JP4676617B2 - イソプレゴールの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、香料等の素材として有用であり、メントールの重要な合成前駆体であるイソプレゴールの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、メントール、特にl−メントールは、清涼感のある香料として非常に重要でその用途は多岐にわたっている。メントールの合成法についてはdl−メントールを光学分割によって得る方法と、不斉合成法によって得る方法が知られている(合成香料、印藤元一著、化学工業日報社、106〜114頁)。不斉合成法によるl−メントールの製造工程においては、前駆体であるl−イソプレゴールを水素化してl−メントールが得られるが、このl−イソプレゴールを合成するためには、d−シトロネラールの選択的閉環反応が重要な工程である。
d−シトロネラールの選択的閉環反応については、特開昭53−116348号公報、Nakatani and Kawashima, Synthesis, P147 (1978)に開示されている方法、すなわち、臭化亜鉛を触媒としたl−イソプレゴールの製造がすでに行われている。このときの、l−イソプレゴールと他の異性体との比率は94/6である。
【0003】
他に、Me2AlCl(Michael, K. and Snider, B. B., J. Am. Chem. Soc. 102, pp 7951-7953 (1980))、Zn(binaphthol)(Sakane, S. et al., Tetrahedron Lett. Vol. 26, No. 45, pp 5535-5538 (1985))、RhCl(PPh)3(Funakoshi, K. et al. Chem. Pharm. Bull. Vol. 37, No. 8, pp 1990-1994 (1989))、シリカゲルやアルミナに酸類を担持した触媒(Kropp, P. J., J. Org. Chem., Vol. 60, pp 4146-4152, (1995))、Zn/trimethylsilyl chloride(Marty, M. et al., Tetrahedron, Vol. 52, No. 13, pp 4645-4658 (1996))、SmI2(Sarkar, T. K. and Nandy, S. K., Tetrahedron Lett., Vol. 37, No. 29, pp 5195-5198 (1996))、Sc(trifluoromethanesulfonate)3(Aggarwal, V. K. et al., Tetrahedron Lett., Vol. 39, pp 1997-2000 (1998)、国際公開第99/32422号明細書)、trans-[Ru(salen)(NO)(H2O)]+(Ellis, W. W. et al., Chem. Commun., pp1311-1312 (1998))、S-ZrO2(Yadav, G. D. and Nair, J. J., Chem. Commun., pp 2369-2370、(1998))、固体触媒(特開平11−267524号公報)等が報告されているが、イソプレゴールの選択性においてはすでに工業化されている臭化亜鉛よりも良いものはなかった。
【0004】
Sc(trifluoromethanesulfonate)3を触媒として用いた場合には、臭化亜鉛と同等の選択性が得られているが、−78℃と極低温での値であり室温ではl−イソプレゴールの選択性は80%と低下し、工業化は困難であった。
【0005】
また、本反応の触媒であるトリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウムは、重合用の触媒(特開平11−335432号公報)、アルドール縮合の触媒(Yamamoto, H. et al., J. Am. Chem. Soc., Vol. 116, pp 4131-4132 (1994);Yamamoto, H. et al., J. Am. Chem. Soc., Vol. 122, pp 7847-7848 (2000))として、報告されている。しかしながら、閉環反応の触媒として使用に関して報告されたことはなく、ましてやイソプレゴールの合成用の触媒としての報告はないし、知られてもいない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、シトロネラールの高選択的閉環反応によってイソプレゴールを得る方法、特に、l−メントールの重要な合成前駆体であり、なおかつ香料等の素材として有用である純度の高いl−イソプレゴールを、簡単な操作で、安全で且つ高収率で得ることができる製造方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特殊な触媒を用いることにより、シトロネラールが閉環し、イソプレゴール、イソイソプレゴール、ネオイソプレゴール、ネオイソイソプレゴールの4種の異性体の内、イソプレゴールが異性体比98%以上の高選択率で、高収率で得られることを見いだし、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の各発明を包含する。
1. 下記の化学式(2)
【0009】
【化8】
【0010】
で表されるシトロネラールを下記の一般式(3)
【0011】
【化9】
【0012】
(式中、Alは、アルミニウム原子を示し;Ar1及びAr2は、置換基を有していても良いアリール基またはヘテロアリール基を示し;R1、R2及びR3は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1乃至8のアルキル基、炭素数1乃至8のアルコキシ基、置換基を有していても良いアリール基、炭素数1乃至4のジアルキルアミノ基またはニトロ基を示す。)で表されるトリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウム触媒の存在下に、選択的に閉環させることを特徴とする下記の化学式(1)
【0013】
【化10】
【0014】
で表されるイソプレゴールの製造方法。
2. 下記の化学式(5)
【0015】
【化11】
【0016】
(式中、*印は、不斉炭素原子を示す。)で表される光学活性シトロネラールを下記一般式(3)
【0017】
【化12】
【0018】
(式中、Al、Ar1、Ar2、R1、R2及びR3は、前記と同じ意味を示す。)で表されるトリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウム触媒の存在下、選択的に閉環させることを特徴とする下記の化学式(4)
【0019】
【化13】
【0020】
(式中、*印は、不斉炭素原子を示す。)で表される光学活性イソプレゴールの製造方法。
3. 前記の触媒が、下記一般式(6a)
(R4)3−pAlHp (6a)
(式中、Alは、アルミニウム原子を示し;R4は、炭素数1乃至4のアルキル基を示し;pは、0〜2の整数を示す。)で表されるアルキルアルミニウム化合物、下記一般式(6b)
MAlH4 (6b)
(式中、Mは、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子を示し;Alは、アルミニウム原子を示す。)で表される金属アルミニウム水素化物から選ばれる1種と、下記一般式(7)
【0021】
【化14】
【0022】
(式中、Ar1、Ar2、R1、R2及びR3は、前記と同じ意味を示す。)で表される2,6−ジアリールフェノール類を、不活性溶媒中で反応させて得られる反応生成物である前記第1または2項に記載のイソプレゴールの製造方法。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のイソプレゴールの製造方法について更に詳細に説明する。
本発明のイソプレゴールの製造方法は次に示す反応により行われる。
【0024】
【化15】
【0025】
(式中、Al、Ar1、Ar2、R1、R2及びR3は、前記と同じ意味を示す。)
【0026】
即ち、シトロネラール(2)をトリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウム触媒(3)の存在下、選択的に閉環させることにより、イソプレゴール(1)が形成される。
原料化合物であるシトロネラール(2)又は(5)は市販品をそのまま用いることができる。
【0027】
トリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウム触媒(3)の調整に用いる前記アルキルアルミニウム化合物(6a)において、R4は、炭素数1乃至4のアルキル基を示し;pは、0〜2の整数を示す。
R4の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などの炭素数1乃至4のアルキル基等を挙げることができる。
【0028】
アルキルアルミニウム化合物(6a)の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジプロピルアルミニウムハイドライド、ジブチルアルミニウムハイドライド、メチルアルミニウムジハイドライド、エチルアルミニウムジハイドライド、プロピルアルミニウムジハイドライド、ブチルアルミニウムジハイドライド等を挙げることができる。
【0029】
また、前記金属アルミニウム水素化物(6b)において、Mは、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子を示す。
金属アルミニウム水素化物(6b)の具体例としては、水素化リチウムアルミニウム、水素化ナトリウムアルミニウム、水素化カリウムアルミニウム等を挙げることができる。
【0030】
また、トリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウム化合物(3)の調整に用いる前記2,6−ジアリールフェノール類(7)において、Ar1及びAr2は、それぞれ独立して、置換基を有していても良いアリール基またはヘテロアリール基を示し;R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1乃至8のアルキル基、炭素数1乃至8のアルコキシ基、置換基を有していても良いアリール基、炭素数1乃至4のジアルキルアミノ基またはニトロ基を示す。
【0031】
Ar1及びAr2の具体例としては、置換基を有していても良いフェニル基(置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などの炭素数1乃至4のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基などの炭素数1乃至4のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子などが例示される。);置換基を有していてもよいナフチル基(置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などの炭素数1乃至4のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基などの炭素数1乃至4のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子などが例示される。);フリル基、チエニル基、ピロニル基、ベンゾフリル基、イソベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、イソインドリル基、カルバゾリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル、ピラジル基などのヘテロアリール基、等を挙げることができる。
【0032】
R1、R2及びR3の具体例としては、水素原子;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などの炭素数1乃至8のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキソキシ基、ヘプトキシ基、オキトキシ基などの炭素数1乃至8のアルコキシ基;置換基を有していても良いフェニル基(置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などの炭素数1乃至4のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基などの炭素数1乃至4のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子などが例示される。);置換基を有していてもよいナフチル基(置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などの炭素数1乃至4のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基などの炭素数1乃至4のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子などが例示される。);ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基などの炭素数1乃至4のジアルキルアミノ基;ニトロ基、等を挙げることができる。
【0033】
本発明に使用されるトリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウム触媒(3)は、例えば、Yamamoto, H. et al., J. Am. Chem. Soc., Vol. 116, pp 4131-4132 (1994)に示されている方法により容易に合成できる。
【0034】
トリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウム触媒(3)の調整法としては、例えば、炭化水素(ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)又はエーテル(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドフランなど)等の不活性有機溶媒中で、アルキルアルミニウム化合物(6a)、金属アルミニウム水素化物(6b)から選ばれる少なくとも1種と約3倍モル程度の2,6−ジアリールフェノール類(7)とを、約0〜50℃程度で約30分間程度反応させることにより容易に合成できる。
【0035】
トリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウム触媒(3)において、Ar1及びAr2は、それぞれ独立して、置換基を有していても良いアリール基またはヘテロアリール基を示し;R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1乃至8のアルキル基、炭素数1乃至8のアルコキシ基、置換基を有していても良いアリール基、炭素数1乃至4のジアルキルアミノ基またはニトロ基を示す。Ar1、Ar2、R1、R2及びR3の具体例としては、前記したものと同じものを挙げることができる。
【0036】
本発明の前記一般式(3)で表されるトリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウム触媒の好ましい具体例としては、以下の表1〜3に示す化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。表1〜3中で使用する略記号はそれぞれ以下の意味を示すが、本明細書における以降の記載の各化合物で用いられている略記号についても同様な意味を示す。なお、数字はフェニル基における置換位置を示す(例えば、4−Me−Phはフェニル基の4位に置換するメチル基、3,4−F−Phはフェニル基の3位及び4位に各々置換するフッ素原子を意味する。)。
【0037】
H 水素原子
Ph フェニル基
Me メチル基
Xy キシリル基
iPr イソプロピル基
tBu tert−ブチル基
Np ナフチル基
F フッ素原子
Cl 塩素原子
MeO メトキシ基
Fulyl フリル基
ThioPh チオフェニル基
Py ピリジニル基
Cy シクロヘキシル基
Me2N ジメチルアミノ基
benzene ベンゼン環と縮合してナフチル基を形成することを意味する。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
より好ましいトリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウム触媒(3)としては、トリス(2,6−ジフェニルフェノキシ)アルミニウム(例示化合物1)、トリス[2,6−ジ(4−フロロフェニル)フェノキシ]アルミニウム(例示化合物10)、トリス[2,6−ジ(3,4−ジフロロフェニル)フェノキシ]アルミニウム(例示化合物12)、トリス[2,6−ジ(3,4,5−トリフロロフェニル)フェノキシ]アルミニウム(例示化合物13)、トリス(2,6−ジフェニル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム(例示化合物25)、トリス(2,6−ジフェニル−3,5−ジメチルフェノキシ)アルミニウム(例示化合物34)、トリス[2,6−ジ(2−メチルフェニル)−3,5−ジメチルフェノキシ]アルミニウム(例示化合物36)、トリス[2,6−ジ(2−イソプロピルフェニル)−3,5−ジメチルフェノキシ]アルミニウム(例示化合物37)、トリス[2,6−ジ(α−ナフチル)−3,5−ジメチルフェノキシ]アルミニウム(例示化合物38)、トリス(3−フェニル−1,1’−ビナフチル−2−オキシ)アルミニウム(例示化合物47)、トリス[3−(4−フロロフェニル)−1,1’−ビナフチル−2−オキシ]アルミニウム(例示化合物48)などを挙げることができる。
【0042】
本発明の閉環反応に使用されるトリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウム触媒(3)の量は、シトロネラール(2)又は(5)に対して約0.05〜5モル%程度、好ましくは、約0.1〜1モル%程度の範囲で使用される。
【0043】
本反応において用いられる触媒は、a)予め、反応系中においてアルミニウム化合物(6)(アルキルアルミニウム化合物(6a)、金属アルミニウム水素化物(6b)から選ばれる少なくとも1種)と2,6−ジアリールフェノール類(7)とを混合して触媒を調製した後、シトロネラールを仕込む方法、b)予め、アルミニウム化合物(6)と2,6−ジアリールフェノール類(7)とを混合して調製した触媒を、閉環反応時に、シトロネラールとそれぞれ単独に仕込む方法;の何れかの方法によっても同等の結果が得られる。
【0044】
閉環反応の温度は、約−60〜100℃の範囲、好ましくは約−30〜50℃の範囲、より好ましくは約−15〜20℃の範囲が採用され、前記の温度を保ちながら約0.25〜30時間、好ましくは約0.5〜20時間反応させることによって、イソプレゴール(1)又は(4)を円滑に製造することができる。
【0045】
本発明における反応は、無溶媒条件下、または、不活性溶媒存在下で行うことができる。
使用される溶媒としては、本反応を著しく阻害しない溶媒であればよく、特に限定するものではないが、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系有機溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系有機溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系有機溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、テトラハイドロフラン、ジオキサン、ジオキソランなどのエーテル系有機溶媒等を挙げることができる。これらのうちより好ましくは、トルエン、ヘプタン等の有機溶媒である。これら溶媒は、予め脱水処理したものを使用することが好ましい。
【0046】
また、これら溶媒の使用量は、シトロネラールに対して約0〜20倍量、好ましくは0.5〜7倍量の範囲である。
【0047】
閉環反応は、窒素ガスまたはアルゴンガスなどのような不活性ガス雰囲気下で行うことが、閉環反応の円滑な進行のために好ましい。
【0048】
反応の終了後は、通常の後処理を行うことができる。また、イソプレゴール(1)又は(4)の精製は、蒸留及び再結晶による処理を行うことによって高純度のイソプレゴールを得ることができる。
【0049】
【実施例】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものでなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
尚、実施例中での生成物の測定は、ガスクロマトグラフィー法(GLC)により行った。条件は以下の通りである。
使用分析機器:G5000ガスクロマトグラフ(株式会社日立製作所製)
カラム:TC−WAX(0.25mm×30m)(ジーエルサイエンス株式会社製)
検出器:FID
【0050】
【実施例1】
l−イソプレゴールの合成
アルゴン気流下、50mlシュレンク管に2,6−ジフェニルフェノール240mg(1mmol)及びトルエン5mlを加えて室温で溶解した。次いで、トリエチルアルミニウム(Et3Al)0.93molトルエン溶液0.35ml(0.33mmol)を加えた後、室温にて30分間撹拌し触媒溶液を得た。得られた触媒溶液を0℃に冷却した後、−15℃に冷却したd−シトロネラール(高砂香料工業株式会社製)5.07g(32.9mmol)を滴下し、その後、0℃で4時間撹拌した。反応終了後、8%苛性ソーダ水2mlを加えた後、内部標準物質としてドデカン5.05gを加えた。有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、l−イソプレゴールの収率は95.3%で、l−イソプレゴールとその他の異性体の比率は99.3/0.7であった。
【0051】
【実施例2〜12】
実施例2〜12として、アルミニウム化合物とフェノール類及び溶媒を表4に示す量を用いて、実施例1と同様な操作で反応を行った。結果を表4に示す。
【0052】
【実施例13】
l−イソプレゴールの合成
アルゴン気流下、100ml反応容器に2,6−ジフェニルフェノール4.79g及びトルエン40mlを加えて室温で溶解した。次いで、トリエチルアルミニウム(Et3Al)0.93molトルエン溶液7mlを加えた後、室温にて30分間撹拌し触媒溶液を得た。アルゴン気流下、300ml反応容器にd−シトロネラール(高砂香料工業株式会社製)100g及びトルエン55mlを加え、0℃に冷却した。この中へ、0℃に冷却した触媒溶液を滴下し、その後、0℃で4時間撹拌した。反応終了後、4%苛性ソーダ水50mlを加えた後、分液し、トルエンを留去した後、蒸留することにより、沸点91℃/1600Pa(9mmHg)で無色油状物を87.7g得た。ガスクロマトグラフィーで分析した結果、l−イソプレゴールの純度は94.7%(収率83.1%)で、l−イソプレゴールとその他の異性体の比率は99.7/0.3であった。
【0053】
【実施例14】
d−イソプレゴールの合成
アルゴン気流下、30ml反応容器に2,6−ジフェニルフェノール1.21g及びトルエン15mlを加えて室温で溶解した。次いで、トリエチルアルミニウム(Et3Al)0.93molトルエン溶液1.75mlを加えた後、室温にて30分間撹拌し触媒溶液を得た。アルゴン気流下、50ml反応容器にl−シトロネラール(高砂香料工業株式会社製)5gを加え、−15℃に冷却した。この中へ、−15℃に冷却した触媒溶液を滴下し、その後、−15℃で1時間、−10℃で1時間、−5℃で2時間撹拌した。反応終了後、2%苛性ソーダ水20mlを加えた後、分液し、トルエンを留去した後、蒸留することにより、無色油状物を4.19g得た。ガスクロマトグラフィーで分析した結果、d−イソプレゴールの純度は98.2%(収率は82.3%)で、d−イソプレゴールとその他の異性体の比率は99.4/0.6であった。
【0054】
【実施例15】
dl−イソプレゴールの合成
実施例15として、実施例1のd−シトロネラールの代わりにdl−シトロネラール5.00gを用いて、実施例1と同様な条件で操作を行った結果、dl−イソプレゴールの収率は95.1%で、dl−イソプレゴールとその他の異性体の比率は99.4/0.6であった。
【0055】
【実施例16】
(1) アルゴン気流下、50mlシュレンク管に2,6−ジフェニルフェノール1.03g及びトルエン13.5mlを加えて室温で溶解した。次いで、トリエチルアルミニウム(Et3Al)0.93molトルエン溶液1.5mlを加えた後、室温にて30分間撹拌し淡黄色の触媒溶液を得た。これを高真空下、溶媒を留去することにより淡黄色の粉末として触媒を1.06g得た。
(2) アルゴン気流下、50mlシュレンク管にd−シトロネラール1.01gを加え、−15℃に冷却した。この中へ、(1)で得た触媒粉末249mgを加え、17時間かけて5℃まで昇温しながら撹拌した。反応終了後、4%苛性ソーダ水2mlを加えた後、内部標準物質としてドデカン1.14gを加えた。有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、l−イソプレゴールの収率は95.0%で、l−イソプレゴールとその他の異性体の比率は99.6/0.4であった。
【0056】
実施例1〜16の触媒量、溶媒量、反応温度、反応時間、イソプレゴールの収率、イソプレゴールとその他の異性体の比率を表4に表した。
【0057】
【表4】
【0058】
【比較例1】
アルゴン気流下、50mlシュレンク管に臭化亜鉛55mgを加え、次いでd−シトロネラール15%トルエン溶液28ml(d−シトロネラール3.82g含有)を加えた後、110℃で17時間撹拌した。反応終了後、8%苛性ソーダ水2mlを加えた後、内部標準物質としてドデカン1.23gを加えた。有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、l−イソプレゴールの収率は74.5%で、l−イソプレゴールとその他の異性体の比率は86.4/13.6であった。なお、l−イソプレゴールとその他の異性体以外は、原料のd−シトロネラールが0.7%で、残りは高沸点物であった。
【0059】
【比較例2】
アルゴン気流下、50mlシュレンク管に臭化亜鉛73mgを加え、次いでd−シトロネラール1.03g及びトルエン7mlを加えた後、25℃で1時間撹拌した。反応終了後、8%苛性ソーダ水5mlを加えた後、内部標準物質としてドデカン1.12gを加えた。有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、l−イソプレゴールの収率は16.7%で、l−イソプレゴールとその他の異性体の比率は92.9/7.1であった。
なお、l−イソプレゴールとその他の異性体以外は、原料のd−シトロネラールが78.2%で、残りは高沸点物であった。
【0060】
【比較例3】
アルゴン気流下、50mlシュレンク管にフェノール91.5mg(1mmol)及びトルエン7mlを加えて室温で溶解した。次いで、トリエチルアルミニウム(Et3Al)0.93molトルエン溶液0.35ml(0.33mmol)を加えた後、室温にて30分間撹拌し触媒溶液を得た。その後、d−シトロネラール1.02g(6.62mmol)を滴下し、その後、25℃で17時間撹拌した。反応終了後、8%苛性ソーダ水2mlを加えた後、内部標準物質としてドデカン1.12gを加えた。有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、l−イソプレゴールの収率は11.8%で、l−イソプレゴールとその他の異性体の比率は83.9/16.1であった。
なお、l−イソプレゴールとその他の異性体以外は、原料のd−シトロネラールが76.3%で、残りは高沸点物であった。
【0061】
【比較例4】
比較例4として、比較例3のフェノールの代わりに2−フェニルフェノール166mgを用いた以外は比較例3と同様の操作で反応を行った。ガスクロマトグラフィーで分析した結果、l−イソプレゴールの収率は19.3%で、l−イソプレゴールとその他の異性体の比率は90.9/9.1であった。
なお、l−イソプレゴールとその他の異性体以外は、原料のd−シトロネラールが3.0%で、残りは高沸点物であった。
【0062】
【比較例5】
比較例5として、比較例3のフェノールの代わりに2,6−ジメチルフェノール119mgを用い、反応時間を1時間にした以外は比較例3と同様の操作で反応を行った。ガスクロマトグラフィーで分析した結果、l−イソプレゴールの収率は14.1%で、l−イソプレゴールとその他の異性体の比率は85.3/14.7であった。
なお、l−イソプレゴールとその他の異性体以外は、原料のd−シトロネラールが11.6%で、残りは高沸点物であった。
【0063】
【比較例6】
比較例6として、比較例3のフェノールの代わりに2,6−ジ−tert−ブチルフェノール201mgを用いた以外は比較例3と同様の操作で反応を行った。ガスクロマトグラフィーで分析した結果、l−イソプレゴールの収率は0%であった。
なお、l−イソプレゴールとその他の異性体以外は、原料のd−シトロネラールが14.5%で、残りは高沸点物であった。
【0064】
比較例1〜6の触媒量、反応温度、反応時間、イソプレゴールの収率、イソプレゴールとその他の異性体の比率を表5に表した。
【0065】
【表5】
【0066】
表4及び表5からも明らかなように、本発明のトリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウム触媒(実施例1〜16)を用いて閉環反応を行うと、反応温度において、極低温や高温の必要はなく好適な反応温度(−15〜50℃)で、目的とするイソプレゴールを好収率で得ることができた。一方、本発明のトリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウム触媒に代えて、臭化亜鉛(比較例1,2)を用いて反応を行うと、高温(110℃;比較例1)では収率74.5%;比率86.4/13.6であったが、25℃(比較例2)では収率16.7%に止まり、高温を必要とした。また、2,6−位に置換基のないフェノール(比較例3)、片方のみアリール基で置換された2−フェニルフェノール(比較例4)、アルキル基で置換された2,6−ジメチルフェノール(比較例5)、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール(比較例6)を用いて反応させると、目的とするイソプレゴールの収率は最高で19.3%であった。
この様に、本発明のトリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウム触媒(実施例1〜16)を用いて閉環反応を行うことは、本発明のイソプレゴールの合成方法を完成する上で非常に有用である。
【0067】
【発明の効果】
本発明により、香料等の素材として有用であり、メントールの重要な合成前駆体であるイソプレゴールを、トリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウム触媒を用いて、高収率、高選択的に製造する方法を提供する。
Claims (3)
- 前記のトリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウム触媒が、下記一般式(6a)
(R4)3−pAlHp (6a)
(式中、Alは、アルミニウム原子を示し;R4は、炭素数1乃至4のアルキル基を示し;pは、0〜2の整数を示す。)
で表されるアルキルアルミニウム化合物、下記一般式(6b)
MAlH4 (6b)
(式中、Mは、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子を示し;Alは、アルミニウム原子を示す。)で表される金属アルミニウム水素化物から選ばれる1種と、下記一般式(7)
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