JP4633245B2 - 表面検査装置及び表面検査方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、表面検査装置及び表面検査方法に関するものであり、特に、フィルム表面、硝子面、塗装面等の光沢面に発生する欠陥を検査するための表面検査装置及び表面検査方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
かかる表面検査技術は、フィルム、板状製品、生産財のボディなど平面や曲面上に存在する微小な凹凸状の表面欠陥を検査するために用いられている。このような技術の具体例として、例えば、特開平5−18728号公報に開示される技術がある。これは、被検体(ベルト状物体)の表面に格子パターンを投影する照明手段と、投影されたパターンを撮像する撮像手段とを備えており、撮像手段によって得られた原画像を処理して歪みのあるパターンを検出することにより被検体の表面欠陥を検出するものである。
【0003】
しかしながら、この公知技術における格子状パターンの歪みを検出する方法においては、表面の微小な凹凸を感度良く検出できる可能性はあるものの、被検体自体が不定であり、かつ、許容されうる凹凸分布を有する場合に、かかる凹凸分布と表面欠陥との識別が困難になってしまう。かかる被検体として、例えば反りが発生しやすいフィルムがあるが、この場合、広範囲に分布する表面の凹凸は正常であるとし、局所的に発生する凹凸のみを欠陥として検出しなければならない。また、別の例として、生産財のボディ(自動車、各種製品の筐体、ディスプレイ装置の前面板など各種)においては、表面が平面であることは少なく、三次元曲面などの曲面により形成されている場合が多い。したがって、被検体から表面欠陥を検出しようとする場合に、かかる曲面(凹凸)を欠陥として誤検出するのではなく、局所的に発生する凹凸のみを表面欠陥として検出することが望まれる。
【0004】
かかる点に鑑みて、本願出願人は、被検体に許容されうる曲面(凹凸分布)を表面欠陥として誤検出することなく、表面欠陥を簡便にかつ確実に検出することのできる新規な表面検査装置及び表面検査方法を出願した(特願平11−192267号)。
【0005】
上記先願に開示される表面検査装置は、所定の明暗パターン(微細チェッカーパターン)を被検体に対して照明する照明手段と、前記明暗パターンが照明された前記被検体を撮像する撮像手段と、前記撮像手段により撮像された原画像を解析する画像解析手段とを備え、前記画像解析手段は、前記明暗パターンのゆがみと明部と暗部の明るさの変化の度合いを解析することにより、前記被検体の表面欠陥を検出するように構成されていることを特徴とするものである。
【0006】
この先願技術に係る表面検査装置の作用は次の通りである。
(イ) 照明手段により、所定の明暗パターンを被検体に対して照明する。
(ロ) 撮像手段により、所定の明暗パターンが照明(投影)された被検体を撮像する。
【0007】
(ハ) 撮像手段により取り込まれた原画像を画像解析手段により解析し、原画像のゆがみと明部と暗部の明るさの度合いを解析する。
(ニ) 解析結果に基づいて被検体の表面欠陥を検出する。
【0008】
次に原理を図2により説明する。所定の明暗パターンを撮像すると、暗部の明るさのレベル(輝度値あるいは測光値)と明部の明るさレベルには所定のレベル差があり、表面欠陥がない場合には、図2(a)に示すように暗部と明部との境界において急激なレベル変化が見られる。一方、表面欠陥が存在すると、暗部と明部の境界において、図2(b)に示すようにレベル変化の度合いが緩やかになる。したがって、この明部から暗部又は、暗部から明部への明るさの変化の度合いを解析することにより、表面欠陥を検出することができる。
【0009】
また、被検体に許容されうる曲面(凹凸分布)が存在する場合、撮像される所定の明暗パターンの形状は、曲面の形状に応じて歪んだ状態で撮像されるが、明部から暗部又は暗部から明部への明るさの度合いとして検出される可能性は極めて少なく、あるいは全くなくなり、表面欠陥として誤検出されることはなく確実性が高まる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記先願に係る表面検査装置においては、所定の明暗パターンを被検体に対して照明するものであるが、被検体の表面欠陥の大きさ(平面寸法)と明暗パターンのパターンの繰り返しピッチとの関係について、表面欠陥を検出するのに適した繰り返しピッチが存在するものと考えられる。つまり、上記先願技術は、明部から暗部又は暗部から明部への明るさの変化の度合いにより表面欠陥を検出しようとするものであるから、明暗パターンの繰り返しピッチが表面欠陥の平面寸法に対して大きすぎると、表面欠陥を検出できなくなる可能性が高い。
【0011】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、被検体を照明する明暗パターンの繰り返しピッチを適切な寸法に設定し、被検体に許容されうる曲面(凹凸分布)を表面欠陥として誤検出することなく、表面欠陥を簡便かつ確実に検出することのできる表面検査装置及び表面検査方法を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明に係る表面検査装置は、所定の明暗パターンを被検体に対して照明する照明手段と、前記明暗パターンが照明された前記被検体を撮像する撮像手段と、前記撮像手段により撮像された原画像の前記明暗パターンの明部と暗部の明るさの変化の度合いを解析することにより、前記被検体の表面欠陥を検出する画像解析手段とを備えた表面検査装置であって、前記明暗パターンの繰り返しピッチが、想定される前記表面欠陥の平面寸法よりも小さい寸法に設定されていることを特徴とするものである。
【0013】
この構成による表面検査装置の作用・効果は以下の通りである。
表面欠陥を検出するまでの手順は、すでに説明した(イ)(ロ)(ハ)(ニ)と同じであり、表面欠陥を検出する原理についてもすでに説明した通りである。そして、所定の明暗パターンを被検体に対して照明するにあたり、この明暗パターンの繰り返しピッチが、想定される表面欠陥の平面寸法よりも小さな寸法に設定されていることが特徴である。これにより、表面欠陥が明暗パターンの暗部と明部の境界に存在する確率がかなり高くなるので、表面欠陥が存在した場合に確実に検出することができるようになる。また、後述するようにシミュレーション結果からも、繰り返しピッチを上記のように設定することにより、表面欠陥を確実に検出できることを実証することができた。以上のように、被検体を照明する明暗パターンの繰り返しピッチを適切な寸法に設定し、被検体に許容されうる曲面(凹凸分布)を表面欠陥として誤検出することなく、表面欠陥を簡便かつ確実に検出することのできる表面検査装置を提供することができる。
【0014】
本発明の好適な実施形態として、前記繰り返しピッチが、前記撮像手段の撮像素子ピッチよりも大きく、かつ、前記表面欠陥の平面寸法の1/2以下に設定されているものがあげられる。
【0015】
まず、撮像手段として例えばCCDラインセンサーを用いた場合に、CCD素子(撮像素子)の配列ピッチよりも繰り返しピッチを大きくしなければ、撮像手段が有する解像度の点から表面欠陥を検出できなくなる。また、繰り返しピッチは表面欠陥の平面寸法の1/2以下とするのが好ましい。かかる寸法設定により確実に表面欠陥を検出できることをシミュレーション結果及び実験結果により実証することができた。
【0016】
本発明に係る前記画像解析手段は、前記原画像の前記明暗パターンのぼけの度合いを検出可能に構成され、これにより前記表面欠陥の高さ寸法を推定可能に構成されている。
【0017】
被検体の表面欠陥の存在だけでなく、検出された表面欠陥の高さにより評価を行いたいということがある。被検体を撮像手段により撮像する場合に、撮像手段の焦点を照明手段の明暗パターンに合わせることが好ましい。その場合、凹凸のある表面欠陥が被検体の表面に存在すると、凹凸の部分は焦点が合っていないから、ぼけた画像になる。このぼけの程度は、凹凸の程度(高さ寸法)により異なってくる。そこで、明暗パターンのぼけの度合いを検出することにより、表面欠陥の高さ寸法を推定することができる。
【0018】
本発明の更に別の好適な実施形態として、前記ぼけの度合いは、前記明暗パターンの断面波形の明部の最大値と明部の包絡線により囲まれる面積と、前記断面波形の暗部の最小値と暗部の包絡線により囲まれる面積との和により定義されるものがあげられる。
【0019】
表面欠陥の高さ寸法が異なると、撮影される画像のぼけの度合いが変わってくるが、このぼけの度合いの違いは、明暗パターンの明部の包絡線と暗部の包絡線の違いとして表現することができることが、後述するシミュレーション結果から分かった。そこで、明部の最大値と明部の包絡線により囲まれる面積と、暗部の最小値と暗部の包絡線により囲まれる面積との和を求めることによりぼけの度合いを定義することができる。
【0020】
上記課題を解決するため本発明に係る表面検査方法は、所定の明暗パターンを被検体に対して照明するステップと、前記明暗パターンが照明された前記被検体を撮像するステップと、前記撮像手段により撮像された原画像の前記明暗パターンの明部と暗部の明るさの変化の度合いを解析することにより、前記被検体の表面欠陥を検出する画像解析ステップとを備えた表面検査方法であって、前記明暗パターンの繰り返しピッチが、想定される前記表面欠陥の平面寸法よりも小さい寸法に設定されていることを特徴とするものである。
【0021】
この構成による作用・効果はすでに述べた通りであり、これにより、被検体を照明する明暗パターンの繰り返しピッチを適切な寸法に設定し、被検体に許容されうる曲面(凹凸分布)を表面欠陥として誤検出することなく、表面欠陥を簡便かつ確実に検出することのできる表面検査方法を提供することができる。
【0022】
本発明に係る画像解析ステップは、前記原画像の前記明暗パターンのぼけの度合いを検出し、これにより前記表面欠陥の高さ寸法を推定するものである。
【0023】
この構成についてもすでに述べた通りである。すなわち、凹凸のある表面欠陥が被検体の表面に存在すると、凹凸の部分は焦点が合っていないから、ぼけた画像になる。このぼけの程度は、凹凸の程度により異なってくる。そこで、明暗パターンのぼけの度合いを検出することにより、表面欠陥の高さ寸法を推定することができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明の好適な実施形態を図面を用いて説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に係る表面検査装置の構成を示す模式図である。図1(a)において、この表面検査装置は、被検体1に対して微細チェッカーパターン(所定の明暗パターンの1例である。)の照明を行う照明装置2(照明手段に相当する。)と、微細チェッカーパターンが照明された被検体1を撮像するCCDエリアセンサー3(撮像手段に相当する。)と、エリアセンサー3により取り込まれた画像を解析する画像解析装置4(画像解析手段に相当する。)と、画像を映し出すためのTVモニター5とを備えている。
【0026】
照明装置2の微細チェッカーパターンの詳細は図1(b)に示される。このチェッカーパターンは明部2aと暗部2bとが交互に繰り返して配置されており、
X方向の寸法比(デューティー比)は、xB:xW=1:1、
Y方向の寸法比は、yB:yW=1:1である。
【0027】
さらに、xB=yB,xW=yWである。つまり、明部2aも暗部2bも同じ大きさの正方形である。
本発明の原理はすでに図2を用いて説明したが、表面欠陥が存在すると明部2aと暗部2bの境界において、明るさのレベルが緩やかになることを検出するものであるから、明部2aと暗部2bとができるだけ数多く存在する方が好ましい。そのためには、暗部2aと明部2bとの寸法比を1:1に設定するのが合理的である。また、エリアセンサー3のCCDの素子配列ピッチとの関係から、明部2aと暗部2bとの繰り返しピッチを細かくしすぎると分解能が低下する。よって、明部2aと暗部2bの繰り返しピッチは、少なくとも素子配列ピッチよりも大きくする必要がある。また、表面欠陥の大きさとパターンの繰り返しピッチとの関係については後述する。
【0028】
また、エリアセンサー3の焦点(ピント)は、被検体1ではなく、照明装置2の微細チェッカーパターンに合焦するように調整されている。これにより微細チェッカーパターンの画像を明瞭な状態で取り込むことができる。すなわち、本発明では正常部分での明暗変化が大きいことが望ましいが、そのためには照明装置2の明暗パターンに焦点を合わせるのが自然である。被検体1に焦点を合わせると照明装置2の明暗パターンがぼけた像として観測されるため充分な検出精度を得ることができない。照明装置2の明暗パターンとエリアセンサー3は被検体1を介して等価的に向かいあった位置関係であり、画面全体に焦点を合わせることができ、明暗変化の急峻性を損なうことなく画像を取得することができる。
【0029】
<画像解析の手順>
次に、画像解析(画像処理)の手順について説明する。図3は、画像解析装置4の機能を説明するブロック図である。画像解析は、公知の画像処理プログラムを実行することにより行われる。
まず、図1(a)に示されるように、被検体1、照明装置2、エリアセンサー3をセッティングする。ここで、表面検査をすべき被検体1として選択されるものは、例えば、フィルム状の製品があげられるがこれに限定されるものではなく、ガラス等の透明板状体、金属シート材、表面塗装、生産財(自動車のボディ、各種製品の筐体、ディスプレイ装置の前面板等各種)、感光体等の、検査面が平滑なものが被検体1の例としてあげられる。
【0030】
次に、エリアセンサー3により被検体1の画像を取り込む。取り込まれた画像は、画像解析装置4のA/D変換部40においてデジタルデータ化されて、フレームメモリ41に記憶される。ここで、画像データは8ビットの濃淡データとして表わされ、0(最も暗い)から255(最も明るい)までの256段階の濃度データ(輝度データ)として得ることができる。このデジタルデータ化された画像データをTVモニター5に表示させたのが図4に示される。これを説明の便宜上原画像と称する(Step0)。図4において、微細チェッカーパターンが緩やかに曲がっているのが見られるが、これは被検体1自身が3次元曲面を有するからであり、これは表面欠陥に該当しない。
【0031】
また、図4において微細チェッカーパターンの暗部2bに相当する部分は黒く、微細チェッカーパターンの明部2aに相当する部分は白くなっているが、これは図示の便宜上のためであり、被検体1の種類のよっては、明部2aに相当する部分がグレーに写し出されることもある。図4の中央部分には、中間調のグレーの部分が見られるが、この部分が表面欠陥であるものと推定される。
【0032】
次に、図4の原画像に対してSobel変換(ソーベル変換)と呼ばれる、二次元勾配ベクトルを求める処理を行う。これは図3の微分処理部44にて行われる。
【0033】
図5は、Sobel変換を行なった後の画像(Step1:第1変換画像)を示すものである。この画像は、原画像における各画素の勾配値を表わすものであり、原画像と同じく8ビットの濃淡画像データとして示される。つまり明るい部分ほど勾配が大きいことを示している。また、Sobel変換の演算において255を超える値が演算された場合には、その値は255にする。
【0034】
次に、図3の第1欠陥候補抽出部42における処理内容を説明する。この第1欠陥候補抽出部42においては、図2(b)に示すように、第1しきい値と第2しきい値とを設定しており、第1しきい値よりも暗い部分と第2しきい値よりも明るい部分を除去する、即ち、該当する画素を0レベルに変換するものである。これは、表面欠陥が存在すると、暗部2bと明部2aの境界が緩やかになり中間調のグレーになるため、この中間調の画素を1レベルに変換して抽出しようとするものである。なお、これら第1、第2しきい値の値は被検体1の種類に応じて設定変更可能にするのが好ましい。画像変換をするには、予め画像変換用のテーブル(LUT)を用意しておくことにより効率よく処理することができる。
【0035】
次に、第2欠陥抽出部43(図3参照)において、前述した第1変換画像のうち、勾配の大きい部分を除去、すなわち、0レベルに変換する。この勾配が大きいと言うことは、明部2aから暗部2bへの変化、あるいは、暗部2bから明部2aへの変化が急激であることを意味するものであり、即ち、表面欠陥が存在しないことを意味するものである。つまり、図2(b)にも示されるように、表面欠陥が存在すると勾配の値が小さくなるので、勾配の大きな部分を除去することで、表面欠陥の部分を抽出することができる。この第2欠陥抽出部43における処理も、予め画像変換用のテーブル(LUT)を用意しておくのが好ましい。
【0036】
図4に示される原画像に対して、第1欠陥候補抽出部42と第2欠陥抽出部43において処理を施した後の画像(Step2:第2変換画像)を図6に示す。この画像は、0レベルか1レベルかの2値画像である。画像のほぼ中央部にまとまった1レベルの領域がみられるが、この領域が表面欠陥が存在する領域と推定される。また、この第2変換画像においては、表面欠陥が存在する領域以外にも、微小な1レベルの領域が点在している。これは、照明装置2のシェーディングの影響が除去しきれていなかったり、あるいは、正常部のチェッカーパターンの輪郭部に生じる中間調領域が本実験で抽出した輝度勾配の高い領域より1〜2画素程度大きいことにより、正常領域を誤って欠陥候補領域として検出したなどの理由によるものであり、これらの微小領域はノイズ成分であって表面欠陥ではない。これら微小領域は適切なシェーディング補正と輪郭領域の除去が行われれば発生しないと考えられる。適切なシェーディング補正と輪郭領域の除去が行われず、これら微小領域が欠陥候補領域として抽出された場合には、これら微小領域を処理するため収縮処理部45(微小領域処理部)にて周知の4近傍収縮処理を2回行い、微小な孤立点を除去することで誤検知を回避することができる。なお、収縮処理としては、8近傍収縮処理でも良い。収縮処理後の画像(Step3:第3変換画像)を図7に示す。図7も、2値画像であるが、中央部分にまとまった領域の1レベルの画素が見られる。
【0037】
欠陥判定部46では、第3変換画像に1レベルの画素が存在するか否かで、表面欠陥の有無を判定し、本実施形態では、1レベルの画素が1つでもあれば表面欠陥が存在するものと判定する。表面欠陥が存在する場合は、その旨をTVモニター5の画面に表示したり、別に設けられたランプに表示したり、適宜の手法で警告する。なお、欠陥判定部46における判定手法は上記に限定されず、1レベルの画素数が所定数以上のときに表面欠陥が存在するものと判定しても良い。
【0038】
図7に示される第3変換画像において、被検体1に表面欠陥が存在しない場合は、すべて0レベルの画像(真っ黒な画像)に変換されることになる。
【0039】
<明暗パターンの繰り返しピッチ寸法について>
次に、照明装置2に用いられる明暗パターンの繰り返しピッチの最適寸法について説明する。 そのため、照明光の正反射解析(光線追跡)によるシミュレーションを行った。
【0040】
図8に示すように、ここで検出対象としている表面欠陥は、厚さ200μm程度のフィルムFの表面に生じた微小凹凸欠陥であり、表面欠陥の大きさ(平面寸法)に比べて高さ寸法が非常に小さい断面構造を有している。 このシミュレーションを行うにあたり想定した実験装置は図9に示される表面検査装置である。撮像手段としてラインセンサー3(撮像手段に相当する。 )を用い、照明装置2の明暗パターンとして微細ストライプパターン2s(所定の明暗パターンの1例である。)を用いたものである。 ラインセンサー3によりフィルムFの画像全体を取り込む場合には、フィルムFを搭載しているステージ6をラインセンサー3の素子列とは直交する方向(副走査方向)に沿って駆動すればよい。
図10(a)は、ストライプパターンの照明装置2を用いて表面欠陥のあるフィルムを撮影した原画像を示す。 表面欠陥は、画像の中央部にストライプパターンのぼけとして観測されている。表面欠陥の周辺には、一部ストライプパターンが歪んだ状態で観測されている部分が見受けられるが、これは被検体であるフィルムがもっているわずかな反りの影響によるものである。 この原画像の輝度プロファイルを図11に示す。
【0041】
表面欠陥のない正常な部分では、暗部から明部、又は、明部から暗部への明るさの変化は急峻であるが(図10(b)(イ)(ロ)参照)、表面欠陥の存在する部分では、明るさの変化の度合いが緩やかになる(図10(b)(ハ)参照)。つまり、中間の輝度を有する画素が多く生じる。また、フィルムの反りによる明暗パターンの歪みは、原画像においては、明暗の周期の不均一として現われるが、輝度変化については影響がない(図10(b)(ロ)参照)。
【0042】
シミュレーション解析を行うにあたり用いた座標系を図11に示す。
まず、座標原点(O)付近にCCDラインセンサー3のCCD素子10を光軸(z軸)に垂直に配置した。CCD素子10の配列方向はr軸とした。被検体1であるフィルムFは、z=L1 を切片とする傾き45゜の面上に配置に配置し、パターン照明はr=L2 の面上に配置している。 パターン照明から出射した光は、フィルムFの被検査面で正反射し、CCD素子10の前方に配置されたレンズ12を介してCCD素子面に結像している。このレンズ12は、開口11の有効開口がdで、主点位置がH,H’で示されている。
【0043】
CCD素子面から像空間主点H’までの距離をs2 、物空間主点Hから被検査面を介してパターン照明面までの距離をs1 、レンズ12の焦点距離をfとすると、幾何光学の公式から、
【数1】
CCD素子10上の点P(0,rin)からレンズ12の有効開口内へ向かって、角度θinの方向へ出射する光線をベクトルP=(rin,θin)で表し、この光線がレンズ12を通過した後の光線をベクトルQ=(rout ,θout )で表すと、ベクトルQは次式(2)で与えられる。
【0044】
【数2】
ここで、s’は物空間主点Hから出射光線の観測位置までの距離である。
【0045】
次に、光線ベクトルQが被検査面に到達する点Rを求める。また、被検査面上の欠陥モデルとしては次式(3)に示すようなガウス型関数を使用した。
【0046】
【数3】
ここで、被検体であるフィルムFはz’面にCCD素子から距離L1 を隔てて配置されることから、ガウス型関数の記述には(z’−r’)座標系を使用した。(z’−r’)座標系とは、(z−r)座標系を45゜回転し、z軸方向に距離L1 だけ平行移動したものである。式(3)において、表面欠陥の高さ方向の変位(寸法)は、その方向(凸か凹か)も含めて振幅Aにより記述し、表面欠陥の幅方向の大きさはσにより記述している。
【0047】
σは、ガウス型関数の値が1/e2 となる半幅を表し、以後、シミュレーションにおける欠陥幅は2σで表されるものとする。図12(a)は、凹部のみで形成される表面欠陥のモデルを示し、(b)は、凹凸を有する表面欠陥のモデルを示している。 (a)は、σ=0.25mm、A=−5μm
(b)は、σ=0.25mm、A=5μm(p−p)である。フィルムFの被検査面と光線ベクトルQとの交点の計算方法には、線形計算の最も基本的な解法である二分法を用いた。
次に、点Rにおける正反射光の出射方向ベクトルRを、被検査面への入射ベクトルQと、点Rにおける被検査面の法線ベクトルnとを用いて、入射角と反射角が等しいと言う正反射の基本原理から次式(4)により計算する。 なおこの式で、R,Q,nはいずれも単位ベクトルである。
【数4】
最後に、反射光線Rがパターン照明面に到達する点Sを同様に数値計算により求めることにより、点Sでの照明強度からCCD素子面へ結像される画像の照明強度が得られる。
【0048】
以上の計算をレンズ12の有効開口範囲内の全方向について行い、到達点の照明強度を積算し、さらにCCD素子面上の各点rinについて同様の積算照明強度を計算することにより、CCDラインセンサー3により撮影される画像の輝度プロファイルを求めることができる。
【0049】
なお、シミュレーション解析を行うにあたって、各パラメータの数値は次のようなものを使用した。
(1)CCD(撮像手段)として、5000画素のラインセンサーを用いた。 素子寸法は、7μmとした。
(2)レンズは、焦点距離f=55mm,主点間距離=1mm、絞りF=4とした。
【0050】
(3)パターン照明として、ストライプの幅を0.25mm及び1.0mm
明暗の線幅比を1:1とした。
(4)表面欠陥モデルとして、表面欠陥幅=0.5mm(σ=0.25mm)、振幅A=0〜10μmのガウス型関数とした。
【0051】
また、レンズ倍率(s2 /s1 )は、パターン照明の1本のストライプを何画素で撮影するか(以後これをパターン分解能と呼び、画素数で表すことにする。)によって定まる。例えば、ストライプ幅1mmの明暗パターンを、パターン分解能10画素で撮影する場合、レンズ倍率は1/14.3、撮影距離は、s2 =58.9mm、s1 =840.7mmとなる。
【0052】
シミュレーション解析結果の一例を図13に示す。 この例では、欠陥幅0.5mm、欠陥高さ(深さ)5.0μmの凹欠陥モデルに対して、異なる照明条件下で解析を行った。図13(a)は、ストライプ幅を1mm(黒い部分の幅=白い部分の幅=1mm)としたときのプロファイル形状である。図13において、横軸は画素数を示し、縦軸は輝度を示す。図13(a)の横軸の200画素目あたりに表面欠陥が存在しているが、パターンぼけの程度が小さいため、この場合は、表面欠陥の検出は困難であると考えられる。
一方、図13(b)は、ストライプ幅(黒い部分の幅=白い部分の幅)を0.25mm(欠陥幅の1/2)とした場合のプロファイル形状である。(a)とは異なるように、パターンのぼけが顕著に現われていることが分かる。このように、検出したい表面欠陥の最小欠陥幅に基づいてパターン照明の繰り返しピッチを決定すれば良いと理解できる。 具体的には、繰り返しピッチを表面欠陥の最小欠陥幅(平面寸法)よりも小さな寸法に設定するのが良い。 上記実験結果から、繰り返しピッチは想定される最小欠陥幅の1/2以下に設定するのが好ましいと考えられる。
上記解析結果を実証するために、上記シミュレーションと同様の照明条件で表面欠陥の観測テストを行った。表面欠陥は、高さの変位が10μm以下で直径約0.5mmの凹欠陥を用意した。パターン照明には、1mm幅と0.25mm幅のストライプパターン照明を用意した。
【0053】
実験結果を図14に示す。 (a)はストライプ幅1mm、パターン分解能10画素の場合に観測された画像と、欠陥付近の輝度プロファイルである。これからも分かるように、表面欠陥によるパターンのぼけはほんとど現われていない。
一方、図14(b)は、ストライプ幅0.25mm、パターン分解能2.5画素の場合に観測された画像を示す。この場合は、表面欠陥の存在する部分にパターンのぼけが生じている。これら図14に示される実験結果は、シミュレーション結果と非常によく一致している。これにより、表面欠陥の寸法により最適照明条件を決定することの妥当性を確認することができた。
<欠陥高さの評価に関するシミュレーション>
次に、欠陥の高さと輝度プロファイルとの関係についてのシミュレーション解析を行った。条件設定は以下の通りである。
(1)照明パターンは、ストライプパターンであり、ストライプ幅は0.25mmで線分解能は2.5ピクセル(画素)である。
(2)表面欠陥の形状は、凹欠陥であり、欠陥半幅は2000μmである。
(3)カメラ(撮像手段)の設定は、視野500mm、横倍率が14.3、分解能が100(μm/ピクセル)である。
【0054】
(4)撮影距離は、s1 =58.9mm、s2 =840.7mm
L0 =900.6mm、L1 =800.6mm、L2 =100mmである。
【0055】
シミュレーション結果を図15,16,17に示す。これらの図において、横軸は画素数を、縦軸は輝度を表している。図15(a)〜(e)に欠陥高さが0,1,2,3,4μmの場合の結果を、図16(a)〜(e)に欠陥高さが5,6,7,8,9μmの場合の結果を、図17(a)〜(e)に欠陥高さが10,20,30,40,50μmの場合の結果をそれぞれ示す。 各シミュレーション結果からも分かるように、欠陥高さが大きくなるとぼけの度合いも大きくなり、欠陥高さとぼけの程度に相関関係があることが理解できる。
つぎに、ぼけの度合いの定義について図18により説明する。図18において、輝度プロファイル(断面波形:P(x))を示す。このプロファイルP(x)の明部の最大値はAmaxで示される。暗部の最小値はBminで示される。 AmaxとBminは、直線で示される。 また、プロファイルP(x)の明部の包絡線はA(x)で示され、暗部の包絡線はB(x)で示される。 このような包絡線A(x),B(x)は、最大値フィルターや最小値フィルターといった周知の画像処理技術(画像解析装置の機能)により求めることができる。
【0056】
求められる包絡線A(x),B(x)は、数学的には厳密な包絡線ではないかもしれないが、実質的に包絡線と評価できるものが得られれば良い。次に、明部の最大値Amaxと明部の包絡線A(x)により囲まれる面積SAと、暗部の最小値Bminと暗部の包絡線B(x)により囲まれる面積SBとの和を求める。
囲まれた面積部分は斜線で示される。 面積SA,SBは、その範囲内に存在する画素数をカウントすることにより得られる。
図19は、図15〜図17に示されるシミュレーション結果について、欠陥高さと面積(画素数)との関係をプロットしたものである。 各プロットからGで示される相関関数が得られる。 この関数Gから、ぼけの度合いに対する欠陥高さを求めることができる。
【0057】
上記面積SA,SBを演算する機能(面積演算手段)、演算された面積から欠陥高さを求める(評価する)機能(欠陥高さ演算手段)は画像解析装置4が備えているものである。 また、図19に示される相関関数Qについても画像解析装置4が自動的に算出するように構成されている。
なお、面積を演算する機能を画像解析装置4が備えており、欠陥高さを求めて評価を行うのはオペレータが行うような構成にしても良い。
<別実施形態>
明暗パターンについてチェッカーパターンとストライプパターンについて例示したが、これらに限定されるものではなく、例えば三角形状の繰り返しパターンを用いても良い。 図3〜図7で説明した表面欠陥検出手順は、チェッカーパターンのみに応用できるのではなく、ストライプパターンやその他の繰り返しパターンの場合にも応用できるものである。また、表面欠陥寸法と繰り返しピッチとの寸法関係、及び、表面欠陥の高さ寸法の評価については、実施形態ではストライプパターンの場合について説明したが、チェッカーパターンやその他の繰り返しパターンの場合にも応用できるものである。
本発明における撮像手段については、特定の種類・構造のものに限定されるものではない。例えば、被検体が製品サイズにカットされた枚葉品の場合には、エリアセンサーを用い、被検体として製品サイズにカットされる前のウェブ(巻物)状態で検査する方が好ましい場合には、ラインセンサーを用いる方法がある。ウェブの場合は、ウェブを一定速度で移動させることで、ラインセンサーにより、二次元画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】表面検査装置の構成を示す模式図
【図2】本発明の原理を説明する図
【図3】 画像解析装置の構成を示すブロック図
【図4】 表面欠陥が存在する原画像を示す図
【図5】 Sobel変換後の第1変換画像を示す図
【図6】欠陥候補抽出を行った後の第2変換画像を示す図
【図7】収縮処理を行った後の第3変換画像を示す図
【図8】微小凹凸欠陥の断面構造をモデルを示す図
【図9】シミュレーション解析を行うための表面検査装置の構成を示す模式図
【図10】 ストライプパターン照明下における表面欠陥観測例
【図11】 正反射解析による欠陥検出シミュレーション解析に用いた座標系を示す図
【図12】 ガウス関数による欠陥モデルを示す図
【図13】ストライプパターンを変えた場合のシミュレーション解析結果を示す図
【図14】シミュレーション解析結果を確認するための実験結果を示す図
【図15】欠陥高さを変えた場合のシミュレーション解析結果を示す図(1)
【図16】欠陥高さを変えた場合のシミュレーション解析結果を示す図(2)
【図17】欠陥高さを変えた場合のシミュレーション解析結果を示す図(3)
【図18】ぼけの度合いの定義を説明する図
【図19】欠陥高さとぼけの度合いとの間の相関関係を示す図
【符号の説明】
1 被検体
2 照明装置
3 エリアセンサー、ラインセンサー
4 画像解析装置
Claims (2)
- 所定の明暗パターンを被検体に対して照明する照明手段と、
前記明暗パターンが照明された前記被検体を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段により撮像された原画像の前記明暗パターンの明部と暗部の明るさの変化の度合いを解析することにより、前記被検体の表面欠陥を検出する画像解析手段とを備えた表面検査装置であって、
前記明暗パターンの繰り返しピッチが、想定される前記表面欠陥の平面寸法よりも小さい寸法に設定されており、
前記画像解析手段は、前記原画像の前記明暗パターンのぼけの度合いを検出可能に構成され、これにより前記表面欠陥の高さ寸法を推定可能に構成し、
前記ぼけの度合いは、前記明暗パターンの断面波形の明部の最大値と明部の包絡線により囲まれる面積と、前記断面波形の暗部の最小値と暗部の包絡線により囲まれる面積との和により定義されることを特徴とする表面検査装置。 - 所定の明暗パターンを被検体に対して照明するステップと、
前記明暗パターンが照明された前記被検体を撮像するステップと、
前記撮像手段により撮像された原画像の前記明暗パターンの明部と暗部の明るさの変化の度合いを解析することにより、前記被検体の表面欠陥を検出する画像解析ステップとを備えた表面検査方法であって、
前記明暗パターンの繰り返しピッチが、想定される前記表面欠陥の平面寸法よりも小さい寸法に設定されており、
前記画像解析ステップは、前記原画像の前記明暗パターンのぼけの度合いを検出し、これにより前記表面欠陥の高さ寸法を推定するものであり、前記ぼけの度合いは、前記明暗パターンの断面波形の明部の最大値と明部の包絡線により囲まれる面積と、前記断面波形の暗部の最小値と暗部の包絡線により囲まれる面積との和により定義されることを特徴とする表面検査方法。
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