したがって,本発明が解決しようとする課題は,システムの安定性と界磁磁石の磁化容易さとを両立させながら界磁磁石の磁化を変えて強め及び弱め界磁を実現する回転電機システム及び磁束量制御方法を提供する事である。
本発明による回転電機システムは,回転子の磁性体突極内に制御磁石を配置し,回転子を一括して励磁する励磁コイルを有し,電機子コイルが生成する磁束及び励磁コイルが生成する励磁磁束が同じ方向に流れる制御磁石を選択的に磁化変更する。その具体的な構成は以下に規定される。
請求項1の発明は,回転子は電機子との対向面に於いて周方向に配置された複数の磁性体突極を有し,磁性体突極内及び或いは隣接する磁性体突極間に配置された永久磁石により周方向に隣接する磁性体突極が互いに異極に磁化され,電機子は回転子との対向面に於いて磁性体歯と,磁性体歯に巻回された電機子コイルとが周方向に配置され,電機子と回転子とが微小間隙を介して互いに対向し且つ相対的に回転可能に構成された回転電機装置であって,周方向に隣接する前記磁性体突極の少なくとも一方に於いて,電機子との対向面から離れた磁性体突極内部に制御磁石が配置され,更に励磁磁路部材と,励磁コイルとを有し,励磁磁路部材の両端は電機子と回転子とが微小間隙を介して交互に並ぶ電機子・回転子群の一方の端に配置された回転子或いは電機子と,前記電機子・回転子群の他方の端に配置された回転子或いは電機子とそれぞれ磁気的に結合され,励磁コイルは励磁磁路部材と,電機子と,回転子とを含む磁路に一括して磁束を発生するよう配置され,電機子コイルによる磁束のみによっては前記制御磁石の磁化状態が変更されないように磁化方向長さと抗磁力の積が設定され,励磁コイルによる励磁磁束及び電機子コイルによる磁束が同じ方向に流れる前記制御磁石の磁化状態が不可逆的に変更されるよう構成され,回転電機装置の出力を最適化するよう前記出力に応じて前記制御磁石の磁化状態を変え,電機子コイルと鎖交する磁束量が制御される事を特徴とする。
一以上の回転子と電機子とが対向する回転電機装置であって,回転子の磁性体突極内に制御磁石を配置し,回転子全体を一括して励磁する励磁コイルを有し,電機子コイルが生成する磁束及び励磁コイルが生成する励磁磁束が同じ方向に流れる制御磁石を選択的に磁化変更して電機子コイルと鎖交する磁束量を変える。最適化の対象とする出力とは,電動機の場合には回転駆動力,回生制動時の制動力及び回収エネルギー量,発電機の場合には発電電圧等である。
磁性体突極内及び或いは隣接する磁性体突極間に配置された永久磁石は磁化変更され難い抗磁力を有する永久磁石で構成される。制御磁石が配置される電機子との対向面から離れた磁性体突極内部とは,電機子との対向面から離れた側で,電機子コイルが発生する磁束の影響を受け難い位置を指す。さらに制御磁石は電機子コイルが通常発生させる磁束によっては磁化変更され難く,且つ励磁コイル及び電機子コイルから同じ方向に流れる合成磁束によって磁化変更可能となるよう磁化容易さである磁化方向長さと抗磁力の積が設定される。隣接する磁性体突極内にそれぞれ制御磁石が配置される場合は隣接する制御磁石の磁化方向は互いに逆であり,励磁コイルが発生する励磁磁束の方向を変え,順次にその磁化状態が変更される。励磁コイルは軸を周回する構成として静止側への配置が可能である。励磁磁路部材はその両端が電機子と回転子とが微小間隙を介して交互に並ぶ電機子・回転子群の端に配置された回転子或いは電機子と磁気的に結合されて励磁磁路部材,回転子,電機子で閉磁路を構成し,励磁コイルはその閉磁路に磁束を発生するよう配置される。磁気的に結合されるとは,励磁磁路部材の一端と電機子或いは回転子を構成する磁性体とが直接に接続され,或いは微小間隙を介して対向するよう配置される状態を指す。
回転電機装置には一以上の円筒状電機子と回転子が径方向に空隙を介して対向する構造,一以上の略円盤状電機子と回転子が軸方向に空隙を介して対向する構造,一以上の電機子と回転子とが円錐面形状の空隙を介して対向する構造等が存在する。本発明は上記何れの構造の回転電機システムにも適用される。さらに,回転電機は電機子コイルへの電流を入力として回転力を出力とすれば電動機であり,回転力を入力として電機子コイルから電流を出力すれば発電機である。電動機或いは発電機に於いて最適の磁極構成は存在するが,可逆的であり,上記の回転電機システムは電動機,発電機の何れにも適用される。
請求項2の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,回転電機装置の最外側に配置された回転子は一つの面で電機子と対向し,電機子との対向面に於いて磁性体突極を磁性体基板上に有し,前記磁性体基板は励磁磁路部材の一端と磁気的に結合される事を特徴とする。電機子と回転子とが軸方向に並び或いは径方向に並ぶ構成に於いて,軸方向或いは径方向の最外側に位置する回転子は磁性体突極を磁性体基板上に有し,励磁磁路部材は回転子を一括して励磁するよう励磁磁路部材の一端が磁性体基板に磁気的に接続される。
請求項3の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,回転電機装置の最外側に配置された電機子は一つの面で回転子と対向し,回転子との対向面に於いて電機子コイル及び磁性体歯が磁気ヨークに配置され,前記磁気ヨークは励磁磁路部材の一端と磁気的に結合される事を特徴とする。電機子と回転子とが軸方向に並び或いは径方向に並ぶ構成に於いて,軸方向或いは径方向の最外側に位置する電機子は電機子コイルが磁気ヨークに配置され,励磁磁路部材は回転子を一括して励磁するよう励磁磁路部材の一端が磁気ヨークに磁気的に接続される。
請求項4の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,回転子は非磁性体及び或いは永久磁石で磁性体を周方向に区分して形成された複数の磁性体突極を有し,磁性体突極は互いに異極に磁化された二つの面で電機子と対向し,制御磁石は前記二つの面のほぼ中間に配置される事を特徴とする。二つの電機子間に配置されて磁性体突極の両端で電機子と対向する回転子に於いて,制御磁石は電機子から出来るだけ離れるよう磁性体突極のほぼ中間に配置される。
請求項5の発明は,回転子は電機子との対向面に於いて磁性体突極内及び或いは隣接する磁性体突極間に配置された永久磁石により周方向に隣接する磁性体突極が互いに異極に磁化され,電機子は回転子との対向面に於いて磁性体歯と,磁性体歯に巻回された電機子コイルとが周方向に配置され,電機子と回転子とが微小間隙を介して互いに対向し且つ相対的に回転可能に構成された回転電機装置であって,第一回転子及び第二回転子が軸方向に並んで電機子と径方向に対向するよう配置され,それぞれの回転子に於いて磁性体突極は円筒状磁性体基板に配置されて第一回転子及び第二回転子の円筒状磁性体基板同士は磁気的に結合され,第一回転子及び第二回転子内に於いて同極に磁化された磁性体突極同士は軸方向に並ぶよう構成され,周方向に隣接する少なくとも一方の磁性体突極と円筒状磁性体基板間に制御磁石が配置され,励磁コイルは電機子と,第一回転子と,第二回転子とを介する閉磁路に励磁磁束を発生するよう第一回転子及び第二回転子間,或いは電機子側に配置され,電機子コイルによる磁束のみによっては前記制御磁石の磁化状態が変更されないように磁化方向長さと抗磁力の積が設定され,励磁コイルによる励磁磁束及び電機子コイルによる磁束が同じ方向に流れる前記制御磁石の磁化状態が不可逆的に変更されるよう構成され,回転電機装置の出力を最適化するよう前記出力に応じて前記制御磁石の磁化状態を変え,電機子コイルと鎖交する磁束量が制御される事を特徴とする。
二つの回転子が軸方向に並んで電機子と対向する構成である。励磁コイルは二つの回転子間或いは電機子の軸方向中間に配置されて電機子,第一回転子,第二回転子で構成する閉磁路に励磁磁束を発生させる。励磁磁束は第一回転子,第二回転子を互いに逆方向に流れ,また電機子コイルからの磁束は周方向に隣接する磁性体突極には互いに逆方向に流れるよう発生されるとして,第一回転子,第二回転子内の軸方向に並ばない磁性体突極のそれぞれに配置されている制御磁石の組が同時に磁化変更される。
請求項6の発明は,請求項1から請求項5記載の何れかの回転電機システムに於いて,制御磁石は磁化方向長さと抗磁力の積が互いに異なる磁石要素を磁性体により並列接続して構成され,前記磁石要素は磁化方向が互いに逆である第一磁化,第二磁化の何れかの磁化を有し,第一磁化を有する磁石要素は磁性体突極内及び或いは隣接する磁性体突極間に配置された永久磁石が磁性体突極を磁化する極性と同じ極性に磁性体突極を磁化する事を特徴とする。制御磁石は磁化容易さの異なる一以上の磁石要素が並列に接続される構成,或いは磁化容易さ,すなわち,磁化方向長さと抗磁力の積が連続的に変わる磁石で構成される。制御磁石内に於いて異なる磁化容易さの分布態様は一つの断面内に限定されることなく,電機子コイルと鎖交する磁束量全体として反映されるよう制御磁石全体に配分されればよい。励磁コイル及び電機子コイルによる起磁力(磁気ポテンシャル差)はほぼ均等に制御磁石を構成する磁石要素に加えられ,起磁力を磁化方向長さで除した値が各磁石要素に加わる磁界強度となるので磁化方向長さと抗磁力の積の小さな磁石要素が磁化されやすく,励磁コイル及び電機子コイルに加えられる電流により並列接続された磁石要素の磁化状態は選択的に制御される。第一磁化の磁石要素は磁性体突極を磁性体突極近傍の永久磁石と同じ極性に磁化するので電機子コイルと鎖交する磁束量が増される事になる。
請求項7の発明は,請求項1から請求項5記載の何れかの回転電機システムに於いて,励磁コイルは磁化方向を逆転しようとする制御磁石内磁石要素の磁化方向と逆方向に流れる磁束を回転子に一括して供給し,磁化方向を逆転しようとする制御磁石内磁石要素を含む磁性体突極と対向する電機子コイルに前記磁化方向と逆方向の磁束を発生させ,制御磁石の磁化状態を変更するよう構成される事を特徴とする。予め励磁コイルにより回転子全体に磁束を流し,磁化方向を逆転しようとする制御磁石或いは制御磁石内磁石要素を含む磁性体突極と対向する電機子コイルに電流を流す事により電機子コイル及び励磁コイルからの磁束が同じ方向に流れる制御磁石の磁化を変更させる。電機子コイル及び励磁コイルを協働させる事により電機子コイルのみでは磁化変更できない制御磁石の磁化変更を可能とする。
請求項8の発明は,請求項1から請求項5記載の何れかの回転電機システムに於いて,励磁コイルは磁化方向を逆転しようとする制御磁石内磁石要素の磁化方向と逆方向に流れる磁束を回転子に一括して供給し,電機子コイルは磁化方向を逆転しようとする制御磁石内磁石要素を含む磁性体突極内に前記磁化方向と逆方向の磁束を発生させると共に前記磁性体突極に隣接する磁性体突極に前記磁化方向と同方向の磁束が流れるよう電流が供給されて制御磁石の磁化状態を変更するよう構成される事を特徴とする。励磁コイルは磁化を変更しようとする制御磁石或いは制御磁石内磁石要素の磁化方向と逆方向に流れる磁束を回転子の磁極全体に一括して供給し,電機子コイルは前記制御磁石或いは制御磁石内磁石要素,前記制御磁石を含む磁性体突極に励磁コイルと同方向に磁束を供給し,その磁性体突極と隣接する磁性体突極には逆方向の磁束を供給するよう電流が供給される。これにより励磁コイルからの磁束は磁化状態を変更すべき制御磁石及び前記制御磁石が配置される磁性体突極に集中して流れるよう制御する事が可能となり,制御磁石の磁化状態変更を容易に出来る。
請求項9の発明は,請求項1から請求項5記載の何れかの回転電機システムに於いて,励磁コイルは磁化方向を逆転しようとする制御磁石内磁石要素の磁化方向と逆方向に流れる磁束を回転子に一括して供給し,磁化方向を逆転しようとする制御磁石内磁石要素を含む磁性体突極に対向する磁性体歯に前記磁化方向と逆方向の磁束を発生させると共に前記磁性体突極に隣接する磁性体突極に対向する磁性体歯に前記磁化方向と同方向の磁束を発生させるようそれぞれの磁性体歯に巻回された電機子コイルに電流が供給されて制御磁石の磁化状態を変更するよう構成される事を特徴とする。磁化方向を逆転しようとする制御磁石内磁石要素を含む磁性体突極に対向する磁性体歯と,前記磁性体突極に隣接する磁性体突極に対向する磁性体歯とに互いに逆方向の磁束を発生するようそれぞれの磁性体歯に巻回された電機子コイルに電流を供給する。回転子に一括して供給された励磁コイルからの磁束の流れを磁性体突極に対向する磁性体歯内で制御する。
請求項10の発明は,請求項1から請求項5記載の何れかの回転電機システムに於いて,磁性体の二つの側面に永久磁石を配置して構成された集合磁石が磁性体突極間に配置され,励磁コイルが発生する磁束が前記磁性体を通過し難いよう前記磁性体に非磁性体が配置される事を特徴とする。両側に略同じ方向の磁化を持つ永久磁石が配置された磁性体は磁気的に永久磁石と等価な集合磁石である。励磁コイルの作る励磁磁束を制御磁石に集中させる為に集合磁石の磁性体部分には非磁性体を配置して励磁コイルからの磁束が前記磁性体部分を介して電機子側に流れないように構成する。
請求項11の発明は,請求項1から請求項5記載の何れかの回転電機システムに於いて,制御磁石の最小となる磁化方向厚みが相対的に大,小に設定された第一制御磁石,第二制御磁石をそれぞれ有する磁性体突極が回転子の周方向に交互に配置され,磁束調整電流を励磁コイルに供給し,電機子を流れる磁束量が調整される事を特徴とする。隣接する磁性体突極には互いに最小厚みの異なる制御磁石が配置されている構成では励磁コイルによる磁束を永久磁石からの磁束に加算重畳して電機子からの磁束を制御できる。すなわち,最小厚みが大の第一制御磁石が配置されている磁性体突極を励磁コイルからの磁束は通過し難く,最小厚みが小の第二制御磁石が配置されている磁性体突極を励磁コイルからの磁束は通過し易い。第一制御磁石及び第二制御磁石に不可逆的な磁化変化を生ぜしめない程度の磁束調整電流を励磁コイルに供給すれば,制御磁石の各磁化状態に於いて電機子コイルと鎖交する磁束量のさらなる調整を可能にする。
請求項12の発明は,請求項1から請求項5記載の何れかの回転電機システムに於いて,少なくとも一つの電機子コイル両端に現れる誘起電圧の監視手段を有し,回転子の回転と共に前記電機子コイルに対向する各磁性体突極から流入する磁束に起因する誘起電圧を監視し,制御磁石の磁化状態の変更前後に於いて各制御磁石の磁化に起因して前記電機子コイルに現れる誘起電圧の振幅の変化量が目標値より小の場合は制御磁石の磁化状態の変更の為に励磁コイル及び電機子コイルに加えられる電流の振幅を大にし,各制御磁石の磁化に起因して前記電機子コイルに現れる誘起電圧の振幅の変化量が目標値より大の場合は制御磁石の磁化状態の変更の為に励磁コイル及び電機子コイルに加えられる電流の振幅を小に設定される事を特徴とする。制御磁石の磁気特性及び寸法等のバラツキにより,磁化状態が磁性体突極毎に異なる可能性がある。少なくとも一つの電機子コイル両端に現れる誘起電圧の監視手段を有し,磁性体突極毎に電機子コイル両端に現れる誘起電圧を回転子の回転と共に順次監視して磁性体突極毎の制御磁石の磁化状態を把握する。制御磁石の磁化状態変化が目標と異なる場合には制御磁石の磁化状態変更の条件を制御磁石毎,或いはブロックを形成する制御磁石ブロック毎に修正する。
請求項13の発明は,請求項1或いは請求項5記載の何れかの回転電機システムに於いて,さらに制御装置を有し,回転力を入力とし,発電電力を出力とする回転電機システムであって,磁性体突極内及び或いは隣接する磁性体突極間に配置された永久磁石が磁性体突極を磁化する極性と同じ極性に磁性体突極を磁化する制御磁石内の磁石要素を第一磁化とし,電機子コイルに誘起される発電電圧が所定の値より大の時は制御装置により制御磁石内の第一磁化の磁極面積を減じるよう制御磁石を磁化する極性の電流が励磁コイル及び電機子コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を減じて電機子を流れる磁束量が小とされ,電機子コイルに誘起される発電電圧が所定の値より小の時は制御装置により制御磁石内の第一磁化の磁極面積を増すよう制御磁石を磁化する極性の電流が励磁コイル及び電機子コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を増して電機子を流れる磁束量が大とされ,発電電圧が所定の値に制御される事を特徴とする。
請求項14の発明は,請求項1或いは請求項5記載の何れかの回転電機システムに於いて,さらに制御装置を有し,電機子コイルへの供給電流を入力とし,回転力を出力とする回転電機システムであって,磁性体突極内及び或いは隣接する磁性体突極間に配置された永久磁石が磁性体突極を磁化する極性と同じ極性に磁性体突極を磁化する制御磁石内の磁石要素を第一磁化とし,回転速度が所定の値より大で電機子を流れる磁束量を減少させる時には制御装置により制御磁石内の第一磁化の磁極面積を減じるよう制御磁石を磁化する極性の電流が励磁コイル及び電機子コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を減じて電機子を流れる磁束量が小とされ,回転速度が所定の値より小で電機子を流れる磁束量を増大させる時には制御装置により制御磁石内の第一磁化の磁極面積を増すよう制御磁石を磁化する極性の電流が励磁コイル及び電機子コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を増して電機子を流れる磁束量が大とされ,回転力が最適に制御される事を特徴とする。
請求項15の発明は,請求項1或いは請求項5記載の何れかの回転電機システムに於いて,さらに制御装置を有し,電機子コイルへの供給電流を入力とし,回転力を出力とする回転電機システムであって,磁性体突極内及び或いは隣接する磁性体突極間に配置された永久磁石が磁性体突極を磁化する極性と同じ極性に磁性体突極を磁化する制御磁石内の磁石要素を第一磁化とし,回転速度を減少させる場合には制御装置により電機子コイルにバッテリーを接続すると共に制御磁石内の第一磁化の磁極面積を増すよう制御磁石を磁化する極性の電流が励磁コイル及び電機子コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を増して電機子を流れる磁束量が大とされ,回転エネルギーが発電電力として取り出される事を特徴とする。
請求項16の発明は,回転子は電機子との対向面に於いて周方向に配置された複数の磁性体突極を有し,磁性体突極内及び或いは隣接する磁性体突極間に配置された永久磁石により周方向に隣接する磁性体突極が互いに異極に磁化され,電機子は回転子との対向面に於いて電機子コイルを周方向に有し,電機子と回転子とが微小間隙を介して互いに対向し且つ相対的に回転可能に構成した回転電機装置の磁束量制御方法であって,周方向に隣接する前記磁性体突極の少なくとも一方に磁化変更可能な制御磁石を配置し,電機子コイルによる磁束のみによっては前記制御磁石の磁化状態が変更されないように磁化方向長さと抗磁力の積を設定し,更に電機子と,回転子とを含む磁路に一括して励磁磁束を発生するよう軸を周回する励磁コイルを配置し,励磁コイルによる励磁磁束及び電機子コイルによる磁束が同じ方向に流れる前記制御磁石のみの磁化状態を不可逆的に変更するよう構成し,前記制御磁石の磁化状態を変え,電機子コイルと鎖交する磁束量を制御する磁束量制御方法である。
本発明によれば,制御磁石を磁性体突極内に配置し,回転子全体を一括して励磁する励磁コイルと,磁性体突極に対向する電機子コイルとによって磁性体突極内の制御磁石の磁化状態を選択的に変更する。さらに隣接する磁性体突極に逆方向の磁束を他の電機子コイルにより流すよう構成して励磁コイルからの磁束を前記制御磁石に集中させる事が出来る。したがって,制御磁石を電機子から離れた位置に配置し,励磁コイルと電機子コイルとが協働して制御磁石の磁化状態を変更する構成により,制御磁石の磁化状態の安定的維持と磁化変更の容易さとを両立できる回転電機システムを実現できる。また,制御磁石の磁化を変更する為に供給される磁束は磁性体歯及び磁性体突極内の磁性体を磁路として制御磁石に集中される構成であり,磁化変更に際して高電圧・大電流パルスを要する事無く,電子回路への影響を小さくできる特徴がある。
以下に本発明による回転電機システムについて,その実施例及び原理作用等を図面を参照しながら説明する。
本発明による回転電機システムの第一実施例を図1から図8を用いて説明する。第一実施例は,アキシャルギャップ・ダブルステータ構造の回転電機システムであり,励磁コイルは回転軸を周回するよう配置されている。図1はアキシャルギャップ構造の回転電機に本発明を適用した実施例を示している。回転軸11はベアリング13を介してハウジング12に回動可能に支持され,左から右に第一電機子,回転子,第二電機子が順に配置されている。第一電機子に対向する回転子の第一表面磁極部は磁性体突極17と磁性体突極1aとが周方向に交互に並び,第二電機子に対向する回転子の第二表面磁極部は磁性体突極18と磁性体突極1bとが周方向に交互に並んで構成されている。番号19は磁性体突極17,18間に配置された制御磁石を,番号1cは磁性体突極1a,1b間に配置された制御磁石をそれぞれ示し,番号1hは回転子支持体を示す。制御磁石19,1cは磁性体突極内において磁性体歯14,1dから離れた位置に配置され,制御磁石19,1c内の矢印はそれぞれの磁化方向を示す。
回転子の軸方向の左に対向する第一電機子,回転子の軸方向の右に対向する第二電機子がハウジング12に固定されている。第一電機子は円環状磁気ヨーク15から回転軸11と平行に右に延びる磁性体歯14,磁性体歯14に巻回された電機子コイル16を有し,第二電機子は円環状磁気ヨーク1eから回転軸11と平行に左に延びる磁性体歯1d,磁性体歯1dに巻回された電機子コイル1fを有する。円環状磁気ヨーク15とハウジング12の間に円環状磁気コア1k,円環状磁気ヨーク15とハウジング12の間に円環状磁気コア1mが配置され,回転子の内周部に配置された円筒状磁気コア1pが円環状磁気コア1k,円環状磁気コア1mと微小間隙を介して対向している。励磁コイル1gが円環状磁気コア1k,円筒状磁気コア1p,円環状磁気コア1m,第二電機子,回転子,第一電機子を含む磁路に励磁磁束を発生するよう円環状磁気コア1k,円環状磁気コア1mに分割して配置されている。本実施例では円環状磁気コア1k,円筒状磁気コア1p,円環状磁気コア1mが軟鉄で構成されて励磁磁路部材に相当している。
図2(a)は第一電機子に於いて回転子との対向面を左から見て透視した平面図を示している。磁性体歯14には電機子コイル16が巻回され,本実施例では9個の電機子コイル16を有している。それらは周方向に順次U相,V相,W相として配置されている。隣接する磁性体歯14は磁気的な空隙21を介して対向するよう構成されている。磁性体歯14は比抵抗の大きな圧粉鉄心で構成され,円環状磁気ヨーク15は円環状のケイ素鋼板が積層されている。第二電機子の構成は第一電機子と同じであり,図示されていない。
図2(b)は回転子を第一電機子側から見た平面図を示している。回転子は軸方向両端で第一電機子,第二電機子と対向し,第一電機子との対向面を第一表面磁極部,第二電機子との対向面を第二表面磁極部として図2(b)は第一表面磁極部を示している。第一表面磁極部は一様な磁性体基板を略周方向磁化を持つ永久磁石22,23によってほぼ等間隔で区分されて形成されると共に互いに異極に磁化された磁性体突極17,磁性体突極1aを周方向に交互に有する。周方向に隣り合う永久磁石22,23は互いに磁化方向を反転して配置され,永久磁石22,23内の矢印はそれらの磁化方向を示し,磁性体突極17,磁性体突極1a内のS,Nはそれぞれ磁化された極性を示す。第二表面磁極部は図示されないが,第一表面磁極部と同様な構成を有する。本実施例に於いて,磁性体突極17,磁性体突極1aは交流磁束が流れやすいよう比抵抗の大きな圧粉鉄心で構成されているが,これらを周方向に磁束が流れ難いよう磁気的な異方性のある構成,例えばケイ素鋼板を周方向に積層する構成として出力トルクを改善する構成も可能である。
図3は第一電機子及び回転子及び第二電機子の周方向断面を図2(a),2(b)に示したA−A’に沿って示す図である。同図により回転子の磁極構成及び磁束の流れを説明する。回転子の第一表面磁極部,第二表面磁極部は一様な磁性体基板を略周方向磁化を持つ永久磁石で周方向に区分した磁性体突極を周方向に有し,軸方向に並ぶ磁性体突極間には制御磁石19,1cが配置され,制御磁石19,1cはそれぞれ一つの磁石要素で構成されている。磁性体突極17両側の永久磁石に番号22,23,磁性体突極18両側の永久磁石に番号37,38が付されている。それらの隣り合う永久磁石の磁化方向は互いに逆方向であり,永久磁石22,23,37,38,制御磁石19,1c内の矢印はそれらの磁化方向を示す。番号39は非磁性体を示す。軸方向に並ぶ磁性体突極17,18は互いに異なる極性で電機子と対向し,磁性体突極1a,1bも同様である。永久磁石22,23,37,38は回転駆動時に電機子コイルが発生する駆動磁束の影響を受け難いよう抗磁力が大のネオジウム磁石を用い,制御磁石19,1cには励磁コイル1g及び電機子コイルの合成磁束によって磁化変更可能なように抗磁力が約110kA/mで磁化方向厚みが8mmのアルニコ磁石が用いられている。
第一電機子の電機子コイル16はU相,V相,W相の電機子コイルをそれぞれ電機子コイル31,32,33とし,第二電機子の電機子コイル1fはU相,V相,W相の電機子コイルをそれぞれ電機子コイル34,35,36として示されている。第一電機子及び第二電機子に於いて同相の電機子コイル31,34は磁性体突極17,18にそれぞれ対向し,同じ方向の磁束を誘起するよう直列に接続されている。V相の電機子コイル32と電機子コイル35,W相の電機子コイル33と電機子コイル36もそれぞれ同様に接続され,全体として3相に結線されている。点線3aは永久磁石22,23,37,38からの磁束を代表して示し,点線3bは制御磁石19,1cからの磁束を代表して示している。同図に示されるように永久磁石22,23,37,38が磁性体突極17,18,1a,1bを磁化する極性と,制御磁石19,1cが磁性体突極17,18,1a,1bを磁化する極性とが同じ場合が電機子コイルと鎖交する磁束量を大とする状態である。したがって,制御磁石19に於いて,右方向の磁化が第一磁化,左方向の磁化が第二磁化に相当し,制御磁石1cに於いて,左方向の磁化が第一磁化,右方向の磁化が第二磁化に相当する。
図4は図3に示す状態から制御磁石19,1cの磁化方向が反転された状態である。制御磁石19,永久磁石23,制御磁石1c,永久磁石38は閉磁路を構成し,また制御磁石19,永久磁石22,制御磁石1c,永久磁石37は閉磁路を構成して電機子側に流れる磁束量が減少される。番号41は閉磁路を構成している磁束を代表して示し,図4の場合が弱め界磁の状態に相当する。この状態で電機子側に流れる磁束量は永久磁石22,23,37,38,制御磁石19,1cの飽和磁束密度,磁極面積等によって設定される。
本実施例では,制御磁石19,1cの磁化方向を図3,図4に示された状態の何れかに制御して電機子コイルと鎖交する磁束量を制御する。図3の場合が通常界磁の状態であり,図4の場合が弱め界磁状態に相当する。以下に制御磁石19,1cの磁化状態を制御する構成及び動作原理を説明する。図1に示されるように励磁磁路部材に相当する円環状磁気コア1k,円筒状磁気コア1p,円環状磁気コア1mは第一電機子の円環状磁気ヨーク15と第二電機子の円環状磁気ヨーク1eとを磁気的に結合し,二つのコイルが円環状磁気コア1k,円環状磁気コア1mを周回するよう巻回され,それぞれのコイルが直列に接続されて励磁コイル1gを構成している。励磁コイル1gは円環状磁気コア1k,円筒状磁気コア1p,円環状磁気コア1m,第二電機子,回転子,第一電機子とで構成する磁路に励磁磁束を発生する。励磁コイル1gは第一電機子,回転子,第二電機子を一括して励磁する構成であり,制御磁石19,1cの磁化変更は図5,図6を用いて説明される。
図5は制御磁石19を弱め界磁側に磁化変更する原理を説明する為の図であり,制御磁石19,1cの磁化方向は図3に示した状態である。励磁コイル1gには制御磁石19の磁化方向と逆方向に流れる励磁磁束を一括して回転子に供給する。番号53で示す励磁磁束が磁性体突極18,制御磁石19,磁性体突極17を流れ,番号54で示す励磁磁束が磁性体突極1b,制御磁石1c,磁性体突極1aを流れる。電機子コイル31が配置された磁性体歯が磁性体突極17に,電機子コイル34が配置された磁性体歯が磁性体突極18に対向した時に磁性体突極18,磁性体突極17内を磁束53と同方向に磁束が流れるよう電機子コイル31,34に電流を供給し,磁性体突極1aに対向する磁性体歯に巻回された電機子コイル32,33,磁性体突極1bに対向する磁性体歯に巻回された電機子コイル35,36には磁性体突極1a,磁性体突極1b内を磁束54と逆方向に磁束が流れるよう電流を供給する。電機子コイル31,32,33,34,35,36による磁束が番号51,52として代表して示され,磁束52は永久磁石22,23,37,38をそれぞれを含む小さな磁路に流れる磁束,磁束51は制御磁石19,1cを含む大きな磁路に流れる磁束を示している。
磁性体突極17,18内で磁束51,52の流れる方向は励磁磁束53の流れる方向と同じであり,磁性体突極1a,1b内で磁束51,52の流れる方向は励磁磁束54の流れる方向と逆である。磁性体突極1a,1b内で励磁磁束54と磁束51,52とが相殺される程度の電流を電機子コイル31,32,33,34,35,36に供給すると,励磁磁束54はほぼゼロになり,励磁コイル1gによる磁束は励磁磁束53として制御磁石19に集中され,制御磁石19の磁化が反転される。回転子を回転駆動するに際して電機子コイルから磁束51,52が回転子に加えられる。磁束51の流れる磁路は制御磁石19,1cを含み,磁束52の流れる磁路は永久磁石22,23,37,38の何れか一つを含んで前者の磁路の磁気抵抗は後者の磁路の磁気抵抗より大である。磁束52の量が磁束51の量に比して大であり,永久磁石22,23,37,38それぞれの両端に印可されるポテンシャル差は制御磁石19,1bそれぞれの両端に印可されるポテンシャル差より大となる。磁束52の流れる方向は永久磁石22,23,37,38の磁化方向と逆であるが,永久磁石22,23,37,38にはネオジウム磁石を主体とする抗磁力が大の永久磁石で構成されるのでそれらの磁化は影響を受けない。また,制御磁石19,1bの磁化容易さを示す抗磁力と磁化方向長さとの積は磁束51のみによっては磁化状態が変更されない程度に設定されるので制御磁石19,1bの磁化状態は安定的に維持される。
このように励磁コイル1g,電機子コイル31,32,33,34,35,36により制御磁石19を磁束が流れやすく,制御磁石19の磁化方向が反転させられる。制御磁石1cの磁化は変更されないが,引き続いて制御磁石1cの磁化方向と逆方向の励磁磁束を供給するよう励磁コイル1gに供給する電流の方向を変え,制御磁石19の磁化変更と同じ上記のステップで制御磁石1cの磁化を変更する。
図6は制御磁石19を弱め界磁から通常の界磁状態に磁化変更する原理を説明する為の図であり,制御磁石19,1cの磁化方向は図4に示した状態である。制御磁石19を弱め界磁から通常の界磁状態に磁化変更する過程はやや困難を伴う。すなわち,電機子コイルからの磁束は磁性体突極間に配置された永久磁石で短絡され,制御磁石に磁束を集中させる事が困難になる。本発明では励磁コイルからの励磁磁束を電機子コイルからの磁束に重畳させる事により制御磁石の磁化を変更する。
励磁コイル1gには制御磁石19の磁化方向と逆方向に流れる励磁磁束を一括して回転子に供給する。番号63で示す励磁磁束が磁性体突極17,制御磁石19,磁性体突極18を流れ,番号65で示す励磁磁束が磁性体突極1a,制御磁石1c,磁性体突極1bを流れる。電機子コイル31が配置された磁性体歯が磁性体突極17に,電機子コイル34が配置された磁性体歯が磁性体突極18に対向した時に磁性体突極18,磁性体突極17内を磁束63と同方向に磁束が流れるよう電機子コイル31,34に電流を供給し,磁性体突極1aに対向する磁性体歯に巻回された電機子コイル32,33,磁性体突極1bに対向する磁性体歯に巻回された電機子コイル35,36には磁性体突極1a,磁性体突極1b内を磁束65と逆方向に磁束が流れるよう電流を供給する。電機子コイル31,32,33,34,35,36による磁束が番号61,62として代表して示され,磁束62は永久磁石22,23,37,38をそれぞれを含む小さな磁路に流れる磁束,磁束61は制御磁石19,1cを含む大きな磁路に流れる磁束を示している。
磁性体突極17,18内で磁束61,62の流れる方向は励磁磁束63の流れる方向と同じであり,磁性体突極1a,1b内で磁束61,62の流れる方向は励磁磁束65の流れる方向と逆である。また,励磁磁束63の流れる方向と制御磁石19の磁化方向は逆であるので励磁磁束63の一部は番号64で示されるように永久磁石23,制御磁石1c,永久磁石38を介して流れる。磁性体突極1a,1b内で励磁磁束65と磁束61,62とが相殺される程度の電流を電機子コイル31,32,33,34,35,36に供給すると,励磁磁束65はほぼゼロになるが,励磁磁束64は大となる。この状態では制御磁石19に十分な磁束が供給されず,制御磁石19の磁化は反転されない。更に電機子コイル31,32,33,34,35,36に供給する電流を大とし,磁束62により永久磁石22,23,37,38を磁気的に飽和せしめると,励磁コイル1gによる磁束は励磁磁束63として制御磁石19に集中され,制御磁石19の磁化が反転される。制御磁石1cの磁化変更は引き続いて制御磁石1cの磁化方向と逆方向の励磁磁束を供給するよう励磁コイル1gに供給する電流の方向を変え,制御磁石19の磁化変更と同じ上記のステップで制御磁石1cの磁化を変更する。
本実施例に於いて,制御磁石19,1cは互いに隣接する磁性体突極内に配置されているのでそれらの磁化変更は連続して短時間で終了可能であるが,磁化変更に要する時間は励磁コイル1gに供給する電流の切換時間に左右される。励磁コイル1gが発生させる励磁磁束は円環状磁気コア1k,円筒状磁気コア1p,円環状磁気コア1mを流れるので高周波成分を含む狭いパルス的な磁束を伝搬させるのは困難である。さらに励磁コイル1gの巻回数を大とする場合はインダクタンスが大になり,更に電流の切換には時間を要する。巻回数を小にし,発生された磁束の伝搬路として渦電流を生じ難い圧粉鉄心で円環状磁気コア1k,円筒状磁気コア1p,円環状磁気コア1mを構成する事によって励磁コイル1gへの電流切換時間を小として制御磁石の磁化変更を短時間で終了させる事が出来る。
図3から図6に於ける磁束流れの説明は理解を容易にする為に永久磁石,制御磁石,電機子コイル,励磁コイルそれぞれからの磁束を異なった線で代表して示した。磁束が流れる磁性体内で磁気的な飽和が生じない限り,それらは重畳される。図6に於いて磁束63と磁束62とが交差する部分が示されているが,これも理解を容易にする為にモデル的に図示されたものである。
本実施例の回転電機装置に於いて,磁性体突極間の永久磁石は電機子との対向面に近いので磁化され難いネオジウム磁石の採用が望ましい。制御磁石は電機子との対向面より遠い位置に配置され,励磁コイル及び電機子コイルによって磁化変更可能な範囲に磁化方向長さと抗磁力の積が設定される。制御磁石は電機子より離れるので電機子コイルのみによってその磁化変更は困難であるが,励磁コイルと併せて磁化変更が可能となるのであり,制御磁石の磁化状態は安定的に維持される。制御磁石にはアルニコ磁石,ネオジウム磁石,その他の磁石が使用可能であり,励磁コイル及び電機子コイルの各仕様,更に電源の仕様と合わせて選定する。
本実施例はアキシャルギャップを有して電機子及び回転子はそれぞれ円板状に形成され,軸方向に微小間隙を介して対向している。電機子及び回転子の構成は図2,3により磁気的な側面を中心に説明されたが,以下に図7,8を用いて電機子及び回転子,それぞれの機械的な構成が更に説明される。図7は第一電機子の分解斜視図であり,円環状磁気ヨーク15と磁性体歯14の構成が示されている。円環状磁気ヨーク15は所定の型により打ち抜かれた薄い円環状ケイ素鋼板を積層して構成され,その際に形成されたスロット72に磁性体歯14の一部が挿入固定される。磁性体歯14は周方向断面がT字形状であり,圧粉鉄心で構成されている。番号21は隣接する磁性体歯14間の空隙を示し,番号71は円環状磁気ヨーク15から引き出された磁性体歯を示している。同図に於いて,図を判りやすく示す為に電機子コイル16は省略されているが,電機子を組み立てる際には磁性体歯14に電機子コイル16を巻回した後,円環状磁気ヨーク15に設けたスロット72に挿入して固定し,電機子コイル16相互の結線を行って完成させる。第二電機子は図示されていないが,第一電機子と同じ構成である。
図8(a),(b)により回転子の構成が示されている。図8(a)は回転子支持体1hの斜視図を示し,回転子支持体1hは外側支持体81,脚部82,内側支持体83とより構成され,それらは非磁性のステンレススチールで構成されている。内側支持体83は円筒状磁気コア1pを有して回転軸11に固定され,外側支持体81は回転子を構成する部材を外周側から支持し,脚部82は径方向に延びて外側支持体81と内側支持体83とを連結している。図8(b)は回転子の分解斜視図を示し,構成を判りやすくする為に一部の部材が軸方向の右に引き出されている。回転子の構成は図2,3により説明されたように磁性体突極17,1a,18,1b,永久磁石22,23,37,38,制御磁石19,1cを含んで構成され,永久磁石22,37間,永久磁石23,38間には非磁性体39が配置されている。本実施例では磁性体突極17,1a,18,1bに相当する磁性体片,永久磁石22,23,37,38,制御磁石19,1cが回転子支持体1hに固定され,脚部82が非磁性体39に相当している。
以上,図1から図8を用いて実施例1の構成を示し,電機子と鎖交する磁束量変更の為に制御磁石の磁化変更の原理を説明した。実施例1に示した回転電機装置は界磁制御可能な電動機或いは発電機として動作するが,界磁制御に関係する以外の構成は従来の回転電機装置と同じであり,電動機或いは発電機としての動作の説明は省略する。
本実施例では磁化反転させようとする制御磁石19を含む磁性体突極17,18にそれぞれ同相の電機子コイル31,34が同時に対向するよう構成されているが,本発明の構成はこれに限定されない。磁性体突極17に電機子コイル31が対向する時,磁性体突極1bに電機子コイル34が対向する構成も可能であり,この場合に電機子コイル31,34は互いに逆方向の磁束を発生するよう直列に接続される。
本実施例では磁化反転させようとする制御磁石19を含む磁性体突極17,18にそれぞれ対向する電機子コイル31,34と,隣接する磁性体突極1a,1bにそれぞれ対向する電機子コイル32,33,35,36とに逆方向の磁束を発生させたが,電機子コイル32,33,35,36に電流を供給しない構成も可能である。電機子コイル31,34が一方向の磁束を磁性体突極17,18内に発生させるよう電流を供給すれば,隣接する磁性体突極1a,1bを介して磁束は環流する。但し,制御磁石19に磁化反転の為に磁束を集中させる効率は低くなる。
また,本実施例はアキシャルギャップ・ダブルステータ構造であるが,ラジアルギャップ・ダブルステータ構造とする事も可能である。その場合には回転子を有底円筒形状とし,底部に相当する部分で回転軸に固定する。励磁コイルは回転子と軸方向に並んでハウジング側面に配置される。
本発明による回転電機システムの第二実施例を図9から図14を用いて説明する。第二実施例は,隣接する磁性体突極に厚みの異なる制御磁石が配置され,励磁コイルによって電機子コイルと鎖交する磁束量が更に精密に制御される回転電機システムである。図9はアキシャルギャップ構造の回転電機に本発明を適用した実施例の縦断面図を示している。基板9eに固定軸91及び電機子が固定され,固定軸91にベアリング93を介してロータハウジング92が回動可能に支持されている。ロータハウジング92は非磁性のステンレススチールで構成され,磁性体基板97を有し,電機子との対向面には磁性体突極98及び磁性体突極9aとが周方向に交互に配置され,磁性体突極98には厚みが大の第一制御磁石99,磁性体突極9aには厚みが小の第二制御磁石9bをそれぞれ配置される。制御磁石99,9b内の矢印は磁化方向を示している。電機子は基板9eに固定された円環状磁気ヨーク95と,円環状磁気ヨーク95に配置された磁性体歯94,電機子コイル96とを有している。励磁磁路部材である円筒状磁気コア9dの一端は円環状磁気ヨーク95に繋がり,他端は微小空隙を介して磁性体基板97の一部と対向している。励磁コイル9cは円筒状磁気コア9dに巻回され,円筒状磁気コア9d,円環状磁気ヨーク95,磁性体歯94,磁性体突極98,9a,磁性体基板97を含む磁路に励磁磁束を発生するよう構成されている。
図10(a)は回転子の電機子との対向面を左から見て透視した平面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付して示されている。回転子はロータハウジング92に磁性体基板97が配置され,電機子に対向する面には磁性体突極98及び磁性体突極9aとが周方向に交互に配置されている。番号101,102は磁性体突極98と磁性体突極9aとの間に配置された周方向磁化を有する永久磁石を示し,第一制御磁石99と共に磁性体突極98をS極に,第二制御磁石9bと共に磁性体突極9aをN極に磁化している。永久磁石101,102内の矢印は磁化方向を示し,磁性体突極98,9a内のN,Sは制御磁石99,9b,永久磁石101,102によって磁化された極性を示す。回転子の表面に於いて磁性体突極98,9aは厚みの小さい磁性体で繋がって一体化されているので表面から永久磁石101,102は見えないが,図では判りやすいように示している。図10(b)は電機子を左方向から見た平面図を示している。電機子は基板9eに固定された円環状磁気ヨーク95と,円環状磁気ヨーク95から延びる磁性体歯94に巻回された電機子コイル96とから構成されている。U相,V相,W相の電機子コイルが周方向に順次繰り返し配置されている。番号103は隣接する磁性体歯間の空隙を示す。
図11は回転子及び電機子の周方向断面を図10(a),10(b)に示したB−B’に沿って示す図である。同図により回転子の磁極構成及び磁束の流れを説明する。回転子の表面磁極部は一様な磁性体基板を略周方向磁化を持つ永久磁石で周方向に区分した磁性体突極を周方向に有し,磁性体突極98の電機子と対向しない側に第一制御磁石99,磁性体突極9aの電機子と対向しない側に第二制御磁石9bが配置され,第一制御磁石99,第二制御磁石9bはそれぞれ一つの磁石要素で構成されている。永久磁石101,102,第一制御磁石99,第二制御磁石9b内の矢印はそれぞれの磁化方向を示す。番号114は永久磁石からの磁束がが磁気的に短絡し難いよう配置された非磁性体を示す。電機子コイル96はU相,V相,W相の電機子コイルをそれぞれ電機子コイル111,112,113として示されている。
点線115は永久磁石101,102からの磁束を代表して示し,点線116は第一制御磁石99,第二制御磁石9bからの磁束を代表して示している。同図に示されるように永久磁石101,102と第一制御磁石99とが磁性体突極98を同じ極性に磁化し,永久磁石101,102と第二制御磁石9bとが磁性体突極9aを同じ極性に磁化する場合が電機子コイルと鎖交する磁束量を大とする状態である。したがって,第一制御磁石99に於いて,同図に於いて左方向の磁化が第一磁化,右方向の磁化が第二磁化に相当し,第二制御磁石9bに於いて,右方向の磁化が第一磁化,左方向の磁化が第二磁化に相当する。同図に於いて,磁性体突極98,9aは幅の狭い磁性体で互いに連結されているが,幅の狭い磁性体は容易に磁気的に飽和するので磁気的には無視できる。
図12は図11に示す状態から第一制御磁石99,第二制御磁石9bの磁化方向が反転された状態である。第一制御磁石99,永久磁石101,第二制御磁石9bは閉磁路を構成し,また第一制御磁石99,永久磁石102,第二制御磁石9bは閉磁路を構成して電機子側に流れる磁束量が減少される。番号121は閉磁路を構成している磁束を代表して示し,図12の場合が弱め界磁の状態に相当する。この状態で電機子側に流れる磁束量は永久磁石101,102,第一制御磁石99,第二制御磁石9bの飽和磁束密度,磁極面積等によって設定される。
本実施例では,第一制御磁石99,第二制御磁石9bの磁化方向を図11,12に示された状態の何れかに制御して電機子コイルと鎖交する磁束量を制御する。図11の場合が通常界磁の状態であり,図12の場合が弱め界磁状態に相当する。以下に第一制御磁石99,第二制御磁石9bの磁化状態を制御する構成及び動作原理を説明する。図9に示されるように励磁磁路部材に相当する円筒状磁気コア9dは電機子の円環状磁気ヨーク95と磁性体基板97とを磁気的に結合し,励磁コイル9cは円筒状磁気コア9d,円環状磁気ヨーク95,磁性体歯94,磁性体突極98,9a,磁性体基板97を含む磁路に磁束を発生するよう配置されている。励磁コイル9cは回転子,電機子を一括して励磁する構成であり,第一制御磁石99,第二制御磁石9bの磁化変更は図13,14を用いて説明される。
図13は第一制御磁石99を弱め界磁側に磁化変更する原理を説明する為の図であり,第一制御磁石99の磁化方向は図11に示した状態である。励磁コイル9cは第一制御磁石99の磁化方向と逆方向に流れる励磁磁束を一括して回転子に供給する。番号133で示す励磁磁束が第一制御磁石99,磁性体突極98内を流れ,番号134で示す励磁磁束が第二制御磁石9b,磁性体突極13a内を流れる。電機子コイル111が配置された磁性体歯が磁性体突極98に対向した時に磁性体突極98内を励磁磁束133と同方向に磁束が流れるよう電機子コイル111に電流を供給し,磁性体突極9aに対向する磁性体歯に巻回された電機子コイル112,113に磁性体突極9a内を励磁磁束134と逆方向に磁束が流れるよう電流を供給する。電機子コイル111,112,113による磁束が番号131,132として代表して示され,磁束132は永久磁石101,102をそれぞれを含む小さな磁路に流れる磁束,磁束131は制御磁石99,9bを含む大きな磁路に流れる磁束を示している。
磁性体突極98内で磁束131,132の流れる方向は励磁磁束133の流れる方向と同じであり,磁性体突極9a内で磁束131,132の流れる方向は励磁磁束134の流れる方向と逆である。磁性体突極9a内で励磁磁束134と磁束131,132とが相殺される程度の電流を電機子コイル111,112,113に供給すると,励磁磁束134はほぼゼロになり,励磁コイル9cによる磁束は励磁磁束133として第一制御磁石99に集中され,第一制御磁石99の磁化が反転される。回転子を回転駆動するに際して電機子コイルから磁束131,132が回転子に加えられる。磁束131の流れる磁路は制御磁石99,9bを含み,磁束132の流れる磁路は永久磁石101,102の何れか一つを含んで前者の磁路の磁気抵抗は後者の磁路の磁気抵抗より大である。磁束132の量が磁束131の量に比して大であり,永久磁石101,102それぞれの両端に印可されるポテンシャル差は制御磁石99,9bそれぞれの両端に印可されるポテンシャル差より大となる。磁束132の流れる方向は永久磁石101,102の磁化方向と逆であるが,永久磁石101,102にはネオジウム磁石を主体とする抗磁力が大の永久磁石で構成されるのでそれらの磁化は影響を受けない。また,制御磁石99,9bの磁化容易さを示す抗磁力と磁化方向長さとの積は磁束131のみによっては磁化状態が変更されない程度に設定されるので制御磁石99,9bの磁化状態は安定的に維持される。
このように励磁コイル9c,電機子コイル111,112,113により第一制御磁石99を磁束が流れやすく,第一制御磁石99の磁化方向が反転させられる。第二制御磁石9bの磁化は変更されないが,引き続いて第二制御磁石9bの磁化方向と逆方向の励磁磁束を供給するよう励磁コイル9cに供給する電流の方向を変え,第一制御磁石99の磁化変更と同じ上記のステップで第二制御磁石9bの磁化を変更する。
図14は第一制御磁石99を弱め界磁から通常の界磁状態に磁化変更する原理を説明する為の図であり,第一制御磁石99の磁化方向は図12に示した状態である。第一制御磁石99を弱め界磁から通常の界磁状態に磁化変更する過程はやや困難を伴う。すなわち,電機子コイルからの磁束は磁性体突極間に配置された永久磁石で短絡され,制御磁石に磁束を集中させる事が困難になる。本発明では励磁コイルを有して励磁コイルからの励磁磁束を電機子コイルからの磁束に重畳させる事により制御磁石の磁化を変更する。
励磁コイル9cには第一制御磁石99の磁化方向と逆方向に流れる励磁磁束を一括して回転子に供給する。番号143で示す励磁磁束が第一制御磁石99,磁性体突極98内を流れ,番号145で示す励磁磁束が第二制御磁石9b,磁性体突極9a内を流れる。電機子コイル111が配置された磁性体歯が磁性体突極98に対向した時に磁性体突極98内を励磁磁束143と同方向に磁束が流れるよう電機子コイル111に電流を供給し,磁性体突極9aに対向する磁性体歯に巻回された電機子コイル112,113には磁性体突極9a内を励磁磁束145と逆方向に磁束が流れるよう電流を供給する。電機子コイル111,112,113による磁束が番号141,142として代表して示され,磁束142は永久磁石101,102をそれぞれを含む小さな磁路に流れる磁束,磁束141は制御磁石99,9bを含む大きな磁路に流れる磁束を示している。
磁性体突極98内で磁束141,142の流れる方向は励磁磁束143の流れる方向と同じであり,磁性体突極9a内で磁束141,142の流れる方向は励磁磁束145の流れる方向と逆である。また,励磁磁束143の流れる方向と第一制御磁石99の磁化方向は逆であるので励磁磁束143の一部は番号144で示されるように永久磁石102,第二制御磁石9bを介して流れる。磁性体突極9a内で励磁磁束145と磁束141,142とが相殺される程度の電流を電機子コイル111,112,113に供給すると,励磁磁束145はほぼゼロになって励磁磁束144は大となる。この状態では第一制御磁石99に十分な磁束が供給されず,第一制御磁石99の磁化は反転されない。更に電機子コイル111,112,113に供給する電流を大とし,磁束142により永久磁石101,102を磁気的に飽和せしめると,励磁コイル9cによる磁束は励磁磁束143として第一制御磁石99に集中され,第一制御磁石99の磁化が反転される。
第二制御磁石9bの磁化変更は引き続いて第二制御磁石9bの磁化方向と逆方向の励磁磁束を供給するよう励磁コイル9cに供給する電流の方向を変え,第一制御磁石99の磁化変更と同じ上記のステップで第二制御磁石9bの磁化を変更する。図11から図14に於ける磁束流れの説明は理解を容易にする為に永久磁石,制御磁石,電機子コイル,励磁コイルそれぞれからの磁束を異なった線で代表して示した。磁束が流れる磁性体内で磁気的な飽和が生じない限り,それらは重畳される。したがって,図14に於いて磁束144と磁束141とが交差する部分が示されているが,これも理解を容易にする為にモデル的に図示されたものである。
以上に説明したように第一制御磁石99,第二制御磁石9bの磁化状態を変更して電機子コイルと鎖交する磁束量を制御できるが,本実施例では更に励磁コイル9cに供給する磁束調整電流により電機子コイルと鎖交する磁束量を精密に制御できる。すなわち,本実施例では磁性体突極98に厚みが大の第一制御磁石99を配置し,磁性体突極9aに厚みが小の第二制御磁石9bを配置した構成であり,更に励磁コイル9cに第一制御磁石99,第二制御磁石9bの磁化状態を変更しない程度の磁束調整電流を供給して電機子コイルと鎖交する磁束量を制御できる。磁気的に飽和した永久磁石に抗磁力以下の弱磁界を加えても永久磁石の透磁率は空気とほぼ同じであって厚み相当の空隙とほぼ同じ存在となる。したがって,磁束調整電流を励磁コイル9cに加えて発生された磁束は厚みが大の第一制御磁石99及び磁性体突極98を流れ難く,厚みが小の第二制御磁石9b及び磁性体突極9aを専ら流れて電機子コイルと鎖交し,電機子コイルと鎖交する磁束量は実効的に制御される。その場合,図11に於いて励磁コイル9cに加えて発生された磁束が第二制御磁石9bの磁化方向と同じく右方向に流れる方向であれば,電機子コイルと鎖交する磁束量は増大し,逆方向の場合に電機子コイルと鎖交する磁束量は減少する。
以上,図9から図14を用いて実施例2の構成を示し,電機子と鎖交する磁束量変更の為に制御磁石の磁化変更の原理を説明した。実施例2に示した回転電機装置は界磁制御可能な電動機或いは発電機として動作するが,界磁制御に関係する以外の構成は従来の回転電機装置と同じであり,電動機或いは発電機としての動作の説明は省略する。
本実施例は電機子を流れる磁束量を制御して出力を最適化するシステムであり,回転電機が電動機として用いられる場合に於いて,磁束量制御を行って回転力を最適に制御する。但し,電機子を流れる磁束量を増やす極性の磁束調整電流を正としている。制御装置は回転速度が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には励磁コイル9cに供給する磁束調整電流を減じて電機子に流れる磁束量を小とし,磁束調整電流が予め定めた値より小である場合には第一制御磁石99,第二制御磁石9bの磁化状態を不可逆的に変えて第二磁化の磁極面積を増す方向の電流が励磁コイル9c及び電機子コイル111,112,113に供給されて第一磁化の磁極面積を減じると共に第二磁化の磁極面積を増して電機子を流れる磁束量を小とする。制御装置は回転速度が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には励磁コイル9cに供給する磁束調整電流を増して電機子に流れる磁束量を大とし,磁束調整電流が予め定めた値より大である場合には第一制御磁石99,第二制御磁石9bの磁化状態を不可逆的に変えて第一磁化の磁極面積を増す方向の電流を励磁コイル9c及び電機子コイル111,112,113に供給して第一磁化の磁極面積を増すと共に第二磁化の磁極面積を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。
回転電機が発電機として用いられる場合において,磁束量制御を行って発電電圧を所定の電圧となるよう制御する定電圧発電システムを説明する。但し,電機子を流れる磁束量を増やす極性の磁束調整電流を正としている。制御装置は発電電圧が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には励磁コイル9cに供給する磁束調整電流を減じて電機子に流れる磁束量を小とし,磁束調整電流が予め定めた値より小である場合には第一制御磁石99,第二制御磁石9bの磁化状態を不可逆的に変えて第二磁化の磁極面積を増す方向の電流が励磁コイル9c及び電機子コイル111,112,113に供給されて第一磁化の磁極面積を減じると共に第二磁化の磁極面積を増して電機子を流れる磁束量を小とする。制御装置は発電電圧が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には励磁コイル9cに供給する磁束調整電流を増して電機子に流れる磁束量を大とし,磁束調整電流が予め定めた値より大である場合には第一制御磁石99,第二制御磁石9bの磁化状態を不可逆的に変えて第一磁化の磁極面積を増す方向の電流を励磁コイル9c及び電機子コイル111,112,113に供給して第一磁化の磁極面積を増すと共に第二磁化の磁極面積を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。
本実施例の回転電機をハイブリッドカー或いは電気自動車の駆動モータ及び発電機として搭載する場合には,減速時に運動エネルギーを有効に回収する事が出来る。すなわち,減速時には回転電機を発電機として発電電力をバッテリー或いは電気二重層コンデンサー等に蓄えて運動エネルギーを回収する。その際,速度の低下に応じて励磁コイル9cに供給する磁束調整電流を大とし,更に充電電流の制御と併せて制動力を制御する。通常の一定界磁のモータによる回生制動では速度低下と共に出力電圧も低下し,制動力は急激に減少するが,本実施例の回転電機によれば回生制動時の制動力を確保できる。また,低速までも十分なエネルギー回収を可能にする。
本発明による回転電機システムの第三実施例を図15から図21を用いて説明する。第三実施例は,ラジアルギャップ構造の回転電機システムであり,制御磁石は磁化容易さの異なる磁石要素の並列接続として構成されている。図15はラジアルギャップ構造の回転電機に本発明を適用した実施例の縦断面図を示し,回転軸151がベアリング153を介してハウジング152に回動可能に支持されている。電機子はハウジング152に固定された円筒状磁気ヨーク155と,磁性体歯154と,電機子コイル156とを有している。回転子は表面磁極部157,円筒状磁気コア159,回転子支持体15aを有して回転軸151と共に回転する。ハウジング152は鉄を主体とする磁性体で構成され,円筒状磁気コア159の両端と微小間隙を介して対向し,励磁コイル158がハウジング152,円筒状磁気コア159,表面磁極部157,磁性体歯154,円筒状磁気ヨーク155で構成される磁路に励磁磁束を発生するようハウジング152の内側に回転軸を周回するよう配置されている。
図16は図15のC−C’に沿う電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付している。表面磁極部157は磁性体が集合磁石により周方向に区分された構成である。中間磁性体突極163の両側面にほぼ同じ磁化方向の磁石板165,166が配置された組み合わせは磁気的には磁石と等価な集合磁石として,回転子の表面磁極部157は一様な円筒状磁性体基板を周方向に等間隔に配置された集合磁石によって区分された磁性体突極及び集合磁石とから構成されている。隣接する磁性体突極を磁性体突極161,磁性体突極162として互いに異なる方向に磁化されるよう隣接する集合磁石の磁化方向は互いに反転して構成されている。磁性体突極161,162それぞれの周方向両側面に配置された磁石板はV字状の配置であり,磁石板の交差角度は磁束バリアに好適な角度に設定する。磁性体突極161,162の側面に配置されている磁石板164,165,166,167に付された矢印は磁石板164,165,166,167の板面にほぼ直交する磁化方向を示す。
磁性体突極161の内周側には制御磁石168が配置され,磁性体突極162の内周側には制御磁石169が配置されている。何れの制御磁石168,169も磁性体歯154から離れた位置に配置され,制御磁石168,169内の矢印は磁化方向を示している。磁石板164,165と制御磁石168は磁性体突極161を同じ極性に磁化し,磁石板166,167と制御磁石169は磁性体突極162を同じ極性に磁化している。集合磁石は中間磁性体突極163及び磁石板165,166により構成されるが,励磁コイル158からの磁束が中間磁性体突極163を介して電機子側に流れないように非磁性体16bが集合磁石の内周側に配置されている。更に制御磁石168,169は軸方向に繰り返し配置された厚みの異なる磁石要素の並列接続としてそれぞれ構成され,その構成は図21に示されている。
電機子はハウジング152に固定された円筒状磁気ヨーク155と,円筒状磁気ヨーク155から径方向に延び,周方向に磁気空隙を有する複数の磁性体歯154と,磁性体歯154に巻回された電機子コイル156とから構成されている。電機子の磁性体歯154先端には径方向に短い可飽和磁性体結合部16aを隣接する磁性体歯154先端部間に配置されている。磁性体歯154及び可飽和磁性体結合部16aはケイ素鋼板を型で打ち抜いて積層され,電機子コイル156を巻回された後,圧粉鉄心で構成された円筒状磁気ヨーク155と組み合わせて電機子とされている。可飽和磁性体結合部16aは隣接する磁性体歯154同士を機械的に連結させて磁性体歯154の支持強度を向上させ,磁性体歯154の不要な振動を抑制させる。可飽和磁性体結合部16aの径方向の長さは短く設定して容易に磁気的に飽和する形状としたので電機子コイル156が発生させる磁束或いは永久磁石からの磁束によって容易に飽和し,その場合に電機子コイル156が発生させる磁束及び磁束の短絡を僅かな量とする。電機子コイル156に電流が供給されると,時間と共に可飽和磁性体結合部16aは磁気的に飽和させられて周辺に磁束を漏洩させるが,磁気飽和した可飽和磁性体結合部16aに現れる実効的な磁気空隙の境界はクリアではないので漏洩する磁束の分布は緩やかとなり,可飽和磁性体結合部16aはこの点でも磁性体歯154に加わる力の時間変化を緩やかにして振動抑制に寄与する。
本実施例に於いて,更に制御磁石168,169は磁化容易さの異なる磁石要素の並列接続として構成され,図21は磁性体突極161に配置された制御磁石168の上半分の縦断面図を示す。制御磁石168は磁化方向長さの異なる磁石要素211,212,213がこの順で繰り返し軸方向に並び,磁石要素211,212,213を挟む磁性体によって並列に接続された構成である。電機子コイル156,励磁コイル158により磁界が加えられると,磁石要素211,212,213を上下に挟んでいる磁性体間の磁気ポテンシャル差(起磁力)はほぼ一様として各磁石要素内では磁気ポテンシャル差を長さで除した値に相当する磁界強度が加えられ,その磁界強度が抗磁力を越えた磁石要素の磁化が変更される。したがって,短い磁石要素が磁化されやすく,長い磁石要素は磁化され難い。制御磁石169も同じ構成で磁化方向が逆である。
図17,18,19,20は図16に示された電機子及び回転子の一部を拡大して示した断面図であり,これらの図を用いて磁束の流れを説明する。これらの図に於いて,電機子コイル156はU相,V相,W相の電機子コイルをそれぞれ電機子コイル171,172,173として周方向に繰り返し配置されている。また,本実施例に於いて制御磁石168,169はそれぞれ3個の磁石要素から構成され,3個の磁石要素はそれぞれ異なる磁化方向を取り得る。図17,18では磁石要素の数で勝る磁石要素の磁化方向を制御磁石168,169それぞれの磁化方向として示している。図17に於いて,点線174は磁石板164,165,166,167からの磁束を代表して示し,点線175は制御磁石168,169からの磁束を代表して示している。同図に於いて,磁性体突極161,162は幅の狭い磁性体で互いに連結されているが,幅の狭い磁性体は容易に磁気的に飽和するので磁気的には無視できる。同図に示されるように磁石板164,165と制御磁石168とが磁性体突極161をS極に磁化し,磁石板166,167と制御磁石169とが磁性体突極162をN極に磁化する場合が電機子コイルと鎖交する磁束量を大とする状態である。図17に示されるように制御磁石168の磁化方向を内径方向とする各磁石要素の磁化状態は図21(a),(b)に示されるように2個以上の磁石要素の磁化方向が内径方向である状態に相当し,制御磁石168に於いて,内径方向の磁化が第一磁化,外径方向の磁化が第二磁化に相当し,制御磁石169に於いて,外径方向の磁化が第一磁化,内径方向の磁化が第二磁化に相当する。
図18は図17に示す状態から制御磁石168,169の磁化方向が反転された状態である。制御磁石168,169と磁石板165,166は閉磁路を構成し,制御磁石168,169と磁石板164,167は閉磁路を構成して電機子側に流れる磁束量が減少される。番号181は閉磁路を構成している磁束を代表して示し,図18の場合が弱め界磁の状態に相当する。この状態で電機子側に流れる磁束量は磁石板164,165,166,167,制御磁石168,169の飽和磁束密度,磁極面積等によって設定される。図18に示されるように制御磁石168の磁化方向を外径方向とする各磁石要素の磁化状態は図21(c),(d)に示されるように2個以上の磁石要素の磁化方向が外径方向である状態に相当する。
本実施例では,制御磁石168,169からの磁束量及び磁束の方向を制御して電機子コイルと鎖交する磁束量を制御する。以下に制御磁石168,169の磁化状態を制御する構成及び動作原理を説明する。図15に示されるように励磁磁路部材に相当するハウジング152は電機子の円筒状磁気ヨーク155と円筒状磁気コア159と磁気的に結合し,励磁コイル158はハウジング152,円筒状磁気コア159,表面磁極部157,磁性体歯154,円筒状磁気ヨーク155で構成される磁路に励磁磁束を発生するよう配置されている。回転子両端に配置された励磁コイル158は全く同一の構成であり,何れの励磁コイル158も表面磁極部157を同じ方向に励磁する。この構成は軸長の長い回転電機装置に於いて十分な量の励磁磁束を均等に供給する為であって,軸長の短い回転電機装置の場合は一方の励磁コイル158のみでよい。励磁コイル158は電機子,回転子を一括して励磁する構成であり,制御磁石168,169の磁化状態変更は図19,図20,図21を用いて説明される。
図19は制御磁石168を弱め界磁側に磁化変更する原理を説明する為の図であり,制御磁石168,169はそれぞれ制御磁石168内の内径方向の磁化を持つ磁石要素,制御磁石169内の外径方向の磁化を持つ磁石要素を代表して示している。図21に示した制御磁石168の各磁石要素に関して,図21(a)では磁石要素213を,図21(b)では磁石要素212を,図21(c)では磁石要素211をそれぞれ示している。制御磁石168を弱め界磁側に変更する事は図21(a),(b),(c)からそれぞれ図21(b),(c),(d)の状態に変更するよう制御磁石168を構成する磁石要素に於いて外径方向の磁化を有する磁石要素の数を増やす事であり,励磁コイル158,電機子コイル171,172,173によって制御磁石168内を外径方向に流れる磁束を供給して磁化反転させる。
励磁コイル158は磁性体突極161,162内を外径方向に流れる励磁磁束を一括して回転子に供給する。番号193で示す励磁磁束が制御磁石168,磁性体突極161内を流れ,番号194で示す励磁磁束が制御磁石169,磁性体突極162内を流れる。電機子コイル171が配置された磁性体歯が磁性体突極161に対向した時に磁性体突極161内を励磁磁束193と同方向に磁束が流れるよう電機子コイル171に電流を供給し,磁性体突極162に対向する磁性体歯に巻回された電機子コイル172,173に磁性体突極162内を励磁磁束194と逆方向に磁束が流れるよう電流を供給する。電機子コイル171,172,173による磁束が番号191,192として代表して示され,磁束192は永久磁石165,166を含む小さな磁路に流れる磁束,磁束191は制御磁石168,169を含む大きな磁路に流れる磁束を示している。磁性体突極161内で磁束191,192の流れる方向は励磁磁束193の流れる方向と同じであり,磁性体突極162内で磁束191,192の流れる方向は励磁磁束194の流れる方向と逆である。磁性体突極162内で励磁磁束194と磁束191,192とが相殺される程度の電流を電機子コイル171,172,173に供給すると,励磁磁束194はほぼゼロになり,励磁コイル158による磁束は励磁磁束193として制御磁石168に集中され,制御磁石168の磁化が反転される。
回転子を回転駆動するに際して電機子コイルから磁束191,192が回転子に加えられる。磁束191の流れる磁路は制御磁石168,169を含み,磁束192の流れる磁路は永久磁石165,166を含んで前者の磁路の磁気抵抗は後者の磁路の磁気抵抗より大である。磁束192の量は磁束191の量に比して大であり,永久磁石165,166それぞれの両端に印可されるポテンシャル差は制御磁石168,169それぞれの両端に印可されるポテンシャル差より大となる。磁束192の流れる方向は永久磁石165,166の磁化方向と逆であるが,永久磁石165,166にはネオジウム磁石を主体とする抗磁力が大の永久磁石で構成されるのでそれらの磁化は影響を受けない。また,制御磁石168,169の磁化容易さを示す抗磁力と磁化方向長さとの積は磁束191のみによっては磁化状態が変更されない程度に設定されるので制御磁石168,169の磁化状態は安定的に維持される。
このように励磁コイル158,電機子コイル171により制御磁石168を磁束が流れやすく,励磁コイル158,電機子コイル172,173により制御磁石169を磁束が流れ難く,制御磁石168を構成する磁石要素の磁化が変更される。以下には図21に示す各磁石要素の磁化状態と電機子コイルの鎖交磁束量との関係を更に説明する。制御磁石168は磁石要素211,212,213がこの順で繰り返し軸方向に並ぶ構成であるので一周期に相当する磁石要素211,212,213の長さ相当の磁石板164,165が磁性体突極161から電機子側に流れる磁束量を基準として1.0とし,各磁石要素が磁性体突極161を介して電機子側に流れる磁束量を0.25とすると,図21(a)の場合,磁性体突極161から電機子側に流れる磁束量は1.75に相当する。
図21(a)の状態から電機子側に流れる磁束量を減ずる為には最も磁化方向長さの小さい磁石要素213の磁化方向のみを反転させるよう電機子コイル171,172,173,励磁コイル158に供給する電流を設定して磁界を加える。その結果が図21(b)であり,磁石要素212,213からの磁束は互いに相殺されて制御磁石168が供給する磁束量は0.25となるので磁性体突極161から電機子側に流れる磁束量は1.25となる。更に図21(b)の状態から電機子側に流れる磁束量を減ずる為には二番目に磁化方向長さの小さい磁石要素212の磁化方向を反転させ,磁石要素211の磁化状態には影響を与えないよう電機子コイル171,172,173,励磁コイル158に供給する電流を設定して磁界を加える。その結果が図21(c)であり,制御磁石168が供給する磁束の方向は反転して磁石板164,165からの磁束と一部相殺されるので磁性体突極161から電機子側に流れる磁束量は0.75となる。更に図21(c)の状態から電機子側に流れる磁束量を減ずる為には最も磁化方向長さの長い磁石要素211の磁化方向を反転させるよう電機子コイル171,172,173,励磁コイル158に供給する電流を設定して磁界を加える。その結果が図21(d)であり,磁性体突極161から電機子側に流れる磁束量は0.25となる。
図20は制御磁石168を強め界磁側に磁化変更する原理を説明する為の図であり,制御磁石168,169はそれぞれ制御磁石168内の外径方向の磁化を持つ磁石要素,制御磁石169内の内径方向の磁化を持り磁石要素を代表して示している。制御磁石168を強め界磁側に磁化変更する事は制御磁石168を構成する磁石要素に於いて内径方向の磁化を有する磁石要素の数を増やす事であり,励磁コイル158,電機子コイル171,172,173によって制御磁石168内を内径方向に流れる磁束を供給する。制御磁石168を強め界磁側に磁化変更する過程はやや困難を伴う。すなわち,電機子コイルからの磁束は磁性体突極間に配置された磁石板で短絡され,制御磁石に磁束を集中させる事が困難になる。本発明では励磁コイルを有して励磁コイルからの励磁磁束を電機子コイルからの磁束に重畳させる事によりその磁化変更を容易とする。
励磁コイル158には制御磁石168の磁化方向と逆方向に流れる励磁磁束を一括して回転子に供給する。番号203で示す励磁磁束が磁性体突極161,制御磁石168内を流れ,番号205で示す励磁磁束が制御磁石169,磁性体突極162内を流れる。電機子コイル171が配置された磁性体歯が磁性体突極161に対向した時に磁性体突極161内を励磁磁束203と同方向に磁束が流れるよう電機子コイル171に電流を供給し,磁性体突極162に対向する磁性体歯に巻回された電機子コイル172,173に磁性体突極162内を励磁磁束205と逆方向に磁束が流れるよう電流を供給する。電機子コイル171,172,173による磁束が番号201,202として代表して示され,磁束202は永久磁石165,166を含む小さな磁路に流れる磁束,磁束201は制御磁石168,169を含む大きな磁路に流れる磁束を示している。
磁性体突極161内で磁束201,202の流れる方向は励磁磁束203の流れる方向と同じであり,磁性体突極162内で磁束201,202の流れる方向は励磁磁束205の流れる方向と逆である。また,励磁磁束203の流れる方向と制御磁石168の磁化方向は逆であるので励磁磁束203の一部は番号204で示されるように永久磁石165,166,制御磁石169を介して流れる。磁性体突極162内で励磁磁束205と磁束201,202とが相殺される程度の電流を電機子コイル171,172,173に供給すると,励磁磁束205はほぼゼロになるが,励磁磁束204は大となる。この状態では制御磁石168に十分な磁束が供給されず,制御磁石168の磁化は反転されない。更に電機子コイル171,172,173に供給する電流を大とし,磁束202により永久磁石165,166を磁気的に飽和せしめると,励磁コイル158による磁束は励磁磁束203として制御磁石168に集中され,制御磁石168の磁化が反転される。
励磁コイル158よる励磁磁束203と電機子コイル171,172,173による磁束201,202は共に制御磁石168を同じ方向に流れて磁石要素の磁化を変更する。以下には図21を参照しながら各磁石要素の磁化状態と電機子コイルの鎖交磁束量との関係を更に説明する。電機子コイルとの鎖交磁束量が最も少ない場合は制御磁石168の磁化状態が図21(d)に示される状態であり,磁性体突極161から電機子側に流れる磁束量は0.25である。この状態から電機子コイルとの鎖交磁束量を増やすには上記のステップに従って制御磁石168内を内径方向に流れる磁束を供給して内径方向の磁化を有する磁石要素数を増やす事である。磁化方向長さが最も短い磁石要素213のみを内径方向に反転させる大きさの電流を励磁コイル158,電機子コイル171,172,173に供給して磁石要素213の磁化方向を内径方向とする。この状態は図示されていないが,磁性体突極161から電機子側に流れる磁束量は0.75となる。
更に電機子コイルとの鎖交磁束量を増やすには磁化方向長さが2番目に短い磁石要素212の磁化方向を内径方向に変え,磁石要素211の磁化に影響を与えないような大きさの電流を励磁コイル158,電機子コイル171,172,173に供給して磁石要素212の磁化方向を内径方向とする。この状態は図示されていないが,磁性体突極161から電機子側に流れる磁束量は1.25となる。更に電機子コイルとの鎖交磁束量を増やして最大にするには磁化方向長さが最も長い磁石要素211の磁化方向を内径方向に反転させる大きさの電流を励磁コイル158,電機子コイル171,172,173に供給して磁石要素211の磁化方向を内径方向とする。この状態が図21(a)であり,磁性体突極161から電機子側に流れる磁束量は1.75となる。
上記のステップに於いて,制御磁石169には磁化変更をさせるほどの磁束は供給されず,制御磁石169を構成する磁石要素の磁化は変更されない。制御磁石169は制御磁石168とは構成する各磁石要素の磁化の方向がそれぞれ逆である以外は同じ構成であり,上記制御磁石168の磁化状態変更と同じステップで制御磁石169の磁化状態を変更する。
図17から図20に於ける磁束流れの説明は理解を容易にする為に磁石板,制御磁石,電機子コイル,励磁コイルそれぞれからの磁束を異なった線で代表して示した。磁束が流れる磁性体内で磁気的な飽和が生じない限り,それらは重畳される。したがって,図20に於いて磁束204と磁束202とが交差する部分が示されているが,これも理解を容易にする為にモデル的に図示されたものである。
本実施例では磁化方向長さの異なる磁石要素を軸方向に並べたので電機子コイルと鎖交する磁束量は軸方向に異なり,逆起電圧,出力トルクも軸方向に異なる事になる。しかし,制御磁石からの磁束は軸方向に分散して平均化される傾向にあり,軸方向に鎖交磁束量の変動が残って逆起電圧が軸方向に変動しても電機子コイル内で平均化される。出力トルクが軸方向に変動し,振動を引き起こす可能性はあるが,各磁石要素磁石の配列周期を小さくする事で解消される。
本実施例では磁化方向長さの異なる磁石要素を軸方向に並べ,並列接続して制御磁石を構成したが,制御磁石の磁化方向長さが連続的に変わる構成,磁化方向長さを一定として抗磁力の異なる磁石要素を並列接続する構成も可能であり,構造はシンプルになる。また,各磁石要素を軸方向に並べる替わりに各磁性体突極内で周方向に並べる事も勿論可能である。
更にまた,制御磁石168,制御磁石169それぞれの最小磁化方向長さに差を持たせ,励磁コイル158により電機子を流れる磁束量の微調整を行う構成も可能である。すなわち,制御磁石168の最小磁化方向長さが制御磁石169のそれより小に設定した場合,励磁コイル158による磁束は制御磁石169より制御磁石168を多く通過して流れ,制御磁石168,制御磁石169の磁化状態を変更しない程度の磁束調整電流を励磁コイル158に供給する事により電機子コイル156と鎖交する磁束量を実効的に調整できる。
このように励磁コイル158及び電機子コイル171,172,173に供給する電流を変え,制御磁石168,169に於ける第一磁化,第二磁化にそれぞれ対応する磁石要素数を変えて電機子を流れる磁束量は制御される。電機子を流れる磁束量と電流との関係は設計段階でマップデータとして設定する。しかし,回転電機の量産段階では部材の寸法のバラツキ,磁気特性のバラツキも存在して電機子を流れる磁束量の精密な制御が困難になる場合がある。そのような場合には回転電機を組み立て後に回転電機個々に前記関係を検査し,前記マップデータを修正する。
さらに磁性体は温度による影響を受けやすく,経時変化による影響も懸念される場合には回転電機の運転中に磁化電流とその結果である制御磁石168,169の磁化状態の関係を監視して前記マップデータを修正する情報を学習的に取得する事も出来る。電機子を流れる磁束量を直接に把握する事は難しいが,電機子コイル156に現れる誘起電圧を参照して電機子を流れる磁束量を推定する。例えば,電機子コイル156に現れる誘起電圧の振幅は電機子コイル156と鎖交する磁束量及び回転速度にほぼ比例する。制御磁石168,169内の第一磁化の磁石要素数を増やすよう励磁コイル158及び電機子コイル171,172,173に電流を加えた結果として誘起電圧の振幅の変化量が目標値より小の場合は同一条件に於ける電流の振幅を大に,誘起電圧の振幅の変化量が目標値より大の場合は同一条件に於ける電流の振幅を小にするよう磁化変更の為に供給する電流に係わるパラメータを修正する。
以上,図15から図21を用いて実施例3の構成を示し,電機子と鎖交する磁束量変更の為に制御磁石の磁化変更の原理を説明した。実施例3に示した回転電機装置は界磁制御可能な電動機或いは発電機として動作するが,界磁制御に関係する以外の構成は従来の回転電機装置と同じであり,電動機或いは発電機としての動作の説明は省略する。
本実施例は電機子を流れる磁束量を制御して出力を最適化するシステムであり,電動機システムとしての制御を説明する。回転電機が電動機として用いられる場合において,磁束量制御を行って回転力を最適に制御する。回転速度が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には制御磁石168に於いて内径方向の磁化を持つ磁石要素数を減じるよう電機子コイル171,172,173,励磁コイル158に電流を流して制御磁石168の磁化状態を変え,制御磁石169に於いて外径方向の磁化を持つ磁石要素数を減じるよう電機子コイル171,172,173,励磁コイル158に電流を流して制御磁石169の磁化状態を変えて電機子を流れる磁束量を小とする。回転速度が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には制御磁石168に於いて外径方向の磁化を持つ磁石要素数を減じるよう電機子コイル171,172,173,励磁コイル158に電流を流して制御磁石168の磁化状態を変え,制御磁石169に於いて内径方向の磁化を持つ磁石要素数を減じるよう電機子コイル171,172,173,励磁コイル158に電流を流して制御磁石169の磁化状態を変えて電機子を流れる磁束量を大とする。
回転電機が発電機として用いられる場合において,磁束量制御を行って発電電圧を所定の電圧となるよう制御する定電圧発電システムを説明する。発電電圧が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には制御磁石168に於いて内径方向の磁化を持つ磁石要素数を減じるよう電機子コイル171,172,173,励磁コイル158に電流を流して制御磁石168の磁化状態を変え,制御磁石169に於いて外径方向の磁化を持つ磁石要素数を減じるよう電機子コイル171,172,173,励磁コイル158に電流を流して制御磁石169の磁化状態を変えて電機子を流れる磁束量を小とする。発電電圧が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には制御磁石168に於いて外径方向の磁化を持つ磁石要素数を減じるよう電機子コイル171,172,173,励磁コイル158に電流を流して制御磁石168の磁化状態を変え,制御磁石169に於いて内径方向の磁化を持つ磁石要素数を減じるよう電機子コイル171,172,173,励磁コイル158に電流を流して制御磁石169の磁化状態を変えて電機子を流れる磁束量を大とする。
本発明の第四実施例による回転電機システムを図22を用いて説明する。第四実施例は第三実施例の回転電機システムに於いて,各磁性体突極内の制御磁石の磁化状態をそれぞれ個別に監視し,全ての制御磁石の磁化状態が同じ状態に保たれるよう制御される。第三実施例は,制御磁石168,169の磁化状態を励磁コイル158,電機子コイル156に供給する電流によって不可逆的に変え,電機子コイル156と鎖交する磁束量を変える。その場合に,制御磁石168,169の磁化状態変更前後の電機子コイル156に現れる誘起電圧の振幅変化を監視する事により,制御磁石168,169の磁化状態が正しく変更されたか否かを知り,磁化状態変更の条件を修正する事が出来る。しかしながら,制御磁石168,169はそれぞれの磁性体突極内に配置されるので個々の磁性体突極内の制御磁石168,169の磁気特性は微妙に異なり,制御磁石168,169の磁化状態が磁性体突極毎に異なる可能性がある。その場合には電機子コイル156全体に現れる誘起電圧の監視では個々の制御磁石168,169の磁化状態検出は困難で正確な磁化状態制御は難しい。
第四実施例は上記不具合への対処を可能にするシステムであり,個々の磁性体突極内の制御磁石の磁化状態を検出し,磁化状態変更の条件を修正する事が出来る。すなわち,一つの磁性体歯に巻回された電機子コイルの両端に現れる誘起電圧の監視手段を有し,回転子の回転と共に個々の磁性体突極内の制御磁石の磁化状態を検出する。制御磁石の磁化状態変更が目標と異なった場合には,その制御磁石の磁化変更に際して磁化状態変更の為に電機子コイルに供給する電流をU相,V相,W相の相単位で修正する。図22は第四実施例に於いて制御磁石の磁化状態変更の為の制御ブロック図を示し,図22を用いて第四実施例に於ける制御磁石の磁化状態制御のステップを説明する。番号221は図15に示す第三実施例の回転電機を示し,番号222は制御部を,番号223,224,225はそれぞれ電機子コイル156のU相,V相,W相の電機子コイルである電機子コイル171,172,173それぞれを駆動する回路を,番号227は励磁コイル158に電流を供給する回路を,番号228は回転子の位置センサーを,番号226は電機子コイル171に於いて一つの電機子コイル両端の誘起電圧を検出する為の電圧検出器をそれぞれ示す。
制御磁石168,169の磁化状態変更に際しては,予め励磁コイル158に所定の電流を回路227を介して供給し,回転子の位置センサー228の出力に応じて対象とする磁性体突極と対向する磁性体歯154に巻回された電機子コイルを含む相(U相コイル171,V相コイル172,W相コイル173の何れか)の駆動回路223,224,225の何れかに予め定めた電流を供給して対象とする磁性体突極内の制御磁石の磁化状態を変更する。磁化状態変更後に電圧検出器226は回転子の回転と共に個々の磁性体突極から磁性体歯154に流入する磁束量に起因する誘起電圧を検出し,回転子の位置センサー228の出力と併せて個々の制御磁石の磁化状態を確認する。目標と異なる誘起電圧が検出されれば,回転子の位置センサー228の出力により磁性体突極及び制御磁石を特定する。制御部222はこの結果に基づき,誘起電圧の振幅の変化量が目標値より小の場合は制御磁石の磁化状態の変更の為に同一条件に於いて電機子コイルに加えられる電流の振幅を大にし,前記電機子コイルに現れる誘起電圧の振幅の変化量が目標値より大の場合は制御磁石の磁化状態の変更の為に同一条件に於いて電機子コイルに加えられる電流の振幅を小に設定する
図22を用いて説明した上記の制御ステップにより制御磁石の磁化状態は全周で均一となるように制御される。磁化変更の為に駆動回路223,224,225から相単位で電機子コイルに電流を供給したが,一つの電機子コイルにのみ磁化状態変更の為の電流を加える事にして更に細かい制御も可能である。また,励磁コイル158に供給する電流量を変える事も可能であり,回転電機の仕様により種々の修正は可能である。
本発明による回転電機システムの第五実施例を図23から図28を用いて説明する。第五実施例は,二つの回転子が軸方向に並んでラジアルギャップを介して電機子と対向する回転電機であり,励磁コイルは二つの回転子間に配置されている。図23はラジアルギャップ構造の回転電機に本発明を適用した実施例の縦断面図を示し,回転軸231がベアリング233を介してハウジング232に回動可能に支持されている。電機子はハウジング232に固定された円筒状磁気ヨーク235と,磁性体歯234と,電機子コイル236とを有している。回転軸231に固定された円筒状磁気コア237,回転子支持体23dを共通の部材として第一回転子は表面磁極部238,制御磁石239を有し,第二回転子は表面磁極部23a,制御磁石23bを有する。円筒状磁気コア237は軸方向に磁束が流れやすいよう圧粉鉄心で構成されている。励磁コイル23cは二つの回転子間に相当する表面磁極部238,23a間に回転軸231を周回するよう配置され,円筒状磁気コア237,制御磁石239,表面磁極部238,磁性体歯234,円筒状磁気ヨーク235,磁性体歯234,表面磁極部23a,制御磁石23bで構成される磁路に励磁磁束を発生させる。励磁コイル23cにはブラシ23e,スリップリング23fを介して電流が供給される。
図24は図23のD−D’に沿う電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付している。表面磁極部238は円筒状磁性体基板が周方向磁化を有する永久磁石により周方向に区分された構成である。隣接する磁性体突極を第一磁性体突極241,第二磁性体突極242として互いに異なる方向に磁化されるよう隣接する永久磁石243,244の磁化方向は互いに反転して配置されている。第一磁性体突極241の内周側には制御磁石245が配置され,第二磁性体突極242の内周側には制御磁石239が配置されている。何れの制御磁石245,239も磁性体歯234から離れた位置に配置され,制御磁石245,239内,永久磁石243,244内の矢印は磁化方向を示している。番号246は非磁性体を示す。電機子はハウジング232に固定された円筒状磁気ヨーク235と,円筒状磁気ヨーク235から径方向に延び,周方向に磁気空隙を有する複数の磁性体歯234と,磁性体歯234に巻回された電機子コイル236とから構成されている。電機子の磁性体歯234先端には径方向に短い可飽和磁性体結合部247を隣接する磁性体歯234先端部間に配置されている。磁性体歯234及び可飽和磁性体結合部247はケイ素鋼板を型で打ち抜いて積層され,電機子コイル236を巻回された後,圧粉鉄心で構成された円筒状磁気ヨーク235と組み合わせて電機子とされている。
図24には第一回転子に相当する表面磁極部238の磁極構成を示したが,図25に於いて回転子全体の斜視図を示して第二回転子に相当する表面磁極部23aの磁極構成を説明し,表面磁極部238,23aの相互の関係を説明する。表面磁極部23aの構成は表面磁極部238と全く同一であり,円筒状磁性体基板が周方向磁化を有する永久磁石253,254により周方向に区分され,互いに異極に磁化された第一磁性体突極251,第二磁性体突極252が周方向に交互に配置されている。更に制御磁石255,23bがそれぞれ第一磁性体突極251,第二磁性体突極252の内周側に配置されている。第一磁性体突極241は永久磁石243,244によってS極に磁化され,第一磁性体突極251は永久磁石253,254によってS極に磁化され,同種の極性である第一磁性体突極241,第一磁性体突極251が軸方向に並ぶよう構成されている。
図26(a),(b)は図24に示された電機子及び回転子の一部を拡大して示した断面図であり,これらの図を用いて磁束の流れを説明する。これらの図に於いて,電機子コイル236はU相,V相,W相の電機子コイルをそれぞれ電機子コイル261,262,263として周方向に繰り返し配置されている。図26(a)に於いて,点線264は永久磁石243,244からの磁束を代表して示し,点線265は制御磁石239,245からの磁束を代表して示している。同図に於いて,磁性体突極241,242は幅の狭い磁性体で互いに連結されているが,幅の狭い磁性体は容易に磁気的に飽和するので磁気的には無視できる。同図に示されるように永久磁石243,244と制御磁石239,245とが第一磁性体突極241をS極に磁化し,第二磁性体突極242をN極に磁化している。
図26(b)は図26(a)に示す状態から制御磁石239,245の磁化方向が反転された状態である。制御磁石239,245と永久磁石243,244は閉磁路を構成して電機子側に流れる磁束量が減少される。番号266は閉磁路を構成している磁束を代表して示し,図26(b)の場合が弱め界磁の状態に相当する。この状態で電機子側に流れる磁束量は永久磁石243,244,制御磁石239,245の飽和磁束密度,磁極面積等によって設定される。図26(a),(b)に示されるように制御磁石239の磁化方向を外径方向とし,制御磁石245の磁化方向を内径方向とする場合が電機子コイルと鎖交する磁束量を大とする状態であり,制御磁石239に於いては外径方向の磁化が第一磁化に相当し,制御磁石245に於いては内径方向の磁化が第一磁化に相当する。
本実施例では,永久磁石243,244,253,254は磁化状態が変更され難いネオジウム磁石で構成され,制御磁石239,245,23b,255は永久磁石243,244,253,254より磁化状態の変更が容易なアルニコ磁石で構成され,制御磁石239,245,23b,255の磁化状態を変更して電機子コイルと鎖交する磁束量を制御する。以下に制御磁石239,245,23b,255の磁化状態を制御する構成及び動作原理を説明する。図23,25に示されるように励磁コイル23cは表面磁極部238,23a間に回転軸231を周回するよう配置され,円筒状磁気コア237,制御磁石239,表面磁極部238,磁性体歯234,円筒状磁気ヨーク235,磁性体歯234,表面磁極部23a,制御磁石23bで構成される磁路に励磁磁束を発生させる。
図27,28を用いて制御磁石239,245,23b,255の磁化状態を選択的に制御するステップを説明する。図27は制御磁石245の磁化方向を外径方向に,制御磁石23bの磁化方向を内径方向に変更する場合を示す。励磁コイル23cに励磁磁束が制御磁石245内を外径方向に,制御磁石23b内を内径方向に流れる極性の電流を予め供給する。番号271は第一磁性体突極241内を,番号272は第二磁性体突極242内を,番号273は第一磁性体突極内を,番号274は第二磁性体突極内を流れる励磁磁束の方向をそれぞれ示す。更に電機子コイルによる磁束が制御磁石245内を外径方向に,制御磁石23b内を内径方向に流れるよう電機子コイルに電流が供給される。図26(a)を参照すれば,制御磁石245を含む第一磁性体突極241に対向する電機子コイル262,263に第一磁性体突極241内を外径方向に磁束275を発生させるよう電流を供給する。更に制御磁石23bの周方向位置は制御磁石239と同じであるので第二磁性体突極242と対向する電機子コイル261に第二磁性体突極242内を内径方向に流れる磁束277を発生させるよう電流を供給する。第一磁性体突極251内を流れる磁束276は磁束275と同じ方向であり,第二磁性体突極252内を流れる磁束278は磁束277と同じ方向である。
同図に於いて,第一磁性体突極241内及び第二磁性体突極252内を電機子コイルによる磁束と励磁コイルによる励磁磁束とが同方向に流れ,第二磁性体突極242内及び第一磁性体突極251内を電機子コイルによる磁束と励磁コイルによる励磁磁束とが逆方向に流れる。従って,第二磁性体突極242内及び第一磁性体突極251内には十分な磁束が流れないので制御磁石239,255の磁化状態は影響を受けず,第一磁性体突極241内及び第二磁性体突極252内には十分に大きな磁束が流れて制御磁石245は外径方向に,制御磁石23bは内径方向に磁化方向が変更される。制御磁石245の磁化を内径方向に,制御磁石23bの磁化を外径方向に変更させる場合は電機子コイルによる磁束及び励磁コイルによる磁束の流れる方向を上記説明とはそれぞれ逆に設定する。
図28は制御磁石239の磁化方向を内径方向に,制御磁石255の磁化方向を外径方向に変更する場合を示す。図27の場合から励磁コイル23cに供給する電流の極性を逆にして励磁磁束271,272,273,274とは逆方向の励磁磁束281,282,283,284を各磁性体突極内に発生させる。従って,電機子コイルの発生させる磁束と励磁磁束とが同じ方向に流れるのは第二磁性体突極242,第一磁性体突極251であり,制御磁石239の磁化方向が内径方向に,制御磁石255の磁化方向が外径方向に変更される。制御磁石239の磁化を外径方向に,制御磁石255の磁化を内径方向に変更させる場合は電機子コイルによる磁束及び励磁コイルによる磁束の流れる方向を上記説明とはそれぞれ逆に設定する。このように上記ステップに従って制御磁石239,255,23b,245の磁化状態が図26(a)から図26(b)に示す状態に変更され,或いは逆に図26(b)に示す状態から図26(a)に示す状態に変更される。それに伴って電機子コイル236(261,262,263)と鎖交する磁束量が制御される。
以上,図23から図28を用いて第五実施例の構成を示し,制御磁石の磁化変更の為に選択された制御磁石に磁束を集中させるステップを中心に説明した。第五実施例に示した回転電機装置は界磁制御可能な電動機或いは発電機として動作するが,界磁制御に関係する以外の構成は従来の回転電機装置と同じであり,電動機或いは発電機としての動作の説明は省略する。
本発明による回転電機システムの第六実施例を図29から図33を用いて説明する。第六実施例は,二つの回転子が軸方向に並んで電機子と対向し,主としてリラクタンストルクにより回転駆動する回転電機に於いて,起動トルクを改善し,回生制動時の制御を容易にする回転電機システムである。図29はラジアルギャップ構造の回転電機に本発明を適用した実施例の縦断面図を示し,回転軸231がベアリング233を介してハウジング232に回動可能に支持されている。電機子はハウジング232に固定された円筒状磁気ヨーク235と,磁性体歯234と,電機子コイル236とを有している。回転軸231に固定された円筒状磁気コア237,回転子支持体23dを共通の部材として第一回転子は表面磁極部291,第二回転子は表面磁極部292を有する。それぞれの表面磁極部に於いて,隣り合う磁性体突極の一方にのみ磁石を有する構成であって,図29には磁石293が示されている。励磁コイル294は回転軸231を周回するよう電機子側に固定され,円筒状磁気コア237,表面磁極部291,磁性体歯234,円筒状磁気ヨーク235,磁性体歯234,表面磁極部292を含む磁路に励磁磁束を発生させる。
図30は図29のE−E’に沿う電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付している。表面磁極部291は円筒状磁性体基板が非磁性体であるアルミブロック303により周方向に区分された構成である。隣接する磁性体突極を第一磁性体突極301,第二磁性体突極302として互いに異なる方向に磁化されるよう第二磁性体突極302と円筒状磁気コア237間に配置された永久磁石304,制御磁石305により磁化されている。図29に於いて磁石293は制御磁石305,永久磁石304で構成され,矢印はそれぞれの磁化方向を示している。電機子の構成は図24に示された第三実施例と同じであるので再度の説明は省略する。アルミブロック303は隣接する磁性体突極間を磁気的に分離すると共に渦電流が流れやすい領域として周方向の磁気抵抗を実効的に大とし,リラクタンストルクを大にしている。
図30には第一回転子に相当する表面磁極部291の磁極構成を示したが,図31に於いて回転子全体の斜視図を示して第二回転子に相当する表面磁極部292の磁極構成を説明し,表面磁極部291,292の相互の関係を説明する。表面磁極部292の構成は表面磁極部291と似ているが,永久磁石304,制御磁石305に相当する永久磁石313及び制御磁石314が第一磁性体突極311と円筒状磁気コア237間に配置されている点が異なる。第一磁性体突極301は永久磁石304,制御磁石305によってS極に磁化され,第一磁性体突極311は永久磁石313,制御磁石314によってS極に磁化され,同種の極性である第一磁性体突極301,第一磁性体突極311が軸方向に並んで構成されている。第六実施例に於いて,第一磁性体突極301及び第二磁性体突極312は円筒状磁気コア237上に配置されているので励磁コイル294に電流を流した場合,励磁磁束が第一磁性体突極301及び第二磁性体突極312を介して電機子側に容易に流れ,番号315,316は励磁磁束の方向を示している。
図32(a),(b)は図30に示された電機子及び回転子の一部を拡大して示した断面図であり,これらの図を用いて磁束の流れを説明する。これらの図に於いて,電機子コイル236はU相,V相,W相の電機子コイルをそれぞれ電機子コイル261,262,263として周方向に繰り返し配置されている。図32(a)に於いて,点線321は永久磁石304,制御磁石305からの磁束を代表して示している。図32(b)は図32(a)に示す状態から制御磁石305の磁化方向が反転された状態である。永久磁石304,制御磁石305は閉磁路を構成して電機子側に流れる磁束量が減少される。番号322は閉磁路を構成している磁束を代表して示し,図32(b)の場合が弱め界磁の状態に相当する。この状態で電機子側に流れる磁束量は永久磁石304,制御磁石305の飽和磁束密度,磁極面積等によって設定される。図32(a),(b),図31に示されるように制御磁石305の磁化方向を外径方向とし,制御磁石314の磁化方向を内径方向とする場合が電機子コイルと鎖交する磁束量を大とする状態であり,制御磁石305に於いては外径方向の磁化が第一磁化に相当し,制御磁石314に於いては内径方向の磁化が第一磁化に相当する。
本実施例では,永久磁石304,313は磁化状態が変更され難いネオジウム磁石で構成され,制御磁石305,314は永久磁石304,313より磁化状態の変更が容易なアルニコ磁石で構成され,制御磁石305,314の磁化状態を制御して電機子コイルと鎖交する磁束量を制御する。以下に制御磁石305,314の磁化状態を制御する構成及び動作原理を説明する。図29,31に示されるように励磁コイル294は電機子の軸方向中間に回転軸231を周回するよう配置され,円筒状磁気コア237,制御磁石305,表面磁極部291(,磁性体歯234),円筒状磁気ヨーク235,磁性体歯234,表面磁極部292(,制御磁石314)で構成される磁路に励磁磁束を発生させる。
図33を用いて制御磁石305,314の磁化状態を変更するステップを説明する。図33は制御磁石305の磁化方向を内径方向に,制御磁石314の磁化方向を外径方向に変更する場合を示す。励磁コイル294に励磁磁束が制御磁石314内を外径方向に,制御磁石305内を内径方向に流れる極性の電流を予め供給する。番号331は第一磁性体突極301内を,番号332は第二磁性体突極302内を,番号333は第一磁性体突極311内を,番号334は第二磁性体突極312内を流れる励磁磁束の方向をそれぞれ示す。更に電機子コイルによる磁束が制御磁石314内を外径方向に,制御磁石305内を内径方向に流れるよう電機子コイルに電流が供給される。図32(a)を参照すれば,制御磁石305を含む第二磁性体突極302に対向する電機子コイル261に第二磁性体突極302内を内径方向に磁束337を発生させるよう電流を供給する。更に制御磁石314の周方向位置は第一磁性体突極301と同じであるので第一磁性体突極301と対向する電機子コイル262,263に第一磁性体突極301内を外径方向に流れる磁束335を発生させるよう電流を供給する。第一磁性体突極311内を流れる磁束336は磁束335と同じ方向であり,第二磁性体突極312内を流れる磁束338は磁束337と同じ方向である。
同図に於いて,第一磁性体突極311内及び第二磁性体突極302内を電機子コイルによる磁束と励磁コイルによる励磁磁束とが同方向に流れ,第一磁性体突極301内及び第二磁性体突極312内を電機子コイルによる磁束と励磁コイルによる励磁磁束とが逆方向に流れる。従って,第一磁性体突極311内及び第二磁性体突極302内には十分に大きな磁束が流れて制御磁石314は外径方向に,制御磁石305は内径方向に磁化方向が変更される。制御磁石314の磁化を内径方向に,制御磁石305の磁化を外径方向に変更させる場合は電機子コイルによる磁束及び励磁コイルによる磁束の流れる方向を上記説明とはそれぞれ逆に設定する。このように上記ステップに従って制御磁石305の磁化状態が図32(a)から図32(b)に示す状態に変更され,或いは逆に図32(b)に示す状態から図32(a)に示す状態に変更される。それに伴って電機子コイル236(261,262,263)と鎖交する磁束量が制御される。
本実施例はリラクタンストルクを専ら利用して回転駆動する回転電機システムである。通常は図32(b)に示されるように永久磁石304と制御磁石305が閉磁路を構成する状態で電機子側に漏れる磁束量を最小として回転子を回転駆動する。しかし,リラクタンストルクのみでは起動トルクが小さいので起動時には制御磁石305の磁化を変更して図32(a)に示す磁化状態として電機子側に漏れる磁束量を大とし,更に励磁コイル293に電流を供給して図31に示す励磁磁束315,316を発生させて起動トルクを大にする。更に回生制動時にも永久磁石304,制御磁石305の磁化状態を図32(a)の状態とし,励磁コイル293への電流を制御して回生制動力を制御し,回生時のエネルギー回収を低速まで効率よく実現させる。磁気エネルギーの蓄積,回収を通じてエネルギー回収は従来方法でも可能であるが,本実施例により更に高効率でエネルギー回収が可能となる。
本発明の第七実施例である回転電機システムを図34により説明する。第七実施例は第三実施例の回転電機システムをインホイールモータとして前輪に組み込み,前輪駆動のエンジンと組み合わせたハイブリッドカーシステムである。同図に於いて,番号342は前輪駆動のエンジンを示し,トランスミッション343,駆動軸349を介して前輪に組み込まれた回転電機341に結合され,エンジン342と回転電機341によりハイブリッドカーを駆動する。制御装置344は上位制御装置からの指令34bを受け,駆動回路345を介して回転電機341を電動機として駆動し,磁束量制御回路346を介して電機子に流入する磁束量を制御する。更に制御装置344は上位制御装置からの指令34bを受け,電機子コイル156の引き出し線34cに現れる発電電力を整流回路347を介して整流し,バッテリー348を充電する構成である。
回転電機341のみでハイブリッドカーを駆動する時はトランスミッション343に於いてエンジン342を切り離し,回転電機341の負荷を軽減する。低回転速度域で回転電機341の磁石トルクを強化する必要がある場合は制御磁石168,169内の第一磁化の磁石要素数を増す方向の磁束を励磁コイル158,電機子コイル156により生成して第一磁化の磁石要素数を増すと共に第二磁化の磁石要素数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。高回転速度域で弱め界磁とする場合には第二磁化の磁石要素数を増す方向の磁束を励磁コイル158,電機子コイル156により生成して第一磁化の磁石要素数を減じると共に第二磁化の磁石要素数を増して電機子を流れる磁束量を小とする。
エンジン342の回転力のみでハイブリッドカーを駆動する時は,指令34bを受け,第二磁化の磁石要素数を最大にするよう励磁コイル158,電機子コイル156に電流を供給し,回転子から電機子側に流れる磁束量を最小値に設定する。この状態で回転子から漏れる磁束量は最小になるのでエンジン342により回転子が回転されても渦電流損は少ない。
回転電機341及びエンジン342でハイブリッドカーを駆動する時はトランスミッション343に於いてエンジン342を駆動軸349に結合する。さらにエンジン342の駆動力に余力があり,回転電機341を発電機としてバッテリー348を充電させる場合には,電機子コイル156の引き出し線34cに現れる発電電力を整流回路347を介して直流に変え,バッテリー348を充電させる。その場合に制御装置344は発電電圧がバッテリー348を充電する最適な電圧より大である場合は第二磁化の磁石要素数を増すよう励磁コイル158,電機子コイル156にて第一磁化の磁石要素数を減じると共に第二磁化の磁石要素数を増して電機子を流れる磁束量を小とする。発電電圧がバッテリー348を充電する最適な電圧より小である場合は磁束量制御回路346を介して第一磁化の磁石要素数を増すよう励磁コイル158,電機子コイル156に電流を供給して第一磁化の磁石要素数を増すと共に第二磁化の磁石要素数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。
バッテリー348に充電する場合に回転電機システムを定電圧発電機とする事で発電電圧を変換するコンバータは不要である。また,更にバッテリー348が電圧の種類の異なる複数種のバッテリーで構成される場合でも切り替え回路を付け加えてそれぞれのバッテリーに最適の発電電圧に制御する事で高価なコンバータを不要に出来る。また,バッテリー348に充電する際に磁束量制御と共に充電電流を制御して駆動負荷と発電負荷の配分制御も可能である。
本実施例はまたハイブリッドカーの制動時に於けるエネルギー回収システムとしても有効に機能する。ブレーキペダルの動きに応じ,指令34bを通じて回生制動の指示を受けると,制御装置344は磁束量制御回路346を介して第一磁化の磁石要素数を増すよう励磁コイル158,電機子コイル156に電流を供給して第一磁化の磁石要素数を増して電機子を流れる磁束量を大とし,発電電力でバッテリー348に充電させる。電機子コイル156と鎖交する磁束量は増えるので取り出せる電力は大きく,電気二重層コンデンサ他の蓄電システムに一時的に蓄えて制動力の確保とエネルギー回収を大にする。従来は低速で十分なエネルギーを回収できなかったが,本実施例では電機子コイル156と鎖交する磁束量を自在に制御できるので低速に於いてもエネルギー回生を可能とし,制動力を確保できる。回転電機341は駆動用電動機として用いられる体格であるので回生制動用の発電機として十分な制動力を発生できる。
本実施例は前輪にインホイールモータとして回転電機システムを組み込み,前輪駆動エンジンシステムと組み合わせてハイブリッドモータカーとした例である。インホイールモータは前輪の他に駆動軸349を回転させるので若干負荷が増えるが,前輪駆動エンジンの駆動軸は短いので大きな負担には成らず,簡素な構成のハイブリッドカーシステムを実現できる特徴がある。
本実施例はハイブリッドカーの発電機兼電動機として用いた回転電機システムであるが,電気自動車に於ける回転電機システムとする事も当然に可能である。その場合には上記実施例に於いてハイブリッドカーのエンジン342,トランスミッション343,駆動軸349を取り除き,本発明による回転電機システムのみで電気自動車を駆動し,制動時に於けるエネルギー回収システムを構成する。
以上,本発明の回転電機システムについて,実施例を挙げて説明した。これらの実施例は本発明の趣旨,目的を実現する例を示したのであって本発明の範囲を限定するわけでは無い。例えば上記の説明に於いて電機子コイルは集中巻きとして説明したが,当然に分布巻きとして構成することも可能であり,分布巻きの電機子コイルの場合には磁化方向を逆転しようとする制御磁石或いは制御磁石の一部を有する磁性体突極及び隣接する磁性体突極に実効的に所定の方向の磁束が流れるよう電機子コイルに電流を供給する。更に,上記実施例に於ける回転子の磁極構成,電機子の構成,励磁部の構成等はそれぞれ組み合わせを変えて本発明の趣旨を実現する回転電機装置を構成できる事は勿論である。