラ21と平行になる。こうして、いわゆるレジストレーション動作が完了する。次に、ステップS19で、LFモータ26の回転方向を正方向に転じさせ、記録用シート材4の裏側の面の先端をニップ部で挟持し、所定距離x3だけ搬送して、裏側の面の記録開始の準備を完了する。
次に、比較的高剛性の厚い記録用シート材4の場合について説明する。図19は厚い記録用シート材を使用した場合の、裏側の面の先端のレジストレーション動作を示す模式的側断面図である。図19(a)は、図18(a)と同様にステップS13の途中の状態を示し、図19(b)はステップS13が終了したときの状態を示す。
ステップS20で、通紙ガイド70は下降位置のままLFモータ26を逆方向に回転させ、記録用シート材4を、ステップS13で停止した位置の記録用シート材4の裏側の面の先端から、紙送りローラ21のニップまでの距離よりも少しだけ長い距離x4だけ搬送する。これによって、薄い記録用シート材4の場合と同様に、記録用シート材4の裏側の面の先端は、逆転している紙送りローラ21のニップ部に到達し、さらに記録用シート材4の余分に搬送された部分(長さx4)がループを形成するので、記録用シート材4の裏側の面の先端は紙送りローラ21と平行になる。こうして、レジストレーション動作が完了する。図19(c)はステップS20が終了したときの状態を示している。
次に、ステップS21で、LFモータ26の回転方向を正方向に転じさせ、記録用シート材4の裏側の面の先端をニップ部で挟持し、所定距離x3だけ搬送して、裏側の面の記録開始の準備を行う。なお、ステップS19あるいはステップS21にて、それまで逆方向回転をしていたLFモータ26が正方向回転に回転方向を転じる。この時、両面振り子アーム117は、図15,16の矢印a方向へ揺動する。すると、第2の両面遊星ギア119と第1の反転ディレイギア121との係合が外れる。LFモータ26の逆方向回転時には、第1の反転ディレイギア121と第2の反転ディレイギア122が互いの突起によって係合していたが、同時に、両者の間に挟まれた捩じりコイルばねである反転ディレイギアばね123が圧縮された状態になっている。しかし、前記した通り第1の反転ディレイギア121がフリー(解放状態)になることによって、反転ディレイギアばね123がばね力で伸張するため、第1の反転ディレイギア121はほぼ1回転反転し、図16(f)に示すような初期状態に戻る。
次に、ステップS22で、リフト機構を図10(a)に示すような第1ポジションにして、裏側の面の記録開始の準備を完了する。ここで、厚い記録用シート材4を使用する場合に、レジストレーション動作を行う間、通紙ガイド70を下降位置としている理由を説明する。
薄い記録用シート材4の場合と同様に、図18(c)に示すようにループを形成しようとした場合、記録用シート材4の剛性が高いと、ニップ部に到達する前から記録用シート材4はピンチローラホルダ23に沿って搬送されてしまう。従って、記録用シート材4がニップ部に到達した後にさらに搬送されてループを形成しようとしても、すでにループを形成可能なスペースが無くなっており、ループが形成されず、そのため上手くレジストレーションが取れない場合があり得るからである。ループが形成されないと、第1の両面ローラ108と紙送りローラ21との間で同時に挟持された記録用シート材4に弛みができない。本実施形態のようにローラ類の駆動機構に両面振り子アーム117のような機構を用いる場合には、ステップS20におけるLFモータ26の逆転からステップS21におけるLFモータ26の正転に至る間に、両面振り子アーム117が揺動する時間が必要になり、その期間中は第1の両面ローラ108および第2の両面ローラ109が停止してしまう。紙送りローラ21はダイレクトにLFモータ26と接続されているために、この停止期間がないので、シート材搬送速度にずれが生じてしまう。記録用シート材4の弛みが有れば、ステップS21の最中にその弛みがシート材搬送速度のずれを吸収する。しかし、記録用シート材4に弛みが無い場合には、シート材搬送速度のずれを吸収できないまま、紙送りローラ21等が無理やり記録用シート材を搬送しようとするが、記録用シート材4の後部は第1の両面ローラ108に挟持されているために実際には搬送できず、記録用シート材4の裏側の面の先端の搬送量が狂ってしまい、裏側の面の上端の余白が、所定量よりも短くなってしまうことがある。
そこで本実施形態では、以上の問題を解決するために、前記したように通紙ガイド70を下降位置にしてピンチローラホルダ23との間の高さ方向の隙間を十分に取り、ループを形成できる十分なスペースを確保している。これにより、剛性の比較的高い厚い記録用シート材4を使用する場合にも、良好なレジストレーション動作が可能である。
次に、ステップS23で、記録用シート材4の裏側の面の記録を行う。この時点で、大抵の場合には、記録用シート材4の裏側の面の後端部は、まだ第1の両面ローラ108に挟持されている。そのままで第1の両面ローラ108の回転を停止してしまうと、記録用シート材4を後方に引っ張る負荷を受けてしまうため、シート材搬送精度が悪化するおそれがあり、好ましくない。従って、少なくとも記録用シート材4の裏側の面の後端部が第1の両面ローラ108に挟持されている間は、第1の両面ローラ108の駆動は継続するように構成されている。この時にローラ類の駆動機構は、図16(d)に示すような状態になっている。図16(d)は、記録用シート材4の反転動作後、LFモータ26が正方向に回転している最中の自動両面ユニット2のローラ類の駆動機構の動作状態を示す模式的側断面図である。すなわち、図16(c)の状態からLFモータ26が正方向回転に転じると、両面振り子アーム117は図15,16の矢印a方向に揺動する。この時、ストップアーム127は、図15の矢印h方向に揺動しており、両面振り子アーム117が図15の矢印a方向に揺動してきても、両面振り子アームばね132がストップアーム127に当接することがないので、第1の両面遊星ギア118が両面ローラアイドラギア124に係合し、駆動力が伝達される。
その後、LFモータ26の正方向回転が継続すると、フォロワピン127aがスパイラル溝ギア120に導かれて内周に向けて移動し、ストップアーム127が図15,16の矢印g方向に揺動する。揺動していく途中で、ストップアーム127は両面振り子アームばね132に当接し、両面振り子アームばね132を変形させていく。この両面振り子アームばね132の変形による反力で、両面振り子アーム117には図15,16の矢印b方向へ揺動させようとする力が働くが、第1の両面遊星ギア118と両面ローラアイドラギア124の間で駆動力を伝達している最中には、ギア歯面同士が噛み合う力の方が強いために、第1の両面遊星ギア118と両面ローラアイドラギア124の係合は外れることがなく、駆動は継続される。図16(d)はこの状態を示している。
また、前述した通り、回転および停止を伴う間欠駆動を行った場合でも、ギアの歯面同士が重なっているために、第1の両面遊星ギア118と両面ローラアイドラギア124の係合が外れることはない。さらに、記録用シート材4の裏側の面の記録動作を継続し、LFモータ26を正方向に回転させていくと、フォロワピン127aはスパイラル溝ギア120の最内周部に到達する。この時の両面ローラ類駆動機構の状態は図16(e)に示す状態である。この時は、両面振り子アームばね132は最大変位した状態になるが、それでもギア歯面同士が噛み合う力が、両面振り子アーム117を揺動させる力よりも大きくなるように、両面振り子アームばね132の荷重が設定されているので、LFモータ26を正方向に回転させ続ける限りギア同士の係合は外れない。このようにしている間に記録用シート材4の裏側の面への記録動作が終了すると、ステップS24へ進む。
次に、ステップS24で、記録用シート材4を不図示の排紙トレイ上に排出する排紙動作を実施する。排紙動作では、LFモータ26の正方向回転を継続することにより、第2の排紙ローラ31によって記録用シート材4が記録ユニット本体1の外へ搬送される。
ステップS25で、裏側の面の先端の絶対位置の確認を実施する。これは、短い記録用シート材4を用いた場合に、フォロワピン127aがスパイラル溝ギア120の最内周まで到達しないことがあるからである。その場合にも、所定長さ分だけLFモータ26を回転させることにより、記録用シート材4の裏側の面の記録動作が終了した時には、フォロワピン127aが必ずスパイラル溝ギア120の最内周まで来るようにしている。
ステップS26で、ローラ類の駆動機構の初期化を実施する。前述したように、両面振り子アームばね132がチャージしている力を第1の両面遊星ギア118と両面ローラアイドラギア124の係合により保持しているので、LFモータ26を微少量だけ逆方向に回転させるだけで係合が外れる。すなわち、LFモータ26を逆方向に回転させると、両面振り子アーム117が図15,16の矢印b方向に揺動しようとするため、第1の両面遊星ギア118と両面ローラアイドラギア124の係合が外れ、チャージしていた両面振り子アームばね132が元に戻る力で、図15,16の矢印b方向に一気に揺動する。この時のローラ類の駆動機構は、図16(f)に示す状態である。
この図16(f)の状態では、両面振り子アームばね132の姿勢は元に戻っているので、ここからLFモータ26が正方向に回転した場合、両面振り子アーム117は図15,16の矢印a方向に揺動しようとするが、フォロワピン127aがスパイラル溝ギア120の最内周近傍に入っているため、両面振り子アームばね132がストップアーム127に当接してしまい、第1の両面遊星ギア118は両面ローラアイドラギア124に係合できない。さらにLFモータ26を正方向に回転させても、フォロワピン127aはスパイラル溝ギア120の最内周を回転し続けるので、第1の両面ローラ108および第2の両面ローラ109が駆動されることはない。
すなわち、本実施形態に係る両面記録装置は、シート材反転部2から記録用シート材4を搬送して再度紙送りローラ21で記録用シート材を挟持した後、記録用シート材4の後端が反転部ローラ108より離脱してから記録用シート材の排紙動作が終了するまでの間に、反転部ローラ108が紙送りローラ21と同期回転しなくなるように構成されている。
前記した構成においては、紙送りローラ21を、記録用シート材4をシート材反転部2から紙送りローラ21へ向かう方向に搬送する第2の回転方向(正方向)に所定量回転させた後、第1の回転方向(逆方向)に所定量回転させることで切断される第2のクラッチ手段(図15,16参照)により、反転部ローラ108が紙送りローラ21と同期回転しなくなる構成が採られている。また、第2のクラッチ手段は、遊星ギア118,119を保持する揺動アーム117を拘束する機構120,127,132を含んでいる。さらに、この第2のクラッチ手段は、螺旋形状の端面カム(スパイラル溝ギア120)とカムフォロワ(ストップアーム127)による時差機構を含んでいる。
また、前記した構成においては、前述したように、第1の面(表側の面)に記録した後、紙送りローラ21の駆動を開始してから記録用シート材4の先端がシート材反転部2の第2の両面ローラ109に挟持されるまでの間に、第2の両面ローラ109が紙送りローラ21と同期回転を開始するように構成されており、さらに、紙送りローラ21を、記録用シート材4をシート材反転部2に搬送する第1の回転方向(逆方向)に所定量回転することで接続する第1のクラッチ手段(図15,16参照)により、第2の両面ローラ109が紙送りローラ21と同期回転を開始するように構成されている。
なお、図16(f)の状態では、前述した通り、第1の反転ディレイギア121は、ステップS19あるいはステップS21で初期化されているので、このステップS26をもってローラ類の駆動機構の全ての初期化が終了する。
以上で、自動両面記録動作が終了する。連続して自動両面記録動作を実施する場合には、前記したシーケンスを繰り返せば良い。
なお、本実施形態においては、以上説明したような両面振り子アームばね132の作用で、両面振り子アーム117とストップアーム127の間に弾性的な当接関係を実現しているが、これに代えて、図17に示すような構成を採ることも可能である。図17は、図16と同様に自動両面ユニット2のローラ類の駆動機構の動作状態を示す模式的側断面図である。図17の両面振り子アーム117は、低弾性の腕を持っており、その腕とストップアーム127が当接できる関係にある。以下に、この構成の動作を簡単に説明する。
図17(a)から図17(c)までの動作は、図16(a)から図16(c)までの動作と同様であるので、ここではその説明を省略する。
図17(d)は、ストップアーム127がスパイラル溝ギア120の内周方向に移動してきて、揺動アーム(両面振り子アーム)117の腕142と当接した状態を示す。両面振り子アーム117の腕142には余り弾性がないので、ストップアーム127に押されると、両面振り子アーム117を図17の矢印b方向に回転させる力が働く。その力は、第1の両面遊星ギア118と両面ローラアイドラギア124の係合を外そうとする方向に働く。係合を外そうとする力は、第1の両面遊星ギア118と両面ローラアイドラギア124の歯面間に働く圧力並びにギアの歯面の弾性および滑り力と釣り合うが、やがてフォロワピン127aが内周に動くに従い係合を外そうとする力が大きくなり、歯面間の力に打ち勝って、強制的に第1の両面遊星ギア118と両面ローラアイドラギア124の係合を解除する。係合が解除されると同時に、第1の両面ローラ108および第2の両面ローラ109の回動は停止する。図17(e)は、この状態を示している。なお、このローラの回動を停止させるタイミングは、ステップS23の中で、記録用シート材4の裏側の面の後端が第1の両面ローラ108を通過した後の適当な時期に行われる。
すなわち、図17の構成においては、図16で説明した第2のクラッチ手段に代えて、紙送りローラ21を第2の回転方向(正方向)に所定量回転させることで切断する第3のクラッチ手段120,127,142を使用することにより、反転部ローラ108が紙送りローラ21と同期回転しなくなるように構成されている。また、図17の構成における第3のクラッチ手段は、遊星ギア118,119を保持する揺動アーム117を強制的に変位させる機構を含んでおり、さらには、螺旋形状の端面カム(スパイラル溝ギア120)とカムフォロワ(ストップアーム127)による時差機構を含んでいる。
また、図17の機構を有する両面記録装置においても、前述したように、第1の面(表側の面)に記録した後、紙送りローラ21の駆動を開始してから記録用シート材4の先端がシート材反転部2の第2の両面ローラ109に挟持されるまでの間に、第2の両面ローラ109が紙送りローラ21と同期回転を開始するように構成されており、さらに、紙送りローラ21を、記録用シート材4をシート材反転部2に搬送する第1の回転方向(逆方向)に所定量回転することで接続する第1のクラッチ手段(図15,16参照)により、第2の両面ローラ109が紙送りローラ21と同期回転を開始するように構成されている。
図17(c)に示すようなギアの係合解除以降は、LFモータ26が正方向に回転しても、両面振り子アーム117が図17の矢印a方向に揺動するのをストップアーム127によって妨げられるので、次にLFモータ26が逆方向に所定量回転するまで、自動両面ユニット2は駆動されない。また、第1の実施形態と同様に、第1の反転ディレイギア121もステップS19あるいはステップS21において初期化されているので、この時点で自動両面ユニット2のローラ類の駆動機構の初期化は完了している。これにより、裏側の面の記録動作中に第1の両面ローラ108および第2の両面ローラ109を回転させる負荷を無くすことができ、LFモータ26の回転負荷を低減させることが可能となる。
[キャリッジポジションの変更]
次に、記録を実施する記録用シート材4の種類により、キャリッジポジションを変更する場合について説明する。記録用シート材4によっては、保管しておいた環境条件により反ってしまったり、あるいは液体である記録用インクの打ち込みにより、記録終了後に反ってしまったりする場合がある。記録部11と、搬送中の記録用シート材4は、所定の間隔をあけて記録動作が行われるように配置されているが、この間隔よりも記録用シート材4の反りが大きい場合、記録部11と記録用シート材4が接触してしまう可能性がある。以下に3つの例を示す。
1番目の例は、記録装置への給紙以前に記録用シート材4が反っている場合である。その例としては、例えばインクジェット用官製葉書や片面にインク吸収のためのコート層を持ったシート材などが挙げられる。これらの記録用シート材4を低湿環境に放置すると、シート材の漉き目やコート層の位置から決まる方向に反り返ってしまうことがある。それらをそのまま搬送すると、表側の面の記録動作の終盤で、記録用シート材4の後端部がピンチローラ22のニップ部から外れて、排紙ローラと拍車で保持されている時に、記録用シート材4の端部が反り上がって記録部(記録ヘッド11の端面)に当接してしまうことがある。当接してしまうと、記録用シート材4の意図しない部分にインクが付着したり、悪い場合には、キャリッジ13の走査に伴って記録部が記録用シート材4の側端部に当たり、記録用シート材4の位置をずらしてしまう可能性がある。従って、この種の記録用シート材4を使用する場合には、表側の面の記録動作時に予めキャリッジ13を第2キャリッジポジション、すなわち、図10(b)に示すように記録ヘッド11の端面と記録用シート材4の間に間隔S2が生じるポジションに設定しておくと都合がよい。この時、裏側の面の記録動作時は、記録用シート材4の反り方向が表側の面とは反対になるため、記録部と記録用シート材4の接触可能性は低いので、記録品位の面から好適である(記録用シート材4を正常な状態で記録する際に適するように設定されている)第1キャリッジポジション、すなわち、図10(a)に示すように記録ヘッド11の端面と記録用シート材4の間に間隔S1が生じるポジションに戻して記録動作を実施することができる。以上が、表側の面は第2キャリッジポジション、裏側の面は第1キャリッジポジションにて記録動作を実施する場合である。
2番目の例は、インク吸収により変形しやすい記録用シート材4の場合である。その例としては、厚さが薄く腰の弱いシート材や膨潤しやすい紙繊維を使用したシート材などが挙げられる。これらの記録用シート材4に記録を実施すると、インク吸収後の時間の経過とともに、ある程度の量まで徐々にシート材変形量が増大していく。表側の面の記録動作時には記録部と記録用シート材4の距離が近くても構わないが、裏側の面を記録する時には、既に記録用シート材4はインク吸収に起因する波打などにより大きく変形しているので、記録部と記録用シート材4が接触してしまう可能性がある。従って、この種の記録用シート材4を使用する場合には、裏側の面の記録時のみキャリッジを第2キャリッジポジションとするのが好適である。以上が、表側の面は第1キャリッジポジション、裏側の面は第2キャリッジポジションにて記録動作を実施する場合である。
3番目の例は、前記した2つの性質を同時に備えたシート材に記録を実施する場合である。この場合は、表側の面でも裏側の面でも記録時に記録部と記録用シート材4とが接触する可能性があるため、常にキャリッジ13を第2キャリッジポジションとしておくことが好適である。これが表側の面と裏側の面のいずれも第2キャリッジポジションにて記録動作を実施する場合である。
以上3通りのキャリッジポジションの選択は、各種方法によって選択することができる。例えば、記録装置本体に追加したスイッチなどキャリッジポジション選択手段をユーザが操作する場合や、ホスト装置308での記録動作指示時にユーザが設定したシート材種類によって選択する場合や、シート材検知手段により記録用シート材の種類を記録装置本体で検知する場合や、変形量検知手段により記録用シート材の変形量を記録装置本体で検知する場合などによることができる。
なお、反りを生じにくい記録用シート材4を使用する場合も考えると、従来の記録装置と同様に、表側の面も裏側の面も、記録部と記録用シート材4の間隔が小さい、記録品位上好適である第1キャリッジポジションにて記録動作を実施可能であることが好ましい。その場合、前記した何らかの方法によって、4通りのキャリッジポジションの選択が行われる。また、本実施形態の両面記録装置を用いて、非常に厚い、または剛性が大きい記録用シート材4に関しては、表裏反転と裏側の面への記録は行わず表側の面の記録のみを実行する片面記録を行うことも可能である。
以上が、本実施形態の両面記録装置についての動作シーケンスを示すフローチャートに沿った自動両面記録動作を含めた説明である。
なお、本発明は、以上説明した構成に限定されるものではなく、図10で説明したリフト機構のポジションを変更した制御とすることも可能である。すなわち、前記した実施形態は通常の待機状態で通紙ガイド70が上昇状態であったが、これを下降状態にすることも可能である。具体的には、通常、リフト機構を図10(c)に示すような第3ポジションとし、ステップS1の前にリフト機構をこの第3ポジションから図10(a)に示すような第1ポジションに移動させる制御を追加するようにするとよい。また、ステップS26の後に、リフト機構を第1ポジションから第3ポジションに移動させる制御を追加するようにしてもよい。このような構成にした場合には、待機状態でピンチローラ22がリリース状態となっているので、厚紙等を排紙ローラ側から給紙する時などに好適である。
なお、本実施形態では、記録手段である記録ヘッド11を主走査方向に移動させながら記録するシリアル型の記録装置を例に挙げて説明したが、本発明は、記録用シート材4の全幅または一部をカバーする長さのラインタイプの記録手段を用いて副走査(紙送り)のみを行いながら記録するライン方式の記録装置の場合にも、同様に適用することができ、同様の効果を達成し得るものである。
前記した説明では、記録時には2つまたは3つのキャリッジポジション(記録部と記録用シート材の間隔)を選択可能な構成について述べたが、もっと多数のキャリッジポジション(間隔)を選択可能な構成にしたり、間隔を無段階に設定できる構成にすることもできる。
また、本発明は、記録手段の数にも関わりなく自由に実施できるものであり、1個の記録手段を用いる記録装置の他、異なる色のインクを使用する複数の記録手段を用いるカラー記録用の記録装置、あるいは同一色彩で異なる濃度のインクを使用する複数の記録手段を用いる階調記録用の記録装置、さらには、これらを組み合わせた記録装置の場合にも、同様に適用することができ、同様の効果を達成し得るものである。
さらにまた、本発明は、記録装置がインクジェット記録装置である場合、記録ヘッド11とインクタンク12を一体化した交換可能なヘッドカートリッジを用いる構成、記録ヘッド11とインクタンク12を別体にし、それらの間をインク供給用のチューブ等で接続する構成など、記録ヘッド11とインクタンク12の配置構成がどのような場合であっても同様に適用することができ、同様の効果が得られるものである。
なお、本発明は、記録装置がインクジェット記録装置の場合、熱エネルギーを利用してインクを吐出する方式のインクジェット記録ヘッドを使用する記録装置の他、例えば、ピエゾ素子等の電気機械変換体等を用いてインクを吐出する方式のインクジェット記録ヘッドを使用する記録装置など、他のインク吐出方式を用いるインクジェット記録装置に対しても同様に提供することができ、同様の作用、効果を達成できるものである。