JP4083029B2 - アクリル系重合体粉末、アクリルゾル及び成形物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アクリルゾルに好適なアクリル系重合体粉末、該アクリル系重合体粉末及び可塑剤を含有するアクリルゾル、及び該アクリルゾルから得られる成形物に関する。
【0002】
【従来の技術】
プラスチゾルは、樹脂パウダー及び充填剤を可塑剤に分散させてゾル状態にしたものであり、このものは塗布等を行った後加熱してゲル化させ成形品にする。現在この方法で工業的に広く用いられてい樹脂は、ポリ塩化ビニル(塩ビ)であり、塩ビゾル又は塩ビペーストと呼ばれている。用途により、該塩ビゾル組成物は、自動車用、カーペット用、壁紙用、床用等のコーティング剤、含浸剤、コーキング剤などとして、多くの分野において種々の目的で使用されている。
一方、塩ビゾル組成物から得られる成形品は、燃焼処分する際に、ポリ塩化ビニルに起因する塩化水素ガスの発生によって、焼却炉を著しく損傷させるという難点を有しており、さらには最近の環境問題上、酸性雨の原因となるばかりでなく地球のオゾン層の破壊原因物質ともなっており、各商品分野でこのような難点のない塩ビゾル組成物に代るプラスチゾル組成物の出現が待たれている。
【0003】
このような要求に対し、燃焼時に塩化水素ガスを発生しないプラスチゾルとして、アクリル系樹脂を用いたアクリルゾルが提案されている。例えば、均一組成系のアクリルポリマー粒子を用いたもの(特許文献1参照)が提案されているが、ジオクチルフタレートのような汎用可塑剤を用いた場合には、該可塑剤の前記粒子への溶解性が高く、混合後数分間でアクリルゾルの粘度上昇が起きて成膜不能となるため、実用上使用することができないという問題があった。またアクリルゾルの成膜性及び貯蔵安定性を向上させるために、アクリルポリマーに可塑剤との相溶性の低い単量体成分を共重合させると、このアクリルゾルを用いる場合には、得られる皮膜表面に可塑剤がブリードアウトしやすいという問題点を有していた。
【0004】
またアクリル重合体粒子の平均粒子径が0.1〜2.0μmのものと3.0〜50μmのものとの混合物を含有する低粘度のアクリルゾル(特許文献2参照)が提案されているが、乾燥した樹脂(二次粒子)を分級あるいは粉砕により所望の粒度分布にしてそろえて混合するという煩雑な工程を要し、さらには可塑剤等と混合する際に生じるせん断力によって粒子が破壊され、ゾル安定性が低下する欠点があった。
【0005】
【特許文献1】
特公昭55−16177号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開平8−73601号公報(特許請求の範囲)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、可塑剤等と容易に混合でき、低粘度で、流動性、貯蔵安定性及び耐粒子破壊性に優れ、かつそれから得られる成形物が耐ブリードアウト性及び皮膜均一性に優れ、さらに、塩ビゾルから得られる成形物と違って、焼却時に塩化水素ガスを発生することがないアクリルゾルを与えることができるアクリル系重合体粉末、該アクリルゾル、及び該アクリルゾルから得られる成形物を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、アクリル系重合体粒子及び重量平均分子量10,000以上の水溶性高分子を含有するラテックスを噴霧乾燥して得られるアクリル系重合体粉末を使用することによって上記の問題点が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
アクリル系重合体粒子及び重量平均分子量が10,000以上の水溶性高分子を含有するラテックスを噴霧乾燥して得られるアクリル系重合体粉末であって;
・該アクリル系重合体粒子が、前段階重合体(I−a)を含むラテックス中で、後段階重合体(I−b)を形成させて得られる多段階重合体粒子であり、
前段階重合体(I−a)が、メタクリル酸メチル単位10質量%以上50質量%未満およびメタクリル酸メチルを除くメタクリル酸エステル単位50質量%を超え90質量%以下を含む、1段階又は互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応によって形成される共重合体であり、
後段階重合体(I−b)が、メタクリル酸メチル単位50質量%以上を含む、1段階又は互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応によって形成される共重合体であり、
前段階重合体(I−a)/後段階重合体(I−b)の質量比が10/90〜90/10であり;
・該水溶性高分子の使用量がアクリル系重合体粒子100質量部に対して0.001〜10質量部であり;
・平均粒子径が10〜50μm;
である該アクリル系重合体粉末、該アクリル系重合体粉末及び可塑剤を含有するアクリルゾル、及び該アクリルゾルから得られる成形物に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を更に詳細に説明する。
本発明に使用するアクリル系重合体粒子は、少なくとも1層の層構造を有する重合体粒子であって、アクリル酸エステル(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等)及び/又はメタクリル酸エステル(例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等)を主とする単量体を単独重合、共重合、グラフト重合等させて得られるアクリル系重合体粒子である。
【0010】
本発明に使用するアクリル系重合体粒子としては、以下の(1)及び(2)に示すようなメタクリル酸エステル単位を必須成分とするものが好ましい。
(1)前段階重合体(I−a)を含むラテックス中で、後段階重合体(I−b)を形成させてなる多段階重合体粒子であり、
前段階重合体(I−a)が、メタクリル酸メチル単位10質量%以上50質量%未満を含む、1段階又は互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応によって形成される共重合体であり、
後段階重合体(I−b)が、メタクリル酸メチル単位50質量%以上を含む、1段階又は互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応によって形成される共重合体であり、
前段階重合体(I−a)/後段階重合体(I−b)の質量比が10/90〜90/10であるアクリル系重合体粒子。
【0011】
前段階重合体(I−a)は、1段階の重合反応で形成されるか、又はそれにより得られる重合体粒子を含有するラテックス中で互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応を行うことにより形成される共重合体であり、前段階に含まれる各段階(1段階のみからなる場合も含む)の重合反応により形成される共重合体が、いずれも、メタクリル酸メチル単位10質量%以上50質量%未満とメタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体からからなる単位50質量%を超え90質量%以下とを含むものである。メタクリル酸メチル単位の割合は、20質量%以上50質量%未満であるのが好ましく、30質量%以上50質量%未満であるのがより好ましい。前段階重合体(I−a)のメタクリル酸メチル単位が10質量%未満では、本発明のアクリル系重合体粒子を含有するラテックスを、液滴状態で、乾燥して得られるアクリル系重合体粉末と可塑剤とを含有するアクリルゾル(以下、単に、「アクリルゾル」という場合がある)から形成される皮膜の強度が低下して好ましくなく、メタクリル酸メチル単位が50質量%以上であると、皮膜表面の耐ブリードアウト性や柔軟性が低下して好ましくない。
【0012】
後段階重合体(I−b)は、前段階重合体(I−a)の粒子を含むラテックス中で、1段階の重合反応で形成されるか、又はそれにより得られる重合体粒子を含有するラテックス中で互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応を行うことにより形成される(共)重合体であり、後段階に含まれる各段階(1段階のみからなる場合も含む)の重合反応により形成される(共)重合体が、いずれも、メタクリル酸メチル単位50質量%以上とメタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体からなる単位50質量%以下とを含むものである。後段階重合体(I−b)のメタクリル酸メチル単位の割合は、55〜95質量%であるのが好ましく、60〜90質量%であるのがより好ましい。後段階重合体(I−b)のメタクリル酸メチル単位が50質量%未満であると、得られるアクリルゾルの貯蔵安定性が低下して好ましくない。
【0013】
上記で、メタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体の例としては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸メチルを除くメタクリル酸エステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n―ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等のメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;スチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;N−プロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド等のマレイミド系化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;などが挙げられ、中でも、ガラス転移温度(Tg)の調整や金属との密着性の向上に適することから、メタクリル酸イソブチル等のメタクリル酸エステル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが好ましい。これらの他の単量体は単独で又は2種以上組み合わせて用いることができ、目的や用途に応じて適宜選択することができる。
【0014】
本発明において使用されるアクリル系重合体粒子(I)の前段階重合体(I−a)及び後段階重合体(I−b)をそれぞれ単独で製造した場合の重量平均分子量(Mw)は、用途に応じて適宜選択されるが、いずれも、50,000〜3,000,000の範囲内であるのが好ましく、50,000〜3,000,000の範囲内であるのがより好ましい。重量平均分子量が50,000以上であると成形される皮膜の強度が向上し、また3,000,000以下であると可塑剤との溶解速度が適切となり生産性が向上する。重量平均分子量の調整はメルカプタン類等の連鎖移動剤を用いて行うことができ、該メルカプタン類としては、例えば、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン等を挙げることができる。また、用途や目的とする性状に応じ、多官能性単量体を共重合して架橋構造やグラフト構造を導入してもよい。
【0015】
アクリル系重合体粒子(I)に占める前段階重合体(I−a)/後段階重合体(I−b)の質量比は、10/90〜90/10の範囲内であり、20/80〜80/20の範囲内であるのがより好ましい。後段階重合体(I−b)の割合が10質量%未満では、得られるアクリルゾルの貯蔵安定性が低下し、また90質量%を超えると、可塑剤のブリードアウトが起こりやすくなる。
【0016】
(2)前段階重合体(II−a)を含むラテックス中で、後段階重合体(II−b)を形成させてなる多段階重合体粒子であり、
前段階重合体(II−a)が、アクリル酸アルキル単位50質量%以上、アクリル酸アルキルと共重合可能な他の単官能性単量体単位49.99質量%以下及び多官能性単量体単位0.01〜10質量%からなる、1段階又は互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応によって形成される共重合体であり、
後段階重合体(II−b)が、メタクリル酸メチル単位50質量%以上を含む、1段階又は互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応によって形成される(共)重合体であり、
前段階重合体(II−a)/後段階重合体(II−b)の質量比が10/90〜90/10
であるアクリル系重合体粉末。
【0017】
前段階重合体(II−a)は、1段階の重合反応で形成されるか、又はそれにより得られる重合体粒子を含有するラテックス中で互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応を行うことにより形成される共重合体であり、前段階に含まれる各段階(1段階のみからなる場合も含む)の重合反応により形成される共重合体が、いずれも、アクリル酸アルキルエステル単位50〜99.99質量%、アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他の単量体からなる単位49.99質量%以下及び多官能性単量体単位0.01〜10質量%を含むものである。上記各共重合体の単量体単位組成は、いずれも、アクリル酸アルキルエステル単位60〜99.95質量%、該他の単量体単位39.95質量%以下及び多官能性単量体単位0.05〜5質量%であるのが好ましく、アクリル酸アルキルエステル単位70〜99.9質量%、該他の単量体単位29.9質量%以下及び多官能性単量体単位0.1〜3質量%であるのがより好ましい。
アクリル酸アルキルエステル単位が50質量%未満の場合には、アクリルゾルから形成される皮膜の耐寒性が低下する。また、多官能性単量体単位が0.01質量%未満の場合には、アクリルゾルから形成される皮膜の強度が低下し、10質量%を超えると、該皮膜の耐寒性が低下する。
【0018】
前段階重合体(II−a)に関し、アクリル酸アルキルエステルの例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n―ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等が挙げられ、中でも炭素数1〜4のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸プロピル及びアクリル酸n―ブチルがより好ましい。
【0019】
前段階重合体(II−a)に関し、アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他の単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸エステル;メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等のメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;スチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;N−プロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド等のマレイミド系化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;などが挙げられ、中でも、ガラス転移温度(Tg)の調整や金属との密着性の向上に適することから、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが好ましい。これらの他の単量体は単独で又は2種以上組み合わせて用いることができ、目的や用途に応じて適宜選択することができる。
【0020】
前段階重合体(II−a)に関し、多官能性単量体の例としては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ジアリルマレエート、ジビニルアジペート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどが挙げられ、中でも、分子量が250以上のものが好ましく、構成するポリエチレングリコールが平均分子量400〜600を有するポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0021】
また、後段階重合体(II−b)は、前段階重合体(II−a)の粒子を含むラテックス中で、1段階の重合反応で形成されるか、又は該ラテックス中で互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応を行うことにより形成される(共)重合体であり、後段階に含まれる各段階(1段階のみからなる場合も含む)の重合反応により形成される(共)重合体が、いずれも、メタクリル酸メチル単位50質量%以上とメタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体からなる単位50質量%以下とを含むものである。後段階重合体(II−b)のメタクリル酸メチル単位の割合は、60〜100質量%であるのが好ましく、70〜95質量%であるのがより好ましい。後段階重合体(I−b)のメタクリル酸メチル単位が50質量%未満であると、得られるアクリルゾルの貯蔵安定性が低下して好ましくない。
上記で、メタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体としては、後段階重合体(I−b)の製造に用いるメタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体と同様なものが挙げられる。
【0022】
本発明において使用されるアクリル系重合体粒子(II)の前段階重合体(II−a)及び後段階重合体(II−b)をそれぞれ単独で製造した場合の重量平均分子量(Mw)は、用途に応じて適宜選択されるが、いずれも、50,000〜3,000,000の範囲内であるのが好ましく、100,000〜2,000,000の範囲内であるのがより好ましい。重量平均分子量が50,000以上であると成形される皮膜の強度が向上し、また3,000,000以下であると可塑剤との融解速度が適切となり生産性が向上する。重量平均分子量の調整はアクリル系重合体粒子(I)について記述したのと同様な連鎖移動剤を用いて行うことができ、また、用途や目的とする性状に応じ、多官能性単量体を共重合して架橋構造やグラフト構造を導入してもよい。
【0023】
アクリル系重合体粒子(II)に占める前段階重合体(II−a)/後段階重合体(II−b)の質量比は、10/90〜90/10の範囲内であり、20/80〜80/20の範囲内であるのがより好ましい。後段階重合体(II−b)の割合が10質量%未満では、得られアクリルゾルの貯蔵安定性が低下し、また90質量%を超えると、可塑剤のブリードアウトが起こりやすくなる。
【0024】
本発明に使用するアクリル系重合体粒子、好ましくはアクリル系重合体粒子(I)又は(II)の平均粒子径については、特に制限はないが0.05〜30μmの範囲内であることが好ましく、0.1〜2μmの範囲内であることがより好ましい。平均粒子径が0.05μm未満であれば、ゾル状態での貯蔵安定性が悪く、30μmを超えると均一なゾル状態とすることが難しくゾル調製に時間がかかり生産性が低下する傾向となる。
なお、アクリル系重合体粒子の場合のみでなく、アクリル系重合体粉末の場合も含め、本明細書における平均粒子径は算術平均粒子径を意味する。
【0025】
本発明において使用されるアクリル系重合体は、また、ガラス転移点(Tg)が40℃以上であることが好ましい。Tgが40℃未満であると、膜成形後に、表面に粘着性、ブロッキング性等が生じ好ましくない。
【0026】
本発明に使用するアクリル系重合体粒子、好ましくはアクリル系重合体粒子(I)又は(II)は、例えば乳化重合法やシード重合法のような公知の重合方法により、ラテックス状態で製造することができるが、乳化重合法で製造するのが好ましい。
例えば、アクリル系重合体粒子(I)は、前段階重合体(I−a)を含むラテックス中で、後段階重合体(I−b)を形成させることにより得ることができ、前段階重合体(I−a)は、1段階の重合反応で形成させるか、又はそれにより得られる重合体粒子を含有するラテックス中で互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応を行うことにより形成させることができ、後段階重合体(I−b)は、前段階重合体(I−a)の粒子を含むラテックス中で、1段階の重合反応で形成させるか、又はそれにより得られる重合体粒子を含有するラテックス中で互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応を行うことにより形成させることができる。アクリル系重合体粒子(II)もアクリル系重合体粒子(I)と同様な手法で製造することができる。
【0027】
乳化重合に用いることのできる乳化剤は、例えば、アニオン系乳化剤であるジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩;ノニオン系乳化剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等;ノニオン・アニオン系乳化剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウムなどのアルキルエーテルカルボン酸塩等;反応性乳化剤であるアルキルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート、酸性リン酸メタクリル酸エステル、アルキルアリールフェノキシポリエチレングリコール、ナトリウム−ω−アクリロイルオキシアルキル(トリアルキル)アンモニウム−パラトルエンスルホネート、ナトリウム−ポリスチレンフェニルエーテルスルフェート、ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物、ナトリウム−スルホコハク酸アルキルアルケニルエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホネート、アルキルフェノキシエトキシエチルスルホネート、ナトリウム−ジアルキルスルホサクシネート、アルキルジフェニルエーテルジスルホネート、ノニルプロペニルフェノールエチレンオキシド10モル付加体硫酸エステルアンモニウム塩の1種または2種以上を用いることができる。上記に例示したノニオン系乳化剤およびノニオン・アニオン系乳化剤の例示化合物におけるオキシエチレン単位の平均繰返し数は、乳化剤の発泡性が極端に大きくならないようにするために、30以下であるのが好ましく、20以下であるのがより好ましく、10以下であるのがさらに好ましい。
【0028】
乳化重合に際しては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩系開始剤、パースルホキシレート/有機過酸化物、過硫酸塩/亜硫酸塩等のレドックス系開始剤のいずれの重合開始剤を用いてもよい。また、必要あれば、公知の連鎖移動剤を用いてもよい。
乳化重合において、単量体、乳化剤、開始剤、連鎖移動剤等は、目的とする段階の重合反応に応じて、一括添加、分割添加、連続添加等公知の任意の方法で添加することができる。
【0029】
本発明で用いるラテックスは、上記した重合により得られる上記アクリル系重合体粒子、好ましくは、アクリル系重合体粒子(I)又はアクリル系重合体粒子(II)を含有するラテックス、又はアクリル系重合体粒子(I)を含有するラテックスとアクリル系重合体粒子(II)を含有するラテックスとを任意の割合で混合したラテックスである。
【0030】
本発明において使用される水溶性高分子は特に制限されない。具体的には、例えば、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられるが、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースが好ましく、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウムがより好ましい。
【0031】
水溶性高分子の重量平均分子量は10,000以上であることが必要であり、10,000〜10,000,000であることが好ましく、50,000〜1,000,000であることがより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、アクリル重合体粒子同士の接着力が不足し、ゾル調製時にアクリル系重合体粉末が破壊しやすくなり好ましくない。重量平均分子量の上限には特別な制限はないが、ラテックスが粘稠になり取扱いに支障を来したり、重合後のラテックスに添加する場合に凝集現象が生じるのを避けるため、上述のごとく10,000,000以下であるのが好ましい。
【0032】
ラテックスと水溶性高分子とを混合する方法は特に制限がなく、アクリル系重合体の製造前に系の中に添加しても、重合後のラテックスに添加してもよい。重合への影響が懸念される場合には、後添加の方が好ましい。
【0033】
水溶性高分子の配合量はアクリル系重合体粒子100質量部に対して0.001〜10質量部であることが必要であり、0.005〜2質量部であることが好ましく、0.01〜1質量部であることがより好ましい。該配合量が0.001質量部よりも少ない場合には、アクリル系重合体粒子同士の接着力が不足し、アクリルゾル調製時にアクリル系重合体粉末が破壊されることがあり、また10質量部よりも多い場合には、形成される皮膜の表面平滑性が低下する傾向になる。
【0034】
本発明で用いるラテックスと水溶性高分子との混合物(ラテックス状)からアクリル系重合体粉末を得る方法としては、噴霧乾燥法、凍結乾燥法、塩析凝固後脱水乾燥させる方法等種々の方法が可能であるが、本発明では噴霧乾燥を用いる。その理由は、アクリル系重合体粉末の平均粒子径、粒子径分布及び形状を整えやすい利点を有するからである。
【0035】
本発明のアクリル系重合体粉末の平均粒子径は5〜100μmであることが好ましく、10〜50μmであることがより好ましい。該平均粒子径が5μm未満である場合には、アクリル系重合体粒子がアクリルゾル調製時に微粉として舞うなど扱いにくくなり、100μmを超えると、ブツ欠点の原因となり、外観を損ね、また皮膜の強度低下を起こしやすくなる(ブツが起点となって亀裂が生じやすい)。
【0036】
本発明のアクリル系重合体粉末の用途は特に制限されず、アクリルゾル、樹脂改質剤、粉体塗料等の原料などとして有効に使用することができる。中でも、本発明のアクリル系重合体粉末はアクリルゾルの原料として特に有用である。
したがって、本発明は、また、上記アクリル系重合体粉末及び可塑剤を含有するアクリルゾルを包含する。
【0037】
本発明のアクリルゾルに使用できる可塑剤は特に制限されず、ジメトキシエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジエトキシエチルフタレート、ジブトキシエチルフタレートなどのフタル酸エステル系可塑剤、ジフェニルオクチルホスフェート、トリブチルフォスフェート、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート、トリー2−エチルヘキシルフォスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルフォスフェート、トリスイソプロピルフェニルフォスフェート、レゾルシノールビスジフェニルフォスフェート、ビスフェノールAビスジフェニルフォスフェート、ビスフェノールAビスクレジルフォスフェート等のリン酸エステル系可塑剤、ジー2−ヘキシルアジペート等のアジピン酸エステル系可塑剤、ジー2−エチルヘキシルセバケート等のセバシン酸エステル系可塑剤、ジー2−ヘキシルアゼレート等のアゼライン酸エステル系可塑剤、トリ2−エチルヘキシルトリメリテート等のトリメリット酸エステル系可塑剤、フマル酸ジブチル等のフマル酸エステル系可塑剤、アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸エステル系可塑剤、オレイン酸ブチル等のオレイン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等を用いることができる。
これらは単独または2種以上組み合わせて用いられ、難燃性を付与するためにはリン酸エステル系可塑剤を用いることが好ましい。
【0038】
アクリル系重合体粉末と可塑剤との混合比率は、特に制限されないが、アクリル系重合体粉末100質量部当たり、可塑剤50〜500質量部の割合で用いるのが好ましく、50〜200質量部の割合で用いるのがより好ましい。
【0039】
本発明のアクリルゾルは、さらに充填剤を含有することができる。使用することのできる充填剤としては、例えば、炭化カルシウム、バライタ、クレー、コロイダルシリカ、マイカ粉、珪藻土、カオリン、タルク、ベントナイト、ガラス粉末、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、二酸化チタン、カーボンブラック、金属石鹸、染料、顔料などを挙げることができる。充填剤の含有量は、特に制限されないが、アクリル系重合体粉末100質量部当たり50〜500質量部の割合であるのが適当である。
【0040】
本発明のアクリルゾルには、上記のほかに、希釈剤として例えばミネラルタービン等の溶剤を加えてオルガノゾル組成物とすることも可能である。さらに目的に応じて各種の添加剤を含有させることができる。該添加剤としては、例えば、接着促進剤、レベリング剤、タック防止剤、離型剤、消泡剤、発泡剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、光安定剤、老化防止剤、酸化防止剤、香料等が挙げられ、これらは各単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの成分の含有量は、特に制限されないが、一般に、アクリル系重合体粉末100質量部に対して0.01〜20質量部であるのが適当である。
【0041】
本発明のアクリルゾルには、上記のほかに、さらに単官能性単量体、多官能性単量体及び開始剤等を添加しゲル形成時に後架橋をさせてもよい。これらの成分の含有量は、特に制限されないが、一般に、アクリル系重合体粉末100質量部に対して0.001〜30質量部であるのが適当である。
【0042】
本発明のアクリルゾル中の固形分含量については特に制限はないが、アクリルゾルの粘度を取り扱いやすい範囲に保ち、また、噴霧乾燥に適したものにする等の観点から、該固形分含量をアクリルゾル全体に対し、20〜80質量%程度にするのが好ましい。
【0043】
本発明のアクリルゾルは、アクリル系重合体粉末、液状の可塑剤、粉末状の充填剤などをミキサーやニーダーやロールを用いて混合、混練することにより得ることができる。通常は、この後、製造した均一組成のアクリルゾルを常法により脱泡し、金網等で濾過するか、濾過後脱泡する。
【0044】
本発明のアクリルゾルを用いて成形物を得る方法としては、ディップコーティング、ナイフコーティング、ロールコーティング、カーテンフローコーティング等のコーティングや、ディップモールディング、キャストモールディング、スラッシュモールディング、ローテーショナルモールディング等の成形法のほか、浸漬、刷毛塗り、スプレー、静電塗装等の各種の加工方法を採用することができる。
【0045】
本発明のアクリルゾルを用いて成形物であるゲルを形成させるには、アクリルゾルを適当なゲル形成温度及び処理時間条件下に保つことが必要である。ゲル形成温度は70〜260℃の範囲内であり、処理時間は10秒〜90分の範囲内であるのが好ましい。本発明のアクリルゾルは、このゲル化条件で均一な膜を形成することができる。また用途によっては、硬化皮膜に、さらに印刷、エンボス加工、発泡処理などを行うこともできる。
【0046】
本発明のアクリルゾルは、塗料、インキ、接着剤、シーリング剤等として用いることができ、これらを雑貨、玩具、工業部品、電気部品、自動車部品等の成形品に適用することができる。また、例えば紙や布などのシート状物に適用すれば、壁紙、人工皮革、敷物、医療用シート、防水シート等を得ることができ、金属板に適用すれば防食性金属板とすることができる。
【0047】
【実施例】
以下に本発明を参考例、実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はそれらにより何ら制限されるものではない。なお、以下の参考例、実施例及び比較例で用いた「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
また、参考例、実施例及び比較例における物性の測定又は評価は以下の方法により行った。
【0048】
(1)平均粒子径測定
堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA―300を用いて測定した。
(2)耐粒子破壊性
実施例又は比較例で得られた、アクリル系重合体粉末と可塑剤との混合物をラボプラストミル(東洋精機製作所社製)を用い回転数100rpmで5分間混合後、真空乾燥機で脱泡してアクリルゾルを調製した。調製1時間後に、BH型粘度計(トキメック社製)でローターNo.6を用い、回転数4rpm、25℃でのアクリルゾルの粘度(V1)を測定した。別に、上記と同じ混合物をラボプラストミル(東洋精機製作所社製)を用い回転数10rpmで5分間混合後、真空乾燥機で脱泡してアクリルゾルを調製し、調製1時間後に、上記と同様にしてこのアクリルゾルの粘度(V2)を測定した。下記の評価基準にしたがって耐粒子破壊性を評価した。
耐粒子破壊性=V1/V2
[耐粒子破壊性の評価基準]
○:粒子破壊性が2未満であり、耐粒子破壊性が極めて良好である。
△:粒子破壊性が2以上3未満であり、耐粒子破壊性がはぼ良好である
×:粒子破壊性が3以上であり、耐粒子破壊性が極めて不良である。
【0049】
(3)流動性
実施例又は比較例で得られた、アクリル系重合体粉末と可塑剤との混合物をラボプラストミル(東洋精機製作所社製)を用い回転数100rpmで5分間混合後、真空乾燥機で脱泡してアクリルゾルを調製した。調製1時間後に、BH型粘度計(トキメック社製)でローターNo.6を用い、回転数4及び10rpm、25℃でのアクリルゾルの粘度(それぞれV1及びV3とする)を測定した。下記の評価基準にしたがって流動性を評価した。
ゾル流動性=V3/V1
[ゾル流動性の評価基準]
○:ゾル流動性が2未満であり、ゾル流動性が極めて良好である。
△:ゾル流動性が2以上4未満であり、ゾル流動性がはぼ良好である
×:ゾル流動性が4以上であり、ゾル流動性が極めて不良である。
【0050】
(4)貯蔵安定性
実施例又は比較例で得られた、アクリル系重合体粉末と可塑剤との混合物をラボプラストミル(東洋精機製作所社製)を用い回転数100rpmで5分間混合後、真空乾燥機で脱泡してアクリルゾルを調製した。ついで、このアクリルゾルについて1時間静置後の25℃での粘度(V1)と30℃で5日間静置後の25℃での粘度(V4)をBH型粘度計(トキメック社製)でローターNo.6を用い、回転数4rpmで測定し、次式から粘度保持性を求め、下記の評価基準にしたがって貯蔵安定性を評価した。
粘度保持性=V4/V1
[貯蔵安定性の評価基準]
○:粘度保持性が2未満であり、貯蔵安定性が極めて良好である。
△:粘度保持性が2以上3未満であり、貯蔵安定性がはぼ良好である
×:粘度保持性が3以上であり、貯蔵安定性が極めて不良である。
【0051】
(5)皮膜均一性
実施例又は比較例で得られた、アクリル系重合体粉末と可塑剤との混合物をラボプラストミル(東洋精機製作所社製)を用い回転数100rpmで5分間混合後、真空乾燥機で脱泡してアクリルゾルを調製した。このアクリルゾルを基材にナイフコーターで塗布し、焼き付けを140℃で20分間行った後の硬化皮膜の状態を目視観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
[皮膜均一性の評価基準]
○:ブツなし
×:ブツあり
【0052】
(6)耐ブリードアウト性
実施例又は比較例で得られた、アクリル系重合体粉末と可塑剤との混合物をラボプラストミル(東洋精機製作所社製)を用い回転数100rpmで5分間混合後、真空乾燥機で脱泡してアクリルゾルを調製した。このアクリルゾルを基材にナイフコーターで塗布し、焼き付けを140℃で20分間行って硬化皮膜を形成させた後、25℃で1週間保持後の該皮膜表面において可塑剤のブリードアウト状態を目視観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
[耐ブリードアウト性の評価基準]
○:可塑剤のブリードアウトなし
×:可塑剤のブリードアウトあり
【0053】
以下、アクリル系重合体粒子の製造例を参考例に、アクリル系重合体粉末及びアクリルゾルの調製例及び該アクリルゾルの評価を実施例及び比較例に示す。また、参考例でのアクリル系重合体粒子の製造において各重合段階で用いた単量体組成を表1にまとめて示し、調製したアクリルゾルの組成を表2に示し、該アクリルゾルの評価を表3に示す。
【0054】
また参考例、実施例および比較例中に用いた略称を下記に示す。メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸n−ブチル(n−BMA)、メタクリル酸イソブチル(i−BMA)、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(2−HEMA)、アクリル酸n−ブチル(BA)、メタクリル酸(MAA)、アリルメタクリレート(ALMA)、ポリエチレングリコール#400ジメタクリレート(PEG9G)、n−オクチルメルカプタン(n−OM)、過硫酸カリウム(KPS)、ジイソノニルフタレート(DINP)、レゾルシノールビスジフェニルフォスフェート(RDP)。
【0055】
<参考例1>
アクリル系重合体(a−1)の製造
(1)攪拌機、温度計、窒素ガス導入部、単量体導入管及び還流冷却器を備えた反応器内に、脱イオン水800部、ラウリル硫酸ナトリウム0.01部及び炭酸ナトリウム0.8部を仕込み、容器内を窒素ガスで十分に置換して実質的に酸素がない状態にした後、内温を80℃に設定した。そこに、KPS0.08部を投入し、5分間攪拌した後、MMA30%、BA69.5%、PEG9G0.4%及びALMA0.1%からなる単量体混合物160部を60分かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
(2)次に、同反応器内に、KPS0.32部を投入して5分間攪拌した後、MMA90%、i―BMA5%及びMAA5%からなる単量体混合物640部とn−OM(連鎖移動剤)0.06部とを180分間かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに60分間重合反応を行って、アクリル系重合体粒子(a−1)を含むラテックスを得た。このアクリル系重合体粒子の平均粒子径は0.52μmであった。
【0056】
<参考例2>
アクリル系重合体(a−2)の製造
(1)攪拌機、温度計、窒素ガス導入部、単量体導入管及び還流冷却器を備えた反応器内に、脱イオン水800部、ラウリル硫酸ナトリウム0.06部及び炭酸ナトリウム0.3部を仕込み、容器内を窒素ガスで十分に置換して実質的に酸素がない状態にした後、内温を80℃に設定した。そこに、KPS0.06部を投入し、5分間攪拌した後、MMA15%、n−BMA15%、BA69.6%、PEG9G0.2%及びアリルメタクリレート0.2%からなる単量体混合物60部を60分かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
(2)次に、同反応器内に、KPS0.54部を投入して5分間攪拌した後、MMA80%、n−BMA10%及び2−HEMA10%からなる単量体混合物540部を180分間かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに60分間重合反応を行って、アクリル系重合体粒子(a−2)を含むラテックスを得た。このアクリル系重合体粒子の平均粒子径は0.32μmであった。
【0057】
<参考例3>
アクリル系重合体(a−3)の製造
(1)攪拌機、温度計、窒素ガス導入部、単量体導入管及び還流冷却器を備えた反応器内に、脱イオン水800部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.4部及び炭酸ナトリム0.4部を仕込み、容器内を窒素ガスで十分に置換して実質的に酸素がない状態にした後、内温を80℃に設定した。そこに、KPS0.12部を投入し、5分間攪拌した後、MMA40%及びi−BMA60%からなる単量体混合物300部を90分かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
(2)次に、同反応器内に、過硫酸カリウム0.28部を投入して5分間攪拌した後、MMA80%、i−BMA10%、2−HEMA5%及びMAA5%からなる単量体混合物300部を150分間かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに60分間重合反応を行って、アクリル系重合体粒子(a−3)を含むラテックスを得た。このアクリル系重合体粒子の平均粒子径は0.42μmであった。
【0058】
<参考例1’>
参考例1で得られたアクリル系重合体粒子(a−1)含有ラテックスと参考例2で得られたアクリル系重合体(a−2)含有ラテックスとを質量比2対8で混合した。この混合ラテックスにポリアクリル酸ナトリウム(アロンA−20L、東亞合成(株)製、重合度2,700〜7,500)を、混合ラテックス中のアクリル系重合体粒子100質量部に対し0.5質量部となるように添加し、十分攪拌し不溶物がないことを確認した。このラテックスをスプレードライヤー[L−8型、大川原化工機(株)製]を用いて粉体化し、平均粒子径30μmのアクリル系重合体粉末(A−1)を得た。この粉末100部にRDP120部を加え、上記の方法で耐粒子破壊性、流動性、貯蔵安定性、皮膜均一性及び耐ブリードアウト性を評価した。
【0059】
<参考例2>(後半)
参考例2(前半)で得られたアクリル系重合体(a−2)含有ラテックスにポリスチレンスルホン酸ナトリウム(ポリナスPS−5、東ソー(株)製、重量平均分子量50,000〜100,000)を、ラテックス中のアクリル系重合体粒子100質量部に対し1質量部となるように添加し、十分攪拌し不溶物がないことを確認した。このラテックスをスプレードライヤー[L−8型、大川原化工機(株)製]を用いて粉体化し、平均粒子径25μmのアクリル系重合体粉末(A−2)を得た。このアクリル系重合体粉末100部にRDP120部を加え、上記で示す評価を行った。
【0060】
<実施例3>
参考例3で得られたアクリル系重合体(a−3)含有ラテックスにポリアクリル酸ナトリウム(アロンA−20ML、東亞合成(株)製、重合度500〜1000)を、ラテックス中のアクリル系重合体粒子100質量部に対し0.1質量部となるように添加し、十分攪拌し不溶物がないことを確認した。このラテックスをスプレードライヤー[L−8型、大川原化工機(株)製]を用いて粉体化し、平均粒子径50μmのアクリル系重合体粉末(A−3)を得た。このアクリル系重合体粉末100部にDINP80部を加え、上記で示す評価を行った。
【0061】
<比較例1>
参考例1で得られたアクリル系重合体(a−1)含有ラテックスと参考例2で得られたアクリル系重合体(a−2)含有ラテックとを質量比2対8で混合した。この混合ラテックスにポリアクリル酸ナトリウム(アロンA−20L、東亞合成(株)製、重合度2,700〜7,500)を、ラテックス中のアクリル系重合体粒子100質量部に対し20質量部となるように添加し、十分攪拌し不溶物がないことを確認した。このラテックスをスプレードライヤー[L−8型、大川原化工機(株)製]を用いて粉体化し、平均粒子径30μmのアクリル系重合体粉末(A−4)を得た。このアクリル系重合体粉末100部にRDP120部を加え、実施例1と同様にして評価した。
【0062】
<比較例2>
参考例3で得られたアクリル系重合体(a−3)含有ラテックスをスプレードライヤー[L−8型、大川原化工機(株)製]を用いて粉体化し、平均粒子径25μmのアクリル系重合体粉末(A−5)を得た。このアクリル系重合体粉末100部にDINP80部を加え、実施例1と同様にして評価した。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
実施例1〜3は耐粒子破壊性、流動性、貯蔵安定性、皮膜均一性及び耐ブリードアウト性に優れる。水溶性高分子の使用量が本発明に規定する範囲を外れる比較例1は流動性、皮膜均一性及び耐ブリードアウト性において劣っており、また水溶性高分子を用いなかった比較例2は耐粒子破壊性、流動性及び貯蔵安定性において劣っている。
【0067】
【発明の効果】
本発明のアクリル系重合体粉末は、低粘度で、流動性、貯蔵安定性及び耐粒子破壊性に優れたアクリルゾルを与える。また、該アクリルゾルから得られる成形物は、耐ブリードアウト性及び皮膜均一性に優れ、さらに、塩ビゾルから得られる成形物と違って、焼却時に塩化水素ガスを発生させることがない。
Claims (4)
- アクリル系重合体粒子及び重量平均分子量が10,000以上の水溶性高分子を含有するラテックスを噴霧乾燥して得られるアクリル系重合体粉末であって;
・該アクリル系重合体粒子が、前段階重合体(I−a)を含むラテックス中で、後段階重合体(I−b)を形成させて得られる多段階重合体粒子であり、
前段階重合体(I−a)が、メタクリル酸メチル単位10質量%以上50質量%未満およびメタクリル酸メチルを除くメタクリル酸エステル単位50質量%を超え90質量%以下を含む、1段階又は互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応によって形成される共重合体であり、
後段階重合体(I−b)が、メタクリル酸メチル単位50質量%以上を含む、1段階又は互いに単量体組成の異なる連続した2段階以上の重合反応によって形成される共重合体であり、
前段階重合体(I−a)/後段階重合体(I−b)の質量比が10/90〜90/10であり;
・該水溶性高分子の使用量がアクリル系重合体粒子100質量部に対して0.001〜10質量部であり;
・平均粒子径が10〜50μm;
である該アクリル系重合体粉末。 - 水溶性高分子がポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のアクリル系重合体粉末。
- 請求項1または2に記載のアクリル系重合体粉末及び可塑剤を含有するアクリルゾル。
- 請求項3に記載のアクリルゾルから得られる成形物。
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