JP4620907B2 - 遅延波キャンセラ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、他の装置からの信号を無線により受信する受信部と、この受信部により受信された信号を更に他の装置に対して無線により送信する送信部とを備えた無線中継装置に関する。本発明は、特に、中継すべき信号に対して遅延して到来する遅延波、例えば同一の無線中継装置の送信部から受信部へと回り込む回り込み波が、その無線中継装置による受信信号、特に中継すべき成分である主波に対して及ぼしている影響を、除去又は少なくとも抑圧する遅延波キャンセラに関する。なお、以下の説明では、「放送波」「チャネル」等、放送分野で多用される用語を使用しているが、これは地上波テレビジョン放送を例として説明を行っているために過ぎない。本発明は、地上波テレビジョン放送以外の無線分野における中継にも適用できる。
【0002】
【従来の技術】
無線中継装置は、他の装置から無線送信された信号を受信し、受信した信号を他の装置へと無線送信する装置である。例えば、地上波アナログテレビジョン放送向けの無線中継局では、親局から無線送信された放送波を受信し、受信した信号を所定の電力まで増幅し、電力増幅された信号を他の無線中継局或いは視聴者装置へと無線送信する。また、地上波アナログテレビジョン放送向けの無線中継局では、中継された放送波を受信する側の装置における障害、例えば視聴者装置におけるゴーストの発生を防ぐため、通常は、受信チャネルと異なるチャネルで放送波を送信する。例えば、親局から第N1チャネルで放送波を受信した場合は、受信信号を一旦第N1チャネルから中間周波数に周波数変換し、中間周波数の信号を第N2チャネルに周波数変換し、第N2チャネルにて放送波を送信する(但しN1≠N2)。従って、地上波アナログテレビジョン放送では、あるコンテンツの放送波を全国に放送する際、複数のチャネルが必要である。
【0003】
これに対して、日本における地上波ディジタルテレビジョン放送では、OFDM(直交周波数分割多重:Orthogonal Frequency Division Multilplex)方式に従い多重化されたキャリアを用いて放送を行う予定である。OFDM波による放送は干渉・妨害に強く、相関性の高い妨害波の影響もある程度までは受信信号処理により除去できる。即ち、視聴者装置におけるゴースト等の障害を引き起こしにくいため、地上波ディジタルテレビジョン放送向けの無線中継局では、受信チャネルとして使用されているチャネルを送信チャネルとしても使用することが、検討されている。これを実現することができれば、あるコンテンツの放送波を全国に放送するに当たって、チャネルを1個使用するのみでよくなる。即ち、いわゆる単一周波数ネットワーク(SFN:Single Frequency Network)を実現でき、周波数資源の有効利用に寄与できる。そのような無線中継局を実現する上で大きな課題となっているのは、回り込み波等の遅延波が受信信号に及ぼしている影響をどのようにして除去・抑圧するか、という点である。
【0004】
まず、無線中継局による受信信号には、主波成分だけでなく、マルチパス、回り込み等の現象によって生じる遅延波成分も含まれる。ここでいう主波成分は、親局から無線中継局に至る一般に複数通りの無線伝搬路のうち最短又は最良のものをたどって親局から到来した放送波、即ち主波又は親局波に係る成分であり、一般に遅延波成分よりも振幅レベルが高い(低いこともある)。また、ここでいう遅延波成分は、主波と本質的に同内容の信号ではあるが主波に対して遅延して無線中継局に到来する放送波に係る成分である。遅延波成分の代表的発生原因としては、親局から無線中継局に至る一般に複数通りの無線伝搬路のうち主波がたどった無線伝搬路とは別の伝搬路を経て無線中継局に放送波が到来する現象、即ち親局・無線中継局間のマルチパスと、無線中継局から送信した放送波が同じ無線中継局により受信される現象、即ち無線中継局の送信部から受信部への回り込みとがある。顕著な回り込みが生じると、無線中継局の送信部→無線伝搬路→受信部→送信部というループの利得が0dBを上回り(ループが発振し)、無線中継局が放送波を正常に中継できなくなる。例えば、無線中継局内の安全機構が動作し送信が停止してしまう。そこで、無線中継局による中継動作を正常に継続させられるようにすること、ひいては放送波の中継を間断なく続けられるようにすることを目的として、回り込みに対する慎重な対策が要請されている。
【0005】
回り込み等の遅延波への対策としては、受信信号中の遅延波成分を除去又は抑圧する装置を設ける、という策がある。図1に示すように、無線中継局の基本的な構成要素は、親局波を受信する受信部10と、受信した親局波を無線送信する送信部20であり、受信信号中の遅延波成分を除去又は抑圧する装置としては回り込みキャンセラ30が設けられている。受信部10は、アンテナ11を用いて親局波を受信し、受信信号を無線周波数(RF)から中間周波数(IF)に変換する。送信部20は、受信部10から得られるIFの受信信号即ち図中のIF信号をIFからRFに変換しアンテナ21から無線送信する。また、図示しないが、低雑音増幅器、自動利得制御増幅器、電力増幅器等の増幅器や、帯域制限のためのフィルタや、周波数変換のための局部発振器、ミキサ等が、受信部10及び送信部20の内部に設けられ又はそれらに付設されているものとする。
【0006】
また、回り込みキャンセラ30は、受信部10と送信部20とを接続するIF信号線上にある分岐点33からIF信号の一部を分岐して入力し、入力した信号即ちキャンセラ入力信号を利用してキャンセル信号を発生させ、このキャンセル信号をIF信号線上にある結合点34にてIF信号に結合させる。分岐点33及び結合点34は信号線分岐、カプラ等により実現できる。この図の例では分岐点33及び結合点34をIF信号線上においているが、原理的には、これらの点はアンテナ11から受信部10及び送信部20を経てアンテナ21に至るいずれの箇所にもおくことができる。また、結合点34が分岐点33よりもアンテナ11寄りにあるが、アンテナ21寄りでもよい。これらを含め、回路接続関係上の変形については、特開2001−28562号公報を参照されたい。また、後述する本発明の実施形態に関してその種の変形を施すことも可能である。
【0007】
図1に示した回り込みキャンセラ30は、その特性を自動調整可能なフィルタ31及びこのフィルタ31の特性を制御・更新する制御部32を有している。制御部32による特性制御・更新を実現するには、そのタップ係数の設定により特性を設定・更新できるディジタルフィルタを、フィルタ31として用いるのが望ましい。
【0008】
例えば、図2に示すように遅延素子31a、乗算素子31b及び加算素子31cにより構成されるタップを複数段縦続接続した構成を有するトランスバーサルフィルタを、フィルタ31として用いる。各段の遅延素子31aは、前段の遅延素子31aからの出力信号(又はフィルタ31への入力信号)を所定時間遅延させる。更に、各段の乗算素子31bは、その段の遅延素子31aからの出力信号(又はフィルタ31への入力信号)に複素数のタップ係数を乗じ、その段の加算素子31cに供給する。各段の加算素子31cは、前段の加算素子31c(又は乗算素子31b)からの出力信号と前段の加算素子31cからの出力信号とを加算し、その結果得られた信号を次段の加算素子31cに供給し(最後段以外の段の場合)又は結合点34へと出力する(最後段の場合)。
【0009】
制御部32はフィルタ31の特性を制御・更新する部材である。フィルタ31としてディジタルフィルタを用いる場合は、制御部32が、そのディジタルフィルタのタップ係数を設定・更新する係数制御を実行する。この制御の目的は、受信信号に現れる遅延波特に回り込み波の影響を除去又は少なくとも抑圧できるよう、フィルタ31によりキャンセル信号を発生させることにある。回り込みという現象は、送信部20の出力の一部がアンテナ21及び無線伝搬路を介して受信部10のアンテナ11に達する現象であるから、分岐点33から回り込みに係る無線伝搬路を経て結合点34に至る経路の伝達関数、即ち回り込み伝達関数がおおよそでもわかれば、それに基づきフィルタ31の特性を調整し受信信号における回り込み波成分を除去・抑圧可能なキャンセル信号を発生させることができる。例えば特開2001−28562号公報に記載のキャンセラにおいては、図3に概念的に示す手法に従い回り込み伝達関数を推定し、その結果に基づき遅延時間、位相、振幅の各特性を調整することによって、回り込み波成分又はその主たるものを除去・抑圧可能なキャンセル信号を、発生させている。また、マルチパス波成分も同様にして除去・抑圧できる。
【0010】
特開2001−28562号公報に示した推定手法は、受信信号を周波数解析することにより当該受信信号の周波数特性を求め、その周波数特性を時間特性と見立てて再度周波数解析することにより遅延波伝達関数を求める、という2段の周波数解析を伴う手法である。周波数解析は、高速フーリエ変換(FFT)等の離散フーリエ変換により行うことができる。図3は、振幅特性に着目してまた回り込みに関して、この推定手法を概念的に示したものである。即ち、回り込み波による受信信号劣化が生じている状況を例として、図3(A)に「時間軸上でのOFDM波」として示されている時間領域の受信信号をFFTすることにより図3(B)に「周波数軸上でのOFDM波」として示す振幅周波数特性が得られること、この振幅周波数特性を時間特性と見立てて再度FFTすることにより図3(C)に示す回り込み伝達関数が得られること、を示したものである。
【0011】
この推定手法は、遅延波が発生していないときには受信信号の振幅周波数特性が平坦になること、遅延波が発生すると遅延波が発生していないときには平坦になるはずの振幅周波数特性にリプル波形が現れること(破線内)、そのリプル波形は遅延波の主波に対する遅延時間、振幅比及び位相差に応じた波形であること等を利用した手法であり、本質的に、放送波が準拠しているモード、変調方式、階層構造等の放送フォーマットに依存しないで実行できる手法である。放送フォーマットの変更にもシームレスに追従できる。受信信号にシンボル同期/キャリア同期する必要もなく、回路構成も簡単である。そのため放送波に対して非同期の推定方式であるといえること、またFFTにより周波数解析を行えることから、この推定手法を非同期FFT推定方式と呼ぶ。非同期FFT推定方式によれば、放送波により搬送されるシンボルの周期よりも短い時間で遅延波を検出できるため、非同期FFT推定方式により推定された遅延波伝達関数に基づきフィルタ31の特性を制御することにより、遅延波の発生や変動に敏速に追従して、遅延波成分を除去・抑圧できる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
このように、非同期FFT推定方式により遅延波伝達関数を推定しその結果に基づきフィルタ特性を制御することによって、遅延波成分の除去・抑圧を、簡素な構成の回路により高速かつ安定な動作で実現できる。本発明の目的は、受信信号の周波数解析により遅延波伝達関数を推定する手法(例えば非同期FFT推定方式)に基づく遅延波キャンセラを改良すること、特に遅延波に対する追従性の向上、除去・抑圧対象の拡大と経済性の両立、量子化雑音による送信信号品質の劣化の防止等を、ディジタルフィルタを利用したフィルタ特性の適応制御によって達成することを、その目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る遅延波キャンセラは、(1)無線中継装置内の所定の分岐点にて当該無線中継装置による受信信号を分岐する手段と、この分岐により得られたキャンセラ入力信号を濾波するフィルタと、このフィルタから得られる信号を上記無線中継装置内の所定の結合点にて上記受信信号に結合させる手段と、受信信号に現れている回り込み波等の遅延波の影響が除去又は抑圧されるよう上記キャンセラ入力信号に基づき上記遅延波の伝達関数に対して上記フィルタの特性を適応させる適応制御手段と、を備える遅延波キャンセラにおいて、(2)上記適応制御手段が、主波に対する遅延時間が小さい遅延波の伝達関数に対しては比較的高速で、また遅延時間が大きい遅延波の伝達関数に対しては比較的低速で、上記フィルタの特性が適応するよう、中継すべき信号である主波に対する遅延時間に応じ更新時点を分けて上記フィルタの特性を更新することを特徴とする。このように、フィルタの特性を遅延時間に応じて区分して更新すること、例えばフィルタの低次の特性については高速で更新することによって、主波成分に対する遅延時間が短く一般に振幅レベルが高い遅延波成分、即ち遅延プロファイル上で最も主波成分と紛らわしく信号品質に影響しやすい遅延波成分に対して、フィルタ特性を迅速に追従させることが可能になる。
【0014】
本発明に係る遅延波キャンセラは、或いは、(1)無線中継装置内の所定の分岐点にて当該無線中継装置による受信信号を分岐する手段と、この分岐により得られたキャンセラ入力信号を濾波し出力するディジタルフィルタと、ディジタルフィルタ出力を上記無線中継装置内の所定の結合点にて上記受信信号に結合させる手段と、受信信号に現れている回り込み波等の遅延波の影響が除去又は抑圧されるよう上記キャンセラ入力信号に基づき上記遅延波の伝達関数に対して上記ディジタルフィルタの特性を適応させる適応制御手段と、を備える遅延波キャンセラにおいて、(2)上記ディジタルフィルタが、その遅延時間を個別かつ可変設定可能な可変遅延素子を各段の遅延素子として用いた可変遅延型のディジタルフィルタであることを特徴とする。例えば、遅延プロファイル上、遅延時間が0〜T1の範囲及びT2〜T3の範囲には遅延波成分が現れるが遅延時間がT1〜T2の範囲ではさしたる遅延波成分が現れない、という環境におかれている場合、本発明のように可変遅延型のディジタルフィルタを用い適宜各遅延素子による遅延時間を設定することにより、0〜T1の範囲及びT2〜T3の範囲に属する遅延時間を有する遅延波成分についてはディジタルフィルタの特性を追従させるがT1〜T2の範囲に属する遅延時間を有する遅延波に対しては特に反応しないようにすることができる。このように、その段数(タップ数)が少なく従って安価に実現可能なディジタルフィルタを用いて即ち経済的に、遅延プロファイル上の広範囲・最適範囲に亘り遅延波成分を除去・抑圧できる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態に関し図面に基づき説明する。なお、本発明は図1に示した無線中継局にて使用される非同期FFT推定方式による回り込みキャンセラとして実施可能であるため、以下の説明では、図1に示した無線中継局、図2に示したトランスバーサルフィルタ及び図3に示した原理による回り込み伝達関数推定を前提とし、それらに対して本発明の好適な実施形態が有している相違点に絞って説明を行う。また、それらの図にて使用されていた参照符号も引き続き使用するが、これは対応関係を示すためであり、必ずしもその構成が同一であることを示すものではない。
【0017】
図4に、本発明の一実施形態における遅延時間別推定処理のための部材及び当該遅延時間別推定処理の内容を示す。先に述べたように、分岐点33では、受信信号を分岐し、キャンセラ入力信号として回り込みキャンセラ30に入力する。図4中、「受信信号よりカップリング」と記されているのはこのキャンセラ入力信号である。図示されている部材のうちA/D変換器35は、このキャンセラ入力信号を所定速度でサンプリングし、ディジタルデータに変換する。メモリ36は、このディジタルデータを記憶する。制御部32は、メモリ36により記憶されているデータに基づき、非同期FFT推定方式による回り込み伝達関数の推定及びその結果に基づくフィルタ31のタップ係数の割当・更新を実行する。なお、図中の「DSP」即ちディジタル信号プロセッサは、非同期FFT推定方式におけるFFT等の周波数解析を実行する手段の一例である。
【0018】
本実施形態におけるメモリ36は、サンプリングポイント8N個分のデータを格納可能な容量を有している。Nは2の冪であり、フィルタ31のP段分のタップ係数を決定するのに必要な最小限のサンプリングポイント数であるとする。メモリ36は、図中数字1〜8で示すように8個の領域に区分して使用される。本実施形態では、メモリ36内にサンプリングポイントN個分のデータがたまるたびにそれをFFT(ひいては回り込み伝達関数を推定)し、初段からP段までの分のタップ係数をNポイントFFTに基づき更新する。また、メモリ36内にサンプリングポイント2N個分のデータがたまるたびにそれをFFT(ひいては回り込み伝達関数を推定)し、初段から2P段までの分のタップ係数を2NポイントFFTに基づき更新する。メモリ36内にサンプリングポイント4N個分のデータがたまるたびにそれをFFT(ひいては回り込み伝達関数を推定)し、初段から4P段までの分のタップ係数を4NポイントFFTに基づき更新する。メモリ36内にサンプリングポイント8N個分のデータがたまるたびにそれをFFT(ひいては回り込み伝達関数を推定)し、初段から8P段までの分のタップ係数を8NポイントFFTに基づき割当・更新する。
【0019】
従って、初段からP段までの分のタップ係数はメモリ36にサンプリングポイントN個分のデータがたまる毎に、P+1段から2P段までのタップ係数はメモリ36にサンプリングポイント2N個分のデータがたまる毎に、2P+1段から4P段までの分のタップ係数はメモリ36にサンプリングポイント4N個分のデータがたまる毎に、4P+1段から8P段までのタップ係数はメモリ36にサンプリングポイント8N個分のデータがたまる毎に、割当・更新される。即ち、図5に示すように、メモリ36に8N個のデータがたまる時間を1とし、フィルタ31の各段における遅延時間が同一であるとすると、初段からP段までに対応する遅延時間範囲0〜T1については1/8の時間で、P+1段から2P段までに対応する遅延時間範囲T1〜T2については1/4の時間で、2P+1段から4P段までに対応する遅延時間範囲T2〜T3については1/2の時間で、4P+1段から8P段までに対応する遅延時間範囲T3〜T4については1の時間で、タップ係数の割当・更新が行われる。
【0020】
このように、本実施形態によれば、親局波乃至主波に対する遅延時間が小さい遅延波に対して高速で追従できる。即ち、一般に振幅レベルが高く遅延時間が小さい1次回り込み波に対しては、一般に1次回り込み波よりも振幅レベルが低い多次回り込み波や親局からのマルチパス波や回り込み波のマルチパス波等に対する追従に比べて、高速で追従できる。なお、ここでいう多次回り込みとは、回り込み波成分を含む送信信号が更に回り込むことである。従って、1次回り込みの影響を抑圧することにより多次回り込みをも抑圧できるため、1次回り込み波を含め親局波乃至主波に対する遅延時間が小さい遅延波に高速で追従することにより、タップ係数の更新速度が低速になっている遅延時間範囲に係る遅延波についても、より好適に除去抑圧が図れることとなる。
【0021】
また、上の例では、メモリ36の容量を8Nとしているが、より一般的に表現すると、メモリ36の容量はサンプリングポイントmnmax×N個(但しm,Nは2以上の自然数、nmaxは自然数)分となる。また、上の例では、Nポイント毎、2Nポイント毎、4Nポイント毎及び8Nポイント毎という4通りの周期にて、各P段、2P段、4P段及び8P段のタップ係数を更新している。これをより一般的に表現すると、遅延時間範囲の区分個数は、nmaxであり、更新の周期は、メモリ36にサンプリングポイントmn×N個分のデータが格納される期間(但しnは0以上nmax以下の整数)であり、m n ×NポイントFFTに基づき更新対象となる段数(特性の次数)は、2n×P段(フィルタ31の2n×P次以下の特性(但しPは自然数))である。
【0022】
図6に、本実施形態におけるフィルタ31の一例構成を示す。本実施形態におけるフィルタ31は、例えば、可変遅延型トランスバーサルフィルタ、即ち各段の遅延素子として可変遅延素子31dが使用されているフィルタとする。この可変遅延素子31dによる遅延時間は、素子毎に個別的に可変設定することができる。遅延時間の設定によって、遅延プロファイル上の適切な遅延時間範囲についての非同期FFT推定方式による推定を実行することができるだけでなく、そのために必要なフィルタ段数を抑えること、ひいては経済的な回り込みキャンセラ30を実現することができる。
【0023】
例えば、ある無線中継局における受信信号の遅延プロファイルが、図7に示すように、遅延時間範囲0〜T1には主波成分及び振幅レベルの高い遅延波成分が現れており、遅延時間範囲T1〜T2には振幅レベルの低い遅延波しか現れておらず、遅延時間範囲T2〜T3には振幅レベルの高い遅延波成分が現れていることを示す遅延プロファイルであるとする。
【0024】
この場合、本実施形態では、例えば、フィルタ31の第1段〜第N1段を遅延時間範囲0〜T1に、第N1+1段〜第N2段を遅延時間範囲T1〜T2に、第N2+1段〜第N3段を遅延時間範囲T2〜T3に、それぞれ割り当てる。第1段〜第N1段及び第N2+1段〜第N3段に対しては周波数解析等の結果に応じてタップ係数(図中の複素係数)を割り当てるが、第N1+1段〜第N2段には割り当てない。また、第1段〜第N1段及び第N2+1段〜第N3段の可変遅延素子31dによる遅延時間は分解能と比肩しうる短い時間に設定するのに対し、第N1+1段〜第N2段の可変遅延素子31dによる遅延時間は遅延時間範囲T1〜T2を“スキップ”するために必要な長い時間とする。即ち、第N1+1段〜第N2段の可変遅延素子31dによる遅延時間は、その合計がT2−T1となるよう設定する。
【0025】
このように、振幅レベルが比較的高い遅延時間範囲0〜T1及びT2〜T3については段を重点的に割り当て密にカバーしているため、その範囲に属する回り込み波については好適に除去・抑圧できる。他方、遅延時間範囲T1〜T2についてはフィルタ31の段をほとんど割り当てていないためその範囲に属する回り込み波を好適に除去・抑圧するのは困難であるが、その範囲に属する回り込み波は振幅レベルが比較的低く無視しても差し支えないといえる。また、そのうちの多次回り込み波に関しては、遅延時間範囲0〜T1についてのタップ係数割り当てによる1次回り込み波の抑圧により、好適に除去抑圧できる。
【0026】
本実施形態においては、このように、振幅レベルが比較的低い回り込み波(遅延波)に対してはタップ係数を割り当てないようにしているため、従来に比べフィルタ31の段数を少なくし又は処理範囲を拡張することができる。
【0027】
例えば、遅延時間範囲0〜T3全体を処理対象とするのに、従来は、T3/分解能程度の段数が必要であった。これに対し、本実施形態では、比較的振幅レベルが低い回り込み波しか存在しない遅延時間範囲T1〜T2をスキップしているため、必要な段数が、従来に比べ(T2−T1)/分解能−α程度少なくなる(αは遅延時間範囲T1〜T2に割り当てた段数)。即ち、遅延時間範囲0〜T3を対象とするもの同士で比較すると、本実施形態の方が従来のものより所要段数が少なくてすみ、経済的である。
【0028】
また、本実施形態で必要としている(T1+(T3−T2))/分解能+α程度の段数と同じ段数を以て、従来の回り込みキャンセラを構成したとすると、振幅レベルが比較的低い回り込み波しか存在しない遅延時間範囲T1〜T1+(T3−T2)に段が割り当てられる反面、振幅レベルが比較的高い回り込み波が存在する遅延時間範囲T2〜T3には段が割り当てられない。従って、同一段数で比較すると、本実施形態の方が、振幅レベルが高くかつ遅延時間が大きい回り込み波を除去・抑圧できる点で、優れている。
【0029】
このように、本実施形態によれば、送信信号品質の劣化につながる振幅レベルが高い回り込み波(より一般には遅延波)を、広い遅延時間範囲に亘り除去・抑圧しつつも、フィルタ31の段数を抑えて経済性を維持向上させることができる。なお、初段の乗算素子31bより手前に可変遅延素子31dを設けているのは、一つには、主波に対する遅延時間が極めて小さい遅延波を推定対象から外せるようにして、上記効果をより顕著にするためである。次に、本発明に関連する遅延キャンセラについて示す。本発明に関連する遅延波キャンセラは、或いは、(1)無線中継装置内の所定の分岐点にて当該無線中継装置による受信信号を分岐する手段と、この分岐により得られたキャンセラ入力信号を濾波して出力するフィルタと、フィルタ出力を上記無線中継装置内の所定の結合点にて上記受信信号に結合させる手段と、受信信号に現れている回り込み波等の遅延波の影響が除去又は抑圧されるよう上記キャンセラ入力信号に基づき上記遅延波の伝達関数に対して上記フィルタの特性を適応させる適応制御手段と、を備える遅延波キャンセラにおいて、(2)上記フィルタが、分岐により得られたキャンセラ入力信号をA/D変換する手段と、A/D変換後のキャンセラ入力信号を濾波して出力するディジタルフィルタと、ディジタルフィルタ出力をD/A変換する手段と、D/A変換後のディジタルフィルタ出力を振幅調整して上記結合に供する振幅調整回路と、を有し、(3)上記適応制御手段が、振幅に関する適応制御は専ら上記振幅調整回路における振幅調整量の制御により行うことを特徴とする。このように、推定された遅延波伝達関数に基づきその特性が設定・制御されるフィルタを、ディジタル信号を濾波するディジタルフィルタとアナログ信号振幅を調整する振幅調整回路とにより実現し、振幅に関する適応制御は専ら振幅調整回路により行うことによって、受信信号とキャンセラ出力との結合をアナログ合成にて実現することができる。その際、遅延波キャンセラにおけるA/D変換、特に振幅量子化はキャンセラ入力信号の振幅レベルをフルスケールとして行うことができるため、振幅に関する適応制御をも含めてディジタルフィルタにより実現し受信信号とキャンセラ出力との結合をディジタル合成にて実現した場合に比べて、量子化雑音による送信信号品質の劣化が生じにくくなる。
【0030】
図8に、本実施形態における振幅調整回路39の使用形態を示す。本実施形態では、A/D変換器37によりキャンセラ入力信号をA/D変換し、それにより得られるディジタルデータをトランスバーサルフィルタ等のディジタルフィルタであるフィルタ31により濾波し、フィルタ31の出力をD/A変換器38によりD/A変換し、更にD/A変換器38の出力に振幅調整回路39による自動振幅調整を施して、結合点34に供給している。また、制御部32は、推定した回り込み伝達関数に基づくフィルタ31の特性の適応制御のうち、振幅についての制御は行わず専ら遅延時間及び位相に関する適応制御のみをフィルタ31の特性に関しては実施しており、振幅に関しては振幅調整回路39例えば可変減衰器や可変利得増幅器により追従させている。即ち、本実施形態では、振幅調整回路39がフィルタ31と協働して適応型フィルタとして機能し、キャンセル信号を生成している。
【0031】
このような構成を採用しているため、本実施形態によれば、主波成分よりも振幅レベルが高い回り込み波(遅延波)成分が発生している場合における量子化雑音の発生、ひいてはそれによる送信信号品質の劣化を防いでいる。まず、従来から、量子化されたキャンセル信号を量子化された受信信号と結合させる手法即ちディジタル合成が検討されていた。この手法によれば、主波成分よりも振幅レベルが高い遅延波が発生している場合、その遅延波振幅レベルに従い量子化スケールが決められる結果、受信信号中の主波成分の量子化ビット数が少なくなってしまう。そのため、当該回り込み波(遅延波)成分が好適に除去されたとしても、主波成分には少ないビット数による量子化に伴う雑音、即ち量子化雑音が残る。これに対して、本実施形態では、アナログのキャンセル信号をアナログの受信信号と結合させるというアナログ合成を採用している。即ち、キャンセル信号を発生させるための一連の処理にA/D変換が含まれているものの、受信信号と結合させるキャンセル信号はアナログ信号であり、また結合先の受信信号も量子化されていないアナログ信号である。また、回り込みキャンセラ30における振幅量子化即ちA/D変換器37によるA/D変換は、キャンセラ入力信号の振幅レベルをフルスケールとして行うことができるため、D/A変換器38から出力される信号のC/N比は良好である。振幅調整回路39による振幅調整即ち振幅に関する適応制御を経た後、C/N比が良好なこの信号は、アナログの受信信号に結合される。そのため、送信信号品質例えばC/N比が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 回り込みキャンセラを備えた無線中継局の概略構成を示すブロック図である。
【図2】 トランスバーサルフィルタの構成を示すブロック図である。
【図3】 非同期FFT推定方式を示す図であり、特に(A)は時間軸上での受信信号即ちOFDM波を、(B)はそれをFFT等の手法により周波数解析することにより得られる振幅周波数特性を、(C)はそれを更に時間特性と見立ててFFT等の手法により周波数解析することにより得られる回り込み伝達関数を、それぞれ示す図である。
【図4】 本発明の一実施形態に係る回り込みキャンセラ、特に遅延時間別推定処理に関わる部分の構成と動作を示すブロック図である。
【図5】 1次及び多次回り込み成分の現れ方を例示する遅延プロファイル図である。
【図6】 本発明の一実施形態に係る回り込みキャンセラ、特に可変遅延型のトランスバーサルフィルタの構成を示すブロック図である。
【図7】 タップ係数を割り当てる範囲及び割り当てない範囲を例示する遅延プロファイル図である。
【図8】 本発明の一実施形態に係る回り込みキャンセラ、特にディジタル信号処理の区間とアナログ信号処理の区間を示すブロック図である。
【符号の説明】
10 受信部、11,21 アンテナ、20 送信部、30 回り込みキャンセラ、31 フィルタ、31b 乗算素子、31c 加算素子、31d 可変遅延素子、32 制御部、33 分岐点、34 結合点、35,37 A/D変換器、36 メモリ、38 D/A変換器、39 振幅調整回路。
Claims (2)
- 無線中継装置内の所定の分岐点にて当該無線中継装置による受信信号を分岐する手段と、この分岐により得られたキャンセラ入力信号を濾波するフィルタと、このフィルタから得られる信号を上記無線中継装置内の所定の結合点にて上記受信信号に結合させる手段と、受信信号に現れている回り込み波等の遅延波の影響が除去又は抑圧されるよう上記キャンセラ入力信号に基づき上記遅延波の伝達関数に対して上記フィルタの特性を適応させる適応制御手段と、を備える遅延波キャンセラにおいて、
上記適応制御手段が、主波に対する遅延時間が小さい遅延波の伝達関数に対しては比較的高速で、また遅延時間が大きい遅延波の伝達関数に対しては比較的低速で、上記フィルタの特性が適応するよう、中継すべき信号である主波に対する遅延時間に応じ更新時点を分けて上記フィルタの特性を更新することを特徴とする遅延波キャンセラ。 - 請求項1に記載の遅延波キャンセラにおいて、
上記フィルタの特性の更新を可能にするため、上記フィルタは、その遅延時間を個別かつ可変設定可能な可変遅延素子を各段の遅延素子として用いた可変遅延型のディジタルフィルタであることを特徴とする遅延波キャンセラ。
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