JP5110982B2 - 歯科補綴物用2液型プライマー - Google Patents

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Description

本発明は、卑金属合金、貴金属合金、セラミックスおよび歯科用レジン硬化体のいずれに対しても優れた接着性を発現させる歯科用プライマーに関する。
齲蝕等により欠損を生じた歯質の修復において、欠損部が大きい場合には、インレー、アンレーあるいはクラウンなどの修復部の形状をした補綴物を口腔外で予め形成し、これを(メタ)アクリレート系接着材等の歯科用接着材で接着する手法により行われるのが主流である。この方法において、上記補綴物の接着に用いられる歯科用接着材としては、通常、歯科用セメントが用いられており、具体的には、リン酸亜鉛セメント、シリケートセメント、グラスアイオノマーセメント、接着性レジンセメント等がある。なかでも、(メタ)アクリレート系の重合性単量体、フィラー、及び化学重合開始剤を主成分とする接着性レジンセメントは、歯質への接着性、硬化後の機械的強度、耐久性等が良好な優れた接着材であり汎用されている。
ところで、上記インレー等の補綴物は、卑金属合金、貴金属合金、セラミックス、あるいは歯科用レジン〔(メタ)アクリレート系の重合性単量体と無機フィラーとを主成分とする硬化性組成物〕硬化体など多様な材質により形成されている。ところが、上記これらの補綴物の接着に用いられている接着性レジンセメントは、歯質に対しては高い接着力を有しているものの、これら補綴物の材質とは十分な接着力を有していないものが多く、また、一部の材質に高い接着力を有しているものであっても、上記補綴物が様々な材質により形成されている状況にあっては使用が限られていた。しかも、上記補綴物を用いた歯科治療においては、単に、該補綴物を歯質に接着させるだけでなく、該補綴物同士を相互に接着させることも多々必要になり、こうした場合には、一つの材質に多少の接着力を有していても対応できないことが多かった。
こうした背景から、単一の歯科用接着材で、歯質、卑金属合金、貴金属合金、セラミックスあるいは歯科用レジン硬化体の各材質と強固に接着させることが切望され、これに応じて、接着性レジンセメントに組合せて使用され、上記補綴物の材質ごとに接着力を高める専用の前処理剤(プライマー)が種々提案されている。例えば、貴金属合金への接着力を更に高める必要性がある場合には、硫黄原子を含有する重合性単量体(以下、「貴金属接着性単量体」ともいう)の揮発性有機溶液からなる貴金属用プライマーを用いることが提案されており、その一部は既に実用化されている(例えば、特許文献1及び2参照)。また、卑金属合金に対しては、酸性基含有重合性単量体が効果を有することが知られている。また、セラミックスに対しては、酸性基含有重合性単量体、及び重合性不飽和基を有するアルコキシシラン(以下、「シランカップリング剤」ともいう)の揮発性有機溶媒溶液からなるセラミックス用プライマーが既に実用化されている。さらに、歯科用レジン硬化体に対しては、酸性基含有重合性単量体、特定構造の芳香族第3級アミン、および揮発性有機溶媒からなるレジン用プライマーが提案されている(特許文献3)。
これらの各プライマーは、接着性レジンセメントを用いた接着において、それぞれが対象とする補綴物の材質に対しては高い接着力を付与し、いずれも優れたものであるが、臨床上においては、これらの多種のプライマーを全て用意し、治療に用いる補綴物の材質に応じて使い分けなければならず、やはり相当に面倒であった。例えば、貴金属合金に焼付されたレジン(レジン前装冠)が破折した場合には、往々にして破折片をレジンのみならず貴金属合金とも接着しなければならないが、こうした症例では、レジン面にはレジン用プライマーを、貴金属合金面には貴金属用プライマーを使用することになり、臨床術式が煩雑化することが避けられなかった。また、一部破損した歯科材料を修復する場合、使用している金属の材質が分からないことが多いが、このような場合に、使用するプライマーの種類を誤ると充分な接着力が得られなっていた。
そこで、材質の異なる複数の被着体に対して、高い接着性を付与できるプライマーの開発が望まれており、有効な組成物がいくつか提案されている。例えば、貴金属・卑金属・セラミックス兼用プライマーとして、酸性基含有重合性単量体、貴金属接着性単量体、及びシランカップリング剤の揮発性有機溶媒溶液からなるもの(例えば、特許文献4)が、これらの各材質のいずれに対しても良好な接着力を付与するものとして提案されている。しかし、このものも、歯科用レジン硬化体への接着力については高められていない。
以上の背景にあって、上記特許文献3には、これら貴金属合金、卑金属合金、セラミックス、および歯科用レジンのいずれに対しても高い接着強度を与えるプライマーが、使用時に自在に調製可能なものとして、3液からなるプライマーが開示されている。すなわち、(I)液として、酸性基含有重合性単量体及び貴金属接着性単量体の揮発性有機溶媒溶液、(II)液として、特定構造の芳香族アミンの揮発性有機溶媒溶液、(III)液として、シランカップリング剤の揮発性有機溶媒溶液からなるものが提案されている。そして、(I)液と(II)液については、配合される各成分の好ましい配合量が規定されている。
このプライマーは、接着する補綴物の材質に応じて、対応する包装を選択し、必要であれば2液を混合して使用すれば、上記すべての材質に対して接着力を発現させることができ、臨床上、極めて有用なものである。すなわち、(I)液は、金属(卑金属合金、貴金属合金)に対する優れた接着性向上効果を有するプライマーとして単独で使用可能なことはもちろんのこと、該(I)液と(II)液を混合した場合には、酸性基含有重合性単量体と特定構造の芳香族第3級アミンの揮発性有機溶媒溶液を得ることができ、該溶液は歯科用レジン硬化体に対する高い接着性向上効果を有するプライマーとして使用できる。
同様に、(I)液と(III)液を混合した場合には、酸性基含有重合性単量体とシランカップリング剤の揮発性有機溶媒溶液を得ることができ、該溶液はセラミックスに対する接着性向上効果を有するプライマーとして使用できる。ただし、特許文献3には、上記(III)液について、シランカップリング剤の配合量が具体的に何も開示されておらず、如何なる量がセラミックス用プライマーを得る上で適切であるか不明であった。そして、さらに、該シランカップリング剤の配合量を種々変更して(III)液を調製して、上記(I)液と混合してセラミックス用プライマーを製造しても、そのセラミックスに対する接着力は最大値でも今一歩満足できるものではなく、補綴物における口腔内での過酷な使用環境を考慮すれば、さらに向上させることが望まれるものであった。
特開平10−1409号公報 特開平1−138282号公報 特開2006−45094号公報 特開2000−248201号公報
上記したように、(I)〜(III)の各包装に分けられたプライマーは、補綴物の材質に応じて、適した接着性を有する組成に自在に調製できる点で大変有用であるが、(III)液についてシランカップリング剤の使用量が明らかでなく、また、該(III)液を用いて調製したプライマーにおいて、セラミックスに対する接着力が今一歩満足できるものではなく改良の余地があった。
さらに、このプライマーは、上記3液に分けられており液数が多く、その中から選別して混合させる必要がある点で、前記臨床上の煩雑さの問題が完全には解消できたものではなかった。しかして、上記プライマーにおいて、各材質に応じた接着成分を、このように3液に分けている理由は、これらの単一溶液はもちろんのこと、2液にまとめても、得られる混合液の保存安定性が大きく損なわれることにある。
すなわち、まず、(I)液と(II)液を混合した場合には、該(I)液に含まれる酸性基含有重合性単量体が(II)液に含まれる芳香族アミンの作用により重合しゲル化することが避けられないものであり、さらに、(III)液についても、(I)液と(II)液のいずれと混合しても、通常は、ゲル化が発生してしまうものであった。これは、(III)液に含まれるシランカップリング剤が、酸性基含有重合性単量体や多くのアミン化合物の共存下では、容易に加水分解して高分子化するためと考えられる。
したがって、こうした貴金属合金、卑金属合金、セラミックスおよび歯科用レジンのいずれに対しても高い接着強度を与えるプライマーにおいて、できるだけ包装形態を簡略化して、しかも、保存時において、ゲル化等を生じさせずに安定性の良好なものとすることも、更なる課題であった。
本発明者等は上記課題に鑑み鋭意研究を行った。その結果、
・シランカップリング剤の前記アミン化合物によるゲル化の発生は、該アミン化合物が、上記3液からなるプライマーにおいて使用されている芳香族第3級アミンであれば極めて穏やかなものであること、
・従って、該芳香族第3級アミンの使用量を特定範囲に調製すれば、前記(II)液と(III)液とを一液化しても前記ゲル化の問題は防止できること、
・しかも、この態様によれば、得られるプライマーはセラミックスに対する接着力も一層に向上する予想外の効果が得られること
を見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、包装形態が下記Ia)〜Ic)成分を含んだ混合液からなる(I)液
Ia)分子内に少なくとも1つのラジカル重合性基と硫黄原子とを有する重合性単量体を、0.001〜20質量%、
Ib)酸性基含有重合性単量体を、1〜30質量%、及び
Ic)揮発性有機溶媒
並びに、下記IIa)〜IIc)成分を含んだ混合液からなる(II)液
IIa)シランカップリング剤を、0.05〜20質量%
IIb)芳香族第3級アミンを、上記IIa)シランカップリング剤に対して0.5〜6倍モル量、及び
IIc)揮発性有機溶媒
とによりなり、使用時にはこれら両液を混合して使用する態様の歯科補綴物用2液型プライマーである。


本発明の歯科補綴物用プライマーは、歯科用補綴物と、歯質や他の歯科用材料とを、歯科用接着材を用いて接着するに先立って、該歯科用補綴物を前処理して使用される。その際に、該歯科用補綴物が、卑金属合金、貴金属合金、セラミックス、または歯科レジン硬化体の如何なる材質であったとしても、上記歯科用接着材との接着力は極めて高いものになる。特に、セラミックスに対する接着力は、前記した従来技術における、シランカップリング剤を(I)〜(III)液に分けて包装し、このうちの(I)液と(III)液とを混合して得たプライマーよりも、これを上回る高強度なものになる。
しかも、2液で構成されてなり、これら両液を混合する簡単な操作で調整でき、その保存安定性が良好である。特に、シランカップリング剤とアミン化合物とが共存する(II)液においてもゲル化が生じ難く、臨床上、極めて有用である。
本発明のプライマーにおいて(I)液は、
Ia)分子内に少なくとも1つのラジカル重合性基と硫黄原子とを有する重合性単量体を、0.001〜20質量%、
Ib)酸性基含有重合性単量体を、1〜30質量%、及び
Ic)揮発性有機溶媒
を含む混合液からなる。この(I)液において使用される、Ia)分子内に少なくとも1つのラジカル重合性基と硫黄原子とを有する重合性単量体は(以下、「含硫黄重合性単量体」とも称する)、主に、貴金属合金に対する高い接着性を発現させる。この含硫黄重合性単量体は、上記構造を満足するものであれば特に限定されず公知の化合物が使用できる。通常は、下記一般式で示される化合物が使用できる。
すなわち、下記一般式A1〜A5に示される互変異性によりメルカプト基を生じ得る重合性化合物;下記一般式A6〜A9に示されるジスルフィド化合物;下記一般式A10〜A11に示される鎖状若しくは環状のチオエーテル化合物等が挙げられる。
Figure 0005110982
{式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1〜12の2価の飽和炭化水素基、−CH−C−CH−基、−(CH−Si(CHOSi(CH−(CH−基(但し、o及びpはそれぞれ1〜5の整数である。)、又は−CHCHOCHCH−基であり、Zは−OC(=O)−基、−OCH−基、または−OCH−C−基であり(但し、これらいずれの基Zにおいても右端の炭素原子は不飽和炭素に結合し、左端の酸素原子は基Rに結合している。)、Z’は−OC(=O)−基(但し、右端の炭素原子が不飽和炭素に結合し、左端の酸素原子が基Rに結合している。)、−C−基、又は結合手であり(ここで、基Z’が結合手の場合とは基Rと不飽和炭素が直接結合した状態をいう。)、Yは−S−、−O−、又は−N(R’)−である(但し、R’は水素原子、炭素数1〜5のアルキル基である。)。}
これら含硫黄重合性単量体を具体的に例示すれば、前記一般式A1〜A5に示される互変異性によりメルカプト基を生じ得る重合性化合物としては、次に示す化合物が挙げられる。
Figure 0005110982
Figure 0005110982
Figure 0005110982
また、前記一般式A6〜A9に示されるジスルフィド化合物としては、次に示す化合物等が挙げられる。
Figure 0005110982
さらに、前記一般式A10〜A11に示される鎖状若しくは環状のチオエーテル化合物としては、次に示す化合物等が挙げられる。
Figure 0005110982
これらの含硫黄重合性単量体は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
含硫黄重合性単量体としては、これらの中でも、プライマーとしたときの保存安定性の観点から、互変異性によりメルカプト基を生じ得る重合性化合物、又はジスルフィド化合物が好適に用いられ、さらに接着強度の観点から互変異性によりメルカプト基を生じ得る重合性化合物が最も好適に使用される。
本発明のプライマーにおいて、(I)液100質量%中での、含硫黄重合性単量体の濃度は、貴金属合金に対する接着強度の観点から、0.001〜20質量%であり、0.005〜10質量%であるのが好ましい。
本発明のプライマーにおいて、(I)液に使用される、Ib)酸性基含有重合性単量体は、主に、卑金属合金に対して高い接着性を発現させ、シランカップリング剤と共存することにより、セラミックスに対して高い接着性を発現させ、後述する芳香族第3級アミンと共存することにより、歯科用レジン硬化体に対して高い接着性を発現させる。この酸性基含有重合性単量体は、分子中に少なくとも一つのラジカル重合性不飽和基と、少なくとも一つの酸性基を有する化合物であれば、公知のものが制限無く使用できる。具体的には、水溶液又は水懸濁液とした際に、該液が酸性を呈すものになる重合性単量体であり、好ましくは10質量%の水溶液又は水懸濁液がpH4.5以下(さらに好ましくは4以下)を示すものになる重合性単量体である。さらには、遊離酸に限らず、上記条件で酸性を示す重合性単量体であれば酸無水物、酸塩化物や固体酸からなるものも使用可能である。
当該酸性基を具体的に例示すると、カルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SOH)、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)}等、及びこれらに対応する酸無水物基、酸ハロゲン化物基等が例示される。このうち、前記各材質への接着性の点からは、酸性基としてホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)}、カルボキシル基{−C(=O)OH}を有するものを使用するのが特に好適である。
また、ラジカル重合性不飽和基も特に限定されず公知の如何なる基であってもよい。具体的には、(メタ)アクリロイル基及び(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基等の(メタ)アクリロイル基の誘導体基、ビニル基、アリル基、スチリル基等が例示される。
当該酸性基含有重合性単量体を具体的に例示すると、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンマレート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸等の分子内に1つのカルボキシル基を有すラジカル重合性単量体、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物;11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−メタクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル サクシネート、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート、N,O−ジ(メタ)アクリロイルチロシン、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート アンハイドライド、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート アンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、4−アクリロイルオキシブチルトリメリテート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸無水物、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−2,3,6−トリカルボン酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル−1,8−ナフタル酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,8−トリカルボン酸無水物等の分子内に複数のカルボキシル基あるいはその酸無水物基を有すラジカル重合性単量体、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物;2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ジハイドロジェンフォスフェート、ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル フェニル ハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル ジハイドロジェンフォスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル ジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル 2−ブロモエチル ハイドロジェンフォスフェート等の分子内にホスフィニコオキシ基又はホスホノオキシ基を有すラジカル重合性単量体、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物;ビニルホスホン酸、p−ビニルベンゼンホスホン酸等の分子内にホスホノ基を有すラジカル重合性単量体;2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸等の分子内にスルホ基を有すラジカル重合性単量体が例示される。またこれら以外にも、特開昭54−11149号公報、特開昭58−140046号公報、特開昭59−15468号公報、特開昭58−173175号公報、特開昭61−293951号公報、特開平7−179401号公報、特開平8−208760号公報、特開平8−319209号公報、特開平10−236912号公報、特開平10−245525号公報等に開示されている歯科用接着性組成物の成分として記載されている酸性モノマーも好適に使用できる。
上記の酸性基含有重合性単量体は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
本発明のプライマーにおいて、(I)液100質量%中での、酸性基含有重合性単量体の濃度は、前記した各材質に対する接着強度の観点から、1〜30質量%であり、3〜20質量%であるのが好ましい。
本発明のプライマーにおいて、(I)液に使用される、Ic)揮発性有機溶媒としては、前記Ia)含硫黄重合性単量体成分及びIb)酸性基含有重合性単量体成分を溶解可能であり、かつプライマーの使用温度、即ち、室温〜口腔内温度(20〜37℃程度)において、気流の吹きつけにより容易に揮発、除去されるものであれば特に制限されるものではない。より良好な揮発除去性を得るために、上記温度下での蒸気圧が水よりも大きい有機溶媒、より好ましくは1.5倍以上、特に好ましくは2倍以上の蒸気圧を有する有機溶媒を採用することが好ましい。
このような有機溶媒を具体的に例示すると、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、酢酸エチル、蟻酸エチル等のエステル類;トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の塩素系溶媒;トリフルオロエタノール等のフッ素系溶媒等が挙げられる。これらの中でも、生体に対する安全性の観点からアルコール類、ケトン類、エーテル類又はエステル類が好ましい。また、接着性向上効果、及びIa)及びIb)成分、さらにはプライマーの使用時において(I)液を(II)液と混合した際の後述するIIa)〜IIb)成分の溶解性の高さ等の理由で、炭素数3以上の化合物が好ましい。特に良好な揮発除去性を有している点を考慮すると、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アセトン又はイソプロピルアルコール等が最も好ましく使用される。
これら揮発性有機溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
本発明のプライマーにおいて、(I)液中での揮発性有機溶媒の配合量は、前記Ia)及びIb)成分、更には必要に応じて配合可能な任意添加成分を除いた残余の量である。プライマーは、均一溶液として補綴物に対してムラ無く塗布できることが高い接着性を実現するために有利であり、この観点から揮発性有機溶媒は、(I)液100質量%中において、40質量%以上とするのが好ましく、50質量%以上とするのがより好ましく、70質量%以上とするのが最も好ましい。
本発明のプライマーにおいて(II)液は、
IIa)シランカップリング剤を、0.05〜20質量%
IIb)芳香族第3級アミンを、上記IIa)シランカップリング剤に対して0.5〜6倍モル量、及び
IIc)揮発性有機溶媒
を含む混合液からなる。この(II)液において使用される、IIa)シランカップリング剤は、(II)液を(I)液と混合して酸性基含有重合性単量体と共存させた際に、該酸性基含有重合性単量体が酸触媒として働き、アルコキシ基が加水分解されてシラノール基を生じ、これがセラミックス表面に存在するシラノール基と脱水縮合して、これにより主に、セラミックスに対する高い接着性を発現させる。このシランカップリング剤は、重合性不飽和基を有するアルコキシシランからなる公知のものが制限なく使用できる。
本発明の大きな特徴は、このシランカップリング剤成分を、別の包装に分けずに、後述するIIb)芳香族第3級アミン成分が含有される、該(II)液の成分とした点にある。すなわち、シランカップリング剤を含む有機溶液では、これにアミン化合物が共存していると、アルコキシ基が、系中或いは雰囲気から混入する微量水分により保存中に加水分解してシラノール基が生成し、さらに該シラノール基同士が縮合していく。したがって、液の保存期間が長期におよぶとゲル化が生じるのが普通であり、このため前記従来技術のプライマーでも、シランカップリング剤は(III)液として別包装されていたものである。しかして、この現象は、確かに、共存するアミン化合物が、塩基性が強い第1級アミンや第2級アミン、さらには第3級アミンであっても脂肪族アミンの場合であれば顕著に発生し、保存中に液は急速にゲル化していく。ところが、本発明で使用する上記プライマーのように、アミン化合物であっても、芳香族第3級アミンが共存するのであれば、前記シランカップリングのゲル化の原因になる縮合反応は進行が極めて穏やかであり、その含有量を特定範囲に抑えれば、液の保存安定性は実用上問題ないレベルに低減させることができることを見出し、前記構成としたものである。すなわち、この構成の結果、得られるプライマーは、包装形態が2液で操作性に優れたものとすることができる。しかも、それだけでなく、該(II)液中におけるシランカップリング剤は、過度に高分子化することなく、アルコキシ基が適度に加水分解された状態にあるため、該加水分解により生成したシラノール基によるセラミックスへの親和性をより高められており、(I)液と混合してプライマーとして使用した際の該材質への接着性も有意に向上する効果も奏される。
本発明において具体的に使用される上記シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリ(トリメチルシロキシ)シラン、ω−メタクリロキシデシルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルペンタメチルジシロキサン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。
このうち、セラミックスに対する高い接着性を与えることから、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリ(トリメチルシロキシ)シラン、ω−メタクリロキシデシルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルペンタメチルジシロキサンが特に好ましい。
上記のシランカップリング剤は1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
本発明のプライマーにおいて、(II)液100質量%中での、シランカップリング剤の濃度は、セラミックスに対する接着強度の観点から、0.05〜20質量%であり、0.1〜10質量%であるのが好ましい。
本発明のプライマーにおいて、(II)液に使用される、IIb)芳香族第3級アミンは、主に、歯科用レジン硬化体に対する高い接着性を発現させ、さらに、前記したように(II)液の保存中において、シランカップリング剤を適度に加水分解させ、そのセラミックスへの接着性を高める効果を発現する。この芳香族第3級アミンは、通常、下記一般式(1)
Figure 0005110982
(式中、R及びRは、各々独立に、アルキル基を示し、Rは電子供与性基を示し、nは0〜5の整数を表す。)
で示される化合物を使用するのが好ましい。
上記式(1)中、R及びRはアルキル基である。当該アルキル基としては、炭素数1〜6のものが好ましく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基等を挙げることができる。また、このアルキル基は、当然のことながら置換基を有している置換アルキル基であってもよく、このような置換アルキル基としては、フロロメチル基、2−フロロエチル基等のハロゲン置換アルキル基;2−ヒドロキシエチル基等の水酸基置換アルキル基などを例示することができる。特に、炭素数1〜3の非置換のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基)や、2−ヒドロキシエチル基等がより好適である。
また、上記の電子供与基も特に制限されるものではないが、入手の容易さや、生体に対する為害性の観点から、アルキル基が好ましい。該アルキル基の具体例は、上記、R、Rにおいて例示したのと同様である。
上記式(1)において、nは0〜5の整数であるが、入手、合成の容易さの点で、nは0〜3の整数であることが好ましく、0又は1であることはより好ましい。n=1の場合は、基Rの結合位置がパラ位であることが好ましく、一方、基Rが2〜3個結合している場合には、その結合位置はオルト位及び/又はパラ位であることが好ましい。
上記一般式(1)で示される芳香族アミンを具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)アニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)アニリン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、p−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、N,N,2,4,6−ペンタメチルアニリン、N,N,2,4−テトラメチルアニリン、N,N−ジエチル−2,4,6−トリメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン等が例示される。
上記芳香族第3級アミンは1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
本発明のプライマーにおいて、(II)液中での、芳香族第3級アミンの含有量は、前記IIa)シランカップリング剤の使用モル量に対して0.5〜6倍モル量にすることが重要である。すなわち、この含有量とすることにより、前記したように(II)液中にシランカップリング剤を配合しても、該シランカップリング剤に過度の加水分解・シラノール基の縮合反応を進行させることがなく、該(II)液の保存安定性を実用上良好なものに維持できる。また、芳香族第3級アミンの配合目的である、歯科用レジン硬化体への優れた接着性も発現させることができる。これらの効果の高さを勘案すると、係る芳香族第3級アミンの含有量は、前記IIa)シランカップリング剤の使用モル量に対して1〜4倍モル量がより好ましい。
本発明のプライマーにおいて、(II)液に使用される、IIc)揮発性有機溶媒としては、前記(I)液で使用されるものと同様のものが、制限なく使用される。含水率が高いものは、前記IIa)シランカップリング剤の過度の加水分解・シラノール基の縮合反応を進行させ、該(II)液の保存安定性を大きく低下させる虞があるため、該揮発性有機溶媒はいわゆる脱水処理された無水のものが好ましく、具体的には含水率が1000ppm以下のものが特に好ましい。
本発明のプライマーにおいて、(II)液中での上記揮発性有機溶媒の配合量は、前記IIa)及びIIb)成分、更には必要に応じて配合可能な任意添加成分を除いた残余の量である。前記した(I)液での場合と同様に、プライマーは補綴物に対してムラ無く塗布できることが高い接着性を実現するために有利であり、この観点から揮発性有機溶媒は、(II)液100質量%中において、40質量%以上とするのが好ましく、50質量%以上とするのがより好ましく、70質量%以上とするのが最も好ましい。
本発明のプライマーにおいて、上記説明した(I)液及び(II)液には、それぞれ前記詳述したIa)〜Ic)成分及びIIa)〜IIc)成分の他に、公知の歯科用補綴物プライマーに含有させてある、他の任意添加剤が配合されていても良い。特に、酸性基を有しない多官能の重合性単量体を、これら2液のいずれかに配合させることにより、得られるプライマーを、歯科補綴物の各材質に対して、その接着性がさらに向上されたものとすることができ、より好適である。
係る酸性基を有しない多官能の重合性単量体(以下、「非酸性基多官能性重合性単量体」とも称する)としては、一分子中に2つ以上のラジカル重合性不飽和基を有し、既にIb)酸性基含有重合性単量体で説明したような酸性基は有さない化合物であれば、公知のものが制限なく使用することができる。ラジカル重合性不飽和基の数は、2〜6であるのがより好ましい。
このような非酸性基多官能性重合性単量体を具体的に例示すると、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1.6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、脂肪族ジイソシアネート類とアルコール性水酸基を有する(メタ)アクリレートとの反応生成物であるウレタン(メタ)アクリレート(例えば、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2,4−トリメチルヘキサン、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,4,4−トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレートなど)等の重合性不飽和基を複数有する脂肪族系(メタ)アクリレート系単量体類;2,2−ビス((メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシフェニル)]プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン等の重合性不飽和基を複数有する芳香族系(メタ)アクリレート系単量体類等が例示される。
これらのなでも特に、2,2’−ビス{4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]フェニル}プロパン、トリエチレングリコールメタクリレート、2,2−ビス[(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン]、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2,4−トリメチルヘキサン、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,4,4−トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレートが好ましい。
これらの非酸性基多官能性重合性単量体は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
本発明のプライマーにおいて、非酸性基多官能性重合性単量体の配合量は、(I)液及び(II)液のいずれに配合する場合においても、その濃度は0.5〜20質量%、より好適には1〜15質量%とするのが好ましい。この範囲において、歯科補綴物の各材質に対して接着性の向上効果が優れたものになる。
さらに、本発明のプライマーに配合しても良い、他の成分を具体的に例示すると、酸性基を有しない単官能の重合性単量体、重合禁止剤、ラジカル重合開始剤、顔料や染料などの着色成分などが挙げられる。
酸性基を有しない単官能の重合性単量体としては、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の炭化水素基を有する重合性単量体類;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の環状エーテル基を有する重合性単量体類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する重合性単量体類;2−(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート、2−メタクリロキシエチルアセトアセテート等のエステル基を有する重合性単量体類等が挙げられる。
重合禁止剤としては、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、4−ターシャルブチルフェノール等を添加することができる。
本発明のプライマーにおける、上記(I)液及び(II)液を製造する方法は特に制限されるものではなく、一般的には、各々の液に配合される各成分を所定の量だけ秤量し、均一になるまで攪拌すればよい。ついで得られた溶液は、配合されている揮発性有機溶媒が保存期間中に揮発して消滅してしまわないような気密性のある容器に充填して使用するのが好ましい。使用時には、(I)液および(II)液をそれぞれ所定量(具体的な混合比は、質量比で(I)液:(II)液が3:1〜1:3、より好適には2:1〜1:2であるのが好ましく、通常は、1滴づつ等の実質的に等量混合される)取り出し、両者を混合し、歯科用スポンジ、小筆等で、歯科用補綴物の被着面に塗布する。塗布後、1〜120秒間程度放置し、さらに圧搾空気等を吹きつけ、揮発性有機溶剤を揮発除去する。その後、後述するような定法に従って接着操作を行えば良い。
本発明において、上記プライマーを塗布した、歯科用補綴物の被着面は、歯質及び/又は他の歯科用材料と、(メタ)アクリレート系接着材等の歯科用接着材を用いて接着される。この歯科用補綴物は、インレー、アンレー、クラウン、ラミネートベニア等の補綴修復物が制限なく使用できる。そして、その材質は、貴金属合金製、卑金属合金製、セラミックス製、および歯科用レジン硬化体製のいずれの材質であっても、良好に接着できる。なお、こうした本発明のプライマーを前処理した歯科用補綴物と接着される他の歯科用材料とは、具体的には、これも上記歯科用補綴物の他、レジンコア、金属コア等が挙げられ、これらは、近年の歯科治療の複雑な術式の中にあって、互いに接着させる必要性が生じる。
上記被着体である歯科用補綴物の材質に使用される貴金属合金としては、金合金、白金加金、金銀パラジウム合金、銀合金等が挙げられる。
また、歯科用補綴物の材質に使用される卑金属合金としては、チタン合金、コバルトクロム合金、ニッケルクロム合金等が挙げられる。
また、歯科用補綴物の材質に使用されるセラミックスとしては、陶材やプレッサブルセラミックスに代表されるシリカ系ガラスセラミックス、更には高い外力に抗する強さを備えた高強度セラミックスとして最近用いられている酸化アルミニウムや酸化ジルコニウムからなる酸化物セラミックス等が挙げられる。本発明のプライマーは、前記したように該セラミックス、より顕著にはシリカ系ガラスセラミックスに対して接着性の向上効果が特に高く好ましい。
さらに、歯科用補綴物の材質に使用される歯科用レジン硬化体としては、ラジカル重合性単量体と無機フィラーを主成分として含む硬化性組成物の硬化体が挙げられる。このような歯科用レジンとしては、代表的には、歯科用コンポジットレジン、歯科用硬質レジン等がある。
上記歯科用レジンである硬化性組成物のラジカル重合性単量体として使用されるものを具体的に示せば、前記プライマーへの任意添加成分として説明した、非酸性基多官能性重合性単量体に属するものが挙げられる。また、無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ等の金属酸化物や、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア等の複合酸化物、バリウムガラス等が主に用いられる。無機フィラーは、硬化性組成物中において、50〜95質量%程度配合されており、さらに、硬化させるために有効な量の、光重合開始剤、化学重合開始剤あるいは熱重合開始剤が配合されているのが一般的である。
これら歯科用レジンとなる硬化性組成物を具体的に示せば、特開2002−255721号公報、特開2001−139411号公報、特開2003−95836号公報、特開2000−80013号公報、特開平10−218721号公報、特開平11−100305号公報、特開平7−196431号公報、特開平6−107516号公報、再公表2002−005752号公報等に記載の歯科用複合材料が挙げられる。
なお、これらの歯科用レジンは、通常、未硬化のペーストの状態で歯質の修復に必要な形状に付形された後、光照射、加熱などにより硬化させられて、歯科用の補綴物(例えば、支台歯、レジンインレー、レジンクラウンなど)にされる。また硬化後に形態修正や未重合層の除去の為に研磨や研削されることが多い。
前記本発明のプライマーを前処理した歯科用補綴物と、歯質及び/又は他の歯科用材料との接着に供される歯科用接着材としては、一般には、(メタ)アクリレート系接着材が用いられる。当該(メタ)アクリレート系の接着材としては、歯科用として公知の当該接着材が特に制限なく使用することができる。例えば、特開平5−170618号公報、特開平6−16520号公報、特開平8−319209号公報、特開平9−3109号公報、特開2002−161013号公報、特開2003−96122号公報等に記載の歯科用接着材が挙げられる。
具体的には、前記本発明のプライマーの配合成分として説明した、リン酸基含有重合性単量体、カルボン酸基含有重合性単量体、非酸性基多官能性重合性単量体、または酸性基を有しない単官能の重合性単量体などの(メタ)アクリレート系重合性単量体を主成分とし、光重合開始剤、化学重合開始剤が含まれる硬化性組成物である。また、高い機械的強度が必要とされる場合も多く、そのような場合には、歯科用レジンの配合成分として説明したのと同様の無機フィラーが、25〜75質量%程度含まれたものを用いるのが好適である。
さらに、(メタ)アクリレート系接着材に使用される重合開始剤を具体的に例示すると、光重合開始剤としては、カンファーキノン等のα−ジケトンと、ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート等の第3級アミンからなるα−ジケトン/第3級アミン系重合開始剤、クマリン等の色素、トリクロロメチル基置換−s−トリアジン等の光酸発生剤及びテトラフェニルボレート・アミン塩等のアリールボレート化合物からなる色素/光酸発生剤/アリールボレート化合物系光重合開始剤を挙げることができる。また、化学重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物と、N,N−ジエタノール−p−トルイジン等の第3級アミンからなる過酸化物/アミン系の重合開始剤のほか、酸性化合物/アリールボレート化合物からなる重合開始剤;酸性化合物/アリールボレート化合物/金属錯体からなる重合開始剤;酸性化合物/アリールボレート化合物/金属錯体/有機過酸化物からなる重合開始剤;トリブチルボランの部分酸化物等のアルキル金属化合物;n−ブチルバルビツール酸/塩化銅のようなバルビツール酸系開始剤が例示される。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
なお、各実施例及び比較例で使用した物質とその略号、及び接着試験方法を以下に示す。
1.プライマーの調製に用いた物質
・Ia)分子内に少なくとも1つのラジカル重合性基と硫黄原子とを有する重合性化合物(含硫黄重合性単量体)
MTU−6:6−メタクリロイルオキシヘキシル 2−チオウラシル−5−カルボキシレート
MMT−11:2−(11−メタクリロイルオキシウンデシルチオ)−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール
・Ib)酸性基含有重合性単量体
PM:2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物(モル比1:4)
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
MAC−10:11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸
・Ic)、IIc)揮発性有機溶媒
アセトン:アセトン
IPA:イソプロピルアルコール
EtOH:エタノール
・IIa)シランカップリング剤
MPS:3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン
MDS:10−メタクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン
・IIb)芳香族第3級アミン
DMPT:N,N−ジメチル−p−トルイジン
DEPT:N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン
PEAT:N,N−ジエチル−p−トルイジン
・芳香族第3級アミン以外のアミン
TEA:トリエチルアミン
・酸性基を有しない多官能の重合性単量体(非酸性基多官能性重合性単量体)
UDMA:1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2,4−トリメチルヘキサンと1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,4,4−トリメチルヘキサン
D26E:2,2−ビス[(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン]
2.歯科用合金に対する接着強度測定方法
卑金属合金製の被着体である歯科用コバルト−クロム合金「ワクローム」(トクヤマデンタル社製10×10×3mm)、貴金属合金製の被着体である歯科用金−銀−パラジウム合金「金パラ12」(トクヤマデンタル社製10×10×3mm)をそれぞれ#1500の耐水研磨紙で磨いた後にサンドブラスト処理し、その処理面に接着面積を固定するために3mmφの穴を開けた接着テープを貼り付けた。この模擬窩洞内に、各実施例及び比較例の歯科用プライマーをそれぞれスポンジで適量塗布し、20秒間放置した後圧縮空気を約5秒間吹き付けた。その後、歯科用接着性レジンセメント「ビスタイトII」セメント(トクヤマデンタル社製)を模擬窩洞内に充填した後、その上から直径8mmφのステンレス製のアタッチメントを圧接して、接着試験片を作製した。その後、上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引っ張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて、上記卑金属合金および貴金属合金との接着強度をそれぞれ測定した。
3.セラミックスに対する接着試験方法
被着体である歯科用陶材「セラエステ」(トクヤマデンタル社製10×10×3mm)を#800の耐水研磨紙で磨いた後、その処理面に接着面積を固定するために3mmφの穴を開けた接着テープを貼り付けた。この模擬窩洞内に、各実施例及び比較例の歯科用プライマー組成物をそれぞれスポンジで適量塗布し、20秒間放置した後圧縮空気を約5秒間吹き付けた。その後、歯科用接着性レジンセメント「ビスタイトII」セメント(トクヤマデンタル社製)を模擬窩洞内に充填した後、その上から直径8mmφのステンレス製のアタッチメントを圧接して、接着試験片を作製した。その後、上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引っ張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて、上記歯科用陶材との接着強度を測定した。
4.歯科用レジン硬化体に対する接着試験方法
市販の歯科用レジンである「パールエステ」(トクヤマデンタル社製)を10×10×3mmのポリテトラフルオロエチレン製モールドに充填し、透明ポリプロピレンフィルムで圧接して酸素を遮断した状態で光重合、引き続き加熱重合(100℃で15分)することで「パールエステ」レジン硬化体を得た。このレジン硬化体(10×10×3mm)の表面を#800の耐水研磨紙で磨いて平滑にした後、その研磨面に接着面積を固定するために3mmφの穴を開けた接着テープを貼り付けた。この模擬窩洞内に、各実施例及び比較例の歯科用プライマー組成物をそれぞれスポンジで塗布し、20秒間放置した後圧縮空気を約5秒間吹き付けた。その後、歯科用接着性レジンセメント「ビスタイトII」セメント(トクヤマデンタル社製)を模擬窩洞内に充填した後、その上から直径8mmφのステンレス製のアタッチメントを圧接して、接着試験片を作製した。その後、上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引っ張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて、上記歯科用レジン硬化体との接着強度を測定した。
5.(II)液の50℃で3週間保存後の外観
各実施例および比較例で製造した(II)液のそれぞれを50℃にて3週間保存した。保存後に、目視にて不溶物の析出有無を観察した。
実施例1
0.5gのPM、1.0gのMAC−10、0.1gのMTU−6、0.5gのUDMA及び7.9gのアセトンを混合して均一溶液を得た((I)液)。また、0.4g(1.61mmol)のMPS、0.11g(0.81mmol)のDMPT及び9.49gのエタノールを混合して均一溶液を得た((II)液)。なお、上記溶液は容量20mlのガラスサンプル瓶中で調整した。
使用直前に上記(I)液および(II)液を等質量ずつ採取、混合して均一溶液とする態様で歯科用プライマーとして用いて、各被着体〔卑金属合金(「ワクローム」)、貴金属合金(「金パラ12」)、セラミックス(「セラエステ」)、および歯科用レジン硬化体(「パールエステ」)〕に対する接着強度を測定したところ、各被着体に対して、22.4MPa、21.9MPa、19.6MPa、および9.7MPaの接着強度を得た(初期接着強度)。
次いで、上記で調製した(I)液および(II)液を、50℃で3週間保存後、前記した各被着体に対する接着強度を同様に測定したところ、各被着体に対して、20.4MPa、21.3MPa、18.0MPa、および9.1MPaの接着強度を得た。また、(II)液の50℃で3週間保存後の外観を観察したところ、不溶物の析出はみられなかった。
上記製造された2液型プライマーは、いずれの被着体(卑金属合金、貴金属合金、セラミックス、および歯科用レジン硬化体)に対しても高い接着力を有しており、更に、その保存安定性に優れていることが判った。
実施例2〜14
実施例1において、(I)液および(II)液の組成を表1および表2に示した組成に変更する以外、実施例1と同様に実施した。結果を表3および表4に示した。
いずれの2液型プライマーも、各被着体に対して優れた接着性および優れた保存安定性を有していた。
比較例1〜7
実施例1において、(I)液および(II)液の組成を表1および表2に示した組成に変更する以外、実施例1と同様に実施した。結果を表3および表4に示した。
(II)液において、IIb)成分である芳香族第3級アミンを添加しない場合(比較例1)、および該芳香族第3級アミンの配合量が本発明で特定する範囲より少ない場合(比較例2)には、歯科用レジンに対する接着性が大きく低下した。また、セラミックスへの接着性も、有意な量低下した。一方、芳香族第3級アミンの配合量が本発明で特定する範囲より多い場合(比較例3)には、プライマーの保存によりセラミックスに対する接着性が大きく低下し、更に対応する(II)液において、シランカップリング剤がゲル化(縮合)して生成した不溶物の析出が観察され、その保存安定性が不良であった。
さらに、(II)液において、IIa)成分であるシランカップリング剤を配合しない場合(比較例4)、セラミックスに対する接着性が大きく低下するものであった。
さらに、(I)液において、Ia)成分である含硫黄重合性単量体を配合しない場合(比較例5)、貴金属合金に対する接着性が大きく低下するものであった。
さらに、(I)液において、Ib)成分である酸性基含有重合性単量体を配合しない場合(比較例6)、卑金属合金、セラミックスおよびレジン硬化体に対する接着性が大きく低下するものであった。
さらに、(II)液において、IIb)成分以外のアミンを用いた場合(比較例7)、レジンに対する接着性が大きく低下するばかりでなく、プライマーの保存によりセラミックスに対する接着性が大きく低下し、更に対応する(II)液において、シランカップリング剤がゲル化(縮合)して生成した不溶物の析出が観察され、その保存安定性も不良であった。
Figure 0005110982
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Claims (2)

  1. 包装形態が下記Ia)〜Ic)成分を含んだ混合液からなる(I)液
    Ia)分子内に少なくとも1つのラジカル重合性基と硫黄原子とを有する重合性単量体を、0.001〜20質量%、
    Ib)酸性基含有重合性単量体を、1〜30質量%、及び
    Ic)揮発性有機溶媒
    並びに、下記IIa)〜IIc)成分を含んだ混合液からなる(II)液
    IIa)シランカップリング剤を、0.05〜20質量%
    IIb)芳香族第3級アミンを、上記IIa)シランカップリング剤に対して0.5〜6倍モル量、及び
    IIc)揮発性有機溶媒
    とによりなり、使用時にはこれら両液を混合して使用する態様の歯科補綴物用2液型プライマー。
  2. さらに、酸性基を有しない多官能の重合性単量体を、上記(I)液または(II)液のいずれかに0.5〜20質量%の濃度で含んでなる請求項1記載の歯科補綴物用2液型プライマー。
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