JP4608032B2 - タイヤ用の加硫ゴム成形体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、タイヤ用の加硫ゴム成形体に関し、更に詳しくは、氷雪路面でのコーナリング性等の制動・駆動性能(氷上性能)と、湿潤路面での操縦安定性(ウェット性)と、乾燥路面での耐摩耗性とをバランス良く向上させたタイヤのトレッド等に好適に使用できるタイヤ用の加硫ゴム成形体に関する。
【0002】
【従来の技術】
スパイクタイヤが規制されて以来、水膜の発生し易い氷雪路面での制動・駆動性能(氷上性能)を向上させるため、特にスタッドレスタイヤにおけるトレッドについての研究が盛んに行われてきている。
氷雪路面においては、前記水膜が、スタッドレスタイヤと氷雪路面との間の摩擦係数を低下させる原因になっている。このため、スタッドレスタイヤにおけるトレッドの水膜除去能やエッヂ効果が、前記氷上性能に大きく影響する。したがって、スタッドレスタイヤにおける氷上性能を向上させるためには、トレッドの水膜除去能やエッヂ効果の改良が必要である。
【0003】
特許第2568502号には、トレッドを発泡ゴムとし、該発泡ゴム中の独立気泡による微細な凹凸により、前記水膜除去能とエッヂ効果とを改良する技術が記載されている。しかし、このような独立気泡のみを含む発泡ゴムを用いても、市場の要求レベルを十分に満たす程度にまで氷上性能を向上させることができない。
特開平8−85738号公報には、トレッドに疎水性・撥水性に優れたゴム組成物を用いる旨が記載されている。しかし、この場合も上記同様、市場の要求レベル満たす程度にまで氷上性能を十分に向上させることができない。
【0004】
一方、特開平4−38207号公報には、短繊維入発泡ゴムをトレッドに用い、該トレッドの表面にミクロ的な溝を形成する手法が記載されている。
しかし、この場合における前記短繊維は、加硫時に熱収縮によってカールしたり、モールドの溝部、即ちサイプ部に繊維が押し込まれてトレッド中で屈曲してしまう。このため、走行によりトレッドが摩耗しても、摩耗面と短繊維とが略平行でないものは該トレッドから短繊維が容易に離脱せず、当初の狙いのようなミクロ的な溝が効率的に形成されず、氷上での摩擦係数の向上が十分でない。また、前記短繊維の離脱は走行条件等に大きく左右され、確実に氷上性能を向上させることができない。更にミクロ的な溝は、タイヤにかかる負荷が大きいと潰れてしまうこともある。更に、この場合には耐摩耗性の低下が著しいという問題もある。
【0005】
他方、特開平4−110212号公報等には、トレッドに中空繊維を分散させることにより、氷面とトレッドの接地面との間にわき出る水を該中空繊維の中空部分で排除し得るタイヤが開示されている。
しかしながら、この場合、該中空繊維をゴムに混練りするとき、成形時の圧力、ゴム流れ、温度等によって該中空繊維が潰れてしまい、実際には該中空繊維は中空形状を保つことができず、依然として水排除性能が十分でないという問題がある。更に、この場合には耐摩耗性の低下が著しいという問題もある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、走行条件等に左右されることなく、氷面との間に生ずる水の除去能力に特に優れ、氷面との間の摩擦係数が大きく、氷雪路面でのコーナリング性等の制動・駆動性能(氷上性能)と、湿潤路面での操縦安定性(ウェット性)と、乾燥路面での耐摩耗性とをバランス良く向上させたタイヤのトレッド等の氷上でのスリップを抑えることが必要な構造物等に好適に使用できるタイヤ用の加硫ゴム成形体を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の発明者らが鋭意検討した結果、以下の知見を得た。即ち、トレッドに長尺状気泡を形成すると、前記氷上性能を著しく向上させることができる。しかし、この場合、該トレッドを発泡ゴムとすると耐摩耗性が顕著に低下してしまう。そこで、フタジエンゴムを配合すると耐摩耗性の低下は改善できるが、湿潤路面での操縦安定性(ウェット性)が低下してしまう。そこで、更にシリカを配合すると前記ウェット性の低下を改善できる。その結果、前記氷上性能と前記ウェット性と前記耐摩耗性とのバランスを良好に維持できるという知見である。
【0008】
本発明は、前記本発明の発明者等による知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 天然ゴム20〜70重量部及びポリブタジエンゴム30〜80重量部を含むゴム成分、並びに、該ゴム成分100重量部に対しカーボンブラック5〜55重量部及びシリカ5〜55重量部を含むゴムマトリックス、加硫最高温度より融点の低い樹脂、及び発泡剤を含有するゴム組成物を加硫することにより得られ、
平均長さ(L)と平均径(D)との比(L/D)が小さくとも3であり、かつ樹脂層で被覆された長尺状気泡を有してなることを特徴とするタイヤ用の加硫ゴム成形体である。
<2> 平均発泡率が3〜40%である前記<1>に記載のタイヤ用の加硫ゴム成形体である。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明のタイヤ用の加硫ゴム成形体について以下に詳細に説明する。
【0010】
(ゴム組成物)
本発明のゴム組成物は、ゴムマトリックスと、長尺状樹脂とを含んでなる。
前記ゴムマトリックスは、本発明のゴム組成物における前記長尺状樹脂を除く成分を含み、具体的には、天然ゴム及びポリブタジエンゴムを少なくとも含むゴム成分と、カーボンブラックと、シリカとを少なくとも含み、更に、発泡剤、発泡助剤、カップリング剤等の必要に応じて適宜選択したその他の成分を含む。
【0011】
−−ゴムマトリックス−−
−ゴム成分−
前記ゴム成分は、天然ゴム及びポリブタジエンゴムを少なくとも含む。
前記ポリブタジエンゴムとしては、特に制限はないが、ガラス転移温度が低く、氷上性能の効果が大きい点で、シス−1,4−ポリブタジエンが好ましく、シス含有率が90%以上のものが特に好ましい。
ポリブタジエンゴムは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0012】
前記ゴム成分における天然ゴム及びポリブタジエンゴムの量として、天然ゴム(NR)は、20〜70重量部である必要があり、30〜50重量部であるのが好ましい。ポリブタジエンゴム(BR)は、30〜80重量部である必要があり、50〜70重量部であるのが好ましい。
また、本発明においては、前記天然ゴム又は前記ポリブタジエンゴムの前記ゴム成分における量として、前記数値範囲のいずれかの下限値若しくは上限値又は後述の実施例において採用した量の値を下限とし、前記数値範囲のいずれかの下限値若しくは上限値又は後述の実施例において採用した量の値を上限とする数値範囲も好ましい。
【0013】
前記ゴム成分における前記天然ゴムの量が、20重量部未満であると破壊特性が低下し、ブロック欠け、サイプ欠け等の発生が多くなり、70重量部を超えると低温での柔軟性が失われる。一方、前記ゴム成分における前記ポリブタジエンの量が、30重量部未満であると低温の柔軟性が失われ、80重量部を超えると破壊特性が低下し、湿潤路面での操縦安定性(ウェット性)が著しく悪化してしまう。
前記ゴム成分における前記天然ゴム及びポリブタジエンゴムの量が、前記数値範囲内にあるとそのようなことはなく、該ゴム組成物を加硫すると柔軟性に富み、耐摩耗性、前記ウェット性に優れるタイヤ用の加硫ゴム成形体(以下、単に「加硫ゴム成形体」と称する)が得られる点で好ましい。
【0014】
−カーボンブラック−
前記カーボンブラックとしては、その種類等につき特に制限はなく、市販品を好適に使用することができる。前記市販品としては、例えば、カーボンN220、カーボンN234などが挙げられる。
なお、本発明においては、前記カーボンブラックとして、いわゆる「ハイストラクチャーカーボンブラック」を好適に使用することができる。この「ハイストラクチャーカーボンブラック」は、一般に、標準グレードのカーボンブラックと対比して耐摩耗性に優れている上、ゴム組成物の押出時に該押出方向に容易に配向し得る点で好ましい。
前記カーボンブラックは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
前記カーボンブラックのゴム組成物における含有量としては、ゴム成分100重量部に対して、5〜55重量部であることが必要であり、10〜50重量部が好ましく、20〜40重量部が特に好ましい。
また、本発明においては、前記カーボンブラックの含有量としては、前記数値範囲のいずれかの上限値若しくは下限値又は後述の実施例において採用したいずれかの含有量の値を下限とし、前記数値範囲のいずれかの上限値若しくは下限値又は後述の実施例において採用したいずれかの含有量の値を上限とする数値範囲も好ましい。
【0016】
前記カーボンブラックの含有量が、5重量部未満であると該ゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴム成形体の耐摩耗性、前記ウェット性が十分でなく、55重量部を越えると、低温での柔軟性が失われる点で、いずれも好ましくない。
【0017】
−シリカ−
前記シリカとしては、その種類等につき特に制限はなく、市販品を好適に使用することができる。前記市販品としては、例えば、Nipsil AQ(日本シリカ社製)などが挙げられる。前記シリカは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記シリカのゴム組成物における含有量としては、ゴム成分100重量部に対し、5〜55重量部であることが必要であり、30〜50重量部が好ましい。
また、本発明においては、前記含有量として、前記数値範囲のいずれかの上限値若しくは下限値又は後述の実施例において採用したいずれかの含有量の値を下限とし、前記数値範囲のいずれかの上限値若しくは下限値又は後述の実施例において採用したいずれかの含有量の値を上限とする数値範囲も好ましい。
なお、本発明においては、前記シリカのゴム組成物における含有量として、前記ゴム成分100重量部におけるポリブタジエンゴム(BR)の比率(重量部)が多くなる程、該シリカの前記含有量を増やすことが好ましい。例えば、ポリブタジエンゴム(BR)の比率が50%であれば前記シリカの含有量は少なくとも15重量部(15重量部以上)であるのが好ましく、30〜55重量部であるのがより好ましい。
【0019】
前記シリカの含有量が、5重量部未満であると該ゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴム成形体の耐摩耗性、前記ウェット性が十分でなく、55重量部を越えると、低温での柔軟性が失われる点で、いずれも好ましくない。
【0020】
−その他の成分−
前記その他の成分としては、本発明の目的を害しない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、硫黄等の加硫剤、ジベンゾチアジルジスルフィド等の加硫促進剤、加硫助剤、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジル−スルフェンアミド、N−オキシジエチレン−ベンゾチアジル−スルフェンアミド等の老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、オゾン劣化防止剤、着色剤、帯電防止剤、分散剤、滑剤、酸化防止剤、軟化剤、無機充填材等の添加剤等の他、通常ゴム業界で用いる各種配合剤などを適宜使用することができる。
本発明においては、前記その他の成分については市販品を好適に使用することができる。
【0021】
前記無機充填材としては、例えば、Al2 O3 、ZnO、TiO2 、SiC、Si、C、SiO2 、フェライト、ジルコニア、MgO等のセラミックス、Fe、Co、Al、Ca、Mg、Na、Cu、Cr等の金属、これら金属よりなる合金、これら金属の窒化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、ケイ酸塩、硫酸塩、更にはその他、真ちゅう、ステンレス、ガラス、カーボン、カーボンランダム、マイカ、ゼオライト、カオリン、アスベスト、モンモリロナイト、ベントナイト、グラファイト、シリカ、クレー等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明においては、発泡剤を使用する。前記発泡剤を使用すると、該ゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴム成形体を発泡率に富む発泡ゴムにすることができ、しかも前記樹脂を効率的に長尺状気泡にすることができる点で有利である。
【0023】
前記発泡剤としては、例えば、ジニトロソペンタメチレンテトラアミン(DPT)、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタスチレンテトラミンやベンゼンスルフォニルヒドラジド誘導体、オキシビスベンゼンスルフォニルヒドラジド(OBSH)、二酸化炭素を発生する重炭酸アンモニウム、窒素を発生するニトロソスルホニルアゾ化合物、N,N'−ジメチル−N,N'−ジニトロソフタルアミド、トルエンスルホニルヒドラジド、P−トルエンスルホニルセミカルバジド、P,P'−オキシービス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)等が挙げられる。
これらの発泡剤の中でも、製造加工性を考慮すると、ジニトロソペンタメチレンテトラアミン(DPT)、アゾジカルボンアミド(ADCA)が好ましい。
これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、加硫温度等に応じて適宜選択して使用することができる。
【0024】
また、本発明においては、効率的な発泡を行うことができる点で、発泡助剤を更に併用するのが好ましい。
前記発泡助剤としては、例えば、尿素、ステアリン酸亜鉛、ベンゼンスルフィン酸亜鉛や亜鉛華等、通常、発泡製品の製造に用いる助剤等が挙げられる。これらの中でも、尿素、ステアリン酸亜鉛、ベンゼンスルフィン酸亜鉛等が好ましい。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明においては、前記その他の成分として、カップリング剤を特に好ましく使用することができる。前記カップリング剤を使用すると、前記カーボンブラック及び前記シリカが該カップリング剤により表面処理され、該カーボンブラック及びシリカと前記ゴム成分とが、該カーボンブラック及びシリカの表面における孔を介した物理的結合のみならず、化学的に接着することができ、より強固な接着力が得られ、該カーボンブラック及びシリカがゴムマトリックスから脱離する問題を大幅に改善し、トレッドの耐摩耗性を良好にすることができる点で有利である。
【0026】
前記カップリング剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、DEGUSSA製Si69に代表されるシランカップリング剤が好ましい。
前記シランカップリング剤としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等が挙げられる。
これらの中でも、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィドなどが好ましい。
これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
前記カップリング剤のゴム組成物における含有量としては、前記カーボンブラック及び前記シリカを含む無機充填材の重量に対して5〜25重量%が好ましく、10〜25重量%がより好ましい。
前記カップリング剤のゴム組成物における含有量が、前記カーボンブラック及び前記シリカを含む無機充填材の重量に対して5重量%未満であると、前記カーボンブラック及び前記シリカを含む無機充填材の前記ゴム成分中の分散性向上効果及び補強効果が十分でなく、該ゴム組成物を加硫して得た加硫ゴム成形体をタイヤのトレッド等に使用しても耐摩耗性及び氷上性能が十分に改善されないことがあり、一方、25重量%を越えてもその量に見合う効果が得られないことがある。
【0028】
−−樹脂−−
前記長尺状樹脂としては、加硫時に該長尺状樹脂が含まれるゴム組成物の温度が加硫最高温度に達するまでの間に、その粘度が該ゴムマトリックスの粘度よりも低くなる特性を有していることが必要である。
前記加硫最高温度とは、該長尺状樹脂が含まれるゴム組成物の加硫時における該ゴム組成物が達する最高温度を意味する。例えば、モールド加硫の場合には、該ゴム組成物がモールド内に入ってからモールドを出て冷却されるまでに該ゴム組成物が達する最高温度を意味する。
前記加硫最高温度は、例えば、前記ゴム組成物中に熱電対を埋め込むこと等により測定することができる。
なお、前記ゴムマトリックスの粘度は、流動粘度を意味し、例えばコーンレオメーター、キャピラリーレオメーター等を用いて測定することができる。また、前記長尺状樹脂の粘度は、溶融粘度を意味し、例えばコーンレオメーター、キャピラリーレオメーター等を用いて測定することができる。
【0029】
前記長尺状樹脂としては、前記熱特性を有している限りその原料樹脂の材質等について特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、該熱特性を有する原料樹脂としては、例えば、その融点が前記加硫最高温度よりも低い結晶性高分子からなる樹脂などが好適に挙げられ、その融点が190℃以下である樹脂が特に好適に挙げられる。
【0030】
該結晶性高分子からなる長尺状樹脂を例に説明すると、その融点と、該長尺状樹脂が含まれるゴム組成物の前記加硫最高温度との差が大きくなる程、加硫中に速やかに該長尺状樹脂の相が溶融するため、該長尺状樹脂の相の部分における粘度がゴムマトリックスの粘度よりも低くなる時期が早くなり、該長尺状樹脂の相が溶融樹脂化した後、発泡剤から発生したガス等はゴムマトリックスよりも低粘度である溶融した長尺状樹脂の相の内部に移行していく。その結果、該加硫ゴム成形体中には、該長尺状樹脂により被覆されてなる長尺状気泡が多く存在する。
【0031】
一方、前記長尺状樹脂の融点が、該長尺状樹脂が含まれるゴム組成物の前記加硫最高温度に近くなり過ぎると、加硫初期に速やかに該長尺状樹脂の相が溶融せず、加硫終期に該長尺状樹脂の相が溶融する。加硫終期では、該発泡剤から発生したガスが加硫したゴムマトリックス中に取り込まれてしまっているため、溶融した長尺状樹脂の相の内部でのガスの保持が不十分になる。
他方、前記長尺状樹脂の融点が低くなり過ぎると、該ゴム組成物の混練り時の熱で該長尺状樹脂の相が溶融し、混練りの段階の該長尺状樹脂の相同士の融着による分散不良、混練りの段階で該長尺状樹脂の相が複数に分断される、該長尺状樹脂の相がゴム組成物中に溶け込んでミクロに分散してしまう、等の不都合があり好ましくない。
【0032】
したがって、前記長尺状樹脂の融点は、以上の点を考慮して選択するのが好ましく、一般的には、前記長尺状樹脂の融点としては、該長尺状樹脂が含まれるゴム組成物の前記加硫最高温度よりも、10℃以上低いのが好ましく、20℃以上低いのがより好ましい。
ゴム組成物の工業的な加硫温度は、一般的には、最高で約190℃程度であるが、例えば、加硫最高温度がこの190℃に設定されている場合には、前記樹脂の融点としては、通常190℃以下で選択され、180℃以下が好ましく、170℃以下がより好ましい。
【0033】
一方、ゴム組成物の混練りを考慮すると、前記長尺状樹脂の融点としては、混練り時の最高温度に対して、5℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上が特に好ましい。
ゴム組成物の混練りでの最高温度を例えば95℃と想定した場合には、前記長尺状樹脂の融点としては、100℃以上が好ましく、105℃以上がより好ましく、115℃以上が特に好ましい。
なお、本発明においては、前記融点は、それ自体公知の融点測定装置等を用いて測定することができ、例えば、DSC測定装置を用いて測定した融解ピーク温度を前記融点とすることができる。
【0034】
前記長尺状樹脂は、結晶性高分子から形成されていてもよいし、非結晶性高分子から形成されていてもよいし、結晶性高分子と非結晶性高分子とから形成されていてもよいが、本発明においては、相転移があるために粘度変化がある温度で急激に起こり、粘度制御が容易な点で結晶性高分子を含む有機素材から形成されるのが好ましく、結晶性高分子から形成されるのがより好ましい。
【0035】
前記結晶性高分子の具体例としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、シンジオタクティック−1,2−ポリブタジエン(SPB等の単一組成重合物や、共重合、ブレンド等により融点を適当な範囲に操作したものも用いることができ、更にこれらの長尺状樹脂に添加剤を加えてもよい。
これらの結晶性高分子の中でも、ポリオレフィン、ポリオレフィン共重合体が好ましく、更には汎用で入手し易い点でポリエチレン、ポリプロピレンが好ましい。
【0036】
前記非結晶性高分子としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリスチレン、ポリエチレンNR系、SPB、PMMA、PAN、これらの共重合体、これらのブレンド物等が挙げられる。
【0037】
前記長尺状樹脂には、本発明の目的を害しない範囲において、必要に応じて公知の添加剤が添加されていてもよい。
【0038】
前記長尺状樹脂における前記有機素材の分子量としては、該有機素材の化学組成、分子鎖の分岐の状態等によって異なり一概に規定することはできないが、前記熱特性を害しない範囲であれば特に制限はない。一般に、該長尺状樹脂は、同じ有機素材で形成されていてもその分子量が高い程、ある一定の温度における粘度(溶融粘度)は高くなる。したがって、本発明においては、前記長尺状樹脂における前記有機素材の分子量は、該長尺状樹脂を含むゴム組成物の前記加硫最高温度における該ゴム組成物の粘度(流動粘度)よりも該長尺状樹脂の相の粘度(溶融粘度)が高くならないような範囲で選択される。
【0039】
なお、一試験例では、長尺状樹脂が、1〜2×105 程度の重量平均分子量のポリエチレンの場合の方が、7×105 以上の重量平均分子量のポリエチレンの場合よりも、発泡剤から発生したガスが加硫後の長尺状樹脂の相の内部に多量に包含されていた。この相違は、長尺状樹脂の素材であるポリエチレンの分子量の違いに起因する粘度(溶融粘度)の差に基づくものと考えられる。
一方、前記長尺状樹脂における前記有機素材の分子量が低すぎると、該長尺状樹脂が含まれるゴム組成物の混練りの段階で、該長尺状樹脂の相の粘度(溶融粘度)が低下し、該長尺状樹脂の相同士の融着が発生してしまい、ゴム組成物中の長尺状樹脂の相の分散性が悪化するため好ましくない。
【0040】
前記長尺状樹脂の原料樹脂の形態としては、長尺状、球状、粉状等のいずれであってもよく、押出等を行った結果、最終的に得られるゴム組成物中に長尺状樹脂の相を形成することができる限り制限はなく、目的に応じて適宜選択することがきる。
本発明においては、これらの形態の内、いずれか1つを単独で選択してもよいし、2以上を選択してもよい。
【0041】
前記原料樹脂の形態として、長尺状を選択した場合には、混練り、熱入れ、押出等を行う際に該長尺状樹脂の形態が維持され、ゴム組成物中に長尺状樹脂の相が形成されるように諸条件が選択される。本発明においては、押出等の諸条件の設定が容易な点で長尺状の形態の原料樹脂を好適に使用できる。
【0042】
前記原料樹脂の形態として、球状や粉状を選択した場合には、最終的に得られるゴム組成物中に長尺状樹脂の相が形成されるように混練り、熱入れ、押出等の諸条件が選択される。例えば、以下の通りである。
【0043】
前記原料樹脂が、前記ゴム組成物の混練り前に粒状等である場合には、例えば、前記ゴム組成物の混練り時に該粒状の樹脂を混練物に溶融分散させ、該粒状の樹脂の平均径が20〜400μm程度になるまで、混練り温度、時間等の条件を適宜コントロールし、該混練り後に、得られた混練物に該粒状の樹脂の融点以上の温度で行う押出等を行い、該混練物中に含まれる該粒状の樹脂の形態を変化させることにより、該ゴム組成物の混練り後において該粒状の樹脂を長尺状樹脂の相にすることができる。
【0044】
前記原料樹脂が、前記ゴム組成物の混練り前に粉状である場合には、例えば、該粉状の樹脂の平均径が20〜400μmである場合には、前記ゴム組成物の各成分の混練り時に該粉状の樹脂を混練物に溶融分散させる必要はなく、該粉状樹脂の融点以下の温度において、該粉状の樹脂を前記ゴム組成物の各成分中に分散させ、該混練り後に、得られた混練物に該粉状の樹脂の融点以上の温度で行う押出等を行い、該混練物中に含まれる略球状の該粉状の樹脂の形状を変化させることにより、該ゴム組成物の混練り後において該粉状の樹脂を長尺状樹脂の相にすることができる。
【0045】
前記ゴム組成物中に形成される長尺状樹脂の相のデニールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、氷上性能向上の観点からは、1〜1000デニールが好ましく、2〜800がより好ましい。
【0046】
前記長尺状樹脂の相の平均長さ(L)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、該ゴム組成物を加硫して得た加硫ゴム成形体をタイヤにおけるトレッドに使用した場合の該タイヤの氷上性能を向上させる観点からは、平均長さ(L)が小さくとも500μm(即ち、500μm以上)が好ましく、500〜5000μmがより好ましい。
前記平均長さ(L)が、500μm未満であると、該ゴム組成物を加硫して得た加硫ゴム成形体において所望の長尺状気泡が得られないことがある。
なお、前記長尺状樹脂の相の平均長さ(L)は、例えば、顕微鏡観察を行うこと等により算出することができる。
【0047】
前記長尺状樹脂の相の平均径(D)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、タイヤの氷上性能向上の観点からは、30〜500μmが好ましく、50〜200μmがより好ましい。
前記平均径(D)が、30μm未満であると、該ゴム組成物を加硫して得た加硫ゴム成形体の水排除機能が十分でなく、500μmを越えると、前記加硫ゴム成形体の耐摩耗性能が低下してしまう点でいずれも好ましくない。
なお、前記長尺状樹脂の相の平均径(D)は、例えば、顕微鏡観察を行うこと等により算出することができる。
【0048】
前記長尺状樹脂の相の平均長さ(L)と平均径(D)との比(L/D)としては、小さくとも3.0(3.0以上)が好ましく、5〜100がより好ましい。 前記比(L/D)が、3.0未満であると、該ゴム組成物を加硫して得た加硫ゴム成形体において所望の長尺状気泡が得られず、十分な氷雪性能が得られず、該ゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴム成形体の耐摩耗性が劣化してしまう点で好ましくない。
【0049】
前記長尺状樹脂の前記ゴム組成物における含有量としては、前記ゴムマトリックス100重量部に対して、0.5〜20重量部が好ましく、1.0〜15重量部がより好ましく、1.0〜10重量部が特に好ましい。
本発明においては、前記含有量として、前記数値範囲のいずれかの下限値若しくは上限値又は後述の実施例において採用した含有量の値を下限とし、前記数値範囲のいずれかの下限値若しくは上限値又は後述の実施例において採用した含有量の値を上限とする数値範囲も好ましい。
【0050】
前記含有量が0.5重量部未満であると、前記長尺状樹脂の相中に取り込み乃至保持されるガスの量が少なくなり、該ゴム組成物を加硫して得た加硫ゴム成形体をタイヤのトレッド等に使用しても氷上性能の向上が十分に図れない。一方、前記含有量が20重量部を越えると、該長尺状樹脂のゴム組成物中での分散性が悪化する、ゴム押出時の作業性が悪化する、トレッド等にクラックが発生する等の不都合が生ずることがあり好ましくない。
【0051】
−ゴム組成物の調製−
本発明のゴム組成物は、以上のような各成分を混練りし、熱入れし、押出すること等を適宜行うことにより調整され、前記押出により前記ゴム組成物中における前記長尺状樹脂の相は、該押出方向と略平行方向に配向する。
【0052】
前記混練りの条件としては、混練り装置への投入体積、ローターの回転速度、ラム圧等、混練り温度、混練り時間、混練り装置の種類等の諸条件について目的に応じて適宜選択することができる。前記混練り装置としては、市販品を好適に使用することができ、このような市販品としては、例えば、通常タイヤ用ゴム組成物の混練りに用いるバンバリーミキサー、インターミックス、ニーダー等が挙げられる。
【0053】
前記熱入れの条件としては、熱入れ温度、熱入れ時間、熱入れ装置等の諸条件について目的に応じて適宜選択することができる。前記熱入れ装置としては、市販品を好適に使用することができ、このような市販品としては、例えば、通常タイヤ用ゴム組成物の熱入れに用いるロール機等が挙げられる。
【0054】
前記押出の条件としては、押出時間、押出速度、押出装置等の諸条件について目的に応じて適宜選択することができる。前記押出装置としては、市販品を好適に使用することができ、このような市販品としては、例えば、通常タイヤ用ゴム組成物の押出に用いる押出機等が挙げられる。
【0055】
本発明のゴム組成物においては、前記押出の結果、前記長尺状樹脂の相が、押出方向と略平行方向に配列しているが、これを効果的に達成するためには、限られた温度範囲の中で前記ゴムマトリックスの流動性をコントロールすればよく、具体的には、前記ゴムマトリックス中に、アロマ系オイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、エステル系オイル等の可塑剤、液状ポリイソプレンゴム、液状ポリブタジエンゴム等の液状ポリマーなどの加工性改良剤を適宜添加して該ゴムマトリックスの粘度を低下させ、その流動性を高めることにより、極めて良好に押出を行うことができ、かつ理想的に前記長尺状樹脂の相を押出方向と略平行に配列させることができる。
【0056】
前記ゴム組成物において、前記長尺状樹脂の相が押出方向と略平行に配向している場合、このゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴム成形体をタイヤにおけるトレッド等に使用すると、詳しくは該トレッド等における地面と接触する表面に平行な方向、より好ましくは該タイヤの周方向に、前記長尺状樹脂の相を配向させた状態で用いると、該タイヤの走行方向の排水性が高まり、氷上性能を向上させることができる点で好ましい。
【0057】
前記ゴム組成物中で前記長尺状樹脂の相を所定の方向に配向させるには、公知の方法を採用することができるが、例えば、図1に示すように、長尺状樹脂15の相を含むゴムマトリックス16を、流路断面積が出口に向かって減少する押出機の口金17から押し出す方法などが挙げられる。
この場合、押し出される前のゴムマトリックス16中の長尺状樹脂15の相は、口金17へ押し出されていく過程でその長手方向が押出方向(矢印B方向)に沿って除々に揃うようになり、口金17から押し出されるときには、その長手方向が押出方向(矢印B方向)にほぼ完全に揃うようになる。なお、この場合の長尺状樹脂15の相のゴムマトリックス16中の配向の程度は、流路断面積の減少程度、押出速度、ゴムマトリックスの粘度等によって変化する。
【0058】
なお、前記長尺状樹脂の相の平均長さ(L)と平均径(D)との関係は、逆相関関係にあり、押出温度と押出速度とを適宜変更することにより調整することができる。
即ち、前記押出温度を前記長尺状樹脂の素材の樹脂の融点よりも大幅に高く設定することで該長尺状樹脂の相の粘度を下げ、前記押出速度を速めることで該長尺状樹脂の相の平均径(D)を小さく(細く)し、平均長さ(L)を長くすることができ、該長尺状樹脂の相の平均長さ(L)と平均径(D)との比(L/D)を大きくし得る。
【0059】
したがって、所望する長尺状樹脂の相の寸法(平均長さ(L)及び平均径(D))に応じて、(1)押出温度、(2)押出速度、(3)初期分散粒径を設定し、それに伴う混練最高温度、回数等の(4)混練り条件を設定することが必要となるが、これらの各条件を適宜変えることにより、細径で、かつ平均長さ(L)と平均径(D)との比(L/D)が小さい長尺状樹脂の相から、太径で、かつ平均長さ(L)と平均径(D)との比(L/D)が大きい長尺状樹脂の相まで任意に得ることができる。
【0060】
本発明のゴム組成物においては、加硫前では、ゴムマトリックスよりも該長尺状樹脂の相の方が粘度が高くなっている。加硫開始後、該ゴム組成物が加硫最高温度に達するまでの間に、該ゴム組成物に含まれるゴムマトリックスは加硫によりその粘度が上昇していく。一方、該ゴム組成物に含まれる該長尺状樹脂の相は、溶融によりその粘度が大幅に低下していく。そして、加硫中において、ゴムマトリックスよりも該長尺状樹脂の相の方が粘度が低くなる。即ち、加硫前のゴムマトリックスと該長尺状樹脂の相との間における粘度の関係が、加硫途中の段階で逆転する現象が生ずる。この間、ゴム組成物中では、発泡剤を使用している場合には該発泡剤による効率的な発泡が生じ、ガスが生ずる。この発泡により生じたガスは、加硫反応が進行して粘度が高くなっているゴムマトリックスに比べて相対的に粘度が低下した溶融した該長尺状樹脂の相の内部に移動し、容易に取り込まれる。
【0061】
その結果、該ゴム組成物の加硫後の加硫ゴム成形体においては、ゴム組成物における該長尺状樹脂の相が存在していた場所に長尺状気泡が存在する。該長尺状気泡は、該長尺状気泡に面する周囲(長尺状気泡の画成する壁)が該長尺状樹脂の相の素材の樹脂によって覆われており、加硫ゴム成形体内において互いに独立して存在している。また、該長尺状樹脂の相の素材の樹脂を、ポリエチレン、ポリプロピレンとした場合などは、加硫したゴムマトリックスと、該長尺状樹脂の相の素材の樹脂による被覆層(以下「保護層」と称することがある)とは強固に接着している。なお、前記発泡剤を使用した場合には、発泡率に富む加硫ゴム成形体が得られる。
【0062】
なお、本発明のゴム組成物を加硫して得た加硫ゴム成形体において、前記長尺状樹脂の相の素材の樹脂と、加硫したゴムマトリックスとの接着力は、該加硫ゴム成形体が加硫される前の前記ゴム組成物中に、適宜選択した添加剤を添加することにより任意に調節することができる。
【0063】
本発明のゴム組成物は、各種分野において好適に使用することができるが、後述の本発明の加硫ゴム成形体の原料として特に好適に使用することができる。
【0064】
(加硫ゴム成形体)
本発明の加硫ゴム成形体は、前記本発明のゴム組成物を加硫することにより得られ、長尺状気泡を有する。
本発明の加硫ゴム成形体は、後述のタイヤのトレッド等に用いる場合には、加硫する前に、原料である前記本発明のゴム組成物中の前記長尺状樹脂の相を所定の方向に配向させておくのが好ましい。
該トレッド等における地面と接触する表面に平行な方向に、更には、該タイヤの周方向に沿って前記長尺状気泡を配向させると、該長尺状気泡による微細な排水溝が該タイヤの表面に露出し、この排水溝が水膜除去能及びエッヂ効果を発揮し、該タイヤの走行方向の排水性が高められ、氷上性能が向上される。
【0065】
前記加硫ゴム成形体中で前記長尺状気泡を所定の方向に配向させるには、前記ゴム組成物中で前記長尺状樹脂の相を所定の方向に配向させる必要がある。このためには、公知の方法を採用することができるが、例えば、図1に示すように、長尺状樹脂の相15を含むゴムマトリックス16を、流路断面積が出口に向かって減少する押出機の口金17から押し出す方法などが挙げられる。
この場合、押し出される前のゴムマトリックス16中の長尺状樹脂15の相は、口金17へ押し出されていく過程でその長手方向が押出方向(矢印B方向)に沿って除々に揃うようになり、口金17から押し出されるときには、その長手方向が押出方向(矢印B方向)にほぼ完全に揃うようになる。なお、この場合の長尺状樹脂15の相のゴムマトリックス16中の配向の程度は、流路断面積の減少程度、押出速度、ゴムマトリックスの粘度等によって変化する。
【0066】
前記加硫を行う装置乃至方式等については、特に制限はなく、目的に応じて適選択することができる。前記加硫を行う装置の具体例としては、例えば通常タイヤ用ゴム組成物の加硫に用いる、金型による成形加硫機などが挙げられる。
【0067】
本発明の加硫ゴム成形体においては、加硫したゴムマトリックス中に、溶融した前記長尺状樹脂の内部にガスが包含されてなる長尺状気泡が存在している。
原料である前記本発明のゴム組成物を押出等することによって該ゴム組成物中の前記長尺状樹脂の相を一方向に配向させた場合には、加硫ゴム成形体においては、図2に示すように、長尺状気泡12が、該押出方向(図2中のA方向)に配向した状態で存在している。この長尺状気泡12は、溶融した前記長尺状樹脂の相が架橋したゴムマトリックスと接着してなる保護層14により囲まれている。このため、長尺状気泡12は、加硫ゴム成形体において独立した空間として存在し、該長尺状気泡12内に、発泡剤から発生したガス等が取り込まれる。
【0068】
また、図2に示すように、前記加硫したゴムマトリックス中には、発泡剤から発生したガスが、球状の気泡18として存在している。
本発明の加硫ゴム成形体を、例えばタイヤにおけるトレッド等に使用した場合等においては、その表面に露出した長尺状気泡12及び球状の気泡18が、水の効率的な排出を行う排出路として機能する。
なお、該長尺状気泡12の周囲には耐剥離性に優れる保護層14が存在するため、該長尺状気泡12を有する本発明の加硫ゴム成形体は、水路形状保持性、水路エッジ部耐摩耗性、荷重入力時の水路保持性等に特に優れる。
【0069】
本発明の加硫ゴム成形体においては、前記長尺状樹脂の相が変化してなる長尺状気泡12における、1個当たりの平均長さ(L)(図2参照)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、該ゴム組成物を加硫して得た加硫ゴム成形体をタイヤのトレッド等に使用した場合の該タイヤの氷上性能を向上させる観点からは、平均長さ(L)が小さくとも500μm(即ち、500μm以上)が好ましく、500〜5000μmがより好ましい。
前記平均長さ(L)が、500μm未満であると、該ゴム組成物を加硫して得た加硫ゴム成形体において所望の長尺状気泡が得られない上、該加硫ゴム成形体を、タイヤのトレッド等に用いる場合には、該タイヤの水排除性能が低下することがあり好ましくない。
なお、前記長尺状樹脂の相の平均長さ(L)は、例えば、顕微鏡観察を行うこと等により算出することができる。
【0070】
本発明の加硫ゴム成形体においては、前記長尺状樹脂の相が変化してなる長尺状気泡12における、1個当たりの平均径(D)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、タイヤの氷上性能向上の観点からは、30〜500μmが好ましく、50〜200μmがより好ましい。
前記平均径(D)が、30μm未満であると、該ゴム組成物を加硫して得た加硫ゴム成形体の水排除機能が十分でなく、500μmを越えると、前記加硫ゴム成形体の耐摩耗性が低下してしまう点でいずれも好ましくない。
なお、前記長尺状樹脂の相の平均径(D)は、例えば、顕微鏡観察を行うこと等により算出することができる。
【0071】
前記平均長さ(L)(図2参照)と前記平均径(D)との比(L/D)としては、小さくとも3(即ち、3以上)である必要があり、小さくとも5(即ち、5以上)が好ましい。
なお、前記比(L/D)の上限は、特に制限はないが、100程度が選択される。
また、本発明においては、前記比(L/D)として、前記数値範囲のいずれかの下限値若しくは上限値又は後述の実施例において採用した該比(L/D)の値を下限とし、前記数値範囲のいずれかの下限値若しくは上限値又は後述の実施例において採用した該比(L/D)の値を上限とする数値範囲も好ましい。
【0072】
前記比(L/D)が3未満であると、摩耗した加硫ゴム成形体の表面に現れる長尺状気泡12の長さを長くすることができず、また容積を大きくすることができないため、該加硫ゴム成形体をタイヤのトレッド等に用いる場合には、該タイヤの水排除性能を向上させることができない点で好ましくない。
【0073】
本発明の加硫ゴム成形体においては、長尺状気泡12の平均径(D)(=保護層14の内径、図2参照)としては、30〜500μmが好ましい。
前記平均径(D)が、30μm未満であると、該加硫ゴム成形体をタイヤのトレッド等に用いる場合には、該タイヤの水排除性能が低下し、500μmを越えると、該加硫ゴム成形体の耐カット性、ブロック欠けが悪化し、また、乾燥路面での耐摩耗性が悪化するため、いずれも好ましくない。
【0074】
本発明の加硫ゴム成形体における平均発泡率Vsとしては、氷雪性能と耐摩耗性の観点から、3〜40%が好ましく、5〜35%がより好ましい。
また、本発明においては、前記平均発泡率Vsとして、前記数値範囲のいずれかの下限値若しくは上限値又は後述の実施例における平均発泡率Vsの値を下限とし、前記数値範囲のいずれかの下限値若しくは上限値又は後述の実施例における平均発泡率Vsの値を上限とする数値範囲も好ましい。
【0075】
前記平均発泡率をVsとは、球状の気泡18の発泡率Vs1 と、長尺状気泡12の発泡率Vs2 とを合計を意味し、次式により算出できる。
Vs=(ρ0 /ρ1 −1)×100(%)
ここで、ρ1 は、加硫ゴム成形体(発泡ゴム)の密度(g/cm3 )を表す。ρ0 は、加硫ゴム成形体(発泡ゴム)における固相部の密度(g/cm3)を表す。
【0076】
なお、前記加硫ゴム成形体(発泡ゴム)の密度及び前記加硫ゴム成形体(発泡ゴム)における固相部の密度は、例えば、エタノール中の重量と空気中の重量を測定し、これから算出した。
【0077】
前記平均発泡率Vsが、3%未満であると、発生する水膜に対して絶対的な凹部体積の不足により充分な水排除機能が得られず、氷上性能の効果向上が望めず、一方、40%を越えると、氷上性能向上効果は十分だが、加硫ゴム成形体内における気泡が多くなり過ぎるために、コンパウンドの破壊限界が大巾に低下し、耐久性上好ましくない。
前記平均発泡率Vsは、前記発泡剤の種類、量、組み合わせる前記発泡助剤の種類、量、樹脂の配合量等により適宜変化させることができる。
【0078】
なお、本発明においては、前記平均発泡率Vsが3〜40%であると共に、前記長尺状気泡が前記平均発泡率Vsにおける10%以上を占めることが好ましい。前記比率が10%未満であると、前記長尺状気泡による適切な排水路が少ないために、水排除機能が十分でないことがある。
【0079】
前記加硫ゴム成形体中の長尺状気泡12は、溶融した長尺状樹脂15の相が架橋したゴムマトリックスと接着してなる保護層14により囲まれているが、該保護層14の厚みとしては、0.5〜50μmが好ましい。
前記厚みが、0.5μm未満であると、排水路の形状保持性が悪化するために氷上性能向上効果が十分でないことがあり、50μmを越えると、長尺状気泡の実排水体積が小さくなる上、ゴムマトリックスの動きが拘束されて硬くなるため逆に氷上性能が低下してしまうことがある。
【0080】
本発明の加硫ゴム成形体は、各種分野において好適に使用することができるが、氷上でのスリップを抑えることが必要な構造物に特に好適に使用でき、タイヤのトレッド等に最も好適に用いることができる。
前記氷上でのスリップを抑えることが必要な構造物としては、例えば、更生タイヤの貼り替え用のトレッド、中実タイヤ、氷雪路走行に用いるゴム製タイヤチェーンの接地部分、雪上車のクローラー、靴底、ベルト、キャスター等が挙げられる。
【0081】
(タイヤ)
本発明のタイヤは、少なくともトレッドを有してなり、少なくとも該トレッドが前記本発明の加硫ゴム成形体を含む限り、他の構成としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。換言すれば、前記本発明のゴム組成物を用い、これを加硫することにより該トレッドを形成したタイヤが本発明のタイヤである。
【0082】
本発明のタイヤの一例を図面を用いて説明すると以下の通りである。なお、以下の例は、タイヤ(空気入りタイヤ)のトレッドに、前記ゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴム成形体を用いた場合の例である。
【0083】
図3に示すように、タイヤ(サイズ:185/70R13)4は、一対のビード部1と、該一対のビード部1にトロイド状をなして連なるカーカス2と、該カーカス2のクラウン部をたが締めするベルト3と、トレッド5とを順次配置したラジアル構造を有する。なお、トレッド5を除く内部構造は、一般のラジアルタイヤの構造と変わりないので説明は省略する。
【0084】
トレッド5には、図4に示すように、複数本の周方向溝8及びこの周方向溝8と交差する複数本の横溝9とによって複数のブロック10が形成されている。また、ブロック10には、氷上でのブレーキ性能及びトラクション性能を向上させるために、タイヤ幅方向(図4中のX方向)に沿って延びるサイプ11が形成されている。
【0085】
トレッド5は、図5に示すように、直接路面に接地する上層のキャップ部6と、このキャップ部6のタイヤ内部側に隣接して配置される下層のベース部7とから構成されており、いわゆるキャップ・ベース構造とされている。
【0086】
キャップ部6は、図2及び図7に示すように、球状の気泡18と、長尺状気泡12とを無数に含んだ発泡ゴムであり、ベース部7には発泡されていない通常のゴムが使用されている。この発泡ゴムが前記本発明の加硫ゴム成形体である。
長尺状気泡12は、図2に示すように、その長手方向が実質的にタイヤ周方向(図2、図5及び図7中の矢印A方向、図4中のY方向)に配向されており、その周囲が長尺状樹脂による保護層14で補強されている。
【0087】
タイヤ4は、その製造方法については特に制限はないが、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0088】
キャップ部6を形成するための本発明のゴム組成物における天然ゴム及びジエン系合成ゴムより選ばれる少なくとも1種のゴム成分としては、−60℃以下のガラス転移温度を有するものが好ましい。このガラス転移温度とするのは、トレッド5のキャップ部6が、低温域において十分なゴム弾性を維持し、十分な氷上性能を得るためである。
前記ゴム組成物の混練り時において、ゴムマトリックス中に長尺状樹脂の相が均一に分散される。前記長尺状樹脂の相は、タイヤ加硫工程における該ゴム組成物の温度が加硫最高温度に達するまでの間に、ゴムマトリックスの粘度(流動粘度)よりも粘度(溶融粘度)が低くなる素材により形成されている。
【0089】
図1に示すように、長尺状樹脂15の相を含むゴムマトリックス16を、流路断面積が出口に向かって減少する押出機の口金17から押し出すと、長尺状樹脂15の相の向き、即ち長尺状樹脂の相15の長手方向が押出方向(矢印B方向)に沿って除々に揃い、口金17から出るときには長尺状樹脂15の相の長手方向が押出方向に揃うので、口金17から押し出された帯状のゴム組成物を所望の長さでカットし、これをキャップ部6のゴムとして用いることができる。
【0090】
このようにして得られたゴム組成物による帯状の未加硫のキャップ部6を、予め生タイヤケースのクラウン部に貼り付けられた未加硫のベース部7(図5参照)の上に、その長手方向がタイヤ周方向と一致するように貼り付け、所定のモールドで所定温度、所定圧力のもとで加硫成形することによりタイヤ4を製造することができる。
【0091】
このとき、未加硫のキャップ部6がモールド内で加熱されると、ゴムマトリックス中で、発泡剤による発泡が生じ、ガスが生ずる。一方、長尺状樹脂の相が溶融(又は軟化)し、その粘度(溶融粘度)がゴムマトリックスの粘度(流動粘度)よりも低下することにより(図6参照)、長尺状樹脂の相の周囲において、前記発泡剤による発泡により生じたガスが溶融した長尺状樹脂の相の内部へと移動する。図2に示すように、冷却後のキャップ部6には、球状の気泡18と、長尺状気泡12とが存在している発泡率に富むゴムとなっている。この発泡率に富むゴムは本発明の加硫ゴム成形体である。
【0092】
次に、タイヤ4の作用について説明する。即ち、タイヤ4を走行させると、図7に示すように、球状の気泡18による凹部19と、長尺状気泡12による長尺状(溝状)の凹部13とが摩耗の極めて初期の段階でトレッド5のキャップ部6の接地面に現れる。この状態でタイヤ4を氷上で走行させると、接地圧と摩擦熱によってタイヤと氷面との間に水膜が生じるが、トレッド5のキャップ部6の接地面に形成された無数の凹部13及び凹部19によって接地面内の水分(水膜)は素早く排除されて除去される。
【0093】
タイヤ4においては、長手方向が実質的にタイヤ周方向となっている長尺状(溝状)の凹部13が効率的な水の排出を行う排水路として機能し、この長尺状(溝状)の凹部13により、接地面内のタイヤ回転方向後側への水排除性能が向上するため、特に氷上ブレーキ性能が向上する。また、この長尺状(溝状)の凹部13は、その周囲がゴムマトリックスよりも硬い素材によりなり、かつ耐剥離性に優れる保護層14で補強されているため耐剥離性に優れ、高荷重時でも潰れ難く、高い水路形状保持性、高い水排除性能が常に維持される。更にタイヤ4においては、接地面に露出した保護層14によって引っ掻き効果が生じるため、この引っ掻き効果によって横方向の氷上μが向上し、氷上ハンドリングが良好になる。
【0094】
タイヤ4においては、トレッド5が、前記本発明の加硫ゴム成形体で形成され、あるいは前記本発明のゴム組成物を用い、これを加硫することにより形成されているので、該トレッド5においては、球状の気泡18に比べて長尺状気泡12の体積比率が高い。
このため、タイヤ4の走行中に、長尺状気泡12による長尺状(溝状)の凹部13がタイヤ4の表面に露出する確率が高く、その結果、該凹部13による水排除機能が全体的に向上し、タイヤ4の氷上性能が向上する。
【0095】
なお、タイヤ4においては、長尺状気泡12の長手方向の向きは、総てタイヤ周方向となっていなくてもよく、一部タイヤ周方向以外の向きになっていてもよい(図5参照)。
【0096】
本発明のタイヤは、いわゆる乗用車用のみならず、トラック・バス用等の各種の乗物に好適に適用できる。
【0097】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これの実施例に何ら限定されるものではない。
【0098】
(実施例1〜6及び比較例1〜9)
表1及び表2に示す組成の各ゴム組成物を押出機にて押出して調製し、該各ゴム組成物を加硫してトレッドを加硫ゴム成形体にし、通常のタイヤ製造条件にて常法に従って185/70R14サイズの乗用車用スタッドレスタイヤ(空気入りタイヤ)を製造した。このタイヤにおいては、トレッドが加硫ゴム成形体で形成されている。
【0099】
前記タイヤの構造は図3に示す通りである。即ち、一対のビード部1と、該一対のビード部1にトロイド状をなして連なるカーカス2と、該カーカス2のクラウン部をたが締めするベルト3と、トレッド5とを順次配置したラジアル構造を有する。
【0100】
タイヤ4において、カーカス2は、タイヤ周方向に対し90°の角度で配置され、コードの打ち込み数は、50本/5cmである。タイヤ4のトレッド5には、図4に示す通り、タイヤ幅方向に4個のブロック10が配列されている。ブロック10のサイズは、タイヤ周方向の寸法が35mmであり、タイヤ幅方向の寸法が30mmである。また、ブロック10に形成されているサイプ11は、幅が0.4mmであり、タイヤ周方向の間隔が約7mmになっている。
なお、タイヤ4のトレッド5には、長尺状気泡12が含まれており、その長手方向が実質的にタイヤ周方向(図2、図5及び図7中の矢印A方向、図4中のY方向)に配向されており、その周囲が長尺状樹脂による保護層14で補強されている。
【0101】
得られたタイヤ4のトレッド5における長尺状気泡の平均長さ(L)及び平均径(D)を以下のようにして求めた。
前記平均長さ(L)は、以下のようにして算出した。即ち、試験タイヤのトレッド5の接地面より深さ1mm部分を、接地面に平行に切断し、切断面を倍率20〜400倍の光学顕微鏡で撮影し、100個以上の気泡外周に樹脂からなる保護層をもつ長尺状気泡の長手方向最大長さを測定し、その平均値を算出し、該算出値を平均長さ(L)とした。
前記平均径(D)は、以下のようにして算出した。即ち、各タイヤのトレッド5を、タイヤ周方向に垂直に、深さ方向に切断し、切断面を倍率20〜400倍の光学顕微鏡で撮影し、100個以上の、気泡外周に樹脂からなる保護層が形成された長尺状気泡の直径を測定し、その平均値を算出し、該算出値を平均径(D)とした。
【0102】
得られた各タイヤのトレッドの発泡率は、以下のようにして求めた。即ち、各タイヤのトレッドからブロック状試料を切り出し、該ブロック状試料における密度ρ1 (g/m3 )を測定する。一方、無発泡ゴム(固相ゴム)の密度ρ0 を測定する。そして、式:発泡率=(ρ0 /ρ1 −1)×100(%)により算出した。
【0103】
各タイヤについて、以下のようにして氷上性能、耐摩耗性及びウェット性について評価した。その結果を表1及び表2に示した。
【0104】
<氷上性能>
氷上性能は、その指標として氷上制動性能で表す。各タイヤを国産1800CCクラスの乗用車に装着し、該乗用車を、平滑な乾燥路面(テストコース上)で慣らし走行(1000km)をさせた後、氷上(外気温−2℃)平坦路を走行させ、20km/hの時点でブレーキを踏んでタイヤをロックさせ、停止するまでの距離を測定した。結果は、次式にて指数表示した。
氷上性能指数=(実施例1の制動距離/試験タイヤの制動距離)×100
なお、数値が大きいほど氷上性能が良いことを示す。
【0105】
<耐摩耗性>
耐摩耗性は、各タイヤ2本を国産1800CCクラスの乗用車のドライブ軸に装着し、該乗用車を平滑な乾燥路面上(テストコース上)で所定の速度で走行させた後、該各タイヤの溝深さの変化量を測定し、実施例1のタイヤを100として指数表示した。なお、数値が大きいほど耐摩耗性が良いことを示す。
【0106】
<ウェット性>
ウェット性は、各タイヤを国産1800CCクラスの乗用車に装着し、該乗用車を水深3mmの湿潤コンクリート路面上で80km/hrの速度から急制動させ、車輪がロックされてから停止するまでの距離を測定し、実施例1のタイヤを100として指数表示した(ウェット性=(実施例1のタイヤの制動距離/各タイヤの制動距離)×100)。なお、数値が大きいほどウェット性が良いことを示す。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
なお、実施例1〜6及び比較例3〜9において、ゴム組成物の加硫時における加硫最高温度は、該ゴム組成物中に熱電対を埋め込んで測定したところ175℃であった。
実施例1〜6及び比較例3〜9における長尺状樹脂の融点は、前記ゴム組成物の加硫時における加硫最高温度よりも低くなっている。実施例1〜6及び比較例3〜5では、前記ゴム組成物の加硫時において、前記ゴム組成物の温度が加硫最高温度に達するまでの間に、前記長尺状樹脂の粘度が、前記ゴムマトリックスの粘度よりも低くなった(図7参照)。
【0110】
実施例1〜6及び比較例3〜9では、前記長尺状樹脂の前記加硫最高温度における粘度(溶融粘度)は、コーンレオメーターを用いて測定(スタート温度を190℃とし、5℃ずつ温度を下げながら発生するトルクを測定し、該トルクを長尺状樹脂の粘度として該粘度の温度依存性を測定し、得られたカーブから加硫最高温度における長尺状樹脂の粘度を読み取り、ゴムマトリックスの粘度と比較した。温度以外は、後述のゴムマトリックスの粘度の測定と同条件である。)したところ6であった。
また、実施例1〜6及び比較例3〜9では、前記ゴムマトリックスの前記加硫最高温度における粘度(流動粘度)は、モンサント社製コーンレオメーター型式1−C型を使用し、温度を変化させながら100サイクル/分の一定振幅入力を与えて経時的にトルクを測定し、その際の最小トルク値を粘度としたところ(ドーム圧力6.0kg/cm2、ホールディング圧力8.0kg/cm2、クロージング圧力8.0kg/cm2、振り角±5°)13であった。
【0111】
表1及び表2の結果から、以下のことが明らかである。即ち、
本発明で規定する要件を満たさない比較例の場合には、具体的には、長尺状気泡を有しない比較例1及び比較例2(比較例2の場合は、樹脂が加硫時に溶融しないため、長尺状気泡が形成されない)、ポリブタジエンゴムを用いない比較例3、ゴム成分100重量部に対し、カーボンブラックを55重量部よりも多く含有する比較例4とシリカを55重量部よりも多く含有する比較例5、天然ゴムを用いない比較例6、カーボンブラックを用いない比較例7、シリカを用いない比較例8、長尺状気泡における前記比(L/D)が3未満である比較例9、の各場合には、氷上性能、ウェット性及び耐摩耗性をバランスよく向上させることができないことが明らかである。
【0112】
【発明の効果】
本発明によると、前記従来における諸問題を解決することができる。また、本発明によると、走行条件等に左右されることなく、氷面との間に生ずる水の除去能力に特に優れ、氷面との間の摩擦係数が大きく、氷雪路面でのコーナリング性等の制動・駆動性能(氷上性能)と、湿潤路面での操縦安定性(ウェット性)と、乾燥路面での耐摩耗性とをバランス良く向上させたタイヤのトレッド等の氷上でのスリップを抑えることが必要な構造物等に好適に使用できるタイヤ用の加硫ゴム成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、長尺状樹脂の配向を揃える原理を説明する説明図である。
【図2】 図2は、本発明の加硫ゴム成形体の断面概略説明図である。
【図3】 図3は、本発明のタイヤの一部断面概略説明図である。
【図4】 図4は、本発明のタイヤの周面の一部概略説明図である。
【図5】 図5は、本発明のタイヤのトレッドの一部断面概略説明図である。
【図6】 図6は、温度(加硫時間)とゴムマトリックスの粘度及び長尺状樹脂の粘度との関係を示したグラフである。
【図7】 図7は、本発明のタイヤの摩耗したトレッドの一部断面拡大概略説明図である。
Claims (2)
- 天然ゴム20〜70重量部及びポリブタジエンゴム30〜80重量部を含むゴム成分、並びに、該ゴム成分100重量部に対しカーボンブラック5〜55重量部及びシリカ5〜55重量部を含むゴムマトリックス、加硫最高温度より融点の低い樹脂、及び発泡剤を含有するゴム組成物を加硫することにより得られ、
平均長さ(L)と平均径(D)との比(L/D)が小さくとも3であり、かつ樹脂層で被覆された長尺状気泡を有してなることを特徴とするタイヤ用の加硫ゴム成形体。 - 平均発泡率が3〜40%である請求項1に記載のタイヤ用の加硫ゴム成形体。
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