以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
また、以下の説明では、本発明に係る積層型光起電力素子として、光起電力素子を2つ積層した太陽電池を例に説明するが、本発明はこれに限るものではなく、光起電力素子を3つ以上積層した場合にも適用できるものである。
図3は、第1の本発明(参考発明)の実施形態の1つである2層積層型の光起電力素子300の断面構造を示す概略図である。反射層を積層した金属等の基板301上に第2の光起電力素子302、第2の酸化亜鉛層303、第1の酸化亜鉛層304、第1の光起電力素子305、透明電極306が順に積層されている。第1の光起電力素子305と第2の光起電力素子302の光活性部を構成する半導体は第1の光起電力素子305が第2の光起電力素子302よりバンドギャップが大きい半導体で構成されており、第1の光起電力素子305で短波長領域を第2の光起電力素子302で長波長領域の光が吸収されるように設計されている。第1の酸化亜鉛層304と第1の光起電力素子305とでは屈折率が異なり、層厚を調整する事により多重反射を起こし、有効に上記の短波長領域の反射率を高くする事が可能で、第1の光起電力素子305の光吸収量を増加させる効果を持っている。また、第2の酸化亜鉛層303は第1の酸化亜鉛層304よりも抵抗率が大きく設計されている。
図4に第1の本発明の積層型光起電力素子の発電動作を模式的に示す。第1の光起電力素子に存在する電気的欠陥は電流の短絡経路として働くが、なかでも第1の光起電力素子305中の電気的欠陥402および第2の光起電力素子302中の電気的欠陥403が近接した距離にある場合は、積層型光起電力素子作製後に行なうシャントパッシベーション処理により、透明電極306が取り除かれるため光起電力素子の特性低下はもたらさない。一方、電気的欠陥402および電気的欠陥401が離れた距離にある場合、シャントパッシベーション処理が充分に行なわれず特性低下の原因となることがある。しかしながら、第1の光起電力素子305の基板側表面には、抵抗率の低い第1の酸化亜鉛層304が形成されているものの、層厚が薄いために横方向への短絡電流の広がりは少なく、特性低下に結びつくことはない。
次に、第2の光起電力素子302に存在する電気的欠陥の周辺には、導電層である酸化亜鉛層が存在するために、電気的欠陥は発電時における光起電力素子の短絡回路として働く。しかしながら、第2の光起電力素子302の表面(上層面)には、抵抗率の高い第2の酸化亜鉛層303が形成されているため、横方向への短絡電流の広がりは少なく、より抵抗率の低い第1の酸化亜鉛層304中を介して広がることとなる。一方、ここでも第1の酸化亜鉛層304および第2の酸化亜鉛層303の重ね合わされた層厚は、選択反射層としての機能からおよそ限られているため、高抵抗率及び低抵抗率の組み合わせにより効果的に短絡電流の広がりを防止することができる。
また、順次積層される第2の光起電力素子、第2及び第1の酸化亜鉛層、第1の光起電力素子の各接合面の電気的極性は、例えば図2に示すようにキャリア濃度の最も低い(n−)第2の酸化亜鉛層202、キャリア濃度の高い(n+)第1の酸化亜鉛層203、キャリア濃度の最も高い(n++)第1の光起電力素子のn型半導体層204の順に積層された、n−/n+/n++/の構成になっている。ここで、図2において、201は基板、202はn−型の電気特性を示す第2の酸化亜鉛層、203はn+型の電気特性を示す第1の酸化亜鉛層、204はn++型の電気特性を示す第1の光起電力素子のn型半導体層、205は透明電極であり、206は第2の光起電力素子、207は積層された酸化亜鉛層、208は第1の光起電力素子を示す。
n型である酸化亜鉛層は作製条件により、バルク内のキャリア濃度を増減させることが可能である。さらにその理由ははっきりと解明されてはいないが、n型である酸化亜鉛層のキャリア濃度が、第2の光起電力素子のp型半導体層側から第1の光起電力素子のn型半導体層側に向かって、段階的あるいは連続的に増加する傾向にあるほうが、同じ極性のキャリア濃度の増減傾向が第1の光起電力素子のn型半導体層も含めて、一方向に決まるためバンド接合部でのつながりがよく、光発生キャリアを効率よく回収することが可能になると思われる。
ここで使用される中間層である酸化亜鉛層は、近年低抵抗化の進歩が著しい酸化亜鉛層よりは、高い抵抗率を有するもので、第1の酸化亜鉛層、第2の酸化亜鉛層とも2×100Ωcm以上5×103Ωcm以下の範囲にあるのが好ましい。この範囲にあれば、第1の光起電力素子のn型半導体層よりもキャリア濃度が小さくなり、結果として接合部が改善されるものであると考えられる。一方、酸化亜鉛の抵抗率の高い部分については、5×102Ωcm以上5×103Ωcm以下の範囲でなければ層内で短絡電流が拡散してしまい、結果として特性低下を引き起こすものと考えられる。
また、酸化亜鉛層は800nmの光を50%以上透過することが好ましい。太陽光のスペクトルを考えた場合、有効に利用できる波長範囲はおおむね300nm〜1200nm付近であり、酸化亜鉛層の上部のセルで短波光は吸収されており、酸化亜鉛層としては長波の光が有効に透過することが好ましく、長波長の目安である800nmの透過率が50%以上あることが望ましい。
次に、第2の本発明に係る積層型光起電力素子について説明する。
まず、第2の本発明の特徴部分である中間層について説明する。第2の本発明に係る積層型光起電力素子は、pn接合またはpin接合を含む光起電力素子を複数積層して成り、少なくとも一つの光起電力素子界面に、主たる成分が酸化インジウムからなる第1の層を積層した後、主たる成分が酸化亜鉛からなる第2の層を積層して中間層を形成するものであり、以下のような作用効果を奏する。なお、第2の本発明に係る積層型光起電力素子の構成および各構成要素については後述する。
上記構成を有する中間層を形成することによって、Voc、FFの低下を防ぐことができ、また長期間の使用下等においても優れた特性を有する。まず、光起電力素子界面上に酸化亜鉛のみを形成した中間層の場合では、酸化亜鉛の形成条件、抵抗率、厚み等にもよるが、Voc、FFが低下する傾向が認められた。上記のような現象は、酸化亜鉛上に光起電力素子を形成する場合には顕著には見られない。例えば、サブストレート型の光起電力素子で反射層上に光起電力素子を形成するような場合に反射層として酸化亜鉛を用いることが考えられるが、このような場合には、Voc、FF等の特性の低下は特に見られないので、光起電力素子界面上に酸化亜鉛を形成するプロセスによって、特性の低下が発生すると考えられる。これは、酸化亜鉛上に半導体を形成する場合には、還元性雰囲気にて形成されるのに対し、光起電力素子界面上に酸化亜鉛を形成する場合には、酸化性雰囲気にて形成されることが関係しているものと考えられる。すなわち、光起電力素子界面上に酸化亜鉛を形成する場合、酸化亜鉛中の酸素が光起電力素子界面上の原子に奪われて半導体が酸化されることによって、光起電力素子と酸化亜鉛の界面に変異層を作ることによって起こるものと考えられる。
酸化亜鉛の形成時に酸素や水分を導入した場合には、さらにその傾向が認められた。また、スパッタ等で成膜する場合など酸素イオンが発生する場合には、光起電力素子界面にイオンダメージを与えて、さらに特性の低下の原因になる。この現象は、特にVocの特性に敏感なp層上に堆積した場合に顕著に現れた。
一方、光起電力素子界面上に主成分が酸化インジウムからなる層を形成した中間層の場合には、形成条件、錫などのドープ量、抵抗率、厚み等にもよるが、シャント抵抗が低下し、Voc、FFが低下する傾向が認められた。これは、酸化インジウムが酸化亜鉛に比べて抵抗率が概して低いために、中間層を横方向に流れる漏れ電流が発生し、シャント抵抗が低下するものと考えられる。また、酸化インジウムは酸化亜鉛よりも還元性雰囲気に弱く、酸化インジウム上に光起電力素子を作製した場合、インジウムの析出を起こして、特性の低下及び長期の信頼性の低下を招くと考えられる。
そこで、光起電力素子界面に薄く、主たる成分が酸化インジウムからなる第1の層を形成した後に主たる成分が酸化亜鉛からなる第2の層を形成した場合には、特にVoc、FFの低下は見られなかった。これは詳細な理由は不明であるが、第1の層と光起電力素子界面が良好に形成されたことによるものと考えられる。また、第1の層の抵抗及び膜厚が適当であれば、横方向の漏れ電流が流れ難く、且つ第2の層が適当に厚い膜厚であれば、光電流の増加が見込める。
第1の層は、横方向の漏れ電流が流れ難くなるように抵抗が高いほうが好ましく、また膜厚も適度に薄いほうが好ましい。また、光起電力素子を高温で付けることが多く、高温が続くとインジウムの拡散が起こり、特性の低下を招いたり、長期の信頼性の低下に繋がるので、第1の層は適度に薄いほうが良い。上記の観点から主たる成分が酸化インジウムからなる第1の層の膜厚は1nm以上50nm以下となるように形成することが好ましく、さらに好ましくは、3nm以上40nm以下であり、最適には5nm以上30nm以下である。
一方、中間層としては、膜厚が大きいほど上部の光起電力素子に光を反射する効果が大きくなるため、第2の層の膜厚が第1の層の膜厚よりも大きくなるように形成することが好ましい。
第1の層の抵抗率は、第2の層の抵抗率よりも小さい方が好ましい。いずれの層も可視光の平均透過率は80%以上が好ましく、特に、長波側である800nmでの透過率は80%以上あることが好ましい。また、第1の層よりも第2の層の波長800nmでの透過率が高いことが好ましい。
以上説明したように、第2の本発明は、特性の異なる少なくとも2層の酸化膜を各々の特性に応じて機能的に分離して最適設計する点に1つの大きな特徴を有するものである。
また、中間層としてはある程度の膜厚が必要であるので、形成速度が速いほど、タクトタイムの減少に繋がりコスト的に有利であるが、特性の低下を起こし易い。第1の層を低速で形成したほうが、ダメージが少なく、良好な界面特性を得ることができる。低速で第1の層を形成した後に高速で第2の層を形成しても特性の低下が見られないので、第2の層の形成速度が第1の層の形成速度よりも速くなるように形成することが好ましい。
また、インジウムが拡散しやすいので、第1の層を堆積した後の工程は、なるべく低い温度のほうが好ましい。また、酸化インジウムは低い温度で堆積すると透過率が悪くなるので、ある程度高い温度で堆積する必要がある。一方、酸化亜鉛は、低い温度で堆積したほうが透過率が高くなるのでJscの向上に繋がる。また、酸化亜鉛層を高温で形成すると、応力を発生し易く、中間層で剥がれる原因になりやすい。よって、第2の層の形成温度が第1の層の形成温度よりも低くなるように形成することが好ましい。第1の層の形成温度は150℃以上300℃以下が好ましく、第2の層の形成温度は50℃以上250℃以下が好ましい。また、第2の層の形成温度が第1の層の形成温度を下回ることが好ましく、より好ましくは40℃以上下回ることが好ましい。
次に、第2の本発明に係る積層型光起電力素子の構成について説明する。
図8は、第2の本発明に係る積層型光起電力素子の一実施形態の断面構造を模式的に示す概略図である。図示するように、金属等の導電性の基板801上に光反射層802、第2の光起電力素子803、中間層806(主たる成分が酸化インジウムからなる第1の層804と、主たる成分が酸化亜鉛からなる第2の層805とから成る。)、第1の光起電力素子807、透明電極808が順に積層されている。第1の光起電力素子807と第2の光起電力素子803の光活性部を構成する半導体は、第1の光起電力素子807が第2の光起電力素子803の半導体よりバンドギャップが大きい半導体で構成する、或は光活性部を薄く構成することにより、第1の光起電力素子807で短波長域を第2の光起電力素子803で長波長域の光が吸収されるように設計されている。中間層806は光の一部を反射し、第1の光起電力素子807の光吸収量を増加させる効果をもっている。中間層806は凹凸に形成されることもある。
図7は、第2の本発明に係る積層型光起電力素子の製造方法を模式的に示す概略図であり、図8に示す積層型光起電力素子を形成する場合を示している。
図7において、(a)に示すように、基板700、反射層701、第2の光起電力素子702まで形成したものに、まず主たる成分が酸化インジウムからなる層703を堆積する。次に、(b)に示すように、主たる成分が酸化亜鉛からなる層704を堆積する。そして、(c)に示すように、第1の光起電力素子706を堆積する。その後、(d)に示すように、透明電極を堆積する。以上のような作製順序で、光起電力素子の界面に中間層705(主たる成分が酸化インジウムからなる層703と、主たる成分が酸化亜鉛からなる層704とから成る。)を有する積層型光起電力素子の各層の堆積を行う。
また図9は、他の実施形態における積層型光起電力素子の断面構造を模式的に示す概略図である。図示するように、ガラス等の透光性絶縁板の基板901上に透明電極908、第1の光起電力素子907、中間層906(主たる成分が酸化インジウムからなる第1の層904と、主たる成分が酸化亜鉛からなる第2の層905とから成る。)、第2の光起電力素子903、導電性の光反射層902が順に積層されている。この場合には、光入射は透光性絶縁基板である基板901側から行われる。中間層906は凹凸に形成されることもある。
次に、本発明に係る積層型光起電力素子の各構成要素について説明する。
[基板]
本発明の積層型光起電力素子に用いる基板を構成する材料には、導電性材料及び絶縁性材料の何れでもよく、その種類を問わない。導電性材料としては、例えば、めっき鋼板,NiCr,ステンレス,Al,Cr,Mo,Au,Nb,Ta,V,Ti,Pt,Pb,Sn等の金属、またはこれらの合金などが挙げられる。絶縁性材料としては、ポリエステル,ポリエチレン,ポリカーボネート,セルロースアセテート,ポリプロピレン,ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデン,ポリスチレン,ポリアミド等の合成樹脂、またはガラス,セラミックス,紙などが挙げられる。特に金属基板としてはステンレス鋼、絶縁基板としてはガラス、セラミックス、ポリイミドが好適に用いられる。また、基板側から光入射する場合には透光性絶縁性基板が用いられ、特にガラスが好適に用いられる。
基板の表面形状は、平滑面、あるいは山の高さが最大0.1〜1.0μmの凹凸面となるテクスチャー化した形状であってもよい。例えば、ステンレスによる基板の表面をテクスチャー化する1つの方法として、酸性溶液を用いて表面をエッチング処理することが挙げられる。
基板の厚さは、各層を所定に積層できて光起電力素子を所定に形成し得るように適宜に決定するが、光起電力素子としての柔軟性が要求される場合には、支持体としての機能が十分に発揮される範囲で可能な限り薄くすればよい。しかし、基板の製造上及び取り扱い上の面から、そして機械的強度の面から、通常は厚さが10μm以上とされる。
[反射層]
本発明の積層型光起電力素子に用いる反射層には、可視光から近赤外で反射率が高い金属、例えばAg,Al,Cu等の金属やこれらの合金の堆積膜が用いられる。真空蒸着法,スパッタリング法等や、水溶液からの電解析出法などの方法で形成することが好適である。この反射層の厚さは、10nmから5000nmが適した層厚として挙げられる。また乱反射をさせるために表面が凹凸であることが好ましい。また反射層には反射する光量を多くするために反射増加層を備えるのが望ましい。
反射増加層の構成材料には、ZnO,SnO2,In2O3,ITO,TiO2,CdO,Cd2SnO4,Bi2O3,MoO3,NaxWO3等が挙げられる。反射増加層は、これらの材料を使用し、真空蒸着法,スパッタリング法,電解析出法,CVD法,スプレー法,スピンオン法,ディッピング法等の方法で形成することが好適である。この反射増加層の厚さは、使用材料が固有に持つ屈折率により最適な層厚は異なるが、好ましくは50nm〜10μmが層厚の範囲として挙げられる。また、光を散乱させるために反射増加層の表面が凹凸であることが好ましい。例えば、スパッタリング法においては、作製条件によって、結晶粒界を基にした凹凸が生成される。
[光起電力層(光起電力素子)]
本発明の積層型光起電力素子に用いられる半導体としては、IV族、III−V族、II−VI族、I−III−VI2族の単結晶、多結晶、微結晶、非晶質が用いられる。IV族としてはC、Si、Ge、及びこれらの合金、III−V族としてはAlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InP、InAs、II−VI族としてはZnSe、ZnS、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、Cu2S、I−III−VI2族としてはCuInSe2などが挙げられる。特にシリコン系半導体が好適に用いられる。また形体は単結晶、多結晶、微結晶、非晶質が好適に用いられる。
本発明の積層型光起電力素子に用いられる光起電力層は、pn接合、pin接合を含んでいる。
本発明の積層型光起電力素子は光起電力層を少なくとも2構成以上積層して構成される。それぞれの光起電力層は材料の異なる半導体を用いて構成することも、同一の材料で構成することもできるが、短波長の光ほど吸収されやすいことから、光入射側には、より短波長を吸収しやすい材料を用いた光起電力層を配置し、その後により長波長を吸収しやすい材料を用いた光起電力層を配置する構成が好適に用いられる。
[酸化亜鉛層]
第1の本発明の積層型光起電力素子の光起電力層(単位光起電力素子)間の少なくとも一ヶ所に酸化亜鉛層からなる中間層が設けられる。
本発明の酸化亜鉛層の形成方法としては、たとえば、真空蒸着法、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法、電解析出法、無電解めっき法、CVD法、MOCVD法、スプレー法、スピンオン法、ディッピング法、ゾルゲル法等の方法で形成することが好適である。そのとき、抵抗率を変化させる物質としては、Al、B、Ga、In等がドーパントとして一般的に知られている。またSi、Ge、Ti、Zr等の4価の金属も知られている。一般的な真空蒸着法、スパッタリング法の場合、これらのドーパントはあらかじめ所望の添加量を酸化亜鉛(ターゲット等)と一緒に焼結しておけばよい。
酸化亜鉛層は、入射光の全波長領域に渡って無駄なくエネルギー変換を行なうために第2の光起電力素子の分光特性が最大となる波長λmを基準としてその短波長領域で反射が高く、かつその長波長領域で低くなるように変化している。また膜の透過率は、入射光を損失させないために80%以上であることが望ましい。
また本発明の酸化亜鉛層は選択反射膜としての機能を保った状態で従来の課題であるシャントによる素子の特性低下を防ぐためにその抵抗率を層厚方向に変化させている。またその抵抗率の好適な範囲は5×103Ωcmから2×100Ωcmであり、高抵抗部分は5×102Ωcm以上5×103Ωcm以下であることが望ましい。また層厚は、反射率、シリーズ抵抗、凹凸形状を考慮すると0.2μmから2μmの範囲が望ましい。
[中間層]
第2の本発明の積層型光起電力素子に用いられる中間層は、主たる成分が酸化インジウムからなる層と、主たる成分が酸化亜鉛からなる層とを含んでいる。主たる成分が酸化インジウムからなる層は、微量の他の成分を含んでいてもよく、例えば、Mg、Zn、Sn、Sb等を含んでいてもよい。
主たる成分が酸化亜鉛からなる層は、微量の他の成分を含んでいてもよく、例えば、Al、Sn、In、Fe、Ga、Co、Si、Ti、Ge、Sbなどを含んでいてもよい。
さらに、中間層には他に、SnO2,TiO2,CdO,Cd2SnO4,Bi2O3,MoO3,NaxWO3等からなる層を含んでいても良い。
中間層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、電解析出法、CVD法、スプレー法、スピンオン法、ディッピング法等の方法が好適である。
その後、ウエットエッチングやドライエッチング等で凹凸を設けることもできる。このとき、半導体界面に主たる成分が酸化インジウムからなる層を形成した後に主たる成分が酸化亜鉛からなる層を形成することによって中間層を形成する。
[透明電極]
本発明の積層型光起電力素子に用いられる透明電極は酸化インジウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛等が挙げられ、スパッタリング法、真空蒸着法、化学的気相成長法、イオンプレーティング法、イオンビーム法、およびイオンビームスパッタ法などで作製することができる。また、硝酸基や酢酸基やアンモニア基などと金属イオンからなる水溶液中からの電気析出法や浸漬法でも作製することができる。透明電極の厚さは、反射防止膜としての条件を満たす膜厚に堆積するのが好ましい。
以下に、本発明の好適な実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例では本発明の積層型光起電力素子として光起電力層(単位光起電力素子)が2層で、基板側から反射層、微結晶シリコンからなる光起電力素子、その上に中間層、アモルファスシリコンからなる光起電力素子を順次作成した太陽電池の実施例を説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではなく、必要に応じて積層する光起電力素子の数を増加することも可能である。
[実施例1(参考例)]
本実施例は、第2の光起電力素子302としてi層が真性微結晶Siのpin型光起電力素子、第1の光起電力素子305としてi層が真性非晶質Si:Hのpin型光起電力素子、および酸化亜鉛を中間層として用いた第1の本発明に係る積層型光起電力素子(図3参照)を作製した例である。
基板301には、縦横45mm×45mm、厚さ0.15mmの形状で、一般的にBA仕上げと呼ばれる平坦なステンレス鋼(SUS430)を使用し、市販の直流マグネトロンスパッタ装置(不図示)に設置し、圧力が10-3Pa以下になるまで排気した。
その後、アルゴンガスを30cm3/min(normal)供給し、圧力を2×10-1Paに保持した。基板は加熱せず、6inchφのアルミニウムターゲットに120Wの直流電力を印加し、90秒間で70nmのアルミニウムの薄膜を形成した。引き続き、基板温度を200℃に加熱し、6inchφの酸化亜鉛のターゲットに電気接続を切り替えて500Wの直流電力を30分間印加し、約500nmの酸化亜鉛の反射層を堆積し作製した。
図5は、本発明に係る積層型光起電力素子の半導体層を作製するために好適な装置の一形態を示す模式図である。図5において、堆積膜形成装置500は、ロードチャンバー501、n型層RFチャンバー502、微結晶シリコンi型層チャンバー503、アモルファスシリコンi型層RFチャンバー504、p型層RFチャンバー505、およびアンロードチャンバー506から主に構成されている。各チャンバー間は、ゲートバルブ507、508、509、510、511により、原料ガスが混合しないように分離されている。
微結晶シリコンi型層チャンバー503は、基板加熱用のヒーター512およびプラズマCVD室513から構成されている。RFチャンバー502は、n型層堆積用ヒーター514とn型層堆積用の堆積室515を、RFチャンバー504はi型層堆積用ヒーター516とi型層堆積用の堆積室517を、RFチャンバー505はp型層堆積用ヒーター518とp型層堆積用の堆積室519を有している。基板は基板ホルダー521に取り付けられ、レール520上を外部から駆動されるローラーによって移動する。プラズマCVD室513では、微結晶を堆積する。微結晶は、マイクロ波プラズマCVD法またはVHFプラズマCVD法が使用される。
このような堆積膜形成装置を使用して、表1に示す所定の成膜条件のもとに第2の光起電力素子302としてi層が真性微結晶Siのpin型光起電力素子以下のようにして成膜した。
まず、反射層を有する基板301を基板ホルダー521にセットしロードチャンバー501のレール520上にセットする。そして、ロードチャンバー501内を数百mPa以下の真空度に排気する。
次に、ゲートバルブ507を開け、基板ホルダー521をチャンバー502のn型層堆積室515に移動する。各ゲートバルブ507、508、509、510、511を閉じた状態で、所定の原料ガスにてn型層を所定の層厚に堆積する。十分に排気した後、ゲートバルブ508を開けて基板ホルダー521を堆積チャンバー503に移動し、ゲートバルブ508を閉じる。
ヒーター512で基板を所定の基板温度に加熱し、所定の原料ガスを必要量導入し、所定の真空度にして、所定のマイクロ波エネルギーまたはVHFエネルギーを堆積室513へ導入し、プラズマを発生させて基板上に微結晶シリコンi型層を所定の層厚に堆積する。チャンバー503を十分に排気し、ゲートバルブ509、510を開けて基板ホルダー521をチャンバー503からチャンバー505へ移動する。
基板ホルダー521をチャンバー505のp型層堆積室519に移動させた後、ヒーター518によって基板を所望の温度に加熱する。堆積室519にp型層堆積用の原料ガスを所定の流量だけ供給し、所定の真空度に維持しつつ堆積室519にRFエネルギーを導入し、p型層を所望の層厚に堆積する。
上記と同様にして堆積室519を十分に排気した後、ゲートバルブ511を開け、基板ホルダー521をアンロードチャンバー506へ移動する。ゲートバルブを全て閉じ、アンロードチャンバー506内へ窒素ガスを封入して、基板温度を冷却する。その後、アンロードチャンバー506の取り出しバルブを開けて、基板ホルダー521を取り出す。
次に、基板ホルダー521から第2の光起電力素子302まで作製した基板を取り外し、酸化亜鉛層を形成するために図6に示すDCマグネトロンスパッタ装置600の基板ホルダー601上に設置し、圧力が10-3Pa以下になるまで排気した。
基板ホルダー601は電気的に絶縁されており、サンプルである光起電力素子をフローティング状態にすることができる。その後、アルゴンガスを50sccm、酸素ガス及び気化したH2Oガスを表2に従いガス導入管602から0.1〜5sccm供給しながら圧力を2×10-2Paに保持した。引き続き、ヒーター603により基板温度を150℃となるように基板ホルダー601を加熱し、Alドープされた6インチφの酸化亜鉛(ZnO)ターゲット604にDC電源605より500Wの直流電力を10分間印加し、層厚約0.5μmの第2の酸化亜鉛層303を堆積した。ターゲット604の周囲にはアースシールド606として囲いが設置されており、プラズマの拡散を防止するとともに、安定放電にも寄与している。このとき同時に、45mm×45mmの石英基板を基板ホルダー上に設置しておき、同じ酸化亜鉛層を堆積させ、電気特性を測定した。
次に、表2のA〜J処方の第2の酸化亜鉛層303が堆積された各基板上に、再び表2のA〜Jの条件で第1の酸化亜鉛層304を積層しトータルで100個のサンプルを作製した。このとき同時に、45mm×45mmの石英基板を基板ホルダー上に設置しておき、同じ酸化亜鉛層を堆積させ、電気特性を測定した。
次に再び堆積膜形成装置500を用いて、上記中間層(酸化亜鉛層)が形成された基板上に、表3に示す所定の成膜条件のもとに第1の光起電力素子305としてi層が真性非晶質Si:Hのpin型光起電力素子を以下に述べるように作製した。
まず、前記と同様にして所定の条件でn型層を所定の層厚に堆積する。十分に排気した後、ゲートバルブ508、509を開けて基板ホルダー521を堆積チャンバー504に移動し、ゲートバルブ508、509を閉じた。
次に、ヒーター516で基板を所定の基板温度に加熱し、所定の原料ガスを必要量導入し、所定の真空度にして、所定のRFエネルギーを堆積室517へ導入し、プラズマを発生させて基板上に非晶質Si:H i型層を、成膜時間を調整することによって所定の層厚に堆積する。チャンバー504を十分に排気し、ゲートバルブ510を開けて基板ホルダー521をチャンバー504からチャンバー505へ移動させた。
前記と同様にして所定の条件でp型層を所定の層厚に堆積した。
前記と同様にして堆積室519を十分に排気した後、ゲートバルブ511を開け、第1の光起電力素子305まで形成された基板をセットした基板ホルダー521をアンロードチャンバー506へ移動した。
上記と同様にしてアンロードチャンバー506内から基板ホルダー521を取り出した。
次に、第1の光起電力素子305まで形成された基板をDCマグネトロンスパッタ装置のアノードの表面に取り付け、ステンレス鋼のマスクで試料の周囲を遮蔽して、中央部40mm×40mmの領域に10重量%の酸化錫と90重量%の酸化インジウムからなるターゲットを用いて透明電極として酸化インジウムスズをスパッタリングした。
堆積条件は基板温度170℃、不活性ガスとしてアルゴンの流量30sccm、酸素ガス0.5sccm、堆積室内の圧力300mPa、ターゲットの単位面積当たりの投入電力量0.2W/cm2にて約100秒で厚さが70nmとなるように堆積した。膜の厚みは、前もって同じ条件で堆積時間との関係を検量して堆積することにより、所定の厚みとした。こうして作製した光起電力素子を「実1」とした。
[比較例1(参考例)]
第1の光起電力素子と第2の光起電力素子の間に酸化亜鉛層を挿入しなかった以外は実施例1と同様の手順により、光起電力素子を作製した。
(測定)
まず初めに、実施例1において石英基板上に堆積させた酸化亜鉛層の電気特性を測定した。酸化亜鉛の抵抗率の範囲は広い(10桁)ため抵抗値に適した測定系で評価しなければならない。一般に絶縁体に用いられる2端子法では接触抵抗の影響がでてくるため、4端子法が用いられる。ここでは、ダイアンインスツルメンツ社製のMCP−T600型抵抗率計を用いて、直列4端子4探針法で定電流を印加、間の電位差を測定することにより抵抗率の測定を行なった。このようにして測定した結果を表4に示す。ターゲットに含有させたドーパントが多く、かつO2、H2Oの導入量の小さい酸化亜鉛層の方が低い抵抗率を示す。
次に実施例と比較例で作製した計101個の光起電力素子について山下電装株式会社製のYSS−150を使用し、AM1.5のスペクトル、強度100mW/cm2で光照射した状態で電流電圧特性を測定した。測定した電流電圧特性から短絡電流密度[Jsc(mA/cm2)]、開放電圧[Voc(V)]、曲性因子[FF]を求め、変換効率[η(%)]を求めた。
また、暗状態における電流電圧測定からV=0近傍の傾きを求めシャント抵抗(Rsh)とし、また電流の立ち上がりの傾きからシリーズ抵抗(Rs)を求めた。
以上の結果を表5、表6、表7、表8に示す。
酸化亜鉛層が、第2の光起電力素子側で高く、第1の光起電力素子側で低い抵抗率を有する場合、反射の増加、短絡電流の減少、接合面の改善によりFFは改善され光電流が増加し、変換効率は向上するが、抵抗率の組み合わせが逆の場合はJscの低下に伴い変換効率は低下する。また、5×103Ωcmから2×100Ωcmの範囲にあれば、上記の抵抗率の組み合わせで優れた特性を示すが、2×100Ωcm以下、または抵抗率の高い部分が、5×102Ωcm以下の場合、短絡電流の影響でシャント抵抗値が下がりFFが低下、結果としてJscの低下を引き起こし、変換効率が低下する。一方、抵抗率が5×103Ωcm以上の場合、シリーズ抵抗の上昇で変換効率は若干低下する。
※上記シリーズ抵抗相対値は、大きい値が高いシリーズ抵抗値を示す。高いシリーズ抵抗値は特性低下をもたらす。
[実施例2(参考例)]
実施例1と同様に、第2の光起電力素子302としてi層が真性微結晶Siのpin型光起電力素子、第1の光起電力素子305としてi層が真性非晶質Si:Hのpin型光起電力素子、および酸化亜鉛を中間層として用いた積層型光起電力素子(図3参照)を作製した。
酸化亜鉛層のサンプルは、光起電力素子とは別に作製しており、Al含有ターゲットはそのままに、酸素ガス及び気化したH2Oガスの導入量を調整しながら、表9に示すような導電率を示す酸化亜鉛層を石英板上に作製した。この結果を元に、酸化亜鉛層の層厚方向に抵抗率が徐々に変化するような、いわゆるグレーディッド抵抗率を有する酸化亜鉛層の作製条件を見いだした。
また、実施例1と同様に、酸化亜鉛層を中間層として用いた積層型光起電力素子を、表10に示す酸化亜鉛層の条件で作製した。このときの酸化亜鉛層は全て、第1の光起電力素子側から第2の光起電力素子に向かって抵抗率が高くなるように各条件を調整してある。
このようにして作製した光起電力素子(実2−1〜5)について、実施例1と同様に評価を行なった。その結果を、表10にあわせて示す。
酸化亜鉛層の抵抗率が、グレーディッドに変化する場合でも、その抵抗率が第2の光起電力素子側で高く、第1の光起電力素子側で低い抵抗率を有する場合、反射の増加、短絡電流の減少、接合面の改善によりFFは改善され光電流が増加し、変換効率は向上する。
またその有効な範囲は、抵抗率が5×103Ωcmから2×100Ωcmの範囲であり、抵抗率の高い部分が5×102Ωcm以上の範囲であることがわかった。
[実施例3]
実施例3は、第1の光起電力素子としてi層が真性非晶質Si:Hのpin型光起電力素子、第2の光起電力素子としてi層が真性微結晶Siのpin型光起電力素子、中間層として酸化インジウム錫と酸化亜鉛を積層して、図8に示したような第2の本発明に係る積層型光起電力素子を作製した。
図8の基板801には、縦横45mm×45mm、厚さ0.15mmの形状で、一般的にBA仕上げと呼ばれる平坦なステンレス鋼(SUS430)を使用し、市販の直流マグネトロンスパッタ装置(不図示)に設置し、圧力が10-3Pa以下になるまで排気した。
その後、アルゴンガスを30cm3/min(normal)供給し、圧力を2×10-1Paに保持した。基板は加熱せず、6inchφのアルミニウムターゲットに120Wの直流電力を印加し、90秒間で70nmのアルミニウムの薄膜を形成した。引き続き、基板温度を200℃に加熱し、6inchφの酸化亜鉛のターゲットに電気接続を切り替えて500Wの直流電力を30分間印加し、約3000nmの酸化亜鉛の反射増加膜を堆積した基板801を作製した。
次に、図5に示した堆積膜形成装置500を用いて、表11に示すように各層における所定の成膜条件の下に光起電力素子を成膜した。
表11に従って、最初に基板801上に以下の手順で第2の光起電力素子を形成した。基板801を基板ホルダー521にセットし、ロードチャンバー501のレール520上にセットする。そして、ロードチャンバー501内を数百mPa以下の真空度に排気する。
次に、ゲートバルブ507を開け、基板ホルダー521をチャンバー502のn型層堆積室515に移動する。各ゲートバルブ507、508、509、510、511を閉じた状態で、所定の原料ガスにてn型層を所定の層厚に堆積する。チャンバー502を十分に排気した後、ゲートバルブ508を開けて基板ホルダー521を堆積チャンバー503に移動し、ゲートバルブ508を閉じる。
ヒーター512で基板を所定の基板温度に加熱し、所定の原料ガスを必要量導入し、所定の真空度にして、所定のマイクロ波エネルギーまたはVHFエネルギーを堆積室513へ導入し、プラズマを発生させて基板上に微結晶シリコンi型層を所定の層厚に堆積する。チャンバー503を十分に排気した後、ゲートバルブ509、510を開けて基板ホルダー521をチャンバー503からチャンバー505へ移動する。
基板ホルダー521をチャンバー505のp型層堆積室519に移動させた後、ヒーター518によって基板を所望の温度に加熱する。堆積室519にp型層堆積用の原料ガスを所定の流量だけ供給し、所定の真空度に維持しつつ堆積室519にRFエネルギーを導入し、p型層を所望の層厚に堆積する。
上記と同様にして堆積室519を十分に排気した後、ゲートバルブ511を開け、光起電力素子が堆積された基板201をセットした基板ホルダー521をアンロードチャンバー506へ移動する。
ゲートバルブを全て閉じ、アンロードチャンバー506内へ窒素ガスを封入して、基板温度を冷却する。その後、アンロードチャンバー506の取り出しバルブを開けて、基板ホルダー521を取り出す。
次に、基板ホルダー521から第2の光起電力素子まで作製した基板801を取り外し、中間層を形成するために市販の直流マグネトロンスパッタ装置(不図示)に設置し、圧力が10-3Pa以下になるまで排気した。
3重量%の酸化錫と97重量%の酸化インジウムからなるターゲットを用いて酸化インジウム錫をスパッタリングした。
堆積条件は、基板温度170℃、不活性ガスとしてのアルゴンの流量50cm3/min(normal)、酸素ガス0.2cm3/min(normal)、堆積室内の圧力200mPa、6inchφの酸化インジウム錫のターゲットに電気接続を切り替えて10Wの直流電力を約100秒印加し、厚さが約10nmとなるように堆積した。膜の厚みは、前もって同じ条件で堆積時間との関係を検量して堆積することにより、所定の厚みとした。
その後、同一装置にて、酸化亜鉛からなるターゲットに交換して、酸化亜鉛をスパッタリングした。
堆積条件は、アルゴンガスを30cm3/min(normal)、酸素ガス2cm3/min(normal)供給し、圧力を2×10-1Paに保持した。引き続き、基板温度を120℃に加熱し、6inchφの酸化亜鉛のターゲットに電気接続を切り替えて100Wの直流電力を5分間印加し、約100nmの酸化亜鉛を堆積した。
次に、再び図5の堆積膜形成装置500を用いて、上記中間層が形成された基板801上に第1の光起電力素子としてpin型非晶質Si:H光起電力素子を以下に述べるように作製した。
上記と同様にして、チャンバー502において所定の条件でn型層を所定の層厚に堆積する。チャンバー502を十分に排気した後、ゲートバルブ508、509を開けて基板ホルダー521をチャンバー504に移動し、ゲートバルブ508、509を閉じた。
ヒーター516で基板を所定の基板温度に加熱し、所定の原料ガスを必要量導入し、所定の真空度にして、所定のRFエネルギーを堆積室517へ導入し、プラズマを発生させて基板上に非晶質Si:Hのi型層を所定の層厚に堆積する。チャンバー504を十分に排気し、ゲートバルブ510を開けて基板ホルダー521をチャンバー504からチャンバー505へ移動させた。
上記と同様にして、チャンバー505において所定の条件でp型層を所定の層厚に堆積した。
また、上記と同様にして、堆積室519を十分に排気した後、ゲートバルブ511を開け、光起電力素子が堆積された基板801をセットした基板ホルダー521をアンロードチャンバー506へ移動した。
さらに、上記と同様にして、アンロードチャンバー506内から基板ホルダー521を取り出した。
次に、基板をDCマグネトロンスパッタ装置のアノードの表面に取り付け、ステンレス鋼のマスクで試料の周囲を遮蔽して、中央部40mm×40mmの領域に10重量%の酸化錫と90重量%の酸化インジウムからなるターゲットを用いて透明電極として酸化インジウム錫をスパッタリングした。
堆積条件は、基板温度170℃、不活性ガスとしてアルゴンの流量50cm3/min(normal)、酸素ガス0.5cm3/min(normal)、堆積室内の圧力300mPa、ターゲットの単位面積当たりの投入電力量0.2W/cm2にて約100秒で厚さが70nmとなるように堆積した。膜の厚みは、前もって同じ条件で堆積時間との関係を検量して堆積することにより、所定の厚みとした。こうして作製したサンプルを「実3」とした。
[比較例2]
図12に示すように、1層からなる中間層1206を備えていること以外は、本発明の積層型光起電力素子800(図8参照)と同じ構成の積層型光起電力素子1200を作製する。図12において、金属等の導電性の基板1201上に光反射層1202、第2の光起電力素子1203、中間層1206、第1の光起電力素子1207、透明電極1208が順に積層されている。
上記中間層1206の作製において、酸化亜鉛からなるターゲットを用いて酸化亜鉛をスパッタリングした。
作製条件はアルゴンガスを30cm3/min(normal)、酸素ガス2cm3/min(normal)供給し、圧力を2×10-1Paに保持した。引き続き、基板温度を100℃に加熱し、6inchφの酸化亜鉛のターゲットに電気接続を切り替えて100Wの直流電力を5分間30秒印加し、約110nmの酸化亜鉛を堆積した。このようにして1層から成る中間層1206を作製した以外は、実施例3と同様の手順により光起電力素子を作製した。こうして作製したサンプルを「比2−1」とした。
また、中間層1206の作製において、3重量%の酸化錫と97重量%の酸化インジウムからなるターゲットを用いて酸化インジウム錫をスパッタリングした。
堆積条件は、基板温度170℃、不活性ガスとしてアルゴンの流量50cm3/min(normal)、酸素ガス0.2cm3/min(normal)、堆積室内の圧力200mPa、6inchφの酸化インジウム錫のターゲットに電気接続を切り替えて10Wの直流電力を約18分20秒印加し、厚さが約110nmとなるように堆積した。このようにして中間層1206を作製した以外は、実施例3と同様の手順により光起電力素子を作製した。こうして作製したサンプルを「比2−2」とした。
さらに、図8の構成の積層型光起電力素子800の中間層806の作製において、まず、酸化亜鉛からなるターゲットを用いて酸化亜鉛をスパッタリングした。
堆積条件は、アルゴンガスを30cm3/min(normal)、酸素ガス2cm3/min(normal)供給し、圧力を2×10-1Paに保持した。引き続き、基板温度を120℃に加熱し、6inchφの酸化亜鉛のターゲットに電気接続を切り替えて100Wの直流電力を30秒間印加し、約10nmの酸化亜鉛を堆積した。
その後、同一装置にて、3重量%の酸化錫と97重量%の酸化インジウムからなるターゲットに交換して酸化インジウム錫をスパッタリングした。
堆積条件は、基板温度170℃、不活性ガスとしてアルゴンの流量50cm3/min(normal)、酸素ガス0.2cm3/min(normal)、堆積室内の圧力200mPa、6inchφの酸化インジウム錫のターゲットに電気接続を切り替えて10Wの直流電力を約16分40秒間印加し、厚さが約100nmとなるように堆積した。このようにして中間層を作製した以外は、実施例3と同様の手順により光起電力素子を作製した。こうして作製したサンプルを「比2−3」とした。
こうして実施例3と比較例2で作製したサンプルについて山下電装株式会社製のYSS−150を使用し、AM1.5のスペクトル、強度100mW/cm2で光照射した状態で電流電圧特性を測定した。測定した電流電圧特性から短絡電流密度[Jsc(mA/cm2)]、開放電圧[Voc(V)]、曲性因子[FF]、光電変換効率[η(%)]を求めた。
試料の暗状態での電圧電流特性を測定し、原点付近の傾きからシャント抵抗[Rsh(kΩcm2)]を求めた。
これらの特性値を比較例に対する実施例の比率(実3/比2−1、実3/比2−2、実3/比2−3)をまとめたものを表12に示す。
実3は比2−1に比べ、FF、Vocのいずれも改善し、高い光電変換効率を示した。図10にそれぞれのJ−Vカーブを示すが、実3と比2−1の違いが主にVocのシフトによっており、比2−1は半導体界面と中間層の界面との接合の不良によるものと考えられる。
また、実3は比2−2に比べ、FF、Voc、Rshのいずれも改善し、高い光電変換効率を示した。図11にそれぞれのJ−Vカーブを示すが、比2−2はシャント抵抗の低下により主にFFが低下しているものと考えられる。
また、実3は比2−3に比べ、FF、Voc、Rshのいずれも改善し、高い光電変換効率を示した。比2−3は実3の構成とは逆に酸化亜鉛を堆積した後に酸化インジウム錫を堆積した構成であるが、この場合、界面の接合の影響とシャント抵抗の低下の影響によりVoc、FFが低下しているものと考えられる。
さらに、信頼性試験を以下のように行った。試料を高温高湿槽に投入し、85℃、相対湿度85%に保持した。この試験中に、試料に逆バイアス−0.85Vを20時間印加し続けた。その後、取り出し、自然に十分乾燥冷却してから、電圧電流特性を測定した。各特性は初期値に対する相対値であり、表13に示す。
実3および比2−1は、信頼性試験によって、殆どシャント抵抗の低下は見られなかった。一方、比2−2および比2−3では、シャント抵抗が初期よりも低下して、主にVoc、FFが低下し、光電変換効率の低下が見られた。
以上のことから、第2の本発明によると、初期光電変換効率が良好で、信頼性も高いことが判った。
[実施例4]
実施例4は、第1の光起電力素子としてi層が真性非晶質Si:Hのpin型光起電力素子、第2の光起電力素子としてi層が真性微結晶Siのpin型光起電力素子、中間層として酸化インジウム錫と酸化亜鉛を積層した図8に示したような第2の本発明に係る積層型光起電力素子を、酸化インジウム錫と酸化亜鉛の膜厚の割合を変えて、3サンプル作製した。
中間層の作製において、3重量%の酸化錫と97重量%の酸化インジウムからなるターゲットを用いて酸化インジウム錫をスパッタリングした。
堆積条件は、基板温度170℃、不活性ガスとしてアルゴンの流量50cm3/min(normal)、酸素ガス0.2cm3/min(normal)、堆積室内の圧力200mPa、6inchφの酸化インジウム錫のターゲットに電気接続を切り替えて10Wの直流電力を所定時間印加し、所定の膜厚となるように堆積した。
その後、同一装置にて、酸化亜鉛からなるターゲットに交換して酸化亜鉛をスパッタリングした。
堆積条件は、アルゴンガスを30cm3/min(normal)、酸素ガス2cm3/min(normal)供給し、圧力を2×10-1Paに保持した。引き続き、基板温度を120℃に加熱し、6inchφの酸化亜鉛のターゲットに電気接続を切り替えて100Wの直流電力を所定の時間印加し、所定の膜厚の酸化亜鉛を堆積した。中間層としての総膜厚は約110nmに揃えた。
このようにして酸化亜鉛層と酸化インジウム錫層の割合を変えた中間層を作製した以外は、実施例3と同様の手順により光起電力素子を作製した。こうして作製したサンプルを「実4A」、「実4B」、「実4C」、「実4D」とした。それぞれのサンプルの作製条件を表14に示す。
次に、作製した光電変換素子の電流電圧特性を実施例3と同様に測定した。その結果を表15に示しており、比較例「比2−2」との相対値で示す。
実4A,4B,4C,4Dはいずれも比2−2よりも改善していたが、酸化インジウム錫層が酸化亜鉛層よりも薄い方がより変換効率が高い。さらに、信頼性試験を実施例3と同様に行った。各特性は、初期値に対する相対値で表16に示す。
信頼性試験の結果、実4A,4B,4C、4Dはいずれも比2−2よりも改善していたが、酸化インジウム錫層が酸化亜鉛層よりも薄いほうがより低下が少ない。
以上の結果から、実施例4A、4Bは4C、4Dよりも、より変換効率が高く、尚且つ、信頼性試験も良好であり、酸化インジウム錫層が酸化亜鉛層よりも薄い方がより好ましい。
[実施例5]
実施例5は、第1の光起電力素子としてi層が真性非晶質Si:Hのpin型光起電力素子、第2の光起電力素子としてi層が真性微結晶Siのpin型光起電力素子、中間層として酸化インジウム錫と酸化亜鉛を積層した図8に示したような第2の本発明に係る積層型光起電力素子を酸化インジウム錫の膜厚を変えて、4サンプル作製した。
中間層の作製において、3重量%の酸化錫と97重量%の酸化インジウムからなるターゲットを用いて酸化インジウム錫をスパッタリングした。
堆積条件は、基板温度170℃、不活性ガスとしてアルゴンの流量50cm3/min(normal)、酸素ガス0.2cm3/min(normal)、堆積室内の圧力200mPa、6inchφの酸化インジウム錫のターゲットに電気接続を切り替えて10Wの直流電力を所定時間印加し、所定の膜厚となるように堆積した。
その後、同一装置にて、酸化亜鉛からなるターゲットに交換して酸化亜鉛をスパッタリングした。
堆積条件は、アルゴンガスを30cm3/min(normal)、酸素ガス2cm3/min(normal)供給し、圧力を2×10-1Paに保持した。引き続き、基板温度を120℃に加熱し、6inchφの酸化亜鉛のターゲットに電気接続を切り替えて100Wの直流電力を5分間印加し、100nmの酸化亜鉛を堆積した。このようにして酸化インジウム錫層の膜厚を変えた中間層を作製した以外は、実施例3と同様の手順により光起電力素子を作製した。こうして作製したサンプルを「実5A」、「実5B」、「実5C」、「実5D」とした。それぞれのサンプルの作製条件を表17に示す。
次に、作製した光電変換素子の電流電圧特性を実施例3と同様に測定した。その結果を表18に示しており、比較例「比2−2」との相対値で示す。
実5A,5B,5C,5Dはいずれも比2−2よりも改善していたが、酸化インジウム錫層が1nmから50nmの範囲でより変換効率が高い。さらに、信頼性試験を実施例3と同様に行った。各特性は、初期値に対する相対値で表19に示す。
信頼性試験の結果、実5A,5B,5C、5Dは大きな低下は無かったが、酸化インジウム錫層が薄いほうがより低下が少なく、酸化インジウム錫層が50nm以下であることが好ましい。
以上の結果から、酸化インジウム錫層が1nmから50nmの範囲でより変換効率が高く、尚且つ、信頼性試験も良好であった。
[実施例6]
実施例6は、第1の光起電力素子としてi層が真性非晶質Si:Hのpin型光起電力素子、第2の光起電力素子としてi層が真性微結晶Siのpin型光起電力素子、中間層として酸化インジウム錫と酸化亜鉛を積層した図8に示したような第3の本発明に係る積層型光起電力素子の作製条件を変えて、2サンプル作製した。
中間層の作製において、3重量%の酸化錫と97重量%の酸化インジウムからなるターゲットを用いて酸化インジウム錫をスパッタリングした。
堆積条件は、基板温度170℃、不活性ガスとしてアルゴンの流量50cm3/min(normal)、酸素ガス0.2cm3/min(normal)、堆積室内の圧力200mPa、6inchφの酸化インジウム錫のターゲットに電気接続を切り替えて10Wの直流電力を8分20秒秒印加し、50nmの膜厚となるように堆積した。
その後、同一装置にて、酸化亜鉛からなるターゲットに交換して酸化亜鉛をスパッタリングした。
堆積条件は、アルゴンガスを30cm3/min(normal)、酸素ガス2cm3/min(normal)供給し、圧力を2×10-1Paに保持した。引き続き、基板温度を120℃に加熱し、6inchφの酸化亜鉛のターゲットに電気接続を切り替えて100Wの直流電力を5分間印加し、100nmの酸化亜鉛を堆積した。このようにして酸化インジウム錫層の膜厚を変えた中間層を作製した以外は、実施例3と同様の手順により光起電力素子を作製した。こうして作製したサンプルを「実6A」とした。
同様に酸化インジウム錫のターゲットに電気接続を切り替えて35Wの直流電力を2分30秒印加し、50nmの膜厚となるように堆積した。同様に酸化亜鉛のターゲットに電気接続を切り替えて30Wの直流電力を16分40秒間印加し、100nmの酸化亜鉛を堆積した。こうして作製したサンプルを「実6B」とした。次に、作製した光電変換素子の電流電圧特性を実施例3と同様に測定した。その結果を表20に示しており、比較例「比2−2」との相対値で示す。
実6Aは実6Bよりも特性が良かった。さらに、信頼性試験を実施例3と同様に行った。各特性は初期値に対する相対値で、表21に示す。
信頼性試験の結果、いずれも良好であった。
以上の結果から、酸化インジウム錫層の堆積速度が酸化亜鉛層の堆積速度よりも遅いほうが、より変換効率が高く、信頼性試験も良好であった。
[実施例7]
実施例7は、第1の光起電力素子としてi層が真性非晶質Si:Hのpin型光起電力素子、第2の光起電力素子としてi層が真性微結晶Siのpin型光起電力素子、中間層として酸化インジウム錫と酸化亜鉛を積層した図8に示したような第2の本発明に係る積層型光起電力素子の作製条件を変えて、3サンプル作製した。
中間層の作製において、3重量%の酸化錫と97重量%の酸化インジウムからなるターゲットを用いて酸化インジウム錫をスパッタリングした。
堆積条件は、基板温度170℃、不活性ガスとしてアルゴンの流量50cm3/min(normal)、酸素ガス0.2cm3/min(normal)、堆積室内の圧力200mPa、6inchφの酸化インジウム錫のターゲットに電気接続を切り替えて10Wの直流電力を100秒印加し、10nmの膜厚となるように堆積した。
その後、同一装置にて、酸化亜鉛からなるターゲットに交換して酸化亜鉛をスパッタリングした。
堆積条件は、アルゴンガスを30cm3/min(normal)、酸素ガス2cm3/min(normal)供給し、圧力を2×10-1Paに保持した。引き続き、基板温度を120℃に加熱し、6inchφの酸化亜鉛のターゲットに電気接続を切り替えて100Wの直流電力を5分間印加し、100nmの酸化亜鉛を堆積した。このようにして酸化インジウム錫層の膜厚を変えた中間層を作製した以外は、実施例3と同様の手順により光起電力素子を作製した。こうして作製したサンプルを「実7A」とした。
同様に基板温度120℃にして、酸化インジウム錫のターゲットに電気接続を切り替えて10Wの直流電力を100秒印加し、10nmの膜厚となるように堆積した。その後、同様に、基板温度を170℃にして、酸化亜鉛のターゲットに電気接続を切り替えて100Wの直流電力を5分間印加し、100nmの酸化亜鉛を堆積した。こうして作製したサンプルを「実7B」とした。
同様に基板温度170℃にして、酸化インジウム錫のターゲットに電気接続を切り替えて10Wの直流電力を100秒印加し、10nmの膜厚となるように堆積した。その後、同様に、基板温度を250℃にして、酸化亜鉛のターゲットに電気接続を切り替えて100Wの直流電力を5分間印加し、100nmの酸化亜鉛を堆積した。こうして作製したサンプルを「実7C」とした。
中間層堆積後、目視で表面を観察したところ、実7Cには微細な膜剥がれが観察された。顕微鏡にて確認したところ、中間層が剥がれていることが分かった。
次に、作製した光電変換素子の電流電圧特性を実施例3と同様に測定した。その結果を表22に示しており、比較例「比2−2」との相対値で示す。
実7A、7B、7Cはいずれも「比2−2」よりも良好な特性を有するが、実7Aがより良好であった。さらに、信頼性試験を実施例3と同様に行った。各特性は、初期値に対する相対値で表23に示す。
信頼性試験の結果、実7A〜7Cはいずれも「比2−2」よりも良好な特性が得られた。
実7Cは中間層が微細に剥がれていたものの、信頼性試験ではあまり低下していないことが分かった。実7Aは他のものより、低下が少ないことが分かった。
以上の結果から、酸化亜鉛層の形成温度が酸化インジウム層の形成温度よりも低いほうが変換効率が高く、尚且つ、信頼性試験も良好であった。