JP4714066B2 - ワックスの水素化処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ワックスの水素化処理方法に関する。
近年、環境保護の立場からガソリンや軽油のような液体燃料中の硫黄分規制が急速に厳しくなってきている。このため、硫黄分や芳香族炭化水素の含有量が低いクリーンな液体燃料への期待が高まってきている。このようなクリーン燃料の製造方法の一つとして、石炭やアスファルトのガス化または天然ガスの改質などから得られる一酸化炭素と水素とを原料としたフィッシャー・トロプシュ(FT)合成法が挙げられる。
FT合成法で得られる燃料基材はノルマルパラフィンが主成分であり、含酸素化合物が一部含まれることから、そのまま燃料として使用することが困難であり、水素化精製によって含酸素化合物の除去またはノルマルパラフィンからイソパラフィンへの異性化が行われる。また、FT合成法では重質なワックス留分(FTワックス)も同時に生成され、このFTワックスは、水素化分解によりイソパラフィンに富んだ中間留分(灯油や軽油基材)へと変換されるのが一般的である。
FTワックスの水素化分解又はFT合成により製造される中間留分を燃料基材として使用する場合、収率が高いことはプロセスの経済性の観点から重要であるが、燃料性状の観点からは、ノルマルパラフィン含有量が低く、逆にイソパラフィン含有量が高いことが望ましい。例えば軽油では、ノルマルパラフィン含有量が多くなると低温流動性が悪化し、最悪の場合、商品としての使用が制限される。FT合成で生成する軽油はほとんどがノルマルパラフィンであるため、これをそのまま使用することは困難である。
なお、FTワックスを水素化分解して燃料基材を製造する技術はこれまでにも検討されており、例えば、FTワックスを原料とした水素化分解方法が、下記特許文献1〜3に記載されている。
国際公開第2004/028688号パンフレット 特開2004−255241号公報 特開2004−255242号公報
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載されているワックスの水素化分解方法では、長期間にわたってワックスの水素化分解を行なった場合、触媒の触媒活性が経時的に劣化し、得られる燃料基材のノルマルパラフィン含有量が増加してしまうという問題が生じる。
従来は高性能なワックス水素化分解用触媒の開発が中心であり、運転中における触媒の活性向上、即ち触媒寿命の延長に関する報告は無いに等しい。石油精製の分野における中間留分の製造方法としては減圧軽油を水素化分解する方法が代表的であり、このプロセスから低硫黄軽油を製造することができる。このプロセスにおいては、触媒の劣化が予想以上に大きい場合、予定の期間運転するために原料供給量を削減したり、分解率を低下させたり等の処置が取られるのが一般的である。しかし、このような処置は運転効率を低下させるため、好ましくない。したがって、触媒劣化の抑制、即ち予想以上の触媒劣化が起きた場合などに対応できる触媒の再活性化方法の開発が強く望まれている。
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、長期間にわたってFTワックスを水素化分解する際に、経時劣化する触媒活性を向上させると共に、ノルマルパラフィン含有量が十分に低減された燃料基材を得ることが可能なワックスの水素化処理方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、フィッシャー・トロプシュ合成により生成されたワックスを原料とし、水素の存在下で、上記ワックスを、ゼオライトを含む担体上に周期律表における第VIII族の金属を担持してなる触媒と接触させることにより水素化分解する第1の工程と、上記原料を一時的に上記ワックスから、上記第1の工程により得られた上記ワックスの水素化分解生成物と、フィッシャー・トロプシュ合成により生成された中間留分の水素化分解生成物との混合物を蒸留して得られる留出油に切り替え、水素の存在下、反応温度160〜330℃の条件で、上記留出油を上記触媒と接触させることにより水素化分解する第2の工程と、上記原料を上記留出油から上記ワックスに切り替え、水素の存在下で、上記ワックスを上記触媒と接触させることにより水素化分解する第3の工程と、を含むことを特徴とするワックスの水素化処理方法を提供する。
かかるワックスの水素化処理方法によれば、ゼオライトを含む担体上に周期律表における第VIII族の金属を担持してなる触媒を用いてFTワックスを水素化分解する際に、一時的に原料を上記の留出油に切り替え、上記の温度条件で当該留出油を上記触媒により水素化分解することで、それ以前のFTワックスの水素化分解の際に経時劣化した上記触媒の触媒活性を向上させることができ、その後、原料を再びFTワックスに切り替えることにより、長期間にわたってノルマルパラフィン含有量が十分に低減された燃料基材を得ることができる。
また、本発明のワックスの水素化処理方法において、上記ゼオライトは、超安定Y型ゼオライト(以下、場合により「USYゼオライト」という)であることが好ましい。
本発明によれば、長期間にわたってFTワックスを水素化分解する際に、経時劣化する触媒の触媒活性を向上させ、ノルマルパラフィン含有量が十分に低減された燃料基材を得ることが可能なワックスの水素化処理方法を提供することができる。
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明のワックスの水素化処理方法は、フィッシャー・トロプシュ合成により生成されたワックスを原料とし、水素の存在下で、上記ワックスを、ゼオライトを含む担体上に周期律表における第VIII族の金属を担持してなる触媒と接触させることにより水素化分解する第1の工程と、上記原料を一時的に上記ワックスから、上記第1の工程により得られた上記ワックスの水素化分解生成物と、フィッシャー・トロプシュ合成により生成された中間留分の水素化分解生成物との混合物を蒸留して得られる留出油に切り替え、水素の存在下、反応温度160〜330℃の条件で、上記留出油を上記触媒と接触させることにより水素化分解する第2の工程と、上記原料を上記留出油から上記ワックスに切り替え、水素の存在下で、上記ワックスを上記触媒と接触させることにより水素化分解する第3の工程と、を含むことを特徴とする方法である。
本発明におけるワックスの水素化処理は、例えば、触媒が充填された固定床反応装置を用いて行うことができる。原料としてのFTワックスは、固定床反応装置内に導入され、水素雰囲気下で触媒と接触することで水素化分解され、生成油が得られることとなる。
ここで、反応装置内に充填される水素化分解用の触媒としては、ゼオライトを含む担体上に周期律表における第VIII族の金属を担持してなるものが用いられる。ゼオライトとしては、例えば、USYゼオライト、モルデナイト、SAPO−11などが挙げられ、これらの中でもUSYゼオライトが好ましく用いられる。これらは一種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、ゼオライトとしてUSYゼオライトを用いる場合、USYゼオライト中のシリカとアルミナのモル比(シリカ/アルミナ)は、20〜96であることが好ましく、25〜60であることがより好ましく、30〜45であることが更に好ましい。
また、USYゼオライトの平均粒子径の上限値は、1.0μmであることが好ましく、0.5μmであることがより好ましい。一方、USYゼオライトの平均粒子径の下限値は、0.05μmであることが好ましい。
また、担体は、シリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナボリア、シリカマグネシアなどのアモルファス固体酸を含んでいてもよい。
また、担体としては、ゼオライト及び必要に応じて用いられるアモルファス固体酸等をバインダーを用いてペレット状に成型したものを用いることが好ましい。バインダーとしては、例えば、シリカ、アルミナ等を用いることができ、アルミナを用いることが好ましい。
また、担体上に担持される周期律表における第VIII族の金属としては、例えば、ニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金等が挙げられ、これらの中でもパラジウム、白金が好ましく用いられる。これらは一種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のワックスの水素化処理方法における第1の工程及び第3の工程で原料として使用されるワックスは、フィッシャー・トロプシュ(FT)合成により生成されたワックス(FTワックス)であり、炭素数が16以上、好ましくは炭素数が20以上のノルマルパラフィンを70質量%以上含んだワックスである。FTワックスの炭素数分布はFT合成の条件で決まるが、本発明で使用するFTワックスは、その炭素数分布に特に制限はない。
本発明のワックスの水素化処理方法における第2の工程で原料として使用される留出油は、上記第1の工程により得られたFTワックスの水素化分解生成物とフィッシャー・トロプシュ合成により生成された中間留分の水素化分解生成物との混合物を蒸留して得られるものである。
FT合成で製造された中間留分の水素化分解は、固定床反応装置を用いて行うことができる。この時の反応条件は特に制限されないが、ガスやナフサの生成が十分に抑制され、効率良く含酸素化合物の除去またはオレフィンの水素化が行われる条件とすることが望ましい。また、触媒としては、例えば、固体酸を含む担体上に周期律表における第VIII族の金属、具体的にはニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金から1種類以上を選択した金属が担持されてなる触媒を用いることが好ましい。
上記各水素化分解生成物の混合物を蒸留することで得られる留出油は、特に制限されないが、その炭素数が9〜25であることが好ましく、10〜20であることがより好ましい。また、上記混合物を蒸留する際に、例えば炭素数10〜15の灯油留分と炭素数16〜20の軽油留分とに分ける場合、これらを適宜混合して使用することもできる。
なお、第1の工程において、第2の工程を行う直前の反応温度は特に制限されないが、340℃以上の場合、第2の工程における触媒活性の回復度合いが低下するため、340℃未満であることが好ましい。言い換えれば、第1の工程における反応温度が触媒劣化により340℃に達する前に、原料の切り替えを行う(第2の工程を開始する)ことが好ましい。
また、第2の工程における反応条件としては、通常、反応温度を160〜330℃とすることが好ましく、170〜320℃とすることがより好ましい。反応温度が160℃未満であるか又は330℃を超えると、触媒活性の回復が十分に行われない。
また、第2の工程において、固定床反応装置内の触媒に対する軽質パラフィンの液空間速度(LHSV)は、0.1〜10.0h−1とすることが好ましく、0.5〜5.0h−1とすることがより好ましい。液空間速度が0.1h−1未満であると、触媒活性の十分な向上に時間がかかるため好ましくない。
更に、第2の工程において、反応時の圧力は、1〜12MPaとすることが好ましく、2〜6MPaとすることがより好ましい。
また、第2の工程において、水素油比は特に制限されないが、通常、100〜850NL/Lとすることが好ましく、200〜650NL/Lとすることがより好ましい。
上述した第1〜第3の工程を経てワックスの水素化処理を行うことにより、経時劣化する触媒の触媒活性を第2の工程を行うことで向上させることができ、長期間にわたってノルマルパラフィン含有量が十分に低減された燃料基材を得ることが可能となる。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
FTワックス(炭素数20〜80、ノルマルパラフィン含有量:96質量%)を水素化分解の原料として用意した。また、USYゼオライトとシリカアルミナ(アルミナ含有量:17モル%)とアルミナバインダーとを質量比3:57:40で混合し、直径約1.5mm、長さ3mmの円柱状に成型した後、500℃で1時間焼成して触媒担体を得た。なお、上記USYゼオライトとしては、該USYゼオライト中のシリカとアルミナのモル比が37であり、平均粒子径が0.82μmであるものを用いた。得られた触媒担体に、ジクロロテトラアンミン白金(II)水溶液を含浸し、120℃で3時間乾燥した後、500℃で1時間焼成することで、触媒担体上に白金が触媒全量を基準として0.8質量%担持されてなる水素化分解触媒を作製した。
次に、上記触媒300mlを固定床反応塔に充填し、反応前に水素気流下、345℃で4時間、金属(白金)の還元処理を行った。その後、上記触媒に対する上記原料の液空間速度2.0h−1(液流速として600ml/h)、圧力3.0MPa、水素油比570NL/Lの条件で、原料の分解率が70質量%になるように常に反応温度を調節しつつ、原料の水素化処理を45日間連続して行った(第1の工程)。この間に得られた生成油をまとめて蒸留し、炭素数10〜20の水素化分解生成物A(ノルマルパラフィン含有量:60質量%)を得た。
一方、FT合成で生成した中間留分を、白金が触媒全量を基準として0.2質量%担持されてなるアルミナ触媒を用いて、温度230℃、液空間速度1.0h−1、圧力2.8MPa、水素油比380NL/Lの条件で水素化精製した。こうして得られた生成物を蒸留し、炭素数10〜20の水素化分解生成物B(ノルマルパラフィン含有量:60質量%)を得た。次に、水素化分解生成物Aと水素化分解生成物Bとを質量比40:60で混合し、得られた混合物を蒸留することで、留出油(炭素数10〜20、ノルマルパラフィン含有量:60質量%)を得た。
上記第1の工程における水素化処理の運転開始から45日後、原料をFTワックスから上記留出油に切り替え、この留出油の水素化処理を2日間行った(第2の工程)。この処理における反応条件は、反応温度310℃、液空間速度2.5h−1、圧力3.0MPa、水素油比350NL/Lとした。
留出油の水素化処理後、再び原料をFTワックスに戻し、第1の工程と同様の条件にて水素化処理を行った(第3の工程)。
上記一連の水素化処理における反応温度として、反応開始時の温度(反応開始温度)、原料をFTワックスから留出油に切り替える直前の温度(第2の工程前温度)、及び、原料を軽質パラフィンから再度FTワックスに切り替えた直後の温度(第2の工程後温度)を表1に示す。この反応温度は触媒活性の指標となるものであり、反応温度が低いほど触媒活性が良好であることを示す。また、原料を留出油から再度FTワックスに切り替えた後の水素化処理で得られた生成油のうち、炭素数10〜20の生成油のノルマルパラフィン含有量(異性化の指標)を表1に示す。
(比較例1)
第2の工程での留出油の水素化処理における反応温度を130℃としたこと以外は実施例1と同様にして、上記第1〜第3の工程の水素化処理を行った。上記一連の水素化処理における各反応温度、炭素数10〜20の生成油のノルマルパラフィン含有量(異性化の指標)を表1に示す。
(比較例2)
第2の工程での原料として、留出油に代えて、FT合成で生成した未精製の中間留分(炭素数10〜20、アルコール含有量:8.2質量%、ノルマルパラフィン含有量:80.6質量%)を単独で用いたこと以外は実施例1と同様にして、上記第1〜第3の工程の水素化処理を行った。上記一連の水素化処理における各反応温度、炭素数10〜20の生成油のノルマルパラフィン含有量(異性化の指標)を表1に示す。
Figure 0004714066

表1に示した結果から明らかなように、長期間にわたってワックスの水素化分解を行う際に、特定の条件下で水素化分解運転中に一時的に特定の留出油(FTワックスの水素化分解生成物とFT合成で生成した中間留分の水素化分解生成物とを同時に蒸留して得られた留出油)を供給することで、経時劣化した触媒の活性を向上させることができ、イソパラフィンに富んだ(ノルマルパラフィンの少ない)燃料基材を得ることができることが確認された。

Claims (2)

  1. フィッシャー・トロプシュ合成により生成されたワックスを原料とし、水素の存在下で、前記ワックスを、ゼオライトを含む担体上に周期律表における第VIII族の金属を担持してなる触媒と接触させることにより水素化分解する第1の工程と、
    前記原料を一時的に前記ワックスから、前記第1の工程により得られた前記ワックスの水素化分解生成物と、フィッシャー・トロプシュ合成により生成された中間留分の水素化分解生成物との混合物を蒸留して得られる留出油に切り替え、水素の存在下、反応温度160〜330℃の条件で、前記留出油を前記触媒と接触させることにより水素化分解する第2の工程と、
    前記原料を前記留出油から前記ワックスに切り替え、水素の存在下で、前記ワックスを前記触媒と接触させることにより水素化分解する第3の工程と、
    を含むことを特徴とするワックスの水素化処理方法。
  2. 前記ゼオライトが、超安定Y型ゼオライトであることを特徴とする請求項1記載のワックスの水素化処理方法。
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