この発明において、第1の部材および第2の部材は回転軸線を中心として相対回転可能に配置されている。また、この発明においては、第1の部材または第2の部材のうち、少なくとも一方が回転可能に構成される。言い換えれば、いずれか一方の部材は回転不可能に固定された固定構造物でもよい。第1の部材または第2の部材のうち、回転可能に設けられる部材は、動力源の動力が伝達されるように構成されており、前記動力源の動力が一方の部材に伝達されて、第1の部材と第2の部材とが相対回転する。第1の部材または第2の部材のうち、回転可能に設けられる部材、つまり、回転要素には、回転軸、歯車、スプロケット、スリーブ、プーリ、キャリヤ、環状部材などの要素が含まれる。これに対して、いずれか一方の部材が回転不可能に固定される場合、この固定要素としては、ラジアルピストンポンプが配置されるケーシングまたはハウジング自体、ケーシングまたはハウジングに取り付けられるブラケットもしくはフレーム、ケーシングまたはハウジングに設けられる隔壁などが挙げられる。さらに、前記ケーシングまたはハウジングは、動力源に固定される構造、または車体に固定される構造のいずれでもよい。さらに、車体自体に何れか一方の部材を固定してもよい。
前記動力源としては、熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置である内燃機関を用いることが可能である。さらに、内燃機関としては、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジン、メタノールエンジンなどを用いることができる。また動力源としては電動機を用いることも可能である。電動機は電気エネルギを運動エネルギに変換する動力装置である。また、電動機は直流電動機または交流電動機のいずれでもよい。また、電動機としては、発電機能を兼備した発電・電動機を用いることも可能である。さらには、内燃機関および電動機の両方を動力源として用いることも可能である。さらにまた、動力源として、油圧モータ、フライホイールシステムを用いることも可能である。
前記第1の部材に全周に亘って第1カムが形成されており、この第1カムは回転軸線を中心とする半径方向に変位されている。この第1カムは、前記回転軸線を中心として環状に形成される湾曲面であり、前記回転軸線と垂直な平面内における形状としては、波形形状、楕円形状、前記回転軸線から中心を偏心させた真円形状などを用いることができる。この第1カムは動作部材が接触するものであり、第1の部材と第2の部材とが相対回転すると、前記第1カムから前記動作部材に対して半径方向の力が与えられて、前記動作部材が前記第1カムの形状に倣って半径方向に動作する。この発明において、第2の部材には動作部材が取り付けられており、その動作部材は、前記回転軸線を中心とする半径方向に動作するピストンと、このピストンに取り付けられ、かつ、前記第1カムに接触する転動体とを有する。この転動体としては、ローラまたはボールを用いることが可能である。
一方、前記第2の部材にはシリンダ室が設けられており、このシリンダ室には吸入通路および吐出通路が接続されている。この吸入通路および吐出通路は、液体、例えば、水、オイル、不凍液、薬液、温水などが通過する通路であり、具体的な構造としては、開口部、ポート、窪み、溝、貫通孔などが挙げられる。そして、前記動作部材の動作によりシリンダ室の圧力が変化するとともに、前記吸入通路および吐出通路に対するシリンダ室の圧力差に基づいて、前記シリンダ室に液体が吸入および吐出される。また、前記吸入通路には吸入弁が設けられており、この吸入弁により吸入通路が開閉される。より具体的には、前記吸入弁により前記吸入通路の液体通過面積が制御される。また、吸入通路を経由してシリンダ室へ液体が吸入され、シリンダ室の液体が吸入通路を経由して排出される。これに対して、シリンダ室から液体が吐出される場合に限り吐出通路を通過する。すなわち、吐出通路は吐出専用であり、吸入通路は吸入・吐出の兼用である。この吸入弁は、前記吸入通路を形成する弁座と、前記半径方向または回転軸線方向に動作する第1弁体とを有している。さらに、前記第1の部材の円周方向に沿って、第2カムが環状に設けられている。この第2カムは、前記吸入弁を制御するためのもの、より具体的には第1弁体の動作を制御する機構である。
この発明においては、半径方向における動作部材の動作に連動して、吸入弁が開閉されるように構成されている。より具体的には、半径方向における動作部材の動作に連動して、前記第1の弁体が動作するように構成されている。この場合、前記第1弁体の動作方向が、前記動作部材の動作方向と同じ方向となるように構成してもよいし、前記第1弁体の動作方向が、前記動作部材の動作方向とは異なる方向となるように構成してもよい。さらに、前記吐出弁は、シリンダ室の圧力と吐出通路との圧力差に基づいて、開閉されるように構成されたバルブである。また、第1の弁体および第2の弁体の形状は、ボール、板、スプールなどのいずれでもよい。さらにこの発明において、アクチュエータは、第2カムを円周方向に動作させる動作力を発生する機構であり、油圧式アクチュエータまたは電磁式アクチュエータ、または機械式アクチュエータを用いることが可能である。油圧式アクチュエータは、油圧を第2カムに与えて第2カムを動作させる機構である。電磁式アクチュエータは、電磁力(磁気吸引力)を第2カムに与えて第2カムを動作させる機構である。機械式アクチュエータは、機械的な押圧力を第2カムに与えて第2カムを動作させる機構である。
この発明におけるラジアルピストンポンプは、液体の吸入および吐出をおこなう液体機械として用いる他に、動力伝達装置として用いることも可能である。ラジアルピストンポンプを動力伝達装置として用いる場合、第1の部材および第2の部材がともに回転可能に配置される。そして、前記動作部材と前記第1カムとの係合力により、前記第1の部材と第2の部材との間で動力伝達がおこなわれる。このラジアルピストンポンプを動力伝達装置として用いる場合、例えば、駆動力源から車輪に至る動力伝達経路にラジアルピストンポンプを配置することが可能である。また、駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に、ラジアルピストンポンプおよび変速機を配置することが可能である。変速機とは、入力回転数と出力回転数との比を変更可能な伝動装置である。また、変速機としては無段変速機、または有段変速機のいずれでもよい。
無段変速機は、入力回転数と出力回転数との比を、無段階に(連続的に)変更可能な変速機であり、無段変速機としては、ベルト式無段変速機またはトロイダル型無段変速機が挙げられる。この無段変速機を用いる場合、前記駆動力源から前記無段変速機に至る経路、または前記無段変速機から車輪に至る経路のいずれか一方に、前記第1の部材および第2の部材を配置することが可能である。なお、有段変速機は、入力回転数と出力回転数との比を、段階的に(不連続に)変更可能な変速機であり、有段変速機としては、遊星歯車式変速機、選択歯車式変速機、常時噛み合い式変速機等が挙げられる。前記ラジアルピストンポンプを車両に用いる場合、駆動力源の動力が、第1の部材を経由して第2の部材に伝達される構成、または、駆動力源の動力が、第2の部材を経由して第1の部材に伝達される構成のいずれであってもよい。また、この発明のラジアルピストンポンプを車両に用いる場合、前記第1の部材および第2の部材の回転軸線は、車両の前後方向、または車両の左右方向のいずれに沿って配置されていてもよい。
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。図2には、この発明のラジアルピストンポンプを有する車両Veのパワートレーンおよび制御系統の一例が、模式的に示されている。まず、車両Veのパワートレーンについて説明すれば、駆動力源としてのエンジン1が設けられており、エンジントルクが、ラジアルピストンポンプ7を経由してインプットシャフト2に伝達される構成となっている。また、前記インプットシャフト2のトルクが、ベルト式無段変速機3およびデファレンシャル4を経由して車輪5に伝達される構成となっている。前記ラジアルピストンポンプ7および前記インプットシャフト2およびベルト式無段変速機3およびデファレンシャル4は、ケーシング60内に配置されている。このケーシングは、前記エンジン1の外壁に固定されている。
また、エンジン1のクランクシャフト(図示せず)との間で動力伝達可能なトルク伝達軸6が設けられている。このトルク伝達軸6とクランクシャフトとの間に、トルク変動を吸収するダンパ機構、所定値以下のトルクを伝達するトルクリミッタなどを設けることも可能である。前記トルク伝達軸6およびインプットシャフト2が回転軸線A1を中心として回転可能に配置されているとともに、前記トルク伝達軸6からインプットシャフト2に至る動力伝達経路に、前記ラジアルピストンポンプ7が設けられている。このラジアルピストンポンプ7の構成例を図1および図2に基づいて説明する。図1は、回転軸線A1に沿った方向における断面図である。このラジアルピストンポンプ7は、前記トルク伝達軸6に取り付けられたインナーレース8と、前記インプットシャフト2に取り付けられたアウターレース9とを有している。
まず、前記インナーレース8は前記トルク伝達軸6と一体回転するように連結されている。このインナーレース8は、前記回転軸線A1を中心として環状に構成されている。また、インナーレース8には、円周方向に所定間隔をおいて複数のシリンダ110が形成されている。各シリンダ110は、インナーレース8の外周面に開口された略円筒形状の凹部である。また、各シリンダ110内にはピストン111が各々配置されている。各ピストン111は円筒形状に構成されており、そのピストン111の軸線(図示せず)と前記シリンダ110の軸線(図示せず)とが略一致する向きで、前記シリンダ110内にピストン111が配置されている。すなわち、前記ピストン111の軸線および前記シリンダ110の軸線は、共に前記トルク伝達軸6の半径方向に沿って配置されている。このような構成により、各ピストン111は前記シリンダ110内で、前記トルク伝達軸6の半径方向に往復動可能である。
つぎに、前記ピストン111を前記半径方向に動作させるための機構について説明する。まず、前記ピストン111における前記トルク伝達軸6の半径方向で外側の端部には支持軸112が取り付けられている。この支持軸112は円柱形状を有しており、その支持軸112の中心線(図示せず)は前記回転軸線A1と平行に構成されている。また、前記支持軸112は前記ピストン111に対して回転不可能に固定されている。この支持軸112にはローラ113が回転可能に取り付けられている。このローラ113は、前記ピストン111の内部に配置されており、そのローラ113の外周面の一部が前記ピストン111の外部に露出されている。そして、このローラ113は、後述するカム面に接触して転動することにより、前記ピストン111を半径方向で内側に向けて押圧する力を発生させる機構である。さらに、前記ピストン111には、支持腕114を介してローラ115が取り付けられている。このローラ115の回転中心線(図示せず)も前記回転軸線A1と平行に構成されている。前記ローラ115の外周面のうち、前記回転軸線A1を中心とする半径方向で内側に相当する部分が外部に露出している。
一方、前記アウターレース9は、前記インプットシャフト2と一体回転するように、例えば、スプライン結合、セレーション結合などにより接続されている。このアウターレース9は、前記回転軸線A1を中心として半径方向で外向きに延ばされたフランジ部116を有している。また、このフランジ部116に連続して前記回転軸線A1に沿った方向に延ばされた円筒部117が設けられている。この円筒部117は、前記インナーレース8の外側を取り囲むように配置されており、その円筒部117の内周にカム面118が形成されている。このカム面118は回転軸線A1を中心として環状に構成されており、前記回転軸線A1と垂直な平面内におけるカム面118の形状を、図3に模式的に示す。この図3に示すように、前記カム面118は略波形に構成されている。つまり、カム面118は半径方向の外側に向けて窪むように湾曲した複数の谷部119と、半径方向の内側に向けて突出するように湾曲した複数の山部120とが、円周方向で交互に、かつ、連続して配置されている。
また、前記フランジ部116に連続して前記回転軸線A1に沿った方向に延ばされた他の円筒部121が設けられている。この円筒部121は、前記回転軸線A1を中心として環状に構成されており、前記円筒部121は前記インナーレース8の外側を取り囲むように配置されている。この円筒部121の外周にはカム面122が形成されている。図3に示すように、カム面122は略波形に構成されている。つまり、カム面122は、半径方向の外側に向けて突出するように湾曲した複数の山部123と、半径方向の内側に向けて窪むように湾曲した複数の谷部124とが、円周方向で交互に、かつ、連続して配置されている。そして、全ての山部213に対応する外接円(図示せず)は、全ての山部120に対応する外接円(図示せず)よりも小径に構成されている。さらに、前記回転軸線A1を中心とする円周方向で、前記山部120の数と、前記谷部124の数とが同一であり、かつ、前記山部123の数と、前記谷部119の数とが同一に構成されている。さらにまた、前記回転軸線A1を中心とする円周方向において、前記山部120および谷部124が同じ位相に配置され、かつ、前記山部123および谷部119が同じ位相に配置されている。上記のように構成されたカム面118に前記ローラ113が接触し、かつ、前記カム面122にローラ115が接触するように配置されている。具体的には、前記カム面118の内側に前記ローラ113が配置され、前記カム面122の外側に前記ローラ115が配置されている。
一方、前記ピストン111の内部および前記シリンダ110の内部に亘ってシリンダ室125が形成されており、前記ピストン111の内部には、前記シリンダ室125に接続される吸入通路126を形成する弁座127が設けられている。この実施例では、前記吸入通路126は開口部もしくはポートである。この弁座127は、前記ピストン111の内周に形成された突出部であり、この弁座127は、前記ピストン111の内部で前記ローラ113よりも内側に配置されている。また、前記ピストン111の内部から外部に亘って弁体128が設けられている。この弁体128は、円板形状部129と、この円板形状部129の中心に連続して形成された軸部130とを有している。前記円板形状部129は前記シリンダ室125内に配置されている。また、前記支持軸112には前記半径方向に沿って軸孔(ガイド孔)131が形成されており、その軸孔131内に前記軸部130が往復動可能に挿入されている。このようにして、前記弁体128は、前記ピストン111の中心線(図示せず)に沿って半径方向に動作可能に構成されている。さらに、前記ピストン111の内部には弾性部材が取り付けられている。この弾性部材は、前記弁体128の円板形状部129を前記弁座127に押し付ける力を発生する機構であり、具体的には圧縮コイルばね132が用いられている。上記の弁体128および圧縮コイルばね132および弁座127により、吸入弁133が構成されている。
つぎに、前記吸入弁133の動作を制御する機構、具体的には、前記弁体128を、前記回転軸線A1を中心とする半径方向に動作させる機構について説明する。前記円筒部117には、前記半径方向に貫通するガイド孔134が形成されている。図4は、前記円筒部117を外周側から見た場合における部分図であり、前記ガイド孔134は前記円筒部117の円周方向に沿って所定長さを有する長孔として構成されている。このガイド孔134の長さの技術的意味は後述する。前記ガイド孔134は前記弁体128の数と同数が設けられている。そして、また前記円筒部117の内側には弁体制御カム135が配置されている。この弁体制御カム135は環状に構成されており、その弁体制御カム135の内周にカム面136が形成されている。このカム面136は、図5に示すように略波形に構成されている。つまり、カム面136は半径方向の外側に向けて窪むように湾曲した谷部137と、半径方向の内側に向けて突出するように湾曲した山部138とが、円周方向で交互に、かつ、連続して配置されている。
また、前記回転軸線A1を中心とする円周方向において、前記山部138の数と前記山部120の数とが同一に構成され、前記谷部137の数と前記谷部119の数とが同一に構成されている。また、前記山部120の内接円の半径は、前記山部138の内接円の半径と同一であり、前記谷部119の外接円の半径は、前記谷部137の外接円の半径と同一である。そして、前記弁体制御カム135の外周には、円周方向に沿って複数の係止部139が設けられている。この係止部139の配置数は、前記弁体128の数と同じである必要はない。そして、この係止部139が前記ガイド孔134内に配置されるとともに、前記係止部139がガイド孔134内で円周方向に動作可能である。このようにして、前記回転軸線A1を中心とする円周方向で、前記カム面136と前記カム面118とを相対移動させることが可能に構成されている。より具体的には、前記円周方向で、前記山部138および前記谷部137の位相をずらすことが可能である。
さらに、前記弁体制御カム135を円周方向に動作させる油圧アクチュエータ147について説明する。前記アウターレース9のフランジ116における前記円筒部117よりもさらに外側に別の円筒部140が形成されている。そして、前記円筒部117と円筒部140との間にはシリンダ141が形成されており、そのシリンダ141内にピストン142が動作可能に配置されている。このシリンダ141およびピストン142は、前記係止部139の数と同数を、円周方向に複数配置してもよいし、前記シリンダ141および前記ピストン142を環状とし、かつ、単数配置してもよい。前記ピストン142は前記回転軸線A1に沿った方向に動作可能に構成されている。また、前記シリンダ141内には油圧室143が設けられている。また、前記フランジ部116には油路144が設けられており、この油路144が前記油圧室143に接続されている。前記油路144は前記フランジ部116の半径方向に延ばされており、その油路144の最も外周端に前記油圧室143が接続されている。そして、前記油圧室143の油圧を、後述する油圧制御装置により制御可能であり、前記油圧室143の油圧変化に応じて、前記ピストン142を回転軸線A1に沿った方向(図1の右方向)に押圧する力が変化する。
これに対して、前記ピストン142を、前記油圧室143の押圧力とは逆向きに押圧する力を生じさせる弾性部材が、前記シリンダ141内に配置されている。具体的には、前記シリンダ141内に圧縮コイルばね145が配置されており、その圧縮コイルばね145から前記ピストン142に力が加えられて、前記ピストン142が図1で左方向に押圧される。さらに、前記ピストン142の内周面にはガイド溝146が形成されている。このガイド溝146は前記係止部139が配置されるものであり、そのガイド溝146の幅方向の中心線(図示せず)は、図4に示すように、前記回転軸線A1に対して交差する方向に傾斜(ねじれ)が付与されている。なお、ガイド溝146の傾斜方向はいずれでもよい。そして、前記ピストン142が前記回転軸線A1に沿った方向に動作すると、前記ピストン142から前記係止部139に対して円周方向の動作力が与えられる。具体的には、前記ピストン142が動作する方向に応じて、前記弁体制御カム135が円周方向に沿って、正方向または逆方向のいずれにも動作可能である。上記のように構成された油圧室143および圧縮コイルばね145および前記ピストン142などの要素により、前記弁体制御カム135を円周方向に動作させる機構である油圧アクチュエータ147が構成されている。また、前記円筒部117には回転軸線A1に沿った方向に長孔160が形成されており、前記ピストン142にはピン161が取り付けられている。そして、前記ピストン142が回転軸線A1に沿った方向に動作すると、そのピン161が長孔160内を往復動する。このようにして、前記アウターレース9と前記ピストン142とが円周方向に相対回転することを防止する回り止め機構が構成されている。
つぎに、前記シリンダ室125にオイルを吸入する経路の構成を、図1に基づいて説明する。前記円筒部117には内向きのフランジ部148が設けられている。このフランジ部148は、前記回転軸線A1に沿った方向で、前記インナーレース8と前記エンジン1との間に配置されている。また、前記フランジ部148は前記アウターレース9と一体回転するものであり、前記トルク伝達軸6および前記インナーレース8に対して相対回転可能に構成されている。このフランジ部148の内側には軸孔149が形成されており、この軸孔149内に前記トルク伝達軸6が配置されている。このフランジ部148と前記トルク伝達軸6との間にはニードルベアリング(図示せず)が設けられている。このようにして、前記円筒部117および前記フランジ部116,148により取り囲まれた環状の空間B1内に、前記インナーレース8が配置されている。また、前記アウターレース9の内周面と前記インナーレース8のボス部との間に液密にシールするOリング(図示せず)が設けられている。さらに、前記フランジ部148と前記インナーレース8との間を液密にシールするOリング(図示せず)が設けられている。このようなOリングにより、前記空間B1が液密にシールされている。そして、前記ピストン111の内部が前記空間B1に接続されている。具体的には、前記吸入通路126が前記空間B1に接続されている。また、前記フランジ部148には通路149が貫通して形成されている。一方、図2に示すように、前記ケーシング60の隔壁(図示せず)には吸入油路18が形成されており、その吸入油路18が前記通路149に接続されている。
つぎに、前記シリンダ室125からオイルを吐出する経路の構成を、図1に基づいて説明する。前記インナーレース8には、前記シリンダ室125に接続する吐出通路150が開口されている。この吐出通路150を開閉する吐出弁151の構成を説明する。前記トルク伝達軸6の外周面と前記インナーレース8との間には、前記吐出通路150を開閉する弁体152が設けられている。この弁体152は板形状に構成されており、その弁体152は支持軸153を中心として動作可能となるように、前記トルク伝達軸6に取り付けられている。また、前記トルク伝達軸6の外周における前記吐出通路150の内側(半径方向の内側)に相当する箇所には、傾斜面154が設けられている。この傾斜面154は前記回転軸線A1に沿った方向で、前記エンジン1に近づくことにともない、前記傾斜面154が前記吐出通路150から離れる方向に傾斜している。この傾斜面154は、各吐出通路150毎に、前記トルク伝達軸6に部分的に複数箇所設けてもよいし、前記トルク伝達軸6の全周に亘って環状に傾斜面154を形成してもよい。
そして、前記支持軸153は、前記回転軸線A1に沿った方向で、前記傾斜面154が前記吐出通路150に最も近い箇所に配置されている。また、この支持軸153の回転中心線(図示せず)は、前記回転軸線A1と垂直な平面(図示せず)に沿って配置されている。さらに、前記傾斜面154と前記弁体152との間には圧縮コイルばね155が配置されており、その圧縮コイルばね155から前記弁体152に対して、その弁体152を前記インナーレース8に押し付ける向きの力が与えられる。言い換えれば、前記吐出通路150を閉じるように、前記弁体152を動作させる力が与えられる。そして、前記傾斜面154と前記インナーレース8との間に油路156が形成されている。また、前記トルク伝達軸6には、図2に示すように油路19が形成されており、その油路19が前記油路156に接続されている。
前記ラジアルピストンポンプ7に接続された油圧回路の構成を、図1に基づいて説明する。前記ケーシング60の内部もしくは、ケーシング60の下部にはオイルパン21が設けられており、このオイルパン21から吸入油路18に至る経路に吸入制御弁70が設けられている。この吸入制御弁70は、例えばソレノイドバルブにより構成されており、この吸入制御弁70はオイルの流通面積(開度)を制御することが可能である。すなわち、この吸入制御弁70は、前記シリンダ室125に吸入されるオイル量を制御する流量制御弁である。さらに、前記吐出油路19には、油路34を介在させて油圧制御装置26が接続されている。また、前記吐出油路19と前記油路34との間には、吐出制御弁27が設けられている。この吐出制御弁19は、例えばソレノイドバルブにより構成されており、この吐出制御弁19はオイルの流通面積(開度)を制御することが可能である。すなわち、この吐出制御弁19は、前記シリンダ室125から吐出されるオイル量を制御する流量制御弁である。
つぎに、前記インプットシャフト2から前記車輪5に至る動力伝達経路の構成を説明する。前記インプットシャフト2から前記ベルト式無段変速機3に至る経路には、前後進切換装置37が設けられている。前後進切換装置37は、エンジン1の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、インプットシャフト2の回転方向に対するプライマリシャフト38の回転方向を切り換える機能を備えている。図1に示す例では、前後進切換装置37としてダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。すなわち、インプットシャフト2と一体回転するサンギヤ39と、サンギヤ39と同心状に配置されたリングギヤ40と、サンギヤ39に噛合したピニオンギヤ41と、ピニオンギヤ41およびリングギヤ40に噛合した他のピニオンギヤ42とが設けられ、ピニオンギヤ41,42がキャリヤ43によって、自転かつ公転自在に保持されている。このキャリヤ43とプライマリシャフト38とが一体回転するように連結されている。
さらに、インプットシャフト2と、キャリヤ43とを選択的に連結・解放する前進用クラッチ44が設けられている。またリングギヤ40を選択的に固定することにより、インプットシャフト2の回転方向に対するプライマリシャフト38の回転方向を反転する後進用ブレーキ45が設けられている。上記前進用クラッチ44および後進用ブレーキ45の係合・解放は、油圧制御装置26により制御される構成となっている。前記ベルト式無段変速機3は、互いに平行に配置されたプライマリプーリ46とセカンダリプーリ47とを有するとともに、プライマリプーリ46およびセカンダリプーリ47にはベルト48が巻き掛けられている。また、プライマリプーリ46からベルト48に加えられる挟圧力を制御する油圧サーボ機構49と、セカンダリプーリ47からベルト48に加えられる挟圧力を制御する油圧サーボ機構50とが設けられている。この油圧サーボ機構49,50に供給される圧油の油圧が油圧制御装置26により制御される構成となっている。前記プライマリプーリ46はプライマリシャフト38と一体回転するように構成され、セカンダリプーリ47はセカンダリシャフト51と一体回転するように構成されている。プライマリシャフト38とセカンダリシャフト51とは相互に並行に配置され、セカンダリシャフト51のトルクが、伝動機構52およびデファレンシャル4を経由して車輪5に伝達される構成となっている。
つぎに、図1に示された車両Veの制御系統を説明すれば、車両Veの全体を制御するコントローラとしての電子制御装置53が設けられている。この電子制御装置53には、車両Veに対する加速要求、車両Veに対する制動要求、エンジン回転数、インプットシャフト2の回転数、プライマリシャフト38の回転数、セカンダリシャフト51の回転数、シフトポジション、車速などを検知するセンサの信号が入力される。これに対して、電子制御装置53からは、油圧制御装置26を制御する信号、吐出制御弁27、吸入制御弁70を制御する信号、エンジン1を制御する信号などが出力される。前記油圧制御装置26は、油圧回路、ソレノイドバルブなどを有する公知のものであり、前記油圧室143の油圧を制御する圧力制御弁(図示せず)を有している。
上記のように構成されたラジアルピストンポンプ7におけるオイルの吸入・吐出作用、およびラジアルピストンポンプ7における動力伝達原理を説明する。まず、エンジン1に燃料が供給され、かつ、その燃料が燃焼されてトルクが出力されると、そのエンジントルクは前記トルク伝達軸6に伝達される。このトルク伝達軸6のトルクは、前記ラジアルピストンポンプ7を経由してインプットシャフト2に伝達される。なお、ラジアルピストンポンプ7を介在させたトルクの伝達原理は後述する。ここで、シフトポジションとしてドライブポジション(または前進ポジション)走行が選択された場合は、前後進切換装置37において、前進用クラッチ44が係合され、かつ後進用ブレーキ45が解放される。その結果、インプットシャフト2およびキャリヤ43が一体回転可能に連結されて、インプットシャフト2のトルクがプライマリシャフト38に伝達される。この場合、インプットシャフト2の回転方向とプライマリシャフト38の回転方向とが同じになる。
これに対して、シフトポジションとしてリバースポジション(後退ポジション)が選択された場合は、後進用ブレーキ45が係合されて、前進用クラッチ44が解放される。その結果、リングギヤ40が反力要素となり、インプットシャフト2のトルクがプライマリシャフト38に伝達される。この場合、プライマリシャフト38の回転方向は、インプットシャフト2の回転方向とは逆になる。このように、ドライブポジションまたはリバースポジションが選択された場合は、前後進切換装置37が、動力伝達をおこなうことが可能な状態となる。これに対して、ニュートラルポジションまたはパーキングポジションが選択された場合は、前進用クラッチ44および後進用ブレーキ45が、共に解放されて、前後進切換装置37が、動力伝達をおこなうことが不可能な状態となる。
一方、ベルト式無段変速機3においては、油圧サーボ機構49,50における圧油の供給状態が油圧制御装置26により制御される。具体的には、油圧サーボ機構49に供給される圧油の流量が制御されて、プライマリプーリ46におけるベルト48の巻き掛け半径、およびセカンダリプーリ47におけるベルト48の巻き掛け半径が制御され、ベルト式無段変速機3の変速比、つまり、プライマリシャフト38の回転速度と、セカンダリシャフト51の回転速度との比を無段階(連続的)に制御することができる。また、この変速制御に加えて、セカンダリプーリ47からベルト48に加える挟圧力が調整されて、ベルト式無段変速機3のトルク容量が制御される。
例えば、車速および加速要求(例えばアクセル開度)などに基づいて、車両における必要駆動力が判断され、その判断結果に基づいて目標エンジン回転数および目標エンジントルクが求められる。具体的には、必要駆動力に応じて、目標エンジン出力および目標モータ・ジェネレータ出力が求められ、その目標エンジン出力を最適燃費で達成する目標エンジン回転数が求められ、その目標エンジン回転数に応じて目標エンジントルクが求められる。そして、実エンジン回転数を目標エンジン回転数に近づけるように、ベルト式無段変速機3の変速比が制御される。上記のようにして、インプットシャフト2のトルクが、前後進切換装置37およびベルト式無段変速機3を経由して伝動機構52に伝達されるとともに、伝動機構52のトルクがデファレンシャル4を経由して車輪5に伝達される。
つぎに、前記トルク伝達軸6と前記インプットシャフト2との間におけるトルクの伝達原理およびトルク制御方法、言い換えれば、前記ラジアルピストンポンプ7におけるトルクの伝達原理、およびラジアルピストンポンプ7における伝達トルクの制御方法を説明し、かつ、ラジアルピストンポンプ7の容量の制御について説明する。前記エンジン1が運転されると、前記インナーレース8を図3の所定方向、例えば、時計方向に回転させる向きのトルクが発生する。この実施例においては、前記トルク伝達軸6と前記インプットシャフト2との間で伝達されるトルクの容量、前記ラジアルピストンポンプ7におけるオイル吸入量およびオイル吐出量が、以下のようにして制御される。まず、前記インナーレース8が回転すると、前記ローラ115が前記カム面122に沿って(接触しながら)転動し、かつ、前記転動体113が前記カム面118に沿って(接触しながら)転動する。
ここで、前記ローラ115の転動により、前記ピストン111を前記半径方向で外側に向けて押し出す(上昇させる)向きの力が発生し、前記ローラ113の転動により、前記ピストン111を前記半径方向で内側に向けて押し下げる(下降させる)向きの力が発生する。まず、前記ローラ115が、前記カム面122の谷部124の底(最深部)に接触しているとともに、前記ローラ113が、前記カム面118の山部120の頂点に接触している状態から、前記のように前記インナーレース8が図3で時計方向に回転すると、前記ローラ115は、前記カム面122に接触した状態のまま、前記山部123を登り始めるとともに、前記ローラ113は、前記カム面118に接触した状態のまま、前記山部120を下り始める。このように、前記ローラ115が前記山部123を登る過程で、前記ローラ115が半径方向で外側に向けて変位するため、前記ピストン111を上昇させる力が発生する。なお、前記ローラ113が前記山部120を下る過程では、前記ローラ113から、前記ピストン111に対して半径方向の力は与えられない。そして、前記ローラ115が前記山部123の頂点に到達すると、前記ピストン111を半径方向で外側に向けて押圧する力がなくなる。すなわち、前記ピストン111が上死点に到達する。また、前記ローラ115が前記山部123の頂点に到達した時点で、前記ローラ113は前記谷部119の底(最深部)に接触する。
このように、前記ピストン111が上死点に到達した後、さらに前記インナーレース8が前記時計方向に回転すると、前記ローラ113が、前記カム面118に接触した状態のまま、前記山部120を登り始めるとともに、前記ローラ115は、前記カム面122に接触した状態のまま、前記山部123を下り始める。このように、前記ローラ113が前記山部120を登る過程で、前記ローラ113が半径方向で外側に向けて変位して、前記ピストン111を下降させる力が発生する。なお、前記ローラ115が前記山部123を下る過程では、前記ローラ115から、前記ピストン111に対して半径方向の力は与えられない。そして、前記ローラ113が前記山部120の頂点に到達すると、前記ピストン111を下降させる力が生じなくなる。すなわち、前記ピストン111が下死点に到達する。また、前記ローラ113が前記山部120の頂点に到達した時点で、前記ローラ115は前記谷部124の底(最深部)に接触する。このようにして、下死点に位置するピストン111が上昇を開始し、かつ、上死点に到達し、ついでピストン111が下降を開始し、このピストン111が下死点に戻るという1行程(サイクル)がおこなわれる。以後、前記インナーレース8の回転にともない、上記と同様の原理で各ピストン111が上昇行程および下降行程を繰り返す。
つぎに、前記ピストン111の半径方向の動作と、前記シリンダ室125におけるオイルの吸入・吐出作用との関係を説明する。この実施例では、前記弁体制御カム135を円周方向に動作させることにより、前記回転軸線A1を中心とする半径方向におけるピストン111の位置および動作方向と、前記弁体128の位置および動作方向との関係を調整可能である。具体的には、前記油圧室143の油圧を上昇させると、前記ピストン142が前記圧縮コイルばね145の力に抗して図1で右方向に動作する。すると、図4に示すように前記ピストン142から前記弁体制御カム135に対して、円周方向、図4において下向きに押圧する力が与えられる。これに対して、前記油圧室143の油圧を低下させると、前記ピストン142が前記圧縮コイルばね145の力により、図1で左方向に動作する。すると、図4に示すように前記ピストン142から前記弁体制御カム135に対して、円周方向、図4において上向きに押圧する力が与えられる。なお、前記油圧室143の油圧を一定に制御すると、前記回転軸線A1に沿った方向で前記ピストン142が停止し、前記弁体制御カム135が円周方向の所定位置で停止する。
図5は、カム面118とカム面136との相対位置関係と、吸入弁133の開度との関係を示す特性線図の一例である。まず、前記回転軸線A1を中心とする円周方向で、前記山部120の頂点の位置と谷部137の底の位置とが一致している場合(第1の場合)について説明する。この「第1の場合」は、下死点に位置している前記ピストン111が、上死点に向けて動作する上昇行程では、前記弁体128が図1で下向きに押圧されて、前記吸入通路126の面積が拡大する。つまり、図5に実線で示すように、前記ピストン111の上昇行程の全域に亘って、前記吸入弁133の開度が増加する。したがって、前記ピストン111の上昇行程では、前記シリンダ室125の圧力が低下し、前記オイルパン21のオイルが、前記油路149および前記吸入通路126を経由して前記シリンダ室125内に吸入される。なお、前記シリンダ室125の圧力が低下する過程では、前記弁体152により前記吐出通路150が閉じられている。
ついで、上死点に位置している前記ピストン111が、下死点に向けて動作する下降行程では、前記弁体128が図1で上向きに押圧されて、前記吸入通路126の開度が、全開から全閉に向けて減少する。すると、前記ピストン111の下降行程では、シリンダ室125の内圧が上昇し、前記弁体152が前記支持軸153を中心として図1で反時計方向に動作する。このようにして、前記吐出制御弁151が開放され、前記シリンダ室125のオイルが、前記吐出通路150を経由して油路19に吐出される。また、前記ピストン111の下降行程における前半では、吸入通路126が全閉になっていない。このため、前記シリンダ室125のオイルの一部は、前記吸入油路126を経由して前記油路149に戻される。そして、前記ピストン111の下降行程における後半では、前記吸入通路126が全閉に維持される。したがって、シリンダ室125のオイルが吐出油路150から吐出される。このように、ピストン111の下降行程における前半と後半とでは、吐出油路50を経由して吐出されるオイル量が変化する。
つぎに、カム面118とカム面136との相対位置が、前記山部120の頂点の位置と、前記山部138の頂点の位置とが一致している状態である場合について説明する。この場合は、ピストン111の上昇行程の前半では、図5に示すように吸入弁133の開度が増加する一方、ピストン111の上昇行程の後半では、図5に破線で示すように吸入弁133の開度が減少して、ピストン111が上死点に到達した時点で吸入弁133が全閉となる。つまり、ピストン111の下降行程の全域に亘り、吸入弁133が全閉になる。したがって、ピストン111の下降行程の全域に亘り、油圧室125のオイルが吐出口150から吐出される。また、図5に破線で示すように、吸入弁133の開度が変化する理由は、次の通りである。まず、ピストン111の上昇行程ではシリンダ室125が負圧となるため、前記弁体128が圧縮コイルばね132のばね荷重に抗して弁座127から離れるからである。そして、シリンダ室125の油圧と空間B1の油圧とが同じになると、圧縮コイルばね132のばね荷重により、弁体128が弁座127に押し付けられるからである。
以上のように、この実施例では、前記山部120の頂点の位置と、前記山部138の頂点の位置とが一致している状態が、前記ラジアルピストンポンプ7の容量が最大となる。この状態から、前記カム面118,122に対して、前記弁体制御カム135を図5で円周方向の右側または左側のいずれかの方向に相対移動させると、相対移動量の増加に伴い前記ラジアルピストンポンプ7の容量が減少する。このように、前記ラジアルピストンポンプ7によれば、そのシリンダ室125の容積を変更することなく、容量を制御することができ、そのラジアルピストンポンプ7の容量Vは、例えば次式により求めることが可能である。
V=S×A×n×m
上記の式において、「S」は、吸入弁133が全閉となった時点から、ピストン111が下死点に到達するまでの間におけるピストン111のストローク量である。また、「A」は、ピストン111の動作方向の中心線と垂直な平面内における受圧面積(ピストン面積)であり、「n」は、アウターレース9に設けられた山部120の個数であり、「m」はピストン111の本数(総数)である。
以上のようにして、前記インナーレース8とアウターレース9とが相対回転することにより、前記ラジアルピストンポンプ7がオイルポンプとして機能する。また、このラジアルピストンポンプ7は動力伝達装置としての機能をも有する。具体的には、前記吸入制御弁70および吐出制御弁27のうちの少なくとも一方を制御することにより、前記ラジアルピストンポンプ7で伝達されるトルクの容量を制御可能である。例えば、前記油路156,19におけるオイルの流通抵抗を高めて、前記ラジアルピストンポンプ7の吐出圧を高めると、前記ピストン111を下降させるために必要な力が増加する。その結果、前記カム面118とローラ113との係合力が高まり、前記トルク伝達軸6とインプットシャフト2との間におけるトルク容量が増加する。これとは逆に、前記油路156,19におけるオイルの流通抵抗を低下させて、前記ラジアルピストンポンプ7の吐出圧を低下させると、前記ピストン111を下降させるために必要な力が低下する。その結果、前記カム面118とローラ113との係合力が低下して、前記トルク伝達軸6とインプットシャフト2との間におけるトルク容量が低下する。なお、前記油路156,19におけるオイルの流通抵抗を一定に制御すると、前記ピストン111を下降させるために必要な力が略一定となる。その結果、前記カム面118とローラ113との係合力が一定となり、前記トルク伝達軸6とインプットシャフト2との間におけるトルク容量が一定となる。このように、前記ラジアルピストンポンプ7はトルク容量を制御可能なクラッチとしての機能をも有する。このようなラジアルピストンポンプ7のトルク容量の制御は、エンジントルク、前記ベルト式無段変速機3の変速比、車速などの条件に基づいておこなわれる。
また、この実施例においては、前記回転軸線A1を中心とする半径方向で、前記ピストン111のストローク量、および前記弁体128のストローク量を変更することなく、前記ピストン111のストローク位置に対して、前記弁体128のストローク位置を調整することで、前記ラジアルピストンポンプ7の容量が変更される構成である。さらに、前記回転軸線A1に沿った方向には、前記ピストン111および弁体128は動作しない構成である。したがって、前記ラジアルピストンポンプ7が回転軸線A1に沿った方向に大型化することを回避できる。さらにこの実施例では、前記円筒部117とインナーレース8との間に空間B1を確保してある。この空間B1のオイル通過面積は、前記油路149の開口面積よりも広い。このため、オイルが前記油路149から前記空間B1に流入する場合に、オイルの流入抵抗を最小限とすることができ、キャビテーションの発生を回避できるとともに、振動・騒音を抑制でき、かつ、ラジアルピストンポンプ7の耐久性を向上することができる。
また、この実施例では、前記ローラ113を支持する支持軸112が、前記弁体128の動作を案内する部品として共用されている。したがって、部品点数の増加を抑制でき、前記ラジアルピストンポンプ7の大型化を抑制でき、かつ、製造コストの低減を図ることができる。また、この実施例では、前記油路144を経由して油圧室143にオイルが供給され、この油圧室143の油圧が制御される構成となっている。この油路144は、前記アウターレース9に半径方向に沿って形成されているため、前記アウターレース9の回転に伴う遠心力で、前記油圧室143の油圧を高めることができる。したがって、油圧室143の油圧を高めるための圧力制御弁などの出力油圧を低く設定することができる。さらにこの実施例では、前記弁体152が、前記支持軸153を中心として動作するよう構成され、前記トルク伝達軸6には傾斜面154が形成されている。この傾斜面154を前記トルク伝達軸6の全周に亘って形成する構成であれば、前記トルク伝達軸6の一部を大径化できるとともに、前記弁体152の動作を傾斜面154により規制できる。したがって、前記弁体152を開閉する動作の応答性が向上する。
つぎに、上記のラジアルピストンポンプ7の製造工程について説明する。前記カム面118とカム面122とが、同一の構成部材であるアウターレース9に設けられており、前記半径方向では略平行に変位している。このため、前記アウターレース9を製造するために、金属材料を工具(例えば、エンドミル)で切削加工する場合に、工具を回転させながら移動させる単一の工程で、前記カム面118および前記カム面122を同時に成形できる。したがって、前記アウターレース9の製造工程で、前記カム面118とカム面122との位相ズレ量が増加することを抑制できる。
さらに、上記カム面118,136の他の構成を、図6に基づいて説明する。この図6の実施例では前記カム面118の形状と、前記カム面136の形状とが、非相似形状となっている。具体的には、前記カム面118における前記ローラ113が山部120を登る領域の傾斜角度θ1と、前記カム面118における前記ローラ115が山部136を登る領域の傾斜角度θ2とが異なる。ここで、傾斜角度θ1は、直線C1と直線C2とのなす鋭角側の角度であり、傾斜角度θ2は、直線C1と直線C3とのなす鋭角側の角度であり、また、前記直線C1は、図6の展開図で谷部119,137の外接円に相当するもの、前記直線C2,C3は、前記半径方向で山部の中心点を通過する接線に相当する。そして、傾斜角度θ1の方が傾斜角度θ2よりも大きく構成されている。
この図6において、二点鎖線で示すカム面136は、谷部119と谷部137との位相が一致している場合を示す。これに対して、図6において、破線で示すカム面136は、谷部119と谷部137との位相が異なる場合を示す。そして、谷部119と谷部137との位相が異なる場合は、カム面136を示す破線と、カム面118を示す実線とが交差している。つまり、ピストン111が下降行程にある場合、吸入弁133も半径方向で内側に向けて動作している。この時点では、吸入弁133は開放されている。その後、カム面136を示す破線と、カム面118を示す実線との交点X1で、弁体129が弁座127に密着し、吸入弁133が閉じられることを意味する。このように、ピストン111の下降行程中に、弁体129がピストン111と同方向に動作しており、ピストン111が下死点に到達する以前に、吸入弁133が閉じられる。したがって、弁体128が弁座127に接触する場合の衝撃荷重を低下でき、ラジアルピストンポンプ7の耐久性が向上する。
ここで、この実施例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、インプットシャフト2およびアウターレース9が、この発明における「第1の部材」に相当し、トルク伝達軸6およびインナーレース8が、この発明における「第2の部材」に相当し、カム面118,122が、この発明の「第1カム」に相当し、ピストン111およびローラ113,115が、この発明の動作部材に相当し、弁体制御カム135が、この発明の「第2カム」に相当し、軸部130および弁体128が、この発明における「第1弁体」に相当し、ローラ113,115が、この発明における転動体に相当し、支持軸112が、この発明の支持軸に相当し、カム面122が、この発明における「引上用カム」に相当し、カム面118が、この発明における「押付用カム」に相当し、アウターレース9に設けられた油路144が、この発明の「第1部材に半径方向に沿って設けられた油路」に相当し、油圧室143が、この発明の油圧室に相当し、ピストン142が、この発明のピストンに相当し、弁体152が、この発明の第2弁体に相当し、トルク伝達軸6が、この発明における回転軸に相当し、軸部153が、この発明の軸部に相当する。
ここで、この実施例の他の例および応用例などを説明する。前記インナーレース8が前記トルク伝達軸6に対して一体回転するように取り付けられているが、前記エンジン2のクランクシャフトに前記インナーレース8を取り付けるように構成してもよい。さらに、前記エンジン1のトルクが、前記アウターレース9を経由して前記インナーレース8に伝達されるように、前記インナーレース8およびアウターレース9の取付構成を変更することも可能である。具体的には、前記アウターレース9を、前記トルク伝達軸6に取り付け、前記インナーレース8を前記インプットシャフト2に取り付ける構成も、この発明の概念に含まれる。また、この実施例では、前記回転軸線A1に対して前記ガイド溝146に傾斜を付けることにより、前記弁体制御カム135が円周方向に動作する構成となっている。したがって、前記回転軸線A1に対する前記ガイド溝146の傾斜角度を、設計上で変更することにより、前記ピストン142の動作量に対する前記弁体制御カム135の円周方向の動作量を、設計上で変更することが可能である。
また、既に説明した実施例では、前記カム面118,112に複数の山部が形成されており、その山部を前記ローラが乗り越えることで、前記ピストン111が上昇行程(吸入行程)および下降工程(吐出行程)の1サイクルを繰り返す構成となっており、前記インナーレース8と前記アウターレース9とが円周方向に1回転分相対回転すると、前記山部の数に相当するサイクル数となる。これに対して、この発明は、前記インナーレース8と前記アウターレース9とが円周方向に1回転分相対回転する間に、前記ピストン111が上昇行程(吸入行程)および下降工程(吐出行程)の1サイクルをおこなうように、前記カム面の形状を構成することもできる。例えば、前記2つのカム面を略真円とし、かつ、そのカム面の中心を前記回転軸線A1から偏心させる構成とすればよい。さらに、この発明は、前記インナーレース8と前記アウターレース9とが円周方向に1回転分相対回転する間に、前記ピストン111が上昇行程(吸入行程)および下降工程(吐出行程)の2サイクルをおこなうように、前記カム面の形状を構成することもできる。例えば、前記2つのカム面を楕円形状とすればよい。なお、このように前記ローラが転動するカム面の形状を変更する場合、前記ピストンのストローク数、ピストンのストローク位置に併せて、前記吸入弁の開閉がおこなわれるように、弁体の動作を制御するカム面の形状を設計変更することとなる。
さらに、図示した実施例では、前記ピストンの動作方向と弁体の動作方向とが同一に構成されているが、前記ピストンの動作方向と弁体の動作方向とを異ならせる構成を採用することも可能である。例えば、前記カム面136に沿って半径方向に動作する軸部と、前記回転軸線A1に沿った方向に動作する弁体とを設け、この軸部と前記弁体とをラックアンドピニオン機構により連結する構成とする。そして、前記弁体が前記回転軸線A1に沿った方向に動作して、吸入通路が開閉される構成とすれば、図示した2つの実施例と同様の効果を得られる。
1…エンジン、 2…インプットシャフト、 3…ベルト式無段変速機、 5…車輪、 6…トルク伝達軸、 7…ラジアルピストンポンプ、 8…インナーレース、 9…アウターレース、 118,122,136…カム面、 111…ピストン、 112,130…支持軸、 113,115…ローラ、 125…シリンダ室、 126…吸入通路、 133…吸入弁、 147…アクチュエータ、 127…弁座、 128,152…弁体、 151…吐出弁、 150…吐出油路、 143…油圧室、 144…油路、 142…ピストン、 153…軸部、 154…傾斜面、 A1…回転軸線、 Ve…車両。