JP5654739B2 - ニトリルヒドラターゼ成熟化方法 - Google Patents
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Description
NHaseは、高分子量型のNHaseおよび低分子量型のNHase(H-NHaseおよびL-NHase)に分類される。両酵素は、異なる物理化学的性質および基質特異性を示す一方で、いずれのNHaseも酵素に含まれるコバルトがアクリルアミドおよびニコチンアミドの生成のための活性中心として機能することが知られている(非特許文献1および2)。NHaseは、Rhodococcus rhodochrous J1などのロドコッカス(Rhodococcus)属に属する微生物によって産生される。このようなNHaseを生産する微生物を用いた工業レベルでのアクリルアミドの生産が、日本、米国、フランスを初めとする世界中で行われている(非特許文献3および4)。
(i)可逆的金属イオン結合;
(ii)金属イオンまたは補因子の金属シャペロンによる送達;
(iii)金属結合部位を生み出す翻訳後修飾;
(iv)金属の他の成分への相乗的結合(synergistic binding);
(v)金属含有補因子の合成;
(vi)電子移動を伴う金属取り込み;
(vii)アポタンパク質特異的分子シャペロンの必要性等(非特許文献6および7)
全ての場合において、アポタンパク質の成分は、最終的なホロタンパク質に残っている。
αサブユニット中のシステイン修飾はコバルトを含むNhlAE(ホロαe2)で起き、コバルトを含まないNhlAE(アポαe2)では起こらないことが実証されており、システイン酸化はセルフサブユニットスワッピングによる成熟化において重要な役割を果たすことが明らかにされている(非特許文献8)。
[1] (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびeサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αe2と
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αe2の成熟化方法。
[2] (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、上記[1]に記載の方法により得られた成熟タンパク質複合体αe2とを接触させて成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αe2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αe2と
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αe2の成熟化方法。
[3] (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびeサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αe2と
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法。
[4] (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、上記[1]または[2]に記載の方法により得られた成熟タンパク質複合体αe2とを接触させて成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αe2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αe2と
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法。
[5] タンパク質複合体αe2が、以下の(a)または(b)のタンパク質、および(c)または(d)のタンパク質を含む、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の方法:
(a) 配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b) 配列番号2に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくはそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含み、かつ、コバルト元素を含有可能なタンパク質;
(c) 配列番号4に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(d) 配列番号4に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくはそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含み、かつ、前記(a)もしくは(b)のタンパク質と複合体を形成するタンパク質。
[6] タンパク質複合体αe2が、Rhodococcus属に属する微生物由来のものである、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の方法。
[7] Rhodococcus属に属する微生物が、Rhodococcus rhodochrous J1菌である、上記[6]に記載の方法。
[8] 低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質が、Rhodococcus属に属する微生物由来のものである、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の方法。
[9] Rhodococcus属に属する微生物が、Rhodococcus rhodochrous J1菌である、上記[8]に記載の方法。
[10] 上記[3]または[4]に記載の方法で成熟化した低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質をニトリル化合物に接触させることを含む、アミド化合物の生産方法。
[11] 上記[3]または[4]に記載の方法で成熟化した低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質をアクリルニトリルに接触させること含む、アクリルアミドの生産方法。
[12] 上記[3]または[4]に記載の方法で成熟化した低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質を3−シアノピリジンに接触させることを含む、ニコチンアミドの生産方法。
[13] (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびgサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αg2と
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αg2の成熟化方法。
[14] (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、上記[13]に記載の方法により得られた成熟タンパク質複合体αg2とを接触させて成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αg2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αg2と
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αg2の成熟化方法。
[15] (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびgサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αg2と
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法。
[16] (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、上記[13]または[14]に記載の方法により得られた成熟タンパク質複合体αg2とを接触させて成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αg2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αg2と
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法。
[17] タンパク質複合体αg2が、以下の(a)または(b)のタンパク質、および(c)または(d)のタンパク質を含む、上記[13]〜[16]のいずれか1つに記載の方法:
(a) 配列番号14に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b) 配列番号14に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくはそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含み、かつ、コバルト元素を含有可能なタンパク質;
(c) 配列番号16に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(d) 配列番号16に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくはそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含み、かつ、前記(a)もしくは(b)のタンパク質と複合体を形成するタンパク質。
[18] タンパク質複合体αg2が、Rhodococcus属に属する微生物由来のものである、上記[13]〜[16]のいずれか1つに記載の方法。
[19] Rhodococcus属に属する微生物が、Rhodococcus rhodochrous J1菌である、上記[18]に記載の方法。
[20] 高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質が、Rhodococcus属に属する微生物由来のものである、上記[13]〜[16]のいずれか1つに記載の方法。
[21] Rhodococcus属に属する微生物が、Rhodococcus rhodochrous J1菌である、上記[20]に記載の方法。
[22] 上記[15]または[16]に記載の方法で成熟化した高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質をニトリル化合物に接触させることを含む、アミド化合物の生産方法。
[23] 上記[15]または[16]に記載の方法で成熟化した高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質をアクリルニトリルに接触させること含む、アクリルアミドの生産方法。
[24] 上記[15]または[16]に記載の方法で成熟化した高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質を3−シアノピリジンに接触させることを含む、ニコチンアミドの生産方法。
[25] 還元剤がジチオスレイトールまたはグルタチオンである、上記[1]〜[4]および[13]〜[16]のいずれか1つに記載の方法。
本発明は、
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびeサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αe2と
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αe2の成熟化方法を提供する。
また、本発明は、
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびeサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αe2と
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法を提供する。
本発明者らはこれまでに、低分子量型ニトリルヒドラターゼ(L-NHase)にコバルトが導入されるメカニズムを解明している。図1Bに示すように、L-NHaseへのコバルトの導入は、コバルト元素低含有型のL-NHase(アポL-NHase)と、コバルト高含有型のそのメディエータ(Cys-SO2-およびCys-SO-の金属配位子を含むホロNhlAE)との間で起こるサブユニットの交換によって生じることを明らかにした。すなわち、ニトリルヒドラターゼのコバルト元素低含有型αサブユニットを、コバルト元素高含有型αサブユニットに交換することで(「セルフサブユニットスワッピング」)、ニトリルヒドラターゼの金属元素含有量を高め、酵素活性の高いニトリルヒドラターゼへと成熟化することができることを見出した(図1B)。図1B中Step 1はin vivo(宿主内)、Step 2はin vitroでの様子を示す。
「成熟化ニトリルヒドラターゼ」とは、構造変換により、活性中心金属含有量が高く活性化した状態の酵素を意味する。本明細書において、「成熟化ニトリルヒドラターゼ」は、「ホロ酵素α2β2」とも称する。なお、本発明において、活性中心金属は、コバルトや鉄等が挙げられ、コバルトが好ましい。
本発明者らの研究の結果、高分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化の媒体であるタンパク質複合体αg2(NhhAG)が、NhhGとH-NHaseのαサブユニットとからなることを見い出した。そして、タンパク質複合体αg2のαサブユニットを所定の条件において生成させると、コバルト元素高含有型で取得できることが判明した。即ち、本発明者らは、L-NHaseに加えて、H-NHaseの成熟化もセルフサブユニットスワッピングに依存することを確認し、H-NHase遺伝子(nhhBA)の直ぐ下流に存在するnhhG遺伝子にコードされるgサブユニットが、機能的なH-NHase発現に不可欠であることを見出した。
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびgサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αg2と
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αg2の成熟化方法を提供する。
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびgサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αg2と
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法を提供する。
なお、H-NHaseの成熟化についても、「成熟化ニトリルヒドラターゼ」の意味は、上記と同様である。また、αg2の活性中心金属についても、その例として、コバルトや鉄等が挙げられるが、コバルトが好ましい。
従来、成熟化ニトリルヒドラターゼを生産するには、ニトリルヒドラターゼ構造遺伝子と共に、ニトリルヒドラターゼの成熟化に関わる遺伝子を同一の宿主内に導入し、成熟化ニトリルヒドラターゼとして発現させる必要があった。しかし、上記のようなセルフサブユニットスワッピングを利用したニトリルヒドラターゼ成熟化方法を用いれば、一旦、未成熟なまま発現したニトリルヒドラターゼ、または成熟化ニトリルヒドラターゼからコバルトが脱落して生じたニトリルヒドラターゼであっても、発現後に成熟化させることが可能である。従って、未成熟ニトリルヒドラターゼから、別に発現させたタンパク質複合体αe2を用いてニトリルヒドラターゼ成熟化を行うことによって、成熟化ニトリルヒドラターゼを工業的に生産することができる。
In vitroにおいてコバルトは、未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼ(アポL-NHase)のコバルトを含まないサブユニット(アポαサブユニット)に挿入されるのではなく、未成熟タンパク質複合体αe2(アポNhlAE)のアポαサブユニットに直接挿入され、成熟化タンパク質複合体αe2(ホロNhlAE)が形成される。そして、この成熟化タンパク質複合体αe2は、セルフサブユニットスワッピングにより、未成熟ニトリルヒドラターゼを成熟化させることができる。
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、前記「低分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化」の項で説明した未成熟タンパク質複合体αe2の成熟化方法により得られた成熟タンパク質複合体αe2とを接触させて成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αe2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αe2と
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αe2の成熟化方法を提供する。
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、前記「低分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化」の項で説明した未成熟タンパク質複合体αe2の成熟化方法により得られた成熟タンパク質複合体αe2とを接触させて成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αe2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αe2と
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法も提供する。
前記「高分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化」で述べたように、L-NHaseの成熟化とH-NHaseの成熟化は、共にセルフサブユニットスワッピング機構に依存する点で共通する。従って、複合タンパク質αg2も、αe2と同様に、未成熟型H-NHaseとの接触によって生じた未成熟型αg2にコバルトを挿入することによって成熟化させることが可能であると考えられる。また、このように、成熟化された複合タンパク質αg2は、L-NHaseの場合と同様に、再び未成熟型H-NHaseの成熟化に利用できると考えられる。
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、前記「高分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化」の項で説明した未成熟タンパク質複合体αg2の成熟化方法により得られた成熟タンパク質複合体αg2とを接触させて成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αg2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αg2と
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αg2の成熟化方法を提供する。
(i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、前記「高分子量型ニトリルヒドラターゼの成熟化」の項で説明した未成熟タンパク質複合体αg2の成熟化方法により得られた成熟タンパク質複合体αg2とを接触させて成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αg2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αg2と
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法を提供する。
ここで、「成熟化タンパク質複合体」とは、構造変換により、複合体を構成するαサブユニット中の活性中心金属(コバルト元素)含有量が高く、活性化した状態の複合体を意味する。本明細書において、「成熟化タンパク質複合体αe2/αg2」または「成熟化NhlAE/NhhAG」は、「コバルト高含有型タンパク質複合体αe2/αg2(NhlAE/NhhAG)」、「ホロタンパク質複合体αe2/αg2(NhlAE/NhhAG)」または「ホロαe2/αg2」と称することもある。
本発明タンパク質複合体αe2/αg2の成熟化方法は、微生物由来のタンパク質複合体αe2/αg2およびニトリルヒドラターゼの成熟化に用いることができる。本発明において、これらを産生する微生物の種は特に限定されないが、例えば、Achromobacter属、Acinetobacter属、Aeromonas属、Agrobacterium属、Bacillus属、Citrobacter属、Corynebacterium属、Enterobacter属、Erwinia属、Geobacillus属、Klebsiella属、Micrococcus属、Nocardia属、Pseudomonas属、Pseudonocardia属、Rhodococcus属、Streptomyces属、Thermophila属、Rhizobium属およびXanthobacter属等に属する微生物由来のタンパク質複合体αe2およびニトリルヒドラターゼに用いることができる。好ましい微生物の例は、Rhodococcusに属する微生物であり、特に好ましくはRhodococcus rhodochrous J1菌である。
(i) 対象タンパク質をコードする遺伝子をnhlE遺伝子と共にコバルトの存在下で前述の微生物中で発現させてタンパク質複合体を生成させる
(ii) 該微生物をコバルト含有培地中で培養した後に前記タンパク質複合体に含まれる対象タンパク質のコバルト含有量を測定する
(iii) 該タンパク質複合体をアポL-NHaseと接触させ、接触により生じたL-NHaseがニトリル化合物を分解できるかどうかを調べる
確認方法の具体例としては、下記の実施例1で行った実験の操作が挙げられるが、これに限定されるものではない。
配列番号2に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは挿入またはそれらの組み合わされたアミノ酸配列としては、例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列に対して、例えば、30%以上、33%以上、40%以上、41%以上、60%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を挙げることができる。
(i) 対象タンパク質をコードする遺伝子をnhlA遺伝子と共に前述の微生物中で発現させて、タンパク質複合体を生成させる
(ii) 該微生物をコバルト含有培地中で培養した後に前記タンパク質複合体に含まれるαサブユニットのコバルト含有量を測定する
(iii) 該タンパク質複合体をアポL-NHaseと接触させ、接触により生じたL-NHaseがニトリル化合物を分解できるかどうかを調べる
確認方法の具体例としては、下記の実施例1で行った実験の操作が挙げられるが、これに限定されるものではない。
配列番号4に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは挿入またはそれらの組み合わされたアミノ酸配列としては、例えば、配列番号4に示すアミノ酸配列に対して、例えば、30%以上、33%以上、40%以上、41%以上、60%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を挙げることができる。本発明において、実施例7に示す活性化タンパク質もeサブユニットに含まれる。
さらに、本発明においてNhlEタンパク質が、NhlAタンパク質へのコバルトの導入または低分子量型ニトリルヒドラターゼαサブユニットのセルフサブユニットスワッピングにおいて、L-NHase形成のシャペロンとして機能するタンパク質であると、より好ましい。この場合「L-NHase形成のシャペロン」とは、NhlAタンパク質やL-NHaseの立体構造の形成や、NhlAタンパク質の運搬を助ける機能を有するタンパク質を意味する。「NhlAタンパク質の運搬を助ける機能」とは、NhlAタンパク質とタンパク質複合体αe2を形成して、未成熟型L-NHaseのαサブユニットとタンパク質複合体αe2のαサブユニットとのセルフサブユニットスワッピングによって該未成熟L-NHaseを成熟化させる機能を意味する。
これらの遺伝子を含む微生物の例として、例えば、Achromobacter属、Acinetobacter属、Aeromonas属、Agrobacterium属、Bacillus属、Citrobacter属、Corynebacterium属、Enterobacter属、Erwinia属、Geobacillus属、Klebsiella属、Micrococcus属、Nocardia属、Pseudomonas属、Pseudonocardia属、Rhodococcus属、Streptomyces属、Thermophila属、Rhizobium属およびXanthobacter属などの微生物を挙げることができる。本発明において、これらの遺伝子を含む好ましい微生物はRhodococcus属に属する微生物である。これらの遺伝子の代表例として、Rhodococcus rhodochrous J1菌における遺伝子の塩基配列を配列番号5に示す。
(i) 対象タンパク質をコードする遺伝子をnhhG遺伝子と共にコバルトの存在下で前述の微生物中で発現させてタンパク質複合体を生成させる
(ii) 該微生物をコバルト含有培地中で培養した後に前記タンパク質複合体に含まれる対象タンパク質のコバルト含有量を測定する
(iii) 該タンパク質複合体をアポH-NHaseと接触させ、接触により生じたH-NHaseがニトリル化合物を分解できるかどうかを調べる
確認方法の具体例としては、下記の実施例10および11で行った実験の操作が挙げられるが、これに限定されるものではない。
配列番号14に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは挿入またはそれらの組み合わされたアミノ酸配列としては、例えば、配列番号14に示すアミノ酸配列に対して、例えば、30%以上、33%以上、40%以上、41%以上、60%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を挙げることができる。
(i) 対象タンパク質をコードする遺伝子をnhhG遺伝子と共に前述の微生物中で発現させて、タンパク質複合体を精製する
(ii) 該微生物をコバルト含有培地中で培養した後に前記タンパク質複合体に含まれるαサブユニットのコバルト含有量を測定する
(iii) 該タンパク質複合体をアポH-NHaseと接触させ、接触により生じたH-NHaseがニトリル化合物を分解できるかどうかを調べる
確認方法の具体例としては、下記の実施例10および11で行った実験の操作が挙げられるが、これに限定されるものではない。
配列番号16に示すアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは挿入またはそれらの組み合わされたアミノ酸配列としては、例えば、配列番号16に示すアミノ酸配列に対して、例えば、30%以上、33%以上、40%以上、41%以上、60%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を挙げることができる。
さらに、本発明においてNhhGタンパク質が、NhhAタンパク質へのコバルトの導入または高分子量型ニトリルヒドラターゼαサブユニットのセルフサブユニットスワッピングにおいて、H-NHase形成のシャペロンとして機能するタンパク質であると、より好ましい。この場合「H-NHase形成のシャペロン」とは、NhhAタンパク質やH-NHaseの立体構造の形成や、NhhAタンパク質の運搬を助ける機能を有するタンパク質を意味する。「NhhAタンパク質の運搬を助ける機能」とは、NhhAタンパク質とタンパク質複合体αg2を形成し、未成熟型H-NHaseのαサブユニットとタンパク質複合体αg2のαサブユニットとのセルフサブユニットスワッピングによって該未成熟H-NHaseを成熟化させる機能を意味する。
これらの遺伝子を含む微生物の例として、例えば、Achromobacter属、Acinetobacter属、Aeromonas属、Agrobacterium属、Bacillus属、Citrobacter属、Corynebacterium属、Enterobacter属、Erwinia属、Geobacillus属、Klebsiella属、Micrococcus属、Nocardia属、Pseudomonas属、Pseudonocardia属、Rhodococcus属、Streptomyces属、Thermophila属、Rhizobium属およびXanthobacter属などの微生物を挙げることができる。本発明において、これらの遺伝子を含む好ましい微生物はRhodococcus属に属する微生物である。これらの遺伝子の代表例として、Rhodococcus rhodochrous J1菌における遺伝子の塩基配列を配列番号17に示す。
宿主としては、nhlAEまたはnhhAGが由来する上記微生物、大腸菌、酵母、動物細胞、植物細胞などを用いることができる。
タンパク質複合体αe2/αg2の成熟化に用いられる金属は限定されないが、コバルトや鉄が好ましく、コバルトがより好ましい。コバルトは、コバルトイオンとして反応系中に存在する。コバルトイオンはCo2+であっても、Co3+であってもよく、コバルトのレドックス状態には限定されない。Co2+の供与体としてはCoCl2が、Co3+の供与体としては[Co(NH3)6]Cl3が例示される。本発明において、コバルトイオンは、L-NHaseの成熟化またはH-NHaseの成熟化のいずれの場合においても、0.5〜100μM、好ましくは1〜80μM、より好ましくは5〜80μM、もっとも好ましくは10μMの最終濃度で用いる。
まず、nhlE遺伝子とnhlA遺伝子の2つのORFを持つプラスミドを宿主に導入し、未成熟タンパク質複合体αe2を精製する。発明者らの研究の結果、該タンパク質複合体を構成するNhlAタンパク質(αサブユニット)はコバルト元素低含有型であり、精製タンパク質複合体αe2中のNhlAタンパク質がコバルト元素高含有型であるためには、前記複合体をコバルトの存在下に取得する必要があることが分かっている。
まず、nhhG遺伝子とnhhA遺伝子の2つのORFを持つプラスミドを宿主に導入し、未成熟タンパク質複合体αg2を精製する。該タンパク質複合体を構成するNhhAタンパク質(αサブユニット)はコバルト元素低含有型であり、精製タンパク質複合体αg2中のNhhAタンパク質がコバルト元素高含有型であるためには、前記複合体をコバルトの存在下に取得する必要がある。
L-NHaseを成熟化させる場合、未成熟ニトリルヒドラターゼ1モルに対して、タンパク質複合体αe2を0.1〜10倍量、好ましくは1〜5倍量、より好ましくは2倍量接触させると、使用するαe2量に対して成熟化ニトリルヒドラターゼを効率よく取得することができる。
一方、H-NHaseを成熟化させる場合、未成熟ニトリルヒドラターゼ1モルに対して、タンパク質複合体αg2を0.1〜50倍量、好ましくは5〜20倍量、より好ましくは10倍量接触させると、使用するαg2量に対して成熟化ニトリルヒドラターゼを効率よく取得することができる。
一般的には、未成熟ニトリルヒドラターゼに対するメディエータ(αe2/αg2)の量が多い程、未成熟ニトリルヒドラターゼの成熟化の反応速度は速くなる。
ニトリルヒドラターゼの成熟化の別の態様では、本発明のタンパク質複合体成熟化方法によって生産した成熟化タンパク質複合体αe2/αg2と、未成熟ニトリルヒドラターゼとをin vitroにおいて混合して接触させることで、ニトリルヒドラターゼを成熟化する。
実施例1〜7においては、低分子量型NHase(L-NHase)について実験を行い、実施例8〜14においては、高分子量型NHase(H-NHase)について実験を行った。
(i)L-NHaseの発現
ベクタープラスミドpREIT19の宿主としてRhodococcus fascians DSM43985を用いた。
ベクタープラスミドpREIT19は、nhlBAE、nhlAEおよびnhlBA-(α-A3G)の発現に用いた。これらの発現ベクターは特開2008-118959の実施例1と同様の方法で作製した。すなわち、Rhodococcus rhodochrous J1菌(特開平05−219972号公報参照)由来のニトリルヒドラターゼ遺伝子を含むプラスミドpLJK60(J.Biol.Chem.,271,15796-15802 1996)を鋳型としてPCRを行い、得られたPCR産物を本発明者らが先に発明したプラスミドpREIT19(特願2004-380940)に連結して、発現ベクターを得た。
システインが修飾されたコバルト元素高含有型タンパク質複合体αe2(以下、「ホロαe2」ともいう)を発現させる場合は、pREIT-nhlAEを担持したR. fascians DSM43985形質転換株を、CoCl2・6H2O(0.1 g/L)およびカナマイシン(50μg/ml)を含む2YT培地にて28℃で72時間生育し、12時間インキュベーションした後に誘導物質として0.1%(v/v)イソバレロニトリルを培地に添加した。
また、成熟化したL-NHase(以下、「ホロ酵素α2β2」)を発現させる場合は、pREIT-nhlBAEを担持したR. fascians DSM43985形質転換株を同一条件下にて96時間発育させた。ただし、誘導物質を24時間ごとに連続して合計4回添加して、発現させるL-NHaseの量を増やした。
タンパク質の精製は、全ての精製段階で0.5 mM DTTを含む10 mM KPB(pH 7.5)を使用したこと以外は、非特許文献8に記載の方法と同じ方法で行った。R. fascians DSM43985形質転換株が生成したL-NHaseおよびNhlAEは、Hiload 16/60 Superdex 200-pg(GE Healthcare UK社)カラムおよびResource Q(6 ml)(GE Healthcare UK社)カラムを用いて、混合物から精製した。
なお、本発明者の研究では、上記条件下で精製したアポ酵素L-NHaseは主にヘテロ四量体(それぞれアポα2β2およびアポ(α-A3G)2β2)であり、ヘテロ二量体(アポαβおよびアポ(α-A3G)β)はほとんど確認されなかった。したがって、実施例では精製したアポα2β2およびアポ(α-A3G)2β2をアポ酵素NHaseとして使用した。
L-NHase活性は、10 mM KPB(pH 7.5)、20 mM 3-シアノピリジンおよび活性化緩衝液を含む10μlの酵素または適量の酵素を含む反応混合液(0.5 ml)中でアッセイした。20℃で20分間反応させた後、アセトニトリル0.5 mlを添加して反応を終了させた。反応混合液中で生成されたニコチンアミドの量を、非特許文献8に記載の方法で測定した。L-NHase活性1単位の定義は、20℃でニコチンアミド1μmol/分の生成を触媒する酵素の量とした。
1 mm光路セルとサーマルインキュベーションシステム(20℃)を備えたJASCO分光偏光計(モデルJ-720W)(日本分光工業株式会社、東京)を用いてCD測定を実施した。CDスペクトルは、10 mM KPB (pH 7.5)中のタンパク質濃度0.2 mg/mlとし、遠紫外線領域(200〜260 nm)において得た。
UV-Visスペクトルは、島津UV-1700分光光度計(京都)を用いて室温で得た。
酵素を10 mM KPB(pH 7.5)に対して透析し、3.0 mg/mlに調製した。
特に明記しない限り、ルーチンのアポα2β2活性化緩衝液には、10 mM KPB(pH 7.5)、10μMコバルト、2 mM DTTを含有させた。活性化緩衝液中のアポα2β2およびアポαe2の最終濃度は0.1 mg/mlおよび0.4 mg/mlとした。特に明記しない限り、コバルト供与体としてCoCl2溶液を用いた。混合物は28℃でインキュベートした。
本実施例では、コバルトを含むホロL-NHaseの形成過程を検討した。
アポL-NHase(アポα2β2)を10 mMカリウム-リン酸緩衝液(KPB)(pH 7.5)中でコバルト(最終濃度20μM)と混合した後、混合物中のL-NHase活性を測定した。
その結果、図2に示すように、L-NHaseの活性に有意な上昇は認められなかった(○、「apo-α2β2+Co2+」)。
しかし、アポα2β2を、アポαe2およびコバルトと混合すると、L-NHase活性は上昇し(□、「apo-α2β2+apo-αe2+Co2+」)、さらに、0.5 mMジチオスレイトール(DTT)をこの混合物に追加するとL-NHase活性が有意に上昇することが判明した(■、「apo-α2β2+apo-αe2+Co2++DTT」)。
一般に、金属シャペロンは、標的とするアポタンパク質に適切な金属イオンを直接導入し、その結果として機能性ホロタンパク質が形成される。L-NHaseの場合、補因子として機能するコバルトがL-NHaseの活性化にとって不可欠であることを考慮すると、in vitroでアポαe2がシャペロンとして機能し、コバルトをアポα2β2に導入した結果としてホロα2β2が形成され、NHase活性が上昇したと考えられる。
これらの結果から、in vitroにおいて、アポα2β2はコバルト存在下でアポαe2によって翻訳後活性化され、このニトリルヒドラターゼの成熟化はDTTを追加することで促進されることが示された。
その結果、活性混合物中のL-NHase活性は、DTT濃度が高くなるに従って上昇したが、DTT濃度が4 mMを超えると活性は低下した(図3A)。これらの結果から、コバルト存在下でアポαe2がアポα2β2を活性化する際には一定量のDTTが必要であり、DTTの濃度は2 mMが適していることが示された。
その結果、10μMのコバルトを添加すると、活性混合物中のL-NHaseの活性は平衡に達した(図3B)。
したがって、2 mMのDTTと10μMのコバルトを含む条件がニトリルヒドラターゼの成熟化に最適な条件であるといえるため、以降の実験では特に言及する場合以外はこの条件で行った。
実施例1では、in vitroでアポαe2がコバルトをアポα2β2に導入した結果としてホロα2β2が形成されることが示された。実施例1でのホロα2β2形成メカニズムとして以下の2つのメカニズムが考えられる。
(i)アポαe2によりアポα2β2にコバルトが直接挿入されてホロα2β2が形成する(金属シャペロンとしてのアポαe2)。
(ii)コバルトとDTTの存在下でアポαe2がホロαe2に変換され、生じたホロαe2とアポα2β2との間のセルフサブユニットスワッピングによりホロα2β2が形成する。
したがって、本実施例では、ホロα2β2の形成メカニズムを検討した。
アポ(α-A3G)2β2をアポαe2、コバルトおよびDTTと混合し、12時間後に生じたL-NHaseを混合物から精製した。以下、生成した酵素を「R-アポ(α-A3G)2β2」と称することもある。R-アポ(α-A3G)2β2の精製は、SDS-PAGEで確認した。図4Aに、反応混合物の0時間後(レーン1)、12時間後(レーン2)のSDS-PAGE、および精製R-アポ(α-A3G)2β2のSDS-PAGE(レーン3)を示す。
本実施例において、酵素中のコバルトイオンの測定は、以下のように行った。まず、酵素を1 mM KPB(pH 7.5)に対して透析し、0.5 mg/mlに調製した。透析後、日本ジャーレル・アッシュICAP-575発光分光器を用いて、波長238.89 nm、積分時間3秒、850 mVで酵素を検出した。
表1のコバルト含有量(「Cobalt content」)および比活性(「Specific activity」)の値は、同一条件で3回以上実施したときに得られた数値の「平均値±標準偏差」を示す。「*」は未試験であることを示す。
配列解析の結果、R-アポ(α-A3G)2β2のαサブユニットの3番目のアミノ酸はアラニンであることが明らかになった(表1)。このことから、アポ(α-A3G)2β2のアポαサブユニットは、アポαe2のαサブユニットと置き換わることが示された。
この結果から、コバルトおよびDTTの存在下におけるアポαe2によるアポα2β2の翻訳後活性化は、セルフサブユニットスワッピングによる(上記(ii)のメカニズム)ことが確認された。
本発明者らは、セルフサブユニットスワッピングはアポα2β2とホロαe2との間で起こるが、アポα2β2とアポαe2との間では生じないことをすでに明らかにしている(非特許文献8)。
本実施例では、アポαe2、コバルトおよびDTTの存在下に、アポα2β2がセルフサブユニットスワッピングにより翻訳後活性化されるメカニズムを検討した。
精製したアポαe2(R-アポαe2)の性質を、ホロαe2およびアポαe2と比較した。コバルト含有量の測定結果から、R-アポαe2には1 molのαe2中0.98 ± 0.08 molイオンが含まれており(表1「R-apo-αe2」)、ホロαe2における含有量(0.85±0.03 mol、表1「Holo-αe2」))と同程度であることが明らかになった(表1)。
また、R-アポαe2、ホロαe2およびアポαe2は同様のCDスペクトルを示した(図5B)。しかしながら、R-アポαe2のUV-Visスペクトルはホロαe2のUV-Visスペクトルと類似していたが、アポαe2のUV-Visスペクトルとは類似していなかった(図5C)。
また、ホロα2β2中のコバルト含有量(1 molのαβ中0.88 ± 0.03 mol、表1「Holo-α2β2」)とは対照的に、R-アポα2β2中には1 molのαβ中0.16±0.03 molのコバルトイオンしか検出されなかった(表1「R-apo-α2β2」)。
以上より、ニトリルヒドラターゼの成熟化では、まずアポαe2のコバルトを含まないαサブユニット(アポαサブユニット)にコバルトが挿入されてホロαe2が産生され、次にアポα2β2とこのホロαe2との間でセルフサブユニットスワッピングが起きてホロα2β2が産生され得ることが示された。
本実施例は、R-アポαe2内のシステイン残基の修飾可能性について、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析法(MALDI-TOF MS)を用いて検討した。
このようなMALDI-TOF MSによる分析では、システイン残基、ジスルフィド結合しているシステイン残基およびCys114-SO-(存在する場合)は還元され、カルボキシアミドメチル化(CAM-)される。一方、システインスルフィン酸(Cys-SO2H)(存在する場合)はカルボキシアミドメチル化(CAM-)されず、Cys-SO2Hのままである。
EK46:E83MGVGGMQGEEMVVLENTGTVHNMVVC109TLC112SC114YPWPVLGLPPNWYK128(配列番号6)
本発明者は、これまでに、図7の挿入図においてピークが検出されたm/z値5242.4は3つのCAM-システインを有するEK46の[M+H]+イオンのm/z計算値に該当すること、およびm/z値5217.9は2つのCAM-システインおよび1つのCys-SO2Hを有するEK46の[M+H]+イオンのm/z計算値に該当することを明らかにしている。そしてこのことは、Cys112-SO2-がホロαe2内に存在するのに対し、アポαe2内には存在しないことを示している。
R-アポαサブユニット由来のEK46のスペクトルでは、3つのCAM-システインを有するEK46に該当するm/z値5242のピーク強度が著しく減少し、2つのCAM-システインおよび1つのCys-SO2Hを有するEK46に該当するm/z値5218に顕著なピークが確認された(図7)。この結果から、アポαe2のCys112が酸化されて、R-アポαe2ではCys112-SO2 -となったことが示された。
この結果は、酸化システイン残基(αCys112-SO2 -、αCys114-SO-)がR-アポαe2に存在することを強く示すものである。
コバルトおよびDTT存在下でのアポαe2によるアポα2β2の翻訳後活性化に対する溶存酸素の影響を確認するため、アルゴンで溶存酸素がほぼ除去された嫌気的条件で酵素アッセイを行った。
一方、ホロαe2によるアポα2β2活性化は、嫌気的条件下および好気的条件下において同程度認められた(表2「apo-α2β2+holo-αe2」)。
以上より、アポα2β2とホロαe2との間のセルフサブユニットスワッピングは、溶存酸素の存在と無関係に起こることが示された。
表2に記載のニトリルヒドラターゼ活性は以下のように測定した。まず、好気的条件または嫌気的条件下でKPB(pH 7.5)中、28℃で混合物をインキュベートした。Co2+供与体として[Co(NH3)6]Cl3溶液を、Co3+供与体としてCoCl2溶液を用いた。混合物中のアポα2β2およびホロαe2の濃度は、それぞれ0.1 mg/mlおよび0.4 mg/mlとした。12時間後に混合物から一定量のサンプルを採取し、そのサンプルのL-NHase活性についてアッセイした。L-NHase活性(「L-NHase activity」)の値は、同一条件で3回以上実施し、得られた数値の平均値±標準偏差を示す。
ホロαe2がアポα2β2をセルフサブユニットスワッピングにより翻訳後に活性化し、ホロαe2のコバルトを含みシステインが酸化されているαサブユニットとアポα2β2のコバルトを含まずシステインが酸化されていないαサブユニットとが交換され、コバルトを含みシステインが酸化されているホロα2β2とコバルトを含まずシステインが酸化されていないαe2(以下、「R-ホロαe2」ともいう)が形成される(非特許文献8)。
そして、精製したαe2をUV-Visスペクトル分析し(図8C)、コバルト含有量を定量(1 molのαe2中0.05 ± 0.02 mol、表1「R-holo-αe2」)した結果、精製したαe2のほぼ全てがR-ホロαe2であることが示された。
条件1:アポα2β2をR-ホロαe2とともに10 mM KPB(pH 7.5)中でインキュベート
条件2:コバルトおよびDTTの存在下で、アポα2β2をR-ホロαe2とともに10 mM KPB(pH 7.5)中でインキュベート
条件3:コバルトおよびDTTの存在下で、アポα2β2をアポαe2とともに10 mM KPB(pH 7.5)中でインキュベート
インキュベート開始から12時間後に一定量のサンプルを採取しL-NHase活性についてアッセイした。
しかし、コバルトおよびDTTの存在下で、R-ホロαe2(条件2)はアポα2β2のL-NHase活性を、コバルトおよびDTTの存在下でのアポαe2の場合(条件3)と同等のレベルまで上昇させた。以上より、サブユニットスワッピングによって生成したコバルト元素低含有型NhlAEは、L-NHaseの成熟化のために再利用することが可能であることが示された。
本実施例では、NhlEタンハ゜ク質と以下の微生物由来のタンパク質とのアミノ酸配列の相同性を調べた。ホモロジーの検索は遺伝子解析ソフトGENETYX ver8.2.1を使用し、条件はデフォルトのまま行った。
結果を表3および図10に示す。
表3に示すように、NhlEタンパク質と他の活性化タンパク質との相同性は、33〜41%であった。
実施例7より、これらのタンパク質も、NhlEタンパク質と同様の機能を有し、eサブユニットとしての役割を担うことが示された。即ち、これらのタンパク質も本発明に係るタンパク質の成熟化に深く関わることが示唆された。
(i)αサブユニットとβサブユニットの構造遺伝子は、βおよびαの順に位置する、
(ii)低分子タンパク質(17 kDa未満)の遺伝子は、対応するαサブユニットのすぐ下流に存在し、各機能的酵素の発現に必要である、
(iii)低分子タンパク質は、βサブユニットと有意な配列類似性を示す、
(iv)これら全ての低分子タンパク質は、既知の金属結合モチーフを有していない。
H-NHaseおよびその変異体の発現には、ベクタープラスミドpHJK19、pHJK19(ΔG)およびpHJK19(α-V5L)(図12)を用い、宿主細胞としてRhodococcus rhodochrous ATCC12674を用いた。プラスミドpHJK19(ΔG)およびpHJK19(α-V5L)のサブクローニングには宿主としてEscherichia coli DH10Bを用いた。また、プラスミドpHJK19のメチル化には、E. coli JM109を宿主として用いた。nhlBAEおよびnhlAEの発現については、上記の「(i)L-NHaseの発現」と同様に行った。
pHJK19(ΔG)およびpHJK19(α-V5L)の構築には、インバースPCR法(34)を用いた。メチル化されたpHJK19を鋳型とし、BA-S(5'-p-CATCCCCTGTGTCTCCATCTAGCAGCAGTG-3':配列番号18)およびBA-AS(5'-p-TCATACGATCACTTCCTGCGGTGTGAGCGC-3':配列番号19)をプライマーとして用いてPCR増幅をおこない、完全長の直鎖状pHJK19(ΔG)を生成した。このPCR産物を制限酵素Dpn Iで処理して鋳型プラスミドを切断し、次いでLigation High(TOYOBO社)を用いて環状pHJK19(ΔG)へライゲーションし、その後にこのプラスミドでE. coli DH10Bを形質転換した。シークエンスを行って、pHJK19(ΔG)の配列を有するクローンを選択し、このクローンから単離したプラスミドを用いてR. rhodochrous ATCC12674を形質転換した。A-V5L-S(5'-p-ACCTCAATAAGTACACGGAGTACGAGGCAC-3':配列番号20)(下線部に変異を含む)およびA-V5L-AS(5'-p-GCTCGCTCACTATCGTATTCCTTTCACGCA-3':配列番号21)のプライマーを用いてプラスミドpHJK19(α-V5L)をpHJK19(ΔG)と同様に構築し、その後、R. rhodochrous ATCC12674に導入した。
R. rhodochrous ATCC12674の形質転換には、非特許文献15の記載に沿ってエレクトロポレーションを行った。pHJK19、pHJK19(ΔG)およびpHJK19(α-V5L)を担持するR. rhodochrous ATCC12674の各形質転換体を、非特許文献15の記載に沿って、CoCl2・6H2O (0.05 g/L)およびネオマイシン(50 μg/ml)を含有するMYP培地(Hashimoto, Y. et al. (1992) J. Gen. Microbiol. 138, 1003-1010)中で、28℃で48時間増殖させた。L-NHaseおよびNhlAEの発現用のプラスミドpREIT-nhlBAE およびpREIT-nhlAEを担持するR. fascians DSM43985は、実施例1〜7と同一の培養条件で増殖させた。
全ての精製工程は、0〜4℃で行った。また、全ての精製工程で10 mMのリン酸カリウムバッファー(KPB)(pH 7.5)を用いた。細胞抽出物の調製は、非特許文献15の記載と同様に行った。具体的には、細胞抽出物を18,000 x gで20分間遠心した。硫安分画(40〜65%)によりH-NHaseを部分精製し、その後にKPBバッファーに対する透析を行った。透析した溶液を、KPBバッファーで平衡化させたDEAE-Sephacelカラム(3 x 5 ml)(GE Healthcare UK社)にアプライした。同一のバッファー1リットルを用いて、KCl濃度を0〜0.5Mの直線勾配で増加させながら、タンパク質をカラムから溶離した。得られた部分精製酵素を一つにまとめ、70%の飽和度になるまで硫酸アンモニウムを添加した。この懸濁液を遠心した後、沈殿物を0.2 M KCl含有KPBバッファーに溶解させ、この溶液を、0.2 M KCl含有KPBバッファーで平衡化させたHiload 16/60 Superdex 200-pg カラム(GE Healthcare UK社)にアプライした。Hiload 16/60 Superdex 200-pg カラムから溶離した酵素を硫安分画(70%飽和度)で沈殿させ、次いで、KPBバッファーに対して透析した。透析した溶液を、KPBバッファーで平衡化させたResource Qカラム(6 ml)(GE Healthcare UK社)にアプライした。同一のバッファー1リットルを用いて、KCl濃度を0 〜0.5 Mの直線勾配で増加させながら、タンパク質をカラムから溶離した。NhhAGも、H-NHaseと同様に精製した。この精製工程において、タンパク質を含有する分画は、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で確認し、また、最終工程として、N末端アミノ酸の配列解析を行った。L-NHaseとNhlAEは、実施例1〜7の「生成したタンパク質の精製」の記載と同様に精製した。
上記と同様に、Hiload 16/60 Superdex 200-pgを用いて、得られた酵素を混合物から精製した。硫安分画を除く全ての操作は、AKTA purifier(GE Healthcare UK社)を用いて行った。
10 mM KPB(pH 7.5)、200 mM 3-シアノピリジンおよび適量のH-NHase酵素を含む反応混合物(0.5 ml)中でH-NHase活性をアッセイした。反応は、20℃で20分間進行させ、4.5 mlのアセトニトリルの添加によって終了させた。Cosmosil 5C18-AR-IIカラム(逆相; 4.6 x 150 mm; ナカライテスク、京都)およびオリジナルシステムのUV分光光度計(SPD-M10A)を具備する島津LC-10Aシステム(京都)を用いて、HPLCにより反応混合物中に形成されたニコチンアミドの量を測定した。以下の溶液系を用いた:5 mM KH2PO4-H3PO4バッファー(pH 2.9)およびアセトニトリル(2:1 v/v)、流速1.0 ml/分。モニタリングには、215 nmの波長を用いた。20℃で毎分1 μmolのニコチンアミド放出を触媒する酵素量を1ユニットのH-NHase活性として定義した。L-NHase活性は、実施例1〜7の「酵素アッセイ」の記載と同様にアッセイした。
酵素の分子量の測定には、Superose 6 HR 10/30カラムおよびSuperose 12 HR 10/30カラム(GE Healthcare UK社)、ならびに0.2 M KCl含有KPB(pH 7.5)を用いた。この工程は、AKTA purifier(GE Healthcare UK社)を用いて、0〜4℃にて、0.5 ml/分の流速で行った。
実施例1〜7の「分析法」と同様に分析を行った。
また、SDS-PAGE後にポリ二塩化ビニリデン膜上にエレクトロブロットしたサンプルに対してプロテインシークエンサーProcise(Applied Biosystems)を用いてNH2-末端アミノ酸配列を決定した。
タンパク質を1 mM KPB(pH 7.5)に対して透析し、次いで0.5 mg/mlに調製した。透析後ICAP-575発光光度計(日本ジャーレル・アッシュ社)を以下の条件で用いて酵素を検出した:波長238.89 nm、積分時間3秒間、850 mV。
本実施例において、H-NHase発現に使用したプラスミドpJHK19 (図12)は、H-NHase遺伝子(nhhBA)および他の5つのORF(nhhC、nhhD、nhhE、nhhFおよびnhhG)を担持する(非特許文献15)。これらのORFのうち、nhhCとnhhDは、R. rhodoccocus ATCC12674内での活性なレコンビナントH-NHaseの細胞内形成に不可欠であり、nhhEとnhhFは、H-NHase遺伝子の発現には何ら影響しないことが判明している(非特許文献15)。しかしながら、H-NHase遺伝子発現におけるnhhGの機能は、未だ決定されていない。そこで、本発明者らは、nhhC、nhhD、nhhE、nhhFおよびH-NHase構造遺伝子nhhBAを含むが、nhhGは含まないプラスミドpHJK19(ΔG)(図12)を構築した。pHJK19(ΔG)を担持するR. rhodochrous ATCC12674を用いて、pHJK19を担持するR. rhodochrous ATCC12674と同じ条件下でH-NHaseを発現させた。ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)において、H-NHaseのαサブユニットとβサブユニットのバンドは明瞭であったが(図14A)、Rhodococcus形質転換体の無細胞抽出物中での活性は非常に低いものであった(2.4 ± 1.5 U/mg)。対照的に、pHJK19を担持するR. rhodochrous ATCC12674を用いて発現させたH-NHaseの量は、pHJK19(ΔG)の場合と同程度であったが、無細胞抽出物中のH-NHase活性は、pHJK19(ΔG)の場合と比べて顕著に高いものであった(121 ± 10 U/mg)。この知見により、nhhGは、機能的H-NHaseの発現に必要であることが判明した。
pHJK19とpHJK19(ΔG)とから発現されたH-NHaseの差異点を調べるため、これら2種類の酵素を完全に精製してキャラクタリゼーションを行った(図14)。ここで、pHJK19およびpHJK19(ΔG)から発現されたH-NHaseをそれぞれH-NHase(+G)およびH-NHase(ΔG)と称する。結果として、H-NHase(+G)は、αβヘテロ2量体の多量体であり、合計で約500 kDaであることが判明した。これは、R. rhodochrous J1から精製されたH-NHaseと一致する(Nagasawa, T. et al., Eur. J. Biochem. 196, (1991): 581-589)。H-NHase(ΔG)は、H-NHase(+G)と同程度の分子量を有していた(図14C)。H-NHase(+G)が298 ± 8 U/mgの特異的活性を示したのに対し、H-NHase(ΔG)は、非常に低い活性を示した(表4)。H-NHase(+G)のコバルト含有量(酵素活性に不可欠である(非特許文献1および非特許文献8))は、1 molのαβにつき0.90 ± 0.04 molであったが、H-NHase(ΔG)では、非常に低いものであった(1 molのαβにつき0.33 ± 0.02 mol)(表4)。これらの知見は、pHJK19からコバルト含有H-NHase(ホロH-NHase、即ち、H-NHase(+G))が発現されることに対し、pHJK19(ΔG)から発現されたH-NHaseは、コバルト不含H-NHaseであることを示唆している。
H-NHaseの活性化におけるnhhGの機能を明確化するため、pHJK19を担持する形質転換体から遺伝子産物(NhhG)を精製した。結果として、NhhGは、H-NHaseのαサブユニットと複合体(即ち、NhhAG)を形成することが確認された(図14B)。レコンビナントNhhAGの分子量は、ゲルろ過分析で測定したところ、48.8 ± 0.8 kDaであった(図14D)。αサブユニットとNhhGの分子量の計算値がそれぞれ22.8 kDaと11.7 kDaであることから、NhhAGは、ヘテロ3量体のαg2(46.2 kDa)からなる。精製されたαg2は、H-NHase活性を示さなかったが、コバルトイオンを含んでいた(1 molのαg2につき0.84 ± 0.04 mol)(表4)。このコバルト含有αg2をホロNhhAGと呼ぶことにする。NhhAGは、ヘテロ三量体αg2を形成することから、L-NHaseのメディエータであるNhlAEと非常に類似する(L-NHaseのコバルト含有αサブユニットとNhlE(e)とからなるヘテロ3量体複合体(αe2)を形成する)(非特許文献8)。NhlAEは、L-NHaseの翻訳後成熟において、アポL-NHase内にコバルトイオンを取り込ませてホロL-NHaseを形成させることが報告されている(非特許文献8)。活性H-NHaseの形成におけるNhhAGの機能を説明するため、さらに以下の実験を行った。
pHJK19から発現されたコバルトフリーH-NHase(アポH-NHase)(表5)を精製した(コバルト不含の培養系から精製)。精製したアポH-NHase(終濃度0.01 mg/ml)および精製したホロNhhAG(終濃度0.1 mg/ml)を混合し、28℃で10 mM KPB(pH 7.5)中でインキュベートした。H-NHase活性は、インキュベーション時間の増加に伴って上昇することが判明し、16時間後に最も高い活性が観察された(図15)。ホロNhhAG濃度の増加に伴い、活性化速度も増加し、0.2 mg/mlのホロNhhAGでは、10時間以内に活性が最大に達した(図15)。アポH-NHaseとその10倍量を超えるホロNhhAGとの混合物から、生じたH-NHase(resultant H-NHase: R-H-NHase)を精製したところ、このH-NHaseの酵素活性(290 ± 9 U/mg)とコバルト含有量(1 molのαβにつき0.91 ±0.04 mol)(表5)は、ホロH-NHaseのもの(表1)と同程度であった。遠紫外線CDとUV-Vis吸光スペクトル解析を通じて、ホロH-NHase、アポH-NHaseおよびR-H-NHase間で、それぞれの特性を詳細に比較した。R-H-NHase、ホロH-NHaseおよびアポH-NHaseは、CDスペクトルは類似していたが(図16A)、R-H-NHaseのUV-Visスペクトルは、アポH-NHaseのスペクトルではなく、ホロH-NHaseのスペクトルと類似していた(図16B)。ホロH-NhaseおよびR-H-NHaseは、全て、300-350 nmの領域に更なるショルダーを示した。Co-NHaseの300-350 nmの領域における吸光は、S→Co3+の電荷の移動を反映することが報告されている(Payne, M. S. et al., (1997) Biochemistry 36, 5447-5454;非特許文献8;およびNojiri, M. et al., (2000)FEBS Lett. 465, 173-177)。これらの結果は、R-H-NHaseのCo-リガンド環境が、ホロH-NHaseの環境と同様であることを示すものである。H-NHaseにおけるコバルトの含有と共に考慮するに、これらの現象は、NhlAGが、H-NHaseの翻訳後成熟に寄与することを示している。
部位特異的変異導入とN末端アミノ酸配列解析を行って、R-H-NHase内でのαサブユニットの供給源を確認した。αサブユニットのVal-5がLeuで置換された変異遺伝子[nhhCDEFBA(α-V5L)G]を設計し、pHJK19(α-V5L)(図12)を構築し、次いで変異体アポH-NHase[アポH-NHase(αV5L)]をコバルト不含の培養系から精製した。精製した酵素の特異的な活性について、アポH-NHase(αV5L)とアポH-NHase間に有意差は認められなかった(表5)。アポH-NHase(αV5L)とホロNhhAGを混合してH-NHaseの翻訳後活性化を確認し、次いで、この混合物から生じたH-NHase[R-H-NHase(αV5L)]を精製した。精製したR-H-NHase(αV5L)のαサブユニットのN末端アミノ酸配列解析により、αサブユニットの5番目の残基がValであることが示され(表5)、アポH-NHase(αV5L)のアポαサブユニットがホロNhhAGのホロαサブユニットに置換されていることが確認された。この結果により、ホロNhhAGからアポH-NHaseへのコバルトの取り込みは、セルフサブユニットスワッピングに依存しており、NhhGが、L-NHaseの場合のNhlEと同様に、セルフサブユニットスワッピングシャペロンとして機能することが判明した。
H-NHaseのαサブユニットへのコバルトの挿入におけるNhhGの機能を説明するため、pHJK19から発現されたコバルトフリーNhhAG(アポNhhAG)をコバルト不含の培養系から精製した(表5)。このアポNhhAG(終濃度0.1 mg/ml)を10 mM KPB(pH 7.5)中のコバルト(終濃度20 μM)およびGSH(1 mM)と混合し、28℃でインキュベートした。2時間のインキュベーション後にアポNhhAG(R-アポNhhAG)を精製し、ホロNhhAGおよびアポNhhAGと比較した。コバルト含有量の測定の結果、R-アポNhhAGは、1 molのαg2につき0.81 ± 0.03 molのコバルトを含有していることが示され(表5)、これは、ホロNhhAGと同程度のコバルト含有量(表4)であった。R-アポNhhAG、ホロNhhAGおよびアポNhhAGのCDスペクトルは類似していたが(図17A)、R-アポNhhAGのUV-Visスペクトルは、ホロNhhAGのものと類似しており、アポNhhAGのものとは類似していなかった(図17B)。図17Bに示されるように、R-アポNhhAGおよびホロNhhAG では300-350 nm領域に更なるショルダーが認められ、ホロNhhAGおよびR-アポNhhAGのCo-リガンド環境は、Co-NHaseの環境と同様であることが示唆された。R-アポNhhAGは、アポH-NHaseをホロH-NHaseに変換することも可能であった(データ非公開)。これらの知見から、コバルトが、アポNhhAG内へ直接取り込まれることでホロNhhAGが形成されることが示唆された。一方で、アポH-NHaseをコバルトおよびGSHと混合し、2時間インキュベートした後に、生じたアポH-NHase(R-アポ-H-NHase)を精製し、次いで、ホロH-NHaseおよびアポH-NHaseと比較した。R-アポ-H-NHaseのUV-Visスペクトルは、アポH-NHaseのスペクトルと類似していたが、ホロH-NHaseのものとは類似しておらず、300-350 nm領域に更なるショルダーは認められなかった(図16B)。ホロH-NHaseのコバルト含有量(1 molのαβにつき0.90 ± 0.04 mol)とは対照的に、R-アポ-H-NHaseでは、1 molのαβにつき、僅かに0.18 ± 0.02 molのコバルトイオンしか検出されなかった(表5)。これらの知見により、インビトロにおいて、コバルトは、アポNhhAGのアポαサブユニットに直接取り込まれるが、アポH-NHaseには取り込まれないことが示される。
配列番号2:Rhodococcus rhodochrous J1菌のNhlAタンパク質のアミノ酸配列。
配列番号3:Rhodococcus rhodochrous J1菌のnhlE遺伝子の塩基配列。
配列番号4:Rhodococcus rhodochrous J1菌のNhlEタンパク質のアミノ酸配列
配列番号5:Rhodococcus rhodochrous J1菌のnhlB遺伝子、nhlA遺伝子およびnhlE遺伝子などの塩基配列。
配列番号6:トリプシンペプチドEK46。
配列番号7:Bacillus sp BR449由来の活性化タンパク質(図10「Bacillus BR449」)のアミノ酸配列。
配列番号8:Bacillus pallidus RAPc8由来の活性化タンパク質(図10「Bacillus RAPc8」)のアミノ酸配列。
配列番号9:Geobacillus thermogllucosidasius Q-6由来の活性化タンパク質(図10「Geobacillus Q-6」)のアミノ酸配列。
配列番号10:Pseudonocardia thermophila JCM3095由来の活性化タンパク質(図10「Pseudonocardia」)のアミノ酸配列。
配列番号11:Rhodococcus rhodochrous J1由来の活性化タンパク質(図10「Rhodococcus J1(Nhh-G)」)のアミノ酸配列。
配列番号12:Rhodococcus rhodochrous M8由来の活性化タンパク質(図10「Rhodococcus M8」)のアミノ酸配列。
配列番号13:Rhodococcus rhodochrous J1菌のnhhA遺伝子の塩基配列。開示コドン(メチオニン)は、「gtg」である。
配列番号14:Rhodococcus rhodochrous J1菌のNhhAタンパク質のアミノ酸配列。
配列番号15:Rhodococcus rhodochrous J1菌のnhhG遺伝子の塩基配列。
配列番号16:Rhodococcus rhodochrous J1菌のNhhGタンパク質のアミノ酸配列
配列番号17:Rhodococcus rhodochrous J1菌のnhhB遺伝子、nhhA遺伝子およびnhhG遺伝子などの塩基配列。
配列番号18:pHJK19(ΔG)の構築に用いたBA-Sプライマーの塩基配列。
配列番号19:pHJK19(ΔG)の構築に用いたBA-ASプライマーの塩基配列。
配列番号20:pHJK19(α-V5L) の構築に用いたA-V5L-Sプライマーの塩基配列。
配列番号21:pHJK19(α-V5L) の構築に用いたA-V5L-ASプライマーの塩基配列。
Claims (19)
- (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびeサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αe2と
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αe2の成熟化方法。 - (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、請求項1に記載の方法により得られた成熟タンパク質複合体αe2とを接触させて成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αe2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αe2と
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αe2の成熟化方法。 - (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびeサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αe2と
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法。 - (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、請求項1または2に記載の方法により得られた成熟タンパク質複合体αe2とを接触させて成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αe2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αe2と
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟低分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法。 - タンパク質複合体αe2が、以下の(a)または(b)のタンパク質、および(c)または(d)のタンパク質を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法:
(a) 配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b) 配列番号2に示すアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくはそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含み、かつ、コバルト元素を含有可能なタンパク質;
(c) 配列番号4に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(d) 配列番号4に示すアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくはそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含み、かつ、前記(a)もしくは(b)のタンパク質と複合体を形成するタンパク質。 - タンパク質複合体αe2が、Rhodococcus属に属する微生物由来のものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- Rhodococcus属に属する微生物が、Rhodococcus rhodochrous J1菌である、請求項6に記載の方法。
- ニトリルヒドラターゼタンパク質が、Rhodococcus属に属する微生物由来のものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- Rhodococcus属に属する微生物が、Rhodococcus rhodochrous J1菌である、請求項8に記載の方法。
- (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびgサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αg2と
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αg2の成熟化方法。 - (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、請求項10に記載の方法により得られた成熟タンパク質複合体αg2とを接触させて成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αg2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αg2と
(ii) コバルトとを
還元剤の存在下に接触させるステップを含む、前記未成熟タンパク質複合体αg2の成熟化方法。 - (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびgサブユニットを含む未成熟タンパク質複合体αg2と
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法。 - (i) ニトリルヒドラターゼのαサブユニットおよびβサブユニットを含む未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質と、請求項10または11に記載の方法により得られた成熟タンパク質複合体αg2とを接触させて成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質および未成熟タンパク質複合体αg2を生成し、該未成熟タンパク質複合体αg2と
(ii) コバルトと
(iii) 未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質とを
還元剤の存在下に接触させることを含む、前記未成熟高分子量型ニトリルヒドラターゼタンパク質の成熟化方法。 - タンパク質複合体αg2が、以下の(a)または(b)のタンパク質、および(c)または(d)のタンパク質を含む、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法:
(a) 配列番号14に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b) 配列番号14に示すアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくはそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含み、かつ、コバルト元素を含有可能なタンパク質;
(c) 配列番号16に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(d) 配列番号16に示すアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくはそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含み、かつ、前記(a)もしくは(b)のタンパク質と複合体を形成するタンパク質。 - タンパク質複合体αg2が、Rhodococcus属に属する微生物由来のものである、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
- Rhodococcus属に属する微生物が、Rhodococcus rhodochrous J1菌である、請求項15に記載の方法。
- ニトリルヒドラターゼタンパク質が、Rhodococcus属に属する微生物由来のものである、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
- Rhodococcus属に属する微生物が、Rhodococcus rhodochrous J1菌である、請求項17に記載の方法。
- 還元剤がジチオスレイトールまたはグルタチオンである、請求項1〜4および10〜13のいずれか1項に記載の方法。
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