JP4557973B2 - 金属微粒子を用いた質量分析方法 - Google Patents

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Description

本発明は、金属が硫黄原子を介して有機残基と結合した金属−有機残基複合体を用いて、硫黄原子を含む有機残基誘導体を質量分析する方法に関する。本発明は、そのような質量分析方法に用いる金属−有機残基複合体およびその製造方法に関する。本発明はまた、本発明の金属−有機残基複合体を用いた糖鎖または糖鎖含有物質の捕捉方法、および金属−有機残基複合体の有機残基と相互作用しうる物質の分子量を測定する方法に関する。本発明はさらに、糖鎖捕捉用組成物または糖鎖もしくは糖鎖含有物質の質量分析用キットに関する。
糖鎖は通常タンパク質や脂質等との複合体として存在し、糖鎖構造は構成単糖、分岐、結合位置、アノメリシティ等の多様性により極めて複雑な上、糖鎖生合成は多数の糖鎖合成関連酵素により行われるため、遺伝子やタンパク質の発現解析でその発現パターンを明らかにすることができない。加えて、同一のタンパク質、脂質に結合する糖鎖構造には不均一性があり、しばしば1つのタンパク質に複数の糖鎖が結合するため、タンパク質よりも高感度の解析技術が必然的に必要となる。
糖鎖構造を解析するための新しい系として、糖鎖を有するかまたは糖鎖捕捉可能な自己組織化膜が大いに期待される。一般に、金属(例えば、Au、Ag、Cuなど)基板をチオール誘導体溶液に浸漬すると、金属表面上にチオール誘導体が吸着し、分子間の相互作用(例えば、ファンデルワールス力)によって、分子がナノメーターレベルで二次元方向に規則的に整列することが知られている。分子が自発的に集合し、整列した組織を形成することから、この形成された膜は「自己集合単分子膜」または「自己組織化膜」と呼ばれる。金属の表面を有機膜で被覆できることを利用して、機能性分子または生体分子(糖鎖またはタンパク質など)を金属表面に固定したり、または金属表面を改変する研究が多くの研究者によって行われている。
これまでに、金基板上にオリゴ糖鎖を固定化しそれを表面プラズモン共鳴でモニタリングする手法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この手法は、金−液界面近傍の溶液の屈折率の変化で糖鎖の固定化を間接的にモニタリングしているに過ぎず、糖鎖の正確な情報が得られているわけではない。
近年、表面の構造を解析するための手法として、質量分析法が重要視され、生化学および分子生物学の分野において特に有用となってきている。この手法は、測定前に蛍光色素または放射性標識を被検体に直接的に結合させて解析するという煩雑さを省き、高速で正確な情報を提供できるという利点を有する。これまでに、金基板に結合したチオール化合物がMALDI−TOF Massのレーザーで切断されて検出されるという報告がMrksichらによってなされている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、金基板表面上にたった一分子のチオール化合物が二次元方向に並んだ単分子膜をレーザーで切断するため、検出されるチオール化合物の絶対量が極めて微量であり、検出の際に夾雑物(例えば、バッファーまたは塩など)の影響を受けやすく、その結果感度が低下するおそれがある。
高感度かつ正確に糖鎖解析を可能にする技術はいまだに存在せず、そのような技術は翻訳後修飾解析を含めた次世代プロテオームを含めたグライコームにおいて極めて重要であり、その開発は渇望されている。
特開2003−83969 特開2003−254959 WO03/019178 WO03/091724 Angew.Chem.Int.Ed.41,4715−4718,2002 J.Comb.Chem.2002,4,120−124
従来の上記欠点を克服し、金属に結合した自己組織化膜表面上での化学反応を高感度かつ正確に解析でき、将来の糖鎖構造解析に応用できる新しい質量分析法を提供することにある。
本発明者らは鋭意検討した結果、レーザーの乱反射(すなわち、反射したレーザーが何度も金属表面に照射すること)が可能な金属表面を提供することにより高感度化が達成されることを見出した。また、そのような金属表面に導入したチオール化合物がMALDI−TOF MS法のみならず、低分子マトリックスを必要としないLDI−TOF MS法によるレーザー照射によっても、金属との結合部分が切断・イオン化され、高感度に観測されることを確認できたことにより、上記課題を解決した。
従って、本発明は、以下を提供する。
(項目1)金属が硫黄原子を介して有機残基と結合した金属−有機残基複合体から該硫黄原子を含む有機残基誘導体をイオン化することを特徴とする、該硫黄原子を含む有機残基誘導体を質量分析する方法。
(項目2)一般式(I):
(R−S)−M (I)
(式中、Rは有機残基であり、Sは硫黄原子であり、Mは金属であり、nはMに対する(R−S)基の化学量論比を表し、1以上の整数である)
で表される金属−有機残基複合体から硫黄原子を含む有機残基誘導体をイオン化することを特徴とする、
一般式(II):
R−SH (II)
(式中、RおよびSは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩、および/または
一般式(III):
R−S−S−R (III)
(式中、RおよびSは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩、
を質量分析する方法。
(項目3)一般式(IV):
−S−X−CH(R)−S−M (IV)
(式中、Rは有機残基であり、Sは硫黄原子であり、両端のMは同一実体の金属であり、Xは低級アルキレンまたは低級アルケニレンである)
で表される金属−有機残基複合体から硫黄原子を含む有機残基誘導体をイオン化することを特徴とする、
一般式(V):
HS−X−CH(R)−SH (V)
(式中、R、SおよびXは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩、および/または
一般式(VI):
Figure 0004557973
(式中、R、SおよびXは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩、
を質量分析する方法。
(項目4)以下の工程:
1)金属が以下の式:
−S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH−O−NH
−S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH−O−NH(CH)、
−S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH(NH)−W−SH、
−S−Y−(OCHCH−NH−C(=S)−CH(NH)−W−SH、
−S−W−O−NH
−S−W−O−NH(CH)、
−S−W−O−W−O−NH
−S−W−O−W−O−NH(CH)、
−S−(CHCHO)−W−O−W−O−NH
−S−(CHCHO)−W−O−W−O−NH(CH)、
−S−W−C(=O)−NH−NH
−S−W−C(=S)−NH−NH
−S−W−NH−C(=O)−CH(NH)−W−SH、
−S−W−NH−C(=S)−CH(NH)−W−SH、
−S−Z−Z−Z−Z−Z−O−NH
−S−Z−Z−Z−Z−Z−O−NH(CH)、
−S−Z−Z−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH、
−S−Z−Z−Z−Z−CH(NH)−Z−SH、
−S−Z−O−Z−CH(NH)−Z−SH、
−S−Z−O−Z−O−NH
−S−Z−O−Z−O−NH(CH)、
−S−Z−O−Z−Z−Z−O−NH
−S−Z−O−Z−Z−Z−O−NH(CH)、
−S−Z−O−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH、
−S−Z−O−Z−Z−CH(NH)−Z−SH、
−S−Z−Z−Z−Z−O−NH
−S−Z−Z−Z−Z−O−NH(CH)、
−S−Z−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH、
−S−Z−Z−Z−CH(NH)−Z−SH、または
Figure 0004557973
で表される基と結合した金属−有機残基複合体と、糖鎖または糖鎖含有物質とが反応しうる条件下で接触させる工程、
2)該糖鎖または該糖鎖含有物質が結合した金属−有機残基複合体を得る工程、および
3)得られた金属−有機残基複合体から硫黄原子を有する有機残基誘導体をイオン化する工程、
を包含する、糖鎖または糖鎖含有物質を質量分析する方法。
(項目5)前記金属がレーザーの乱反射可能な表面を有する、項目1〜4のいずれかに記載の方法。
(項目6)前記金属が金属微粒子である、項目5に記載の方法。
(項目7)前記金属が金、銀、カドミウムまたはセレンの単体である、項目1〜6のいずれかに記載の方法。
(項目8)前記質量分析をMALDI−TOF MS法により行う、項目1〜6のいずれかに記載の方法。
(項目9)前記質量分析をマトリックス試薬の存在下で行う、項目8に記載の方法。
(項目10)前記マトリックス試薬が2,5−ジヒドロキシ安息香酸である、項目9に記載の方法。
(項目11)前記有機残基が糖鎖または糖鎖含有物質を含む基である、項目1〜6のいずれかに記載の方法。
(項目12)金属が硫黄原子を介して被検体と結合した金属−被検体複合体から該硫黄原子を含む被検体をイオン化することを特徴とする、該硫黄原子を含む被検体を質量分析する方法。
(項目13)以下の工程:
1)還元剤の存在下、テトラクロロ金酸および硫黄原子を有する被検体を反応させる工程、
2)金微粒子に該硫黄原子を介して被検体が結合した金−被検体複合粒子を得る工程、および
3)得られた金−被検体複合粒子から硫黄原子を有する被検体をイオン化する工程、
を包含する、硫黄原子を有する被検体を質量分析する方法。
(項目14)還元剤が水素化ホウ素ナトリウムまたはクエン酸ナトリウムである、項目13に記載の方法。
(項目15)上記工程1)を水、アルコール系溶媒、酢酸エチル、エーテル系溶媒またはそれらの混合溶媒からなる群から選択される溶媒中で行う、項目13に記載の方法。
(項目16)上記工程1)を−20℃から200℃で行う、項目13に記載の方法。
(項目17)上記工程1)を0.1時間〜24時間で行う、項目13に記載の方法。
(項目18)硫黄原子を介して被検体が結合した金属−被検体複合粒子を遠心濾過により精製する、項目13に記載の方法。
(項目19)上記質量分析をMALDI−TOF MS法により行う、項目13に記載の方法。
(項目20)上記工程3)をマトリックス試薬の存在下で行う、項目13に記載の方法。
(項目21)項目13に記載の工程2)で得られた金属−被検体複合粒子を化学反応または酵素反応に付し、反応系中の金属−被検体複合粒子から硫黄原子を有する被検体をイオン化することを特徴とする、該化学反応または酵素反応の進行を確認する方法。
(項目22)上記酵素反応が糖鎖伸長反応である、項目21に記載の方法。
(項目23)糖鎖伸長反応の進行を利用して糖転移酵素の活性を確認する、項目21に記載の方法。
(項目24)金属が以下の式:
−S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH−O−NH
−S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH−O−NH(CH)、
−S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH(NH)−W−SH、
−S−Y−(OCHCH−NH−C(=S)−CH(NH)−W−SH、
−S−W−O−NH
−S−W−O−NH(CH)、
−S−W−O−W−O−NH
−S−W−O−W−O−NH(CH)、
−S−(CHCHO)−W−O−W−O−NH
−S−(CHCHO)−W−O−W−O−NH(CH)、
−S−W−C(=O)−NH−NH
−S−W−C(=S)−NH−NH
−S−W−NH−C(=O)−CH(NH)−W−SH、
−S−W−NH−C(=S)−CH(NH)−W−SH、
−S−Z−Z−Z−Z−Z−O−NH
−S−Z−Z−Z−Z−Z−O−NH(CH)、
−S−Z−Z−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH、
−S−Z−Z−Z−Z−CH(NH)−Z−SH、
−S−Z−O−Z−CH(NH)−Z−SH、
−S−Z−O−Z−O−NH
−S−Z−O−Z−O−NH(CH)、
−S−Z−O−Z−Z−Z−O−NH
−S−Z−O−Z−Z−Z−O−NH(CH)、
−S−Z−O−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH、
−S−Z−O−Z−Z−CH(NH)−Z−SH、
−S−Z−Z−Z−Z−O−NH
−S−Z−Z−Z−Z−O−NH(CH)、
−S−Z−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH、
−S−Z−Z−Z−CH(NH)−Z−SH、または
Figure 0004557973
(式中、Y、WおよびWは、それぞれ独立して、C1〜C12アルキレン、C2〜C12アルケニレンまたはC2〜C12アルキニレンであり;
は、C1〜C2アルキレンであり;
は、置換されていてもよいアリレンまたは置換されていてもよいヘテロアリレンであり;
は、含窒素複素環であり;
およびZは、それぞれ独立してC1−C12アルキレンであり;
は、−O−C(=O)、−O−C(=S)、−NH−C(=O)、−NH−C(=S)、−O−、または−S−であり;
は、C1−C2アルキレンであり;
nは1〜10の整数である)
で表される基と結合した金属−有機残基複合体。
(項目25)前記金属がレーザーの乱反射可能な表面を有する、項目24に記載の複合体。
(項目26)前記金属が金属微粒子である、項目25に記載の複合体。
(項目27)還元剤の存在下、テトラクロロ金酸および以下の式:
Figure 0004557973
または
Figure 0004557973
(式中、Y、WおよびWは、それぞれ独立して、C1〜C12アルキレン、C2〜C12アルケニレンまたはC2〜C12アルキニレンであり;
は、C1〜C2アルキレンであり;
は、置換されていてもよいアリレンまたは置換されていてもよいヘテロアリレンであ
り;
は、含窒素複素環であり;
およびZは、それぞれ独立してC1−C12アルキレンであり;
は、−O−C(=O)、−O−C(=S)、−NH−C(=O)、−NH−C(=S)、−O−、または−S−であり;
は、C1−C2アルキレンであり;
nは1〜10の整数である)
で表される化合物もしくはその塩を反応させることによる、金−有機残基複合粒子の製造方法。
(項目28)還元剤が水素化ホウ素ナトリウムまたはクエン酸ナトリウムである、項目27に記載の製造方法。
(項目29)水、アルコール系溶媒、酢酸エチル、エーテル系溶媒、またはそれらの混合溶媒中で行う、項目28に記載の製造方法。
(項目30)−20℃から200℃で行う、項目28に記載の製造方法。
(項目31)0.1時間〜24時間で行う、項目28に記載の製造方法。
(項目32)金−有機残基複合粒子を遠心濾過により精製する、項目28に記載の製造方法。
(項目33)金属が以下の式:
−S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH−O−NH
−S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH−O−NH(CH)、
−S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH(NH)−W−SH、
−S−Y−(OCHCH−NH−C(=S)−CH(NH)−W−SH、
−S−W−O−NH
−S−W−O−NH(CH)、
−S−W−O−W−O−NH
−S−W−O−W−O−NH(CH)、
−S−(CHCHO)−W−O−W−O−NH
−S−(CHCHO)−W−O−W−O−NH(CH)、
−S−W−C(=O)−NH−NH
−S−W−C(=S)−NH−NH
−S−W−NH−C(=O)−CH(NH)−W−SH、
−S−W−NH−C(=S)−CH(NH)−W−SH、
−S−Z−Z−Z−Z−Z−O−NH
−S−Z−Z−Z−Z−Z−O−NH(CH)、
−S−Z−Z−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH、
−S−Z−Z−Z−Z−CH(NH)−Z−SH、
−S−Z−O−Z−CH(NH)−Z−SH、
−S−Z−O−Z−O−NH
−S−Z−O−Z−O−NH(CH)、
−S−Z−O−Z−Z−Z−O−NH
−S−Z−O−Z−Z−Z−O−NH(CH)、
−S−Z−O−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH、
−S−Z−O−Z−Z−CH(NH)−Z−SH、
−S−Z−Z−Z−Z−O−NH
−S−Z−Z−Z−Z−O−NH(CH)、
−S−Z−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH、
−S−Z−Z−Z−CH(NH)−Z−SH、または
Figure 0004557973
(式中、Y、WおよびWは、それぞれ独立して、C1〜C12アルキレン、C2〜C12アルケニレンまたはC2〜C12アルキニレンであり;
は、C1〜C2アルキレンであり;
は、置換されていてもよいアリレンまたは置換されていてもよいヘテロアリレンであり;
は、含窒素複素環であり;
およびZは、それぞれ独立してC1−C12アルキレンであり;
は、−O−C(=O)、−O−C(=S)、−NH−C(=O)、−NH−C(=S)、−O−、または−S−であり;
は、C1−C2アルキレンであり;
nは1〜10の整数である)
で表される基と結合した金属−有機残基複合体と、糖鎖または糖鎖含有物質とが反応しうる条件下で接触させることを特徴とする、糖鎖または糖鎖含有物質の捕捉方法。
(項目34)以下の工程:
1)金属が硫黄原子を介して有機残基と結合した金属−有機残基複合体と、該有機残基と相互反応しうる物質とを、接触させる工程、
2)該相互作用しうる物質が結合した金属−有機残基複合体を得る工程、および
3)得られた金属−有機残基複合体から硫黄原子を有する有機残基誘導体をイオン化する工程、
を包含する、金属−有機残基複合体の有機残基と相互作用しうる物質の分子量を測定する方法。
(項目35)前記金属がレーザーの乱反射可能な表面を有する、項目34に記載の方法。
(項目36)前記金属が金属微粒子である、項目35に記載の方法。
(項目37)以下の工程:
1)式:
Figure 0004557973
で表される化合物と金属とを接触させる工程、
2)1)で得られた金属−有機残基複合体を、糖鎖または糖鎖含有物質とが反応しうる条件下で接触させる工程、および
3)2)で得られた金属−有機残基複合体から硫黄原子を有する有機残基誘導体をイオン化する工程、
を包含する、糖鎖または糖鎖含有物質を質量分析する方法。
(項目38)以下の工程:
1)式:
Figure 0004557973
で表される化合物と糖鎖または糖鎖含有物質とを、該化合物と該糖鎖または糖鎖含有物質とが反応しうる条件下で接触させる工程、
2)1)で得られた化合物と金属とを接触させる工程、および
3)2)で得られた金属−有機残基複合体から硫黄原子を有する有機残基誘導体をイオン化する工程、
を包含する、糖鎖または糖鎖含有物質を質量分析する方法。
(項目39)前記金属がレーザーの乱反射可能な表面を有する、項目37または38に記載の方法。
(項目40)前記金属が金属微粒子である、項目39に記載の方法。
(項目41)
一般式(II):
R−SH (II)
(式中、Rは有機残基であり、Sは硫黄原子である)で表される化合物もしくはその塩;
一般式(III):
R−S−S−R (III)
(式中、RおよびSは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩;
一般式(V):
HS−X−CH(R)−SH (V)
(式中、RおよびSは前記と同意義であり、Xは低級アルキレンまたは低級アルケニレンである)で表される化合物もしくはその塩;
一般式(VI):
Figure 0004557973
(式中、R、SおよびXは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩;またはそれらの混合物を含有する、糖鎖捕捉用組成物。
(項目42)以下の式:
Figure 0004557973
または
Figure 0004557973
(式中、Y、WおよびWは、それぞれ独立して、C1〜C12アルキレン、C2〜C12アルケニレンまたはC2〜C12アルキニレンであり;
は、C1〜C2アルキレンであり;
は、置換されていてもよいアリレンまたは置換されていてもよいヘテロアリレンであ
り;
は、含窒素複素環であり;
およびZは、それぞれ独立してC1−C12アルキレンであり;
は、−O−C(=O)、−O−C(=S)、−NH−C(=O)、−NH−C(=S)、−O−、または−S−であり;
は、C1−C2アルキレンであり;
nは1〜10の整数である)
で表される化合物を含有する、糖鎖捕捉用組成物。
(項目43)以下の式:
−(S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH−O−NH、M−(S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH−O−NH(CH))
−(S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH(NH)−W−SH)
−(S−Y−(OCHCH−NH−C(=S)−CH(NH)−W−SH)
−(S−W−O−NH
−(S−W−O−NH(CH))
−(S−W−O−W−O−NH
−(S−W−O−W−O−NH(CH))
−(S−(CHCHO)−W−O−W−O−NH
−(S−(CHCHO)−W−O−W−O−NH(CH))
−(S−W−C(=O)−NH−NH
−(S−W−C(=S)−NH−NH
−(S−W−NH−C(=O)−CH(NH)−W−SH)
−(S−W−NH−C(=S)−CH(NH)−W−SH)
−(S−Z−Z−Z−Z−Z−O−NH
−(S−Z−Z−Z−Z−Z−O−NH(CH))
−(S−Z−Z−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH)
−(S−Z−Z−Z−Z−CH(NH)−Z−SH)
−(S−Z−O−Z−CH(NH)−Z−SH)
−(S−Z−O−Z−O−NH
−(S−Z−O−Z−O−NH(CH))
−(S−Z−O−Z−Z−Z−O−NH
−(S−Z−O−Z−Z−Z−O−NH(CH))
−(S−Z−O−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH)
−(S−Z−O−Z−Z−CH(NH)−Z−SH)
−(S−Z−Z−Z−Z−O−NH
−(S−Z−Z−Z−Z−O−NH(CH))
−(S−Z−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH)
−(S−Z−Z−Z−CH(NH)−Z−SH)、または
一般式(VII):
Figure 0004557973
(式中、Mは金属であり;
mは、Mに対する硫黄原子を含む有機残基の化学量論比を表し、1以上の整数であり;Y、WおよびWは、それぞれ独立して、C1〜C12アルキレン、C2〜C12アルケニレンまたはC2〜C12アルキニレンであり;
は、C1〜C2アルキレンであり;
は、置換されていてもよいアリレンまたは置換されていてもよいヘテロアリレンであり;
は、含窒素複素環であり;
およびZは、それぞれ独立してC1−C12アルキレンであり;
は、−O−C(=O)、−O−C(=S)、−NH−C(=O)、−NH−C(=S)、−O−、または−S−であり;
は、C1−C2アルキレンであり;
nは1〜10の整数である)で表される金属−有機残基複合体。
(項目44)前記金属がレーザーの乱反射可能な表面を有する、項目43に記載の複合体。
(項目45)前記金属が金属微粒子である、項目44に記載の複合体。
(項目46)一般式(I):
(R−S)−M (I)
(式中、Rは有機残基であり、Sは硫黄原子であり、Mは金属であり、nはMに対する(R−S)基の化学量論比を表し、1以上の整数である)で表される金属−有機残基複合体;または
一般式(IV):
−S−X−CH(R)−S−M (IV)
(式中、RおよびSは前記と同意義であり、両端のMは同一実体の金属であり、Xは低級アルキレンまたは低級アルケニレンである)で表される金属−有機残基複合体、
を含有する、糖鎖捕捉用組成物。
(項目47)以下の式:
−(S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH−O−NH、M−(S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH−O−NH(CH))
−(S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH(NH)−W−SH)
−(S−Y−(OCHCH−NH−C(=S)−CH(NH)−W−SH)
−(S−W−O−NH
−(S−W−O−NH(CH))
−(S−W−O−W−O−NH
−(S−W−O−W−O−NH(CH))
−(S−(CHCHO)−W−O−W−O−NH
−(S−(CHCHO)−W−O−W−O−NH(CH))
−(S−W−C(=O)−NH−NH
−(S−W−C(=S)−NH−NH
−(S−W−NH−C(=O)−CH(NH)−W−SH)
−(S−W−NH−C(=S)−CH(NH)−W−SH)
−(S−Z−Z−Z−Z−Z−O−NH
−(S−Z−Z−Z−Z−Z−O−NH(CH))
−(S−Z−Z−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH)
−(S−Z−Z−Z−Z−CH(NH)−Z−SH)
−(S−Z−O−Z−CH(NH)−Z−SH)
−(S−Z−O−Z−O−NH
−(S−Z−O−Z−O−NH(CH))
−(S−Z−O−Z−Z−Z−O−NH
−(S−Z−O−Z−Z−Z−O−NH(CH))
−(S−Z−O−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH)
−(S−Z−O−Z−Z−CH(NH)−Z−SH)
−(S−Z−Z−Z−Z−O−NH
−(S−Z−Z−Z−Z−O−NH(CH))
−(S−Z−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH)
−(S−Z−Z−Z−CH(NH)−Z−SH)、または
一般式(VII):
Figure 0004557973
(式中、Mは金属であり;
mは、Mに対する硫黄原子を含む有機残基の化学量論比を表し、1以上の整数であり;Y、WおよびWは、それぞれ独立して、C1〜C12アルキレン、C2〜C12アルケニレンまたはC2〜C12アルキニレンであり;
は、C1〜C2アルキレンであり;
は、置換されていてもよいアリレンまたは置換されていてもよいヘテロアリレンであり;
は、含窒素複素環であり;
およびZは、それぞれ独立してC1−C12アルキレンであり;
は、−O−C(=O)、−O−C(=S)、−NH−C(=O)、−NH−C(=S)、−O−、または−S−であり;
は、C1−C2アルキレンであり;
nは1〜10の整数である)で表される金属−有機残基複合体を含有する、糖鎖捕捉用組成物。
(項目48)前記金属がレーザーの乱反射可能な表面を有する、項目46または47に記載の組成物。
(項目49)前記金属が金属微粒子である、項目48に記載の組成物。
(項目50)以下のA)およびB):
A)一般式(II):
R−SH (II)
(式中、Rは有機残基であり、Sは硫黄原子である)で表される化合物もしくはその塩;
一般式(III):
R−S−S−R (III)
(式中、RおよびSは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩;
一般式(V):
HS−X−CH(R)−SH (V)
(式中、RおよびSは前記と同意義であり、Xは低級アルキレンまたは低級アルケニレンである)で表される化合物もしくはその塩;
一般式(VI):
Figure 0004557973
(式中、R、SおよびXは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩;またはそれらの混合物;および
B)金属、
を含む、糖鎖または糖鎖含有物質の質量分析用キット。
(項目51)以下のA)およびB):
A)以下の式:
Figure 0004557973
または
Figure 0004557973
(式中、Y、WおよびWは、それぞれ独立して、C1〜C12アルキレン、C2〜C12アルケニレンまたはC2〜C12アルキニレンであり;
は、C1〜C2アルキレンであり;
は、置換されていてもよいアリレンまたは置換されていてもよいヘテロアリレンであ
り;
は、含窒素複素環であり;
およびZは、それぞれ独立してC1−C12アルキレンであり;
は、−O−C(=O)、−O−C(=S)、−NH−C(=O)、−NH−C(=S)、−O−、または−S−であり;
は、C1−C2アルキレンであり;
nは1〜10の整数である)
で表される、硫黄原子を含む有機残基誘導体;および
B)金属、
を含む、糖鎖または糖鎖含有物質の質量分析用キット。
(項目52)前記金属がレーザーの乱反射可能な表面を有する、項目50または51に記載のキット。
(項目53)前記金属が金属微粒子である、項目52に記載のキット。
(項目54)前記金属がテトラクロロ金酸であり、
C)還元剤、
をさらに含む、項目50または51に記載のキット。
(項目55)前記還元剤が水素化ホウ素ナトリウムまたはクエン酸ナトリウムである、項目42に記載のキット。
(項目56)一般式(I):
(R−S)−M (I)
(式中、Rは有機残基であり、Sは硫黄原子であり、Mは金属であり、nはMに対する(R−S)基の化学量論比を表し、1以上の整数である)で表される金属−有機残基複合体;または
一般式(IV):
−S−X−CH(R)−S−M (IV)
(式中、RおよびSは前記と同意義であり、両端のMは同一実体の金属であり、Xは低級アルキレンまたは低級アルケニレンである)で表される金属−有機残基複合体、
を含有する、糖鎖または糖鎖含有物質の質量分析用キット。
(項目57)以下の式:
−(S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH−O−NH、M−(S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH−O−NH(CH))
−(S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH(NH)−W−SH)
−(S−Y−(OCHCH−NH−C(=S)−CH(NH)−W−SH)
−(S−W−O−NH
−(S−W−O−NH(CH))
−(S−W−O−W−O−NH
−(S−W−O−W−O−NH(CH))
−(S−(CHCHO)−W−O−W−O−NH
−(S−(CHCHO)−W−O−W−O−NH(CH))
−(S−W−C(=O)−NH−NH
−(S−W−C(=S)−NH−NH
−(S−W−NH−C(=O)−CH(NH)−W−SH)
−(S−W−NH−C(=S)−CH(NH)−W−SH)
−(S−Z−Z−Z−Z−Z−O−NH
−(S−Z−Z−Z−Z−Z−O−NH(CH))
−(S−Z−Z−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH)
−(S−Z−Z−Z−Z−CH(NH)−Z−SH)
−(S−Z−O−Z−CH(NH)−Z−SH)
−(S−Z−O−Z−O−NH
−(S−Z−O−Z−O−NH(CH))
−(S−Z−O−Z−Z−Z−O−NH
−(S−Z−O−Z−Z−Z−O−NH(CH))
−(S−Z−O−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH)
−(S−Z−O−Z−Z−CH(NH)−Z−SH)
−(S−Z−Z−Z−Z−O−NH
−(S−Z−Z−Z−Z−O−NH(CH))
−(S−Z−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH)
−(S−Z−Z−Z−CH(NH)−Z−SH)、または
一般式(VII):
Figure 0004557973
(式中、Mは金属であり;
mは、Mに対する硫黄原子を含む有機残基の化学量論比を表し、1以上の整数であり;Y、WおよびWは、それぞれ独立して、C1〜C12アルキレン、C2〜C12アルケニレンまたはC2〜C12アルキニレンであり;
は、C1〜C2アルキレンであり;
は、置換されていてもよいアリレンまたは置換されていてもよいヘテロアリレンであり;
は、含窒素複素環であり;
およびZは、それぞれ独立してC1−C12アルキレンであり;
は、−O−C(=O)、−O−C(=S)、−NH−C(=O)、−NH−C(=S)、−O−、または−S−であり;
は、C1−C2アルキレンであり;
nは1〜10の整数である)で表される金属−有機残基複合体を含む、糖鎖または糖鎖含有物質の質量分析用キット。
(項目58)上記金属がレーザーの乱反射可能な表面を有する、項目56または57に記載のキット。
(項目59)上記金属が金属微粒子である、項目58に記載のキット。
(項目60)上記金属が金微粒子である、項目56または57に記載のキット。
(項目61)金属が、鉄、ニッケル、コバルトまたは酸化鉄(Fe)の表面に被覆した金、銀、カドミウムまたはセレンの層を含む複合金属である項目1〜23のいずれかに記載の方法。
(項目62)金属が、鉄、ニッケル、コバルトまたは酸化鉄(Fe)の表面に被覆した金、銀、カドミウムまたはセレンの層を含む複合金属である項目24〜26および43〜45のいずれかに記載の金属−有機残基複合体。
(項目63)金属が、鉄、ニッケル、コバルトまたは酸化鉄(Fe)の表面に被覆した金、銀、カドミウムまたはセレンの層を含む複合金属である項目27〜32のいずれかに記載の製造方法。
(項目64)金属が、鉄、ニッケル、コバルトまたは酸化鉄(Fe)の表面に被覆した金、銀、カドミウムまたはセレンの層を含む複合金属である項目33〜40のいずれかに記載の製造方法。
(項目65)金属が、鉄、ニッケル、コバルトまたは酸化鉄(Fe)の表面に被覆した金、銀、カドミウムまたはセレンの層を含む複合金属である項目41、42および46〜49のいずれかに記載の糖鎖捕捉用組成物。
(項目66)金属が、鉄、ニッケル、コバルトまたは酸化鉄(Fe)の表面に被覆した金、銀、カドミウムまたはセレンの層を含む複合金属である項目50〜60のいずれかに記載のキット。
(項目67)上記金属微粒子が、鉄、ニッケル、コバルトまたは酸化鉄(Fe)の粒子および該粒子の表面に被覆した金、銀、カドミウムまたはセレンの層を含む複合微
粒子である、項目6、26、36、40、45、49、53、59のいずれかに記載の方法。
(項目68)上記質量分析をLDI−TOF MS法により行う、項目1〜6のいずれかに記載の方法。
(項目69)上記質量分析をLDI−TOF MS法により行う、項目13に記載の方法。
本発明によれば、硫黄原子を含む有機残基誘導体について極めて感度の高い質量分析法を提供することができる。
本発明によれば、糖鎖関連酵素反応のリアルタイムでの正確なモニタリングが可能となる。レーザーの乱反射可能な金属表面上に酵素反応の基質となる糖鎖を提示することにより、質量分析法によって酵素反応を追跡することができる。本発明によれば、質量分析の際、通常の質量分析法では好ましくないバッファーまたは塩などがたとえ高濃度で存在したとしても、それらの影響を受けず、高感度に測定することができ、反応溶液の一部をそのまま分析に用いることができ、簡便である。また生成物を直接観測できるので、酵素反応の速度論的解析も容易に行えるという利点を有する。
従来のMALDI−TOF MS法において、「薬剤候補化合物として多いであろう低分子領域」について、マトリックス自身の強いピークにより、目的物のピークがうまく観察できないことが欠点とされてきたが、本発明によれば、目的の低分子化合物を金属基板(特に、金属微粒子)に担持することにより、マトリックスフリーなLDI−TOF MSを、高感度かつ正確に行うことができるという利点を有する。
本発明の金属−有機残基複合粒子を提供することにより、チオール基と金属との結合を利用して、金属微粒子表面に糖鎖や種々の官能基を提示することができ、またその金属微粒子の溶解性を、金属微粒子表面に導入するリガンドの性質によって自在に制御することができる。従って、チオール化合物で被覆した金属微粒子は、水系での反応のみならず有機溶媒系での固相合成を行う際に有用な固相担体として利用することができる。微粒子は反応溶媒に溶解しているが、精製の際には固体として遠心濾過によって溶液成分と分離可能であるため、分離精製も非常に容易に行えるという利点がある。さらに反応の経過を質量分析法によって直接追跡することができ、効率的に反応を行える。
本発明によれば、金属微粒子として、例えば鉄、ニッケル、コバルトまたは酸化鉄(Fe)などの磁性粒子およびこの粒子の表面に被覆した金、銀、カドミウムまたはセレンなどの層を含む複合微粒子を使用することにより、これに硫黄原子を含む有機残基誘導体を担持したのち、磁石等を用いて微粒子を簡易に回収し、精製無しで質量分析することができるという利点を有する。
また、本発明によれば、硫黄原子を介して細胞毒性の無い有機残基と結合した金属微粒子を提供することにより、金属−有機残基複合粒子を生細胞に直接取り込ませることができ、細胞内で生じる様々な化学反応(例えば、酵素反応)を、その反応生成物を質量分析することで正確に解析することができる。
図1は、金微粒子表面に担持したチオール化合物のMALDI TOF Massスペクトルを示す。a)は遠心濾過操作で得られた金微粒子のMALDI−TOF Massスペクトルを示し、b)はろ液のMALDI−TOF Massスペクトルを示す。 図2は、金微粒子を固相担体として用いた化学反応後のMALDI TOF Massスペクトルを示す。 図3は、糖鎖−金微粒子のMALDI−TOF Massスペクトルを示す。 図4は、糖鎖密度を制御した糖鎖(GlcNAc)−金微粒子のMALDI−TOF Massスペクトルを示す。 図5は、糖鎖密度を制御した糖鎖(GlcNAc)−金微粒子の電子顕微鏡写真を示す。 図6は、糖鎖(GlcNAc)−金微粒子上でのガラクトース転移酵素による糖鎖伸長反応を追跡したMALDI−TOF Massスペクトルの経時変化を示す。 図7は、図6のスペクトルから得た糖鎖伸長反応における時間−反応度プロットを示す。縦軸の反応は値は、[生成物のピーク強度/(出発物質のピーク強度+生成物のピーク強度)]の式から導かれる値を示す。 図8は、UDPによるGalT反応の阻害活性測定結果を示す。 図9は、糖鎖捕捉能をもつ金ナノパーティクルのMALDI−TOF Massスペクトルを示す。 図10は、金微粒子上でのBoc基の脱保護反応後のMALDI−TOF Massスペクトルを示す。 図11は、糖鎖捕捉金微粒子を用いた水溶液中での糖鎖(マンノース)捕捉反応後のMALDI−TOF Massスペクトルを示す。 図12は、糖鎖捕捉金微粒子を用いた水溶液中での糖鎖(グルコース)捕捉反応後のMALDI−TOF Massスペクトルを示す。 図13は、糖鎖捕捉金微粒子を用いた水溶液中での糖鎖(N−アセチルグルコサミン)捕捉反応後のMALDI−TOF Massスペクトルを示す。 図14は、糖鎖捕捉金微粒子を用いた水溶液中での糖鎖(マンノペンタオース)捕捉反応後のMALDI−TOF Massスペクトルを示す。 図15は、金基板を用いたAHTMのタンパク質の捕捉実験(方法(I)および(II))を示す。 図16は、金基板を用いたAHTMのタンパク質の捕捉実験(方法(III)および(IV))を示す。 図17は、金基板を用いたAHTMのタンパク質の捕捉実験(方法(I)〜(IV))の概念図およびMALDI−TOF Massスペクトルを示す。 図18は、大腸菌で発現した糖転移酵素(ガラクトース転位酵素)による、糖鎖(GlcNAc)金微粒子上での糖鎖伸長反応の模式図および反応後のMALDI−TOF Massスペクトルを示す。 図19は、a)のLDI−TOF Massスペクトルおよび、b)ヨウ素処理によって微粒子表面からチオール化合物を遊離した、糖鎖チオール(GlcNAc)と金微粒子の混合溶液のLDI−TOF Massスペクトルを示す。 図20は、糖鎖(Gal−GlcNAc)−金微粒子上でのフコース転移酵素(FucT)による糖鎖伸長反応を追跡したMALDI−TOF Massスペクトルの経時変化を示す。 図21は、図20のスペクトルから得た糖鎖伸長反応における時間−反応度プロットを示す。縦軸の値(反応度)[生成物のピーク強度/(出発物質のピーク強度+生成物のピーク強度)]の式から導かれる値を示す。 図22は、糖鎖(Lex)−金微粒子のLDI−TOF/TOF Massスペクトルを示す。 図23は、a)チオール(化合物1)−金基板のLDI−TOF Massスペクトル、およびb)チオール(化合物1)−金微粒子のLDI−TOF Masssスペクトルを示す。 図24は、チオール(化合物9)−磁性金微粒子のLDI−TOF Massスペクトルを示す。 図25は、糖鎖(GlcNAc)−磁性金微粒子のMALDI−TOF Massスペクトル(上段)、およびLDI−TOF Massスペクトル(下段)を示す。 図26は、糖鎖(GlcNAc)−磁性金微粒子上でのガラクトース転位酵素による糖鎖伸長反応の反応前(上段)および反応後(下段)のMALDI−TOF Massスペクトルを示す。 図27は、チオール(化合物9)−CdS微粒子のLDI−TOF Massスペクトルを示す。 図28は、金微粒子上でのグリコシル化反応後のMALDI−TOF Mass(上段)およびLDI−TOF Mass(下段)スペクトルを示す。 図29は、糖鎖(GlcNAc)−磁性金微粒子によってタンパク質混合物中から釣り上げられたタンパク質のMALDI−TOF Massスペクトルを示す。上段は、糖鎖(GlcNAc)−磁性金微粒子によって釣り上げられたタンパク質のMALDI−TOF Massスペクトル、中段は標準物質PNAのMALDI−TOF Massスペクトル、下段は標準物質WGAのMALDI−TOF Massスペクトルを示す。 図30は、金微粒子に結合したタンパク質(α−アミラーゼ)と阻害剤アカルボースとの混合溶液の、限外ろ過処理前の溶液のMALDI−TOF Massスペクトルを示す。 図31は、金微粒子に結合したタンパク質(α−アミラーゼ)と阻害剤アカルボースとの混合溶液の、限外ろ過処理後の溶液のMALDI−TOF Massスペクトルを示す。 図32は、オキシアミン金微粒子によって捕捉された糖脂質オゾン酸化物のMALDI−TOF Massスペクトルを示す。
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において
使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
(用語)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
本明細書において「金属」とは、その少なくとも一部に、硫黄原子含有物質(例えば、チオールまたはジスルフィドなど)が結合可能な金属を含む、金属単体または金属複合体を意味し、硫黄原子含有物質が結合可能である代表的な金属の種類として、金、銀、カドミウムおよびセレンなどが挙げられる。
本明細書において「金属がレーザーの乱反射可能な表面を有する」とは、上で定義した金属が、その表面に照射されて反射したレーザーが何度も金属表面に照射されるような凹凸面または湾曲面を有することを意味する。レーザーの乱反射が多いほど、質量分析の感度が高くなる。レーザーの乱反射可能な表面を有する金属の理想的な例として、金属微粒子が挙げられる。
本明細書において「金属微粒子」とは、平均粒径10nm〜5μmを有する上で定義した金属の粒子を意味し、単分散型であってもよいし、多分散型であってもよい。本発明の金属微粒子が金属複合体である場合には、その複合体のコアとなる粒子の表面が、上記硫黄原子含有物質が結合可能な金属の層で覆われた構造をとる。本発明で使用する代表的な金属微粒子として、金または銀の金属単体の微粒子、あるいは鉄、ニッケル、コバルトまたは酸化鉄(Fe)などの磁性粒子の表面が金または銀で覆われた金属複合体の微粒子が挙げられる。本発明の「金属微粒子」は、溶液中でコロイドを形成する。上で挙げた金属微粒子の例のほかにも、商品名Quantum Dots(Quantum Dot Corporation,Hayward,CA,USA、以下「QDs」と示す)も使用可能である。QDsに用いられる金属の種類としては、例えばZnSe、CdS、CdSe、CdTeなどが挙げられる。典型的な例として、コアにCdSe、その周りにZnSを持つナノパーティクルがある。表面にでているZnと−SHの結合(この結合はAu−Sと同じ種類)を介して−SH化合物をQDs表面に提示することができる。本明細書において「微粒子」との用語は、「ナノパーティクル」または「ナノ粒子」と互換可能に使用され得る。金微粒子の作製およびその応用については、JACS 125,7790−7791(2003);Angew Chem Int Ed 40(12),2257−2261(2001);Chem Eur J 9,1909−1921(2003)に記載されている。
本明細書において「有機残基」とは、下記で定義した「生体分子」および人工的に合成された有機化合物をさす。
本明細書において「被検体」とは、質量分析でイオン化される分析物を意味し、上で定義した「有機残基」が含まれる。
本明細書において「金属−有機残基複合体」とは、上で定義した金属微粒子の表面上に硫黄原子を介して有機残基が結合して得られた複合体を意味する。
本明細書において「金属−有機残基複合粒子」とは、上で定義した金属微粒子の表面上に硫黄原子を介して有機残基が結合して得られた微粒子を意味する。本明細書において、特に金微粒子の表面上に硫黄原子を介して糖鎖または糖鎖含有物質が結合して得られた微粒子は、「糖鎖−金微粒子」との用語が使用される。
本明細書において「金属−被検体複合体」とは、上で定義した金属の表面上に硫黄原子を介して被検体が結合して得られた複合体を意味する。
本明細書において「金属−被検体複合粒子」とは、上で定義した金属微粒子の表面上に硫黄原子を介して被検体が結合して得られた微粒子を意味する。
本明細書において「質量分析」とは、原子、分子、クラスター等の粒子を気体状のイオンとし(つまり、イオン化し)、真空中で運動させ電磁気力を用いてそれらイオンを質量電荷比(m/z)に応じて分離・検出することを意味する。m/zに応じて分離・検出されたイオンをもとに、横軸にm/z、縦軸にイオンの相対強度をとったスペクトルが、マススペクトルである。分子量情報を与えるイオンは、一般に分子量関連イオン(中性分子Mから電子1個が失われたM+.、電子1個が付加したM−.、プロトンが付加した[M+H]、プロトンが失われた[M−H]、ハイドライドが失われた[M−H]、アルカリ金属(Naなど)が付加した[M+Na]などがある)と呼ばれる。試料やイオン化法(特にEI法では)によっては全く分子量関連イオンが出現しない場合があるが、その場合はソフトなイオン化法を用いることで分子量関連イオンを確認できる。分子イオンより低質量側に出現するイオンをフラグメントイオンと呼び、このフラグメントイオンは分子イオンが分解したもので、試料分子の構造情報を与える。スペクトル中最もイオン強度の高いイオンをベースピークと呼び、相対強度を100%としスペクトルを規格化するために用いる。
本発明における「イオン化」は、以下の7通りの方法の中から適宜選択して行われる。
1)電子イオン化法(EI:electron ionization法)
電子イオン化法は、気化した試料に熱電子をあててイオン化する方法で、最も普及しているイオン化法である。イオン化は試料をガス化して行なうため、液体あるいは個体試料は予め気化させる必要がある。気化させるのに熱を加えるため熱不安定物質、難揮発性物質の測定は不可能である。ただし、メチル化、シリル化、アシル化等の誘導体化により揮発性、熱安定性が得られる物質の場合は測定が可能となる。通常70eVのエネルギーでイオン化を行なうため、分子イオンの生成とともに過剰エネルギーによりフラグメントイオンが生成する(一般的な有機化合物のイオン化エネルギーは、10数eVである)。このフラグメントイオンの情報より化合物の構造解析が可能となる。しかし、分子イオンが出にくいため分子量情報が得られない場合が多い。この場合はイオン化エネルギーを20eV程度に落すか、よりソフトなイオン化法(CI、DEI、DCI、FAB、ESI)を選択する必要がある。
2)化学イオン化法(CI:chemical ionization法)
あらかじめイオン化された反応ガス(試薬ガス)の中に気化した試料を送り込みイオン化する方法である。イオン分子反応を用いてイオン化するため、イオン化エネルギーが有機化合物のイオン化エネルギーに近いためフラグメントイオンが非常に少なく、分子量情報を持ったイオン((M+H)、(M+NH、(M−H)など)がベースイオンとして現れる。反応ガスとしては一般的にメタン、イソブタン、アンモニアが用いられている。
3)脱離電子イオン化法(DEI:desorption electron ionization法)
電子線の近傍で瞬間加熱を行ない試料が熱分解を起こす前に、気化させイオン化させる方法で、熱不安定物質や難揮発性物質の測定が可能となる。さらに、通常の直接導入法におけるEI法より分子イオンが強く出るため分子量情報が得やすくなる。測定法は、試料溶液をポイント・フィラメント(直径100μmの白金線)の先端に付着させ、イオン源内に挿入後フィラメントを急速加熱し試料を気化させる。
4)脱離化学イオン化法(DCI:desorption chemical ionization法)
イオン源をCIの状態でDEIの操作を行なった場合が、DCIである。
5)高速原子衝撃)法(FAB:fast atom bombardment法)
試料とマトリックス分子を良く混合し、ターゲット上に塗布しXe等の高速中性原子を衝突させイオン化させる方法である。EI、CIと違い、試料を気化させる必要がないため、熱不安定物質や難揮発性物質の測定に適している。しかし、低質量域にはマトリックス由来のバックグラウンドピークが強く現れるため低分子量の試料は測定が難しい場合がある。その場合はFRIT−FABによる測定が有効である。
6)フリット高速原子衝撃法(FRIT−FAB:FRIT−fast atom bombardment法)
Continuous−flow FABとも呼ばれ、マトリックス溶液に溶解した試料を連続的に流し溶出液出口を高速中性原子で衝突させイオン化させる方法である。
7)エレクトロスプレーイオン化法(ESI:electrospray ionization法)
大気圧イオン化法の一種で、キャピラリに高電圧を印加すると試料溶液が自ら噴霧、イオン化を行なう現象を利用したイオン化法である。FAB同様、試料を気化させる必要がないため、熱不安定物質や難揮発性物質の測定に適している。このことは、質量範囲の小さい四重極型のタイプでも分子量の大きなペプチドやタンパクなどが測定できるようになる。通常のESI測定では構造情報を持つフラグメントイオンが得られないため、通常より高めに電圧をCapillay/Skimmer−1に印加することによりIn−source CIDが起き構造情報を持つフラグメントイオンを測定することが可能となる。
本明細書において「MALDI−TOF MS」とは、Matrix Assisted Laser Desorption Ionization −Time−of−Flight(Mass Spectrometer)の略語である。MALDIとは、田中らによって見いだされ、Hillenkampらによって開発された技法である(Karas M.,Hillenkamp,F.,Anal.Chem.1988,60,2299−2301)。この方法では、試料とマトリックス溶液をモル比で(10−2〜5×10−4):1に混合した後、混合溶液を標的上で乾固し、結晶状態にする。パルスレーザー照射により、大きなエネルギーがマトリックス上に与えられ、(M+H)、(M+Na)などの試料由来イオンとマトリックス由来イオンとが脱離する。微量のリン酸緩衝液、Tris緩衝液、グアニジンなどで汚染されていても分析可能である。MALDI−TOF(MS)は、MALDIを利用して飛行時間を元に質量を測定するものである。イオンが一定の加速電圧Vで加速される場合、イオンの質量をm、イオンの速度をv、イオンの電荷数をz、電気素量をe、イオンの飛行時間をtとしたとき、イオンのm/zは、
m/z=2eVt/L
で表すことができる。このようなMALDI−TOF測定には、島津/KratosのKOMPACT MALDI II/IIIなどを使用することができる。その測定の際には、製造業者が作成したパンフレットを参照することができる。MALDI−TOFの測定時に使用されるレーザー照射の照射エネルギーを本明細書において「解離エネルギー」という。
本明細書において「LDI−TOF MS」とは、上で定義した「MALDI−TOF
MS」とは対照的に、低分子マトリックス試薬を使用せずに、レーザー照射により目的の分子を脱離・イオン化する方法を意味する。
本明細書において「同一実体」とは、本明細書において便宜上複数で表現されている実体が同じ個体そのものであることを意味する。
本明細書において「糖鎖」とは、単位糖(単糖および/またはその誘導体)が1つ以上連なってできた化合物をいう。単位糖が2つ以上連なる場合は、各々の単位糖同士の間は、グリコシド結合による脱水縮合によって結合する。このような糖鎖としては、例えば、生体中に含有される多糖類(グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、シアル酸ならびにそれらの複合体および誘導体)の他、分解された多糖、糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖脂質などの複合生体分子から分解または誘導された糖鎖など広範囲なものが挙げられるがそれらに限定されない。したがって、本明細書では、糖鎖は、「多糖(ポリサッカリド)」、「糖質」、「炭水化物」と互換可能に使用され得る。また、特に言及しない場合、本明細書において「糖鎖」は、糖鎖および糖鎖含有物質の両方を包含することがある。
本明細書において「糖鎖含有物質」とは、糖鎖および糖鎖以外の物質を含む物質をいう。このような糖鎖含有物質は、生体内に多く見出され、例えば、生体中に含有される多糖類の他、分解された多糖、糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖脂質などの複合生体分子から分解または誘導された糖鎖など広範囲なものが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「単糖」とは、これより簡単な分子に加水分解されず、少なくとも1つの水酸基および少なくとも1つのアルデヒド基またはケトン基を含む、ポリヒドロキシアルデヒドまたはポリヒドロキシケトンならびにその誘導体をいう。通常単糖は、一般式C2nで表されるがそれらに限定されず、フコース(デオキシヘキソース)、N−アセチルグルコサミンなども含まれる。ここで、上の式において、n=2、3、4、5、6、7、8、9および10であるものを、それぞれジオース、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース、オクトース、ノノースおよびデコースという。一般に鎖式多価アルコールのアルデヒドまたはケトンに相当するもので、前者をアルドース、後者をケトースという。
本明細書において特に言及するときは、「単糖の誘導体」は、置換されていない単糖上の一つ以上の水酸基が別の置換基に置換され、結果生じる物質をいう。そのような単糖の誘導体としては、カルボキシル基を有する糖(例えば、C−1位が酸化されてカルボン酸となったアルドン酸(例えば、D−グルコースが酸化されたD−グルコン酸)、末端のC原子がカルボン酸となったウロン酸(D−グルコースが酸化されたD−グルクロン酸)、アミノ基またはアミノ基の誘導体(例えば、アセチル化されたアミノ基)を有する糖(例えば、N−アセチル−D−グルコサミン、N−アセチル−D−ガラクトサミンなど)、アミノ基およびカルボキシル基を両方とも有する糖(例えば、N−アセチルノイラミン酸(シアル酸)、N−アセチルムラミン酸など)、デオキシ化された糖(例えば、2−デオキシ−D−リボース)、硫酸基を含む硫酸化糖、リン酸基を含むリン酸化糖などがあるがそれらに限定されない。本明細書では、単糖という場合は、上記誘導体も包含する。あるいは、ヘミアセタール構造を形成した糖において、アルコールと反応してアセタール構造のグリコシドもまた、単糖の範囲内にある。
本明細書において「相互作用」とは、2つの物体について言及するとき、その2つの物体が相互に力を及ぼしあうことをいう。そのような相互作用としては、例えば、共有結合、水素結合、ファンデルワ−ルス力、イオン性相互作用、非イオン性相互作用、疎水性相互作用、静電的相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、相互作用は、水素結合、疎水性相互作用などである。本明細書において「共有結合」とは、当該分野における通常の意味で用いられ、電子対が2つの原子に共有されて形成する化学結合をいう。本明細書において「水素結合」とは、当該分野における通常の意味で用いられ、電気的陰性度の高い原子に一つしかない水素原子の核外電子が引き寄せられて水素原子核が露出し、これが別の電気的陰性度の高い原子を引き寄せて生じる結合をいい、例えば、水素原子と電気的陰性度の高い(フッ素、酸素、窒素などの)原子との間にできる。
本明細書において「糖鎖または糖鎖含有物質の捕捉」とは、本発明の「金属−有機残基複合体」または「金属−被検体複合体」と「糖鎖または糖鎖含有物質」との相互作用によって、上記複合体の糖鎖捕捉部位に糖鎖または糖鎖含有物質が結合されることを意味する。本発明における複合体の糖鎖捕捉部位は、保護されていてもよいアミノオキシ基、保護されていてもよいN−アルキルアミノオキシ基、ヒドラジド基、アジド基、チオセミカルバジド基およびシステイン残基ならびにそれらの誘導体を含むことが好ましい。
本明細書において「転移酵素」とは、基転移反応を触媒する酵素の総称をいう。本明細書において、「転移酵素」は「トランスフェラーゼ」と互換可能に使用され得る。基転移反応は、以下の式(1):
X−Y+Z−H ⇔ X−H+Z−Y (1)
に示すように、一つの化合物(供与体)から基Yが他の化合物(受容体)に転移する形で行われる。
本明細書において「糖転移酵素」とは、糖(上記式(1)の基Yに相当;単位糖または糖鎖)をある場所(上記式(1)の化合物X−Yに相当)から別の場所(上記式(1)の化合物Z−Hに相当)へと転移させるよう触媒する作用を有する酵素をいう。糖転移酵素としては、例えば、ガラクトース転移酵素、グルコ−ス転移酵素、シアル酸転移酵素、マンノ−ス転移酵素、フコ−ス転移酵素、キシロ−ス転移酵素、N−アセチルグルコサミン転移酵素、およびN−アセチルガラクトサミン転移酵素などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような糖転移酵素としては、例えば、糖転移酵素の例としては、β1,4−ガラクトース転移酵素、α−1,3−ガラクトース転移酵素、β1,4−ガラクトース転移酵素、β1,3−ガラクトース転移酵素、β1,6−ガラクトース転移酵素、α2,6−シアル酸転移酵素、α1,4−ガラクトース転移酵素、セラミドガラクトース転移酵素、α1,2−フコース転移酵素、α1,3−フコース転移酵素、α1,4−フコース転移酵素、α1,6−フコース転移酵素、α1,3−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、α1,6−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、ポリペプチドN−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,2−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,3−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,6−Nアセチルグルコサミン転移酵素、α1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,4−マンノース転移酵素、α1,2−マンノース転移酵素、α1,3−マンノース転移酵素、α1,4−マンノース転移酵素、α1,6−マンノース転移酵素、α1,2−グルコース転移酵素、α1,3−グルコース転移酵素、α2,3−シアル酸転移酵素、α2,8−シアル酸転移酵素、α1,6−グルコサミン転移酵素、α1,6−キシロース転移酵素、βキシロース転移酵素(プロテオグリカンコア構造合成酵素)、β1,3−グルクロン酸転移酵素、ヒアルロン酸合成酵素、他の糖ヌクレオチドを糖ドナーとして用いる糖転移酵素およびドルコールリン酸型糖ドナーを用いる糖転移酵素などが挙げられるがそれらに限定されない。
本発明において「糖鎖伸長反応」とは、上で定義した糖転移酵素の存在下で糖鎖の鎖長が伸長する反応をいう。
本明細書において使用される用語「生体分子」とは、生体に関連する分子をいう。そのような生体分子を含む試料を、本明細書において特に生体試料ということがある。本明細書において「生体」とは、生物学的な有機体をいい、動物、植物、菌類、ウイルスなどを含むがそれらに限定されない。従って、生体分子は、生体から抽出される分子を包含するが、それに限定されず、生体に影響を与え得る分子であれば生体分子の定義に入る。そのような生体分子には、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子など)、これらの複合分子などが包含されるがそれらに限定されない。本明細書では、生体分子は、好ましくは、糖鎖または糖鎖を含む複合分子(例えば、糖タンパク質、糖脂質など)であり得る。
そのような生体分子の供給源としては、生物由来の糖鎖が結合または付属する材料であれば特にその由来に限定はなく、動物、植物、細菌、ウイルスを問わない。より好ましくは動物由来生体試料が挙げられる。好ましくは、例えば、全血、血漿、血清、汗、唾液、尿、膵液、羊水、髄液等が挙げられ、より好ましくは血漿、血清、尿が挙げられる。生体試料には個体から予め分離されていない生体試料も含まれる。例えば外部から試液が接触可能な粘膜組織、あるいは腺組織、好ましくは乳腺、前立腺、膵臓に付属する管組織の上皮が含まれる。
本明細書において使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。本発明の遺伝子産物は、通常ポリペプチド形態をとる。このようなポリペプチド形態の本発明の遺伝子産物は、本発明の診断、予防、治療または予後のための組成物として有用である。
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」を含む。「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。本発明の遺伝子は、通常、このポリヌクレオチド形態をとる。このようなポリヌクレオチド形態の本発明の遺伝子または遺伝子産物は、本発明の診断、予防、治療または予後のための組成物として有用である。
本明細書において、物質(例えば、糖鎖、核酸またはタンパク質などの生物学的因子)の「単離」とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の物質(例えば、糖鎖または糖鎖含有物質である場合、糖鎖または糖鎖含有物質以外の因子、あるいは、目的とする糖鎖または糖鎖含有物質以外の糖鎖または糖鎖含有物質;核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」、糖鎖または糖鎖含有物質には、本発明の精製方法によって精製された糖鎖または糖鎖含有物質が含まれる。したがって、単離された糖鎖または糖鎖含有物質は、化学的に合成した糖鎖または糖鎖含有物質を包含する。
本明細書において、物質(例えば、糖鎖、核酸またはタンパク質などの生物学的因子)の「精製」とは、その物質に天然に随伴する因子の少なくとも一部を除去することをいう。したがって、精製および分離は、その形態が一部重複する。したがって、通常、精製された物質(例えば、糖鎖または糖鎖含有物質のような生物学的因子)におけるその物質の純度は、その物質が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)が、天然に随伴する因子が低減されている限り、濃縮されていない状態も「精製」の概念に包含される。
本明細書において物質(例えば、糖鎖または糖鎖含有物質のような生物学的因子)の「濃縮」とは、その物質が濃縮前に試料に含まれている含有量よりも高い濃度に上昇させる行為をいう。従って、濃縮もまた、精製および分離と、その概念が一部重複する。したがって、通常、濃縮された物質(例えば、糖鎖または糖鎖含有物質のような生物学的因子)は、その物質が通常存在する状態における不純物の含有量は低減されているが、目的とする物質の含有量が増加している限り、ある特定の不純物が増加していてもよく、「精製」されていない状態も「濃縮」の概念に包含される。
本明細書において「金属−有機残基複合体と糖鎖または糖鎖含有物質とが反応しうる条件」とは、金属−有機残基複合体と、糖鎖または糖鎖含有物質とが相互作用し得る(好ましくは、共有結合を形成する)のに十分な条件(例えば、緩衝剤、溶媒の極性、温度、pH、塩濃度、圧力など)をいう。このような条件を設定するのに必要なパラメータの設定は、当業者の技術範囲内であり、相互作用の種類、糖鎖または糖鎖含有物質の種類、糖鎖捕捉担体の種類(例えば、アルデヒド基と流体中で反応し得る官能基として、保護されていてもよいアミノオキシ基、保護されていてもよいN−アルキルアミノオキシ基、ヒドラジド基、アジド基、チオセミカルバジド基およびシステイン残基ならびにそれらの誘導体)など相互作用に関連する諸パラメータを考慮することにより、当業者は、そのような条件を当該分野において周知の技術を用いて設定し、相互作用反応を行わせることができる。好ましい実施形態では、そのような条件は、糖鎖が水溶液などの流体中で形成する環状のヘミアセタール型と非環状のアルデヒド型との平衡において、アルデヒド基と反応して特異的かつ安定な結合を形成させるような条件が挙げられるがそれに限定されない。あるいは、反応に供する流体にケト基が実質的に含まれていないこともまた1つの好ましい条件であり得る。そのような条件としては、例えば、pH5.6の酢酸緩衝液を常温常圧(例えば、20℃および1気圧)にて用いることなどが挙げられる。
(有機化学)
有機化学については、例えば、Organic Chemistry,R.T.Morrison,R.N.Boyd 5th ed.(1987年)などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
本明細書においては、特に言及がない限り、「置換」は、ある有機化合物または置換基中の1または2以上の水素原子を他の原子または原子団で置き換えることをいう。水素原子を1つ除去して1価の置換基に置換することも可能であり、そして水素原子を2つ除去して2価の置換基に置換することも可能である。
本発明の「金属−有機残基複合体」の有機残基または「金属−被検体複合体」の被検体が、置換Rによって置換されている場合、そのようなRは、単数または複数存在し、複数存在する場合は、それぞれ独立して、水素、アルキル、置換されたアルキル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、炭素環基、置換された炭素環基、ヘテロ環基、置換されたヘテロ環基、ハロゲン、ヒドロキシ、置換されたヒドロキシ、チオール、置換されたチオール、シアノ、ニトロ、アミノ、置換されたアミノ、カルボキシ、置換されたカルボキシ、アシル、置換されたアシル、チオカルボキシ、置換されたチオカルボキシ、アミド、置換されたアミド、置換されたカルボニル、置換されたチオカルボニル、置換されたスルホニルおよび置換されたスルフィニルからなる群より選択される。
本発明の「金属−有機残基複合体」または「金属−被検体複合体」を水系の溶媒に対する溶解度を上げるための置換基Rとしては、カルボキシル基またはアミノ基などの極性基そのもの、または、分子内にカルボキシル基またはアミノ基などの極性基を置換基として有する飽和または不飽和炭素鎖であることが好ましい。逆に、本発明の「金属−有機残基複合体」を有機系の溶媒に可溶化させるための置換基Rとしては、疎水性のものが好ましく、例えば、C1〜C6アルキル、C1〜C5アルキル、C1〜C4アルキル、C1〜C3アルキル、C1〜C2アルキルなどが挙げられる。
本明細書において「ヘテロ環(基)」とは、炭素およびヘテロ原子をも含む環状構造を有する基をいう。ここで、ヘテロ原子は、O、SおよびNからなる群より選択され、同一であっても異なっていてもよく、1つ含まれていても2以上含まれていてもよい。ヘテロ環基は、芳香族系または非芳香族系であり得、そして単環式または多環式であり得る。ヘテロ環基は置換されていてもよい。
本明細書において「アルコール」とは、脂肪族炭化水素の1または2以上の水素原子をヒドロキシル基で置換した有機化合物をいう。本明細書においては、ROHとも表記される。ここで、Rは、アルキル基である。好ましくは、Rは、C1〜C6アルキルであり得る。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「アルキル」とは、メタン、エタン、プロパンのような脂肪族炭化水素(アルカン)から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n+1−で表される(ここで、nは正の整数である)。アルキルは、直鎖または分枝鎖であり得る。本明細書において「置換されたアルキル」とは、以下に規定する置換基によってアルキルのHが置換されたアルキルをいう。これらの具体例は、C1〜C2アルキル、C1〜C3アルキル、C1〜C4アルキル、C1〜C5アルキル、C1〜C6アルキル、C1〜C7アルキル、C1〜C8アルキル、C1〜C9アルキル、C1〜C10アルキル、C1〜C11アルキルまたはC1〜C12アルキル、C1〜C2置換されたアルキル、C1〜C3置換されたアルキル、C1〜C4置換されたアルキル、C1〜C5置換されたアルキル、C1〜C6置換されたアルキル、C1〜C7置換されたアルキル、C1〜C8置換されたアルキル、C1〜C9置換されたアルキル、C1〜C10置換されたアルキル、C1〜C11置換されたアルキルまたはC1〜C12置換されたアルキルであり得る。ここで、例えばC1〜C10アルキルとは、炭素原子を1〜10個有する直鎖または分枝状のアルキルを意味し、メチル(CH−)、エチル(C−)、n−プロピル(CHCHCH−)、イソプロピル((CHCH−)、n−ブチル(CHCHCHCH−)、n−ペンチル(CHCHCHCHCH−)、n−ヘキシル(CHCHCHCHCHCH−)、n−ヘプチル(CHCHCHCHCHCHCH−)、n−オクチル(CHCHCHCHCHCHCHCH−)、n−ノニル(CHCHCHCHCHCHCHCHCH−)、n−デシル(CHCHCHCHCHCHCHCHCHCH−)、−C(CHCHCHCH(CH、−CHCH(CHなどが例示される。また、例えば、C1〜C10置換されたアルキルとは、C1〜C10アルキルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
本明細書において、「低級アルキル」は、C1〜C6アルキルであり、好ましくは、C1またはC2アルキルである。
本明細書において「シクロアルキル」とは、環式構造を有するアルキルをいう。「置換されたシクロアルキル」とは、以下に規定する置換基によってシクロアルキルのHが置換されたシクロアルキルをいう。具体例としては、C3〜C4シクロアルキル、C3〜C5シクロアルキル、C3〜C6シクロアルキル、C3〜C7シクロアルキル、C3〜C8シクロアルキル、C3〜C9シクロアルキル、C3〜C10シクロアルキル、C3〜C11シクロアルキル、C3〜C12シクロアルキル、C3〜C4置換されたシクロアルキル、C3〜C5置換されたシクロアルキル、C3〜C6置換されたシクロアルキル、C3〜C7置換されたシクロアルキル、C3〜C8置換されたシクロアルキル、C3〜C9置換されたシクロアルキル、C3〜C10置換されたシクロアルキル、C3〜C11置換されたシクロアルキルまたはC3〜C12置換されたシクロアルキルであり得る。例えば、シクロアルキルとしては、シクロプロピル、シクロヘキシルなどが例示される。
本明細書中、「アルキレン」とは、「アルキル」から導かれる2価の基であって、例えば、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナンメチレン、デカンメチレン、ウンデカメチレン、ドデカメチレン等が挙げられる。
本明細書において「アルケニル」とは、エチレン、プロピレンのような、分子内に二重
結合を一つ有する脂肪族炭化水素から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n−1−で表される(ここで、nは2以上の正の整数である)。「置換されたアルケニル」とは、以下に規定する置換基によってアルケニルのHが置換されたアルケニルをいう。具体例としては、C2〜C3アルケニル、C2〜C4アルケニル、C2〜C5アルケニル、C2〜C6アルケニル、C2〜C7アルケニル、C2〜C8アルケニル、C2〜C9アルケニル、C2〜C10アルケニル、C2〜C11アルケニルまたはC2〜C12アルケニル、C2〜C3置換されたアルケニル、C2〜C4置換されたアルケニル、C2〜C5置換されたアルケニル、C2〜C6置換されたアルケニル、C2〜C7置換されたアルケニル、C2〜C8置換されたアルケニル、C2〜C9置換されたアルケニル、C2〜C10置換されたアルケニル、C2〜C11置換されたアルケニルまたはC2〜C12置換されたアルケニルであり得る。ここで、例えばC2〜C10アルキルとは、炭素原子を2〜10個含む直鎖または分枝状のアルケニルを意味し、ビニル(CH=CH−)、アリル(CH=CHCH−)、CHCH=CH−などが例示される。また、例えば、C2〜C10置換されたアルケニルとは、C2〜C10アルケニルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
本明細書において「シクロアルケニル」とは、環式構造を有するアルケニルをいう。「置換されたシクロアルケニル」とは、以下に規定する置換基によってシクロアルケニルのHが置換されたシクロアルケニルをいう。具体例としては、C3〜C4シクロアルケニル、C3〜C5シクロアルケニル、C3〜C6シクロアルケニル、C3〜C7シクロアルケニル、C3〜C8シクロアルケニル、C3〜C9シクロアルケニル、C3〜C10シクロアルケニル、C3〜C11シクロアルケニル、C3〜C12シクロアルケニル、C3〜C4置換されたシクロアルケニル、C3〜C5置換されたシクロアルケニル、C3〜C6置換されたシクロアルケニル、C3〜C7置換されたシクロアルケニル、C3〜C8置換されたシクロアルケニル、C3〜C9置換されたシクロアルケニル、C3〜C10置換されたシクロアルケニル、C3〜C11置換されたシクロアルケニルまたはC3〜C12置換されたシクロアルケニルであり得る。例えば、好ましいシクロアルケニルとしては、1−シクロペンテニル、2−シクロヘキセニルなどが例示される。
本明細書中、「アルケニレン」とは、「アルケニル」から導かれる2価の基であって、例えば、ビニレン、プロペニレン、ブテニレン等が挙げられる。
本明細書において「アルキニル」とは、アセチレンのような、分子内に三重結合を一つ有する脂肪族炭化水素から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n−3−で表される(ここで、nは2以上の正の整数である)。「置換されたアルキニル」とは、以下に規定する置換基によってアルキニルのHが置換されたアルキニルをいう。具体例としては、C2〜C3アルキニル、C2〜C4アルキニル、C2〜C5アルキニル、C2〜C6アルキニル、C2〜C7アルキニル、C2〜C8アルキニル、C2〜C9アルキニル、C2〜C10アルキニル、C2〜C11アルキニル、C2〜C12アルキニル、C2〜C3置換されたアルキニル、C2〜C4置換されたアルキニル、C2〜C5置換されたアルキニル、C2〜C6置換されたアルキニル、C2〜C7置換されたアルキニル、C2〜C8置換されたアルキニル、C2〜C9置換されたアルキニル、C2〜C10置換されたアルキニル、C2〜C11置換されたアルキニルまたはC2〜C12置換されたアルキニルであり得る。ここで、例えば、C2〜C10アルキニルとは、例えば炭素原子を2〜10個含む直鎖または分枝状のアルキニルを意味し、エチニル(CH≡C−)、1−プロピニル(CHC≡C−)などが例示される。また、例えば、C2〜C10置換されたアルキニルとは、C2〜C10アルキニルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
本明細書中、「アルキニレン」とは、「アルキニル」から導かれる2価の基であって、
例えば、プロピニレン、ブチニレン等が挙げられる。
本明細書において「アルコキシ」とは、アルコール類のヒドロキシ基の水素原子が失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n+1O−で表される(ここで、nは1以上の整数である)。「置換されたアルコキシ」とは、以下に規定する置換基によってアルコキシのHが置換されたアルコキシをいう。具体例としては、C1〜C2アルコキシ、C1〜C3アルコキシ、C1〜C4アルコキシ、C1〜C5アルコキシ、C1〜C6アルコキシ、C1〜C7アルコキシ、C1〜C8アルコキシ、C1〜C9アルコキシ、C1〜C10アルコキシ、C1〜C11アルコキシ、C1〜C12アルコキシ、C1〜C2置換されたアルコキシ、C1〜C3置換されたアルコキシ、C1〜C4置換されたアルコキシ、C1〜C5置換されたアルコキシ、C1〜C6置換されたアルコキシ、C1〜C7置換されたアルコキシ、C1〜C8置換されたアルコキシ、C1〜C9置換されたアルコキシ、C1〜C10置換されたアルコキシ、C1〜C11置換されたアルコキシまたはC1〜C12置換されたアルコキシであり得る。ここで、例えば、C1〜C10アルコキシとは、炭素原子を1〜10個含む直鎖または分枝状のアルコキシを意味し、メトキシ(CHO−)、エトキシ(CO−)、n−プロポキシ(CHCHCHO−)などが例示される。
本明細書において「炭素環基」とは、炭素のみを含む環状構造を含む基であって、前記の「シクロアルキル」、「置換されたシクロアルキル」、「シクロアルケニル」、「置換されたシクロアルケニル」以外の基をいう。炭素環基は芳香族系または非芳香族系であり得、そして単環式または多環式であり得る。「置換された炭素環基」とは、以下に規定する置換基によって炭素環基のHが置換された炭素環基をいう。具体例としては、C3〜C4炭素環基、C3〜C5炭素環基、C3〜C6炭素環基、C3〜C7炭素環基、C3〜C8炭素環基、C3〜C9炭素環基、C3〜C10炭素環基、C3〜C11炭素環基、C3〜C12炭素環基、C3〜C4置換された炭素環基、C3〜C5置換された炭素環基、C3〜C6置換された炭素環基、C3〜C7置換された炭素環基、C3〜C8置換された炭素環基、C3〜C9置換された炭素環基、C3〜C10置換された炭素環基、C3〜C11置換された炭素環基またはC3〜C12置換された炭素環基であり得る。炭素環基はまた、C4〜C7炭素環基またはC4〜C7置換された炭素環基であり得る。炭素環基としては、フェニル基から水素原子が1個欠失したものが例示される。ここで、水素の欠失位置は、化学的に可能な任意の位置であり得、芳香環上であってもよく、非芳香環上であってもよい。
本明細書において「ヘテロ環基」とは、炭素およびヘテロ原子をも含む環状構造を有する基をいう。ここで、ヘテロ原子は、O、SおよびNからなる群より選択され、同一であっても異なっていてもよく、1つ含まれていても2以上含まれていてもよい。ヘテロ環基は、芳香族系または非芳香族系であり得、そして単環式または多環式であり得る。「置換されたヘテロ環基」とは、以下に規定する置換基によってヘテロ環基のHが置換されたヘテロ環基をいう。具体例としては、C3〜C4炭素環基、C3〜C5炭素環基、C3〜C6炭素環基、C3〜C7炭素環基、C3〜C8炭素環基、C3〜C9炭素環基、C3〜C10炭素環基、C3〜C11炭素環基、C3〜C12炭素環基、C3〜C4置換された炭素環基、C3〜C5置換された炭素環基、C3〜C6置換された炭素環基、C3〜C7置換された炭素環基、C3〜C8置換された炭素環基、C3〜C9置換された炭素環基、C3〜C10置換された炭素環基、C3〜C11置換された炭素環基またはC3〜C12置換された炭素環基の1つ以上の炭素原子をヘテロ原子で置換したものであり得る。ヘテロ環基はまた、C4〜C7炭素環基またはC4〜C7置換された炭素環基の炭素原子を1つ以上へテロ原子で置換したものであり得る。ヘテロ環基としては、チエニル基、ピロリル基、フリル基、イミダゾリル基、ピリジル基などが例示される。水素の欠失位置は、化学的に可能な任意の位置であり得、芳香環上であってもよく、非芳香環上であってもよい。
本明細書において「フェニル基」とは、C6芳香族系炭素環基であり、ベンゼンからHを1個欠失した官能基である。「置換されたフェニル基」とは、フェニル基のHが以下で定義される置換基で置換されたものをいう。
本明細書において、炭素環基またはヘテロ環基は、下記に定義されるように1価の置換基で置換され得ることに加えて、2価の置換基で置換され得る。そのような二価の置換は、オキソ置換(=O)またはチオキソ置換(=S)であり得る。
本明細書において「ハロゲン」とは、周期表7B族に属するフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などの元素の1価の基をいう。
本明細書において「ヒドロキシ」とは、−OHで表される基をいう。「置換されたヒドロキシ」とは、ヒドロキシのHが下記で定義される置換基で置換されているものをいう。
本明細書において「チオール」とは、ヒドロキシ基の酸素原子を硫黄原子で置換した基(メルカプト基)であり、−SHで表される。「置換されたチオール」とは、メルカプトのHが下記で定義される置換基で置換されている基をいう。
本明細書において「シアノ」とは、−CNで表される基をいう。「ニトロ」とは、−NOで表される基をいう。「アミノ」とは、−NHで表される基をいう。「置換されたアミノ」とは、アミノのHが以下で定義される置換基で置換されたものをいう。
本明細書において「カルボキシ」とは、−COOHで表される基をいう。「置換されたカルボキシ」とは、カルボキシのHが以下に定義される置換基で置換されたものをいう。
本明細書において「チオカルボキシ」とは、カルボキシ基の酸素原子を硫黄原子で置換した基をいい、−C(=S)OH、−C(=O)SHまたは−CSSHで表され得る。「置換されたチオカルボキシ」とは、チオカルボキシのHが以下に定義される置換基で置換されたものをいう。
本明細書中、「アシル」とは、カルボニルに前記「アルキル」が結合したアルキルカルボニル、アルキル部分が前記「シクロアルキル」が結合したシクロアルキルカルボニル、カルボニルに前記「アリール」が結合したアリールカルボニルを意味する。例えば、アセチル、n−プロパノイル、i−プロパノイル、n−ブチロイル、t−ブチロイル、シクロプロパノイル、シクロブタノイル、シクロペンタノイル、シクロヘキサノイル、ベンゾイル、α−ナフトイル、β−ナフトイルを意味する。「置換されたアシル」とは、アシルの水素を以下に定義される置換基で置換したものをいう。
本明細書において「アミド」とは、アンモニアの水素を酸基(アシル基)で置換した基であり、好ましくは、−CONHで表される。「置換されたアミド」とは、アミドが置換されたものをいう。
本明細書において「カルボニル」とは、アルデヒドおよびケトンの特性基である−(C=O)−を含むものを総称したものをいう。「置換されたカルボニル」は、下記において選択される置換基で置換されているカルボニル基を意味する。
本明細書において「チオカルボニル」とは、カルボニルにおける酸素原子を硫黄原子に置換した基であり、特性基−(C=S)−を含む。チオカルボニルには、チオケトンおよびチオアルデヒドが含まれる。「置換されたチオカルボニル」とは、下記において選択される置換基で置換されたチオカルボニルを意味する。
本明細書において「スルホニル」とは、特性基である−SO−を含むものを総称したものをいう。「置換されたスルホニル」とは、下記において選択される置換基で置換されたスルホニルを意味する。
本明細書において「スルフィニル」とは、特性基である−SO−を含むものを総称したものをいう。「置換されたスルフィニル」とは、下記において選択される置換基で置換されているスルフィニルを意味する。
本明細書において「アリール」とは、芳香族炭化水素の環に結合する水素原子が1個離脱して生ずる基をいい、本明細書において、「炭素環基」に包含される。例えば、フェニル、α−ナフチル、β−ナフチル、アンスニル、インデニル、フェナンスリル等が挙げられる。「置換されたアリール」とは、下記において選択される置換基で置換されているアリールを意味する。
本明細書において「ヘテロアリール」とは、ヘテロ原子を含有する芳香族炭化水素の環に結合する水素原子が1個離脱して生ずる基をいい、本明細書において、「ヘテロ環基」に包含される。例えば、フラニル、チオフェニル、ピリジル等が挙げられる。「置換されたヘテロアリール」とは、下記において選択される置換基で置換されているヘテロアリールを意味する。
本明細書中、「アリレン」とは、例えば、フェニレン、ナフチレン等が挙げられる。さらに詳しくは、1,2−フェニレン、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等が挙げられる。
本明細書中、「ヘテロアリレン」とは、例えば、チオフェンジイル、フランジイル、ピリジンジイル等が挙げられる。さらに詳しくは、2,5−チオフェンジイル、2,5−フランジイル等が挙げられる。
本明細書において「ヒドロキシルアミノ」とは、ヒドロキシルアミンNHOHから水素原子を除いてできる1価の基をいう。「置換されたヒドロキシルアミノ」とは、下記において選択される置換基で置換されているヒドロキシルアミノを意味する。
本明細書において「N−アルキルヒドロキシルアミノ」とは、ヒドロキシルアミンの窒素原子に結合する水素原子をアルキル基で置換したヒドロキシルアミノを意味する。
本明細書において「ヒドラジド」とは、−CONHNHで表される基をいう。「置換されたヒドラジド」とは、下記において選択される置換基で置換されているヒドラジドを意味する。
本明細書において「チオセミカルバジド」とは、HNCSNHNHで表される基をいう。「置換されたチオセミカルバジド」とは、下記において選択される置換基で置換されているチオセミカルバジドを意味する。
本明細書において「エステル」とは、特性基である−COO−を含むものを総称したものをいう。「置換されたエステル」とは、下記において選択される置換基で置換されているエステルを意味する。
本明細書において「4級アンモニウム塩」とは、−N(R)(R)(R)で表
される基であり、R、RおよびRは低級アルキル基を意味する。ここでいう「低級アルキル」とは上記で定義したとおりである。通常、「4級アンモニウム塩」は、−N(R)(R)(R)とハロゲン化物イオンとが対をなして塩を形成する。
本明細書において「水酸基」とは、−OHで表される基をいう。「水酸基」は、「ヒドロキシル基」と互換可能である。
本発明において、「アルデヒド」とは、特性基である−CHOを含むものを総称したものをいう。「置換されたアルデヒド」とは、下記において選択される置換基で置換されているアルデヒドを意味し、「アルデヒド誘導体」と互換可能に使用され得る。
本発明において、「カルボン酸」とは、特性基である−COOHを含むものを総称したものをいう。「置換されたカルボン酸」とは、下記において選択される置換基で置換されているカルボン酸を意味し、「アルデヒド誘導体」と互換可能に使用され得る。
本明細書において、C1、C2、、、Cnは、炭素数を表す。従って、C1は炭素数1個の置換基を表すために使用される。
本明細書において、「光学異性体」とは、結晶または分子の構造が鏡像関係にあって、重ねあわせることのできない一対の化合物の一方またはその組をいう。立体異性体の一形態であり、他の性質は同じであるにもかかわらず、旋光性のみが異なる。
本明細書においては、特に言及がない限り、置換は、ある有機化合物または置換基中の1または2以上の水素原子を他の原子または原子団で置き換えることをいう。水素原子を1つ除去して1価の置換基に置換することも可能であり、そして水素原子を2つ除去して2価の置換基に置換することも可能である。
置換基としては、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、アルコキシ、炭素環基、ヘテロ環基、ハロゲン、ヒドロキシ、、チオール、シアノ、ニトロ、アミノ、カルボキシ、カルバモイル、アシル、アシルアミノ、チオカルボキシ、アミド、置換されたカルボニル、置換されたチオカルボニル、置換されたスルホニルまたは置換されたスルフィニルが挙げられるがそれらに限定されない。置換基が置換された場合は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アルコキシアルキル、ハロゲノアルキル、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アシル、アシルオキシ、ヒドロキシ、メルカプト、カルボキシ、チオカルボキシ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、カルバモイル、置換されていてもよいアミノで置換され得る。
本明細書において「保護反応」とは、Boc(t−ブトキシカルボニル基)のような保護基を、保護が所望される官能基に付加する反応をいう。保護基により官能基を保護することによって、より反応性の高い官能基の反応を抑制し、より反応性の低い官能基のみを反応させることができる。
本明細書において「脱保護反応」とは、Bocのような保護基を脱離させる反応をいう。脱保護反応としては、トリフルオロ酢酸(TFA)による反応およびPd/Cを用いる還元反応のような反応が挙げられる。
本明細書において「保護基」としては、例えば、フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基、アセチル基、ベンジル基、ベンゾイル基、t−ブトキシカルボニル基、t−ブチルジメチル基、シリル基、トリメチルシリルエチル基、N−フタルイミジル基、トリ
メチルシリルエチルオキシカルボニル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジルオキシカルボニル基、カルバメート基などが代表的な保護基として挙げられる。保護基は、例えば、アミノ基、カルボキシル基などの反応性の官能基を保護するために用いることができる。反応の条件や目的に応じ、種々の保護基を使い分けることができる。ヒドロキシ基の保護基にはアセチル基、ベンジル基、シリル基またはそれらの誘導体などが、アミノ基の保護基にはアセチル基のほかベンジルオキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基またはそれらの誘導体などを使用することができる。アミノオキシ基およびN−アルキルアミノオキシ基の保護基として、トリメチルシリルエチルオキシカルボニル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジルオキシカルボニル基またはそれらの誘導体が好ましい。
本発明の各方法において、目的とする生成物は、反応液から夾雑物(未反応減量、副生成物、溶媒など)を、当該分野で慣用される方法(例えば、抽出、蒸留、洗浄、濃縮、沈澱、濾過、乾燥など)によって除去した後に、当該分野で慣用される後処理方法(例えば、吸着、溶離、蒸留、沈澱、析出、クロマトグラフィーなど)を組み合わせて処理して単離し得る。
(本明細書において用いられる一般技術)
本明細書において使用される技術は、そうではないと具体的に指示しない限り、当該分野の技術範囲内にある、有機化学、生化学、遺伝子工学、分子生物学、微生物学、遺伝学および関連する分野における周知慣用技術を使用する。そのような技術は、例えば、以下に列挙した文献および本明細書において他の場所おいて引用した文献においても十分に説明されている。
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Maniatis,T.et al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.,et al.eds,Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Inc.,NY,10158(2000);Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics,Academic Press;Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac ,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman & Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(1996).Bioconjugate Techniques,Academic Press;Method in Enzymology 230、242、247、Academic Press、1994;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997;畑中、西村ら、糖質の科学と工学、講談社サイエンティフィク、1997;糖鎖分子の設計と生理機能 日本化学会編、学会出版センター、2001などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
(好ましい実施形態の説明)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
1つの局面において、本発明は、金属が硫黄原子を介して有機残基と結合した金属−有機残基複合体から硫黄原子を含む有機残基誘導体をイオン化させて、硫黄原子を含む有機残基誘導体を質量分析する方法を提供する。この方法によって、金属に結合した自己組織化膜表面上での化学反応を高感度かつ正確に解析することが可能となる。
本発明で用いる金属として、金、銀、カドミウムまたはセレンなどの単体であってもよいし、例えば鉄、ニッケル、コバルトまたは酸化鉄(Fe)などの磁性粒子およびこの粒子の表面に被覆した金、銀、カドミウムまたはセレンなどの層を含む複合微粒子であってもよく、これらに限定されない。上記のような磁性を有する複合微粒子を使用する場合には、これに硫黄原子を含む有機残基誘導体を担持したのち、磁石等を用いて微粒子を簡易に回収し、精製無しで質量分析することができる。本発明で用いる金属の形態は特に制限されず、質量分析用の金属基板であってもよいし、コロイドを形成し得る金属微粒子であってもよいが、レーザーの乱反射が可能である表面形態を有する金属が好ましい。これによって、質量分析の感度が高くなり、夾雑物(バッファーまたは塩など)が存在したとしても、質量分析測定に影響を及ぼす可能性が少なくなる。金表面に結合したチオール化合物のLDI−TOF Massによるイオン化効率の観点において、本発明で用いる金属の最も好ましい形態としては、金属微粒子が挙げられる。チオール基と金属との結合を利用して、金属微粒子表面に糖鎖や種々の官能基を提示することができ、またその金属微粒子の溶解性を、金属微粒子表面に導入するリガンドの性質によって自在に制御することができる。従って、チオール化合物で被覆した金属微粒子は、水系での反応のみならず有機溶媒系での固相合成を行う際に有用な固相担体として利用することができる。微粒子は反応溶媒に溶解しているが、精製の際には固体として遠心濾過によって溶液成分と分離可能であるため、分離精製も非常に容易に行えるという利点がある。さらに反応の経過を質量分析法によって直接追跡することができ、効率的に反応を行える。また、本発明によれば、硫黄原子を介して細胞毒性の無い有機残基と結合した金属微粒子を提供することにより、金属−有機残基複合粒子を生細胞に直接取り込ませることができ、細胞内で生じる様々な化学反応(例えば、酵素反応)を、その反応生成物を質量分析することで正確に解析することができる。金属微粒子の代表例である金微粒子および銀微粒子は、それぞれテトラクロロ金酸およびAgNOを還元剤存在下で還元させることによって作製することができる。好ましい還元剤として、水素化ホウ素ナトリウムまたはクエン酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。これら金属を使用することによって、金属微粒子の表面上に硫黄原子を含む有機残基誘導体の規則正しい自己組織化膜を形成することができる。
好ましい実施形態において、本発明の質量分析は、LDI−TOF MS法によって行われる。本発明では、従来のMALDI−TOF MS法において使用されてきたマトリックス試薬を特に必要としない。従来のMALDI−TOF MS法において、「薬剤候補化合物として多いであろう低分子領域」について、マトリックス自身の強いピークにより、目的物のピークがうまく観察できないことが欠点とされてきたが、本発明のように目的の低分子化合物を金属基板(特に、金属微粒子)に担持することにより、マトリックスフリーなLDI−TOF MSを、高感度かつ正確に行うことができる。なお、本発明において、マトリックス試薬を使用する場合には、その好ましい試薬として、2,5−ジヒドロキシベンゾイックアシッド、α−シアノ−4−ヒドロキシ−ケイ皮酸、シナピン酸、trans−3−インドール−アクリル酸、1,5−ジアミノ−ナフタレン、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸、9−ニトロ−アントラセン、2−ピコリン酸、3−ヒドロキシ−ピコリン酸、ニコチン酸、アントラニル酸、5−クロロ−サリチル酸、2’−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸、ジスラノール、および3−アミノ−キノリンが挙げられるが、これらに限定されない。最も好ましいマトリックス試薬は、2,5−ジヒドロキシベンゾイックアシッドである。
好ましい実施形態において、上記有機残基は、糖鎖または糖鎖含有物質を含む。
別の局面において、本発明は、
一般式(I):
(R−S)−M (I)
(式中、Rは有機残基であり、Sは硫黄原子であり、Mは金属であり、nはMに対する(R−S)基の化学量論比を表し、1以上の整数である)
で表される金属−有機残基複合体から硫黄原子を含む有機残基誘導体をイオン化することを特徴とする、
一般式(II):
R−SH (II)
(式中、RおよびSは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩、および/または
一般式(III):
R−S−S−R (III)
(式中、RおよびSは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩、
を質量分析する方法、を提供する。
さらに別の局面において、本発明は、
一般式(IV):
−S−X−CH(R)−S−M (IV)
(式中、Rは有機残基であり、Sは硫黄原子であり、両端のMは同一実体の金属であり、Xは低級アルキレンまたは低級アルケニレンである)
で表される金属−有機残基複合体から硫黄原子を含む有機残基誘導体をイオン化することを特徴とする、
一般式(V):
HS−X−CH(R)−SH (V)
(式中、R、SおよびXは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩、および/または
一般式(VI):
Figure 0004557973
(式中、R、SおよびXは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩、
を質量分析する方法、を提供する。
なおさらに別の局面において、本発明は、
以下の工程:
1)金属が以下の式(本明細書において、以下の式の群を[X群]とする):
−S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH−O−NH
−S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH−O−NH(CH)、
−S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH(NH)−W−SH、
−S−Y−(OCHCH−NH−C(=S)−CH(NH)−W−SH、
−S−W−O−NH
−S−W−O−NH(CH)、
−S−W−O−W−O−NH
−S−W−O−W−O−NH(CH)、
−S−(CHCHO)−W−O−W−O−NH
−S−(CHCHO)−W−O−W−O−NH(CH)、
−S−W−C(=O)−NH−NH
−S−W−C(=S)−NH−NH
−S−W−NH−C(=O)−CH(NH)−W−SH、
−S−W−NH−C(=S)−CH(NH)−W−SH、
−S−Z−Z−Z−Z−Z−O−NH
−S−Z−Z−Z−Z−Z−O−NH(CH)、
−S−Z−Z−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH、
−S−Z−Z−Z−Z−CH(NH)−Z−SH、
−S−Z−O−Z−CH(NH)−Z−SH、
−S−Z−O−Z−O−NH
−S−Z−O−Z−O−NH(CH)、
−S−Z−O−Z−Z−Z−O−NH
−S−Z−O−Z−Z−Z−O−NH(CH)、
−S−Z−O−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH、
−S−Z−O−Z−Z−CH(NH)−Z−SH、
−S−Z−Z−Z−Z−O−NH
−S−Z−Z−Z−Z−O−NH(CH)、
−S−Z−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH、
−S−Z−Z−Z−CH(NH)−Z−SH、または
Figure 0004557973
(式中、Y、WおよびWは、それぞれ独立して、C1〜C12アルキレン、C2〜C12アルケニレンまたはC2〜C12アルキニレンであり;
は、C1〜C2アルキレンであり;
は、置換されていてもよいアリレンまたは置換されていてもよいヘテロアリレンであり;
は、含窒素複素環であり;
およびZは、それぞれ独立してC1−C12アルキレンであり;
は、−O−C(=O)、−O−C(=S)、−NH−C(=O)、−NH−C(=S)、−O−、または−S−であり;
は、C1−C2アルキレンであり;
nは1〜10の整数である)
で表される基と結合した金属−有機残基複合体と、糖鎖または糖鎖含有物質とが反応しうる条件下で接触させる工程、
2)該糖鎖または該糖鎖含有物質が結合した金属−有機残基複合体を得る工程、および
3)得られた金属−有機残基複合体から硫黄原子を有する有機残基誘導体をイオン化する工程、
を包含する、糖鎖または糖鎖含有物質を質量分析する方法、を提供する。
本発明の上記工程1)において、金属−有機残基複合体と「糖鎖または糖鎖含有物質」とを接触させる前に、上記「糖鎖または糖鎖含有物質」中のアルデヒド基を遊離させる工程を包含することが好ましくあり得る。これは、例えば、糖鎖のアルデヒド基が保護されている場合などにおいて、本発明の糖鎖と特異的に相互作用し得る物質が有利に相互作用することができるようになるからである。そのようなアルデヒド基を遊離させる工程は、好ましくは、酵素処理および/または化学法による供プロトン反応を包含する。酵素処理としては、例えば、グリコシダーゼによる処理(例えば、ガラクトースの場合は、ガラクトオキシダーゼで処理してアルデヒド基を得る)が挙げられ、化学法による処理としては、ヒドラジン分解を挙げることができる。本発明の方法では、酵素処理および化学法をそれぞれ単独で用いてもよく、両方組み合わせて用いてもよい。酵素は、単数の種類であってもよく、複数種類のものであってもよい。また、糖タンパク質糖鎖に含まれるシアル酸からアルデヒドを遊離させる場合(例えば、シアル酸の8位と9位の間を開列させる場合)は、過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)などの酸化剤が用いられる。
1実施形態において、上記有機残基は、糖鎖または糖鎖含有物質を含む基である。
1つの局面において、本発明は、金属が硫黄原子を介して被検体と結合した金属−被検体複合体から該硫黄原子を含む被検体をイオン化することを特徴とする、硫黄原子を含む被検体を質量分析する方法を提供する。
別の局面において、本発明は、以下の工程:
1)還元剤の存在下、テトラクロロ金酸および硫黄原子を有する被検体を反応させる工程、
2)金微粒子に該硫黄原子を介して被検体が結合した金−被検体複合粒子を得る工程、および
3)得られた金−被検体複合粒子から硫黄原子を有する被検体をイオン化する工程、
を包含する、硫黄原子を有する被検体を質量分析する方法、を提供する。
本発明の上記工程1)で用いる還元剤として、水素化ホウ素ナトリウムまたはクエン酸ナトリウムを使用することが好ましいが、これらに限定されない。
好ましい実施形態において、上記工程1)は、水、アルコール系溶媒、酢酸エチル、エーテル系溶媒またはそれらの混合溶媒からなる群から選択される溶媒中で行われる。好ましいアルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールが挙げられる。好ましいエーテル系溶媒賭しては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランが挙げられる。上記工程1)が行われる温度は−20℃から200℃、好ましくは0℃〜150℃、さらに好ましくは20℃〜100℃である。また、化合物が安定なものであれば、室温〜溶媒の還流温度であることが好ましい。上記工程1)は、0.1時間〜24時間、好ましくは1時間〜12時間で行われる。
別の好ましい実施形態において、上記工程2)で得られた硫黄原子を介して被検体が結合した金属−被検体複合粒子は、遠心濾過により精製される。しかし、遠心濾過をせずにそのまま金属−被検体複合粒子を質量分析に供したとしても、感度が低下しないという複合粒子特有の利点を有する。
上記工程1)において、鉄(例えばFeCl)の存在下で反応を行うと、金−被検体複合粒子が磁性を帯びるため、工程2)は磁石を用いて行うことができる。また、酵素反応の基質となる化合物を「検体」部分に有する磁性を帯びた金属−被検体複合粒子を、生細胞と接触させ、反応後に細胞をつぶして磁石で回収し、質量分析することで、細胞内で起こっている様々な酵素反応を解析することができる。
金属が銀である場合は、上記工程1)でテトラクロロ金酸の代わりに硝酸銀(AgNO)を用いることにより行うことができる。
1つの局面において、本発明は、上記工程2)で得られた金属−被検体複合粒子を化学反応または酵素反応に付し、反応系中の金属−被検体複合粒子から硫黄原子を有する被検体をイオン化し、質量分析により化学反応または酵素反応の進行を確認する方法を提供する。
本発明における上記酵素反応の好ましい例として、糖鎖伸長反応が挙げられるが、これに限定されない。
好ましい実施形態において、質量分析を用いて糖鎖伸長反応の進行を確認することによって、糖転移酵素の活性を確認することができる。
1つの局面において、本発明は、a)保護されていてもよいアミノオキシ基、保護されていてもよいN−アルキルアミノオキシ基、ヒドラジド基、アジド基、チオセミカルバジド基およびシステイン残基ならびにそれらの誘導体からなる群から選択される基、およびb)硫黄原子、を含む基と結合した金属−有機残基複合体を提供する。
別の局面において、本発明は、還元剤の存在下、テトラクロロ金酸、ならびに
a)保護されていてもよいアミノオキシ基、保護されていてもよいN−アルキルアミノオキシ基、ヒドラジド基、アジド基、チオセミカルバジド基およびシステイン残基ならびにそれらの誘導体からなる群から選択される基、および
b)チオール基またはジスルフィド基、
を含む化合物もしくはその塩を反応させることによる、金−有機残基複合粒子の製造方法を提供する。
これらによって、金属微粒子の表面上に糖鎖または糖鎖含有物質と相互作用する官能基を提示することができる。
1つの局面において、本発明は、
金属が、上記[X群]の式で表される基と結合した金属−有機残基複合体、を提供する。この金属−有機残基複合体は、以下の式(本明細書において、以下の式の群を[Y群]とする):
−(S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH−O−NH、M−(S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH−O−NH(CH))
−(S−Y−(OCHCH−NH−C(=O)−CH(NH)−W−SH)
−(S−Y−(OCHCH−NH−C(=S)−CH(NH)−W−SH)
−(S−W−O−NH
−(S−W−O−NH(CH))
−(S−W−O−W−O−NH
−(S−W−O−W−O−NH(CH))
−(S−(CHCHO)−W−O−W−O−NH
−(S−(CHCHO)−W−O−W−O−NH(CH))
−(S−W−C(=O)−NH−NH
−(S−W−C(=S)−NH−NH
−(S−W−NH−C(=O)−CH(NH)−W−SH)
−(S−W−NH−C(=S)−CH(NH)−W−SH)
−(S−Z−Z−Z−Z−Z−O−NH
−(S−Z−Z−Z−Z−Z−O−NH(CH))
−(S−Z−Z−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH)
−(S−Z−Z−Z−Z−CH(NH)−Z−SH)
−(S−Z−O−Z−CH(NH)−Z−SH)
−(S−Z−O−Z−O−NH
−(S−Z−O−Z−O−NH(CH))
−(S−Z−O−Z−Z−Z−O−NH
−(S−Z−O−Z−Z−Z−O−NH(CH))
−(S−Z−O−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH)
−(S−Z−O−Z−Z−CH(NH)−Z−SH)
−(S−Z−Z−Z−Z−O−NH
−(S−Z−Z−Z−Z−O−NH(CH))
−(S−Z−Z−Z−CH(NH)−O−Z−SH)
−(S−Z−Z−Z−CH(NH)−Z−SH)、または
一般式(VII):
Figure 0004557973
(式中、Mは金属であり;
mは、Mに対する硫黄原子を含む有機残基の化学量論比を表し、1以上の整数であり;Y、WおよびWは、それぞれ独立して、C1〜C12アルキレン、C2〜C12アルケニレンまたはC2〜C12アルキニレンであり;
は、C1〜C2アルキレンであり;
は、置換されていてもよいアリレンまたは置換されていてもよいヘテロアリレンであり;
は、含窒素複素環であり;
およびZは、それぞれ独立してC1−C12アルキレンであり;
は、−O−C(=O)、−O−C(=S)、−NH−C(=O)、−NH−C(=S)、−O−、または−S−であり;
は、C1−C2アルキレンであり;
nは1〜10の整数である)とも表すことができる。
本発明の好ましい金属−有機残基複合体として、一般式(VII):
Figure 0004557973
(式中、Mは金属である)で表される複合体が挙げられる。この複合体は、以下の式:
Figure 0004557973
で表され、4−アミノ−3−ヒドラジノ−5−メルカプト1,2,4−トリアゾール(略称:AHMT)のSH基が金属と反応し結合してできた複合体である。このAHMTは、ホルムアルデヒドまたはアルデヒドと特異的に反応する呈色試薬として知られている(例えば、特許文献2、3、4および非特許文献2参照)。
別の局面において、還元剤の存在下、テトラクロロ金酸および以下の式(本明細書において、以下の式の群を[Z群]とする):
Figure 0004557973
または
Figure 0004557973
(式中、Y、WおよびWは、それぞれ独立して、C1〜C12アルキレン、C2〜C12アルケニレンまたはC2〜C12アルキニレンであり;
は、C1〜C2アルキレンであり;
は、置換されていてもよいアリレンまたは置換されていてもよいヘテロアリレンであ
り;
は、含窒素複素環であり;
およびZは、それぞれ独立してC1−C12アルキレンであり;
は、−O−C(=O)、−O−C(=S)、−NH−C(=O)、−NH−C(=S)、−O−、または−S−であり;
は、C1−C2アルキレンであり;
nは1〜10の整数である)
で表される化合物もしくはその塩を反応させることによる、金−有機残基複合粒子の製造方法、が提供される。
別の局面によれば、前述の金属−有機残基複合体と、糖鎖または糖鎖含有物質とが反応しうる条件下で接触させることを特徴とする、糖鎖または糖鎖含有物質の捕捉方法、が提供される。
さらに別の局面によれば、以下の工程:
1)金属が硫黄原子を介して有機残基と結合した金属−有機残基複合体と、該有機残基と相互反応しうる物質とを、接触させる工程、
2)該相互作用しうる物質が結合した金属−有機残基複合体を得る工程、および
3)得られた金属−有機残基複合体から硫黄原子を有する有機残基誘導体をイオン化する工程、
を包含する、金属−有機残基複合体の有機残基と相互作用しうる物質の分子量を測定する方法、が提供される。
1つの局面において、本発明の糖鎖または糖鎖含有物質を質量分析する方法は、以下の工程:
1)式:
Figure 0004557973
で表される化合物と金属とを接触させる工程、
2)1)で得られた金属−有機残基複合体を、糖鎖または糖鎖含有物質とが反応しうる条件下で接触させる工程、および
3)2)で得られた金属−有機残基複合体から硫黄原子を有する有機残基誘導体をイオン化する工程、
を包含する方法であってもよいし、以下の工程:
1)式:
Figure 0004557973
で表される化合物と糖鎖または糖鎖含有物質とを、該化合物と該糖鎖または糖鎖含有物質とが反応しうる条件下で接触させる工程、
2)1)で得られた化合物と金属とを接触させる工程、および
3)2)で得られた金属−有機残基複合体から硫黄原子を有する有機残基誘導体をイオン化する工程、
を包含する方法であってもよい。
1つの局面において、本発明は、
一般式(II):
R−SH (II)
(式中、Rは有機残基であり、Sは硫黄原子である)で表される化合物もしくはその塩;
一般式(III):
R−S−S−R (III)
(式中、RおよびSは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩;
一般式(V):
HS−X−CH(R)−SH (V)
(式中、RおよびSは前記と同意義であり、Xは低級アルキレンまたは低級アルケニレンである)で表される化合物もしくはその塩;
一般式(VI):
Figure 0004557973
(式中、R、SおよびXは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩;またはそれらの混合物を含有する糖鎖捕捉用組成物を提供する。
好ましい実施形態において、本発明の糖鎖捕捉用組成物は、上記[Z群]の式で表される化合物を含有する。
1つの局面において、本発明は、
一般式(I):
(R−S)−M (I)
(式中、Rは有機残基であり、Sは硫黄原子であり、Mは金属であり、nはMに対する(R−S)基の化学量論比を表し、1以上の整数である)で表される金属−有機残基複合体;または
一般式(IV):
−S−X−CH(R)−S−M (IV)
(式中、RおよびSは前記と同意義であり、両端のMは同一実体の金属であり、Xは低級アルキレンまたは低級アルケニレンである)で表される金属−有機残基複合体、
を含有する、糖鎖捕捉用組成物を提供する。
好ましい実施形態において、本発明の糖鎖捕捉用組成物は、上記[Y群]の式で表される金属−有機残基複合体を含有する。
1つの局面において、本発明は、
以下のA)およびB):
A)一般式(II):
R−SH (II)
(式中、Rは有機残基であり、Sは硫黄原子である)で表される化合物もしくはその塩;
一般式(III):
R−S−S−R (III)
(式中、RおよびSは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩;
一般式(V):
HS−X−CH(R)−SH (V)
(式中、RおよびSは前記と同意義であり、Xは低級アルキレンまたは低級アルケニレンである)で表される化合物もしくはその塩;
一般式(VI):
Figure 0004557973
(式中、R、SおよびXは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩;またはそれらの混合物;および
B)金属、
を含む、糖鎖または糖鎖含有物質の質量分析用キット、を提供する。
好ましい実施形態において、本発明の糖鎖または糖鎖含有物質の質量分析用キットは、
以下のA)およびB):
A)上記[Z群]の式で表される、硫黄原子を含む有機残基誘導体;および
B)金属、
を含む。
さらに好ましい実施形態において、上記金属はテトラクロロ金酸であり、本発明の質量分析用キットは、C)還元剤、をさらに含む。
別の局面において、本発明は、
一般式(I):
(R−S)−M (I)
(式中、Rは有機残基であり、Sは硫黄原子であり、Mは金属であり、nはMに対する(R−S)基の化学量論比を表し、1以上の整数である)で表される金属−有機残基複合体;または
一般式(IV):
−S−X−CH(R)−S−M (IV)
(式中、RおよびSは前記と同意義であり、両端のMは同一実体の金属であり、Xは低級アルキレンまたは低級アルケニレンである)で表される金属−有機残基複合体、を含有する、糖鎖または糖鎖含有物質の質量分析用キット、を提供する。
好ましい実施形態において、本発明の糖鎖または糖鎖含有物質の質量分析用キットは、上記[Y群]の式で表される金属−有機残基複合体を含む。
さらに好ましい実施形態において、上記金属は金属微粒子である。
なおさらに好ましい実施形態において、上記金属は金微粒子である。
好ましい実施形態において、「有機残基」と「有機残基と相互反応しうる物質」との好ましい組み合わせとして、糖鎖捕捉官能基/糖鎖、糖鎖/タンパク質、抗原/抗体などが挙げられる。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
(実施例1:水溶性金微粒子作製および微粒子表面に担持したチオール化合物のMALDI TOF Massによる直接検出)
Figure 0004557973
(1)
テトラクロロ金酸25mgをフラスコ中で1mLの超純水に溶解した。リガンド(1)55mgを20mLのメタノールに溶解し、テトラクロロ金酸水溶液に加えた。溶液を激しく撹拌しながら、水素化ホウ素ナトリウム56mgを超純水5mLに溶かした溶液を少量ずつ加えた。室温で2時間撹拌を続けた後に、反応溶液をContriplus YM50(ミリポア社)を用いて遠心濾過し(20℃、3,500rpm)、リガンド1を表面に導入した金微粒子を得た。微粒子は水、アセトン、メタノールに可溶であった。遠心濾過操作で得られた微粒子(図1のa))およびろ液(図1のb))のMALDI−TOF Massを測定した。マトリックスとして2,5−ジヒドロキシベンゾイック酸(DHB)を用いた。図1より、金微粒子から切断、イオン化したリガンド(1)に基づくピークを確認した。
(実施例2:金微粒子を固相担体として用いた化学反応の質量分析法による追跡)
Figure 0004557973
(2)
ジスルフィドを有する化合物(2)のメタノール溶液をテトラクロロ金酸水溶液に加えて、水素化ホウ素ナトリウム水溶液を少量ずつ滴下した。室温で3時間撹拌した後にCentriplus YM−50を用いて遠心濾過をし、化合物2を導入した金微粒子を得た。微粒子をメタノールに溶解し、トリフルオロ酢酸を25%の濃度に成るように加え、室温で2時間撹拌した後、反応系の一部をマイクロコンを用いて遠心濾過し、マトリックスとしてDHBを用いてMALDI−TOF Massによる質量分析測定によって反応の進行を確認した(図2)。図2より、保護基が脱離して得られた生成物に基づくピーク
を確認した。
(実施例3:糖鎖−金微粒子の作製およびMALDI−TOF Massによるリガンド分子量直接測定)
Figure 0004557973
(3)
アグリコン末端にチオール基を有するマルトトリオース誘導体(3)(12.5mg,21.6μmol)をメタノール20mLに溶解し、テトラクロロ金酸15μLを加えた。この溶液に水素化ホウ素ナトリウム水溶液(30mg/2mL,0.79mmol)を少量ずつ加え、室温で3時間撹拌した。Centriplus YM−50を用いた遠心濾過により微粒子を精製した。微粒子を超純粋に溶解し、マトリックスとして2,5−ジヒドロキシベンゾイック酸(DHB)を用いてMALDI−TOF Massによる質量分析を行った(図3)。図3より、ジスルフィド体3に基づくピークの出現から、糖鎖リガンドで修飾した金微粒子の場合にもMALDI−TOF Massによって容易にリガンドの質量が検出できることが示された。
(実施例4:糖鎖密度を制御した糖鎖(GlcNAc)−金微粒子の作製)
Figure 0004557973
(4)
N−アセチルグルコサミンを末端に有する化合物4(10mg,7.6μmol)および化合物(1)(52mg,69μmol)をメタノール(35mL)−純水(5mL)混合溶媒に溶解し、テトラクロロ金酸(25.5mg,75μmol)を加えた。この溶液に水素化ホウ素ナトリウム水溶液(70mg/5mL)を少量ずつ加え、室温で12時間撹拌した。Centriplus YM−50を用いた遠心濾過により微粒子を精製した。微粒子を純水に溶解し、マトリックスとして2,5−ジヒドロキシベンゾイック酸(DHB)を用いてMALDI−TOF Massによる質量分析を行った(図4)。図4より、化合物(1)、化合物(4)のホモジスルフィド体および化合物(1)と(4)のヘテロジスルフィド体に対応する分子量ピークが観察された。ここで、遠心分離により精製した微粒子の電子顕微鏡(TEM)写真を図5に示す。
(実施例5:糖鎖(GlcNAc)−金微粒子上でのガラクトース転移酵素(GalT
)による糖鎖伸長反応)
Figure 0004557973
(5)
実施例4に従って作製した糖鎖−金微粒子(GlcNAc−Au:50μM)、UDP−Gal(400μM)のMHEPESバッファー溶液(10mMMnCl、0.15MNaCl)100μL]を調製した。β1−4ガラクトース転移酵素(GalT)を4mU加え、25℃でMALDI−TOF Massを用いて糖鎖伸長反応を追跡した。反応溶液の遠心濾過を行なわず、マトリックスとして2,5−ジヒドロキシベンゾイック酸(DHB)を用いてMALDI−TOF Massによる質量分析を行った(図6)。図6より、化合物(4)(出発物質)に対応するピークは消失し、新たに酵素反応によってガラクトースが付加した化合物5(生成物)と化合物(1)のヘテロジスルフィド体に対応する分子量ピーク([M+Na]+1220.662)が観察され、糖鎖−金微粒子上での酵素反応を追跡できることが示された。図6のスペクトルから得た糖鎖伸長反応における時間−反応度プロットを図7に示す。このプロットより、MALDI−TOF Massを用いた質量分析により、GlcNAc−Au上でのGalT反応がうまく捕らえられることが明らかとなった。
(実施例6:糖鎖(GlcNAc)−金微粒子上でのGalT反応のUDPによる阻害活性測定)
実施例4に従って作製した糖鎖−金微粒子(GlcNAc−Au:50μM)、UDP−Gal(400μM)のMHEPESバッファー溶液(10mMMnCl、0.15MNaCl)100μL]を調製した。これにβ1−4ガラクトース転移酵素(GalT)4mUおよびUDP(0〜500μMの9通りの濃度)を加え、反応温度25℃で60分間反応させた。UDP濃度(μM)と阻害活性(%)との関係を図8に示す。このプロットから、UDPのIC50は、300μMであることが明らかとなった。
(実施例7:糖鎖捕捉能をもつ金微粒子の作製)
Figure 0004557973
(6)
糖鎖捕捉官能基としてBoc保護されたオキシアミノ基を末端に持つチオール化合物(6)(22mg,17μmol)と化合物1(54mg,71μmol)をメタノール20mLに溶解し、テトラクロロ金酸(34mg,100μmol)を加えた。この溶液に水素化ホウ素ナトリウム水溶液(31mg/3mL)を少量ずつ加え、室温で12時間撹拌した。反応溶液をCentriplus YM−50を用いて遠心濾過し、微粒子を精製した(100000>分子量>50000)。微粒子を純水に溶解し、マトリックスとして2,5−ジヒドロキシベンゾイック酸(DHB)を用いてMALDI−TOF Massによる質量分析を行った(図9)。図6より、化合物(6)のジスルフィド体、Boc基が脱保護された化合物(7)と化合物(6)のヘテロジスルフィド体、化合物(6)と化合物(1)のヘテロジスルフィド体、化合物(7)と化合物(1)のジスルフィド体
に対応するピークが観察された。
(実施例8:金微粒子上でのBoc基の脱保護反応)
Figure 0004557973
(7)
実施例7で作製した微粒子(10mg)をメタノール2mLに溶解し、トリフルオロ酢酸1mLを加え、室温で18時間撹拌した。反応溶液をCentriplus YM−50を用いて遠心濾過し、微粒子を精製した。微粒子を純水に溶解し、MALDI−TOF
Massによる質量分析を行った(図10)。図10より、化合物(6)由来のピークは消失し、Boc基が脱保護された化合物(7)と化合物(1)とのジスルフィド体が観察された。金微粒子上でのアミノ基の脱保護反応が確認された。
(実施例9:糖鎖捕捉金微粒子を用いた水溶液中での糖鎖捕捉反応)
実施例8に従って作製した糖鎖捕捉金微粒子をエッペンドルフチューブに170μgずつ分け入れ100μLの純水に溶解した。マンノース、グルコース、N−アセチルグルコサミン、マンノペンタオースをそれぞれ1mgずつ量りとり、パーティクル溶液に加えて溶かした。37℃で6日間インキュベートした。反応後の溶液をCentriplus YM−50を用いて遠心濾過し、微粒子を精製した。微粒子を純水に溶解し、MALDI−TOF Massによる質量分析を行った(マンノース(図11)、グルコース(図12)、N−アセチルグルコサミン(図13)、マンノペンタオース(図14))。図11〜図14において、各糖鎖がオキシアミンと共有結合を形成したものに対応するピークが化合物1とのジスルフィド体としてそれぞれ観察された。金微粒子に提示したオキシアミノ基による糖鎖捕捉反応が示された。
(実施例10:D−グルコースを用いたAHTMの吸光度測定)
D−グルコース 10mg(0.056mol)を水10mLに溶かし、96穴プレートに1μLから10μLまで1μL刻みでD−グルコース溶液を入れ、次いで、10個のウェルにそれぞれ10mM NaIOを50μLずつ加えた。10分間室温で静置した後、それぞれのウェルに41mM AHMT(4−アミノ−3−ヒドラジノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール)(0.5M HCl)50μLを加えてから、2M KOH 100μLを加えた。室温で2時間静置すると呈色を起こしたので、A492を測定し、各D−グルコース濃度に対してOD(光学密度)492nmをプロットした。その結果、このプロットがほぼ直線関係を示したことから、AHMTとD−グルコースのアルデヒド基との反応が一次反応で進行することが明らかとなった。
(実施例11:Fetuinを用いたAHTMの着色試験結果を示す。)
AHTMの着色試験用サンプルとして、ウシ血清中に含まれるシアロ糖タンパク質を用いた。次の4種類のサンプルを調製し、AHTMの着色を観察した。
1.10mg/ml Fetuin 200μlと10mM NaIO 50μlとを合わせ、10分間、氷上で静置した。次いで、50mM AHMT 200 μlを加え、室温で30分間静置した。
2.10mg/ml Fetuin 200μlを10分間、氷上で静置した。次いで、50mM AHMT 200μlを加え、室温で30分間静置した。
3.10mg/ml Fetuin 200μlと10mM NaIO 50μlとを合わせ、10分間、氷上で静置した。次いで、室温で30分間静置した。
4.10mg/ml Fetuin 200μlを10分間、氷上で静置した。次いで、室温で30分間静置した。
以上の結果、1.のサンプルが最も濃く着色したことから、NaIOがFetuinの糖と反応し、その結果AHMTとも良好に反応したことが明らかとなった。
(実施例12:金基板を用いたAHTMのタンパク質の捕捉実験)
MALDI−TOF MS用の円形プレート4枚を1500秒間金蒸着した。これらのプレートを以下の4通りの方法で処理した。
(I)50mM AHMT(0.2M NaOH)でプレート表面を満遍なく満たした。1時間室温で静置後、水でプレート表面の余分なAHMTを除去した。トリプシン消化済みの10mg/ml Fetuin 200μlと10mM NaIO 50μlを混合し、プレート上に乗せた。10分間静置後、0.2M NaOH 50μlを同様にプレート上に乗せ、氷上で1時間静置した(図17)。
(II)50mMAHMT(0.2M NaOH)でプレート表面を満遍なく満たした。1時間室温で静置後、水でプレート表面の余分なAHMTを除去した。酵素消化未処理の10mg/ml Fetuin 200μlと10mM NaIO 50μlを混合し、プレート上に乗せた。10分間静置後、0.2M NaOH 50μlを同様にプレート上に乗せ、氷上で1時間静置した(図17)。
(III)エッペンチューブにトリプシン消化済みの10mg/ml Fetuin200μlと10mM NaIO 50μlを混合し、氷上で10分間静置した。50mM AHMT(0.2M NaOH)200μlを加え、ピンク色に呈色を起こしてからプレートにスポットし、氷上で1時間静置した(図18)。
(IV)エッペンチューブに酵素未処理の10mg/ml Fetuin 200μlと10mM NaIO 50μlを混合し、氷上で10分間静置した。50mM AHMT(0.2M NaOH)200μlを加え、ピンク色に呈色を起こしてからプレートにスポットし、氷上で1時間静置した(図18)。
これら4通りの方法で処理されたプレートを用いてMALDI−TOF MSを行った。その結果を図19に示す。図19は、トリプシンで消化したFetuinは、手順1と手順2のいずれの工程を経ても、金基板表面上のAHTMにより、遊離アルデヒドを有する糖ペプチドが捕捉され、酵素未処理の場合は、手順1および手順2のいずれの場合もうまく捕捉できなかったことを示す。
(実施例13:ガラクトース転位酵素(GalT)を発現した大腸菌の破砕液による糖鎖−金微粒子(GlcNAc−Au)上での糖鎖伸長反応およびMALDI−TOF Massによる酵素反応追跡)
Neisseria meningtids MC50株のLgtB遺伝子産物であるβ1−4ガラクトース転位酵素(GalT)を大腸菌で発現し、菌体を破砕して0.2%TrionX−100を含むバッファーに懸濁した。菌体破砕液中の全タンパク質濃度は8.5mg/mLであった。実施例4に従って作製した糖鎖−金微粒子(GlcNAc−Au)のHEPESバッファー(10mM HEPES,10mM MnCl,150mM NaCl)溶液(GlcNAc濃度;500μM)を120μL,UDP−Gal(500μM)20μL,および上記菌体破砕液40μLを混合し、25度で32時間インキュベートした。反応溶液のうち10μLをCentriconYM50を用いて遠心ろ過し、微粒子を超純水で洗浄した。糖鎖微粒子のMALDI−TOF Mass測定を行ったところ、酵素反応の生成物(化合物5)に対応する分子量のピークが検出された(図18)。これにより本方法が発現した酵素の活性測定法として非常に簡便、高速であり、優れた手法であることが示された。
(実施例14:金微粒子表面に導入したチオール化合物のLDI−TOF Massによる直接検出)
実施例4に従って作製した糖鎖−金微粒子(GlcNAc−Au)をMALDI−TOF Mass用ターゲットにアプライし、マトリックスを用いずに、直接LDI−TOF
Mass測定を行ったところ、化合物(1)、化合物(4)のホモジスルフィド体、および化合物(1)と(4)のヘテロジスルフィド体に対応する分子量のピークが観察された(図19a)。一方、同量の糖鎖−微粒子(GlcNAc−Au)をヨウ素と混合し、チオールリガンドを金微粒子表面から遊離させ、反応溶液のTOF−Mass測定を行った場合には、反応溶液中にチオール化合物(1)および(4)を含むにもかかわらず、チオール化合物のイオン化は観察されなかった(図19b)。このとき、2,5ジヒドロキシベンゾイック酸(DHB)に代表されるような低分子マトリックスは使用していない。したがってこれにより、金微粒子表面に導入したチオール化合物は、低分子マトリックス化合物を使用せずに直接レーザー照射によってイオン化し、TOF Massによって検出できることが示された(LDI−TOF Mass)。
(実施例15:糖鎖(Gal−GlcNAc)−金微粒子上でのフコース転移酵素(FucT)による糖鎖伸長反応)
実施例5に従って得られた糖鎖(Gal−GlcNAc)−金微粒子を10mM HEPESバッファー(10mM MnCl,150mM NaCl)に溶解し、α1,3−FucT VIを5mU,GDPフコースを500μMになるように加え、反応温度25度でインキュベートした。反応開始後5,10,20,30,40,50,60分後に反応系から1μLずつ取り出し、MALDI−TOF Mass測定を行った(図20、21)。またLDI−TOF Mass測定によっても、生成物に対応するピークを観察した。
(実施例16:糖鎖−金微粒子のLDI−TOF/TOF測定による糖鎖構造解析)
Figure 0004557973
(8)
実施例15に従って作製した糖鎖(Galβ1,4(Fucα1,3)GlcNAc;Lex)金微粒子のLDI−TOF Mass測定を行った。さらに得られたピーク([M(化合物8)+Na]1368.75)を親イオンとしてLDI−TOF/TOF解析を行ったところ、フラグメントイオンのパターンから、Lexの糖鎖構造が同定された(図22)。これにより、硫黄原子を介して金属に結合した有機残基は、LDI−TOF、LDI−TOF/TOF Massによって質量分析および構造解析が可能であることが示された。
(実施例17:金微粒子および金基板表面に担持したチオール化合物のLDI−TOF Massのイオン化効率の比較)
実施例1に従って作製した金微粒子を、チオール化合物濃度が100μMになるようにバッファーに溶解した。この溶液0.2μLを、MALDI−TOF Mass用プレートに直径2mmの円形状にアプライした。一方、化合物1を、チオール濃度500μMになるようにメタノールに溶解し、0.1μLをMALDI−TOF Mass用金プレートに直径2mmの円形状にアプライして、金基板上での自己組織化膜を形成した。金プレートは使用直前に金蒸着を行った。上記2サンプルについて、LDI−TOF Mass測定を行った。レーザー強度を一定にして、ターゲットプレート上の同一箇所に1ショットずつレーザーを照射した。繰り返して計10回同様の操作を行い、それぞれ得られたピーク強度を記録した(図23)。その結果、金基板ではレーザー照射回数が増えると共にイオン化強度が徐々に低下し、照射4回程度でピークが完全に観察されなくなった。一方、金微粒子表面からのイオン化は、レーザー照射10回目でも十分量観察された。さらに30回、50回とレーザー照射を繰り返しても、化合物1に基づくピークが観察され続けた。このように、金表面に結合したチオール化合物のLDI−TOF Massによるイオン化効率は金担体の形状に依存し、金微粒子表面からのイオン化は板状の金基板と比較して優位であることが示された。
(実施例18:チオール化合物を担持した磁性金微粒子の作製および(MA)LDI−TOF Massによる直接観察)
Figure 0004557973
(9)
市販の酸化鉄(Fe)粒子(直径0.2μm程度)10mgを40mLのメタノールに懸濁した。テトラクロロ金酸17%塩酸溶液50μL、リガンド(9)10mgを加えた。この溶液に水素化ホウ素ナトリウム20mgを超純水2mLに溶かした水溶液を少量ずつ加えた。室温で一時間振盪した後、磁石を用いて微粒子を回収し、リガンド9を表面に導入した磁性金微粒子を得た。メタノールで洗浄した後、マトリックスとして2,5ジヒドロキシベンゾイック酸(DHB)を用いてMALDI−TOF Mass測定を行ったところ、イオン化したリガンド9に基づくピークを確認した。さらに、マトリックスを使用せずに、微粒子を直接MALDI−TOF Mass用ターゲットプレートにアプライしてレーザー照射をしたところ、イオン化したリガンド9に基づくピークを確認した(図24)。これにより磁性金微粒子表面に結合したチオール化合物に直接レーザー照射することで、DHB等のマトリックスを使用せずにLDI−TOF Massによって微粒子上のチオール化合物のイオン化が可能であることを示した。
(実施例19:糖鎖密度を制御した糖鎖‐磁性金微粒子の作製)
Figure 0004557973
(10)
Figure 0004557973
(11)
実施例18と同様の方法にて、N−アセチルグルコサミンを末端に有する化合物10の水溶液(10nmol/μL)1mL、化合物11(58mg、79μmol)をメタノール40mLに溶解し、酸化鉄微粒子6mgを加えて懸濁させた。この溶液にテトラクロロ金酸17%塩酸溶液100μLを加え、水素化ホウ素ナトリウム30mgを超純水4mLに溶かした水溶液を少量ずつ滴下した。室温で一時間振盪した後、磁石を用いて微粒子を回収し、リガンド10,11を表面に導入した磁性金微粒子を得た。微粒子メタノールで洗浄し、LDI−TOF Mass測定行ったところ(図25)、化合物(10)、化合物(11)のホモジスルフィド体、および化合物(10)と(11)のヘテロジスルフィド体に対応する分子量ピークが検出された。一方、DHBをマトリックスとして用いてMALDI−TOF Mass測定を行った場合にも、LDI−TOF Massで得られたピークと同一の分子量ピークが得られた。
(実施例20:磁性金微粒子表面に提示した糖鎖(GlcNAc)上でのガラクトース転位酵素(GalT)による糖鎖伸長反応)
Figure 0004557973
(12)
実施例19に従って作製した糖鎖−磁性金微粒子を400μLの超純水に懸濁した溶液5μL、10mMHEPESバッファー(10mM MnCl、150mM NaClを含む)に溶解したUDP−Gal(濃度1mM)20μLを、1.5mLサイズのエッペンドルフチューブ内で混合した。β1−4ガラクトース転位酵素(GalT)4mUを加え、37度で酵素反応を行った。反応開始から5時間後、反応溶液の一部(5μ)を取り出し、超純水で洗浄した。磁石によって回収した微粒子のMALDI−TOF Mass測定を行ったところ(図26)出発物質に対応するピーク(化合物10と11のジスルフィド対)は消失し、新たに酵素反応によってガラクトースが付加した化合物(12)と(11)のヘテロジスルフィド体に対応する分子量([M+Na]=1127.251)が検出された。これによって糖鎖を表面に提示した磁性金微粒子表面での酵素反応が簡便に追跡できることが示された。
(実施例21:CdS微粒子表面へのチオール化合物の導入および(MA)LDI−TOF Massによる直接検出)
CdCl・2.5HO(9.6mg、42μmol)を超純水10mLに溶解し、化合物9(10mg)のメタノール溶液(液量2mL)を加えて撹拌した。この溶液にNaS・9HO(10mg、42μmol)を2mL超純粋に溶解したものを少量ずつ加え、室温で2時間撹拌を続けた。黄色の沈殿が生じたので遠心分離(350rpm、5
分)によって沈殿を除去し、上清をCentriplusYM−50を用いて遠心ろ過し、フィルター上に得られた微粒子をメタノールおよび超純粋で洗浄した。微粒子のLDI−TOF Mass測定を行ったところ、化合物9のホモジスルフィド体に対応する分子量([M+Na]958.306、[M+K]974.293)のピークが観察された(図27)。一方、DHBをマトリックスとして用いてMALDI−TOF Mass測定を行った場合にも、LDI−TOF Massで得られたピークと同一の分子量ピークが得られた。これにより、CdS微粒子表面に導入したチオール化合物が(MA)LDI−TOF Massによって検出できることが示された。
(実施例22:水酸基を有するチオール化合物を担持した金微粒子表面でのグリコシル化反応)
Figure 0004557973
(13)
Figure 0004557973
(14)
実施例1と同様の方法にて、化合物13を表面に導入した金微粒子を作製した。この金微粒子1.5mgを乾燥ジクロロメタン1mLに溶解し、2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−D−ガラクトース トリクロロアセトイミデート(14)5mgを加えた。反応系を0℃に冷やし、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホン酸10μLを加えて6時間撹拌した。CentriconYM−50を用いて反応系を遠心ろ過した後に、微粒子をメタノールに溶解し、ナトリウムメトキシドを4mg加えて室温で20時間撹拌した。微粒子はメタノールに不溶化していたため、遠心(3000rpm、1分)によって沈殿させて上清を除去した。微粒子を超純水に溶解し、(MA)LDI−TOF Mass測定を行ったところ、ガラクトース残基が導入されたグリコシル化反応生成物の分子量に対応するピークが観察された(図28)。このことから、チオール化合物で被覆した金微粒子は有機溶媒中での固相合成担体として使用可能であり、かつ固相合成の反応過程が(MA)LDI−TOF Massによって非常に簡便に追跡できることが示された。
(実施例23:糖鎖−磁性金微粒子を用いた糖鎖特異的タンパク質の釣り上げ)
GlcNAc結合タンパク質であるコムギ胚芽レクチン(WGA)を27μM,ガラクトース結合タンパク質であるピーナッツレクチンを20μMになるようにリン酸バッファー(pH,7.4)100μLに溶解し、実施例19に従って作製した糖鎖(GlcNAc)−磁性金微粒子を超純水に懸濁したものを2μL加えた。室温で30分インキュベート後、磁石によって微粒子を回収し、100μLの超純水で計3回洗浄した。洗浄後、磁性微粒子を磁石で回収したものを100μLの超純水に懸濁し、0.5μLをDHB(10mg/mL)0.5μLと混合し、MALDI−TOF Mass測定を行ったところ(図29)WGAに対応するピークのみが観察された。糖鎖−磁性金微粒子を用いることで、タンパク質の混合物の中から磁性金微粒子に担持した糖鎖と特異的に相互作用するタンパク質を釣り上げ、釣り上げたタンパク質を質量分析によって同定できることが示され
た。
(実施例24:金微粒子に結合したタンパク質(α−アミラーゼ)を用いた質量分析計による阻害剤の検出)
リン酸バッファー(100mM, pH7.4)400μLに、α−アミラーゼ(SIGMA A6255)5.8×10−8モル、2−Iminothiolane hydrochloride 5.8×10−8モル(1等量)を加え、エッペンドルフチューブに入れて攪拌し、37℃で30分インキュベートした。30分後、金微粒子(SIGMA G1652)を200μL加えて攪拌後、室温で12時間静置した。続いて反応液を限外ろ過(Microcon YM−50、Millipore)し、限外ろ過膜上に得られたα−アミラーゼ−金微粒子複合体を超純水100μLで洗浄−遠心濃縮した。この操作を3回繰り返した。α−アミラーゼ−金微粒子複合体を超純水100μLに溶解し、アカルボース(5.8×10−7モル,10等量)を加え、4℃で12時間静置した。その後得られた反応液を“限外ろ過処理前反応液(1)”とした。また反応液の一部は限外ろ過を行い、α−アミラーゼと結合力の弱い低分子化合物を取り除いたものを“限外ろ過処理後反応液(2)”として、(1)、(2)について反応液0.5μLとマトリックス溶液(DHB,10mg/mL)0.5μLを混合し、MALDI−TOF Mass測定を行った(図30、31)。限外ろ過処理後(2)では、処理前(1)では微量のため検出できなかったアカルボースのトランスグリコシル化により生成する、α−アミラーゼに対してより結合力の強い6糖、7糖、8糖の生成物を選択的に検出できることが分かった。
(実施例25:磁性金微粒子の作成)
市販の鉄粒子(粒径2〜3μm)1.5mgを100μlの水に懸濁した。水100μl、リガンド(1)1mgおよび10mg/mlのテトラクロロ金カリウム溶液100μlを加えた。この溶液を撹拌しながら35wt%Hydrazine 20μlを少量ずつ加えた。3時間室温で静置した後、磁石を用いて微粒子を回収し、メタノールおよび水で洗浄した。これにメタノール100μl、リガンド(1)1mgおよびテトラクロロ金カリウム溶液100μlを加え、撹拌しながら35wt%Hydrazine 20μlを少量ずつ加えた。室温で一晩震盪させた後、磁石を用いて微粒子を回収し、メタノールと水で洗浄した後、マトリックスとして2,5ジヒドロキシベンゾイック酸(DHB)を用いてMALDI−TOF Mass用ターゲットプレートにアプライしてレーザー照射したところ、イオン化したリガンド(1)のホモジスルフィド体に対応するピークを確認した。
(実施例26:オキシルアミン金微粒子による糖脂質の捕捉)
クロロホルムとメタノールとの混合溶媒(クロロホルム:メタノール=1:1)1mLにガラクトシルセラミド2mgを溶かした。その溶液にオゾンをバブリングさせ、ガラクトシルセラミドの長鎖塩基部分のオレフィンをオゾン分解してアルデヒドにした。反応の様子はTLCによって確認した。30分後ジメチルスルフィド200μlを添加し反応を終了させた。この反応溶液10μlに、実施例8に従って作製したオキシルアミン金微粒子溶液10μlを加え60℃で12hインキュベートした。その後、CentriplusYM−50を用いて遠心ろ過し、フィルター上に残った金ナノ微粒子をメタノールで洗浄した。マトリックスとして2,5ジヒドロキシベンゾイック酸(DHB)を用いてこの金微粒子のMALDI−TOF Mass測定を行ったところ、化合物7にガラクトシルセラミドが捕捉されたものに対応するピークが観察された(図32)。これにより、オキシルアミン金微粒子によって糖脂質が捕捉できることが示された。
本発明によれば、硫黄原子を含む有機残基誘導体について極めて感度の高い質量分析法を提供することができる。
本発明によれば、糖鎖関連酵素反応のリアルタイムでの正確なモニタリングが可能となる。レーザーの乱反射可能な金属表面上に酵素反応の基質となる糖鎖を提示することにより、質量分析法によって酵素反応を追跡することができる。本発明によれば、質量分析の際、通常の質量分析法では好ましくないバッファーまたは塩などがたとえ高濃度で存在したとしても、それらの影響を受けず、高感度に測定することができ、反応溶液の一部をそのまま分析に用いることができ、簡便である。また生成物を直接観測できるので、酵素反応の速度論的解析も容易に行えるという利点を有する。
従来のMALDI−TOF MS法において、「薬剤候補化合物として多いであろう低分子領域」について、マトリックス自身の強いピークにより、目的物のピークがうまく観察できないことが欠点とされてきたが、本発明によれば、目的の低分子化合物を金属基板(特に、金属微粒子)に担持することにより、マトリックスフリーなLDI−TOF MSを、高感度かつ正確に行うことができるという利点を有する。
本発明の金属−有機残基複合粒子を提供することにより、チオール基と金属との結合を利用して、金属微粒子表面に糖鎖や種々の官能基を提示することができ、またその金属微粒子の溶解性を、金属微粒子表面に導入するリガンドの性質によって自在に制御することができる。従って、チオール化合物で被覆した金属微粒子は、水系での反応のみならず有機溶媒系での固相合成を行う際に有用な固相担体として利用することができる。微粒子は反応溶媒に溶解しているが、精製の際には固体として遠心濾過によって溶液成分と分離可能であるため、分離精製も非常に容易に行えるという利点がある。さらに反応の経過を質量分析法によって直接追跡することができ、効率的に反応を行える。
本発明によれば、金属微粒子として、例えば鉄、ニッケル、コバルトまたは酸化鉄(Fe)などの磁性粒子およびこの粒子の表面に被覆した金、銀、カドミウムまたはセ
レンなどの層を含む複合微粒子を使用することにより、これに硫黄原子を含む有機残基誘導体を担持したのち、磁石等を用いて微粒子を簡易に回収し、精製無しで質量分析することができる。
また、本発明によれば、硫黄原子を介して細胞毒性の無い有機残基と結合した金属微粒子を提供することにより、金属−有機残基複合粒子を生細胞に直接取り込ませることができ、細胞内で生じる様々な化学反応(例えば、酵素反応)を、その反応生成物を質量分析することで正確に解析することができる。









Claims (7)

  1. 一般式(IV):
    −S−X−CH(R)−S−M(IV)
    (式中、Rは有機残基であり、Sは硫黄原子であり、両端のMは同一実体の金属であり、Xは低級アルキレンまたは低級アルケニレンである)
    で表される金属−有機残基複合体から硫黄原子を含む有機残基誘導体をイオン化することを特徴とする、
    一般式(V):
    HS−X−CH(R)−SH(V)
    (式中、R、SおよびXは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩、および/または
    一般式(VI):
    Figure 0004557973
    (式中、R、SおよびXは前記と同意義である)で表される化合物もしくはその塩、
    を質量分析する方法。
  2. 前記金属がレーザーの乱反射可能な表面を有する、請求項1記載の方法。
  3. 前記金属が金属微粒子である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記金属が金、銀、カドミウムまたはセレンである、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
  5. 前記質量分析をMALDI−TOFMS法により行う、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
  6. 前記質量分析をLDI−TOFMS法により行う、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
  7. 前記有機残基が糖鎖または糖鎖含有物質を含む基である、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
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