リチウムナイオベート(LiNbO3)のように電界を印加することにより屈折率が変化する、いわゆる電気光学効果を有する基板(以下、リチウムナイオベート基板をLN基板と略す)に光導波路と進行波電極を形成した進行波電極型リチウムナイオベート光変調器(以下、LN光変調器と略す)は、その優れた伝送特性から2.5Gbit/s、10Gbit/sの大容量光伝送システムに適用されている。最近はさらに40Gbit/sの超大容量光伝送システムにも適用が検討されており、キーデバイスとして期待されている。
[第1の従来技術]
このLN光変調器にはz−カットLN基板を使用するタイプとx−カットLN基板(あるいはy−カットLN基板)を使用するタイプがある。ここでは、第1の従来技術としてz−カットLN基板と2つの接地導体を有し、基本モードの伝搬に有利なコプレーナウェーブガイド(CPW)進行波電極を使用したz−カットLN基板LN光変調器をとり上げ、その斜視図を図17に示す。図18は図17のA−A’線における断面図である。なお、以下の議論はx−カットLN基板やy−カットLN基板でも同様に成り立つ。
図中、1はz−カットLN基板、2は1.3μm、あるいは1.55μmなど光通信において使用する波長領域では透明な200nmから1μm程度の厚みのSiO2バッファ層、3はz−カットLN基板1にTiを蒸着後、1050℃で約10時間熱拡散して形成した光導波路であり、マッハツェンダ干渉系(あるいは、マッハツェンダ光導波路)を構成している。なお、3a、3bは電気信号と光が相互作用する部位(相互作用部と言う)における光導波路(あるいは、相互作用光導波路)、つまりマッハツェンダ光導波路の2本のアームである。また、位相変調器の場合は直線光導波路で良い。CPW進行波電極4は中心導体4a、接地導体4b、4cからなっている。また、図18において中心導体4aの幅は6μmから20μm程度であり、一般には10μm前後が使用されている。一方、中心導体4aと接地導体4b、4cの間にはギャップ(あるいはCPWのギャップ)を形成している。
この第1の従来技術では、中心導体4aと接地導体4b、4c間にバイアス電圧(通常はDCバイアス電圧)と高周波電気信号(RF電気信号とも言う)を重畳して印加する。また、SiO2バッファ層2は高周波電気信号の等価屈折率nm(あるいは、マイクロ波等価屈折率nm)を光導波路3a、3bを伝搬する光の実効屈折率noに近づけることにより、光変調帯域を拡大するという重要な働きをしている。
次に、このように構成されるLN光変調器の動作について説明する。このLN光変調器を動作させるには、中心導体4aと接地導体4b、4c間にDCバイアス電圧とRF電気信号とを印加する必要がある。
図19に示す電圧−光出力特性はある状態でのLN光変調器の電圧−光出力特性であり、Vbはその際のDCバイアス電圧である。この図19に示すように、通常、DCバイアス電圧Vbは光出力特性の山と底の中点に設定される。
さて、LN光変調器を光伝送システムにおいて使用する際には、金属筐体(パッケージ)にLN光変調器のチップ、光ファイバ、及び電気信号用のマイクロ波コネクタを固定した光変調器モジュールとせねばならない。
図20にはその光変調器モジュールの構造を示す。図中のいくつかの番号は図17や図18と共通している。なお、簡単のために、SiO2バッファ層2は省略している。
ここで、15は金属筐体、16a、16bは金属筐体15に固定された不図示のマイクロ波コネクタの芯線である。17a、17bはマイクロ波コネクタの芯線16a、16bの周囲に形成された空洞である。まず、LN基板1を台座(固定部)に固定するが、ここでは説明の便宜のために、図20において金属筐体15の内部の20を台座とする。CPW進行波電極4とマイクロ波コネクタの芯線16a、16bを電気的に接続する。
図20には示していないがLN光導波路3へ光を入力・出力できるように光学系を設定する。次に、金属のふた8を金属筐体15に固定することにより、LN光変調器モジュールが完成する。なお、高周波電気信号の出力側(図17と図20を比較してわかるように、高周波電気信号の出力側は16b、17bの側に対応する)については、終端抵抗により電気的に終端しても良く、その場合には出力側のマイクロ波コネクタの芯線16bと空洞17bは不要である。
以下、LN光変調器チップの生産性と電気的特性の観点から光変調器としての劣化要因について考える。図21においてLNウェーハを10として、またz−カットLN光変調器のチップを11として示した。このLNウェーハはオプティカルグレードという欠陥が少なくて、均一性も高く、価格が極めて高価である。
図からわかるように、従来におけるz−カットLN光変調器のチップの横幅は2〜5mm程度もあるので、金属筐体15の台座20への接着強度は高いものの(特に横幅が5mmもあればその接着強度は極めて高い)、例えば3インチウェーハの場合約10〜20個程度のチップしかとれず、生産性の観点から問題があり、材料費と人件費との観点からLN光変調器のコストを高める大きな要因の一つであった。
次に、電気的特性の観点から光変調器としての歩留まりを著しく劣化させるマイクロ波ディップについて述べる。図22には、図20においてマイクロ波コネクタの芯線16aと金属筐体15に形成された空洞17aの部分を拡大して示す。ここで、EFはマイクロ波コネクタの芯線16aと金属筐体15に形成された空洞17aとの間に生じる高周波電気信号の電気力線である。
図22からわかるように、高周波電気信号の電気力線EFはマイクロ波コネクタの芯線16aを中心とした軸対称な分布をなしている。
一方、図23には、図20のz−カットLN基板1に形成された進行波電極のマイクロ波コネクタの芯線16aとの接続部(入力用フィードスルー部と呼ぶ)のB−B'線における断面図を示す。ここで、DEFは中心導体4aと接地導体4bの間に生じた電気力線を表している。図23からわかるように、入力用フィードスルー部のB−B'において電気力線DEFは平面的な分布をなしている。
このようにマイクロ波コネクタの芯線16aを中心とした軸対称な分布(マイクロ波コネクタの固有モードと呼ぶ)の電気力線EFと、進行波電極4の中心導体4aと接地導体4b、4cの間に生じた平面的な分布(CPW進行波電極の固有モードと呼ぶ)の電気力線DEFにはそれらの分布形状にミスマッチがあり、高周波電気信号がマイクロ波コネクタの芯線16aから進行波電極4の中心導体4aと接地導体4bに伝搬する際に高周波電気信号に漏れる成分が生じる。
図24にLN光変調器を構成するz−カットLN基板1の形状と寸法を示す。図のx方向が幅(あるいは、横幅)に、z方向が厚みに、y方向が長さに対応し、各々の寸法をLx、Lz、及びLyとする。前述の漏れた高周波電気信号成分に対しては、z−カットLN基板1は誘電体共振器として機能する。つまり、漏れた高周波電気信号成分はz−カットLN基板1に共振モードを励振し、その中で共振(誘電体共振と呼ぶ)すると考えられる。
後に詳しく議論するが、特許文献1によれば、z−カットLN基板1の横断面である図25における対角線dの長さが長いと誘電体共振のために、光伝送に障害が生じる。つまり、誘電体共振が生じると、マイクロ波コネクタの芯線16aから進行波電極の中心導体4aと接地導体4b、4cに伝搬すべき高周波電気信号のエネルギーの多くが、z−カットLN基板1からなる誘電体共振器の内部に共振モードを励振するのに費やされてしまい、図17や図18に示した相互作用光導波路3a、3bにおける光の変調に有効に活用されない。そのため、変調周波数に対する光の変調指数に激しい落ち込み(周波数ディップと呼ぶ)を生じてしまう。
ちなみに、特許文献1の考え方では、z−カットLN基板1の横幅(Lx)を5mmや6mmと大きくすると、横断面における対角線の長さdはこの横幅よりもさらに長くなり、周波数ディップは4GHz程度に現れる。10Gbit/sの変調速度の場合に、この周波数ディップが10GHz付近やそれ以下の周波数領域に生じた場合や、40Gbit/sの変調速度の場合に、この周波数ディップが30GHz付近やそれ以下の周波数領域などに生じると、実用上極めて深刻な問題となってしまう。
[第2の従来技術]
図21に示したように、z−カットLN光変調器のチップ11における横幅のサイズが大きいと1枚のウェーハ当たりにとれるz−カットLN光変調器のチップ11の数が少なくなってしまった。そこで、z−カットLN光変調器のチップ11の横幅を狭くした第2の従来技術を図26に示す。こうすることにより、1枚のウェーハ当たりに数多くのチップ11を得ることができ、プロセスにおける生産性が著しく向上する。このように、生産性の観点からはz−カットLN光変調器のチップ11の横幅を狭くすることは大変望ましい。
このように、z−カットLN光変調器のチップ11の横幅を狭くすることにより1ウェーハ当たりの生産性の問題は解決できた。さらに、第2の従来技術により電気的特性である周波数ディップも解決できることを示す。この第2の従来技術は第1の従来技術における誘電体共振器としての共振周波数を光変調に必要な周波数領域から高周波側に外すことにより、光の変調指数における周波数ディップの影響を改善するために特許文献1に提案された技術である。ここで、図17から図25に示した第1の従来技術と同一番号は同一機能部に対応しているため、ここでは同一番号を持つ機能部の説明を省略する。
図27に図26のz−カットLN光変調器を構成するz−カットLN基板1の斜視図を、図28にその横断面図を示す。特許文献1によれば、変調指数の周波数ディップfcは
fc = c0/(2n・d) (1)
で与えられるとのことである。ここで、c0は真空中の光速、nは高周波電気信号の等価屈折率、そして重要な物理量であるdは図27に示す横断面図において最も長くなる長さ(通常は、対角線の長さ)である。
そして、高周波電気信号の等価屈折率nと対角線の長さdとの積n・dを0.8mmより大きく、11mmよりも小さくすることにより、周波数ディップを10Gbit/sの光伝送に支障のない高い周波数にシフトできるとしている。
我々はこの(1)式に従って、z−カットLN基板1を用いた光変調器を実際に設計・製作した。なお、設計に当たっては、特許文献1に従い、高周波電気信号の等価屈折率は図28のx方向では6.59、z方向では5.36とした。
この第2の従来技術の要求条件(1)式に基づいてLN光変調器を設計・製作したところ、周波数ディップを光伝送に支障のない高い周波数にシフトできることを確認した。ところが、機械的強度の観点からLN光変調器を歩留まり良く作ることが困難であるという重要な事実が判明した。
つまり、1例として周波数ディップfcを40GHzとすると、(1)式からz−カットLN基板1の横断面図における対角線の長さdは0.63mmとなる。そこで、z−カットLN基板1の厚み(Lz)を0.5mmと仮定すると、z−カットLN基板1の横幅(Lx)はわずか0.39mmとなる。
通常、z−カットLN基板1の長さ(Ly)は数十mm有るのでz−カットLN基板1の横断面についての対角線の寸法がこのように小さくなり過ぎると、z−カットLN基板1の剛性が極めて弱くなってしまい、LN光変調器モジュールとしての機械的強度に著しい問題があることがわかった。また厚みよりも横幅の方が小さく、チップが倒れてしまうので、チップとしての取り扱いやパッケージへの実装が極めて困難であった。
次にこのモジュール製作後の機械的強度について考察する。図29はz−カットLN基板1の底面の面積を変数とした場合の図20に示した金属筐体15の台座20への接着強度である。図からわかるように、z−カットLN基板1の横幅(Lx)が狭くなり、その底面の面積が小さくなると、金属筐体15への接着強度が著しく劣化し、実装した後の機械的な振動・衝撃試験によりz−カットLN基板1がはがれてしまうことがわかった。
[第3の従来技術]
次に、光変調器の高周波における駆動電圧(RF駆動電圧)を低減しようとする試みを第3の従来技術とし、その際に生じる問題点について考察する。図30には半波長電圧Vπと図17における相互作用部の長さLとの積Vπ・LとCPWのギャップWとの関係を示す。なお、CPWのギャップWとしては、現状20μm〜30μm程度が使用されている。CPWのギャップWを狭くすると、相互作用光導波路3a、3bを伝搬する光と相互作用する高周波電界強度が大きくなる。従って、この図に示すように、CPWのギャップWを狭くすると、この積Vπ・Lは小さくなる。そして、この積Vπ・Lが低いほど駆動電圧が低いLN光変調器を実現できる。10Gbit/s以上の速度でLN光変調器を駆動する際の駆動電圧は5〜6V程度が実用上の限界であり、さらに少しでも駆動電圧が低いことが望まれる。よって駆動電圧の観点からは、CPWのギャップWは狭いことが望ましい。
図31には高周波電気信号のマイクロ波の等価屈折率nmとCPWのギャップWとの関係を示す。図には相互作用光導波路3a、3bを伝搬する光の等価屈折率no(no≒2.2)も示している。
CPWのギャップWが狭くなると中心導体4aと接地導体4b、4cの間に生成された高周波電気信号は比誘電率が4程度と低いSiO2バッファ層2を多く感じるので、マイクロ波等価屈折率nmを低減することができる(なお、z−カットLN基板1の比誘電率は35程度である)。
一般に、マイクロ波等価屈折率nmは光の等価屈折率noよりも大きく、LN光変調器を高速・広帯域で動作する際の大きな制限要因となっている。そのためLN光変調器を10Gbit/s以上の高速で駆動するには、マイクロ波等価屈折率nmを光の等価屈折率noに近づけることが不可欠となる。この観点からもCPWのギャップWは狭いことが望ましい。
以上のように、駆動電圧を低減するとともにマイクロ波等価屈折率nmを光の等価屈折率noに近づけるという観点からはCPWのギャップWは狭いことが望ましいことがわかったが、CPWのギャップWを例えば15μm以下など、一般に25μm以下に狭くした際に生じる問題点について以下に記す。
図32は中心導体4aと接地導体4b、4cからなるCPW進行波電極4の特性インピーダンスZ(以下の図34におけるZ39に対応)についてCPWギャップWを変数として示す。CPWギャップWを狭くすると、特性インピーダンスZが30Ωあるいはそれ以下と著しく低くなり、ほぼ50Ω系の外部信号源との間にインピーダンス不整合を生じてしまう。つまり、高周波電気信号のパワー反射率(いわゆるS11)が劣化するという問題が生じる。
次に、このことについてさらに詳しく考察する。第3の従来技術のz−カットLN光変調器を構成する中心導体4aと接地導体4b、4cからなるCPW進行波電極4の上面図を図33に示す。
ここで、Iは不図示の外部信号源からの高周波電気信号をCPW進行波電極4に印加するための不図示のコネクタの芯線(あるいは金リボンや金ワイヤー)を接続する入力用フィードスルー部、IIは入力用フィードスルー部Iと相互作用部IIIとの接続部(あるいは入力側接続部)、IIIは電気信号と光が相互作用する相互作用部、IVは出力用フィードスルー部Vと相互作用部IIIとの接続部(あるいは出力側接続部)である。出力用フィードスルー部Vは不図示のコネクタの芯線(あるいは金リボンや金ワイヤー)もしくは終端抵抗に接続される。
なお、入力用フィードスルー部Iの中心導体において高周波電気信号を給電する部位を給電部とし、また、出力用フィードスルー部Vの中心導体において高周波電気信号を取り出す部位を出力部と呼ぶ。
図34には第3の従来技術のz−カットLN光変調器の等価回路を示す。ここで、5と6は外部回路に対応し、5は電気的ドライバなどの外部信号源、6は外部信号源の負荷抵抗(特性インピーダンスをRgとする)を表す。また、37〜41は入力用フィードスルー部Iから出力用フィードスルー部Vまでの等価的な線路に各々対応する。具体的には、37は入力用フィードスルー部I、38は入力側接続部II、39は相互作用部III、40は出力側接続部IV、41は出力用フィードスルー部Vの線路を各々表す。また、42は終端抵抗である。
さらに、Z37〜Z41は入力用フィードスルー部Iから出力用フィードスルー部Vまでの特性インピーダンスであり、具体的には、Z37は入力用フィードスルー部I(あるいは線路37)、Z38は入力側接続部II(あるいは線路38)、Z39は相互作用部III(あるいは線路39)、Z40は出力側接続部IV(あるいは線路40)、Z41は出力用フィードスルー部V(あるいは線路41)の特性インピーダンスに対応している。また、ZLは終端抵抗42の抵抗値である。
次に、図30から図34に示した第3の従来技術のz−カットLN光変調器について、インピーダンス不整合と変調帯域の観点からの問題点について考察する。
図34において、Zinは外部信号源5と負荷抵抗6(インピーダンスRg)からz−カットLN光変調器を見た入力インピーダンスである。つまり、Zinは入力用フィードスルー部Iの特性インピーダンスZ37、入力側接続部IIの特性インピーダンスZ38、相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39、出力側接続部IVの特性インピーダンスZ40、出力用フィードスルー部Vの特性インピーダンスZ41、及び終端抵抗42の抵抗値ZLを、各部の長さと各部を伝搬する電気信号の等価屈折率を考慮した伝送線路の縦続接続の考え方で合成した特性インピーダンスと言える。図中の43は外部信号源5や負荷抵抗6と入力用フィードスルー部Iとの境界を表す。
駆動電圧を下げ、マイクロ波等価屈折率nmを光の等価屈折率noに近づけるためにCPWギャップWを15μm以下と狭くした場合を考察する。この場合、相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39は30Ωあるいはそれ以下と低くなる。
さて、第3の従来技術では、その他の線路37、38、40、41の特性インピーダンス、つまり入力用フィードスルー部Iの特性インピーダンスZ37、入力側接続部IIの特性インピーダンスZ38、出力側接続部IVの特性インピーダンスZ40、出力用フィードスルー部Vの特性インピーダンスZ41、及び終端抵抗42の抵抗値ZLは全て相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39と等しくしていた(つまり、Z37=Z38=Z39=Z40=Z41=ZL)。
その結果、外部信号源5の負荷抵抗6からz−カットLN光変調器を見た入力インピーダンスZinの実部Re(Zin)は図35の実線で示すようにほとんど周波数fに依存せず、相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39と一致し、30Ωもしくはそれ以下と低かった。
それに伴い、光の変調指数(パワー変調指数)|m|2は入力インピーダンスZinと外部信号源5の負荷抵抗6(インピーダンスRg)とのインピーダンス不整合のために、図36に示すように、周波数fとともに急速に劣化し3dB光変調帯域として10GHzを確保することが極めて困難であった。
なお、Z37=Z38=Z39=Z40=Z41=ZLと仮定すると、Zin(この場合には、Zin=Z39)が40Ω以下、例えば30Ωになると高周波電気信号のパワー反射率(S11)は図37に示すように−13dB程度と高く(悪く)なってしまう(Rg=50Ωとした。なお、実際の実験では、わずかなインピーダンス不整合により反射された高周波電気信号が重畳され、さらに劣化することになる)。ここで、高周波電気信号のパワー反射率(S11)は次の式で与えられる。
S11=|(Rg−Zin)/(Rg+Zin)|2 (1)
また、反射された高周波電気信号が外部信号源5へ戻る際には、変調された光パルスのジッタを増加させてしまうという問題もある。なお、ここでZ39が30Ωというのは一例であり、以上に述べた問題はZ39=30Ωの場合に限らず、特にZ39が40Ω以下になると顕著に生じる。
[第4の従来技術]
第3の従来技術における外部信号源5の特性インピーダンスRgと相互作用部IIIの特性インピーダンスZ3とのインピーダンス不整合を改善するための技術として、特許文献2として提案された第4の従来技術について説明する。ここで、図30から図37に示した第3の従来技術と同一番号は同一機能部に対応しているため、ここでは同一番号を持つ機能部の説明を省略する。
図38に第4の従来技術に使用するCPW進行波電極4の上面図を示す。第4の従来技術においてもIは入力用フィードスルー部、IIは入力側接続部、IIIは相互作用部、IVは出力側接続部、及びVは出力用フィードスルー部である。出力用フィードスルー部Vは不図示のコネクタ芯線(あるいは金リボンや金ワイヤー)もしくは終端抵抗に接続されるのも同じである。これらの第3の従来技術と同じ構成に加えて、図38に示す第4の従来技術には長さL6のインピーダンス変換部VIが付加されている。
図38の相互作用部IIIのB−B’におけるz−カットLN光変調器としての断面図を図39に示す。図39に示す第4の従来技術でもCPWのギャップWを15μm程度以下と極めて狭く設定した場合を想定する。CPWのギャップWをこのように狭くすると、前述のように駆動電圧を低減できるとともに高周波電気信号のマイクロ波等価屈折率nmを相互作用光導波路3a、3bを伝搬する光の等価屈折率noに近づけることができるという利点はあるものの、相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39は40Ω以下となる(第1の従来技術で述べたように例えば30Ω)。
またインピーダンス変換部VIのC−C’におけるz−カットLN光変調器としての断面図を図40に示す。インピーダンス変換部VIにおけるCPWのギャップW’は50μm程度と相互作用部IIIにおけるCPWのギャップWよりも広く設定される。
図41には第4の従来技術の等価回路を示す。図34に示した第1の従来技術と同じく、Z37は入力用フィードスルー部I(あるいは線路37)、Z38は入力側接続部II(あるいは線路38)、Z39は相互作用部III(あるいは線路39)、Z40は出力側接続部IV(あるいは線路40)、Z41は出力用フィードスルー部V(あるいは線路41)の特性インピーダンスであるが、第4の従来技術には特性インピーダンスZ44のインピーダンス変換部VI(あるいは線路44)が付加されている。
図41中の43は外部信号源5の負荷抵抗6(特性インピーダンスRg)と入力用フィードスルー部Iとの境界を表す。図41においてZin’は外部信号源5と外部信号源5の負荷抵抗6から第4の従来技術のz−カットLN光変調器を見た入力インピーダンスである。
つまり、Zin’は入力用フィードスルー部Iの特性インピーダンスZ37、インピーダンス変換部VIの特性インピーダンスZ44、入力側接続部IIの特性インピーダンスZ38、相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39、出力側接続部IVの特性インピーダンスZ40、出力用フィードスルー部Vの特性インピーダンスZ41、及び終端抵抗42のZLを伝送線路の縦続接続の考え方で合成した特性インピーダンスと言える。
前述のように、第4の従来技術においてはCPWギャップWを15μm以下と狭くしたので、相互作用部IIIの特性インピーダンスZ3は例えば30Ωなど、40Ω以下と低くなっている。
次に、インピーダンス変換部VIの作用について考察する。簡単のために、入力側接続部IIの特性インピーダンスZ38、相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39、出力側接続部IVの特性インピーダンスZ40、出力用フィードスルー部Vの特性インピーダンスZ41、及び終端抵抗42のZLについて、Z37=Z39=Z40=Z41=ZLが成り立っているとする。
この場合の等価回路を図42に示す。ここで、Z37、Z39、Z40、Z41、ZLを合成して形成した合成部III’を表す伝送線路39’の特性インピーダンスをZ39’とした。また、図38に記した特性インピーダンスがZ44であるインピーダンス変換部VIの長さを図42にもL6として示している。
ここで、特許文献2に従い、入力用フィードスルー部Iの特性インピーダンスZ37を外部信号源5の負荷抵抗6の特性インピーダンスRgと同じ50Ωとする。
伝送線路の縦続接続の理論からよく知られているように、異なる2つの特性インピーダンスZiとZjの間に特性インピーダンスがZで電気的長さがLであるインピーダンス変換部がある場合に、Z、Zi、Zj及びLの間に
Z =(Zi・Zj)1/2 (2)
L = λ/4 (3)
が成り立つならば、ZiとZjの間にインピーダンス整合が成り立ち、電気的反射は無くなる。ここで、λは高周波電気信号の電気的波長である。ZiとZjの相乗平均で表されたZを整合インピーダンスと呼ぶ。
なお、この第4の従来技術では、Z37がZiに、Z39’がZjに、Z44がZに、L6がLに対応する。つまり、この場合には入力用フィードスルー部I(Z37)と合成部III’(Z39’)との間にインピーダンス整合が成り立ち、電気的反射は無くなる。以下においては簡単のために、(2)式のZiをZ37、ZjをZ39’、ZをZ44、さらに(3)式のLをL6として説明する。
なお、この第4の従来技術では、λは外部信号源5からの高周波電気信号がインピーダンス変換部VIのLN基板を伝搬する際の波長であり、LN基板を伝搬する電磁波の波長という意味で管内波長と呼ばれる。具体的には、高周波電気信号の真空中での波長をλ0とし、高周波電気信号がLN基板を伝搬する際の等価屈折率をnm’とするとλは
λ=λ0/nm’ (4)
として与えられる。
次に、Z37=Rg=50Ω、Z39’=30Ωとした場合の電気的パワー反射率S11の周波数fに対する依存性について計算した例を図43に示す。ここで、インピーダンス変換部VIの特性インピーダンスZ44は38.7Ωとなる。また、インピーダンス変換部VIの長さL6はその等価屈折率nm’を2.5として6mmとなる。なお、相互作用部IIIとインピーダンス変換部VIにおける各々の中心導体の幅SとS’は同じとした。
図43からわかるように、(2)式と(3)式を満足するようにインピーダンス変換部VIを設計すると、5GHz、10GHz、15GHz、20GHzなどの特定の周波数において、S11を−50dB以下とでき、電気的なパワー反射をほぼ完全になくすことができる(なお、実際の実験において、ケーブルの接続部などからの電気的な反射などによりS11は負の無限大になることはないが、この第4の従来技術では(2)式と(3)式の条件を満たすものとする)。
以上述べたように、この第4の従来技術では(2)式と(3)式を満たす特定の周波数(ここでは、5GHz、10GHz、15GHz、20GHzなど)においては、高周波電気信号の電気的な反射をほぼ完全になくすことができるが、通常、電気的パワー反射率S11としては−50dB、あるいはそれ以下といった極めて小さな値は必要ではなく、最低−10dB(実際には、−12dB程度は欲しい)〜−15dB、あるいは−15dB〜−20dB程度あれば充分であり、いわばオーバースペックと言える。
逆に、図43から明らかなように、7.5GHz、12.5GHz、17.5GHzにおいては、電気的パワー反射率S11はその包絡線(図43中の破線)である−13dBのレベルまで劣化してしまい、第1の従来技術のレベルのように実用上使用できないほどの悪い反射特性となってしまう。
また、インピーダンス変換部VIの中心導体の幅S’は相互作用部IIIの中心導体の幅Sと同じ大きさ(一般には、10μm前後)と狭いので、高周波電気信号の等価屈折率nmは2.5前後と小さい。従って、インピーダンス変換部VIの長さは(3)式と(4)式からわかるように、比較的長くなってしまう(この第4の従来技術では6mm)。特に図38に示したように、インピーダンス変換部VIを相互作用部IIIに垂直、あるいは大きな角度を持って形成する場合にはLN光変調器としての素子の横幅が大きくなり、1枚のLN基板ウェーハ当たりにとることのできるLN光変調器の数が少なくなってしまうという問題もあった。つまり、かなりの長さを必要とするインピーダンス変換部全体をLN光変調器に形成とLN光変調器を寸法的に小さくすることが難しいという問題があった。
さらには、前述のように、インピーダンス変換部VIの中心導体の幅S’は相互作用部IIIの中心導体の幅Sと同じ大きさ(一般には、10μm前後)と狭いので、インピーダンス変換部VIにおいて、高周波電気信号が減衰しやすく、高周波電気信号が相互作用部IIIにおける光変調に充分には利用できないという問題もあった。
特開平3−253814号公報
特開2005−37547号公報
以下、本発明の実施形態について説明するが、図17から図43に示した従来の実施形態と同一番号は同一機能部に対応しているため、ここでは同一番号を持つ機能部の説明を省略する。また、光導波路、進行波電極、相互作用部および入力用フィードスルー部は、従来技術と同様に形成されているものとして説明するが、これに限定されるものではない。
[第1の実施形態]
本発明では、LN光変調器としてのエンジンの部分に高価なオプティカルグレードのz−カットLN基板をその横幅が狭い形状で使用し、安価な例えばSAWグレードLN基板からなる別体の基板を併用することにより機械的な強度を確保する。なお、オプティカルグレードのLN基板とSAWグレードLN基板の比誘電率は互いにほぼ等しい。そのため、後で詳しく議論するように、本発明のようにオプティカルグレードのLN基板と、それとは別体のSAWグレードLN基板を横方向に並べて(即ち、並置して)用いると、電磁界的にはオプティカルグレードの一体のLN基板と見なすことができる。
図1に本発明の第1の実施形態についてその概略図を示す。但し、説明を簡単にするために、バッファ層や電極パターンは除外して示している。図中、80は第1の従来技術よりも横幅を狭くしたオプティカルグレードのz−カットLN基板である。良く知られているように、X線トポグラフでの観察によると、オプティカルグレードのLN基板はその結晶性がSAWグレードLN基板よりもはるかに良い。その結果、当業者はLN光変調器の製作には、価格が高いもののオプティカルグレードのLN基板を用いる。一方、SAWグレードLN基板は、通常、光変調器には適用できず、光導波路を形成しない音響光学素子などに適用される。50は例えばオプティカルグレードの数分の1と価格が低いそのSAWグレードLN基板である(以下、オプティカルグレードのz−カットLN基板80と区別するために50をSAWグレードLN基板、補強板、あるいは別体の基板と呼ぶ)。なお、別体の基板として、例えばアルミナ基板、リチウムタンタレート基板、あるいは石英基板なども考えられが、熱膨張係数がz−カットLN基板80に近くて価格が低ければSAWグレードLN基板に限らなくても良いことは言うまでもない。
基板の方位については、SAWグレードLN基板50もその基板の方位をz−カットとしておけば熱膨張係数の観点から有利である。ここで、51はz−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50の側面における接触面であり、z−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50の側面は接触面51において不図示の接着剤で部分的にあるいは全体的に互いに接着されているか、機械的に密着、もしくは接触している。なお、z−カットLN基板80に貼り付けるSAWグレードLN基板50はオプティカルグレードではないので元々のウェーハの価格が低く、材料費の観点からコストアップにはならない。
さらに、実際にはSAWグレードLN基板50については時間的に長いプロセスは必要ではなく、簡単な電極パターンをプロセスした後に、プログラマブルのダイサーを用いてSAWグレードLN基板を指定された横幅で切断すれば良い。また、z−カットLN基板80を金属筐体15の中の固定部である台座20に接着した後、SAWグレードLN基板50を台座20に接着剤で貼り付ける作業も極めて短時間でできる。従って、電極パターンは簡単なので人件費の観点からもコストはほとんど上昇しない。
本発明においては、z−カットLN基板80の横幅は狭いので、高価なオプティカルグレードのウェーハからとり得るLN光変調器の数を著しく増やすことができる。LN光変調器を製作するプロセスは時間的に長いので、実際にはプロセスにおける人件費がLN光変調器におけるコストの大きな割合を占めている。従って、本発明を用いて1回のプロセスで製作することのできるLN光変調器の総数を大幅に増やすことができれば、プロセスにおける人件費の観点からもコストを大幅に低減できる。つまり、一枚のウェーハからとれる光変調器の総数が2倍になれば、人件費によるコストを半分にできるし、総数を3倍にできればそのコストは1/3になる。特許文献2ではインピーダンス変換部の全体をもオプティカルグレードのLN基板に形成するため、LN光変調器としての大きさを大きくしてしまう。つまり、特許文献2の考え方はコストの観点からも得策ではない。
本発明の考え方に基づくと、これまで光導波路を形成するz−カットLN基板80はオプティカルグレードを前提として議論して来たが、コストを低減するためにオプティカルグレードではなくSAWグレードLN基板を光変調器として使用する場合にも、本発明を適用することにより、オプティカルグレードのLN基板の場合と同じく人件費に関わるコストを大幅に低減できることになる。このことは本発明の全ての実施形態について言える。
本発明ではこの図1に示したz−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50のセットを図20におけるz−カットLN基板1の代わりに金属筐体15の台座20に固定し、LN光変調器モジュールとして製作する。
図2(a)は図1に示したz−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50のセットの横断面図である。z−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50は接触面51において、接着剤により、例えば側面の全体もしくは一部が互いに接着、あるいは密着・接触しているので、図2(b)の80’として示したほぼ一体のLN基板と実質上見なすことができる。なお、後に議論するように、共振周波数の観点からはz−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50の間に空気層があっても良いことを確認している。
この一体のLN基板80’は下面の面積が広いので図20に示した金属筐体15の台座20への接着強度が高い。つまり、図2(a)のz−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50の底面が金属筐体15へ接着し、かつz−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50は互いに接着(あるいは接触)しているので、一体のLN基板80’が金属筐体15の台座20へ接着していることと等価である。
このようにして、本実施形態により、1枚のウェーハから数多くのLN光変調器のチップを取り出すことにより材料費とプロセスにおける人件費のコストを大幅に低減するとともに、かつ図26〜図28に示した第2の従来技術が持つモジュール組み立て後の振動・衝撃試験における脆弱さを克服し、図20や図21に示した第1の従来技術と同等の機械的強度を実現できた。
次に、第1の従来技術において問題となっていたLN光変調器における光変調指数の周波数ディップfcについて考える。LN光変調器における光変調指数の周波数ディップfcの原因としては、進行波電極を伝搬する高周波電気信号の高次モードと、LN基板の誘電体共振器としての共振の2つが考えられるが、ここでは本発明の全ての実施形態において、進行波電極については基本モードを励振し、伝搬させるように設計する。
よって、本発明の全ての実施形態においては、光変調指数の周波数ディップfcは誘電体共振器としての基板の共振周波数により決定される。そして、誘電体共振器としての基板の共振周波数により決定されるこの周波数ディップfcに対し、基板の各辺の寸法がそれらの自乗に反比例して影響を与えることを利用する。
先に述べた第2の従来技術では、図28に示す横断面図を基にし、周波数ディップfcを与える式として(1)式に基づいて設計し、横断面図において最も長くなる長さ、即ち対角線の長さdを決定していた。
一方、本発明においては、誘電体共振器の原理・原則の式に立ち返って考える。本発明では、LN光変調器を駆動する際の伝送速度は10Gbit/sあるいは40Gbit/sであるので、その高周波電気信号の波長はセンチメートルオーダーあるいはミリメートルオーダーと長い。また、z−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50の比誘電率はほぼ等しい。従って、前述のようにLN光変調器の進行波電極4を伝搬する電磁界にとっては、z−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50とは分割された2つの基板としてではなく、一体のLN基板80’として感じる。
つまり、図2(b)に示す一体のLN基板80’からなる誘電体共振器の共振周波数が周波数ディップfcに対応すると考える。この周波数ディップfcは、図2(b)における一体のLN基板80’の上面(進行波電極が形成されているz−カットLN基板80の基板面と同じ面側にあるSAWグレードLN基板50の基板面)と下面(進行波電極が形成されている基板面と反対の基板面)に金属がある場合には
fc = (c0/2)・{(mx/(nx・Lx)) 2+(my/(ny・Ly))2
+(mz/(nz・Lz))2}1/2 (2)
また、一体のLN基板80’の上面には金属があり、下面の下方には充分に深い空隙があるとすると
fc = (c0/2)・{(mx/(nx・Lx)) 2+(my/(ny・Ly))2
+((mz−1/2)/(nz・Lz))2}1/2 (3)
となる。
ここで、mx、my、及びmzは共振の次数を表す自然数であり、問題となるのは最も低い次数(つまり、1)の共振周波数である。2以上のmx、my、及びmzは2次以上の高次モードに対応する。nx、ny、及びnzはx、y、及びzの各方向における高周波電気信号の等価屈折率であり、ここでは特許文献1に従い、nx=ny=6.59、nz=5.36とする。
また、(2)式と(3)式の比較からわかるように、z−カットLN基板80の幅方向(x方向)において、片方の端面に金属が有り、その反対側の端面が広い空間に接している場合には、mxをmx−1/2により置き換えれば良い。
(2)式や(3)式の中において、一体のLN基板80’の横幅Lx、長さLy、及び厚みLzが使用されている式の形態を考え、本発明においては、第2の従来技術が主張している「横断面において最も長くなる長さ(通常は対角線の長さ)と、その方向における高周波電気信号の等価屈折率との積」ではなく、「横断面において最も短くなる辺の長さと、その方向における高周波電気信号の等価屈折率との積」をキーポイントとする。そして、本発明において、「横断面において最も短くなる辺の長さ」とは一体のLN基板80’の厚みLzとなる。
本発明では、まず、周波数ディップfcを決定する式の中に、横断面の各辺の長さが自乗に反比例する形式で入っていることに着目し、横断面において最も長い辺の長さを意図的に長くすることにより、周波数ディップfcに対する影響を極めて小さくする。次に、横断面において最も短くなる辺の長さである厚みLzを意図的に小さくすることにより、最も短くなる辺の長さとその方向における高周波電気信号の等価屈折率との積で決まる周波数ディップfcを光伝送で使用する帯域よりも充分高い周波数領域に正確、確実、容易にシフトさせる。換言すると、そのように周波数ディップfcを高い周波数領域にシフトさせるために、横断面の寸法のうち、厚みLzを薄くする構造を採用する。
以上のことを具体的に式を用いて説明する。(2)式と(3)式において、
Lz<<Ly、Lx (4)
と仮定すると、(2)式と(3)式は各々
fc = (c0/2)・mz/(nz・Lz) (5)
fc = (c0/2)・(mz−1/2)/(nz・Lz) (6)
と表現でき、一体のLN基板80’の最も短くなる辺の長さ(ここでは、LN基板の厚みLz)により周波数ディップfcが決定できる。
ここで、(4)式が成り立つと仮定できる条件について考察する。一体のLN基板80’の長さLyは充分長いので、Lz<<Lyは当然成り立っている。従って、次に、残るLzとLxの関係について考える。Lxは周波数ディップfcの式の中にLxの自乗に反比例する形式で入っているので、LxはLzの1.4倍以上の大きさであるとすると周波数ディップfcに対するLxの影響はLzの影響の約1/2と充分小さくなり、Lz<<Lxが成り立つと考えることができる。また、一体のLN基板80’は等価的にその横幅Lxが広いと考えて良いので、光変調器としての充分な機械的強度が確保できるという利点が生じる。
なお、これまでの説明においては、z−カットLN基板80の厚みと別体の基板であるSAWグレードLN基板50の厚みは同じとしたが、これらは異なっていても良い。その場合に本発明として課す条件は厳密にはz−カットLN基板80の厚みもしくはSAWグレードLN基板50の厚みの厚い方に対して課す方が望ましいが、実際には誘電体共振のモードの分布形状も関連するので、ここではz−カットLN基板80の厚みもしくはSAWグレードLN基板50の厚みのどちらか一方について成立すれば良いとする。そして、このことは本発明の全ての実施形態について言うことができる。
なお、進行波電極4のうち不図示の外部回路から高周波電気信号を伝搬させるために、不図示のコネクタの芯線を接続する箇所をフィードスルー部というが、そのフィードスルー部の下に有限の深さの空隙がある場合がある。なお、この空隙は図20に示した筐体15の固定部20に切り欠きを設けることにより形成することができる。このように、一体のLN基板80’の下方に有限の深さの空隙がある場合には、(3)式あるいは(6)式とは異なってくるものの、一体のLN基板80’の比誘電率(その平方根が等価屈折率と近似できる)は高いので、空隙よりも一体のLN基板80’による影響の方が大きい。従って、一体のLN基板80’に着目したここでの議論の大筋は同じである。
一体のLN基板80’の下方に有限の深さの空隙がある場合について、より正確に設計するには、一体のLN基板80’の厚みと空隙の厚みとから決定される共振周波数が高周波電気信号よりも高くなるように、一体のLN基板80’の厚みに応じて空隙の厚みを設定する。そして、この空隙には、最も比誘電率が小さな空気や比誘電率がz−カットLN基板80やSAWグレードLN基板50など、一体のLN基板80’よりも小さな媒質(低誘電率層)が充填される。
以上のように、周波数ディップfcに関して、本発明は特許文献2として示された第2の従来技術の「横断面において最も長くなる長さ(通常は対角線)とその方向における高周波電気信号の等価屈折率との積」ではなく、その反対の「横断面において最も短くなる辺の長さとその方向における高周波電気信号の等価屈折率との積」をキーポイントと考えており、第2の従来技術とは発想が全く反対である。
具体的に説明すると、第2の従来技術によれば、周波数ディップfcを高い周波数領域にシフトさせるためには、一体のLN基板80’の横幅(Lx)を狭くしないといけないことになるが、本発明では逆に一体のLN基板80’の横幅(Lx)を数mmと広くして、かつ厚み(Lz)を薄くすることより周波数ディップfcを正確、確実、容易に、実際の光伝送で使用される伝送速度に対応する光変調周波数よりも高くする構造とする。
次に、「横断面において最も短くなる辺の長さとその方向における高周波電気信号の等価屈折率との積」についてさらに考察を進める。
一般に、周波数ディップfcは周波数に対してシャープではなく、ある周波数帯域を持つ(言い換えると、誘電体共振器としての共振のQ値が高くない)ので、10Gbit/sの光伝送を考える際には、周波数ディップfcとしてはできれば30%程高い13GHz程度には設定したいが、ここでは最低確保したい10GHzとすると、「横断面において最も短くなる辺の長さとその方向における高周波電気信号の等価屈折率との積((5)式や(6)式のnz・Lz)」の大きい値については、15mmとなる。
一方、nz・Lzの小さな方の値については、現在我々が行っているプロセスではz−カットLN基板1の厚みLzとして、0.3mm程度あれば何ら問題なく、0.2mm程度までなら歩留まりを確保できている。厚み方向の共振における等価屈折率nzは5.36として議論して来たが、2程度まで考えられるので、その結果、「横断面において最も短くなる辺の長さとその方向における高周波電気信号の等価屈折率との積((5)式や(6)式のnz・Lz)」の小さな値としては約0.4mmとなる。
なお、実際には、「横断面において最も短くなる辺の長さとその方向における高周波電気信号の等価屈折率との積((5)式や(6)式のnz・Lz)」の大きな値である15mmについても、厚み方向の基板共振の等価屈折率nzが2程度となっても良いし、小さな値である0.4mmの場合においても厚み方向の基板共振の等価屈折率nzが5.36であっても基板共振周波数を充分高くするという理屈の上では良いが、実際のLN光変調器モジュールを製作する上ではz−カットLN基板1の厚みが薄くなりすぎて製作性の観点から好ましくない。
実際にLN光変調器を試作した。まず図1と図2(a)において、LN光変調器を製作したオプティカルグレードのz−カットLN基板80の横幅を1mmとし、図20の第1の従来技術において金属筐体15の台座20に導電性接着剤などによりLN光変調器を固定したように、不図示の金属筐体の台座にz−カットLN基板80を接着した。また、SAWグレードLN基板50の横幅を5mmとし、これも接着剤により不図示の台座に接着剤により固定した。さらにSAWグレードLN基板50の接触面51に相当する基板側面に接着剤をあらかじめ塗っておき、z−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50とを互いに固定した。この接着剤はz−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50との接触面51の上方に少々はみ出しても問題なかった。なお、LN光変調器を製作したオプティカルグレードのz−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50とをそれぞれの側面であらかじめ互いに固定しておき、それを金属筐体15の台座20に固定しても良い。
そして、本発明の原理を確認するために、一体のLN基板80’の横幅Lxは第2の従来技術では10Gbit/sの光変調でさえも許容することができない6mm(つまり、SAWグレードLN基板50の横幅は5mm)をあえて採用している。また、基板の厚みLzは0.3mm、基板の長さLyは50mmとした。
なお、ここでは説明の便宜のために、図20における金属筐体15の内部の20を台座と仮定して説明したが、金属筐体15の内部の20を台座とせず、別途台座を設けて、それを金属筐体15に固定し、さらにz−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50を台座に固定しても良いことは言うまでもない。また、z−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50に各々異なる台座を設けて、それらを金属筐体の中に固定しても良い。
このように、z−カットLN基板80の横幅を例えば1mmと狭くすることにより、その横幅が2〜5mmであった第1の従来技術と比較して、オプティカルグレードのz−カットLN基板のウェーハからとることのできるLN光変調器のチップの総数を、第1の従来技術における10〜20チップの2倍〜5倍、つまり40〜50チップへと大幅に増やすことができた。そして、z−カットLN基板80の横幅を1mmよりもさらに狭くすることにより、もっと多くのLN光変調器のチップをとることができる。
次に、周波数ディップについて観測の実験を行った。第2の従来技術の基板となっている式(1)から予測される周波数ディップfcは5GHzであるが、この周波数はおろか20GHz以上、さらに40GHzにおいても周波数ディップfcが観測されなかった。よって、第2の従来技術のように素子を極めて小さくすること無しに、変調指数の周波数ディップfcを40GHz以上の高い周波数にシフトさせることが可能であることを確認した。
そしてここでの考え方の大きな特徴は周波数ディップfcがz−カットLN基板80の横幅に依存せずに、z−カットLN基板80やSAWグレードLN基板50の厚みにのみ依存している点であり、第2の従来技術と異なり、1枚のウェーハからとることのできるチップの総数と周波数ディップfcを独立に設計できた。
さらに、z−カットLN基板80を不図示の金属筐体から引き剥がす実験を行った結果、同じ横幅のz−カットLN基板1からなる第1の従来技術のLN光変調器と同等の強度を持っており、LN光変調器モジュール組み立て後の振動・衝撃試験も問題なくクリアした。このように、本実施形態はz−カットLN基板1の横幅が狭い第2の従来技術のLN光変調器と比べてはるかに強い機械的強度を有している。
以上のように、LN光変調器のチップの横幅を狭くすることにより、高価なオプティカルグレードのウェーハから多くの幅の狭いLN光変調器のチップをとることができるので光変調器としてのコストを材料費と実際には大きな割合を占めるプロセスにおける人件費の観点から低減するとともに、生産性を飛躍的に高め、かつLN光変調器のチップと極めて安価なSAWグレードの基板を機械的に一体のLN基板と見なせるようにしてコストを上げることなく機械的強度を保ち、さらにその一体のLN基板の厚みを薄くするとともに横幅を充分に広くすることにより、光伝送にとって有害な周波数ディップfcを正確、確実、かつ容易に使用周波数領域よりも高い周波数にシフトできるという大きな利点がある。
さらに、光導波路を形成するz−カットLN基板としてSAWグレードLN基板を使用する場合にも、本発明を適用することにより人件費に関わるコストを大幅に低減できることになる。
また、以上の説明においては、図20を例にとり、金属筐体15の内部の20を台座としてz−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50を固定したが、これは説明の便宜のためであり、勿論、金属筐体15の内部の20を台座とせずに別途台座を設けても良いことは言うまでもないし、z−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50を別々の台座に貼り付けた後に、金属筐体15の内部に固定しても良いことは言うまでもない。
なお、z−カットLN基板80と別体の基板50とが側面で互いに固定されていると機械的強度の観点から極めて有利となるが、例えそれら同士が互いに側面で固定されていなくても、密着あるいは接触していると機械的強度を増すことが可能となる。さらに、z−カットLN基板を不図示の台座に固定する際のガイドとしても別体基板を活用できるので好都合である。さらに、z−カットLN基板80と別体の基板50とをあらかじめ互いに固定しておき、それを不図示の台座に固定しても良い。
以上の議論においては別体の基板としてSAWグレードLN基板50、つまりLN光変調器チップと同じ材料の誘電体からなる材料を使用した。また、別体の基板としてはx−カット、y−カット等、面方位が異なるLN基板でも良いし、リチウムタンタレート基板、アルミナ基板、窒化アルミ基板、あるいはサファイア基板などのその他の誘電体基板でも良い。なお、ここで誘電体基板とは金属ではないという意味なので、本明細書においては誘電体基板という言葉は通常の誘電体基板の他にGaAs基板やInP基板などの半導体基板も含むものとする。なお、これらのことは本発明の全ての実施形態について言える。
また、別体の基板、つまりSAWグレードLN基板50としてz−カットLN基板を用いる場合には、LN光変調器チップであるz−カットLN基板80とSAWグレードLN基板50において−z面と+z面の方向を同じとすることが望ましいが、逆にすることにより焦電効果による電荷を中和することも可能である。
さて、本発明における考え方のもう一つの重要な柱であるインピーダンス変換について考察する。先に述べたように、図1はオプティカルグレードのz−カットLN基板80とSAWグレードのLN基板50についてのみ示した。実際のLN光変調器にはこれらの表面にバッファ層や進行波電極を形成する。図3には進行波電極を形成した実際の上面図を示す。但し、説明を簡単にするためにバッファ層は省略している。また、以下の議論においてもバッファ層を省略する。
ここで、60a、60b、60c、60d及び60eはSAWグレードのLN基板50上に形成したCPW電極であり、本発明のキーとなるインピーダンス変換の機能を有している。60aと60dは中心導体、60b、60c、及び60eは接地導体である。
ここで、VIIIは不図示の外部信号源からの高周波電気信号をSAWグレードのLN基板50上に形成した60a、60b、及び60cからなる電極に印加するための不図示のコネクタの芯線を接続するSAWグレードのLN基板50上の入力用フィードスルー部である。ここで、コネクタの芯線の代わりに金リボンや金ワイヤーを使用することもあるが、ここではこれらを総称してコネクタの芯線と呼ぶ。IXはSAWグレードのLN基板50上のインピーダンス変換部、IとVIIは各々オプティカルグレードのLN基板80上に形成した入力用フィードスルー部とインピーダンス変換部である。また、XはオプティカルグレードのLN基板80上の出力用フィードスルー部XIと相互作用部IIIとの接続部(あるいは出力側接続部)、XIはオプティカルグレードのLN基板80上の出力用フィードスルー部である。インピーダンス変換の機能をSAWグレードのLN基板50上の電極に全て持たせることも可能ではあるが、オプティカルグレードのLN基板80上の入力用フィードスルー部Iにさえもインピーダンス変換の機能を付与できるので、オプティカルグレードのLN基板80上の電極も活用した方が得策である。また、XIIは終端抵抗に接続される出力用フィードスルー部である。入力用フィードスルー部VIIIの中心導体において、コネクタの芯線を接続する部位を給電部と呼び、また出力用フィードスルー部XIIの中心導体において高周波電気信号を取り出す部位を出力部と呼ぶ。
また、高周波電気信号の入力側は電気的反射を抑える意味で重要であるので、ここでは金ワイヤーよりも幅が広い金リボン70a、70b、70cを使用した。この金リボンは金ワイヤーよりも特性インピーダンスを変化させやすいので、本発明ではより好都合である。なお、80a、80b、80c、及び80dはいわば高周波電気信号の出力側に対応するので、入力側ほど重要ではないので金ワイヤーとした。
図4に図3に示した本発明における第1の実施形態の等価回路図を示す。なお、SAWグレードのLN基板50上における入力用フィードスルー部VIII(線路90)の特性インピーダンスはZ90、インピーダンス変換部IX(線路91)の特性インピーダンスはZ91、オプティカルグレードのLN基板80上における入力用フィードスルー部I(線路92)の特性インピーダンスはZ92、インピーダンス変換部VII(線路93)の特性インピーダンスはZ93、相互作用部III(線路39)の特性インピーダンスはZ39、出力側接続部X(線路94)の特性インピーダンスはZ94、出力用フィードスルー部XI(線路95)の特性インピーダンスはZ95、SAWグレードのLN基板50上における出力用フィードスルー部XII(線路96)の特性インピーダンスはZ96である。また、図4においてZin’’は外部信号源5と外部信号源5の負荷抵抗6から本実施形態のz−カットLN光変調器を見た入力インピーダンスである。
図3からわかるように、本実施形態では、オプティカルグレードのLN基板80上の出力用フィードスルー部XIにおける中心導体と接地導体のエッジは、出力用フィードスルー部XIの特性インピーダンスを相互作用部IIIの特性インピーダンスとかなり正確に一致させるために非線形形状としているが、このことは本発明の全ての実施形態に適用できる。但し、非線形形状が好適であるという意味であり、本発明の効果を発揮できる最重要事項というわけではない。また、ここでは電気的終端42の電気的抵抗ZLも相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39に等しいとして議論しているが、本発明はこの限りではないことは言うまでもない。
そして、図4の等価回路は図5のように書くことができる。ここで、III’’は相互作用部IIIとそれ以降を合成した線路(あるいは合成部)98であり、その特性インピーダンスZ98は前述のように高周波電気信号の出力側を非線形形状としているので、相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39とほぼ同じとなる。
本実施形態においても駆動電圧を低減するために、相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39(あるいは、非線形形状を用いることにより、第2の従来技術よりも正確に、相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39とそれ以降の線路の特性インピーダンスを一致させており、それらの金リボンIII’’の特性インピーダンスZ98)を低くしている。ここでも例として30Ω程度とする。そして、本発明の目的はSAWグレードのLN基板50も活用して、インピーダンス変換を行うことにより、LN光変調器としての低駆動電圧性を保持しつつ、電気的反射特性の改善、即ち外部信号源へ戻る電気的反射波を抑圧することによる光パルスのジッタの改善に重きを置いている。
この本発明の第1の実施形態はオプティカルグレードのLN基板80上のインピーダンス変換部VIIを有しているが、さらに、SAWグレードのLN基板からなる別体の基板50にもインピーダンス変換部IXが形成されている。そして、本実施形態ではインピーダンス変換部IXとVIIの特性インピーダンスZ91とZ93は入力用フィードスルー部VIIIの特性インピーダンスZ90と相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39(あるいは、入力用フィードスルー部VIIIの特性インピーダンスZ90と金リボンIII’’の特性インピーダンスZ98)との相乗平均である必要はない。またインピーダンス変換部IXとVIIの長さの和が高周波電気信号のビットレートの管内波長をλとしてλ/4である必要はない。
別体基板50上の入力用フィードスルー部VIIIとインピーダンス変換部IX、オプティカルグレードのLN基板80上における入力用フィードスルー部I、及びインピーダンス変換部VIIをまとめてインピーダンス変換部と考えた場合の特性インピーダンスは、コネクタの特性インピーダンス(あるいは外部信号源5の特性インピーダンスRg)と相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39との相乗平均でもないし、コネクタの特性インピーダンス(あるいは外部信号源5の特性インピーダンスRg)と金リボンIII’’の特性インピーダンスZ98との相乗平均でもない。
勿論、この場合でも別体基板50上の入力用フィードスルー部VIIIとインピーダンス変換部IX、オプティカルグレードのLN基板80上の入力用フィードスルー部I、及びインピーダンス変換部VIIをまとめてインピーダンス変換部と考えた場合の全体の長さは高周波電気信号のビットレートの周波数(例えば、高周波電気信号のビットレートが10Gbit/sの場合には10GHz)における管内波長をλとしてλ/4である必要はない。
ここで、さらに詳しく考察する。この本発明の第1の実施形態はオプティカルグレードのLN基板80上にインピーダンス変換部VIIを有しているが、さらに、SAWグレードのLN基板からなる別体の基板50にもインピーダンス変換部IXが形成されている。但し、本実施形態ではインピーダンス変換部IXとVIIの特性インピーダンスZ91とZ93は入力用フィードスルー部VIII(線路90)の特性インピーダンスZ90と相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39(あるいは、金リボンIII’’の特性インピーダンスZ98)との相乗平均である必要はない。
それどころか、上において述べたように、本発明では入力用フィードスルー部もインピーダンス変換部の一部として機能させることもできるので、別体の基板50上に形成した入力用フィードスルー部VIIIの特性インピーダンスZ90とインピーダンス変換部IXの特性インピーダンスZ91、オプティカルグレードのLN基板80上に形成した入力用フィードスルー部Iの特性インピーダンスZ92とインピーダンス変換部VIIの特性インピーダンスZ93の全てを等しく(例えば、不図示のコネクタの特性インピーダンスや外部信号源5の負荷抵抗6(Rg)と、相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39や金リボンIII''の特性インピーダンスZ98との相乗平均と等しく)しても良い(勿論、全てを相乗平均と異ならしめても良いし、どれか一つ、もしくは複数を相乗平均としても良い)。
なぜならば、実際には入力用フィードスルー部VIIIには不図示のコネクタの芯線(以下、省略するが、金リボンや金ワイヤーなどが接続されることもあるが、ここでは総称してコネクタの芯線と呼ぶ)が接続されており、この不図示のコネクタの芯線はその直径が100〜300μmと大きな(あるいは厚い)導体であるので、これを接続することにより入力用フィードスルー部VIIIの特性インピーダンス特性インピーダンスZ90を大きく低下させる効果がある。また、オプティカルグレードのLN基板80上に形成した入力用フィードスルー部Iには別体の基板50上に形成したインピーダンス変換部IXからの金リボン70a、70b、70cが接続されており、これらの金リボンは接続部の特性インピーダンス(例えば、入力用フィードスルー部Iの特性インピーダンスZ92)を大幅に変化(部分的に低下)させる。
従って、別体の基板50上に形成した入力用フィードスルー部VIIIの特性インピーダンスZ90、インピーダンス変換部IXの特性インピーダンスZ91、オプティカルグレードのLN基板80上に形成した入力用フィードスルー部Iの特性インピーダンスZ92、インピーダンス変換部VIIの特性インピーダンスZ93の全てを合成した合成インピーダンスは、不図示のコネクタの特性インピーダンスや外部信号源5の負荷抵抗6(Rg)と、相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39や金リボンIII’’の特性インピーダンスZ98との相乗平均とは異なってくる(低くなる)。
つまり、インピーダンス変換の機能を有する部位全体(つまり、別体の基板50上に形成した入力用フィードスルー部VIII、インピーダンス変換部IX、オプティカルグレードのLN基板80上に形成した入力用フィードスルー部I、及びインピーダンス変換部VII)について考えると、これらの合成部の特性インピーダンスは上記の相乗平均の値にはなっておらず、より低い値となっている。
換言すると、別体の基板50上に形成した入力用フィードスルー部VIIIとオプティカルグレードのLN基板80上に形成した入力用フィードスルー部Iにより、第4の従来技術のような特定の周波数のみにおける共振的なインピーダンス変換は生じず(換言すると、共振条件を壊すことにより)、インピーダンス変換の機能を有する部位全体の特性インピーダンスを前述の相乗平均からずらす効果を持ち、残留反射を生じつつ広い周波数帯域におけるインピーダンス変換を実現するインピーダンス変換を実現する。
このように、本実施形態では不図示のコネクタの芯線を接続することにより、あるいは金リボン70a、70b、70cを接続することにより、故意に入力用フィードスルー部VIIIとIの特性インピーダンスを小さくし、インピーダンス変換の機能を有する部位全体(つまり、別体の基板50上に形成した入力用フィードスルー部VIII、インピーダンス変換部IX、オプティカルグレードのLN基板80上に形成した入力用フィードスルー部I、及びインピーダンス変換部VII)の特性インピーダンスが上述の相乗平均にならないようにすることにより、残留反射を生じさせ、結果的にインピーダンス変換の機能を実現できる周波数を広帯域化している。
さらに、別体の基板50上に形成した入力用フィードスルー部VIIIの特性インピーダンスZ90をコネクタ(あるいは、外部信号源の特性インピーダンスRg)と同じほぼ50Ωとし、インピーダンス変換部IXの特性インピーダンスZ91、オプティカルグレードのLN基板80上に形成した入力用フィードスルー部Iの特性インピーダンスZ92、及びインピーダンス変換部VIIの特性インピーダンスZ93を、入力用フィードスルー部VIIIの特性インピーダンスZ90と相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39(もしくは相互作用部IIIと出力用フィードスルー部XIなどとの金リボンIII’’の特性インピーダンスZ98)との相乗平均とした場合について考える。
これまで説明したように、不図示のコネクタの芯線を接続した入力用フィードスルー部VIIIの特性インピーダンスZ90は大きな(厚い)導体であるコネクタ芯線のために実際には著しく低下する。従って、別体の基板50上に形成した入力用フィードスルー部VIIIの特性インピーダンスZ90、インピーダンス変換部IXの特性インピーダンスZ91、オプティカルグレードのLN基板80上に形成した入力用フィードスルー部Iの特性インピーダンスZ92、及びインピーダンス変換部VIIの特性インピーダンスZ93を合成した特性インピーダンスは、接続されたコネクタの芯線のために実際にはかなり低くなった別体の基板50上に形成した入力用フィードスルー部VIIIの特性インピーダンスZ90と相互作用部III(あるいは、相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39もしくは相互作用部IIIと出力用フィードスルー部XIなどとの金リボンIII’’の特性インピーダンスZ98)との相乗平均と等しくはならず、この相乗平均より高くなる。
このようにして、別体の基板50上に形成した入力用フィードスルー部VIIIの特性インピーダンスZ90、インピーダンス変換部IX、オプティカルグレードのLN基板80上に形成した入力用フィードスルー部I、及びインピーダンス変換部VIIについて最終的に合成した特性インピーダンスを、コネクタの芯線を接続した入力用フィードスルー部VIIIの特性インピーダンスZ90と相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39(もしくは相互作用部IIIと出力用フィードスルー部Vなどとの金リボンIII’’の特性インピーダンスZ98)との相乗平均からずらした結果、残留反射が生じ、結果的にインピーダンス変換機能の周波数を広帯域化することができる。つまり、別体の基板50上に形成した入力用フィードスルー部VIIIはインピーダンス変換の周波数を広帯域化するためのインピーダンス変換部の一部として動作する。
本発明では入力用フィードスルー部VIIIやIと、インピーダンス変換部IXやVIIとを一応区別して呼んではいるが、これまで説明したように入力用フィードスルー部VIIIやIもインピーダンス変換機能を有しており、入力用フィードスルー部VIIIやIとインピーダンス変換部IXやVIIの部位全体として、インピーダンス変換部を構成している。
そして、特定の周波数においてのみ電気的反射特性が改善される共振条件を壊し、広い周波数において残留反射を残しつつ、必要な程度にまで電気的反射特性を改善するために、この部位全体として前述の(2)式による相乗平均が成り立たないように設定している。
つまり、コネクタの芯線や金リボンを接続していない状態での入力用フィードスルー部VIIIやIの特性インピーダンスZ90、Z92が、インピーダンス変換部IXやVIIの特性インピーダンスZ91、Z93に等しい場合でも、あるいは等しくない場合でも、インピーダンス変換部IXやVIIの特性インピーダンスZ91、Z93を最初から上記の相乗平均からずらしても良いし、コネクタの芯線や金リボンを接続することにより入力用フィードスルー部VIIIやIの特性インピーダンスZ90、Z92を低くした結果、インピーダンス変換の機能を有する部位全体としての特性インピーダンスを上記の相乗平均からずらしても良いことは言うまでもない。
本発明ではこのようにして、インピーダンス変換の機能を有する部位の特性インピーダンスを上記の相乗平均からずらすことにより、残留反射を生じつつ、インピーダンス変換機能を実現できる周波数を広帯域化している。そして、これらの考え方は本発明の全ての実施形態に当てはまる。
また、本発明においてはインピーダンス変換部IXとVIIの長さの和は高周波電気信号のビットレートにおける管内波長(例えば、高周波電気信号のビットレートが10Gbit/sであれば10GHzにおける管内波長)をλとして第4の従来技術のようにλ/4とする必要はない。つまり、本発明では入力用フィードスルー部VIIIとIもインピーダンス変換部の一部であるから、あえてインピーダンス変換部としての長さをあげるとすると、別体の基板50上に形成した入力用フィードスルー部VIII、インピーダンス変換部IX、オプティカルグレードのLN基板80上に形成した入力用フィードスルー部I、及びインピーダンス変換部VIIの電気的な長さの和となる。
但し、そもそも前述の相乗平均の考え方を用いていないので、これらの全体としての電気的な長さの和を高周波電気信号のビットレートの管内波長をλとしてλ/4とする必要もない。なお、この電気的な長さの和はこのλ/4よりも長い方が好ましいようである。
このように、別体の基板50があり、それにインピーダンス変換の機能を持つ部位を形成するので、オプティカルグレードのLN基板80の横幅を小さくできる。その結果、1枚のオプティカルグレードのLN基板のウェーハからとることのできるLN光変調器の数を極めて多くすることが可能となり、大幅なコスト削減の効果がある。
さて、本実施形態においては駆動電圧を低減するために、相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39(あるいは、相互作用部III以降の線路94、95、96は相互作用部IIIとほぼ同じ特性インピーダンスを有するので、これらと相互作用部IIIとの金リボンIII’’の特性インピーダンスZ98は相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39と同じとなる)を30Ω程度に低減している。
この場合のパワー反射率S11(厳密にはパワー反射率S11の包絡線)を図6に示す。図からわかるように、11.3Gbit/sのビットレートの20%から30%の周波数帯内の約3GHz付近において−12dB程度の残留反射を持つパワー反射率S11の特性となっている。このように、本発明の光変調器では、ビットレートの20%から30%にあたる周波数帯内の少なくとも1点において、パワー反射率S11は−10dBから−15dBの間にある。そして、ビットレートの周波数の40%から70%にあたる周波数帯域内の周波数FCにパワー反射率S11が−15dB以下となる極小値がある。
なお、相互作用部III以降の線路94、95と相互作用部IIIとをほぼ同じ特性インピーダンスとするために、図1からわかるように出力用フィードスルー部XIにおける中心導体を非線形テーパ形状とし、また中心導体と接地導体のエッジの形状も非線形とした。そして、このような出力用フィードスルー部XIの非線形形状は本発明の全ての実施形態について適用可能である。
本実施形態では、(2)式や(3)式が成り立っていないので、図43に示した第4の従来技術のような特定の周波数において電気的なパワー反射率S11が極めて良くなることはない。しかしながら、11.3Gbit/sの伝送速度について図6に示すように、11.3Gbit/sのパルスの基本周波数である5.6GHzの領域において電気的パワー反射率S11が−15dB以下であり、かつある程度の幅の周波数帯域において充分なパワー反射率特性S11となっている(なお、厳密には、図6のS11はパワー反射率の包絡線であり、ここではそれをパワー反射率と呼んでいる)。この時、パワー反射率S11の包絡線が谷となる(つまり、パワー反射率S11の包絡線の一次微分がゼロで、二次微分が正となる極小値を与える)周波数Fcが重要となる。
図7には11.3Gbit/sの伝送速度の場合について、図6におけるパワー反射率S11の極小点(あるいはパワー反射率S11の包絡線の谷)Fcを変数にした場合の光パルスが有するジッタを示している。図からわかるように、そのパワー反射率S11の絶対値が−15dB以下となり、極小点Fcが伝送速度(11.3Gbit/s)の40%から70%の間の周波数帯にあれば、ジッタは伝送時のエラーがほとんど増加しない2ps以下の値となっている。また、図8には光変調指数の周波数依存性を示している。図からわかるように、本発明を適用することにより、光変調帯域も改善できる。
このように、駆動電圧を低く保ったまま(この結果、約2GHzから約3GHzの周波数の領域において、パワー反射率S11が−10dBから−15dBの間と悪くなってしまうが、NRZ型の変調形式の場合にはこの領域における周波数スペクトルは小さい)、光パルスのジッタを低減できる、あるいは光変調帯域を広くできるなど、光変調器としての高性能化を図ることが可能となる。
なお、このビットレートの20%から30%、あるいはビットレートの40%から70%という値は10Gbit/sや11.3Gbit/s以外のその他の各種ビットレート、例えば12.5Gbit/s、25Gbit/s、43Gbit/s、50Gbit/s、100Gbit/sでも成り立つ。
なお、20%から30%という値は、ビットレートが10Gbit/sから12.5Gbit/sの場合は約2GHzから4GHzに、ビットレートが25Gbit/sの場合は約5GHzから8GHzに、ビットレートが43Gbit/sの場合は約9GHzから13GHzに、ビットレートが54Gbit/sの場合は約11GHzから16GHzに、ビットレートが110Gbit/sの場合は約22GHzから33GHzに対応する。
そして、40%から70%という値は、ビットレートが10Gbit/sから12.5Gbit/sの場合は約4GHzから9GHzに、ビットレートが25Gbit/sの場合は約10GHzから18GHzに、ビットレートが43Gbit/sの場合は約17GHzから30GHzに、ビットレートが54Gbit/sの場合は約22GHzから38GHzに、ビットレートが110Gbit/sの場合は約44GHzから77GHzに対応する。
なお、本発明ではパワー反射率S11の極小点Fcが伝送速度(例えば10Gbit/sや11.3Gbit/sなど)の40%から70%の間に存在することが重要であるが、これは第1の従来技術はおろか第2の従来技術の考え方でも実現できない。
つまり、これを実現するには、コネクタの芯線や金リボンを接続することによる別体の基板50上に形成した入力フィードスルー部VIIIやオプティカルグレードのLN基板80上に形成した入力フィードスルー部Iの特性インピーダンスZ90、Z92の変化(一般に、低くなるが逆に高くしても良い)を利用することが好適である。
インピーダンス変換部IX、VIIのみならず、入力用フィードスルー部VIII、Iもインピーダンス変換部と考えて、入力用フィードスルー部VIII、Iとインピーダンス変換部IX、VIIとの合成部の特性インピーダンスを、外部信号源5の負荷抵抗Rg(あるいは、特性インピーダンス、出力インピーダンス、インピーダンスと呼ばれ、一般に、不図示のコネクタの特性インピーダンスと等しいことが望ましい)と、相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39や、相互作用部IIIと出力フィードスルー部などとの金リボンIII’’の特性インピーダンスZ98との相乗平均と異ならしめることが効果的である。
また、本発明ではインピーダンス変換部IX、VII(ここで、入力用フィードスルー部VIII、Iもインピーダンス変換部としても良い)は一段構成としたが、本発明ではパワー反射率S11の極小点Fcが伝送速度(例えば10Gbit/sや11.3Gbit/sなど)の40%から70%の間に存在し、その極小値FCにおけるパワー反射率S11が−15dB以下となるように設定することが好適であり、これにより変調帯域と特に光パルスのジッタを低減することが特徴であるので、一段構成でなくても2段、あるいは3段以上の多段構成でも良いことは言うまでもない。そして、この複数段の構成はオプティカルグレードのLN基板に構成しても、SAWグレードの別体の基板に構成しても、さらには両方に分けて構成しても良いことは言うまでもない。
また、ビットレートの周波数の20%から30%の少なくとも1点の周波数で−10dBから−15dB、あるいは40%から70%の周波数内に−15dB以下となる極小点Fcを持つという条件は、本発明の実施形態として好適ではあるが、本発明としての必須の要件ではないことは言うまでもない。
なお、コネクタの特性インピーダンスは一般に50Ωであり、相互作用部IIIの特性インピーダンスZ3や金リボンIII’’の特性インピーダンスZ98は30Ωであるので、これらの相乗平均は38.7Ωとなる。残留反射を生じつつ、インピーダンス変換機能を発揮できる周波数を広帯域化するという本発明の効果を発揮するためには、インピーダンス変換部IX、VIIの特性インピーダンスZ91、Z93の値をこの相乗平均の値と異ならしめると効果的である。そこで、入力用フィードスルー部Iとインピーダンス変換部IX、VIIは、相乗平均と異ならしめるという意味で、例えば約5Ω高い44Ω(あるいは、逆に約5Ω低い33Ωなどでも良い)とした。
但し、前述のように、別体基板50上に形成した入力用フィードスルー部VIIIには不図示のコネクタの芯線が固定されており、この不図示のコネクタの芯線は直径が100〜300μm程度の大きな(あるいは厚い)導体で構成されている。そのため、不図示のコネクタの芯線を考慮した入力用フィードスルー部VIIIの特性インピーダンスは29Ω(なお、インピーダンス変換部VIIが33Ωの時は、不図示のコネクタの芯線を考慮した入力用フィードスルー部VIIIの特性インピーダンスは25Ωに設定した)とますます前述の相乗平均の値と大きく異なっている。なお、このことは金リボン70a、70b、70cを接続するオプティカルグレードのz−カットLN基板80上に形成した入力用フィードスルー部Iについても言える。
ここで、別体の基板50上に形成した入力用フィードスルー部VIIIの特性インピーダンスZ90、インピーダンス変換部IXの特性インピーダンスZ91、オプティカルグレードのLN基板80上に形成した入力用フィードスルー部Iの特性インピーダンスZ92、インピーダンス変換部VIIの特性インピーダンスZ93を前述の相乗平均である38.7Ωとした場合について考察する。入力用フィードスルー部VIIIには不図示のコネクタの芯線が接続されているために、その実効的な特性インピーダンスZ90はインピーダンス変換部IX、VIIの特性インピーダンスZ90、Z93(38.7Ω)よりも実際には大幅に(10Ω前後も)低くなる。
その結果、入力用フィードスルー部VIIIの特性インピーダンスZ90(正確には、入力用フィードスルー部Iのコネクタの芯線のために低くなった実効的な特性インピーダンスZ90とも言える)、インピーダンス変換部IXの特性インピーダンスZ91、金リボン70a、70b、70cのために低くなった入力用フィードスルー部Iの特性インピーダンスZ92、及びインピーダンス変換部VIIの特性インピーダンスZ93からなるインピーダンス変換の部位全体特性インピーダンスは先の相乗平均(38.7Ω)よりも低い値となる。そして、さらにはこの低くなった実効的な特性インピーダンスは相互作用部IIIの特性インピーダンスZ39(あるいは、合成部の特性インピーダンスZ98で、ここでは約30Ω)よりも低い場合がある。
このように、別体の基板50上に形成した入力用フィードスルー部VIII、インピーダンス変換部IX、オプティカルグレードのLN基板80上に形成した入力用フィードスルー部I、及びインピーダンス変換部VIIからなるインピーダンス変換の部位全体としての特性インピーダンスを前述の相乗平均からずらすことにより、残留反射を生じつつ、インピーダンス変換機能を発揮できる周波数を広帯域化するという本発明の効果を発揮することが可能となる。
そして、不図示のコネクタと相互作用部IIIの間に部分的に相互作用部IIIの特性インピーダンス(あるいは、相互作用部IIIを含む金リボンIII’’の特性インピーダンスZ98)の値よりも低い部分があっても良いし、逆に好都合であると言える。なぜなら、本発明における重要な点はパワー反射率S11の包絡線の極小点Fcが高周波電気信号のビットレート(例えば10Gbit/sや11.3Gbit/s、25Gbit/s、50Gbit/s、100Gbit/sなど)の周波数(例えば10GHzや11.3GHz、25GHz、50GHz、100GHzなど)の40%から70%の間に存在し、かつその極小点Fcにおけるパワー反射率S11が−15dB以下となるように、設定することであり、この考え方は第4の従来技術には開示されておらず、また第4の従来技術の考え方では決して実現できない。つまり、(2)式や(3)式が成り立たない条件でしか実現できないからである。
さらに、本発明では別体の基板とオプティカルグレードのLN基板上に形成した入力用フィードスルー部とインピーダンス変換部からなる全体の特性インピーダンスに前述の相乗平均の値を用いないので、残留反射を完全に抑圧しようとする第4の従来技術の考え方と全く異なり、特定の周波数においては、第4の従来技術ほどには改善されないが、意図的に広い周波数領域において残留反射を生じさせつつ、かつ必要なレベルにまでその残留反射の値を抑圧するとも言える。
[第2の実施形態と第3の実施形態]
図9に本発明における第2の実施形態の斜視図を示す。この図では説明を簡単にするために、進行波電極を省略している。図9のD−D´における断面図を図10に示す。50はSAWグレードLN基板からなる別体の基板、52は厚みGの紫外線硬化樹脂などの接着剤層である。なお、通常、z−カットLN基板80と別体の基板50をほぼ完全には密着させないときにも接着剤層52の厚みは約5〜10μm程度と薄いが、この第2の実施形態は接着剤層52の厚みをより拡大した30〜50μm程度さらには100μmと厚い場合についても含んでいる。
さて、本実施形態ではz−カットLN基板80と別体の基板50の隙間全体にわたって接着剤層52が入っているとしたが、基板の共振は不図示のコネクタの芯線から不図示の進行波電極に乗り移る際に漏れて放射された高周波電気信号により引き起こされるので、不図示のコネクタの芯線と不図示の進行波電極とを結ぶ入力用フィードスルー部で主に生じる。従ってD−D´は不図示の入力用フィードスルー部の付近を横断しているとし、図10はこの付近での断面図と考えて良い。但し、光導波路3は省略した。
また、図11に本発明における第3の実施形態の斜視図を示す。この斜視図のE−E´における断面図を図12に示す。但し、光導波路3は省略した。ここで、z−カットLN基板80とSAWグレードLN基板からなる別体の基板50は接着剤層30により部分的に固定されている。D−D´は第6の実施形態での不図示の入力用フィードスルー部の付近を横断しているとし、図12はこの付近での断面図と考えて良い。つまり、E−E´の断面においてz−カットLN基板80と別体の基板50の間には空気層53が入っている。
この第3の実施形態の場合にも接着剤層52により互いに部分的に固定されたz−カットLN基板80と別体の基板50はさらに不図示の筐体内部の台座に固定されているので、接着面積を広くすることができる。従って、不図示の筐体内部の台座にz−カットLN基板80のみを固定する場合と比較してz−カットLN基板80を強固に不図示の筐体内部の台座に固定することが可能となる。
図13は図9と図10に示した本発明における第2の実施形態において接着剤層52の厚みGを変数とした場合について、z−カットLN基板80、接着剤層52、及び別体の基板50からなる構造体の共振周波数を実線で、また図11と図12に示した本発明の第3の実施形態において空気層53の厚みGを変数とした場合について、z−カットLN基板80、空気層53、及び別体の基板50からなる構造体の共振周波数を破線で示す。なお、z−カットLN基板80と別体の基板50は両方とも厚みと幅が1mmとした。なお、ここではビットレートして10Gbit/s、あるいは11.3Gbit/sの光伝送を想定している。
図からわかるように、本発明において接着剤層52や空気層53の厚みGはG=0、つまり厚みが1mmで幅が2mmである一体のz−カットLN基板の場合での共振周波数とほぼ変わらず、本発明の構造を採用することにより一体のz−カットLN基板の場合と比較して共振周波数が変化するというデメリットはない。
z−カットLN基板80と別体の基板50が一体のz−カットLN基板からなっている場合には不図示の入力用フィードスルー部から漏れた高周波電気信号を模擬した電磁界は一体のz−カットLN基板の幅方向にも伝搬することは明らかであるし、実際に電磁界解析により確認した。
そして、不図示の入力用フィードスルーから漏れた高周波電気信号を模擬したこの電磁界を別体の基板50の内部に励振すると、別体の基板50とz−カットLN基板80の隙間Gが10〜30μmの場合は勿論であるが、50μmの場合はおろか100μm、さらには200μmの場合においてでさえも、高周波電気信号は別体の基板50から接着剤層52もしくは空気層53を突き抜けてz−カットLN基板80に伝搬する。
つまりz−カットLN基板80と別体の基板50の隙間Gが図11に図示した程度である場合には、z−カットLN基板80と別体の基板50の隙間に接着剤層52があっても、あるいは空気層53があっても電磁界は通り抜け、z−カットLN基板80と別体の基板50はあたかも一体のz−カットLN基板(図2(b)の80’)として機能する。
このように、オプティカルグレードのz−カットLN基板80の幅を狭くすることにより1枚のウェーハから多くのLN光変調器チップを得るとともに、全体としての接着面積を大きくできるので幅の狭いLN光変調器チップを不図示の筐体の台座に強固に固定することを可能にするという本発明の効果を発揮しつつ、それに付随して発生する問題はないことがわかる。
[第4の実施形態]
図14に本発明の第4の実施形態に使用するCPW進行波電極4の上面図を示す。但し、この図ではオプティカルグレードのLN基板上に形成した進行波電極のみに着目して図を示している。勿論、この電極パターンの構成をSAWグレードのLN基板である別体の基板に形成しても良いことはいうまでもない。本実施形態において、XIVは第1インピーダンス変換部、XVは第2インピーダンス変換部、XVIは第3インピーダンス変換部である。ここで、第1インピーダンス変換部XIV、第2インピーダンス変換部XV、第3インピーダンス変換部XVIの特性インピーダンスの全てが前述の相乗平均と異なっていても良いし、例えば第2インピーダンス変換部XVの特性インピーダンスを前述の相乗平均とし、第1インピーダンス変換部XIVの特性インピーダンスをその相乗平均よりも高く、第3インピーダンス変換部XVIの特性インピーダンスをその相乗平均よりも低くしても良い(あるいは逆でも良い)。また、この組み合わせに関わらず、第1インピーダンス変換部XIV、第2インピーダンス変換部XV、第3インピーダンス変換部XVIの特性インピーダンスについて各種組み合わせても良いし、どれか二つが相乗平均となっていても良い。なお、本実施形態と含め、本発明では、不図示の金リボンを入力用フィードスルー部Iに接続することにより、この部分の特性インピーダンスが大幅に変化することを利用するのも前述の相乗平均からずらすという観点から有効である。
[第5の実施形態]
図15に本発明の第5の実施形態に使用するCPW進行波電極4の上面図を示す。但し、この図でもオプティカルグレードのLN基板上に形成した進行波電極のみに着目して図を示している。勿論、この電極パターンの構成をSAWグレードのLN基板である別体の基板に形成しても良いことは言うまでもない。本実施形態において、XVIIIは第1インピーダンス変換部、XIXは第2インピーダンス変換部である。本実施形態の場合には、インピーダンス変換部XVIII、XIXを相互作用部IIIに対して一旦逆方向に折り返して形成することにより、相互作用部IIIの長さを充分長く確保している。なお、この考え方は本発明の第5の実施形態を含め、その他の実施形態にも適用可能である。
[第6の実施形態]
図16に本発明の第6の実施形態に使用する中心導体4a、接地導体4b、4cからなるCPW進行波電極4の上面図を示す。本実施形態において、XXは第1インピーダンス変換部、XXIは第2インピーダンス変換部である。本実施形態では図15に示した第5の実施形態と同様に、第1インピーダンス変換部XXと第2インピーダンス変換部XXIを相互作用部IIIに対して一旦逆方向に折り返して形成しているが、相互作用部の始点から光入射用端面までの基板の長手方向における距離を、高周波電気信号の給電部から光入射用端面までの前記基板の長手方向における距離よりも短くすることにより、図15に示した第5の実施形態よりも相互作用部IIIの長さを長く確保している。さらに、相互作用部IIIの終点から出力用フィードスルー部XVIIも折り返しても良く、このことは本発明の全ての実施形態について言える。この第6の実施形態に記した相互作用長を長くする考え方は、インピーダンス変換部が2段の場合に限らず、1段、3段あるいはそれ以上であっても良く、本発明の全ての実施形態に適用可能である。そして、本実施形態においても不図示のコネクタ芯線を入力用フィードスルー部Iに接続することにより、この部分の特性インピーダンスが大幅に低下することを利用するのが前述の相乗平均からずらすという観点から有効である。
図14から図16に示した考え方、即ち、インピーダンス変換部を複数段にする、あるいは光導波路の長手方向に一端折り返すことにより長さを長くするなどの考え方を別体基板上に形成するインピーダンス変換部に適用しても良いことは言うまでもない。
[各実施形態について]
以上においては、進行波電極としてはCPW電極を例にとり説明したが、非対称コプレーナストリップ(ACPS)や対称コプレーナストリップ(CPS)などの各種進行波電極、あるいは集中定数型の電極でも良いことは言うまでもない。また、光導波路としてはマッハツェンダ型光導波路の他に、方向性結合器や直線など、その他の光導波路でも良いことは言うまでもない。LN光変調器としてリッジ構造でも良いことはいうまでもない。また、以上の説明では別体の基板は1つであったが、2つ以上使用しても良い。この場合に、光導波路が形成されたLN光変調器のチップを別体の基板で挟むようにしても良いし、並んだ別体の基板の側面に光導波路が形成されたLN光変調器のチップを配置しても良い。また、インピーダンス変換部は別体の基板上にのみ形成しても良いことは言うまでもない。
また、高周波電気信号の出力側にもマイクロ波コネクタの芯線があるとして説明してきたが、このことは本発明においては本質的なことではなく、終端抵抗を用いて筐体パッケージの中で、電気的に終端しても良いことは言うまでもない。また、以上の説明においては電気的に接続するために金ワイヤを用いるとして説明したが、金リボンでも良い。さらに筐体は金属として説明したが、本発明の考えは筐体がプラスティックなどの非金属材料からなる場合にも適用可能である。
なお、LN光変調器チップの側面と別体の基板の側面とを接着する接着手段としての接着剤は紫外線硬化接着剤や熱硬化接着剤でも良いし、さらには銀ペーストなどの導電性接着剤や半田剤でも良い。
また、以上の実施形態はx−カット、y−カットもしくはz−カットの面方位、即ち、基板表面(カット面)に対して垂直な方向に結晶のx軸、y軸もしくはz軸を持つ基板にも適用可能であるし、以上に述べた各実施形態での面方位を主たる面方位とし、これらに他の面方位が副たる面方位として混在しても良い。