JP4558145B2 - 既存建物の地下免震化工法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
この発明は、既存建物について所謂居ながら免震化工事を、基礎免震や地下階での中間免震のための免震層を構築して実施する地下免震化工法の技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
従来、特開2000−27201公報には、地盤を最終段階まで掘削する段階と、前記掘削底面に耐圧版を構築する段階と、その後掘削側面の内側に擁壁を構築して免震ピットを完成し、前記免震ピット内に、順打ち工法により免震装置に支持された新築の免震構造物を構築する段階とから成る免震化工法が記載されている。また、特開2000−64329公報には、地盤の周辺に山留め壁を構築する段階と、前記山留め壁に囲まれた地盤の掘削を行い、逆打ち工法により新築の地下躯体を構築してゆき、基礎スラブを構築後、免震装置を設けて免震構造物を構築する段階とから成る免震構造物の構築工法が記載されている。
【0003】
しかし、前記2つの従来技術は、免震装置に支持された新築の免震構造物を構築する工法でしかない。
【0004】
特開平9−184144号公報には、既存建物の免震化工法が記載されている。この免震化工法は、既存建物の周辺地盤中に山留め壁を構築し、山留め壁の内側地盤を掘削してドライエリアを形成し、その後掘削底面にフーチングを構築し、つづいて前記山留め壁の内側に前記フーチングと一体化した擁壁を構築し、更に耐圧版を形成し、この耐圧版の上に免震装置を設置して地下躯体を支持させる内容である。
【0005】
【本発明が解決しようとする課題】
既存建物の地下免震化工事を、建物を使用しながら所謂「居ながら免震化工事」を行うためには、工事期間中の地震時の安全性は、既存建物が改修以前に保持していた安全性と同等であることが要求される。
【0006】
しかしながら、上記特開平9−184144号公報に記載された既存建物の免震化工法の場合は、一度に地下躯体の周辺地盤を最終段階まで掘削するので、地盤を掘削した段階で地下躯体に生じる地震時の水平力を伝達することができず、安全性を確保できないという問題がある。
【0007】
従って、本発明の目的は、地下免震化工事中に生じる地震時の水平力を、常時、確実に擁壁及び山留め壁へ伝達することで、本来求められる安全性を確保しつつ居ながら地下免震化工事を可能とする既存建物の地下免震化工法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記従来技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る既存建物の地下免震化工法は、
既存建物1又は11の地下構造部1a又は11aとの間に一定の免震クリアランスHを確保した位置の地盤中に山留め壁2を構築する段階と、
前記山留め壁2に囲まれた地盤8の一次掘削を行い、前記掘削により露出した山留め壁2の内側に擁壁上部3a及び該擁壁上部3aと地下構造部1a又は11aとの間を連結する繋ぎ材4又は14を鉄筋コンクリートにより一体的に構築する段階と、
つづいて、地盤8の二次掘削を行い、前記掘削により新たに露出した山留め壁2の内側に前記擁壁上部3aに続く中間部擁壁3b及び該擁壁と地下構造部1a又は11aとの間を連結する繋ぎ材4又は14を鉄筋コンクリートにより一体的に構築する工程を、地盤8の下向き方向へ必要回繰り返す段階と、
耐圧版底の位置まで地盤8の掘削を完了した後に、床付けして、露出した山留め壁2の内側及び掘削底面に前記擁壁上部3a及び中間部擁壁3bに続く下部擁壁3c並びに耐圧版6を構築して免震層9又は19を完成し、前記免震層9又は19に免震装置10を設置して既存建物1又は11の地下構造部を免震支持させることを特徴とする。
【0011】
【本発明の実施の形態、及び実施例】
図1は、既存建物1について請求項1に記載した発明に係る地下免震化工法を実施した完成時の形態を示している。
【0012】
本発明の地下免震化工法は、既存建物の所謂居ながら免震化工事を、基礎免震や地下階での中間免震のための免震層を構築して実施する地下免震化工事として好適に実施される。
【0013】
地下免震化工法は、図2〜図6に示す段階により実施される。
【0014】
図2は、前記既存建物1の地下躯体1aとの間に一定の免震クリアランスを確保した位置の地盤8中にシートパイル等から成る山留め壁2を構築した段階を示している。なお、ここで云う免震クリアランスは、後に示す図6から明らかなように、構築された擁壁3と地下躯体1aとが最も接近する部分の隙間Hを云う。
従って、前記山留め壁2は、前記免震クリアランス及び擁壁3の壁厚を考慮に入れて構築されている。
【0015】
図3は、山留め壁2に囲まれた内側地盤8の一次掘削を行い、掘削により露出した山留め壁2の内側に擁壁上部3aを構築し、且つ前記地下躯体1aと擁壁上部3aの間を繋ぎ材4a(又は切梁、以下同じ)により連結した段階を示している。前記繋ぎ材4aは、既存建物1の一階床梁1bと略等しい高さに設置している。また、前記擁壁上部3a及び繋ぎ材4aは、鉄筋コンクリートにより一体的に剛強に構成している。そのため、前記繋ぎ材4aは、通常山留め壁を支持するために設置する切梁のように腹起しを必要とせず、擁壁上部3aと一連に構築することができる。
【0016】
前記の一次掘削の段階で、擁壁上部3a及び繋ぎ材4aを構築中に地震が生じても、まだ、地盤8が地下躯体1aの周辺に大部分残っているため、地震時の水平力を確実に伝達でき、地下躯体1aの変形を最小限に抑制することができる。
【0017】
図4は、地盤8の二次掘削を行い、掘削により新たに露出した山留め壁2の内面に中間部擁壁3bを構築し、且つ地下躯体1aと中間部擁壁3bとの間に繋ぎ材4bにより連結した段階を示している。前記繋ぎ材4bは、地下躯体1aの基礎梁1cと略等しい高さに設置している。この中間部擁壁3b及び繋ぎ材4bも、図3の段階と同様に、鉄筋コンクリートにより一体的に剛強に構成している。
【0018】
図4の二次掘削の段階で中間壁擁壁3b及び繋ぎ材4bを構築中に地震が生じても、既に繋ぎ材4aにより地下躯体1aと擁壁上部3aとを剛強に連結しているので、地下躯体1aに生じる地震時の水平力を擁壁上部3a及び山留め壁2へ確実に伝達でき、地下躯体1aの変形を最小限に抑制することができる。また、山留め壁2に作用する土圧も、既に設けた繋ぎ材4aが、通常の山留め工法で用いられる切梁の役割を果たし、確実に支持できる。
【0019】
図5は、点線で示した耐圧版底の位置まで、地盤8の掘削と、山留め壁2の内側へ擁壁の構築を進める予定図を示している。
【0020】
図6は、耐圧版底まで地盤の掘削を完了し、耐圧版底の床付けをして、露出した山留め壁2の内側及び掘削底面に擁壁下部3c及び耐圧版6を構築して免震層9を完成した段階を示している。なお、耐圧版底の地盤8が不安定な場合は、同地盤8中に予め鋼管から成る新設杭5を杭頭を残して打設し、耐圧版6を新設杭5にて支持させることが好ましい。
【0021】
前記新設杭5及び擁壁下部3c並びに耐圧版6の構築中に地震が生じても、既に構築した上方の繋ぎ材4a、4bにより地下躯体1aと擁壁3a、3bとをそれぞれ連結しているため、地下躯体1aに生じる地震時の水平力を確実に擁壁3a、3b及び山留め壁2へ伝達でき、地下躯体1aの変形を最小限に抑制することができる。また、山留め壁2に作用する土圧も、繋ぎ材4a、4bが切梁の役割を果たし、確実に支持できる。
【0022】
その後、図1に示したように前記免震層9において耐圧版6上に免震装置10を設置して地下躯体1a(の基礎梁1c)を支持させた後に、繋ぎ材4a、4bを切断して地下免震化工事は完了する。もちろん、前記免震装置10を設置する段階で地震が生じても、既に繋ぎ材4a、4bにより擁壁3、山留め壁2及び耐圧版6並びに新設杭5に確実に伝達でき、地下躯体1aの変形を最小限に抑制することができる。
【0023】
以上に詳細したように、請求項1に記載した既存建物1の地下免震化工法は、地下免震化工事中に生じる地震時等の水平力を、繋ぎ材4a、4bにより確実に擁壁3及び山留め壁2へ伝達するので、地下躯体1aの変形、ひいては既存建物1全体の変形を最小限に抑制して安全性を確保できる。よって、安全性の高い居ながら地下免震化工事を施工することができる。
【0024】
なお、上記実施形態では、地下躯体1aを有する既存建物1の地下免震化工事を行っているが、これに限らない。地下躯体を有しない既存建物にも同様に実施することができる。図7は、地下躯体を有しない既存建物11について、その基礎部11a(以下、前記地下躯体1aと基礎部11aの両者を包含する総称として「地下構造部」の用語を用いる。)を免震支持させた地下免震化工法を実施した完成時の形態を示している。この場合にも勿論、既存建物11の基礎部11aとの間に一定の免震クリアランスHを確保した位置の地盤中に山留め壁2を構築する。次いで前記山留め壁2に囲まれた地盤8を耐圧版底まで掘削し、掘削により露出した山留め壁2の内側に擁壁13及び該擁壁13と地下構造部11aとの間を連結する繋ぎ材14を鉄筋コンクリートにより一体的に構築する。その後、前記耐圧版底を床付けした後に、耐圧版6を構築して免震層19を完成し、前記免震層19に免震装置10を設置して基礎部11aを支持させるまでの手順は上記実施形態と同様である。最終的には、図1に記載した既存建物1の地下免震化工法と同様に、繋ぎ材14を切断して免震化工事は完了する。
【0025】
なお、耐圧版底の地盤8が不安定な場合は、同地盤8中に予め鋼管から成る新設杭5を杭頭を残して打設し、耐圧版6を新設杭5にて支持させることが好ましい。
【0026】
従って、上記図1に記載した既存建物1の地下免震化工法の実施形態と同様に、図7に記載した既存建物11の地下免震化工法も、地下免震化工事中に生じる地震時等の水平力を、繋ぎ材14により擁壁13及び山留め壁2へ確実に伝達するので、安全性の高い居ながら地下免震化工事を施工することができる。
【0027】
また、上記実施形態では、地下躯体1aは、地下一階の構成を示したが、この限りではなく、複数階で構成されている地下躯体についても同様に実施できる。
その場合は、図5の段階を複数回繰り返すことになる。
【0028】
上記実施形態では、地下躯体1aの梁1b、1cの高さ位置にそれぞれ繋ぎ材4a、4bを設置しているが、地下躯体1aの側壁に設けても同様に実施できる。
【0029】
更に、上記実施形態では、繋ぎ材4a、4bを、鉄筋コンクリートで構成しているが、H型鋼などの鉄骨部材で実施しても良い。要するに一定以上の強度を有する部材であれば材質は限定しない。その場合、擁壁上部3a及び中間部擁壁3bの内側側面に腹起しを設け、前記腹起しと地下躯体1aとを繋ぎ材により連結する構成で実施することもできる。
【0030】
上記実施形態では、新設杭5に鋼管杭を用いているが、鋼管コンクリート杭等、通常、建物の基礎杭として用いられる杭で有ればよい。
【0031】
上記実施形態では、シートパイルから成る山留め壁2を用いているが、これに限らず、ソイル柱列壁、地下連続壁及びH形鋼横矢板などを用いても実施できる。
【0032】
【本発明の奏する効果】
本発明に係る既存建物の地下免震化工法は、山留め壁の内側へ擁壁の構築を順次下向きに進めると共に、該擁壁と既存建物の地下構造部との間を連結する繋ぎ材を鉄筋コンクリートにより一体的に構築するので、地下免震化工事中に生じる地震時の水平力を、常時、繋ぎ材を介して擁壁及び山留め壁へ確実に伝達できる。よって、地下構造部の変形、及び既存建物全体の変形を最小限度に抑制して高い安全性を確保する。そのため、安全性の高い居ながら地下免震化工事を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】請求項1に記載した既存建物の地下免震化工法の実施形態を示した立面図である。
【図2】請求項1に記載した既存建物の地下免震化工法の山留め壁を構築した段階を示した立面図である。
【図3】請求項1に記載した既存建物の地下免震化工法の免震層の掘削段階を示した立面図である。
【図4】請求項1に記載した既存建物の地下免震化工法の免震層の掘削段階を示した立面図である。
【図5】請求項1に記載した既存建物の地下免震化工法の免震層の掘削段階を示した立面図である。
【図6】請求項1に記載した既存建物の地下免震化工法の免震層の完成段階を示した立面図である。
【図7】請求項2に記載した既存建物の地下免震化工法の実施形態を示した立面図である。
【符号の説明】
1、11 既存建物
1a 地下躯体
1b 一階床梁
1c 基礎梁
2 山留め壁
3、13 擁壁
3a 擁壁上部
3b 中間部擁壁
3c 擁壁下部
4a、4b、14 繋ぎ材
5 新設杭
6 耐圧版
7 基礎杭
8 地盤
9 免震層
10 免震装置
Claims (1)
- 既存建物の地下構造部との間に一定の免震クリアランスを確保した位置の地盤中に山留め壁を構築する段階と、
前記山留め壁に囲まれた地盤の一次掘削を行い、前記掘削により露出した山留め壁の内側に擁壁上部及び該擁壁上部と地下構造部との間を連結する繋ぎ材を鉄筋コンクリートにより一体的に構築する段階と、
つづいて、地盤の二次掘削を行い、前記掘削により新たに露出した山留め壁の内側に前記擁壁上部に続く中間部擁壁及び該中間部擁壁と地下構造部との間を連結する繋ぎ材を鉄筋コンクリートによりにより一体的に構築する工程を、地盤の下向き方向へ必要回繰り返す段階と、
耐圧版底の位置まで地盤の掘削を完了した後に、床付けして、露出した山留め壁の内側及び掘削底面に前記擁壁上部及び中間部擁壁に続く下部擁壁並びに耐圧版を構築して免震層を完成し、前記免震層に免震装置を設置して既存建物の地下構造部を免震支持させることを特徴とする、既存建物の地下免震化工法。
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