JP4646358B2 - 3価の硫酸バナジウムの製造方法及びバナジウム系電解液の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、レドックスフロー型電池用電解液として用いられる3価の硫酸バナジウムの製造方法及びバナジウム系電解液の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
我が国の電力需要の伸びは、年々増大し続けているが、電力需要の変動も産業構造の高度化と国民生活水準の向上を反映してさらに著しくなる傾向がある。例えば、夏期における昼間の電力需要量を100とすると、明け方は30以下となっているのが現状である。一方、電力の供給面からみると、出力変動が望ましくない原子力発電所や新鋭火力発電所の割合も増加の傾向にあり、電力貯蔵する設備の必要性が高まっている。現在の電力貯蔵は、揚水発電によって行われているが、その立地条件は次第に厳しくなっている。以上のような事情から、環境汚染がなく、しかも、汎用性の高いエネルギーである電力を貯蔵する方法として各種の二次電池が研究されているが、中でも2種類のレドックス系薬剤を隔膜を介して接触させて構成したレドックスフロー型二次電池が注目されている。
【0003】
レドックスフロー型二次電池は、酸化数が変化する金属イオンの水溶液(電解液)を2種類調製してそれぞれ正極液又は負極液として別のタンクに貯蔵しておき、この正極液又は負極液を、隔膜を介して2種類の電解液が接触する構造の電解槽を有する流通型電解槽に、ポンプで供給し、一の電解槽で金属イオンの酸化数が高くなると共に、他の電解槽で金属イオンの酸化数が低くなって充放電が行われる形式の電池のことである。
【0004】
このようなレドックスフロー型電池に関する技術としては、従来、鉄−クロム系の塩酸溶液を電解液とするもの(例えば特開昭60−148068号公報、特開昭63−76268号公報)とバナジウム系の硫酸溶液を電解液とするもの(例えば特開平4−286871号公報、特開平6−188005号公報)とが代表的に提案されている。しかしながら、鉄−クロム系のレドックスフロー型電池は、電解質の混合及び溶解度の点から電解液の調製が制約され、また、出力電圧が1V(ボルト)程度とエネルギー密度が低い。さらに、正極液−負極液間の充電状態が不均衡になったり、充電時に正極から塩素ガスが発生するおそれがある等の問題がある。
【0005】
これに対し、バナジウム系のレドックスフロー型電池は、出力電圧が1.4Vと高く、高効率でエネルギー密度が高い。このため、近年は、バナジウム系のレドックスフロー型電池の開発が特に望まれている。バナジウム系のレドックスフロー型電池は、正極液としてV4+(4価)とV5+(5価)の間で酸化数が変化する電解液、負極液としてV2+(2価)とV3+(3価)の間で酸化数が変化する電解液を用いて充放電するものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、バナジウム系のレドックスフロー型電池は、電解液の調製にかかるコストが非常に高いため、価格が高くなり汎用化の大きな障害となっている。このうち、正極液に関しては、比較的安価で入手し易い五酸化バナジウム等の5価バナジウムをそのまま硫酸中に溶解して調製すればよく特に問題は生じない。しかし、負極液に関しては、2価又は3価の安価で適当なバナジウム化合物がないため、5価バナジウム化合物等を還元して得る必要があり、調製にコストがかかるという問題がある。このため、2価又は3価のバナジウム電解液を低コストで製造可能な方法が強く望まれている。
【0007】
このような2価又は3価のバナジウム電解液を製造する発明としては、特開平4−149965号公報に、5価のメタバナジン酸アンモニウム等を出発原料として用い、これを無機酸の存在下に電解還元または亜硫酸等の還元剤で、5価バナジウムを2価又は3価のバナジウムに還元する方法が開示されている。しかしながら、電解還元する方法は電解装置等の設置の必要がありコストがかかると共に、酸化数の異なるバナジウムの混合物が得られ易いという問題がある。
【0008】
また、特開平5−290871号公報には、五酸化バナジウム等の5価のバナジウム化合物を硫黄等の還元剤で還元して4価バナジウム溶液を得、次いで、3価バナジウム溶液を得る方法が開示されており、この発明によれば、安価な還元剤を用いて5価のバナジウム化合物を還元して、3価又は4価のバナジウム化合物に同時に製造できる。しかしながら、この方法は、3価のバナジウム化合物のみを製造したい場合でも同時に4価バナジウムや不溶解物が生成してしまうため、これらを分離、除去するのにコストがかかるという問題がある。
【0009】
従って、本発明の目的は、還元剤を用いるだけで、4価又は5価のバナジウム化合物を主成分とするバナジウム化合物から一気に3価の硫酸バナジウムのみを製造し得る、低コストな3価バナジウム化合物の製造方法及びこの3価バナジウム化合物を含有するレドックスフロー型バナジウム系電池用電解液の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、4価又は5価のバナジウム化合物を主成分とするバナジウム化合物、硫黄及び濃硫酸を特定の配合割合で共に混練してペースト状とし、次いで、このペースト状の混合物を所定温度に焼成すれば、4価又は5価のバナジウム化合物から3価の硫酸バナジウムのみを一気に製造可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、五酸化バナジウムを主成分とするバナジウム化合物、硫黄及び濃硫酸をペースト状になるまで混練し、次いで、該ペースト状の混合物を150℃以上440℃未満に焼成して3価の硫酸バナジウムを製造する方法において、五酸化バナジウム中のバナジウム原子1モルに対して、硫黄は0.5モル倍以上、濃硫酸は1.5〜2.3モル倍を配合することを特徴とする3価の硫酸バナジウムの製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、五酸化バナジウムを主成分とするバナジウム化合物、硫黄及び濃硫酸をペースト状になるまで混練し、次いで、該ペースト状の混合物を150℃以上440℃未満に焼成し、該焼成物をそのまま又は冷却後、硫酸又は硫酸水溶液に溶解させてバナジウム系電解液を製造する方法において、五酸化バナジウム中のバナジウム原子1モルに対して、硫黄は0.5モル倍以上、濃硫酸は1.5〜2.3モル倍を配合することを特徴とするバナジウム系電解液の製造方法を提供するものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の3価の硫酸バナジウムの製造方法においては、まず、4価又は5価のバナジウム化合物を主成分とするバナジウム化合物(以下、単に「バナジウム化合物」ともいう)、硫黄及び濃硫酸をペースト状になるまで混練する。
【0014】
バナジウム化合物としては、4価のバナジウム化合物を主成分とする場合、4価のバナジウム化合物が、バナジウム化合物中、95重量%以上、好ましくは98重量%以上含有するものが使用でき、また、5価のバナジウム化合物を主成分とする場合、5価のバナジウム化合物が、バナジウム化合物中、95重量%以上、好ましくは98重量%以上含有するものが使用できる。4価のバナジウム化合物としては、特に限定されないが、例えば、硫酸バナジル(VOSO4 :4価)、二酸化バナジウム(VO2 :4価)等が挙げられる。また、5価のバナジウム化合物としては、特に限定されないが、例えば、五酸化バナジウム(V2 O5 :5価)等が挙げられる。五酸化バナジウムを主成分とするものは工業的に容易に入取可能であるため、これらが好ましく用いられる。また、4価又は5価のバナジウム化合物は、工業的に入手できるものであれば特に制限されず、例えば、バナジウム鉱石から得られる五酸化バナジウム、化石燃料の燃焼の際の集塵機灰から得られる五酸化バナジウム等であってもよい。化石燃料の燃焼の際の集塵機灰としては、例えば、重油、タール、アスファルト及び石灰、若しくはこれらをエマルジョン化した燃料、又はオリマルジョン等の燃焼の際に得られるものが挙げられる。
【0015】
硫黄としては、例えば、粉末硫黄、フレーク硫黄、塊状硫黄等が挙げられ、このうち1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。硫黄はバナジウムの還元作用を行うものである。濃硫酸としては、水分を含まない通常のものが用いられる。濃硫酸はバナジウムと反応し硫酸塩生成の作用を行うものである。
【0016】
バナジウム化合物、硫黄及び濃硫酸の配合比率は、バナジウム化合物が、4価のバナジウム化合物を主成分とする場合、純度100%の4価のバナジウム化合物のバナジウム原子1モルに対して、硫黄は0.25モル倍以上、好ましくは0.3〜0.4モル倍、濃硫酸は1.5〜2.3モル倍、好ましくは1.7〜2モル倍である。一方、5価のバナジウム化合物を主成分とする場合、純度100%の5価のバナジウム化合物のバナジウム原子1モルに対して、硫黄は0.5モル倍以上、好ましくは0.6〜0.8モル倍、濃硫酸は1.5〜2.3モル倍、好ましくは1.7〜2モル倍である。4価及び5価のバナジウム化合物の場合、共に、硫黄の配合量が上記範囲内にあると、バナジウムの還元が十分に行われるため好ましい。また、濃硫酸の配合量が上記範囲内にあると、3価の硫酸バナジウムの生成に十分な量であるため好ましい。
【0017】
バナジウム化合物、硫黄及び濃硫酸をペースト状になるまで混練する方法としては、例えば、ナウターミキサー、パドルミキサー、ニーダーミキサー等のミキサーで混練する方法が挙げられる。混練時間は、特に制限されないが、例えば、10〜60分である。ここで、ペースト状とは、混練物が粘性をかなり有する状態を示し、塊状の状態をも含む概念である。本発明では、バナジウム化合物、硫黄及び濃硫酸の混合物をペースト状とすることにより、反応が均一に行なわれるなどの作用が生じる。
【0018】
混練終了後は、ペースト状の混練物を150℃以上440℃未満、好ましくは180℃以上350℃未満で、さらに好ましくは200℃以上300℃未満で焼成炉で加熱する。焼成温度が上記範囲内であると、還元反応がスムーズでかつ硫酸の分解が少ない点で好ましい。焼成時間は、30分〜24時間、好ましくは2〜5時間である。焼成時間が上記範囲内であると、還元が十分に行なわれるため好ましい。焼成炉としては、例えば、トンネルキルン、リングキルン、ロータリーキルン等が挙げられる。焼成終了後は焼成物を冷却し、次いで水で洗浄して、焼成物中に存在する水に可溶な金属塩不純物を除去し、3価の硫酸バナジウム(V2(SO4)3 )を得るか、あるいは、焼成終了後の焼成物を冷却することなく、そのままで3価の硫酸バナジウム(V2(SO4)3 )を得る。
【0019】
上記方法で得られた3価の硫酸バナジウムは、硫酸又は硫酸水溶液に溶解させることによりレドックスフロー型電池用バナジウム系電解液として使用することができる。この場合、3価のバナジウムイオン濃度が、通常、1〜5モル/L、好ましくは1〜2モル/L、硫酸イオン濃度が、通常、3〜6モル/L、好ましは4〜5モル/Lとなるようにし、通常、60℃以上、好ましくは80〜100℃の温度で、0.5時間以上、好ましくは1.5〜3時間攪拌下に溶解させればよい。
【0020】
なお、上記のバナジウム系電解液には、他の添加剤、例えば、カリウム、ルビジウム、アンモニウム等の硝酸塩、リン酸塩、ショウ酸塩等の1種又は2種以上を添加することができる。
【0021】
また、本発明において、レドックスフロー型電池は、公知の電池であり、酸化数が変化する金属イオンの水溶液(電解液)を2種類調製してそれぞれ正極液又は負極液として別のタンクに貯蔵しておき、この正極液又は負極液を、隔膜を介して2種類の電解液が接触する構造の電解槽を有する流通型電解槽に、ポンプで供給し、一の電解槽で金属イオンの酸化数が高くなると共に、他の電解槽で金属イオンの酸化数が低くなって充放電が行われる形式の電池である。
【0022】
【実施例】
次に、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0023】
製造例1
火力発電所より排出された表1に示す組成のオリマルジョン灰100gを電気炉にて440℃で24時間焼成し、次いで焼成物を水で洗浄して可溶成分を除去し、残分を乾燥した。乾燥物の重量は4.4gであり、X線回折を行ったところ5価のバナジウム化合物V2 O5 であることが確認された。得られたV2 O5 の品位を表2に示す。なお、表1及び表2中、数値は重量%で示す。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
実施例1
製造例1で得られた5価のバナジウム化合物V2 O5 19.4g、硫黄4.2g、及び濃硫酸39gを乳鉢で約10分間混練してペースト状にした。次いで、該ペースト状の混練物を電気炉を用いて、200℃で2時間焼成を行った。冷却後の当該焼成物の重量は41.5gであり、X線回折を行ったところ3価のバナジウム化合物V2(SO4)3 であることが確認された。得られたV2(SO4)3 の品位を表3に示す。なお、表3中、数値は重量%で示す。
【0027】
【表3】
【0028】
実施例2
市販の五酸化バナジウム(V2 O5 純度99%以上)18.4g、硫黄4.2g、及び濃硫酸39gを乳鉢で約10分間混練してペースト状にした。次いで、該ペースト状の混練物を電気炉を用いて、200℃で2時間焼成を行った。冷却後の当該焼成物の重量は39.2gであり、X線回折を行ったところ3価のバナジウム化合物V2(SO4)3 であることが確認された。得られたV2(SO4)3 の品位を表4に示す。なお、表4中、数値は重量%で示し、NDとは検出限界値以下の数値であることを示す。
【0029】
【表4】
【0030】
比較例1
市販の五酸化バナジウム(V2 O5 純度99%以上)18.4g、硫黄4.2g、及び濃硫酸39gを乳鉢で約10分間混練してペースト状にした。次いで、該ペースト状の混練物を電気炉を用いて、450℃で2時間焼成を行った。冷却後、焼成物を水で洗浄して可溶成分を除去し、残分を乾燥した。乾燥物の重量は18.1gであり、X線回折を行ったところ5価のバナジウム化合物V2 O5 であることが確認された。
【0031】
実施例3
<電解液の作製及び充放電特性の測定>
上記実施例2で得た3価の硫酸バナジウムV2(SO4)3 と硫酸を混合し、100℃で3時間攪拌して、3価のバナジウムイオン濃度が2モル/リットル、硫酸イオン濃度が4モル/リットルの3価の硫酸バナジウム溶液を調製して負極電解液を得た。また、3価の硫酸バナジウム溶液と五酸化バナジウムV2 O5 を混合し、60℃で1時間攪拌下に反応させ、4価のバナジウムイオン濃度が2モル/リットル、硫酸イオン濃度が4モル/リットルの4価の硫酸バナジル(VOSO4 )溶液を調製して正極電解液とした。これらの負極及び正極電解液を用いて下記仕様の小型電池を組み、充放電特性を調べた。本電池を、約2カ月にわたり、累計1500サイクル連続充放電させて長期特性を調べたが、効率変化もなく、非常に安定した特性が得られた。
【0032】
・小型電池仕様
電極面積:500cm2
電極:カーボン繊維布
隔膜:陰イオン交換膜
双極板:カーボン板
タンク及び配管の材料:硬質塩化ビニル樹脂
タンク容量:正極電解液用・負極電解液用共に5リットル
・充放電特性
電流効率:99.4%
電圧効率:84.5%
エネルギー効率:84.0%
電池容量:120WH(電流密度60mA/cm2 、温度28℃)
【0033】
【発明の効果】
本発明の3価の硫酸バナジウムの製造方法によれば、4価又は5価のバナジウム化合物を主成分とするバナジウム化合物、硫黄及び濃硫酸を特定の配合割合で共に混練してペースト状とし、次いで、このペースト状の混合物を所定温度で焼成するだけで、4価又は5価のバナジウム化合物から3価の硫酸バナジウムのみを一気に製造することができるため、低コストで3価の硫酸バナジウムを製造できる。また得られた3価の硫酸バナジウムは、これを硫酸に溶解することでバナジウム系電解液として使用することができ、該電解液として用いたレドックスフロー型は、優れた電池性能を有する。
Claims (2)
- 五酸化バナジウムを主成分とするバナジウム化合物、硫黄及び濃硫酸をペースト状になるまで混練し、次いで、該ペースト状の混合物を150℃以上440℃未満に焼成して3価の硫酸バナジウムを製造する方法において、五酸化バナジウム中のバナジウム原子1モルに対して、硫黄は0.5モル倍以上、濃硫酸は1.5〜2.3モル倍を配合することを特徴とする3価の硫酸バナジウムの製造方法。
- 五酸化バナジウムを主成分とするバナジウム化合物、硫黄及び濃硫酸をペースト状になるまで混練し、次いで、該ペースト状の混合物を150℃以上440℃未満に焼成し、該焼成物をそのまま又は冷却後、硫酸又は硫酸水溶液に溶解させてバナジウム系電解液を製造する方法において、五酸化バナジウム中のバナジウム原子1モルに対して、硫黄は0.5モル倍以上、濃硫酸は1.5〜2.3モル倍を配合することを特徴とするバナジウム系電解液の製造方法。
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