一般に、上記のような伝動ベルトが2組のプーリに巻き掛けられると、伝動ベルトの状態は、エレメントがプーリに巻き掛かって円弧状に湾曲して配列されるベルト湾曲状態の部分と、エレメントがプーリに巻き掛からずに直線状に配列されるベルト直線状態の部分とに分けられる。
このうち、ベルト湾曲状態の部分では、エレメントは、上記の特許文献1に記載されているエレメントのボディ部のように、エレメントの下方側が薄肉に形成されていることによって、プーリに巻き掛かかる際に、各エレメントがプーリの中心に対して扇状に拡がり、隣接するエレメント同士が互いに密着した状態で、円弧状に湾曲して配列される。
一方、ベルト直線状態の部分は、伝動ベルトの走行中に、隣接するエレメント同士の相対位置が上下方向あるいは左右方向へずれると、伝動ベルトが大きく波打ったり、蛇行したりして、伝動ベルトの静粛性あるいは耐久性に悪影響を及ぼす場合がある。そのため、従来のエレメントでは、隣接するエレメント同士で互いに係合する嵌合用の凸部と嵌合用の凹部とを設けることにより、各エレメント同士の位置決めを行い、走行中の伝動ベルトの波打ちや蛇行を抑制するように構成されている。
しかしながら、上記の特許文献1に記載されているエレメントの凹凸部のように、下方に向かって薄肉になるように形成されたボディ部に、言い換えると、ボディ部の板厚が変化する境界部分である、いわゆるロッキングエッジよりも下方(エレメントが環状に配列された状態での中心側)のエレメントの肉厚が少なくなる部分に、嵌合用の凹凸部を形成すると、例えば図10ないし図13に示すように、ベルト直線状態において隣接するエレメントEL間の凹部CCと凸部CVとの嵌合部分における掛かり代OLlが、ロッキングエッジREよりも上方(エレメントELが環状に配列された状態での外周側)に嵌合用の凹部CCおよび凸部CVを形成した場合(図10,図11)の隣接するエレメントEL間の凹部CCと凸部CVとの嵌合部分における板厚方向の掛かり代OLuと比較して小さくなってしまう(図12,図13)。また、同様に、ロッキングエッジよりも下方(エレメント環状に配列された状態での中心側)に嵌合用の凹凸部を形成すると、ベルト直線状態において隣接するエレメントEL間の凹CCと凸部CVとの嵌合部における径方向のクリアランスCLl’が、ロッキングエッジREよりも上方(エレメントELが環状に配列された状態での外周側)に嵌合用の凹部CCおよび凸部CVを形成した場合(図10,図11)の隣接するエレメントEL間の凹部CCと凸部CVとの嵌合部分における径方向のクリアランスCLuと比較して大きくなってしまう(図12,図14)。
すなわち、上記のような従来のエレメントは、生産性や経済性の観点から、通常、主に鍛造加工(プレス)により、一括して大量に生産されるのが一般的であり、その場合に、上記の特許文献1に記載されているエレメントのように、ロッキングエッジよりも下方の肉厚の少ない部分に嵌合用の凹凸部を形成すると、凸部を形成するための素材の肉厚(ボリューム)が少ないため、凸部の高さを形成するため、すなわち鍛造加工(プレス)により素材を塑性変形させて凸部を突出成形するための十分なボリュームを確保することが難しく、その結果、ベルト直線状態においてエレメントの凹部と凸部との嵌合部分における板厚方向の掛かり代が少なくなってしまう問題があった。
また、上記に加えて、ベルト直線状態では、ロッキングエッジよりも上方の部分で、隣接するエレメント同士が互いに密着した状態で配列されるため、ロッキングエッジよりも下方の部分は、隣接するエレメント同士が密着せず、その結果、エレメントの凹部と凸部との嵌合部分における板厚方向の掛かり代が更に少なくなってしまうという問題があった。
そして、従来の鍛造加工による凹凸部形成は、板片状の金属素材を型鍛造することによりエレメント各部の形状が成形される。そのため、型鍛造により成形できる凸部の形状は、凹部の形状によって規制される。すなわち、鍛造加工の原理上、凸部の体積は必ず凹部の体積(容積)以下にしかならない。したがって、凸部を形成するためのボリューム、言い換えれば、凸部の高さや径を大きくするためには、凹部の容積、すなわち凹部を形成する際の鍛造加工による成形量を大きくする必要があるが、例えば、凹部の径だけを単純に拡大して凹部の容積を増大し、この容積増大分を凸部の高さの拡大に利用した場合は、エレメントの凹部と凸部との嵌合部分における板厚方向の掛かり代を大きくすることはできるが、エレメントの凹部と凸部との嵌合部分における径方向のクリアランスはかえって大きくなってしまう。あるいは、凹部の深さだけを単純に拡大して凹部の容積を増大し、この容積増大分を凸部の高さの拡大に利用した場合には、エレメントの凹部と凸部との嵌合部分における板厚方向の掛かり代を大きくすることはできるが、エレメントの凹部の周縁部でエレメントの肉厚が少なくなり、エレメントの強度が低下してしまう。
したがって、上記の特許文献1に記載されているエレメントのように、隣接するエレメントの相対位置を決めるための嵌合用の凹凸部を、ロッキングエッジよりも下方の肉厚の少ない部分に形成する場合は、凸部を成形するための十分なボリュームを確保することが困難になり、その結果、隣接するエレメント同士の位置決めを適切に行うことができなくなって、伝動ベルトの耐久性あるいは静粛性を低下させてしまう場合があった。
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、隣接するエレメント同士を適切に位置決めして配列することができる伝動ベルトを提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、板状に形成されて互いに対向して環状に配列される多数のエレメントに、無端環状のリングが巻掛けられて前記エレメントが環状に結束されるとともに、前記エレメントの配列方向での一方の側面に、前記エレメントが円弧状に湾曲した配列状態となった場合に隣接する他のエレメントに接触するロッキングエッジが形成され、また、前記一方の側面における前記ロッキングエッジに対して前記リングの内周方向へずれた所定位置に、隣接する他のエレメント側に突出する嵌合凸部が形成され、かつその嵌合凸部が形成されている面とは反対側の他方の側面に、隣接する他のエレメントの嵌合凸部と遊嵌する嵌合凹部が形成された伝動ベルトにおいて、前記嵌合凹部は、前記嵌合凸部が挿入される第1空間と、その第1空間の容積よりも容積が小さい空間であって他のいずれの凸部とも嵌合しない第2空間とを有していることを特徴とする伝動ベルトである。
また、請求項2の発明は、板状に形成されて互いに対向して環状に配列される多数のエレメントに、無端環状のリングが巻掛けられて前記エレメントが環状に結束されるとともに、前記エレメントの配列方向での一方の側面に、前記エレメントが円弧状に湾曲した配列状態となった場合に隣接する他のエレメントに接触するロッキングエッジが形成され、また、前記一方の側面における前記ロッキングエッジに対して前記リングの内周方向へずれた所定位置に、隣接する他のエレメント側に突出する嵌合凸部が形成され、かつその嵌合凸部が形成されている面とは反対側の他方の側面に、隣接する他のエレメントの嵌合凸部と遊嵌する嵌合凹部が形成された伝動ベルトにおいて、前記嵌合凹部は、前記嵌合凸部が挿入される第1空間と、その第1空間とは別の空間であって他のいずれの凸部とも嵌合しない第2空間を構成している内表面との間の最短距離が、前記一方の側面と前記第1空間を構成している内表面との間の最短距離よりも長くなっていることを特徴とする伝動ベルトである。
さらに、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記第1空間が、前記嵌合凸部との嵌合部分を構成する内周面と、外縁が前記内周面に連結されている底面とにより形成されていて、前記第2空間が、前記底面よりも前記一方の側面側で、かつ前記底面の外縁よりも内側に形成されていることを特徴とする伝動ベルトである。
また、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記エレメントが、無端環状のリングを嵌め込んで係合させる凹部が形成され、その凹部が外周側となるように環状に配列されているとともに、それら環状に配列されたエレメントの列における互いに隣接するエレメント同士が、それぞれの対向面の面内で相対回転可能に連結されていることを特徴とする伝動ベルトである。
また、請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記エレメントが、前記嵌合凸部および嵌合凹部が前記各側面のそれぞれ1箇所に設けられていることを特徴とする伝動ベルトである。
また、請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記エレメントが、前記嵌合凸部および嵌合凹部が前記エレメントの幅方向における中央部分に設けられていることを特徴とする伝動ベルトである。
また、請求項7の発明は、請求項4ないし6のいずれかの発明において、前記エレメントが、前記凹部における開口端側の左右の内側面に、前記リングを係合させてその離脱を防止する、前記凹部の中心側に向けた突起部がそれぞれ形成され、それら両突起部の先端面の間隔が前記リングの幅より狭くなるように形成されていることを特徴とする伝動ベルトである。
また、請求項8の発明は、請求項7の発明において、前記リングが、前記凹部の内部で前記伝動ベルトの外周側に積層するとともに、前記両突起部の間に配置された外層リングを有していることを特徴とする伝動ベルトである。
そして、請求項9の発明は、請求項4ないし8のいずれかの発明において、前記リングが、前記凹部の内部に2列に並列されていることを特徴とする伝動ベルトである。
したがって、請求項1の発明によれば、隣接するエレメントの嵌合凸部と係合する嵌合凹部が、第1空間と第2空間との2つの空間により構成される。すなわち、嵌合凹部には、嵌合凸部が挿入されて嵌合する第1空間に加えて、その第1空間よりも容積が少ない第2空間が形成される。そのため、例えば鍛造加工により嵌合凹部および嵌合凸部の形状を成形する場合に、嵌合凹部を形成するとともに嵌合凸部を形成するために流動する素材のボリュームを、第2空間の容積分だけ増加させることができる。すなわち、第2空間の容積分だけ嵌合凸部の容積を増加させることができる。その結果、嵌合凹部に対して嵌合凸部を深く挿入して嵌合凹部と嵌合凸部との板厚方向の掛かり代を増加させて両者の係合を確実にすること、あるいは嵌合凹部と嵌合凸部とのクリアランスを小さくして嵌合凹部と嵌合凸部との係合を確実にすることができ、伝動ベルトの耐久性および静粛性を向上させることができる。
また、請求項2の発明によれば、隣接するエレメントの嵌合凸部と係合する嵌合凹部が、第1空間と第2空間との2つの空間により構成される。すなわち、嵌合凹部には、嵌合凸部が挿入されて嵌合する第1空間に加えて、その第1空間とは別の第2空間が形成される。そのため、例えば鍛造加工により嵌合凹部および嵌合凸部の形状を成形する場合に、嵌合凹部を形成するとともに嵌合凸部を形成するために流動する素材のボリュームを、第2空間の容積分だけ増加させることができる。すなわち、第2空間の容積分だけ嵌合凸部の容積を増加させることができる。また、第2空間を形成する際には、ロッキングエッジが形成されているエレメントの一方の側面と第2空間を構成する内表面との間の最短距離が、前記側面と第1空間を構成する内表面との間の最短距離よりも短くならないように、第2空間が形成される。そのため、第2空間を形成することによるエレメントの厚さ方向における強度の低下を回避できる。その結果、エレメントの強度を低下させることなく、嵌合凹部に対して嵌合凸部を深く挿入して嵌合凹部と嵌合凸部との板厚方向の掛かり代を増加させて両者の係合を確実にすること、あるいは嵌合凹部と嵌合凸部とのクリアランスを小さくして嵌合凹部と嵌合凸部との係合を確実にすることができ、伝動ベルトの耐久性および静粛性を向上させることができる。
さらに、請求項3の発明によれば、第2空間が、第1空間の底面の内周部分をさらに窪ませることにより形成される。すなわち、嵌合凹部は、第1空間と、その第1空間の底面にさらに深く形成した第2空間とによる段付きの凹状の空間により構成される。そのため、例えば鍛造加工により嵌合凹部および嵌合凸部の形状を成形する場合に、第2空間を形成することによるエレメントの厚さ方向における強度の低下を回避しつつ、第2空間の容積分だけ嵌合凸部の容積を増加させることができる。
また、請求項4の発明によれば、嵌合凸部と嵌合凹部とが、隣接するエレメント同士で互いに所定のクリアランスをもって嵌合することにより、各エレメント同士が連結される。そのため、環状に配列される各エレメントが適正に位置決めされるとともに、それら嵌合凸部と嵌合凹部との嵌合部分が摺動して、隣接するエレメント同士を互いに相対回転させること、すなわち隣接するエレメント同士の間でエレメントをローリングさせることができる。
また、請求項5の発明によれば、嵌合凸部と嵌合凹部とが、エレメントの各側面のそれぞれ1箇所に設けられる。そのため、環状に配列される各エレメントが適正に位置決めされるとともに、1箇所の嵌合凸部と嵌合凹部との嵌合部分を中心として容易にエレメントをローリングさせることができる。
また、請求項6の発明によれば、エレメントの各側面に形成される嵌合凸部と嵌合凹部とが、各エレメントの幅方向における中央もしくはほぼ中央部の、エレメントの各側面のそれぞれ1箇所に設けられる。そのため、環状に配列される各エレメントが適正に位置決めされるとともに、エレメントの中央部分の1箇所の嵌合凸部と嵌合凹部との嵌合部分を中心として、エレメントを幅方向において左右のバランス良くローリングさせることができる。
また、請求項7の発明によれば、エレメントの凹部の開口端側の左右の内側面に形成された両突起部の、凹部の中心側を向いたそれぞれの先端面の間の距離、すなわち凹部の開口幅が、リングの幅よりも狭くなるように形成されている。そのため、凹部にリングを嵌め込んで確実に係合させることができ、各エレメントとリングとが離脱してしまうことを防止することができる。
また、請求項8の発明によれば、エレメントの凹部に嵌め込まれて係合されるリングに対して、その外周側でエレメントの凹部の両突起部間に配置される外層リングが設けられている。そのため、両突起部間の空間を有効に利用して、エレメントの凹部にリングを嵌め込んで係合させることができる。その結果、リングの断面積を増大することができ、伝動ベルトの強度を向上することができる。
そして、請求項9の発明によれば、エレメントの凹部に嵌め込まれて係合されるリングが、並列に配置された2列のリングにより構成される。そのため、例えばエレメントをローリングさせることにより、リングにねじりを加え、2列のリングを互いに重なり合わせて、2列のリングが並列された部分に対してリングの幅が狭くなった部分を設定することができる。その結果、エレメントとリングとを容易に組み付けることができる。
(第1の構成例)
つぎに、この発明を図面を参照して具体的に説明する。先ず、この発明の第1の構成例における伝動ベルトを構成するエレメントおよびリングの構成を、図1、図2に基づいて説明する。図1において、伝動ベルトVは、ベルト式無段変速機の駆動側(入力軸)プーリと従動側(出力軸)プーリとに巻き掛けられて、それらのプーリの間で動力を伝達するベルトの例を示している。また、エレメント1は、例えば金属製の板片状の部材からなり、その幅方向(図1のx軸方向)における左右の両側面2,3が、テーパ状の傾斜した面として形成された基体(本体)部4を有し、そのテーパ状に傾斜した左右側面2,3が、ベルト式無段変速機の駆動側プーリあるいは従動側プーリであるプーリ5のベルト巻き掛け溝(V形溝)5aに摩擦接触してトルクを伝達するようになっている。
基体部4の幅方向(図1のx軸方向)における左右の両端部分に、エレメント1の上下方向(図1,図2のy軸方向)での上方に延びた柱部6がそれぞれ形成されている。したがって、基体部4の図1,図2での上側のエッジ部分である上端面4aと、左右の両柱部6の基体部4の幅方向における中央を向いた両内側面6aとによって、エレメント1の上側(図1での上側)すなわち伝動ベルトVの外周側に開口した凹部7が形成されている。
凹部7は、互いに密着して環状に配列されたエレメント1を環状に結束するための無端環状のリング8を、挿入して収容するための部分であり、したがって上端面4aが、リング8の内周面を接触させて載せるサドル面4aとなっている。
リング8は、例えば金属製の環状の帯状体を、周方向に複数枚積層させて形成した、いわゆる積層リングであって、凹部7の内部で2列に並列される2本のリング8aとリング8bとによって構成されている。これらリング8a,8bは、例えば形状・寸法、材質、強度が等しい2本の金属製の積層リングにより形成されている。
左右の両柱部6の上端部分には、両先端面9aがそれぞれ基体部4の幅方向における中央に向かって延びた突起部9が、両柱部6と一体にそれぞれ形成されている。言い換えると、凹部7の開口端(凹部7における伝動ベルトの外周側の端部)側の内側面6aに、凹部7の幅方向(図1のx軸方向)における中心側に向けた突起部9が、それぞれ形成されている。したがって、凹部7の開口幅が、凹部7の開口端側では、対向する両先端面9aの間の距離W1によって規定されている。そして、凹部7の底部7a(すなわちサドル面(上端面)4a)側では、両先端面9a間の距離(開口幅)W1よりも広い開口幅W2となっている。
このエレメント1は、環状に配列された状態でリング8によって結束され、その状態で駆動側および従動側のそれぞれのプーリ5に巻き掛けられる。したがってプーリ5に巻き掛けられた状態では、各エレメント1が、プーリ5の中心に対して扇状に拡がり、かつ互いに密着する必要があるため、各エレメント1の図1,図2での下側の部分(環状に配列した状態での中心側の部分)が薄肉に形成されている。
すなわち、基体部4の一方の面(例えば図2における左側の面)における前記サドル面4aより所定寸法下がった(オフセットされた)部分から下側の部分が削り落とされた状態で次第に薄肉化されている。したがって、各エレメント1が扇形に拡がって接触する状態、言い換えると、各エレメント1がプーリ5に巻き掛かり円弧状に湾曲して配列されてベルトが湾曲するベルト湾曲状態のときに、その板厚の変化する境界部分で接触する。この境界部分のエッジが、いわゆるロッキングエッジ10となっている。言い換えると、各エレメント1が円弧状に湾曲した配列状態となった場合に、隣接する他のエレメント1に接触する部分が、いわゆるロッキングエッジ10となっている。
エレメント1の基体部4の幅方向における中央部分には、エレメント1がプーリ5に巻き掛からず直線状に配列されるベルト直線状態においてエレメント1の相対的な位置を決めるための嵌合凸部(ディンプル)11と嵌合凹部(ホール)12とが形成されている。具体的には、ロッキングエッジ10よりも下側(図1,図2での下側)、すなわち、各エレメント1がリング8により環状に結束された際にロッキングエッジ10に対してリング8の内周方向へ所定寸法下がった部分に、基体部4の一方の側面側(図2の例では、ロッキングエッジ10のある面側)に凸となる円錐台形のディンプル11が形成されている。そして、このディンプル11とは反対側の面に、隣接するエレメント1におけるディンプル11を緩く嵌合(遊嵌)させる有底円筒状のホール12が形成されている。
ここで、ホール12は、ディンプル11が挿入され嵌合される際にディンプル11を収容する空間部分である第1空間13と、その第1空間13の底面13aの内周部で、基体部4のロッキングエッジが形成されている側面側にさらに凹となる空間部分である第2空間14とにより構成されいる。
具体的には、第1空間13は、ディンプル11との嵌合部分を含む円筒状の内周面13bと、外縁が内周面13bの基体部4の内部側(図2での左側)の端部に連結されている底面13aとにより構成されている。また、第2空間14は、底面13aの内周部、この構成例では底面13aの中心部付近において、基体部4の内部にさらに凹となるように、また第1空間13の容積よりも容積が小さくなるように窪ませた空間部分により形成されている。
第2空間14は、図3に示すように、基体部4のロッキングエッジが形成されている側面と第2空間14を構成している内表面との間の最短距離D2が、基体部4のロッキングエッジが形成されている側面と第1空間13を構成している内表面との間の最短距離D1、すなわち基体部4のロッキングエッジが形成されている側面と底面13aおよび内周面13bの連結部との距離D1よりも短くなることがないように形成されている。したがって、第2空間14を形成することによる基体部4の強度の低下が回避される。すなわち、第2空間14は、基体部4の強度を低下することなく形成されている。
前述したように、エレメント1は、一度に大量に生産する必要があるため、通常、鍛造加工により成形される。すなわち、板片状の金属素材を型鍛造することにより、エレメント1の各部の形状が成形される。そのため、型鍛造により成形できるディンプル11の形状は、ホール12の形状によって規制される。すなわち、ディンプル11の凸部の容積(言い換えるとディンプル11の形状を成形するための素材量)は、ホール12の凹部の容積(言い換えるとホール12の凹部に相当する素材量)以下になる。
したがって、ベルト直線状態におけるディンプル11とホール12との嵌合部分の径方向のクリアランスを小さくするため、あるいはディンプル11とホール12との嵌合部分の板厚方向の掛かり代を大きくするために、ディンプル11の容積を増大させる場合、ホール12の容積を大きくしなければならない。ホール12の容積を大きくするために第1空間13の容積を大きくすると、結局、ディンプル11とホール12との嵌合部のクリアランスを小さくすることはできない。そこで、この発明におけるホール12は、上記のように、第2空間14が設けられていることで、第1空間13の容積を増大することなく、第2空間14の容積分だけディンプル11の容積を増大させることができる。そのため、ディンプル11の容積を増大させた分だけ、ディンプル11とホール12との嵌合部分の径方向のクリアランスを小さくすること、あるいはディンプル11とホール12との嵌合部分の板厚方向の掛かり代を大きくすることができ、隣接するエレメント1同士を適切に位置決めして配列させることができる。その結果、例えばベルト式無段変速機が運転される場合に、伝動ベルトVのがたつき、波打ち、蛇行などを防止して伝動ベルトVを安定して走行させることができ、伝動ベルトの耐久性および静粛性を向上させることができる。
また、エレメント1には、上記のように、伝動ベルトVとしての外周側に凹部7が形成されるとともに、その凹部7の開口端側の内側面に、凹部7の中心側に向けた突起部9がそれぞれ形成されている。さらに、環状に配列される際に隣接する他のエレメント1側に突出するディンプル11が、エレメント1の厚さ方向における一方の側面に形成され、そのディンプル11に遊嵌するホール12が、他方の側面に形成されている。そして、これらディンプル11およびホール12は、基体部4のエレメント1の幅方向における中央部分に、それぞれ1箇所ずつ設けられている。
このように、基体部4の幅方向における中央部分であって、エレメント1の両側面のそれぞれ1箇所に、ディンプル11およびそのディンプル11に遊嵌するホール12が形成され、それらディンプル11とホール12とによる嵌合部が1箇所だけ設けられていることにより、図4に示すように、各エレメント1が環状に配列されて連結された際に互いに隣接するエレメント1同士を、それぞれの対向面の面内で相対回転させること、すなわち、互いに隣接するエレメント1同士の間でローリングさせることができる。
一方、リング8は、上記のように、2本のリング8aとリング8bとによって構成されている。そのため、例えば図5に示すように、リング8aとリング8bとを、部分的に互いに重なり合わせた状態にすることで、リング8として、リング8aとリング8bとが互いに重なり合った重ね合わせ状態(図5のA部に示す状態)と、リング8aとリング8bとが互いに並列した並列状態(図5のB部に示す状態)とを同時に設定することができる。
また、リング8は、エレメント1が組み付けられていない状態、あるいは比較的少数のエレメント1だけしか組み付けられていない状態では、リング8aとリング8bとの動作の自由度があり、比較的容易に重ね合わせ状態を設定することができる。これに対して、比較的多数のエレメント1が組み付けられた状態(例えば、リング8の全周のおよそ半分以上の範囲でエレメント1が組み付けられた状態)では、各エレメント1の列によりリング8aとリング8bとの動作が規制され、重ね合わせ状態を設定することが困難になることが考えられる。そこで、この発明の伝動ベルトVにおけるエレメント1は、上記のように、環状に配列されて連結された際に互いに隣接するエレメント1同士の間でローリングさせることができるように構成されている。そのため、リング8に比較的多数のエレメント1が組み付けられた状態であっても、エレメント1をローリングさせることによって、リング8にねじりを作用させ、容易に重ね合わせ状態を設定することができる。
そして、並列状態の部分におけるリング8の幅(すなわち、リング8aの幅とリング8bの幅とのほぼ合計)L1が、前述の開口幅W1よりも広くなるとともに、かつ開口幅W2よりも狭くなるように、各リング8a,8bの形状・寸法等が設定されている。そして、リング8を重ね合わせ状態にすることで、リング8の幅を狭くして、その重ね合わせ状態の部分におけるリング8の幅L2を、開口幅W1よりも狭くすることができるように、各リング8a,8bの形状・寸法等が設定されている。
すなわち、凹部7の開口幅W1が、リング8の幅L1よりも狭く、かつ開口幅W2が、リング8の幅L1よりも広くなるように、エレメント1およびリング8が構成されている。言い換えると、重ね合わせ状態の部分におけるリング8の幅L2が、凹部7の開口幅W1よりも狭くなるとともに、並列状態の部分におけるリング8の幅L1が、凹部7の開口幅W1よりも広くなりかつ凹部7の開口幅W2よりも狭くなるように、エレメント1およびリング8が構成されている。
したがって、リング8を重ね合わせ状態にすることにより、その重ね合わせ状態の部分を、両先端面9aの間を通過させて凹部7に嵌め込むことができる。そして、リング8の重ね合わせ状態の部分を、両先端面9aの間を通過させて凹部7に嵌め込んだ後に、エレメント1をリング8の並列状態の部分まで移動させること、もしくは凹部7が嵌め込まれた部分を並列状態に戻すことによって、凹部7内でリング8を両突起部9で係止し、凹部7からのリング8の離脱を防止すること、すなわちリング8を凹部7に嵌め込んで係合させることができる。その結果、エレメント1とリング8とを容易に、かつ確実に組み付けることができる。
図6,図7は、上述した第1の構成例における変形例を示す図である。図6に示すエレメント1は、基体部4の幅方向(図6のx軸方向)における中央部に、図6での上方に延びた首部15と、その首部15の上端に基体部4の幅方向での左右両側に傘状に延びた頂部16とが一体に形成されている従来と同様の外形のエレメントである。したがって基体部4の図6での上側の端面が、リング8の内周面を接触させて載せるサドル面4aである。そして、サドル面4aより所定寸法下がった部分から下側の部分が削り落とされた状態で次第に薄肉化されていて、その板厚の変化する境界部分のエッジがロッキングエッジ10である。
そして、ロッキングエッジ10よりも下側(図6,図7での下側)に、上記の第1の構成例と同様のディンプル11とホール12とが形成されている。すなわち、この図6,図7に示す構成例におけるホール12も、上記の第1の構成例と同様の第1空間13と第2空間14とから構成されている。
したがって、この場合においても、上記の第1の構成例と同様に、エレメント1を鍛造加工によって成形する場合に、第1空間13の容積を増大することなく、第2空間14の容積分だけディンプル11の容積を増大させることができる。そのため、ディンプル11の容積を増大させた分、ディンプル11とホール12との嵌合部分の径方向のクリアランスを小さくすること、あるいはディンプル11とホール12との嵌合部分の板厚方向の掛かり代を大きくすることができ、隣接するエレメント1同士を適切に位置決めして配列させることができる。その結果、例えばベルト式無段変速機が運転される場合に、伝動ベルトVのがたつき、波打ち、蛇行などを防止して伝動ベルトVを安定して走行させることができ、伝動ベルトの耐久性および静粛性を向上させることができる。
(第2の構成例)
この発明の第2の構成例における伝動ベルトを構成するエレメントおよびリングの構成を、図8,図9に基づいて説明する。前述の第1の構成例では、リング8が、いずれも、リングの幅が厚さ方向で一様な2本のリング8a,8bにより構成された例であるのに対して、この第2の構成例は、いずれもリングの幅が厚さ方向で一様な2本のリングと、それら2本のリングの外周側にそれぞれ設けられ、それら2本のリングの幅よりも幅狭の他の2本のリングとにより、リング8が構成された例を示している。したがって、図1,図2に示した第1の構成例と同じ構成の部分については、図1,図2と同様の参照符号を付けて、その詳細な説明を省略する。
図8において、リング21は、2本のリング8a,8bによって構成された第1の構成例におけるリング8に対して、2本のリング21a,21bと、それらリング21a,21bの外周面側(図8での上側)にそれぞれ積層され、かつリング21a,21bの幅よりも幅狭の他の2本の外層リング21c,21dとによって構成されている。
すなわち、第1の構成例におけるリング8a,8bと同様に、リングの幅が厚さ方向で一様に形成されたリング21aおよびリング21bが、2列に並列されていて、それらリング21a,21bの外周面側に、外層リング21cおよび外層リング21dが、それぞれ積層されるとともに、両突起部9の間にすなわち開口幅W1の範囲内に、それぞれ配置されている。
具体的には、並列状態の部分におけるリング21の幅、すなわちリング21aとリング21bとが並列している部分の幅L3が、前述の開口幅W1よりも広くなるとともに、かつ開口幅W2よりも狭くなるように、各リング21a,21bの形状・寸法等が設定されている。また、それらリング21a,21bの外周面にそれぞれ積層され、外層リング21cと外層リング21dとが並列している部分の幅L4が、開口幅W1よりも狭くなるように、各外層リング21c,21dの形状・寸法等が設定されている。そして、リング21を重ね合わせ状態にすることで、リング21の幅を狭くして、その重ね合わせ状態の部分におけるリング21の幅を、開口幅W1よりも狭くすることができるように、リング21の最大幅を規定している各リング21a,21bの形状・寸法等が設定されている。
したがって、リング21を重ね合わせ状態にすることにより、その重ね合わせ状態の部分を、両先端面9aの間を通過させて凹部7に嵌め込むことができる。そして、リング21の重ね合わせ状態の部分を、両先端面9aの間を通過させて凹部7に嵌め込んだ後に、エレメント1をリング21の並列状態の部分まで移動させること、もしくは凹部7が嵌め込まれた部分を並列状態に戻すことによって、凹部7内でリング21を両突起部9で係止し、凹部7からのリング21の離脱を防止すること、すなわちリング21を凹部7に嵌め込んで係合させることができる。その結果、エレメント1とリング21とを容易に、かつ確実に組み付けることができる。
また、エレメント1とリング21を組み付けた際にエレメント1の両突起部9の間に配置される外層リング21cおよび外層リング21dが、リング21aおよびリング21bの外周側にそれぞれ積層されることにより、上記のようなエレメント1とリング21との構成による良好な組み付け性を維持しつつ、リング21の断面積を増大させて、リング21の強度を向上させることができる。
例えば、前述の第1の構成例のように構成された既製の伝動ベルトVに対して、リング8の外周側に、上記のような外層リング21cおよび外層リング21dを追加して積層させることによって、両突起部9の間のスペースを有効に利用し、またエレメント1の形状・寸法を変更することなく、伝動ベルトVの強度、すなわち伝動ベルトVのトルク容量を容易に向上させることができる。
図9は、上述した第2の構成例における変形例を示す図である。図9において、リング22は、リング21と同様に、2本のリング22a,22bと、それらリング22a,22bの外周面側(図9での上側)にそれぞれ積層され、かつリング22a,22bの幅よりも幅狭の他の2本の外層リング22c,22dとによって構成されている。
すなわち、リングの幅が厚さ方向で一様に形成されたリング22aおよびリング22bが、2列に並列されていて、それらリング22a,22bの外周面側に、外層リング22cおよび外層リング22dが、それぞれ積層されるとともに、両突起部9の間に、すなわち開口幅W1の範囲内に、それぞれ配置されることによって、リング22が構成されている。
そして、この構成例におけるリング22は、リング22a,22bの厚さT1に対して、外層リング22c,22dの厚さT2が厚くなるように、言い換えると、リング22a,22bの厚さT1が、リング22としての強度上および機能上必要な厚さの範囲で、可及的に薄くなるように形成されている。また、それに伴って、この構成例におけるエレメント1は、エレメント1とリング22とを組み付けた際、すなわち各リング22a,22bが両突起部9の内周側(図9での下側)で凹部7に係合された際に、エレメント1の両柱部6における各リング22a,22bを収容する部分(柱部6の首部)6bの長さが、各リング22a,22bを収容するために機能上必要な長さの範囲で、可及的に短くなるように形成されている。
このように、リング22a,22bの厚さT1が可及的に薄くなるようにリング22を形成し、そのリング22a,22bの厚さT1に対応して、両首部6bが可及的に短くなるようにエレメント1を形成することにより、エレメント1の重量および慣性モーメントを低減することができる。その結果、これらエレメント1とリング22とにより構成される伝動ベルトVが走行する際に、リング22がエレメント1から受ける慣性モーメントが低減され、リング22の耐久性、すなわち伝動ベルトVの耐久性を向上させることができる。
なお、この発明は上述した具体例に限定されない。すなわち。具体例では、この発明の伝動ベルトがベルト式無段変速機に使用されている例を示しているが、この発明の伝動ベルトは、ベルト式無段変速機に限らず、ベルトとプーリとによって構成される他の巻き掛け伝動装置の伝動ベルトにも適用することができる。
1…エレメント、 2,3…左右側面、 4…基体部(本体部)、 5…プーリ、 6…柱部、 6b…首部、 7…凹部、 8,8a,8b,21,21a,21b,22,22a,22b…リング、 9…突起部、 9a…先端面、 10…ロッキングエッジ、 11…ディンプル(嵌合凸部)、 12…ホール(嵌合凹部)、13…第1空間、 13a…底面、 13b…内周面、 14…第2空間、 21c,21d,22c,22d…外層リング、 V…伝動ベルト。