JP4670078B2 - カルボニル化合物の製造方法及び芳香族カルボン酸の製造方法 - Google Patents

カルボニル化合物の製造方法及び芳香族カルボン酸の製造方法 Download PDF

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本発明は、ケトンやカルボン酸等のカルボニル化合物の製造方法に関する。
従来、ケトンやカルボン酸等のカルボニル化合物を製造する手段として、アルコールや芳香族アルカンを過マンガン酸カリウムやクロム酸や硝酸等の強力な無機酸化剤を用いて酸化する方法が知られている。しかし、この方法は反応収率が低く、原料の多くが無駄になるという問題がある。また、副生成物が大量に発生するため、酸化反応後にカルボニル化合物を分離する必要があり、さらには、大量の重金属廃棄物や廃酸が発生するため、これらによる環境汚染の防止対策も必要となる。
また、臭素や塩素を酸化剤として用い、これによりアルコールを酸化させてカルボニル化合物とする方法も知られている。しかし、この方法では、有害なガスである臭素や塩素をアルコールに対して当量以上に用いるため、危険性が高く、作業環境の保全に十分な注意が必要となる。また、ニッケル化合物やスズ化合物等の高価な原料が必要となり、ヘキサメチルホスホルアミド/塩基といった、複雑な反応系を用意しなければならいため、製造コストが高くなるという問題もある。
一方、光照射下において、酸素自体を酸化剤とするカルボニル化合物の製造方法も知られている。酸素自体を酸化剤とした場合、酸化剤の酸素が生成物に取り込まれるため、酸化剤から余分な生成物が生ずることがなくて、いわゆる原子効率が良く、原料の無駄が少ないという効果が期待できる。
例えば、非特許文献1において、発明者らは、光照射下においてN−ブロモコハク酸イミド(以下「NBS」と略す)を触媒として用いることにより、酸素の存在下でトルエンメチル基をカルボン酸基へ変換する反応を発表している。
Synthesis,2289(2003)
この方法では、NBSから発生した臭素ラジカルが触媒的に作用し、分子状酸素によるトルエンメチル基のカルボン酸への酸化を促進すると推定される。しかし、収率や反応速度を上げるためにはNBSを比較的多量に使用しなければならず、製造コストが高くなり、反応生成物として生成するN−サクシンイミドの後処理も問題となる。
また、発明者らは、4−tertブチルトルエンを基質とし、酢酸エチル中、触媒量のLiBr存在下、紫外線照射することにより、ベンジル位が酸化されて4−tertブチル安息香酸を与えることを見出した(非特許文献2参照)。
平成14年度日本薬学会東海支部例会講演要旨集 6頁(2002)
さらに発明者らは、脂肪族アルコールを基質とし、臭化アルカリ触媒を用いて光酸素酸化を行えば、対応する脂肪族カルボン酸を収率よく得ることができることを見出した(非特許文献3参照)。また、その反応を促進するための触媒として、メソポーラスシリカやゼオライトやイオン交換樹脂等を担体として用いることにより、収率が良くなることも見出している(非特許文献4参照)。
第29回反応と合成の進歩シンポジウム発表要旨集 162頁(2003) 第30回反応と合成の進歩シンポジウム講演要旨集 182頁(2004)
しかし、臭化アルカリを担体に担持させる場合には、メソポーラスシリカやゼオライトやイオン交換樹脂が必要となり、ひいては製造コストが高騰化することとなる。
また、芳香族アルカン類を臭化水素及び酸素の存在下で、光を照射することにより、ベンズアルデヒドやアセトフェノンが得られることも知られている(非特許文献5)。
Bull.Chem.Soc.Jpn.,63,944〜946(1990)
この方法によれば、担体は必要とされず、無駄となる原料もほとんどないという利点はあるが、収率が低いという問題がある。
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、酸化剤として分子状の酸素を用い、原料の無駄が少なくて廃棄物がほとんど発生せず、環境問題を引き起こすおそれが少なく、適用可能な基質が広範囲なカルボニル化合物の製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
発明者らは、上記課題を解決するために、様々な臭素化合物について、その光酸素酸化における触媒機能を調べた結果、臭素や臭化水素が優れた触媒機能を有していることを発見し、本発明を完成するに至った。
すなわち、第1発明のカルボニル化合物の製造方法は、基質としての第1アルコール、第2アルコール、アルデヒド又は芳香族アルカンに対し、金属元素を含有する触媒を使用することなく臭素の存在下で光を照射しながら酸素と接触させることを特徴とする。
第1発明のカルボニル化合物の製造方法では、臭素は触媒量であっても反応は収率よく進行し、酸素自身が酸化剤となって基質に取り込まれる。このため、副生成物はほとんど発生せず、目的とするカルボニウム化合物をアルカリ抽出や蒸留等の手段によって容易に分離することができる。また、余分な廃棄物もほとんど生じず、無駄となる原料もない。さらには、担体に担持させたりする必要もないため、触媒調製も極めて容易である。酸素を基質と接触させる方法については特に限定はないが、反応液を空気雰囲気下あるいは酸素雰囲気下で撹拌したり、空気や酸素を反応液中に吹き込ませたりすることが挙げられる。
第1発明のカルボニル化合物の製造方法において、基質として第1アルコール又はアルデヒドを用いた場合、相当するカルボン酸が得られる。また、第2アルコールを基質とすれば、相当するケトンが得られる。さらに、基質としてトルエンやキシレン等の芳香族アルカンを用いる場合には、芳香族カルボン酸が得られる。これらの反応の機構については、必ずしも明確ではないが、次のように考えられる(図1参照)。すなわち、光照射によって臭素から臭素ラジカルが発生し、その臭素ラジカルが基質における1位の水素を引抜いて臭化水素となり、新たなラジカルを発生させる。さらに、その新たなラジカルに酸素が付加してパーオキシラジカルとなり、さらには臭化水素から水素を引抜き、最終的にカルボン酸やケトンとなる。この製造方法において使用される反応溶媒としては、特に制限はないが、例えば酢酸エチル、アセトニトリル、酢酸等を用いることができる。
第1発明において、臭素は基質1molに対して0.00001〜0.5molの範囲が好ましく、さらに好ましくは0.001〜0.1molである。発明者らの試験結果によれば、基質に対する臭素の濃度がこの範囲において、特に反応収率が高く、好適である。
また、照射する光の種類については、紫外線や可視光を用いることができ、自然の太陽光や、キセノンランプ、水銀ランプ等の人口照明灯を用いることができる。光源として人工照明灯を用いれば、光の強さや照射時間等を容易に制御することができ、天候にも作用されないため好適である。
第2発明のカルボニル化合物の製造方法は、基質としての第1アルコール、第2アルコール又はアルデヒドに対し、金属元素を含有する触媒を使用することなく臭化水素の存在下で光を照射しながら酸素と接触させることを特徴とする。
発明者らの試験結果によれば、第1発明における臭素の替わりに、臭化水素を用いた第2発明であっても、触媒量の臭化水素で反応は収率よく進行し、酸素自身が酸化剤となって基質に取り込まれる。このため、副生成物はほとんど発生せず、目的とするカルボニウム化合物を蒸留等の手段によって容易に分離することができ、余分な廃棄物もほとんど生じず、無駄となる原料もない。また、担体に担持させたりする必要もないため、触媒調製も極めて容易である。さらに、臭化水素は水溶液として市販されており、臭素よりも取り扱いが容易であるという利点もある。この製造方法において、臭化水素は臭素ラジカルの源としての役割を果たし、上記第1発明の場合と同様に反応が進行するものと考えられる。
なお、臭化水素を触媒として用い、光照射下においてアルキルベンゼンの酸素酸化を行う反応は公知であるが、収率が極めて低い結果となっている(上記非特許文献5参照)。発明者らはこの反応を第1アルコール、第2アルコール又はアルデヒドの酸素酸化に適用し、収率が極めて良いことを発見したのである。
第2発明において、臭化水素は基質1molに対して0.00001〜0.5molとされていることが好ましい。基質に対する臭化水素の濃度が低すぎても高すぎても、反応の進行が遅くなる。
第3発明のカルボニル化合物の製造方法は、基質としての芳香族アルカンをニトリル溶媒、エステル溶媒、カルボン酸溶媒又はそれらの混合溶媒に溶解し、金属元素を含有する触媒を使用することなく臭化水素の存在下で光を照射しながら酸素と接触させることを特徴とする。
前述したように、非特許文献5には、芳香族アルカン類を臭化水素及び酸素の存在下で光を照射することにより、ベンズアルデヒドやアセトフェノンが得られることが記載しされている。しかし、芳香族カルボン酸はほとんど得られていない(非特許文献5 944ページ 下から10行目)。発明者らは、同様の反応を様々な溶媒の存在下で行った結果、溶媒としてニトリル溶媒やエステル溶媒やカルボン酸溶媒、又はそれらの混合溶媒を用いれば、芳香族アルカンが芳香族カルボン酸にまで酸化され、高収率で芳香族カルボン酸が得られることを見出し、第3発明を完成するに至った。ここで、ニトリル溶媒とは特に限定はないが、アセトニトリルやプロピオニトリル等が挙げられる。また、エステル溶媒についても特に限定はないが、酢酸エチル等が挙げられる。また、カルボン酸溶媒についても特に限定はないが、酢酸等が挙げられる。
以下本発明を具体化した実施例について詳述する。
<1−ドデカノールからドデカン酸の合成>
−触媒として臭素を使用した場合−
(実施例1)
パイレックス(登録商標)ガラス製の試験管に酢酸エチル(5ml)と1−ドデカノール(50mg,0.269mmol)を入れて溶解し、さらにBr2(1μL、1−ドデカノール1molに対して0.07mol相当)を入れる。図2に示すように、試験管1に酸素風船2を取り付け、マグネチックスターラー3で撹拌しながら太陽光を10時間照射する。その後、反応液をエバポレータにかけ、溶媒の酢酸エチルを留去する。残留物をエーテルに溶かして分液ロートに移し、チオ硫酸ナトリウムで洗浄後、水酸化ナトリウム水溶液によって抽出し、水層を分取する。水層を再び分液ロートに移し、塩酸酸性にした後、エーテルで抽出し、エバポレータによってエーテルを留去して、ドデカン酸(41.5mg 収率77%)を得た。
(実施例2)
実施例2では、酢酸エチル(30ml)+1−ドデカノール(1000mg、5.38mmol)の溶液に、Br2(10μL、1−ドデカノール1molに対して0.04mol相当)を加えた。他の条件は、実施例1と同様であり、説明を省略する。こうして、ドデカン酸(530mg、収率49%)を得た。
(実施例3)
実施例3では、光照射のための光源として400Wの高圧水銀ランプを使用した。他の条件は、実施例1と同様であり、説明を省略する。こうして、ドデカン酸(31.1mg、収率74%)を得た。
(実施例4)
実施例4では、アセトニトリル(5ml)+1−ドデカノール(50mg,0.269mmol)の溶液に、Br2(1μL、1−ドデカノール1molに対して0.07mol相当)を加えた。他の条件は、実施例3と同様であり説明を省略する。こうして、ドデカン酸を収率74%で得た。
(実施例5)
実施例5では、1−ドデカノール1molに対してBr2を0.007mol使用した。他の条件は実施例4と同様であり、説明を省略する。こうして、ドデカン酸を収率45%で得た。
(実施例6)
実施例6では、1−ドデカノール1molに対してBr2を0.35mol使用した。他の条件は実施例4と同様であり、説明を省略する。こうして、ドデカン酸を収率9%で得た。
(実施例7)
実施例6では、1−ドデカノール1molに対してBr2を0.001mol使用した。他の条件は実施例4と同様であり、説明を省略する。こうして、ドデカン酸を収率18%で得た。
−触媒として臭化水素を使用した場合−
(実施例8)
実施例8では、触媒としてHBrを用いた。すなわち、アセトニトリル(5ml)+1−ドデカノール(50mg,0、269mmol)の溶液に、HBr水溶液を1−ドデカノール1molに対して0.07mol相当加えた。他の条件は、実施例3と同様であり説明を省略する。こうして、ドデカン酸を収率70%で得た。
(比較例1)
比較例1では、触媒としてNBSを用いた。すなわち、アセトニトリル(5ml)+1−ドデカノール(50mg,0、269mmol)の溶液に、NBSを1−ドデカノール1molに対して0.07mol相当加えた。他の条件は、実施例3と同様であり説明を省略する。こうして、ドデカン酸を収率52%で得た。
(結果)
上記実施例1〜8及び比較例1についての結果を表1に示す。
Figure 0004670078
表1の実施例1〜7に示すように、触媒として臭素を用い、太陽光や高圧水銀ランプを用いて可視光や紫外線を照射することにより、1−ドデカノールからドデカン酸へ酸素酸化が進行することが分かる。また、1−ドデカノールに対する臭素の量を0.001molと少なくした実施例7や、0.35molと多くした実施例6では、収率が悪くなった。また、実施例8のように、触媒としてHBrを用いても、同様に酸素酸化反応が進行することが分かる。
<4−tertブチルトルエンから4−tertブチル安息香酸の合成>
−触媒として臭素を使用した場合−
(実施例9)
実施例9では、パイレックス(登録商標)ガラス製の試験管に基質としての4−tertブチルトルエン(39.9mg,0.269mmol)と酢酸エチル(5ml)とを入れて溶解させ、さらにBr2(1μL、4−tertブチルトルエン1molに対して0.07mol相当)を入れ、太陽光を照射することによって酸素酸化反応を起こさせた。操作手順及び生成物の分離方法は実施例1と同様であり、説明を省略する。こうして、4−tertブチル安息香酸を収率63%で得た。
(実施例10)
実施例10では、光照射のための光源として400Wの高圧水銀ランプを使用した。他の条件は実施例9と同様であり、説明を省略する。こうして、4−tertブチル安息香酸を収率99%で得た。
(結果)
上記実施例9及び10についての結果を表2に示す。
Figure 0004670078
表2に示すように、基質として芳香族アルカンを用い、臭素を触媒とした場合には、太陽光や高圧水銀ランプを用いて可視光や紫外線を照射することにより、芳香族カルボン酸が収率よく得られることが分かる。
−触媒として臭化水素を使用した場合−
(実施例11)
実施例11では、触媒としてHBrを用いた。すなわち、酢酸エチル(5ml)+4−tertブチルトルエン(39.9mg,0.269mmol)の溶液に、HBr水溶液を1−ドデカノール1molに対して0.07mol相当加えた。他の条件は、実施例10と同様であり説明を省略する。こうして、4−tertブチル安息香酸を収率68%で得た。
(実施例12)
実施例12では、溶媒としてアセトニトリルを5ml用いた。他の条件は実施例11と同様であり、説明を省略する。こうして、4−tertブチル安息香酸を収率62%で得た。
(実施例13)
実施例13では、溶媒として酢酸を5ml用いた。他の条件は実施例11と同様であり、説明を省略する。こうして、4−tertブチル安息香酸を収率45%で得た。
(結果)
上記実施例11〜13についての結果を表3に示す。
Figure 0004670078
表3に示すように、基質として芳香族アルカンを用い、臭化水素を触媒とした場合には、光の照射によって、芳香族カルボン酸が収率よく得られることが分かる。
<2−ドデカノールから2−ドデカノンの合成>
(実施例14)
パイレックス(登録商標)ガラス製の試験管にアセトニトリル(5ml)と2−ドデカノール(50mg,0.269mmol)を入れて溶解し、さらにBr2(1μL、1−ドデカノール1molに対して0.07mol相当)を入れる。そして、実施例1と同様の操作を行い、400Wの高圧水銀ランプによる紫外線照射を6時間行う。その後、反応液の溶媒をエバポレータによって減圧下で留去し、粗生成物を分取用薄層クロマトグラフィーで精製し(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=5:1)、ドデカン−2−オンを31.9mg(収率64%)で得た。
<n−ドデカナールからドデカン酸の合成>
(実施例15)
パイレックス(登録商標)ガラス製の試験管にアセトニトリル(5ml)とn−ドデカナール(49.6mg,0.269mmol)を入れて溶解し、さらにBr2(1μL、n−ドデカナール1molに対して0.07mol相当)を入れた後、400Wの高圧水銀ランプによる紫外線照射を10時間行う。その後、実施例3と同様の抽出操作を行い、ドデカン酸を収率82%で得た。
本発明のカルボニル化合物の製造方法によってカルボン酸やケトンを製造すれば、原料の無駄が少なくて廃棄物がほとんど発生せず、環境問題を引き起こすおそれが少なく、広範な化合物を基質として利用することができる。
臭素を触媒として光酸素酸化を行った場合の反応機構を示す図である。 実施例及び比較例で用いた反応装置の模式図である。
符号の説明
1…試験管
2…酸素風船
3…マグネチックスターラ

Claims (6)

  1. 基質としての第1アルコール、第2アルコール、アルデヒド又は芳香族アルカンに対し、金属元素を含有する触媒を使用することなく臭素の存在下で光を照射しながら酸素と接触させることを特徴とするカルボニル化合物の製造方法。
  2. 臭素は基質1molに対して0.00001〜0.5molとされていることを特徴とする請求項1記載のカルボニル化合物の製造方法。
  3. 紫外線や可視光を照射できる人工照明灯によって光を照射することを特徴とする請求項1又は2記載のカルボニル化合物の製造方法。
  4. 基質としての第1アルコール、第2アルコール又はアルデヒドに対し、金属元素を含有する触媒を使用することなく臭化水素の存在下で光を照射しながら酸素と接触させることを特徴とするカルボニル化合物の製造方法。
  5. 臭化水素は基質1molに対して0.00001〜0.5molとされていることを特徴とする請求項4記載のカルボニル化合物の製造方法。
  6. 基質としての芳香族アルカンをニトリル溶媒、エステル溶媒、カルボン酸溶媒又はそれらの混合溶媒に溶解し、金属元素を含有する触媒を使用することなく臭化水素の存在下で光を照射しながら酸素と接触させることを特徴とする芳香族カルボン酸の製造方法。
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