JP4605552B2 - 熱間スラブの鍛造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は熱間スラブの鍛造方法に関し、特に熱間圧延用素材である熱間鋼スラブを金型によって鍛造する熱間スラブの鍛造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱延鋼板は、通常、熱間スラブから圧延などにより製造されている。近年、熱間スラブに対し、材料入り側方向にテーパ部を持つ金型によって熱間スラブに鍛造を加える技術が開発されている。一例として、板厚プレスのように板厚方向から鍛造する技術がある。
【0003】
図4は、熱間スラブの鍛造に使用される一般的な金型の一部の側面図を示す。
なお、金型は熱間スラブを挟むように上下にそれぞれ配置された一対の金型からなるが、図1では便宜上片側の金型のみを示している。
金型1の側面は、材料送り方向と平行な平行部2と、材料の進行方向に対して入側に傾斜したテーパ部3と、平行部2及びテーパ部3間の遷移領域4からなる主加工面となっている。ここで、前記平行部2に対する前記テーパ部3の角度θは、通常12〜15度である。
【0004】
次に、こうした金型を用いて熱間スラブを鍛造する方法について図5(A)〜(C)を参照して説明する。この方法は、金型を材料長手方向(進行方向)に対し垂直方向、つまり材料の板厚方向隙間を周期的に変化させて材料から鍛造する方法である。
【0005】
まず、図5(A)に示すように金型1a,1bを熱間スラブ5の進行方向に対し垂直方向に配置した後、熱間スラブ5を金型1a,1b側に送る(nパス目 プレス前)。次に、図5(B)に示すように金型1a,1bにより熱間スラブ5をプレスする(nパス目 プレス中)。つづいて、図5(C)に示すように熱間スラブ5から金型1a,1bを離した後、熱間スラブ5を所定量送る((n+1)パス目 プレス前)。なお、図5(B)中、Hはプレス前の熱間スラブ5の板厚、hはプレス後の熱間スラブ5の板厚をそれぞれ示す。
【0006】
また、図5の方法以外に、フライングタイプのように材料がプレス中も連続的に長手方向に移動しており、材料との相対速度を小さくするため金型が長手方向に移動するものもある。
【0007】
しかし、上述した鍛造方法では、プレス時にスリップが発生することがあり、操業上問題となっている。つまり、図6(A)に示すようにプレス前の状態からプレスする際、図6(B)に示すように熱間スラブ5が圧下されず後退するという現象が生じていた。ところで、スリップが発生すると、熱間スラブ5が規定の送り量分の加工を受けないことになるため、プレス回数を増やさざるを得ず、操業能率が低下する。また、熱間スラブ5の表面にはスリップの痕が残るため、製品の表面品質を低下させる原因ともなる。
【0008】
実開平5−5201号には、スラブ側面に接する金型表面に溝や突起、穴加工を施すなどして摩擦係数を増加させ、スリップを抑制するプレス用金型について開示されている。しかし、この考案の場合、金型の加工に費用がかかったり、溝が磨耗すれば金型が使えなくなるため金型の交換頻度が高くなるといった問題があった。また、材料表面に金型表面の溝や突起が転写するため、特に板厚方向から鍛造を行う場合、疵の原因となりやすいという問題があった。
【0009】
特開平9−122706号には、プレス荷重や搬送ロールの送り量からスリップを検出し、スリップが発生したときに規定の送り量となるように材料の搬送をやり直すサイジングプレスのスリップ検出方法が開示されている。しかし、この発明の場合、板厚方向からの鍛造に際し、材料表面に対し何らかのダメージは避けられないという問題があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、こうした事情を考慮してなされたもので、熱間スラブと金型の接触開始面が、遷移領域中の傾斜角が5度以内の部分及び前記平行部の一部であり、前記金型の主加工面のうち少なくとも熱間スラブとの接触面に潤滑剤を塗布することにより、特別な金型加工することなく、プレス時にスリップが発生するのを回避しえる熱間スラブの鍛造方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、熱間スラブの進行方向に対し入側方向に12〜15度傾斜したテーパ部と、前記進行方向と平行な平行部と、前記テーパ部と前記平行部との間に傾斜部を有する遷移領域からなる主加工面を持つ金型を用いて前記熱間スラブを板厚方向から鍛造する方法において、前記熱間スラブと金型の接触開始面が、前記遷移領域中の傾斜角が5度以内の部分及び前記平行部の一部であり、前記金型の主加工面のうち少なくとも熱間スラブとの接触面に潤滑剤を塗布することを特徴とする熱間スラブの鍛造方法である。
【0012】
本発明において、前記金型の主加工面のうち少なくとも熱間スラブとの接触面には潤滑剤を塗布する。これは、金型の平行部から接触する場合には摩擦係数を低減させてもスリップが発生しないため、潤滑剤を用いることにより荷重低減を図ることにより非常に効果的であることに基づく。ここで、潤滑剤としては、例えば黒鉛や二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤を鉱物油(グリース)と混合したもの、鉱物油単独等、摩擦係数を低下させる作用を持つ熱間潤滑剤であれば種類を問わない。潤滑剤を塗布する箇所は、上記のように金型の主加工面のうち少なくとも熱間スラブとの接触面に施せばよいが、金型の長手方向の一部でも全体にわたって施してもよい。なお、金型表面の溝加工等で摩擦係数を変化させることは、金型表面が材料に転写し疵の原因となり得るため望ましくない。
【0013】
また、潤滑剤の塗布方法としては、例えば金型のテーパ部については、材料を鍛造して一旦金型のギャップを開き、次パスの鍛造に向けて規定量だけ材料を移動させている(送っている)に、材料の入側方向から金型のテーパ部に向けてノズルで潤滑剤を噴射することにより行う。一方、金型の平行部については、材料の出側方向から同様にして塗布する。同様に、金型の幅方向の端部から潤滑剤を噴射することにより、金型のテーパ部、平行部の両方に潤滑剤を塗布することが可能である。
【0014】
本発明において、鍛造された材料は入出側方向に伸びるため、金型の平行部はプレス時の送り量以上の長さを持つことが望ましい。また、本発明は、熱間スラブ先端から定常部を経て後端までのプレスのうち、特に定常部に用いるとスリップが防止でき効果的である。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、板厚プレス時の材料のスリップ発生について調査を行った。その結果、スリップは金型と材料(熱間スラブ)の接触開始時に発生し、ある程度圧下が進んだ状態ではスリップは発生しないことがわかった。ここで、鍛造では、圧下量や送り、金型テーパ角度により、金型と材料の接触箇所は金型の略平行部(本発明では、金型の平行部と、遷移領域中の傾斜角5度以内の部分を合わせて略平行部と呼ぶ)であったり、テーパ部であったりする。
【0016】
図1は、金型の接触開始面がテーパ部であるときの、接触開始時点で金型に働く力を模式的に示すものである。図1において、Pは金型1a,1bを熱間スラブ5に押し付ける外力を、Nは熱間スラブ5から金型に働く反力を、fは熱間スラブと金型間に働く摩擦力を示す。図1において、金型1a,1bがスリップせずに鍛造を続けるためには、図1の摩擦力fが圧下力のテーパ方向の分力P‖と等しくなければならない。そして、分力P‖が最大静止摩擦力μNを超えると、金型1a,1bと熱間スラブ5はスリップし始める。従って、スリップしない条件を熱間スラブ5と金型1a,1b間の摩擦係数μ及び角度θを用いて表すと、μ≧tanθとなる。なお、図1において、Hは熱間スラブ5のプレス前の板厚を、hは熱間スラブ5のプレス後の板厚を示す。
【0017】
熱間鍛造では、鍛造面の荒れのため材料と金型の接触状態が悪く、また鍛造面にスケールが発生するため材料と金型間の摩擦係数μは低いものとなる。従って、接触開始面が金型のテーパ部である場合は、スリップの発生頻度が高くなることになる。
【0018】
ところで、テーパ部の角度が15度以下であり、圧下量が大きくない場合あるいは材料の送り量が小さい場合には、一旦金型のテーパ部で鍛造した材料面を次周期の鍛造でも金型のテーパ部から接触させることが頻繁に発生するため、スリップする頻度が高くなる。
【0019】
また、発明者らの実験では、金型のテーパ部が5度程度の傾斜まではスリップは発生しなかった。これは、圧下力の入側方向の分力が小さいためと推測される。しかし、テーパ部の傾斜が5度以下であると、材料と金型の長手方向の接触長さが非常に大きくなり、荷重増加や鍛造と垂直方向(図の場合は幅方向)の変形の増加を招くため実用的でない。
【0020】
一方、図1に対し、図2のように金型1a,1bと熱間スラブ5の接触開始面が金型1a,1bの平行部2であるときは、圧下力のテーパ部方向の分力が働かないため、スリップは発生しない。また、発明者らの実験結果により、金型1a,1bの平行部2が5度程度の傾斜をもっていてもスリップが発生しないため、平行部2からテーパ部3への遷移領域4中、傾斜角が5度以内の部分から接触を開始してもスリップは発生しない。
【0021】
なお、金型の平行部から接触する場合には摩擦係数を低減させてもスリップが発生しないため、潤滑剤を金型の主加工面に塗布して荷重低減を図る等すると非常に効果的である。
【0022】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
本実施例では、図4に示すように入り側のテーパ部が1段の金型を用いた場合を示す。図3は、この1段の金型を用いた場合の、テーパ角と送り量と圧下量との関係を示す。図3において、(イ)は圧下量が50mmの場合を、(ロ)は圧下量が100mmの場合を、(ハ)は圧下量が150mmの場合をそれぞれ示す。図3の矢印の範囲(曲線の上側の範囲)であれば、プレス時にスリップが発生せず、安定してプレスが可能である。また、送り量、圧下量が一定で金型のテーパ角度のみを変更した場合を考えると、金型のテーパ角度の増加にしたがってプレス荷重は減少するから、図3の範囲でプレスを行うことによってプレス荷重の低減という効果もある。
【0023】
また、本発明の範囲内のプレス条件で潤滑剤を前記金型の主加工面のうち、平行部、テーパ部、主加工面全体に施して摩擦係数を低減させたときの荷重低減効果を調べたところ、平行部、テーパ部及び主加工面全体における荷重低減率はそれぞれ10%、20%、30%であった。このときも、スリップは発生せず、プレスの安定性を保ちながら潤滑剤による荷重低減を行うことが可能である。
【0024】
なお、上記実施例では、入り側のテーパ部が1段の金型の場合について述べたが、これに限らず、例えば図7に示すように入り側のテーパ部3が2段の傾斜を持つように多段の傾斜をもつ金型1a,1bにも適用できる。
【0025】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明による熱間スラブの鍛造方法によれば、熱間スラブと金型の接触開始面を、テーパ部と平行部間の遷移領域及び平行部の一部として鍛造することにより、特別な金型加工することなく、プレス時にスリップが発生するのを回避できる。従って、スリップ発生による操業上の問題を回避できる。また、同一圧下量、同一送り量で金型のテーパ角度を本発明範囲外から徐々に増加させることを考えると、本発明は金型のテーパ角度が大きくなる方向であるから、プレス荷重の低減にもなる。更に、金型表面に特殊な加工を施す必要がないため、金型加工費が安価となるし、スリップ発生時に必要な複雑な制御を行わなくてもよい。
【0026】
また、金型の主加工面の一部又は全体に潤滑剤を塗布して、主加工面の一部又は全体の摩擦係数を低下させてもスリップが発生しないため、プレスの安定性を保ちながら荷重低減を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】金型のテーパ部が材料と接触開始する時の説明図。
【図2】本発明による鍛造方法の説明図。
【図3】金型のテーパ角と送り量と圧下量との関係を示す特性図。
【図4】熱間スラブの鍛造に使用される一般的な金型形状の平面図。
【図5】従来技術による鍛造方法を工程順に示す説明図。
【図6】従来の鍛造方法によるスリップ発生の説明図。
【図7】2段テーパ金型の平面図。
【符号の説明】
1,1a,1b…金型、
2…平行部、
3…テーパ部、
4…遷移領域、
5…熱間スラブ。
Claims (1)
- 熱間スラブの進行方向に対し入側方向に12〜15度傾斜したテーパ部と、前記進行方向と平行な平行部と、前記テーパ部と前記平行部との間に傾斜部を有する遷移領域からなる主加工面を持つ金型を用いて前記熱間スラブを板厚方向から鍛造する方法において、
前記熱間スラブと金型の接触開始面が、前記遷移領域中の傾斜角が5度以内の部分及び前記平行部の一部であり、前記金型の主加工面のうち少なくとも熱間スラブとの接触面に潤滑剤を塗布することを特徴とする熱間スラブの鍛造方法。
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