JP4522538B2 - 化粧シート及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、住宅等の建築物における壁面、天井面、床面等に使用する内装材や、造作材、建具、家具、什器、家電製品等の表面材として使用される化粧シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、係る用途に使用するための化粧シートとしては、ポリ塩化ビニル樹脂フィルムに所望の適宜の絵柄の印刷や表面へのエンボス加工等を施してなるものが主流であった。しかるに近年では、環境問題への対応を考慮して、燃焼時の塩化水素又はダイオキシン等の有害物質の発生のおそれのない、ポリオレフィン樹脂フィルムを使用した化粧シートが数多く提案され(例えば特開平6−16832号、特開平6−79850号等)、従来のポリ塩化ビニル樹脂フィルムを使用した化粧シートに対する置き換えが急速に進行しつつある。
【0003】
しかしながら、ポリオレフィン樹脂フィルムを使用した化粧シートは、従来のポリ塩化ビニル樹脂フィルムを使用した化粧シートの代替品として、十分に満足すべき性能を備えたものでは必ずしもない。その理由は種々あるが、その代表的なものをいくつか例示すれば、以下の様な事情がある。
【0004】
(1)ポリオレフィン樹脂は、ポリ塩化ビニル樹脂と比較して、表面の耐傷付き性がはるかに劣ること。
(2)ポリオレフィン樹脂は、結晶性が高いためにヘイズ度が高く、フィルムの裏面又は層間に設けた絵柄の意匠効果が劣ること。
(3)ポリオレフィン樹脂は、結晶部と非結晶部とを有する不均質な構造のために、折り曲げ加工時に白化したり、不均一な伸びのために折り曲げ部で破断したり柄が歪んだりしやすい。
【0005】
ポリオレフィン樹脂以外のポリ塩化ビニル樹脂に代わる熱可塑性樹脂を使用した化粧シートとしては、ポリエステル樹脂を使用した化粧シートなども既に多くの提案がある(例えば実開昭56−94329号、特開昭57−22052号、特開平2−167745号、特開平4−293935号、特開平7−24979号、特開平9−24588号等)。ポリエステル樹脂には結晶性のものと非晶性のものとがあり、結晶性のものでも表面ヘイズ度は極めて低く、折り曲げ加工時にもポリオレフィン樹脂と比較すれば白化等の問題が発生しにくい利点がある。
【0006】
しかしながら、結晶性ポリエステル樹脂は、表面硬度や耐傷付き性、耐溶剤性等には優れるものの、熱可塑性樹脂としてはかなり硬質で伸びにくく、高い伸びが要求される条件での折り曲げ加工には不向きであるほか、融点や軟化点が高いために、表面へのエンボス加工も困難である。
【0007】
一方、非晶性ポリエステル樹脂は、非晶性ゆえに透明度の高さやヘイズ度の低さに優れることは勿論のこと、柔軟性が高く軟化点が低いことから、折り曲げ加工適性やエンボス加工適性にも優れる利点があるものの、表面硬度や耐傷付き性が低く、耐溶剤性も劣り、特にハロゲン化炭化水素系や低分子量ケトン系、炭化水素系等の有機溶剤に対して膨潤や溶解を起こし易いなどの問題点があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来の技術における上記したような問題点を解決するためになされたものであって、ポリエステル樹脂を使用した化粧シートにおいて、表面硬度や耐傷付き性、耐溶剤性と、折り曲げ加工適性やエンボス加工適性とを、同時に具現化する化粧シート及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の課題を解決するために、非晶性ポリエステル樹脂層と、その表面側に設けられた結晶性ポリエステル樹脂層とを少なくとも具備してなる化粧シートであって、前記結晶性ポリエステル樹脂層の厚さが1〜50μmであり、かつ、化粧シートの総厚の20%を越えない範囲内であり、かつ、前記結晶性ポリエステル樹脂層の表面側からエンボスが施されてなり、かつ、ポリオレフィン樹脂または結晶性ポリエステル樹脂からなる基材シートの表面上に、前記結晶性ポリエステル樹脂層と結晶性ポリエステル樹脂層であり、かつ、前記非結晶性ポリエステル樹脂層の厚さが前記基材シートの厚さの1.125倍以上4倍以下の範囲内であることを順次具備してなることを特徴とする化粧シートを提供するものである。
【0010】
また本発明は、前記非晶性ポリエステル樹脂層が、グリコール成分として1,4−シクロヘキサンジメタノールを含む共重合ポリエステル樹脂からなることを特徴とする化粧シートを併せて提供するものである。
【0013】
また本発明は、上記の課題を解決するために、非晶性ポリエステル樹脂層の表面側に、非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂層を設けた積層シートを作製し、しかる後、該積層シートの非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂層の表面側からエンボスを施すと同時に、該非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂層を結晶化させ、前記エンボスは、前記積層シートにおける非晶性ポリエステル樹脂層の裏面側を、ポリオレフィン樹脂又は結晶性ポリエステル樹脂からなる基材シートの表面上に積層した後又は積層すると同時に施し、
前記結晶性ポリエステル樹脂層の厚さが1〜50μmであり、かつ、前記結晶性ポリエステル樹脂層の厚さが化粧シートの総厚の20%を越えない範囲内であり、かつ、前記非結晶性ポリエステル樹脂層の厚さが前記基材シートの厚さの1.125倍以上4倍以下の範囲内であることを特徴とする化粧シートの製造方法を提供するものである。
【0014】
また本発明は、前記エンボスは、前記積層シートにおける非晶性ポリエステル樹脂層の裏面側を、基材シートの表面上に積層した後又は積層すると同時に施すことを特徴とする請求項4に記載の化粧シートの製造方法を提供するものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の化粧シート及びその製造方法の実施の形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1〜図6はそれぞれ本発明の化粧シートの実施の形態を示す模式断面図であり、図7〜図11はそれぞれ本発明の化粧シートの製造方法の実施の形態を示す概略工程図である。
【0016】
本発明の化粧シートは、図1に例示するように、非晶性ポリエステル樹脂層1の表面側に、結晶性ポリエステル樹脂層2が積層されて構成されるものである。この化粧シートには、非晶性ポリエステル樹脂層1の裏面側に絵柄層3が設けられており、この絵柄層3が結晶性ポリエステル樹脂層2の表面側から透視できるように、非晶性ポリエステル樹脂層1及び結晶性ポリエステル樹脂層2は、透明又は半透明とされている。
【0017】
非晶性ポリエステル樹脂層1は、化粧シートに優れた柔軟性や透明性、折り曲げ加工適性やエンボス加工適性等を付与するために設けられる層であって、通常の樹脂成形工程の条件では殆ど結晶化することのない程度に、結晶性が著しく低いか若しくは結晶化速度が著しく遅い熱可塑性のポリエステル樹脂からなる層である。
【0018】
上記非晶性ポリエステル樹脂としては例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂のジカルボン酸成分の一部又は全部を例えばイソフタル酸等で置換したり、或いは、グリコール成分の一部又は全部を例えば1,4−シクロヘキサンジメタノール又はジエチレングリコール等で置換することによって、ホモポリエチレンテレフタレート樹脂と比較して結晶加速度を著しく遅くした樹脂などを使用することができる。中でも、グリコール成分の一部を1,4−シクロヘキサンジメタノールで置換した非晶性の共重合ポリエステル樹脂は、卓越した柔軟性を示し、折り曲げ加工適性やエンボス加工適性に優れるので、特に好適である。
【0019】
なお、非結晶状態のポリエステル樹脂フィルムとしては、本来結晶性であるホモポリエチレンテレフタレート樹脂を、結晶化させない条件でフィルム成形したものも、通称A−PETフィルムとして知られているが、本発明においては、少なくとも得られる化粧シートの表面に深いエンボス4を施そうとする場合には、この種のフィルムの採用はあまり望ましいものではない。深いエンボス4を施すための強度の加熱によって樹脂が結晶化し、柔軟性や透明性等が悪化してしまう場合があるからである。但し、表面にエンボス4を施さない場合や、樹脂をあまり加熱軟化させなくても賦型可能な程度の浅いエンボス4のみを施す場合は、必ずしもこの限りではない。
【0020】
結晶性ポリエステル樹脂層2は、化粧シートの表面に優れた表面硬度や耐傷付き性、耐溶剤性等の表面物性を付与するために設けられるものであり、例えばポリエチレンテレフタレート系樹脂において、例えばイソフタル酸や1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール等の共重合成分を全く含有しないか若しくは含有量が少なく、結晶化度が高く結晶化速度の速い熱可塑性のポリエステル樹脂からなるものである。
【0021】
非晶性ポリエステル樹脂層1及び結晶性ポリエステル樹脂層2の厚さに関しては、透明性や折り曲げ加工適性、エンボス加工適性などの面では、非晶性ポリエステル樹脂層1の厚さの比率が高い程有利であるが、結晶性ポリエステル樹脂層2の厚さが薄すぎても、表面硬度や耐傷付き性、耐溶剤性などが十分に得られない場合がある。
【0022】
係る観点から、結晶性ポリエステル樹脂層1の厚さは、少なくとも1μm以上とすることが望ましく、通常は5μm以上が良い。上限は、折り曲げ加工適性の観点からは、化粧シートの総厚の20%を越えない範囲内とするのが良く、透明性やエンボス加工適性の観点からは50μm以下、より望ましくは25μm以下とするのが良い。
【0023】
因みに、本発明の化粧シートの総厚は特に制限されるものではないが、従来の同種の化粧シートと同様、薄過ぎると加工時の破断や被貼着基材への貼合時の糊ダク等が発生し易く、一方厚過ぎても折り曲げ加工適性に劣る他、巻取方式での大量生産が困難となり、材料コストも高くなるので、通例50〜1000μの範囲で設計され、中でも100〜500μm程度が最も一般的である。
【0024】
非晶性ポリエステル樹脂層1及び/又は結晶性ポリエステル樹脂層2には、必要に応じて例えば紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、可塑剤、難燃剤、充填剤、艶調整剤、帯電防止剤、滑剤等の各種の添加剤から選ばれる1種以上が添加されていても良い。
【0025】
非晶性ポリエステル樹脂層1と結晶性ポリエステル樹脂層2とは、必要に応じて層間に接着剤層6を介在させて積層されていても良いし、接着剤層6を介在させずに直接積層されていても良い。
【0026】
絵柄層3は、本発明において何ら制限されるものではなく、従来の同種の化粧シートと同様、印刷インキ組成物や塗料等を使用して、例えばグラビア印刷法、オフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、ドライオフセット印刷法、凸版印刷法、静電印刷法、インクジェット印刷法等の各種の印刷方法や塗装法などにより設けることができる。絵柄の種類にも全く制限はなく、例えば木目柄、石目柄、布目柄、抽象柄、幾何学図形、文字又は記号等、或いはそれらの組み合わせ等、所望により任意であり、単色無地であっても良い。
【0027】
なお、絵柄層3は、非晶性ポリエステル樹脂層1と結晶性ポリエステル樹脂層2との層間に設けることも可能ではあるが、前述したように本発明の化粧シートにおいては、結晶性ポリエステル樹脂層2は比較的に薄い層とすることが望ましく、その場合に、絵柄層3の表面上に存在する透明な熱可塑性樹脂層が結晶性ポリエステル樹脂層2のみであると、意匠上十分な深み感や奥行き感、塗装感等が得られない場合があるので、非晶性ポリエステル樹脂層1の優れた透明性を活かすように、絵柄層3は少なくとも非晶性ポリエステル樹脂層1の裏面側に設けることが望ましい。
【0028】
但し、立体的な意匠表現を目的として、非晶性ポリエステル樹脂層1の裏面側と、非晶性ポリエステル樹脂層1と結晶性ポリエステル樹脂層2の層間との2箇所に絵柄層3を設けることは、特に差し支えない。
【0029】
本発明の化粧シートには、図2に示すように、結晶性ポリエステル樹脂層2の表面側からエンボス4を施すこともできる。エンボス4は、所望により任意の模様状に施すことができ、例えば木目柄に対する木目導管溝模様状等のように、絵柄層3のなす絵柄と同調した模様であっても良いし、同調していなくても良い。
また、例えば砂目状や梨地状、ヘアライン状等のように、絵柄層3のなす絵柄とは全く無関係のパターンであっても良い。必要に応じて、エンボス4の凹陥部をワイピング法等により着色することもできる。
【0030】
本発明の化粧シートの表面硬度や耐傷付き性、耐溶剤性等の表面物性を更に向上させるために、結晶性ポリエステル樹脂層2の表面にトップコート層5を設けることもできる。トップコート層5を設けることで、各樹脂層や絵柄層に対して耐候性や耐薬品性などを付与することもできる。
【0031】
トップコート層5の材質は、従来の同種の化粧シートにおけるそれと同様であり、本発明において特に限定されるものではないが、一般的には、例えば2液硬化型ウレタン系樹脂、アミノアルキド系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、電離放射線硬化性樹脂などの硬化性樹脂を主成分とするものを使用することが望ましい。また、係るトップコート樹脂に、例えばシリカ、アルミナ、炭化珪素等の高硬度の耐磨耗性粒子を含有させることによって、表面の耐傷付き性を更に向上させることもできる。
【0032】
上記のように、硬化性樹脂及び/又は耐磨耗性粒子を含有するトップコート樹脂の層を、ポリオレフィン樹脂などの熱可塑性エラストマー樹脂の表面上に設けたとしても、表面から大きな荷重がかかった場合には、樹脂の凹みが生じるために、高い耐傷付き性を得ることは困難である。これに対し、本発明の化粧シートは、非晶性ポリエステル樹脂層1の優れた復元力と、結晶性ポリエステル樹脂層2の高い弾性との相乗作用により、トップコート層5の性能が遺憾なく発揮され、優れた耐傷付き性を得ることができる。
【0033】
本発明の化粧シートは、本質的に非晶性ポリエステル樹脂層1とその表面側の結晶性ポリエステル樹脂層2とからなる、上述したような構成に限定されるものではなく、非晶性ポリエステル樹脂層1の裏面側に、これらと同種又は異種の材質からなる層を具備するものであってもよい。
【0034】
例えば、図3〜6に示すように、化粧シートの支持体としての基材シート7の表面上に、絵柄層3を介して、透明又は半透明の非晶性ポリエステル樹脂層1と、透明又は半透明の結晶性ポリエステル樹脂層2とを順次積層して化粧シートを構成することもできる。
【0035】
このように構成すると、被貼着基材への貼着時に溶剤型の接着剤を使用しても、接着剤に含まれる溶剤によって非晶性ポリエステル樹脂層1が侵される心配がないことや、非晶性ポリエステル樹脂層1等との積層前に基材シート7に予め絵柄層3を施しておくことで、絵柄層3の形成用の印刷インキに含まれる溶剤によって非晶性ポリエステル樹脂層1が侵される心配がなく、使用可能な印刷インキの選択範囲が拡がり、絵柄層3の耐候性の向上や、より自由な意匠表現などが可能となることなどの利点がある。
【0036】
上記構成の化粧シートにおいて、基材シート7の材質には特に制限はなく、例えば薄葉紙やチタン紙、クラフト紙、上質紙等の紙類や織布、不織布等の繊維質素材や、銅箔やアルミニウム箔等の金属箔などであっても良いが、折り曲げ加工適性や化粧シートの製造上の種々の加工適性、取り扱い性などを考慮すると、熱可塑性樹脂からなるフィルム乃至シートを使用することが最も望ましい。
【0037】
具体的には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー等のポリオレフィン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物、エチレン−(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸金属中和物(アイオノマー)等のオレフィン系共重合体樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート等のポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート等のアクリル樹脂、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン等のポリアミド系樹脂、トリアセチルセルロース等の繊維素誘導体等、或いはそれらから選ばれる2種以上の共重合体、混合物、複合体、積層体等からなるフィルム乃至シート状体を使用することができる。
【0038】
但し、ポリ塩化ビニル樹脂フィルムを使用した化粧シートに代わる化粧シートの提供という本発明の目的からは、上記した熱可塑性樹脂として、例えばポリ塩化ビニル樹脂やポリ塩化ビニリデン樹脂等の様に、塩素原子を含有する熱可塑性樹脂の採用は望ましくなく、非塩素系(非ハロゲン系)の熱可塑性樹脂を採用すべきである。
【0039】
また、前述した印刷時や被貼着基材への貼合時の溶剤アタックの問題からは、耐溶剤性に優れたものであることが望ましく、一方、特に被貼着基材の表面の欠陥や好ましくない色彩に対する隠蔽性が要求される場合には、隠蔽性顔料の添加による高隠蔽化が可能なものであることが望ましい。これらの事情にさらに加工適性や経済性などをあわせて考慮すると、基材シート7としては、ポリオレフィン樹脂又は結晶性ポリエステル樹脂からなるフィルム乃至シートを採用することが最も望ましい。
【0040】
基材シート7には、必要に応じて例えば紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、充填剤等の各種の添加剤から選ばれる1種以上が添加されていてもよい。また、基材シート7は透明や半透明であってもよいし、着色剤の添加により着色透明や着色不透明とされていてもよい。
【0041】
基材シート7の厚さには特に制約はなく、目的とする化粧シートの総厚と、折り曲げ加工適性やエンボス加工適性の観点から選ばれる非晶性ポリエステル樹脂層1の厚さと、表面物性の観点から選ばれる結晶性ポリエステル樹脂層2の厚さと、基材シート7自体の加工性や経済性などを総合的に勘案して適宜決定すればよい。一般的には、10〜300μm程度の範囲内で設計され、中でも20〜150μm程度の範囲内とすることが最も望ましい。
【0042】
基材シート7と非晶性ポリエステル樹脂層1とは、必要に応じて層間に接着剤層6又は62を介在させて積層されていても良いし、接着剤層6又は62を介在させずに直接積層されていても良い。
【0043】
本発明の化粧シートは、従来の同種の化粧シートと同様、例えば木質系ボード類、無機系ボード類、樹脂ボード類、金属板などの表面に貼合して化粧板として用いられるのが一般的であり、該貼合の際には通常、例えばウレタン系や酢酸ビニル系等の適宜の接着剤が使用されるが、基材シート7を構成する樹脂の種類によっては、係る汎用のラミネート用接着剤との接着性が不十分である場合もある。係る場合に備えて、基材シート7の裏面に、上記したような各種の汎用の接着剤との接着性に優れた樹脂組成物からなるプライマー層8を設けておくことが好ましい。
【0044】
プライマー層8としては、例えばウレタン系、アクリル系、エチレン−酢酸ビニル共重合体系、塩素化ポリオレフィン系、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系、ポリアミド系、ポリエステル系等の各種のプライマー剤が知られており、これらの中から基材シート7の材質に合わせたものを選んで使用する。また、プライマー層8に例えばシリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の粉末を添加しておくと、プライマー層8の表面が粗面化することによって、化粧シートの巻取保存時のブロッキングが防止できるほか、投錨効果による前記ラミネート用接着剤との接着性の向上を図ることもできる。
【0045】
本発明の化粧シートは、非晶性ポリエステル樹脂層1の表面側に、結晶性ポリエステル樹脂層2を積層し、該積層と同時又は積層後に、結晶性ポリエステル樹脂層2の表面側からエンボス4を施すことで、製造することができる。但し、本発明の化粧シートでは一般に、結晶性ポリエステル樹脂層2はかなり薄くする必要があることから、両ポリエステル樹脂層の積層と同時のエンボス加工は、シワ寄りや破れ等の問題から難しく、エンボス加工は積層後とすることが望ましい。なお、絵柄層3の形成は、両ポリエステル樹脂層の積層前、積層後エンボス加工前、エンボス加工後のいずれの段階で施してもよい。
【0046】
しかしながら、結晶性ポリエステル樹脂層2が十分に薄く、しかもエンボス4の深さがあまり深くない場合には、上記の製造方法でも十分に対応できるが、結晶性ポリエステル樹脂層2を厚く設ける場合や、深いエンボス4を施す場合には、エンボス加工時に結晶性ポリエステル樹脂層2がエンボス4の形状に十分に追従して変形することができずに、エンボス4の深さが不十分となったり、結晶性ポリエステル樹脂層2の破れが発生したりする場合もある。
【0047】
そこで、係る問題点を回避するためには、まず、非晶性ポリエステル樹脂層1の表面側に、非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂層21を設けた積層シートを作製しておき、しかる後、該積層シートの非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂層21の表面側から、加熱したエンボスロール91等によって、エンボス4を施すと同時に、該非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂層2を、エンボス加工のための熱によって結晶化させる製造方法を採用するとよい(図7、図8)。
【0048】
このようにすれば、エンボス加工時には結晶性ポリエステル樹脂層21は非晶状態であるから、十分な柔軟性や熱変形性を有しており、エンボス4の形状を忠実に再現しての変形が容易に可能であると共に、エンボス加工時の加熱により結晶化することで、エンボス加工後には表面硬度や耐傷付き性、耐溶剤性等に優れたものとなるので、エンボス加工適性と表面物性との両立が容易である利点がある。
【0049】
なお、上記した非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂層21は、本来結晶性であるポリエステル樹脂を結晶化させない条件でフィルム乃至シート状に成形することで得られるものであり、その成形条件は例えば従来より市販されている所謂A−PETの製造条件に従えばよい。
【0050】
また、非晶性ポリエステル樹脂層1と、非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂層21との積層は、接着剤を介したドライラミネート法又はウエットラミネート法、接着剤を介した又は介さない熱ラミネート法等、それぞれを別途フィルム又はシート成形後に積層する方法によってもよい(図7)し、或いは、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを、後者が結晶化しない条件で共押出し成形する方法によってもよい(図8)。
【0051】
後者の共押出し成形法の場合には、一旦冷却した共押出しフィルム乃至シートを再度加熱してエンボス加工を施しても良いし、押出機から共押出しした後、冷却固化する前に、冷却したエンボスロール91によってエンボス4を施すと同時に冷却固化させ、同時に結晶化させる方法によることもできる(図8)。
【0052】
非晶性ポリエステル樹脂層1の裏面側に基材シート7を設ける場合には、基材シート7(予めその表面上に絵柄層3が設けられていても良い)と非晶性ポリエステル樹脂層1との積層は、非晶性ポリエステル樹脂層1と結晶性ポリエステル樹脂層2(又は、非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂層21)との積層前、積層と同時、積層後エンボス加工前、エンボス加工と同時、エンボス加工後のいずれであっても良い。
【0053】
但し、非晶性ポリエステル樹脂層1と結晶性ポリエステル樹脂層2との積層シートへのエンボス加工後に基材シート7と積層するのは、積層時の熱によりエンボス4の形状が損なわれるおそれがあり、生産性にも劣るので、基材シート7の積層はエンボス加工よりも前又はエンボス加工と同時とすることが望ましい。
【0054】
中でも生産効率に優れた加工方法としては、まず非晶性ポリエステル樹脂層1と非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂層21との積層シートを前記した方法に従って作製し、その非晶性ポリエステル樹脂層1の裏面側に基材シートを積層し、該積層の後又は該積層と同時に、エンボスロール91等によりエンボス4を施す方法(図9、図10)や、基材シートとエンボスロール91との間に、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを、後者が結晶化しない条件で共押出しして基材シートと積層させ、同時に、エンボスロール91によるエンボス4の賦型と、両樹脂の冷却固化と、結晶性ポリエステル樹脂の結晶化とを行う方法(図11)などを例示することができる。
【0055】
これらの方法において、非晶性ポリエステル樹脂層1を構成する非晶性ポリエステル樹脂、特に1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエステル樹脂は、基材シートやその表面に設けた絵柄層3上に積層する際の接着性に優れ、比較的低温での熱ラミネートや溶融共押出ラミネートによっても優れた層間密着性を有する化粧シートが得られる利点がある。
【0056】
なお、図7〜図11では記載が省略されているが、図1〜図6に例示したような、製造すべき化粧シートの構成に従って、各シートの積層前又は後、エンボス加工の前又は後の適切な時期に、適宜の位置に絵柄層3や接着剤層6,61,62、トップコート層5、プライマー層8等を施しても良いことは、改めて説明するまでもない。
【0057】
【実施例】
以下に、本発明の化粧シート及びその製造方法の具体的な実施例を挙げ、本発明をより詳細に説明する。
【0058】
実施例1
厚さ50μmの白色ポリエチレンテレフタレートフィルム(W400;三菱化学ポリエステルフィルム株式会社製)に2液硬化型ウレタン系印刷インキ(ラミスター;東洋インキ製造株式会社製)を用いて木目印刷を施し、該印刷面上に、厚さ200μmの非晶性ポリエステル樹脂フィルム(NAGASE A−PET;長瀬産業株式会社製)(注;これはイーストマン社製の非晶性共重合ポリエステル樹脂「PET G」からなるフィルムである)と、厚さ12μmの結晶性ポリエステル樹脂フィルム(ルミラーSタイプ;東レ株式会社製)とを、それぞれ2液硬化型ウレタン系接着剤(タケラックA−540;武田薬品工業株式会社製)を介してドライラミネート法により順次積層させた。このようにして得られた複層シートの表面に、熱エンボス方式により木目導管状のエンボスを施して、本発明の化粧シートを得た。
【0059】
実施例2
厚さ80μmの着色ポリプロピレン樹脂フィルム上に、2液硬化型ウレタン系印刷インキ(ラミスター;東洋インキ製造株式会社製)を用いて木目印刷を施し、印刷シートを得た。一方、非晶性ポリエステル樹脂(シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエステル樹脂;Easter PETG 6763;イーストマンケミカル社製)と、結晶性ポリエステル樹脂(ホモポリエチレンテレフタレート樹脂)とを、後者を結晶化させない条件で、両者の厚さがそれぞれ90μm及び10μmとなるように共押出し製膜し、積層シートを得た。しかる後、前記印刷シートの印刷面に、前記積層シートの非晶性ポリエステル樹脂層面を向けて、ドライラミネート法により積層し、さらに、結晶性ポリエステル樹脂層面に熱エンボス方式により木目導管状のエンボスを施し、同時に、該エンボス時の加熱により結晶性ポリエステル樹脂層を結晶化させて、本発明の化粧シートを得た。
【0060】
実施例3
厚さ120μmの着色ポリプロピレン樹脂フィルム上に、2液硬化型ウレタン系印刷インキ(ラミスター;東洋インキ製造株式会社製)を用いて木目印刷を施し、該印刷面に、ポリエステル樹脂系ヒートシール剤(AD−X17−3;東洋モートン株式会社製)を塗工し、印刷シートを得た。一方、非晶性ポリエステル樹脂(シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエステル樹脂;Easter PETG 6763;イーストマンケミカル社製)と、結晶性ポリエステル樹脂(ホモポリエチレンテレフタレート樹脂)とを、後者を結晶化させない条件で、両者の厚さがそれぞれ180μm及び20μmとなるように共押出し製膜し、積層シートを得た。しかる後、前記印刷シートのヒートシール剤塗工面に、前記積層シートの非晶性ポリエステル樹脂層面を向けて、熱ラミネート法により積層すると同時に、結晶性ポリエステル樹脂層の表面に木目導管状のエンボスを施し、同時に結晶性ポリエステル樹脂層を結晶化させた。さらに、結晶性ポリエステル樹脂層の表面に、シリコーン系防汚剤を添加した2液硬化型ウレタン系トップコート剤(UR341;東洋インキ製造株式会社製)を塗工してトップコート層を形成して、本発明の化粧シートを得た。
【0061】
【発明の効果】
本発明の化粧シートは、ポリ塩化ビニル樹脂を代替した環境適応型の化粧シートであることはもとより、非晶性ポリエステル樹脂層と、その表面側に設けられた結晶性ポリエステル樹脂層とを少なくとも具備することにより、柔軟性に優れ軟化点も低い非晶性ポリエステル樹脂層の作用によって、優れた折り曲げ加工適性やエンボス加工適性等を有し、またその透明性の高さによって、深み感、奥行き感、塗装感等の優れた意匠効果をも有すると同時に、その表面の高度に結晶化し物理的にも化学的にも強い結晶性ポリエステル樹脂層の作用により、優れた表面硬度や耐傷付き性、耐磨耗性、耐溶剤性等をも同時に有しており、意匠性に優れることは勿論のこと、2次加工適性と表面物性とを同時に要求される厳しい用途にも十分に対応することのできるものであるという顕著な利点を有するものである。
【0062】
特に、前記非晶性ポリエステル樹脂層が、グリコール成分として1,4−シクロヘキサンジメタノールを含む共重合ポリエステル樹脂からなることにより、折り曲げ加工適性やエンボス加工適性につながる優れた柔軟性を具備すると共に、優れた熱接着性をも有することから、基材シートやその表面の絵柄層の上への積層に際しては、生産性に優れた簡便な積層方法により、良好な層間密着強度を容易に得ることができるという顕著な利点を有するものである。
【0063】
また、本発明の化粧シートの製造方法によれば、非晶性ポリエステル樹脂層の表面側に、非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂層を設けた積層シートを作製し、しかる後、該積層シートの非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂層の表面側からエンボスを施すと同時に、該非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂層を結晶化させることにより、表面物性の強化のために結晶性ポリエステル樹脂層を厚く設ける必要がある場合や、意匠面から深いエンボスが要求される場合にあっても、エンボス加工時には結晶性ポリエステル樹脂層は柔軟な非晶状態であることから、十分にエンボス形状に追従させて変形させることができ、一方、エンボス加工後には結晶化していることから、表面硬度や耐磨耗性、耐傷付き性、耐溶剤性等に優れたものとなる。このようにして、深いエンボスによる意匠効果と各種表面物性とを兼備した化粧シートを、簡便な工程で容易に製造することができるという顕著な利点を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の化粧シートの実施の形態を示す模式断面図である。
【図2】本発明の化粧シートの実施の形態を示す模式断面図である。
【図3】本発明の化粧シートの実施の形態を示す模式断面図である。
【図4】本発明の化粧シートの実施の形態を示す模式断面図である。
【図5】本発明の化粧シートの実施の形態を示す模式断面図である。
【図6】本発明の化粧シートの実施の形態を示す模式断面図である。
【図7】本発明の化粧シートの製造方法の実施の形態を示す概略工程図である。
【図8】本発明の化粧シートの製造方法の実施の形態を示す概略工程図である。
【図9】本発明の化粧シートの製造方法の実施の形態を示す概略工程図である。
【図10】本発明の化粧シートの製造方法の実施の形態を示す概略工程図である。
【図11】本発明の化粧シートの製造方法の実施の形態を示す概略工程図である。
【符号の説明】
1…非晶性ポリエステル樹脂層
2…結晶性ポリエステル樹脂層
21…非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂層
3…絵柄層
4…エンボス
5…表面保護層
6,61,62…接着剤層
7…基材シート
8…プライマー層
91…エンボスロール
92…押圧ロール
93…多層押出機

Claims (3)

  1. 非晶性ポリエステル樹脂層と、その表面側に設けられた結晶性ポリエステル樹脂層とを少なくとも具備してなる化粧シートであって、前記結晶性ポリエステル樹脂層の厚さが1〜50μmであり、かつ、化粧シートの総厚の20%を越えない範囲内であり、かつ、前記結晶性ポリエステル樹脂層の表面側からエンボスが施されてなり、かつ、ポリオレフィン樹脂または結晶性ポリエステル樹脂からなる基材シートの表面上に、前記結晶性ポリエステル樹脂層と結晶性ポリエステル樹脂層であり、かつ、前記非結晶性ポリエステル樹脂層の厚さが前記基材シートの厚さの1.125倍以上4倍以下の範囲内であることを順次具備してなることを特徴とする化粧シート。
  2. 前記非晶性ポリエステル樹脂層が、グリコール成分として1,4−シクロヘキサンジメタノールを含む共重合ポリエステル樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
  3. 非晶性ポリエステル樹脂層の表面側に、非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂層を設けた積層シートを作製し、しかる後、該積層シートの非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂層の表面側からエンボスを施すと同時に、該非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂層を結晶化させ、前記エンボスは、前記積層シートにおける非晶性ポリエステル樹脂層の裏面側を、ポリオレフィン樹脂又は結晶性ポリエステル樹脂からなる基材シートの表面上に積層した後又は積層すると同時に施し、
    前記結晶性ポリエステル樹脂層の厚さが1〜50μmであり、かつ、前記結晶性ポリエステル樹脂層の厚さが化粧シートの総厚の20%を越えない範囲内であり、かつ、前記非結晶性ポリエステル樹脂層の厚さが前記基材シートの厚さの1.125倍以上4倍以下の範囲内であることを特徴とする化粧シートの製造方法。
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