JP4534030B2 - 硫黄原子を含まない酵素蛋白質 - Google Patents
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Description
本発明は、硫黄原子を含まない酵素蛋白質に関する。
背景技術
酵素は、その基質特異性が非常に高いためバイオセンサー等の分析機器開発、バイオリアクターなどのファインケミカル産業、また、特定汚染物質の分解除去など利用が試みられ、また期待されている。
近年の質量分析装置の発達により、蛋白質の質量分析ができるようになってきた。蛋白質の質量数を質量分析により求めると、蛋白質として高度に精製された蛋白質でもアミノ酸配列から予想される質量数以外の質量数を示すものの混在が見いだされる様になってきた。例えば、L−システインを含まないジヒドロ葉酸還元酵素を用いて詳しく調べたところ、質量数変化は、質量数16を単位とするものであり、メチオニンの酸化がその主な原因である。
酵素の利用を考える場合、酸化による蛋白質の変質は大きな障害となる。例えば、多くのバイオセンサーは電極反応を利用するが、その際過酸化水素等の酸化物が電極反応により生成し、これは酵素を酸化しセンサー全体の劣化を早めたり、信頼性を失わせたりする可能性が考えられるからである。また、長期間溶液中で酵素を利用する場合も水溶液中の酸素による酸化を防ぐことは困難もしくはコスト的に問題となるであろう。
蛋白質を構成する原子は、水素(H)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、及び硫黄(S)の5種類である。このうち、硫黄原子は他の原子に比べて電子価特性等反応性の強い原子である。
生物が作る蛋白質は、遺伝子であるDNA中にトリプレットコドンで暗号化されているL−アラニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−フェニルアラニン、L−グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−リジン、L−ロイシン、L−アスパラギン、L−プロリン、L−グルタミン、L−アルギニン、L−セリン、L−トレオニン、L−バリン、L−チロシン、L−トリプトファン、L−システイン、及びL−メチオニンの20種類のL−アミノ酸残基から構成される。このうち、含硫アミノ酸は、L−システイン及びL−メチオニンである。
L−システインの硫黄原子は、チオール(−SH)基として存在する。チオール基は非常に反応性が高く、酸素、過酸化水素により容易に酸化されて、ジスルフィドさらにスルフィン酸を生成する。
L−メチオニンの硫黄原子は、チオエーテル(−S−CH3)基として存在する。チオエーテル基は、チオール基ほど反応性は強くないが、過酸化水素により容易に酸化されてメチオニンスルフォキシドが生成する。
このことは、L−システイン及びL−メチオニン、即ち含硫アミノ酸を含まない酵素は、抗酸化特性を有することを示唆している。
L−システイン及びL−メチオニンに対応するコドンは、TGTとTGC(L−システイン)及びATG(L−メチオニン)の3種類である。一方、硫黄を含まないその他18種のL−アミノ酸に対応するコドンは、58種類である。従って、平均すると蛋白質は、20アミノ酸に1個の割合(3/61)で、L−システインもしくはL−メチオニンを含むことになる。このことは、100アミノ酸以上で構成される蛋白質は、非常に高い確率でL−システインもしくはL−メチオニンを含んでいることを意味する。実際、これまで報告された蛋白質のうちで触媒機能を有する酵素を調べてみると、L−システイン及びL−メチオニンを全く含まないものは見あたらない。
即ち、生物が作る酵素は全て含硫アミノ酸を含んでいるのである。
ところが、近年の遺伝子操作を背景とする蛋白質変異の結果は、少なくとも一箇所の変異であれば、元の酵素機能を失わせることなく含硫アミノ酸を他のアミノ酸に置換することが可能であることを明らかにしてきている。ただ、本発明が完成された以前においては、全ての含硫アミノ酸を他のアミノ酸に置換した酵素が元の機能と同等の活性を示すか否かに関しては明らかとなっていなかった。むしろ、酵素活性の発現には、含硫アミノ酸の存在が必須であるとの考え方が支配的であった。
このことから、次の相反する2つ可能性が考えられる。
第1の可能性は、生物がその生命維持に必要とするために必要な非常に高い酵素活性を発現するためには、含硫アミノ酸の存在が必須である。
第2の可能性は、非常に高い酵素活性を発現するためには、含硫アミノ酸の存在は必ずしも必要としないが、生命の起源の過程においてたまたま硫黄原子含んだ形で蛋白質を利用し且つ遺伝子のコード形態を確立させたため、生物が作る酵素はコドン使用頻度の割合に対応して含硫アミノ酸を含んでいる。従って、全ての含硫アミノ酸を他のアミノ酸に置換し、生物が作る含硫アミノ酸を含む酵素と同等の機能を有する酵素を作ることが可能である。
もし、第2の可能性が正しければ、生物由来の含硫アミノ酸を含む酵素の全ての含硫アミノ酸を他のアミノ酸に置換することにより、抗酸化特性を有する酵素を製造する一般的な方法を開発できることになる。
発明の開示
本発明者らは、鋭意研究を重ね、生物由来の含硫アミノ酸を含む酵素の全ての含硫アミノ酸を他のアミノ酸に置換しても、元の酵素と同程度もしくはそれ以上の酵素活性を示す酵素が製造できることを実証するとともに、生物由来の野性型酵素から含硫アミノ酸を含まない酵素への変異戦略を確立し、本発明を完成させるに至った。
なお、本発明における野性型酵素とは、生物由来の酵素の他に、生物由来の酵素に人工的に変異させて得られた酵素を含むものとする。
すなわち、本発明は、野性型酵素の活性を保持するとともに、過酸化水素等の酸化に対する抗酸化特性を有する酵素蛋白質、及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明では、上記目的を達成するために、次のような構成を採る。
1.L−アラニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−フェニルアラニン、L−グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−リジン、L−ロイシン、L−アスパラギン、L−プロリン、L−グルタミン、L−アルギニン、L−セリン、L−トレオニン、L−バリン、L−チロシン、及びL−トリプトファンの18種類のL−アミノ酸残基から構成される硫黄原子を含まない酵素蛋白質。
2.L−アラニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−フェニルアラニン、L−グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−リジン、L−ロイシン、L−アスパラギン、L−プロリン、L−グルタミン、L−アルギニン、L−セリン、L−トレオニン、L−バリン、L−チロシン、L−トリプトファン、L−システイン、及びL−メチオニンの20種類のL−アミノ酸残基から構成される酵素蛋白質のL−システイン及びL−メチオニン残基をL−アラニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−フェニルアラニン、L−グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−リジン、L−ロイシン、L−アスパラギン、L−プロリン、L−グルタミン、L−アルギニン、L−セリン、L−トレオニン、L−バリン、L−チロシン、及びL−トリプトファンの18種類のL−アミノ酸残基に置換した、元の酵素蛋白質の活性を保持し耐酸化性を有する上記1.の硫黄原子を含まない酵素蛋白質。
3.アミノ酸置換が合成DNAを使用した部位特異的変異法により行われたものである上記2.の硫黄原子を含まない酵素蛋白質。
4.酵素活性が酸化還元活性、もしくは加水分解活性の機能を有することを特徴とする上記1.〜3.いずれかの硫黄原子を含まない酵素蛋白質。
5.ジヒドロ葉酸還元酵素活性を保持し耐酸化性を有することを特徴とする上記1.〜4.いずれかの硫黄原子を含まない酵素蛋白質。
6.キシラナーゼの活性を保持し耐酸化性を有することを特徴とする上記1.〜4.いずれかの硫黄原子を含まない酵素蛋白質。
7.次の工程からなる組み合わせ変異による硫黄原子を含まない酵素蛋白質の製造方法。
(1)硫黄原子を含むアミノ酸(含硫アミノ酸)の配列上の位置がAi(i=1〜n)である、n個の含硫アミノ酸を含む全長m個のアミノ酸よりなる酵素蛋白質をコードするDNA配列のL−メチオニンをコードする開始コドンを、L−メチオニン−L−アラニン、L−メチオニン−L−セリン又はL−メチオニン−L−プロリンのコドンで置換した変異体遺伝子を作成し、これを宿主細胞で発現して得られた変異体酵素蛋白質の酵素活性を測定し、最も活性が高いものを選び得られる置換変異体をA1/MA1とする;
(2)その他の部位のAi(i=2〜n)の含硫アミノ酸をコードするコドンを1.に記載される18種類の他のアミノ酸(以下、当該アミノ酸を「含硫アミノ酸以外の他のアミノ酸」という)をコードするコドンで置換した変異遺伝子を作成し、これを宿主細胞で発現して得られた変異体酵素蛋白質の酵素活性を測定し、酵素活性を示すp個の変異体酵素蛋白質を選び得られる置換変異体をAi/Bij(j=1〜p)とする;
(3)置換変異体のうち活性の高いものから最大3個の置換変異体Ai/Bi1、Ai/Bi2及びAi/Bi3を選択するが、ここで置換変異体はAi/Bi1>Ai/Bi2>Ai/Bi3>・・>Ai/Bipの順に活性が小さくなるものとする;
(4)全ての部位Ai(i=2〜n)の含硫アミノ酸について、(2)、(3)と同様にして活性を有する置換変異体を選択し、それらの変異体とA1/MA1の変異体を全て組み合わせた最大3×(n−1)個の変異体を作成し、それらの酵素活性を測定して元の酵素蛋白質と同等以上の活性を有する変異体酵素蛋白質を作成する。
8.次の工程からなる段階的変異による硫黄原子を含まない酵素蛋白質の製造方法。
(1)硫黄原子を含むアミノ酸(含硫アミノ酸)の配列上の位置がAi(i=1〜n)である、n個の含硫アミノ酸を含む全長m個のアミノ酸よりなる酵素蛋白質をコードするDNA配列のL−メチオニンをコードする開始コドンを、L−メチオニン−L−アラニン、L−メチオニン−L−セリン又はL−メチオニン−L−プロリンのコドンで置換した変異体遺伝子を作成し、これを宿主細胞で発現して得られた変異体酵素蛋白質の酵素活性を測定し、最も活性が高いものを選び得られる置換変異体をA1/MA1とする;
(2)A1/MA1変異体のA2の含硫アミノ酸をコードするコドンを前記「含硫アミノ酸以外の他のアミノ酸」をコードするコドンで置換した変異遺伝子を作成し、これを宿主細胞で発現して得られた2重変異体酵素蛋白質の酵素活性を測定し、活性の高いものから最大3個の3重変異体を選ぶ;
(3)得られた2重変異体のそれぞれのA3の含硫アミノ酸をコードするコドンを前記「含硫アミノ酸以外の他のアミノ酸」をコードするコドンで置換した変異遺伝子を作成し、これを宿主細胞で発現して得られた3重変異体酵素蛋白質の酵素活性を測定し、活性の高いものから最大3個の3重変異体を選ぶ;
(4)以下同様に、4重、・・、n重変異体を作成し、最後のn重変異体の酵素活性を調べ、元の酵素の活性と同等以上の活性を有する変異体酵素蛋白質を作成する。
9.段階的に変異する部位の順番が、A1、A2、・・・、Anの順列組み合わせの種類(n!通り)のうちどれか一つであることを特徴とする上記8.の段階的変異による硫黄原子を含まない酵素蛋白質の製造方法。
10.含硫アミノ酸の配列上の位置がAi(i=1〜n)である、n個の含硫アミノ酸を含む全長m個のアミノ酸よりなる酵素蛋白質において、k個の部位に関しては上記7.の方法を行い、残りのn−k個の部位に関しては上記9.の方法を行うことを特徴とする硫黄原子を含まない酵素蛋白質の製造方法。
本発明において、元の蛋白質の活性を保持するとは、野性型酵素の10%以上の活性、好ましくは50%以上の活性、特に好ましくは100%以上の活性を有し、元の酵素蛋白質と同様の用途に使用できることを意味する。
次に、本発明において目的とする酵素蛋白質を得る第1の方法の手順について説明する。
全長m個のアミノ酸よりなる野性型酵素において含硫アミノ酸がn個あるとする。その各々のアミノ酸配列上の位置を、Ai(i=1〜n)とする。
蛋白質の開始コドンに由来するアミノ酸は、L−メチオニンである。
アミノ末端のL−メチオニンを含まないようにするためには、宿主細胞が有するメチオニルアミノペプチダーゼ(methionyl−aminopeptidase)の反応特異性に従い、メチオニンをアミノ末端から脱離させることができる。
例えば、宿主として大腸菌を用いた場合、アミノ末端をL−メチオニン−L−アラニン、L−メチオニン−L−セリン、もしくはL−メチオニン−L−プロリンのいずれかにすることにより、末端のL−メチオニンが脱離した形で発現させることができる。従って、まず第一に、酵素のアミン末端の変異として、L−メチオニン−L−アラニン、L−メチオニン−L−セリン、もしくはL−メチオニン−L−プロリンのコドンを有する変異体遺伝子を作製し、これを宿主で発現させ、得られた変異体の活性を測定し、最も活性が高いものを選ぶことにより、アミノ末端がメチオニンでない変異酵素を作製できる。
この様にして得られる変異を、A1/MA1と表す。
その他の部位のAi(i=2〜n)の含硫アミノ酸に関して、含硫アミノ酸をコードするコドンを前記「含硫アミノ酸以外の他のアミノ酸」(最大18種類)をコードするコドンで置換した変異遺伝子を作成し、これを宿主細胞で発現して得られた2重変異体酵素蛋白質の酵素活性を調べる。
酵素蛋白質中の特定の部位でのアミノ酸置換は、合成DNAを用いた部位特異的変異法により行うことができる。
部位特異的変異法としては、ZollerとSmithらの方法(Zoller,M.J.and Smith,M.(1983)Methods in Enzymology,vol.100,p.468)及びその改良方法、本実施例で用いているPCRを利用した方法などの他多く方法が公知である。本発明においては、目的の含硫アミノ酸部位でのアミノ酸置換できる変異方法であればどのような方法でも適用可能であり、目的を達成することができる。従って、変異体の作製方法によって本発明は制限を受けない。
Aiの含硫アミノ酸の置換変異体を作製し、その活性を調べると、野性型酵素と同等もしくはそれ以上の活性を示す変異体がp個見いだされる。そのアミノ酸を、Bij(j=1、〜p)とする。ただし、Ai/Bij置換変異体の活性を高いものから並べるものとする。即ち、Ai/Bi1>Ai/Bi2>Ai/Bi3> ・・ >Ai/Bipの順に変異体の活性が小さくなるものとする。
Ai/Bij置換変異のうち、活性の高いものから最大3個の置換変異、即ち、Ai/Bi1、Ai/Bi2、及びAi/Bi3を選ぶ。
全てのi(i=2〜n)について同じように選び、それらの変異とA1/MA1の変異を全て組み合わせた最大3x(n−1)個の変異体を作製し、3x(n−1)個の変異体の活性を調べ、野性型酵素の活性と同等もしくは優れたものを選ぶ。
このようにして得られる変異酵素は、含硫アミノ酸を含まないことが明らかである。
また、このようにして作製される野性型酵素と同等もしくはそれ以上の活性を示す含硫アミノ酸を含まない酵素は、過酸化水素などの処理により酸化を受けにくいという特徴を有する全く新規な酵素である。
以上第1の方法を、ここでは「組み合わせ変異による含硫アミノ酸を含まない酵素の作製方法」と呼ぶ。
また、本発明の野性型酵素と同等もしくはそれ以上の活性を示す含硫アミノ酸を含まない酵素は、次に示す第2の方法によっても作製することができる。
前記第1の方法に従いA1/MA1変異体を作製する。
次に、同様にA1/MA1変異体のA2の含硫アミノ酸を含硫アミノ酸以外の他のアミノ酸(最大18種)に置換した2重変異体(最大18種)をそれぞれ作製し、その酵素活性を調べる。
2重変異体の活性を調べると、野性型と同等もしくはそれ以上の活性を示す変異体が見いだされる。2重変異のうち活性の高いものから最大3個の2重変異体を選ぶ。
次に、得られた2重変異体のそれぞれのA3の含硫アミノ酸を含硫アミノ酸以外の他のアミノ酸(最大18種)に置換した3重変異体をそれぞれ作製し(最大、3x18=54種)、その酵素活性を調べる。
3重変異体の活性を調べると、野性型と同等もしくはそれ以上の活性を示す変異体が見いだされる。
以下同様に、4重、・・、n重変異体を作製する。最後のn重変異体が、目的の含硫アミノ酸を含まない酵素である。
なお、説明の都合で、変異する部位の順番を、A1、A2,・・、Anとしたが、変異の順番は、順列組み合わせの種類(n!通り)のうちどれか一つを適当に選ぶものとする。
以上第2の方法を、ここでは「段階的変異による含硫アミノ酸を含まない酵素の作製方法」と呼ぶ。
「段階的変異による含硫アミノ酸を含まない酵素の作製方法」においては、最大〔4(A1)+18(A2)+54x(n−2)(A3〜An)〕の変異体を調べることになる。
また、本発明の野性型酵素と同等もしくはそれ以上の活性を示す含硫アミノ酸を含まない酵素は、「組み合わせ変異による含硫アミノ酸を含まない酵素の作製方法」と「段階的変異による含硫アミノ酸を含まない酵素の作製方法」を部分的に組み合わせた方法(ここでは「組み合わせ変異と段階的変異との組み合わせによる含硫アミノ酸を含まない酵素の作製方法」と呼ぶ)を用いても作製できることは自明であろう。
本発明の硫黄原子を含まない酵素蛋白質の作製のためには、対象とする野性型酵素のアミノ酸配列及び塩基配列の情報が有れば十分である。例えば、塩基配列の情報に従いPCRプライマーを合成し、野性型酵素を生産する細胞のDNAもしくはcDNAもしくは組み換えプラスミドDNAを鋳型として、PCR法により野性型酵素をコードするDNAを合成することできる。また、塩基配列を元に化学合成によっても野性型酵素をコードするDNAを作製することができる。このようにして得られた野性型酵素をコードするDNAに、本発明に示される方法に従って変異を施すことにより本発明を行うことができる。従って、本発明は野性型酵素の遺伝子によって制限を受けない。
本発明の実施例においては、酸化還元酵素の代表例として、大腸菌由来のジヒドロ葉酸還元酵素(DHFRと略す)のシステインフリー変異体(AS−DHFRと略す)を出発物質として、AS−DHFR中に5個含まれるメチオニンを他のアミノ酸に置き換えて、2個のシステイン残基及び5個のメチオニン残基を含む野性型DHFRの酵素活性を遥かに凌ぐ高活性型の含硫アミノ酸を含まないDHFRの作製を示している。また、加水分解酵素の代表例として、枯草菌由来のキシラナーゼに含まれる2個のメチオニンを他のアミノ酸に置き換えて、野性型酵素と同等の活性を示す含硫アミノ酸を含まないキシラナーゼの作製を示している。
また、配列表配列番号1に、AS−DHFRのアミノ酸配列を、配列表配列番号2に、制限酵素BamHIで切り出し可能で且つ大腸菌の適当なベクターのBamHI部位に導入することにより大腸菌で高発現可能な遺伝子配列を、配列表配列番号3に枯草菌由来のキシラナーゼのアミノ酸配列を、配列表配列番号4に枯草菌由来のキシラナーゼをコードするDNA配列をそれぞれ示している。
配列表配列番号2のDNAは、本発明者らが報告した配列(Journal of Biochemistry vol.117,p.480−488(1995)に記載)を持つ組み換えプラスミドpTZDHFR20を鋳型として、例えば、5’−ggatccttgacaattagttaactat−3’と5’−ggatccttaacgacgctcgaggattt−3’の2つのプライマーDNAを用いてPCR法を用いて作製できる。また、配列番号2の配列に基づいて化学合成法によっても作製できる。
配列表配列番号4のDNAは、枯草菌の染色体DNAから、例えば、5’−gctagcacag actactggcaaaat−3’と5’−ttaccatacggtaacattcgacg−3’に示すプライマーDNAを用いてPCR法を用いて作製できる。本発明では、枯草菌の染色体DNAとして、シグマ社が販売している染色体DNA(製品番号D4041)を用いて分離したものを用いている。また、配列番号4の配列に基づいて化学合成法によっても作製できる。
AS−DHFRは159個のアミノ酸より構成されるが、このうち1、16、20、42、及び92番目のアミノ酸がメチオニンである。これらのメチオニンを他のアミノ酸に置換した酵素を作製する方法として、実施例においては「組み合わせ変異と段階的変異との組み合わせによる含硫アミノ酸を含まない酵素の作製方法」を用いた方法を示している。
表1〜5は、AS−DHFRの1、16、20、42及び92番目のメチオニンを他のアミノ酸に置換した変異体の酵素活性を示す表であり、そして、表6はAS−DHFRの42番目及び92番目のメチオニンを他のアミノ酸で置換した変異体の酵素活性、
表7はAS−DHFRの16番目及び20番目のメチオニンを他のアミノ酸で置換した変異体の酵素活性を示す表である。
1番目のメチオニンに関しては、前記の方法に従い、3種類の変異体を作製したところ、メチオニン−アラニンが最適なものとして選ばれた。(表1参照)この変異体を、AS−DHFR−A1と名付けた。
AS−DHFRの16、20、42、及び92番目のメチオニンに関しては、それぞれメチオニンのコドンであるATGをNNY(NはA,T,G,Cの塩基を表し、Yは、T,Cの塩基を表す。)に変えた配列を有するプライマーを用いてランダム塩基置換変異体を作製し、得られた変異体の塩基配列と酵素活性を測定した。その結果、16番目のアミノ酸として好適なものとして、アラニン、フェニルアラニン、アスパラギンが、20番目のアミノ酸として好適なものとして、イソロイシン、ロイシン、バリンが、42番目のアミノ酸として好適なものとして、バリンとチロシンが、92番目のアミノ酸として好適なものとして、フェニルアラニンとイソロイシンがそれぞれ示された。(表2〜5参照)
次に、42番目のアミノ酸として好適なアミノ酸であるバリンとチロシンと、92番目のアミノ酸として好適アミノ酸であるフェニルアラニンとイソロイシンとを組み合わせることにより、AS−DHFR−A1の42及び92番目のアミノ酸置換変異体を作製し、得られた変異体の塩基配列と酵素活性を測定した結果、42番目がチロシンで92番目がフェニルアラニンの組合わせが最も高い活性を示した(野性型酵素の約3倍)。この変異体を、AS−DHFR−A1−M42Y−M92Fと名付けた。(表6参照)
次に、16番目のアミノ酸として好適なアミノ酸であるアラニン、フェニルアラニン、アスパラギンと、20番目のアミノ酸として好適アミノ酸であるイソロイシン、ロイシン、バリンとを組み合わせることにより、AS−DHFR−A1−M42Y−M92Fの16及び20番目のアミノ酸置換変異体を作製し、得られた変異体の塩基配列と酵素活性を測定した。その結果、表7に示す様に、野性型酵素の活性を越える変異体酵素が得られた。その中でも、16番目がアスパラギンで20番目がロイシンの組み合わせが最も高い活性を示した(野性型酵素の約12倍)。この変異体を、ANLYFと名付けた(AS−DHFRのM1MA、M16N、M20L、M42Y、M92Fの各メチオニン部位の変異の一文字表記にちなんだ。以下、同様の表記を用いた)。
ANLYF以外にも、野性型酵素より高い活性を示す硫黄原子を含まない変異体として、AFLYF、AFIYF、ANIYF、AFVYF、ANVYFなど計9個の変異体が得られた。
この結果は、硫黄原子を含まない酵素蛋白質として多くの可能性が有ることを示している。少なくとも本発明の方法に従って野性型酵素配列を変換していくことにより、野性型酵素より高い活性を示す硫黄原子を含まない酵素に到達できる。このように、本発明の有効性が証明された。
キシラナーゼは、185アミノ酸より構成されるが、このうち158及び169番目のアミノ酸がメチオニンである。これらのメチオニンを他のアミノ酸に置換した酵素を作製する方法として、実施例においては「段階的変異による含硫アミノ酸を含まない酵素の作製方法」を用いた方法を示している。
具体的には、上記ANLYFのカルボキシ末端とキシラナーゼのアミノ末端をGly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Glyの配列でつないだ融合蛋白質(これをNL−キシラナーゼと名付けた)を作製した。NL−キシラナーゼANLYF部分及びリンカー部分にはメチオニン及びシステインのいずれも含まれない。ANLYFと融合させることによりNL−キシラナーゼ変異体融合遺伝子が導入された形質転換株をトリメトプリム耐性で選択できること及びキシラナーゼの活性とDHFR活性とを測定し、[キシラナーゼの活性]/[DHFR活性]の値を計算することにより、NL−キシラナーゼ変異体の蛋白質量を測定しなくてもキシラナーゼ変異体の活性と野性型キシラナーゼの活性を比較できるという特徴を有する。
NL−キシラナーゼのキシラナーゼ部分の158番目のメチオニンのコドンであるatgをnny(nはa,c,g,tの塩基を表し、yは、t,cの塩基を表す。)に変えた配列を有するプライマーを用いてランダム塩基置換変異体を作製し、得られた変異体の塩基配列と酵素活性を測定した結果、ロイシンに置換した変異体が野性型の127%の活性を示した。この変異体を、NL−キシラナーゼ(M158L)と名付けた。
次に、NL−キシラナーゼ(M158L)のキシラナーゼ部分の168番目のメチオニンのコドンであるatgをnny(nはa,c,g,tの塩基を表し、yは、t,cの塩基を表す。)に変えた配列を有するプライマーを用いてランダム塩基置換変異体を作製し、得られた変異体の塩基配列と酵素活性を測定した。その結果、イソロイシンに置換した変異体が野性型の151%の活性を示した。この変異体を、NL−キシラナーゼ(M158L,M169I)と名付けた。
得られたNL−キシラナーゼ(M158L,M169I)のDHFR部分、リンカー部分、及びキシラナーゼのいずれの部分にも、含硫アミノ酸であるシステイン及びメチオニンを含まない。それにも係わらず、DHFRおよびキシラナーゼのそれぞれの酵素活性は、それぞれ対応する野性型酵素よりも高い活性を示した。
DHFRは、ニコチンアミド補酵素を要求する酸化還元反応を触媒するいわゆる酸化還元酵素であり、キシラナーゼは、高分子多糖を加水分解反応を触媒するいわゆる加水分解酵素である。本発明において示す2例の実施例が示すことは、酸化還元反応と加水分解反応という全く異なった反応を触媒する酵素において、含硫アミノ酸を全く含まないようにしてしても、生物進化において生じた野性型酵素を越える活性を有する酵素が作れることである。このことから、野性型酵素に含まれる含硫アミノ酸の全てを他のアミノ酸に置換した蛋白質の中には、野性型酵素の活性を越えるもしくは同等の活性を示すものが存在するものと考えられる。本発明は、そのような含硫アミノ酸を全く含まない酵素に至る確実な方法を提供するものである。従って、本発明が、本明細書に記載の含硫アミノ酸を全く含まない酵素の作製方法によって作製可能な含硫アミノ酸を全く含まない全ての酵素を含むことは、自明である。
本発明のジヒドロ葉酸還元酵素は、次の反応式1で表される
(反応式1)
ジヒドロ葉酸 + NADPH −〉 テトラヒドロ葉酸 + NADP+を触媒する。(上記反応式において、「−〉」は矢印を意味する、以下同様)
ジヒドロ葉酸還元酵素の活性は、反応に伴う基質の減少を、340nmの吸光度の減少で追跡することができる。本発明において、酵素反応液の組成を、50mMリン酸緩衝液(pH7)、0.1mM NADPH、0.05mM ジヒドロ葉酸、12mM 2−メルカプトエタノール、及び適当量の酵素とし、酵素反応液1mlを分光光度計用のキュベットにとり、酵素液を加えることにより反応を開始し、340nmの吸光度の1分間あたりの変化量を測定し、この量を持って活性の指標とした。
本発明のキシラナーゼは、次の反応式2で表される
(反応式2)
キシラン + nH2O −〉 mキシロースオリゴマー
を触媒する。
キシラナーゼの活性は、生成するオリゴキシロースの還元末端に由来する還元力の増加をネルソンソモギ法により測定することによって行うことができる。本発明において、酵素反応液の組成を、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)、2mg/mlオート麦由来のキシラン、及び適当量の酵素とし、酵素反応液0.25mlを試験管にとり、酵素液を加えることにより反応を開始し、10分間反応を行い、0.25mlの銅−アルカリ試薬を加えた後、沸騰水中で10分間保持し、その後室温に冷却した後砒素−モリブデン酸試薬0.25mlを加え、着色させる。着色の強さを500nmの吸光度により測定し、対照試料の吸光度との差を求め、酵素活性の指標とした。
酵素活性の測定方法としては、種々の方法が開発され利用されていることは公知の事実であり、目的とする酵素の活性測定法によって本発明が制限を受けないことは明白である。
本発明によって製造された、硫黄原子を含まないジヒドロ葉酸還元酵素及びジヒドロ葉酸還元酵素−キシラナーゼ融合蛋白質は、過酸化水素により容易に酸化されるシステイン及びメチオニンを配列に含まないため、0.1Mの高濃度の過酸化水素水を用いて処理しても酸化されることは無く、酸化に対する抵抗性が著しく増大した。ジヒドロ葉酸還元酵素及びジヒドロ葉酸還元酵素−キシラナーゼ融合蛋白質いずれにおいても、硫黄原子を含む酵素の場合、0.1Mの過酸化水素水で処理することにより、全ての硫黄分子が酸化され、このことにより酵素活性が約10分の1以下に低下する。このように抗酸化性を高めることにより酵素の形質の安定性に寄与できることが実証されている。
発明を実施するための最良の形態
以下に、実施例により本発明を説明するが、これらの具体例は本発明を限定するものではない。
なお、本実施例における、PCR法によるDNAの増幅反応、制限酵素によるDNAの切断反応、T4−DNAリガーゼ、大腸菌への形質転換によるDNAの結合反応は、市販のPCRキット、制限酵素、T4−DNAリガーゼ、及び大腸菌コンピテントセルに添付している標準プロトコールに従って行った。
[実施例1] 硫黄原子を含まないジヒドロ葉酸還元酵素の作製
硫黄原子を含むジヒドロ葉酸還元酵素として本実施例においては、AS−DHFRを用いている。AS−DHFRの酵素活性安定性などの性質は、野性型酵素とほぼ一致している。(M.Iwakura,B.E.Jones,J.Luo,& C.R.Matthews,J.Biochemistry,117,480−488(1995)に記載)
AS−DHFRのアミノ酸配列及びその遺伝子の塩基配列をそれぞれ配列表配列番号1及び配列表配列番号2に示す。
AS−DHFRの遺伝子は「pTZDHFR20」と名付けられたプラスミドに組み込まれている(M.Iwakura,B.E.Jones,J.Luo,& C.R.Matthews,J.Biochemistry,117,480−488(1995)に記載)。
2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’及び
5’−ggggatcccttatgcacagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcg−3’
を用いることにより、pTZDHFR20を鋳型として、PCR法により増幅することにより、制限酵素BamHIで切り出すことができ、且つAS−DHFRを発現できる遺伝子配列を作製した(これを、DNA1とする)。
PCR法により増幅したDNA配列を鋳型として、1番目のアミノ酸であるメチオニンをL−メチオニン−L−アラニン、L−メチオニン−L−セリン、もしくはL−メチオニン−L−プロリンに変異する遺伝子の作製を行った。そのため、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’及び
5’−cgcaatcagactgatngncatggaagttcctccttttccggatt−3’
(ただし、nはa,c,g,tの塩基を表わす。)を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA2とする。)と2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggaggaacttccatgncnatcagtctgattgcggcgctagcggtagat−3’
(ただし、nはa,c,g,tの塩基を表わす。)及び
5’−ggggatcccttatgcacagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcg−3’
を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA3とする。)を作製し、次に、DNA2とDNA3を同量混合したのち、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’及び
5’−ggggatcccttatgcacagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcg−3’
を用いてPCR法により増幅して得られたDNA(これをDNA4とする。)を作製した。
DNA4をBamHIで切断した後、市販のプラスミドベクターpUC19をBamHIで切断したものとを合わせ、両者をT4−DNAリガーゼで結合し、組み換えプラスミドを作製した。得られた組み換えプラスミドを用いて大腸菌JM109株を形質転換し、寒天培地1(1lあたり5gの食塩、5gの酵母エキス、8gのトリプトン、100mgのアンピシリンナトリウム、50mgトリメトプリム、及び15gの寒天を含んでいる)で生育する変異株を選択した。寒天培地1で形成したコロニー15個について、プラスミドを分離し、その塩基配列を決定することにより、1番目のアミノ酸であるメチオニンをL−メチオニン−L−アラニン、L−メチオニン−L−セリン、もしくはL−メチオニン−L−プロリンに変異した遺伝子が組み込まれた形質転換株を分離した。分離した形質転換株それぞれを培地1(1lあたり5gの食塩、5gの酵母エキス、8gのトリプトン、及び100mgのアンピシリンナトリウムを含んでいる)で37度で一晩培養し、660nmの吸光度が1に合わせ、その培養液1mlから菌体を収集し、0.2mlの10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、音波破砕後、遠心分離によって得られた上清についてそのDHFR酵素活性を調べた。その結果を表1に示す。
以下の表において、DHFR活性は野生型酵素の活性を100%として、%で表示したものである。
この結果、1番目のアミノ酸の変異としてL−メチオニン−L−アラニンが適していることが示された(この変異体をAS−DHFR−A1と称する。また、AS−DHFR−A1の遺伝子を組み込んだ組み換えプラスミドを、pAS−DHFR−A1と称する)。また、AS−DHFR−A1を高度に精製して、アミノ末端の配列を調べたところ、99%以上がアラニンであり、遺伝子配列上の開始コドンに由来するメチオニンは、大腸菌を用いて発現する際に、メチオニルアミノペプチダーゼ(methionyl−aminopeptidase)によりほぼ完全に切除されたことが示された。
AS−DHFRの16、20、42、及び92番目のメチオニンに関しては、それぞれメチオニンのコドンであるatgをnny(nはa,c,g,tの塩基を表し、rはa,gの塩基を、yはc,tの塩基を表す。)に変えた配列を有するプライマーを用いてランダム塩基置換変異体を作製し、得られた変異体の塩基配列と酵素活性を測定した。
16番目のメチオニンの変異体の作製には、DNA1を鋳型として、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’と
5’−ggcatggcgttttcrnngccgataacgcgatctaccgcta−3’
を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA5とする。)と2本の化学合成プライマーDNA:
5’−gatcgcgttatcggcnnygaaaacgccatgccatggaac−3’及び
5’−ggggatcccttatgcacagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcg−3’
を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA6とする。)を作製し、次に、DNA5とDNA6を同量混合したのち、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’及び
5’−ggggatcccttatgcacagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcg−3’
を用いてPCR法により増幅して得られたDNA(これをDNA7とする。)を作製した。DNA7をBamHIで切断した後、前記と同様にして寒天培地1に生育するコロニーを調べ、その結果を表2に示した。
この結果から、16番目のアミノ酸として好適なものとして、アラニン、フェニルアラニン、アスパラギンが、示された。
20番目のメチオニンの変異体の作製には、DNA1を鋳型として、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’と
5’−aggcaggttccatggrnnggcgttttccatgccgataac−3’
を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA8とする。)と2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggcatggaaaacgccnnyccatggaacctgcctgccgatc−3’及び
5’−ggggatcccttatgcacagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcg−3’
を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA9とする。)を作製し、次に、DNA8とDNA9を同量混合したのち、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’及び
5’−ggggatcccttatgcacagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcg−3’
を用いてPCR法により増幅して得られたDNA(これをDNA10とする。)を作製した。DNA10をBamHIで切断した後、前記と同様にして寒天培地1に生育するコロニーを調べ、その結果を表3に示した。
この結果から、20番目のアミノ酸として好適なものとして、イソロイシン、ロイシン、バリンが示された。
42番目のメチオニンの変異体の作製には、DNA1を鋳型として、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’と
5’−ccaggtatggcgcccrnnaatcacgggtttatttaaggtg−3’
を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA11とする。)と2本の化学合成プライマーDNA:
5’−aataaacccgtgattnnygggcgccatacctgggaatcaa−3’及び
5’−ggggatcccttatgcacagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcg−3’
を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA12とする。)を作製し、次に、DNA11とDNA12を同量混合したのち、2本の化学合成プライマーDNA:5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’及び
5’−ggggatcccttatgcacagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcg−3’
を用いてPCR法により増幅して得られたDNA(これをDNA13とする。)を作製した。DNA13をBamHIで切断した後、前記と同様にして寒天培地1に生育するコロニーを調べ、その結果を表4に示した。
この結果から、42番目のアミノ酸として好適なものとして、バリンとチロシンが示された。
92番目のメチオニンの変異体の作製には、DNA1を鋳型として、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’と
5’−tccgccgccaatcacrnngatttctggtacgtcacctgcg−3’
を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA14とする。)と2本の化学合成プライマーDNA:
5’−gacgtaccagaaatcnnygtgattggcggcggacgcgttt−3’及び
5’−ggggatcccttatgcacagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcg−3’
を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA15とする。)を作製し、次に、DNA14とDNA15を同量混合したのち、2本の化学合成プライマーDNA:5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’及び
5’−ggggatcccttatgcacagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcg−3’
を用いてPCR法により増幅して得られたDNA(これをDNA16とする。)を作製した。DNA16をBamHIで切断した後、前記と同様にして寒天培地1に生育するコロニーを調べ、その結果を表5に示した。
この結果から、92番目のアミノ酸として好適なものとして、フェニルアラニンとイソロイシンが示された。
次に、AS−DHFR−A1の42番目のアミノ酸として好適なアミノ酸であるバリンとチロシンと、92番目のアミノ酸として好適アミノ酸であるフェニルアラニンとイソロイシンとを組み合わせることにより、AS−DHFR−A1の42及び92番目のアミノ酸置換変異体を作製し、得られた変異体の塩基配列と酵素活性を測定した。
pAS−DHFR−A1を鋳型として、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’と
5’−ccaggtatggcgcccrwmaatcacgggtttatttaaggtg−3’
(rはaとgの塩基を、wはaとtの塩基を、mはaとcの塩基を表す、以下同様)を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA17とする。)と2本の化学合成プライマーDNA:
5’−aataaacccgtgattkwygggcgccatacctgggaatcaa−3’
(kはgとtの塩基を、wはaとtの塩基を、yはcとtの塩基を表す、以下同様)及び
5’−ggggatcccttatgcacagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcg−3’
を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA18とする。)を作製し、次に、DNA17とDNA18を同量混合したのち、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’及び
5’−ggggatcccttatgcacagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcg−3’
を用いてPCR法により増幅して得られたDNA(これをDNA19とする。)を作製した。
得られたDNA19を鋳型として、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’と
5−tccgccgccaatcacrawgatttctggtacgtcacctgcg−3’
を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA20とする。)と2本の化学合成プライマーDNA:
5’−gacgtaccagaaatcwtygtgattggcggcggacgcgttt−3’及び
5’−ggggatcccttatgcacagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcg−3’
を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA21とする。)を作製し、次に、DNA20とDNA21を同量混合したのち、2本の化学合成プライマーDNA:5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’及び
5’−ggggatcccttatgcacagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcg−3’
を用いてPCR法により増幅して得られたDNA(これをDNA22とする。)を作製した。
DNA22をBamHIで切断した後、前記と同様にして寒天培地1に生育するコロニーを調べ、その結果を表6に示した。
この結果、42番目がチロシンで92番目がフェニルアラニンの組み合わせが最も高い活性を示した(野性型酵素の約3倍以上)。この変異体を、AS−DHFR−A1−M42Y−M92Fと称する。また、AS−DHFR−A1−M42Y−M92Fの遺伝子を組み込んだ組み換えプラスミドを、pAS−DHFR−A1−M42Y−M92Fと名付けた。
AS−DHFR−A1−M42Y−M92Fの16番目のアミノ酸として好適なアミノ酸であるアラニン、フェニルアラニン、アスパラギンと、20番目のアミノ酸として好適アミノ酸であるイソロイシン、ロイシン、バリンとを組み合わせることにより、AS−DHFR−A1−M42Y−M92Fの16及び20番目のアミノ酸置換変異体を作製し、得られた変異体の塩基配列と酵素活性を測定した。
pAS−DHFR−A1−M42Y−M92Fを鋳型として、3本の化学合成プライマーDNA:5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’と
5’−−aggcaggttccacggrkwggcgttttcrytgccgataacgcgatctaccg−3’と
5’−aggcaggttccacggrkwggcgttttctgcgccgataacgcgatctaccg−3’
を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA23とする。)と3本の化学合成プライマーDNA:
5’−gatcgcgttatcggcarygaaaacgccwmyccgtggaacctgcctgccga−3’と
5’−gatcgcgttatcggcgcagaaaacgccwmyccgtggaacctgcctgccga−3’と
5’−ggggatcccttatgcacagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcg−3’
を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA24とする。)を作製し、次に、DNA23とDNA24を同量混合したのち、2本の化学合成プライマーDNA:5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’及び
5’−ggggatcccttatgcacagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcg−3’
を用いてPCR法により増幅して得られたDNA(これをDNA25とする。)を作製した。
DNA25をBamHIで切断した後、前記と同様にして寒天培地1に生育するコロニーを調べ、その結果を表7に示した。
この結果、16番目がアスパラギンで20番目がロイシンの組み合わせが最も高い活性を示した(野性型酵素の約10倍)。この変異体を、ANLYFと称する。また、ANLYFの遺伝子を組み込んだ組み換えプラスミドを、pANLYFと名付けた。その他の8個の変異体も野性型酵素を越える活性を示した。この結果は、硫黄原子を含まない酵素蛋白質として多くの可能性が有ることを示している。
配列表配列番号5に、ANLYFのアミノ酸配列を、配列表配列番号6に、制限酵素BamHIで切り出し可能で且つ適当なベクターのBamHI部位に導入することにより大腸菌で高発現可能なANLYF遺伝子配列をそれぞれ示している。
pANLYFを含む大腸菌を、3リッターの培地(15gの食塩、15gの酵母エキス、24gのトリプトン、30mgのアンピシリンナトリウムを含んでいる)で、37度で一晩培養し、湿重量約10gの菌体を得た。この菌体の無細胞抽出液に、ストレプトマイシン硫酸処理、硫安分画、メソトレキセートアフィニティクロマトグラフィー及びDEAEトヨパールクロマトグラフィーの精製操作を施すことにより、均一にまで蛋白質を精製し、約100mgの均一なANLYFが得られた。アミノ末端分析を行ったところ、ANLYFのアミノ末端の配列は、L−アラニン−L−イソロイシン−L−セリン−L−ロイシン−L−イソロイシン−であり、開始コドンに由来するL−メチオニンが取り除かれた配列をしていた。精製して得られた1mgのANLYFを0.1Mの過酸化水素水含む10mMリン酸緩衝液(pH7.0)で室温で一晩放置し、その分子量を調べたところ、処理していないANLYFの分子量と全く同じ値、17,905(計算値17,903)を示した。また、酵素活性も全く変化しなかった。一方、同様の処理をAS−DHFRにしたところ、過酸化水素水処理前の分子量が17,954(計算値17,950)、過酸化水素水処理後の分子量が18,034であり、全てのメチオニンがメチオニンスルホオキサイドに酸化されたことが示された。また、全てのメチオニンが酸化されることによりAS−DHFRの酵素活性が約5分の1に低下した。このように、硫黄原子を含まなくすることにより、抗酸化性が付与されたことが示された。
[実施例2] 硫黄原子を含まないジヒドロ葉酸還元酵素−キシラナーゼ融合酵素の作製
ジヒドロ葉酸還元酵素とキシラナーゼの融合遺伝子の作製のために、ジヒドロ葉酸還元酵素の遺伝子部分として配列表配列番号6の配列の1から560番目の配列を用い、キシラナーゼ遺伝子部分として、枯草菌の染色体DNAとして、シグマ社が販売している染色体DNA(製品番号D4041)を鋳型として、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−gctagcacag actactggcaaaat−3’と
5’−ttaccatacggtaacattcgacg−3’
を用いてPCR法により増幅して得られたDNA(これをDNA26とする。)を作製し、これをGly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Glyのコドンに対応する塩基配列で結合した融合遺伝子を作製した。 まず、pNALYFを鋳型とし、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’及び
5’−gccgccaccacccgagccaccgccaccacgacgctcgaggatttcgaacgaata−3’
を用いてPCR法により増幅して得られたDNA(これをDNA27とする。)を作製した。次に、DNA26を鋳型とし、2本の化学合成プライマーDNA:5’−ggtggcggtggctcgggtggtggcggcgctagcacagactactggcaaaattggactgat−3’及び
5’−ggggatccttaccatacggtaacattcgacgagccactactttga−3’
を用いてPCR法により増幅して得られたDNA(これをDNA28とする。)を作製した。DNA27とDNA28を同量混合したのち、2本の化学合成プライマーDNA:5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’及び
5’−ggggatccttaccatacggtaacattcgacgagccactactttga−3’
を用いてPCR法により増幅して得られたDNA(これをDNA29とする。)を作製した。
DNA29をBamHIで切断した後、前記と同様にして寒天培地1に生育するコロニーを10個取り、組み換えプラスミドを分離し、プラスミドに組み込んだ部分の塩基配列を調べ、目的の配列が組み込まれた組み換えプラスミドを分離し、これをpNLXYL−wtと名付けた。
配列表配列番号7に、ジヒドロ葉酸還元酵素−キシラナーゼ融合酵素のアミノ酸配列を、配列表配列番号8に、制限酵素BamHIで切り出し可能で且つ適当なベクターのBamHI部位に導入することにより大腸菌で高発現可能なジヒドロ葉酸還元酵素−キシラナーゼ融合酵素遺伝子配列をそれぞれ示している。配列表配列番号7の配列中1から159番目の配列がジヒドロ葉酸還元酵素(ANLYF変異体)の部分で、160から168番目の配列がジヒドロ葉酸還元酵素とキシラナーゼを無理なくつなぐためのリンカー配列であり、169から353番目の配列が野性型キシラナーゼの配列である。
キシラナーゼは、185アミノ酸より構成されるが、このうち158及び169番目のアミノ酸がメチオニンである。従って、ジヒドロ葉酸還元酵素−キシラナーゼ融合酵素においては、326番目と337番目の配列がメチオニンである。このジヒドロ葉酸還元酵素−キシラナーゼ融合酵素においてこれ以外に含硫アミノ酸は存在しない。
ジヒドロ葉酸還元酵素−キシラナーゼ融合酵素の326番目のメチオニンの変異体の作製には、pNLXYL−wtを鋳型として、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’と
5’−gacttggtaagcccaattactgcccagattgnntccatggctcttccatgcgtt−3’
を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA30とする。)を作製した。DNA30を鋳型として、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’と
5’−actttgatatccttctgtcgccatgacttggtaagcccaattactgcccagatt−3’
を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA31とする)を作製した。更に、DNA31を鋳型として、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’と
5’−ggggggatccttaccatacggtaacattcgacgagccactactttgatatccttctgtcgc−3’を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA32とする)を作製した。DNA32をBamHIで切断した後、前記と同様にして寒天培地1に生育するコロニーを調べた。また、各変異体のキシラナーゼ活性も同時に調べた。
測定したキシラナーゼとジヒドロ葉酸還元酵素の活性から、[キシラナーゼの活性]/[DHFR活性]の値を計算し、pNLXYL−wtを保有する菌体が示す[キシラナーゼの活性]/[DHFR活性]の値(これを野性型酵素の活性とする)と比較した。その結果を表8に示す。以下の表において、[キシラナーゼの活性]/[DHFR活性]は野生型酵素の活性を100%として、%で表示したものである。
この結果から、326番目のアミノ酸として好適なものとして、ロイシンが示された。
この変異体を、NL−キシラナーゼ(M158L)と名付けた。また、NL−キシラナーゼ(M158L)の遺伝子を組み込んだ組み換えプラスミドを、pNLXYL−M158Lと名付けた。
NL−キシラナーゼ(M158L)の337番目のメチオニンの変異体の作製には、pNLXYL−M158Lを鋳型として、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’と
5’−actttgatatccttctgtcgcgnngacttggtaagcccaattactgcccagatt−3’
を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA33とする。)を作製した。DNA33を鋳型として、2本の化学合成プライマーDNA:
5’−ggggatcctcttgacaattagttaactatttgttataatgtattc−3’と
5’−ggggggatccttaccatacggtaacattcgacgagccactactttgatatccttctgtcgc−3’を用いてPCR法により増幅したDNA(これをDNA34とする。)を作製した。DNA34をBamHIで切断した後、前記と同様にして寒天培地1に生育するコロニーを調べた。また、各変異体のキシラナーゼ活性も同時に調べた。その結果を表9に示す。
この結果から、326番目のアミノ酸として好適なものとして、イソロイシンが示された。
この変異体を、NL−キシラナーゼ(M158L,M169I)と名付けた。また、NL−キシラナーゼ(M158L,M169I)の遺伝子を組み込んだ組み換えプラスミドを、pNLXYL−LIと名付けた。
配列表配列番号9に、NL−キシラナーゼ(M158L,M169I)を、配列表配列番号10に、制限酵素BamHIで切り出し可能で且つ適当なベクターのBamHI部位に導入することにより大腸菌で高発現可能なNL−キシラナーゼ(M158L,M169I)をそれぞれ示している。
pNLXYL−LIを含む大腸菌を、3リッターの培地(15gの食塩、15gの酵母エキス、24gのトリプトン、30mgのアンピシリンナトリウムを含んでいる)で、37度で一晩培養し、湿重量約10gの菌体を得た。この菌体の無細胞抽出液に、ストレプトマイシン硫酸処理、硫安分画、メソトレキセートアフィニティクロマトグラフィー及びDEAEトヨパールクロマトグラフィーの精製操作を施すことにより、均一にまで蛋白質を精製し、約30mgの均一なNL−キシラナーゼ(M158L,M169I)が得られた。アミノ末端分析を行ったところ、NL−キシラナーゼ(M158L,M169I)のアミノ末端の配列は、L−アラニン−L−イソロイシン−L−セリン−L−ロイシン−L−イソロイシン−−であり、開始コドンに由来するL−メチオニンが取り除かれた配列をしていた。精製して得られた1mgのNL−キシラナーゼ(M158L,M169I)を0.1Mの過酸化水素水含む10mMリン酸緩衝液(pH7.0)で室温で一晩放置し、その分子量を調べたところ、処理していないNL−キシラナーゼ(M158L,M169I)の分子量と全く同じ値、38,775(計算値38,773)、を示した。また、酵素活性も全く変化しなかった。一方、同様の処理を変異処理する前のジヒドロ葉酸還元酵素−キシラナーゼ融合酵素に対して行ったところ、過酸化水素水処理前の分子量が38,813(計算値38,809)、過酸化水素水処理後の分子量が38,845であり、全てのメチオニンがメチオニンスルホオキサイドに酸化されたことが示された。また、全てのメチオニンが酸化されることによりキシラナーゼの酵素活性が約3分の1に低下した。このように、硫黄原子を含まなくすることにより、抗酸化性が付与されたことが示された。
産業上の利用可能性
本発明によれば、野生型酵素の活性を保持するとともに、過酸化水素等による酸化に対して耐性を有し、化学的に安定な酵素蛋白質、及びその製造方法が提供される。本発明の酵素蛋白質は、性状が安定していることから、バイオセンサー、バイオリアクター等の用途に幅広く使用することが可能なものであり、実用的価値の高いものである。
【配列表】
Claims (6)
- 次の工程からなる組み合わせ変異による硫黄原子を含まない酵素蛋白質の製造方法。(1)硫黄原子を含むアミノ酸(含硫アミノ酸)の配列上の位置がAi(i=1〜n)である、n個の含硫アミノ酸を含む全長m個のアミノ酸よりなる酵素蛋白質をコードするDNA配列のL−メチオニンをコードする開始コドンを、L−メチオニン−L−アラニン、L−メチオニン−L−セリン又はL−メチオニン−L−プロリンのコドンで置換した変異体遺伝子を作成し、これを宿主細胞で発現して得られた変異体酵素蛋白質の酵素活性を測定し、最も活性が高いものを選び得られる置換変異体をA1/MA1とする;
(2)その他の部位のAi(i=2〜n)の含硫アミノ酸をコードするコドンをL−アラニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−フェニルアラニン、L−グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−リジン、L−ロイシン、L−アスパラギン、L−プロリン、L−グルタミン、L−アルギニン、L−セリン、L−トレオニン、L−バリン、L−チロシン、及びL−トリプトファンからなる群から選択される他のアミノ酸をコードするコドンで置換した変異遺伝子を作成し、これを宿主細胞で発現して得られた変異体酵素蛋白質の酵素活性を測定し、酵素活性を示すp個の変異体酵素蛋白質を選び得られる置換変異体をAi/Bij(j=1〜p)とする;
(3)置換変異体のうち活性の高いものから最大3個の置換変異体Ai/Bi1、Ai/Bi2及びAi/Bi3を選択するが、ここで置換変異体はAi/Bi1>Ai/Bi2>Ai/Bi3>・・>Ai/Bipの順に活性が小さくなるものとする;
(4)全ての部位Ai(i=2〜n)の含硫アミノ酸について、(2)、(3)と同様にして活性を有する置換変異体を選択し、それらの変異体とA1/MA1の変異体を全て組み合わせた最大3×(n−1)個の変異体を作成し、それらの酵素活性を測定して元の酵素蛋白質と同等以上の活性を有する変異体酵素蛋白質を作成する。 - 次の工程からなる段階的変異による硫黄原子を含まない酵素蛋白質の製造方法。
(1)硫黄原子を含むアミノ酸(含硫アミノ酸)の配列上の位置がAi(i=1〜n)である、n個の含硫アミノ酸を含む全長m個のアミノ酸よりなる酵素蛋白質をコードするDNA配列のL−メチオニンをコードする開始コドンを、L−メチオニン−L−アラニン、L−メチオニン−L−セリン又はL−メチオニン−L−プロリンのコドンで置換した変異体遺伝子を作成し、これを宿主細胞で発現して得られた変異体酵素蛋白質の酵素活性を測定し、最も活性が高いものを選び得られる置換変異体をA1/MA1とする;
(2)A1/MA1変異体のA2の含硫アミノ酸をコードするコドンをL−アラニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−フェニルアラニン、L−グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−リジン、L−ロイシン、L−アスパラギン、L−プロリン、L−グルタミン、L−アルギニン、L−セリン、L−トレオニン、L−バリン、L−チロシン、及びL−トリプトファンからなる群から選択される他のアミノ酸をコードするコドンで置換した変異遺伝子を作成し、これを宿主細胞で発現して得られた2重変異体酵素蛋白質の酵素活性を測定し、活性の高いものから最大3個の2重変異体を選ぶ;
(3)得られた2重変異体のそれぞれのA3の含硫アミノ酸をコードするコドンをL−アラニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−フェニルアラニン、L−グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−リジン、L−ロイシン、L−アスパラギン、L−プロリン、L−グルタミン、L−アルギニン、L−セリン、L−トレオニン、L−バリン、L−チロシン、及びL−トリプトファンからなる群から選択される他のアミノ酸をコードするコドンで置換した変異遺伝子を作成し、これを宿主細胞で発現して得られた3重変異体酵素蛋白質の酵素活性を測定し、活性の高いものから最大3個の3重変異体を選ぶ;
(4)以下同様に、n重変異体を作成し、ここでnは4以上であり置換したアミノ酸の数を表し、最後のn重変異体の酵素活性を調べ、元の酵素の活性と同等以上の活性を有する変異体酵素蛋白質を作成する。 - 段階的に変異する部位の順番が、A1、A2、・・・、Anの順列組み合わせの種類(n!通り)のうちどれか一つであることを特徴とする請求項2に記載の段階的変異による硫黄原子を含まない酵素蛋白質の製造方法。
- 含硫アミノ酸の配列上の位置がAi(i=1〜n)である、n個の含硫アミノ酸を含む全長m個のアミノ酸よりなる酵素蛋白質において、k個の部位に関しては請求項1に記載の方法を行い、ここでkはnより小さい自然数であり、残りのn−k個の部位に関しては請求項2に記載の方法を行うことを特徴とする硫黄原子を含まない酵素蛋白質の製造方法。
- L−アラニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−フェニルアラニン、L−グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−リジン、L−ロイシン、L−アスパラギン、L−プロリン、L−グルタミン、L−アルギニン、L−セリン、L−トレオニン、L−バリン、L−チロシン、L−トリプトファン、L−システイン、及びL−メチオニンの20種類のL−アミノ酸残基から構成される酵素蛋白質のすべてのL−システイン及びL−メチオニン残基をL−アラニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−フェニルアラニン、L−グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−リジン、L−ロイシン、L−アスパラギン、L−プロリン、L−グルタミン、L−アルギニン、L−セリン、L−トレオニン、L−バリン、L−チロシン、及びL−トリプトファンの18種類のL−アミノ酸残基のいずれかに置換した、元の酵素蛋白質の活性を保持し耐酸化性を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法で製造した硫黄原子を含まない酵素蛋白質であって、ジヒドロ葉酸還元酵素活性を保持し耐酸化性を有することを特徴とする硫黄原子を含まない酵素蛋白質。
- L−アラニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−フェニルアラニン、L−グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−リジン、L−ロイシン、L−アスパラギン、L−プロリン、L−グルタミン、L−アルギニン、L−セリン、L−トレオニン、L−バリン、L−チロシン、L−トリプトファン、L−システイン、及びL−メチオニンの20種類のL−アミノ酸残基から構成される酵素蛋白質のすべてのL−システイン及びL−メチオニン残基をL−アラニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−フェニルアラニン、L−グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−リジン、L−ロイシン、L−アスパラギン、L−プロリン、L−グルタミン、L−アルギニン、L−セリン、L−トレオニン、L−バリン、L−チロシン、及びL−トリプトファンの18種類のL−アミノ酸残基のいずれかに置換した、元の酵素蛋白質の活性を保持し耐酸化性を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法で製造した硫黄原子を含まない酵素蛋白質であって、キシラナーゼの活性を保持し耐酸化性を有することを特徴とする硫黄原子を含まない酵素蛋白質。
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