JP4570273B2 - ポリケトン繊維、コード及びその製造方法 - Google Patents

ポリケトン繊維、コード及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は高い強度、高い弾性率、高い耐熱特性及び優れた寸法安定性を有し、さらには剛直性が高く耐圧縮特性に優れ、産業用資材用途に適したポリケトン繊維、ポリケトン繊維からなるコード、前記繊維及び/又はコードを用いた製品、前記繊維の製造方法に関する。さらに詳しくは、単糸繊度が2〜10dtexと太繊度でありながら、高い強度と高い弾性率を有し、融点が高く、熱時の寸法安定性や熱時の力学物性に優れ、さらには剛直性が高く、特に糸長方向に対する耐圧縮特性に優れ、高い圧縮負荷のかかる産業用資材用途、特に、タイヤ、ベルト、ホース等のゴム補強材料やセメント等の建材補強材に適するポリケトン繊維、ポリケトン繊維からなるコード、前記繊維及び/又はコードを用いた製品、前記繊維の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、一酸化炭素と、エチレン、プロペンのようなオレフィンとをパラジウムやニッケルを触媒として重合させることにより、一酸化炭素とオレフィンとが実質完全に交互共重合した脂肪族ポリケトンが得られることが見い出され(工業材料、12月号、第5ページ、1997年)、以後、ポリケトンの繊維化の検討が行われている。
【0003】
ポリケトン繊維は、ポリエチレン繊維やポロプロピレン繊維等の従来のポリオレフィン繊維に比べて融点が高く、高強度・高弾性率の繊維が得られることが知られている。これまで高強度、高弾性率のポリケトン繊維については、いくつかの技術が開示されており、例えば、特開平1−124617号公報、Polym.Prepr.(Am.Chem.Soc.,Div.Polym.Chem.),36,1,291−292、Prog.Polym.Sci.,Vol.22,8,1547−1605(1997)には、ポリケトンの溶融紡糸方法が開示されている。
【0004】
ポリケトンの溶融紡糸を行うには、ポリケトンを融点以上に加熱溶融する必要があるが、ポリケトンは熱により化学架橋する性質があるため、エチレン/一酸化炭素にプロペンを共重合する等の手段によって結晶性を下げ、融点を低下させたポリマーを使用する必要がある。しかしながら、これら共重合により融点を下げたポリケトンからなる繊維は、分子鎖が嵩高く、また屈曲性となるため、結晶性及び分子の規則性が低くなり、高強度・高弾性率、高融点及び高耐熱性というポリケトン繊維の特性が大きく損なわれる。そのために、産業用資材に適用可能なポリケトン繊維を得ることができなかった。
【0005】
高強度・高弾性率、高融点及び高耐熱性を有するポリケトン繊維を得るには、エチレン/一酸化炭素の含有率の高いポリケトンを繊維化する必要がある。しかしながら、これらのポリケトンは上述の化学架橋を起こすため、溶融紡糸法による繊維化は困難である。したがって、ポリケトンを溶剤に溶解して繊維化する、いわゆる湿式紡糸法を採用する必要がある。
ポリケトンの湿式紡糸法については、これまでいくつかの方法が知られている。例えば、特開平2−112413号公報、特表平4−505344号公報、特表平7−508317号公報、特表平8−507328号公報、米国特許5955019号明細書、国際公開第99/18143号パンフレット等には、ヘキサフルオロイソプロパノール、m−クレゾール、レゾルシン/水、フェノール/アセトン、ヒドロキノン/プロピレンカーボネート、レゾルシン/プロピレンカーボネート、塩化亜鉛水溶液、塩化亜鉛/メタノール溶液等の溶剤を用いて紡糸して繊維を製造する技術が開示されている。
【0006】
これらの先行技術には、ポリケトンを溶剤に溶解した後に、凝固浴に吐出して凝固せしめて紡糸し、さらに溶剤を一部又は全部除去してから数倍〜数十倍の熱延伸を行うことにより高強度のポリケトン繊維が得られることが開示されている。
これら湿式紡糸法で得られたポリケトン繊維を高強度・高弾性率化するために、通常、10倍以上の高倍率の延伸を行うが、単糸繊度が2dtex未満であると、少量の異物の混入や、微細な欠陥構造によって延伸時に単糸切れや毛羽が発生しやすく、さらにはこれら細繊度の繊維を撚糸する際に毛羽や糸切れが発生しやすい等の工程安定性に問題があった。
【0007】
このため、紡糸・延伸、加工時の収率向上の観点からは、ポリケトン繊維の繊度を太くすることは有効な対策であるが、これら湿式紡糸法により製造する場合には、高性能の繊維を得ることが困難となるという問題があった。すなわち、湿式紡糸の際には、凝固浴中に吐出されたドープは凝固浴と接触する外層から先に固化していくが、繊度が太くなると、先に固化する外層部は緻密な構造となるものの、内層は固化が遅れて疎な構造となる、いわゆるスキン−コア構造となって繊維の密度が低下してしまい、繊維がフィブリル化しやすくなるという問題及び曲げや圧縮に対する疲労性が低下するという問題が生じる。
【0008】
このように湿式紡糸法においては、太繊度であることと緻密な繊維構造を有することは相反する要因であり、上述の湿式紡糸法に関するいずれの先行技術においても、太繊度でありながら高密度で緻密な繊維構造を有し、高強度・高弾性率という優れた繊維物性を有するポリケトン繊維及びその製造方法に関する技術及びこの問題に対する有用な解決策は全く見いだされていない。
ポリケトン繊維の密度に関しては、特開平4−228613号公報において、1.25〜1.38g/cm3の密度を有するポリケトン繊維が記載されているが、この公報では繊維の横断面を顕微鏡で測定して繊維径の算出をしているのみであり、太繊度でありながら密度が1.30g/cm3以上の高密度のポリケトン繊維及びその製造法に関する技術ついては一切開示されていない。さらにこの公報の実施例に記載されている芳香族アルコール系溶剤及び有機溶剤凝固浴を用いた湿式紡糸延伸法では、太繊度の繊維を紡糸する場合、繊維断面が疎な構造になってしまうため、太繊度でありながら密度が1.30g/cm3以上であるポリケトン繊維を得ることはできなかった。
【0009】
一方、ポリケトン繊維の用途の分野では、ポリケトン繊維の高強度・高弾性率、優れた耐熱性及び寸法安定性に着目して各種の産業資材用途、特に、タイヤコードやベルト、ホース等のゴム補強材料用途への適用が期待されている。タイヤコードやベルト、ホース等へのゴム補強材として用いる場合には、一本又は複数本のポリケトン繊維を無撚あるいは適度な撚りを加えて生コードとして、あるいはさらに接着剤を付与して処理コードとしてからゴム材料に埋め込んで使用する。ポリケトン繊維からなるコードはその特性を生かして、ゴム補強材料分野においてはアラミド繊維やレーヨン繊維等の公知の繊維からなるコードを代替、あるいはそれらを超える素材として期待されている。
【0010】
しかしながら、ポリケトン繊維からなるコードは、ポリケトン繊維が高結晶性で高強度・高弾性率の特性を有するにもかかわらず、コードとした場合に非常に軟らかく、曲げや繊維軸方向に対する圧縮等の力が掛かると容易に変形してしまうという問題があった。
例えば、特開平9−324377号公報には、曲げ硬さが10〜80gのポリケトン繊維からなるコードの技術が公開されている。しかしながら、この公報の実施例に示されているのは、プロピレンを7モル%も共重合したポリケトンからなる繊維である。この繊維は低結晶性・低融点であり、コードの強度、弾性率、耐熱性等の物性は全く不十分である。また、このような低結晶性で低弾性率繊維からなるコードは剛性が低く、特に曲げ方向の力に対して形態を保持することが困難であり、成形品に圧縮力がかかった場合にはコード形態が壊れやすく、このコードを用いたタイヤ、ベルト、ホース等のゴム製品は形態保持性に問題があった。
【0011】
特開平11−334313号公報、特開平11−336957号公報、特開平2000―142024号公報、特開平2000−142025号公報、特開平2000−185512号公報、特開平2000−190705号公報、特開平2000−203211号公報、特開平2000−264012号公報等には、ポリケトン繊維からなるコードを用いたタイヤ、ベルト、ホース、無限軌道体等のゴム成形品に関する技術が公開されている。しかしながら、これらの先行技術においても、使用されるポリケトン繊維の繊度やポリケトン繊維からなるコードの剛直性・硬さに関する技術要件は一切記載されておらず、単糸繊度が2〜10dtexの太繊度のポリケトン繊維からなるコードや剛直で形態保持特性に優れるポリケトン繊維からなるコードに関する技術については全く知られていない。
【0012】
一方、ゴム補強材料以外の用途においては、特開平9−328342号公報の実施例1においては、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶剤としてアセトン浴で繊維化した単繊維繊度5dtexの短繊維が記載されている。しかしながら、この溶剤/凝固法で製造されたポリケトン繊維は、上述のスキン−コア構造が激しく、繊維内部の構造が疎である。しかも繊維密度が1.30g/cm3未満であるため、曲げや摩擦により容易にフィブリル化し、また繊維内部が破壊されやすく、特に長繊維として使用した場合には耐疲労性や耐屈曲性が低下するという問題があった。
【0013】
【本発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、単糸繊度が2〜10dtexという太繊度でありながら、緻密で均一な繊維構造を有し、高強度・高弾性率という優れた力学特性を有し、さらには高い融点と優れた耐熱性及び優れた寸法安定性を有するポリケトン繊維及び優れた力学特性と耐熱性、熱寸法安定性と曲げや圧縮に対して優れた形態保持特性を有するポリケトン繊維からなるコード、前記繊維及び又はコードを用いた繊維製品及び前記ポリケトン繊維の製造方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、
(1)オレフィンと一酸化炭素との共重合体からなるポリケトンにより構成されたポリケトン繊維において、ポリケトンを構成する繰り返し単位の97質量%以上が1−オキソトリメチレンであり、ポリケトン繊維の単糸繊度が2〜10dtex、結晶化度が50〜90%、結晶配向度が90%以上、密度が1.30g/cm3以上であることを特徴とするポリケトン繊維、
(2)下式で表される撚り係数Kが100〜30000の範囲で撚糸されていることを特徴とする(1)〜(9)のいずれか1つに記載のポリケトン繊維からなるコード、
K=Y×D0.5 (T/m・dtex0.5
(式中、Yは1mあたりの撚り数(T/m)、Dは撚糸に用いるポリケトンの総繊度(dtex))、
【0015】
(3)(1)〜(9)のいずれか1つに記載のポリケトン繊維及び/又は(10)〜(12)のいずれか1つに記載のポリケトン繊維からなるコードを少なくとも一部に使用していることを特徴とする繊維製品、及び
(4)ハロゲン化亜鉛を10〜80質量%含有する溶液からなる溶剤にポリケトンを溶解したドープを紡糸口金から吐出して、水を50質量%以上含有する凝固浴中で凝固させて繊維状とした後に、水又は酸性水溶液により溶剤を除去し、100〜260℃で乾燥を行い、全延伸倍率が5倍以上の熱延伸を行う工程を含むことを特徴とするポリケトン繊維の製造方法、
である。
【0016】
本発明のポリケトン繊維に用いるポリマーは、オレフィンと一酸化炭素の共重合ポリマーである。強度、寸法安定性、高温繊維物性等の観点から、エチレンと一酸化炭素が結合した化学式(1)で示す1−オキソトリメチレンを主たる繰り返し単位とすることが必要であり、具体的には、97質量%以上が1−オキソトリメチレンであることが必要である。
【0017】
【化1】
Figure 0004570273
【0018】
1−オキソトリメチレンの含有量が97質量%未満の場合、繊維の融点が低下し耐熱性が悪くなるばかりか、弾性率、寸法安定性も低くなり、産業用資材としては不十分となる。1−オキソトリメチレンの含有率は繊維の物性・耐熱性の観点から、好ましくは99質量%以上、より好ましくは100質量%である。
1−オキソトリメチレンどうしは、部分的にケトン基どうし、エチレンどうしがつながっていてもよいが、90質量%以上がオレフィンと一酸化炭素が交互に配列したポリケトンであることが好ましい。耐光性、耐熱性、高温時の物性の低下を防ぐ上で、オレフィンと一酸化炭素が交互に配列した部分の含有率は多ければ多いほどよく、好ましくは97質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0019】
必要に応じて、プロペン、ブテン、ヘキセン、シクロヘキセン、ペンテン、シクロペンテン、オクテン、ノネン等のエチレン以外のオレフィンやメチルメタクリレート、酢酸ビニル、アクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート、スチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、ビニルピロリドン、塩化ビニル等の不飽和炭化水素を有する化合物を共重合してもよい。
【0020】
ポリケトンの重合度は、極限粘度で1〜20であることが好ましい。極限粘度が1未満では分子量が低すぎて高強度のポリケトン繊維を得ることが困難となり、凝固糸の物性(強度・伸度)が低くなるため紡糸時、乾燥時及び延伸時に毛羽や糸切れ等の工程上のトラブルが発生しやすくなる。一方、極限粘度が20を超えるとポリマーの重合に時間、コストがかかり、均一な溶解が困難となり紡糸性や繊維物性にも悪影響がでやすくなる。このため、本発明に用いるポリケトンの極限粘度としては、好ましくは1〜20、より好ましくは2〜10、最も好ましくは3〜8である。極限粘度が2以上のポリケトンを紡糸する場合には、湿式紡糸法が好適に適用される。
【0021】
本発明のポリケトン繊維の単糸繊度は2〜10dtexであることが重要である。単糸繊度が2dtex未満であると、微量の異物の混入や構造の欠陥の存在によって延伸時や撚糸時に毛羽や単糸切れが発生する頻度が高くなり、繊維の品位や工程安定性が低下する。単糸繊度が2dtex未満の繊維を紡糸する場合には、ポリマー融液又はポリマー溶液を吐出する紡糸口金の径が小さいため、異物やポリマー劣化物などによって紡糸口金の詰まりによる吐出ムラや吐出部付近での断糸が起こりやすくなる。さらには、単糸繊度が2dex未満のポリケトン繊維からなるコードは、柔かすぎてコードの剛性が低く、曲げ方向や繊維長方向への力に対して容易に変形が起こり、コードをタイヤ、ベルト、ホース等に成形した際には成型品の形態保持特性が低下する。
【0022】
一方、単糸繊度が10dtexを越えると、凝固、洗浄及び乾燥に時間がかかるため工業的な速度で紡糸することが困難となったり、スキン−コア構造が顕著になり高密度で高強度・高弾性率の繊維が得られにくくなる。また、これらの単糸繊度の太すぎる繊維をコードにした際には、コードが硬くなりすぎて撚り戻りが起こりやすくなり、加工工程の通過性が低下したり、任意の形状にコードを加工することが困難になる。このため、単糸繊度は、2〜10dtexであることが必要であり、好ましくは3〜8dtexである。
【0023】
ポリケトン繊維に高い繊維物性、耐熱性及び耐久性を付与するためには、繊維の結晶構造パラメーターが特定の範囲となることが重要である。具体的には、本発明のポリケトン繊維の結晶化度は50〜90%、結晶配向度は90%以上であることが必要である。
結晶化度は繊維中の結晶構造の量比を表す構造パラメーターであり、高い強度及び弾性率、優れた寸法安定性及び耐熱性を与えるためには、ポリケトン繊維の結晶化度は50%以上が必要であり、60%以上が好ましく、より好ましくは70%以上である。
【0024】
結晶配向度は、繊維中の分子鎖が繊維軸方向に配列する規則性の度合いを表す構造パラメーターであり、高弾性率のポリケトン繊維を与えるためには90%以上が必要であり、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上である。
さらに本発明のポリケトン繊維の密度が1.30g/cm3以上であることが必要である。ポリケトンの結晶の理論密度は、室温において1.30〜1.39g/cm3であることが知られており(J.Polym.Sci,:Part B:Polymer Phys.33,315−326(1995))、熱延伸をすることにより1.30g/cm3以上の密度を有する繊維を得ることは理論上可能であるが、単糸繊度が2dtex以上の太繊度の繊維、特に、湿式紡糸法によって得られる太繊度のポリケトン繊維においては、密度が1.30g/cm3以上のものを得ることは非常に困難である。
【0025】
すなわち、湿式紡糸法を行う場合、紡糸原液は、凝固浴中に連続した糸条体として吐出され、この紡糸原液が凝固浴と接触した場合、まず外層が固化する。繊度が太くなると、先に固化する外層部は緻密な構造となるものの、内層は固化が遅れ疎な構造となる、いわゆるスキン−コア構造が形成され、繊維内部に多数のボイドが形成される。
このボイドは延伸後も残り、得られる繊維の密度もポリケトン本来の密度よりも大幅に低下する。さらに、このようなボイドは糸の欠陥として作用するため、高倍率に延伸する際の糸切れや毛羽の原因になったり、高強度繊維が得難くなるという問題が生じる。さらには、内部にボイドを有する低密度の繊維は高倍率に延伸することによりある程度の強度を有する繊維は得られるが、このような繊維は高い引っ張り強度は示しても、曲げや圧縮等の力によって繊維が挫屈しやすく、耐疲労性や耐圧縮性の優れる繊維を得ることはできない。
【0026】
このような理由から、太繊度のポリケトン繊維においては、密度が高いほど繊維の内外層の構造差が小さく、緻密でボイドが少ない構造となり、紡糸時、延伸時及び加工時の工程通過性に優れ、得られる繊維の物性も優れるものとなる。したがって、繊維の密度は1.30g/cm3以上であることが必要であり、好ましくは1.33g/cm3以上である。
本発明のポリケトン繊維の物性としては、ゴム補強材料をはじめとして各種産業用資材用途への応用を考慮すると、引っ張り強度及び引っ張り弾性率は高いほどよい。具体的には、引っ張り強度は好ましくは7cN/dtex以上、より好ましくは10cN/dtex以上、最も好ましくは15cN/dtex以上である。引っ張り弾性率は、好ましくは100cN/dtex以上、より好ましくは150cN/dtex以上、最も好ましくは250cN/dtex以上である。
【0027】
ポリケトン繊維の融点はポリマーの繰り返し単位の組成、繊維の結晶化度、結晶配向度により決定されるが、上述の各種産業用資材用途への幅広い応用を考慮すると、融点は240℃以上であることが好ましく、より好ましくは250℃以上、最も好ましくは260℃以上である。
ポリケトン繊維の断面形状については特に制限はなく、円、楕円、三角、星形、アルファベット型、中空等どのようなものでもよいが、繊維物性、紡糸、延伸、撚糸等の製造工程通過性の観点から円形が好ましい。必要に応じて、粘度や分子量分布の異なるポリマーや繰り返し組成の異なるポリマー、さらには異種ポリマーとの複合紡糸を行ってもよく、複合形態としては鞘芯、サイドバイサイド等、公知の方法を採用できる。
【0028】
本発明のポリケトン繊維は単糸の状態で用いてもよいが、通常は複数の単糸を繊維軸方向に平行に並び合わせたマルチフィラメントとして用いられる。マルチフィラメントを構成する単糸の本数には特に制限はなく、用途に応じて適宜選定することができる。例えば、タイヤ、ベルト、ホース等のゴム補強材料用途では、好ましくは10本以上、より好ましくは30本以上、最も好ましくは100本以上の単糸からなる。マルチフィラメントの総繊度についても特に制限はなく、使用目的、用途に応じて適宜選定することができる。多量の繊維を加工する必要のある産業用資材用途の場合、総繊度が小さすぎると加工時の取り扱い性が悪くなるため、総繊度は好ましくは50dtex以上、より好ましくは100dtex以上、最も好ましくは500dtex以上である
【0029】
本発明のポリケトン繊維は、目的に応じて油剤、酸化防止剤、クエンチング剤、ラジカル捕捉剤、重金属不活性化剤、ゲル化抑制剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、顔料等の添加剤、他のポリマー等を含んでいてもよい。
【0030】
本発明の単糸繊度2〜10dtexのポリケトン繊維は、無撚のまま、あるいは撚糸をして生コードとすることができる。撚糸を行う場合、撚糸の種類、方法、合撚本数については特に制限はなく、例えば、片撚り糸、もろ撚り糸、ピッコもろ撚り糸、強撚糸などの公知の撚糸方法を採用することができる。合撚する本数についても特に制限はなく1本撚り、2本撚り、3本撚り、4本撚り、5本撚りのいずれでもよく、6本以上の合撚であってもよい。
【0031】
撚糸数は、単糸繊度や総繊度によって変化するため特に制限はなく、加工条件、使用環境に応じて任意に撚糸数を選定すればよい。タイヤ、ベルト、ホース等のゴム補強材料用のコードとする場合には、下式で表される撚り係数Kが100〜30000の範囲で撚糸されたものが好適に用いられる。
K=Y×D0.5 (T/m・dtex0.5
式中、Yは1mあたりの撚り数(T/m)、Dは撚糸に用いるポリケトン繊維の総繊度(dtex)である。
【0032】
複数の繊維を合撚し下撚り、上撚りを行う場合は、上撚りの撚り係数Kを100〜3000の範囲とすることが好ましい。この場合、下撚りの撚糸数は特に制限はないが、例えば、汎用のゴム補強材料用途の場合には、上撚りの撚糸数の0.1〜10倍が好ましく、より好ましくはに0.5〜2倍である。
このようなポリケトン繊維からなる撚糸コードに、濃度10〜30質量%のレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)液を付着させ、少なくとも100℃の熱をかけて固着させることにより、剛直で曲げや圧縮に対して変形しにくいポリケトン繊維からなるRFL処理コードを得ることができる。
【0033】
RFL樹脂の付着量は、繊維質量に対して2〜7質量%が好ましい。RFL液の組成は特に限定されず、公知の組成のものを使用することができる。RFL液の好ましい組成としては、レゾルシン0.1〜10質量%、ホルマリン0.1〜10質量%、ラテックス1〜28質量%であり、より好ましい組成としてはレゾルシン0.5〜3質量%、ホルマリン0.5〜3質量%、ラテックス10〜25質量%である。
【0034】
RFL液を付与したコードの乾燥温度は好ましくは120〜250℃、より好ましくは140〜200℃であり、乾燥時間は10秒以上、好ましくは20〜120秒である。
乾燥後のRFL処理コードに、引き続き熱処理を行うことが好ましい。熱処理条件としては、処理温度は好ましくは120〜270℃、より好ましくは150〜230℃であり、熱処理時間は好ましくは10〜300秒、より好ましくは30〜120秒である。熱処理の際にはコードを定長に維持することが好ましく、熱処理前後のコードの寸法変化は好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下、最も好ましくは0%である。
【0035】
このようにして得られたポリケトン繊維からなるコードは、高い強度、高い弾性率及び高い熱寸法安定性を有するだけでなく、特に、剛直性が高く、曲げ方向や繊維軸方向への圧縮に対して変形しにくいという優れた特性を有する。ポリケトン繊維のRFL処理コードの特性は、ポリケトン繊維の総繊度、撚り係数やRFL処理条件等によって異なるため一概に規定することはできないが、非常に剛直で形態保持特性に優れる。
【0036】
本発明においては、コードの硬さ・形態保持特性は、最大曲げ応力の値によって表される。この最大曲げ応力の値が高いほど、コードが剛直で曲げや圧縮に対して変形しにくくなる。最大曲げ応力の好ましい範囲は、用途によって異なるため一概に規定することはできないが、タイヤ等の非常に強い圧縮力を受ける用途の場合には、最大曲げ応力の値は0.02cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは0.03cN/dtex、最も好ましくは0.04cN/dtexである。一方、最大曲げ応力が高すぎるとコードが剛直になりすぎて、成形性や加工性が低下するため、最大曲げ応力の値は好ましくは0.3cN/dtex以下、より好ましくは0.25cN/dtex、最も好ましくは0.2cN/dtex以下である。
【0037】
以上のような特性を具備するポリケトン繊維、ポリケトン繊維からなるコードは、そのままあるいは繊維製品に加工され、衣料用、産業用、生活資材等の幅広い用途に適用可能である。繊維製品としては、ポリケトン繊維のみから構成される糸、中空糸、多孔糸、綿、紐、編物、織物、不織布及びこれらを使用した衣類、医療用器具、生活資材、タイヤコード、ベルト、コンクリート補強材料等はもちろんのこと、ポリケトン繊維を少なくとも一部に使用した繊維製品が含まれる。
【0038】
繊維製品においては、ナイロン6、ナイロン6・6等のポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン繊維、ポリビニルアルコール繊維、アラミド繊維、羊毛、ポリアクリロニトリル繊維、木綿、ビスコースレーヨン等のセルロース繊維などの繊維と複合して用いてもよい。また、同一種の繊維であっても熱的・機械的特性の異なる繊維、繊度やフィラメント数の異なる繊維、又は長繊維や短繊維、紡績糸などを複合して用いてもよい。
【0039】
特に、本発明のポリケトン繊維はタイヤコードやホース、ベルト等のゴム補強材料、コンクリート補強材料、フィルターやハウスラップ等の不織布、さらにはエアバッグやシート等の織物、漁網などの編み物、釣り糸、縫い糸、ロープなどの強い負荷を受ける産業資材用途に幅広く使用することが可能である。
本発明のポリケトン繊維の製造方法は特に限定されないが、一般的にはポリケトンを一旦溶剤に溶解した後に繊維化する湿式紡糸法が用いられる。
【0040】
以下、濃厚金属塩溶液を溶剤とする湿式紡糸法を例に、本発明のポリケトン繊維の製造法を説明する。
ポリケトンの溶剤に用いられる金属塩としては、ハロゲン化亜鉛化合物が挙げられ、例えば、塩化亜鉛、臭化亜鉛、よう化亜鉛等の亜鉛塩等が挙げられる。ポリケトンの溶解性、溶媒のコスト、溶液の安定性の点で塩化亜鉛、よう化亜鉛が好ましく、塩化亜鉛が最も好ましい。
【0041】
溶液中のハロゲン化亜鉛の濃度は、特に制限はないが、ポリケトンの溶解性の点からは高い方が好ましい。ハロゲン化亜鉛の溶液中の濃度は、ポリケトンの組成、亜鉛塩の種類や溶液の温度により適正範囲が異なる。例えば、ポリマーを溶解する際の塩化亜鉛溶液の好ましい濃度は、50〜80℃では10〜80質量%であり、ドープの安定性、紡糸性、回収コスト等の観点から15〜70質量%が好ましい。
【0042】
溶解性向上、コストダウンやドープの熱安定性等を目的として、ハロゲン化亜鉛塩の溶液は、ハロゲン化亜鉛を複数混合したものであってもよい。また、必要に応じて、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属のハロゲン化物を60質量%以下含んでいてもよい。
ポリケトンの溶解性、溶液の取り扱い性、紡糸性、凝固性、得られるポリケトン繊維の断面構造の均一性、繊維物性の観点から、むしろこれらアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属のハロゲン化物を含むことが好ましく、コスト、溶解性、紡糸性の観点から塩化亜鉛/塩化ナトリウム、塩化亜鉛/塩化カルシウムの複合塩を溶解した溶液がより好ましい。塩化亜鉛/塩化カルシウム複合塩溶液は、太繊度のポリケトン繊維を製造する場合でも繊維断面構造が均一でスキン−コア構造にならず、ボイドが少なく高密度・高物性のポリケトン繊維が得られやすい。
【0043】
複合塩溶液を用いる場合の塩の組成比としては、ハロゲン化亜鉛が15〜75質量%、ハロゲン化アルカリ金属及びハロゲン化アルカリ土類金属から選ばれた少なくとも一種の金属塩が1〜50質量%であることが望ましい。複合塩溶液を用いる場合の具体的な塩の組成比としては、例えば、塩化亜鉛/塩化ナトリウム系の場合、塩化亜鉛50〜75質量%/塩化ナトリウム25〜1質量%の範囲が好ましい。塩化亜鉛/塩化カルシウム系の場合、塩化亜鉛15〜40質量%/塩化カルシウム50〜25質量%の範囲とすることが好ましく、塩化亜鉛18〜25質量%/塩化カルシウム45〜35質量%とすることがより好ましい。
【0044】
ポリケトンの溶解性を阻害しない範囲で、ハロゲン化亜鉛溶液中にこれら金属塩以外の無機物、有機物を10質量%以下で含んでいてもよい。
溶剤の溶質としては上記金属塩を溶解する能力のあるものであれば特に制限はなく、水、メタノール等の無機・有機の液体を用いることができ、複数種類の液体を混合したものを用いてもよい。好ましい溶質としては、水、メタノールが挙げられ、コスト、取り扱い性、安全性、溶解性の観点から水を50質量%以上含有する水溶液が好ましい。
【0045】
ハロゲン化亜鉛溶液のドープ中のポリケトン濃度は0.005〜70質量%であることが好ましい。ドープとは、ポリマーを溶剤に溶解させた溶液を指す用語であり、ここではポリケトンを亜鉛塩溶液に溶解させた溶液を指すものである。ドープ中のポリケトン濃度が0.005質量%未満では濃度が低すぎて、凝固時に繊維状になりにくく、製造コストも高くなる。ポリケトン濃度が70質量%を越えるとポリマーの溶解性が低下する。溶解性、紡糸のしやすさ、製造コストの観点から、好ましくは0.5〜40質量%、より好ましくは1〜30質量%、最も好ましくは3〜15質量%である。
【0046】
このドープを紡糸口金から吐出して、凝固浴中で吐出されたドープを繊維状に凝固させる。
吐出時のドープ温度は、ポリケトンが溶解する温度以上であることが重要であるが、温度が高すぎるとドープ中のポリマーが変性したりドープの着色が起こるため、好ましくは50〜150℃、より好ましくは60〜120℃、最も好ましくは70〜100℃である。
【0047】
紡糸口金の径については特に制限はなく、ポリマー濃度や紡糸速度、紡糸ドラフトに応じて適宜選定される。紡糸口金の径が小さすぎると異物等による詰まりが発生したり吐出圧力が高くなりすぎてドープの吐出が不安定になり、紡糸口金の径が大きすぎると吐出圧力が低くなりすぎて吐出量が不安定になるため、0.01〜1mmφの径のものが好適に用いられる。紡糸口金の形状についても特に制限はなく、目的の繊維の断面形状に応じて丸形、三角型、四角、星形、矩形等の従来公知の紡糸口金の形状から適宜選定される。凝固性、断面方向の物性の均一性の観点から丸型が好ましい。
【0048】
紡糸口金から吐出されたドープは、直接凝固浴に接触せしめて凝固させる直接凝固法、あるいは凝固浴に入る前に一旦気体中を通過するエアーギャップ紡糸法により繊維状に凝固される。
直接凝固法を採用する場合、紡糸口金内のドープ温度と凝固浴の温度との差が大きいと、紡糸口金付近の温度が不均一になり紡糸が不安定になって高性能の繊維が得られなくなるため、紡糸口金の周辺を十分に保温することが重要である。
【0049】
エアーギャップ紡糸法を行う場合、エアーギャップ部の気体の組成には特に制限はないが空気、窒素が好ましく、空気がより好ましい。エアーギャップの長さについては特に制限はないが、紡糸の安定性の観点から0.1〜1000mmが好ましく、より好ましくは0.5〜100mm、最も好ましくは1〜50mmである。
凝固浴の組成は、メタノール、アセトン等の有機溶剤、水、有機物水溶液、無機物水溶液等、どのようなものであってもよいが、有機溶剤のみから構成される凝固浴の場合には、凝固速度が著しく遅くなり工業的なスピード・設備で紡糸することが困難となるため、凝固に用いる溶液には、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%、最も好ましくは50質量%の水を含有させる。
【0050】
ドープとしてハロゲン化亜鉛系溶剤を用いた場合、ドープを凝固浴に吐出するにつれて、凝固浴中にハロゲン化亜鉛等の金属塩が溶出する。凝固浴のpHが高いと金属塩が析出し、繊維内部に入って断糸や毛羽の原因となる。このため、凝固浴に塩酸や硫酸、酢酸等の酸を添加して凝固浴のpHを低くし、金属塩の析出を抑制することが好ましい。凝固浴中のpHは、好ましくは6以下、より好ましくは5以下、最も好ましくは4以下である。
【0051】
凝固浴中には、溶剤として用いるハロゲン化亜鉛やハロゲン化アルカリ金属塩、ハロゲン化アルカリ土類金属塩等の金属塩を含有していてもよい。凝固浴中にこのような金属塩が存在するとドープの急激な凝固が抑制され、繊維表層部と内層部との構造差が小さく、緻密な繊維構造となる。凝固浴中の金属塩の量としては、好ましくは0.01〜30質量%、より好ましくは0.1〜20質量%、最も好ましくは1〜10質量%である。
【0052】
溶剤として複数の金属塩の溶液を用いる場合、凝固浴中の金属塩の組成比を溶剤中の金属塩の組成比に近いものにすると回収が容易となる。また、凝固浴中にこれら金属塩を含有させる場合、酸を添加するなどして凝固浴中のpHを下げて金属塩を均一に溶解しておくことが好ましい。
凝固浴の主組成が水の場合、凝固浴温度が高いと繊維の表層部と内層部の凝固速度差が著しく大きくなり、特に、繊維内部がボイドの多い疎な構造となってしまう。このような凝固糸は、その後の熱延伸工程で延伸倍率を高くとれず、結果として高物性のポリケトン繊維が得られなくなる。このため、繊維の断面方向の凝固速度差を緩和するように凝固条件を選定することが重要である。
【0053】
凝固浴の温度は、凝固浴の組成によって変化するが、通常−100℃〜100℃の範囲である。凝固浴温度が高くなりすぎると上述のように繊維内層部にボイドが多く、構造の緻密な、高物性を発現するポリケトン繊維が得られにくく、延伸時や加工時に糸切れや毛羽が発生する等の問題が起こりやすくなる。このため、凝固浴の温度は好ましくは50℃以下、より好ましくは20℃以下、最も好ましくは10℃以下にすることが好ましい。一方、凝固浴温度が低すぎると凝固速度が遅くなり紡糸速度を遅くしたり凝固浴長を長くする必要が生じ、生産性が低下するため、好ましくは−50℃以上、より好ましくは−30℃以上、最も好ましくは10℃以上とする。
【0054】
特に、溶剤に塩化亜鉛/塩化カルシウム等の複合溶剤を用いる場合、凝固浴温度を好ましくは−50℃〜30℃、より好ましくは−10℃〜10℃とすることにより、生産性よく、内層部まで緻密で高密度のポリケトン繊維が得られる。
紡糸口金より吐出されたドープを凝固浴に通す場合は、一定速度で引き取りながら通すことが好ましい。巻き取り速度は、通常、0.001〜100m/min、紡糸ドラフトは0.01〜100である。紡糸ドラフトとは、巻き取り速度を吐出線速度で除した値である。
【0055】
本発明の繊維は単糸繊度が太いため、凝固浴中で凝固糸中の金属塩を十分に除去できない。したがって、凝固浴を出た凝固糸をさらに洗浄することが非常に重要である。洗浄には金属塩を溶解する能力を有する液体であればどのようなものを用いてもよいが、安全性、溶液のコスト、回収のコスト等を考慮すると、水系の溶液が好ましく、金属塩の溶解性の観点からは水又は硫酸、塩酸、リン酸等の酸性水溶液が特に好ましい。
【0056】
洗浄方法は従来公知の方法及び装置を適用することができる。好ましい洗浄方法としては、洗浄効率の点から洗浄浴中を繊維を通す方法、又は繊維を洗浄液で満たされたロール表面上を走行させる方法が挙げられる。洗浄温度は高いほど金属塩の溶解能力に優れるため、好ましくは20〜100℃、より好ましくは30〜60℃である。
金属塩が糸中に残存した場合、繊維の延伸や撚糸時の工程通過性が低下し、緻密で高物性のポリケトン繊維が得られなくなるばかりか、得られる繊維の耐熱性が低下したり、糸が変色・着色する等の問題が起こりやすくなる。このため、洗浄工程では最終的に糸に含まれる金属塩の残量が好ましくは10000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、最も好ましくは100ppm以下になるまで繰り返し洗浄する。
【0057】
こうして凝固された実質的に金属塩を含まない繊維は、乾燥後延伸あるいは乾燥させながら延伸を行って延伸糸を得ることができる。乾燥方法としては、いったん凝固糸を巻き取ったもの(チーズ、あるいはケークやパーン)を乾燥機中で乾燥するバッチ乾燥法、凝固糸を紡糸後そのまま連続して、あるいはいったん巻き取った後に、加熱したロールやプレート上あるいは加熱気体中を走行させて乾燥する連続乾燥法でもよい。糸の均一性や製造コストの観点からは連続乾燥法が好ましい。乾燥温度は特に制約はないが、乾燥温度が高すぎると、乾燥時に繊維の表層部と内層部とで乾燥速度に差が生じて断面構造が不均一となる。一方、乾燥温度が低すぎると工業的な速度で乾燥が完了しないため、乾燥温度は好ましくは100℃〜260℃、より好ましくは120〜250℃、最も好ましくは150〜240℃である。
【0058】
乾燥工程を数段に分けてあるいは連続的に乾燥温度を徐々に上げていくと効率的に内外構造差の小さい未延伸糸を得ることができるため、乾燥温度が昇温していくような乾燥工程を通ることが好ましい。乾燥温度は、乾燥効率、未延伸糸構造の観点から100℃〜260℃の範囲内であることが好ましい。乾燥時間が高すぎると糸が劣化することがあるため、糸の周囲に不活性気体を流すことが好ましい。必要に応じて、乾燥しながら同時に緩和や延伸などの処理をしてもよい。
【0059】
このようにして得られた未延伸糸を引き続き加熱し、特定の倍率以上に延伸することにより、本発明の高度に配向結晶化したミクロ構造と高密度で緻密なマクロ構造を有するポリケトン繊維を得ることができる。
加熱延伸方法としては、未延伸糸を、加熱したロール上又はプレート上、あるいは加熱気体中を走行させる方法や、走行糸にレーザーやマイクロ波、赤外線を照射する方法等、公知の装置及び方法をそのままあるいは改良して採用することができる。伝熱効率、糸温度の均一性の観点から加熱ロール又は加熱プレート上での延伸が好ましく、ロールとプレートを併用した延伸法であってもよい。また、ロールやプレートの周囲を密閉し、密閉空間内に加熱気体を充填するとより温度が均一な延伸が可能となり好ましい。
【0060】
延伸段数は何段であってもよく、必要に応じて多段延伸を行ってもよい。多段延伸を行う場合には延伸温度を徐々に高くしていく方法が好ましい。延伸温度は糸を有効に延伸することが可能であればどのような温度でもよく、好ましい範囲としては80℃〜300℃、より好ましくは(融点−50℃)〜融点の範囲である。得られるポリケトン繊維の結晶化度、結晶配向度及び強度、弾性率、耐熱性等の力学特性の観点から、延伸倍率は好ましくは全延伸倍率として5倍以上が好ましく、より好ましくは10倍以上、最も好ましくは15倍以上である。
【0061】
本発明のポリケトン繊維は、従来技術では達成できなかったような、太繊度でありながら、高結晶性、高結晶配向度のミクロ構造と緻密、かつ、均一でボイドのない高密度のマクロ構造を有する繊維であり、高強度・高弾性率、高耐熱性、高耐疲労性、高形態保持特性を具備している。したがって、そのままで、又は撚糸若しくは樹脂による処理コードとして産業資材分野、特に長時間にわたり高温・高負荷の環境下で使用されるタイヤ、ベルト、ホース等のゴム補強材料分野での使用に極めて有用である。
【0062】
【発明の実施の形態】
本発明を実施例により具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお実施例1〜19のうち、実施例1〜8、10、12〜14、17〜19は本発明例であり、実施例9、11、15、16は参考例である。
本発明に用いられる各測定値の測定方法は次の通りである。
(1)極限粘度
極限粘度[η]は次の定義式に基づいて求められる値である。
【0063】
Figure 0004570273
式中のt及びTは、純度98%以上のヘキサフルオロイソプロパノール及びヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間である。Cは上記溶液100ml中のグラム単位による溶質質量値である。
【0064】
(2)繊度、引っ張り強度、引っ張り伸度、引っ張り弾性率
JIS−L−1013に基づいて測定する。
引っ張り弾性率は伸度0.1%における荷重と伸度0.2%における荷重から算出した初期弾性率の値である。
(3)フイラメント数
顕微鏡により糸を構成するフィラメント数を数える。
(4)単糸繊度
(2)で測定した糸の繊度を(3)で測定したフィラメント数で除した値を単糸繊度とする。
【0065】
(5)結晶化度
パーキンエルマー社製示差熱測定装置Pyris1を用いて下記条件で測定を行う。サンプルには、糸長を5mmにカットした短繊維を用いる。
サンプル質量: 1mg
測定温度 : 30℃→300℃
昇温速度 : 20℃/分
雰囲気 : 窒素、流量=200mL/分
得られる吸発熱曲線において200〜300℃の範囲に観測される最大の吸熱ピークの面積から計算される熱量ΔH(J/g)より下記式により算出する。
結晶化度 =(ΔH/225)×100 (%)
【0066】
(6)結晶配向度
株式会社リガク製イメージングプレートX線回折装置RINT2000を用いて下記の条件で繊維の回折像を取り込む
X線源 : CuKα線
出力 : 40KV 152mA
カメラ長 : 94.5mm
測定時間 : 3分
得られた画像の2θ=21°付近に観察される(110)面を円周方向にスキャンして得られる強度分布の半値幅Hから下記式により算出する。
結晶配向度=[(180−H)/180]×100 (%)
【0067】
(7)融点
(5)で得られる吸発熱曲線の200〜300℃の範囲に観測される最大の吸熱ピークのピークトップ温度を融点とする。
(8)密度
JIS−L−1013に基づいて四塩化炭素及びn−ヘプタンにより作製した密度勾配管を用いて、密度勾配管法にて測定を行う。
(9)処理コードの繊度
コード10mあたりの質量W(g)を計量し、W×1000をコードの繊度(dtex)とする。
(10)最大曲げ応力
図1に示す装置を用いて、引っ張り試験機のクロスヘッド速度を200mm/分として測定する。
【0068】
図1は、コードに負荷された曲げ荷重を測定するための装置であり、ロードセル1、支持棒を固定するためのチャック2、コードを曲げるための太さ0.75mmのフック付き針金3、太さ0.75mmのフック付き針金2本を5mmの間隔を開けて配列した支持棒5を備えている。長さ20mmのポリケトン繊維からなるコード4の中心を針金3のフックに掛け、コード4の中心点の左右を直径10mmの支持棒5のフックで支持する。コードを設置後、ロードセル1を矢印の方向に速度200mm/分で牽引する。
【0069】
この測定により得られる荷重−歪み曲線現れる最初の降伏点の荷重を最大曲げ荷重(N)とし、5回の測定における最大曲げ荷重の平均値を、コードの繊度で除した値を最大曲げ応力(cN/dtex)とする。この値が大きいほど、コードが剛直で曲げに対して強いことを表す。
図2は、コードの曲げ応力測定における荷重−歪みの関係の概要を示す図であり、横軸は図1のロードセル1の移動長(mm)を支持棒5間の距離(5mm)で除した歪みであり、縦軸はコードに掛かる荷重(N)であり、縦軸上方ほど荷重は大きいことを表す。図中、荷重が極大を示す点が最大曲げ荷重である。
【0070】
【実施例1】
常法により調製したエチレンと一酸化炭素が完全交互共重合した極限粘度6.5のポリケトンを、塩化カルシウム40質量%/塩化亜鉛22質量%を含有する水溶液に添加し、80℃で2時間攪拌後、さらに90℃で1時間溶解しポリマー濃度6.5質量%のドープを得た。
得られたドープを80℃に加温し、20μmのフィルターでろ過した後に、紡糸口金の径0.25mmφ、L/D=1、ホール数50の紡口より10mmのエアーギャップを通した後に、2質量%の塩化カルシウム、1.1質量%の塩化亜鉛及び0.1質量%の塩酸を含有する−2℃の水からなる凝固浴に吐出量11.2ml/分の速度で吐出して凝固させ、引き取り速度5m/分で曳き取った。
【0071】
引き続き、曳きとられたポリケトン凝固糸を温度30℃、濃度2質量%の塩酸水溶液の流れる直径300mmの2組のロール上を(ロール表面速度=5m/分)30ラップ通して酸洗浄し、さらに40℃の水が流れる直径300mmの2組のロール上を(ロール表面速度=5m/分)30ラップ通して仕上げ洗浄を行った後、速度5m/分で巻き取った。
得られた糸条を簡易脱水した後に、この凝固糸にIRGANOX(登録商標、チバスペシャリティーケミカルス社製)1098、IRGANOX(登録商標、チバスペシャリティーケミカルス社製)1076をそれぞれ0.05質量%ずつ(対ポリケトン)含浸せしめた後に、160℃で30秒間、引き続き225℃で1分間の2段階の定長乾燥を行い、繊度2548.3dtexの未延伸糸を得た。
【0072】
この未延伸糸を210℃に加熱したロール上を3回通した後に、周囲に225℃の加熱空気を流した長さ1mのホットプレート上で225℃で7倍の1段目の延伸を行った後に、引き続き240℃で1.8倍の2段目、さらに258℃で1.37倍の3段目の延伸を行い、トータルで17.2倍の延伸を行って、繊度148.2dtex/50fのポリケトン繊維を得た。
この繊維は結晶化度71.2%、結晶配向度97.1%、密度は1.34g/cm3であり、緻密な構造を有し、高い力学物性及び融点を有していた。紡糸性、延伸性ともに良好で毛羽、断糸等の工程不具合は全く観察されなかった。得られた繊維の性質及び性能を表1に示す。
【0073】
【実施例2】
実施例1において、トータルの延伸倍率を13.2倍(1段目/2段目/3段目=7倍/1.5倍/1.26倍)とした以外は同様にしてポリケトン繊維を製造した。
【0074】
【実施例3】
実施例1において、凝固、洗浄後の巻き取りの速度を3m/分とした以外は同様にして紡糸、乾燥、延伸を行ってポリケトン繊維を製造した。
【0075】
【実施例4】
実施例1において、凝固、洗浄後の巻き取り速度を2.5m/分とした以外は同様にして紡糸、乾燥、延伸を行ってポリケトン繊維を製造した。
【0076】
【実施例5】
実施例1において、紡糸口金の径を0.4mmφとし、吐出量を31.4cc/分とした以外は同様にして紡糸、乾燥、延伸を行ってポリケトン繊維を製造した。
【0077】
【実施例6】
実施例1において、紡口のホール数を10とし、吐出量を2.5cc/分とした以外は同様にして紡糸、乾燥、延伸を行ってポリケトン繊維を製造した。
【0078】
【実施例7】
実施例1において、紡口のホール数を250とし、吐出量を61.3cc/分とした以外は同様にして紡糸、乾燥、延伸を行ってポリケトン繊維を製造した。
【0079】
【実施例8】
実施例7で得られた未延伸糸を225℃で7.2倍延伸した1段延伸糸を2本合糸した後に、実施例1と同じ温度条件で2段目/3段目/4段目(各段の延伸倍率=1.5倍/1.3倍/1.2倍)の多段延伸を行ってポリケトン繊維を製造した。
【0080】
【実施例9】
実施例1において、溶剤を塩化亜鉛75質量%含有する水溶液とし、ドープのポリマー濃度を6.0質量%として、凝固浴組成を塩化亜鉛を5質量%、塩酸を0.1質量%含有する20℃の水溶液とした以外は同様にして紡糸、乾燥、延伸を行ってポリケトン繊維を製造した。
【0081】
【実施例10】
実施例1において、溶剤を塩化亜鉛65質量%/塩化ナトリウム10質量%含有する水溶液とし、ドープのポリマー濃度を7.0質量%として、凝固浴組成を塩化亜鉛2.6質量%/塩化ナトリウム0.4質量%、塩酸を0.1質量%含有する20℃の水溶液とした以外は同様にして紡糸、乾燥、延伸を行ってポリケトン繊維を製造した。
【0082】
【実施例11】
実施例1において、極限粘度が8.9のポリケトンを用い、ドープのポリマー濃度を4.8質量%とした以外は同様にして紡糸、乾燥、延伸を行ってポリケトン繊維を製造した。
【0083】
【実施例12】
実施例1において、極限粘度が3.9のポリケトンを用い、ドープのポリマー濃度を10質量%とした以外は同様にして紡糸、乾燥、延伸を行って ポリケトン繊維を製造した。
【0084】
【実施例13】
常法によりポリケトンとして1−オキソトリメチレン/1−オキソ,3−メチルトリメチレンが97質量%/3質量%のターポリマー(極限粘度5.9)を重合した。このターポリマーを用い、ドープのポリマー濃度を7.5質量%とした以外は実施例1と同様にして紡糸を行った。
得られた糸を、210℃で90秒間の乾燥をした後に、210℃/225℃/240℃にて3段階の熱延伸を行っポリケトン繊維を製造した。
【0085】
【実施例14】
実施例1において、凝固浴の温度を15℃とした以外は同様にして紡糸、乾燥、延伸を行ってポリケトン繊維を製造した。
【0086】
【実施例15】
実施例1において、凝固浴の組成を塩化カルシウムを6質量%、塩化亜鉛を3.3質量%、塩酸を0.2質量%とし、凝固浴温度を−10℃とした以外は同様にして紡糸、乾燥、延伸を行っポリケトン繊維を製造した。
【0087】
【実施例16】
実施例1において、乾燥温度を200℃で20秒間、235℃で1分間の乾燥とし、延伸温度を235℃/245℃/253℃/258℃の4段階(各段の延伸倍率=7倍/1.5倍/1.3倍/1.28倍)とした以外は同様にして紡糸、乾燥、延伸を行いポリケトン繊維を製造した。
実施例2〜16で得られた繊維の性質及び性能を表1に示す。
【0088】
【比較例1】
実施例1で得た未延伸糸は繊度は2790.4dtexであったが、繊維物性は全く不十分で実用不可能なものあった。
比較例1の繊維の性質及び性能を表2に示す。
【0089】
【比較例2】
実施例1において、延伸条件を温度225℃、延伸倍率5倍の1段延伸とした以外は同様にしてポリケトン繊維を製造した。繊維物性は産業用資材としては不十分なものであった。
【0090】
【比較例3】
実施例1で用いた極限粘度6.5のポリケトンをヘキサフルオロイソプロパノールに添加し、30℃、2時間攪拌、溶解し、ポリマー濃度7質量%のドープを得た。得られたドープを実施例1と同じ紡口を使用して吐出量9.2cc/分の速度で、10℃のアセトン浴中に押し出し、浴から引き上げた後に温度40℃、風速3m/分の窒素が流れる長さ10mのチャンバー中を通し、3m/分の速度で巻き取り凝固糸を得た。得られた凝固糸を30℃、24時間静置し乾燥した。
【0091】
得られた未延伸糸の横断面を電子顕微鏡にて観察したところ、繊維表層部は緻密であるものの中心部は疎なスキンコア構造を有しており、繊維断面の中心部には直径数10nm〜数百nmの多数のボイドが存在していた。
この未延伸糸を実施例1と同様の処方で熱延伸したが、得られたポリケトン繊維の密度は1.26g/cm3であり、低いものであった。
【0092】
【比較例4】
比較例3において、ドープの吐出量を14.7cc/分とした以外は同様にして紡糸、乾燥、延伸を行った。得られたポリケトン繊維の密度は1.23g/cm3であり、非常に疎な構造であった。
【0093】
【比較例5】
実施例1で用いたポリケトンを、75質量%のレゾルシンを含む水溶液に添加し、80℃、2時間攪拌、溶解し、ポリマー濃度8質量%のドープを得た。得られたドープを実施例1と同じ紡口を使用して吐出量14.5cc/分の速度で吐出し、10mmのエアーギャップを経て、−5℃のメタノール浴中に押し出して凝固糸を得た。得られた凝固糸を20℃のメタノールにて洗浄後、100℃にて定長乾燥し未延伸糸を得た。この未延伸糸の横断面を電子顕微鏡で観察したところ、スキンコア構造を有しており中心部には多数のボイドが存在していた。
この未延伸糸を実施例1と同様の処方で熱延伸した。得られたポリケトン繊維の密度は1.27g/cm3であり、非常に疎な構造であった。
【0094】
【比較例6】
実施例10において、凝固浴の温度を60℃とした以外は同様にして紡糸、乾燥を行った。得られた未延伸糸はスキンコア構造を有しており、中心部には多数のボイドが存在していた。この未延伸糸を実施例1と同様の処方で熱延伸した。
得られたポリケトン繊維の密度は1.26g/cm3であり、非常に疎な構造であった。
【0095】
【比較例7】
常法により1−オキソ−3−メチルトリメチレンユニットを6質量%含有する極限粘度1.6のエチレン/プロペン/一酸化炭素ターポリマーを調製した。このターポリマーにカルシウムヒドロキシアパタイトを0.3質量%添加し、235℃で溶融した後に、紡糸口金の径0.3mmφ、L/D=2、ホール数75の紡口から吐出量47.1g/分で押し出した。吐出した線状ポリマーを風速5m/分、温度5℃の冷却風の流れるチャンバー中(長さ7m)を走行させて冷却固化せしめ、速度400m/分で巻き取り総繊度1531dtexの未延伸糸を得た。
【0096】
この未延伸糸を、周囲に200℃の加熱空気を流した長さ1mのホットプレート上で200℃で1段目の延伸を行った後に、引き続き215℃で2段目、さらに225℃で3段目のトータル9.5倍の多段延伸を行い、161.1dtex/75fのポリケトン繊維を製造した。
比較例2〜7で製造された繊維の性質及び性能を表2に示す。
【0097】
【実施例17】
実施例8で得たポリケトン繊維を双糸し、撚り数390回/mで下撚り及び上撚りを行い、撚り係数21750の撚糸コードを得た。この撚糸コードを、コンピュートリータ(登録商標、リツラー社製)を用いて、下記の液組成のレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)接着剤に浸漬し160℃で60秒熱処理後、引き続き215℃で60秒の乾燥、さらに215℃で60秒間の熱セットを行い、コードを得た。
(RFL液組成)
レゾルシン 22.0部
ホルマリン(30質量%) 30.0部
水酸化ナトリウム(10質量%) 14.0部
水 570.0部
ビニルピリジンラテックス(41質量%) 364.0部
【0098】
【実施例18】
実施例3で得られたポリケトン繊維6本を合糸し、1485dtex/300fのポリケトンマルチフィラメントとした。このポリケトン繊維を双糸し、撚り数390回/mで下撚り及び上撚りを行い、撚り係数21250の撚糸コードを得た。このコードを実施例17と同じ条件でRFL液浸漬、熱処理を行い処理コードを得た。
【0099】
【実施例19】
実施例4で得られたポリケトン繊維5本を合糸し、1515dtex/250fのポリケトンマルチフィラメントとした。この延伸糸を双糸し、撚り数390回/mで下撚り及び上撚りを行い、撚り係数21470の撚糸コードを得た。このコードを実施例17と同じ条件でRFL液浸漬、熱処理を行い処理コードを得た。
実施例17〜19で得られたコードの性能を表3にまとめて示す。
【0100】
【比較例8】
実施例1において、紡糸口金の径を0.15mmφ、吐出量を4.2cc/分とした以外は同様にして紡糸、乾燥、延伸を行って得られた54.7dtex/50fのポリケトン延伸糸を合糸して1641dtex/1500fのポリケトンマルチフィラメントとした。
このポリケトン繊維を実施例17と同様の処方で撚糸(撚り係数22340)、RFL液処理、熱処理を行いポリケトン処理コードを得た。このコードの最大曲げ応力は0.011cN/dtexであった。
【0101】
【比較例9】
実施例1において、紡糸口金の径を0.18mmφ、吐出量を6.1cc/分とした以外は同様にして紡糸、乾燥、延伸を行って得られた79.6dtex/50fのポリケトン延伸糸を合糸して1592dtex/1000fのポリケトンマルチフィラメントとした。
このポリケトン繊維を実施例17と同様の処方で撚糸(撚り係数22010)、RFL液処理、熱処理を行いポリケトン処理コードを得た。このコードの最大曲げ応力は0.017cN/dtexであった。
【0102】
【比較例10】
比較例7のポリケトン繊維を10本合糸して1615dtex/750fのポリケトンマルチフィラメントとした。
このポリケトン繊維を実施例17と同様の処方で撚糸(撚り係数22160)、RFL液処理を行った後に、160℃で60秒熱処理後、引き続き185℃で60秒の乾燥、さらに185℃で60秒間の熱セットを行い処理コードを得た。
このコードの最大曲げ応力は0.011cN/dtexであった。
比較例8〜10で製造された繊維の性質及び性能を表2に、コードの性質及び性能を表3に示す。
【0103】
【表1】
Figure 0004570273
【0104】
【表1】
Figure 0004570273
【0105】
【表3】
Figure 0004570273
【0106】
【発明の効果】
本発明によると、従来達成することの出来なかった、太繊度でありながら緻密な繊維構造を有し、高強度・高弾性率、高剛直性及び高耐熱性を具備した太繊度のポリケトン繊維及が得られる。
本発明のポリケトン繊維は、そのまま、あるいは撚糸、仮撚等の処理を行った後に、織物、編み物、不織布等に加工して、幅広い分野(例えば釣り糸、漁網等の漁獲用品、ラケット用ストリング、ネット等のスポーツ用品、ロープ、ケーブル等の土木・工業用資材、リボン、衣料用品・生活用品の芯材、タイヤ・ベルト・ホース等のゴム補強材、セメント補強材、プラスチック強化繊維等の補強材料等)に利用することができる。特に、本発明のポリケトン繊維は、高強度・高弾性率のみならず剛直性が高く耐圧縮特性に優れるため、高い圧縮負荷のかかる産業用資材用途、特にタイヤ、ベルト、ホース等のゴム補強材料やセメント等の建材補強材に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】繊維の最大曲げ応力を測定する装置の概略図。
【図2】ポリケトン繊維の最大曲げ応力を測定した際の、歪みに対する荷重の挙動を示す概略図。

Claims (11)

  1. オレフィンと一酸化炭素との共重合体からなるポリケトンにより構成されたポリケトン繊維が撚糸されてなるポリケトン繊維コードであって、該ポリケトンを構成する繰り返し単位が1−オキソトリメチレンのみであり、ポリケトン繊維の単糸繊度が3〜8dtex、結晶化度が50〜90%、結晶配向度が90%以上、密度が1.30g/cm3以上、引っ張り強度が10cN/dtex以上、及び引っ張り弾性率が200cN/dtex以上であり、該ポリケトン繊維コードの最大曲げ応力が0.02〜0.3cN/dtexであることを特徴とするポリケトン繊維コード。
  2. ポリケトン繊維の結晶化度が60〜90%、結晶配向度が95%以上、密度が1.33g/cm3以上であることを特徴とする請求項1記載のポリケトン繊維コード
  3. ポリケトン繊維の引っ張り強度が15cN/dtex以上、引っ張り弾性率が250cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のポリケトン繊維コード
  4. 下式で表される撚り係数Kが100〜30000の範囲で撚糸されていることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のポリケトン繊維コード。
    K=Y×D0.5 (T/m・dtex0.5
    (式中、Yは1mあたりの撚り数(T/m)、Dは撚糸に用いるポリケトン繊維の総繊度(dtex))
  5. レゾルシン−ホルマリン−ラテックス樹脂が、ポリケトン繊維質量に対して2〜7質量%の量でポリケトン繊維に付着していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリケトン繊維コード
  6. 請求項1〜のいずれか1項に記載のポリケトン繊維コードを少なくとも一部に使用していることを特徴とする繊維製品。
  7. 繊維製品がタイヤであることを特徴とする請求項記載の繊維製品。
  8. 繊維製品がホースであることを特徴とする請求項記載の繊維製品。
  9. 繊維製品がベルトであることを特徴とする請求項記載の繊維製品。
  10. 1−オキソトリメチレンのみを繰り返し単位として構成されているポリケトンを、ハロゲン化亜鉛を10〜80質量%含有する溶液に溶解し、紡糸口金に通した後に、0.01〜30質量%の金属塩と50質量%以上とを含有し、かつ温度が50℃以下である凝固浴に吐出せしめて繊維状とした後に、水又は酸性水溶液を通して溶剤を除去することによって該金属塩を実質的に除去し、100〜260℃下で乾燥を行い、全延伸倍率が5倍以上の熱延伸を行う工程を含み、単糸繊度が3〜8dtexであるポリケトン繊維を得ることを特徴とするポリケトン繊維の製造方法。
  11. 該水溶液ハロゲン化亜鉛を15〜75質量%、並びにハロゲン化アルカリ金属及びハロゲン化アルカリ土類金属から選ばれ少なくとも一種の金属塩を1〜50質量%含有かつ該凝固浴の温度が20℃以下であることを特徴とする請求項10記載のポリケトン繊維の製造方法。
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