JP4527261B2 - 膨張黒鉛からなるパッキン材料およびこの材料からなる膨張黒鉛製グランドパッキン並びにその膨張黒鉛製グランドパッキンの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、膨張黒鉛からなるパッキン材料およびこの材料からなる膨張黒鉛製グランドパッキン並びにその膨張黒鉛製グランドパッキンの製造方法に関し、より詳しくは、応力緩和が殆ど発生せず、シール性、耐熱性、耐薬品性等に加えて製造容易性に優れた、膨張黒鉛からなるパッキン材料およびこの材料からなる膨張黒鉛製グランドパッキン並びにその膨張黒鉛製グランドパッキンの製造方法に関する。
なお、本明細書中、「帯状の積層シートを捩じる」とは、帯状の積層シートの軸長方向に離れた2部分を相互に反対方向に回転させ、帯状の積層シートを筒状に形成する動作を指す。この際、線状芯材を密着被覆するように筒状に捩じってもよいし、或いは芯材を被覆しないで筒状(実質的に中空部が無い円柱状とすることが好ましい)に捩ってもよい。
また、本明細書中、「帯状の積層シートを巻回する」とは、帯状の積層シートを或る軸線周りに螺旋状に巻き、帯状の積層シートを筒状に形成する動作を指す。この際、線状芯材を密着被覆するように筒状に巻回してもよいし、或いは芯材を被覆しないで筒状(実質的に中空部が無い円柱状とすることが好ましい)に巻回してもよい。
また、本明細書中、「許容引張力」とは、材料が破断に至るときの引張力(kgf)のことで、材料の引張強さ(kgf/cm2 )と材料の断面積(cm2 )の積のことを指す。
【0002】
【従来の技術】
従来より、流体機器の軸封を行うパッキンとして、膨張黒鉛製グランドパッキンが存在している。膨張黒鉛製グランドパッキンは、軸と機器ケーシングの間に形成される室内、すなわちスタフィングボックス内に詰め込まれて、軸と機器ケーシングの間から流体が漏出するのを防止するようになっている。
【0003】
膨張黒鉛は、アスベスト等のパッキン材料に比べて応力緩和が生じにくく、また潤滑性、耐熱性、耐薬品性などの面で優れている反面、引張強さが低くしかも脆いという欠点を有している。このため、膨張黒鉛からシートを構成してそのシートを捩じり加工しようとすると、該シートに大きな引張力が作用してシートが破断してしまうことが多かった。このような理由から、膨張黒鉛製グランドパッキンは、膨張黒鉛単独から構成されることは少なく、通常は、他の材料によって補強された形で製造されていた。
【0004】
補強構造をもつ膨張黒鉛製グランドパッキンとしては、次のようなものが提案されている。
例えば、膨張黒鉛シートの一面に綿糸織物シートを積層して積層シートを構成し、この積層シートを裁断して帯状の積層シートを形成し、この帯状の積層シートが補強用線材を被覆し且つ膨張黒鉛シートが外側に位置するように積層シートを捩じり加工して編糸を構成し、その後この編糸を編組してなる膨張黒鉛製グランドパッキンが提案されている。
この例においても、積層シートを捩じり加工するとき、および編糸を編組するときに、膨張黒鉛シートに引張力が作用する。しかしながら、膨張黒鉛シートは、綿糸織物シートに補強されているため、破断することはない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した従来の技術には、以下のような問題があった。
すなわち、綿糸は引張強さがあまり高くないため、綿糸織物シートが補強材として十分に機能を果たすためには、該シートの断面積を大きくとる必要があった。従来は、帯状の積層シートの帯幅を大きくして綿糸織物シートの帯幅を大きくとることでこれに対応しており、具体的に帯幅は10mmより大きく設定されていた。しかしながら、このような帯幅の積層シートから良質の編糸を得るには難があった。これは、帯幅が10mmを超えると積層シートの柔軟性が低下し、捩じり加工しにくくなるためである。また、このようして得られた編糸も柔軟性に劣り、編組する際に難があった。
また、綿糸織物シートは高温環境下における熱減量が大きい。このため、高温環境下における応力緩和が大きく、パッキン材料として使用した際には増締めなどを頻繁に実施しないとグランドパッキン本来の性能の保持が困難であった。
【0006】
さらに、この編糸を編組して得られる膨張黒鉛製グランドパッキンも柔軟性に劣っていた。このような柔軟性の低い膨張黒鉛製グランドパッキンをスタフィングボックス内に詰め込んだ場合、グランドを強く締め付けたとしても、十分なシール性を確保できない恐れがあった。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたもので、応力緩和が殆ど発生せず、シール性、耐熱性、耐薬品性等に加えて製造容易性に優れた、膨張黒鉛からなるパッキン材料およびこの材料からなる膨張黒鉛製グランドパッキン並びにその膨張黒鉛製グランドパッキンの製造方法の提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、編糸を編組してなる紐体を加圧成形することにより得られる膨張黒鉛製グランドパッキンに用いられる編糸であって、膨張黒鉛シートに開繊された炭素繊維束が接着剤層を介して積層一体化されこの接着剤層が補強材とされた帯状の積層シートを、巻回するか若しくは捩じって糸状にしたことを特徴とする編糸である。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記帯状の積層シートが補強用線材を被覆するように、該積層シートを巻回するか若しくは該積層シートを捩じって糸状にしたことを特徴とする請求項1に記載の編糸である。
【0010】
請求項3記載の発明は、前記帯状の積層シートを巻回するか若しくは捩じって糸状体を構成し、この糸状体の全体を連続的に若しくは断続的に被覆するように、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金、のうちのいずれかからなる帯状箔を巻回するか若しくは捩って糸状にしたことを特徴とする請求項1に記載の編糸である。
【0011】
請求項4記載の発明は、編糸を編組してなる紐体を加圧成形することにより得られる膨張黒鉛製グランドパッキンに用いられる編糸であって、
膨張黒鉛シートの少なくとも一面にポリビニルアルコール層が設けられてなりこのポリビニルアルコール層が補強材とされた帯状の積層シートを巻回するか若しくは捩じって糸状体を構成し、この糸状体を芯として該糸状体を被覆するように、開繊された帯状の炭素繊維束を巻回するか若しくは捩じって糸状にしたことを特徴とする編糸である。
【0012】
請求項5記載の発明は、前記帯状の積層シートから糸状体を構成する際、この積層シートが補強用線材を被覆するように、該積層シートを巻回するか若しくは捩じって糸状にしたことを特徴とする請求項4に記載の編糸である。
【0013】
請求項6記載の発明は、編糸を編組してなる紐体を加圧成形することにより得られる膨張黒鉛製グランドパッキンに用いられる編糸であって、帯状の膨張黒鉛シートを補強用線材とともに圧延した後、この圧延物を巻回するか若しくは捩じって糸状体を構成し、この糸状体を芯として該糸状体を被覆するように、開繊された帯状の炭素繊維束を巻回するか若しくは捩じって糸状にしたことを特徴とする編糸である。
【0014】
請求項7記載の発明は、前記補強用線材が、アラミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ナイロン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、若しくはこれら合成樹脂の炭化物、ガラス、金属、アスベスト、各種セラミックスのうち少なくともいずれか一種の材料からなることを特徴とする請求項2、5、6いずれかに記載の編糸である。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項1乃至7いずれかに記載の編糸を編組してなることを特徴とする紐体である。
【0016】
請求項9記載の発明は、前記接着剤層がポリビニルアルコール層とされた請求項1乃至3いずれかに記載の編糸または請求項4或いは5に記載の編糸を編組してなるとともに、前記ポリビニルアルコール層が、前記編組加工後に除去されてなることを特徴とする紐体である。
【0017】
請求項10記載の発明は、四フッ化ポリエチレン樹脂等のフッ素系樹脂、シリコーン樹脂、水溶性フェノール樹脂、或いはガラス、アルミナ、シリカゲル、黒鉛、チタン等の無機微粉末を含むエマルジョン樹脂からなる群から選択された1または2以上の液状樹脂が含浸されてなることを特徴とする請求項9に記載の紐体である。
【0018】
請求項11記載の発明は、請求項8乃至10いずれかに記載の紐体を加圧成形してなることを特徴とする膨張黒鉛製グランドパッキンである。
【0019】
請求項12記載の発明は、膨張黒鉛シートに開繊された炭素繊維束を接着剤層を介して積層一体化し接着剤層が補強材とされた積層シートを構成し、この積層シートを裁断して帯状の積層シートを形成し、この帯状の積層シートを巻回するか若しくは捩じって編糸を構成し、この編糸を編組して紐体を構成し、この紐体を加圧成形することを特徴とする膨張黒鉛製グランドパッキンの製造方法である。
【0020】
請求項13記載の発明は、膨張黒鉛シートの少なくも一面にポリビニルアルコール層を設けることによりポリビニルアルコール層が補強材とされた積層シートを構成し、この積層シートを裁断して帯状の積層シートを形成し、この帯状の積層シートを巻回するか若しくは捩じって糸状体を構成し、この糸状体を芯として該糸状体を被覆するように、開繊された帯状の炭素繊維束を巻回するか若しくは捩じって編糸を構成し、この編糸を編組して紐体を構成し、この紐体を加圧成形することを特徴とする膨張黒鉛製グランドパッキンの製造方法である。
【0021】
請求項14記載の発明は、前記接着剤層がポリビニルアルコール層とされた編糸から紐体を構成した後、この紐体を湯洗することにより該紐体からポリビニルアルコールを溶出除去し、この紐体を乾燥させ、その後この紐体を加圧成形することを特徴とする請求項12に記載の膨張黒鉛製グランドパッキンの製造方法である。
【0022】
請求項15記載の発明は、前記紐体を構成した後、この紐体を湯洗することにより該紐体からポリビニルアルコールを溶出除去し、この紐体を乾燥させ、その後この紐体を加圧成形することを特徴とする請求項13に記載の膨張黒鉛製グランドパッキンの製造方法である。
【0023】
請求項16記載の発明は、溶出除去を終えた紐体を乾燥させた後、この紐体に、四フッ化ポリエチレン樹脂等のフッ素系樹脂、シリコーン樹脂、水溶性フェノール樹脂、或いはガラス、アルミナ、シリカゲル、黒鉛、チタン等の無機微粉末を含むエマルジョン樹脂からなる群から選択された1または2以上の液状樹脂を含浸させ、その後この紐体を加圧成形することを特徴とする請求項14又は15に記載の膨張黒鉛製グランドパッキンの製造方法である。
【0024】
請求項17記載の発明は、溶出除去を終えた紐体を乾燥させた後、この紐体に、四フッ化ポリエチレン樹脂等のフッ素系樹脂、シリコーン樹脂、水溶性フェノール樹脂、或いはガラス、アルミナ、シリカゲル、黒鉛、チタン等の無機微粉末を含むエマルジョン樹脂からなる群から選択された1または2以上の液状樹脂を含浸させ、その後この紐体を加圧成形することを特徴とする請求項15又は16に記載の膨張黒鉛製グランドパッキンの製造方法である。
これらの発明を提供することにより、上記課題を悉く解決する。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明に係る膨張黒鉛製グランドパッキン及びこのパッキンに用いられる材料について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明に係る編糸の第1実施形態の第1例を示す斜視図である。図2は、図1に示す編糸の製造過程を示す図である。図3は、図1に示す編糸を構成する際に用いられる積層シートを示す断面図である。図4は、図1に示す編糸から構成した紐体を示す斜視図である。図5は、図4に示す紐体から構成した膨張黒鉛製グランドパッキンを示す斜視図である。
本発明に係る膨張黒鉛製グランドパッキン(以下、パッキンと称する)(1)は、編糸(2)を編組してなる紐体(3)を加圧成形することにより得られるものである。
以下、これら構成要素について、順次、詳説する。
【0026】
編糸(2)は、帯状の積層シート(4)を巻回して糸状にするか若しくは捩じって糸状にしたものである。図2は、帯状の積層シート(4)を捩じるときの様子を示している。 その帯状の積層シート(4)は、図3に示す積層シート(5)を帯状に裁断して形成される。積層シート(5)は、膨張黒鉛シート(6)に、開繊された帯状の炭素繊維束(以下、開繊繊維束と称する)(7)を接着剤層(8)を介して積層一体化することにより構成されるものである。接着剤層(8)は、接着剤本来の役目と、補強材の役目とを兼ね備えている。
【0027】
接着剤層(8)の種類は特に限定されず、有機質系接着剤、無機質系接着剤、無機有機混合質系接着剤など、種々の接着剤から構成することができ、その形態も、液状、エマルジョン、フィルム状、不織布状など種々の形態を採ることができる。また、その配設方法も特に限定されず、塗布、熱圧着、吹き付けなど、種々の方法を採用することが可能である。
【0028】
なお、接着剤層(8)には、できれば水溶性の熱可塑性樹脂接着剤を使用することが好ましく、中でも無公害性のポリビニルアルコールが用いることが好ましい。また、ポリビニルアルコールは、液状のまま膨張黒鉛シート(6)の表面或いは炭素繊維束(7)の表面に塗布するか、又は吹き付けることにより配設することができる。吹き付けによって配設する場合には、例えば不織布状に配設することができる。
【0029】
ポリビニルアルコール(以下、PVAと称する)を不織布状に配設する場合、接着剤層(8)は、PVA樹脂繊維が不規則な方向に伸びて積層され、且つそれら樹脂繊維が相互に固着されてシート状とされる。このような構造の接着剤層(8)は、あらゆる方向の引張に対して大きな引張強さを有し、特に帯状に加工された状態でその軸長方向の引張に対して大きな引張強さを発揮することができる。
【0030】
なお、膨張黒鉛シート(6)と開繊繊維束(7)を接着する際には、その間にPVA等の接着剤層(8)を介在させ積層した状態でその両面に圧力を加え、或いは加熱しながら圧力を加えることで、これらを強固に積層一体化することができる。
【0031】
膨張黒鉛シート(6)としては、天然黒鉛、熱分解黒鉛、キッシュ黒鉛等の黒鉛粉末を、濃硫酸、濃硝酸等と反応させて一旦層間化合物とした後、水洗などを経て残留化合物を得、これを急熱して膨張させて得られる膨張可撓性黒鉛そのものを、ロール材等により圧縮成形したシート状のものを使用することができる。
【0032】
膨張黒鉛シート(6)の密度は、特に限定されるものではないが、0.80〜2.2g/cm3 であることが好ましい。密度がこの範囲内にあると、膨張黒鉛シート(6)の表面に結晶レベルの凹凸が形成され、その上に積層されるものにアンカー効果を生じさせることができる。これに対し、密度が0.80g/cm3 未満であると組織のきめが粗くなり過ぎ、パッキンにしたときのシール性が低下する。逆に、密度が2.2g/cm3 を超えると、組織のきめが細かくなり過ぎてアンカー効果を生じさせにくくなり、開繊繊維束(7)との積層を良好に行い得ない可能性がある。
【0033】
また、膨張黒鉛シート(6)の厚みは、特に限定されるものではないが、0.10〜1.5mm程度とされることが好ましい。厚みが0.10mm未満であると、膨張黒鉛が有する優れた耐熱性、耐食性、耐磨耗性を発現させることができない。また、このように極薄のものは製造が困難であって経済的でない。逆に、厚みが1.5mmを超えると、膨張黒鉛の脆さが現れてしまう。
【0034】
開繊繊維束(7)は、膨張黒鉛シート(6)を補強すると共に固体潤滑材の役目を果たすものである。この開繊繊維束(7)は、接着剤層(8)を介して膨張黒鉛シート(6)の表面に積層される。その積層方法は、上記した方法を採用することができるが、接着剤として熱融着フィルムを用いる場合には、例えば、PVA不織布、PVAフィルム、ポリエチレンフィルム、オレフィン系フィルム、ウレタン系フィルムを用いることができる。
【0035】
開繊繊維束(7)は機械的強度に優れており、また、その機械的強度等の諸性質が、−200°C〜+600°Cの間で殆ど変化せず、低温特性、高温特性が共に優れている。従って、開繊繊維束(7)は、常温域は勿論のこと、過酷温度環境下においても確実に膨張黒鉛シート(6)を補強することができる。また、開繊繊維束(7)は優れた潤滑性及びシール性を有しているので、これが外側に位置するように編糸(2)を構成すれば、潤滑性及びシール性に優れたパッキン(1)を得ることができる。また、開繊繊維束(7)は耐食性および耐磨耗性に優れているので、化学プラント等の過酷環境下でも長期間の使用に耐えることができる。
なお、開繊繊維束(7)の厚さは、0.05〜0.5mmとすることが好ましく、より好ましくは0.15〜0.2mmとされる。これは、厚みが0.05mm未満であると、十分な潤滑性及びシール性が得られず、逆に厚みが0.5mmを超えると、十分な柔軟性が得られないからである。
【0036】
開繊繊維束(7)の製造方法は特に限定されず、従来公知の種々の製造方法を採用することができるが、できれば、特許第3049225号、特許第3064019号公報に記載の製造方法を用いることが望ましい。これら公報に記載の開繊繊維束の製造方法を用いる場合、炭素繊維のマルチフィラメントを、一定のオーバーフィード状態が生じるようにフィード制御しながら給糸部から巻き取り部へ流送供給する一方、こうして流送されてくる前記マルチフィラメントに対し交差方向に気流を通過させて当該マルチフィラメントを風下方向へ弓なりに撓ませることにより、このマルチフィラメントを構成するフィラメントを幅方向に解き分けてシート状の開繊繊維束を形成する。
この製造方法によれば、切れずに連続し且つ各繊維が真っ直ぐに伸びて互いに平行且つ一定密度で整然と並んでしかも毛羽立ちが皆無の非常に良質なシート状の開繊繊維束を得ることができる。
【0037】
帯状の積層シート(4)は、積層シート(5)を帯状に裁断して形成されるわけであるが、積層シート(5)構成時の開繊繊維束はその製造方法によっては真っ直ぐに伸びておらず波状に曲がっていることがある。この場合、積層シート(5)を帯状に裁断する時に多数の繊維を切断することになるが、開繊繊維束における各繊維は非常に密にしかも均一に配列されており、各繊維の間には大きな摩擦力が働いている。従って、各繊維は軸方向及び軸直角方向に強く連結され、帯状の積層シート(4)は引張強さの大きな一枚の帯状体となる。
通常、開繊繊維束は種々の長さの繊維を方向を揃えた形で密に集合させたものであり、言い換えれば、不連続の繊維が軸方向及び軸直角方向に連続的に密に配設されたものである。この繊維集合体においては、上記したように繊維同士が相互に大きな摩擦力で連結され、斜めに切断されても一枚の強い帯状体とすることができるのである。本発明では、開繊繊維束がもつこの優れた性質を有効に活かすのである。図6(a)に、各繊維が真っ直ぐに伸びた開繊繊維束を所定幅に裁断してなる開繊繊維束(7)の一例を示し、図6(b)に、各繊維が波状に曲がって伸びた開繊繊維束を所定幅に裁断してなる開繊繊維束(7)の一例を示す。
【0038】
積層シート(5)は、膨張黒鉛シート(6)に、接着剤層(8)を介して開繊繊維束(7)を積層することにより構成される。帯状の積層シート(4)は、この積層シート(5)を帯状に裁断したものである。帯状の積層シート(4)の幅は5〜30mmとされ、好ましくは5〜25mmとされる。その幅が30mmを超えると、帯状の積層シート(4)は柔軟性が低下し、編糸(2)に加工しにくくなる。逆に、その幅が5mm未満になると、帯状の積層シート(4)の許容引張力が極度に低下して、編糸(2)に加工する際に破断する恐れがある。帯状の積層シート(4)は、その帯幅が5〜30mmであるならば、十分な許容引張力を有するため、捩じり加工、巻回加工の際に破断する恐れがない。
【0039】
なお、帯状の積層シート(4)は、開繊繊維束(7)および接着剤層(8)で補強されているので、比較的薄く形成することができる。従って、帯幅5〜10mm程度の帯状の積層シート(4)はもちろん、帯幅10mmを超える帯状の積層シート(4)であっても、十分な柔軟性を確保することができる。
5〜10mm幅の帯状の積層シート(4)を用いて編糸(2)を構成した場合、二十四打ち、三十二打ち、といった多数打ちの紐体(3)を構成することができる。また、その多数打ちの紐体(3)を種々の太さの編糸(2)から構成することができる。これにより、紐体(3)内部を密に詰まった状態とすることができるので、シール性が非常に高いパッキン(1)を得ることができる。
【0040】
編糸(2)は、帯状の積層シート(4)を巻回して糸状にするか若しくは捩じって糸状にしたものである。巻回加工による場合、捩じり加工による場合の双方において、開繊繊維束(7)が外側に位置するように加工しても、或いは膨張黒鉛シート(6)が外側に位置するように加工してもそのいずれでもよいが、できれば開繊繊維束(7)が外側に位置するように加工することが好ましい。これは、開繊繊維束(7)が膨張黒鉛シート(6)よりも潤滑性及びシール性等の面で優れているからである。また、膨張黒鉛はその製造過程で硫黄分を含んでいるためにこれが外側に有ると金属製、特に鉄系スタフィングボックス等にこれが直に接触しスタフィングボックス等を腐食させる可能性があるが、開繊繊維束(7)は硫黄分を含んでいないのでこれを外側に位置させると硫黄分による腐食が発生しない。
【0041】
本発明における帯状の積層シート(4)の巻回方法、捩じり方法は特に限定されるものではないが、巻回による場合には、例えば、帯状の積層シート(4)を螺旋状にきつく巻回したり(図10参照)、或いは、この巻回したものを更に捩じる方法を採ることができる。
一方、捩じりによる場合には、帯状の積層シート(4)を幅方向中央部で折り畳んだものをきつく捩じったり、或いは折り畳まずに捩じる(図2参照)方法を採用することができる。
【0042】
なお、その捩じり回数或いは巻回回数は、1m当たりの捩じり回数或いは巻回回数が55〜70回程度であることが好ましい。このような回数であれば、編糸(2)の強度が非常に高くなることが発明者によって確かめられている。なお、帯状の積層シート(4)は、開繊繊維束(7)が外側に位置するように巻回、捩じり加工されることが好ましい。この場合、後述するように、パッキン(1)の表面に開繊繊維束(7)を位置させることができる。
炭素繊維マルチフィラメント等の炭素繊維束を開繊してなる開繊繊維束(7)は、潤滑性、耐磨耗性、耐腐食性、機械的強度、及びシール性に優れているため、この開繊繊維束(7)を材料として使用することにより、潤滑性、耐磨耗性、耐腐食性、機械的強度、及びシール性に優れたパッキン(1)を得ることができる。
【0043】
また、この編糸(2)は、柔軟性に優れているので、複雑な編組加工を容易に行うことができ、しかも複雑な加工を行っても積層シート(4)に破断が生じない。また、編糸(2)を構成する帯状の積層シート(4)は、十分な許容引張力を有しているため、編組加工の際に破断する恐れもない。
【0044】
なお、編糸(2)は、図8および図9に示すように、補強用線材(9)を備えた構造であってもよい(編糸の第1実施形態の第2例)。具体的には、帯状の積層シート(4)が補強用線材(9)を被覆するように、補強用線材(9)を芯としてその周囲に帯状の積層シート(4)を巻回した構造若しくは帯状の積層シート(4)を図9に示す如く捩じった構造とすることができる。この場合、帯状の積層シート(4)のみからなる場合よりも、編糸(2)の許容引張力を向上させることができる。
補強用線材(9)の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、モネルメタル、インコネル、ステンレス、銅、アルミニウム等の金属、ガラス繊維、セラミックファイバー繊維、あるいはアラミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ナイロン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂等からなる合成樹脂繊維、若しくはこれら合成樹脂繊維に潤滑油を含浸させたもの、或いはこれら合成樹脂繊維の炭化物、アスベストなど、パッキン用材料として必要な強度を有する材料であれば好適に使用することができる。
【0045】
この補強用線材(9)は、直径3mm以下とされることが好ましい。このような直径とすれば、帯状の積層シート(4)の巻回加工、捩じり加工を容易に行うことができる。
また、この補強用線材(9)は、1本で使用されてもよいが、後述するように、複数本で使用されてもよい。1本で使用される場合、補強用線材(9)は、例えば、編組せずにそのままの状態で使用されてもよいし、編組されて紐体にした状態で使用されてもよい。また、複数本で使用される場合、補強用線材(9)は、束ねて使用されてもよいし、束ねた後それを編組して紐体にした状態で使用されてもよい。
補強用線材(9)を構成する各単線材の断面形状は特に限定されず、例えば、円形断面、長四角断面、楕円形断面等、種々の形状を採ることができる。
【0046】
このようにして得られた編糸(2)を編組することにより、編紐、打紐、組紐等の形態をなす紐体(3)を構成することができる。具体的には、1本または複数本の編糸(2)を編組することにより、丸編紐、角編紐等の編紐や、丸打紐、角打紐等の打紐等の形態をなす紐体(3)を構成することができる。その他、袋状紐や固着紐等の形態をなす紐体(3)を構成することもできる。
なお、打紐の場合には、四つ打ち、八つ打ち、十六打ち、十八打ち、二十四打ち、三十二打ち等、任意の打ち方が可能である。
【0047】
紐体(3)は、外側に開繊繊維束(7)もしくは膨張黒鉛シート(6)が位置した構造となる。パッキン(1)は、この紐体(3)を加圧成形してなるものであるから、パッキン(1)の表面に開繊繊維束(7)もしくは膨張黒鉛シート(6)を位置させることができる。なお、先にも述べたように、外側に開繊繊維束(7)が位置した構造とすることが好ましい。
なお、接着剤層(8)としてPVAを用いた場合には、紐体(3)の内部にPVA層が位置することになるが、PVA層は、紐体(3)の形成後に除去されてもよい。PVA層は、補強材としては優れているものの、応力緩和を生じやすい性質を有しているから、これを除去することにより、紐体(3)に応力緩和が生じないようにすることができる。これにより、パッキン(1)に応力緩和が生じないようにすることができる。なお、補強材が必要とされるのは、膨張黒鉛シート(6)に最も引張力が作用する時、すなわち編糸(2)構成時と紐体(3)構成時であるから、紐体(3)の構成後にPVA層が除去されたとしても問題はない。
【0048】
PVA層を除去する場合には、紐体(3)に液状樹脂を含浸させることが好ましい。これは、PVA層を除去した場合、PVA層が存在していた部分に空隙が形成されるためである。紐体(3)に液状樹脂を含浸させれば、その空隙を液状樹脂によって充填することができる。空隙を液状樹脂によって充填することにより、パッキン(1)をスタフィングボックス内で使用した際に紐体(3)内部を流体が通過するのを防止することができる。従って、パッキン(1)のシール性を高めることができる。
【0049】
紐体(3)に含浸させる液状樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂、シリコーン樹脂、水溶性フェノール樹脂、或いはガラス、アルミナ、シリカゲル、黒鉛、チタン等の無機微粉末を含むエマルジョン樹脂を挙げることができる。なお、紐体(3)には、これらの液状樹脂からなる群から選択された1または2以上の液状樹脂を含浸させることが可能である。含浸方法としては、例えば、自然含浸(ドブ付け含浸)、加熱含浸、真空含浸等を挙げることができる。
【0050】
パッキン(1)は、この紐体(3)を加圧成形して得られるものである。パッキン(1)は、例えば、図5に示すように、リング状に形成される。リング状に形成されたパッキン(1)は、スタフィングボックス内に詰め込まれ、流体機器の軸封を行うパッキンとして好適に使用することができる。
パッキン(1)は、前記したように、その表面に開繊繊維束(7)或いは膨張黒鉛シート(6)が位置した構造である。従って、潤滑性、シール性、耐磨耗性、機械的強度、および耐腐食性に優れたパッキン(1)とすることができる。また、パッキン(1)の表面に開繊繊維束(7)が現れる構造とすれば、より一層、潤滑性、シール性、耐磨耗性、機械的強度、および耐腐食性に優れたパッキン(1)とすることができる。
【0051】
PVA層を有するパッキン(1)は、PVA層を除去したものに比べて、その除去作業を省略して製造することができるので、製造を容易化することができるとともに、製造コストを低減することができる。
一方、PVA層を除去したパッキン(1)は、PVA層による応力緩和性がなくなっている。従って、PVA層を有しているものよりもシール性を高めることができる。また、PVA層を除去した後紐体(3)に液状樹脂を含浸させてなるパッキン(1)は、紐体(3)内が密に充填された状態にありしかも応力緩和性がなくなっているので、シール性を一層高めることができる。
【0052】
次に、本発明に係るパッキン(1)の製造方法の一例について説明する。
パッキン(1)は、上述のように、膨張黒鉛シート(6)の一面に接着剤層(8)を介して開繊繊維束(7)を積層一体化することにより積層シート(5)を構成し(第1工程)、この積層シート(5)を開繊繊維束(7)の繊維長手方向に沿って裁断して帯状の積層シート(4)を形成し(第2工程)、この帯状の積層シート(4)を巻回するか若しくは捩じって編糸(2)を構成し(第3工程)、この編糸(2)を編組して紐体(3)を構成し(第4工程)、最後にこの紐体(3)を加圧成形する(第5工程)ことにより構成される。
以下、各工程について、順次、詳細に説明する。
【0053】
第1工程について説明する。膨張黒鉛シート(6)の一面に開繊繊維束(7)を積層する際には、その間にPVA、クロロプレンゴム等からなる各種接着剤層(8)を介在させ、この3層構造物に対しその両面或いは一方の面側から厚み方向に圧力を加え、或いは加熱しながら圧力を加えることにより強固に積層一体化することができる。膨張黒鉛シート(6)には、表面に結晶レベルの凹凸を有するものを使用することが好ましい。これにより、膨張黒鉛シート(6)は、開繊繊維束(7)を積層するための接着剤層(8)にアンカー効果を生じさせることができる。このような膨張黒鉛シート(6)を使用することにより、開繊繊維束(7)との積層を良好に行うことが可能となる。
【0054】
接着剤層(8)は、例えば、接着剤の塗布や吹き付けによって形成することができる。接着剤層(8)を不織布状のPVA層とする場合には、PVA層は、膨張黒鉛シート(6)或いは開繊繊維束(7)の一面にPVA水溶液を液圧をかけつつ吹き付けることにより形成される。PVA水溶液を液圧をかけつつ吹き付けることにより、PVA水溶液は膨張黒鉛シート(6)或いは開繊繊維束(7)上で繊維状に固化する。このとき、各繊維は不規則な方向に伸び且つ相互に絡み合った状態で固化する。そして、ある程度の時間吹き付け作業を行うことにより、不規則な方向に伸び且つ相互に絡み合った状態の繊維が積み重ねられて固化し、不織布状のPVA層が形成される。
【0055】
第2工程について説明する。積層シート(5)を開繊繊維束(7)の繊維長手方向に沿って帯状に裁断して帯状の積層シート(4)を形成する。このとき、積層シート(5)を帯幅25mm以下に裁断することが、その後捩じり加工或いは巻回加工する上で好ましい。膨張黒鉛シート(6)は、前記したように接着剤層(8)および開繊繊維束(7)によって補強された構造であるので、幅が25mm以下、さらには10mm以下であっても捩じり加工或いは巻回加工時の引張に十分耐えることができる。しかも、帯状の積層シート(4)は、十分に補強された構造であるので比較的薄く形成することができ、上記した範囲の幅であっても柔軟性に優れ、巻回加工、捩じり加工が容易である。
【0056】
第3工程について説明する。帯状の積層シート(4)を巻回するか若しくは捩じって編糸(2)を構成する。帯状の積層シート(4)は、前記したように、10mm以下の幅であっても巻回加工時及び捩じり加工時の引張に十分に耐えることができる。また、10mm幅以下の帯状の積層シート(4)は、柔軟性に優れているので容易に巻回加工および捩り加工することができる。このようにして得られた編糸(2)は柔軟性に優れているので、複雑な編組を行うことが可能となる。
なお、前述のように、補強用線材(9)によって補強された編糸(2)を構成することも可能である。この場合、帯状の積層シート(4)が補強用線材(9)を被覆するように、帯状の積層シート(4)を巻回加工、捩り加工すればよい。これにより、編糸(2)の許容引張力を向上させることができる。
【0057】
第4工程について説明する。編糸(2)を前記した各種編組法を用いて編組し、紐体(3)を構成する。編糸(2)は柔軟性に優れているので、複雑な編組を行うことができる。そして、この編糸(2)から得られた紐体(3)は柔軟性に優れている。
なお、前述のように、紐体(3)を構成した後に、紐体(3)から接着剤層(8)としてのPVA層を除去することも可能である。PVA層を除去する方法としては、紐体(3)を湯洗する方法を挙げることができる。PVA樹脂は水溶性の合成樹脂であるから、湯洗することにより容易且つ速やかに溶解除去される。このようにPVA層を除去することによって、紐体(3)からPVA層の応力緩和性をなくすことができる。
【0058】
PVA層(8)を除去する場合には、前述のように、除去によって形成された空隙を充填するための液状樹脂を紐体(3)に含浸させることが好ましい。これにより、その空隙が充填される。従って、応力緩和性が少なく且つシール性が高い膨張黒鉛製グランドパッキン(1)を得ることが可能となる。
【0059】
第5工程について説明する。紐体(3)を型に嵌めて加圧成形することにより、パッキン(1)を構成する。パッキン(1)の形状は、特に限定されるものではないが、通常はリング状に構成される。
以上により、パッキン(1)の製造工程を終了する。
【0060】
図10は、本発明に係る編糸の第1実施形態の第3例を示す図である。
図1及び図2に示す例は、帯状の積層シート(4)の幅に比べて補強用線材 (9)の径が小さい場合に主として適用可能であるが、帯状の積層シート(4 )の幅に比べて補強用線材(9)の径が同じ程度或いは大きい場合には、図1 0に示すように帯状の積層シート(4)を補強用線材(9)の周囲に巻回して 編糸(2)を構成することが好ましい。
図10に示す例では、補強用線材(9)は、単線(90)を複数本束ねるこ とで形成されている。その束ねる形態は特に限定されるものではないが、例え ば、図11及び図12に示すような丸編紐、或いは図13及び図14に示すよ うな角編紐等の編紐、同じく丸打紐、角打紐等の状態で形成することができる 。なお、前記打紐についても、四つ打ち、八つ打ち、十六打ちなど任意の打ち 方を採用することができる。或いは、図15に示すように、複数本の単線(9 0)を束ねて捩じったもの等を採用することもできる。
【0061】
この例においても、帯状の積層シート(4)は、膨張黒鉛シート(6)に接 着剤層(8)を介して開繊繊維束(7)を積層一体化し、これを開繊繊維束( 7)の繊維長手方向に沿って裁断して構成することができる。
図10に示す編糸(2)は、図16の断面図にて示されるように、単位面積 当たりに用いられる補強用線材(9)の量が多くなるため、機械的強度が非常 に大きくなるとともに、その表面が膨張黒鉛シート(6)及び開繊された炭素 繊維束(7)からなる帯状の積層シート(4)により被覆される構成となるた め、膨張黒鉛及び炭素繊維束が備えるシール特性などが十分に発現され、さら に摺動により相手金属表面を傷つけることがない。従って、極めて高い機械的 強度が発現されるため、例えば高温、高圧環境下でのブッシュ又はスペーサの 代用品として使用することもできる。
【0062】
図7は、本発明に係る編糸の第1実施形態の第4例を示す図である。
第4例では、編糸(2)の第1実施形態の第1例、第2例、第3例、例えば、図1、図8、図9、或いは図10に示す編糸(2)の外周面をアルミニウム等からなる帯状箔で被覆して編糸(20)を構成する。つまり、第1例、第2例に係る編糸(2)を第4例に係る編糸(20)の半製品(ここでは糸状体(2)と称する)とする。そして、その糸状体(2)全体を連続的に若しくは断続的に被覆するように、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金、のうちのいずれかからなる帯状箔(21)を巻回するか若しくは捩って糸状にし、編糸(20)(図7参照)を構成するのである。
【0063】
図7に示す編糸(20)は、最も外側の部分にアルミニウム、アルミニウム合金等からなる帯状箔(21)が位置している。アルミニウムを初めとするこれらの金属は、なじみ性が良好であるため、編糸(20)からパッキンを構成し、このパッキンをスタフィングボックス等の中で使用した際に、同ボックスの表面とぴったりと密着する。従って、シール性をより一層向上させることができる。
また、膨張黒鉛及び炭素繊維束の表面に被覆部材を設けない場合、膨張黒鉛及び炭素繊維束は、スタフィングボックス等の中で使用された際に、締め付け圧によって軸と軸受けの隙間からはみ出す可能性がある。しかしながら、本例の如く膨張黒鉛と炭素繊維束の外側を帯状箔(21)で被覆することにより、膨張黒鉛と炭素繊維束がその隙間からはみ出すのが防止される。
また、膨張黒鉛と炭素繊維束が露出している場合、それらの部材はスタフィングボックス等との間で局部電池の電極を構成する恐れがある。しかしながら、アルミニウムを初めとする上記金属は、主として鉄系金属に対する局部電池の電極を構成しにくく、また、電極となった場合でも陽極となるので、主として鉄で構成されるスタフィングボックス等の機械装置が腐食することはない。
【0064】
尚、帯状箔(21)の厚みは特に限定されるものではないが、0.01〜0.05mmとすることが好ましく、より好ましくは0.02〜0.03mmであり、最も好ましくは0.03mmである。
厚みを0.01mm未満とすることは、技術的に困難であるとともに、薄過ぎて耐久性に劣る。また、厚みを0.05mmより大きくすると、膨張黒鉛或いは炭素繊維束との密着性が低下するとともに、膨張黒鉛或いは炭素繊維束によるシール性が十分に発揮されない。
また、帯状箔(21)の幅は特に限定されるものではないが、例えば3mm程度が良好である。
また、1本の編糸(20)を構成する際に、1本或いは複数本の帯状箔(21)を使用することができる。複数本の帯状箔(21)を使用する場合には、帯状箔(21)を重ねて使用することができる。
【0065】
次に、本発明に係る編糸の第2実施形態について図面を参照しつつ説明する 。
図17は、第2実施形態に係る編糸の製造過程を示す図である。なお、紐体については第1実施形態に係る図4を準用して説明する。
第2実施形態に係る編糸(2)は、帯状の膨張黒鉛シート(6)を補強用線材(9)とともに圧延した後、この圧延物を巻回して糸状にするか若しくは前記圧延物を捩じって糸状にし、この糸状体(10)を芯として該糸状体(10)を被覆するように帯状の開繊繊維束(7)を巻回して糸状にするか若しくは帯状の開繊繊維束(7)を捩じって糸状にしたものである。図17は、帯状の開繊繊維束(7)を捩じる様子を示している。
【0066】
この第2実施形態に用いる膨張黒鉛シート(6)の厚さは約0.05〜0.5mmが好適である。その理由は、0.05mm未満では圧延工程後に薄過ぎて脆くなり膨張黒鉛シート(6)自身が破損する可能性があり、逆に0.5mmを超えると厚過ぎて圧延工程を経た場合でも撚り難い等の不都合が生じる可能性があるからである。
この膨張黒鉛シート(6)はスリッター等で帯状に切断され、これにより帯状の膨張黒鉛シート(6)が作製される。
【0067】
帯状の膨張黒鉛シート(6)の帯幅は3〜30mmとすることが好ましく、このような幅とすれば、補強用線材(9)とともに容易かつ確実に圧延することができる。
この帯状の膨張黒鉛シート(6)は、圧延ローラー等で補強用線材(9)とともに圧延される。これにより、補強用線材(9)が膨張黒鉛シート(6)内にその軸長方向に沿ってめり込まれた圧延物が形成される。その後、この圧延物は巻回若しくは捩じられて糸状体(10)(図17参照)とされる。なお、糸状体(10)を得る際、圧延物を一重に巻くシングル巻き、あるいは二重に巻くダブル巻きのいずれの方法を採用してもよい。
【0068】
補強用線材(9)の断面形状は特に限定されない。また、補強用線材(9)の材質も特に限定されず、例えば、上記した補強用線材(9)と同様の素材を採用することができる。
補強用線材(9)の径は特に限定されるものではないが、直径0.08〜0.20mm程度とされることが好ましく、さらに好ましくは直径0.12〜0.15mm程度とされる。直径0.20mm以下であれば、帯状の膨張黒鉛シート(6)に確実にめり込ませることができ、また、上記圧延物の巻回加工、捩じり加工を容易に行うことができる。
この第2実施形態において補強用線材(9)を用いる理由は、巻回加工、捩じり加工に十分に耐え得る圧延物を作製し、且つ編組加工(特に機械編)に十分に耐え得る編糸を作製するためである。
【0069】
即ち、膨張黒鉛のみを使用した圧延物や編糸は引張強度が低いため、脆くて千切れたり縒れたりし易い。特に、そのような編糸は機械編に用いる編糸としては使用できない。しかしながら、膨張黒鉛シート(6)内に補強用線材(9)をめり込ませた圧延物を構成することにより、補強用線材(9)の有する強靱な強度特性を膨張黒鉛シート(6)に付与し、これによって巻回加工、捩じり加工や機械編に適した圧延物および編糸を得ることができるのである。
【0070】
この糸状体(10)を被覆するように帯状の開繊繊維束(7)を巻回して糸状にするか若しくは帯状の開繊繊維束(7)を捩じって糸状に加工することにより、編糸(2)が作製される(図17参照)。なお、上記圧延物を糸状に加工したものを単糸とし、この単糸の周囲で帯状の開繊繊維束(7)を巻回若しくは捩じって編糸(2)を構成してもよいが、上記単糸を複数撚り合わせて撚糸とし、この撚糸の周囲で帯状の開繊繊維束(7)を巻回若しくは捩じって編糸(2)を構成してもよい。
【0071】
帯状の開繊繊維束(7)は、編糸(2)の機械的強度、潤滑性、シール性を向上させるためのものである。
なお、開繊繊維束(7)の厚さは、0.05〜0.5mmとすることが好ましく、より好ましくは0.15〜0.2mmとされる。これは、厚みが0.05mm未満であると、十分な潤滑性及びシール性が得られず、逆に厚みが0.5mmを超えると、十分な柔軟性が得られないからである。
【0072】
このようにして得られた編糸(2)は、脆くて千切れたり或いは縒れたりすることなく編組機によって編組され、これによって図4に例示するような紐体(3)が得られる。
この紐体(3)を加圧成形することにより、例えばリング状のパッキン(1)(図5参照)が得られる。
【0073】
この膨張黒鉛製グランドパッキン(1)は、許容引張力が大きくしかも柔軟性に優れた編糸(2)から構成されるので、製造容易性およびシール性に優れたパッキン(1)とすることが可能となる。また、外側に開繊繊維束(7)が位置するので、第1実施形態の場合と同様に、潤滑性、シール性、耐磨耗性、および耐腐食性に優れた膨張黒鉛製グランドパッキン(1)とすることができる。
【0075】
次に、本発明に係る編糸の第3実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図18は、第3実施形態に係る編糸の製造過程を示す図である。図19は、図18に示す編糸を構成する際に用いられる帯状の積層シートを示す断面図である。
以下、第3実施形態に係る編糸(2)の構造について説明する。
【0076】
編糸(2)は、膨張黒鉛シート(6)の少なくとも一面にPVA層(80)が設けられてなる帯状の積層シート(40)を巻回し若しくは捩じって糸状体(10)を構成し、この糸状体(10)を芯としてこれを被覆するように帯状の開繊繊維束(7)を巻回し若しくは捩じってなるものである。なお、図18は、帯状の開繊繊維束(7)を捩じり加工した場合を示している。
【0077】
膨張黒鉛シートの材質、厚み等の構成は、上記第1実施形態と略同様とすることができる。また、PVA層(80)の厚み、配設方法等は、上記第1実施形態における接着剤(8)としてのPVA層と略同様とすることができる。また、開繊繊維束(7)の厚み等の構成も、第1実施形態と略同様とすることができる。
膨張黒鉛シート(6)、PVA層(80)から構成された積層シートは、帯状に裁断され、帯状の積層シート(40)とされる。なお、その帯幅は特に限定されないが、例えば5〜30mmとされ、好ましくは5〜25mmとされる。この第3実施形態においては、膨張黒鉛シートがPVA層(80)によって補強されているので、帯状の積層シートの厚みを比較的薄くすることが可能となる。従って、帯幅を30mm程度としても加工しやすく、しかも加工時の引張に耐えることができ、また十分な柔軟性を備えた帯状の積層シートを得ることができる。
【0078】
このような編糸(2)を、第2実施形態と同様な方法で巻回し若しくは捩じって糸状体(10)を構成し、この糸状体(10)を芯としてこれを被覆するように帯状の開繊繊維束(7)を巻回し若しくは捩じることにより、編糸(2)が作製される。なお、糸状体(10)を構成する際、補強用線材(9)を被覆するように帯状の積層シートを巻回し若しくは捩じって糸状体(10)を構成することも可能である。また、帯状の開繊繊維束(7)を巻回し若しくは捩じって糸状体(10)を一重に被覆するシングル巻き、或いは、その上から再度帯状の開繊繊維束(7)を巻回し若しくは捩じって糸状体(10)を二重に被覆するダブル巻きのいずれを採用してもよい。
そして、この編糸(2)を編組することにより紐体(3)(図4参照)が得られる。次いで、この紐体(3)を加圧成形することにより、例えば図5に例示するようなリング状のグランドパッキン(1)が得られる。
なお、この第3実施形態においても、第1実施形態と同様に、紐体(3)を構成した後にPVA層(80)を溶出除去し、紐体(3)を乾燥させ、その後紐体(3)を加圧成形してグランドパッキン(1)を得ることも可能である。また、PVA層(80)の溶出除去を終えた紐体(3)を乾燥させた後、この紐体(3)に第1実施形態と同様の液状樹脂を含浸させ、その後にこの紐体(3)を加圧成形してもよい。
【0079】
以上、本発明の各実施形態について説明してきたが、本発明における帯状の積層シート(4)、編糸(2)、紐体(3)、パッキン(1)の構造は、上記した形態に限定されるものではない。例えば、第1実施形態および第3実施形態においては、PVA層の積層を、上記したようにPVA水溶液の吹き付けによって行うことが可能であるが、本発明における積層方法はこれに限定されない。例えば、PVA水溶液を加熱されたローラの表面に吹き付けることによって不織布状のPVAシート(図示せず)を形成し、このPVAシートを膨張黒鉛シート(6)の表面に熱融着によって積層することも可能である。この場合、熱融着に要する温度は、185〜195°C程度であることが好ましい。その温度が185°C未満であれば、融着が不十分となる恐れがあり、逆に195°Cを越えると、不織布状の組織が壊れてしまう恐れがある。また、PVA層は、必ずしも不織布状である必要はなく、フィルム状、あるいはメッシュ状であってもよい。PVA層をフィルム状とする場合には、あらかじめフィルム状に形成されたPVA樹脂を、熱融着によって膨張黒鉛シート(6)に積層すればよい。また、メッシュ状とする場合には、あらかじめメッシュ状に形成されたPVA樹脂を、熱融着によって膨張黒鉛シート(6)或いは開繊繊維束(7)に積層すればよい。
【0080】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。但し、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
〔積層シートの引張試験〕
(実施例)
厚さ0.2mm、密度1.1g/cm3 の膨張黒鉛シートの一面に、PVA接着剤層を介して厚さ0.2mmの開繊繊維束を積層し、PVA接着剤層の加熱圧融着によってこれらを積層一体化し、積層シートを構成した。次いで、この積層シートを図20に示す大きさに裁断して試験片(14)を構成した。図20中の長さの単位はmmである。
【0081】
(比較例)
厚さ0.2mm、密度1.0g/cm3 の膨張黒鉛シートの両面に、厚さ0.15mmの綿糸織物シートを熱融着フィルムを用いて積層し、積層シートを構成した。次いで、この積層シートを図20に示す大きさに裁断して試験片(14)を構成した。
【0082】
実施例および比較例に係る試験片(14)をそれぞれ4枚ずつ用意し、これらに対し、気温22°Cの室内でJIS K 6301-1975 (加硫ゴム物性試験方法)に基づいて引張試験を行った。なお、引張試験機には、東洋精機株式会社製の樹脂引張試験機を使用した。
実施例の試験結果を表1に、比較例の試験結果を表2に示す。
【表1】
【表2】
【0083】
以上の試験結果から、PVA層および開繊繊維束を補強材とした実施例の方が、綿糸織物シートを補強材とした比較例よりも明らかに引張強さが大きいことが分かる。
【0084】
〔膨張黒鉛製グランドパッキンのトルク試験〕
(実施例)
厚さ0.2mm、密度1.0g/cm3 の膨張黒鉛シートの一面に、PVA接着剤層を介して厚さ0.2mmの開繊繊維束を積層し、PVA接着剤層の加熱圧融着によってこれらを積層一体化し、積層シートを構成した。次いで、この積層シートを幅10mmに裁断して帯状の積層シートを構成した。次いで、この帯状の積層シートを捩じり加工して編糸を構成し、この編糸を編紐して紐体を構成し、最後にこの紐体を加圧成形してリング状の膨張黒鉛製グランドパッキンを構成した。なお、開繊繊維束がグランドパッキンの外側に位置するように構成した。
また、膨張黒鉛製グランドパッキンの大きさを、φ1 8×φ2 18×t6(φ1 :内径、φ2 :外径、t:厚み(いずれも単位はmm))とした。
【0085】
(比較例)
厚さ0.2mm、密度1.0g/cm3 の膨張黒鉛シートの両面に、厚さ0.15mmの綿糸織物シートを熱融着フィルムを用いて積層し、積層シートを構成した。次いで、この積層シートを幅10mmに裁断して帯状の積層シートを構成した。次いで、この帯状の積層シートを捩じり加工して編糸を構成し、この編糸を編紐して紐体を構成し、最後にこの紐体を加圧成形してリング状の膨張黒鉛製グランドパッキンを構成した。
なお、膨張黒鉛製グランドパッキンの大きさを、φ1 8×φ2 18×t6(φ1 :内径、φ2 :外径、t:厚み(いずれも単位はmm))とした。
【0086】
図21は、トルク試験の実施状況を示す図である。トルク試験を行うにあたり、実施例に係る膨張黒鉛製グランドパッキン(1)を4個用意し、これら4個の膨張黒鉛製グランドパッキン(1)をセットにして、気温22度の室内で流体機器のスタフィングボックス(10)内に配置した。次いで、膨張黒鉛製グランドパッキン(1)の軸挿通孔内に、SUS430製で軸径φ8(単位はmm)のスピンドル(11)を挿通した。次いで、締め付けナット(12)を締め付け圧200kg/cm2 で締め付けて、スピンドル(11)およびスタフィングボックス(10)の内壁面に各膨張黒鉛製グランドパッキン(1)が圧接するようにした。次いで、スピンドル(11)をバネばかり(13)で引っ張り、スピンドル(11)が動き始めるときの引張力(スピンドルとパッキンの間の最大静止摩擦力に相当する)を測定した。これと同様の試験を、比較例に係る膨張黒鉛製グランドパッキンに対しても行った。実施例の試験結果を表3に、比較例の試験結果を表4に示す。
【表3】
【表4】
【0087】
以上の試験結果から、PVA層および開繊繊維束を補強材とした実施例の方が、綿糸織物シートを補強材とした比較例よりも引張力が小さくて済むことがわかる。これは、実施例に係るグランドパッキンの方が、潤滑性が良好であることを示している。従って、パッキンに挿通されたスピンドルを回転させる際には、実施例に係るグランドパッキン(1)を使用した方が、低トルクで回転させ得ることが分かる。
【0088】
【発明の効果】
請求項1記載の発明は、編糸を編組してなる紐体を加圧成形することにより得られる膨張黒鉛製グランドパッキンに用いられる編糸であって、膨張黒鉛シートに開繊された炭素繊維束が接着剤層を介して積層一体化されこの接着剤層が補強材とされた帯状の積層シートを、巻回するか若しくは捩じって糸状にしたことを特徴とする編糸であるから、以下の効果を奏する。
すなわち、この編糸は、帯幅30mm以下の柔軟性に優れた帯状の積層シートから構成することができるので、柔軟性に優れた編糸とすることができる。従って、複雑な編組加工を容易に行うことができる。また、この編糸を構成する帯状の積層シートは許容引張力が大きいので、巻回加工、捩じり加工、および編組加工の際に破断する恐れがない。また、この編糸は、開繊された炭素繊維束が外側に位置するように加工すると、パッキンを構成した際、パッキンの表面に開繊された炭素繊維束を位置させることができる。この場合、潤滑性、シール性、耐磨耗性、および耐腐食性に非常に優れたパッキンを得ることができる。
【0089】
請求項2記載の発明は、前記帯状の積層シートが補強用線材を被覆するように、該積層シートを巻回して糸状にするか若しくは該積層シートを捩じって糸状にしたことを特徴とする請求項1に記載の編糸であるから、以下の効果を奏する。
すなわち、この編糸は補強用線材を備えているので、巻回加工、捩じり加工、および編組加工に対する強度をより一層高めることができる。
【0090】
請求項4記載の発明は、編糸を編組してなる紐体を加圧成形することにより得られる膨張黒鉛製グランドパッキンに用いられる編糸であって、膨張黒鉛シートの少なくとも一面にポリビニルアルコール層が設けられてなりこのポリビニルアルコール層が補強材とされた帯状の積層シートを巻回するか若しくは捩じって糸状体を構成し、この糸状体を芯として該糸状体を被覆するように、開繊された帯状の炭素繊維束を巻回するか若しくは捩じって糸状にしたことを特徴とする編糸であるから、以下の効果を奏する。
すなわち、この編糸は、帯幅10mm程度の帯状の積層シートから構成することが可能なので、柔軟性に非常に優れた編糸とすることができる。従って、複雑な編組加工を容易に行うことができる。また、編糸を構成する帯状の積層シートは許容引張力が大きいため、巻回加工、捩じり加工、および編組加工の際に破断する恐れがない。また、この編糸は、開繊された炭素繊維束が外側に位置するように巻回加工或いは捩じり加工すると、パッキンを構成した際、パッキンの表面に開繊された炭素繊維束を位置させることができる。この場合、潤滑性、シール性、耐磨耗性、および耐腐食性に非常に優れたパッキンを得ることができる。
【0091】
請求項6記載の発明は、編糸を編組してなる紐体を加圧成形することにより得られる膨張黒鉛製グランドパッキンに用いられる編糸であって、帯状の膨張黒鉛シートを補強用線材とともに圧延した後、この圧延物を巻回するか若しくは捩じって糸状体を構成し、この糸状体を芯として該糸状体を被覆するように、開繊された帯状の炭素繊維束を巻回するか若しくは捩じって糸状にしたことを特徴とする編糸であるから、以下の効果を奏する。
すなわち、許容引張力が大きくしかも柔軟性に優れた編糸とすることができるので、製造容易性およびシール性に優れた膨張黒鉛製グランドパッキンを得ることが可能となる。また、外側に開繊された炭素繊維束が位置させた場合、潤滑性、シール性、耐磨耗性、及び耐腐食性に非常に優れたパッキンを得ることができる。
【0092】
請求項8記載の発明は、請求項1乃至7いずれかに記載の編糸を編組してなることを特徴とする紐体であるから、以下の効果を奏する。すなわち、許容引張力が大きくしかも柔軟性に優れた編糸から構成することにより、複雑な編組加工を経ても破断箇所がなくしかも柔軟性に優れた紐体とすることができる。また、紐体の外側に開繊された炭素繊維束を位置させた場合、パッキンの表面に開繊された炭素繊維束を位置させることができる。この場合、耐磨耗性および耐腐食性に非常に優れたパッキンを得ることができる。また、開繊された炭素繊維束は潤滑性、シール性にも優れているので、潤滑性およびシール性にも優れたパッキンを得ることができる。
【0093】
請求項9記載の発明は、前記接着剤層がポリビニルアルコール層とされた請求項1乃至3に記載の編糸または請求項4或いは5に記載の編糸を編組してなるとともに、前記ポリビニルアルコール層が、前記編組加工後に除去されてなることを特徴とする紐体であるから、以下の効果を奏する。すなわち、応力緩和を生じやすいポリビニルアルコール層を除去することにより、応力緩和が生じない紐体とすることができる。これにより、パッキンに応力緩和が生じないようにすることができ、パッキンのシール性を高めることができる。
【0094】
請求項10記載の発明は、四フッ化ポリエチレン樹脂等のフッ素系樹脂、シリコーン樹脂、水溶性フェノール樹脂、或いはガラス、アルミナ、シリカゲル、黒鉛、チタン等の無機微粉末を含むエマルジョン樹脂からなる群から選択された1または2以上の液状樹脂が含浸されてなることを特徴とする請求項9に記載の紐体であるから、以下の効果を奏する。すなわち、ポリビニルアルコール層の除去によって形成された空隙を液状樹脂によって充填することができる。空隙を液状樹脂によって充填することにより、パッキンをスタフィングボックス内で使用した際に紐体内部を流体が通過するのを防止して、パッキンのシール性を一層高めることができる。
【0095】
請求項11記載の発明は、請求項8乃至10いずれかに記載の紐体を加圧成形してなることを特徴とする膨張黒鉛製グランドパッキンであるから、以下の効果を奏する。すなわち、破断箇所がなくしかも柔軟性に優れた紐体から構成することにより、シール性に優れたパッキンとすることができる。また、パッキンの外側に開繊された炭素繊維束が位置する場合には、耐磨耗性および耐腐食性に優れたパッキンとすることができる。また、開繊された炭素繊維束は潤滑性およびシール性にも優れているので、潤滑性およびシール性にも優れたパッキンとすることができる。また、柔軟性に優れしかも許容引張力が大きい積層シートから構成されているので、製造容易性に優れたパッキンとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る編糸の第1実施形態の第1例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す編糸の製造過程を示す図である。
【図3】図1に示す編糸を製造する際に用いられる積層シートを示す断面図である。
【図4】図1に示す編糸から構成した紐体を示す斜視図である。
【図5】図1に示す編糸から構成した膨張黒鉛製グランドパッキンを示す斜視図である。
【図6】本発明における裁断後の開繊繊維束を示す図であり、(a)は、各繊維が真っ直ぐに伸びている開繊繊維束を所定幅に裁断したものの一例を示す図、(b)は、各繊維が波状に曲がっている開繊繊維束を所定幅に裁断したものの一例を示す図である。
【図7】本発明に係る編糸の第1実施形態の第4例を示す斜視図である。
【図8】本発明に係る編糸の第1実施形態の第2例を示す斜視図である。
【図9】図8に示す編糸の製造過程を示す図である。
【図10】本発明に係る編糸の第1実施形態の第3例を示す斜視図である。
【図11】補強用芯材の一例を示す斜視図である。
【図12】補強用芯材の一例を示す斜視図である。
【図13】補強用線材の一例を示す斜視図である。
【図14】補強用線材の一例を示す斜視図である。
【図15】補強用線材の一例を示す斜視図である。
【図16】図10に示す編糸の断面図である。
【図17】本発明に係る編糸の第2実施形態の製造過程を示す斜視図である。
【図18】本発明に係る編糸の第3実施形態の製造過程を示す斜視図である。
【図19】図18に示す編糸を構成する際に用いられる帯状積層シートの一例を示す断面図である。
【図20】引張試験に供される積層シートの大きさを示す図である。
【図21】トルク試験の試験状況を示す図である。
【符号の説明】
1・・・・・膨張黒鉛製グランドパッキン
2,20・・編糸
21・・・・帯状箔
3・・・・・紐体
4,40・・帯状の積層シート
5・・・・・積層シート
6・・・・・膨張黒鉛シート
7・・・・・開繊された炭素繊維束
8・・・・・接着剤層
9・・・・・補強用線材
10・・・・糸状体
Claims (16)
- 編糸を編組してなる紐体を加圧成形することにより得られる膨張黒鉛製グランドパッキンに用いられる編糸であって、膨張黒鉛シートに開繊された炭素繊維束が接着剤層を介して積層一体化されこの接着剤層が補強材とされた帯状の積層シートを、巻回するか若しくは捩じって糸状にしたことを特徴とする編糸。
- 前記帯状の積層シートが補強用線材を被覆するように、該積層シートを巻回するか若しくは該積層シートを捩じって糸状にしたことを特徴とする請求項1に記載の編糸。
- 前記帯状の積層シートを巻回するか若しくは捩じって糸状体を構成し、この糸状体の全体を連続的に若しくは断続的に被覆するように、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金、のうちのいずれかからなる帯状箔を巻回するか若しくは捩って糸状にしたことを特徴とする請求項1に記載の編糸。
- 編糸を編組してなる紐体を加圧成形することにより得られる膨張黒鉛製グランドパッキンに用いられる編糸であって、膨張黒鉛シートの少なくとも一面にポリビニルアルコール層が設けられてなりこのポリビニルアルコール層が補強材とされた帯状の積層シートを巻回するか若しくは捩じって糸状体を構成し、この糸状体を芯として該糸状体を被覆するように、開繊された帯状の炭素繊維束を巻回するか若しくは捩じって糸状にしたことを特徴とする編糸。
- 前記帯状の積層シートから糸状体を構成する際、この積層シートが補強用線材を被覆するように、該積層シートを巻回するか若しくは捩じって糸状にしたことを特徴とする請求項4に記載の編糸。
- 編糸を編組してなる紐体を加圧成形することにより得られる膨張黒鉛製グランドパッキンに用いられる編糸であって、帯状の膨張黒鉛シートを補強用線材とともに圧延した後、この圧延物を巻回するか若しくは捩じって糸状体を構成し、この糸状体を芯として該糸状体を被覆するように、開繊された帯状の炭素繊維束を巻回するか若しくは捩じって糸状にしたことを特徴とする編糸。
- 前記補強用線材が、アラミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ナイロン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、若しくはこれら合成樹脂の炭化物、ガラス、金属、アスベスト、各種セラミックスのうち少なくともいずれか一種の材料からなることを特徴とする請求項2、5、6いずれかに記載の編糸。
- 請求項1乃至7いずれかに記載の編糸を編組してなることを特徴とする紐体。
- 前記接着剤層がポリビニルアルコール層とされた請求項1乃至3いずれかに記載の編糸または請求項4或いは5に記載の編糸を編組してなるとともに、前記ポリビニルアルコール層が、前記編組加工後に除去されてなることを特徴とする紐体。
- 四フッ化ポリエチレン樹脂等のフッ素系樹脂、シリコーン樹脂、水溶性フェノール樹脂、或いはガラス、アルミナ、シリカゲル、黒鉛、チタン等の無機微粉末を含むエマルジョン樹脂からなる群から選択された1または2以上の液状樹脂が含浸されてなることを特徴とする請求項9に記載の紐体。
- 請求項8乃至10いずれかに記載の紐体を加圧成形してなることを特徴とする膨張黒鉛製グランドパッキン。
- 膨張黒鉛シートに開繊された炭素繊維束を接着剤層を介して積層一体化し接着剤層が補強材とされた積層シートを構成し、この積層シートを裁断して帯状の積層シートを形成し、この帯状の積層シートを巻回するか若しくは捩じって編糸を構成し、この編糸を編組して紐体を構成し、この紐体を加圧成形することを特徴とする膨張黒鉛製グランドパッキンの製造方法。
- 膨張黒鉛シートの少なくも一面にポリビニルアルコール層を設けることによりポリビニルアルコール層が補強材とされた積層シートを構成し、この積層シートを裁断して帯状の積層シートを形成し、この帯状の積層シートを巻回するか若しくは捩じって糸状体を構成し、この糸状体を芯として該糸状体を被覆するように、開繊された帯状の炭素繊維束を巻回するか若しくは捩じって編糸を構成し、この編糸を編組して紐体を構成し、この紐体を加圧成形することを特徴とする膨張黒鉛製グランドパッキンの製造方法。
- 前記接着剤層がポリビニルアルコール層とされた編糸から紐体を構成した後、この紐体を湯洗することにより該紐体からポリビニルアルコールを溶出除去し、この紐体を乾燥させ、その後この紐体を加圧成形することを特徴とする請求項12に記載の膨張黒鉛製グランドパッキンの製造方法。
- 前記紐体を構成した後、この紐体を湯洗することにより該紐体からポリビニルアルコールを溶出除去し、この紐体を乾燥させ、その後この紐体を加圧成形することを特徴とする請求項13に記載の膨張黒鉛製グランドパッキンの製造方法。
- 溶出除去を終えた紐体を乾燥させた後、この紐体に、四フッ化ポリエチレン樹脂等のフッ素系樹脂、シリコーン樹脂、水溶性フェノール樹脂、或いはガラス、アルミナ、シリカゲル、黒鉛、チタン等の無機微粉末を含むエマルジョン樹脂からなる群から選択された1または2以上の液状樹脂を含浸させ、その後この紐体を加圧成形することを特徴とする請求項14又は15に記載の膨張黒鉛製グランドパッキンの製造方法。
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