JP4588526B2 - N−メタクリロイルアジリジン系重合体ならびにその重合体の製造方法 - Google Patents

N−メタクリロイルアジリジン系重合体ならびにその重合体の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は反応性のアジリジニル基を有する新規な重合体およびその製造方法に関し、詳しくは接着剤や塗料、シーリング剤などの硬化(架橋)システムなど幅広い用途に利用可能な新規N−メタクリロイルアジリジン系重合体およびその製造方法に関する。
古くから様々な単量体の重合性が確認されてきた。それらのなかでN,N−ジアルキルメタクリルアミド誘導体の重合性についても幾つかの報告例があるが、その重合不能性が明らかにされている。非特許文献1では、N,N−ジアルキルメタクリル誘導体のラジカル重合とアニオン重合を検討しており、N,N−ジメチルメタクリルアミドならびにN,N−ジエチル、N−メチル−N−フェニル、N−エチル−N−フェニル、N,N−ジフェニル、N−ピペリジル、N−モルホリルの種々のメタクリルアミド誘導体のいずれもがラジカル重合ならびにアニオン重合で重合体が得られず、単量体が回収されたことを報告している。
また、非特許文献2では、N,N−ジメチルメタクリルアミドならびにN−メタクリロイル−N’−メチルピペラジンの重合性が検討されており、レドックス系開始剤を用いた水溶液中での重合で重合物が得られたと報告されているが、収率や得られた重合体の分子量など詳細な記述はされていない。また、前記単量体のアニオン重合についても検討されており、開始反応は起るものの、単独重合体は得られない。このようにN,N−ジアルキルメタクリルアミド類は単独重合しないというのが一般的な認識となってきている。
こうした背景の下で、特許文献1に見られるように、N−メタクリロイルアジリジン系化合物はα,β‐エチレン性不飽和化合物との共重合だけが試みられている。
それらの報告例の中で唯一、N,N−ジアルキルメタクリルアミド誘導体から重合物が得られたとする報告が非特許文献3である。この非特許文献3では、N−メタクリロイルアジリジンのラジカル重合ならびにアニオン重合について検討されており、いずれの場合も高収率で重合体が得られたと報告している。しかしながら、この報告においても、分子量や分子量分布などの詳細な重合物の解析は行われておらず、N−メタクリロイルアジリジンのみから重合物が得られることについても詳細な議論を行っていない。
横田健二、織田純一郎、工業化学雑誌、73、224(1970) X.Xie,T.E.Hogen−Esch,Macromolecules,29,1740(1996) Y.Okamoto,H.Yuki,J.Polym.Sci.Polym.Chem.Ed.,19,2647(1981) 特公昭63−48881号公報
本発明は、N−メタクリロイルアジリジン系化合物の重合性、特にアニオン重合により、分子量分布が狭く、分子量が制御され、化学構造の明確なN−メタクリロイルアジリジン系重合体の合成を目的とし、接着剤や塗料、シーリング剤などの硬化(架橋)システムなど幅広い用途に利用可能な新規N−メタクリロイルアジリジン系重合体及びその製造方法を確立することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々の研究を重ねた結果、N,N−ジアルキルの二つのアルキル基が互いに結合して環を形成したアジリジン環を有するメタクリルアミド系化合物を重合させて得られる重合体が、分子量分布が狭く、分子量が制御され、明確な化学構造を有することを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下(1)〜(4)のN−メタクリロイルアジリジン系重合体ならびにその重合体の製造方法を提供する。
(1)下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有し、数平均分子量(Mn)が3,000〜1,000,000であり、かつ、分子量分布(Mw/Mn、Mwは重量平均分子量)が1.5以下であるN−メタクリロイルアジリジン系重合体。
Figure 0004588526
(式中、R1〜R4は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基およびt−ブチル基から選ばれ、かつR1〜R4の全部が水素原子であることはない。)
(2)分子量分布(Mw/Mn)が1.2以下である(1)のN−メタクリロイルアジリジン系重合体。
(3)(1)または(2)に記載のN−メタクリロイルアジリジン系重合体の製造方法であって、下記一般式(II)で表されるN−メタクリロイルアジリジン系化合物をアニオン重合し、該アニオン重合に際して、下記の(1)または(2)の化合物を用いることを特徴とするN−メタクリロイルアジリジン系重合体の製造方法。
(1)重合開始剤として1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウム、及び重合添加剤として塩化リチウム
(2)重合開始剤としてジフェニルメチルカリウム
Figure 0004588526
(式中、R1〜R4は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基およびt−ブチル基から選ばれ、かつR1〜R4の全部が水素原子であることはない。)
一次構造が明確であり、反応性を有するアジリジニル基を有する新規な重合体が得られ、接着剤や塗料、シーリング剤などの硬化(架橋)システムなど幅広い工業用途に利用可能である。
本発明のN−メタクリロイルアジリジン系重合体は、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するものである。
Figure 0004588526
式中、R1〜R4は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基およびt−ブチル基から選ばれ、かつR1〜R4の全部が水素原子であることはない。R1〜R4はそれぞれ同一でも異なってもよい。
本発明のN−メタクリロイルアジリジン系重合体の数平均分子量(Mn)は、重合体の精製や取り扱い性等の点から3,000〜1,000,000であり、好ましくは10,000〜500,000である。
また、本発明のN−メタクリロイルアジリジン系重合体の分子量分布(Mw/Mn、Mwは重量平均分子量)が1.5以下である必要があり、好ましくは1.2以下である。分子量分布(Mw/Mn)を1.5以下とすることにより、重合体の溶解性など基本的な物性のばらつきが小さくなるので、種々の用途に応用展開が期待される。また、特に分子量分布(Mw/Mn)を1.2以下のように狭くした場合には、重合体中のアジリジニル基の含有量がより明確となるので、接着剤や塗料、シーリング剤などのより精密な硬化(架橋)システムの設計が可能になる。
次に本発明のN−メタクリロイルアジリジン系重合体の製造方法について説明する。
本発明のN−メタクリロイルアジリジン系重合体は一般式(II)で表されるN−メタクリロイルアジリジン系化合物単量体を付加重合することにより製造される。
Figure 0004588526
式中、R1〜R4は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基およびt−ブチル基から選ばれ、かつR1〜R4の全部が水素原子であることはない。R1〜R4はそれぞれ同一でも異なってもよい。
この重合体の単量体、すなわち、一般式(II)で表されるN−メタクリロイルアジリジン系化合物単量体は公知の方法により製造することができる。
特公平4−65059号公報の「N−置換アクリルアミドまたはメタクリルアミド類の製造方法」及びそれに引用されている引例では、N−メタクリロイルアジリジン系化合物単量体は、下記一般式(III)で表されるメタクリル酸ハライド
Figure 0004588526
(式中、Xは塩素原子又は臭素原子を表す)
を、下記一般式で表されるアジリジン系化合物(IV)
Figure 0004588526
と、トリアルキルアミン類等を反応助剤として用い、反応させることによって製造できることを示している。
本発明のN−メタクロイルアジリジン系化合物の具体的な例としては、N−メタクロイル−2−メチルアジリジン、N−メタクロイル−2−エチルアジリジン、N−メタクロイル−2,2−ジメチルアジリジン、N−メタクロイル−2,3−ジメチルアジリジン、N−メタクロイル−2−(n−プロピル)アジリジン、N−メタクロイル−2−(n−ブチル)アジリジンなどが挙げられる。
本発明のN−メタクリロイルアジリジン系重合体の製造には、原料として高純度の単量体を用いる必要があり、減圧蒸留ないし真空蒸留などによって精製したものが好適に用いられる。なお、この精製蒸留には、重合禁止剤のメチレンブルーや、水素化カルシウムなどを用いることが好ましい。
付加重合工程において採用可能な重合方法としては、必ずしも特定の重合方法に限られるものではなく、例えば、通常のラジカル重合法、SFRP(stable free radical polymerization)法、RAFT(Reversible Addition−Fragmentation Transfer)重合法、ATRP(atom transfer radical polymerization)法、GTP(group transfer polymerization)法、アニオン重合法等が挙げられる。中でも、得られる重合体の分子量分布が狭く、また、単量体の重合転化率が高い等の点から、アニオン重合法が好ましい。
重合方法として、通常のラジカル重合法、SFRP法、RAFT重合法、ATRP法、GTP法等のラジカル重合法を採用した場合、それぞれの重合法において公知の重合開始剤系を使用することができ、例えば、ラジカル重合法で使用する開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを挙げることができる(J.Am.Chem.Soc.,123,7180−7181(2001)参照)。
また、上記アニオン重合法に用いられる重合開始剤としては、必ずしも特定のものに限られるものではなく、公知のアニオン重合開始剤を用いることができ、例えば、有機リチウム化合物、有機ナトリウム化合物、有機カリウム化合物、および有機マグネシウム化合物等の有機金属化合物を挙げることができる。
これらのアニオン重合開始剤の中で、重合開始効率が高く、また、重合反応が円滑に進行する点において、アルキルリチウム、アリールリチウム、アルキルナトリウム、アリールナトリウム、アルキルカリウム、アリールカリウム、が好ましく、中でもs−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウム(s−ブチルリチウムと1,1−ジフェニルエチレンの1:1付加物)、ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレン、ジフェニルメチルカリウムが特に好ましい。
アニオン重合開始剤として、上記の重合開始剤の1種を単独使用してもよく、また、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は必ずしも限定されるものではないが、重合開始剤を、使用する単量体の合計100モルに対して0.01〜5モルの範囲内となる割合で用いることが、目的とする重合体を円滑に製造できる点から好ましい。
重合に際しては、溶媒を用いなくてもよいが、重合系を均一にするために用いることが好ましい。そのような溶媒としては、ペンタン、n−ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アニソール、ジフェニルエーテル等のエ−テル化合物等が挙げられる。これらの中でも、前記重合開始剤、原料の単量体、助触媒としての有機化合物、重合体等の溶解性に優れているという観点から、上記エ−テル化合物が好ましく用いられ、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンが特に好ましい。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
アニオン重合においては、重合を速やかに進行させることを目的に、重合系内に通常用いられる重合添加剤を添加してもよい。該重合添加剤としては、例えば、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリエチルホウ素、トリフェニルホウ素などのルイス酸類、ジメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、12−クラウン−4,15−クラウン−5,18−クラウン−6等のエーテル化合物;トリメチルアミン、N,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N′,N",N"−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、ピリジン、2,2′−ジピリジル等の有機窒素化合物;トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホシフィノ)エタン等の有機リン化合物;塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;リチウム(2−メトキシエトキシ)エトキシド、カリウムt−ブトキシド等のアルコキシド化合物;テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラエチルホスホニウムクロリド、テトラエチルホスホニウムブロミド等の有機四級塩等が挙げられる。これらの上記重合添加剤は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。重合添加剤の添加量は、アニオン重合開始剤1.0モルに対して1.0〜50モル、好ましくは2.5〜25モルである。
重合反応は、重合形式(ラジカル重合、アニオン重合等)によらず、高真空下、若しくは、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。また、重合反応系が均一となるように、十分な撹拌条件下で重合を行うことが好ましい。重合時の反応系の温度は、通常−100〜100℃であり、好ましくは−80〜80℃である。
本発明においては、例えば重合反応により目的とする分子量の重合体が形成された段階で、重合停止剤を反応混合物に添加することによって、重合反応を停止させることができる。かかる重合停止剤としては、例えば、メタノール、イソプロパノール、酢酸、塩酸のメタノール溶液等のプロトン性化合物を使用することができる。重合停止剤の使用量は特に限定されるものではないが、一般には、使用した重合開始剤1モルに対して1〜100モルの範囲内となる割合で用いることが好ましい。
重合反応を停止させた後、反応混合物から目的のN−メタクリロイルアジリジン系重合体を分離取得する方法としては、特に限定されず、公知の方法に準じた任意の方法を採用することができる。例えば、反応混合物を重合体の貧溶媒に注いで重合体を沈殿させ取得する方法、反応混合物から溶媒を留去して重合体を取得する方法等が採用可能である。
本発明のN−メタクリロイルアジリジン系重合体の製造方法においては、単量体への保護基の導入や重合体の脱保護の工程などの煩雑な工程が不要で、ビニル重合体のみを効率良く製造することができる。
本発明のN−メタクリロイルアジリジン系重合体は、重合に際してアジリジン環が開環せずに、メタクリロイル基の二重結合がビニル重合した構造である。アジリジン環が保持されているため、接着剤や塗料、シーリング剤などの硬化(架橋)システムなど幅広い用途に利用可能である。
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各実施例における物性値の測定法は以下の通りである。
また、(a)及び(b)において、核磁気共鳴装置(NMR)は次の仕様のものを用いた。
装置:BRUKER GPX300(300MHz)
重溶媒:CDCl31H:7.26ppm、13C:77.1ppm)
(a)化学構造の確認
単量体(N−メタクリロイル−2−メチルアジリジン)及びその重合体の化学構造を確認するために各試料の1H−NMRと13C−NMRを測定した。
(b)数平均分子量(Mn
重合開始剤の末端官能基部分と1H‐NMR測定から得られる重合体の繰返し構造単位に含まれる官能基部分との面積比から算出した。
なお、この1H‐NMR測定により算出される数平均分子量(Mn)の実測値(実測分子量)とは別に、重合開始剤の末端官能基部分と単量体/重合開始剤モル比から算出される分子量の計算値(設計分子量)を求め、分子量が設計通りに得られているかを確認した。
(c)分子量分布(Mw/Mn
下記のゲル浸透クロマトグラフ(GPC装置)において、移動相としてN,N‐ジメチルホルムアミド(DMF、ヨウ化リチウム0.01モル/L添加品)を用い、カラム温度40℃、送液速度1.0mL/分で測定し、標準ポリスチレン(Mn=36900、9610)を用いて換算した。
装置:TOSOH HLC‐8120(DMF溶媒)、カラム:TSK‐GEL GMHxl ×2+G2000XL
(d)赤外吸収スペクトル
装置:フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR−460Puls(日本分光株式会社製)
測定方法:KBr錠剤法
実施例1
(1)単量体(N−メタクリロイル−2−メチルアジリジン)の合成
窒素雰囲気下で500mLの二口ナスフラスコにプロピレンイミン(2−メチルアジリジン)8.19g(143ミリモル)とトリエチルアミン14.7g(145ミリモル)を120mLの脱水エーテルで希釈した混合溶液に、メタクリル酸クロリド14.8g(142ミリモル)の脱水エーテル溶液20mLを氷浴下にて20分間かけて滴下し、滴下終了後に氷浴を外して、さらに100mLの脱水エーテルを加え、室温にて5時間撹拌を行った。生成した塩酸塩を吸引ろ過にてろ別し、留出温度61〜62℃、圧力14mmHgにて減圧蒸留を行った。さらに水素化カルシウム存在下、留出温度51〜52℃、圧力9.0mmHgにて減圧蒸留を行い、無色透明の液体であるN−メタクリロイル−2−メチルアジリジン9.92g(79.4ミリモル、収率56%)を得た。
(2)単量体の精製
得られたN−メタクリロイル−2−メチルアジリジンの留分を高真空ラインで水素化カルシウム存在下、蒸留した後、テトラヒドロフランで希釈してブレークシールを備えたアンプル中に溶封した。ここで得られた最後の蒸留の成分について、1H−NMR及び13C−NMR測定を行った。図1に1H−NMRの測定結果、図2に13C−NMRの測定結果を示す。1H−NMRスペクトルのシグナルに付されたa、b、c等は、該スペクトルに記された構造式のa、b、c等が付された水素原子に帰属されるものであり、また13C−NMRのシグナルに付されたa、b、c等は、該スペクトルに記された構造式のa、b、c等が付された炭素原子に帰属されるものである。これら1H−NMR及び13C−NMR測定結果から、該留分は目的とするN−メタクリロイル−2−メチルアジリジンであることが確認された。また、ガスクロマトグラフィーにより、該留分はほぼ単一成分であることが確認された。
(3)単量体の重合
上記(2)で得られた精製N−メタクリロイル−2−メチルアジリジンの重合は、ブレークシール法によるアニオン重合により10-6mmHgの高真空下、−78℃で72時間行った。重合開始剤にはs−ブチルリチウム/1,1−ジフェニルエチレンの付加物(sBuLi/Ph2C=CH2)を用い、溶媒には少量のシクロヘキサンを含むテトラヒドロフランを用いた。また、重合添加剤(以下、添加剤という)として塩化リチウム(LiCl)を添加した。単量体、重合開始剤及び添加剤の使用量を第1表に示す。所定時間アニオン重合を行った後、ガラス製重合容器を開封し、イソプロパノールを少量添加して重合を停止した。さらに得られた重合溶液を多量のn−ヘキサン中に注ぎ込み、重合体を沈殿させた。この沈殿させた重合体をろ別し、乾燥させた後、収量を測定した。また、乾燥させた重合体をテトラヒドロフランに再溶解し、多量のn−ヘキサン中に注ぎ込み、再沈殿精製を行った。最後にベンゼンに溶解してから凍結乾燥を行い、1H−NMR及び13C−NMR測定を行った。重合条件及び重合結果、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)の測定結果を第1表に示す。また、図3に精製した重合体の1H−NMR、図4に13C−NMR、図5に赤外吸収スペクトル及び図6にゲル浸透クロマトグラムの各測定結果を示す。図3中、1H−NMRスペクトルのシグナルに付されたa、b、c等は、それぞれ該スペクトルに記された構造式のa、b、c等が付された水素原子に帰属されるものであり、また、図4中、13C−NMRのシグナルに付されたa、b、c等は、それぞれ該スペクトルに記された構造式のa、b、c等が付された炭素原子に帰属されるものである。
図3及び図4に示したNMRスペクトルから精製した重合体は、ビニル重合体のみからなり、アジリジニル基はアニオン重合に関与せず、定量的に残存していることが確認された。
図5に示した赤外吸収スペクトルにおいて、1,123cm-1付近に見られるアジリジニル基のC−N伸縮振動に帰属されるシグナルと、2,987cm-1付近に見られるアジリジニル基のC−H伸縮振動に帰属されるシグナルからも、得られた重合体がアジリジニル基を含有していることが確認された。また、第1表と図6から、得られた重合体は分子量分布が極めて狭く、数平均分子量の実測値と設計値がほぼ近い値を示していることが確認された。
実施例2
実施例1の(3)単量体の重合において、単量体、重合開始剤及び添加剤の量を第1表に示すように変更し、重合温度を−40℃、重合時間を5時間とした以外は実施例1と同一の重合条件でアニオン重合を行った。重合結果、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)の測定結果を第1表に示す。
実施例1と同様にして得られた重合体を精製し、1H−NMR、13C−NMR及び赤外吸収スペクトルを測定したところ、精製した重合体はビニル重合体のみからなり、アジリジニル基はアニオン重合に関与せず、定量的に残存していることが確認された。
実施例3
実施例1の(3)単量体の重合において、単量体、重合開始剤及び添加剤の量を第1表に示すように変更し、重合時間を15時間、重合開始剤としてジフェニルメチルカリウム(Ph2CHK)を用い、塩化リチウムを用いなかったこと以外は実施例1と同一の重合条件でアニオン重合を行った。重合結果、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)の測定結果を第1表に示す。
実施例1と同様にして得られた重合体を精製し、1H−NMR、13C−NMR及び赤外吸収スペクトルを測定したところ、精製した重合体はビニル重合体のみからなり、アジリジニル基はアニオン重合に関与せず、定量的に残存していることが確認された。
比較例1
実施例1の(3)単量体の重合において、単量体をN,N−ジメチルメタクリルアミド(市販品(東京化成工業株式会社製)を同様の操作で精製したもの)に変更し、単量体、重合開始剤及び添加剤の量を第1表に示すように変更した以外は実施例1と同一の重合条件でアニオン重合を行った。重合条件および重合結果、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)の測定結果を第1表に示す。
比較例2
比較例1において、単量体、重合開始剤及び添加剤の量を第1表に示すように変更し、重合温度を0℃とした以外は比較例1と同一の重合条件でアニオン重合を行った。重合条件および重合結果、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)の測定結果を第1表に示す。
比較例1及び2において、環形成していないN,N−ジアルキルメタクリルアミドがアニオン重合で重合物を与えないことを確認できた。
Figure 0004588526
実施例4(単量体の逐次添加重合)
上記の実施例1の(2)で得られた精製N−メタクリロイル−2−メチルアジリジンの重合は、ブレークシール法によるアニオン重合により10-6mmHgの高真空下、−40℃で5時間行った。重合開始剤にはs−ブチルリチウム/1,1−ジフェニルエチレンの付加物を用い、溶媒には少量のシクロヘキサンを含むテトラヒドロフランを用いた。また、重合系への添加剤としては塩化リチウムを添加した。単量体、重合開始剤及び添加剤の使用量を第2表に示す。5時間アニオン重合を行った後、重合溶液を−78℃に冷却し、重合溶液の16容量%を分取した。残存した重合溶液を再び−40℃に戻し、精製N−メタクリロイル−2−メチルアジリジンを重合系内に所定量(4.66ミリモル)再添加して、−40℃で5時間行った。その後、ガラス製重合容器を開封し、分取した重合溶液(プレポリマー溶液)と精製N−メタクリロイル−2−メチルアジリジンを再添加した重合溶液(ポストポリマー溶液)それぞれにイソプロパノールを少量添加して重合を停止した。得られた重合溶液をそれぞれ多量のn−ヘキサン中に注ぎ込み、重合体を沈殿させた。この沈殿させた重合体をろ別し、乾燥させた後、収量を測定した。また、乾燥させた重合体をテトラヒドロフランに再溶解し、多量のn−ヘキサン中に注ぎ込み、再沈殿精製を行った。最後にベンゼンに溶解してから凍結乾燥を行い、1H−NMR及び13C−NMR測定を行った。重合条件及び重合結果、数平均分子量(Mn)、分子量分布の測定結果を第2表に示す。1H−NMR、13C−NMR及び赤外吸収スペクトルを測定結果から、プレポリマー及びポストポリマーは共にビニル重合体のみからなり、アジリジニル基は定量的に残存していることが確認された。また、図7に得られたプレポリマーとポストポリマーのゲル浸透クロマトグラムの比較を示す。狭い分子量分布を保ったまま、分子量が増加していることが分かる。
Figure 0004588526
実施例1、(2)で得られたN−メタクリロイル−2−メチルアジリジンの1H−NMRの測定結果を示すチャートである。 実施例1、(2)で得られたN−メタクリロイル−2−メチルアジリジンの13C−NMRの測定結果を示すチャートである。 実施例1、(3)で得られたポリN−メタクリロイル−2−メチルアジリジンの1H−NMRの測定結果を示すチャートである。 実施例1、(3)で得られたポリN−メタクリロイル−2−メチルアジリジンの13C−NMRの測定結果を示すチャートである。 実施例1、(3)で得られたポリN−メタクリロイル−2−メチルアジリジンの赤外線吸収スペクトルを示すチャートである。 実施例1、(3)で得られたポリN−メタクリロイル−2−メチルアジリジンのゲル浸透クロマトグラムである。 実施例4で得られたプレポリマー及びポストポリマーのゲル浸透クロマトグラムの比較を示す。点線がプレポリマーのもので、実線がポストポリマーのものである。

Claims (3)

  1. 下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有し、数平均分子量(Mn)が3,000〜1,000,000であり、かつ、分子量分布(Mw/Mn、Mwは重量平均分子量)が1.5以下であるN−メタクリロイルアジリジン系重合体。
    Figure 0004588526
    (式中、R1〜R4は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基およびt−ブチル基から選ばれ、かつR1〜R4の全部が水素原子であることはない。)
  2. 分子量分布(Mw/Mn)が1.2以下である請求項1記載のN−メタクリロイルアジリジン系重合体。
  3. 請求項1または2に記載のN−メタクリロイルアジリジン系重合体の製造方法であって、
    下記一般式(II)で表されるN−メタクリロイルアジリジン系化合物をアニオン重合し、該アニオン重合に際して、下記の(1)または(2)の化合物を用いることを特徴とするN−メタクリロイルアジリジン系重合体の製造方法。
    (1)重合開始剤として1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウム、及び重合添加剤として塩化リチウム
    (2)重合開始剤としてジフェニルメチルカリウム
    Figure 0004588526
    (式中、R1〜R4は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基およびt−ブチル基から選ばれ、かつR1〜R4の全部が水素原子であることはない。)
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