JP4302264B2 - 熱硬化型樹脂硬化物 - Google Patents
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- Polymers With Sulfur, Phosphorus Or Metals In The Main Chain (AREA)
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気部品、電子部品、半導体チップ等などの電子素子の封止や絶縁に好適に利用できる低熱膨張、低吸湿な硬化物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年のエレクトロニクスの急発展に伴い、IC、LSI等の半導体素子は種々の分野で用いられ、低コスト、高集積化の流れは新しい様々な実装形態を産み出し、従来の金型を用いたトランスファー成形によるデュアルインラインパッケージはもとより、ハイブリッドIC、チップオンボード、テープキャリアパッケージ、プラスチックピングリッドアレイ等の金型なしでベアーチップのスポット封止によって形成する実装形態もみられる。そして、これら封止に使用される硬化物はいずれも信頼性と半田耐熱への要求から低吸湿、かつ低熱膨張性が求められている。
【0003】
エポキシ樹脂を用いた熱架橋型樹脂組成物の提案は光学材料や電子材料向けに多く見受けられ、信頼性の観点から耐熱性の向上と低吸水率化が課題となっている。例えば、組成物の易加工性からビスフェノールA型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等の液状エポキシ樹脂を用いて酸無水物硬化剤で硬化を行う方法がある。この場合、最もガラス転移温度を高く、最も吸水率を小さくするときの、エポキシ樹脂/酸無水物硬化剤の最適組成が決まっており(例えば、3級アミン触媒を用いた場合は、エポキシ基/酸無水物基=1.0/0.75〜0.9当量比)、したがって、硬化物の耐熱性や吸水率を維持しても依然吸水率が2%を超えて高く、十分なものではない(例えば、エポキシ樹脂ハンドブック、日刊工業新聞社発行、III-3章、VI-2章など)。
【0004】
また、エポキシ樹脂系封止材の低吸水率化とPCT試験化(121℃、100RH)における信頼性向上を目的にもっぱら多官能のノボラック系硬化剤を用いている。エポキシ環とフェノール性水酸基との付加反応で高分子化するが、ここで架橋構造をとるわけでなく、同時に2級アルコール性水酸基を副生するので、硬化物の低吸水率化には限界があった。更に、ナフタレン骨格を導入したエポキシ樹脂や硬化剤による低吸水化の試みも報告されている(技術情報協会、「エポキシ樹脂の高性能化と硬化剤の配合技術及び評価、応用」第8章6節)。しかし、この場合においてもPCT試験後の吸水率は2%を越え、更に誘電率3.8〜4、熱膨張係数も60ppm/℃以上であった。
【0005】
一方、硬化物の高屈折率化を目的に、エポキシ化合物のエポキシ基の一部又は全部をエピスルフィド基に変換した化合物を用いた光学材料の提案が特開平1-98615号公報、特開平3-81320号公報に見られるが、多官能チオール化合物の具体例は見られるがエピスルフィド基を有する具体的な化合物を用いた組成物並びに硬化物の特性について記載されていない。また、特開平9-71580号公報並びに特開平9-110979号公報には、新規なアルキルスルフィド型エピスルフィド化合物とその組成物並びに硬化物が提案されている。3級アミン触媒を用いたアルキルスルフィド型エピスルフィド化合物の硬化物は、100℃以上の軟化点、1.69以上の屈折率、35以上のアッベ数を持つ好適な光学材料となる報告があるが、吸水率や熱膨張性、誘電率など電子材料に必要な特性の具体的記載はなく、使用可能性は明らかでない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、低吸湿性、耐熱性を有し、低熱膨張で低誘電損失の硬化物を提供し、更に電子部品用の封止、絶縁に適した硬化物を提供することにある。
【0007】
【課題を達成するための手段】
前記諸物性をバランス良く達成する熱硬化物について、本発明者らは鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、下記式(1)で表される反応性基を1分子中に2つ以上もつ芳香族エピスルフィド化合物(A成分)
【化3】
(式中、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Xに占める硫黄原子の割合は平均95モル%以上である。また、R1〜R4は水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、同じであっても、異なってもよい。)、3級アミン類、ホスフィン類、4級アンモニウム塩類及びルイス酸類からなる群れから選ばれる硬化触媒(B成分)並びにチオエステル化合物及びメルカプト化合物から選ばれるを開始剤(C成分)を必須成分とし、(A成分)100重量部に対し、(B成分)0.01〜7重量部並びに(C成分)0.01〜7重量部の割合で含有する組成物を80〜200℃にて硬化して得られる硬化物であって、β-エピチオプロピル基の残存率が5%未満であり、ガラス転移温度が100℃以上である熱硬化型樹脂硬化物である。ここで、前記芳香族エピスルフィド化合物(A成分)は、下記式(2)
【化4】
(式中、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Xに占める硫黄原子の割合は平均95モル%以上である。)で表される化合物である。
【0008】
式(1)で表される反応性基を持つ芳香族エピスルフィド化合物(A成分)は、1分子中に2つ以上のグリシジルエーテル基をもつ公知の芳香族グリシジルエーテル化合物(エポキシ樹脂を含む。以下、同じ。)から公知の手法により得られる。
このような芳香族グリシジルエーテル化合物としては、フェノール性水酸基を2つ以上有する多官能フェノール類とエピクロロヒドリンとを反応させて得られる1分子中にグリシジルエーテル基を2つ以上有するものがある。
ここで、多官能フェノール類としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、9,9-ビス(4-ヒドロキフェニル)フルオレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジメチルシラン、4,4'-ビフェノール、テトラメチル-4,4'-ビフェノール等のビスフェノール類、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ナフトールノボラック、ナフトール若しくはナフタレンジオールと1,4-ビスキシレノールとの縮合化合物などの多官能フェノール類又はこれらの芳香環中の水素原子の一部若しくは全てをハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基で置換した多官能フェノール類等がある。
芳香族グリシジルエーテル化合物は単独で用いても、併用してもかまわない。
【0009】
エピスルフィド基を有する化合物は、このような芳香族グリシジルエーテル化合物をチオシアン酸塩、チオ尿素、トリフェニルフォスフィンスルフィド、3-メチルベンゾチアゾール-2-チオン等のチオ化合物と、好ましくはチオシアン酸塩、チオ尿素と反応させて、グリシジル基の一部若しくは全てをチイロニウム塩に変換して製造される。これらチオ化合物は量論的にエポキシ基に対して等当量以上使用するが好ましい。
【0010】
この反応は、無溶媒あるいは溶媒中のいずれでも差し支えないが、溶媒を使用するときは、チオ化合物あるいは芳香族グリシジルエーテル化合物を溶媒中に細かく分散して不均一系で行うか、又はいずれかが可溶のものを使用することが目的物の収率向上に望ましい。具体例としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等のヒドロキシエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられ、これらの併用、例えば水と芳香族炭化水素類との組み合わせで2相で行うことも可能で、この場合、未反応のグリシジルエーテル化合物を同時に洗浄除去可能とするので好ましい。
また、反応液中に酸を反応促進剤として添加することが好ましい。酸の具体例としては、硝酸、硫酸、塩酸、燐酸、酢酸、プロピオン酸等があげられ、これらを複数併用してもよい。添加量は、反応総液量に対して0.1〜20wt%である。
反応温度は、通常20〜100℃で行われ、反応時間は通常20時間以下である。
【0011】
ここで得られる反応中間生成物は通常固体で得られるので、ろ別後、原料芳香族グリシルエーテル化合物が溶解可能なトルエンなどの溶媒で洗浄して、更に水にて洗浄液のpHが3〜5になるまで洗浄することは、未反応原料化合物を除去し、目的のβ-エピチオプロピル基が95%以上の目的物を得るに好ましい。得られた中間体を粉砕し、過剰の炭酸ナトリウム水溶液若しくは炭酸カリウム水溶液中に20〜70℃にて2〜20時間分散させる。得られた反応固形物を水洗、乾燥後、トルエン等の有機溶剤に溶解し、不溶の未反応塩をろ別するなどして、目的の芳香族エピスルフィド化合物溶液を得る。この溶液から溶剤を除去して芳香族エピスルフィド化合物を得ることができる。
前述の芳香族グリシジルエーテル化合物は、フェノール類とエピクロロヒドリンとの反応の際に副反応のために分子量分布を伴ったエポキシ樹脂として市販されている。例えば、2, 2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンは通常一般式(3)に示すようにn=0〜10の混合物であり、本発明では式(4)に示すn=0成分を主体にする(ゲルパーミッションクロマトグラフィーを用いた分析においてRI検出器を用いてクロマトグラムの面積比率が60%以上)ものを用いることが好ましい。したがって、得られる芳香族エピスルフィド化合物は、式(5)に示すオリゴマーを含むことになるが、n=0成分を主体とする、すなわち式(2)主体のものである。
【化5】
【化6】
【化7】
【0012】
得られたビススルフィド化合物を重クロロホルム溶媒に溶解し、プロトンNMR分析を行うことにより、エポキシ環中のメチレンに対応する2.7ppm、2.9ppmの吸収とチイラン環中のメチレンに対応する2.3ppm、2.6ppmの吸収から、グリシジル基からβ-エピチオプロピル基に変換されていることを確認し、面積比から変換率若しくはグリシジル基の残存率を求めることができる。したがって、このプロトンNMRで定量されるところの式(1)で表される反応性基を1分子中に2つ以上もつ芳香族エピスルフィド化合物中のXが酸素原子であるときはグリシジル基、Xが硫黄原子であるときはβ-エピチオプロピル基であり、このSの個数は三員環を構成するSとOの合計に対して平均95モル%以上にする必要がある。Sが90モル%未満となる場合は、β-エピチオプロピル基の硬化速度がグリシジル基のそれよりも早く、また硬化物の未反応グリシジル基が残存して相分離による白濁やガラス転移点の低下が生じる。
【0013】
本発明における組成物を加熱により硬化させる目的で使用される硬化触媒(B成分)としては、エポキシ樹脂の硬化に使用される公知の硬化触媒を使用することが可能で、エピスルフィド化合物に均一に混合され、50〜200℃で加熱することにより硬化物を与える。硬化触媒の例としては、3級アミン類、ホスフィン類、4級アンモニウム塩類、ルイス酸類が使用される。具体例としては、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、トリ-n-ブチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、ピリジンなどの3級アミン類、イミダゾール、N-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール等の各種イミダゾール類、1、8-ジアザビシクロ(5、4、0)ウンデセン-7、1、5-ジアザビシクロ(4、3、0)ノネン-5、6-ジブチルアミノ-1、8-ジアザビシクロ(5、4、0)ウンデセン-7等のアミジン類、以上に代表される3級アミン系化合物並びにこれらと有機酸等との付加物、前記アミン類とハロゲン、ルイス酸、有機酸、鉱酸、四フッ化ホウ素酸等との4級アンモニウム塩、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン等のホスフィン類、3フッ化ホウ素、3フッ化ホウ素のエーテラート等に代表されるルイス酸類等である。これらの中で硬化物の着色が少ないことから、イミダゾール類、4級アンモニウム塩類の使用が好ましく、4級アンモニウム塩の使用がより好ましい。また、これらは単独でも2種類以上を混合して用いてもよい。(B成分)の使用量は、(A成分)100重量部に対して0.01〜7重量部であり、好ましくは0.1〜6重量部、より好ましくは0.5〜5重量部である。硬化触媒の量が7重量部より多いと、硬化物の吸水率並びに着色が増加し、また0.01重量部より少ないと十分に硬化せずに耐熱性が不十分となる。
【0014】
更に、本発明の組成物には、チオエステル化合物及びメルカプタン化合物から選ばれる開始剤(C成分)を加えると硬化反応が良好に進行し、高いガラス転移温度を得るのに好ましい。また、組成物のポットライフが長いこと、硬化物の着色が少ないことから沸点が80℃以上のチオエステル化合物が好ましい。メルカプタン化合物の具体例としては、2-メルカプトエタノール、又はチオグリコール酸2-エチルヘキシル、3-メルカプトプロピオン酸-2-エチルヘキシルなどの含エステル脂肪族メルカプタン化合物類、トリメチロールプロパントリス(β-チオプロピオネート)、ペンタエリストールテトラキス(β-チオグリコレート)などのポリメルカプト化合物であり、チオエステルの具体例としては、S-フェニルチオアセテート、前記メルカプトン化合物の酢酸チオエステルや安息香酸チオエステル類などである。(C成分)は、(A成分)100重量部に対して、通常0.01〜7重量部であり、好ましくは0.1〜6重量部、より好ましくは0.5〜5重量部である。開始剤の量が7重量部より多いと、組成物のポットライフが短くなり、また硬化物の耐熱性が損なわれる。
【0015】
更に、本発明の組成物に、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤等の添加剤を加えて、得られる材料の実用性を向上せしめることも可能である。また、公知の外部及び/又は内部離型剤を使用して、得られる硬化材料の型から離型性を向上せしめることも可能である。更に、接着剤やコーティング剤と使用する際は、粘度調整の目的で加える溶剤や希釈剤、また基材との密着性を高める目的でシランカップリング剤、トリアジンチオールなどの密着付与剤を添加することもできる。また、コーティング時の平滑性や蒸発ムラを抑制する目的で、シリコン系やフッ素系の界面活性剤を加えることができる。また、着色や更に低吸水率化、低熱膨張化をすすめるために、球状シリカなどの充填剤を加えてもよい。
必須成分以外の添加剤がエポキシ基を含む場合は、ガラス転移温度を100℃以上とするために、(A成分)のエピチオプロピル基1モルに対してエポキシ基を5モル%以下とする必要がある。エポキシ基はエピチオスルフィド基の重合を阻害し、十分な架橋構造を与えずにガラス転移温度が低下する。なお、必須成分以外の添加剤の配合量は、溶媒や充填剤については用途により広範囲に調整し得るが、その他の添加剤については、必須成分に対し、40%未満、好ましくは20%未満となる量にとどめることがよい。
【0016】
本発明における組成物を調製するに際して、必須成分となる芳香族エピスルフィド化合物(A成分)を1種若しくは数種をその融点より10℃ほど高い温度にて液状化した後、硬化触媒(B成分)及び開始剤(C成分)並びに必要に応じて加えられる酸化防止剤、紫外線吸収剤又は離型剤などの添加剤と共に混合し、好ましくは使用する直前に混合する。あるいは3本ロールを用いて、少量の溶剤にB成分、C成分ならびに添加剤を溶解して(A成分)と混合してもよい。混合後の組成物を成形材として用いる場合は、ガラスや金属製の型に注入し、加熱により硬化反応を進めた後、型から外して製造される。各原料、添加剤の混合前若しくは混合後に減圧下に脱ガス操作を行うことは、後の注型重合硬化中の気泡発生を防止する観点から好ましい方法である。硬化時間は、通常1〜60時間であり、硬化温度は50〜200℃、好ましくは80〜180℃である。また、硬化終了後、材料を硬化温度より低い50〜160℃の温度で10分〜5時間程度のアニール処理を行うことは、本材料の歪みを除くために好ましい処理である。
【0017】
本発明の硬化物中の未反応β-エピチオプロピル基、すなわち3員環であるチイラン環は、赤外分光装置を用いて、(A成分)中のベンゼン環に起因する1510cm-1吸収ピークを基準にしてチイラン環620cm-1の吸収ピークの強度比を1として、硬化後の吸収ピーク強度比より各反応基の残存率を求めることが可能である。本発明では、チイラン環の残存率を5%未満、好ましくは検出限界以下にする。チイラン環の残存率が5%を超えると熱膨張係数の増加、ガラス転移温度の低下が生じて好ましくない。硬化物のガラス転移温度は、動的粘弾性測定においてtanδのピークトップから測定されるガラス転移温度が100℃以上で、好ましくは121℃以上であることが本発明の電子材料用途に適している。
【0018】
本発明を接着剤やコーティング剤として使用する際は、粘度調整の目的で加える溶剤や希釈剤、また基材との密着性を高める目的でγ-グリシジルプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤、トリアジンチオールなどの密着付与剤や、コーティング時の平滑性や蒸発ムラを抑制する目的で、シリコン系やフッ素系の界面活性剤を加え、均一な組成物を調製し、必要に応じて表面処理を施した基板に塗布し、適当な乾燥方法により溶剤の一部又は全てを除いた後、接着剤の場合は加圧しながら、コーティング材の場合はそのまま、80〜200℃、より好ましくは80〜180℃に加熱して硬化させる。得られる硬化物は、通常のエポキシ樹脂硬化物に比較して、熱膨張係数、吸水率が小さく、寸法精度、信頼性に優れたものとなる。
【0019】
また、本発明の硬化物は透明性、低吸湿、耐熱性、低熱膨張であることから、発光ダイオード(LED)封止用材料や半導体チップ封止材の原料としても好適に用いることができる。LEDの封止は、金属、セラミックなどのステム又はメタルフレーム上にマウントされたLEDデバイスをキャスティング又はトランスファーモールド成形方法によって被い、加熱封止する。
【0020】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
合成例1
水2,630mlに機械攪拌しながら325g(6.49eq)の特級硫酸、次にチオ尿素494g(6.49eq)を懸濁させた。次に、機械攪拌しながらエピコート828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、油化シェル製、エポキシ当量)1.00kg(5.41eq)を少しづつ加え、完了したら、50℃にて6時間撹拌を行った。生成した塩(無色固体)をガラスフィルターで濾過し、濾液のPHが3〜5程度になるまで粉砕水洗後に室温で減圧乾燥した。更に、塩中の未反応エポキシ樹脂を除くため、2kgのジクロロメタン溶媒中で粉砕攪拌した。固体をろ別後、更に同量のジクロロメタンで洗浄し、室温にて真空乾燥を行った。
水5,300mlにNa2CO3 416gを溶解し、これによく粉砕した前記塩1.00kg(3.27eq)を加えて、60℃にて6時間の撹拌を行った。生成物(無色固体)をガラスフィルターで濾過し、濾液のpHが8程度になるまで粉砕、水洗後に室温で減圧乾燥を行った。更に、6倍量のトルエン中にて目的物を溶解し、不溶物をろ別し、硫酸マグネシウムにて乾燥後、トルエン溶液をシリカゲルショートカラム柱にとおし、トルエン溶媒を減圧除去してエピスルフィド化合物(A1)を580g得た。
得られたエピスルフィド化合物(A1)100mgを重クロロホルム溶媒に溶解し、270MHzのプロトンNMR分析を行った。エポキシ環中のメチレンに対応する2.7ppm、2.9ppmがほとんど消失し、チイラン環中のメチレンに対応する2.3ppm、2.6ppmが見られたことで、グリシジル基からβ-エピスルフィドプロピル基にほぼ完全に変換されていることを確認した。また、この(A1)の融点は85℃であった。
【0021】
合成例2
合成例1において、ジクロロメタンによる塩の洗浄を省略した他は同様に行い、化合物(A2)を得た。得られたビススルフィド化合物(A2)100mgを重クロロホルム溶媒に溶解し、270MHzのプロトンNMR分析を行った。エポキシ環中のメチレンに対応する2.7ppm、2.9ppmとチイラン環中のメチレンに対応する2.3ppm、2.6ppmが見られたことで、グリシジル基とβ-エピスルフィドプロピル基の比が25対75であることを確認した。
【0022】
組成物並びに硬化物の物性測定は、以下の測定法で行った。
<液比重> 比重びんを用いて25℃にて測定を行った。
<硬化物比重> 25mm角×3mm厚みの硬化物を用いて、水中浮力法にて比重を求めた。
<硬化収縮率> 前記手法で求めた液比重(dL)並びに硬化物比重(ds)を用いて次式により算出した。
硬化収縮率(%)= 100×(ds−dL)/dL
<屈折率nD> 25℃で測定した。
<外観> 肉眼により曇りがないか観察した。
<吸水率1> 25mm角×3mm厚みの硬化物を用いて85℃、85RHにおける飽和吸水率を求めた。但し、後に述べるガラス転移温度Tgが110℃以下の硬化物については測定しなかった。
<吸水率2> 25mm角×3mm厚みの硬化物を用いて、121℃、100RH下で48時間保持したときの吸水率を求めた。ただし、後に述べるガラス転移温度Tgが130℃以下の硬化物については測定しなかった。
【0023】
<動的粘弾性測定によるガラス転移点Tg1> 5mm幅×15mm長さ×1mm厚みの硬化物を用いて、周波数1Hz引っ張りモードにおいて2℃/分の昇温で室温から250℃まで動的粘弾性測定を行い、tanδのピーク温度をTg1(℃)とした。
<熱量測定(DSC)によるガラス転移温度Tg2> 硬化物約20mgを用い、室温から250℃まで10℃/分の昇温に於いて熱流曲線の変極点よりガラス転移温度Tg2(℃)を求めた。また、いずれの硬化物に於いても変極点を1つしか観測されなかった。
<熱膨張係数> TMA装置を用いて、厚み3mmの硬化物に1g荷重をかけながら−30℃から100℃へ毎分10℃で昇温して求めた。
<誘電率、誘電正接> 厚み2mmの硬化物を作成し、JISK6911に従い、22℃にて周波数1kHzで測定した。
<赤外吸収(IR)スペクトル測定> ベンゼン環に起因する1510cm-1吸収ピークを基準にして、硬化前のエポキシ環915cm-1、チイラン環620cm-1の吸収ピークの強度比を1として、硬化後の吸収ピーク強度比より各反応基の残存率を推定した。吸収ピークがスペクトルのベースラインのばらつき以内であるときは、検出限度以下(*)、若干見られる場合はtrと表中に示した。
【0024】
実施例1
合成例1で得たエピスルフィド化合物(A1)50gとテトラ-n-ブチルアンモニウムクロライド(B1)1.5gとS-フェニルチオアセテート(C1)1.5gとを、100℃にて混合して目的の組成物を得た。これを、シリコンゴムシート型中をアルミ箔で被ったものを型として、これに前記の組成物を注型し、100℃にて1時間、160℃にて2時間加熱し、厚み1mm〜3mmの透明な成型体を得た。物性測定値を表1に示す。
【0025】
比較例1
実施例1において化合物(A1)の代わりに化合物(A2)を用いた他は実施例1と同様にして硬化物を調製した。
比較例2〜4
比較例2では、β-エピスルフィド化合物(A1)に代えてエピコート828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、 油化シェル製、エポキシ当量187)(D1)を、比較例3では化合物(A1)とエピコート828(D1)を同量混合した他は実施例1と同様にして硬化物を調製した。更に、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸硬化剤(D2)を使用してエピコート828(D1)を硬化したものを比較例4とした。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
実施例1は、いずれも吸水率1が1%未満、吸水率2が1.5%であり、またガラス転移温度Tg1、Tg2ともに120℃以上をを示した。それに対して、比較例1ではTg2が98℃と低下した。一方、比較例2では硬化物中にエポキシ基が多く残存して十分な硬化物が得られず、また比較例3においても同様でTg1は100℃未満であった。比較例4ではガラス転移温度は高いものの1%以上の吸水率を示した。
十分な硬化物の得られた実施例1と比較例1及び4の熱膨張係数を比較すると実施例1では44ppm/℃と低い値を示し、比較例では60ppm/℃以上であった。更に、ガラス転移温度Tg2が100℃以上となった実施例1と比較例4の誘電率を測定し、実施例の誘電率は3.4、誘電正接は0.006で、比較例4における3.3、0.005と差異はなく、電子機器向けの誘電特性として良好であった。比較例2及び3では十分な硬化物が得られなかったので熱膨張係数と誘電率の測定は行わなかった。
以上から、本発明の硬化物は、ガラス転移温度Tg1、Tg2共に100℃以上であり、吸水率1も1%未満、熱膨張係数も44ppm/℃と小さいことがわかり、電子部品用の被覆、封止、絶縁用途に適した特性を有していることが判明した。
【0028】
実施例2〜4
実施例1で用いた硬化触媒(B成分)をテトラ-n-ブチルアンモニウムクロライド(B1)から実施例2では1,8-ジアザビシクロ(5、4、0)ウンデセン-7(B2)に、実施例3ではトリフェニルホスフィン(B3)に代え、実施例4では開始剤(C成分)を(C1) から1,6-ヘキサンジチオール(C2)に代えた他は 実施例1と同様に行った。配合及び結果を表2に示す。いずれもガラス転移温度が100℃以上、吸水率1が1%未満を示した。
【0029】
【表2】
【0030】
実施例5〜12
表3に示す配合で硬化触媒(B成分)並びに開始剤(C成分)量を変えて各組成物を調製し、各20mgをアルミパン中に採取し、DSC測定装置内で空気中にて室温から250℃へ10℃/分で昇温し、硬化反応による吸熱ピークを観測した。触媒量が増加するにつれて発熱ピークは低温へシフトしていくが、いずれも80〜200℃の温度で硬化反応が開始し、硬化物を形成可能であることがわかった。また、100℃にて30分、160℃にて2時間加熱した硬化物のDSC測定を行ったところ、Tg2はいずれも100℃をこえる硬化物が形成されていることがわかった。また、DSC測定後の硬化物は250℃の熱履歴を受けるが、熱履歴後の硬化物の着色度合いを比較すると、テトラ-n-ブチルアンモニウムクロライド触媒(B1)の場合は、透明淡黄色でほとんど着色が見られなかったが、DBU(B2)、トリフェニルホスフィン(B3)の順に着色が強くなった。
【0031】
【表3】
【0032】
なお、表1〜3の略号は次のとおりである。
(A1):合成例1で得られたエピスルフィド化合物
(A2):合成例2で得られたエピスルフィド化合物
(B1):テトラ-n-ブチルアンモニウムクロライド
(B2):1,8−ジアザビシクロ(5、4、0)ウンデセン−7(DBU)
(B3):トリフェニルホスフィン
(C1):S−フェニルチオアセテート
(C2):1,6−ヘキサンジチオール
(D1):エピコート828
(D2):メチルヘキサヒドロ無水フタル酸
【0033】
【発明の効果】
本発明の熱硬化性樹脂硬化物は、ガラス転移温度が100℃以上であり、吸水率、熱膨張係数が小さいので、電子部品の被覆や封止、絶縁に適しており、これら電子部品の信頼性向上に寄与するものである。
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- 下記式(2)で表される芳香族エピスルフィド化合物(A成分)
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