JP4665184B2 - セルロース固体培地とその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、微生物等の培養に用いる固体培地とその製造方法に関し、特に培地固化成分としてセルロースゲルを用いた固体培地とその製造方法に関する発明である。
微生物の培養方法としては、液体培地による方法と固体培地による方法がある。液体培地を用いる方法では、菌の生育が脆弱であったり、変異株が取得できない、或いは純度の低い菌しか単離することができないなどといった問題があった。一方、固体培地を用いる方法は、このような問題が少なく、明暸に分離したコロニーが形成されるため、微生物の単離とその純粋培養方法として優れており、古くから使用されている。この固体培地の固化成分としてはコッホの時代にさかのぼる古くから、寒天ゲルが使用されている。寒天ゲルは、例えば、「新生化学実験講座17」(日本生化学会偏、1992年、東京化学同人社発行)の15−20頁に記載されているように、細菌の生育する広い温度範囲で硬く透明な固体であり、寒天を分解できる微生物はごく限られたものしかなく、液化が問題となることがほとんどないなどの優れた性質を有するため、培地固化剤として非常に優れたものであり、現在までこれに代わる優れた培地固化剤は見出されていないと言っても過言ではない。
しかしながら、このような寒天ゲルも温度、pH或いは塩濃度などの条件によっては、軟化したり溶解してしまうため、培地固化成分として使用できる範囲には一定の制限があった。時に、近年になり、新たな有用微生物を探索するために、より広い範囲の温度,pH、塩濃度などの培養条件下での微生物の培養が必要となり、このようなより広い範囲の培養条件下で使用可能な培地固化成分の開発が望まれている。例えば、今までに121℃という高温で生育可能な超好熱菌が見つかっており、このような超好熱菌の産生する酵素は、工業的に有用であると考えられるが、そのような微生物が増殖する温度は、寒天の軟化温度以上であるため固体培養ができず、もっぱら液体培養によって生産されている。しかし、液体培養では、既に述べたように、生育が脆弱であり、変異株が取得できない、単離された菌の純度が低いなど、固体培養と比べて著しい制限を受けることとなる。
従って、より幅広い培養条件下でも使用可能な培地固化成分を開発する試みが種々なされており、例えばジェランガムを培地固化成分として使う方法(例えば、Shungu,D.,Valiant,M.,Tutlane,V.,Weniberg,E.,Weissberger,B.,Koupal,L.,Gadebusch,H.,and Stapley,E.,”Appl.Environ.Microbial.”,1983,46,840−845.を参照)、培地を含有したシリカゲルプレート上で培養を行う方法(例えば、新生化学実験講座17、15−20頁、日本生化学会偏、1992年東京化学同人社発行を参照)などがある。しかしながら、ジェランガムを用いる方法では、培地中のカチオン(金属性陽イオン)が不足すると固まらない、或いは酸性度が増すと固まりにくくなる等の問題がある。また、シリカゲルプレートを使う方法では、アルカリ条件下での使用が困難であり、かつ保水性が悪く、プレート表面が乾燥しやすく、微生物の生育に悪影響を与えるという問題がある。つまり、幅広い温度、pH、塩濃度などの培養条件で十分に満足して利用可能な固体培地は依然として未開発であると言わざるを得ない。
本発明は、以上のような、温度、pH或いは塩濃度などの条件によっては使用することができない寒天培地などの従来の固体培地の問題点を解決し、より広い範囲の培養条件下で使用することができる固体培地とその製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、以上のような従来の固体培地の問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、培地固化成分としてセルロースゲルを用いることによってこれらの課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、以下の内容をその要旨とするものである。
(1)培地固化成分としてセルロースゲルを含む固体培地。
(2)セルロースゲルの結晶化度が5〜70%であることを特徴とする、前記(1)記載の固体培地。
(3)用いるセルロースの分子量が10,000〜2,000,000であることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の固体培地。
(4)セルロースゲルが、セルロースを骨格部分とし、セルロース濃度が0.01%以上である多孔質のセルロースゲル構造体であることを特徴とする、前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の固体培地。
(5)セルロースゲルが、空隙率が50%以上の多孔質ゲル状構造体であることを特徴とする、前記(1)ないし(4)のいずれかに記載の固体培地。
(6)セルロースゲルが、セルロースをチオシアン酸塩水溶液中で加熱・溶解し、次いで冷却して得られる多孔質のゲル状材料であることを特徴とする、前記(1)ないし(5)のいずれかに記載の固体培地。
(7)溶媒に分散したセルロースを、機械的混合及び/又は加熱によって溶解又は膨潤させ、次いで冷却及び/又は溶媒の除去により固化させた後、これに栄養素成分を浸透させることを特徴とする、セルロースゲル固体培地の製造方法。
(8)溶媒に分散したセルロースを加熱することにより溶解し、次いで冷却して固化させ、溶媒成分を除去した後、栄養素成分を浸透させることを特徴とする、前記(7)に記載のセルロースゲル固体培地の製造方法。
(9)溶媒がチオシアン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液であることを特徴とする、前記(7)または(8)に記載のセルロースゲル固体培地の製造方法。
(10)溶媒がチオシアン酸カルシウムの水溶液であることを特徴とする、前記(7)ないし(9)のいずれかに記載のセルロースゲル固体培地の製造方法。
(11)溶媒がチオシアン酸カルシウムの飽和水溶液で、加熱温度が70〜200℃であることを特徴とする、前記(7)ないし(10)のいずれかに記載のセルロースゲル固体培地の製造方法。
(12)培地固化成分としてセルロースゲルを用いた固体培地の表面で微生物または細胞を培養することを特徴とする、微生物または細胞の培養方法。
(13)セルロースゲルを用いた固体培地で培養する微生物が極限環境微生物であることを特徴とする、前記(12)に記載の微生物の培養方法。
このような培地固化成分としてセルロースゲルを用いた本発明の固体培地は、高い温度や広いpH範囲、或いは広い塩濃度の範囲で安定な諸性質と形状を保持しており、良好な性質を有する固体培地が得られ、広範囲の培養条件下で軟化したり溶解することがなく使用することができる固体培地である。したがって、従来の代表的な固体培地である寒天を用いた固体培地では不可能であった、100℃を超える高い温度や、pHが3以下或いは10以上という厳しい条件でも微生物等の培養が可能となる。
第1図は、本発明の固体培地に使用するセルロースゲルの表面状態を示す倍率10,000倍の走査型電子顕微鏡写真であり、第2図は、本発明の固体培地に使用するセルロースゲルの表面状態を示す倍率100,000倍の走査型電子顕微鏡写真である。
本発明で使用するセルロースゲルを得るためのセルロースは、植物あるいは微生物によって生産されるグルコースがβ−1−4グルコシド結合を介して直鎖状に結合した多糖類またはその種々の誘導体である。本発明のセルロースゲルを得るためのセルロース誘導体としては、分岐を持つものや、硝酸エステル、リン酸エステル、キサントゲン酸塩、亜硝酸エステル、硝酸エステル、硫酸エステル、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、吉草酸エステル、酢酸プロピオン酸エステル、酢酸酪酸エステル、トリフルオロ酢酸エステル、安息香酸エステル、トシルエステル、フェニルカルバニレート、アルキルケテンダイマーエステル、アルケニル無水コハク酸エステル等のエステル化誘導体;カルボキチメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルセルロース、ジエチルアミノエチルエチルセルロース、トリメチルアンモノイルヒドロキシプロピルセルロース、トリフェニルメチルセルロース等のエーテル化誘導体;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などを導入したハロゲン化誘導体;アミノ基を導入した誘導体、チオール基を導入した誘導体、高分子をグラフトした誘導体、ポリウロン酸型の酸化物誘導体等のセルロース誘導体であってもよい。またセルロースゲルを得た後に、化学修飾を施したものでもよい。これらのセルロースまたはその誘導体は、その分子量が10,000〜2,000,000のものが好ましく、特に、分子量が10,000〜100,000のα−セルロースが望ましい。
本発明で使用するセルロースゲルは、上記のようなセルロースまたはその誘導体を、溶媒に溶解または膨潤させ、次いで再結晶化または固化させることによって得ることができる。
セルロース類の溶媒への溶解は、セルロース分子の大きさ、セルロース分子中の水酸基やピラノース環の酸素原子の作用等が複雑に影響する。本発明で使用するセルロースゲルは、溶媒中にセルロース類を分散・混合し、必要に応じて加熱して溶解または膨潤させ、その後、必要に応じて冷却して固化させ、溶媒を除去して得ることができる。
このセルロースまたはその誘導体を溶解する溶媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸水溶液;水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液;塩化亜鉛、チオシアン酸塩、液体アンモニア/チオシアン酸塩、液体アンモニア/ナトリウム、液体アンモニア/ヨウ化アンモニウム、ヒドラジン等の無機化合物の水溶液;[Cu(NH](OH)、[Cu(エチレンジアミン)](OH)、[Co(エチレンジアミン)](OH)、[Ni(NH](OH)、[Ni(エチレンジアミン)](OH)、[Cd(エチレンジアミン)](OH)、[Zn(エチレンジアミン)](OH)、Fe:酒石酸:NaOH等の金属錯体溶液;ジメチルスルホキシド/ホルムアルデヒド、N,N−ジメチルホルムアミド/ホルムアルデヒド、N,N−ジメチルアセトアミド/ホルムアルデヒド、ジメチルスルホキシド/クロラール、N,N−ジメチルホルムアミド/クロラール、N,N−ジメチルアセトアミド/クロラール、ジメチルスルホキシド/クロラール/ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド/クロラール/ピリジン、N,N−ジメチルアセトアミド/クロラール/ピリジン、ジメチルスルホキシド/クロラール/トリエチルアミン、N,N−ジメチルホルムアミド/クロラール/トリエチルアミン、N,N−ジメチルアセトアミド/クロラール/トリエチルアミン、ジメチルスルホキシド/無水亜硫酸/ジエチルアミン、N,N−ジメチルホルムアミド/無水亜硫酸/ジエチルアミン、ジメチルスルホキシド/無水亜硫酸/トリエチルアミン、N,N−ジメチルホルムアミド/無水亜硫酸/トリエチルアミン、ジメチルスルホキシド/無水亜硫酸/ピペリジン、N,N−ジメチルホルムアミド/無水亜硫酸/ピペリジン、ジメチルスルホキシド/無水亜硫酸/イソアミルアミン、N,N−ジメチルホルムアミド/無水亜硫酸/イソアミルアミン、ジメチルスルホキシド/N、N,N−ジメチルホルムアミド/N、ジメチルスルホキシド/NOCl、N,N−ジメチルホルムアミド/NOCl、ジメチルスルホキシド/NOSOH、N,N−ジメチルホルムアミド/NOSOH、N,N−ジメチルアセトアミド/塩化リチウム、N−メチル−2−ピロリドン/塩化リチウム、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン/塩化リチウム、N,N−ジメチルアセトアミド/臭化リチウム、N−メチル−2−ピロリドン/臭化リチウム、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン/臭化リチウム、トリフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸/クロロホルム、トリフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸/酢酸、N−メチルモルフォリン−N−オキシド含水塩、N−メチルモルフォリン−N−オキシド含水塩/ジメチルスルホキシド、N−アルキルピリジウムハロゲン類等の有機溶媒から選ばれる1種又は2種以上の混合物などを使用することができる。
これらの中でも、チオシアン酸塩水溶液を溶媒として使用すると、セルロースを膨潤させてセルロースの結晶面の面間隔を増大させ、さらに加熱することによって溶解し、次いでこれを冷却すると固化してゲル状となり、本発明の固体培地に適した多孔質のゲル状構造体を形成するので、溶媒として最も好ましいものである。このようなチオシアン酸塩としては、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム等のチオシアン酸アルカリ金属塩、及びチオシアン酸カルシウム、チオシアン酸マグネシウム等のチオシアン酸アルカリ土類金属塩が好ましい。特に、チオシアン酸カルシウムを質量濃度で40%以上含むチオシアン酸カルシウム水溶液、またはチオシアン酸ナトリウムを質量濃度で50%以上含むチオシアン酸ナトリウム水溶液が好ましく、チオシアン酸カルシウムの飽和水溶液が最も望ましい。
また、ここで使う水としては、超純水、蒸留水、脱イオン水など精製水が使用されるが、水道水であってもよい。
セルロース溶解用の溶媒中へのセルロースの添加量は特に制限されないが、溶解するセルロースの分子量等によってその量を調整する。一般的に、溶媒に対して0.01質量%以上、好ましくは0.01〜20質量%程度にするのが、操作の容易さの点で望ましい。溶媒中への分散方法は、特に制限はなく通常行なわれる種々の方法で溶媒中に分散すればよく、セルロースを溶媒に添加した後、単に撹拌する程度でもよい。本発明のセルロースゲルを得るには、セルロースを溶媒中に分散・混合して、必要に応じてさらに加熱して、セルロースを膨潤させ、更に溶解させる。次いで、膨潤し、又は溶解したセルロース溶液を、必要に応じて冷却して、固化させ、溶媒を除去して、本発明に使用するに適した多孔質のセルロースゲルを形成させる。この際、セルロースは、溶媒に対してその溶解度以上の量を添加してもよい。この場合は、加熱後であってもセルロースの一部が溶解しない状態のままで冷却固化されることとなるが、このようにして得られたセルロースゲルも多孔質のゲル状を示し、本発明の固体培地に好適に使用することができる。
溶媒としてチオシアン酸塩を使用する場合には、セルロースは溶媒中で70℃以上に加熱してセルロースを膨潤させ溶解させることが好ましく、更には80〜200℃に加熱して溶解することがより好ましい。加熱手段は特に制限されないが、通常はオートクレーブやマイクロ波を使用して加熱するのが製造効率の面で望ましい。例えば、セルロースとして市販の微結晶セルロースを、溶媒としてチオシアン酸カルシウムの飽和水溶液を使用した場合、95℃では約1分間の加熱でセルロースを溶解することができる。
次に、ゲル化したセルロースゲルから、セルロースの溶媒成分を洗浄して除去する。この溶媒がチオシアン酸塩の場合には、セルロースゲルの洗浄に用いる洗浄溶媒は、チオシアン酸塩を溶解するものであればよく、水や極性有機溶媒が挙げられる。このような洗浄溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、アセトンの群から選ばれる1種または2種以上の混合物を用いるのが望ましい。ここで使う水は超純水、蒸留水、脱イオン水等精製水が使用されるが、水道水でもよい。洗浄方法は、特に制限されないが、流水中に浸漬したり、洗浄水を入れた容器中に浸漬し、洗浄水を適宜交換する方法などによって行なう。洗浄に際して電気透析を使用することが洗浄効率の面から望ましい。また、セルロースゲルの洗浄度は、洗浄液の電気伝導度を測定することによって確認することができる。
得られるセルロースゲルの結晶化度は5〜70%であり、特に30〜50%であるのが望ましい。また、セルロースゲルに用いるセルロースの分子量は10,000〜2,000,000であり、10,000〜100,000のものが好ましい。
このようにして得られたセルロースゲルは、図1および図2に示すようにセルロースを骨格部分とし、ゲル中のセルロース濃度が0.01%以上の非常に大きい空隙を有する多孔質のセルロースゲル構造体である。このような多孔質のセルロースゲル構造体の空隙率は50%以上であり、更には空隙率が80〜99.99%のものを用いることがより好ましい。このようなセルロースゲルに様々な栄養素成分を含んだ培地を接触させると、この培地が固体のセルロースゲルの内部の空隙部分に効率よく浸透して栄養素成分を取り込み、固体培地を形成することができる。
本発明のセルロースゲル固体培地は、従来の寒天培地に用いられる種々の培地がそのまま使用することができる。例えば、天然培地としては、肉汁、ペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、血清などの天然物を主成分として含む天然培地や、市販の合成培地等を使用することができる。これらの培地を前記セルロースゲルに接触させることによって、これらの栄養素を含んだセルロースゲル固体培地とすることができる。
本発明のセルロースゲル固体培地は、その形状は特に制限されず、平板、斜面、高層培地などとして用いることができる。
得られた本発明のセルロースゲル固体培地は、低い温度からかなり高温まで、また広いpH範囲にわたってその性質が安定しており、高い温度に加熱しても軟化したり溶解することがなく、安定してその形状を保持し、かつ保水性も良好で乾燥しにくく、優れた固体培地として使用することができる。具体的には−20℃から250℃の温度範囲で使用することが可能であるが、0℃〜150℃の温度範囲での使用が好ましい。また、本発明のセルロースゲル固体培地は、pHが1〜14という広い範囲で安定して使用することができるが、pHが2〜12の範囲での使用が好ましい。さらに、本発明のセルロースゲル固体培地は、浸透させる培地の塩濃度には影響されず安定にその形状を保持しながら、任意の濃度の塩類を吸収して培地として使用することができる。
かくして製造されたセルロースゲルを用いた本発明の固体培地は、温度やpHについて幅広い培養条件下で使用可能であり、多くの種類の微生物や細胞の培養などの用途に幅広く使用することができる。
この本発明のセルロースゲルを用いた固体培地上で培養するのに適した微生物としては、例えば、セルラーゼ産生菌、キシラナーゼ産生菌、キチナーゼ産生菌、アミラーゼ産生菌、マンナナーゼ産生菌、マンノシダーゼ産生菌、アガラーゼ産生菌、プルラナーゼ産生菌、グルカナーゼ産生菌、ペクチナーゼ産生菌、ガラクトシダーゼ産生菌、アルギナーゼ産生菌、シクロデキストリン合成酵素産生菌、プロテアーゼ産生菌、リパーゼ産生菌、カタラーゼ産生菌、ポリアミンオキシダーゼ産生菌、RNase産生菌、DNase産生菌、DNAポリメラーゼ産生菌などが挙げられる。
また、本発明のセルロースゲルを用いた固体培地の特性を生かして、好熱菌、好冷菌、好アルカリ性菌、好酸性菌、好塩菌、好圧菌、有機溶媒耐性菌などの極限環境微生物を効率よく培養することができる。例えば、80℃を超える高温で生育する超好熱菌や、pHが2以下のような高酸性で生育する好酸性菌あるいはpHが12以上の高アルカリ性で生育する好アルカリ性菌のような極限環境条件での微生物の培養に有用に使用することができる。
次に、本発明を実施例によって更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中で「%」は特に異なる注記をしない限り質量基準である。
以下の実施例において、微生物の培養に用いた各培地は下記のようにして調製したものを用いた。
(A)LB培地(pH7):
トリプトン10g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム10gを1リットルの蒸留水に溶解し、これを水酸化ナトリウムにてpHを7に調整し、加熱滅菌して調製した。
(B)LB培地(pH2):
トリプトン10g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム10gを1リットルの蒸留水に溶解し、これを硫酸にてpHを2に調整し、加熱滅菌して調製した。
(C)LB培地(pH4.5):
トリプトン10g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム10gを1リットルの蒸留水に溶解し、これを硫酸にてpHを4.5に調整し、加熱滅菌して調製した。
(D)LB培地(pH9.5):
トリプトン10g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム10gを1リットルの蒸留水に溶解し、これを水酸化ナトリウムにてpHを9.5に調整し、加熱滅菌して調製した。
(E)LB培地(pH12):
トリプトン10g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム10gを1リットルの蒸留水に溶解し、これを水酸化ナトリウムにてpHを12に調整し、加熱滅菌して調製した。
(F)TSB培地:
TSB(trypticase soy broth)の30gを1リットルの蒸留水に溶解した後、加熱滅菌して調製した。
(G)TSB/炭酸ナトリウム培地:
TSB(trypticase soy broth)の30gと、別途滅菌した炭酸ナトリウム5g(対蒸留水0.5%)を1リットルの蒸留水に溶解した後、加熱滅菌して調製した。
(H)TSB培地(pH5.6):
TSB(trypticase soy broth)の30gを1リットルの蒸留水に溶解し、加熱滅菌した後、塩酸にてpHを5.6に調整して調製した。
(I)YPD培地:
酵母エキス10g、バクトペプトン20g、グルコース20gを1リットルの蒸留水に溶解し、加熱滅菌して調製した。
(J)HORIKOSHI−II培地:
可溶性でんぷん10g、ポリペプトン5g、酵母エキス5g、リン酸水素二カリウム1g、硫酸マグネシウム七水和物0.2gを0.8mLの蒸留水に溶解した後、水酸化ナトリウム水溶液でpH7.5に調整した。別途10%炭酸水素ナトリウム水溶液を0.2リットル調製した。これらを加熱滅菌した後、混合して調製した。
(K)BA培地:
酵母エキス1g、硫酸アンモニウム0.2g、硫酸マグネシウム七水和物0.5g、塩化カルシウム二水和物0.25g、およびリン酸二水素カリウム0.6gを0.5リットルの蒸留水に溶解後、pHを硫酸で3に調整した。グルコース1gを0.5リットルの蒸留水に溶解した。これらを加熱滅菌した後、混合し1リットルとした。
(L)SULFOLOBUS培地:
酵母エキス1g、硫酸アンモニウ厶1.3g、リン酸二水素カリウム0.28g、硫酸マグネシウム七水和物0.25tg、塩化カルシウム二水和物0.07g、塩化鉄(III)六水和物0.02g、塩化マンガン四水和物1.8mg、四ホウ酸ナトリウム4.5mg、硫酸亜鉛七水和物0.22mg、塩化銅(II)二水和物0.05mg、モリブテン酸ナトリウム0.03mg、酸化硫酸バナジウム(IV)二水和物0.03mg、塩化コバルト(II)六水和物0.01mgを1リットルの蒸留水に溶解した後、pHを硫酸でpH2に調整し、濾過滅菌して調製した。
(M)Nutrient培地(pH7):
Nutrient broth (DIFCO製)の8gを1リットルの蒸留水に溶解し、加熱滅菌して調製した。
(N)Nutrient培地(pH2):
Nutrient broth(DIFCO製)の8gを1リットルの蒸留水に溶解し、加熱滅菌後硫酸を用いてpH2に調整したものを用いた。
(O)Nutrient培地(pH9.5):
Nutrient broth(DIFCO製)の8gを1リットルの蒸留水に溶解し加熱滅菌後、別途滅菌した10%炭酸ナトリウム水溶液と1N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH9.5に調整した後、1リットルにメスアップした。
(P)Nutrient培地(pH12):
Nutrient broth(DIFCO製)の8gを1リットルの蒸留水に溶解し加熱滅菌後、別途滅菌した10%炭酸ナトリウム水溶液と1N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH12に調整した後、1リットルにメスアップした。
(Q)SCD培地(pH7):
カゼイン製ペプトン15g、大豆製ペプトン5g、塩化ナトリウム5gを1リットルの蒸留水に溶解し、加熱滅菌して用いた。(pH未調整でpH6.9)
(R)SCD培地(pH2):
カゼイン製ペプトン15g、大豆製ペプトン5g、塩化ナトリウム5gを1リットルの蒸留水に溶解し、加熱滅菌後硫酸を用いてpH2に調整したものを用いた。
(S)SCD培地(pH4.5):
カゼイン製ペプトン15g、大豆製ペプトン5g、塩化ナトリウム5gを1リットルの蒸留水に溶解し、加熱滅菌後硫酸を用いてpH4.5に調整したものを用いた。
(T)SCD培地(pH12)
カゼイン製ペプトン15g、大豆製ペプトン5g、塩化ナトリウム5gを0.8リットルの蒸留水に溶解し、加熱滅菌後、別途滅菌した10%炭酸ナトリウム水溶液と1N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH12調整した後、1リットルにメスアップした。
(U)TM培地:
硫酸0.5ミリリットル、硫酸マンガン(II)五水和物2.2g、硫酸亜鉛七水和物0.5g、ホウ酸0.5g、硫化銅0.016g、モリブテン(IV)酸二ナトリウム二水和物0.025g、塩化コバルト(II)六水和物0.046gを蒸留水1リットルで溶解し、Nitsch’s trace elementsとした。
ニトリロ三酢酸1g、硫酸カルシウム二水和物0.6g、硫酸マグネシウム七水和物1g、塩化ナトリウム0.08g、硝酸カリウム1.03g、硝酸ナトリウム6.89g、リン酸水素二ナトリウム1.11g、0.03%塩化鉄(III)水溶液10mL、Nitsch’s trace elements 10mLを1リットルの蒸留水に溶解した後、水酸化ナトリウム水溶液にてpHを8.2に調整して調製し、Castenholz basal salt solutionとした。
ポリペプトン4g、酵母エキス2g、塩化ナトリウム1g、Castenholz basal salt solution10mLを加え、1リットルの蒸留水に溶解した後、水酸化ナトリウム水溶液にてpH7.2に調整後、加熱滅菌して調製した。
(i)セルロースゲルの調製
結晶性セルロース(フナセル、フナコシ製)を、チオシアン酸カルシウム四水和物(和光純薬製)の飽和水溶液(59%)に3%の濃度になるように加え、室温で1時間撹拌して、セルロース分散液を得た。セルロース分散液20mLをガラス製シャーレ(外径90mm、深さ17mm)に分注した後、これをオートクレーブ(トミー精工製、KS−243)内に設置して120℃で1分間加熱し、セルロースを加熱溶解した。このセルロース溶液を一晩室温で放冷し、固化させた。次いで、メタノール、続いて流水で固化したセルロースのチオシアン酸カルシウムを洗浄後、蒸留水5Lを含む水槽中で、軽く撹拌しながら洗浄を続けた。1日に2度の頻度で水を交換しながら、洗浄液の電気伝導度が5μS/cm以下になった時点で洗浄を終了し、セルロースゲルを得た。
図1および図2に、このようにして得たセルロースゲルの走査型電子顕微鏡写真を示す。図1が10,000倍、図2が100,000倍の写真であり、これからこのセルロースゲルがセルロースを骨格部分とした網目構造の、大きな空隙を有する多孔質の構造体であることがわかった。
このセルロースゲルは、オートクレーブ内で120℃で、9時間の間加熱滅菌してもその形状に軟化や溶融等の変化は全く見られず、優れた熱安定性を有することがわかった。
比較のために、寒天を培地固化成分として用いた固体培地で同様の加熱試験を行なったところ、オートクレーブで120℃、15分間の加熱滅菌によって固体培地が溶解した。 また、同様にジェランガムを培地固化成分として用いた固体培地では、オートクレーブで120℃、15分間の加熱滅菌によって溶解した。
(ii)セルロース固体培地の調製
上記の(i)で得られたセルロースゲルを加熱滅菌した後、2倍濃度のLB培地(pH7)の20mLを重層し、軽く撹拌しながら4時間放置した後、過剰の培地を除去して、LB(pH7)セルロース培地を得た。同様にしてLB培地(pH7)の代わりに、LB培地(pH2)、LB(pH4.5)培地、LB(pH9.5)培地、LB培地(pH12)、Nutrient(pH7)培地、Nutrient(pH2)培地、Nutrient(pH12)培地、SCD(pH4.5)培地、SCD(pH7)培地、SCD(pH2)培地、SCD(pH12)培地を用いて、それぞれLB(pH2)セルロース培地、LB(pH4.5)セルロース培地、LB(pH9.5)セルロース培地、LB(pH12)セルロース培地、Nutrient(pH7)セルロース培地、Nutrient(pH2)セルロース培地、Nutrient(pH12)セルロース培地、SCD(pH7)セルロース培地、SCD(pH2)セルロース培地、SCD(pH4.5)セルロース培地、SCD(pH12)セルロース培地を得た。
このようにして得た種々のセルロース培地をそれぞれ含むシャーレをビニールテープで密封し、それぞれを60℃、70℃、80℃に保ったインキュベーター中に放置した。放置時間の経過とともにセルロース固体培地の状態を目視観察した。その結果は、表1に示すように、これらの条件下では7日が経過しても、セルロース固体培地はすべての温度とpHの条件で軟化・溶解することなく安定にその状態と形状を保持しており、固体培養に使用可能であった。
比較例1:
上記実施例1の(ii)と同様にして、培地固化成分としてセルロースゲルの代わりに寒天を用いて、LB(pH7)寒天培地、LB(pH2)寒天培地、LB(pH4.5)寒天培地、LB(pH9.5)寒天培地、LB(pH12)寒天培地、Nutrient(pH7)寒天培地、Nutrient(pH2)寒天培地、Nutrient(pH9.5)寒天培地、Nutrient(pH12)寒天培地、SCD(pH7)寒天培地、SCD(pH2)寒天培地、SCD(pH4.5)寒天培地、SCD(pH12)寒天培地を調製した。これらの寒天培地を含むシャーレをビニールテープで密封し、60℃、70℃、80℃に保ったインキュベーター中に放置した。放置時間の経過とともに寒天培地の状態を目視観察した。その結果、LB(pH2)寒天培地、LB(pH4.5)寒天培地、LB(pH9.5)寒天培地、LB(pH12)寒天培地、Nutrient(pH7)寒天培地、Nutrient(pH2)寒天培地、Nutrient(pH9.5)寒天培地、Nutrient(pH12)寒天培地、SCD(pH2)寒天培地、SCD(pH4.5)寒天培地、SCD(pH12)寒天培地は70℃で、また80℃ではすべての培地が軟化・溶解し、固体培養には使用できる状態ではなかった。
比較例2:
上記実施例1の(ii)と同様にして、培地固化成分としてセルロースゲルの代わりにジェランガムを用いて、LB(pH7)ジェランガム培地、LB(pH2)ジェランガム培地、LB(pH4.5)ジェランガム培地、LB(pH9.5)ジェランガム培地、LB(pH12)ジェランガム培地、Nutrient(pH7)ジェランガム培地、Nutrient(pH2)ジェランガム培地を、Nutrient(pH12)ジェランガム培地、SCD(pH7)ジェランガム培地、SCD(pH2)ジェランガム培地、SCD(pH4.5)ジェランガム培地、SCD(pH12)ジェランガム培地を調製した。これらの培地を含むシャーレをビニールテープで密封し、60℃、70℃、80℃に保ったインキュベーター中に放置した。放置時間の経過とともにジェランガム培地の状態を目視観察した。その結果、Nutrient(pH7)ジェランガム培地、Nutrient(pH2)ジェランガム培地、Nutrient(pH12)ジェランガム培地は60℃で、SCD(pH2)ジェランガム培地は70℃で、また80℃ではすべての培地が軟化・溶解し、固体培養には使用できる状態ではなかった。
Figure 0004665184
(iii)セルロース固体培地による大腸菌の培養
実施例1と同様にしてLB(pH7)セルロース培地を調製した。大腸菌W3110株(Escherichia coli W3110)は、あらかじめLB培地中、37℃でA600が1〜1.5になるまで前培養を行った。この培養液を菌体濃度が1×10cells/mLになるように0.9%生理食塩水で希釈し、その0.1mLをLB(pH7)セルロース培地上にスプレッダーを用いて植菌し、37℃に保ったインキュベーター中で、16〜18時間培養した後、コロニー数をカウントした。比較の対照として、LB(pH7)寒天培地上でも培養を行い、LB(pH7)セルロース培地上でのコロニー数と比較した。その結果、大腸菌のコロニー数は、LB(pH7)セルロース培地、LB(pH7)寒天培地ともに100個前後となり、大腸菌は、LB(pH7)セルロース培地上でも、LB(pH7)寒天培地上と同等の生育を示した。
(iv)セルロース固体培地による枯草菌の培養
実施例1と同様にしてLB(pH7)セルロース培地を調製した。枯草菌168株(Bacillus subtilis 168)は、あらかじめLB培地中、37℃でA600が1〜1.5になるまで前培養を行った。この培養液を菌体濃度が1×10cells/mLになるように0.9%生理食塩水で希釈し、その0.1mLをLB(pH7)セルロース培地上にスプレッダーを用いて植菌し、37℃に保ったインキュベーター中で、16〜18時間培養した後、コロニー数をカウントした。比較の対照として、LB(pH7)寒天培地上でも培養を行い、LB(pH7)セルロース培地上でのコロニー数と比較した。その結果、枯草菌のコロニー数は、LB(pH7)セルロース培地、LB(pH7)寒天培地ともに120〜150個となり、枯草菌は、LB(pH7)セルロース培地上でも、LB(pH7)寒天培地上と同等の生育を示した。
(v)セルロース固体培地による酵母菌の培養
LB(pH7)培地の代わりにYPD培地を用い、実施例1と同様にしてYPDセルロース培地を調製した。サッカロミセス セレビシーYPH499株(Saccharomyces cerevisiae YPH499)は、あらかじめYPD液体培地中、25℃でA600が3になるまで前培養を行った。この培養液を菌体濃度が1×10cells/mLになるように0.9%生理食塩水で希釈し、その0.1mLをYPDセルロース培地上にスプレッダーを用いて植菌し、25℃に保ったインキュベーター中で、2日間培養した後、コロニー数をカウントした。比較の対照として、YPD寒天培地上でも培養を行い、YPDセルロース培地上でのコロニー数と比較した。酵母菌のコロニー数は、YPDセルロース培地上で140個前後、YPD寒天培地では130個前後となり、本酵母はYPDセルロース培地上でも、YPD寒天培地上と同等の生育を示した。
(vi)セルロース固体培地による好アルカリ性バチルス属細菌の培養
LB(pH7)培地の代わりにHORIKOSHI−II培地を用い、実施例1と同様にしてHORIKOSHI−IIセルロース培地を調製した。好アルカリ性バチルス ハロデュランスC−125株(Bacillus halodurans C−125)は、あらかじめHORIKOSHI−II寒天培地で前培養を行った。コロニーを数個集め、1×10cells/mLになるように10mM硫酸マグネシウム水溶液で希釈し、その0.1mLをHORIKOSHI−IIセルロース培地上にスプレッダーを用いて植菌し、37℃に保ったインキュベーター中で、16 18時間培養した後、コロニー数をカウントした。比較の対照として、HORIKOSHI−II寒天培地上でも培養を行い、HORIKOSHI−IIセルロース培地上でのコロニー数と比較した。HORIKOSHI−IIセルロース培地でのコロニー数は191個であり、HORIKOSHI−II寒天培地でのコロニー数は186個であり、Bacillus halodurans C−125は、HORIKOSHI−IIセルロース培地上でも、HORIKOSHI−II寒天培地上と同等の生育を示した。
また、LB(pH7)培地の代わりにTSB/炭酸ナトリウム培地を用い、実施例1と同様にしてTSB/炭酸ナトリウムセルロース培地を調製した。好アルカリ性バチルス アガラドハランスJAMB−602株(Bacillus agaradhaerans JAMB−602)は、あらかじめTSB/炭酸ナトリウム培地中で、37℃でA600が1〜1.5になるまで前培養を行った。この培養液を、菌体濃度が1×10cells/mLになるように0.9%生理食塩水で希釈し、その0.1mLをTSB/炭酸ナトリウムセルロース培地上にスプレッダーを用いて植菌し、37℃に保ったインキュベーター中で、16〜18時間培養した後、コロニー数をカウントした。比較の対照として、TSB/炭酸ナトリウム寒天培地上でも培養を行い、TSB/炭酸ナトリウムセルロース培地上での生育と比較した。Bacillus agaradhaerans JAMB−602は、TSB/炭酸ナトリウムセルロース培地上でも、TSB/炭酸ナトリウム寒天培地上と同等の生育を示し、約200個のコロニーを形成した。
(vii)セルロース固体培地による担子菌の培養
LB(pH7)培地の代わりにTSB(pH5.6)培地を用い、実施例1と同様にしてTSB(pH5.6)セルロース培地を調製した。プレート中央部に、寒天培地上で前培養したイルペックス ラクテウス NBRC5367株(Irpex lacteus NBRC5367)を植菌し、室温で8日間培養した。比較の対照として、TSB(pH5.6)寒天培地上でも培養を行い、TSB(pH5.6)セルロース培地上での生育と比較した。Irpex lacteus NBRC5367は、TSB(pH5.6)セルロース培地上でも、TSB(pH5.6)寒天培地上と同等の生育を示した。
また、TSB(pH5.6)セルロース培地では、Irpex lacteus NBRC5367が産生するセルラーゼによって、セルロースが分解し、溶班(ハロー)を形成した。セルロース培地がセルラーゼ産生菌のスクリーニングに利用可能であることがわかった。
(viii)セルロース固体培地による好熱好酸性菌の培養
LB(pH7)培地の代わりにBA培地を用い、実施例1と同様にしてBAセルロース培地を調製した。好熱好酸性アリシクロバチルス アシドカルダリス JCM5260株(Alicyclobacillus acidocaldarius JCM5260)は、あらかじめBA培地中、70℃でA600が0.5になるまで前培養を行った。この培養液0.1mLをBAセルロース培地上にスプレッダーを用いて植菌し、70℃で18〜24時間培養した。比較の対照として、BA寒天培地、BAジェランガム培地上でも培養を行い、BAセルロース培地上での生育と比較した。Alicyclobacillus acidocaldarius JCM5260は、BAセルロース培地、BAジェランガム倍地上ではコロニーを形成したが、BA寒天培地ではコロニー形成が見られなかった。
またLB(pH7)培地の代わりにSULFOLOBUS培地を用い、実施例1と同様にしてSULFOLOBUSセルロース培地を調製した。好熱好酸性サルホロバス アシドカルダリス DSM639株(Sulfolobus acidocaldarius DSM639)は、あらかじめSULFOLOBUS培地中、70℃でA600が0.8になるまで前培養を行った。この培養液を10倍にSULFOLOBUS培地で希釈し、その0.1mLをSULFOLOBUSセルロース培地上にスプレッダーを用いて植菌し、70℃で4日間培養した。比較の対照として、SULFOLOBUS寒天培地、SULFOLOBUSジェランガム培地上でも培養を行い、SULFOLOBUSセルロース培地上での生育と比較した。Sulfolobus acidocaldarius DSM639は、SULFOLOBUSセルロース培地、SULFOLOBUSジェランガム培地上ではコロニーを形成したが、SULFOLOBUS寒天培地ではコロニー形成が見られなかった。また80℃でも6日間培養を行ったところ、SULFOLOBUSセルロース培地上で5〜6個、SULFOLOBUSジェランガム培地上で1個のコロニーを形成し、SULFOLOBUSセルロース培地上で、より良好な生育を示した。
(ix)セルロース固体培地による好熱菌の培養
LB(pH7)培地の代わりにTM培地を用い、実施例1と同様にして、TMセルロース培地を調製した。好熱菌サーマスサーモフィルス HB8(Thermus thermophilus HB8)は、あらかじめTM培地を用いて70℃でA600が1〜1.5になるまで前培養を行った。この培養液を10倍まで0.9%塩化ナトリウム水溶液で希釈し、その0.1mLをTMセルロース培地上にスプレッダーを用いて植菌し、70℃に保ったインキュベーター中で、17時間培養した。比較の対照として、TM寒天培地でも培養を行い、TMセルロース培地上での生育と比較した。TMジェランガム培地については、室温で培地が固まらなかった。TMセルロース培地、TM寒天培地上でコロニーを形成したが、TM寒天培地表面の軟化のため、コロニーの形状がまちまちであった。TMセルロース培地上のコロニーは均一の形状であった。また80℃でも24時間培養を行ったところ、TMセルロース培地上ではコロニーを形成したが、TM寒天培地は完全に溶解した。
本発明のセルロースゲルを使用する固体培地は、従来の代表的な固体培地である寒天培地では困難であった高い温度や広いpH範囲、あるいは種々の塩濃度でも、軟化したり溶解することなく、その性質と形状を安定して保持することができる。したがって、さまざまな微生物の固体培養が可能となり、有用な酵素や化学物質を産生する新規な微生物を単離したり、生産するために利用することができる。

Claims (10)

  1. 培地固化成分として、分子量10,000〜2,000,000のセルロースを0.01〜20質量%の濃度でチオシアン酸塩水溶液中に添加後、加熱・溶解し、次いで冷却・固化して得られる多孔質ゲル状材料であるセルロースゲルを含む微生物の培養のための固体培地。
  2. セルロースゲルの結晶化度が5〜70%であることを特徴とする、請求第1項記載の固体培地。
  3. セルロースゲルが、セルロースを骨格部分とし、セルロース濃度が0.01〜20質量%である多孔質のセルロースゲル構造体であることを特徴とする、請求第1項又は項に記載の固体培地。
  4. セルロースゲルが、空隙率が50%以上の多孔質ゲル状構造体であることを特徴とする、請求第1項ないし第項のいずれかに記載の固体培地。
  5. チオシアン酸塩水溶液0.01〜20質量%の濃度で分散した分子量10,000〜2,000,000のセルロースを、加熱によって溶解又は膨潤させ、次いで冷却して固化させ、溶媒成分を除去した後、これに栄養素成分を浸透させることを特徴とする、微生物の培養のためのセルロースゲル固体培地の製造方法。
  6. チオシアン酸塩水溶液がチオシアン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液であることを特徴とする、請求項に記載のセルロースゲル固体培地の製造方法。
  7. チオシアン酸塩水溶液がチオシアン酸カルシウムの水溶液であることを特徴とする、請求項又は第項に記載のセルロースゲル固体培地の製造方法。
  8. チオシアン酸塩水溶液がチオシアン酸カルシウムの飽和水溶液で、加熱温度が70〜200℃であることを特徴とする、請求項ないし第項のいずれかに記載のセルロースゲル固体培地の製造方法。
  9. 培地固化成分として分子量10,000〜2,000,000のセルロースを0.01〜20質量%の濃度でチオシアン酸塩水溶液に添加後、加熱・溶解し、次いで冷却・固化して得られる多孔質ゲル状材料であるセルロースゲルを用いた微生物の培養のための固体培地の表面で微生物を培養することを特徴とする、微生物の培養方法。
  10. セルロースゲルを用いた固体培地で培養する微生物が極限環境微生物であることを特徴とする、請求項に記載の微生物の培養方法。
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