JP4536650B2 - 転がり軸受 - Google Patents
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Description
例えば、圧縮成形により多孔質に成形されたポリアミドイミド樹脂にフッ素化油を含浸させた軸受用保持器(特許文献1参照)、油を含有するバインダと母材からなる含油プラスチックで成形した保持器に、さらに潤滑油を含浸させたもの(特許文献2参照)、ポリオレフィン樹脂と潤滑油を混合し、その樹脂組成物を保持器形状に成形したもの(特許文献3参照)、合成樹脂に繊維状油導通材と潤滑油とを混合し、その樹脂組成物を保持器形状に成形したもの(特許文献4参照)、多孔質シリカに潤滑油を含浸させて合成樹脂に配合し、その樹脂組成物を保持器形状に成形したもの(特許文献5参照)等が知られている。
また、高強度の金属保持器を用いることで、上記の樹脂材料に起因する短寿命の問題は解決できるが、潤滑グリース等の半固体潤滑剤を封入して使用する場合では、この潤滑剤の撹拌抵抗のため、軸受で支持された回転軸を回転させるためのトルクが大きくなり、また回転時のトルク変動も大きくなるという問題がある。
また、上記樹脂多孔質被膜は潤滑油を含浸してなることを特徴とする。
また、上記樹脂多孔質被膜の厚みは、5μm〜500μm であることを特徴とする。
また、上記複数の転動体周囲に潤滑グリースを封入してなることを特徴とする。
また、上記気孔形成材がアルカリ性物質であり、上記樹脂多孔質被膜に該気孔形成材の未抽出分が残存していることを特徴とする。
また、上記被覆層は焼成工程を経て形成され、上記気孔形成材は該焼成温度よりも高い融点を有することを特徴とする。
また、上記気孔形成材は、三リン酸ナトリウムであることを特徴とする。
また、上記樹脂多孔質被膜の厚みは、5μm〜500μm であるので、被膜中に十分な潤滑油を含有することができる。
さらに、潤滑グリースと併用する場合には、潤滑グリースで消費される基油が保持器に含浸された潤滑油から供給されるので、潤滑グリース封入量を減らすことができる。
以下、樹脂多孔質被膜の有する連通孔率、樹脂多孔質被膜を形成するための樹脂塗料組成物の作成方法、保持器表面の被覆層の形成方法、樹脂多孔質被膜の形成方法、被膜への潤滑油含浸方法および樹脂多孔質被膜を有する保持器を用いた転がり軸受の順で説明する。
以上の計算は、同一サイズの球体を考えた場合であるが、複数のサイズの球体を充填した場合は、六方最密充填よりも充填率は大きくなり、気孔率は小さくなる。
また、粉末状の球体樹脂粒子を圧縮成形した後に焼結する場合、点接触はあり得ず、球体樹脂粒子は変形して面接触する。このため、六方最密充填よりも充填率はより大きくなり、気孔率はより小さくなる。このため従来の焼結樹脂成形体の気孔率は 20%程度が限界となっている。
具体的には、連通孔率は数1内の式(1)に示す方法で算出した。
V;保持器表面に形成された樹脂多孔質被膜の洗浄前の体積
ρ;保持器表面に形成された樹脂多孔質被膜の洗浄前の密度
W;保持器表面に形成された樹脂多孔質被膜の洗浄前の重量
V1;樹脂粉末の体積
ρ1;樹脂粉末の密度
W1;樹脂粉末の重量
V2;気孔形成材の体積
ρ2;気孔形成材の密度
W2;気孔形成材の重量
V3;洗浄後の樹脂多孔質被膜の体積
W3;洗浄後の樹脂多孔質被膜の重量
V’2;洗浄後に樹脂多孔質被膜に残存する気孔形成材の体積
塗料となる樹脂材料も塗装方法に応じた材料を選択すれば良い。例えば、ポリイミド(以下、PIと記す)系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す)樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂、および、ウレタンゴム等の熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
保持器が高温に曝される環境や、摺動発熱が大きい条件で使用される場合には、樹脂材料は熱硬化性樹脂が好ましく、特に耐摩耗性と長期耐熱性の利点からPI系樹脂がより好ましい。
また、更に耐摩耗性を向上させるためにシリカ粉末やガラスビーズなどのセラミック粉末を配合しても好ましい結果が得られ、初期なじみ性を改善させるためにPTFE樹脂や二硫化モリブデンなどの固体潤滑材を配合しても好ましい。
本発明に使用できるPI樹脂およびPAI樹脂は、後述の気孔形成材を配合しやすい樹脂溶液が好ましい。また、PAI樹脂を粉末として使用することもできる。
気孔形成材は、無機塩化合物、有機塩化合物、またはこれらの混合物であることが好ましく、特に洗浄抽出工程が容易となる水溶性物質であることが好ましい。また、アルカリ性物質、好ましくは防錆剤として使用できる弱アルカリ性物質が好ましい。弱アルカリ塩としては、有機アルカリ金属塩、有機アルカリ土類金属塩、無機アルカリ金属塩、無機アルカリ土類金属塩などが挙げられる。未抽出分が脱落したときも、比較的軟らかく、軸受転動面を損傷し難いことから、有機アルカリ金属塩、有機アルカリ土類金属塩を用いることが好ましい。なお、これらの金属塩は1種または2種以上混合して用いてもよい。また、抽出溶媒として安価な水を使用することができ、気孔形成時における廃液処理などが容易となることから水溶性の弱アルカリ塩を使用することが好ましい。
また、無機アルカリ金属塩としては、例えば、炭酸カリウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸ナトリウム、三リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムなどが挙げられる。
本発明における気孔形成材の配合割合は、樹脂粉末、気孔形成材を含めた全量に対して、10 体積%以上、好ましくは 20 体積%以上、より好ましくは 30 体積%〜70 体積%とする。
後述の抽出溶媒による被覆層からの気孔形成材の抽出後、被覆層に残存する気孔形成材は微量であるので、気孔形成材の体積が略連通孔の体積になると考えると、気孔形成材の配合割合が、10 体積%未満では油潤滑による特徴的な優れた摺動特性を示すことができない。また、潤滑剤が希薄な使用条件で優れた摺動特性を発揮するためには、30 体積%〜70 体積%の気孔形成材を配合することが好ましい。
また、これらの抽出溶媒は1種または2種以上を混合し使用してもよい。廃液処理などが容易、安価などの利点から水を用いることが好ましい。
(1)PI系樹脂を樹脂溶媒に溶解してなる樹脂ワニスに、気孔形成材を配合して、均一に撹拌する方法。
(2)PI系樹脂粉末および気孔形成材を抽出溶媒に配合し、撹拌して気孔形成材を溶解させると共にPI系樹脂粉末を分散させた後、抽出溶媒を除去して気孔形成材配合物を得る。次いで、この気孔形成材配合物を樹脂溶媒に配合して、均一に撹拌する方法。
(3)PI系樹脂粉末および気孔形成材を樹脂溶媒に配合して、均一に撹拌する方法。
(4)PI系樹脂粉末および気孔形成材を樹脂溶媒に配合して、均一に撹拌した後、樹脂溶媒を除去して粉砕し、粉体の樹脂塗料組成物とする方法。
上記樹脂塗料組成物において、耐摩擦摩耗特性を向上させる目的でPTFE樹脂粉末を上記樹脂塗料組成物に配合することもできる。
また、抽出溶媒を除去する方法としては、加熱蒸発、真空蒸発、窒素ガスによるバブリング、透析、凍結乾燥などの方法を用いることができる。手法が容易で、設備が安価であることから加熱蒸発により抽出溶媒の除去を行なうことが好ましい。
本発明において保持器表面に形成される樹脂多孔質被膜は、上記被覆層中に含まれる気孔形成材を溶解し、かつ樹脂を溶解しない抽出溶媒を用いて被覆層を洗浄することにより気孔形成材を抽出して得られる。この抽出処理を行なうことにより、気孔形成材が溶解され、抽出溶媒の除去および乾燥後、気孔形成材が充填されていた部分に気孔が形成されて樹脂多孔質被膜が得られる。
抽出溶媒の種類については上述のとおりであり、抽出方法は抽出溶媒中に 1 時間〜100 時間浸漬する方法や、抽出溶媒で洗浄する方法を採用できる。
含浸させることができる潤滑油としては、例えば、スピンドル油、冷凍機油、タービン油、マシン油、ダイナモ油、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油等の鉱油、ポリブデン、ポリ-α-オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、脂環式化合物等の炭化水素系合成油、または、天然油脂やポリオールエステル油、リン酸エステル、ジエステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、フッ素化油等の非炭化水素系合成油等、一般に使用されている潤滑油であれば特に限定することなく使用できる。
上記潤滑油には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、極圧剤、酸化防止剤、防錆剤、流動点降下剤、無灰系分散剤、金属系清浄剤、界面活性剤、摩耗調整剤などを配合できる。酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系、イオウ系などを単独または、混合して使用できる。特に潤滑油が含浸された樹脂多孔質被膜から供給される潤滑油は長期にわたり酸化劣化しないことが望まれるので、上記のような酸化防止剤を配合することが好ましい。
含浸方法としては、樹脂多孔質被膜の内部まで含浸できる方法であればよい。潤滑油が満たされた含浸槽に樹脂多孔質被膜を浸漬した後、減圧して含浸する減圧含浸が好ましい。また、高粘度のシリコーン油などを用いる場合、加圧含浸することができる。これらを組み合わせた加圧減圧含浸としてもよい。
なお、保持器の材質としては、銅合金、ステンレス(SUS)、アルミニウ合金、チタン合金等の金属材料、PI樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等の耐熱性樹脂材料などを採用できる。
グリース封入深溝玉軸受6は、外周面に転走面7aを有する内輪7と内周面に転走面8aを有する外輪8とが同心に配置され、内輪の転走面7aと外輪の転走面8aとの間に複数個の転動体9が介在して配置される。この複数個の転動体9を保持する保持器1および外輪8等に固定されるシール部材10とにより構成される。転動体9の周囲に潤滑グリース11が封入される。
また、潤滑グリースを封入する場合においても、通常封入される潤滑グリース封入量よりも少量で運転できる。
潤滑グリースを封入する場合、その潤滑グリースの基油は保持器表面の樹脂多孔質被膜に含浸されている潤滑油と、転がり軸受作動環境条件において、相互溶解する油を用いる。相互溶解する油としては、同種の化学構造を有する油であることが好ましく、より好ましくは該潤滑油と該基油とは同一種類の油で、かつ略同一の粘度を有する油を用いることが好ましい。この潤滑グリースと併用することにより、潤滑グリースで消費される基油が保持器に含浸された潤滑油から供給されるので、潤滑グリース封入量を減らすことができる。潤滑グリース封入量は軸受の全空間容積の 20%以下、好ましくは 5%〜20%である。グリース封入量が 20%をこえるとグリース漏れやトルク変動が生じやすくなる場合がある。
また、増ちょう剤としては、アルミニウム石けん、リチウム石けん、ナトリウム石けん、複合リチウム石けん、複合カルシウム石けん、複合アルミニウム石けんなどの金属石けん系増ちょう剤、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられる。これらの増ちょう剤は、単独または 2 種類以上組み合せて用いてもよい。
潤滑グリース用の公知の添加剤としては、例えば極圧剤、アミン系、フェノール系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤等が挙げられる。これらを単独または 2 種類以上組み合せて添加できる。
本発明の転がり軸受としては、玉軸受に限らず、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受等に用いることができる。
潤滑油を含浸させた樹脂多孔質被膜を金属器表面に形成した転がり軸受を試験用軸受とした。樹脂多孔質被膜は、PAI樹脂塗料(日立化成工業社製、PAI−4250)と三燐酸ナトリウム粉末(太平化学産業社製、トリポリ燐酸ソーダ)とを固形分体積比で1:1の割合でミキサーに投入し、混合後、金属保持器にディッピング法にて塗装し乾燥後、200℃×3 時間で焼成し、80℃の水に 20 時間浸漬させて三燐酸ナトリウム粉末を抽出し、120℃×3 時間で乾燥させて作製した。樹脂多孔質被膜の厚みは、保持器ポケット面が約 50μm となるように調整した。潤滑油にはフッ素油(ダイキン工業社製、S200)を用い、真空含浸法にて樹脂多孔質被膜に含浸させた。得られた試験用軸受を用いて以下に示す真空軸受試験を行なった。結果を表1に示す。
試験用軸受を用いて以下に示す試験条件にて真空軸受試験を行ない、軸受寿命と初期トルクを測定した。軸受寿命は安定時に比べ十分に高いトルクとなるまでの時間とした。初期トルクは試験開始 1 時間後の値とした。
試験条件
試験軸受:608相当(シールドあり)
真空度:1〜10 ×10-5Pa
荷重:スラスト荷重 390 N (最大接触面圧 2.0 GPa )
回転数:1000 rpm
超高分子量ポリエチレン粉末(三井化学社製、ミペロンXM220)と安息香酸ナトリウム粉末(和光純薬社製、試薬)とを体積比1:1の割合でミキサーに投入し、混合して混合粉末を得た。この混合粉末を加熱圧縮成形法(200℃×30分)にて成形し、切削加工にて所定の保持器形状とした。この切削加工体を 80℃の温水に 100 時間浸漬させて安息香酸ナトリウム粉末を抽出し、120℃×3 時間で乾燥させて多孔質体を得た。多孔質体の気孔率は 49%であった。潤滑油にはフッ素油(ダイキン工業社製、S−200)を用い、真空含浸法にて保持器に含浸させ、得られた試験用軸受を用いて上記真空軸受試験を行なった。結果を表1に示す。
フッ素グリース(ダイキン工業社製、L200)を封入して得られた試験用軸受を用いて上記真空軸受試験を行なった。結果を表1に示す。
2 保持器本体
3 保持器爪
4 転動体保持用ポケット
5 平坦部
6 グリース封入深溝玉軸受
7 内輪
8 外輪
9 転動体
10 シール部材
11 潤滑グリース
Claims (7)
- 同心に配置される内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体と、該転動体を分割保持する保持器とを備えてなる転がり軸受であって、
前記保持器の表面の少なくとも転動体との接触面に樹脂多孔質被膜を形成してなり、
該樹脂多孔質被膜は、樹脂と、気孔形成材とを含む被覆層とした後、前記気孔形成材を溶解し、かつ前記樹脂を溶解しない抽出溶媒を用いて前記被覆層から前記気孔形成材を抽出して得られる連通孔を有し、その連通孔率が10%以上であることを特徴とする転がり軸受。 - 前記樹脂多孔質被膜は、潤滑油を含浸してなることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。
- 前記樹脂多孔質被膜の厚みは、5μm〜500μm であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の転がり軸受。
- 前記複数の転動体周囲に潤滑グリースを封入してなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項記載の転がり軸受。
- 前記気孔形成材がアルカリ性物質であり、前記樹脂多孔質被膜に該気孔形成材の未抽出分が残存していることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の転がり軸受。
- 前記被覆層は焼成工程を経て形成され、前記気孔形成材は該焼成温度よりも高い融点を有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の転がり軸受。
- 前記気孔形成材は、三リン酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項記載の転がり軸受。
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