JP4499364B2 - アクリル系重合体粉末、アクリルゾル及び成形物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アクリルゾルに好適なアクリル系重合体粉末、該アクリル系重合体粉末及び可塑剤を含有するアクリルゾル、及び該アクリルゾルから得られる成形物に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、工業的に広く用いられているプラスチゾル組成物は、ポリ塩化ビニル(塩ビ)パウダー及び充填剤を可塑剤に分散させて得られる塩ビゾル組成物であり、用途により、さらに顔料、熱安定剤、発泡剤、希釈剤などを配合して使用されている。該塩ビゾル組成物は、自動車用、カーペット用、壁紙用、床用等のコーティング剤、含浸剤、コーキング剤などとして、多くの分野において種々の目的で使用されている。
一方、塩ビゾル組成物の焼却時に発生する塩化水素ガスは、焼却炉を著しく損傷させるという難点を有しており、さらには最近の環境問題上、酸性雨の原因となるばかりでなく地球のオゾン層の破壊原因物質ともなっており、各商品分野でこのような難点のない塩ビゾル組成物に代るプラスチゾル組成物の出現が待たれている。
【0003】
このような要求に対し、燃焼時に塩化水素ガスを発生しないプラスチゾルとして、アクリルゾル組成物が提案されている。特許文献1には、二次平均粒子径が0.1〜500μmの範囲内にある、可塑剤に分散したアクリルゾルからなるプラスチゾル組成物が提案されている。しかしながら、二次平均粒子径が微細なアクリル系重合体を含むアクリルゾルを用いる場合には、アクリル系重合体粒子の単位体積あたりの粒子面積が大きいため初期粘度が高く、ダイラタンシーが生じやすく、流動性が低下し、コーティング時の塗布膜の厚さ不均一やかすれの発生、スプレー塗装時のスプレーパターンの不均一などのトラブルが生じる。このような二次平均粒子径が微細なアクリル系重合体を含むアクリルゾルを実用粘度にするためには、可塑剤量を多くしたり、希釈用の有機溶剤を添加するなどの必要が生じる。その結果、この場合には皮膜表面に可塑剤がブリードアウトしたり機械的強度が低下したり、添加した有機溶剤が塗膜中に残存し成膜性を損なうといった不良が生じやすくなるという問題があった。
【0004】
一方、二次平均粒子径が大きいアクリル系重合体凝固組成物を含むアクリルゾルを用いる場合には、その粘度は、二次平均粒子径が微細なアクリル系重合体を含むアクリルゾルよりも低くなる傾向が見られるものの、アクリルゾル中のアクリル系重合体の均一性が劣り、成膜中にブツが発生し平滑な皮膜を形成できないという問題があり、さらに、皮膜の加熱によるゲル化に長時間を要するためアクリルゾル塗工品の生産性が低下しやすいという問題点を有していた。
【0005】
【特許文献1】
特開昭51−71344号公報(特許請求の範囲)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、貯蔵安定性及び流動性に優れたアクリルゾルを形成することができるアクリル系重合体粉末、該粉末を用いた上記特性を有するアクリルゾル、及び該アクリルゾルから得られる成形物を提供することにある。
本発明の目的は、また、それから形成される成形物を焼却する際に、塩ビゾルから形成される成形物と異なり、塩化水素ガスを発生することがないアクリルゾルを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定の構造特性を有するアクリル系重合体粉末を使用することによって上記の問題点が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、アクリル系重合体粒子を含むラテックスを凝固乾燥してなるアクリル系重合体粉末であって、該粉末の平均粒子径が5〜100μm、空隙率が70%以下、かつ孔直径1μm以上の積分空隙体積が0.9mL/g以下であるアクリル系重合体粉末、かかるアクリル系重合体粉末及び可塑剤を含有するアクリルゾル、及び該アクリルゾルから得られる成形物に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を更に詳細に説明する。
本発明に使用するアクリル系重合体粒子は、少なくとも1層の層構造を有する重合体粒子であって、アクリル酸エステル(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等)及び/又はメタクリル酸エステル(例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等)を主とする単量体を単独重合、共重合、グラフト重合等させて得られるアクリル系重合体粒子である。
【0009】
本発明に使用するアクリル系重合体粒子としては、以下の(1)及び(2)に示すようなメタクリル酸エステル単位を必須成分とするものが好ましい。
(1)前段階重合体(I−a)を含むラテックス中で、後段階重合体(I−b)を形成させてなる多段階重合体粒子であって、
前段階重合体(I−a)が、メタクリル酸メチル単位10質量%以上50質量%未満を含む、1段階又は互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応によって形成される共重合体であり、
後段階重合体(I−b)が、メタクリル酸メチル単位50質量%以上を含む、1段階又は互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応によって形成される重合体であり、
前段階重合体(I−a)/後段階重合体(I−b)の質量比が10/90〜90/10である
アクリル系重合体粒子(I)。
【0010】
前段階重合体(I−a)は、1段階の重合反応で形成されるか、又はそれにより得られる重合体粒子を含有するラテックス中で互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応を行うことにより形成される共重合体であり、前段階に含まれる各段階(1段階のみからなる場合も含む)の重合反応により形成される共重合体が、いずれも、メタクリル酸メチル単位10質量%以上50質量%未満とメタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体からからなる単位50質量%を超え90質量%以下とを含むものである。メタクリル酸メチル単位の割合は、20質量%以上50質量%未満であるのが好ましく、30質量%以上50質量%未満であるのがより好ましい。前段階重合体(I−a)のメタクリル酸メチル単位が10質量%未満では、本発明のアクリル系重合体粒子を含有するラテックスを凝固乾燥して得られるアクリル系重合体粉末と可塑剤とを含有するアクリルゾル(以下、単に、「アクリルゾル」という場合がある)から形成される皮膜の強度が低下して好ましくなく、メタクリル酸メチル単位が50質量%以上であると、皮膜表面の耐ブリードアウト性や柔軟性が低下して好ましくない。
【0011】
後段階重合体(I−b)は、前段階重合体(I−a)の粒子を含むラテックス中で、1段階の重合反応で形成されるか、又はそれにより得られる重合体粒子を含有するラテックス中で互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応を行うことにより形成される(共)重合体であり、後段階に含まれる各段階(1段階のみからなる場合も含む)の重合反応により形成される(共)重合体が、いずれも、メタクリル酸メチル単位50質量%以上とメタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体からなる単位50質量%以下とを含むものである。後段階重合体(I−b)のメタクリル酸メチル単位の割合は、55〜95質量%であるのが好ましく、60〜90質量%であるのがより好ましい。後段階重合体(I−b)のメタクリル酸メチル単位が50質量%未満であると、得られるアクリルゾルの貯蔵安定性が低下して好ましくない。
【0012】
上記で、メタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体の例としては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸メチルを除くメタクリル酸エステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n―ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等のメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;スチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;N−プロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド等のマレイミド系化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;などが挙げられ、中でも、ガラス転移温度(Tg)の調整や金属との密着性の向上に適することから、メタクリル酸イソブチル等のメタクリル酸エステル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル及びメタクリル酸等のα,β−不飽和カルボン酸が好ましい。これらの他の単量体は単独で又は2種以上組み合わせて用いることができ、目的や用途に応じて適宜選択することができる。
【0013】
本発明において使用されるアクリル系重合体粒子(I)の前段階重合体(I−a)及び後段階重合体(I−b)をそれぞれ単独で製造した場合の重量平均分子量(Mw)は、用途に応じて適宜選択されるが、いずれも、50,000〜3,000,000の範囲内であるのが好ましく、100,000〜2,000,000の範囲内であるのがより好ましい。重量平均分子量が50,000以上であると成形される皮膜の強度が向上し、また3,000,000以下であると可塑剤との溶解速度が適切となり生産性が向上する。重量平均分子量の調整はメルカプタン類等の連鎖移動剤を用いて行うことができ、該メルカプタン類としては、例えば、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン等を挙げることができる。また、用途や目的とする性状に応じ、多官能性単量体を共重合して架橋構造やグラフト構造を導入してもよい。
【0014】
アクリル系重合体粒子(I)に占める前段階重合体(I−a)/後段階重合体(I−b)の質量比は、10/90〜90/10の範囲内であり、20/80〜80/20の範囲内であるのがより好ましい。後段階重合体(I−b)の割合が10質量%未満では、得られアクリルゾルの貯蔵安定性が低下し、また90質量%を超えると、可塑剤のブリードアウトが起こりやすくなる。
【0015】
(2)前段階重合体(II−a)を含むラテックス中で、後段階重合体(II−b)を形成させてなる多段階重合体粒子であって、
前段階重合体(II−a)が、アクリル酸アルキルエステル単位50質量%以上、アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他の単官能性単量体単位49.99質量%以下及び多官能性単量体単位0.01〜10質量%からなる、1段階又は互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応によって形成される共重合体であり、
後段階重合体(II−b)が、メタクリル酸メチル単位50質量%以上を含む、1段階又は互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応によって形成される重合体であり、
前段階重合体(II−a)/後段階重合体(II−b)の質量比が10/90〜90/10である
アクリル系重合体粒子(II)。
【0016】
前段階重合体(II−a)は、1段階の重合反応で形成されるか、又はそれにより得られる重合体粒子を含有するラテックス中で互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応を行うことにより形成される共重合体であり、前段階に含まれる各段階(1段階のみからなる場合も含む)の重合反応により形成される共重合体が、いずれも、アクリル酸アルキルエステル単位50〜99.99質量%、アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他の単量体からなる単位49.99質量%以下及び多官能性単量体単位0.01〜10質量%を含むものである。上記各共重合体の単量体単位組成は、いずれも、アクリル酸アルキルエステル単位60〜99.95質量%、該他の単量体単位39.95質量%以下及び多官能性単量体単位0.05〜5質量%であるのが好ましく、アクリル酸アルキルエステル単位70〜99.9質量%、該他の単量体単位29.9質量%以下及び多官能性単量体単位0.1〜3質量%であるのがより好ましい。
アクリル酸アルキルエステル単位が50質量%未満の場合には、アクリルゾルから形成される皮膜の耐寒性が低下する。また、多官能性単量体単位が0.01質量%未満の場合には、アクリルゾルから形成される皮膜の強度が低下し、10質量%を超えると、該皮膜の耐寒性が低下する。
【0017】
前段階重合体(II−a)に関し、アクリル酸アルキルエステルの例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n―ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられ、中でも炭素数1〜4のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸プロピル及びアクリル酸n―ブチルがより好ましい。
【0018】
前段階重合体(II−a)に関し、アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他の単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸エステル;メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等のメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;スチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;N−プロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド等のマレイミド系化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;などが挙げられ、中でも、ガラス転移温度(Tg)の調整や金属との密着性の向上に適することから、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル及びメタクリル酸等のα,β−不飽和カルボン酸が好ましい。これらの他の単量体は単独で又は2種以上組み合わせて用いることができ、目的や用途に応じて適宜選択することができる。
【0019】
前段階重合体(II−a)に関し、多官能性単量体の例としては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ジアリルマレエート、ジビニルアジペート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどが挙げられ、中でも、分子量が250以上のものが好ましく、構成するポリエチレングリコールが平均分子量400〜600を有するポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0020】
また、後段階重合体(II−b)は、前段階重合体(II−a)の粒子を含むラテックス中で、1段階の重合反応で形成されるか、又は該ラテックス中で互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応を行うことにより形成される(共)重合体であり、後段階に含まれる各段階(1段階のみからなる場合も含む)の重合反応により形成される(共)重合体が、いずれも、メタクリル酸メチル単位50質量%以上とメタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体からなる単位50質量%以下とを含むものである。後段階重合体(II−b)のメタクリル酸メチル単位の割合は、60〜100質量%であるのが好ましく、70〜95質量%であるのがより好ましい。後段階重合体(I−b)のメタクリル酸メチル単位が50質量%未満であると、得られるアクリルゾルの貯蔵安定性が低下して好ましくない。
上記で、メタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体としては、後段階重合体(I−b)の製造に用いるメタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体と同様なものが挙げられる。
【0021】
本発明において使用されるアクリル系重合体粒子(II)の前段階重合体(II−a)及び後段階重合体(II−b)をそれぞれ単独で製造した場合の重量平均分子量(Mw)は、用途に応じて適宜選択されるが、いずれも、50,000〜3,000,000の範囲内であるのが好ましく、100,000〜2,000,000の範囲内であるのがより好ましい。重量平均分子量が50,000以上であると成形される皮膜の強度が向上し、また3,000,000以下であると可塑剤との融解速度が適切となり生産性が向上する。重量平均分子量の調整はアクリル系重合体粒子(I)について記述したのと同様な連鎖移動剤を用いて行うことができ、また、用途や目的とする性状に応じ、多官能性単量体を共重合して架橋構造やグラフト構造を導入してもよい。
【0022】
アクリル系重合体粒子(II)に占める前段階重合体(II−a)/後段階重合体(II−b)の質量比は、10/90〜90/10の範囲内であり、20/80〜80/20の範囲内であるのがより好ましい。後段階重合体(II−b)の割合が10質量%未満では、得られるアクリルゾルの貯蔵安定性が低下し、また90質量%を超えると、可塑剤のブリードアウトが起こりやすくなる。
【0023】
本発明に使用するアクリル系重合体粒子、好ましくはアクリル系重合体粒子(I)又は(II)の平均粒子径については、特に制限はないが0.05〜30μmの範囲内であることが好ましく、0.1〜2μmの範囲内であることがより好ましい。平均粒子径が0.05μm未満であれば、ゾル状態での貯蔵安定性が悪く、30μmを超えると均一なゾル状態とすることが難しくゾル調製に時間がかかり生産性が低下する傾向となる。
なお、アクリル系重合体粒子の場合のみでなく、アクリル系重合体粉末の場合も含め、本明細書における平均粒子径は算術平均粒子径を意味する。
【0024】
本発明に使用するアクリル系重合体粒子、好ましくはアクリル系重合体粒子(I)又は(II)は、例えば乳化重合法やシード重合法のような公知の重合方法により、ラテックス状態で製造することができるが、乳化重合法で製造するのが好ましい。例えば、アクリル系重合体粒子(I)は、前段階重合体(I−a)を含むラテックス中で、後段階重合体(I−b)を形成させることにより得ることができ、前段階重合体(I−a)は、1段階の重合反応で形成させるか、又はそれにより得られる重合体粒子を含有するラテックス中で互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応を行うことにより形成させることができ、後段階重合体(I−b)は、前段階重合体(I−a)の粒子を含むラテックス中で、1段階の重合反応で形成させるか、又はそれにより得られる重合体粒子を含有するラテックス中で互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応を行うことにより形成させることができる。アクリル系重合体粒子(II)もアクリル系重合体粒子(I)と同様な手法で製造することができる。
【0025】
乳化重合に用いることのできる乳化剤は、例えば、アニオン系乳化剤であるジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩;ノニオン系乳化剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等;ノニオン・アニオン系乳化剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウムなどのアルキルエーテルカルボン酸塩等;反応性乳化剤であるアルキルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート、酸性リン酸メタクリル酸エステル、アルキルアリールフェノキシポリエチレングリコール、ナトリウム−ω−アクリロイルオキシアルキル(トリアルキル)アンモニウム−パラトルエンスルホネート、ナトリウム−ポリスチレンフェニルエーテルスルフェート、ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物、ナトリウム−スルホコハク酸アルキルアルケニルエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホネート、アルキルフェノキシエトキシエチルスルホネート、ナトリウム−ジアルキルスルホサクシネート、アルキルジフェニルエーテルジスルホネート、ノニルプロペニルフェノールエチレンオキシド10モル付加体硫酸エステルアンモニウム塩の1種または2種以上を用いることができる。上記に例示したノニオン系乳化剤及びノニオン・アニオン系乳化剤の例示化合物におけるオキシエチレン単位の平均繰返し数は、乳化剤の発泡性が極端に大きくならないようにするために、30以下であるのが好ましく、20以下であるのがより好ましく、10以下であるのがさらに好ましい。
【0026】
乳化重合に際しては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩系開始剤、パースルホキシレート/有機過酸化物、過硫酸塩/亜硫酸塩等のレドックス系開始剤のいずれの重合開始剤を用いてもよい。また、必要あれば、公知の連鎖移動剤を用いてもよい。
乳化重合において、単量体、乳化剤、開始剤、連鎖移動剤等は、目的とする段階の重合反応に応じて、一括添加、分割添加、連続添加等公知の任意の方法で添加することができる。
【0027】
本発明で用いるラテックスは、上記した重合により得られる上記アクリル系重合体粒子、好ましくは、アクリル系重合体粒子(I)又はアクリル系重合体粒子(II)を含有するラテックス、又はアクリル系重合体粒子(I)を含有するラテックスとアクリル系重合体粒子(II)を含有するラテックスとを任意の割合で混合したラテックスである。
本発明で用いるラテックスは、また、粒子径分布の異なるアクリル系重合体粒子をそれぞれ含有する複数の、例えば2種もしくは3種のラテックスを混合したラテックスであってもよい。
【0028】
上記ラテックスを凝固乾燥させる方法は、特に制限されない。具体的には、例えば上記ラテックスを噴霧乾燥法により粉体化する方法や、該ラテックスに酸又は塩を加えてアクリル系重合体を凝固し、この凝固物を乾燥させて粉体化する方法によってアクリル系重合体粉末を得ることができる。これらの方法の中では、噴霧乾燥法がより好ましい。
【0029】
このアクリル系重合体粉末は、主として可塑剤と混合してアクリルゾルを調製するのに用いられるが、本発明のアクリル系重合体粉末の平均粒子径は5〜100μmであることが必要であり、10〜50μmの範囲内であることが好ましい。平均粒子径が5μm未満である場合には、アクリル系重合体粒子がアクリルゾル調製時に微粉として舞うなど取扱いにくくなり、100μmを超えると、ブツ欠点の原因となり、外観を損ね、また皮膜の強度低下を起こしやすくなる(ブツが起点となって亀裂が生じやすい)。
【0030】
また、本発明のアクリルゾルは、アクリル系重合体粉末の空隙率が70%を超えると可塑剤のアクリル系重合体粉末への吸収が著しくなって、流動性の低下やダイラタンシー等を生じる場合があり、成形加工性が低下し好ましくない。したがって、本発明のアクリル系重合体粉末の空隙率は70%以下であることが必要であり、60%以下であることが好ましい。
なお、本発明では、空隙率はアクリル系重合体粉末の一定体積(粒子間空間体積を含む)に占める粒子間空間体積の比率を表すものとし、水銀圧入法によって該粉末の細孔体積を測定するこによって求めることができる。
【0031】
また、本発明のアクリルゾルの貯蔵安定性は、アクリル系重合体粉末と可塑剤との接触面積が大きくなるほど低下しやすくなる。したがって、本発明のアクリル系重合体粉末について、水銀圧入法で測定した孔径1μm以上の積分空隙体積は該粉末1g当たり0.9mL以下であることが必要であり、0.8mL以下であることが好ましい。
なお、本発明では、積分空隙体積はアクリル系重合体粉末の細孔の全体積(mL)を表すものとする。
また、本発明で用いた水銀圧入法の操作条件は後記実施例の項に述べる。
【0032】
本発明のアクリル系重合体粉末の上記平均粒子径、空隙率及び積分空隙体積を上記範囲に設定するには、上述したようなアクリル系重合体の製造及びラテックスからのアクリル系重合体粉末の取得過程でラテックス中のアクリル系重合体粒子の濃度などの条件を適宜調節すればよく、アクリル系重合体の製法としては、特に、乳化重合法、アクリル系重合体粉末の取得法としては、特に、噴霧乾燥法に従うのが好ましい。
【0033】
本発明のアクリル系重合体粉末は、そのマクロ孔直径が7μm以下で、かつミクロ孔直径が0.5μm以下であることが好ましく、マクロ孔直径が2〜6μmで、かつミクロ孔直径が0.1〜0.4μmであることがより好ましい。本発明において、マクロ孔直径とは1μmを超える孔直径の細孔中最大の体積を有する細孔の孔直径を表すものとし、ミクロ孔直径とは1μm以下の孔直径の細孔中最大の体積を有する細孔の孔直径を表すものとし、水銀圧入法によって該粉末の孔直径と細孔体積との関係を調べるこによって求めることができる。
アクリル系重合体粉末のマクロ孔直径が7μm以下で、かつミクロ孔直径が0.5μm以下である場合には、アクリルゾル調製時に該粉末の破壊が生じにくく、結果として貯蔵安定性や流動性の低下を防ぐことができる。
【0034】
アクリル系重合体粉末のマクロ孔直径及びミクロ孔直径を所定範囲に設定するには、通常、ラテックス条件として、
0.1<固形分濃度×標準偏差(μm)/ラテックス中のアクリル系重合体粒子の平均粒子径(μm)、
及びラテックスの噴霧乾燥条件として、
0.1<(熱風入口温度−熱風出口温度)(℃)/アクリル系重合体粉末の平均粒子径(μm)<10
を満足させればよい。
上記で固形分濃度は、ラテックスを所定質量(W1)計量し、100℃で3時間乾燥し、乾燥後の質量(W2)を測定した場合に、W2/W1として求められる値であるものとし、標準偏差はアクリル系重合体粒子の平均粒子径の標準偏差を表すものとする。
【0035】
本発明のアクリル系重合体粉末は、また、その1g当たりのマクロ孔細孔体積A(mL)とミクロ孔細孔体積B(mL)との比率(A/B)が0.5以上であることが好ましく、0.6〜2であることがより好ましい。合計マクロ孔細孔体積及び合計ミクロ孔細孔体積は水銀圧入法によって求めることができる。ここでマクロ孔細孔とは孔直径1μmを超える細孔を、ミクロ孔細孔とは孔直径1μm以下の細孔を意味する。
上記比率が0.5以上である場合には、該粉末への可塑剤の吸収が抑えられ、結果としてラテックスの流動性の低下やラテックスにおけるダイラタンシーの発現を押さえることにつながる。
【0036】
アクリル系重合体粉末の上記比率A/Bを所定範囲に設定するには、通常、ラテックス条件として、
0.1<固形分濃度×標準偏差(μm)/ラテックス中のアクリル系重合体粒子の平均粒子径(μm)、
及びラテックスの噴霧乾燥条件として、
0.1<(熱風入口温度−熱風出口温度)(℃)/アクリル系重合体粉末の平均粒子径(μm)<10
を満足させ、さらに上記した固形分濃度×標準偏差(μm)/ラテックス中のアクリル系重合体粒子の平均粒子径(μm)の値をC、上記した(熱風入口温度−熱風出口温度)(℃)/アクリル系重合体粉末の平均粒子径(μm)の値をDとした場合に、
0.1<C×D(両者の積)<5
を満足させればよい。
【0037】
本発明においては、上記アクリル系重合体粉末を可塑剤と混合してアクリルゾルとする。この際用いるアクリル系重合体粉末は粒子径の異なるアクリル系重合体粉末を2種以上ブレンドしたものであってもよい。
【0038】
本発明のアクリルゾルに使用できる可塑剤は特に制限されないが、ジメトキシエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジエトキシエチルフタレート、ジブトキシエチルフタレートなどのフタル酸エステル系可塑剤、ジフェニルオクチルホスフェート、トリブチルフォスフェート、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート、トリー2−エチルヘキシルフォスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルフォスフェート、トリスイソプロピルフェニルフォスフェート、レゾルシノールビスジフェニルフォスフェート、ビスフェノールAビスジフェニルフォスフェート、ビスフェノールAビスクレジルフォスフェート等のリン酸エステル系可塑剤、ジー2−ヘキシルアジペート等のアジピン酸エステル系可塑剤、ジー2−エチルヘキシルセバケート等のセバシン酸エステル系可塑剤、ジー2−ヘキシルアゼレート等のアゼライン酸エステル系可塑剤、トリー2−エチルヘキシルトリメリテート等のトリメリット酸エステル系可塑剤、フマル酸ジブチル等のフマル酸エステル系可塑剤、アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸エステル系可塑剤、オレイン酸ブチル等のオレイン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等を用いることができる。
これらの可塑剤は単独で又は2種以上組み合わせて用いられ、アクリルゾルから得られる成形物に難燃性を付与することが求められる場合にはリン酸エステル系可塑剤を用いることが好ましい。
【0039】
アクリル系重合体粉末と可塑剤との混合比率は、アクリル系重合体粉末100質量部当たり、可塑剤50〜500質量部であるのが好ましく、50〜200質量部であるのがより好ましい。
【0040】
本発明のアクリルゾルは、さらに充填剤を含有することができる。使用することのできる充填剤としては、例えば、炭化カルシウム、バライタ、クレー、コロイダルシリカ、マイカ粉、珪藻土、カオリン、タルク、ベントナイト、ガラス粉末、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、二酸化チタン、カーボンブラック、金属石鹸、染料、顔料などを挙げることができる。充填剤の含有量は、アクリル系重合体粉末100質量部当たり50〜500質量部の割合であるのが好ましい。
【0041】
本発明のアクリルゾルには、上記のほかに、希釈剤として例えばミネラルタービン等の溶剤を加えてオルガノゾルとすることもできる。さらに目的に応じて各種の添加剤を含有させることができる。かかる添加剤としては、例えば、接着促進剤、レベリング剤、タック防止剤、離型剤、消泡剤、発泡剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、光安定剤、老化防止剤、酸化防止剤、香料等を挙げることができ、これらは各単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの成分の含有量は、一般に、アクリル系重合体粉末100質量部に対して0.01〜20質量部であるのが好ましい。
【0042】
本発明のアクリルゾルは本発明のアクリル系重合体粉末、可塑剤、及び必要に応じて充填剤やその他の添加剤を混合することにより調製することができる。
本発明のアクリルゾル中の固形分含量については特に制限はないが、アクリルゾルの流動性等の観点から、アクリルゾル全体に対し、20〜80質量%程度であるのが好ましい。
【0043】
本発明のアクリルゾルを用いた加工方法としては、ディップコーティング、ナイフコーティング、ロールコーティング、カーテンフローコーティング等のコーティングや、ディップモールディング、キャストモールディング、スラッシュモールディング、ローテーショナルモールディング等の成形法のほか、浸漬、刷毛塗り、スプレー、静電塗装等の各種の加工方法が可能である。
【0044】
本発明のアクリルゾルを用いて成形物であるゲルを形成させるには、アクリルゾルを適当なゲル形成温度及び処理時間条件下に保つことが必要である。ゲル形成温度は70〜260℃の範囲内であり、処理時間は10秒〜90分の範囲内であるのが好ましい。本発明のアクリルゾルは、このゲル化条件で均一な膜を形成することができる。また用途によっては、硬化皮膜に、さらに印刷、エンボス加工、発泡処理などを行うこともできる。
【0045】
本発明のアクリルゾルは、塗料、インキ、接着剤、シーリング剤等として応用することができ、これらを雑貨、玩具、工業部品、電気部品等の成型品に応用することができる。また、例えば紙や布などのシート状物に適用すれば、壁紙、人工皮革、敷物、医療用シート、防水シート等を得ることができ、金属板に適用すれば防蝕性金属板とすることができる。
【0046】
【実施例】
以下に本発明を参考例、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらにより何ら制限されるものではない。
以下の参考例、実施例及び比較例における物性値の測定または評価は、以下の方法により行った。
【0047】
(1)細孔体積、孔直径
島津製作所/Micromeritics製オートポアー9420を用いて測定した。
測定圧力:0.5〜60000Psi(=3.4475kPa〜413.7MPa)(細孔直径320μm〜30オングストローム)
手法:水銀圧入式
使用定数:試料セル定数:10.79μL/pF、水銀接触角:130°水銀表面張力:4.84mN/cm セル容積:0.4mL
【0048】
(2)平均粒子径
堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA―300を用いて測定した。
(3)ラテックスの固形分濃度
ラテックスを所定質量(W1)計量し、100℃で3時間乾燥し、乾燥後の質量(W2)を計量する。
固形分濃度=W2/W1
【0049】
(4)流動性
アクリルゾル調製1時間後の25℃での粘度を、BH型粘度計(トキメック社製)でローターNo.6を用い、回転数2rpm及び10rpmで測定し(それぞれV2B、V10Bとする)、下記の評価基準にしたがってゾル流動性を評価した。
ゾル流動性=V10B/V2B
[ゾル流動性の評価基準]
○:ゾル流動性が2未満であり、ゾル流動性が極めて良好である。
△:ゾル流動性が2以上4未満であり、ゾル流動性がはぼ良好である
×:ゾル流動性が4以上であり、ゾル流動性が極めて不良である。
【0050】
(5)貯蔵安定性
アクリルゾル調製1時間後の25℃での粘度(初期粘度)V2Bと30℃で5日間放置後の25℃での粘度V2とを、BH型粘度計(トキメック社製)でローターNo.6を用い、回転数2rpmで測定し、下記の評価基準にしたがって貯蔵安定性を評価した。
粘度保持性=V2/V2B
[貯蔵安定性の評価基準]
○:粘度保持性が2未満であり、貯蔵安定性が極めて良好である。
△:粘度保持性が2以上3未満であり、貯蔵安定性がはぼ良好である
×:粘度保持性が3以上であり、貯蔵安定性が極めて不良である。
【0051】
(5)耐ブリードアウト性
圧縮成形機を用いて、150℃にて厚さ1mmのシートを形成させた後、25℃、1週間保持後の該皮膜表面において可塑剤のブリードアウト状態を目視観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
[耐ブリードアウト性の評価基準]
○:可塑剤のブリードアウトなし
×:可塑剤のブリードアウトあり
【0052】
また以下に示す参考例、実施例及び比較例中に用いた化合物名及びその略称[( )内]を下記に示す。
メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸n−ブチル(n−BMA)、メタクリル酸イソブチル(i−BMA)、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(2−HEMA)、アクリル酸n−ブチル(BA)、メタクリル酸(MAA)、アリルメタクリレート(ALMA)、ポリエチレングリコール#400ジメタクリレート(PEG9G)、n−オクチルメルカプタン(n−OM)、過硫酸カリウム(KPS)、ジイソノニルフタレート(DINP)、レゾルシノールビスジフェニルフォスフェート(RDP)。
また、以下に示す参考例、実施例及び比較例中に用いた「部」は質量部を表す。
【0053】
<参考例1>
アクリル系重合体粒子(a−1)の製造
▲1▼攪拌機、温度計、窒素ガス導入部、単量体導入管及び還流冷却器を備えた反応器内に、脱イオン水800部、ラウリル硫酸ナトリウム0.01部及び炭酸ナトリウム0.8部を仕込み、容器内を窒素ガスで十分に置換して実質的に酸素がない状態にした後、内温を80℃に設定した。そこに、KPS0.048部を投入し、5分間攪拌した後、MMA72部及びi―BMA168部からなる単量体混合物を60分かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
▲2▼次に、同反応器内に、KPS0.032部を投入して5分間攪拌した後、
MMA64部及びi―BMA96部からなる単量体混合物を45分間かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
【0054】
▲3▼次に、同反応器内に、KPS0.032部を投入して5分間攪拌した後、 MMA96部及びi―BMA64部からなる単量体混合物を45分間かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
▲4▼次に、同反応器内に、KPS0.048部を投入して5分間攪拌した後、 MMA204部、i―BMA24部、MAA6部及び2−HEMA6部からなる単量体混合物を60分間かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに60分間重合反応を行って、アクリル系重合体粒子(a−1)を含むラテックスを得た。このアクリル系重合体粒子(a−1)はアクリル系重合体粒子(I)に属する。また、このアクリル系重合体粒子(a−1)の平均粒子径は0.81μmで、その標準偏差は0.21μmであり、また、該ラテックスの固形分濃度は0.50であった。
【0055】
<参考例2>
アクリル系重合体粒子(a−2)の製造
▲1▼攪拌機、温度計、窒素ガス導入部、単量体導入管及び還流冷却器を備えた反応器内に、脱イオン水800部、ラウリル硫酸ナトリウム0.01部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.02部及び炭酸ナトリウム0.8部を仕込み、容器内を窒素ガスで十分に置換して実質的に酸素がない状態にした後、内温を80℃に設定した。そこに、KPS0.064部を投入し、5分間攪拌した後、MMA64部、n−BMA30部及びi―BMA160部からなる単量体混合物を75分かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
▲2▼次に、同反応器内に、KPS0.048部を投入して5分間攪拌した後、
MMA120部、n−BMA72部及びi―BMA48部からなる単量体混合物を60分間かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
【0056】
▲3▼次に、同反応器内に、KPS0.048部を投入して5分間攪拌した後、
MMA234部、MAA6部及びn−OM(連鎖移動剤)0.024部からなる単量体混合物を60分間かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに60分間重合反応を行って、アクリル系重合体粒子(a−2)を含むラテックスを得た。このアクリル系重合体粒子(a−2)はアクリル系重合体粒子(I)に属する。また、このアクリル系重合体粒子(a−2)の平均粒子径は0.49μmで、その標準偏差は0.13μmであり、また、該ラテックスの固形分濃度は0.48であった。
【0057】
<参考例3>
アクリル系重合体粒子(a−3)の製造
▲1▼攪拌機、温度計、窒素ガス導入部、単量体導入管及び還流冷却器を備えた反応器内に、脱イオン水800部、ラウリル硫酸ナトリウム0.02部及び炭酸ナトリウム0.8部を仕込み、容器内を窒素ガスで十分に置換して実質的に酸素がない状態にした後、内温を80℃に設定した。そこに、KPS0.08部を投入し、5分間攪拌した後、MMA48部、BA112部、PEG9G0.08部及びALMA0.08部からなる単量体混合物を60分かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
▲2▼次に、同反応器内に、KPS0.32部を投入して5分間攪拌した後、
MMA608部、i―BMA32部及びn−OM(連鎖移動剤)0.0064部からなる単量体混合物を180分間かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに60分間重合反応を行って、アクリル系重合体粒子(a−3)を含むラテックスを得た。このアクリル系重合体粒子(a−3)はアクリル系重合体粒子(II)に属する。また、このアクリル系重合体粒子(a−3)の平均粒子径は0.56μmで、その標準偏差は0.13μmであり、また、該ラテックスの固形分濃度は0.50であった。
【0058】
<参考例4>
アクリル系重合体(a−4)の製造
▲1▼攪拌機、温度計、窒素ガス導入部、単量体導入管及び還流冷却器を備えた反応器内に、脱イオン水800部、ラウリル硫酸ナトリウム0.08部及び炭酸ナトリウム0.4部を仕込み、容器内を窒素ガスで十分に置換して実質的に酸素がない状態にした後、内温を80℃に設定した。そこに、KPS0.08部を投入し、5分間攪拌した後、MMA27部、n−BMA9部、BA84部、PEG9G0.24部及びALMA0.12部からなる単量体混合物を60分かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合添加率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
▲2▼次に、同反応器内に、KPS0.68部を投入して5分間攪拌した後、
MMA612部、n−BMA34部及び2−HEMA34部からなる単量体混合物を180分間かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに60分間重合反応を行って、アクリル系重合体粒子(a−4)を含むラテックスを得た。このアクリル系重合体粒子(a−4)はアクリル系重合体粒子(II)に属する。また、このアクリル系重合体粒子(a−4)の平均粒子径は0.39μmで、その標準偏差は0.07μmであり、また、該ラテックスの固形分濃度は0.50であった。
【0059】
<参考例5>
アクリル系重合体(a−5)の製造
▲1▼攪拌機、温度計、窒素ガス導入部、単量体導入管及び還流冷却器を備えた反応器内に、脱イオン水800部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部及び炭酸ナトリウム0.6部を仕込み、容器内を窒素ガスで十分に置換して実質的に酸素がない状態にした後、内温を80℃に設定した。そこに、KPS0.12部を投入し、5分間攪拌した後、MMA24部、BA36部及びPEG9G0.3部からなる単量体混合物を90分かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
▲2▼次に、同反応器内に、過硫酸カリウム0.28部を投入して5分間攪拌した後、
MMA526.5部及びMAA13.5部からなる単量体混合物を150分間かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに60分間重合反応を行って、アクリル系重合体粒子(a−5)を含むラテックスを得た。このアクリル系重合体粒子(a−5)はアクリル系重合体粒子(II)に属する。また、このアクリル系重合体粒子(a−5)の平均粒子径は0.17μmで、その標準偏差は0.03μmであり、また、該ラテックスの固形分濃度は0.40であった。
【0060】
<実施例1>
参考例1で得られた、アクリル系重合体粒子(a−1)を含むラテックスをスプレードライヤー[L−8型、大川原化工機(株)製]を用いて、噴霧圧0.15MPa、入口温度120℃、熱風出口温度67℃、ラテックスフィード量2kg/hrの条件下で粉体化し、平均粒子径30μmのアクリル系重合体粉末(I−1)を得た。該粉末を走査電子顕微鏡にて観察した結果、1μm以下の重合体粒子が凝集し、30μm前後の粉末になっていた。この粉末の細孔体積を上記の方法で測定した。該粉末(I−1)100部にDINP100部を加え、二軸脱泡ミキサー(小平製作所社製)で混合しアクリルゾルを調製した後に、上記の方法で流動性、貯蔵安定性及び耐ブリードアウト性を評価した。
【0061】
<実施例2>
参考例1で得られた、アクリル系重合体粒子(a−1)を含むラテックスと、参考例2で得られた、アクリル系重合体粒子(a−2)を含むラテックスとを6対4の質量比で混合した。混合ラテックスの固形分濃度は0.49、含まれるアクリル系重合体粒子の平均粒子径は0.58μm、その標準偏差は0.17μmであった。得られた混合ラテックスをスプレードライヤー[L−8型、大川原化工機(株)製]を用いて噴霧圧0.20MPa、入口温度100℃、熱風出口温度37℃、ラテックスフィード量2kg/hrの条件下で粉体化し、平均粒子径22μmのアクリル系重合体粉末(I−2)を得た。該粉末を電子顕微鏡にて観察した結果、1μm以下の重合体粒子が凝集し、20μm前後の粉末になっていた。この粉末の細孔体積を上記の方法で測定した。該粉末(I−2)100部にDINP80部を加え、実施例1と同様にしてアクリルゾルを調製し、上記で示した評価を行った。
【0062】
<実施例3>
参考例3で得られた、アクリル系重合体(a−3)を含むラテックスをスプレードライヤー[L−8型、大川原化工機(株)製]を用いて噴霧圧0.15MPa、入口温度150℃、熱風出口温度83℃、ラテックスフィード量3kg/hrの条件下で粉体化、平均粒子径25μmのアクリル系重合体粉末(I−3)を得た。この粉末の細孔体積を上記の方法で測定した。該粉末(I−3)100部にRDP120部を加え、実施例1と同様にしてアクリルゾルを調製し、上記で示した評価を行った。
【0063】
<実施例4>
参考例3で得られた、アクリル系重合体粒子(a−3)を含むラテックス、参考例4で得られた、アクリル系重合体粒子(a−4)を含むラテックス、及び参考例5で得られた、アクリル系重合体粒子(a−5)を含むラテックスを質量比8対1対1の割合で混合した。混合ラテックスの固形分濃度は0.49、含まれるアクリル系重合体粒子の平均粒子径は0.54μm、その標準偏差は0.14μmであった。スプレードライヤー[L−8型、大川原化工機(株)製]を用いて噴霧圧0.15MPa、入口温度150℃、熱風出口温度83℃、ラテックスフィード量3kg/hrの条件下で粉体化、平均粒子径25μmのアクリル系重合体粉末(I−4)を得た。この粉末の細孔体積を上記の方法で測定した。該粉末(I−4)100部にRDP120部を加え、実施例1と同様にしてアクリルゾルを調製し、上記で示した評価を行った。
【0064】
<比較例1>
参考例1で得られた、アクリル系重合体(a−1)を含むラテックス100部に対してイオン交換水100部を混合した。このラテックスの固形分濃度は0.25であった。得られたラテックスをスプレードライヤー[L−8型、大川原化工機(株)製]を用いて噴霧圧0.15MPa、入口温度150℃、出口温度50℃、ラテックスフィード量1kg/hrの条件下で粉体化し、平均粒子径8μmのアクリル系重合体粉末(I−5)を得た。この粉末の細孔体積を上記の方法で測定した。該粉末(I−5)100部にDINP100部を加え、実施例1と同様にしてアクリルゾルを調製し、上記で示した評価を行った。
【0065】
<比較例2>
参考例1で得られた、アクリル系重合体粒子(a−1)を含むラテックス100部に対してイオン交換水100部を混合した。得られたラテックスの固形分濃度は0.25、含まれるアクリル系重合体粒子の平均粒子径は0.58μm、その標準偏差は0.17μmであった。該ラテックスをスプレードライヤー[L−8型、大川原化工機(株)製]を用いて噴霧圧0.15MPa、入口温度270℃、出口温度90℃、ラテックスフィード量3kg/hrの条件下で粉体化し、平均粒子径11μmのアクリル系重合体粉末(I−6)を得た。該粉末(I−6)100部にDINP100部を加え、実施例1と同様にしてアクリルゾルを調製し、上記で示した評価を行った。
【0066】
<比較例3>
参考例3で得られた、アクリル系重合体粒子(a−3)を含むラテックス、参考例4で得られた、アクリル系重合体粒子(a−4)を含むラテックス、及び参考例5で得られた、アクリル系重合体粒子(a−5)を含むラテックスを質量比8対1対1の割合で混合した。混合ラテックスの固形分濃度は0.49、含まれるアクリル系重合体粒子の平均粒子径は0.54μm、その標準偏差は0.14μmであった。この混合ラテックスをスプレードライヤー[L−8型、大川原化工機(株)製]を用いて噴霧圧0.15MPa、入口温度230℃、出口温度87℃、ラテックスフィード量3kg/hrの条件下で粉体化し、平均粒子径9μmのアクリル系重合体粉末(I−7)を得た。この粉末の細孔体積を上記の方法で測定した。該粉末(I−7)100部にRDP120部を加え、実施例1と同様にしてアクリルゾルを調製し、上記で示した評価を行った。
【0067】
実施例1〜4及び比較例1〜3で用いたラテックスのラテックス条件C、ラテックスの噴霧乾燥条件D、C×D、アクリルゾル組成及びアクリル系重合体粉末物性を表1に、実施例1〜4及び比較例1〜3で調製したアクリルゾル及びそれからの成形品(シート)の物性(流動性、貯蔵安定性及び耐ブリードアウト性)を表2に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
実施例1〜4は流動性、貯蔵安定性及び耐ブリードアウト性に優れる。孔径1μm以上の積分空隙体積、及びマクロ孔細孔体積A/ミクロ孔細孔体積Bの比が本発明に規定する範囲を外れる比較例1、該積分空隙体積、空隙率、マクロ孔直径、ミクロ孔直径及び上記A/B比が本発明に規定する範囲を外れる比較例2、及び該積分空隙体積、空隙率及びマクロ孔直径が本発明に規定する範囲を外れる比較例3は流動性及び貯蔵安定性において劣っている。
【0071】
【発明の効果】
本発明のアクリル系重合体粉末は、貯蔵安定性及び流動性に優れたアクリルゾルを与える。また、該アクリルゾルから得られる成形物は、塩ビゾルから得られる成形物と違って、焼却時に塩化水素ガスを発生させることがない。
Claims (8)
- アクリル系重合体粒子を含有するラテックスを凝固乾燥して得られるアクリル系重合体粉末であって、該粉末の平均粒子径が5〜100μm、空隙率が70%以下、孔直径1μm以上の積分空隙体積が0.9mL/g以下、マクロ孔直径が7μm以下、かつミクロ孔直径が0.5μm以下であるアクリル系重合体粉末。
- 該アクリル系重合体粉末の単位体積当たりのマクロ孔細孔体積Aとミクロ孔細孔体積Bとの比率(A/B)が0.5以上である請求項1記載のアクリル系重合体粉末。
- アクリル系重合体粒子が、前段階重合体(I−a)を含むラテックス中で、後段階重合体(I−b)を形成させて得られる多段階重合体粒子であって、
前段階重合体(I−a)が、メタクリル酸メチル単位10質量%以上50質量%未満を含む、1段階又は互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応によって形成される共重合体であり、
後段階重合体(I−b)が、メタクリル酸メチル単位50質量%以上を含む、1段階又は互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応によって形成される重合体であり、
前段階重合体(I−a)/後段階重合体(I−b)の質量比が10/90〜90/10である
アクリル系重合体粒子(I)である請求項1又は2記載のアクリル系重合体粉末。 - アクリル系重合体粒子が、前段階重合体(II−a)を含むラテックス中で、後段階重合体(II−b)を形成させて得られる多段階重合体粒子であって、
前段階重合体(II−a)が、アクリル酸アルキルエステル単位50〜99.99質量%、アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他の単官能性単量体単位49.99質量%以下及び多官能性単量体単位0.01〜10質量%からなる、1段階又は互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応によって形成される共重合体であり、
後段階重合体(II−b)が、メタクリル酸メチル単位50質量%以上を含む、1段階又は互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応によって形成される重合体であり、
前段階重合体(II−a)/後段階重合体(II−b)の質量比が10/90〜90/10である
アクリル系重合体粒子(II)である請求項1又は2記載のアクリル系重合体粉末。 - 凝固乾燥が噴霧乾燥である請求項1〜4のいずれか1項に記載のアクリル系重合体粉末。
- すべての重合を乳化重合法によって行う請求項3〜5のいずれか1項に記載のアクリル系重合体粉末。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載のアクリル系重合体粉末及び可塑剤を含有するアクリルゾル。
- 請求項7記載のアクリルゾルから得られる成形物。
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