JP4664464B2 - モザイク性の小さな炭化珪素単結晶ウエハ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はエピタキシャル薄膜を用いて作製される光デバイスあるいは電子デバイス用の基板として使用される良質で大型のSiC単結晶ウエハに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
炭化珪素(SiC)は、耐熱性及び機械的強度に優れ、物理的、化学的に安定なことから、耐環境性半導体材料として注目されている。また近年、青色から紫外にかけての短波長光デバイス、高周波高耐圧電子デバイス等の基板ウエハとしてSiC単結晶ウエハの需要が高まっている。
【0003】
SiC単結晶ウエハを用いて発光デバイス、電子デバイスなどを作製する場合に、通常ウエハ上に薄膜(例えば、SiC薄膜あるいはGaN薄膜)をエピタキシャル成長させる必要がある。これらの薄膜は、GaNの場合、一般にMOCVD法(有機金属化学蒸着法)やMBE法(分子線エピタキシー法)と呼ばれる薄膜成長法で、また、SiCの場合は、熱CVD法(熱化学蒸着法)や液相エピタキシャル成長法と呼ばれる方法により、SiC基板上に堆積される。この際、高品質なエピタキシャル薄膜を得るには、薄膜を成長させるSiC基板の面方位が重要なパラメータとなっている。例えば、Kimotoらは、高品質のSiCエピタキシャル薄膜を得るには、(0001)面を有するSiC基板に特定のオフ角度を付ける必要のあること示している(Journal of Applied Physics,Vol.75,p.850-859(1994))。また、GaNエピタキシャル薄膜成長においては、SiC基板の面方位が(0001)面からずれた場合には、ステップバンチングと呼ばれる現象により巨大ステップが成長表面に出現し、組成ムラ、欠陥発生等の原因となることが示されている(T.Nishida et al.,Journal of CrystalGrowth,Vol.195,p.41-47(1998))。そこで通常、SiC薄膜あるいはGaN薄膜のエピタキシャル成長の際には、これら所望の面方位に切り出したSiC単結晶ウエハが基板として用いられる。この際、基板の面方位は0.5°以下、より好ましくは0.25°以下の角度精度で制御される必要がある。これ以上面方位角度がずれた場合には、所望の薄膜特性を得ることが難しくなる。
【0004】
そこで現在、SiC単結晶よりX線回折等の手法を使って精度良く所望の面方位の基板を取り出し、その上にSiC薄膜あるいはGaN薄膜のエピタキシャル成長が行われている。しかしながら、このように精度良く切り出されたSiC単結晶ウエハを基板として用いても、薄膜あるいはその上に作製されたデバイスは部分的には良質な特性を示すものの、ウエハ全面に渡って良質な特性を得るのは困難であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、SiC単結晶基板上へのエピタキシャル薄膜成長において、良質なエピタキシャル薄膜が得られるように所望の面方位を有したSiC単結晶基板を用いても、ウエハの全面に渡って良質な薄膜を得ることは困難であった。また、このことは、製造装置の改造やプロセス条件の改善によって解決できるものではなかった。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題点を解決したSiC単結晶ウエハを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、モザイク性の小さなSiC単結晶ウエハを基板として用いることにより、上記課題を解決できることを見い出し、完成したものである。即ち、本発明は、
(1)エピタキシャル薄膜成長用基板として用いられる口径50mm以上の炭化珪素単結晶ウエハであって、ウエハ面内の任意の2点間での(0001)成長面方位のずれが40秒/cm以下である炭化珪素単結晶ウエハである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明では、SiC単結晶基板上に高品質のエピタキシャル薄膜を作製する際に、モザイク性が小さなSiC単結晶ウエハを基板として用いる。前述したように、例えばSiCエピタキシャル薄膜あるいはGaNエピタキシャル薄膜の品質は、用いるSiC基板の面方位により大きく変化する。そこで通常、所望の面方位に切り出したSiC単結晶ウエハを基板として用いる。しかしながら、高品質な薄膜は基板の一部でのみ得られ、ウエハ全面に渡って高品質な薄膜を得ることは困難であった。発明者らは、この原因として、基板として用いられているSiC単結晶ウエハのモザイク性を考察した。現在市販されているSiC単結晶ウエハには、モザイク性といわれる結晶方位の微小なずれが存在する。この結晶方位のずれは高分解能のX線回折、あるいはX線トポグラフィー等により調べられている。例えば、Glassら(Journal of Crystal Growth,Vol.132,p.504-512(1993))、あるいはTuominenら(Materials Research Society Symposium Proceedings,Vol.339,p.729-734(1994))は、高分解能のX線回折装置を用いて、SiC単結晶ウエハのモザイク性について調べている。彼等によれば、SiC単結晶ウエハのモザイク性は、SiC単結晶ウエハが微小に方位が異なる多数のドメインから成っていることに起因している。このことを図1に模式的に示した。図1は(0001)面SiC単結晶ウエハが多数のドメインから成り、その〔0001〕c軸が、各ドメイン毎に僅かに異なっていることを示している。Glassら、あるいはTuominenらによれば、市販のSiC単結晶ウエハにおける、各ドメイン間の(0001)面方位のずれは、100〜200秒/cmと報告されている。
【0009】
発明者らは、従来、所望の面方位を有するSiC単結晶ウエハを基板として用いてもウエハ全面に渡って高品質な膜が得られなかった原因が、SiC単結晶ウエハのモザイク性に起因していることを実験的に見い出した。Ellisonらの論文(Diamond and Related Materials,Vol.6,p.1369-1373(1997))に記載されているように、SiC単結晶に上記したような大きなモザイク性が存在すると、ウエハ加工(研削、研磨工程)の際に、ウエハの反り等の好ましくない現象を伴って、結晶面方位のズレがウエハ面内で生じる(このような現象はcrystal bendingと呼ばれている)。この結晶面方位のズレは、直径50mmのウエハにおいては、両端の領域で0.7°以上にも達する。従って、このようなモザイク性の大きなSiC単結晶ウエハをSiC薄膜あるいはGaN薄膜のエピタキシャル成長に用いた場合には、ウエハ面内全域に渡って所望の面方位で結晶成長を行うことが困難となる。また、モザイク性の大きなSiC単結晶ウエハでは、図1に示されるように、各ドメインの境界は結晶学的には不整合な界面となっており、一般に高密度の転位欠陥網が存在する(この領域は小傾角粒界と呼ばれる)。高密度に転位欠陥が存在する領域上にエピタキシャル薄膜を成長した場合には、やはり品質が劣化することは避け難く、このこともウエハ全域に渡って高品質なエピタキシャル薄膜を作製することを困難なものとしていた。
【0010】
これらの問題を解決する方法として、本発明では、エピタキシャル薄膜成長の際に、モザイク性の小さなSiC単結晶ウエハを基板として用いた。モザイク性の小さなSiC単結晶ウエハとは、ウエハ内の任意の2点間において、成長面方位のずれが60秒/cm以下、より好ましくは30秒/cm以下、さらに好ましくは、ウエハ内の任意の2点間において、任意の結晶面方位のずれが60秒/cm以下、より好ましくは30秒/cm以下のものを指す。本発明では、実施例1及び実施例2の記載にもとづいて、前記面方位のずれに関し、(0001)面方位のずれが40秒/cm以下とする。
【0011】
発明者らは、SiC単結晶ウエハのモザイク性が小さな場合、すなわちウエハ内の任意の2点間において、成長面方位のずれが60秒/cm以下の場合には、ウエハ加工の際に上記crystal bending効果が小さくなり、直径50mmのウエハにおいても、両端の領域で面方位のズレが0.5°以下となることを見い出した。
【0012】
次に、モザイク性の小さなSiC単結晶ウエハの製造方法の一例を説明する。ここでは種結晶を用いた昇華再結晶法により作製した。昇華再結晶法では黒鉛るつぼ内でSiC粉末原料を昇華させ、低温部に置かれた種結晶上に再結晶化させることによりSiC単結晶を製造する。成長は通常アルゴン等の不活性ガス中で行う。発明者らは、種結晶として、(0001)面を有する口径50mmのSiC単結晶ウエハを用意し、成長温度2200〜2400℃で単結晶成長を約20時間行った。この際、成長結晶内部に存在する温度勾配が成長中常に15℃/cm以下となるように、るつぼの設計及び成長条件の選択を行った。このような低温度勾配の条件下では、新たに成長結晶に小傾角粒界が導入されることはなく、成長結晶のモザイク性は増加しない。また、モザイク性を増加させないためには、成長結晶への異種ポリタイプインクルージョンや黒鉛インクルージョン、Si液滴等が成長表面に付着することも防止する必要がある。
【0013】
さらに発明者らは、SiC単結晶を成長させる際に、成長結晶の形状を成長方向に対して凸形状にすることが、モザイク性の改善に有効であることを見い出した。このことを図2を用いて説明する。図2は、SiC単結晶中の小傾角粒界を構成する転位欠陥が結晶成長中、どのように成長結晶中を伝播していくかを模式的に表わしたものである。成長結晶のモザイク性の改善には、転位欠陥が結晶成長中、成長表面に垂直に伝播していくことを利用する。図2に示したように、SiC単結晶の成長形状を成長方向に対して凸形状にした場合、小傾角粒界(転位欠陥の集合体)は成長表面に垂直に伝播し、結果として結晶の外周方向に移動することになる。小傾角粒界が結晶周辺部へ移動すると、中心部には小傾角粒界密度の低い領域、すなわちモザイク性の改善された領域が形成される。このように、低温度勾配の条件下でSiC単結晶の成長形状を制御して成長を行うと、成長したSiC単結晶のモザイク性は、用いた種結晶のそれよりも改善される(中心部にモザイク性の改善された部分が形成される)。
【0014】
こうしてモザイク性の改善されたSiC単結晶から再度、(0001)面を有するSiC単結晶ウエハを種結晶として準備し、この種結晶上に上記のモザイク性の改善される条件で再びSiC単結晶を成長する。この単結晶成長→種結晶切りだし→単結晶成長のプロセスを幾度か繰り返すことによって、モザイク性の改善された領域は拡大し、最終的にはウエハ全域に渡ってモザイク性の小さなSiC単結晶ウエハを製造することができる。
【0015】
モザイク性の小さなSiC単結晶ウエハを作製するには、上記の昇華再結晶法以外の方法、例えば溶液成長法あるいは高温の化学的気相成長法等を利用することも考えられるが、これらの方法においても、成長の際の結晶内部の温度勾配を小さく保ち、且つ結晶の成長形状を成長方向に対して凸形状に保てば、モザイク性の小さなSiC単結晶ウエハを製造できる。
【0016】
【実施例】
以下、本発明の実施例により具体的に説明する。
【0017】
実施例1
ウエハ内の1cm離れた2点間での(0001)面方位のズレが40秒/cm以下というモザイク性の小さな口径50mmの6H型SiC単結晶ウエハを基板として用いて、SiCのエピタキシャル成長を行った。基板の面方位は(0001)面から〔11−20〕方向に3.5°オフしたものを使用した。このSiC単結晶ウエハは、従来技術で製造されたSiC単結晶ウエハ(ウエハ内の1cm離れた2点間での(0001)面方位のズレが150秒/cm以上)を種結晶として、昇華再結晶法により、単結晶成長→種結晶切りだし→単結晶成長のプロセスを18回繰り返すことにより製造した。この際、成長結晶内部の温度勾配を15℃/cm以下となるようにし、且つ結晶の成長形状を成長方向に対して凸形状になるようにした。
【0018】
SiCエピタキシャル薄膜の成長条件は、成長温度1500℃、シラン(SiH4)、プロパン(C3H8)、水素(H2)の流量が、それぞれ0.3ml/min、0.2ml/min、3.0l/minであった。成長圧力は大気圧とした。成長時間は2時間で、膜厚としては約5μm成長した。
【0019】
成長後、ノマルスキー光学顕微鏡、原子間力顕微鏡により、得られたエピタキシャル薄膜表面の欠陥密度(ピット、異種ポリタイプインクルージョンに起因する表面欠陥等)を調べたところ、周辺部、中央部共にほぼ同様な、低欠陥密度(欠陥密度:8×103個/cm2)のSiCエピタキシャル薄膜が成長していた。
【0020】
本発明の実施例では、(0001)面SiC単結晶ウエハを基板として用いたSiCエピタキシャル薄膜成長を例にとり説明したが、低モザイク性の効果は、成長する結晶面が(0001)面以外の場合(例えば(11-20)面等)においても有効である。
【0021】
比較例1
比較例として、モザイク性の大きな口径50mmの6H型SiC単結晶ウエハを基板として用いてSiCエピタキシャル薄膜成長を行った。基板は、実施例1のモザイク性の小さなSiC単結晶ウエハを製造する工程で、最初に種結晶として使用したSiC単結晶ウエハを切り出すために用いた、従来技術により製造されたSiC単結晶から同様に切り出したSiC単結晶ウエハである。基板の面方位は(0001)面から〔11−20〕方向に3.5°オフとした。このウエハ内の1cm離れた2点間での(0001)面方位のズレは150秒/cm以上であった。
【0022】
成長条件は実施例1と同じとし、成長後、得られたエピタキシャル薄膜の表面をノマルスキー光学顕微鏡、原子間力顕微鏡により観察したところ、中央部(欠陥密度:9×103個/cm2)に比べ、周辺部(外周から約12mmの領域)において約2倍の欠陥密度となった。
【0023】
実施例2
ここではSiC単結晶基板上にGaNのエピタキシャル薄膜を成長させる場合について述べる。実施例1で使用した、モザイク性の小さなSiC単結晶ウエハを切り出すために用いたSiC単結晶から同様に切り出した口径50mmの6H型SiC単結晶ウエハを基板として使用した。ウエハ内の1cm離れた2点間での(0001)面方位のズレは40秒/cm以下であった。面方位は(0001)面ジャスト方位とした。
【0024】
このSiC単結晶ウエハ上にGaN薄膜をMOCVD法によりエピタキシャル成長させた。成長条件は、成長温度1050℃、トリメチルガリウム(TMG)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)をそれぞれ、54×10-6mol/min、4.0l/min、22×10-11mol/min流した。また、成長圧力は大気圧とした。成長時間は60分間で、n型の窒化ガリウムを3μmの膜厚に成長させた。
【0025】
得られたGaN薄膜の表面状態を調べる目的で、成長表面をノマルスキー光学顕微鏡、原子間力顕微鏡により観察した。ウエハ全面に渡って非常に平坦なモフォロジーが得られ、全面に渡って高品質なGaN薄膜が形成されているのが分かった。
【0026】
比較例2
比較例として、モザイク性の大きな口径50mmの6H型SiC単結晶ウエハを基板に用いてSiCエピタキシャル薄膜成長を行った。基板は、比較例1で使用したモザイク性の大きなSiC単結晶ウエハを切り出すために用いたSiC単結晶から同様に切り出したSiC単結晶ウエハである。ウエハ内の1cm離れた2点間での(0001)面方位のズレは150秒/cm以上であった。面方位は(0001)面ジャスト方位とした。
【0027】
成長条件は実施例2と同じとした。成長後、表面をノマルスキー光学顕微鏡、原子間力顕微鏡により観察したところ、中央部では、非常に平坦なモフォロジーを観察できたが、周辺部(外周から約16mmの領域)においては高さ0.1μm以上の巨大ステップが観測された。このような巨大ステップの周辺では、組成ムラや欠陥発生が起きやすく好ましくない。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、SiC単結晶ウエハを基板としてエピタキシャル薄膜成長する場合に、ウエハ全面に渡って高品質な薄膜が作製可能である。このようなウエハ全面に渡って高品質な薄膜を用いれば、光学的特性の優れた発光素子、電気的特性の優れた電子デバイスを歩留り良く作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 SiC単結晶ウエハのモザイク性を模式的に表わしたものである。
【図2】 SiC単結晶成長中の成長結晶形状を制御することにより、モザイク性の改善された部分が拡大する様子を模式的に表わしたものである。
Claims (1)
- エピタキシャル薄膜成長用基板として用いられる口径50mm以上の炭化珪素単結晶ウエハであって、ウエハ面内の任意の2点間での(0001)面方位のずれが40秒/cm以下であることを特徴とするモザイク性の小さな炭化珪素単結晶ウエハ。
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