JP4686814B2 - 燃料電池装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は燃料電池装置に関する、特に高分子固体電解質膜を有するいわゆるPEM型の燃料電池装置の改良に関する。更に詳しくは、水直噴タイプ、特に水をノズルから直接空気極へ吹きかけるタイプの燃料電池装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
PEM型の燃料電池装置の電池本体は、燃料極(水素を燃料極とする場合は水素極ともいう)と空気極(酸素が反応ガスであるので酸素極ともいう。また酸化極ともいう)との間に高分子固体電解質膜が挟持された構成である。空気極と電解質膜との間には触媒を含む反応層が介在されている。
【0003】
このような構成の燃料電池の起電力は、燃料極側(アノード)に燃料ガスが供給され、空気極側に酸化ガスが供給された結果、電気化学反応の進行に伴い電子が発生し、この電子を外部回路に取り出すことにより、発生される。
即ち、燃料極(アノード)にて得られる水素イオンがプロトン(H3O+)の形態で、水分を含んだ電解質膜中を空気極(カソード)側に移動し、また燃料極(アノード)にて得られた電子が外部負荷を通って空気極(カソード)側に移動して酸化ガス(空気を含む)中の酸素と反応して水を生成する、一連の電気化学反応による電気エネルギーを取り出すことができる。
【0004】
本願出願人は、発熱反応をともなう空気極を冷却しその発電能力を高めるなどの目的で空気極の表面に液状の水を供給する構成の燃料電池装置を特願平10−378161号(出願人整理番号:EQ97083、代理人整理番号:P006703)において提案している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記出願で提案したいわゆる水直噴タイプの燃料電池装置では燃料電池本体の温度に応じて給水量を制御して、当該燃料電池本体の冷却を図っている。一方、空気極には常に一定量のプロセス空気が供給される。つまり、空気供給系の風量は常に一定である。この出願において、燃料電池本体の冷却時における水の顕熱と潜熱の影響について述べられている。ここに顕熱とは供給された水が、何ら蒸発することなく、燃料電池本体から奪う熱である。潜熱とは直噴された水が蒸発するときに燃料電池本体から奪う熱である。
しかしながら、その後の検討により、燃料電池本体の冷却には専ら水の潜熱が用いられ、顕熱の寄与は小さいことがわかった。従って、水の潜熱をより効率良く利用するためには、換言すると、空気極に供給された水を蒸発させて効率良く燃料電池本体を冷却するためには、空気極に供給するプロセス空気の供給量、即ち空気供給系の風量を調節すればよいことになる。
【0006】
今回新たに得られた上記知見に照らして先に提案した水直噴タイプの燃料電池装置を眺めると、下記の課題が浮かび上がってくる。
燃料電池本体が高い温度で運転されているとき、空気極へ供給されている空気(供給量一定)が水の潜熱を利用するのに充分な量に達していないと燃料電池がドライアップし空気温度が高くなる。そうなると燃料電池本体を冷却するために大量の水を供給してその顕熱を利用することとなるが、大量の水を供給するには大容量のポンプが必要となる。かかる大容量ポンプは燃料電池装置小型化の要求に反するものであり、かつこれを駆動するために大きな電力が消費されるので、燃料電池装置の効率を低減させることにもなる。また、大量の水を供給すると、プロセス空気の供給路が水で塞がれたりまた空気極表面に水の膜が生じてしまい、燃料電池の化学反応に必要な量の酸素が空気極に供給されなくなるおそれもある。
他方、燃料電池本体が低い温度で運転されているとき、空気極へ供給されている空気(供給量一定)が過剰な量であると、燃料電池本体の温度が低くなり、また空気供給のためのファンによる動力損も無視できない。
【0007】
また、空気極へ供給された水は反応水とともにリサイクルのために凝縮器で凝縮、回収される。この凝縮器の立場から見ると、処理する空気の量が少なくかつその温度が高い程、効率良く水を凝縮できる。換言すれば、凝縮器の容量を小さく(小型化)できる。燃料電池本体が低い温度で運転されかつプロセス空気の供給量が多いときには、大きな容量の(大型の)凝縮器が必要となる。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その構成は次の通りである。
即ち、燃料電池本体の空気極の表面に水を液体の状態で供給する水供給手段と、
前記空気極に対するプロセス空気の供給量を可変とする空気供給量変更手段と、を備えてなる、燃料電池装置。
【0009】
このように構成された燃料電池装置によれば、プロセス空気の供給量が可変となるので、プロセス空気の供給量を変化させてこれを最適量とすることにより、空気極に供給された水の潜熱を利用する冷却が十分かつ効率良く行われる。これにより、空気極ひいては燃料電池本体が効率よく冷却されることとなる。なお、水の潜熱を効率良く利用する手段として、水の粒径は50μm〜500μmとすることが好ましい。燃料電池本体の電解質膜の厚さは200μm以下であることが望ましい。
即ち、燃料電池本体の温度が高温で運転されてこれの温度を下げたいときには、充分量の水が供給されている下で空気の供給量(送風量、単位時間当たりに供給される空気量、単位時間当たりに空気室A(図3参照)を通過する空気量)を大きくする。空気供給量が固定のタイプでは、水の顕熱を利用するため多量の水を供給する必要上種々の不具合があったが、空気供給量を多くしても不具合はほとんど生じない。空気供給量を多くしたとしても空気供給装置(ファンなど)にかかる負荷は水量増大の場合にかかる負荷に比べて無視できるほど小さいからである。
燃料電池本体が低温で運転されてこれの温度を上げたいときには、空気供給量が過剰とならないように風量を落とす。これにより、燃料電池本体の温度を確実に上げることができると共に、空気供給装置で消費される電力を可及的に小さくし、もって動力損の低減を図る。
また、水リサイクル用の凝縮器についても、内部空気が上がり外気との温度差が大きくなるので、その容量を小さくできる。
【0010】
この発明によれば、空気の供給量と水の供給量とが独立しているので、それらが独立していない供給系に比べて、空気と水のそれぞれを必要なタイミングで必要な供給量を独立して制御することができる。そのことによって、無駄がなく効率的に高い燃料電池の出力が得られる。また、回収する空気、水の量も最小限にすることができるので、凝縮器も小さくすることができ、補器による消費電力の節約にもなる。また、起動にかかる時間も短縮できる。
【0011】
図1は各ストイキ比における燃料電池本体の負荷(電流密度)と温度(空気排気温度)との理論上の関係を示す。ここに、ストイキ比とは、燃料電池反応で消費される理論上の酸素量を含むプロセス空気量を基準として空気極に供給される空気量を規定したものである。従って、ストイキ比が1の場合は、理論上必要な最小限の空気量が送られる場合であり、ストイキ比が2になると空気供給量はストイキ比1のときの2倍となる。
図1より、ストイキ比が小さいほど、即ち空気供給量が少ないほど同じ負荷を得るのに高い温度で燃料電池本体を運転できることがわかる。燃料電池本体の運転温度はこれが高ければ高いほど効率が高くなる。またその高温運転により排出空気の温度も上がるので凝縮器の容量を小さくすることもできる。従って、要求される負荷を賄える最も高い温度で燃料電池本体を運転することが好ましい。負荷と燃料電池本体の温度とはストイキ比により一義的に決められるので、負荷と温度の一方を検出してストイキ比、即ち空気供給量(厳密には空気室入口での供給量)を決めればよいことになる。
【0012】
しかしながら現状の燃料電池では燃料電池本体の運転温度とストイキ比(空気供給量)とに各種の制限がある。例えば、燃料電池本体の焼きつきを確実に防止するため、その運転温度は、例えば100〜80℃以下とする必要がある。また、本発明者らの検討によれば、図1に示す破線Lより上側の条件での運転は不可能であった。これは、空気供給量が少ないときには(風量が小さいときには)、空気供給路やガス拡散層の抵抗、触媒の能力等のため空気が空気極に充分届かないなどの理由によるものと推定される。
従って、図1において、例えば80℃以下でかつ破線Lより下側の領域で燃料電池本体は運転可能である。そして、その効率を考慮すれば、当該運転可能領域の最高温度縁でこれを運転することが好ましい。
【0013】
負荷変動の激しい車輌用の燃料電池装置では、要求される負荷に応じて空気供給量を変化させる。そのとき同時に燃料電池本体の温度を検出して、要求された負荷を実現できる最高温度、即ち最小のストイキ比(空気供給量)となるように空気供給量を調整することが好ましい。
一方、殆ど負荷が変動しない環境で使用される燃料電池装置においては、実質的に燃料電池本体の温度のみを監視して、その温度が変動したときのみこれが所望の温度となるように空気供給量を調節すればよい。即ち、燃料電池本体の温度が所望の温度範囲より低くなった場合には空気供給量を低減させて水の潜熱を利用した冷却効果を下げ、他方燃料電池本体の温度が所望の温度範囲より高くなった場合には空気供給量を増大して水の潜熱を利用した冷却効果を上げる。
外部の環境や補機の性能により燃料電池装置の運転条件には様々な制限が課せられる。場合によっては、燃料電池本体の運転条件が図1における運転可能条件領域において四角で示した領域に限られることがある。この領域では、燃料電池本体の運転温度はストイキ比1のラインを超えることはない(燃料電池本体を常に稼動させておくため常に少なくともストイキ比1に対応した空気量が供給されているものとする。)。従って、燃料電池本体の温度を監視する必要はない。よって、負荷のみを監視して当該負荷を出力可能な最低量の空気が供給されるようにする。
【0014】
上記いずれの場合においても、空気極には常に充分な量の水が供給されているものとする。即ち、燃料電池本体の熱により蒸発するものがあっても、空気極及びその周囲(即ち空気室内)には、燃料電池装置の運転中は常に液体状の水が存在しているものとする。
このように空気極に水が常に存在するので水の潜熱を効率良く利用できることとなる結果、燃料電池本体のスタックから冷却板を間引いたりこれを省略することができる。充分な量の水の蒸発が確保できないおそれのある場合を考慮して、冷却板若しくは冷却パイプその他の冷却装置を燃料電池本体のスタックに備えておくことが好ましい。かかる冷却装置へ流通する熱媒体(通常は水)によりスタックの熱を外部に取り出し、車内の暖房などに利用することができる(いわゆるコジェネとしての利用)。
【0015】
上記において、プロセス空気は実質的に圧縮されずに空気極に供給されるものである。なお、この発明は加圧された酸化ガス供給系を備えるタイプの燃料電池装置に適用することもできる。酸化ガス供給系に酸化ガスの圧縮機が備えられる場合はもとより、ガス配管の管路抵抗によって系内が大気圧より高い圧力となる場合も当該加圧された酸化ガス供給系に含まれる。
燃料電池本体の温度は当該燃料電池本体に温度計を付設してこれを測定できることは勿論であるが、図1に示すように、排気空気の温度を測定することによりその温度を間接的に測定することも可能である。この場合、燃料電池本体から排出された直後の空気の温度を測定することが好ましい。
燃料電池本体の負荷は、燃料電池本体の両極間の電流と電圧の積である。プロセス空気の供給量を制御するときに参考とするパラメータとしては、燃料電池本体が現実に出力している現在の負荷を検出し、これを用いることができる。その他、燃料電池本体に次に要求される負荷、例えば速度、トルク若しくはアクセルの開度を検出し、これを当該パラメータとして用いることもできる。
【0016】
【実施例】
次ぎに、この発明の実施例について説明をする。
図2は実施例の燃料電池装置1の概略構成を示す。図3は燃料電池本体10の基本ユニットを示す。
図2に示すように、この装置1は燃料電池本体10、燃料ガスとしての水素ガス供給系20、空気供給系30、水供給系40から概略構成される。
【0017】
燃料電池本体10の単位ユニットは空気極11と燃料極13とで固体高分子電解質膜12を挟持した構成である。実際の装置ではこの単位ユニットが複数枚積層されている(燃料電池スタック)。空気極11の上方及び下方にはそれぞれ空気を吸入、排気するための空気マニホールド14、15が形成されている。上方のマニホールド14にはノズル41を取り付けるための取付孔が形成されている。ノズル41から噴出される水の噴出角度には制限があり、かつ水を霧状にしてこれを空気極11の全面に行き渡らせるには、ノズルと空気極11との間に所定の間隔が必要になる。従って、このマニホールド14は比較的背の高いものとなる。一方、下側の空気マニホールド15は滴下した水を効率よく排出できるものとする。
なお、ノズルはマニホールド14の側面に設けることもできる。かかるノズルより噴出される水はマニホールド14内の全域に行き渡り、よって空気極11の全面に行き渡ることとなる。ノズルをマニホールド14の側面に設けることにより、低いマニホールドが採用できる。よって燃料電池本体の小型化を図ることができる。
【0018】
ノズルは空気極表面へ向けて直接水を噴射することが好ましい。これにより空気供給量の如何に拘わらず、所望の量の水を空気極表面に供給することが出来る。即ち、空気の供給量と水の供給量とを独立して制御可能となる(独立供給タイプ)。かかる独立供給タイプによれば、起動時など大きな空気供給量(風量)の状態においても所望量の水を確実に空気極表面に供給できる。よって、起動時間の短縮が図れる。
空気流中に水滴を放出して、これを空気流にのせて空気極へ供給するタイプでは空気供給量と水供給量とを独立して制御できない(非独立供給タイプ)。空気供給量の変更と水供給量の変更とは常に同時に要求されるわけではなく、独立してそれらの変更が必要となる場合がある。例えば、空気の供給量のみの変更が必要な場合に水の供給量までもが変更されてしまうと、燃料電池本体の制御のレスポンスが遅くなり、ひいては燃料電池装置の出力低下を招くおそれがある。
これに対し、本発明の採用する独立供給タイプでは、必要なタイミングで必要な量の水及び/又は空気を供給できるので、燃料電池本体を効率良く制御できる。また、水と空気の供給を独立して制御することにより、無駄な空気及び無駄な水の供給を避けられる。この点においても、燃料電池本体の稼動が効率的なる。更には、無駄な水や無駄な空気の供給を避けることにより、凝縮器の容量も小さくすることが出来る。
【0019】
図3に示すように、上記空気極11−固体高分子電解質膜12−燃料極13の単位ユニットは薄い膜状であり、一対のカーボン製コネクタ板16、17により挟持されている。空気極11に対向するコネクタ板16の面には空気を流通させるための溝18が複数条形成されている。各溝18は上下方向に形成されてマニホールド14、15を連通している。その結果、ノズル41より供給される霧状の水は当該溝18に沿って空気極11の下側部分まで達する。
この溝18の周面及び空気極11の表出面により空気室Aが構成される。空気室Aの図示上側開口部が送風の入口(上流側開口部)であり、図示下側の開口部が送風の出口(下流側開口部)である。この出口の排気温度を検出するように温度計を設けることが好ましい。実施例では水などの液体を上流側開口部に対して直接噴出させて供給する構成であるが、水などの液体は下流側開口部から供給することも可能である。更には、コネクタ板に図示左右方向の貫通孔を形成し、ここから空気室Aへ水などの液体を供給することも出来る。このようにして供給された水は空気室Aを構成する面(溝18の周面及び空気極11の表出面:これらは比較的高温になり易い)において専ら蒸発する。
同様に、燃料極13に対向するコネクタ板17の面には水素ガスを流通させるための溝19が形成されている。実施例ではこの溝19を水平方向に複数条形成した。この溝19の周面とコネクタ板17の表出面とで燃料室Bが形成される。この燃料室Bに対して、既述の空気室Aと同様にな方法で水を供給することも出来る。
【0020】
空気極11には水が供給されるのでこれは耐水性のある材料で形成される。また、そこに水の膜ができると空気極11の実効面積が減少するので空気極11の材料には高い撥水性も要求される。かかる材料として、カーボンクロスを基材として(C+PTFE)をぬりこんだガス拡散層を使用した。
固体高分子電解質膜12には汎用的なナフィオン(商品名:デュポン社)の薄膜を使用した。
尚、膜の厚さは空気極側からの生成水の逆浸透が可能であれば、その数値は特に問わない。
燃料極13は空気極11と同じ材料で形成されている。部品の共通化の為である。
【0021】
空気極11、及び燃料極13において電解質膜12と接触する方の面には、ある程度の厚さでもって酸素と水素の反応を促進するために用いられる周知の白金系触媒がそれぞれ均一に分散されていて、空気極11及び燃料極13における触媒層として形成される。
【0022】
水素ガス供給系20の水素供給装置21として、この実施例では水素吸蔵合金からなる水素ボンベを利用した。その他、液体水素の水素ボンベ、水/メタノール混合液等の改質原料を改質器にて改質反応させて水素リッチな改質ガスを生成させ、この改質ガスをタンクに貯留しておいてこれを水素源とすることもできる。勿論、燃料電池装置1を室内で固定して使用する場合には、水素配管を水素源とすることができる。
水素供給装置21と燃料極13とは水素供給調圧弁23を介して水素ガス供給路22により接続されている。調圧弁23は燃料極13に供給する水素ガスの圧力を調整するものであり、汎用的な構成のものを利用できる。
【0023】
燃料極13からの排気ガスは外気へ排出される。なお、この排気ガスを空気マニホールドへ供給し、ここで空気と混合することもできる。
【0024】
空気極11にはファン38によって大気中より空気が供給される。図の符号31は空気の供給路であり空気極11のマニホールド14に連結されている。下側のマニホールド15には空気極11を通過した空気を循環若しくは排気するための空気路32が連結され、水を分離する凝縮器33を介して排気ガスは排気路36へ送られる。空気排気調圧弁34の開度により排気路36から排気される量が調節される。また、排気調圧弁34を省略し、排気ガスをそのまま大気へ排出する構成とすることもできる。
かかる空気供給系30においては、空気圧縮機は特に備えられておらず、系全体に渡って実質的に大気圧が維持される。
符号39は排出された空気の温度を検出するための温度計である。
【0025】
凝縮器33で分離された水はタンク42へ送られる。タンク42には水位センサ43が付設される。この水位センサ43により、タンク42の水位が所定の値以下となると、アラーム44が点滅してオペレータに水不足を知らせる。それとともに、凝縮器33の能力を変化させて水の回収量を調整することが好ましい。即ち、水が不足しているときは凝縮器33のファンの回転数を高めて水をより多く回収し、他方水が過剰になると凝縮器33のファンの回転数を低下若しくは停止して水の回収量を少なくする。
【0026】
実施例の水供給系40では、タンク42から水供給路45がポンプ46、水圧センサ47及び調圧弁48を介して、ノズル41まで連結されている。調圧弁48により所望の水圧に調節された水はノズル41から吹き出して空気マニホールド14内では霧状になる。そして、吹き出し時の運動量(初速)、霧の自重および空気流等によって空気極11の実質的な全面に霧状の水が供給される。水量及び水の供給は、調圧弁とノズルとの組み合わせに限定されるものではない。
【0027】
このようにして空気極11の表面に供給された水はそこで周囲の空気、電極表面、さらにはセパレータ表面から潜熱を奪って蒸発する。これにより、電解質膜12の水分の蒸発が防止される。
また、空気極11へ供給された水は空気極11からも潜熱を奪うので、これを冷却する作用もある。特に、始動時に水を供給したとき、水素と空気の燃焼により膜、触媒がダメージを受けることを予防できる。
【0028】
図中の符号50は電流計であり、空気極11と燃料極13との間の電流を計測する。電流計50により計測された電流より図1の電流密度が求められる。この実施例では抵抗51が一定のため、両極11、13間の電流を測定することにより燃料電池本体10に掛かっている負荷(=仕事)が求められる。
燃料電池装置を車輌用に使用するときには両極間の電流と電圧を共に測定し、もって燃料電池本体に掛かっている負荷(燃料電池本体が現在出力してるパワー)を得ることが好ましい。車輌用の場合には、速度、トルク若しくはアクセルの開度から燃料電池本体に要求されるパワーを予測してその値を用いることもできる。
【0029】
次ぎに、実施例の燃料電池装置1の動作を説明する。
図4は燃料電池装置1の動作を制御するときに関与する要素を示したブロック図である。図5は燃料電池装置1の制御を示すメインフローである。
図4において、制御装置70及びメモリ73は燃料電池装置1のコントロールボックス(図1に示されていない)に収納されている。メモリ73にはコンピュータからなる制御装置70の動作を規定するコントロールプログラム及び各種制御を実行するときのパラメータやルックアップテーブルが収納されている。
【0030】
まず、図5のステップ1で実行される水素ガス供給系20の動作について説明する。
起動時には、水素排気弁25を閉に保持しておいて、爆発限界以下の所定の濃度で水素ガスが燃料極13に供給されるように水素供給調圧弁23を調整する。
排気弁25を閉じた状態で燃料電池装置1を運転すると、空気極より透過するN2、O2あるいは生成水の影響で燃料極13で消費される水素の分圧が徐々に低下するためこれに伴って出力電圧も低下し、安定した電圧が得られなくなる。
【0031】
そこで、予め定めれた規則に基づいて弁25を解放して水素分圧の低下したガスを排気し、燃料極13の雰囲気ガスをリフレッシュする。
予め定めれた規則はメモリ73に保存されており、弁25の開閉及び調圧弁23の調整は制御装置70が当該規則をメモり73から読み出して実行する。
【0032】
この実施例では、電流計50で出力電流をモニタし、出力電流が所定の閾値を超えて低下したら所定の時間(例えば1秒間)弁25を解放する。
あるいは、弁25を閉とした状態で燃料電池装置1を運転したときに出力電圧が低下し始める時間間隔を予め計測しておき、その時間間隔と実質的に同一又は若干短い周期で弁25を解放するように、弁25を間欠的に開閉制御する。
【0033】
次ぎに、図5のステップ3で実行される空気供給系30の動作について、図6を参照しながら説明する。
ステップ31において燃料電池本体10から排出された直後の排気空気の温度を温度計39により検出する。その温度が80℃を超えていると(ステップ32)、燃料電池本体10が焼きつくおそれがあるので、ファン38の回転数を増して風量を増大し(ステップ33)、もって熱発生源である空気極11の温度を下げる。このとき、当然ながら空気極11には80℃を超えた燃料電池本体10を冷却するのに必要な量の水が供給されているものとする。
検出された温度が80℃以下の場合には、燃料電池本体10の負荷を検出する(ステップ34)。本実施例の場合は、図1の関係を制御に用いるので、空気極11と燃料極13の間の電流を検出する。制御装置70は電流計50で検出した電流値から電流密度を演算する。そして、制御装置70はその電流密度の値とステップ31で検出した温度とをメモリ73にテーブル形式で保存されている図1の関係に照らし合わせる。
【0034】
例えば、検出された温度と電流密度の関係が図1のAの条件であれば、風量を下げて、燃料電池本体10の運転状態を図1のBの条件に移行させる。即ち空気の供給量をストイキ比2に対応する量にまで下げて潜熱による冷却効果を低減させる。これにより、燃料電池本体10は出力(電流密度)を維持したまま、最も高い温度で運転されることとなる。なお、燃料電池本体10の温度を効率よく上げるためには、燃料電池本体が酸素不足にならないレベルで当初の風量をストイキ比2に対応するものよりも小さくして昇温速度を速め、条件Bの温度(ほぼ80℃)に近づいてきたところで、風量をストイキ比2に対応するものとすることが好ましい。
なお、空気供給量(ストイキ比)と風量(ファン38の回転数)との関係が予めメモリ1に保存されており、制御装置70は求める空気供給量に対応した風量が得られるようファン38の回転数を制御する。ファン38には例えばサーボモータ駆動タイプが用いられる。
【0035】
条件Bで運転されていた燃料電池本体10の電流密度が0.7に変化したとすると、燃料電池本体10は条件Cで運転する必要がある。この場合は、風量を条件Cの風量(ストイキ比5に対応するところ)まで上げて燃料電池本体10の温度を条件Cの温度(ほぼ70℃)まで下げる。
このように燃料電池本体10の運転温度はその運転可能領域において可能な限り高い温度とすることが好ましい。
【0036】
次ぎに、図5のステップ5で実行される水供給系40の動作について説明する。
タンク42の水がポンプ46で圧送される。そして、噴射圧力調整弁48でその圧力が調整されてノズル41から噴霧される。これにより、水が液体の状態(霧の状態)で空気極11に供給されることとなる。勿論、調圧弁48を省略して、ポンプ46に印加される電圧を調整しポンプ46の吐出圧力自体を制御し、もっと所望の水量を得ることもできる。
【0037】
水の供給量は燃料電池本体の温度に応じて予め定められいる。即ち、燃料電池本体をその温度に維持するために必要な最小量の水が供給される。ポンプ46による動力損をできる限り少なくするためである。なお、燃料電池本体が所定の温度(例えば30℃)以下になれば、水の供給を止めることもできる。燃料電池本体10の温度とそのときに供給すべき水量との関係はメモリ73に保存されている。
この実施例では、図7に示すとおり、まず排出空気の温度が検出される(ステップ51)。そして、検出された温度に基づき最適水噴射量が演算される(ステップ53)。この演算はメモリ73に保存されていた関係を参照して行われる。
【0038】
次ぎに、ステップ53において最適水噴射量に対応する最適水圧力を演算する。例えば、水噴射量と水圧力とは図8に示す関係があるので、この関係が方程式若しくはルックアップテーブルのかたちでメモり73に予め保存されている。
この実施例では、ポンプ46を一定のパワーで運転しておいて循環路49の調圧弁48の開度によりノズル41の水圧力を調節している。即ち、調圧弁48の開度が大きく(小さく)なればノズル41の水圧力は小さく(大きく)なる。
【0039】
従って、ステップ54では水圧センサ47によりノズル41にかかる水圧力を検出し、フィードバック制御によりその水圧力が所望の値(最適水圧力)となるように調圧弁48を調節する(ステップ55)。
【0040】
その他、所定の時間経過(例えば5〜10秒)ごとに、一定の水圧で水供給系40を稼働させても良い。
【0041】
次ぎに、実施例の燃料電池装置1の起動時の動作について説明する。
図9に示すとおり、スイッチ(図示せず)がオンとなると(ステップ91)、ポンプ46をオンとする(ステップ93)。そして、所定の水噴射量となるように調圧弁48が調節されてノズル41より水が噴射される(ステップ95)。異常反応から燃料電池本体10を守るために空気極11へ噴射される水量は最大量とする。
【0042】
その後、空気供給系30をオンにする(ステップ97)。このときファン38の風量も最大として燃料電池本体10を冷却し、異常反応の防止を図る。引き続いて水素供給系20をオンにする(ステップ99)。
空気極11と燃料極15との間に所望の出力が確認されたら、電力を外部に出力する。
【0043】
上記において、空気供給系30の稼動は水供給系40の稼動前であっても良い。また、水素供給系20の稼動の後に空気供給系30を稼動させても良い。
ただし、水素供給系20を稼動させる前に水供給系40を稼動させる必要がある。空気供給系30の稼動の有無にかかわらず燃料電池本体1には空気が存在しているので、電解質膜12が乾燥した状態で水素を供給すると、異常燃焼の発生する可能性がある。つまり、この異常熱が発生したとき、燃料電池本体1がダメージを被らないように、水素を供給する前に水を噴射して予め空気極11を濡らしておく。こうすることで、異常熱を水の蒸発熱に換え、更には電解質膜12の湿潤を促進して、燃料電池本体1のダメージを未然に防止する。
【0044】
次に、他の実施例を図10〜12に基づいて説明する。なお、既述の実施例で説明した要素及びステップには同一の参照番号を付してその説明を省略する。
この実施例の燃料電池装置101では、ファン38の下流側にダンパ138が設けられる。ファン38を一定の回転数で駆動させておいてダンパ138を調節することにより空気供給量を変化させる。またこの実施例では温度計を燃料電池本体10に、好ましくは空気極側のコネクタ板に、取り付け、燃料電池本体10の温度を直接測定する。更にこの実施例では、車輌用のアクセルの開度を検出し、検出した開度より燃料電池本体10へ次に要求される負荷を制御装置70が演算する(図12、ステップ134)。なお、このステップ134において、図1に関係が利用できるように、制御装置70は得られた負荷を更に電流密度に変換するものとする。
【0045】
この実施例によれば、燃料電池本体に要求される負荷をアクセルの状態から直接読み取るので、空気供給量をより迅速に制御できる。
この実施例の他の作用効果は前の実施例と同じである。
【0046】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【図1】燃料電池本体の電流密度(負荷)、空気排気温度(本体自体の温度)及びストイキ比(空気供給量)との関係を示すグラフである。
【図2】この発明の位置の実施例の燃料電池装置の構成を示す模式図である。
【図3】同じく燃料電池本体の基本構成を示す断面図である。
【図4】同じく燃料電池装置の制御系を示す模式図である。
【図5】同じく燃料電池装置の動作を示すメインフローである。
【図6】同じく空気供給系の動作を示すフローチャートである。
【図7】同じく水供給系の動作を示すフローチャートである。
【図8】同じく水噴射量と水圧力の関係を示すグラフ図である。
【図9】同じく起動時の制御を示すフローチャートである。
【図10】この発明の他の実施例の燃料電池装置の構成を示す模式図である。
【図11】同じく制御系を示す模式図である。
【図12】同じく空気供給系の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1、101 燃料電池装置
10 燃料電池本体
11 空気極
30 空気供給系
38 ファン
39、139 温度計
40 水供給系
50 アンペアメータ
Claims (23)
- 燃料電池本体の空気極の表面に水を液体の状態で供給する水供給手段と、
前記空気極に対するプロセス空気の供給量を調節することにより前記燃料電池本体の温度を制御する空気供給量変更手段とを備え、
前記水供給手段と前記空気供給量変更手段とが独立して制御される、燃料電池装置。 - 前記燃料電池本体の温度を検出する温度検出手段と、
前記燃料電池本体の負荷を検出する負荷検出手段と、
前記温度検出手段及び前記負荷検出手段の検出結果に基づき、前記空気供給量変更手段によるプロセス空気の供給量を制御する空気供給量制御手段とが更に備えられる、請求項1に記載の燃料電池装置。 - 前記温度検出手段は燃料電池本体から排出されるプロセス空気の温度を検出する、請求項2に記載の燃料電池装置。
- 前記負荷検出手段は前記燃料電池本体に掛けられている現在の負荷を検出する、請求項2に記載の燃料電池装置。
- 前記負荷検出手段は前記燃料電池本体に対して次に要求される負荷を検出する、請求項2に記載の燃料電池装置。
- 前記燃料電池本体の温度及び負荷に対応する最適空気供給量の関係を保存する保存手段が更に備えられ、前記空気供給量制御手段は、前記保存手段の前記関係を参照して、検出された前記燃料電池本体の温度及び負荷に対応する前記最適空気供給量を求め、該最適空気供給量が実行されるように前記空気供給量変更手段を制御する、請求項2に記載の燃料電池装置。
- 前記水供給手段は、検出された前記燃料電池本体の温度に基づいて給水量を制御する、ことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池装置。
- 前記燃料電池本体の温度と当該温度を維持するために必要な最小給水量との関係を保存する第2の保存手段と、検出された前記燃料電池本体の温度に基づき、前記第2の保存手段に保存された関係を参照して、前記水供給手段は前記空気極に供給する水量を最小とする、ことを特徴とする請求項6に記載の燃料電池装置。
- 前記燃料電池本体の温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段の検出結果に基づき、前記空気供給量変更手段によるプロセス空気の供給量を制御する空気供給量制御手段とが更に備えられる、請求項1に記載の燃料電池装置。 - 前記燃料電池本体の負荷を検出する負荷検出手段と、
前記負荷検出手段の検出結果に基づき、前記空気供給量変更手段によるプロセス空気の供給量を制御する空気供給量制御手段とが更に備えられる、請求項1に記載の燃料電池装置。 - 前記水供給手段は前記空気極の表面に直接水を噴射するノズルを含む、請求項1〜10のいずれかに記載の燃料電池装置。
- 燃料電池本体の空気極の表面に水を液体の状態で供給するとともに、前記空気極に対するプロセス空気の供給量を調節することにより前記燃料電池本体の温度を制御する燃料電池装置の駆動方法において、該水の供給とは独立して前記空気極へ供給するプロセス空気の量を制御する、燃料電池装置の駆動方法。
- 前記燃料電池本体の温度を検出し、前記燃料電池本体の負荷を検出し、該検出された温度と負荷に基づいて前記プロセス空気の供給量を制御する、請求項12に記載の駆動方法。
- 該燃料電池本体から排出されるプロセス空気の温度を検出することにより前記燃料電池本体の温度を検出する、請求項13の駆動方法。
- 前記負荷は前記燃料電池本体に掛けられている現在の負荷である、請求項13に記載の駆動方法。
- 前記負荷は前記燃料電池本体に対して次に要求される負荷である、請求項13に記載の駆動方法。
- 予め保存されている前記燃料電池本体の温度及び負荷に対応する最適空気供給量の関係に検出された前記温度と負荷を対応させて、該温度及び負荷における最適空気供給量を得、該最適空気供給量が実行されるように前記プロセス空気の供給量を制御する、請求項13に記載の駆動方法。
- 検出された前記燃料電池本体の温度に基づいて前記空気極へ供給する水の量を制御する、請求項13に記載の制御方法。
- 予め保存されている前記燃料電池本体の温度と当該温度を維持するために必要な最小給水量との関係に検出された前記燃料電池本体の温度を対応させて最小給水量を得、該最小給水量の水を前記空気極へ供給する、請求項17に記載の駆動方法。
- 前記燃料電池本体の温度を検出し、該検出された温度に基づいて前記プロセス空気の供給量を制御する、請求項12に記載の駆動方法。
- 前記燃料電池本体の負荷を検出し、該検出された負荷に基づいて前記プロセス空気の供給量を制御する、請求項12に記載の駆動方法。
- 燃料電池本体の空気極の表面に水が液体の状態で供給される燃料電池装置に取りつけられ、前記空気極へ実質的に加圧のない状態で供給されるプロセス空気の供給量を調節することにより前記燃料電池本体の温度を制御するとともに、前記水の供給とは独立して制御される空気供給装置。
- 燃料電池本体の空気室に水を液体の状態で供給する水供給手段と、
前記空気室を単位時間当たりに通過する空気量を調節することにより前記燃料電池本体の温度を制御する空気供給量変更手段とを備え、
前記水供給手段と前記空気供給量変更手段とが独立して制御される、燃料電池装置。
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