JP4484272B2 - 可撓性樹脂磁石組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、結合材により磁性体粉末を結合したボンド磁石に関わり、特に繰り返して再生加工できるシート状、ベルト状、コード状等の形状を為す柔軟な可撓性樹脂磁石組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、樹脂磁石の結合材としてエチレン−エチルアクリレート共重合体やエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いることは特開平3−283402号公報や特公平6−18128号公報などによって知られている。しかしながら、それらは複写機用マグネットロールなど金属との一体成型時の加工性、耐ヒートショック性等の課題を解決するためになされたものであり、シート状、ベルト状、コード状等の可撓性の形状を考慮したものではなく、柔軟なゴム様の樹脂磁石にはなり得なかった。
【0003】
特公平5−8940号公報には、柔軟なゴム様の樹脂磁石の結合材として塩素化ポリエチレンを用いるものがあるが、これらの含塩素樹脂は熱安定性に欠けるものであり、通常種々の安定剤を添加して防止するものの、加工時の高温下における脱塩素反応による物性劣化は避けられず、繰り返して再生利用するのには適さなかった。
【0004】
また、特開昭51−62396号公報には、熱可塑性エラストマーを結合材とする提案もなされているが、結合材の耐油性が不十分であるため有用なものではなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、これらの樹脂磁石に欠けている諸課題を解決し、屈曲しても折れ欠けのないゴム様の磁石を実現するためになされたものである。すなわち、実用として十分な磁力、熱安定性、耐油性を有した柔軟な磁石を提供することを課題とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記課題を達成するため、本発明者らは、従来、硬質な樹脂磁石しかできなかったエチレン−エチルアクリレート共重合体やエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂をゴム弾性をもつエラストマーで改質することが有効であると考え検討を重ねた結果、少なくとも結合材と磁性体粉末を含む樹脂磁石組成物であって、該結合材が特定比のエチレン−エチルアクリレート共重合体および/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体とスチレン系熱可塑性エラストマーを含む樹脂磁石組成物とすることによって、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
「1.少なくとも結合材と磁性体粉末を含む樹脂磁石組成物であって、該結合材が、エチレン−エチルアクリレート共重合体またはエチレン−酢酸ビニル共重合体中のエチルアクリレートまたは酢酸ビニルの重量比率が10〜35%であるエチレン−エチルアクリレート共重合体および/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体と、ポリスチレン−ポリエチレン・ブチレン−ポリスチレン共重合体、ポリスチレン−ポリエチレン・プロピレン−ポリスチレン共重合体より選ばれた1以上であるスチレン系熱可塑性エラストマーを含み、かつ上記エチレン−エチルアクリレート共重合体および/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体とスチレン系熱可塑性エラストマーとの重量比が9:1〜4:6であることを特徴とする、厚さ0.1〜2.0mmのシート状の可撓性樹脂磁石組成物。」である。
【0008】
上記構成によれば、実用として十分な磁力、熱安定性、耐油性を有し、屈曲しても折れ欠けのないゴム様の柔軟な可撓性樹脂磁石組成物を得ることができるものである。
【0009】
ここで、結合材はエチレン−エチルアクリレート共重合体および/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体とスチレン系熱可塑性エラストマーを含むが、それらの重量比は、エチレン−エチルアクリレート共重合体および/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体:スチレン系熱可塑性エラストマーで9:1〜4:6であることが必要である。エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体の配合比がこの範囲より高くなりすぎると、スチレン系熱可塑性エラストマーの改質効果が不足し所望の可撓性が得られず、屈曲したときに折れ欠けを生じてしまう。逆にスチレン系熱可塑性エラストマーの配合比がこの範囲より高くなりすぎると、耐油性の面で、所望の性能を達成できないので、好ましくない。さらに、エチレン−エチルアクリレート共重合体および/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体:スチレン系熱可塑性エラストマーの重合比が9:1〜5:5であればなおよい。
【0010】
エチレン−エチルアクリレート共重合体および/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体は結合材を100重量部としたときに90〜50重量部配合するとよい。この範囲より下回ると耐油性が得られにくくなり、上回ると十分な撓み性を達成できなくなる傾向があるので好ましくない。合計が上記範囲内であれば混合して使用してもかまわない。
【0011】
また、エチレン−エチルアクリレート共重合体および/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体中のエチルアクリレートまたは酢酸ビニルの重量比率は10〜35%がよく、DSC法による融点が60℃以上好ましくは70℃以上のものが好ましい。エチルアクリレートや酢酸ビニルの比率が大きくまた融点が低いほど可撓性に優れるが、強度が不足し、熱ブロッキングをおこしやすいので上記範囲が好ましい。
【0012】
本発明に使用されるスチレン系熱可塑性エラストマーはポリスチレン部をハードセグメントとしポリジエンやポリオレフィンをソフトセグメントとしたブロック共重合体であり、常温で加硫ゴムの性質を示し高温では可塑性を示すものである。ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン共重合体、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン共重合体、ポリスチレン−ポリエチレン・ブチレン−ポリスチレン共重合体、ポリスチレン−ポリエチレン・プロピレン−ポリスチレン共重合体等が挙げられる。
【0013】
さらに、スチレン系熱可塑性エラストマーとして、ポリスチレン−ポリエチレン・ブチレン−ポリスチレン共重合体、ポリスチレン−ポリエチレン・プロピレン−ポリスチレン共重合体など水素添加型を用いると組成物の耐候性が向上するので好ましい。
【0014】
上記スチレン系熱可塑性エラストマーは結合材を100重量部としたときに10〜60重量部、さらには10〜50重量部配合するとよい。この範囲より下回るとスチレン系熱可塑性エラストマーの改質効果が不足し所望の可撓性が得られにくくなり、上回るとスチレン系熱可塑性エラストマーの悪い性質である耐油性の低さが、可撓性樹脂磁石組成物全体の性能に影響を与えてしまい、所望の耐油性を達成できにくくなるので好ましくない。
【0015】
本発明に使用される磁性体粉末は、結合材を100重量部としたときに500部〜950部配合するとよい。この範囲を下回ると十分な磁力が得られにくくなり、上回ると十分な強度、可撓性が得られにくくなるので、ともに好ましくない。
【0016】
磁性体粉末としては、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライトの他サマリウム・コバルト、ネオジウム−鉄−ボロンのような希土類磁性粉末、アルニコ系磁性粉末などが使用できる。
【0017】
本発明の樹脂磁石組成物は、所望の可撓性と耐油性などを兼ね備えたものであり、また組成中に含塩素樹脂を含まないので、混錬や成形加工時など高温下での脱塩素反応による樹脂の熱分解や腐食性ガス発生のおそれがなく、熱安定性にも優れている。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の樹脂磁石組成物は熱可塑性であるので、樹脂と磁性体粉末の混合はニーダーやロール、連続混練機等の混練機で混合できる。その際、混練性をよくするためにシラン系あるいはチタネート系カップリング剤で磁性体粉末を表面処理したり、分散剤を併用して混練しても構わない。また成形性や安定性の向上のため滑剤、酸化防止剤のような樹脂加工において用いられる添加剤を添加することもできる。
【0019】
さらに本発明の趣旨を損なわない範囲、すなわちエチレン−エチルアクリレート共重合体および/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体とスチレン系熱可塑性エラストマーの合計量に対して10重量%以下の範囲で他種の樹脂を配合してもかまわない。
【0020】
このようにして得られた混合物は通常の熱可塑性樹脂のように加工でき、熱安定性にも優れているのでスクラップを再生利用して成形することも可能である。また樹脂類と磁性体粉末を混合後、多軸押出機等で混練と成形を同時におこなうこともできる。
【0021】
また、比較的低融点の結合材を用いたり、高度な耐熱ブロッキング性が求められる場合には、組成物表面に耐熱ブロッキング層を塗工したり積層することが可能である。さらに、用途により表面に加飾層を設けることもできる。
【0022】
本発明の可撓性樹脂磁石組成物は、厚さ0.1〜2.0mm程度のシート状に仕立てると、本件特許発明の可撓性の効果が発揮されやすく、より好ましいものである。
【0023】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下実施例及び比較例中の「部」は、特にことわらない限り全て重量による。
【0024】
実施例1
エチレン−エチルアクリレート共重合体(三井デュポンポリケミカル(株)社製、エバフレックスEEA A710 EA比15%、メルトフローレート(以下MFR)0.5(190℃))50部、ポリスチレン−ポリエチレン・ブチレン−ポリスチレン共重合体(シェルジャパン(株)社製、クレイトンG1652スチレン比29%、MFR10(200℃))50部、ジブチルヒドロキシトルエン(酸化防止剤、吉富製薬(株)社製、ヨシノックスBHT)0.2部を180℃のニーダーで10分溶融混練し、これにバリウムフェライト(戸田工業(株)社製、フェロトップGP−500)700部を加えて、更に20分混練して混合物を得た。これを3mmのペレットに造粒後、180℃の押出機にて押出成形し、厚さ約1mmのシートにした。これを2.5mm間隔でストライプ状に多極着磁して可撓性樹脂磁石組成物としてのシート状磁石を得た。
【0025】
参考例1
エチレン−エチルアクリレート共重合体(三井デュポンポリケミカル(株)社製、エバフレックスEEA A714 EA比25%、MFR0.5(190℃))90部、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン共重合体(シェルジャパン(株)社製、クレイトンD1107CP スチレン比15% MFR9(200℃))10部、ジブチルヒドロキシトルエン(前出)0.2部、ストロンチウムフェライト(戸田工業(株)社製、フェロトップFS−317)600部を混錬・押出温度を130℃にしたほかは実施例1と同様にして厚さ約1mmのシート状磁石を得た。
【0026】
参考例2
エチレン−エチルアクリレート共重合体(エバフレックスEEA A714、前出)70部、ポリスチレン−ポリブチレン−ポリスチレン共重合体(シェルジャパン(株)社製、クレイトンD1102JS スチレン比30% MFR6(200℃))30部、ポリエチレン(日本ポリケム(株)社製、ノバテックLL UE320 MFR0.7(190℃)10部、ジブチルヒドロキシトルエン(前出)0.2部、バリウムフェライト750部を混錬・押出温度を130℃にしたほかは実施例1と同様にして厚さ約1mmのシート状磁石を得た。
【0027】
実施例2
エチレン−酢酸ビニル共重合体(三井デュポンポリケミカル(株)社製、エバフレックス450 VA比19%,MFR15(190℃))70部、ポリスチレン−ポリエチレン・ブチレン−ポリスチレン共重合体(シェルジャパン(株)社製、クレイトンG1657 スチレン比13% MFR8(200℃))30部、ジブチルヒドロキシトルエン(前出)0.2部、ストロンチウムフェライト600部を混錬・押出温度を130℃にしたほかは実施例1と同様にして厚さ約1mmのシート状磁石を得た。
【0028】
比較例1
エチレン−エチルアクリレート共重合体(エバフレックスEEA A710、前出)100部、ジブチルヒドロキシトルエン(前出)0.2部、バリウムフェライト700部を混錬・押出温度を130℃にしたほかは実施例1と同様にして厚さ約1mmのシート状磁石を得た。
【0029】
比較例2
ポリスチレン−ポリエチレン・ブチレン−ポリスチレン共重合体(クレイトンG1652、前出)100部、ジブチルヒドロキシトルエン(前出)0.2部、バリウムフェライト700部を混錬・押出温度を190℃にしたほかは実施例1と同様にして厚さ約1mmのシート状磁石を得た。
【0030】
比較例3
エチレン−エチルアクリレート共重合体(エバフレックスEEA A710、前出)30部、ポリスチレン−ポリエチレン・ブチレン−ポリスチレン共重合体(クレイトンG1652、前出)70部、ジブチルヒドロキシトルエン(前出)0.2部、バリウムフェライト700部を混錬・押出温度を190℃にしたほかは実施例1と同様にして厚さ約1mmのシート状磁石を得た。
【0031】
比較例4
塩素化ポリエチレン(昭和電工(株)社製、エラスレン301A 塩素含有量32% MFR1.6(180℃))100部、ステアリン酸カルシウム(熱安定剤、日本油脂(株)社製、カルシウムステアレートG)2部、エポキシ化大豆油(可塑剤兼安定剤、花王(株)社製、カポックスS−6)2部、ジブチルヒドロキシトルエン(前出)0.2部、バリウムフェライト700部を混錬・押出温度を130℃にしたほかは実施例1と同様にして厚さ約1mmのシート状磁石を得た。
【0032】
実施例1はエチレン−エチルアクリレート共重合体とポリスチレン−ポリエチレン・ブチレン−ポリスチレン共重合体からなる例、実施例2は、エチレン−酢酸ビニル共重合体とポリスチレン−ポリエチレン・ブチレン−ポリスチレン共重合体からなる例である。
また、参考例1は、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン共重合体を含む例、参考例2は、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン共重合体を含む例である。
【0033】
比較例1、2は結合材が単独の樹脂である例、比較例3はスチレン系熱可塑性エラストマーがエチレン−エチルアクリレート共重合体に対し過大である例、比較例4は結合材が含塩素系樹脂である例である。
【0034】
可撓性の評価は、厚さ1mmの試料を直径6mmの棒に常温で180度巻きつけて亀裂が発生しない場合を○、破断した場合を×とした。
【0035】
耐油性の評価は、灯油(出光興産(株)社製、白灯油)および工業用潤滑油(出光興産(株)社製、ダフニースーパーマルチ10)に厚さ1mmの試料をそれぞれ常温で3日浸漬し、厚さ方向の膨潤の程度を%で示し、特に良好なものは◎、良好なものは○、著しく膨潤したり、溶解した場合は特記し×とした。
【0036】
引張強度の評価は、厚さ1mmのシートをJIS2号型試験片(K7113)型に打ち抜きSV−301型引張圧縮試験機(今田製作所)にて測定した。
【0037】
表面磁束密度の評価は、GM−4000型ガウスメータとA−401型プローブ(電子磁気工業(株)社製)を用いて測定した。
【0038】
熱安定性の評価は、160℃のオーブンに3時間放置し、外観を観察したほか可撓性、引張強度を再度測定し、評価した。
【0039】
各例の評価結果を表1に示す。なお、表1から見てもわかるように実施例1〜2は、優秀な成績を示し、非常に有用なものであることがわかる。また、参考例1〜2は耐油性において実施例1〜2に比べると劣り、比較例1は加熱前においても後においても可撓性が不十分であり、比較例2、3は、耐油性が不十分であった。比較例4は耐熱性が劣り、加熱後引張強度は上昇しているが、著しく柔軟性を失って脆くなってしまった。これは結合材が熱分解したためと思われる。ここで、使用されている結合材は、含塩素系の樹脂であるため、熱分解時に塩素を生じ、大気汚染上も好ましくないものであった。
【0040】
【表1】
【0041】
表に示した評価結果により、本実施例は十分な磁力、可撓性、耐油性をそなえており、また高温下での劣化も少なく、熱安定性のある可撓性樹脂磁石組成物であることがわかる。
【0042】
【発明の効果】
本発明によれば良好な可撓性を有し、十分な磁力、熱安定性、耐油性があり、繰り返して再生加工できる樹脂磁石組成物が得られるので、シート、ベルト、コード状に成形したゴム様の磁石として有用である。
Claims (1)
- 少なくとも結合材と磁性体粉末を含む樹脂磁石組成物であって、該結合材が、エチレン−エチルアクリレート共重合体またはエチレン−酢酸ビニル共重合体中のエチルアクリレートまたは酢酸ビニルの重量比率が10〜35%であるエチレン−エチルアクリレート共重合体および/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体と、ポリスチレン−ポリエチレン・ブチレン−ポリスチレン共重合体、ポリスチレン−ポリエチレン・プロピレン−ポリスチレン共重合体より選ばれた1以上であるスチレン系熱可塑性エラストマーを含み、かつ上記エチレン−エチルアクリレート共重合体および/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体とスチレン系熱可塑性エラストマーとの重量比が9:1〜4:6であることを特徴とする、厚さ0.1〜2.0mmのシート状の可撓性樹脂磁石組成物。
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