JP5164163B2 - 等電点マーカー蛋白質 - Google Patents
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Description
しかしながら、従来から使用されている等電点マーカー蛋白質はいずれも天然由来の蛋白質であり、精製後の保存中に空気酸化を受けて徐々に化学的に変化するため、どうしても測定誤差が生じることが避けられなかった。したがって、特に多種類の蛋白質の同定を迅速かつ正確に行う必要のあるプロテオーム解析などの分野では、より保存安定性の高い、抗酸化性等電点マーカー蛋白質の開発が急務であった。
生物が作る蛋白質は、遺伝子であるDNA中にトリプレットコドンで暗号化されているL-アラニン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-フェニルアラニン、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-リジン、L-ロイシン、L-アスパラギン、L-プロリン、L-グルタミン、L-アルギニン、L-セリン、L-トレオニン、L-バリン、L-チロシン、L-トリプトファン、L-システイン、及びL-メチオニンの20種類のL-アミノ酸残基から構成される。このうち、含硫アミノ酸は、L-システイン及びL-メチオニンである。
L-システイン及びL-メチオニンに対応するコドンは、TGTとTGC(L-システイン)及びATG(L-メチオニン)の3種類である。一方、硫黄を含まないその他18種のL-アミノ酸に対応するコドンは、58種類である。従って、平均すると蛋白質は、20アミノ酸に1個の割合(3/61)で、L-システインもしくはL-メチオニンを含むことになる。このことは、100アミノ酸以上で構成される蛋白質であれば、非常に高い確率でL-システインもしくはL-メチオニンを含んでいることを意味している。生物体内で合成される酵素のような機能性を有する蛋白質の場合は、通常数百以上の分子量を有しているので、生物が作る酵素はほぼ間違いなく含硫アミノ酸を含むことになる。
L-システインの硫黄原子は、チオール(-SH)基として存在する。チオール基は非常に反応性が高く、酸素、過酸化水素により容易に酸化されて容易に酸化され、ジスルフィドさらにスルフィン酸を生成する。
L-メチオニンの硫黄原子は、チオエーテル(-S-CH3)基として存在する。チオエーテル基は、チオール基ほど反応性は強くないが、過酸化水素により容易に酸化されてメチオニンスルホキシドが生成する。
このことは、裏を返せば、L-システイン及びL-メチオニン、即ち含硫アミノ酸を含まない蛋白質であれば、抗酸化特性を有することになるが、上記特許文献1〜4にあるように、本発明者らにより、天然の蛋白質の元の機能を保持したまま、すべてのL-システイン残基もしくはL-メチオニン残基を他の非含硫アミノ酸残基に置換して、まったく含硫アミノ酸残基を含まない蛋白質変異体を作製することができることが立証されている。すなわち、天然の機能性蛋白質中のすべてのL-システイン残基もしくはL-メチオニン残基を他の非含硫アミノ酸残基に置換した変異蛋白質は、元の機能を保持し、かつ空気酸化を受けない蛋白質であるということになる。
そして、当該変異蛋白質をもとに抗酸化性の等電点マーカー蛋白質を製造することを着想し、そのC末端側にスペーサー配列を介して、塩基性アミノ酸又は酸性アミノ酸を規則的に付加していくことによって、理論値通りに段階的に等電点が増加していく系列を形成することができることを確認し、本発明を完成した。
(1) 酸化されやすいアミノ酸であるL-システインおよびL-メチオニンを含まない任意の蛋白質について、できるだけ広い等電点をカバーする蛋白質を提供することを目的とする。
(2) そのために、天然由来の蛋白質中に存在するL-システインおよびL-メチオニンを他のアミノ酸残基に置換することにより、L-アラニン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-フェニルアラニン、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-リジン、L-ロイシン、L-アスパラギン、L-プロリン、L-グルタミン、L-アルギニン、L-セリン、L-トレオニン、L-バリン、L-チロシン、及びL-トリプトファンの18種類のL-アミノ酸残基から構成される蛋白質を作製し、その蛋白質のカルボキシ末端側に適当なリンカーを介して、酸性アミノ酸であるL-アスパラギン酸、L-グルタミン酸から構成されるアミノ酸配列を結合するもしくはL-リジン、L-アルギニンから構成されるアミノ酸配列を結合することにより、等電点が各種変化した一群の蛋白質を構築する。
(3) このようにして構築した一群の蛋白質を等電点マーカー蛋白質として利用する。
(4) このようにして構築した一群の等電点マーカー蛋白質は、2次元電気泳動により、規則的なスポットを形成し、内部標準としてほかの蛋白質と明確に区別できるという、さらなる優れた性能を発揮できる。
(5) なお、等電点マーカー蛋白質の作製としては、遺伝子発現系を利用して、宿主細胞で発現した蛋白質を高度に精製することが一般に行えることから、高度な分離精製を容易に行うために、アフィニティクロマトグラフィーを用いた精製と精製の過程(回収率)を容易にモニターするための酵素活性を有する蛋白質が望ましいと考えられる。
〔1〕 下記式(1)で示されるアミノ酸配列からなる等電点マーカー蛋白質の1つもしくは2つ以上を含むことを特徴とする、等電点の内部標準用蛋白質組成物;
式(1)
R1−R2−R3
(式中、R1は、天然の機能性蛋白質に由来するアミノ酸配列であって、そのアミノ酸配列中のL−システインおよびL−メチオニンが全て他のアミノ酸に置換された変異蛋白質のアミノ酸配列を表す。
R2は、L−システインおよびL−メチオニン以外の同一のアミノ酸2〜10個で構成されるスペーサー配列であり、
R3は、アミノ酸が付加されないか、又はL−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−アルギニン、L−リジンの4種類から選ばれた1種類のアミノ酸の1〜15個で構成されるアミノ酸配列を表す。)。
〔2〕 前記天然の機能性蛋白質が野生型酵素であり、かつ変異蛋白質が元の酵素活性が失われていない変異酵素である、前記〔1〕に記載の蛋白質組成物。
〔3〕 前記野生型酵素がジヒドロ葉酸還元酵素であり、前記変異酵素が変異ジヒドロ葉酸還元酵素である、前記〔2〕に記載の蛋白質組成物。
〔4〕 前記変異ジヒドロ葉酸還元酵素のアミノ酸配列が配列番号1に示されるアミノ酸配列である、前記〔3〕に記載の蛋白質組成物。
〔5〕 前記式(1)中のR2が、2〜10個のグリシンの連鎖であることを特徴とする前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の蛋白質組成物。
〔6〕 前記等電点マーカー蛋白質が、形質転換細菌宿主から得られた組換え蛋白質である、前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の蛋白質組成物。
〔7〕 前記等電点マーカー蛋白質が、前記式(1)においてR1−R2が配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる等電点マーカー蛋白質であって、R3が下記(a)及び/又は(b)〜(e)のいずれかの群から選択されたものであることを特徴とする、前記〔7〕に記載の蛋白質組成物;
(a) R3としてアミノ酸が付加されていない、等電点が約4.70である等電点マーカー蛋白質、
(b) R3が(Asp)nであって、nが1〜15のいずれかの自然数であるアミノ酸配列からなり、等電点が約4から5の間である等電点マーカー蛋白質、
(c) R3が(Lys)nであって、nが1〜15のいずれかの自然数であるアミノ酸配列からなり、等電点が約4から10の間にある等電点マーカー蛋白質、
(d) R3が(Arg)nであって、nが1〜15のいずれかの自然数であるアミノ酸配列からなり、等電点が約4から10の間にある等電点マーカー蛋白質、
(e) R3が(Glu)nであって、nが1〜15のいずれかの自然数であるアミノ酸配列。
〔8〕 下記式(1)で示されるアミノ酸配列からなる等電点マーカー蛋白質の2つ以上を含むことを特徴とする、等電点の内部標準用蛋白質組成物であって、;
選択された2つ以上の等電点マーカー蛋白質のアミノ酸配列が、R1−R2がいずれも同一のアミノ酸配列からなり、R3がそれぞれ異なるアミノ酸配列であることを特徴とする、前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の蛋白質組成物;
式(1)
R1−R2−R3
(式中、R1、R2及びR3の定義は、前記〔1〕の式(1)の定義と同じである。)。
〔9〕 下記式(1)で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質であって、式(1)におけるR1−R2が配列番号2で示されるアミノ酸配列からなり、R3が下記(b)〜(e)のいずれかの群から選択されたアミノ酸配列からなる蛋白質;
式(1)
R1−R2−R3
(b) R3が(Asp)nであって、nが1〜15のいずれかの自然数であるアミノ酸配列、
(c) R3が(Lys)nであって、nが1〜15のいずれかの自然数であるアミノ酸配列、
(d) R3が(Arg)nであって、nが1〜15のいずれかの自然数であるアミノ酸配列、
(e) R3が(Glu)nであって、nが1〜15のいずれかの自然数であるアミノ酸配列。
〔10〕 前記〔9〕に記載の蛋白質をコードする塩基配列からなる核酸。
〔11〕 前記〔10〕に記載の核酸を含み、形質転換細菌宿主内で前記〔9〕に記載の蛋白質を発現し得る組換えベクター。
〔12〕 前記〔11〕に記載の組換えベクターにより形質転換された形質転換細菌。
〔13〕 前記〔12〕に記載の形質転換細菌を培養して得られた発現産物を精製することを特徴とする、前記〔9〕に記載の蛋白質の製造方法。
〔14〕 所望の蛋白質を分離又は同定する方法において、前記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の蛋白質組成物を等電点の内部標準として用いることを特徴とする、所望の蛋白質の分離又は同定方法。
〔15〕 被検試料中の蛋白質を解析する方法であって、2次元電気泳動による蛋白質分離工程を含む蛋白質解析方法において、前記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の蛋白質組成物を等電点の内部標準として用いることを特徴とする、蛋白質解析方法。
さらに、本発明の等電点マーカー蛋白質は、末端の酸性アミノ酸又は塩基性アミノ酸を順次増加させることで等電点を直線的に変化させることができるので、既存のマーカー蛋白質と比較して、より精密に等電点および分子量を設計でき、系統的に等電点を変化させた等電点マーカー蛋白質のセットが提供できる。これらのセットは、試料中の蛋白質解析において2次元電気泳動などで蛋白質を分離する際に、解析毎の泳動の相対位置の補正をするための内部標準として適しており、分離分析精度を向上させることができる。
また、本発明のマーカー蛋白質は、広範な範囲の等電点や分子量を示す試料に対しても適宜設計可能なために十分に対応可能である。
本発明の等電点マーカー蛋白質は、以下の式(1)で表すことができる。
式(1)
R1−R2−R3
ここで、式中のR1は、L−システインおよびL−メチオニン以外のアミノ酸残基で構成される機能性を有する蛋白質のアミノ酸配列である。すなわち、そのアミノ酸配列は、L−アラニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−フェニルアラニン、L−グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−リジン、L−ロイシン、L−アスパラギン、L−プロリン、L−グルタミン、L−アルギニン、L−セリン、L−トレオニン、L−バリン、L−チロシン、L−トリプトファンの18種のアミノ酸残基のうちの一部のアミノ酸もしくはすべてのアミノ酸で構成される任意のアミノ酸配列を表す。
このような、改変される天然の機能性蛋白質としてはどのようなものでもよいが、酵素活性の測定が容易であること、また、当該蛋白質を認識する抗体が市販されているなど、容易に入手できるものであることが好ましい。
その分子量としては、5000から250000程度のものが好ましく、より好ましくは5000〜30000程度である。アミノ酸数でいえば、通常40以上、好ましくは40〜200、より好ましくは40〜180、特に好ましくは100〜160であるが、分離又は同定しようとする所望の蛋白質の分子量にあわせ、同程度の分子量になるようにもとの機能性蛋白質を選択することが好ましい。またL−システインおよびL−メチオニン以外のアミノ酸を末側に付加するか、融合蛋白質として全体のアミノ酸数を調整してもよい。
そのような典型的な天然の機能性蛋白質としては、酵素、サイトカイン、抗体(免疫グロブリン)などがあるが、以下、最も典型的な酵素について述べる。天然の酵素は、通常、アミノ酸残基が直鎖状に少なくとも100以上連なったアミノ酸配列から構成されるから、確率的にL−システインもL−メチオニンも含まないことはあり得ない。したがって、典型的には、R1は天然酵素のアミノ酸配列のうち、L−システイン残基及びL−メチオニン残基をそれ以外のアミノ酸残基に置換した変異酵素のアミノ酸配列である。
例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素、キシラナーゼ、硝酸還元酵素、スーパーオキシドディスムターゼ、ラッカーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH1A)、アルコールデヒドロゲナーゼ、カタラーゼ等を用いることができる。これらの中で、ジヒドロ葉酸還元酵素とキシラナーゼは、L−システイン及びL−メチオニンを含まない改変体が既に作製されて公知物質となっており(特許文献1など)、そのままR1部分の蛋白質として利用できる。
R1として用いる天然の機能性蛋白質のアミノ酸配列を改変する手法は部位特異的変異導入法や制限酵素による変異導入法など周知の手法を用いることができるが、本発明者らが以前報告した手法(特許文献1〜5,非特許文献1〜2など)に従って改変することが好ましい。これらの文献中では、本発明者らにより、天然酵素をコードする塩基配列のL−システイン残基及びL−メチオニン残基に対応するコドンを、それ以外のアミノ酸残基に対応するコドンに変更する変異を導入して、大腸菌で発現させ、本来の酵素活性を維持したままの変異体酵素を得たことと共に、アフィニティ阻害剤との結合性も保持したままであり、元の酵素を認識するアフィニティで精製できることが確認されている。このように、天然の機能性蛋白質として酵素を利用するメリットは、酵素活性をモニターすることにより、精製プロセスにおける各種クロマトグラフィーでの溶出位置を容易に検出でき、ひいては精製が容易になることがあげられる。また、アフィニティ精製としては、抗体アフィニティ精製も適用可能である。
酵素などの機能性タンパク質中の含硫アミノ酸(L−システイン、L−メチオニン残基)を、タンパク質全体の立体構造を大幅に変えずに他のアミノ酸に変更する手法自体は、本発明者らも特許文献1等で述べており、すでに周知の手法となっている。このような手法を適用することで、本来の抗体が認識できる程度の立体構造を保持することは十分可能であるから、変異機能性タンパク質に対しても、もとの抗体や阻害剤などとの反応性をそのまま利用して、アフィニティ精製に供することができる。
全長m個のアミノ酸よりなる野性型蛋白質において含硫アミノ酸がn個あるとする。その各々のアミノ酸配列上の位置を、Ai(i=1〜n)とする。
蛋白質の開始コドンに由来するアミノ酸は、L-メチオニンである。
アミノ末端のL-メチオニンを含まないようにするためには、宿主細胞が有するメチオニルアミノペプチダーゼ(methionyl-aminopeptidase)の反応特異性に従い、メチオニンをアミノ末端から脱離させることができる。
例えば、宿主として大腸菌を用いた場合、アミノ末端をL-メチオニン-L-アラニン、L-メチオニン-L-セリン、もしくはL-メチオニン-L-プロリンのいずれかにすることにより、末端のL-メチオニンが脱離した形で発現させることができる。従って、第一に、酵素のアミノ末端の変異として、L-メチオニン- L-アラニン、L-メチオニン-L-セリン、もしくはL-メチオニン-L-プロリンのコドンを有する変異体遺伝子を作製し、これを宿主で発現させ、安定に発現できるものを選ぶことにより、アミノ末端がメチオニンでない変異蛋白質を作製できる。
この様にして得られる変異を、A1→MA1と表す。
その他の部位のAi(i=2〜n)の含硫アミノ酸に関して、含硫アミノ酸以外の他のアミノ酸(最大18種類)に置換した変異体をそれぞれ作製し、その蛋白質が宿主細胞中に安定に発現蓄積できるかを調べる。
なお、蛋白質中の特定の部位でのアミノ酸置換は、合成DNAを用いた部位特異的変異法により行うことができる。
部位特異的変異法としては、ZollerとSmithらの方法(Zoller, M.J. and Smith, M. (1983) Methods in Enzymology, vol.100, p.468)及びその改良方法、本実施例で用いているPCRを利用した方法などの他多く方法が公知である。本発明においては、目的の含硫アミノ酸部位でのアミノ酸置換できる変異方法であればどのような方法でも適用可能であり、目的を達成することができる。従って、変異体の作製方法によって本発明は制限を受けない。
Aiの含硫アミノ酸の置換変異体を作製し、その宿主細胞中で安定に発現されるかを調べると、野性型の同等もしくはそれ以上の発現蓄積(以下、このことを活性と称する)を示す変異体がp個見いだされる。そのアミノ酸を、Bij(j=1、〜p)とする。ただし、Ai→Bij置換変異体の活性を高いものから並べるものとする。即ち、Ai→Bi1>Ai→Bi2>Ai→Bi3> ・・ >Ai→Bipの順に変異体の活性が小さくなるものとする。
Ai→Bij置換変異のうち、活性の高いものから最大3個の置換変異、即ち、Ai→Bi1、Ai→Bi2、及びAi→Bi3を選ぶ。
全てのi(i=2〜n)について同じように選び、それらの変異とA1→MA1の変異を全て組み合わせた最大3x(i-1)個の変異体を作製し、3x(i-1)個の変異体の活性を調べ、野性型の活性と同等もしくは優れたものを選ぶ。
このようにして得られる変異蛋白質は、含硫アミノ酸を含まないことが明らかである。
すでに、このようにして作製された蛋白質としては、大腸菌由来のジヒドロ葉酸還元酵素の含硫アミノ酸を全く含まない変異体が知られている。
したがって、一般式において、R1部分のアミノ酸配列としては、天然由来の配列から任意に作成できることから、一般性を失わないことは明らかである。
式中のR2は、L−システインおよびL−メチオニン以外のアミノ酸の2〜10個、好ましくは2〜6個、より好ましくは2〜4個の同一アミノ酸で構成されるスペーサー配列(リンカー配列)を表す。側鎖がなく、電荷もない疎水性のアミノ酸残基が好ましく、特にグリシン又はアラニンが好ましいが、グリシンの2〜4個の連鎖であるポリグリシンが最も好ましい。
特許文献1などにおいては、野生酵素のアミノ酸配列中のL−システインおよびL−メチオニンが全て他のアミノ酸に置換された変異酵素に対し、そのC末端にグリシンの連鎖を結合した場合、及びグリシンの連鎖をリンカーとして他のポリペプチドと融合した場合に対応する変異タンパク質について、R1部分の変異酵素の活性が変化しないことが既に確認されているので、これらの文献中の公知変異酵素をR1として用いると同時に、R2としてグリシンの連鎖を用いることは、特に好ましい。
一般式(1)におけるR3部分に関しては、この部分の配列に酸性アミノ酸もしくは塩基性アミノ酸を多く含ませることにより、一般式(1)で示される蛋白質の等電点を酸性側もしくはアルカリ性側に系統的に変化させることができる。
具体的には、R3は、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−アルギニン、L−リジンの4種類のアミノ酸残基から選ばれる1種のアミノ酸残基n個により構成されるアミノ酸配列を表す。ただし、nは0〜15の整数、好ましくは0〜12である。(なお、n=0とは、R3としてアミノ酸が付加されていないことを示す。)
R1及びR2を同一に設定し、R3についてだけ、n=0の場合を中心に、酸性アミノ酸残基であるL−アスパラギン酸残基又はL−グルタミン酸残基のいずれかを1個、2個・・・と増やすことで、等電点を段階的に低くすることができ、反対に、塩基性アミノ酸残基であるL−アルギニン残基又はL−リジン残基のいずれかを1個、2個・・・と増やすことで、等電点を段階的に高めることができる。
なお、このような段階的な等電点を示す本願マーカー蛋白質のうち、十分な等電点の幅をもって2つ以上、好ましくは3つ以上、より好ましくは5つ以上のマーカー蛋白質を選択すれば、正確な等電点の検量線を引くことができる。マーカー蛋白質単独でも用いることができるが、セットで用いることが好ましい。
本発明の等電点マーカー蛋白質は、式(1)をコードする塩基配列からなる核酸を含む組換えベクターを用い、形質転換した宿主細胞内で組換え蛋白質として発現することができる。
本発明の等電点マーカー蛋白質は、常に安定して正確な分子量、等電点を示す必要があるが、糖鎖が付加していると誤差の原因となるため、糖鎖を含まない蛋白質であることが重要である。したがって、機能性蛋白質の由来生物はどのようなものでもよく本来糖鎖を有する蛋白質であってもよいが、改変蛋白質の製造に際して用いる形質転換宿主としては、大腸菌などの糖鎖付加機能を持たない細菌微生物を宿主とした形質転換細菌で製造することが効率的であり好ましい。特に、大量培養可能な大腸菌宿主及びそのための発現プラスミドの組み合わせが特に好ましい。
また、その際に、ヒト由来酵素など、哺乳類由来機能性蛋白質の改変体を用いる場合は、形質転換大腸菌などで発現させると不溶性の封入体を形成しやすく、本来の機能性及び抗体などとのアフィニティを回復するために再構築する必要がある場合が多いので好ましくない。大腸菌由来酵素など、もともと糖鎖なしに機能する細菌類由来酵素を改変して用いることが最も好ましい。
R1部分の蛋白質をまず製造し、当該蛋白質に対して、R2及びR3のアミノ酸配列に従ったアミノ酸残基を化学的に結合させてもよいが、式(1)の全長アミノ酸配列に対応する遺伝子を合成し、これを宿主細胞中で発現させることにより作製することもできる。特に、既にR1部分のアミノ酸配列に対応するDNAが得られている場合(特許文献1など)には、R2部分のアミノ酸配列に対応するDNAを、PCR法を用いて当該DNAに結合する方がより安価で且つ効率よくできる。なお、このような遺伝子を介した蛋白質の製造は、当業者にとって周知の手法が適用できる。
本発明のマーカー蛋白質は、通常のタンパク質の精製技術であるクロマトグラフィーなどの技術を適用することにより高度に精製することができる。例えば、タンパク質の荷電状態により、イオン交換クロマトグラフィーや強力な阻害剤がアフィニティ阻害剤として利用できる場合は、アフィニティクロマトグラフィーを、また、特異的な抗体が利用できる場合は、その抗体を固定化した抗体クロマトグラフィーなどが適用可能である。その際、目的とするマーカータンパク質がクロマトグラフィーのどの画分に含まれているかをマーカータンパク質が保持する酵素活性を検出することにより定量的に明らかにすることができる。各種クロマトグラフィーを組み合わせた精製は、タンパク質を取り扱う当業者であれば容易に行うことができる。
本発明の等電点の内部標準用蛋白質組成物において、本発明の等電点マーカー蛋白質のうちの1種のみを単独で用いることもできるが、蛋白質解析などにおいて、2次元電気泳動での内部標準蛋白質として用いる場合は、通常2種類以上、好ましくは3種類以上、より好ましくは5種類以上組み合わせて用いる。その際、R1−R2を同一アミノ酸配列でそろえて、R3のみを塩基性アミノ酸、又は酸性アミノ酸のうち特定のアミノ酸の数を順次増加させた系統的なセットを用意しておくことにより、系列中の等電点マーカー蛋白質を適宜組み合わせることで、広範囲に等電点が変化した内部標準蛋白質のセットが提供できるため、特に好ましい。
本発明の等電点マーカー蛋白質は、所望の蛋白質の分離又は同定する際に用いていた既存の等電点マーカー蛋白質に代替して、より抗酸化性に優れたマーカー蛋白質として用いることができるので、一般的な内部標準用の蛋白質組成物と同様に製造される。具体的には、本発明の等電点マーカー蛋白質の1種または2種以上を緩衝液中に、適宜アジ化ナトリウムなどの保存剤、塩類、糖類、アミノ酸等の安定剤などと共に、濃度1 mg/mL程度に溶解して製造する。保存する際には、暗所にて静地し、好ましくは、グリセリン、エチレングリコール等を加えて凍結を防ぎ、-20℃程度において凍結する。
本発明の蛋白質組成物を、所望のタンパク質の分離、同定の際の内部標準用蛋白質組成物として用いる際には、従来からの一般的な内部標準蛋白質組成物溶液の場合と同様に、調整後直ちに、又は一定期間保存後に、目的蛋白質の分離、同定工程での内部標準のために試料溶液中に添加する。添加時の濃度は、通常150 ng/μLであり、300 ng/μLが好ましい。
対象となる蛋白質を含有している試料としては、血液などの体液、各種臓器中の組織、細胞、又は微生物菌体などが典型的である。
目的蛋白質の分離又は同定方法としては、カラムクロマトグラフィー法、周知の手法を適用できる。
本発明の等電点マーカー蛋白質は、試料から目的とする所望の蛋白質を単離する場合、試料中に目的蛋白質の存在非存在を確認する場合、試料中の蛋白質が既知のどの蛋白質に相当するかを同定する場合に、緩衝溶液中に試料と共に等電点の内部標準用蛋白質組成物水溶液をあらかじめ添加しておく。その場合は、1種類の等電点マーカー蛋白質でも十分であるが、異なる等電点を示す2種以上の等電点マーカー蛋白質を組み合わせて内部標準蛋白質とすることで、より正確に分析タンパク質の分離・同定を行うことが可能となる。特に、2次元解析を行う場合には、規則的に等電点が変化する系統的な等電点マーカー蛋白質セットを選択すれば、マーカータンパク質の位置の判別が容易となり、被検試料中に含まれる多数の蛋白質を同時に正確に解析することができるので、例えば、血液や各種臓器中で発現している蛋白質の経時的なプロファイルを作製することも簡単に行える。ここで、2次元解析としては、典型的には2次元電気泳動があり、その操作手順としては、まず1次元目の泳動で等電点ゲルを用いた等電点電気泳動を行い、試料蛋白質の等電点に依存する分離を行う。続いて2次元目の泳動でSDS−PAGEを用いた電気泳動を行い、試料蛋白質の分子量に依存する分離を行う。泳動した2次元目ゲルをクマシー染色液や銀染色液によって染色し、分離された蛋白質を色素等によって可視的に示すものである。
以下、本発明の等電点マーカー蛋白質のうち、R1が公知ジヒドロ葉酸還元酵素改変体であり、R2がグリシン-グリシンである場合の具体的な製造方法を、本発明の典型的な実施の態様として示すが、本発明は以下の実施態様に限定されるものではない。
(1)R1部分に相当する変異酵素の製造
大腸菌由来のジヒドロ葉酸還元酵素のアミノ酸配列中の全てのL-メチオニンとL-システインとをL-アラニン、L-アスパラギン、L-ロイシン、L-チロシン、L-フェニルアラニン、L-セリンに置換した、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる変異酵素を、特許文献1に記載の製造方法に従って作製する。
具体的には、下記の遺伝子配列(配列番号3)のうち、BamHI(GGATCC)ではさまれる配列を適当なプラスミド、例えばpUC18などのBamHIに挿入し、これを大腸菌に導入することにより、配列番号1で示される蛋白質が発現される。
上記方法で製造した配列番号1で示されるアミノ酸配列を、R1部分の配列として用い、そのカルボキシ末端側に、R2部分の配列としてグリシンを2個付加することにより、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質が得られる。この配列の蛋白質を発現できる遺伝子として、上記配列番号3に示される塩基配列のカルボキシ末端のアミノ酸をコードするCGTとストップコドンTAAとの間に、グリシン2個をコードする配列として、「GGTGGT」を挿入することにより作成された塩基配列中の、BamHI(GGATCC)ではさまれる配列を、特許文献1などに記載された手法に従い、適当なプラスミド、例えばpUC18などのBamHIに挿入し、これを大腸菌に導入することにより、宿主菌体内に発現・蓄積させることができる。このようにして、R1−R2部分に対応する配列番号2に示されるタンパク質が製造できるが、当該タンパク質自体は特許文献1に記載された公知タンパク質である。
上記(2)の方法で製造されたR1−R2部分(配列番号2)のタンパク質に対して、(2)と同様の手法で、R3部分として、アスパラギン酸の連鎖を付加することにより、R3が(Asp)nであって、nが1〜10のいずれかの自然数であるアミノ酸配列からなる、式(1)の「R1−R2−R3」化合物が得られる。具体的には、この配列の蛋白質を発現できる遺伝子として、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を発現できる遺伝子配列(配列番号3)のカルボキシ末端のアミノ酸をコードするCGTとストップコドンTAAとの間に、グリシン2個をコードする配列として、「GGTGGT」を、さらにアスパラギン酸の連鎖をコードする配列として、(GAT)nを挿入した塩基配列を作成し、当該配列中のBamHI(GGATCC)ではさまれる配列を適当なプラスミド、例えばpUC18などのBamHIに挿入し、これを大腸菌に導入することにより、宿主菌体内に発現・蓄積させることができる。
R3部分として、リジンの連鎖である(Lys)nを付加させる場合は、同様に(AAG)nを挿入した塩基配列を作成し、当該配列中のBamHI(GGATCC)ではさまれる配列を適当なプラスミド、例えばpUC18などのBamHIに挿入し、これを大腸菌に導入することにより、宿主菌体内に発現・蓄積させることができる。
また、R3部分として、アルギニンの連鎖である(Arg)nを付加させる場合は、同様に(CGT)nを挿入した塩基配列を作成し、当該配列中のBamHI(GGATCC)ではさまれる配列を適当なプラスミド、例えばpUC18などのBamHIに挿入し、これを大腸菌に導入することにより、宿主菌体内に発現・蓄積させることができる。
また、R3部分として、グルタミン酸の連鎖である(Glu)nを付加させる場合は、同様に(GAG)n又は(GAA)nを挿入した塩基配列を作成し、当該配列中のBamHI(GGATCC)ではさまれる配列を適当なプラスミド、例えばpUC18などのBamHIに挿入し、これを大腸菌に導入することにより、宿主菌体内に発現・蓄積させることができる。
このようにして得られた、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる変異酵素をR1として用いる各種蛋白質は、ジヒドロ葉酸還元酵素としての性質を示すことから、その性質を利用して、発現をモニターすることができ、かつ蛋白質の高度精製を行うことができる。ジヒドロ葉酸還元酵素の精製において、その阻害剤であるメトトレキセート(MTX)を固定化したアフィニティ担体を用いたアフィニティクロマトグラフィーにより、精製を効率よく行わせることができる。さらに、DEAE-トヨパール担体もしくはSP-トヨパール担体を用いて精製することができる。また、蛋白質精製過程における回収等のモニタリングにおいて、酵素活性を利用することができる。
本発明の実施例で用いたジヒドロ葉酸還元酵素は、下記反応式を触媒する。
ジヒドロ葉酸 + NADPH → テトラヒドロ葉酸 + NADP+
そこで、ジヒドロ葉酸還元酵素の活性は、反応に伴う基質の減少を、340 nmの吸光度の減少で追跡することができる。本発明においては、酵素反応液の組成を、50 mMリン酸緩衝液(pH 7)、0.1 mM NADPH、0.05 mM ジヒドロ葉酸、12 mM 2-メルカプトエタノール、及び適当量の酵素とし、酵素反応液1mLを分光光度計用のキュベットにとり、酵素液を加えることにより反応を開始し、340 nmの吸光度の1分間あたりの変化量を測定し、この量を持って酵素活性の指標とする。
上記(1)〜(4)で得られた蛋白質中で、pIが異なる蛋白質を適宜選択し、あらかじめ膨潤させておいたゲルをセットしたゲルストリップに、同量ずつ(60μg)添加する。泳動条件は、100V - 3500 Vグラジェント、20℃、25時間、61.3 kVhで行う。
77.9 mM DTTを含む平衡化バッファー(1 M Tris-HCl, pH 8.8、6 M尿素、30 %グリセロール、2 % SDS)をA溶液とし、162.2 mMヨードアセトアミドと微量のブロモフェノールブルーを含む平衡化バッファー(同組成)をB液とする。等電点電気泳動を行ったゲルストリップをA液中に浸漬し、振とう機を用いて30分間室温で振とうし、さらに、A溶液とB溶液を交換し、30分間室温で振とうする。B液からゲルストリップを取り出し、余分なバッファーを除いた後、3分程度風乾する。
二次元目SDS-PAGE電気泳動を、泳動条件として、(1)1000 V、20 mA、40 W、45分、(2)1000 V、40 mA、40 W、5分、(3)1000 V、40 mA、40 W、3時間、15℃で行う。ゲルの染色はBio-Rad社製Bio-Safe Coomassie Stainを用い、スキャナーで画像取り込みを行って、得られた画像が、理論値通りに直線的になることを示す。
癌組織及び正常組織から採取した組織試料を粉砕後、緩衝液と共にホモゲナイザーで約30秒間溶解し、遠心分離の上清として各組織由来のタンパク質試料溶液を回収する。その後、各タンパク質試料を2種の蛍光色素で標識する。癌組織、正常組織由来の標識タンパク質試料溶液を混合し、さらに別の蛍光標識をした本発明の等電点マーカー蛋白質を含む内部標準蛋白溶解液も混合した試料溶液を調整し、実施例2と同様の手順で、試料中に含有されるタンパク質に対して等電点泳動、又は二次元電気泳動を施して解析を行う。その際に、本発明の等電点マーカー蛋白質の泳動スポットを用いて標準化する。
(1−1)R 1 −R 2 が配列番号2に示されるアミノ酸配列であり、R 3 としてアミノ酸が付加されていない等電点マーカー蛋白質の製造
配列番号3に示される塩基配列のうち、BamHI(GGATCC)ではさまれる配列を、特許文献1に記載の方法に従って、pUC18のBamHIに挿入し、これを大腸菌宿主に導入すれば、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる変異蛋白質が製造できる。
上記配列番号3に示される塩基配列のカルボキシ末端のアミノ酸をコードするCGTとストップコドンTAAとの間に、グリシン2個をコードする配列として、「GGTGGT」を挿入することにより作成された塩基配列中の、BamHI(GGATCC)ではさまれる配列を、特許文献1などに記載された手法に従い、pUC18のBamHIに挿入し、これを大腸菌宿主に導入することにより、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる変異蛋白質を形質転換大腸菌の菌体内に発現・蓄積させた。
次に、当該形質転換大腸菌を1 L培養し、得られた菌体を破砕して得られた無細胞抽出液をMTXアフィニティクロマトグラフィー及びさらにDEAE-トヨパール担体を用いたイオン交換クロマトグラフィーにより、均一に蛋白質を精製した。得られた精製タンパク質の収量は80 mg/Lである。
等電点をアミノ酸配列から計算した理論値は、pI=4.70であった。(表1)
なお、精製の際には、変異ジヒドロ葉酸還元酵素をR1として含む本発明の等電点マーカー蛋白質の酵素活性を、ジヒドロ葉酸に対応する340 nmの吸光度の減少で追跡して確認した。具体的には、酵素反応液の組成を、50 mMリン酸緩衝液(pH 7)、0.1 mM NADPH、0.05 mM ジヒドロ葉酸、12 mM 2-メルカプトエタノール、及び適当量の酵素とし、酵素反応液1mLを分光光度計用のキュベットにとり、酵素液を加えることにより反応を開始し、340 nmの吸光度の1分間あたりの変化量を測定し、この量を持って酵素活性の指標とした。
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を発現できる遺伝子配列(配列番号3)のカルボキシ末端のアミノ酸をコードするCGTとストップコドンTAAとの間に、グリシン2個をコードする配列として、「GGTGGT」を、さらにアスパラギン酸の連鎖をコードする配列として、(GAT)nを挿入した塩基配列を作成し、当該配列中のBamHI(GGATCC)ではさまれる配列を、上記(1−1)と同様に、pUC18のBamHIに挿入し、これを大腸菌宿主に導入して発現、蓄積させることにより、配列番号2で示されるアミノ酸配列のカルボキシル末端に(Asp)nが付加された変異蛋白質(n=1〜6)を製造した。次いで、上記(1−1)と同様の手法で精製した。得られた精製蛋白質量と、それぞれのタンパク質が示す等電点の理論値は、表1に示した通りである。
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を発現できる遺伝子配列(配列番号3)のカルボキシ末端のアミノ酸をコードするCGTとストップコドンTAAとの間に、グリシン2個をコードする配列として、「GGTGGT」を、さらにリジンの連鎖をコードする配列として、(AAG)nを挿入した塩基配列を作成し、当該配列中のBamHI(GGATCC)ではさまれる配列を、上記(1−1)と同様に、pUC18のBamHIに挿入し、これを大腸菌宿主に導入して発現、蓄積させることにより、配列番号2で示されるアミノ酸配列のカルボキシル末端に(Lys)nが付加された変異蛋白質(n=1〜6)を得た。次いで、上記(1−1)と同様の手法で精製した。得られた精製蛋白質量と、それぞれのタンパク質が示す等電点の理論値は、表1に示した通りである。
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を発現できる遺伝子配列(配列番号3)のカルボキシ末端のアミノ酸をコードするCGTとストップコドンTAAとの間に、グリシン2個をコードする配列として、「GGTGGT」を、さらにアルギニンの連鎖をコードする配列として、(CGT)nを挿入した塩基配列を作成し、当該配列中のBamHI(GGATCC)ではさまれる配列を、上記(1−1)と同様に、pUC18のBamHIに挿入し、これを大腸菌宿主に導入して発現、蓄積させることにより、配列番号2で示されるアミノ酸配列のカルボキシル末端に(Arg)nが付加された変異蛋白質(n=1〜12)を得た。次いで、上記(1−1)と同様の手法で精製した。得られた精製蛋白質量と、それぞれのタンパク質が示す等電点の理論値は、表1に示した通りである。
(1−1)〜(1−4)で得られた本発明の等電点マーカー蛋白質の理論値を下記表1に示す。
なお、表中等電点は、アミノ酸配列から計算で求めた値を示している。
(2−1)等電点ゲルの膨潤(準備)
膨潤用溶液(7 M尿素、2 Mチオ尿酸、4 %CHAPS、13 mM DTT、0.5 % IPGバッファー)を調製し、DTTと試料は使用直前に添加する。また、泳動の進行具合を観察するために0.1 %ブロモフェノールブルーをマーカー色素として用い、泳動を行う。等電点電気泳動に先立ち、泳動に用いるゲルストリップはGE healthcare社製のImmobiline DryStrip(pH 4-7, 18 cm)を使用し、膨潤トレイ中で膨潤用溶液を添加して12〜16時間膨潤させておいた。
泳動試料として、表1中に示す蛋白質のpIが小さいものから蛋白質名7((Asp)6)、2( Asp)、1(無し)、8(Lys)、9((Lys)2)、10((Lys)3)、11((Lys)4)、12((Lys)5)、13((Lys)6)の9種類(カッコ内はR3部分のアミノ酸)の各マーカー蛋白質を用いた。試料中の蛋白質濃度は事前にBradford法によって定量し、60μgとなるようにゲルストリップに添加した。前述の工程で膨潤させたゲルストリップはGE healthcare社製Multiphor IIシステムにセットし、湿潤させたGE healthcare社製IEF Electrode Stripを用いて電気泳動した。泳動条件は、100V - 3500 Vグラジェント、20℃、25時間、61.3 kVhで行った。
77.9 mM DTTを含む平衡化バッファー(1 M Tris-HCl, pH 8.8、6 M尿素、30 %グリセロール、2 % SDS)をA溶液とし、162.2 mMヨードアセトアミドと微量のブロモフェノールブルーを含む平衡化バッファー(同組成)をB液とする。等電点電気泳動を行ったゲルストリップをA液中に浸漬し、振とう機を用いて30分間室温で振とうし、さらに、A溶液とB溶液を交換し、30分間室温で振とうした。B液からゲルストリップを取り出し、余分なバッファーを除いた後、3分程度風乾した。
二次元目SDS-PAGE電気泳動はGE healthcare社製Multiphor IIシステムを用い、二次元目ゲルとして、GE healthcare社製SDSゲルExcelGel XL SDS 12-14 (T=12-14, 245*180*0.5, plastic support)を用いた。SDSゲルのセロファンをはがした状態で5分ほど風乾した後、クーリングプレート上にセットし、その両端に電極をセットして、ゲル面を下にして前項で風乾したゲルストリップをセットした。ストリップの両端にはサンプルアプリケーション濾紙を置き、並べて分子量マーカーアプライ用の濾紙を置く。ここで分子量マーカーは、Bio-Rad社製Precision Plus Protein Standards (10, 15, 2, 25, 37, 50, 75, 100, 150, 250)を用いる。泳動条件として、(1)1000 V、20 mA、40 W、45分、(2)1000 V、40 mA、40 W、5分、(3)1000 V、40 mA、40 W、3時間、15℃で行った。ゲルの染色はBio-Rad社製Bio-Safe Coomassie Stainを用い、スキャナーで画像取り込みを行った。得られた画像を図1に示す。
図1によると、本発明で作製した等電点マーカー蛋白質における理論pI値と泳動距離との間には、良好な直線関係が認められる。このことは、表1のpIの理論値がそのまま等電点の内部標準として適用できることを示すものであり、本発明の等電点マーカー蛋白質が、泳動結果を参照するためのマーカーとしてきわめて有効であることを示すものでもある。
癌組織及び正常組織から採取した組織試料を粉砕後、緩衝液と共にホモゲナイザーで約30秒間溶解し、遠心分離の上清として各組織由来のタンパク質試料溶液を回収する。その後、各タンパク質試料を2種の蛍光色素で標識する。癌組織、正常組織由来の標識タンパク質試料溶液を混合し、さらに別の蛍光標識をした本発明の等電点マーカー蛋白質を含む内部標準蛋白溶解液も混合した試料溶液を調整し、実施例2と同様の手順で、試料中に含有されるタンパク質に対して等電点泳動、又は二次元電気泳動を施して解析を行う。その際に、本発明の等電点マーカー蛋白質の泳動スポットを用いて標準化する。
図1中での図中番号と表1での蛋白質名の対応及びそれぞれのpI値を下記表2で示す。
Claims (13)
- 下記式(1)で示されるアミノ酸配列からなる等電点マーカー蛋白質の2つ以上を含み、かつ、選択された2つ以上の等電点マーカー蛋白質のアミノ酸配列が、R 1 −R 2 がいずれも同一のアミノ酸配列からなり、R 3 がそれぞれ異なるアミノ酸配列であることを特徴とする、等電点の内部標準用蛋白質組成物;
式(1)
R1−R2−R3
(式中、R1は、天然の機能性蛋白質に由来するアミノ酸配列であって、そのアミノ酸配列中のL−システインおよびL−メチオニンが全て他のアミノ酸に置換された変異蛋白質のアミノ酸配列を表す。
R2は、L−システインおよびL−メチオニン以外の同一のアミノ酸2〜10個で構成されるスペーサー配列であり、
R3は、アミノ酸が付加されないか、又はL−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−アルギニン、L−リジンの4種類から選ばれた1種類のアミノ酸の1〜15個で構成されるアミノ酸配列を表す。)。 - 前記野生型酵素がジヒドロ葉酸還元酵素であり、前記変異酵素が変異ジヒドロ葉酸還元酵素である、請求項1に記載の蛋白質組成物。
- 前記変異ジヒドロ葉酸還元酵素のアミノ酸配列が配列番号1に示されるアミノ酸配列である、請求項2に記載の蛋白質組成物。
- 前記式(1)中のR2が、2〜10個のグリシンの連鎖であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛋白質組成物。
- 前記等電点マーカー蛋白質が、形質転換細菌宿主から得られた組換え蛋白質である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛋白質組成物。
- 前記等電点マーカー蛋白質が、前記式(1)においてR1−R2が配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる等電点マーカー蛋白質であって、R3が下記(a)及び/又は(b)〜(e)のいずれかの群から選択されたものであることを特徴とする、請求項5に記載の蛋白質組成物;
(a) R3としてアミノ酸が付加されていない、等電点が約4.70である等電点マーカー蛋白質、
(b) R3が(Asp)nであって、nが1〜15のいずれかの自然数であるアミノ酸配列からなり、等電点が約4から5の間である等電点マーカー蛋白質、
(c) R3が(Lys)nであって、nが1〜15のいずれかの自然数であるアミノ酸配列からなり、等電点が約4から10の間にある等電点マーカー蛋白質、
(d) R3が(Arg)nであって、nが1〜15のいずれかの自然数であるアミノ酸配列からなり、等電点が約4から10の間にある等電点マーカー蛋白質、
(e) R3が(Glu)nであって、nが1〜15のいずれかの自然数であるアミノ酸配列。 - 下記式(1)で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質であって、式(1)におけるR1−R2が配列番号2で示されるアミノ酸配列からなり、R3が下記(b)〜(e)のいずれかの群から選択されたアミノ酸配列からなる蛋白質;
式(1)
R1−R2−R3
(b) R3が(Asp)nであって、nが1〜15のいずれかの自然数であるアミノ酸配列、
(c) R3が(Lys)nであって、nが1〜15のいずれかの自然数であるアミノ酸配列、
(d) R3が(Arg)nであって、nが1〜15のいずれかの自然数であるアミノ酸配列、
(e) R3が(Glu)nであって、nが1〜15のいずれかの自然数であるアミノ酸配列。 - 請求項7に記載の蛋白質をコードする塩基配列からなる核酸。
- 請求項8に記載の核酸を含み、形質転換細菌宿主内で請求項9に記載の蛋白質を発現し得る組換えベクター。
- 請求項9に記載の組換えベクターにより形質転換された形質転換細菌。
- 請求項10に記載の形質転換細菌を培養して得られた発現産物を精製することを特徴とする、請求項7に記載の蛋白質の製造方法。
- 所望の蛋白質を分離又は同定する方法において、請求項1〜6のいずれか1項に記載の蛋白質組成物を等電点の内部標準として用いることを特徴とする、所望の蛋白質の分離又は同定方法。
- 被検試料中の蛋白質を解析する方法であって、2次元電気泳動による蛋白質分離工程を含む蛋白質解析方法において、請求項1〜6のいずれか1項に記載の蛋白質組成物を等電点の内部標準として用いることを特徴とする、蛋白質解析方法。
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