JP4641754B2 - 歯科用複合材料の硬化体からなる補綴物用のプライマー組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、歯科用硬質レジンや充てん用コンポジットレジン等の歯科用複合材料の硬化体からなる補綴物と、歯質及び/又は他の歯科用材料とを接着材料を用いて接着するに際して、該接着材料の適用に先立ち、歯科用複合材料の硬化体からなる補綴物の被着面を前処理し接着性を向上させるためのプライマー組成物に関する。
齲蝕等により欠損を生じた歯質の修復において、該欠損が小さい場合には、一般に充填用コンポジットレジンと呼ばれる、主に(メタ)アクリレート系の重合性単量体と無機フィラーとを主成分とする複合材料のペーストを該欠損部に充填、歯牙の形状を付与した後に硬化させる手法が主流である。通常、充てん用コンポジットレジンは歯質に対する接着性がないため、歯科用接着材が用いられており、その多くは、(メタ)アクリレート系の重合性単量体と光重合開始剤を主成分とする光硬化型のレジンボンディング材である。このような場合、接着材を歯質等の被着面に塗布、光照射により重合・硬化させた後、その上にコンポジットレジンを充填する。
一方、欠損部が大きい場合には、インレー、アンレーあるいはクラウンなどの修復部の形状を有する補綴物を口腔外で予め形成し、これを各種歯科用接着材で接着する手法を採用することが主流である。このような場合には、歯科用セメントと呼ばれる接着材が用いられ、リン酸亜鉛セメント、シリケートセメント、グラスアイオノマーセメント、接着性レジンセメント等がある。なかでも、(メタ)アクリレート系の重合性単量体、フィラー及び化学重合開始剤を主成分とする接着性レジンセメントは、接着性、硬化後の機械的強度、耐久性等が良好な優れた歯科用セメントである。
上記インレー等の材質としては、貴金属合金、セラミックスあるいは上記のような複合材料の硬化体などがある。なかでも、複合材料は、その色調が天然歯牙とほとんど同じにでき、また、高密度で充填されている無機フィラーの効果により、極めて良好な機械的強度が得られ、さらには補綴物の作成もセラミックスに比べて容易であるなどの利点が多い。そのため近年では、全てこのような複合材料で作成した補綴物(例えばレジンクラウン、レジンインレーなど)、あるいは各種金属上に複合材料層を設けた補綴物(例えばレジン前装鋳造冠など)を用いる修復が主流になってきている。
また、歯冠部がほぼ完全に欠落してしまった場合の修復方法の一つとして、残存歯根部に支台構築を行い、その支台上にさらに他の補綴物を歯科用セメントを用いて装着する方法があり、この場合の支台構築に際しても複合材料が用いられる場合が多い。
以上のように、歯科治療においては、歯質、卑金属合金、貴金属合金、セラミックスあるいは複合材料などの種々の材料を相互に接着させる必要がある。このような様々に異なる材質のもの同士を強固に接着させるために、種々の接着材が提案されているが、接着性、操作性、生体に対する為害性、保存安定性などの点から、歯科用接着材としては、(メタ)アクリレート系の重合性単量体が用いられている。(メタ)アクリレート系の重合性単量体は酸素による重合阻害を受けるため、接着材を硬化させてもその最表層部には未重合の単量体が残存している。そのため、充てん用コンポジットレジンによる修復など、(メタ)アクリレート系の重合性単量体を含む修復材料を用いる場合には、接着材表層の未重合の単量体が、コンポジットレジンを硬化させる際に、該コンポジットレジンに配合されている単量体と共重合するため、接着材とコンポジット硬化体との間の接着は極めて強固なものとなる。
ところが、歯質、卑金属合金、貴金属合金、セラミックスあるいは複合材料の硬化体などの場合には上記のような効果は期待できない。さらに、単一の接着材で、これら材質の異なる全ての被着体に対して等しく高い接着性を得ることは困難である。そのため、これら被着体の材質にあわせた前処理材が種々提案されている。例えば、歯質の接着に際しては、酸性基含有重合性単量体および水を主成分とし、さらにアミンなどの硬化剤を配合したプライマー組成物(例えば特許文献1)や、酸性基含有重合性単量体として酸性基の異なるものを併用するプライマー組成物(例えば特許文献2)、あるいはアミン及びバナジウム化合物を配合したプライマー組成物(例えば特許文献3)などが提案されており、その一部は既に実用化されている。
貴金属に対しては、硫黄原子を含有する重合性単量体(以下、貴金属接着性単量体ともいう)の揮発性有機溶媒を用いることが提案(例えば、特許文献4、5参照)されており、これらについてもいくつか実用化されている。卑金属に対しては、酸性基含有重合性単量体が効果を有することが知られており、また、セラミックスに対する接着のためのプライマーとしては、酸性基含有重合性単量体及び重合性不飽和基を有するアルコキシシラン(以下、シランカップリング剤ともいう)の揮発性有機溶媒溶液が既に実用化されている。
さらに、材質の異なる複数の被着体に対して有効な組成物もいくつか提案されており、例えば、金属・セラミックス兼用プライマー組成物として、酸性基含有重合性単量体、貴金属接着性単量体及びシランカップリング剤の揮発性有機溶媒溶液からなるプライマー組成物(例えば、特許文献6)が、歯質、貴金属合金及びセラミックスのいずれに対しても高い接着強度を与えるプライマー組成物として、酸性基含有重合性単量体、貴金属接着性単量体及びシランカップリング剤、揮発性有機溶媒溶液及び水を含んでなるプライマー組成物(例えば、特許文献7)が提案されている。
前記のように歯科分野においては、複合材料の使用も増加しており、このような複合材料の硬化体に対して強固に接着させる材料の要求も強い。例えば、レジンクラウン、レジンインレー等を新たに装着する場合には、歯質などの被修復部位に対して該レジンクラウン、レジンインレー等を、接着性レジンセメントなどを用いて接着させる必要がある。レジン前装鋳造冠が破折してしまった場合にその破損部位を修復する際には、破折片を接着性レジンセメントを用いてもとの部分に接着したり、あるいは硬質レジン等の歯科用複合材料を用いて、新たに破折部に相当する部位を形成する手法が取られている。さらに、充てん用コンポジットレジンやレジンクラウン等で修復した部位が、何年か経過した後に再度修復が必要となる場合などもある。この場合には、旧修復物(複合材料の硬化体からなる補綴物)を完全には取り除かずに、該旧修復物を残したまま再修復をする場合も多く、その場合にはこの旧修復物に対する接着性も要求される。
このような複合材料の硬化体に対する接着強度向上の手法としては、従来、シランカップリング剤を含むプライマー組成物の使用が推奨されてきた。即ち、複合材料の硬化体は、架橋重合体と無機フィラーを主成分としており、該無機フィラーに対する接着性を期待して、シランカップリング剤を含むプライマー組成物を塗布し、その後、接着性レジンセメント、光硬化型のレジンボンディング剤等の接着材料で接着する手法である。
特開平3−240712号公報 特開平8−319209号公報 特開2004−43427号公報 特開平10−1409号公報 特開平1−138282号公報 特開2000−248201号公報 特開2002−265312号公報
ところが、このような複合材料の硬化体は、重量比では50〜95%もの無機フィラーを含むものの、重合体からなる有機物の部分も少なくはない。そのため、上記のようなシランカップリング剤の効果も限定的なものとなってしまい、補綴物の脱落や再破折を防ぐのに充分な接着強度を得ることが困難であった。
従って本発明は、充てん用コンポジットレジン、硬質レジン等の歯科用複合材料の硬化体からなる歯科用補綴物と、歯質及び/又は他の歯科用材料とを(メタ)アクリレート系の接着材を用いて接着するに際して、高い接着強度を与えることの可能なプライマー組成物を提供することを目的とする。
本発明者等は上記課題に鑑み鋭意研究を行った。そして、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸等の酸性基含有重合性単量体、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル等のアミン、及びアセトン等の揮発性有機溶媒を含んでなる組成物が、(メタ)アクリレート系の接着材を歯科用複合材料の硬化体に適用する場合に優れたプライマーとなることを見出した。ところが、上記3成分を単一の包装にして保存すると、該組成物が短時間でゲル化してしまうという問題があることを新たに見出した。そこでこれら成分を2つに分割して保存しておき、使用直前に混合して用いる形態を検討したが、このような包装・使用形態とした場合には、最終組成が同じでも、最初から単一溶液として調整した場合のような接着強度が得られないことがわかった。そこでさらに検討を進めた結果、アミンとして特定の構造を有するものを採用した場合に、2つに分割して調製し、使用直前に混合しても高い接着強度が得られることを見出し、さらに検討を進めた結果、本発明を完成した。
即ち本発明は、(A)酸性基含有重合性単量体、(B)芳香族アミン、及び(C)20℃〜37℃において蒸気圧が水よりも大きい揮発性有機溶媒を含んでなり、歯科用複合材料の硬化体からなる歯科用補綴物と、歯質及び/又は他の歯科用材料とを(メタ)アクリレート系の接着材を用いて接着するに先立って、該歯科用補綴物を前処理するために用いるプライマー組成物であって、該プライマー組成物は、(A)酸性基含有重合性単量体及び(C)20℃〜37℃において蒸気圧が水よりも大きい揮発性有機溶媒を含むが(B)芳香族アミンを含まない包装(I)と、(B)芳香族アミン及び(C)20℃〜37℃において蒸気圧が水よりも大きい揮発性有機溶媒を含むが(A)酸性基含有重合性単量体を含まない包装(II)とに分割された状態で保存され、使用時に全成分を混合して用いるものであって、かつ(B)芳香族アミンが下記式(1)
Figure 0004641754
(式中、R及びRは、各々独立にアルキル基を示し、Rは電子供与性基を示し、nは0〜5の整数を表す。)
で示される化合物であることを特徴とする歯科用複合材料硬化体用プライマー組成物である。
また他の発明は、さらに(D)水、及び/又は(E)酸性基を有しない多官能の重合性単量体を含む上記のプライマー組成物である。
本発明の歯科用複合材料硬化体用プライマー組成物は、2液に分割して保存するため、ゲル化したり分解したりすることがほとんどなく、保存安定性に優れている。そして、特定構造のアミンを用いることにより、このように2液に分割して保存し、使用直前に混合して使用しても、充てん用コンポジットレジン、硬質レジン等の歯科用複合材料の硬化体からなる歯科用補綴物に対する(メタ)アクリレート系の接着材の接着性を大きく向上させることができる。
さらには、水及び/又は酸性基を有しない多官能の重合性単量体を配合することにより、接着性向上効果をより大きなものとすることができる。
(A)酸性基含有重合性単量体、(B)芳香族アミン、及び(C)20℃〜37℃において蒸気圧が水よりも大きい揮発性有機溶媒を含んでなる。これら成分のいずれか一つが欠けても、歯科用複合材料硬化体に対する接着強度を向上させるという効果を得ることはできない。
上記(A)酸性基含有重合性単量体(以下、酸性モノマーとも称す)としては、分子中に少なくとも一つのラジカル重合性不飽和基と、少なくとも一つの酸性基を有する化合物であれば、歯科用として公知の如何なる酸性基含有重合性単量体を用いてもよい。なおここで上記酸性基とは、該基を有す重合性単量体の水溶液又は水懸濁液が酸性を呈す基であり、好ましくは10質量%の水溶液又は水懸濁液がpH4.5以下(さらに好ましくは4以下)を示す化合物が使用される。さらには遊離酸に限らず、上記条件で酸性を示す化合物であれば酸無水物、酸塩化物や固体酸も使用可能である。
当該酸性基を具体的に例示すると、カルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SOH)、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)}等、及びこれらに対応する酸無水物基、酸ハロゲン化物基等が例示される。
また、ラジカル重合性不飽和基も特に限定されず公知の如何なる基であってもよい。具体的には、(メタ)アクリロイル基及び(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基等の(メタ)アクリロイル基の誘導体基、ビニル基、アリル基、スチリル基等が例示される。
当該酸性モノマーを具体的に例示すると、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンマレート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸等の分子内に1つのカルボキシル基を有すラジカル重合性単量体、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物;11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−メタクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル サクシネート、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート、N,O−ジ(メタ)アクリロイルチロシン、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート アンハイドライド、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート アンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、4−アクリロイルオキシブチルトリメリテート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸無水物、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−2,3,6−トリカルボン酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル−1,8−ナフタル酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,8−トリカルボン酸無水物等の分子内に複数のカルボキシル基あるいはその酸無水物基を有すラジカル重合性単量体、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物;2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ジハイドロジェンフォスフェート、ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル) ハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル フェニル ハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル ジハイドロジェンフォスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル ジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル 2−ブロモエチル ハイドロジェンフォスフェート等の分子内にホスフィニコオキシ基又はホスホノオキシ基を有すラジカル重合性単量体、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物;ビニルホスホン酸、p−ビニルベンゼンホスホン酸等の分子内にホスホノ基を有すラジカル重合性単量体;2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸等の分子内にスルホ基を有すラジカル重合性単量体が例示される。またこれら以外にも、特開昭54−11149号公報、特開昭58−140046号公報、特開昭59−15468号公報、特開昭58−173175号公報、特開昭61−293951号公報、特開平7−179401号公報、特開平8−208760号公報、特開平8−319209号公報、特開平10−236912号公報、特開平10−245525号公報等に開示されている歯科用接着性組成物の成分として記載されている酸性モノマーも好適に使用できる。
上記の酸性基含有重合性単量体は1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
上記に具体的に例示した酸性基含有重合性単量体の中でも、接着性の点からは、酸性基としてホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)}、カルボキシル基{−C(=O)OH}を有するものを使用するのが特に好適である。
本発明のプライマー組成物における上記酸性基含有重合性単量体の配合量は特に限定されないが、好ましくはプライマー組成物100質量%中、0.5〜20質量%、更に好ましくは1〜15質量%である。含有量を上記範囲内とすることにより、歯科用複合材料の硬化体に対して、特に優れた接着強度を得ることができる。
本発明のプライマー組成物に配合される第二の成分は、下記一般式(1)、
Figure 0004641754
(式中、R及びRは、各々独立に、アルキル基を示し、Rは電子供与性基を示し、nは0〜5の整数を表す。)
で示される(B)芳香族アミンである。
上記式で示される以外のアミンを用いると、歯科用として十分な保存安定性と操作性を得るために、後述するような包装形態を採用した場合に、歯科用複合材料の硬化体に対する十分な接着性向上効果を得ることができない。例えば、上記式(1)において、Rが電子吸引性基であるp−ジメチルアミノ安息香酸エチルを用いた場合には、単一溶液として調製すると、比較的短時間で該溶液がゲル化してしまい、他方、2液に分割して調製、使用時に混合する形態を採用すると、充分な接着強度を得ることができない。
上記式(1)中、R及びRはアルキル基である。当該アルキル基としては、炭素数1〜6のものが好ましく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基等を挙げることができる。また、このアルキル基は、当然のことながら置換基を有している置換アルキル基であってもよく、このような置換アルキル基としては、フロロメチル基、2−フロロエチル基等のハロゲン置換アルキル基;2−ヒドロキシエチル基等の水酸基置換アルキル基などを例示することができる。特に、炭素数1〜3の非置換のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基)や、2−ヒドロキシエチル基等がより好適である。
また、上記の電子供与基も特に制限されるものではないが、入手の容易さや、生体に対する為害性の観点から、アルキル基が好ましい。該アルキル基の具体例は、上記、R、Rにおいて例示したのと同様である。
上記式(1)において、nは0〜5の整数であるが、入手、合成の容易さの点で、nは0〜3の整数であることが好ましく、0又は1であることはより好ましい。n=1の場合は、基Rの結合位置がパラ位であることが好ましく、一方、基Rが2〜3個結合している場合には、その結合位置はオルト位及び/又はパラ位であることが好ましい。
上記一般式(1)で示される芳香族アミンを具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N,2,4,6−ペンチメチルアニリン、N,N,2,4−テトラメチルアニリン、N,N−ジエチル−2,4,6−トリメチルアニリン等が例示される。
上記一般式(1)で示される芳香族アミンは1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
本発明のプライマー組成物における上記一般式(1)で示される芳香族アミンの配合量は特に限定されないが、好ましくはプライマー組成物100質量%中、0.5〜10質量%、更に好ましくは1〜8質量%である。含有量を上記範囲内とすることにより、歯科用複合材料の硬化体に対して、特に優れた接着強度を得ることができる。
本発明のプライマー組成物に配合される第三の成分は、(C)20℃〜37℃において蒸気圧が水よりも大きい揮発性有機溶媒である。より好ましくは1.5倍以上、特に好ましくは2倍以上の蒸気圧を有する有機溶媒を採用することが好ましい。
このような有機溶媒を具体的に例示すると、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;メタクリル酸メチル、酢酸エチル、蟻酸エチル等のエステル類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の塩素系溶媒;トリフルオロエタノール等のフッ素系溶媒等が挙げられる。これらの中でも、生体に対する安全性の観点からアルコール類、ケトン類、エーテル類又はエステル類が好ましい。また、接着性向上効果、及び(A)成分、(B)成分の溶解性等の理由で炭素数3以上の化合物が好ましい。良好な揮発除去性をも考慮すると、メタクリル酸メチル、アセトン又はイソプロピルアルコール等が特に好ましく使用される。
これら揮発性有機溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
本発明のプライマー組成物における上記揮発性有機溶媒の配合量は特に限定されないが、より良好な接着性向上効果を得るために、プライマー組成物全体が均一となる量を用いることが好ましい。均一溶液とすることにより、塗布時の塗りムラが生じ難くなり、安定して高い接着強度を得ることが容易となる。他の配合成分の種類や配合量にもよるが、一般的には、プライマー組成物100質量%中、30〜98質量%であり、好ましくは50〜95質量%である。含有量を上記範囲内とすることにより、歯科用複合材料の硬化体に対して、特に優れた接着強度を得ることができる。
本発明のプライマー組成物には、上記(A)成分、(B)成分、(C)成分に加えて、他の成分が配合されていてもよい。
(D)水、又は(E)酸性基を有しない多官能の重合性単量体を配合することにより、歯科用複合材料の硬化体に対する接着性向上効果をさらに高めることができる。
本発明のプライマー組成物に対して上記(D)水を配合する場合の配合量は特に限定されるものではないが、好ましくはプライマー組成物100質量%中、0.5〜30質量%、更に好ましくは1〜25質量%、最も好ましくは1〜5質量%である。水の配合量が0.5質量%以下では、歯科用複合材料の硬化体に対する接着性向上効果がほとんど期待できない。他方、あまりに多い場合、他の成分の溶解性が低下し、均一溶液とすることができなくなる。
上記(E)酸性基を有しない多官能の重合性単量体としては、一分子中に2つ以上のラジカル重合性不飽和基を有し、前記酸性基を有さない化合物であれば、歯科用として公知の化合物を特に限定されることなく使用することができる。なお、2つ以上のラジカル重合性不飽和基を有する化合物でも、酸性基を有す化合物は、前記(A)酸性基含有重合性単量体である。
このような(E)酸性基を有しない多官能の重合性単量体を具体的に例示すると、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1.6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、脂肪族ジイソシアネート類とアルコール性水酸基を有する(メタ)アクリレートとの反応生成物であるウレタン(メタ)アクリレート(例えば、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2,4−トリメチルヘキサン、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,4,4−トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレートなど)等の重合性不飽和基を複数有する脂肪族系(メタ)アクリレート系単量体類;2,2−ビス((メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシフェニル)]プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン等の重合性不飽和基を複数有する芳香族系(メタ)アクリレート系単量体類等が例示される。
これらのなでも特に、2,2’−ビス{4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]フェニル}プロパン、トリエチレングリコールメタクリレート、2,2−ビス[(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン]、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2,4−トリメチルヘキサン、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,4,4−トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレートが好ましい。
上記(E)成分は1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
本発明のプライマー組成物に対して上記(E)酸性基を有しない多官能の重合性単量体を配合する場合の配合量は特に限定されるものではないが、好ましくはプライマー組成物100質量%中、0.5〜20質量%、更に好ましくは1〜15質量%である。配合量が0.5質量%以下では、歯科用複合材料の硬化体に対する接着性向上効果がほとんど期待できない。他方、あまりに多い場合には、逆に、接着性が低下する場合がある。
本発明のプライマー組成物には、上記(A)〜(E)成分に加えて、本発明の効果を妨げない限り、他の成分が配合されていても良い。このような成分を具体的に例示すると、酸性基を有しない単官能の重合性単量体、重合禁止剤、ラジカル重合開始剤、顔料や染料などの着色成分などが挙げられる。
酸性基を有しない単官能の重合性単量体としては、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の炭化水素基を有する重合性単量体類;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の環状エーテル基を有する重合性単量体類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する重合性単量体類;2−(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート、2−メタクリロキシエチルアセトアセテート等のエステル基を有する重合性単量体類;6−メタクリロイルオキシヘキシル−2−チオウラシル−5−カルボキシレート等の硫黄原子を有する重合性単量体類等が挙げられる。
なかでも硫黄原子を有する重合性単量体類を配合すると、本発明のプライマー組成物を、貴金属に対する接着性向上のためのプライマー組成物としても使用することが可能となる。このような重合性単量体としては、チオウラシル誘導体、トリアジンジチオン誘導体、メルカプトチアジアゾール誘導体等の官能基を有する重合可能なラジカル重合性単量体が知られており、具体的には、特開平10−1409号公報、特開平10−1473号公報、特開平8−113763号公報等に記載のラジカル重合性単量体が挙げられる。
重合禁止剤としては、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、4−ターシャルブチルフェノール等を添加することができる。
本発明の歯科用プライマー組成物は、上記(A)、(B)および(C)成分が、(A)酸性基含有重合性単量体及び(C)20℃〜37℃において蒸気圧が水よりも大きい揮発性有機溶媒を含むが(B)芳香族アミンを含まない包装(I)と、(B)芳香族アミン及び(C)20℃〜37℃において蒸気圧が水よりも大きい揮発性有機溶媒を含むが(A)酸性基含有重合性単量体を含まない包装(II)とに分割して包装、保存される必要がある。(A)、(B)および(C)成分の全てを含む単一の溶液として製造、保存すると、保存中にゲル化してしまい、歯科用として必要な保存安定性を得ることができない。(A)成分及び(B)成分を含み(C)成分を含まない包装と、(C)成分からなる包装とに分けた場合や、(A)成分及び(C)成分を含み(B)成分を含まない包装と、(B)成分からなるが(C)成分を含まない包装とに分けた場合にも、良好な保存安定性を得られるものの、いずれか一方の包装が(C)20℃〜37℃において蒸気圧が水よりも大きい揮発性有機溶媒を含まない場合には操作性が極めて悪く、歯科用材料としての実用性が得られない。

本発明の歯科用プライマー組成物に、(A)、(B)および(C)成分以外の任意成分を配合する場合には、保存安定性を考慮して、包装(I)、(II)のいずれか一方、もしくは双方に配合すればよい。
例えば、(D)水を配合する場合には、包装(II)に配合することが好ましい。包装(I)に配合した場合、該包装には酸である酸性基含有重合性単量体が配合されているため、(メタ)アクリル基が酸触媒作用により容易に加水分解し、必要な保存安定性を得ることが困難となる。
本発明のプライマー組成物における上記、包装(I)、包装(II)を製造する方法は特に制限されるものではなく、一般的には、各々の包装に配合される各成分を所定の量だけ秤量し、均一になるまで攪拌すればよい。ついで得られた溶液は、配合されている揮発性有機溶媒が保存期間中に揮発して消滅してしまわないような気密性のある容器に充填しておく。使用時には、各々の容器から所定量(例えば、1滴ずつ)取り出し、均一になるように軽く混合し、ついで、歯科用スポンジ、小筆等で被着面に塗布する。塗布後、1〜120秒間程度放置し、さらに圧搾空気等を吹きつけ、揮発性有機溶剤を揮発除去する。その後、定法に従って、(メタ)アクリレート系の接着材を適用し、接着操作を行えば良い。なお、本発明のプライマー組成物に配合されている揮発性有機溶媒は徐々に揮発していき、塗布操作性が徐々に低下していく傾向があり、さらに最終的に揮発性有機溶媒が完全に揮発してしまうと、接着性向上効果も得られなくなる。室温等にもよるが、容器から取り出した後、使用までは5分以内、好ましくは3分以内、特に好ましくは1分以内程度とするのがよい。
本発明の歯科用プライマー組成物は、歯科用複合材料の硬化体からなる歯科用補綴物と、歯質及び/又は他の歯科用材料とを(メタ)アクリレート系の接着材を用いて接着するに先立って、該歯科用補綴物を前処理するために用いるプライマー組成物である。
上記歯科用複合材料としては、(メタ)アクリレート系単量体などのラジカル重合性単量体と、シリカ等の無機フィラーを主成分として含む組成物であれば、歯科用として公知の如何なる複合材料でもよい。このような歯科用複合材料としては、代表的には、歯科用コンポジットレジン、歯科用硬質レジン等がある。
具体的には、ラジカル重合性単量体としては、前記、本発明のプライマー組成物において説明した(E)酸性基を有しない多官能の重合性単量体が主に用いられる。また無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ等の金属酸化物や、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア等の複合酸化物、バリウムガラス等が主に用いられる。無機フィラーは、50〜95質量%程度配合されており、さらに、硬化させるために有効な量の、光重合開始剤、化学重合開始剤あるいは熱重合開始剤が配合されている。例えば、特開2002−255721号公報、特開2001−139411号公報、特開2003−95836号公報、特開2000−80013、特開平10−218721号公報、特開平11−100305号公報、特開平7−196431号公報、特開平6−107516号公報、再公表2002−005752号公報等に記載の歯科用複合材料が挙げられる。
このような複合材料は、通常、未硬化のペーストの状態で歯質の修復に必要な形状に付形された後、光照射、加熱などにより硬化させられて、歯科用の補綴物(例えば、支台歯、レジンインレー、レジンクラウンなど)にされる。また硬化後に形態修正や未重合層の除去の為に研磨や研削されることが多い。
なお、本発明の歯科用プライマー組成物は、上記のような複合材料が未硬化のペーストの状態である場合には必要がない。即ち、前記したように、未硬化の状態であれば、該複合材料中の重合性単量体と、接着材中の重合性単量体が共重合するため、なんら前処理を行わなくても高い接着強度が得られるためである。換言すれば、本発明の歯科用プライマー組成物は、複合材料が硬化体とされた状態であって始めて効果を発現するものである。
本発明の歯科用プライマー組成物を用いて上記のような歯科用複合材料の硬化体を処理した後、該補綴物と、歯質及び/又は他の歯科用材料とを(メタ)アクリレート系接着材を用いて接着する。
当該(メタ)アクリレート系の接着材としては、歯科用として公知の(メタ)アクリレート系の接着材を特に制限なく使用することができる。
例えば、特開平5−170618号公報、特開平6−16520号公報、特開平8−319209号公報、特開平9−3109号公報、特開2002−161013号公報、特開2003−96122号公報等に記載の歯科用接着材が挙げられる。
具体的には、前記本発明のプライマー組成物の配合成分として説明した、酸性基含有重合性単量体、酸性基を有しない多官能の重合性単量体あるいは酸性基を有しない単官能の重合性単量体などの(メタ)アクリレート系単量体を主成分とし、光重合開始剤、化学重合開始剤が含まれる硬化性組成物である。また、機械的強度が必要とされる場合も多く、
そのような場合には、歯科用複合材料の配合成分として説明したのと同様の無機フィラーが、25〜75質量%程度含まれたものを用いるのが好適である。
上記重合開始剤を具体的に例示すると、光重合開始剤としては、カンファーキノン等のα−ジケトンと、ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート等の第3級アミンからなるα−ジケトン/第3級アミン系重合開始剤、クマリン等の色素、トリクロロメチル基置換−s−トリアジン等の光酸発生剤及びテトラフェニルボレート・アミン塩等のアリールボレート化合物からなる色素/光酸発生剤/アリールボレート化合物系光重合開始剤を挙げることができる。また、化学重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物と、N,N−ジエタノール−p−トルイジン等の第3級アミンからなる過酸化物/アミン系の重合開始剤のほか、酸性化合物/アリールボレート化合物からなる重合開始剤;酸性化合物/アリールボレート化合物/金属錯体からなる重合開始剤;酸性化合物/アリールボレート化合物/金属錯体/有機過酸化物からなる重合開始剤;トリブチルボランの部分酸化物等のアルキル金属化合物;n−ブチルバルビツール酸/塩化銅のようなバルビツール酸系開始剤が例示される。
本発明の歯科用プライマー組成物は、歯科用複合材料の硬化体同士の接着に用いてもよいが、通常は、歯質や他の歯科用材料との接着が必要な場合が多い。このような場合には、各々の材質にあわせた公知の前処理を行うと、より良好な接着強度が得られ好ましい。
本発明の歯科用プライマー組成物の使用方法をより具体的に例示すると以下の通りである。例えば、歯冠部の欠損をレジンクラウン装着にて修復する場合には、歯質側を歯質用前処理材で処理しておく。一方、レジンクラウン側を本発明の歯科用プライマー組成物で処理し、ついでこの処理面上に接着性レジンセメントを盛り付け、該セメントが硬化する前に上記歯質に装着する。セメントが硬化するまで固定しておき、硬化後に余剰のセメントを除去すればよい。
本発明の歯科用プライマー組成物は、上記のように歯科用複合材料の硬化体の接着に際して用いるものであるが、前述したような貴金属接着性モノマーを配合した場合には、貴金属用の前処理材としても使用することが可能である。この場合、貴金属接着性モノマーは、包装(I)に配合することが良好な保存安定性を得られる点で好ましい。
本発明のプライマー組成物は、通常、上記包装(I)及び包装(II)に分割した状態のキットとして使用者に供給すればよいが、さらに包装(III)として、シランカップリング剤の揮発性有機溶媒溶液を含んだキットとして提供してもよい。
この場合、包装(I)の溶液と包装(III)の溶液を混合することにより、酸性基含有重合性単量体とシランカップリング剤の揮発性有機溶媒溶液を得ることができ、該溶液はセラミックスに対する接着性向上効果を有するプライマー組成物となる。上記のように包装(I)の溶液に貴金属接着性モノマーを配合しておけば、包装(I)の溶液と包装(II)の溶液を混合すると、レジン硬化体に対する接着性向上プライマー組成物を、包装(I)の溶液と包装(III)の溶液を混合すると、セラミックスに対する接着性向上プライマー組成物を、包装(I)の溶液を単独で用いれば貴金属に対する接着性向上プライマー組成物を得ることができ、3つの包装で歯科用補綴物の素材として用いられるほとんど全ての材質に対してのプライマー組成物が得られる。
上記シランカップリング剤としては重合性不飽和基を有する化合物が好ましく、該化合物を具体的に例示すると、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリ(トリメチルシロキシ)シラン、ω−メタクリロキシデシルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルペンタメチルジシロキサン等が挙げられる。これらシランカップリング剤は1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
また包装(III)の溶液における揮発性有機溶剤の具体例としては、前記本発明のプライマー組成物において例示したものと同様の化合物が挙げられるが、良好な保存安定性を得やすい点で、アルコールを用いることが好ましく、エタノールが特に好ましい。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
なお、各実施例及び比較例で使用した物質とその略号、及び接着試験方法を以下に示す。
1.プライマー組成物の調製に用いた物質
Figure 0004641754
2.レジン硬化体に対する接着強度測定方法
市販の歯科用複合材料である「エステライト」(トクヤマデンタル製)及び「ソリデックス」(松風社製)を10×10×3mmのポリテトラフルオロエチレン製モールドに充填し、透明ポリプロピレンフィルムで圧接して酸素を遮断した状態で光重合することで「エステライト」及び「ソリデックス」レジン硬化体を得た。また、「エステニア」(クラレ社製)を10×10×3mmのポリテトラフルオロエチレン製モールドに充填し、透明ポリプロピレンフィルムで圧接して酸素を遮断した状態で光重合、引き続き加熱重合(100℃で15分)することで「エステニア」レジン硬化体を得た。
このレジン硬化体(10×10×3mm)の表面を#1500の耐水研磨紙で磨いて平滑にした後、その研磨面に接着面積を固定するために3mmφの穴を開けた接着テープを貼り付けた。この模擬窩洞内に、各実施例及び比較例の歯科用プライマー組成物をそれぞれスポンジで塗布し、20秒間放置した後圧縮空気を約5秒間吹き付けた。その後、歯科用レジンセメント「ビスタイトII(トクヤマデンタル社製)」付属のセメント、「マルチボンド(トクヤマデンタル社製)」付属のセメント又は「パナビアF2.0(クラレ社製)」付属のセメントを製造業者指定の方法に従って調製、模擬窩洞内に充填した後、その上から直径8mmφのステンレス製のアタッチメントを圧接して、接着試験片を作製した。その後、上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引っ張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて「エステライト」、「ソリデックス」および「エステニア」レジン硬化体との接着強度を測定した。
なお、プライマー組成物を使用直前に採取、混合したとある場合には、採取からプライマー組成物を被着体に塗布するまでの操作を1分以内に行ったことを意味する。
3.貴金属合金に対する接着強度測定方法
歯科用金−銀−パラジウム合金「金パラ12」(10×10×3mm)の表面を#1500の耐水研磨紙で磨いて平滑にした後、その研磨面に接着面積を固定するために3mmφの穴を開けた接着テープを貼り付けた。この模擬窩洞内に、各実施例の歯科用プライマー組成物をそれぞれスポンジで塗布し、20秒間放置した後圧縮空気を約5秒間吹き付けた。その後、歯科用レジンセメント「ビスタイトII(トクヤマデンタル社製)」付属のセメントを模擬窩洞内に充填した後、その上から直径8mmφのステンレス製のアタッチメントを圧接して、接着試験片を作製した。その後、上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引っ張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて「金パラ12」との接着強度を測定した。
実施例1
プライマーA液(包装(I))として、0.3gのPM、0.7gのMAC−10及び0.5gのUDMAを3.5gのアセトンに溶解し均一溶液を得た。別途、プライマーB液(包装(II))として0.5gのDMPT、0.3gの水及び4.2gのアセトンを混合して均一溶液を得た。なお、これらA液及びB液はいずれも容量10mlのガラスサンプル瓶中で調整した。
使用直前にプライマーA液とプライマーB液とを等質量ずつ採取、混合して均一溶液とし、これを歯科用プライマー組成物として用いて、エステライトを硬化させて得たレジン硬化体に対する接着強度を、接着材としてビスタイトII付属セメントを用いて測定したところ、15.6MPaの接着強度を得た(初期接着強度)。
上記で調製したプライマーA液およびプライマーB液を、ガラスサンプル瓶に入れた状態で50℃で6週間保存したが、目視による変化は認められなかった。この50℃で6週間保存したプライマーA液およびプライマーB液を用いてエステライト硬化体に対する接着強度をビスタイトII付属セメントを用いて測定したところ、15.3MPaの接着強度を得た。
さらに、引き続き50℃で保存を継続させたが、10週間経過しても目視による変化は認めなれなかった。
比較例1
容量20mlのガラスサンプル瓶中で0.3gのPM、0.7gのMAC−10、0.5gのUDMA、0.5gのDMPT、0.3gの水及び7.7gのアセトンを混合して均一溶液を得、これを歯科用プライマー組成物とした。なおこの組成は、実施例1において、プライマーA液とプライマーB液とを等質量ずつ採取、混合した場合と同じである。
調整後2時間経過した上記歯科用プライマー組成物を用いてエステライトを硬化させて得たレジン硬化体に対する接着強度を測定したところ、14.8MPaの接着強度を得た。
この歯科用プライマー組成物をガラスサンプル瓶中にいれたまま、50℃で保存したところ、一晩でゲル化していた。また室温で保存したところ、3日間でゲル化した。
比較例2
DMPTに代えて、DMBEを用いた以外は比較例1と同様にして歯科用プライマー組成物を調整し、これを用いてレジン硬化体に対する接着強度を測定したところ、14.1MPaの初期接着強度が得られた。
ついで、この歯科用プライマー組成物をガラスサンプル瓶中にいれたまま、50℃で保存したところ、一晩でゲル化していた。
比較例3
プライマーB液に配合するアミンの種類を、DMPTに代えて、DMBEを用いた以外は実施例1と同様にして歯科用プライマー組成物(プライマーA液及びプライマーB液)を調整し、これを用いてレジン硬化体に対する初期接着強度を測定したところ、接着強度は5.4MPaであった。
実施例2、3
プライマーB液に配合するアミンの種類を、DMPTに代えて、DEPT又はPEATとした以外は、実施例1と同様の操作を行ってプライマー組成物を得、レジン硬化体に対する初期接着強度を測定した。その結果、DEPTを用いた場合は16.1MPa、PEATを用いた場合は15.3MPaであった。
比較例4、5
プライマーB液に配合するアミンの種類を、DMPTに代えて、TEOA又はDMEMとした以外は、実施例1と同様の操作を行ってプライマー組成物を得、レジン硬化体に対する初期接着強度を測定した。その結果、TEOAを用いた場合は5.6MPa、DMEMを用いた場合は4.8MPaであった。
比較例6
プライマーB液にアミンを配合せず、0.3gの水と4.7gのアセトンの混合溶液とした以外は、実施例1と同様の操作を行ってプライマー組成物を得、レジン硬化体に対する初期接着強度を測定した。その結果、接着強度は4.1MPaであった。
Figure 0004641754
上記比較例1及び比較例2として示したように、酸性基含有重合性単量体、アミン及び揮発性有機溶媒を一つの包装として保存すると、かなりの短時間でゲル化してしまい、歯科用として必要な保存安定性が得られない。従って、本発明で規定するように、酸性基含有重合性単量体とアミンとは別の包装とすることが必要である。
そして、実施例1〜3と比較例3〜5の結果を比較すれば明らかなように、このような包装形態を採用した場合には、アミンとして前記一般式(1)で示されるアミンでなくては、レジン硬化体に対して充分な接着強度を得ることができず、アミンをなんら配合しなかった場合(比較例6)とほとんど変わらない接着強度しか得られない。
実施例4〜7
プライマーB液に配合するアミン(及びアセトン)の量を表3に示すように変化させた以外は、実施例1と同様の操作を行ってプライマー組成物を得、レジン硬化体に対する初期接着強度を測定した。結果を表3に併せて示す。
実施例8、9
プライマーB液に配合する水及びアセトンの量を表3に示すように変化させた以外は、実施例1と同様の操作を行ってプライマー組成物を得、レジン硬化体に対する初期接着強度を測定した。結果を表3に併せて示す。
Figure 0004641754
実施例10〜12
プライマーA液に配合する酸性基を有さない多官能の重合性単量体及びアセトンの量を表4に示すように変化させた以外は、実施例1と同様の操作を行ってプライマー組成物を得、レジン硬化体に対する初期接着強度を測定した。結果を表4に併せて示す。
実施例13
プライマーA液に配合する酸性基を有さない多官能の重合性単量体を、UDMAに代えてD26Eとした以外は、実施例1と同様の操作を行ってプライマー組成物を得、レジン硬化体に対する初期接着強度を測定した。結果を表4に示す。
実施例14
プライマーA液に配合する揮発性有機溶媒を、アセトンに代えてIPAとした以外は、実施例1と同様の操作を行ってプライマー組成物を得、レジン硬化体に対する初期接着強度を測定した。結果を表4に示す。
実施例15
プライマーA液及びB液双方で、調製に用いた揮発性有機溶剤をアセトンに代えてIPAとした以外は、実施例1と同様にしてプライマー組成物を得、レジン硬化体に対する初期接着強度を測定した。結果を表4に示す。
実施例16
プライマーA液に配合する酸性基含有重合性単量体として、PMを配合せず、代わりにMAC−10の量を1.0gとした以外は、実施例1と同様の操作を行ってプライマー組成物を得、レジン硬化体に対する初期接着強度を測定した。結果を表4に示す。
Figure 0004641754
実施例17〜22、比較例7
プライマーA液及び/又はB液の組成を表5に示した組成のものにした以外は実施例1と同様の操作を行って、レジン硬化体に対する初期接着強度を測定した。結果を表5に示す。
Figure 0004641754
実施例23、24
レジン硬化体として、エステライト硬化体に代えて、ソリデックス硬化体およびエステニア硬化体を用い、実施例1と同じプライマー組成物を用いて接着強度を測定した。その結果、ソリデックス硬化体に対して13.8MPa、エステニア硬化体に対して13.1MPaの接着強度が得られた。
実施例25、26
(メタ)アクリレート系の接着材としてビスタイトII付属のセメントに代えて、マルチボンド付属のセメントおよびパナビアF2.0付属のセメントを用い、実施例1と同じプライマー組成物を用いてエステライト硬化体に対する接着強度を測定した。その結果、マルチボンド付属セメントを用いた場合には16.5MPa、パナビアF2.0付属セメントを用いた場合には14.0MPaの接着強度が得られた。
実施例27
プライマーA液(包装(I))として、0.3gのPM、0.7gのMAC−10及び0.5gのUDMA、0.04gの6−メタクリロイルオキシヘキシル−2−チオウラシル−5−カルボキシレートを3.46gのアセトンに溶解し、均一溶液を得た。別途、プライマーB液(包装(II))として0.5gのDMPT、0.3gの水及び4.2gのアセトンを混合し、均一溶液を得た。
使用直前にプライマーA液とプライマーB液とを等質量ずつ採取、混合して均一溶液とし、これをプライマー組成物として用いて、金パラ12に対する接着強度を測定したところ、26.7MPaの接着強度を得た。また、上記プライマーA液とプライマーB液とを等質量ずつ混合したプライマー組成物を用いて、エステライト硬化体に対する接着強度をビスタイトII付属セメントを用いて評価したところ、16.0MPaの接着強度が得られた。一方、プライマーA液単独をプライマー組成物として用いて、金パラ12に対する接着強度を測定したところ、25.4MPaの接着強度が得られた。
上記実施例27として示したように、本発明のプライマー組成物に6−メタクリロイルオキシヘキシル−2−チオウラシル−5−カルボキシレートのような貴金属接着性モノマーを配合することにより、複合材料硬化体のみならず、貴金属に対しても高い接着強度を得ることが可能になる。これにより、被着体となる補綴物が貴金属部分と複合材料硬化体部分の双方を有しているような場合(例えば、硬質レジン前装冠の破折修理など)でも、各々を別々の前処理材で処理する必要が無く一括で処理することができ、操作が極めて簡便となる。
また、貴金属接着性モノマーを配合した方の包装(上記では包装(I))は、それ単独で貴金属用のプライマー組成物として使用することができる。

Claims (3)

  1. (A)酸性基含有重合性単量体、(B)芳香族アミン、及び(C)20℃〜37℃において蒸気圧が水よりも大きい揮発性有機溶媒を含んでなり、歯科用複合材料の硬化体からなる歯科用補綴物と、歯質及び/又は他の歯科用材料とを(メタ)アクリレート系の接着材を用いて接着するに先立って、該歯科用補綴物を前処理するために用いるプライマー組成物であって、該プライマー組成物は、(A)酸性基含有重合性単量体及び(C)20℃〜37℃において蒸気圧が水よりも大きい揮発性有機溶媒を含むが(B)芳香族アミンを含まない包装(I)と、(B)芳香族アミン及び(C)20℃〜37℃において蒸気圧が水よりも大きい揮発性有機溶媒を含むが(A)酸性基含有重合性単量体を含まない包装(II)とに分割された状態で保存され、使用時に全成分を混合して用いるものであって、かつ(B)芳香族アミンが下記式(1)
    Figure 0004641754
    (式中、R及びRは、各々独立にアルキル基を示し、Rは電子供与性基を示し、nは0〜5の整数を表す。)
    で示される化合物であることを特徴とする歯科用複合材料硬化体用プライマー組成物。
  2. さらに、(D)水を含む請求項1記載の歯科用複合材料硬化体用プライマー組成物。
  3. さらに、(E)酸性基を有しない多官能の重合性単量体を含む請求項1又は2記載の歯科用複合材料硬化体用プライマー組成物。
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