JP4675443B2 - 液状樹脂成形材料 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気部品、電子部品、半導体チップ等をポッティング又はキャスティングで封止するに必要な作業性、硬化後の耐湿性に優れた液状樹脂成形材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年のエレクトロニクスの急発展に伴い、IC、LSI等の半導体素子は種々の分野で用いられ、低コスト、高集積化の流れは新しい様々な実装形態を産み出し、従来の金型を用いたトランスファー成形によるデュアルインラインパッケージに換わり、ハイブリッドIC、チップオンボード、テープキャリアパッケージ、プラスチックピングリッドアレイ等の金型なしで、ベアーチップのスポット封止によって形成する実装形態へ移行している。そして、これら液状エポキシ樹脂成形材料の硬化剤としては、ジシアンジアミド、ジヒドラジドアミンイミド化合物等のアミン硬化剤や、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイメック酸等の液状酸無水物が用いられいる。しかしながら、前者については極性が強く、バイアス物性を低下させ、後者についてはプレッシャークッカー(PCT)試験での加水分解性が大きいことや吸湿後の接着性劣化が大きいという欠点があった。このため、固形のノボラック型フェノール樹脂を硬化剤として用いることが試みられたが、高粘度となって成形性が低下し、有機溶剤を併用せざるをえない欠点があった。
【0003】
組成物の易加工性からビスフェノールA型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等の液状エポキシ樹脂を用いて酸無水物硬化剤で硬化を行う。この場合、最もガラス転移温度を高く、最も吸水率を小さくするエポキシ樹脂/酸無水物硬化剤の最適組成が決まっており(例えば、3級アミン触媒を用いた場合はエポキシ基/酸無水物基=1.0/0.75〜0.9当量比)、依然吸水率が2%を超えて高く、屈折率も1.55以下と十分なものではない(例えばエポキシ樹脂ハンドブック、日刊工業新聞社発行、III-3章、VI-2章など)。
【0004】
一方、本発明で用いられるエピスルフィド化合物に類似する化合物として、特開平9-71580号公報及び特開平9-110979号公報には、新規なアルキルスルフィド型エピスルフィド化合物とその組成物並びに硬化物が提案されている。アミン触媒を用いたアルキルスルフィド型エピスルフィド化合物の硬化物は、100℃以上の軟化点、1.69以上の屈折率、35以上のアッベ数を持つ好適な光学材料となる。硬化剤として1級アミン又は酸無水物を硬化剤とした組成物の説明はあるが、1級アミンを用いた実施例では軟化点が100℃以下と低く、また酸無水物との硬化物に関して、屈折率、吸水率などの具体的記載がなく、効果は明らかでない。更に、エポキシ基とエピスルフィド基とが混在する化合物から得た硬化物は耐熱性及び/又は強度が低いという課題があり、また、それらと酸無水物を硬化剤として用いた組成物及び硬化物特性に関する具体的な記載はない。
【0005】
更に、エピスルフィド化合物の重合において、西久保らはチオエステル開始剤と4級アンモニウム塩触媒の組み合わせが最も重合活性であることを報告している(例えばPolymer Journal, 28(1), pp68-75, 1996、又は、Prpg. Polym.Sci. Vol.18, pp963-995, 1993)。また、J.P.Bellらは、エピスルフィド化合物と一級アミンとの硬化反応について検討している。いずれの公知の文献においてもエピスルフィド化合物と酸無水物硬化剤との硬化反応に関して言及していない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、硬化前は液状で、硬化時には硬化速度が速くて生産性に優れ、硬化後の成形体はPCT試験温度(121℃)以上のガラス転移温度を有して耐熱性優れ、かつ低吸湿で、作業性、実装後の耐湿信頼性に優れる半導体封止用に適した液状樹脂成形材料を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を達成するための手段】
前記諸物性をバランス良く達成する材料として、本発明者らは鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、式(1)で表される反応性基を1分子中に2つ以上もつ芳香族エピスルフィド化合物(A成分)、
【化2】
Figure 0004675443
(式中、Xは酸素原子又は硫黄原子であり、X中のSの占める割合は平均50モル%以上である。また、R1〜R4は水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、同じであっても、異なってもよい。)と、グリシジル基を1分子中に2つ以上持つ液状芳香族グリシジルエーテル化合物(B1)及びグリシジル基を1分子中に2つ以上持つ液状グリシジルエステル化合物(B2)から選ばれる少なくとも1種のグリシジル化合物(B成分)、液状酸無水物(C成分)並びに硬化触媒(D成分)を必須成分として含有し、且つ、A成分、B成分及びC成分中の官能基の比率が、酸無水物基1当量に対して、グリシジル基とβ-エピチオプロピル基の総計が1.5〜3.2当量であり、β-エピチオプロピル基が0.5〜2.0当量であり、グリシジル基が0.5〜1.3当量であり、D成分がA成分、B成分及びC成分の総重量を100重量部としたときに0.1〜2重量部である液状樹脂成形材料である。ここで、上記A成分はビスフェノールA型エポキシ樹脂のグリシジル基をβ-エピスルフィドプロピル基に変換した構造を有する。
【0008】
式(1)で表される反応性基を持つ芳香族エピスルフィド化合物(A成分)は、1分子中にグリシジルエーテル基をもつ公知の芳香族グリシジルエーテル化合物(エポキシ樹脂ともいう)から公知の手法により得られる。公知の芳香族グリシジルエーテル化合物としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、9,9-ビス(4-ヒドロキフェニル)フルオレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジメチルシラン、4,4'-ビフェノール、テトラメチル-4,4'-ビフェノール等のビスフェノール類、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ナフトールノボラック、ナフトール又はナフタレンジオールと1,4-ビスキシレノールとの縮合化合物などの多官能フェノール類、及びこれら芳香環水素の一部又は全てがハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基に置換した置換フェノール類を、エピクロロヒドリンと反応させて1分子中にグリシジルエーテル基を2つ以上有する芳香族グリシジルエーテル化合物が挙げられる。これらは単独で用いても、併用してもよい。
【0009】
エピスルフィド基を有する化合物は、これらグリシジルエーテル化合物をチオシアン酸塩、チオ尿素、トリフェニルフォスフィンスルフィド、3-メチルベンゾチアゾール-2-チオン等のチオ化合物と、好ましくはチオシアン酸塩、チオ尿素と反応させて、グリシジル基の一部又は全てをチイロニウム塩に変換して製造される。これらチオ化合物は量論的にエポキシ基に対して等当量以上使用するが、生成物の純度、反応速度から考えて、幾分の過剰量の使用が好ましい。一方、グリシジルエーテル化合物中のグリシジル基の一部をエピチオプロピル基に変換する目的であれば、等当量以下で差し支えない。一方、本発明の目的を達成する組成物を勘案すればエポキシ基からエピスルフィド基への変換は50モル%以上が必要であるので、1/2倍当量以上のチオ化合物は必要である。
【0010】
反応は、無溶媒あるいは溶媒中のいずれでもかまわないが、溶媒を使用するときは、チオ化合物あるいは芳香族グリシジルエーテル化合物を溶媒中に細かく分散して不均一系で行うか、又はいずれかが可溶のものを使用することが目的物の収率向上に望ましい。具体例としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等のヒドロキシエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられ、これらの併用使用、例えば水と芳香族炭化水素類との組み合わせで2相で行うことも可能で、この場合未反応のグリシジルエーテル化合物を同時に洗浄除去可能である。また、反応液中に酸を反応促進剤として添加することが好ましい。酸の具体例としては、硝酸、硫酸、塩酸、燐酸、酢酸、プロピオン酸等があげられ、これらを併用してもよい。添加量は、反応総液量に対して0.1〜20wt%である。反応温度は、通常20〜100℃で行われ、反応時間は通常20時間以下である。ここで得られる反応中間生成物は通常固体で得られるので、ろ別後、必要に応じて原料芳香族グリシルエーテル化合物が溶解可能なトルエンなどの溶媒で洗浄して未反応原料化合物を除去し、更に水にて洗浄液のpHが3〜5になるまで洗浄する。得られた中間体を粉砕し、過剰の炭酸ナトリウム水溶液又は炭酸カリウム水溶液中に20〜70℃にて2〜20時間分散させる。得られた反応固形物を水洗、乾燥後、トルエン等の有機溶剤に溶解し、不溶の未反応塩をろ別などして、目的の芳香族エピスルフィド化合物溶液を得る。この溶液から溶剤を除去して芳香族エピスルフィド化合物を得ることができる。
【0011】
本発明で用いられるグリシジル化合物(B成分)は、液状芳香族グリシジルエーテル化合物(B1)及びグリシジル基を1分子中に2つ以上持つ液状のグリシジルエステル化合物(B2)から選択される少なくとも1種である。B1としては、公知のものを使用でき、具体的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、B2としては、公知のものが使用でき、具体的にはジグリシジルフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、グリシジルテトラヒドロフタレート等を例示できる。より低い吸水率を得る目的には、B1成分の方が好ましい。また、これらは単独でも2種類以上を混合して用いてもよい。更に、これら液状グリシジル化合物に、室温にて固体のグリシジル化合物を加熱溶融して混合することにより、混合物として液状になるようにして用いてもよい。
【0012】
本発明では液状酸無水物(C成分)を硬化剤として用いる。C成分としては、公知の液状酸無水物を使用することができ、具体例としてはメチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水こはく酸などである。また、これらは単独でも2種類以上を混合して用いてもよく、融点の低いヘキサヒドロ無水フタル酸と混合して、混合物として液状となるように用いてもよい。
【0013】
本発明では組成物を加熱により硬化させる目的で硬化触媒(D成分)を用いる。D成分としては、エポキシ樹脂/酸無水物硬化系に用いられる公知のものを使用することが可能で、前記A〜C成分に混合して、50〜180℃で加熱して目的の硬化物を与えるものが用いられる。硬化触媒の例としては、3級アミン類、ホスフィン類、4級アンモニウム塩類、ルイス酸類等が使用される。具体例としては、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、トリ-n-ブチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、ピリジンなどの3級アミン類、イミダゾール、N-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、1‐ベンジル‐2‐メチルイミダゾール等の各種イミダゾール類、1,8-ジアザビシクロ(5、4、0)ウンデセン-7,1,5-ジアザビシクロ(4、3、0)ノネン-5,6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ(5、4、0)ウンデセン-7等のアミジン類、あるいはこれらに代表される3級アミン系化合物並びにこれらと有機酸等との付加物、前記アミン類とハロゲン、ルイス酸、有機酸、鉱酸、四フッ化ホウ素酸等との4級アンモニウム塩、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン等のホスフィン類、3フッ化ホウ素、3フッ化ホウ素のエーテラート等に代表されるルイス酸類等である。これらの中で半導体装置の信頼性の観点から、イミダゾール類、ホスフィン類の使用が好ましく、ポットライフの点からこれらのマイクロカプセル型潜在性硬化剤がより好ましい。また、これらは単独でも2種類以上を混合して用いてもよい。D成分の硬化触媒は、A、B及びC成分の総量100重量部に対して、通常0.01〜5重量部であり、好ましくは0.01〜3重量部、より好ましくは0.1〜2重量部である。硬化触媒の量が5重量部より多いと、硬化物の吸水率が増加し、またこれより少ないと十分に硬化せずに耐熱性が不十分となる。
【0014】
更に、本発明の成形材料には開始剤としてチオエステル化合物又はメルカプタン化合物を加えてもよく、組成物のポットライフが長いこと、硬化物の着色が少ないことから沸点が100℃以上のチオエステル化合物が好ましい。メルカプタン化合物の具体例としては、2-メルカプトエタノール、又はチオグリコール酸2-エチルヘキシル、3-メルカプトプロピオン酸-2-エチルヘキシルなどの含エステル脂肪族メルカプタン化合物類、トリメチロールプロパントリス(β-チオプロピオネート)、ペンタエリストールテトラキス(β-チオグリコレート)などのポリメルカプト化合物であり、チオエステルの具体例としては、 S-フェニルチオアセテート、前記メルカプトン化合物の酢酸チオエステルや安息香酸チオエステル類などである。これらの開始剤は、A〜C成分の総量100重量部に対して、通常0.01〜5重量部であり、好ましくは0.05〜3重量部、より好ましくは0.05〜2重量部である。開始剤の量が5重量部より多いと、組成物のポットライフが短くなり、また硬化物の耐熱性が損なわれる。
【0015】
本発明の液状樹脂成形材料から得られる硬化物が低吸水率と耐熱性とを両立させるため、A、B及びC成分中の官能基の比率が、酸無水物基1当量に対して、グリシジル基とβ-エピチオプロピル基の総計が1.35〜3.5倍当量、好ましくは1.5〜3.2倍当量であり、β-エピチオプロピル基が0.5〜2.2倍当量、好ましくは0.5〜2.0倍当量であり、グリシジル基が0.5〜1.6倍当量、好ましくは0.5〜1.3倍当量となるように各成分の配合組成比を決定する。ここで、A成分は、Xの種類によりグリシジル基とβ-エピチオプロピル基を有し得る。また、B成分は、グリシジル基を有する。C成分は、酸無水物基(=(CO)2O)を有し、酸無水物基1モルを1当量と定義する。同様に、グリシジル基1モルを1当量と、β-エピチオプロピル基1モルを1当量と定義する。
【0016】
β-エピチオプロピル基をもつ化合物は一般的には室温で固体状態であるために単独では無溶剤組成物として扱いにくい。一方グリシジル基の単独硬化では十分な架橋構造をもった硬化物を得られない。また、硬化物の屈折率を任意に調整する目的で、β-エピチオプロピル基及びグリシジル基を持つ化合物の混合系で触媒共存下における硬化を行うと、β-エピチオプロピル基の硬化速度がグリシジル基のそれよりも早く、また硬化物の未反応グリシジル基が残存して相分離による白濁やガラス転移点の低下が生じる。そこで、本発明では、この系に酸無水物硬化剤を共存させることにより、硬化触媒が酸無水物基を活性化して硬化反応を開始させ、β-エピチオプロピル基とグリシジル基と共に硬化反応に関与して、耐熱性に優れた硬化物を得ることを可能とした。
【0017】
更に、本発明ではグリシジル基、β-エピチオプロピル基及び酸無水物基の3成分が共存することで組成物の粘度調整範囲が広範になると同時に、前述の官能基比率の範囲となるようにA、B、C成分の割合を調整することで、目的の特性を得られることを見いだした。すなわち、酸無水物基1当量に対して、グリシジル基とβ-エピチオプロピル基の総当量が1.35倍当量以上とすることで、まず硬化物中の未反応酸無水物基の残存をなくし、吸水率を低くすることが可能となった。また、β-エピチオプロピル基を0.5倍当量以上とすることで硬化物中のエステル結合の比率を下げて吸水率を1%未満(85℃、85RHに於ける飽和吸水率)と低くすることを可能とした。一方、グリシジル基を0.5倍当量以上共存させることで架橋点がチオエステル結合主体となることによるガラス転移点の低下を抑制した。更に、本発明の大きな特徴は、3つの官能基が共存することで、またβ-エピチオプロピル基を2.2倍当量までの組成としても、硬化物中に未反応官能基を残すことなくガラス転移点を維持しながら、さらなる高屈折率化と低吸水率化が可能となったことにある。
【0018】
一方で酸無水物基1当量に対して、グリシジル基とβ-エピチオプロピル基の総当量が1.35倍当量を下回ると硬化物の吸水率が高くなり、3.5倍当量を越えると硬化物中に未反応のグリシジル基が残存してガラス転移点が低下する。グリシジル基が0.5倍当量を下回ったり、1.3倍当量を超えると硬化物のガラス転移点が低下する。また、β-エピチオプロピル基が0.5倍当量を下回ると、β-エピチオプロピル基の添加によるところの硬化物の低吸水率化が十分に達成されず、2.2倍当量を越えると硬化物がもろくなる。
【0019】
グリシジル基のみをもつエポキシ化合物を硬化触媒の共存下で酸無水物により硬化させた場合は、酸無水物基1当量に対してグリシジル基を1.1〜1.25倍当量で最も高いガラス転移点、最も低い吸水率を示すが吸水率は2%を越え、この範囲をはずれると未反応基が多く残存してガラス転移点が低下する。β-エピチオプロピル基のみの化合物を酸無水物で硬化させた場合は、硬化物中のチオエステル結合が多くなり、満足する高いガラス転移点が得られない。
【0020】
以上のように本発明では、A〜Dの4成分を必須とする液状成形材料とすることにより組成物の広範な粘度調整範囲を達成し、得られる硬化物が低吸水率と耐熱性とを両立する。本発明の液状樹脂成形材料は、上記A〜Dの4成分を必須とし、少なくともこれらを混合した状態で、溶媒を使用しなくても液状である必要がある。通常A成分は室温で固体であるので、B成分又は/及びC成分が液状で、硬化触媒であるD成分の不在下、A〜C成分を加熱混合して均一組成物とし、この組成物が室温では粘調な液体となる必要がある。例えば、硬化触媒であるD成分は液状酸無水物に溶解させるか、別途少量の溶媒に溶解したのち、均一に混合して液状組成物を得ることができるが、あるいは3級アミン系化合物と有機酸等との付加物やマイクロカプセル型の硬化触媒を液状のA〜C成分の混合物に分散させた液状組成物の形態でもよい。
【0021】
本発明の液状樹脂成形材料は、上記A〜Dの4成分からなる必須成分を樹脂構成成分の全部又は主成分とするが、その使用の態様によっては樹脂構成成分と相溶性を有する添加剤を、少量、例えば20重量%以下配合することができる。このような添加剤としては、前記開始剤や酸化防止剤、離型剤、シランカップリング剤、難燃剤等の機能付与剤が挙げられる。更に、本発明の液状樹脂成形材料には、シリカ粒子、ゴム、顔料等の充填材や増粘剤、着色剤、応力緩衝粒子などを分散配合して、半導体封止用材料とすることができる。この場合の充填材は本発明の液状樹脂成形材料に対して、等量以上の多量に加えることが可能である。本発明の液状樹脂成形材料は、充填材が配合された場合は、これを除いた状態で液状を示せばよいことは言うまでもない。
【0022】
本発明における液状樹脂成形材料を硬化して硬化物を得るに際して、原料となる芳香族エピスルフィド化合物(A成分)とグリシジル基を1分子中に2つ以上持つグリシジルエーテル化合物又はグリシジルエステル化合物(B成分)をあらかじめ室温又は加熱して混合して混合液ABとし、一方酸無水物(C成分)並びに硬化触媒(D成分)を別途混合して混合液CDとし、この混合液AB又はCDのいずれかに必要により加えられる酸化防止剤、紫外線吸収剤又は離型剤などの添加剤を溶解もしくは分散混合し、使用する直前に両液を混合することが好ましい。また、硬化触媒であるD成分は別途少量の溶媒に溶解した溶液を使用したり、または3級アミン系化合物と有機酸等との付加物やマイクロカプセル型の硬化触媒を液状のA〜C成分の混合物に分散させた液状組成物の形態でもよい。なお、上記添加剤や充填材を配合する場合は、混合液AB及びCDを混合する際、同時にあるいは別途に加えてもよい。かくして上記材料を配合、混合、液状樹脂成形材料とするものであるが、更に、これを混練、脱泡して均一な液状樹脂成形材料とすることがよい。
【0023】
本発明の液状成形材料の成形については、塗布、注型、ポッティング等で封止成形する方法が好適である。硬化時間は、通常1〜60時間であり、硬化温度は50〜200℃、好ましくは80〜180℃である。また、硬化終了後、材料を硬化温度より低い50〜180℃の温度で10分〜5時間程度のアニール処理を行うことは、本材料から生じる硬化物の歪みを除くために好ましい処理である。
【0024】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
合成例1
水2,630mlに機械攪拌しながら325g(6.49eq)の特級硫酸、次にチオ尿素494g(6.49eq)を懸濁させた。次に、機械攪拌しながらエピコート828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、油化シェル社製、エポキシ当量)1.00kg(5.41eq)を少しづつ加え、完了したら、50℃にて6時間撹拌を行った。生成した塩(無色固体)をガラスフィルターで濾過し、濾液のpHが3〜5程度になるまで粉砕水洗後に室温で減圧乾燥した。
更に、塩中の未反応原料エポキシ樹脂を除くため、2kgのジクロロメタン溶媒中で粉砕攪拌した。固体をろ別後、更に同量のジクロロメタンで洗浄し、室温にて真空乾燥を行った。
水5,300mlにNa2CO3 416gを溶解し、これによく粉砕した前記チウロニウム硫酸塩1.00kg(3.27eq)を加えて、60℃にて6時間の撹拌を行った。生成物(無色固体)をガラスフィルターで濾過し、濾液のpHが8程度になるまで粉砕、水洗後に室温で減圧乾燥を行った。更に、6倍量のトルエン中にて目的物を溶解し、不溶物をろ別し、硫酸マグネシウムにて乾燥後、トルエン溶液をシリカゲルショートカラム柱にとおし、トルエン溶媒を減圧除去してエピスルフィド化合物(A1)を580g得た。
【0025】
得られたエピスルフィド化合物(A1)100mgを重クロロホルム溶媒に溶解し、270MHzのプロトンNMR分析を行った。エポキシ環中のメチレンに対応する2.7ppm、2.9ppmがほとんど消失し、チイラン環中のメチレンに対応する2.3ppm、2.6ppmが見られたことで、グリシジル基からβ-エピスルフィドプロピル基に変換されていることがわかった。
ここで、組成物及び硬化物の物性測定は、以下の測定法で行った。
【0026】
<粘度> BH型粘度計を用いて25℃における粘度を測定した。
<液比重> 比重びんを用いて25℃にて測定を行った。
<硬化物比重> 25mm角x3mm厚みの硬化物を用いて、水中浮力法にて比重を求めた。
<硬化収縮率> 前記手法で求めた液比重(dL)及び硬化物比重(ds)を用いて次式により算出した。
硬化収縮率(%)= 100×(ds‐dL)/dL
<ゲル化時間> ホットプレート上で所定温度で加熱し、流動しなくなるまでの時間を測定した。
<外観> 肉眼により硬化物の曇りがないか観察した。
<吸水率1> 25mm角x3mm厚みの硬化物を用いて85℃、85RHにおける飽和吸水率を求めた。ただし、後に述べるガラス転移温度Tgが110℃以下の硬化物については測定しなかった。
<吸水率2> 25mm角x3mm厚みの硬化物を用いて、121℃、100RH下で48時間保持したときの吸水率を求めた。ただし、後に述べるガラス転移温度Tgが130℃以下の硬化物については測定しなかった。
【0027】
<動的粘弾性測定によるガラス転移点Tg1> 5mm幅x15mm長さx1mm厚みの硬化物を用いて、周波数1Hz引っ張りモードに於いて2℃/分の昇温で室温から250℃まで動的粘弾性測定を行い、tanδのピーク温度をTg1(℃)とした。
<熱量測定(DSC)によるガラス転移温度Tg2> 硬化物約20mgを用い、室温から250℃まで10℃/分の昇温に於いて熱流曲線の偏曲点よりガラス転移温度Tg2(℃)を求めた。また、いずれの硬化物においても偏曲点は1つしか観測されなかった。
<赤外吸収(IR)スペクトル測定> ベンゼン環に起因する1510cm-1吸収ピークを基準にして、硬化前のエポキシ環915cm-1、チイラン環620cm-1並びに酸無水物基1780cm-1の吸収ピークの強度比を1として、硬化後の吸収強度比より各反応基の残存率を推定した。ここで、吸収ピークがスペクトルのベースラインのばらつき以内であるときは、検出限度以下(*)、若干見られる場合は(tr)と表中に示した。
また、硬化物中に生成するエステル結合1735cm-1の吸収ピークに対するチオエステル結合1705cm-1の吸収ピーク比より架橋点構造を推定した。ただし、両吸収とも近いために分離できたチオエステル結合の定量は0.3以上であった。それ以下は、検出限度以下(*)として表中に記載した。
【0028】
実施例1
合成例1で得たエピスルフィド化合物(A1)50gとエピコート828(油化シェル社製、エポキシ当量187)(b1)50gとをビーカー中で80℃にて加熱混合して均一な粘調液体(混合液AB)を得た。一方、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸35.4g(C1)中にテトラ-n-ブチルアンモニウムクロライド1.37g(D1)を溶解して均一溶液(混合液CD)とした後、これに前述の粘調液体(混合液AB)とS-フェニルチオアセテート0.75g(S1)とを50℃にて混合して目的の組成物、すなわち液状樹脂成形材料を得た。これを、シリコンゴムシート型中をアルミ箔で被ったものを型として、これに目的の組成物を注型し、100℃にて30分、160℃にて2時間加熱し、厚み1〜3mmの透明な成型体(硬化物)を得た。物性測定値を表1に示す。
【0029】
実施例2及び比較例1〜2
表1に示す配合組成として組成物を調製し、同様にして硬化物を作成、物性を測定した。実施例2及び比較例2では表1に示すように酸無水物基当量に対してグリシジル基とβ-エピスルフィド基との総当量比を一定(2.44)とし、グリシジル基とβ-エピスルフィド基との当量比を変えて組成物を調製した。併せて、物性測定値を表1に示す。
【0030】
実施例1及び2では、いずれも吸水率1が1%以下、吸水率2が2%以下であり、また耐熱性の指標であるHDTも100℃以上、ガラス転移温度Tg1及びTg2は121℃を越える温度を示した。比較例1はエポキシ樹脂のみを酸無水物で硬化した例であるが、吸水率は実施例に比較して、いずれも高い。
一方、比較例2は、実施例1においてB成分割合をA成分割合よりも過剰にした例であるが、ガラス転移温度Tg2が115℃とPCT試験温度121℃より若干低い。
【0031】
実施例3〜4
酸無水物基1当量に対してグリシジル基が1.27倍当量になるようにメチルヘキサヒドロ無水フタル酸35.4g(C1)とエピコート828(B1)50gとし、更に、A成分として前記化合物(A1)を酸無水物基1当量に対して0.58、と1.76倍当量となるようにした他は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。実施例3、4は実施例1と同様に、いずれも吸水率1(85℃、85RHにおける飽和吸水率)が1%以下、吸水率2(121℃、100RH、48時間後)が2%未満となり、比較例1の1.3%、2.3%と較べても低いことが明らかになった。また、耐熱性は、A成分の含有量が増しても、Tg1が170℃、Tg2が140℃とほとんどかわらず、比較例1の160℃、128℃に較べて高かった。一方、一連の実施例における硬化物中にはエポキシ環、チイラン環、酸無水物基の残存は赤外スペクトルの検出限界以下であった。
【0032】
実施例5
酸無水物基1当量に対してβ-エピチオスルフィド基が1.17倍当量と同じになるようにし、グリシジル基が酸無水物基1当量に対して0.635倍当量となるよう、他は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。実施例5は実施例1と同様に、いずれも吸水率1(85℃、85RHにおける飽和吸水率)が1%以下、吸水率2(121℃、100RH、48時間後)が2%未満となり、比較例1の1.3%、2.3%と較べても低いことが明らかになった。また、耐熱性は、Tg1、Tg2のいずれもが121℃以上と高かった。
【0033】
実施例6〜7及び比較例3
表1に示すようにチルヘキサヒドロ無水フタル酸量を変えて、酸無水物基1当量に対してグリシジル基とβ-エピスルフィド基との総当量比を1.09〜2.94となるようにした他は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。実施例は低吸水率並びに高いガラス転移点を示したが、比較例3は酸無水物変成量が多いためか、高い吸水率を示した。
【0034】
実施例8
S-フェニルチオアセテート(S1)を除いた他は実施例1と同様に行ったところ、硬化物物性はほとんど変わらなかった。
【0035】
実施例1〜8及び比較例1〜3の配合組成及び測定結果を表1に示す。表中、IR分析の吸収強度比は、チオエステル/エステル吸収強度比を表す。また、官能基当量比及び重量比におけるA〜Dは、それぞれA〜D成分を意味し、A成分については、全部がエピスルフィド基となっているとして計算される。なお、表1〜2中の略号は次のとおり。
A1:合成例1で得られたはエピスルフィド化合物
b1:エピコート828
b2:YDF−8170C
b3:CY184
C1:メチルヘキサヒドロ無水フタル酸
D1:テトラ-n-ブチルアンモニウムクロライド
S1:S-フェニルチオアセテート
【0036】
【表1】
Figure 0004675443
【0037】
実施例9〜10、比較例4〜5
B成分をYDF-8170C(ビスF型エポキシ樹脂、東都化成(株)製、エポキシ当量156)(b2)又はCY184(ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、チバスペシャリティケミカルズ社製、エポキシ当量170)(b3)とした他は、実施例1と同様な官能基にして組成物を調製し、硬化物の特性を測定した。また、比較例1と同様にエピスルフィド化合物(A1)を用いずに硬化物を調製した(比較例4〜5)。実施例9、10に於いてはエピスルフィド化合物(A1)との硬化により、比較例4、5に比較してガラス転移温度が20〜30℃上昇し、さらに吸水率1は実施例9、10では1%未満となったのに対し、比較例4、5では2%を超えていた。また、初期粘度も100ポイズ以下であり、また室温保存24時間後でも液状封止用としては十分な100ポイズ以下であった。
【0038】
実施例1、9〜10及び比較例4〜5の配合組成及び測定結果を表2に示す。IR分析の吸収強度比は、チオエステル/エステル吸収強度比を表す。
【0039】
【表2】
Figure 0004675443
【0040】
実施例11〜13
硬化触媒(D成分)を、テトラ-n-ブチルアンモニウムクロライド(実施例11、1,8-ジアザビシクロ(5、4、0)ウンデセン-7(DBU、実施例12)並びにトリフェニルホスフィン(実施例13)と変えて、A、B、Cの3成分を実施例1と同様の組成物を調製した。但し、実施例12及び13では、開始剤S1は用いなかった。すなわち、D成分の配合量を表3のとおりとし、且つ実施例12及び13では、開始剤S1は用いなかった他は、実施例1と同様の配合組成とした。この組成物をそれぞれ表3に示す熱硬化条件で硬化反応を行い、硬化物のガラス転移温度Tg2をDSCで測定した。テトラ-n-ブチルアンモニウムクロライド触媒(実施例11)並びにDBU触媒(実施例12)では120℃〜160℃硬化でほぼ140℃のガラス転移温度Tg2に達した。一方、トリフェニルホスフィン触媒(実施例13)では、実施例11及び12に比較して同一硬化条件で硬化物のTg2が10℃ほど低く観測された。また、各硬化物を空気中にて室温から260℃へ10℃/分で昇温し、260℃にて2分間保持したときの熱重量減少を調べた(TGA測定)。いずれも99%以上の重量保持率であった。また、TGA測定後の硬化物は260℃の熱履歴を受けるが、熱履歴後の硬化物の着色度合いを比較すると、テトラ-n-ブチルアンモニウムクロライド触媒の場合は、透明淡黄色でほとんど着色が見られなかったが、DBU、トリフェニルホスフィンの順に着色が強くなった。配合組成、硬化条件及び測定結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
Figure 0004675443
【0042】
実施例14及び比較例6
実施例1の組成物(実施例14)及び比較例1の組成物(比較例6)について、ホットプレート上で組成物を加熱し、流動性を失うまでの時間をゲル化時間として測定した。実施例14は、従来のエピコート828/酸無水物硬化系(比較例6)とほぼ同等のゲル化時間を示し、硬化速度が速いことがわかった。結果を表4に示す。
【0043】
【表4】
Figure 0004675443
【0044】
実施例15〜24、比較例7
実施例1〜10と同じ配合割合とした組成物に、充填材としての溶融シリカ及びカップリング剤としてのγ-グリシジルメトキシシランを表5で示した割合で配合し、室温で3本ロールで混練して充填材配合液状組成物を得た。片面タイプのフィルムキャリア(カプトン膜厚50μm、接着剤厚20μm、銅箔厚35μm)にインナーボンデイングされた模擬素子(線幅、線間8μm、窒化硅素膜有り、ピン数124本)に塗布し、100℃で30分、160℃で2時間加熱し、硬化させた。これをPCT試験(121℃、100%RH)で、断線不良率が50%になる時間が、300時間を越える場合を○とした。化合物(A1)を用いた実施例の場合は、いずれも良好な信頼性を示したのに対し、比較例では300時間未満の信頼性であった。
【0045】
配合組成及び測定結果を表5に示す。表5において、表1と共通する略号は同一のものを表す。また、γ-Gはγ-グリシジルメトキシシランを表す。
【0046】
【表5】
Figure 0004675443
【0047】
【発明の効果】
本発明の液状樹脂成形材料は、成形性に優れ、耐湿性に優れた硬化物を与えることができ、半導体素子の封止にこれを適用した場合、耐湿性及び耐熱性に優れた半導体素子を与える。

Claims (2)

  1. ビスフェノールA型エポキシ樹脂のグリシジル基をβ-エピスルフィドプロピル基に変換した構造を有し、式(1)で表される反応性基を1分子中に2つ以上もつ芳香族エピスルフィド化合物(A成分)、
    Figure 0004675443
    (式中、Xは酸素原子又は硫黄原子であり、X中のSの占める割合は平均50モル%以上である。また、R1〜R4は水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、同じであっても、異なってもよい。)と、グリシジル基を1分子中に2つ以上持つ液状芳香族グリシジルエーテル化合物(B1)及びグリシジル基を1分子中に2つ以上持つ液状グリシジルエステル化合物(B2)から選ばれる少なくとも1種のグリシジル化合物(B成分)、液状酸無水物(C成分)並びに硬化触媒(D成分)を必須成分として含有し、且つ、A成分、B成分及びC成分中の官能基の比率が、酸無水物基1当量に対して、グリシジル基とβ-エピチオプロピル基の総計が1.5〜3.2当量であり、β-エピチオプロピル基が0.5〜2.0当量であり、グリシジル基が0.5〜1.3当量であり、D成分がA成分、B成分及びC成分の総重量を100重量部としたときに0.1〜2重量部であることを特徴とする液状樹脂成形材料。
  2. 開始剤としてチオエステル化合物又はメルカプタン化合物を、A〜C成分の総量100重量部に対して、0.05〜3重量部配合してなる請求項1に記載の液状樹脂成形材料。
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