JP4601127B2 - 医療用ゴム栓 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬品用容器の口部に適用する医療用ゴム栓に関し、より詳しくは、医療用容器、たとえば凍結乾燥製剤を保存するバイアルの開口部を密封または止栓する医療用ゴム栓に関する。
【0002】
【従来の技術】
医薬品用容器の口部に適用する医療用ゴム栓には高度の品質特性および物理的特性が要求される。たとえば、抗生物質などの製剤を保存するバイアルの開口部を密封または止栓する医療用ゴム栓に要求される品質特性は、その用途上、第13改正日本薬局方の輸液用ゴム栓試験に準拠すべきである。さらに、バイアルの開口部を密封などする医療用ゴム栓には、耐ガス透過性、非溶出性、高清浄性、耐薬品性、耐針刺性、自己密封性、高摺動性など多くの項目が必須とされている。
【0003】
バイアルの開口部を密封または止栓する医療用ゴム栓の場合は、その使用方法は下記に示すものである。すなわち、バイアル内に所定量の薬液を充填し、バイアルの開口部に医療用ゴム栓を半打栓状に嵌入したのち、凍結乾燥庫内の各棚に多数本整列して入れ、所定の条件(温度、真空度、時間)で凍結真空乾燥したのち、所定温度で所定時間乾燥し、凍結乾燥庫棚の押圧板にて医療用ゴム栓を押圧し、バイアルの口部に医療用ゴム栓を完全に嵌入させて施栓する。
【0004】
凍結真空乾燥用製剤は、空気および水分との接触を防止させる必要があり、密封保存中に外部からの空気などの侵入を遮断し、あるいはバイアル内部の気密性を維持するために、医療用ゴム栓の材料として、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ブチルゴムなどが一般に使用されている。そして、輸液を患者に投与する際、医療用ゴム栓の穿刺部に、薬液注入用の注射針を穿刺して使用する。
【0005】
近年、医薬品の薬価切下げに伴うコストダウンの一環として、生産性向上が急務となり、その方法として医薬品製造機械の高速化が進みつつある。そのため、医療用ゴム栓の必要特性において機械的搬送性、摺動性、高操作性などの向上が必要となった。
【0006】
また、ブチルゴムは、不飽和度が低く、架橋密度が低いため、弾性が劣っており、ゴム表面の粘着性が強い材料である。そのため医療用ゴム栓の材料としてブチルゴムを使用した場合、ブチルゴムのゴム栓は、凍結真空乾燥完了後、凍結乾燥庫棚の押圧板によってゴム栓を押圧して施栓する際、ゴム栓天面が押圧板に密着し、押圧板を上昇させた際に押圧板に密着したゴム栓と一緒にバイアルが吊り上げられ、数秒後に落下した際、周辺のバイアルを転倒させることとなり、凍結乾燥庫内からのバイアルの取り出し、次工程への搬送を阻害することとなる。
【0007】
そこで、ゴムの基本的特性である粘着性改善させるため、天面部をシリコーンでコーテイングした医療用ゴム栓が使用されていた。医療用ゴム栓の天面部をシリコーンでコーテイングすることで、天面部に摺動性を与えることが可能になり、医薬品製剤時における医療用ゴム栓の機械的搬送性を向上させることが可能になった。また、医療用ゴム栓の天面部をシリコーンでコーテイングすることで、ゴム栓の天面部と凍結乾燥庫棚の押圧板との密着性を少なくさせることができた。
【0008】
しかしながら、天面部にコーティングされたシリコーンの極微量物が医薬品製剤機械へ移行する場合や、ゴム栓足部(バイアル内へ入る部分)へ移行して微粒子の原因となることが問題となった。また、注射薬使用時薬液吸引のためにバイアルのゴム栓に注射針を刺す時に針の肉厚や仕上げ状態や形状などによつて、針刺フラグメントを発生する場合があり、このような針刺性が問題となった。
【0009】
そこで、天面部をフッ素樹脂フィルムでラミネートした医療用ゴム栓が提案された。天面部をフッ素樹脂フィルムでラミネートすることで、天面部の摺動性、機械搬送性を向上させることが可能になるとともに、微粒子の発生を低減することができた。一般に、針刺しフラグメントの発生とゴム栓との関連性は、ゴム栓の表面滑性度が高い程、フラグメントの発生が低い傾向にあることは周知の事実である。天面部をフッ素樹脂フィルムでラミネートした場合にあっては、天面部の表面滑性度を比較的向上させることができるので、注射針の穿刺時にそこから針刺しフラグメントの発生を防止することができた。さらに、天面部をフッ素樹脂フィルムでラミネートするのみならず、医療用ゴム栓の薬品接触部分へもフッ素樹脂フィルムでラミネートすることで、針刺しフラグメントの発生を一層低下させることが可能になったのである。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、フッ素樹脂フィルムを医療用ゴム栓の天面部にラミネートしたとしても、空気および水分の医療用容器内への侵入を十分に防止することは困難であった。特にフッ素樹脂フィルムの空気透過性は、樹脂フィルムの空気透過性の中でも十分低い値を示すものではない。近年、微量の空気に接触することで品質が変質する医薬品が開発されている。天面部をフッ素樹脂フィルムでラミネートした医療用ゴム栓を使用したとしても、医療用ゴム栓を通じて空気中の酸素が医療用容器内部へ侵入した場合にあっては、医薬品が酸素と酸化反応を起こし品質に変動を生じたいへん問題である。
【0011】
本発明は上述の問題を解決するものであり、医薬品製造時の機械的搬送性を担保し、ゴム栓の天面部と凍結乾燥庫棚の押圧板との密着性を防止し、注射針の穿刺時に針刺フラグメントの発生を防止し、さらに、医療用ゴム栓を通して空気および水分が医療用容器内部へ侵入することを十分に防止でき、医療用容器内部の医薬品が高度に保存状態を要求する場合であっても使用可能な医療用ゴム栓を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る医療用ゴム栓は、請求項1に記載のように、医療用容器の口部に適用され、注射器の注射針を穿刺可能とする穿刺部を有する医療用ゴム栓であって、前記医療用ゴム栓の天面部に、厚みが20〜200μmであるナイロンフィルム層を設けた医療用ゴム栓である。
【0013】
注射器の注射針を穿刺可能とする穿刺部があるから、注射薬使用時に薬液吸入のために医療用容器のゴム栓に注射器の注射針を刺すことができる。
【0014】
本発明に係る医療用ゴム栓は、天面部にナイロンフィルム層が設けてある。ナイロンフィルムは空気および水分の通過を高度に防止することが可能である。特に、ナイロンフィルムの空気透過性は、他の樹脂成分の空気透過性と比較して相当に低い値を有する。したがって、天面部にナイロンフィルム層を設けることで空気中に存在する酸素が医薬用容器内部に侵入することを防止できる。酸素の医薬用容器内部への侵入を防止できるから医薬品を酸化反応から防止でき、長期において安定に医薬品を保存できる。なお、酸素の気体透過係数P(10-113・m/m2・s・MPa)は、テフロンの場合は測定温度20℃で7.22であり、ポリエチレンの場合は測定温度30℃で4.2であるが、たとえばナイロン6の場合は測定温度30℃で0.0011である。また、二酸化炭素の気体透過係数P(10-113・m/m2・s・MPa)は、テフロンの場合は測定温度20℃で17.5であり、ポリエチレンの場合は測定温度30℃で19.2であるが、たとえばナイロン6の場合は測定温度30℃で0.0046である。なお、テフロンとは、ポリテトラフルオロエチレンのことであり、duPont社の商標である。
【0015】
前記ナイロンフィルム層の厚みは20〜200μmである。前記ナイロンフィルム層の厚みが20μmよりも小さい場合にあっては、空気および水分の透過を防止する観点からは厚みが不十分である。また、前記ナイロンフィルム層の厚みが20μmよりも小さい場合にあっては、厚みが薄いのでナイロンフィルムを医療用ゴム栓の天面部に形成する工程において取り扱いが困難である。さらにナイロンフィルム層の厚みが20μmよりも小さい場合、ナイロンフィルムの耐久性が不十分であり、ナイロンフィルム層を医療用ゴム栓の天面部に形成する工程においてナイロンフィルムを破壊する可能性も考えられる。
【0016】
一方、前記ナイロンフィルム層の厚みが200μmよりも大きい場合にあっては、空気および水分の透過を防止する観点からの厚みは十分であるものの、注射器の注射針を穿刺部に穿刺する際の穿刺抵抗が高くなる可能性がある。注射針の穿刺抵抗が高くなると医療用ゴム栓としての使用性に問題がある。また、樹脂フィルムに注射針を穿刺し、その後注射針を引き抜いた場合、注射針を穿刺した際に生じた孔である穿刺孔は、通常、樹脂フィルムに使用されている樹脂の弾性力により、その孔径が徐々に小さくなり最後に穿刺孔は閉じる。しかしながら、前記ナイロンフィルム層の厚みが200μmよりも大きい場合にあっては、注射針を穿刺した際に生じる穿刺孔は、注射針を引き抜いた後であっても閉じにくくなる。そのため、注射針を引き抜いた後、医療用容器内部の医薬品が空気に接触する可能性がでてしまう。したがって、医療用ゴム栓の天面部に設けられたナイロンフィルム層の厚みは、20〜200μmである。
【0017】
また、本発明に係る医療用ゴム栓は、請求項2に記載のように、請求項1記載の発明において、前記ナイロンフィルム層は、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン621、ナイロン11、ナイロン12、共重合ナイロン、モノマーキャスティングナイロン、ナイロンMXD、ナイロン46のうち少なくともいずれか一つを成分とするナイロン樹脂で形成されたナイロンフィルム層である医療用ゴム栓である。
【0018】
ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン621、ナイロン11、ナイロン12、共重合ナイロン、モノマーキャスティングナイロン、ナイロンMXD、ナイロン46のうち少なくともいずれか一つを成分とするナイロン樹脂で前記ナイロンフィルム層を形成した場合にあっては、医療用ゴム栓を通して特に空気が医療用容器内部へ侵入することを十分に防止でき、医療用容器内部の医薬品が十分な乾燥状態を要求する場合であっても問題なく医療用ゴム栓を使用することができる。
【0019】
また、本発明に係る医療用ゴム栓は、請求項3に記載のように、請求項1または2項に記載の発明において、前記ナイロンフィルム層は、充填剤が配合されたものである医療用ゴム栓である。
【0020】
医療用ゴム栓の天面部に形成されるナイロンフィルム層に、充填剤を配合することで、より一層性能が改善され当該分野で用いるに適し、非常に優れた品質と衛生性を有する医療用ゴム栓を得られることが可能になる。
【0021】
前記充填剤としては、有機系充填剤もしくは無機系充填剤を使用することが可能である。前記充填剤として無機系充填剤を使用した場合の利点の一つとして、医療用ゴム栓に使用されるゴム材質の架橋の際における熱伝導性を向上させることが可能となり、架橋が均一に行われ、医療用ゴム栓の製品としての変形防止効果を示す。
【0022】
前記充填剤のナイロン樹脂に対する配合量は、ナイロン樹脂100重量部に対し5〜20重量部添加することができる。充填剤の配合量が20重量部を超えると、医療用ゴム栓の表面から充填剤の微粒子が生じることになり好ましくなく、5重量部未満では、充填剤を加えたことによる効果を奏し難い。
【0023】
また、本発明に係る医療用ゴム栓は、請求項4に記載のように、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記ナイロンフィルム層は、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)がコーティングされたものである医療用ゴム栓である。
【0024】
医療用ゴム栓の天面部に設けられるナイロンフィルム層に、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)をコーティングしてポリ塩化ビニリデンコートナイロンフィルム層を作製し、そのポリ塩化ビニリデンコートナイロンフィルム層を医療用ゴム栓の天面部に設けた場合にあっては、医療用ゴム栓の耐水分透過性および耐空気透過性をさらに改善させることが可能になる。
【0025】
なお、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)には、塩化ビニリデン/塩化ビニル共重合体と、塩化ビニリデン/アクリル酸エステル系共重合体との2種類があるが、いずれの場合であっても耐水分透過性および耐空気透過性を向上させることが可能である。
【0026】
【発明の実施の形態】
図1は本発明に係る医療用ゴム栓10の一具体例の概略断面図である。医療用ゴム栓10は、天板1と栓脚2とを備えて構成される。天板1は、注射器の注射針を穿刺可能とする穿刺部3と医療用容器4の容器口の上縁面4aに接するフランジ部1bとを有する。栓脚2は、天板1の下面に突出し、医療用容器口内に嵌入される。また、栓脚2は略円筒状形状を有し、切り欠き7が設けられている。医療用ゴム栓10の天板1の天面部にはナイロンフィルム層6が設けられている。前記ナイロンフィルム層の厚みは20〜200μmの範囲内に設定しておく。医療用ゴム栓10の天面部にナイロンフィルム層6を設けることで、医薬品製造時の機械的搬送性を担保でき、さらにゴム栓の天面部と凍結乾燥庫棚の押圧板との密着性を防止できた。また、医療用ゴム栓10の天面部にナイロンフィルム層6を設けることで天面部の表面滑性度を上昇させることができ、注射針の穿刺時に針刺フラグメントの発生を防止できた。
【0027】
ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン621、ナイロン11、ナイロン12、共重合ナイロン、モノマーキャスティングナイロン、ナイロンMXD、ナイロン46のうち少なくともいずれか一つを成分とするナイロン樹脂で前記ナイロンフィルム層を形成することが可能である。
【0028】
ナイロン6は、イプシロンカプロラクタムの開環重合によって作られる。開環重合に使用する重合器はステンレス製の2重筒を用いることが可能である。重合温度を260℃として、上部から水分10〜20%のラクタム液を流下させると連続的に重合させることが可能である。純ラクタムを重合させると15時間要するが、5〜6%のアミノカプロン酸を添加し、触媒とすれば反応時間は短縮される。粘度安定剤として1/200モルの酢酸を加えることも可能である。
【0029】
ナイロン66は、ヘキサエチレンジアミンとアジピン酸との重縮合により製造される。ヘキサメチレンジアミン水溶液にこれと等量のアジピン酸塩を加え、ナイロン塩水溶液とし、ろ過計量後、蒸発缶で水分30〜40%まで濃縮してから重合槽に移すことで重合させることが可能である。たとえば、578部のナイロン塩にヘキサメチレンジアンモニウム酢酸0.35部を粘度安定剤として加え、24.7部の蒸留水とともにオートクレーブに入れ、窒素置換した後、210℃、17.6気圧で2.5時間加熱した後、放圧しつつ280℃に上げ、常圧で1.5時間重合反応させることでナイロン66を得ることが可能である。
【0030】
ナイロン610は、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸との重縮合により製造される。ナイロン610は、ナイロン66に比べ酸組成分のメチレン鎖が長いので融点が低く(約250℃)、吸湿も小さい。したがって、高湿度下においての強度の低下が小さいなどの特徴をもっている。
【0031】
共重合ナイロンは、カプロラクタムとAH塩との共重合により製造される。共重合ナイロンの物性はカプロラクタムとAH塩との組成割合により種々変化する。たとえば、AH塩60%・カプロラクタム40%の共重合物はアルコール可溶で、一般には接着用フィルムとして用いられる。
【0032】
モノマーキャスティングナイロンは、モノマーであるイプシロンカプロラクタムを熔融し、塩基性触媒を添加した後、大気圧下で直接金型へ柱型し、重合成型を同時に行なうことで得ることが可能である。
【0033】
ナイロンMXD6は、メタキシレンジアミンとアジピン酸とから得られる結晶性の熱可塑性ポリマーであり、ナイロン6、ナイロン66とは多少性質が異なる。一般にガラス繊維、無機質フィラーなどで強化された複合材料として数々の優れた性質を有することが見出されている。
【0034】
ナイロン46は、オランダのDSM社が開発し、商品名をスタニルといい、1,4−アミノブタンとアジピン酸の重合反応から得ることが可能である。アクリロニトリルとシアン化水素を反応させコハク酸ニトリルを作り、それを水素添加して、1,4−ジアミノブタン(DAB)をつくる。次に、1,4−ジアミノブタン(DAB)とアジピン酸から塩類を作り、それを水のなかで中圧の下に低分子のプレポリマーに変え、そのプレポリマーを固体で回収する。次の工程でそれを窒素と蒸気の雰囲気下で約250℃に加熱する。このようにしてナイロン46を得ることが可能である。
【0035】
ナイロン612は、カプロラクタムとラウリルラクタムとの重縮合により得ることが可能である。ナイロン11は、11−アミノウンデカン酸の重縮合により製造される。性質はナイロン12より吸湿性が少し大きく、融点が若干高いなどの点を除いては、ほぼナイロン12に類似している。ナイロン12は、シクロヘキサノンを原料としてパーオキシアミン、シアノウンデカン酸を経てアミノドデカン酸を得て、これを重合することで得ることが可能である。また、ブタジエンを原料として光合成法を含む数次の工程を経てラウリンラクタムを得て、これを精製し重合することで得ることも可能である。
【0036】
前記ナイロンフィルム層6には、充填剤を配合することが可能である。充填剤としては、有機系充填剤もしくは無機系充填剤を使用することが可能である。
【0037】
無機系充填剤としては、アルミニウム、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀などの金属粉、シリカ、ケイ藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化ベリリウムなどの酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、アルミネート水和物などの水酸化物、タルク、クレイ、マイカ、アスベスト、ベントナイト、ゼビオライト、ケイ酸カルシウム、モンモリロナイトなどのケイ酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトなどの炭酸塩、硫酸塩硫酸カルシウム、亜硫酸塩硫酸カルシウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウムなどの硫酸塩を使用することが可能であり、さらに、二硫化モリブデン、チタン酸カリウム、炭化ケイ素なども無機系充填剤として使用できる。
【0038】
また、有機系充填剤としては、リンター、リネン、サイザル木粉、絹、皮革粉、コラーゲン繊維、ビスコース、アセテート、ビニロン、テフロン粉などを使用することができる。
【0039】
なお、充填剤として鉛などの重金属は多量に配合することは望ましくない。本発明に係る医療用ゴム栓の使用分野において重金属の過度の存在は好ましくない場合があるからである。また、このように充填剤の配合を考慮することで衛生性が高く、各種公定書の規格に合格する医療用ゴム栓となるのである。
【0040】
医療用ゴム栓10の天面部に設けられるナイロンフィルム層6に、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)をコーティングすることが可能である。ポリ塩化ビニリデン(PVDC)をナイロンフィルム層にコーティングする手法としては、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)のフィルムを作製して、ポリ塩化ビニリデンフィルムをナイロンフィルム層にラミネート加工する手法を採用することが可能である。なお、ポリ塩化ビニリデン樹脂は、塩化ビニル、アクリル酸エステル、アクリロニトリル、酢酸ビニルなどとの共重合体として製造することが可能であり、製造方法は、懸濁重合、乳化重合法による過酸化物を用いたラジカル重合法で行なうことが可能である。また、ポリ塩化ビニリデンフィルムは、一般に、透明で、耐薬品性および耐水性に優れ、ガスや湿気を通さない性質を有する。
【0041】
ラミネート加工の手法としては、たとえば、ウェットラミネーション、ドライラミネーション、押出しラミネーションなどを採用することが可能である。
【0042】
ウェットラミネーションとは、ラミネーションを行なうとき、溶液型の接着剤を用いて行なう手法をいう。有機溶液タイプの接着剤(ウレタンなど)、水系エマルジョン(アクリルエマルジョンなど)などを使用することが可能であり、一方のフィルムに塗布した後、加熱して溶剤を蒸発させ、またはそのまま張り合わせる。
【0043】
ドライラミネーションとは、プラスチックフィルムなどを接着剤を介して積層する方法の一種で、接着剤溶液を塗布し、その溶剤を乾燥した後で接着する方法をいう。接着剤としてはポリウレタン系あるいはイソシアネート系のものを用いることが可能であり、トルエン、酢酸エチル、ヘキサンなどの溶剤を用いることが可能である。
【0044】
押出しラミネーションとは、押出機を使用して基材に薄膜状のポリマーを積層する手法をいう。基材にはプラスチックフィルムなどを使用し、防水や表面改質など目的に応じて積層材料や厚さが選択される。一般的に、長尺に巻かれた原反を巻戻機で巻き戻し、押出機の先端にTダイを取り付けて、熔融ポリマーを基材にフィルム状に載せ、冷却ロール、ニップロール、バックアップロールからなるラミネート部で、ロール圧着してラミネートする。
【0045】
ナイロンフィルム層6を医療用ゴム栓10の天面部に設ける手法としては、ナイロンフィルムを、医療用ゴム栓の天面部にラミネートする手法を採用することが可能である。ナイロンフィルムを医療用ゴム栓の天面部にラミネートする手法としては、上述したような、ウェットラミネーション、ドライラミネーション、押出しラミネーションなどを採用することが可能である。
【0046】
医療用ゴム栓10の天面部にラミネートするナイロンフィルムは、2軸延伸されたものであることが望ましい。2軸延伸は具体的には下記に示す方法で行なうことが可能である。すなわち、ナイロンフィルムの未延伸シートを作製し、その未延伸シートは、まず第一軸方向に延伸される。延伸は一段階または二段階以上で行うことができる。次に、第二軸方向、すなわち第一軸方向と直交する方向に一軸配向フィルムを一旦ガラス転移点以下に冷却するか、または冷却することなく予熱して延伸を行い、二軸に配向したフィルムを得る。なお、第一軸方向の延伸を2段階以上で行うことは、良好な厚さ均一性を達成できるので好ましい。また、横延伸した後、さらに長手方向に再延伸する方法も可能である。かくして得られたフィルムを熱処理する。この際、熱処理工程内または熱処理後に長手方向または横方向、あるいは両方向に再延伸を行ってもよい。このようにしてナイロンフィルムを作製する。
【0047】
図2は、医薬品を充填した容器4の開口部4bを医療用ゴム栓10で封止した状態を示している。本実施形態では、容器4として、凍結乾燥製剤を保存するバイアルを使用している。容器4内に収容する液体医薬品が注射用薬液の場合には、天板1の穿刺部3に注射器の注射針を刺し、医療用ゴム栓10を開けずに注射器に注射用薬液を吸入するようにしている。このように、医療用ゴム栓10を開けないのは、容器4内の注射用薬液に異物が混入するのでそれを避けるためである。
【0048】
天板1の上には、容器4の開口部4bと医療用ゴム栓10とを覆うことができる金属製または樹脂性のキャップ5が設けられている。医療用ゴム栓10を、開口部4bを含んでキャップ5で密閉するのは、注射器の注射針を刺す場所の穿刺部3に黴菌が付着して注射針から黴菌が注射用薬液に混入するのを防止するためである。キャップ5の種類として、フリップオフキャップやプルトップキャップやクリーンキャップなどを使用することができる。病院のように注射用薬液を多量に使用する場合には、片手で開封できしかも操作が容易なクリーンキャップを用いることが好適である。
【0049】
キャップ5の材質としては、ASTM−D2117による測定方法で融点が100〜500℃の熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物を用いることができる。この理由は、射出成形により容易に成形できるからである。具体的には、たとえば、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテル・エーテルケトン、エチレン・プロピレン共重合体、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、液晶ポリエステル(LCP)、ポリフェニレンエーテル(PPE)または変性ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレン(PE)、ポリブチレンフタレート、ポリサルフォン(PS)、ポリエーテルサルフォン(PES)、超高分子量ポリエチレン、環状オレフィン系化合物または架橋多環式炭化水素を重合体成分とする共重合体などから選ばれる1以上からなる合成樹脂またはその組成物が挙げられる。また、栓体を構成する熱可塑性エラストマーに有機系補強剤または無機系補強剤を配合した熱可塑性樹脂を用いると、非常に高硬度で高強度のキャップ5となる。
【0050】
図3は、医療用ゴム栓10を用いて、容器4内に充填した医薬品原料薬液を除菌状態で濃縮乾燥または凍結真空乾燥(以下、濃縮または凍結真空乾燥という)に付している状態を示す概略断面図である。
【0051】
栓脚2の先端側から栓脚2の中途位置までを容器4の開口部4b内に嵌挿し、医療用ゴム栓10を半打栓状態に保持している。このとき、切り欠き7の最深部7aは開口部4b上縁より上に位置するように設計してあるので、該切り欠き7が容器内外を連通する通気路を形成し、原料薬液からの蒸気は容器4内から外部へ排気される。
【0052】
凍結乾燥庫内での凍結真空乾燥は、通常、温度−30〜−45℃にして薬液を凍結後、真空度1〜0.03Torrおよび温度−20℃〜+30℃に保持し、12〜36時間の範囲内で一次乾燥を行う。さらに、温度を+20℃〜+40℃に保持し、1〜6時間の範囲内で二次乾燥することにより製剤の凍結真空乾燥が終了する。
【0053】
医薬品が完全に乾燥した後、当該濃縮・乾燥機槽または凍結真空乾燥機付槽内において直ちに医療用ゴム栓10を打栓器などにより白抜き矢印方向に押圧すると、医療用ゴム栓10全体が開口部4b内に嵌挿される。なお、押圧板とゴム栓の天面は直接接触して打栓される。したがって、医療用ゴム栓10は、滅菌環境下の濃縮・乾燥機槽または凍結真空乾燥機付槽内において、乾燥後直ちに簡単な操作すなわちワンアクションで完全な密封封止および固定ができる。医療用ゴム栓10の押圧は、凍結乾燥庫棚のステンレス鋼製の押圧板によって行なわれる。この時の施栓の条件は、バイアル1個当たり押圧力1〜5kg、押圧時間1〜10分、押圧回数1〜2回程度が一般的である。
【0054】
図2に示されるように、医療用ゴム栓10が開口部4b内にはめ込まれると、フランジ1bの下面が、医療用容器4の容器口の上縁面4aに密着して開口部4bを完全に封止する。キャップ5は開口部4bの外周に係合固着して開口部4bと医療用ゴム栓10を内包して両者を一体に固定する。医療用ゴム栓10の施栓が完了したバイアルは、凍結乾燥庫内から取り出され、次工程に搬送してゴム栓にキャップ5を巻締めて、止栓し製剤を得る。
【0055】
本発明の容器4の材質は、ガラスやプラスチックなど、この種分野において公知のものを用いることができる。
【0056】
本発明に係る医療用ゴム栓10のナイロンフィルム層6が設けられる天面部には、突起物を設けることも可能である。医療用ゴム栓の洗浄、滅菌および乾燥時にゴム栓とゴム栓との密着防止や、押圧板とゴム栓との密着防止などのために突起物は設けられるのである。突起物の形状や設ける位置については、特に限定されておらず、たとえば、T字状突起物、蒲鉾状突起物など種々の突起物を設けることが可能である。突起物の断面形状は平板と接触する際、線接触する形状であることが好ましい。線接触する形状である場合、頂部が稜線を形成する。また、突起物の形状として、たとえば、五角形状が採用し得る。さらに平面図において、長方形、正方形、楕円形などとなる突起物を採用できる。
【0057】
突起物は天面部に複数、たとえば3〜15個、好ましくは3〜8個配置され、押圧板でゴム栓を嵌入する場合、所定の荷重を保持できるようにすることが望ましい。突起が3個より少ないと、ゴム栓の天面と押圧板とが密着しやすくなり、一方、15個を超えると突起の効果が低くなり、かえってゴム栓天面と押圧板とが密着しやすくなる。
【0058】
なお、製剤をバイアル内で凍結真空乾燥後、凍結乾燥庫内でバイアル開口部4bに半打栓のまま保持された医療用ゴム栓10を、凍結乾燥庫棚の押圧板によりバイアル口内に完全に嵌入して施栓する際、天板1が押圧板に密着しないようにするために、突起物を円弧状に設けることが好適である。ここで、押圧板とゴム栓の天面とは直接接触して打栓される。
【0059】
図4は本発明に係る医療用ゴム栓10の別の具体例の概略断面図である。医療用ゴム栓10は穿刺部3を有する。医療用ゴム栓10の天面部にはナイロンフィルム層6が設けられている。医療用ゴム栓10は支持体12に組み付けられている。組み付け方法としては、予め射出成型された支持体12に医療用ゴム栓10を嵌合するか、あるいは所定形状の医療用ゴム栓10と外側支持体12aとを金型内に設置して内側支持体12bを射出成型する。
【0060】
なお、ナイロンフイルム6を、医療用ゴム栓10の天面部に設ける前に、天面部の表面をたとえばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、グロー放電処理、アーク放電処理、スパツタエツチングなどの公知技術によりあらかじめ処理しておくことが好ましい。
【0061】
本発明に係る医療用ゴム栓10を構成するゴム材料は、エポキシ化スチレン−共役ジエンブロック共重合体、カルボキシル化スチレン−共役ジエンブロック共重合体または水酸基含有スチレン−共役ジエンブロック共重合体、またはこれらのブロック共重合体に水素添加したブロック共重合体などの熱可塑性エラストマー(以下ブロック共重合体エラストマーという)を単独または2種以上の混合物で構成される。ただし、エポキシ化ブロック共重合体エラストマーと、カルボキシル化ブロック共重合体エラストマーの混合物においては、両者の官能基が反応してフィルムとの接着性が低下するため、必ずしも望ましくない場合もある。
【0062】
ここで共役ジエンとしては、たとえばブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンなどの中から1種または2種以上が選択でき、中でもブタジエン、イソプレンおよびこれらの組合せが好ましい。
【0063】
具体的なブロック共重合体エラストマーの分子鎖基本骨格としては、たとえばスチレン−イソプレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SIBS構造)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS構造)、そのブタジエンの二重結合部分を水素添加したスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS構造)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS構造)、そのイソプレン二重結合部分を水素添加したスチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS構造)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン(SEEPS構造)およびそれらを変成したものなどが挙げられる。
【0064】
なお、上述のSIBS構造、SBS構造、SEBS構造、SIS構造、SEPS構造、SEEPS構造におけるスチレンの含量は共重合体中5〜50重量%、特に15〜45重量%の範囲が好ましい。5重量%より少ないとプラスチックフィルムとの密着性が悪くなり、一方50重量%より多いと材料の柔軟性が低下し、注射針を突き刺すことが困難となるとともに自己シール性も低下するなど優れたゴム栓が得にくくなる。
【0065】
本発明では、上記SIBS構造、SBS構造、SEBS構造、SIS構造、SEPS構造、SEEPS構造の共重合体の分子鎖の一部に、エポキシ基、カルボキシル基、または水酸基を含有している。たとえばエポキシ基を含有するポリブタジエンブロックを有するスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(ESBS構造)とは、基本構造を式(1)に示す如く両末端にポリスチレンを持つブロック共重合体で、その中間部分がエポキシ基を含有するポリブタジエンである。さらに式(1)のポリブタジエン部分の二重結合の一部または全部に水素添加したものであってもよい。また、エポキシ基を含有するポリイソプレンブロックを有するスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(ESIS構造)とは、両末端にポリスチレンを持つブロック共重合体で、その中間部分がエポキシ基を含有するポリイソプレンであり、そのポリイソプレン部分の二重結合の一部または全部に水素添加したものであってもよい。
【0066】
【化1】
Figure 0004601127
【0067】
式(1)において、m,n,oはいずれも、1〜10,000の範囲の整数であり、m,n,oは相互に同じであっても異なってもよい。
【0068】
なお、カルボキシ基または水酸基は、ブロック共重合体の分子鎖末端もしくは分子鎖内側の少なくともいずれか一方に有する。
【0069】
SBS構造、SIS構造などのブロック共重合体のエポキシ基、カルボキシル基または水酸基含有量は、0.05〜10モル%、特に0.2〜5モル%であることが好ましい。上記エポキシ基などの官能基が0.05モル%よりも少ないと、フッ素樹脂などのプラスチックフィルムとの親和性が低下し、密着性および接着力が改善できない。一方10モル%を超えるとゴム成分との混合分散が悪化し、均質な物性のゴム栓が得られない。
【0070】
エポキシ基を分子鎖に含有するスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(ESBS構造)として、たとえばダイセル化学工業(株)からエポフレンドA1010、ESBS A1010、ESBS A1020などの商品が市販されている。
【0071】
またエポキシ基を分子鎖に含有するポリブタジエンブロックの一部に、水素添加したスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体として、ダイセル化学工業(株)からESBS AT018、ESBS AT019などの商品が市販されている。
【0072】
また分子鎖末端に水酸基が付加したスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS構造)として、たとえば(株)クラレからHG−252の商品が市販されている。
【0073】
さらに分子鎖にカルボキシル基を付加した水素添加のスチレン−ブタジエン共重合体(SEBS構造)として、たとえばシェルジャパン社からクレイトンG FG1901Xの商品が市販されている。
【0074】
次に、医療用ゴム栓10を構成するゴム材料には、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ブタジエンゴム、アクリルニトリルゴム、クロロプレンゴムなどが単独または2種以上混合して用いることが可能である。
【0075】
そして、前記ブロック共重合体エラストマーは、ゴム成分とブロック共重合体との合計100重量部に対して2〜30重量部、好ましくは5〜20重量部配合される。2重量部未満ではプラスチックフィルムとの密着性および接着性の改善は認められず、一方30重量部を超えると、ゴム栓の基本特性である針刺性、再シール性、コアリングなどの総合的なバランスが劣ることになる。
【0076】
本発明に係る医療用ゴム栓10を構成するゴム材料の重合には架橋剤を使用することができる。架橋剤としては、脂肪族または脂環族系過酸化物を配合することができる。脂肪族または脂環族系過酸化物としては、たとえば3,3,5−トリメチルヘキサノンパーオキシド,ジイソブチリルパーオキシド、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン,2,5−ジメチル2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン,2,5−ジメチル2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3,n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレイト,ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネートなどが挙げられる。また、架橋助剤として、たとえばトリエチレングリコールジメタアクリレート,トリメチロールプロパントリメタアクリレート,1,2−ポリブタジエン,ビニルトリメトキシシラン,ビニルトリアセトキシシラン,γ−メタアクリルオキシプロピルトリメトキシシラン,γ−グリシドオキシプロピル−トリ−メトキシシランなどを配合することも可能である。
【0077】
また、本発明に係る医療用ゴム栓10を構成するゴム材料として、イソプレンゴム、イソプレン−イソブチレン共重合体、イソプレン−イソブチレン共重合体のハロゲン化物、イソプレン−イソブチレンに第三成分との共重合ゴム、ブタジエンゴム、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−第三成分共重合体、天然ゴム、ウレタンゴム、熱可塑性エラストマーから選ばれる1以上を主成分とする組成物を使用することが可能である。これらのゴム材料は、圧縮歪が小さく耐熱性を有する弾性体であり、本発明品には常温での高い密封性のみならず、高圧蒸気殺菌(温度125〜140℃)または熱風殺菌(温度170〜180℃)などの過酷な環境にも微細変形もなく耐えうる特性を満足することが可能である。
【0078】
日本薬局方第13改正輸液用ゴム栓試験法による規格に適合するよう、使用するゴム成分に応じ、架橋剤、助剤などを選択して架橋を行なう。
【0079】
そのような架橋剤としては下記に示すものを使用することが可能である。すなわち、一分子中にアクリロイル基を2個以上含有する化合物としては、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリ(またはペンタ)アクリレート、ε−カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールトリ(またはテトラ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジアクリレート、ジグリシジルビスフェノールAジアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(またはヘキサ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、2−プロペノイック酸〔2−〔1,1−ジメチル−2−〔(1−オキソ−2−プロペニル)オキシ〕エチル〕−5−エチル−1,3−ジオキサン−5−イル〕メチルエステル、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンジアクリレート、トリアリル(またはイソ)トリシアヌレート、トリアリルトリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジ(またはテトラ)エチレンジアクリレート、ビス(4−アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、1,5−ペンタンジオールジアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレートなどを使用することができる。
【0080】
また、一分子中にメタクリロイル基を2個以上含有する化合物としては、たとえばエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートアリルメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェノル)プロパン、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、エチレンジメタクリレート、1,3−ブチレンジメタクリレート、1,4−ブチレンジメタクリレートなどが挙げられる。
【0081】
また、一分子中にイタコノイル基を2個以上含有する化合物としては、たとえばペンタエリスリトール・ジ・トリ・イタコレート(イタコノイル基2個または3個のものの混合物)、ジペンタエリスリトールイタコレート(イタコノイル基数が3個,4個,5個,6個のものの混合物)が挙げられる。
【0082】
なお、本発明では、上述のゴム材料に加えて、架橋促進剤および焼成クレー、シリカ、金属酸化物、カーボンブラックなどの無機充填剤、オイルなどを適宜配合することができる。
【0083】
医療用ゴム栓10において栓脚2などの医薬品と接触する可能性のある部分の表面に医薬品を汚染しない合成樹脂、たとえばフッ素系合成樹脂またはポリエチレンなどのフィルムを積層して栓体からの溶出物などによる医薬品の汚染を防止することも可能である。
【0084】
ラミネートするフッ素系樹脂フイルムとしては、たとえば、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体(PFA)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTPE)、ポリビニルフルオライド(PVF)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが挙げられる。
【0085】
ラミネートするに用いるフッ素系樹脂フイルムの厚さは0.01〜0.2mmが好ましく、0.01mm未満では加工時に破損し、製品保証が不充分になる惧れがあり、一方0.2mmを越えると剛性が強すぎて、自己密封性および針刺性が不適である。
【0086】
また、医療用ゴム栓10において医薬品と接触する可能性のある部分の表面に、ナイロンフィルム層を設けることも可能である。ナイロンフィルム層は、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン621、ナイロン11、ナイロン12、共重合ナイロン、モノマーキャスティングナイロン、ナイロンMXD、ナイロン46のうち少なくともいずれか一つを成分とするナイロン樹脂で形成されたものを使用可能である。ナイロンフィルム層の厚みは20〜200μmとすることが可能である。ナイロンフィルム層は、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)でコーティングすることが可能である。
【0087】
図1に示す構造の医療用ゴム栓10の天面部に、種々の厚さのナイロンフィルム層などを設けて、空気透過指数および水分透過指数を測定した。医療用ゴム栓10のゴム材料としては、ポリイソプレンゴムを使用した。天面部にナイロンフィルム層6を設けていない医療用ゴム栓を比較例1とし、天面部に厚み15μmのナイロンフィルム層6を設けた医療用ゴム栓を比較例2とし、天面部に厚み50μmのナイロンフィルム層6を設けた医療用ゴム栓を実施例1とし、天面部に厚み100μmのナイロンフィルム層6を設けた医療用ゴム栓を実施例2とし、天面部に厚み50μmのETFEフィルム層を設けた医療用ゴム栓を比較例3とした。なお、ETFEフィルムとは、エチレン/テトラフルオロエチレンフィルムである。
【0088】
空気透過指数は、JIS K 7126 A法の空気透過性の試験を行なうことで求めた。JIS K7126 A法は差圧法であり、気体透過度測定装置を用いて試験を行なうものである。気体透過度測定装置は、試験片に気体を透過させるための透過セル、透過した気体による圧力変化を検知する圧力検出器、透過セルに気体を供給するための試験気体供給器、セル容積可変器、真空ポンプなどから構成されたものである。
【0089】
透過セルは、上部と下部とから構成され、これに試験片を取り付けたとき透過面積が一定になるものである。上部セルは、試験気体の導入口をもち、下部セルは、圧力検出器に接続している。試験片接着面は、リークが起こらないように滑らかで、平らなものを使用した。透過面の直径は、10〜150mmとした。圧力検出器は、低圧側の圧力変化を5Pa以下の精度で測定できるものを使用した。圧力検出には水銀を用いた真空計、その他のマノメータ、隔膜型電子センターなどを使用できる。水銀を用いた圧力検出器を使用する場合、水銀は、3回まで蒸留し直して使用することができるが、絶えず汚れをチェックし、必要があれば、新しいものに取り替えた。試験気体供給器は、試験気体をためておくタンクで、ここから高圧側セルに気体を供給するものである。タンク内の圧力を測定するために、100Pa以下の精度の圧力計をもち、透過によって高圧側の圧力が低下するのを防止できる容量を有するものを使用した。なお、セル容積可変器は、透過度の測定範囲を広げるために、増量タンクやセルアダプターなどのセル容量可変器を使用し、低圧側の容積を調節することも可能である。試験気体は、日本工業規格で制定された純度をもつものを使用した。真空ポンプは、測定系内を10Pa以下の圧力に排斥できる真空ポンプを使用した。
【0090】
操作方法は下記に示すように行なった。すなわち、透過面積と同じ大きさのろ紙を下部セルに敷く。試験片装着面に真空グリースを薄く塗り、その面に試験片をしわおよびたるみが生じないように装着した。試験片の上にパッキンをセットし、空気漏れが生じないように均一な圧力で固定した。真空ポンプを作動させ、初めに低圧側、次に高温側を排気した。排気時間は、試験片の種類および状態調整の方法によって異なるので注意を要した。そして、低圧側の排気を止めて真空に保った。試験気体を高圧側に焼く気圧導入する。このときの高圧側の圧力Puを記録する。低圧側の圧力が上昇し始め、透過が確認される。透過曲線を描き、透過の定常状態を示す直線部分が確認されるまで測定を続ける。透過曲線の直線部分の傾きから(dp/dt)を求め、下記に示す数1から気体透過度GTRを求めた。
【0091】
【数1】
Figure 0004601127
【0092】
なお、GTR(mol/m2・s・Pa)は気体透過度で、Vc(l)は低圧側容積で、T(K)は試験温度で、Pu(Pa)は供給気体の差圧で、A(m2)は透過面積で、(dp/dt)は単位時間(s)における低圧側の圧力変化(Pa)で、Rは8.31×103(l・Pa/K・mol)である。
【0093】
なお、気体透過係数P(mol・m/m2・s・Pa)は、下記に示す数2から計算することができる。
【0094】
【数2】
Figure 0004601127
【0095】
なお、d(m)は試験片の厚さである。
空気透過指数は、比較例1に係る気体透過度を基準値100として、比較例2、比較例3、実施例1、実施例2に係る気体透過度を相対的な割合として求めた。この空気透過指数を表1に示した。
【0096】
つぎに、水分透過指数は、JIS Z 0208 B法の透湿度試験を行なうことで求めた。透湿度とは、一定時間に単位面積の膜状物質を通過する水蒸気の量をいい、この規格では、温度25℃または40℃において防湿包装材料を境界面とし、一方の側の空気を相対湿度90%、他の側の空気を吸湿材によって乾燥状態に保ったとき、24時間にこの境界面を通過する水蒸気の質量(g)を、その材料1m2あたりに換算した値をその材料の透湿度という。
【0097】
透湿カップは、下記に示す条件のものを使用した。すなわち、透湿面積は25cm2以上とし、その透湿面積を明確に規定できるようなものであった。透湿面積はリングの内径から計算した。材質は水蒸気が不透過性のものであって、かつ試験条件において腐食などを生じないものであった。また、操作中に変形などの生じない十分な剛性を有するものであった。試験片の周縁の密封は完全にできるものであった。
【0098】
恒温恒湿装置は、規定の温湿度に保たれた空気が試験片上を0.5〜2.5m/sの速度で循環できる装置であった。試験を行なった温湿度条件は、温度40±0.5℃で、相対湿度90±2%であった。
【0099】
化学はかりは、カップの質量を0.1mgまでひょう量できるものであった。
また、吸湿材は、塩化カルシウムを使用し、粒度はJIS Z 8801の呼び寸法2380μmを通過し、590μmにとどまるものを使用した。
【0100】
封ろう剤は、以下の条件を満たすものを用いた。すなわち、試験片およびカップの内縁から容易に剥離せず、封かん操作が容易であるものであった。また、室温で、もろくなく、給水、吸湿性がなく、酸化のおそれがないもの。そして、封ろう剤は、上述の温湿度条件のもとに露出して、軟化変形がなく、その露出表面積が50cm2の場合、24時間で1mg以上質量変化のないものであった。試験片は、使用するカップの内径よりも約10mm大きい直径をもつ円形のもので、同一試料からは3枚以上の試験片を切り取って試験に供した。
【0101】
試験操作は下記に手順で行なった。カップを清浄に乾燥したのち約30〜40℃まで暖めた。吸湿剤を入れたさらをカップに入れて水平に保ったカップ台にのせた。このとき吸湿剤の表面はできるだけ平らにして、試験片の下面との距離が約3mmとなるようにした。つぎに試験片をカップと同心円になるような位置にのせた。ガイドをカップ台のみぞにあわせてかぶせた。ガイドに合わせて試験片がカップの上縁に密着するまでリングを押し込み、その上におもりをのせた。リングが移動しないように注意してガイドを垂直に引上げて取り除いた。カップを水平に回転しながら、熔融した封ろう剤をカップの周縁のみぞに流しこみ試験片の縁を封かんした。封ろう剤が固化してからおもりおよびカップ台を取り除き、封かん部分以外に付着した封ろう剤は適当な溶剤をしみこませた布により清浄して取り除き試験体とした。試験体を上述の試験条件に保った恒湿恒温装置中にいれた。16時間以上試験体を恒湿恒温装置中に置いた後取り出して室温と平衡させ、化学はかりでその質量を測定した。試験体を再び恒温恒湿装置中に入れ、適当な時間間隔でカップを取り出してひょう量する操作を繰り返してカップの質量増加を測定した。このときの二つの連続するひょう量でそれぞれ単位時間当りの質量増加を求め、それが5%以内で一定になるまで試験を続けた。
【0102】
透湿度は、下記に示す数3によって算出した。
【0103】
【数3】
Figure 0004601127
【0104】
なお、s(cm2)は透湿面積で、t(h)は試験を行なった最後の二つのひょう量間隔の時間の合計で、m(mg)は試験を行なった最後の二つのひょう量間隔の増加質量の合計である。
【0105】
水分透過指数は、比較例1に係る透湿度を基準値100として、比較例2、比較例3、実施例1、実施例2に係る透湿度を相対的な割合として求めた。この水分透過指数を表1に示した。
【0106】
つぎに、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、比較例3のそれぞれの医療用ゴム栓10について、ゴム栓成形性を観測した。ここでゴム栓成形性とは、医療用ゴム栓10の天面部の仕上がり状態をいい、仕上がり状態の結果として形状が良いものを○で示した。一方、ナイロンフィルム層6のナイロンフィルムが破けた、もしくは、ナイロンフィルム層6のナイロンフィルムに皺が発生した場合は×で示した。このゴム栓成形性の結果を表1に示した。
【0107】
【表1】
Figure 0004601127
【0108】
本発明に係る医療用ゴム栓は、空気透過指数が相当に低いものであり、空気が医療用ゴム栓を通過して医薬用容器内の医薬品に到達することを防止でき、その結果、医薬用容器内の医薬品が空気中の酸素と接触して酸化反応により品質に変化が生じることを防止できる。また、本発明に係る医療用ゴム栓は、水分透過指数が相当に低いものであり、水分が医療用ゴム栓を通過して医薬用容器内の医薬品に到達することを防止できる。さらに、本発明に係る医療用ゴム栓は、天面部に形状性良くナイロンフィルム層を設けることができた。
【0109】
一方、比較例2に係る医療用ゴム栓は、空気透過指数を所定値に抑えることはできるものの、天面部に形状性良くナイロンフィルム層を設けることは困難であった。また、比較例1に係る医療用ゴム栓は、空気透過指数および水分透過指数の双方において満足できる値を示すものではなかった。比較例3に係る医療用ゴム栓は、比較例1に係る医療用ゴム栓と比較した場合、空気透過指数および水分透過指数の双方において低い値を示すものであったが、空気透過指数および水分透過指数の双方において満足できる値を示すものではなかった。
【0110】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0111】
【発明の効果】
医薬品製造時の機械的搬送性を担保し、ゴム栓の天面部と凍結乾燥庫棚の押圧板との密着性を防止し、注射針の穿刺時に針刺フラグメントの発生を防止し、さらに、医療用ゴム栓を通して空気および水分が医療用容器内部へ侵入することを十分に防止できた。したがって、輸液用器具、注射器、透析装置および薬容器などの高度な衛生製品において図りし得ない利益をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る医療用ゴム栓を説明する概略断面図である。
【図2】 医療用容器の開口部を本発明に係る医療用ゴム栓で封止した状態を示している概略断面図である。
【図3】 医療用ゴム栓を用いて、医療用容器内に充填した医薬品原料薬液を除菌状態で濃縮乾燥または凍結真空乾燥に付している状態を示す概略断面図である。
【図4】 本発明に係る医療用ゴム栓を説明する概略断面図である。
【符号の説明】
1 天板、1b フランジ部、2 栓脚、3 穿刺部、4 容器、4b 開口部、5 キャップ、6 フィルム、7 切り欠き、10 医療用ゴム栓。

Claims (4)

  1. 凍結乾燥製剤保存用の医療用容器の口部に適用され、注射器の注射針を穿刺可能とする穿刺部を有する医療用ゴム栓であって、
    前記医療用ゴム栓の天面部に、厚みが20〜200μmであるナイロンフィルム層を設け
    前記医療用ゴム栓を構成するゴム材料にブチルゴムを用いる、医療用ゴム栓。
  2. 前記ナイロンフィルム層は、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン621、ナイロン11、ナイロン12、共重合ナイロン、モノマーキャスティングナイロン、ナイロンMXD、ナイロン46のうち少なくともいずれか一つを成分とするナイロン樹脂で形成されたナイロンフィルム層である請求項1記載の医療用ゴム栓。
  3. 前記ナイロンフィルム層は、充填剤が配合されたものである請求項1または2記載の医療用ゴム栓。
  4. 前記ナイロンフィルム層は、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)がコーティングされたものである請求項1〜3のいずれか1項記載の医療用ゴム栓。
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