JP4527327B2 - 粉末冶金用混合粉末 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、温間成形法に適用される粉末冶金用粉末に関し、特に黒鉛等の物性改善成分の偏析を防止するバインダーと、潤滑性を良好にするための潤滑剤を含み、良好な特性の焼結体を得ることのできる粉末冶金用混合粉末に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄粉や鋼粉等の金属粉末を主原料として用いる粉末冶金法においては、前記主原料粉末に焼結体の物性(強度特性や加工特性)を改善するための成分として合金成分や黒鉛等の粉末を添加混合し、これに潤滑剤を加えた後、圧縮成形して圧粉体を形成し、引き続き圧粉体を焼結して製品焼結体としている。こうした粉末冶金法において、物性改善成分を均一に混合することや原料粉末を圧縮成形して圧粉体とする工程は、良好な特性の焼結製品を得るという観点から重要である。
【0003】
ところで原料粉末を圧縮成形するための温度領域としては、一般的に3種類の温度領域が採用されている。すなわち、常温成形(常温での成形)、熱間成形(金属粉末が成形時に加工硬化温度を超える温度での成形)、および温間成形(常温成形と熱間成形の中間の温度での成形)の3種類である。
【0004】
これらのうち、常温を超える温度領域で圧縮成形する場合は、金属の降伏応力が低下するので、低い成形圧力でも圧粉体の密度や強度を向上させることができる。しかしながら、極めて高い温度領域で行われる熱間圧縮成形では、比較的耐熱性に優れた熱間圧縮成形用潤滑剤を使用したとしても、潤滑剤が劣化して潤滑機能が低下してしまうため、金型の摩耗を促進するという問題が生じてくる。
【0005】
こうしたことから、常温成形温度を超え、かつ熱間の温度領域ほど高温ではない温度領域(通常100〜150℃程度)で圧縮成形を行う温間圧縮成形(以下、単に「温間成形」と呼ぶ)が注目されている。この温間成形においては、通常、固体状でコロとして粉末間に介在し、粉末同士を摺動し易くする固体潤滑剤と、成形温度で液状化して粉末表面に潤滑液膜を形成し、粉末同士の摩擦抵抗を下げる液体潤滑剤とを原料粉末中に添加混合することで、圧粉体の製造を容易にしている。
【0006】
ところで、原料粉末は金型で圧縮成形されるまでホッパーに貯蔵されるが、原料粉末を金型へ充填した後に成形温度まで昇温させると、昇温に要する時間がかかることから、ホッパー内で成形温度と同じ温度に原料粉末を予熱しておくことによって、成形サイクルの短縮化が図られる。この予熱段階で潤滑剤が溶融してしまうと、原料粉末がホッパーの壁面に付着したり、原料粉末がブロッキングしたりブリッジを形成して粉末の流動性が著しく低減し、金型への導入作業が困難になるという問題があった。また、圧縮成形後に金型から圧粉体を抜き出す際、潤滑剤の性能が劣っていると、型壁が摩耗したり、大きな音(抜出音)が発生して作業環境を悪化させるという問題があった。
【0007】
また、粉末冶金法においては、焼結体の物性を改善するために、物性改善成分として、銅、ニッケル、クロム、モリブデン等の合金元素や、黒鉛、燐、硫黄等の無機質の粉末を添加することが多いが、通常、ベースとなる金属粉末と物性改善成分の粉末もしくは潤滑剤成分粉末の粒子サイズや比重等はかなり異なっている。例えばベース金属粉末が鉄粉や鋼粉であり、物性改善成分粉末が黒鉛や燐である場合、これらの比重差は極端に大きいため、混合後成形までの取り扱い過程でこれらが偏析を起こしやすく、ときには、飛散して必要量を確保できなくなることがあった。その結果、焼結体の特性や均質性が低下するため、改善が求められている。
【0008】
これら潤滑剤や物性改善成分の偏析の問題については、これまで様々な解決手段が講じられてきた。例えば、特許第2593632号では、高温加圧成形を目的とし、150℃〜260℃の融解範囲を持つ潤滑剤として、硼酸や硫化モリブデン、ポリアミド系樹脂等を用いると共に、物性改善成分の偏析を防止するために、セルロースエステル系樹脂、ヒドロキシアルキルセルロース系樹脂、熱可塑性フェノール樹脂等の粘結剤を使用することによって、鉄基粉末や合金粉末を取り囲む膜を形成し、互いを接着させることで解決している。
【0009】
また、本出願人は、特開平10−140207号公報として先に提示する如く、比較的低い温度領域(200℃以下)での温間成形を目的とし、脂肪酸エステルや炭化水素系ワックスを液体潤滑剤とし、またステアリン酸リチウムを固体潤滑剤として用いることで、良好な潤滑性が得られることを明らかにした。そして、物性改善成分の偏析を防止するためのバインダーとして、スチレンブタジエンゴムやエチレングリコールジステアレートを開示した。さらに、特開平10−219302号公報では、150〜220℃での温間成形を目的とし、予熱温度の最大値よりも軟化点が低い液体潤滑剤として酸化ポリエチレンを使用し、固体潤滑剤としてステアリン酸リチウムを用い、バインダーとしては、上記スチレンブタジエンゴムやエチレングリコールジステアレートを用いている。
【0010】
しかし、これらの従来技術では、成形温度を150℃以上に想定しているものもあるが、これらに開示されている混合粉末では、使用するバインダーの種類によっては、130℃レベルの予熱でバインダー自体が融解してしまい、配管やホッパー等へ融着を生じたり、流動性を喪失するという問題があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明では、130℃レベルの予熱を行っても融解せず、物性改善成分の偏析防止や飛散防止に効果的なバインダーを見出し、成形作業性が良好で高密度な圧粉体を得ることのできる粉末冶金用混合粉末の提供を課題として掲げた。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の金属粉末、物性改善成分、潤滑剤およびバインダーを含む粉末冶金用混合粉末において、該バインダーとして、軟化点が145℃以上の石油樹脂および/またはロジンエステルが含まれていることを特徴としており、上記物性改善成分が、銅、ニッケル、クロム、モリブデン、黒鉛、硫化マンガンから選ばれる1種以上の合金元素または無機成分の粉末であるのが好ましい。
【0013】
上記粉末冶金用混合粉末に含まれる潤滑剤としては、(メタ)アクリル系架橋ポリマー粒子、複合系ワックスまたは融点が145℃以上の金属石鹸のうち1種以上と、融点が130℃以上の脂肪酸アミドとを含むものが好ましく、上記(メタ)アクリル系架橋ポリマー粒子としては、アルキル基の炭素数が1〜8個の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A)を主要モノマー成分として構成され、メチルエチルケトンを用いて測定されるゲル分率が5質量%以上で、かつ、平均粒子径が1〜80μmであるものが好ましい。上記複合系ワックスとしては、メラミン−シアヌル酸付加物(メラミン−シアヌレート)等が挙げられる。また、上記金属石鹸としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウムおよびラウリン酸カルシウムよりなる群から選択される1種類以上が好適である。潤滑剤中の前記脂肪酸アミドとしては、エチレンビスステアロアミド、エチレンビスラウリルアミド、メチレンビスステアロアミドよりなる群から選択されるものが好ましく、また、潤滑剤100質量%中に占める該脂肪酸アミドの比率は20質量%以上が好ましい。
【0014】
そして本発明には、上記粉末冶金用混合粉末を用いて製造された粉末焼結製品も含まれる。
【0015】
なお、以下の説明において、「混合粉末」とは、原料粉末、バインダーおよび潤滑剤を必須的に含む粉末を指し、「原料粉末」とは、バインダーおよび潤滑剤を含まない金属粉末と物性改善成分粉末との混合物を指すものとする。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、粉末冶金用混合粉末中に通常含まれる物性改善成分の偏析を防止することのできるバインダーや、温間成形に好適な潤滑剤の組み合わせについて様々な角度から検討した。その結果、潤滑剤のみならず、バインダーについても130℃の予熱温度では融解しない物を使用すれば、混合粉末が配管やホッパー内に融着することなく、流動性を維持できることを見出し、本発明を完成した。また、本発明の混合粉末においては、温間成形法により圧粉体を得た後、公知の方法で焼結しても希望する特性の焼結体を得ることができる。
【0017】
本発明の粉末冶金用混合粉末は、金属粉末と物性改善成分と、この物性改善成分の偏析を防止するバインダーと、潤滑剤とを必須構成成分とする。
【0018】
本発明に使用される金属粉末としては、アトマイズ鉄粉または還元鉄粉などの純鉄粉や、予め他の元素を合金化した部分合金化粉や完全合金化粉等が挙げられる。
【0019】
本発明で用いる原料粉末には、金属粉末の他に、焼結体の物性を向上させる物性改善成分が含まれている。物性改善成分としては、焼結品の物性を向上せしめ得るものであれば特に限定されないが、例えば、銅、ニッケル、クロム、モリブデン等の合金元素や、黒鉛や硫化マンガン等の無機成分の粉末等が挙げられる。このような物性改善成分は金属粉末100質量%に対して、5質量%以下用いるのが好ましい。5質量%を超えると、それらも不純物となって、焼結体の物性改善効果に比べて成形体強度を低下させるため好ましくない。より好ましい物性改善成分の含量の上限は3質量%であり、より好ましい下限は0.2質量%である。
【0020】
本発明の混合粉末中に含まれるバインダーは、物性改善成分の偏析を防止し、最終目的物である焼結体の物性を向上させるために必要な成分である。このバインダーの軟化点は145℃以上であることが好ましい。軟化点が145℃未満では、温間成形前の予熱段階でバインダーが融解してしまい、配管やホッパー内部等で粉末の固着が発生し、粉末の流動性が確保できなくなるため好ましくない。より好ましい軟化点は150℃以上であり、さらに好ましくは155℃以上、特に好ましくは160℃以上である
本発明において好適に使用されるバインダーとしては、軟化点が145℃以上の石油樹脂やロジンエステルが挙げられ、これらのうち1種類、または2種類以上の混合物を用いることができる。
【0021】
石油樹脂とは、石油系不飽和炭化水素を直接原料とする樹脂のことで、具体的には、脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、共重合系(C5/C9)石油樹脂、水添型やDCPD系(ジシクロペンタジエン)の脂環族系石油樹脂などが挙げられる。本発明では、上記した条件を満たすもののうち軟化点が145℃以上のものを用いることが好ましく、例えば、日本石油化学社製の「ネオポリマー」(C9系)が入手可能である。
【0022】
ロジンエステルは、ロジンをグリセリンやペンタエリスリトールのような多価アルコールでエステル化することによって得られる。ロジンとしては、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジンや変性ロジン等が利用でき、これらのグリセリンエステルや、ペンタエリスリトールエステル等のうち、軟化点が145℃以上のものを用いるのが好ましい。このような条件を満たすものとして、例えば、荒川化学社製の「ペンセルKK」、「ペンセルD−160」、「ペンセルPHB」等が入手可能である。
【0023】
一般的に、石油樹脂やロジンエステルは粘着性物質として知られている。本発明において、鉄基粉末と物性改善成分粉末の混合物に、バインダーを有機溶媒に溶解させて滴下または噴霧すると、これらの表面にバインダーを付着させることができる。このことにより、鉄基粉末と物性改善成分粉末が部分的に接着するため偏析が低減すると考えられる。
【0024】
これら本発明で用いる上記バインダーは、その平均分子量が1万程度以下の比較的低分子量のものが好ましい。なぜならば、圧粉体の成形工程において、溶融物が低粘性で流出しやすく、また残存するバインダーによるスプリングバックも無く高密度の圧粉成形体が得られ易いからである。本発明のバインダーは、前述の如く、温間成形に適したものであるが、常温成形用混合粉末にも適用可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0025】
好ましいバインダーの添加量は混合粉末100質量%に対して、上限は0.5質量%であり、下限は0.03質量%である。バインダーの添加量が0.03質量%未満では物性改善成分の偏析を防止することができない。また、0.5質量%を超えると、混合粉末の流動性が得られないので好ましくない。より好ましい上限は0.2質量%であり、より好ましい下限は0.05質量%である。
【0026】
本発明の粉末冶金用混合粉末に含まれる潤滑剤として好ましいのは、金属石鹸、複合系ワックス、架橋(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうち1種以上と脂肪酸アミドからなるものである。これらを併用することで、混合粉末の流動性を失うことなく、また、成形後、金型から取り出すときにも優れた潤滑性を発現する。
【0027】
まず、金属石鹸は、融点が145℃以上であることが好ましい。融点が145℃未満であると、圧縮成形前の予熱温度で潤滑剤が融解し、配管やホッパー内部で粉末の固着が発生し、粉末の流動性が確保できなくなるばかりでなく、温間成形工程で、固体潤滑剤としての機能を果たし得なくなる。
【0028】
上記金属石鹸の好ましい具体例としては、ステアリン酸リチウム(融点:216℃)、ステアリン酸カルシウム(融点:146℃)およびラウリン酸カルシウム(融点:158℃)が挙げられる。これらはそれぞれ単独で使用しても良いが、2種以上の混合物として使用することが望ましい。また、ステアリン酸塩と同様の性能を有する12ヒドロキシステアリン酸塩も本発明の金属石鹸として使用できる。
【0029】
融点が145℃以上の金属石鹸として、ステアリン酸バリウム(融点:220℃)やラウリン酸バリウム(融点:240℃)等もあるが、これらは焼結品中に金属成分を残存させる可能性があり、焼結品としての物性を低下させる恐れがあるので好ましくない。
【0030】
潤滑剤100質量%中に占めるの金属石鹸の比率は、4質量%以上、60質量%未満であることが好ましい。金属石鹸の比率が4質量%未満では、十分な潤滑性が得られ難くなり、抜出力も高くなるので好ましくない。また、金属石鹸の比率が60質量%以上では、成形体の密度が低下するので好ましくない。より好ましくは、30質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上である。
【0031】
上記複合系ワックスの具体例としては、メラミン−シアヌル酸付加物が挙げられる。このメラミン−シアヌル酸付加物は、高融点潤滑剤として用いることができる。
【0032】
潤滑剤100質量%中に占めるの複合系ワックスの比率は、4質量%以上、60質量%未満であることが好ましい。より好ましくは、30質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上である。
【0033】
次に、架橋(メタ)アクリル系ポリマー粒子は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを必須構成成分とする。(メタ)アクリル系ポリマーは、架橋しても適度な塑性変形能を有しており、潤滑性能に優れている。また、圧粉体形成後の焼結の際の加熱分解性も良好で、有毒ガスが発生しない。
【0034】
特に、アルキル基の炭素数が1〜8の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A)を使用することが好ましい。炭素数が9以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルでは、生成ポリマーの粘着性が増大し、潤滑剤を原料粉末に添加した後に、ホッパー内部等で粉末の固着が発生し、粉末の流動性が確保できなくなるため好ましくない。
【0035】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A)としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を混合して用いることができる。後述するTgの要件を満足するように適宜選択することが好ましい。最も好ましいのは、潤滑性の点で、メチルメタクリレート(MMA)である。なお、MMAの未架橋のホモポリマーのTgは105℃(ただし、重合方法や測定機器によって、105〜130℃にばらつくことがある。)、軟化温度(ビカット)は110〜140℃、融点は160℃近傍である。
【0036】
本発明で潤滑剤として用いられる架橋ポリマーは架橋していなければならないが、架橋度合いとしては、ゲル分率を目安とし、このゲル分率が5質量%以上であるものが好ましい。ゲル分率が5質量%未満では、予熱によって架橋ポリマー粒子は粒子形状を失って溶融流動し、混合粉末の固着の要因になるため好ましくない。5質量%以上のゲル分率を有する架橋ポリマー粒子であれば、予熱されても粒子形状を維持できるため混合粉末の固着といった不都合を起こすことはない。また、架橋されているとは言え、ポリマー分子鎖は加熱によって動きやすくなるので、混合粉末の圧縮成形の際に架橋ポリマー粒子が適度に塑性変形するため、潤滑性を発揮して、成形後の型抜きの際の抜出力や抜出音を小さくすることができる。また、適度な塑性変形によって金属粉間の空隙を減らして、圧粉体の密度を向上させ、焼結体の強度向上にもつながるため好ましい。より好ましいゲル分率は20質量%以上である。
【0037】
ゲル分率の測定には、溶剤としてメチルエチルケトンを用いる。具体的には、精秤した所定量W1の架橋ポリマー粒子をメチルエチルケトン中に入れ、25℃で20時間放置し、7μm以上の粒子が保留されるガラスフィルターで濾過した後、濾液を(フィルター上の残存物ではなく)加熱乾燥後、残留乾固物(架橋ポリマーのうちの溶解した分)の質量W2を測定して、100×(W1−W2)/W1をゲル分率(質量%)とした。
【0038】
ゲル分率5質量%以上の架橋ポリマー粒子を得るためには、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A)にラジカル重合性不飽和基を2個以上有する多官能モノマー(B)および/または架橋剤と反応し得る官能基を1個以上有する官能基含有モノマー(C)を共重合させる必要がある。
【0039】
多官能モノマー(B)としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレート類;ビニル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基とビニル基・アリル基を有するモノマー類;トリメリット酸トリアリル、トリアリルイソシアヌレート等のアリル基を2個以上有するモノマー類;ジビニルベンゼン等の芳香族ジビニルモノマー類;ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、シクロペンタジエン等のジエン類;エチリデンノルボルネン、ビニルシクロヘキセン等の非共役ジエン類等が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0040】
多官能モノマー(B)を用いる場合は、重合するだけで架橋ポリマーが得られる。ただし、ジエン類や非共役ジエン類は重合時に二重結合を両方とも反応させることが難しい場合があるので、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物、過酸化水素、アゾビスイソブチロニトリル等のラジカル発生剤を、重合後にポリマーに添加して、架橋反応を促進させることが好ましい。添加方法は後述する。
【0041】
官能基含有モノマー(C)の官能基としては、エポキシ基、カルボキシル基(または酸無水物基)、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基等が挙げられる。官能基含有モノマー(C)の具体例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシジシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有モノマー類;(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等のカルボキシル基(または酸無水物基)含有モノマー類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有モノマー類;2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリレート、N−2−アミノエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド等のアミノ基またはアミド基含有モノマー類等が挙げられる。
【0042】
官能基モノマー(C)は、1分子中に官能基を2個以上有する架橋剤と併用される。ポリマーがエポキシ基を有する場合は、エチレンジアミン等の脂肪族ジアミン類;m−キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン等の芳香族ジアミン類;ヘキサメトキシメラミン等のメラミン化合物等が、架橋剤として使用可能である。ポリマーがカルボキシル基(酸無水物基)を有する場合は、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソシアヌレート変性トルエンジイソシアネート等のポリイソシアネート化合物;アルミニウム、錫等の金属にアセチルアセトン、アセト酢酸メチル等が配位した金属キレート化合物等が、架橋剤として使用可能である。ポリマーがヒドロキシル基を有する場合は、上記メラミン化合物、上記ポリイソシアネート化合物、カルボジイミド(R−N=C=N−)基を有するポリカルボジイミド化合物等が架橋剤として使用可能である。ポリマーがアミノ基またはアミド基を有する場合には、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂;ソルビトールポリグリシジルエーテル等のポリエポキシ化合物;上記ポリイソシアネート化合物等が架橋剤として利用可能である。架橋剤の添加方法は後述する。
【0043】
架橋ポリマー粒子を得るためのモノマーとしては、これまで述べた(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A)と、多官能モノマー(B)および/または官能基モノマー(C)以外に、その他のモノマー(D)として、酢酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル等を使用しても良い。
【0044】
架橋ポリマー粒子を得るための全モノマーを100質量%としたとき、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A)は合計で50質量%以上とすることが好ましい。50質量%より少ないと、潤滑特性があまり発揮されないことがある。より好ましくは、80質量%以上である。ただし、あまり多いと、架橋に関与する多官能モノマー(B)や官能基モノマー(C)の量が少なくなって、ゲル分率5質量%以上という要件を満足できなくなるので、99質量%以下に抑えることが好ましい。
【0045】
多官能モノマー(B)を使用する場合は、ゲル分率を5質量%以上にするために多官能モノマー(B)を、全モノマー中、1質量%以上使用することが好ましいが、多過ぎると重合中にゲル化してしまうことがあるので、10質量%以下に抑えることが好ましい。より好ましくは3〜8質量%である。また、官能基モノマー(C)は1質量%以上使用することが好ましく、2質量%以上がより好ましい。官能基モノマー(C)の好ましい上限は、特に限定されない。反応相手の架橋剤の量で架橋量を調節できるためである。ただし、官能基モノマー(C)が多過ぎると温間成形温度で粒子が硬くなり過ぎて、潤滑効果が劣るため、30質量%以下にすることが好ましい。
【0046】
架橋ポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が70℃以上であることが好ましい。Tgが70℃以上になるように、上記各種モノマー(A)〜(D)を適宜選択することが推奨される。各種モノマーのホモポリマーのTgと質量分率とから、生成ポリマーのTgが算出できる公知の式を参考にするとよい。ポリマーのTgが70℃よりも低いと、温間成形の際にポリマー粒子の形状が維持できず、粘着性を示して原料粉末の固着・凝集を引き起こすため好ましくない。また、潤滑性能も低いものとなる。75℃以上がより好ましい。一方、ポリマーの架橋度合いがかなり進むと、例えばDSC(示差操作熱量計)で測定したときに、DSC曲線のベースラインが明確な変曲点を示さず、実質的にTgおよび融解点を示さなくなるが、このような架橋ポリマーも、本発明の潤滑剤として有用である。
【0047】
ポリマーの重合方法としては、特に限定されないが、粒状物が容易に得られる乳化重合、シード乳化重合、懸濁重合、乳懸濁重合、マイクロ懸濁重合等の重合方法を用いることが好ましい。乳化重合やシード乳化重合では、過硫酸アンモニウム等の公知の水溶性重合開始剤とドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の公知の乳化剤を用い、懸濁重合では、ベンゾイルパーオキサイドやアゾビスイソブチロニトリル等の公知の油溶性開始剤と、ポリビニルアルコールや燐酸塩等の分散剤を用いて、通常の条件で重合することにより、水媒体にポリマー粒子(一次粒子)が分散した水分散体が得られる。公知のコアシェル重合法で1段目と2段目のモノマー組成を変えて、コアを架橋度の高いポリマー、シェルを架橋度の低いポリマーのコアシェル粒子としてもよい。また、中空粒子であっても構わない。
【0048】
乳化剤あるいは分散剤の種類や量、撹拌状態を適宜選択することにより、粒子の大きさをコントロールできるが、大体一次粒子は0.05〜1μm程度である。本発明では、平均粒径1〜80μmの架橋ポリマー粒子を潤滑剤として使用するものであるから、一次粒子のままでは小さ過ぎる場合がある。このため、重合後に、得られた水分散体を、凝固乾燥、噴霧乾燥、気流乾燥、流動床乾燥、凍結乾燥法等で乾燥する際に、二次凝集粒子を作るとよい。特に、一次粒子がある程度融着して一次粒子の形状がはっきりと観察できないような凝集粒子が、凝集状態の保持強度が高く、好ましく用いられる。このような凝集粒子を得るには、乾燥段階でポリマーのTg以上の温度で加熱するとよく、この点で、噴霧乾燥、気流乾燥、流動床乾燥法の採用が推奨される。このようにして得られる架橋ポリマー粒子は、温間成形用の混合粉末を調整する際の機械的混合時に加えられる力によっても、一次粒子に戻らない強度を有している。一次粒子各々の形状が明確に観察できるような状態の二次粒子では、容易に崩れてすぐ一次粒子に戻ってしまうため好ましくない。
【0049】
架橋ポリマー粒子の形状は、真球状に限られず、凹凸があっても、金平糖のように突部を有するものであっても良い。架橋ポリマー粒子の平均粒径が1μmより小さいと潤滑性・流動性が発揮されず、また、原料粉末の固着を引き起こすことがある。80μmを超えると大き過ぎて圧粉体の密度や焼結体の強度の低下を招くため好ましくない。乾燥後に篩にかけて大粒径のものを除くとよい。なお、「平均粒径」とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定器等を用いて測定したときに、質量分布で50%の積算値になる粒径を意味する。
【0050】
前記した官能基モノマー(C)を用いてポリマーを合成する場合、架橋剤と反応させて架橋させる必要があるが、用いた官能基モノマー(C)の官能基と反応することのできる官能基を2個以上有する前記した架橋剤を、重合が終了した段階で、ポリマーの水分散体に添加して反応させるとよい。また、ポリマー乾燥後に、架橋剤をそのままで、または水や有機溶剤等に架橋剤を溶解または分散させた状態で、ポリマー粉末と混合して、架橋反応させることもできる。架橋反応条件は、架橋剤の種類に応じて適宜選択すればよい。ジエン類や非共役ジエン類を多官能モノマー(B)として用いた場合の架橋促進のためのラジカル発生剤の添加手段も、上記と同様に行うとよい。
【0051】
本発明で潤滑剤として用いることのできる(メタ)アクリル系架橋ポリマー粒子は、ゲル分率が5質量%以上の架橋ポリマー粒子からなるが、粒子全てがゲル分率5質量%以上の架橋粒子である必要はなく、一定量の架橋ポリマー粒子を採ってゲル分率を前記方法によって測定したときに、5質量%以上示せばよい。この意味で、これまで説明した方法で架橋ポリマー粒子を得ると共に、未架橋のポリマー粒子を別途製造して、両者を混合し、ゲル分率5質量%以上になるように調整したものも、本発明の潤滑剤として使用可能である。ただし、未架橋のポリマー粒子は50質量%以下とすることが好ましい。予熱・成形時の原料粉末の固着防止のためである。
【0052】
潤滑剤100質量%中の(メタ)アクリル系架橋ポリマー粒子の比率は4質量%以上、60質量%未満であることが好ましい。(メタ)アクリル系架橋ポリマー粒子の比率が4質量%未満であると、十分な潤滑性が得られず、圧縮成形後に、金型から圧粉体を抜き出す際、型壁が磨耗したり、抜出音や抜出力が高くなり好ましくない。また、60質量%以上であると、圧粉体密度が低下して焼結製品の機械的強度が低下する。より好ましくは、10質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上である。
【0053】
脂肪酸アミドは、本発明の粉末冶金用混合粉末において、低融点潤滑剤として用いるため、その融点が130℃以上であることが好ましい。本発明の脂肪酸アミドとして好ましいのは、エチレンビスステアロアミド、エチレンビスラウリルアミド、メチレンビスステアロアミドであり、これらを単独で、または2種類以上を混合して用いることができる。
【0054】
潤滑剤100質量%中の脂肪酸アミドの比率は20質量%以上であることが好ましい。脂肪酸アミドの比率が20質量%未満であると、十分な潤滑性が得られず、抜出力が高くなり好ましくない。
【0055】
本発明の粉末冶金用混合粉末100質量%に含まれる潤滑剤の添加量は、冶金用原料粉末に対して、上限が0.8質量%であり、下限は0.05質量%であることが好ましい。上限が0.8質量%以上であると、圧粉体の密度が低下して焼結製品の機械的強度が低下し、下限が0.05質量%未満であると、良好な潤滑性が得られず好ましくない。より好ましくは上限が0.7質量%、下限が0.1質量%である。
【0056】
本発明の粉末冶金用混合粉末は、温間成形または常温成形等において適当な温度で圧粉体に成形され、その後、脱ろう工程、焼結工程を経て製品となる。
【0057】
【実施例】
以下実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することはすべて本発明の技術範囲に包含される。なお、「部」、「%」は特に断らない限り質量基準であり、各物性値は以下の方法で測定した。
【0058】
[黒鉛飛散率(%)(図2)]
ニュークリポアフィルター1(網目12μm)を取付けた漏斗状ガラス管2(内径:16mm、高さ:106mm)を使用し、試料粉末P(25g)を入れて下方からN2ガスを0.8リットル/分の速度で20分間流し、次式より黒鉛飛散率(%)を求めた。
黒鉛飛散率=[1−N2ガス流通後黒鉛量/N2ガス流通前黒鉛量]×100
【0059】
[流動性(sec/50g)]
JIS Z 2502(金属粉の流動度試験法)に準じ、2.63mmφのオリフィスを50gの粉末が流れ出るまでの時間を混合粉末流動性(sec/50g)とした。
【0060】
[圧粉体密度(g/cm3)]
得られた圧粉体の質量を測定し、体積で除した値(g/cm3)を示した。
【0061】
[抜出力(MPa)]
加熱圧縮成形後に金型から圧粉体を抜き出す際の力を、金型と圧粉体との接触面積で除した値(MPa)を示した。
【0062】
[粉末固着]
混合粉末を130℃で12時間保持し、粉末が固化するか否かを目視で観察した。
【0063】
[見かけ密度(g/cm3)]
JIS Z 2504(金属粉の見掛密度試験法)に準じて行った。
【0064】
実験番号1
ベース金属粉末として高圧縮性鉄粉(神戸製鋼所製;商品名「アトメル4800DFC」;粒径180μm以下)100部を、物性改善成分として黒鉛粉末0.8部を用い、これらを混合して、原料粉末を調整した。
【0065】
この原料粉末を、図1(フロー図)に示すように、攪拌翼付ミキサーによって、高速攪拌しつつ、所定量(鉄粉100部に対して、バインダー0.15部)のバインダー溶液(ロジンエステル(荒川化学社製;商品名「ペンセルKK」、軟化点;165℃)8%トルエン溶液)を滴下または噴霧した。さらに、約5分間強攪拌した後、緩やかな攪拌に切り替えて、所定時間減圧雰囲気下で溶媒を留去し、乾燥した。その後、この乾燥粉末の一部をサンプリングして黒鉛飛散率を測定した。さらに、この乾燥粉末に潤滑剤として、ステアリン酸リチウム0.2部、エチレンビスステアロアミド0.4部を混合し、粉末冶金用混合粉末を調整した。この混合粉末の流動性、粉末固着の有無についても調べた。
【0066】
得られた混合粉末を用いて、粉末圧縮成形機で、成形圧力を686MPa、成形温度を130℃とし、外径:30mm、内径:10mm、高さ:10mmの圧粉体を成形し、抜出力および得られた圧粉体の密度を調べた。また、表1および3に、配合組成、物性評価結果を示した。
【0067】
実験番号2
バインダー溶液として、前記したロジンエステルの8%トルエン溶液の代わりに、石油樹脂(日本石油化学製;商品名「ネオポリマー170S」、軟化点;162℃)8%トルエン溶液を用いた以外は、実験番号1と同様にして、粉末冶金用混合粉末を調整した。その組成、評価結果を表1および3に示した。
【0068】
実験番号3〜7
ステアリン酸リチウムの代わりに、架橋PMMA粒子(ゲル分率95質量%、平均粒子径20μm)(実験番号3)、ステアリン酸カルシウム(実験番号4)、ラウリン酸カルシウム(実験番号5)、架橋PMMA粒子(ゲル分率95質量%、平均粒子径20μm)/ステアリン酸リチウム=1:1混合品(実験番号6)、メラミン−シアヌル酸付加物(実験番号7)を用いた以外は、実験番号1と同様にして、粉末冶金用混合粉末を調整した。その組成、評価結果を表1および3に示した。
【0069】
実験番号8、9
エチレンビスステアロアミドの代わりに、エチレンビスラウリルアミド(実験番号8)、メチレンビスステアロアミド(実験番号9)を用いた以外は、実験番号1と同様にして、粉末冶金用混合粉末を調整した。その組成、評価結果を表1および3に示した。
【0070】
実験番号10、実験番号16
ステアリン酸リチウム/エチレンビスステアロアミドの配合量をそれぞれ、0.4部/0.2部(実験番号10)、0.5部/0.1部(実験番号16)とした以外は、実験番号1と同様にして、粉末冶金用混合粉末を調整した。その組成、評価結果を表1、2および3に示した。
【0071】
実験番号11、12
バインダー溶液として、実験番号11では、前記ロジンエステル8%トルエン溶液の代わりに、ロジンエステル(荒川化学社製;商品名「ペンセルD−125」、軟化点;125℃)8%トルエン溶液を用い、実験番号12では、石油樹脂(日本石油化学製;商品名「ネオポリマ−120」、軟化点;120℃)8%トルエン溶液を用いた以外は、実験番号1と同様にして、粉末冶金用混合粉末を調整した。その組成、評価結果を表2および3に示した。
【0072】
実験番号13
比較例として、バインダーを添加せず、それ以外は実験番号1と同様にして粉末冶金用混合粉末を調整した。その組成、評価結果を表2および3に示した。
【0073】
実験番号14、15
実験番号14では、ステアリン酸リチウムの代わりにステアリン酸亜鉛を使用し、実験番号15では、エチレンビスステアロアミドの代わりにオレイン酸アミドを使用した以外は、実験番号1と同様にして、粉末冶金用混合粉末を調整した。その組成、評価結果を表2および3に示した。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
本発明で定める条件を満たしている実験番号1〜10で得られた混合粉末は、黒鉛飛散率が小さく、流動性が高い。また、本発明により得られた成形体は、抜出力が小さく、圧粉体密度が高く、粉末固着も生じない圧粉体であった。しかし、バインダーの軟化点の低い実験番号11、12では、130℃の加熱で粉末が金型に融着し、使用上問題があった。また、潤滑剤の融点が低い実験番号14、15は、130℃の加熱で粉末が金型に融着するとともに、成形時潤滑不足となるため、抜出力が大きく、金型かじりの原因となる。そして、バインダーを含まない実験番号13は、黒鉛飛散率が高く、物性改善成分の偏析や飛散を防ぐことができなかった。実験番号16は、低融点潤滑剤が少ないため、少し潤滑不足となり、抜出力がやや大きくなる。
【0078】
実験番号17
常温成形に用いる混合粉末の実施例として、ベース金属粉末に、鉄粉(神戸製鋼所製、商品名「アトメル300M」:粒径180μm以下)100部を、物性改善成分として銅粉2部、および黒鉛粉末0.8部を用い、これらを混合して、原料粉末を調整した。
【0079】
この粉末原料を、図1(フロー図)に示すように、攪拌翼付ミキサーによって高速攪拌しつつ、所定量(鉄粉100部に対して、バインダー0.15部)のバインダー溶液(ロジンエステル(荒川化学社製;商品名「ペンセルKK」、軟化点;165℃)8%トルエン溶液)を滴下または噴霧した。さらに、約5分間強攪拌した後、穏やかな攪拌に切り替えて所定時間乾燥し、溶媒を除去した。その後、この乾燥粉末を一部サンプリングして黒鉛飛散率測定した。なお、上記ロジンエステル溶液は、固体のロジンエステルと液体のトルエンを別々に添加しても、同様の乾燥粉末が得られることを確認している。
【0080】
さらに、この乾燥粉末に潤滑剤として、ステアリン酸亜鉛0.75部加えて約2分間攪拌し、粉末冶金用混合粉末を調製した。この混合粉末の流動性、見掛け密度、粉末固着の有無についても調べた。
【0081】
得られた混合粉末を用いて、粉末圧縮成形機で、成形圧力を490MPa(5t/cm2)、成形は常温で行い、外径:25mm、高さ:15mmの圧粉体を成形し、抜出力および得られた圧粉体の密度を調べた。また、表4および5に、配合組成、物性評価結果を示した。
【0082】
実験番号18
バインダー溶液として、前記したロジンエステルの8%トルエン溶液の代わりに、石油樹脂(日本石油化学製;商品名「ネオポリマー170S」、軟化点;162℃)8%トルエン溶液を用いた以外は、実験番号17と同様にして、粉末冶金用混合粉末を調整した。その組成、評価結果を表4および5に示した。
【0083】
実験番号19
ステアリン酸亜鉛の代わりに、エチレンビスステアロアミドを用いた以外は、実験番号17と同様にして粉末冶金用混合粉末を調製した。その組成、評価結果を表4および5に示した。
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
【0086】
実験番号17〜19で得られた混合粉末は、常温成形時においても、物性改善成分の偏析や飛散を効果的に低減し、その成形体は、高密度で優れた物性を示す圧粉体であった。
【0087】
【発明の効果】
本発明では、高軟化点のバインダーとして、石油樹脂および/またはロジンエステルを用いたので、粉末冶金用混合粉末は、130℃の予熱時に、配管やホッパーへの融着がなく、流動性を失わない。さらに、これらのバインダーは、比較的低分子量であるため、成形時において、溶融物は低粘度で流出しやすく、また残存するバインダーによるスプリングバックもなく、物性改善成分の偏析や飛散を効果的に低減できるため、高密度で物性に優れた圧粉体を成形作業性良好に得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実験法を示すフロー図である。
【図2】 黒鉛飛散率の測定に用いた実験装置の概略断面図である。
【符号の説明】
1 ニュークリポアフィルター
2 漏斗状ガラス管
P 試料粉末
Claims (4)
- 金属粉末、潤滑剤、物性改善成分としての銅、ニッケル、クロム、モリブデン、黒鉛、硫化マンガンから選ばれる1種以上の合金元素または無機成分の粉末、およびバインダーとしての軟化点が145℃以上の石油樹脂および/またはロジンエステルを含んでいる温間成形用粉末冶金用混合粉末であって、前記潤滑剤が、(メタ)アクリル系架橋ポリマー粒子、複合系ワックスまたは融点が145℃以上の金属石鹸のうち1種以上と、融点130℃以上の脂肪酸アミドとを含み、潤滑剤100質量%中に占める脂肪酸アミドの比率が20質量%以上であることを特徴とする温間成形用粉末冶金用混合粉末。
- 上記(メタ)アクリル系架橋ポリマー粒子が、アルキル基の炭素数が1〜8個の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A)を主要モノマー成分として構成されており、メチルエチルケトンを用いて測定されるゲル分率が5質量%以上で、かつ、平均粒子径が1〜80μmである請求項1に記載の温間成形用粉末冶金用混合粉末。
- 上記金属石鹸が、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウムおよびラウリン酸カルシウムよりなる群から選択される1種以上である請求項1または2に記載の温間成形用粉末冶金用混合粉末。
- 前記脂肪酸アミドが、エチレンビスステアロアミド、エチレンビスラウリルアミド、メチレンビスステアロアミドよりなる群から選択される1種以上である請求項1〜3のいずれかに記載の温間成形用粉末冶金用混合粉末。
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