JP4490901B2 - 電子放出性薄膜の製造方法、電極基材及び電子放出装置 - Google Patents

電子放出性薄膜の製造方法、電極基材及び電子放出装置 Download PDF

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Description

本発明は、電子放出性薄膜の製造方法、電極基材及び電子放出装置に関する。
近年、省エネルギー化の要求から薄型テレビなどのディスプレイとして、例えばフィールド・エミッション・ディスプレイなどの自発光型平面表示装置が注目されている。フィールド・エミッション・ディスプレイには、電界を印加することによって電子を放出させる電子放出装置が用いられている。
このような電子放出装置は、電界電子放出装置とも呼ばれ、陰極と、陽極と、陰極側に設けられたゲート電極と、を有し、陰極側には突起状の電子放出部いわゆるエミッタが形成される。電子放出装置は、低電界における電子放出と、高電流密度と、長寿命と、が要求される。
電子放出装置の電子放出材料として、窒化アルミニウムやカーボンナノファイバーが提案されている。窒化アルミニウムを電子放出材料として用いた場合には、電子放出効率が低く、電子注入が難しいという課題があった(例えば、特許文献1参照)。また、カーボンナノファイバーは、低電界で高い電流密度を達成することができるが、電子放出時に破壊されるため、寿命が短かいことがわかった(例えば、特許文献2参照)。
特許第3580930号公報 特開2003−77386号公報
そこで、本発明の目的は、低電界における電子放出を可能とした、電子放出性薄膜の製造方法、電極基材及び電子放出装置を提供することにある。
本発明にかかる電子放出性薄膜の製造方法は、
エラストマーと、金属粒子と、カーボンナノファイバーと、を混合して複合エラストマーを得る工程(a)と、
前記複合エラストマーと溶剤とを混合し、塗布液を得る工程(b)と、
前記塗布液を基材に塗布し、塗膜を形成する工程(c)と、
前記塗膜を熱処理して前記塗膜に含まれるエラストマーを除去すると共に、金属溶湯を該塗膜中に浸透させて薄膜を形成する工程(d)と、
を有する。
また、本発明にかかる電子放出性薄膜の製造方法は、
エラストマーと、金属粒子と、カーボンナノファイバーと、を混合しかつ剪断力によって前記カーボンナノファイバーを前記エラストマー中に分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、
前記複合エラストマーと溶剤とを混合し、カーボンナノファイバーがエラストマー分子に絡まったままの状態で存在する塗布液を得る工程(b)と、
前記塗布液を基材に塗布し、塗膜を形成する工程(c)と、
前記塗膜を熱処理して前記塗膜に含まれるエラストマーを除去すると共に、金属溶湯を該塗膜中に浸透させて薄膜を形成する工程(d)と、
を有する。
本発明にかかる電子放出性薄膜の製造方法によれば、電子放出効率のよいカーボンナノファイバーが均一に分散された電子放出性薄膜を製造することができる。また、電子放出性薄膜の製造方法によれば、製造工程に超微細加工技術をほとんど必要とせず、低コストを実現することができる。このようにして得られた電子放出性薄膜は、長寿命でありながら、低電界における電子放出を可能とすることができる。また、電子放出性薄膜は、金属のマトリクスを有するので、電子注入が容易である。さらに、電子放出性薄膜は、工程(c)における塗布によって、大面積の基材に対しても薄膜を容易に形成することができる。
本発明にかかる電子放出性薄膜の製造方法において、前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmとすることができる。
本発明にかかる電子放出性薄膜の製造方法において、前記金属粒子は、アルミニウムを含む粒子とすることができる。
本発明にかかる電子放出性薄膜の製造方法において、前記金属溶湯は、アルミニウムを含む溶湯とすることができる。
本発明にかかる電子放出性薄膜の製造方法において、前記工程(d)は、前記塗膜に含まれるエラストマーを分解気化させて除去する第1の熱処理工程(d−1)と、
エラストマーが除去された前記塗膜に前記金属溶湯を浸透させる第2の熱処理工程(d−2)と、
を含むことができる。
本発明にかかる電子放出性薄膜の製造方法において、前記第2の熱処理工程は、窒素雰囲気内で行なうことができる。
本発明にかかる電子放出性薄膜の製造方法において、前記工程(d)で形成された前記薄膜の表面を研磨することができる。このように表面が研磨された電子放出性薄膜は、膜厚が均一になるため、しきい値電界が低下し、飽和電流密度が増大する。また、研磨によって表面粗度を小さくすることで、薄膜の全体において均一な電子放出が可能となる。
本発明におけるエラストマーは、ゴム系エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。原料エラストマーとしては、ゴム系エラストマーの場合、無架橋体が用いられる。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施の形態にかかる電子放出性薄膜の製造方法は、エラストマーと、金属粒子と、カーボンナノファイバーと、を混合して複合エラストマーを得る工程(a)と、前記複合エラストマーと溶剤とを混合し、塗布液を得る工程(b)と、前記塗布液を基材に塗布し、塗膜を形成する工程(c)と、前記塗膜を熱処理して前記塗膜に含まれるエラストマーを除去すると共に、金属溶湯を該塗膜中に浸透させて薄膜を形成する工程(d)と、を有する。
また、本実施の形態にかかる電子放出性薄膜の製造方法は、エラストマーと、金属粒子と、カーボンナノファイバーと、を混合しかつ剪断力によって前記カーボンナノファイバーを前記エラストマー中に分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、前記複合エラストマーと溶剤とを混合し、カーボンナノファイバーがエラストマー分子に絡まったままの状態で存在する塗布液を得る工程(b)と、前記塗布液を基材に塗布し、塗膜を形成する工程(c)と、前記塗膜を熱処理して前記塗膜に含まれるエラストマーを除去すると共に、金属溶湯を該塗膜中に浸透させて薄膜を形成する工程(d)と、を有する。
(A)まず、エラストマーについて説明する。
エラストマーは、分子量が好ましくは5000ないし500万、さらに好ましくは2万ないし300万である。エラストマーの分子量がこの範囲であると、エラストマー分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、エラストマーは、凝集したカーボンナノファイバーの相互に侵入しやすく、したがってカーボンナノファイバー同士を分離する効果が大きい。エラストマーの分子量が5000より小さいと、エラストマー分子が相互に充分に絡み合うことができず、後の工程で剪断力をかけてもカーボンナノファイバーを分散させる効果が小さくなる。また、エラストマーの分子量が500万より大きいと、エラストマーが固くなりすぎて加工が困難となる。
エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃、観測核が で測定した、未架橋体におけるネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100ないし3000μ秒、より好ましくは200ないし1000μ秒である。上記範囲のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)を有することにより、エラストマーは、柔軟で充分に高い分子運動性を有することができる。このことにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合したときに、エラストマーは高い分子運動によりカーボンナノファイバー相互の隙間に容易に侵入することができる。スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が100μ秒より短いと、エラストマーが充分な分子運動性を有することができない。また、スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が3000μ秒より長いと、エラストマーが液体のように流れやすくなり、カーボンナノファイバーを分散させることが困難となる。
また、エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃、観測核が で測定した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし2000μ秒であることが好ましい。その理由は、上述した未架橋体と同様である。すなわち、上記の条件を有する未架橋体を本発明の製造方法によって架橋化すると、得られる架橋体のT2nはおおよそ上記範囲に含まれる。
パルス法NMRを用いたハーンエコー法によって得られるスピン−スピン緩和時間は、物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、パルス法NMRを用いたハーンエコー法によりエラストマーのスピン−スピン緩和時間を測定すると、緩和時間の短い第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する第1の成分と、緩和時間のより長い第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する第2の成分とが検出される。第1の成分は高分子のネットワーク成分(骨格分子)に相当し、第2の成分は高分子の非ネットワーク成分(末端鎖などの枝葉の成分)に相当する。そして、第1のスピン−スピン緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえる。また、第1のスピン−スピン緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
パルス法NMRにおける測定法としては、ハーンエコー法でなくてもソリッドエコー法、CPMG法(カー・パーセル・メイブーム・ギル法)あるいは90゜パルス法でも適用できる。ただし、本発明にかかるエラストマーは中程度のスピン−スピン緩和時間(T2)を有するので、ハーンエコー法が最も適している。一般的に、ソリッドエコー法および90゜パルス法は、短いT2の測定に適し、ハーンエコー法は、中程度のT2の測定に適し、CPMG法は、長いT2の測定に適している。
エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーの場合、特にその末端のラジカルに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するか、もしくは、このようなラジカルまたは基を生成しやすい性質を有する。かかる不飽和結合または基としては、二重結合、三重結合および官能基から選択される少なくともひとつであることができる。このような官能基としては、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などがある。
カーボンナノファイバーは、通常、側面は炭素原子の6員環で構成され、先端は5員環が導入されて閉じた構造となっているが、構造的に無理があるため、実際上は欠陥を生じやすく、その部分にラジカルや官能基を生成しやすくなっている。本実施の形態では、エラストマーの主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーのラジカルと親和性(反応性または極性)が高い不飽和結合や基を有することにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを結合することができる。このことにより、カーボンナノファイバーの凝集力にうち勝ってその分散を容易にすることができる。そして、エラストマーと、カーボンナノファイバーと、を混練する際に、エラストマーの分子鎖が切断されて生成したフリーラジカルは、カーボンナノファイバーの欠陥を攻撃し、カーボンナノファイバーの表面にラジカルを生成すると推測できる。
エラストマーとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、エピクロルヒドリンゴム(CO,CEO)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などのゴム類;オレフィン系(TPO)、ポリ塩化ビニル系(TPVC)、ポリエステル系(TPEE)、ポリウレタン系(TPU)、ポリアミド系(TPEA)、スチレン系(SBS)、などの熱可塑性エラストマー;およびこれらの混合物を用いることができる。特に、エラストマーの混練の際にフリーラジカルを生成しやすい極性の高いエラストマー、例えば、天然ゴム(NR)、ニトリルゴム(NBR)などが好ましい。また、極性の低いエラストマー、例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM)であっても、混練の温度を比較的高温(例えばEPDMの場合、50℃〜150℃)とすることで、フリーラジカルを生成するので本発明に用いることができる。
(B)次に、カーボンナノファイバーについて説明する。
本実施の形態にかかる複合エラストマーは、カーボンナノファイバーを1〜50重量%の割合で含むことが好ましい。
カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmであることが好ましく、電子放出効率を向上させるためには0.5ないし30nmであることがさらに好ましい。さらに、カーボンナノファイバーは、ストレート繊維状であっても、湾曲繊維状であってもよい。
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラフェンシートが円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造を有する。すなわち、カーボンナノチューブは、単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有するカーボンナノファイバーも使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。
アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。
レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。
気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。
カーボンナノファイバーは、エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
(C)次に、エラストマーと、金属粒子と、カーボンナノファイバーと、を混合して複合エラストマーを得る工程(a)について説明する。
工程(a)は、エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させることが好ましく、オープンロール法、密閉式混練法、多軸押出し混練法、などを用いて行うことができる。
本実施の形態では、工程(a)として、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロール法を用いた例について述べる。
図1は、2本のロールを用いたオープンロール法を模式的に示す図である。図1において、符号10は第1のロールを示し、符号20は第2のロールを示す。第1のロール10と第2のロール20とは、所定の間隔d、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.1ないし0.5mmの間隔で配置されている。第1および第2のロールは、正転あるいは逆転で回転する。図示の例では、第1のロール10および第2のロール20は、矢印で示す方向に回転している。第1のロール10の表面速度をV1、第2のロール20の表面速度をV2とすると、両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05ないし3.00であることが好ましく、さらに1.05ないし1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。まず、第1,第2のロール10,20が回転した状態で、第2のロール20に、エラストマー30を巻き付けると、ロール10,20間にエラストマーがたまった、いわゆるバンク32が形成される。このバンク32内に第1の金属粒子41及び第2の金属粒子42を加えて、さらに第1,第2のロール10,20を回転させることにより、エラストマー30と、第1、第2の金属粒子41,42と、を混合する工程が行われる。なお、第1、第2の金属粒子41,42については、後述する。ついで、このエラストマー30と第1、第2の金属粒子41、42とが混合されたバンク32内にカーボンナノファイバー40を加えて、第1、第2のロール10,20を回転させる。さらに、第1,第2ロール10,20の間隔を狭めて前述した間隔dとし、この状態で第1,第2ロール10,20を所定の表面速度比で回転させる。これにより、エラストマー30に高い剪断力が作用し、この剪断力によって凝集していたカーボンナノファイバーが1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、エラストマー30に分散される。さらに、ロールによる剪断力はエラストマー内に分散された金属粒子41、42のまわりに乱流状の流動を発生させる。この複雑な流動によってカーボンナノファイバーはさらにエラストマー30に分散される。なお、第1、第2の金属粒子41、42の混合前に、エラストマー30とカーボンナノファイバー40とを先に混合すると、カーボンナノファイバー40にエラストマー30の動きが拘束されてしまうため、金属粒子41,42を混合することが難しくなる。したがって、エラストマー30にカーボンナノファイバー40を加える前に第1、第2の金属粒子41、42を混合することが好ましい。
また、この工程(a)では、剪断力によって剪断されたエラストマーにフリーラジカルが生成され、そのフリーラジカルがカーボンナノファイバーの表面を攻撃することで、カーボンナノファイバーの表面は活性化される。例えば、エラストマーに天然ゴム(NR)を用いた場合には、各天然ゴム(NR)分子はロールによって混練される間に切断され、オープンロールへ投入する前よりも小さな分子量になる。このように切断された天然ゴム(NR)分子にはラジカルが生成しており、混練の間にラジカルがカーボンナノファイバーの表面を攻撃するので、カーボンナノファイバーの表面が活性化する。
さらに、この工程(a)では、できるだけ高い剪断力を得るために、エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合は、好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の比較的低い温度で行われる。オープンロール法を用いた場合には、ロールの温度を上記の温度に設定することが望ましい。第1,第2ロール10,20の間隔dは、もっとも狭めた状態においても第1、第2の金属粒子41、42の平均粒径よりも広く設定することで、エラストマー30中のカーボンナノファイバー40の分散を良好に行うことができる。
このとき、本実施の形態のエラストマーは、上述した特徴、すなわち、エラストマーの分子形態(分子長)、分子運動、カーボンナノファイバーとの化学的相互作用などの特徴を有することによってカーボンナノファイバーの分散を容易にするので、分散性および分散安定性(カーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れた複合エラストマーを得ることができる。より具体的には、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、分子長が適度に長く、分子運動性の高いエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。この状態で、エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物に強い剪断力が作用すると、エラストマーの移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散されることになる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、エラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程は、上記オープンロール法に限定されず、既に述べた密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノファイバーを分離できる剪断力をエラストマーに与え、エラストマー分子にラジカルを生成させることができればよい。
エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合・分散工程において、あるいは続いて、通常、ゴムなどのエラストマーの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などを挙げることができる。
(D)次に、第1、第2の金属粒子について説明する。
工程(a)で用いられた第1、第2の金属粒子41,42は、カーボンナノファイバーの分散性を良好にするために、使用するカーボンナノファイバーの平均直径よりも大きい平均粒径であることが好ましく、電子放出性薄膜の厚さよりも小さい粒径であることが好ましい。第1、第2の金属粒子41,42は、例えば平均粒径が1〜100μm、好ましくは10〜60μmである。また、第1、第2の金属粒子41,42の形状は、球形粒状に限らず、混合時に第1、第2の金属粒子41,42のまわりに乱流状の流動が発生する形状であれば平板状、りん片状であってもよい。
第1の金属粒子41は、工程(d)において還元剤となる物質である。第1の金属粒子41は、カーボンナノファイバーより融点の低い金属もしくは半金属であることが好ましく、より好ましくは融点が1000℃以下の低融点(高蒸気圧)金属もしくは半金属が好ましい。第1の金属粒子41は、金属粒子42及び工程(d)における金属溶湯の還元剤としてもマグネシウムを含む粒子が好ましい。
第2の金属粒子42は、電子放出性薄膜のマトリクスとなる金属であることが好ましい。また、第2の金属粒子42は、カーボンナノファイバーより融点の低い金属であり、かつ第1の金属粒子41よりも融点の高い金属であることが好ましい。第1の金属粒子41の融点が上記の条件を満たせば、工程(d)における熱処理によってカーボンナノファイバーに損傷を与えることなく第1の金属粒子41を気化させることができる。第2の金属粒子42が工程(d)における金属溶湯と同じ材質である場合、III属元素例えばアルミニウム、ガリウム、インジウムなどの大きなバンドギャップが得られる元素が好ましい。第2の金属粒子42は、導電性のよい材質が好ましく、軽量で加工性のよいアルミニウムを含む粒子が好ましい。
なお、ここでいう金属はいわゆる合金を含み、例えばマグネシウムはマグネシウム合金を含み、またアルミニウムはアルミニウム合金を含む。
(E)次に、上記工程(a)によって得られた複合エラストマーについて述べる。
図2は、本実施の形態にかかる複合エラストマーの一部を拡大して示す模式図である。工程(a)で2種類の金属粒子を混合させた場合には、金属粒子もエラストマー30中に分散されるが、図2では省略した。
本実施の形態の複合エラストマー4は、図2に示すように、基材であるエラストマー30にカーボンナノファイバー40が均一に分散されている。複合エラストマー4の分子運動性をパルス法NMRを用いてハーンエコー法によって測定することでカーボンナノファイバー40の分散状態を推定することができる。本実施の形態にかかる複合エラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)及びスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より短くなる。また、複合エラストマーの第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より小さくなる。
以上のことから、本実施の形態にかかる複合エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって得られる測定値が以下の範囲にあることが望ましい。
すなわち、未架橋体において、150℃、観測核が で測定した、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)は存在しないか、あるいは1000ないし10000μ秒であり、さらに第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることが好ましい。
パルス法NMRを用いたハーンエコー法により測定されたスピン−格子緩和時間(T1)は、スピン−スピン緩和時間(T2)とともに物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、エラストマーのスピン−格子緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえ、そしてスピン−格子緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
なお、複合エラストマーは、工程(d)において分解気化しやすくするために、未架橋体のまま工程(b)に用いられることが好ましい。
(F)次に、複合エラストマーと溶剤とを混合し、塗布液を得る工程(b)について説明する。
本実施の形態にかかる工程(b)は、工程(a)で得られた複合エラストマーと溶剤とを混合させ、カーボンナノファイバーが懸濁した塗布液を得る。複合エラストマーは、カーボンナノファイバーとエラストマーとの濡れがよいため、溶剤中に混合させても沈殿しない。これは、カーボンナノファイバーが、エラストマー分子に絡まったままの状態で塗布液中に均一に懸濁するためである。
この工程で用いられる溶剤は、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系やシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系などの溶媒の1種以上を含むものをエラストマーの種類によって適宜選択することができる。溶剤としては、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シンナー(混合溶剤)、エチレングリコール、モノエチルエーテル(別名セロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(別名セロソルブアセテート)、エチレングリコールモノブチルエーテル(別名ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノメチルエーテル(別名メチルセロソルブ)、オルト−ジクロロベンゼン、クロルベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素、1,4−ジオキサン、1,2−ジクロルエタン(別名二塩化エチレン)、1,2−ジクロルエチレン(別名二塩化アセチレン)、1,1,2,2−テトラクロルエタン(別名四塩化アセチレン)、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド、スチレン、テトラクロルエチレン(別名パークロルエチレン)、トリクロルエチレン、1,1,1−トリクロルエタン、二硫化炭素、ノルマルヘキサン、アセトン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコール、エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、オルト−ジクロルベンゼン、キシレン(オルト)、キシレン(メタ)、キシレン(パラ)、クレゾール(オルト)、クレゾール(メタ)、クレソール(パラ)、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ペンチル、酢酸メチル、シクロヘキサノール、1,4−ジオキサン、ジクロルメタン、テトラヒドロフラン、ノルマルヘキサン、1−ブタノール、2−ブタノール、メタノール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、メチルブチルケトン、工業ガソリン、コールタールナフサ(ソルベントナフサ)、石油エーテル、石油ナフサ(軽質)、石油ナフサ(重質)、石油ベンジン、テレビン油、ミネラルスピリットなどの有機溶剤などから適宜エラストマーに合わせて選択することができる。例えば、複合エラストマーのエラストマーが天然ゴム(NR)やスチレン系(SBS)の場合にはトルエン、EPDMの場合にはシクロヘキサンが用いられる。
(G)次に、塗布液を基材に塗布し、塗膜を形成する工程(c)について説明する。
本実施の形態にかかる工程(c)は、基材として例えば円盤状の基板上に、工程(b)で得られた塗布液を均一の厚さに塗布する方法を採用することができる。そのような塗布する方法としては、スピンコート法、ディッピング法、スクリーン印刷法、静電塗装などのスプレー法、インクジェット法から選ばれる方法によって実施されることが好ましい。さらに、このようにして塗布された塗布液は、減圧恒温炉中で凍結乾燥や熱処理乾燥、あるいは紫外線などによる硬化によって塗膜を形成する。塗膜の膜厚は、塗布する方法によって異なるが、例えば0.5〜30μmが好ましい。
基材としては、金、銅、アルミニウムなどの金属、シリコンウエハなどの半導体、ガラス、高分子材料などを用いることができる。
工程(b)で得られた塗布液には、カーボンナノファイバーが沈殿することなく均一に懸濁しているため、スクリーン印刷法などの塗布法によって基材にカーボンナノファイバーを均一に分散させることができる。
(H)次に、基材に形成された塗膜について説明する。
本実施の形態にかかる製造方法で基材に形成された塗膜は、複合エラストマーと同様に、カーボンナノファイバーが均一に分散されている。
また、本実施の形態にかかる塗膜におけるカーボンナノファイバーの分散の状態は、薄膜を電子スピン共鳴(以下、ESR)分光装置を用いて線幅の測定を行うことで判定することもできる。さらに、ESR分光装置を用いて炭素の不対電子のシグナルのg値を測定することで、本実施の形態にかかる薄膜の電磁気的特性も判定することができる。
(I)次に、塗膜を熱処理して前記塗膜に含まれるエラストマーを除去すると共に、金属溶湯を該塗膜中に浸透させて薄膜を形成する工程(d)について説明する。
工程(d)は、工程(c)で得られた塗膜に含まれるエラストマーを分解気化させて除去する第1の熱処理工程(d−1)と、エラストマーが除去された塗膜に金属溶湯を浸透さ
せる第2の熱処理工程(d−2)と、を含むことができる。
以下、工程(d)について、図3〜図5を用いて説明する。図3〜図5は、非加圧浸透法によって電子放出性薄膜を製造する装置の概略構成図である。
第1の熱処理工程(d−1)は、まず図3に示すように、工程(c)で得られた塗膜5が表面に形成された基板4を、密閉された容器1内に配置する。このとき、容器1の室内を容器1に接続された減圧手段2例えば真空ポンプによって脱気してもよい。さらに、容器1に接続された注入手段3から窒素ガスを容器1内へ導入し、窒素雰囲気としてもよい。注入手段としては、例えば窒素ガスボンベを用いることができ、導入される窒素ガスには少量ではあるが酸素が含まれてもよい。
次に、容器1に内蔵された図示せぬ加熱手段によって、容器1内に配置された基板4及び塗膜5をエラストマーの分解気化温度以上まで昇温して第1の熱処理工程(d−1)を行なう。加熱された塗膜5を構成する材料の内、最も融点の低いエラストマーが分解気化し、ほとんどのエラストマーが除去される。第1の熱処理工程(d−1)において、塗膜5に含まれるエラストマーの全てを除去せず、一部を炭化した状態でカーボンナノファイバーや第1及び第2の金属粒子に付着させて残してもよい。
第1の熱処理工程(d−1)によって塗膜5は、第1及び第2の金属粒子とカーボンナノファイバーからなる多孔質の膜になる。このような多孔質の膜における空孔をより均一なサイズにするために、多孔質の膜を基板4側へ加圧して緻密化してもよい。
第2の熱処理工程(d−2)は、図4に示すように、第1の熱処理工程(d−1)によって得られた基板4の上方にマトリクスとなる金属の塊6(例えばアルミニウム塊)を配置する。そして、容器1内を減圧手段2によって脱気し、注入手段3から窒素ガスを導入し、窒素雰囲気とする。さらに、容器1に内蔵された図示せぬ加熱手段によって、基板4及び金属の塊6を該金属の融点以上まで徐々に昇温して第2の熱処理工程(d−2)を行なう。第2の熱処理工程(d−2)によって金属の塊6よりも融点の低い第1の金属粒子(例えば、アルミニウムより融点の低いマグネシウム粒子)が気化して容器1内を還元雰囲気とする。さらに金属の塊6は、溶融して金属溶湯となり、エラストマーが分解気化してできた空所に浸透する。このとき、容器1内が還元雰囲気となっていることによって、金属溶湯を第2の金属粒子間に毛細管現象によって容易に浸透させることができる。そして、容器1の加熱手段による加熱を停止させ、金属溶湯を冷却・凝固させてマトリクスの金属を形成する。塗膜の空孔に金属溶湯が浸透し凝固することで、マトリクスの金属中にカーボンナノファイバーが均一に分散された状態となる。このようにして、図5に示すような電子放出性薄膜7が形成された基板4を製造することができる。
また、本実施の形態のように工程(a)で第1の金属粒子を混合してもよいが、工程(d)の容器1内に第1の金属粒子と同じ金属の塊を配置してもよい。工程(d)における金属の塊6は、第2の金属粒子と同じ金属であることが好ましく、ここでいう金属は金属合金も含み、例えばアルミニウムはアルミニウム合金も含む。マトリクスとなる金属の塊5は、導電性のよい金属が好ましく、また、周辺相の主成分となる金属でもあるため、III族元素例えばアルミニウム、ガリウム、インジウムなどが好ましい。III族元素は、V族元素例えば窒素、リン、ヒ素、アンチモンなどの元素と結合してバンドギャップが大きなIII−V族半導体を形成する。したがって、第2の熱処理工程(d−2)で用いられた窒素雰囲気を他のV族元素のガスにしてもよいが、工業的には窒素が望ましい。
また、上記実施の形態においては非加圧浸透法について説明したが、浸透法であればこれに限らず例えば不活性ガスなどの雰囲気の圧によって加圧する加圧浸透法を用いることもできる。上記実施の形態においては、第1の熱処理工程(d−1)と第2の熱処理工程(d−2)とを分けたが、同じ容器1内であれば、第1の熱処理工程(d−1)を行なう際に金属の塊6を基板4上に配置して、第1の熱処理工程(d−1)に引き続いて第2の熱処理工程(d−2)を行なってもよい。また、第2の熱処理工程(d−2)において金属溶湯を得るために金属の塊を基板上に配置したが、第2の熱処理工程(d−2)においては金属溶湯が塗膜に浸透すればよく、例えば、基板4上に金属溶湯を滴下してもよい。
(J)次に、電子放出性薄膜及び基材について説明する。
図6は、工程(d)で得られた基板4上に形成された電子放出性薄膜の一部を拡大して示す模式図である。電子放出性薄膜7は、第2の熱処理工程(d−2)で塗膜に浸透して固化したマトリクスの金属60中にカーボンナノファイバー40が分散されている。カーボンナノファイバー40の周囲には、非晶質の周辺相70が形成される。
周辺相70は、第2の熱処理工程(d−2)における雰囲気ガスが例えば窒素と少量の酸素とを含み、マトリクス60の金属がアルミニウムである場合、カーボンナノファイバー40の周囲に、アルミニウム、窒素及び酸素を含む非晶質の周辺相70として形成される。特に、周辺相70は、主な構成元素がマトリクス60の金属と同じアルミニウムであり、マトリクス60の結晶質アルミニウムとの濡れ性が良好である。また、既に知られているように、結晶状態の窒化アルミニウム(AlN)が電子放出性薄膜として好ましい評価を得ていることから、周辺相70がアルミニウムと窒素と酸素(Al/N/O)を主な成分とした非晶質相であるので、電子放出効率が好ましい材料であると推測できる。したがって、電子放出効率のよいカーボンナノファイバーの周囲を、アルミニウムと窒素と酸素(Al/N/O)の非晶質の周辺相で覆うことで、電子放出効率の高い電子放出性薄膜を得ることができる。
電子放出性薄膜7に占める周辺相70の割合は、カーボンナノファイバー40の含有量によって容易に増減でき、また、工程(d−2)における熱処理時間によっても調整することができる。なお、周辺相70のアルミニウムと窒素と酸素(Al/N/O)の生成割合は、約10/9/1であるが、工程(d−2)における窒素雰囲気の酸素濃度や供給する窒素の流量などにより調整することができる。電子放出性薄膜7における周辺相70の組成については、電界放射走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で観察し、照射点近傍の元素分析によって調べることができる。
また、周辺相70は、例えば窒化アルミニウムからなる結晶質相を含むことができる。例えば、工程(d−2)で得られた電子放出性薄膜をさらに高温で熱処理することで非晶質のアルミニウムと窒素と酸素(Al/N/O)の周辺相が結晶化して、周辺相の一部もしくは全部を窒化アルミニウムとすることができる。
電子放出性薄膜7におけるカーボンナノファイバー40の表面は、カーボンナノファイバー40を構成する炭素原子と酸素との化合物層(例えば酸化物層)に覆われ、さらに酸素と第1の金属粒子を構成する元素例えばマグネシウムとの反応物層に覆われた構造を有している。カーボンナノファイバー40と周辺相70とは、これら酸化物層によって濡れ性がよい。このようにカーボンナノファイバーの周りが濡れ性のよい周辺相70に覆われているため、これまで短寿命であるとされてきたカーボンナノファイバーを長寿命化できる。また、もともとカーボンナノファイバーは電子放出効率がよいため、カーボンナノファイバー40及び周辺相70を含む電子放出性薄膜7も低電界で効率よく電子放出することができる。このようなカーボンナノファイバーの表面構造については、X線分光分析(XPS)やEDS分析(Energy Dispersive Spectrum)によっても解析することができる。
電子放出性薄膜7におけるマトリクス60は、金属例えばアルミニウムの連続相である。したがって、電子放出性薄膜7が形成された基板4を電極基材として利用することができる。電子放出性薄膜7のマトリクスが例えばアルミニウムのような良導体で形成されることで、電子放出性薄膜7への電子注入が容易である。
(K)次に、工程(d)で形成された薄膜の表面を研磨する工程について説明する。
電子放出性薄膜7が形成された基板4を電極基板として用いる場合には、電子放出性薄膜7の表面を研磨することが好ましい。研磨方法としては、一般的な表面研磨方法が採用でき、例えば、サンドペーパによる研磨や、バフ仕上げなどを採用することができる。
このようにして得られた電子放出性薄膜は、膜厚が均一に形成されるため、しきい値電界を低下させることができ、飽和電流密度を増大させることができる。また、研磨することで電子放出性薄膜の表面粗度が小さくなるため、薄膜の表面全体において均一な電子放出が可能となる。
また、電子放出性薄膜の表面を例えば、アルゴンイオンなどの気体イオンによるエッチング、フッ酸、塩酸、硝酸などの液体を用いたウェットエッチング、サンドブラスト加工などで、電子放出性薄膜7の表面にあるマトリクス金属例えばアルミニウムをエッチングによって除去することができ、非晶質の周辺相70が現れることで電子放出効率を向上させることができる。
(L)最後に、電子放出装置について説明する。
図7は、本実施の形態にかかる電子放出装置を用いたフィールド・エミッション・ディスプレイの構成を示す模式図である。フィールド・エミッション・ディスプレイ100は、前記工程(d)で得られた電子放出性薄膜7を陰極82として形成した陰極基板4と、ゲート電極80を挟んで、陰極82から所定の間隔をあけて対向配置されたガラス基板90と、を例えば真空気密容器中に有している。ガラス基板90の陰極82側には陽極92及び蛍光体94が積層して形成されている。したがって、フィールド・エミッション・ディスプレイ100は、陰極82と、陽極92と、陰極82と陽極92との間に配置されたゲート電極80と、を具備する、電子放出装置を含む。
陰極82とゲート電極80間へ電圧を印加すると、電子放出性薄膜7で形成された陰極82のゲート電極80側の表面から陽極92へ向かって電子(e)を放出する。陰極82から放出された電子(e)は、陽極92に向かって進行し、蛍光体94に当たることによって生じる発光を利用して像を表示することができる。陰極82のゲート電極80側の表面は、サンドペパーなどで表面研磨されて周辺相70が多少突出して現れている。このように陰極82のゲート電極80側の表面に現れた周辺相70の少なくとも一部が電子放出部としてのエミッタとして電子(e)を放出すると推測される。特に、カーボンナノファイバー40によって表面に現れている周辺相70に電子が効率よく供給されるため、電子放出性薄膜7は高い電子放出効率が得られると推測される。したがって、陰極82のゲート電極80側の表面に研磨やエッチングによって周辺相70からなる突起状の電子放出部としてのエミッタを形成してもよいし、研磨やエッチングしなくても表面全体が電子放出性薄膜7で形成されているためエミッタとして機能することができる。
このような電子放出装置は、全体に分散されたカーボンナノファイバー及び周辺相によって電子放出効率が高く、電子放出性薄膜のマトリクスが金属例えばアルミニウムであるため電子注入が容易である。また、カーボンナノファイバーは、非晶質の周辺相に覆われているため、長寿命である。
このようにして得られた電子放出性薄膜、電極基板及び電子放出装置は、フィールド・エミッション・ディスプレイの他、各種用途に用いることができる。例えば、電極基板の表面全体を発光させることで、面発光体(面蛍光体)としてもよいし、あるいは蛍光ランプ、電子顕微鏡、プラズマディスプレイなどの熱陰極動作または冷陰極動作による放電を利用する各種電極として用いることができる。
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜3、比較例1、2)
(1)サンプルの作製
(a)複合エラストマーの作製
第1の工程:ロール径が6インチのオープンロール(ロール温度10〜20℃)に、表1に示す所定量(100g)の天然ゴム(100重量部(phr))を投入して、ロールに巻き付かせた。
第2の工程:天然ゴムに対して表1に示す量(重量部)のマグネシウム粒子及びアルミニウム粒子を天然ゴムに投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。なお、投入したマグネシウム粒子及びアルミニウム粒子の詳細については後述する。
第3の工程:次に、マグネシウム粒子及びアルミニウム粒子を含む天然ゴムに対して表1に示す量(重量部)のカーボンナノファイバー(表1では「CNT」と記載する)を投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。
第4の工程:カーボンナノファイバーを投入し終わったら、天然ゴムとカーボンナノファイバーとの混合物をロールから取り出した。
第5の工程:ロール間隙を1.5mmから0.3mmと狭くして、混合物を投入して薄通しをした。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し10回行った。
第6の工程:ロールを所定の間隙(1.1mm)にセットして、薄通しした混合物を投入し、分出しした。
このようにして、実施例の複合エラストマーを得た。なお、実施例1〜3、比較例1において、マグネシウム粒子としては平均粒径45μmのマグネシウム粒子を用い、アルミニウム粒子としては平均粒径28μmの純アルミニウム粒子(99.7%がアルミニウム)を用いた。カーボンナノファイバーは、直径(繊維径)が約10〜20nmのものを用いた。
(b)塗布液の作製
前記(a)で得られた複合エラストマーを、液温70℃のトルエンに浸漬し、攪拌しながら混合し、実施例1〜3の塗布液を得た。実施例1のトルエンの量は複合エラストマーの10倍であり、実施例2、3のトルエンの量は複合エラストマーの5倍である。トルエンの量を変えることで塗膜の膜厚を調整した。
(c)塗膜の作製
前記(b)で得られた塗布液を、表1に示す材質の基板の表面にスクリーン印刷法で塗布
し、実施例1〜3の塗膜を得た。スクリーン印刷法は、スペーサの厚さが100μm、塗布速度が10mm/secであった。基板は、銅(表1では「Cu」と記載した)及びガ
ラスが用いられ、基板のサイズは100×100×1mmであった。
(d)電子放出性薄膜の作製
前記(c)で得られた塗膜が形成された基板を容器(炉)内に配置させ、300℃で1時間、第1の熱処理工程を実施した。第1の熱処理工程によって塗膜中のエラストマーが分解気化されて除去された。さらに、基板上(塗膜の上)に100×100×3mmのアルミニウム塊(純アルミニウムインゴット)を置き、不活性ガス(微量の酸素を含む窒素)雰囲気中でアルミニウムの融点(800℃)まで昇温し、第2の熱処理工程を実施した。この昇温の過程において、まず、マグネシウムが気化し、さらに、アルミニウム塊が溶融した。アルミニウムの溶湯は、マグネシウムによってその表面が還元され、分解気化したエラストマーと置換するように塗膜中に浸透した。アルミニウムの溶湯を浸透させた後、これを自然放冷して凝固させ、電子放出性薄膜が形成された基板を得た。
比較例1は、前記(a)で得られた複合エラストマーをそのまま前記(d)と同様の熱処理を実施し、電子放出性の基板を作製した。比較例2は、純アルミニウムの陰極基板の表面にシリカをドープした窒化アルミニウム(表1ではSiドープAlNと記載した)を電子放出性の基板とした。
(e)電子放出装置の作製
前記(d)で得られた実施例1〜3及び比較例1、2の基板を陰極基板として設置し、ゲート電極を挟んでITOガラス基板を陰極基板に対向配置させた。ITOガラス基板の表面には、陽極及び蛍光体が形成された。陰極基板とガラス基板(蛍光体)の電極間隔は150μmとした。実施例1〜3の電子放出性薄膜の表面は、#1500のサンドペーパで研磨し、さらにバフ研磨して均一な膜厚に調整するとともに表面を平滑化した。比較例1、2の電子放出性薄膜の表面には加工を施さず、ゲート電極と対向する面全体をエミッタとした。各サンプルの表面粗度をラフネスメータで計測し、その結果を表1に示した。
(2)パルス法NMRを用いた測定
原料エラストマーの天然ゴムについて、パルス法NMRを用いてハーンエコー法による測定を行った。この測定は、日本電子(株)製「JMN−MU25」を用いて行った。測定は、観測核がH、共鳴周波数が25MHz、90゜パルス幅が2μsecの条件で行い、ハーンエコー法のパルスシーケンス(90゜x−Pi−180゜x)にて、Piをいろいろ変えて減衰曲線を測定した。また、サンプルは、磁場の適正範囲までサンプル管に挿入して測定した。測定温度は150℃であった。この測定によって、原料エラストマー単体の第1スピン−スピン緩和時間(T2n)と、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)と、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)と、を求めた。なお、測定温度が30℃の場合における原料エラストマー単体の第1スピン−スピン緩和時間(T2n)についても求めた。測定結果を表1に示す。
(3)走査型電子顕微鏡による観察
実施例1〜3及び比較例1の電子放出性薄膜の電子顕微鏡(SEM)におけるカーボンナノファイバーの分散状態の観察では、カーボンナノファイバーの凝集はほとんど観察されず良好であった。
(4)周辺相の解析
(4−1)X線回折による結晶構造の分析
実施例1〜3及び比較例1の電子放出性薄膜を、X線回折(XRD)によって結晶構造の分析を行なった。結晶成分として検出された成分は、ほとんどがアルミニウムであり、電子放出性薄膜の約40重量%をしめる周辺相(表1には「Al/N/O周辺相の成分割合」と記載した)が結晶構造を有していない非晶質(アモルファス)相であることがわかった。
(4−2)電界放射走査型電子顕微鏡による元素分析
実施例1〜3及び比較例1の電子放出性薄膜を、電界放射走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で観察し、照射点近傍の元素分析を行なった。元素分析結果から、非晶質の周辺相(Al/N/O周辺相)は、アルミニウム、窒素及び酸素の各元素を有することがわかった。
(5)しきい値電界及び飽和電流密度の測定
実施例1〜3及び比較例1,2の電子放出性薄膜のしきい値及び飽和電流密度を、前記(e)で作製した装置で測定した。しきい値の測定は、陽極と陰極の間に徐々に電圧をかけ、電子放出し始める電界(電圧/電極間距離)をしきい値電界とした。飽和電流密度は、陽極と陰極の間に徐々に電圧をかけ、電流密度がほぼ飽和状態になった値を飽和電流密度とした。測定結果を表1に示す。
Figure 0004490901
表1から、本発明の実施例1〜3によれば、以下のことが確認された。すなわち、本発明の実施例1〜3は、しきい値電界が3.3〜3.5(V/μm)と比較例1よりも低く、均一な膜厚でかつ表面粗度の小さな薄膜とすることでしきい値電界が小さくなることがわかった。また、実施例1〜3の電子放出性薄膜の飽和電流密度は比較例1よりも高く、均一な膜厚でかつ表面粗度の小さな薄膜とすることで良好な電子放出特性を有することがわかった。
本実施の形態で用いたオープンロール法によるエラストマーとカーボンナノファイバーとの混練法を模式的に示す図である。 本実施の形態にかかる複合エラストマーの一部を拡大して示す模式図である。 塗膜のエラストマーを分解気化させる装置の概略構成図である。 非加圧浸透法によって電子放出性薄膜を製造する装置の概略構成図である。 非加圧浸透法によって電子放出性薄膜を製造する装置の概略構成図である。 本実施の形態にかかる電子放出性薄膜の一部を拡大して示す模式図である。 本実施の形態にかかる電子放出装置を用いたフィールド・エミッション・ディスプレイの構成を示す模式図である。
符号の説明
1 容器
2 減圧手段
3 注入手段
4 基板
5 塗膜
6 アルミニウム塊
7 電子放出性薄膜
10 第1のロール
20 第2のロール
30 エラストマー
40 カーボンナノファイバー
41 第1の金属粒子(マグネシウムなどの還元剤)
42 第2の金属粒子(アルミニウムなどのマトリクス金属)
60 マトリクス
70 周辺相
80 ゲート電極
82 陰極基板
90 ガラス基板
92 陽極
94 蛍光体
100 フィールド・エミッション・ディスプレイ

Claims (8)

  1. エラストマーと、金属粒子と、カーボンナノファイバーと、を混合して複合エラストマーを得る工程(a)と、
    前記複合エラストマーと溶剤とを混合し、塗布液を得る工程(b)と、
    前記塗布液を基材に塗布し、塗膜を形成する工程(c)と、
    前記塗膜を熱処理して前記塗膜に含まれるエラストマーを除去すると共に、金属溶湯を該塗膜中に浸透させて薄膜を形成する工程(d)と、
    を有する、電子放出性薄膜の製造方法。
  2. エラストマーと、金属粒子と、カーボンナノファイバーと、を混合しかつ剪断力によって前記カーボンナノファイバーを前記エラストマー中に分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、
    前記複合エラストマーと溶剤とを混合し、カーボンナノファイバーがエラストマー分子に絡まったままの状態で存在する塗布液を得る工程(b)と、
    前記塗布液を基材に塗布し、塗膜を形成する工程(c)と、
    前記塗膜を熱処理して前記塗膜に含まれるエラストマーを除去すると共に、金属溶湯を該塗膜中に浸透させて薄膜を形成する工程(d)と、
    を有する、電子放出性薄膜の製造方法。
  3. 請求項1または2において、
    前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmである、電子放出性薄膜の製造方法。
  4. 請求項1ないし3のいずれかにおいて、
    前記金属粒子は、アルミニウムを含む粒子である、電子放出性薄膜の製造方法。
  5. 請求項1ないし4のいずれかにおいて、
    前記金属溶湯は、アルミニウムを含む溶湯である、電子放出性薄膜の製造方法。
  6. 請求項1ないし5のいずれかにおいて、
    前記工程(d)は、前記塗膜に含まれるエラストマーを分解気化させて除去する第1の
    熱処理工程(d−1)と、
    エラストマーが除去された前記塗膜に前記金属溶湯を浸透させる第2の熱処理工程(d−2)と、
    を含む、電子放出性薄膜の製造方法。
  7. 請求項6において、
    前記第2の熱処理工程は、窒素雰囲気内で行なわれる、電子放出性薄膜の製造方法。
  8. 請求項1ないし7のいずれかにおいて、
    前記工程(d)で形成された前記薄膜の表面を研磨する、電子放出性薄膜の製造方法。
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