この発明における動力伝達装置の概念を説明すると、車両の動力源から車輪に至る経路に配置され、この動力伝達装置を経由してトルクが伝達される。ここで、動力源としては、熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置である内燃機関を用いることが可能である。さらに、内燃機関としては、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジン、メタノールエンジンなどを用いることができる。また動力源としては電動機を用いることも可能である。電動機は電気エネルギを運動エネルギに変換する動力装置である。また、電動機は直流電動機または交流電動機のいずれでもよい。また、電動機としては、発電機能を兼備した発電・電動機を用いることも可能である。さらには、内燃機関および電動機の両方を動力源として用いるハイブリッド車の変速機にも適用できる。さらにまた、動力源として、油圧モータ、フライホイールシステムを有する車両にも、この発明を適用可能である。すなわち、動力の発生原理が異なる複数種類の動力源を有するハイブリッド車にも、この発明を適用可能である。
さらに、この発明において、第1の回転部材および第2の回転部材は、動力源のトルクを車輪に伝達する場合に同軸上で回転する要素であり、各回転部材は、中空軸、中実軸、ギヤ、回転メンバ、コネクティングドラム、遊星歯車機構のキャリヤなどで構成することが可能である。なお、第1の回転部材および第2の回転部材は、相対回転可能な別部材であればよい。また、第1の回転部材および第2の回転部材の軸線が、車両の前後方向または車両の幅方向のいずれの向きで配置されていてもよい。この発明は、動力源のトルクが、前輪または後輪のいずれに伝達される構成の二輪駆動車にも適用可能である。また、この発明は、動力源のトルクが、動力分配装置(トランスファ)により、前輪および後輪に分配される構成の四輪駆動車にも適用可能である。さらにまた、この発明において、第1の回転部材および第2の回転部材は、動力の伝達方向で直列、つまり、上流と下流とに配置されている。
また、この発明においては、動作部材の動作により油室の容積が拡大する行程でオイルが油室に吸入され、油室の容積が縮小される行程で油室からオイルが吐出される。さらに、動作部材が容積を拡大する方向に動作する場合に、第1の方向において、カム面と動作部材との距離が短くなる一方、動作部材が容積を縮小する方向に動作する場合に、第1の方向において、カム面と動作部材との距離が長くなるように構成されている。そして、油室に吸入されるオイル量を制限する(オイルの吸入抵抗の増加を抑制する)ことにより、第1の回転部材と第2の回転部材とが相対回転する場合に、第1の方向における動作部材の変位量を、単位回転数差あたり、または、単位時間あたりで減少させることができる。したがって、カム面に対する動作部材の追従性が向上する。
また、この発明においてカム面が変位される第1の方向は、軸方向、軸方向に略直交する半径方向、軸方向に対して非直角な方向のいずれでもよい。第1の方向が、半径方向である場合は、動作部材も半径方向に動作する。例えば、カム面がいずれか一方の回転部材の軸線を中心として全周に亘って形成され、かつ、半径方向に変位させる場合、半径方向の凹部と凸部とを交互に配置して波形のカム面を形成することが可能である。また、カム面を楕円形状に構成することも可能である。これに対して、カム面が変位される第1の方向が軸線方向である場合は、軸方向に変位された凹部と凸部とを円周方向に交互に配置して、連続するカム面を形成することが可能である。また、軸線に対して非直角に構成された平坦なカム面を構成することも可能である。なお、この発明においては、第1の回転部材と第2の回転部材との相対回転数差が1である場合において、動作部材が第1の方向に1往復する構成、または複数回往復する構成のいずれでもよい。
この発明において、第1の回転部材と第2の回転部材とが1回転する場合に、動作部材のストロークを変更してオイルの吸入容積を変更することにより、油室に吸入されるオイル量を制限することが可能である。具体的には、第1の方向における変位量が連続的に変化する単一のカム面を設け、そのカム面に接触し、かつ、第2の方向でカム面と相対移動可能な転動体を設ける構成である。この第1の具体例においては、アクチュエータを用いてカム面と動作部材を第2の方向に相対移動させることにより、動作部材のストロークが変化し、動作部材が1往復した場合におけるオイルの吸入容積が変化する。このように、動作部材のストロークを調整する構成では、ストローク調整装置を設ける。このストローク調整装置は、動作部材とカム面とを第2の方向に相対移動させることにより、動作部材のストロークを変化させるアクチュエータとして設けられる。ここで、カム面が第1の方向、つまり、半径方向に変位されている場合は、動作部材とカム面とが、第2の方向、つまり、軸線方向に相対移動すると、動作部材のストロークが変化する。これに対して、カム面が第1の方向、つまり、軸方向に変位されている場合は、動作部材とカム面とを、第2の方向、つまり、半径方向に相対移動させることにより、動作部材のストロークが変化する。言い換えれば、動作部材の上死点と下死点との距離が変化する。
また、動作部材とカム面とを相対移動させる場合、例えば、動作部材とカム面を有する部材の少なくとも一方を、半径方向または軸方向に相対移動させればよい。このように、動作部材とカム面を有する部材とを相対移動させるためのアクチュエータとしては、油圧式アクチュエータ、電動式アクチュエータなどを用いることが可能である。これに対して、第2の構成とは、第1の方向に沿って変位され、かつ、その変位量が異なる複数のカム面を設けるとともに、複数のカム面に別々に接触し、かつ、ストロークが異なる複数の動作部材を設ける構成である。また、複数の油室におけるオイルの吸入量を制御する吸入制御装置が設けられており、複数の油室におけるオイル吸入量を制御することにより、複数の動作部材の動作および停止を制御し、動作する動作部材のストロークを変更できる。吸入制御装置としては、流量制御弁などを用いることができる。
また、この発明では、オイルの吸入容積が異なる油室を複数設け、これらの油室を選択的に切り換えることにより、油室に吸入されるオイル量を制限する構成を採用することも可能である。この具体例としては、動作部材のストロークが同じであり、かつ、油室の断面積(動作部材の動作方向に直交する断面積)が異なる複数の油室を設け、これらの油室を選択的に切り換えることにより、油室に吸入されるオイル量を制限することが可能である。この場合、動作部材の動作による下死点と上死点との距離、すなわち、ストロークは同じである。さらに、第1の回転部材と第2の回転部材とが1回転する場合に、油室におけるオイルの吸入行程の回数が異なる複数の油室を設けることが可能である。具体的には、円周方向における凹部および凸部の数が異なる複数のカム面を設け、複数のカム面に沿って動作する複数の動作部材および油室を設け、使用する複数のカム面を選択的に切り換えることにより、選択されたカム面の動作により油室に吸入されるオイル量を制限することが可能である。この場合、動作部材の動作による下死点と上死点との距離、すなわち、ストロークは同じである。
また、この発明において、吸入量調整装置および吐出量調整装置は、油路を通過するオイル量を調整する装置である。この吸入量調整装置および吐出量調整装置としては、流通面積を制御する流量制御弁、流通面積が変化しない絞り部(オリフィス、チョーク)などを用いることが可能である。さらに、吸入量調整装置および吐出量調整装置は、動作部材のストロークとは無関係に、より具体的には、動作部材のストロークを変更することなく、オイルポンプの回転数を変化させたり、あるいは、吸入制御弁の開度を制御することにより、油室に吸入されるオイル量を調整する装置である。また、動力源から車輪に至る経路に変速機が設けられている場合において、動力源から変速機に至る経路に、この発明の動力伝達装置を設ける構成、変速機から車輪に至る経路に、この発明の動力伝達装置を設ける構成のいずれを採用してもよい。さらに、動力源の動力が第1の回転部材を経由して第2の回転部材に伝達される構成である場合、カム面を第2の回転部材に設け、かつ、動作部材を第1の回転部材に設けることが可能である。また、これとは逆に、カム面を第1の回転部材に設け、かつ、動作部材を第2の回転部材に設けることも可能である。
前記変速機は、入力回転数と出力回転数との比を変更可能な装置であり、変速機は、無段変速機または有段変速機のいずれであってもよい。無段変速機は、変速比を無段階に(連続的に)変更できる変速機であり、ベルト式無段変速機、トロイダル式無段変速機などを用いることが可能である。変速機として無段変速機が用いられている場合は、回転部材の回転方向を正逆に切り替える前後進切換装置を用いる。一方、有段変速機は、変速比を段階的に(不連続に)変更できる有段変速機であり、有段変速機としては、具体的には、遊星歯車式変速機、選択歯車式変速機などを用いることができる。遊星歯車式変速機は、遊星歯車機構およびクラッチやブレーキなどを有する公知の構造のものである。選択歯車式変速機には、摺動噛み合い式、常時噛み合い式、等速噛み合い式などの変速機が含まれる。さらに、これらの変速機の変速比を制御するためにアクチュエータが設けられる。このアクチュエータとしては、油圧制御式のアクチュエータまたは電磁式のアクチュエータを用いることが可能である。
つぎに、上記の概念で表される動力伝達装置の具体的な構成例を、図2に基づいて説明する。図2には、この発明の動力伝達装置を有する車両1のパワートレーンおよび制御系統の一例が、模式的に示されている。この図2に示すパワートレーンは、いわゆるフロントエンジン・フロントドライブ形式のパワートレーン(二輪駆動車)である。まず、原動機としてのエンジン2が設けられており、エンジントルクがダンパ機構3を経由してインプットシャフト4に伝達されるように構成されている。前記ダンパ機構3およびインプットシャフト4は、ケーシング(トランスアクスルケース)5内に配置されている。インプットシャフト4の軸線は、車両1の左右方向に配置されている。そして、インプットシャフト4のトルクが、オイルポンプ6および前後進切換装置7を経由して無段変速機8に伝達されるとともに、そのトルクが、伝動装置9および最終減速機10を経由して車輪11に伝達されるように構成されている。以下、オイルポンプ6の具体的な構成例を順次説明する。
前述したオイルポンプ6の具体的な構成例を、図3および図4に基づいて説明する。この図3はオイルポンプ6の軸線方向における断面図であり、図4は軸線に直交する半径方向の断面図である。この実施例1は、動作部材のストロークを変更することにより、油室に吸入されるオイル量(吸入容積)を制限する構成が特徴である。まず、オイルポンプ6は、インプットシャフト4と、無段変速機8との間における伝達トルクを制御する機能を有している。また、前記ケーシング5であって、インプットシャフト4の軸線方向で前記エンジン2から最も離れた位置にはリヤカバー12が設けられており、リヤカバー12には、スリーブ13が固定されている。このスリーブ13は、インプットシャフト4と同軸上に配置されている。また、スリーブ13の内部にはホルダ14が設けられており、このホルダ14はリヤカバー12に固定されている。このホルダ14は円筒形状に構成されており、ホルダ14とインプットシャフト4とが同軸上に配置されている。さらに、インプットシャフト4の外側には、コネクティングドラム15が同軸上に配置されている。また、ケーシング5の内部には隔壁16が設けられており、リヤカバー12と隔壁16とにより取り囲まれた空間に、オイルポンプ6が配置されている。そして、隔壁16とコネクティングドラム15との間には軸受17が介在されており、軸受17によってコネクティングドラム15が回転自在に保持されている。
このコネクティングドラム15におけるリヤカバー12側の端部には、オイルポンプ6の一部を構成するアウターレース(カム部材)18が接続されている。アウターレース18はコネクティングドラム15と一体回転するように連結されている。また、アウターレース18は、円錐部19と円筒部20とを有しており、円筒部20がスリーブ13の外側に配置され、円筒部20とスリーブ13との間には軸受21が介在されている。また、円錐部19の内周には全周に亘ってカム面22が形成されている。このカム面22は、インプットシャフト4の軸線A1を中心として半径方向に変位された凹部23と凸部24とを交互に配置した波形形状を有している。凹部23は半径方向で外側に向けて窪んでおり、凸部24は半径方向で内向きに突出している。すなわち、凹部23が複数形成され、かつ、凸部24が複数形成されて、凹部23と凸部24とが円周方向で滑らかに連続するように接続されている。
また、カム面22であって凹部23の最も外側に相当する部分と軸線A1との距離が、軸方向で異なる値に設定されている。つまり、凹部23の最も外側に相当する部分の谷底23Aが、スリーブ13に近づくほど前記距離が短くなるようなテーパを有している。このテーパは、軸線A1との成す鋭角側の角度で表すことができる。言い換えれば、凹部23の谷底23Aに接する外接円(図示せず)と、凸部24の頂点24Aに接する内接円(図示せず)との半径差が、軸線方向で連続的に異なる値となっている。また、凸部24の頂点24Aと軸線A1との距離は、軸線方向で一定となるように構成されている。なお、図3の例では、円周方向で凹部23が6箇所設けられ、かつ、円周方向で凸部24が6箇所設けられているが、円周方向における凹部23および凸部24の数は、任意に設定可能である。
上記のように構成されたアウターレース18の内部空間にインナーレース(シリンダ部材)25が設けられており、このインナーレース25は、同軸上に配置された2つの円筒部26,27を有しており、一方の円筒部27がインプットシャフト4の外側に配置され、インプットシャフト4と円筒部27とが一体回転するように連結、具体的にはスプライン結合されている。また、インナーレース25はインプットシャフト4に対して、軸方向に相対移動可能に構成されており、円筒部27とコネクティングドラム15との間には軸受28が介在されている。さらに、インナーレース25には軸部29が設けられており、軸部29は円筒部27の内部に、かつ、円筒部27と同軸上に形成されている。一方、インプットシャフト4の端部に望む凹部30が形成されており、軸部29が凹部30内に配置されている。そして、凹部30の内周面および端面と、軸部29の端面とにより取り囲まれた油圧室31が形成されており、インプットシャフト4には油圧室31に接続された油路32が設けられている。さらに、インナーレース25は、軸部27と軸部27とを軸線方向に接続するボス部33が形成されており、そのボス部33の外周には、円周方向に沿って複数のシリンダ34が形成されている。
各シリンダ34は、ボス部33の外周面に開口された略円筒形状の凹部であり、複数のシリンダ34が放射状に配置されている。また、各シリンダ34内にはピストン35が各々配置されており、ピストン35がシリンダ34内で、インナーレース25の半径方向に往復移動自在となる構成を有している。すなわち、オイルポンプ6は、いわゆるラジアルピストンポンプである。また、各ピストン35により転動体36が転動可能に保持されており、転動体36がカム面22に接触する。この転動体36はボール(球体)またはローラを用いることが可能である。転動体としてローラを用いる場合、ローラの形状は、円柱ではなく、軸線方向に沿って半径が連続的に変化するボビン形状のローラを用いる。なお、図1では転動体36としてボールを用いた場合が示されている。さらに図3においては、シリンダ34およびピストン35が円周方向に8個設けられているが、その数は任意に設定可能である。
一方、シリンダ34内の底面37と、ピストン35の底面38との間には油室39が形成されている。また、油室39内には複数個の金属製の弾性部材、具体的には、複数の圧縮コイルばねが設けられている。この実施例では2個の圧縮コイルばね40,41が設けられており、2個の圧縮コイルばね40,41は、インナーレース25の半径方向に伸縮可能となる状態で、油室39内に配置されている。2個の圧縮コイルばね40,41は伸縮方向の高さが異なり、一方の圧縮コイルばね40は、転動体36がカム面22に接触している場合に、常時、圧縮コイルばね40の両端が底面37および底面38に接触し、かつ、転動体36をカム面22に向けて押圧する力を発生することの可能な高さを有している。言い換えれば、圧縮コイルばね40は、底面37と底面38との間の距離に関わりなく、底面37および底面38に接触する高さに構成されている。これに対して、他方の圧縮コイルばね41は、圧縮コイルばね40よりも高さが低く構成されている。具体的には、圧縮コイルばね41は、底面37と底面38との間の距離が短くなった場合に、底面37および底面38に接触し、転動体36をカム面22に向けて押圧する力を発生することの可能な高さを有している。図2の実施例では、圧縮コイルばね41の内径の方が圧縮コイルばね40の外径よりも大きく設定されており、圧縮コイルばね41の内側に圧縮コイルばね40が配置されている。なお、圧縮コイルばね41のばね定数を、圧縮コイルばね40のばね定数よりも大きく設定してもよい。
前記インナーレース25には、油室39に接続された吸入油路42が設けられており、吸入油路42には逆止弁43が設けられている。一方、前記リヤカバー12には油路44が設けられており、この油路44は、後述する吸入制御弁に接続されている。さらに、ホルダ14にも油路45が設けられており、油路44と油路45とが接続されている。さらに、インナーレース25には、円筒部26からボス部33に亘って円柱形状の凹部25Aが形成されており、凹部25A内にホルダ14が挿入され、かつ、円筒部26がスリーブ13内に挿入されて、インナーレース25が、スリーブ13およびホルダ14に対して、軸線方向に移動可能に構成されている。そして、凹部25Aとホルダ14とにより油路25Bが形成されており、油路25Bが、吸入油路42および油路45に接続されている。そして、逆止弁43は、油路25Bのオイルが油室39に吸入されることを許容し、油室39のオイルが油路25Bに戻ることを防止する構成を有している。さらに、インナーレース25の円筒部26には吐出油路46が設けられており、吐出油路46には逆止弁47が設けられている。さらに、リヤカバー12には油路48が設けられており、その油路48が後述する吐出制御弁に接続されている。さらに、この油路48は吐出油路46に接続されている。そして、逆止弁47は、油室39のオイルが油路48に吐出されることを許容し、油路48のオイルが油室39に戻ることを防止する構成を有している。
つぎに、ケーシング5の内部に設けられた前後進切換装置7の構成について説明する。前後進切換装置7は、インプットシャフト4の軸線方向において、エンジン2とオイルポンプ6との間に配置されている。前後進切換装置7は、コネクティングドラム15の回転方向に対して、無段変速機8のプライマリシャフト49の回転方向を正逆に切り換えるための装置であり、この実施例では、前後進切換装置7が遊星歯車機構、具体的には、シングルピニオン型の遊星歯車機構を有している。この遊星歯車機構は、サンギヤ50と、サンギヤ50と同軸上に配置されたリングギヤ51と、サンギヤ50およびリングギヤ51に噛合されたピニオンギヤ52を自転、かつ公転可能に保持するキャリヤ53とを有している。そして、サンギヤ50が、プライマリシャフト49に動力伝達可能に連結されており、リングギヤ51が前記コネクティングドラム15と動力伝達可能に連結されている。さらに、前後進切換装置7を構成する回転要素同士の連結・解放を制御する前進用クラッチC1が設けられているとともに、回転要素の回転・停止を制御する後進用ブレーキBRが設けられている。前進用クラッチC1により、サンギヤ50とリングギヤ51との連結・解放が制御され、後進用ブレーキBRにより、キャリヤ53の回転・停止が制御されるように構成されている。
ここで、前進用クラッチC1としては、摩擦クラッチまたは電磁クラッチまたは噛み合いクラッチのいずれを用いてもよいし、後進用ブレーキBRとしては、摩擦ブレーキまたは電磁ブレーキまたは噛み合いブレーキのいずれを用いてもよい。この実施例では、摩擦クラッチまたは噛み合いクラッチを用い、摩擦ブレーキまたは噛み合いブレーキを用いる場合は、油圧制御式のアクチュエータを用いることが可能である。これに対して、電磁クラッチおよび電磁ブレーキを用いる場合は、電磁制御式のアクチュエータを用いることとなる。この実施例では、摩擦クラッチおよび摩擦ブレーキが用いられ、かつ、油圧制御式アクチュエータが用いられている場合について説明する。すなわち、油圧アクチュエータは油圧室(図示せず)およびピストン(図示せず)などを有しており、油圧室の油圧に基づいて、前進用クラッチC1のトルク容量、後進用ブレーキBRのトルク容量が制御されるように構成されている。
つぎに、前述の無段変速機8について説明すると、インプットシャフト4の軸線方向において、前後進切換装置7とダンパ機構3との間に無段変速機8が設けられている。この実施例では、無段変速機8としてベルト式無段変速機が用いられており、無段変速機8は、前述したプライマリシャフト49およびセカンダリシャフト54を有している。このプライマリシャフト49は、インプットシャフト4と同軸上に配置され、かつ、インプットシャフト4の外側を取り囲むように配置されている。そして、インプットシャフト4とプライマリシャフト49とが相対回転可能に構成されている。また、ケーシング5内には、インプットシャフト4の軸線方向で無段変速機8の両側に隔壁55,56が設けられており、プライマリシャフト49と隔壁55,56との間に軸受57が介在されている。このようにして、プライマリシャフト49およびセカンダリシャフト54は相互に平行に配置されており、プライマリシャフト49と一体回転するプライマリプーリ58が設けられ、セカンダリシャフト54と一体回転するセカンダリプーリ59が設けられている。
また、プライマリプーリ58およびセカンダリプーリ59には無端状のベルト60が巻き掛けられている。さらに、プライマリプーリ58からベルト60に加えられる挟圧力を制御する油圧サーボ機構61と、セカンダリプーリ59からベルト60に加えられる挟圧力を制御する油圧サーボ機構62とが設けられている。この油圧サーボ機構61,62の油圧室(図示せず)に供給される圧油の流量および油圧が、後述する油圧制御装置により制御される構成となっている。さらに、ケーシング5の内部には、セカンダリシャフト54のトルクが伝達される伝動装置9および最終減速機10が設けられており、最終減速機10の出力側にはドライブシャフト63を介在させて車輪(前輪)11が連結されている。なお、伝動装置9としては、歯車伝動装置、巻き掛け伝動装置などを用いることが可能である。
つぎに、車両1の制御系統を説明すれば、車両1の全体を制御するコントローラとしての電子制御装置64が設けられている。この電子制御装置64には、加速要求(例えば、アクセルペダルの操作状態)を検知するセンサ、制動要求(例えば、ブレーキペダルの操作状態)を検知するセンサ、エンジン回転数を検知するセンサ、スロットル開度を検知するセンサ、インプットシャフト4の回転数を検知するセンサ、プライマリシャフト49の回転数を検知するセンサ、セカンダリシャフト54の回転数を検知するセンサ、シフトポジションを検知するセンサ、インナーレース25の回転数を検知するセンサ、アウターレース18の回転数を検知するセンサなどの信号が入力される。これに対して、電子制御装置64からは、エンジン2を制御する信号、油圧制御装置65を制御する信号などが出力される。この油圧制御装置65は、オイルポンプ6におけるオイルの吸入量および吐出量、オイルポンプ6における伝達トルク、前進用クラッチC1および後進用ブレーキBRの油圧室の油圧、油圧サーボ機構61,62の油圧室の油圧、油圧室31の油室などを制御するとともに、潤滑系統66に供給される潤滑油量を制御するものであり、各油圧室の油圧を制御するソレノイドバルブ(図示せず)などを有する公知のものである。ここで、潤滑系統66には、前後進切換装置7を構成する各ギヤ同士の噛み合い部分、無段変速機8のプーリとベルト60との接触部分、各種の軸受17,21,57などの摺動部分、あるいはこれらの箇所にオイルを供給する油路などが含まれている。
また、油圧制御装置65には前記油路44が接続されており、オイルパン67のオイルが、油路44を経由して油室39に供給されるように構成されている。また、油圧制御装置65は、油路44を経由して油室39に吸入されるオイル量を制御する吸入制御弁68を有している。さらに、油圧制御装置65は、油室39から油路48を経由して吐出されるオイル量を制御する吐出制御弁69を有している。さらに、油圧制御装置65は、油圧室31の油圧を制御する圧力制御弁70を有している。これらの吸入制御弁68および吐出制御弁69および圧力制御弁70は、ソレノイドバルブにより構成されている。なお、吸入制御弁68は設けられていなくてもよい。
上記のように構成された車両1において、エンジントルクがダンパ機構3を経由してインプットシャフト4に伝達され、このインプットシャフト4のトルクが、オイルポンプ6のインナーレース25に伝達される。ここで、インナーレース25とアウターレース18との間におけるトルクの伝達原理を説明する。インナーレース25とアウターレース18とが相対回転した場合、転動体36がカム面22に沿って転動し、かつ、ピストン35がシリンダ34内でインナーレース25の半径方向に往復移動する。すると、ピストン35の動作により油室39の容積が拡大・縮小される。まず、油室39の容積が拡大される場合は、油室39が負圧となる。すると、逆止弁43が開放されるとともに、オイルパン67のオイルが、油路44および吸入油路42を経由して、油室39内に吸入される。このように、オイルが油室39に吸入される間、逆止弁47は閉じられている。
これに対して、インナーレース25とアウターレース18とが相対回転して、ピストン35の動作により油室39の容積が縮小されると、油室39の油圧が上昇する。すると、逆止弁43が閉じられるとともに、逆止弁47が開放され、油室39のオイルが、吐出油路46を経由して油路48に吐出される。以後、ピストン35がシリンダ34内で往復運動を繰り返すことにより、オイルポンプ6の油室39へのオイルの吸入と、油室39からのオイルの吐出とが、交互に繰り返される。このようにして、オイルパン67のオイルがオイルポンプ6により吸入・吐出され、吐出されたオイルが、油圧制御装置65を経由して、油圧サーボ機構61,62および潤滑系統66および前後進切換装置7用の油圧室などに供給される。
また、吸入制御弁68を設けた場合の構成において、シフトポジションとしてドライブポジションまたはリバースポジションが選択された場合における吸入制御弁68の制御について説明する。この吸入制御弁68が制御されて、オイルポンプ6の油室39に吸入されるオイルの流量が調整される。また、吐出制御弁69の制御により、オイルポンプ6の油室39から吐出されるオイルの流量が調整される。そして、油室39におけるオイルの流量を制御することにより、ピストン35の動作により容積が拡大・縮小されて油室39の油圧が制御され、インナーレース25とアウターレース18との間で伝達されるトルクが調整される。すなわち、油室39のオイル量が増加すると、油室39を経由して流通するオイルの流動抵抗が高まる。このため、転動体36が凸部24を乗り越える場合に、ピストン35を半径方向で内側に向けて押圧するために必要な力が増加する。したがって、転動体36とカム面22との係合力が増加し、インナーレース25とアウターレース18との間で伝達されるトルクが増加する。
これとは逆に、油室39のオイル量が減少すると、油室39を経由して流通するオイルの流動抵抗が低下する。このため、転動体36が凸部24を乗り越える場合に、ピストン35を半径方向で内側に向けて押圧するために必要な力が低下する。したがって、転動体36とカム面22との係合力が減少し、インナーレース25とアウターレース18との間で伝達されるトルクが低下する。また、この実施例においては、インナーレース25を図3で右方向に動作させた場合は、凹部23の谷底23Aと、凸部24の頂点24Aとの半径差が大きくなるため、転動体36とカム面22との係合力が増加する。これに対して、インナーレース25を図3で左方向に動作させた場合は、凹部23の谷底23Aと、凸部24の頂点24Aとの半径差が小さくなるため、転動体36とカム面22との係合力が低下する。このようにして、エンジン2からインナーレース25に伝達されたトルクが、転動体36とカム面22との係合力により、アウターレース18およびコネクティングドラム15に伝達される。なお、上記のようなインナーレース25とアウターレース18との間における伝達トルクの制御により、インナーレース25とアウターレース18との回転数差も制御可能である。すなわち、インナーレース25とアウターレース18との間における伝達トルクが高められた場合は回転数差が小さくなり、インナーレース25とアウターレース18との間における伝達トルクが低下された場合は回転数差が大きくなり、インナーレース25とアウターレース18との間における伝達トルクが一定に制御された場合は、回転数差も一定となる。
ところで、この実施例1においては、油圧室31の油圧に基づいて、インナーレース25がインプットシャフト4の軸線方向に動作可能であり、軸線方向におけるインナーレース25の位置が変化すると、インナーレース25の半径方向におけるピストン35の動作量、すなわち、ストロークが変化する。具体的には、油圧室31の油圧がインナーレース25の軸部29の端面に作用するため、油圧室31の油圧に基づいて、インナーレース25を軸線方向でリヤカバー12に近づける向きの力が発生する。一方、インナーレース25の半径方向におけるピストン35の位置に関わりなく、圧縮コイルばね40の付勢力が転動体36に加えられており、転動体36がカム面22に押し付けられている。その押し付け力はカム面22に対して略直角に作用する。また、カム面22の凹部23は、スリーブ13に近づくことにともない、谷底23Aと軸線A1との距離が短くなる方向のテーパを有しているため、転動体36が凹部23に接触している場合は、転動体36に与えられる押し付け力に応じた反力が発生し、その反力に応じた軸線方向の成分(分力)が、ピストン35を経由してインナーレース25に伝達される。そして、油圧室31の油圧に基づいてインナーレース25に加えられる軸線方向の力と、前記反力に基づいてインナーレース25に伝達される軸線方向の力との対応関係により、軸線方向におけるインナーレース25の位置が決定される。
例えば、油圧室31の油圧が上昇した場合は、インナーレース25をリヤカバー12側に向けて押圧する力が増加して、インナーレース25が図3で左方向に動作する。これに対して、油圧室31の油圧が低下した場合は、インナーレース25をリヤカバー12から離れる方向に押圧する力が増加して、インナーレース25が図3で右方向に動作する。なお、インナーレース25に加えられ、かつ、軸線方向で逆向きの力同士が釣り合った場合は、インナーレース25が軸線方向の所定位置で停止する。まず、インナーレース25が図3で右方向に動作した場合について説明する。この場合は、凹部23の谷底23Aに接触する外接円と、凸部24の頂点24Aに接触する内接円との半径差が比較的大きくなる。つまり、カム面22に沿って転動する転動体36が、凹部23および凸部24を交互に転動し、インナーレース25の半径方向に動作する。インナーレース25の半径方向におけるピストン35の動作量がストロークである。
ここで、インナーレース25の半径方向におけるピストン35の位置と、圧縮コイルばね40,41からピストン35に与えられる力、つまり、バネ荷重との関係について説明する。圧縮コイルばね40は常にたわむが、図3で軸線A1よりも上側に示すように、ピストン35が半径方向で外側にある場合は、圧縮コイルばね41でたわみが発生しない。つまり、圧縮コイルばね40のばね荷重がピストン35に加えられる。これに対して、図3で軸線A1よりも下側に示すように、ピストン35が半径方向で内側にある場合は、圧縮コイルばね41もたわむ。つまり、圧縮コイルばね40,41のばね荷重が共にピストン35に加えられる。また、圧縮コイルばね40,41のたわみ量が増加するほど、ピストン35に加えられるばね荷重が増加する。
つぎに、前後進切換装置7の制御について説明する。まず、シフトポジションとしてドライブポジション(前進ポジション)が選択された場合は、前進用クラッチC1が係合され、かつ、後進用ブレーキBRが解放される。すると、前後進切換装置7を構成する遊星歯車機構の3つの回転要素が一体回転する。これに対して、シフトポジションとしてリバースポジション(後進ポジション)が選択された場合は、後進用ブレーキBRが係合され、かつ、前進用クラッチC1が解放される。すると、リングギヤ51が入力要素となり、かつ、停止しているキャリヤ53が反力要素となって、サンギヤ50がリングギヤ51とは逆方向に回転する。このようにして、コネクティングドラム15のトルクが、無段変速機8のプライマリシャフト49に伝達される。なお、ニュートラルポジションまたはパーキングポジションが選択された場合は、後進用ブレーキBRが解放され、かつ、前進用クラッチC1が解放される。
以上のようにして、無段変速機8のプライマリシャフト49にトルクが伝達されると、このプライマリシャフト49のトルクがベルト60を経由してセカンダリシャフト54に伝達される。この無段変速機8においては、油圧サーボ機構61,62における圧油の供給状態が油圧制御装置65により制御される。例えば、油圧サーボ機構61に供給される圧油の流量が制御されて、プライマリプーリ58におけるベルト60の巻き掛け半径、およびセカンダリプーリ59におけるベルト60の巻き掛け半径が制御され、無段変速機8の変速比、つまり、プライマリシャフト49の回転速度と、セカンダリシャフト54の回転速度との比を無段階(連続的)に制御することができる。また、この変速制御に加えて、セカンダリプーリ59からベルト60に加える挟圧力が調整されて、無段変速機8のトルク容量が制御される。
このような変速制御と並行して、車速および加速要求(例えばアクセル開度)などに基づいて、車両1における必要駆動力が判断され、その判断結果に基づいて目標エンジン出力が求められる。その目標エンジン出力を最適燃費で達成する目標エンジン回転数が求められ、その目標エンジン回転数に応じて目標エンジントルクが求められる。そして、実エンジン回転数を目標エンジン回転数に近づけるように、無段変速機8の変速比が制御される。また、無段変速機8の変速比の制御と並行して、電子スロットルバルブの制御などにより、実エンジントルクが目標エンジントルクに近づけられる。なお、実エンジン回転数を目標エンジン回転数に近づける場合、無段変速機8の変速比の制御に加えて、インナーレース25とアウターレース18との相対回転数差の制御も実行される。以上のようにして、エンジントルクがインプットシャフト4および前後進切換装置7を経由して、無段変速機8のセカンダリシャフト54に伝達される。このセカンダリシャフト54のトルクは、伝動装置9および最終減速機10を経由して車輪11に伝達される。
この実施例1において、インナーレース25とアウターレース18との回転数差が大きい場合に、インナーレース25を図3で左側に動作させて、ピストン35のストロークを減少させると、油室39に吸入されるオイル量が減少して流通抵抗が低下するため、カム面22に対する転動体36の追従性が向上する。言い換えれば、「転動体36が凸部24を乗り越える場合に、転動体36がカム面22から離れ、その後に、転動体36がカム面22に衝突する現象」を回避できる。したがって、転動体36とカム面22との衝突による振動・騒音を抑制でき、かつ、オイルポンプ6から吐出される圧油の油圧変動を抑制できる。また、インナーレース25を軸方向に動作させて、ピストン35の動作領域およびおよび位置を変更することにより、ピストン35に与えられるばね荷重を調整できる。このため、カム面22に対する転動体36の追従性を高める必要がない場合、例えば、インナーレース25とアウターレース18との回転数差が小さい場合には、インナーレース25を図3で右方向に動作させて、ピストン35のストロークを増加させると、ピストン35に与えられるばね荷重が増加することを抑制できる。このように、「ピストン35の全動作範囲で転動体36とカム面22との接触部分における摩擦損失が増加すること」を抑制でき、インナーレース25とアウターレース18との間における動力伝達効率の低下を抑制できる。
そして、この実施例1においては、ピストン35のストロークを減少させると、油室39の最大容積は狭くなり、かつ、油室39の容積の変化量も少なくなり、油室39に吸入されるオイル量が少なくなる。これに対して、ピストン35のストロークを増加させると、油室39の最大容積は広くなり、かつ、油室39の容積の変化量も多くなり、油室39に吸入されるオイル量が多くなる。このような、オイルポンプ6のオイル吸入特性を利用して、図1に示すような制御を実行可能である。まず、オイルポンプ6の吸入量が所定範囲内にあるか否かが判断される(ステップS1)。ここで、所定範囲は吸入量の上限値および下限値により決定される範囲である。前述のように、インナーレース25とアウターレース18との回転数差が大きくなると、転動体36がカム面22から離れる可能性がある。ここで、回転数差が大きくなることに比例して吸入量が増加することから、転動体36がカム面22から離れる可能性がある吸入量に基づいて、上限値を決定している。また、オイルポンプ6から油圧サーボ機構61,62に供給されるオイル量が必要オイル量に満たなくなることを避けるために、油圧サーボ機構61,62に供給するべき必要オイル量に基づいて、下限値が決定されている。これらの上限値および下限値は、実験的に求められたデータからマップ化されて電子制御装置64に記憶されている。
そこで、ステップS1の判断時点で、オイルポンプ6の吸入量が上限値を越えている場合は、ステップS2に進み、ピストン35のストローク量が少なく(小さく)なるように、インナーレース25を軸線方向に動作させる制御を実行して、リターンされる。つまり、ステップS2では、インナーレース25が図3で左方向に移動される。これに対して、ステップS1の判断時点で、オイルポンプ6の吸入量が下限値未満である場合は、ステップS3に進み、ピストン35のストローク量が多く(大きく)なるように、インナーレース25を軸線方向に動作させる制御を実行して、リターンされる。つまり、ステップS3では、インナーレース25が図3で右方向に移動される。さらに、ステップS1の判断時点で、オイルポンプ6の吸入量が所定範囲内にある場合は、この制御ルーチンを終了する。なお、図1のステップS1に「車両1の発進時であること」という条件を加えることも可能である。また、図1のフローチャートにおいて、「オイルの吸入流量」に代えて、「オイルの吸入流速」を用いることも可能である。
つぎに、この実施例1におけるオイルポンプ6の特性変化の一例を、図5のタイムチャートに基づいて説明する。このタイムチャートにおいては、エンジン回転数が略一定であるものとして説明する。まず、時刻t1以前においては、カム面22に対する転動体36の追従性を考慮して、インナーレース25が図3で左側に動作されており、ピストン35のストロークが小さくなっている。このため、油室39の容積、すなわち、ポンプ容量は少ないとともに、カム面22と転動体36との係合力は低い。したがって、インナーレース25とアウターレース18との回転数差、すなわち、エンジン回転数と出力回転数との差が大きく、オイルポンプ6のオイル吸入量は多く、そのオイル吸入量が所定の範囲内にある。時間の経過にともない、インナーレース25を図3で軸方向の右側に動作させると、ピストン36のストロークが増加して、油室39の容積が増加する。また、カム面22と転動体36との係合力が増加して、出力回転数が上昇し、エンジン回転数と出力回転数との差が減少する。
そして、時刻t1において、インナーレース25の軸方向における移動が停止されると、ピストン35のストロークも一定となり、油室39の容積が一定となる。この時刻t1以降、吸入制御弁68の連通面積が狭められて、油室39に吸入されるオイル量が減少して下限値未満となる。また、油室39から吐出されるオイルの流通抵抗が増加すると、油室39の油圧が上昇し、カム面22と転動体36との係合力が増加する。したがって、時刻t1以降も出力回転数が上昇し、エンジン回転数と出力回転数との差が一層減少する。そして、時刻t2以降、吐出制御弁69の連通面積が略一定に維持されると、油室39から吐出されるオイル量が略一定となる。このため、カム面22と転動体36との係合力が略一定となり、エンジン回転数と出力回転数との差が一定となる。このように、実施例1においては、ピストン35のストロークを小さくすることにより、油室39に吸入されるオイル量が減少してオイルの流通抵抗が低下し、カム面22に対する転動体36の追従性が向上する。したがって、「転動体36がカム面22から離れ、ついで、転動体36がカム面22に衝突して振動・騒音が発生する」という不都合を回避できる。また、油室39の容積が急激に変化して、油室39から吐出される圧油の油圧が急激に変化することを抑制できる。
図2ないし図4で示された構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、アウターレース18およびインナーレース25が、この発明の第1の回転部材および第2の回転部材に相当し、カム面22が、この発明のカム面に相当し、ピストン35および転動体36が、この発明の動作部材に相当し、油室39が、この発明の油室に相当し、電子制御装置64および吸入制御弁68が、この発明の吸入制御装置および吸入量調整装置に相当し、電子制御装置64および吐出制御弁69が、この発明の吐出量調整装置に相当し、オイルポンプ6が、この発明の動力伝達装置に相当し、油圧室31および圧力制御弁70およびインナーレース25が、この発明のストローク調整装置に相当し、エンジン2が、この発明の動力源に相当し、車輪11が、この発明の車輪に相当し、無段変速機8が、この発明のベルト式無段変速機に相当する。また、アウターレース18およびインナーレース25の半径方向が、この発明の第1の方向に相当し、軸方向が、この発明の第2の方向に相当する。また、図1のフローチャートに示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS1,S2,S3が、この発明のオイル量制限手段に相当する。
なお、この実施例1において、ピストン35にばね荷重を加える圧縮コイルばねは、全ての高さを同一に設定してもよい。また、この実施例1においては、インナーレース25を軸方向に動作させて、ピストン35のストロークを調整しているが、アクチュエータによりアウターレース18を軸方向に動作させる構成とし、アウターレース18の動作により、ピストン35のストロークを調整するように設計変更することも可能である。さらには、インナーレース25およびアウターレース18を共に軸方向に動作するように構成してもよい。なお、図2のパワートレーンにおいて、配置レイアウト上、エンジン2と無段変速機8との間に、オイルポンプ6を配置することも可能である。さらに、動力伝達経路において、無段変速機8から最終減速機10に至る経路に、オイルポンプ6を配置することも可能である。また、実施例1においては、インナーレースに油室が設けられ、この油室の油圧によりボス部がスリーブ側に向けて軸方向に押圧される構成となっているが、油圧室をスリーブ側に設け、その油圧室の油圧によりボス部がインプットシャフト側に向けて軸方向に押圧される構成にすることも可能である。この場合、ピストン部材を動作させる油圧室に接続される油路は、インプットシャフト側に設けることも可能である。さらに、カム面に、軸方向でスリーブに近づくほど内径が大きくなるようなテーパを施すことも可能である。
なお、単一のオイルポンプにおいて、ピストンの動作ストロークを変更する他の構成としては、一方の回転部材に形成されたカム面を軸線方向に変位させるとともに、そのカム面に接触して軸線方向に動作するピストンおよび転動体が、他方の回転部材に取り付けられている構成の動力伝達装置を採用することもできる。この場合、軸線方向における凹部の谷底が、半径方向で異なる位置となるようにテーパが施される。そして、ピストンおよび転動体を他方の回転部材の半径方向に動作させることにより、ピストンおよび転動体の軸線方向におけるストローク量を制御することが可能である。さらに、図1の構成では、凹部23にテーパが施されているが、凸部24にテーパを施すことも可能である。さらには、凹部23および凸部24の両方にテーパを施すことも可能である。また、実施例1において、凹部23の外接円の半径が、軸線方向で一定となるように構成し、凸部24の内接円の半径を、軸線方向で異ならせる構成とすることにより、ピストンの動作ストロークを変化させることもできる。さらに、実施例1において、凹部23の外接円の半径が、軸線方向で異なるように構成し、凸部24の内接円の半径が、軸線方向で異ならせる構成とすることにより、ピストンの動作ストロークを変化させることもできる。
つぎに、図2に示されたオイルポンプ6の他の構成例を、図6および図7に基づいて説明する。図6はオイルポンプ6の構成を示す概念的な断面図、図7は、オイルポンプ6を含む油圧回路図である。この実施例2におけるオイルポンプ6は、基本的には実施例1で説明したオイルポンプ6と同じ構成を有しているが、オイルの吸入容積が異なる複数のオイルポンプ(油室)が設けられている点で、実施例1と相違する。すなわち、アウターレース80には複数、具体的には2つのカム面81,82が設けられている。このアウターレース80が、コネクティングドラム15に連結される。このカム面81,82は、アウターレース80の軸方向で異なる位置に配置されている。また、カム面81は半径方向に変位された凹部81Aおよび凸部83を、円周方向に交互に配置して連続された波形形状を有している。また、カム面82は半径方向に変位された凹部84および凸部85を、円周方向に交互に配置して連続された波形形状を有している。アウターレース80の円周方向で、凹部81Aの数と凹部84の数とは同じであり、凸部83の数と凸部85の数とは同じである。そして、凹部81Aの谷底の外接円の半径は、凹部84の谷底の外接円の半径よりも大きく設定されている。これに対して、凸部83の頂点の内接円の半径と、凸部85の頂点の内接円の半径とが同一である。さらに、軸線方向で、凹部81A,84の谷底の外接円の半径は一定に設定され、軸線方向で、凸部83,85の頂点の内接円の半径は一定に設定されている。
一方、エンジン2と動力伝達可能に構成されたインプットシャフト4には、2つのインナーレース86,87が設けられている。このインプットシャフト4およびインナーレース86,87は一体回転するように構成されている。また、インナーレース86には、円周方向に沿って複数のシリンダ88が設けられており、各シリンダ88にはピストン89が配置されている。シリンダ88の底面とピストン89の底面との間には油室90が形成されており、その油室90の吸入口90Aには吸入油路91が接続されている。さらに、ピストン89には転動体92が取り付けられており、油室90に設けられた圧縮コイルばね93のばね荷重が、ピストン89に加えられるように構成されている。このようにして、圧縮コイルばね93のばね荷重がピストン89に伝達されて、転動体92がカム面81に押し付けられる。
一方、インナーレース87には、円周方向に沿って複数のシリンダ94が設けられており、各シリンダ94にはピストン95が配置されている。この図6では、シリンダ88,94の断面積(ピストンの動作方向に直交する方向の断面積)が同じに設定されている。また、シリンダ94の底面とピストン95の底面との間には油室96が形成されており、その油室96の吸入口96Aには吸入油路97が接続されている。さらに、ピストン95には転動体98が取り付けられており、油室96に設けられた圧縮コイルばね99のばね荷重が、ピストン95に加えられるように構成されている。このようにして、圧縮コイルばね99のばね荷重がピストン95に伝達されて、転動体98がカム面82に押し付けられる。上記のように構成されたインナーレース86およびカム面81およびピストン89および転動体92および油室90および圧縮コイルばね93により、一方のオイルポンプ105が構成され、インナーレース87およびカム面82およびピストン95および転動体98および油室96および圧縮コイルばね99により、他方のオイルポンプ106が構成されている。オイルポンプ106の単独の容量(吸入容量)は、オイルポンプ106の駆動が要求されるエンジン回転数、アウターレース80の回転数、オイルポンプ106の吐出油圧などに基づいて、転動体98がカム面82から離れることなく追従可能となるように設定されている。
前記油路44から吸入油路91,97に至る経路には方向制御弁100が設けられている。方向制御弁100は、流入ポート101,102を有しているとともに、吐出ポート103,104を有している。そして、流入ポート101,102が油路44に接続され、吐出ポート103が吸入油路91に接続され、吐出ポート104が吸入油路97に接続されている。この方向制御弁100は、ソレノイドバルブなどにより構成されており、方向制御弁100の制御により、流入ポート101と吐出ポート103とが接続・遮断され、流入ポート102と吐出ポート104とが接続・遮断される。
さらに、前記油室90の吐出口90Bから吐出油路48に至る経路には、逆止弁107が設けられている。逆止弁107は、吐出口90Bのオイルが吐出制御弁108に流れることを許容し、吐出油路48のオイルが吐出口90Bに流れ込むことを防止する構成を有している。また、前記油室96の吐出口96Bから吐出油路48に至る経路には、逆止弁109が設けられている。逆止弁109は、吐出口96Bのオイルが吐出油路48に流れることを許容し、吐出油路48のオイルが吐出口96Bに流れ込むことを防止する構成を有している。さらに、吐出油路48には絞り部111が設けられている。絞り部111は、オリフィスまたはチョークのいずれでもよい。さらに、方向制御弁100は電子制御装置64により制御される。
この実施例2においては、インナーレース86,87とアウターレース80とが相対回転すると、転動体92がカム面81に沿って円周方向に転動し、転動体98がカム面82に沿って円周方向に転動する。このようにして、ピストン89がインナーレース86の半径方向に往復動し、ピストン95がインナーレース87の半径方向に往復動する。ピストン89が動作して油室90の容積が拡大・縮小されると、オイルパン67のオイルを油室90に吸入するとともに、油室90のオイルを吐出油路48に吐出することが可能である。また、ピストン95が動作して油室96の容積が拡大・縮小されるされると、オイルパン67のオイルを油室96に吸入するとともに、油室96のオイルを吐出油路48に吐出することが可能である。この実施例2では、凹部81Aの谷底の外接円の半径は、凹部84の谷底の外接円の半径よりも大きく設定されているとともに、凸部83の頂点の内接円の半径と、凸部85の頂点の内接円の半径とが同一に設定されている。このため、インナーレース86の半径方向におけるピストン89のストロークは、インナーレース87の半径方向におけるピストン95のストロークよりも大きく、油室90の最大容積は油室96の最大容積よりも大きくなる。また、油室90の容積の変化量は、油室96の変化量よりも多くなる。つまり、オイルポンプ105のオイル吸入量・吐出量は、オイルポンプ106のオイル吸入量・吐出量よりも多い。
つぎに、方向制御弁100の制御例を説明する。まず、方向制御弁100の制御モードとして第1のモードが選択された場合は、吸入ポート101と吐出ポート103とが接続され、かつ、吸入ポート102と吐出ポート104とが接続される。このため、吸入油路44のオイルがオイルポンプ105,106に吸入され、かつ、吐出油路48に吐出される。つまり、油室90に吸入されるオイル量は大流量Q1となる。これに対して、方向制御弁100の制御モードとして第2のモードが選択された場合は、吸入ポート102と吐出ポート104とが接続され、かつ、吸入ポート101と吐出ポート103とが遮断される。このため吸入油路44のオイルがオイルポンプ106に吸入され、かつ、吐出油路48に吐出されるとともに、オイルポンプ105ではオイルの吸入・吐出がおこなわれない。つまり、オイルポンプ105ではピストン89が下死点の位置で停止して無負荷となり、油室96に吸入されるオイル量は小流量Q2となる。ここで、
大流量Q1>小流量Q2
の関係にある。なお、転動体とカム面との係合力によりトルク伝達がおこなわれる点は、実施例1と同じである。
つぎに、実施例2で方向制御弁100の制御モードの変更例を、図8のフローチャートに基づいて説明する。まず、オイルポンプ105,106に吸入されるオイル量が所定値の範囲内にあるか否かが判断される(ステップS11)。このステップS11の判断内容は、ステップS1の判断内容と同じである。このステップS11で吸入量が上限値を越えていると判断された場合は、ステップS12の処理を実行し、リターンされる。まず、ステップS11の判断時点で、第1のモードが選択されていた場合は、ステップS12では、第1のモード1から第2のモードに切り換える処理が実行される。この処理により、吸入量が大流量Q1から小流量Q2に変更される。なお、オイルポンプ106単独の吸入量は、構造上、前記上限値を越えないように設計されているため、第2のモードが選択されている場合に、ステップS11で吸入量が上限値を越えていると判断されることはない。
一方、ステップS11で吸入量が下限値よりも少ないと判断された場合は、ステップS13の処理を実行し、リターンされる。まず、ステップS13の判断時点で、第1のモードが選択されていた場合は、ステップS13では、第1のモードが継続して使用される。この処理により、吸入量が大流量Q1に維持される。これに対して、ステップS11の判断時点で、第2のモードが選択されていた場合は、ステップS13では第2のモードから第1のモードに切り替えられる。この処理により、吸入量が小流量Q2から大流量Q1に変更される。なお、ステップS11の判断時点で、吸入量が所定範囲内であると判断された場合は、肯定的に判断された場合は、この制御ルーチンを終了する。以上のように、実施例2においても、実施例1と同様にオイルポンプの吸入量、具体的には、油室の容積を変更することにより、実施例1と同様の効果を得られる。また、図8の制御例においても、ステップS12に進み、第2のモードから第1のモードに切り換えることにより、ストロークの大きいピストン89の動作を停止させ、ストロークの小さいピストン95を動作させて、吐出油路48にオイルを供給することができる。したがって、オイルポンプ105,106のうち、カム面に対する転動体の追従性が高い方のオイルポンプ106を利用できる。なお、図8の制御例において、ステップS11の判断に、「車両1の発進時であること」という条件を加えることも可能である。
この実施例2で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、カム面81,82が、この発明の「カム面」および「複数のカム面」に相当し、半径方向が、この発明の「第1の方向」に相当し、ピストン89および転動体92と、ピストン95および転動体98とが、この発明の「複数の動作部材」に相当し、油室90,96が、この発明の「複数の油室」に相当し、方向制御弁100が、この発明の吸入制御装置および吸入量調整装置を兼ねている。また、絞り部111が、この発明の吐出量調整装置に相当する。なお、図8に示されたステップS11およびステップS12が、この発明のオイル量制限手段に相当する。
また、この実施例2においては、ピストンのストロークが異なる2基のオイルポンプが設けられているが、ピストンのストロークが異なる3基以上のオイルポンプを設け、これらのオイルポンプを選択的に切り替えることも可能である。また、複数基のオイルポンプの油路におけるオイルの吸入・遮断を制御する場合、図7のように単数の方向制御弁により、全てのオイルポンプの吸入・停止を一括して制御する構成の他、複数のオイルポンプの吸入・停止を個々に制御する流量制御弁(吸入制御弁)を設けることも可能である。さらに、この実施例2においても、インナーレースにカム面を設け、アウターレースにピストンおよび油室および転動体を設ける構成を採用することも可能である。さらに、実施例2において、軸線方向に変位するカム面を設け、そのカム面に沿って軸方向に往復動するピストンおよび転動体を有する構成の動力伝達装置においても、実施例2を適用可能である。さらに、この実施例2において、ピストンのストロークを異ならせて、吸入容積が異なる油室もしくはオイルポンプを複数設ける場合、ピストンが配置されるシリンダの断面積は同じでよい。
さらに、この実施例において、ピストンのストロークが同じであり、かつ、シリンダの断面積を異ならせた油室を複数設けることより、各油室におけるオイルの吸入量を異ならせることも可能である。この場合、吸入容積が異なる油室を円周方向で異なる位置に配置すれば、カム面は同一の構成でよい。さらに、この実施例において、円周方向における凹部および凸部の数が異なるカム面を複数設け、各カム面に沿って動作する動作部材および油室を個々に対応させて設けることにより、第1の回転部材と第2の回転部材との単位回転数差あたり、または単位時間あたりの動作部材の変位量を減少させることにより、オイルの吸入抵抗を低下させて、カム面に対する動作部材の追従性を向上させる構成を採用することもできる。さらにまた、軸線方向に変位するカム面を設け、軸線方向に動作部材を動作させて油室にオイルを吸入させ、かつ、油室からオイルを吐出される構成のオイルポンプ(アキシャルピストンポンプ)においても、この発明の実施例を適用可能である。この場合、カム面の軸方向における傾きを調整することにより、油室におけるオイルの吸入量を制限可能である。
1…車両、 2…エンジン、 6,105,106…オイルポンプ、 8…無段変速機、 11…車輪、 18,80…アウターレース、 22,81,82…カム面、 25,86,87…インナーレース、 31…油圧室、 35,89,95…ピストン、 36,92,98…転動体、 39,90,96…油室、 64…電子制御装置、 68…吸入制御弁、 69…吐出制御弁、 70…圧力制御弁、 100…方向制御弁、 111…絞り部。