JP4507494B2 - 疲労強度に優れた高強度鋼材の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、条鋼を用いた自動車部品、例えばコネクティングロッドまたはハブ等に適用して好適な、疲労強度に優れた高強度鋼材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
コネクティングロッドおよびハブ等の条鋼製品は、熱間鍛造または転造を行い、その後切削を行って製造されてきた。
かかる用途の製品については、車体軽量化のために、高強度化と高疲労寿命化が求められている。
【0003】
従来より、疲労強度の向上のためには、介在物の最大径を小さくすることおよび介在物の数を減少させることが最も有効であることが知られている。
例えば、Al,N,Ti,ZrおよびS等の各成分を適切に調整した上で、硫化物の最大径を10μm 以下で、かつ清浄度を0.05%以上とすることによって、疲労強度を向上させる方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
しかしながら、特に高強度材においては、繰り返し応力を受けると粒界破壊が生じ易くなり、所期した疲労強度が得られないという問題があった。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−302778号公報(特許請求の範囲)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、成分調整と共に、組織を適切に制御することにより、強度が1000 MPa以上で、回転曲げ疲労強度が 550 MPa以上という、優れた強度と疲労強度を併せ持つ高強度鋼材の有利な製造方法提案することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、以下に述べる知見を得た。
(1) 鋼材の結晶粒径を微細にすると、強度および疲労強度が共に向上するが、単に結晶粒径を微細にしただけでは、本発明で所期したほどの疲労強度の向上は望めない。
(2) この点、成分調整を行って、鋼組織を、微細フェライトだけでなく、微細セメンタイトが生成するようにすると、疲労強度が効果的に向上し、またこの微細分散セメンタイトは均一伸びを大きくする作用を有するため、材料の加工性が向上する。
(3) 鋼組織を微細フェライトと微細セメンタイトを有する組織とするためには、鋼の成分調整に加えて、 550〜700 ℃の温度域で、歪み1.0 以上の加工を施すことが有効となる。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
.C:0.3 〜0.8 mass%、
Si:0.01〜0.9 mass%および
Mn:0.01〜2.0 mass%
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成である鋼素材を、550〜700 ℃の温度域で、歪み:1.0 以上の加工を施して、粒径:7μm 以下のフェライトとセメンタイト組織、または粒径:7μm 以下のフェライトとセメンタイトとパーライト組織で、該セメンタイトの組織分率が4 vol%以上、該パーライトの組織分率が20 vol%以下、該フェライトの組織分率が40 vol%以上の組織とすることを特徴とする疲労強度に優れた高強度鋼材の製造方法。
【0011】
.上記において、鋼素材が、さらに
Mo:0.05〜0.6 mass%、
Al:0.015 〜0.06mass%、
Ti:0.005 〜0.030 mass%、
Ni:1.0 mass%以下、
Cr:1.0 mass%以下、
V:0.1 mass%以下、
Cu:1.0 mass%以下、
Nb:0.05mass%以下、
Ca:0.008 mass%以下および
B:0.004 mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成であることを特徴とする疲労強度に優れた高強度鋼材の製造方法。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を具体的に説明する。
まず、この発明において鋼材の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。
C:0.3 〜0.8 mass%
Cは、母材の強度を上昇させると共に、必要量のセメンタイトを確保するために必要な元素である。ここに、C含有量が 0.3mass%に満たないと上記の効果が得られず、一方 0.8mass%を超えると被削性や疲労強度、鍛造性の低下を招くので、C量は 0.3〜0.8 mass%の範囲に限定した。
【0013】
Si:0.01〜0.9 mass%
Siは、脱酸剤として作用するだけでなく、強度の向上にも有効に寄与するが、含有量が0.01mass%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 0.9mass%を超えると被削性および鍛造性の低下を招くので、Si量は0.01〜0.9 mass%の範囲に限定した。
【0014】
Mn:0.01〜2.0 mass%
Mnは、強度の向上だけでなく、疲労強度の向上に有効に寄与するが、含有量が0.01mass%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 2.0mass%を超えると被削性や鍛造性を劣化させるので、Mn量は0.01〜2.0 mass%の範囲に限定した。
【0015】
以上、基本成分について説明したが、この発明ではその他にも、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Mo:0.05〜0.6 mass%
Moは、フェライト粒の成長を抑制する上で有用な元素であり、そのためには少なくとも0.05mass%を必要とするが、0.6 mass%を超えて添加すると被削性の劣化を招くので、Mo量は0.05〜0.6 mass%の範囲に限定した。
【0016】
Al:0.015 〜0.06mass%
Alは、鋼の脱酸剤として作用する。しかしながら、含有量が 0.015mass%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.06mass%を超えると被削性および疲労強度の低下を招くので、Al量は 0.015〜0.06mass%の範囲に限定した。
【0017】
Ti:0.005 〜0.030 mass%
Tiは、TiNのピンニング効果により、結晶粒を微細化するために有用な元素であり、この効果を得るためには少なくとも 0.005mass%の添加を必要とするが、0.030 mass%を超えて添加すると疲労強度の低下を招くので、Ti量は 0.005〜0.030 mass%の範囲に限定した。
【0018】
Ni:1.0 mass%以下
Niは、強度上昇およびCu添加時の割れ防止に有効であるが、1.0 mass%を超えて添加すると焼割れを起こし易くなるので、1.0 mass%以下に限定した。
【0019】
Cr:1.0 mass%以下
Crは、強度上昇に有効であるが、1.0 mass%を超えて添加すると炭化物を安定化させて残留炭化物の生成を促進し、粒界強度を低下させ、また疲労強度の低下も招くので、1.0 mass%以下に限定した。
【0020】
V:0.1 mass%以下
Vは、炭化物となり析出することで、ピンニングによる組織微細化効果を発揮する有用元素であるが、0.1 mass%を超えて添加しても効果が飽和するので、0.1 mass%以下に限定した。
【0021】
Cu:1.0 mass%以下
Cuは、固溶強化および析出強化によって強度を向上させる有用元素であり、また焼入性の向上にも有効に寄与するが、含有量が 1.0mass%を超えると熱間加工時に割れが発生し易くなり、製造が困難となるので、1.0 mass%以下に限定した。
【0022】
Nb:0.05mass%以下
Nbは、析出によりフェライト粒をピンニングする効果があるが、0.05mass%を超えて添加してもその効果は飽和するので、0.05mass%以下に限定した。
【0023】
Ca:0.008 mass%以下
Caは、介在物を球状化し、疲労特性を改善する有用元素であるが、0.008 mass%を超えて添加すると介在物が粗大化し、逆に疲労特性を劣化させる傾向にあるので、0.008 mass%以下に限定した。
【0024】
B:0.004 mass%以下
Bは、粒界強化により疲労特性を改善するだけでなく、強度を向上させる有用元素であるが、0.004 mass%を超えて添加してもその効果は飽和するので、0.004 mass%以下に限定した。
【0025】
以上、好適成分組成について説明したが、本発明では、成分組成を上記の範囲に限定するだけでは不十分で、以下に述べるとおり、鋼組織の調整も重要である。
組織が、粒径:7 μm 以下のフェライトとセメンタイト組織または粒径:7 μm以下のフェライトとセメンタイトとパーライト組織
組織が、7μm 以下のフェライトとセメンタイト組織または7μm 以下のフェライトとセメンタイトとパーライト組織でないと、本発明で所期した強度≧1000 MPaが得られない。よって、フェライト粒径は7μm 以下に限定した。より好ましくは5μm 以下である。
なお、フェライト粒径が2μm 以下になるとパーライト組織が消失し、フェライト−セメンタイト組織となる場合があるが、これは本発明を阻害するものではない。
【0026】
また、析出するセメンタイトの量(組織分率)は、体積分率( vol%)で4%以上とする必要がある
セメンタイトは、疲労強度の向上に寄与する他、多量、微細に析出することで、均一伸びを大きくして材料の加工性を向上させる効果もある。
ここに、析出したセメンタイトの大きさは1μm 以下程度とすることが望ましい。より望ましくは 0.5μm 以下である。
さらに、析出するパーライト量は20 vol%以下とする必要がある。このパーライトは、前述したとおり、全く析出しなくてもかまわない。
なお、セメンタイト、パーライト以外の残部組織はフェライトである。このフェライト量は、加工性確保の観点から40 vol%以上とする必要がある
【0027】
なお、上記したようなフェライトとセメンタイト組織またはフェライトとセメンタイトとパーライト組織は、鋼材の製造工程中、温間鍛造工程において、 550〜700 ℃の温度域で、歪み:1.0 以上の加工を施すことによって、好適に得ることができる。
【0028】
次に、本発明鋼の製造条件について説明する。
所定の成分組成に調整した鋼材を、線棒圧延後、温間鍛造し、ついで切削等の仕上を行い、製品とする。
フェライト粒径を7μm 以下にするためには、上記の温間鍛造工程において、 550〜700 ℃の温度域で歪み:1.0 以上の加工を施すことが有利である。ここに、加工温度が 550℃未満では、組織が加工組織のままで、微細化しない。一方、加工温度が 700℃を超えると結晶粒径が7μm 超となり、やはり微細化しない。また、加工量が真歪みで 1.0未満では、加工が不十分で小角粒界が大半を占めるようになるため、強度は勿論のこと、疲労特性が向上しない。
【0029】
【実施例】
表1に示す成分組成になる鋼材を、棒圧延後、表2に示す条件で温間鍛造し、60×60×120 mmの製品を得た。この製品から、引張り試験片、回転曲げ疲労試験片および被削性試験片を採取した。
製品のフェライト結晶粒径、セメンタイト量およびパーライト量ならびに引張強度、回転曲げ疲労強度および被削性について調べた結果を表2に併記する。
なお、温間鍛造時における歪み量は、有限要素解析法により、鍛造面の摩擦係数を 0.3として算出した。
また、被削性は、外周旋削試験での工具寿命が、通常のSC材と同等またはそれ以上の場合を○、SC材よりも劣る場合を×で、評価した。
【0030】
【表1】
Figure 0004507494
【0031】
【表2】
Figure 0004507494
【0032】
表2から明らかなように、本発明に従い、組織を粒径:7μm 以下のフェライトとセメンタイト組織またはフェライトとセメンタイトとパーライト組織とした発明例はいずれも、材強度≧1000 MPaという優れた強度が得られるだけでなく、回転曲げ疲労強度≧550 MPa という優れた疲労強度を得ることができた。
【0033】
これに対し、鍛造時の歪み量が小さいNo.6の比較例では、フェライト粒が微細化せず、回転曲げ疲労強度が低い。また、鍛造温度が低いNo.7の比較例では、組織が加工組織となり、一方鍛造温度が高いNo.8の比較例では、フェライト粒が微細化せず、そのため回転曲げ疲労強度が低い。
また、Mo量が過剰の No.13の比較例では、被削性が低下した。
さらに、C量が不足している No.14の比較例では強度が不足し、一方Cが過剰の No.15の比較例では、被削性の低下を招いた。
【0034】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、強度が1000 MPa以上で、回転曲げ疲労強度が 550MPa 以上という、優れた強度と疲労強度を併せ持つ高強度鋼材を安定して得ることができる。

Claims (2)

  1. C:0.3 〜0.8 mass%、
    Si:0.01〜0.9 mass%および
    Mn:0.01〜2.0 mass%
    を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成である鋼素材を、 550〜700 ℃の温度域で、歪み:1.0 以上の加工を施して、粒径:7μm 以下のフェライトとセメンタイト組織、または粒径:7μm 以下のフェライトとセメンタイトとパーライト組織で、該セメンタイトの組織分率が4vol%以上、該パーライトの組織分率が20 vol%以下、該フェライトの組織分率が40 vol%以上の組織とすることを特徴とする疲労強度に優れた高強度鋼材の製造方法。
  2. 請求項において、鋼素材が、さらに
    Mo:0.05〜0.6 mass%、
    Al:0.015 〜0.06mass%、
    Ti:0.005 〜0.030 mass%、
    Ni:1.0 mass%以下、
    Cr:1.0 mass%以下、
    V:0.1 mass%以下、
    Cu:1.0 mass%以下、
    Nb:0.05mass%以下、
    Ca:0.008 mass%以下および
    B:0.004 mass%以下
    のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成であることを特徴とする疲労強度に優れた高強度鋼材の製造方法。
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