JP4484260B2 - 水性塗料組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、貯蔵安定性に優れ、塗膜外観が良好でかつ硬度が高く、更に耐汚染性に優れた水性塗料組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自然環境の保全及び製造や取り扱いにおける安全性の向上のために、有機溶剤型塗料から水性塗料への転換が進められている。また、住宅やビル等の外壁や屋外基材用の塗料に対しては、美観の保持、メンテナンスの簡易化の観点から、大気中の汚染物質(有機物、砂塵、鉄粉等)が付着しにくくかつ付着しても洗浄除去がし易い性質(「耐汚染性」という)が求められるようになってきた。
【0003】
このような耐汚染性を改良するために、アルキルシリケート化合物が配合された水性塗料組成物を塗布することが提案されている。しかし、アルキルシリケート化合物は、水性樹脂との相溶性が小さく、そのまま添加するとハジキ、濁り等外観を損なうことが多いうえに、加水分解と縮合の進行を制御することが難しく、ゲル化しやすいため、ポットライフの短い塗料となってしまうという欠点があった。
【0004】
特開平8−337754号公報には、耐汚染性に優れ、さらに貯蔵安定性、造膜性、硬化性にも優れた水性塗料組成物として、特定構造のシリケート化合物と、水溶性及び/又は水分散性樹脂と、水性媒体とからなるものが開示されている。この水性塗料組成物は、これを塗膜とした場合に塗膜表面がシリケート化合物から生じたシラノール基により親水化されて耐汚染性を発現するものである。しかしながら、この技術においては、本質的に塗料が2液型であるために、塗料としての使用に制限があり、塗装作業性に劣るという欠点があった。
【0005】
特開平9−328375号公報には、水ガラス、メチルシリケート及びカルボキシル基含有エマルジョン樹脂からなる窯業系サイディングボード用水性下地処理剤が開示されている。これは、メチルシリケートの一部が水ガラスと縮合し、硬化反応が促進され皮膜中に水酸化ナトリウムが固定化されることによって、耐水性、耐アルカリ性及び上塗り塗料との密着性を向上させるものである。しかし、シリケートと有機樹脂との複合が不充分であるために、耐水性に劣ることがあるうえ、上塗り塗料として使用した場合は、光沢、平滑性、透明性等において良好な外観が得られないという欠点があった。
【0006】
特開平10−36514号公報には、加水分解性シリル基及び酸基を併有する樹脂と、水酸基及び/又は加水分解性シリル基を有するポリシロキサンとを縮合反応させた後、水性化した水性樹脂が開示されている。このものは、縮合後に水性化するため塗料の安定性が高く、塗膜の耐久性にも優れたものであるが、この方法では、耐汚染性に非常に効果の高い縮合型アルキルシリケートはゲル化を引き起こしやすく、使用が困難であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑み、貯蔵安定性に優れ、塗膜外観が良好でかつ硬度が高く、更に耐汚染性に優れた水性塗料組成物を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、有機シリケート化合物(A)を有機水性樹脂(B)とともに乳化することより得られる水性樹脂分散体を必須成分とする水性塗料組成物であって、上記有機シリケート化合物(A)は、下記一般式(1);
【0009】
【化5】
【0010】
〔式中、R1 は、必ずしも同一でなくてもよく、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は、炭素数7〜20のアラルキル基を表し、R1 のうち、少なくとも1つはメチル基又はエチル基である。nは、1〜50の整数を表す。〕で表されるものであり、上記有機水性樹脂(B)は、水分散性又は水可溶性であり、かつ、官能基として、カルボキシル基、並びに、下記一般式(2);
【0011】
【化6】
【0012】
〔式中、R2 、R3 は、おのおの同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は、炭素数7〜20のアラルキル基を表し、R3 のうち、少なくとも1つはメチル基又はエチル基である。m1は、1〜3の整数を表す。〕で表される基、水酸基、及び、下記一般式(3);
【0013】
【化7】
【0014】
〔式中、R4 は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は、炭素数2〜10のアルコキシアルキル基を表す。R4 は、結合して環を形成していてもよい。〕で表される基からなる群より選択される少なくとも1種を有するものであることを特徴とする水性塗料組成物である。
以下、本発明を詳述する。
【0015】
本発明の水性塗料組成物は、有機シリケート化合物(A)を有機水性樹脂(B)とともに乳化することより得られる水性樹脂分散体を必須成分とする。
上記有機シリケート化合物(A)は、上記一般式(1)で表されるものである。
【0016】
上記一般式(1)において、R1 は、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は、炭素数7〜20のアラルキル基を表す。
【0017】
上記炭素数1〜20のアルキル基としては直鎖状又は分岐状のものを挙げることができ、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基等を挙げることができる。上記炭素数2〜20のアルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシエチル基、ブトキシエチル基等を挙げることができる。上記炭素数6〜20のアリール基としては、例えば、フェニル基、トルイル基、ナフチル基等を挙げることができる。上記炭素数7〜20のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基等を挙げることができる。
【0018】
上記R1 は、必ずしも同一でなくてもよいが、R1 の鎖長が長くなると加水分解が起こりにくくなり有機水性樹脂(B)との複合が不充分になって貯蔵安定性に劣る場合があるので、R1 のうち少なくとも1つ以上はメチル基又はエチル基である。
上記nは、1〜50の整数を表す。50を超えると、有機水性樹脂(B)との相溶性が低下したり、乳化時にゲル化しやすくなったり、塗料の貯蔵安定性が劣ったりするので、上記範囲に限定される。好ましくは、nは2〜30の整数である。
【0019】
上記一般式(1)で表される上記有機シリケート化合物(A)としては、;
【0020】
【化8】
【0021】
で表される直鎖状に有機シリケートが結合した化合物だけではなく、下記一般式(6);
【0022】
【化9】
【0023】
で表される分岐状に有機シリケートが結合した化合物等を挙げることができる。
【0024】
更に具体的には、上記有機シリケート化合物(A)としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のnが1の有機シリケート、又は、nが2以上のこれらの部分加水分解縮合物等を挙げることができ、例えば、メチルシリケート51(n=4〜6)、メチルシリケート56(n=8〜10)、エチルシリケート40(n=5)等を例示することができる。好ましくは、加水分解率が30%以上の縮合物であり、例えば、nが5以上のメチルシリケート及びエチルシリケート、並びに、メチルシリケート及びエチルシリケートの加水分解−縮合により得られるシリカ分散体等を挙げることができる。
【0025】
上記有機シリケートの部分加水分解縮合物の加水分解縮合反応としては、公知の方法によって行うことができ、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等の有機シリケートに所定量の水を加えて、酸触媒の存在下に、副生するアルコールを留去しながら、通常、室温程度〜200℃で反応させる方法等を挙げることができる。上記加水分解率は、使用する水の量により調節することができ、有機シリケートのすべての加水分解可能基であるアルコキシ基を加水分解縮合するのに必要な量の水、即ち、これらの基のモル数の1/2のモル数の水に対する実際の添加量の百分率で表されるものである。
【0026】
上記有機水性樹脂(B)は、水分散性又は水可溶性樹脂である。上記水分散性又は水可溶性樹脂としては特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。なかでも、耐水性及び耐候性の観点から、アクリル樹脂が好ましい。
【0027】
上記有機水性樹脂(B)は、官能基として、カルボキシル基、及び、上記有機シリケート化合物(A)と反応するか又は強く相互作用する基を有するものである。上記有機水性樹脂(B)として上記有機シリケート化合物(A)と反応するか又は強く相互作用する基を有するものを使用することによって、水性媒体中ではゲル化しやすい有機シリケート化合物(A)を上記反応するか又は強く相互作用する基を介して複合させ、安定化させることができる。
【0028】
上記カルボキシル基は、酸価として10〜150(mgKOH/g樹脂)を有することが好ましい。酸価が10未満であると、上記有機水性樹脂(B)が水分散性又は水可溶性とならないことがあり、150を超えると、分散体とする場合に乳化が難しくゲル化する場合があるうえ、親水性が増加しすぎて塗膜の耐水性が悪くなることがある。より好ましくは、酸価が30〜80である。
【0029】
上記有機水性樹脂(B)中に含まれる有機シリケート化合物(A)と反応するか又は強く相互作用する官能基としては、上記一般式(2)で表されるアルコキシシリル基、水酸基、及び、上記一般式(3)で表されるアミド基からなる群より選択される少なくとも1種である。好ましくは、上記一般式(2)で表されるアルコキシシリル基及び水酸基であり、より好ましくは、上記一般式(2)で表されるアルコキシシリル基である。
【0030】
上記一般式(2)で表されるアルコキシシリル基において、R2 及びR3 で表される置換基としては、上記一般式(1)においてR1 として例示されたもの等を挙げることができる。
上記水酸基は、水酸基価として10〜150(mgKOH/g樹脂)含むことが好ましい。
【0031】
上記一般式(3)で表されるアミド基において、R4 は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は、炭素数2〜10のアルコキシアルキル基を表す。上記炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基等を挙げることができる。上記炭素数2〜10のアルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシメチル基、ブトキシメチル基等を挙げることができる。上記R4 は、結合して環を形成していてもよく、例えば、
【0032】
【化10】
【0033】
【化11】
【0034】
等を挙げることができる。
上記一般式(3)で表されるアミド基は、水素結合によりシラノール基と相互作用すると考えられる。
【0035】
上記有機水性樹脂(B)の製造方法としては特に限定されず、例えば、50〜150℃程度の溶剤中で不飽和モノマーと重合開始剤を2〜8時間反応させる溶液重合法等を挙げることができる。
【0036】
上記溶剤としては、得られる有機水性樹脂(B)と上記有機シリケート化合物(A)とを後に乳化することから、親水性をも有している両親媒性のものが好ましく、イソプロピルアルコール、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール等のアルコール類がより好ましい。
【0037】
上記不飽和モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボン酸類とともに、シラン類、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル類及びアミド類からなる群より選択される少なくとも1種、並びに、所望により他の不飽和モノマーを含むものである。上記不飽和モノマーとして、カルボン酸類とともに、シラン類、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル類及びアミド類からなる群より選択される少なくとも1種、並びに、所望により他の不飽和モノマーからなるものを使用することによって、カルボキシル基、並びに、上記一般式(2)で表される基、水酸基、及び、上記一般式(3)で表される基からなる群より選択される少なくとも1種を官能基として有する有機水性樹脂(B)を得ることができる。
【0038】
上記シラン類としては、例えば、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
上記(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル類としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
上記アミド類としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン等を挙げることができる。
【0039】
上記他の不飽和モノマーとしては特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル類;スチレン、メチルスチレン、酢酸ビニル等のビニル化合物;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類等を挙げることができる。
【0040】
上記不飽和モノマーの配合割合としては、不飽和モノマー100重量部のうち、カルボン酸類2〜30重量部、シラン類、アクリル酸及び/又はメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル類及びアミド類からなる群より選択される少なくとも1種1〜40重量部、他の不飽和モノマー50〜95重量部であることが好ましい。上記シラン類、アクリル酸及び/又はメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル類及びアミド類からなる群より選択される少なくとも1種が1重量部未満であると、有機シリケート化合物(A)と反応するか又は強く相互作用する官能基の量が少ないために、得られる水性塗料組成物の貯蔵安定性に劣る場合があり、40重量部を超えると逆に反応が進み過ぎてゲル化が起こる場合がある。
【0041】
上記重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ジメチル2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、過酸化ベンゾイル等のパーオキサイド類等を挙げることができる。
【0042】
本発明の水性塗料組成物は、上記有機シリケート化合物(A)を上記有機水性樹脂(B)とともに乳化することより得られる水性樹脂分散体を必須成分とするものである。上記有機シリケート化合物(A)は、高疎水性で水性樹脂との相溶性が低く、水中では加水分解及びそれに続く縮合のためゲル化しやすいが、本発明においては、それを上記有機水性樹脂(B)と複合し、エマルジョンとすることによって長期安定性が確保できる。
【0043】
上記有機シリケート化合物(A)と上記有機水性樹脂(B)との配合割合としては、重量比で5:95〜80:20が好ましい。上記有機シリケート化合物(A)の割合が多すぎると、上記有機水性樹脂(B)と充分に複合できないため安定性に劣る場合があり、少なすぎると、得られる塗膜の耐汚染性が良好でない場合がある。
【0044】
上記水性樹脂分散体を製造する方法としては、例えば、上記有機シリケート化合物(A)、上記有機水性樹脂(B)、中和剤、及び、必要により溶剤からなる混合物を攪拌しながら、水を添加して乳化する転相乳化法が、乳化時のゲル化防止及び乳化後の安定性確保の上から好ましい。
上記乳化時の温度は、室温で行うことができるが、必要に応じて加熱、冷却を行ってもよい。
【0045】
上記中和剤としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アンモニア水等のアミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム等のアルカリ金属塩等を挙げることができる。好ましくはアミン類であり、より好ましくは、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン等の有機アミン類である。
上記中和剤の配合量としては、上記有機水性樹脂(B)を中和するのに充分な量であれば特に限定されないが、pH5〜11において乳化を行うことが好ましい。
【0046】
上記溶剤としては、疎水性のものが好ましく、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;酢酸ブチル等のエステル類;テキサノール(イーストマンケミカル社製)等のアルコール類等を挙げることができる。上記有機シリケート化合物(A)は疎水性が高く、上記有機水性樹脂(B)は親水性が高いことより、上記有機シリケート化合物(A)の配合度が高い場合、上記有機水性樹脂(B)と相溶しにくいので、上記疎水性の溶剤を使用することによって、乳化を容易に行うことを可能とするものである。上記疎水性の溶剤の使用量としては、上記有機水性樹脂(B)と上記有機シリケート化合物(A)との配合割合にもよるが、有機シリケート化合物(A)に対して、5〜200重量%であることが好ましい。上記添加する水の量としては、有機シリケート化合物(A)と有機水性樹脂(B)の総量に対して100〜2000重量%であることが好ましい。
【0047】
上記水性樹脂分散体は、必要に応じて、含まれる溶剤及び水を除去するための工程を加えてもよい。上記溶剤及び水の除去工程は、減圧下に、100℃以下で実施することが好ましい。100℃を超えると、ゲルや凝集物を形成する場合がある。
【0048】
本発明の水性塗料組成物には、上記有機シリケート化合物(A)とともに更に複合化させることができるものとして、下記一般式(4);
【0049】
【化12】
【0050】
〔式中、R5 は、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基を表す。R6 は、メチル基又はエチル基を表す。m2は、1〜3の整数を表す。〕で表されるアルコキシル基を有する有機ケイ素化合物、シラノール基を有する無機ケイ素化合物、及び、シラノール基と反応又は相互作用しうる官能基を有する水性樹脂を添加することができる。
【0051】
上記一般式(4)で表されるアルコキシル基を有する有機ケイ素化合物は、得られる塗膜の物性を調整するために配合することができる。
上記一般式(4)において、R5 は、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基を表し、アルキル基としてはメチル基、エチル基を、アリール基としてはフェニル基等を挙げることができる。
【0052】
上記一般式(4)で表されるアルコキシル基を有する有機ケイ素化合物としては、例えば、ジアルキルジアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、アリールトリアルコキシシラン等を挙げることができる。好ましくは、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。
【0053】
上記一般式(4)で表されるアルコキシル基を有する有機ケイ素化合物の添加時期としては、上記有機シリケート化合物(A)の乳化前、乳化と同時、乳化後のいずれの時期であってもよい。
上記一般式(4)で表されるアルコキシル基を有する有機ケイ素化合物の配合量としては、有機シリケート化合物(A)に対して、0〜500重量%であることが好ましい。500重量%を超えると、得られる塗膜の耐汚染性が低い場合がある。
【0054】
上記シラノール基を有する無機ケイ素化合物は、水によって加水分解を受け、これが上記有機水性樹脂(B)と複合化すると考えられ、得られるエマルジョンをより安定化することができる。
上記シラノール基を有する無機ケイ素化合物としては、例えば、コロイダルシリカ;水ガラス等のアルカリシリケート等を挙げることができる。
【0055】
上記シラノール基を有する無機ケイ素化合物の添加時期としては、エマルジョンの安定性の観点より、上記有機シリケート化合物(A)の乳化と同時、又は、乳化後のいずれかである。
上記シラノール基を有する無機ケイ素化合物の配合量としては、有機シリケート化合物(A)に対して、0〜500重量%であることが好ましい。500重量%を超えると、造膜性が不良となったり、塗膜の耐水性、耐アルカリ性等の物性が低下したりする場合がある。
【0056】
上記シラノール基と反応又は相互作用しうる官能基を有する水性樹脂は、上記有機シリケート化合物(A)を上記有機水性樹脂(B)とともに乳化させた後に添加することができる。従って、このものは、水性塗料中では他の成分と複合化しておらず、被塗物に塗装され塗膜を形成したときに複合化するものである。
【0057】
上記シラノール基と反応又は相互作用しうる官能基としては、アルコキシシリル基(−Si(OR)m3;式中、Rは炭素数1〜10の有機基を表す。m3は、1〜3の整数を表す。)、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、アミド基(−CONH2 、−CONHR、−CONR2 ;式中、Rは炭素数1〜10の有機基を表す。)等を挙げることができる。好ましくは、アルコキシシリル基及び水酸基である。
【0058】
上記シラノール基と反応又は相互作用しうる官能基を有する水性樹脂の形態としては、水溶性又は水分散性のいずれであってもよいが、好ましくは、エマルジョン樹脂である。
上記シラノール基と反応又は相互作用しうる官能基を有する水性樹脂としては、上記有機水性樹脂(B)と同じものであってもよいが、上記シラノール基と反応又は相互作用しうる官能基を有する水性樹脂は上記有機シリケート化合物(A)の乳化には関与せず、乳化後に後添加されるものである。従って、酸価及び水酸基価は特に限定されない。
【0059】
上記シラノール基と反応又は相互作用しうる官能基を有する水性樹脂の添加時期としては、乳化後であれば特に限定されず、例えば、水性樹脂分散体に含まれる溶剤及び水を除去するための工程の前であっても後であってもよい。
【0060】
上記シラノール基と反応又は相互作用しうる官能基を有する水性樹脂の配合量としては、上記有機シリケート化合物(A)と上記有機水性樹脂(B)とから得られる水性樹脂分散体の固形分に対して、0〜500重量%であることが好ましい。500重量%を超えると、塗膜の耐汚染性が不良となる場合がある。
【0061】
本発明の水性塗料組成物には、更に、無機顔料や有機顔料を加えて着色塗料組成物とすることもできる。また、レベリング剤、粘性制御剤、増粘剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防カビ剤等の従来公知の添加剤を加えることができる。
【0062】
本発明の水性塗料組成物は、屋外物品の上塗り塗料として好適に使用することができる。上記屋外物品としては、自動車、電車、自転車等の輸送機械、スレート板、珪カル板、メッキ鋼板、瓦等の外装建材、住宅、ビル等の建築物等を挙げることができる。
【0063】
上記屋外物品に本発明の水性塗料組成物を塗装する方法としては、例えば、スプレー塗装し、0〜200℃で1分〜10日間乾燥硬化させて、膜厚0.1〜100μmの塗膜を形成することができる。本発明の水性塗料組成物は、上記硬化温度が100℃以下の比較的低温の熱風でも塗膜を形成することができる。
【0064】
本発明は、上記乳化の工程において、上記有機シリケート化合物(A)と水が接触すると、有機シリケート化合物(A)中のアルコキシルシリル基の一部が加水分解を受けて生じるシラノール基(−SiOH)が、上記有機水性樹脂(B)と反応したり強く相互作用することによって、上記水性樹脂分散体の安定性を大きく向上させるものである。上記乳化の工程において、上記一般式(4)で表されるアルコキシル基を有する有機ケイ素化合物、及び/又は、上記シラノール基を有する無機ケイ素化合物を更に添加することによって、同時に複合することができる。このようにして得られた水性塗料組成物は、微粒子であり、上記の複合効果のために、上塗り塗料に用いると外観が良好である。更に、複合化されたシリケートによって、塗膜硬度及び塗膜の耐汚染性を向上させることができる。
【0065】
【実施例】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0066】
製造例1〜4 水可溶性又は水分散性アクリル樹脂の製造
滴下漏斗、温度計、窒素導入管、還流冷却器及び攪拌機を備えた5口セパラブルフラスコにイソプロピルアルコール(IPA)320重量部を仕込み、窒素雰囲気のもとで82℃に昇温した。表1に示したモノマーの各々の混合液400重量部と、ジメチル2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V−601)10.8重量部及びIPA40重量部からなる溶液とを滴下漏斗からそれぞれ2.5時間にわたり滴下した。滴下終了後、30分間攪拌してから、V−601を1.2重量部及びIPA40重量部からなる溶液を30分間にわたり滴下し、更に2時間反応を継続した。得られたアクリル樹脂溶液は固形分50%で、平均分子量(Mn/Mw)は9000/24000であった。
【0067】
【表1】
【0068】
表1中、MMAはメタクリル酸メチル、CHMAはメタクリル酸シクロヘキシル、2EHAはアクリル酸2−エチルヘキシル、3MPTMSは3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2HEAは2−ヒドロキシエチルアクリレートを表す。
【0069】
製造例5 アクリルエマルジョン樹脂の製造
滴下漏斗、温度計、窒素導入管、還流冷却器及び攪拌機を備えた5口セパラブルフラスコにイオン交換水80重量部を仕込み、窒素雰囲気のもとで83℃に昇温した。アントックスMS−60(日本乳化剤社製)8.8重量部とアクアロンRN−50(第一工業製薬社製)12.4重量部をイオン交換水240重量部に溶解させた界面活性剤水溶液中にスチレン40重量部、MMA80重量部、アクリル酸ブチル86.4重量部、メタクリル酸イソブチル129.6重量部及び2HEA64重量部からなるモノマー混合液を乳化させたプレエマルジョン液と、4,4′−アゾビス(4−シアノ吉草酸)4重量部をN,N−ジメチルエタノールアミン2重量部で中和しイオン交換水100重量部に溶解させた重合開始剤水溶液とを、同時に滴下を始め、前者は180分間、後者は200分間にわたって均等に滴下した。滴下終了後、更に120分間反応を継続した。冷却後、400メッシュの金網で濾過し、平均粒子径250nm、樹脂固形分50%のエマルジョン樹脂を得た。
【0070】
実施例1 シリケート複合エマルジョンの製造
ステンレスビーカーに製造例1で得られたアクリル酸樹脂ワニスを80重量部とり、N,N−ジメチルエタノールアミン(DMEA)2.1重量部で中和した。次に、トルエン10重量部とメチルシリケートMS−51(三菱化学社製;平均縮合度5、有効成分100%)を10重量部を加え、充分に混合させた。この混合物をホモミキサーで攪拌しながらイオン交換水100重量部を添加し転相させ、次いでスノーテックスC(日産化学社製;水性コロイダルシリカ;固形分20%)を100重量部と脱イオン水100重量部を順に加えてエマルジョンを得た。1日静置した後、フラスコに移し、減圧加熱下に脱溶剤を行った。
【0071】
得られたエマルジョンは、固形分23%であり、粒子径140nmであった。エマルジョンの粒子径は、大塚電子社製ELS−800型を用い、動的光散乱法にて測定した。
このエマルジョンの乳化直後の状態を、○を乳化安定性良好、△を乳化安定性やや不良、×を乳化安定性不良として評価した。更に、エマルジョンを40℃で1ヶ月間貯蔵後の状態を評価し、○を異状なし、その他の場合はその状態を具体的に記載した。結果を表2に示した。
【0072】
一方、水研済みの白色塗装テスト板に上記方法で得られたエマルジョンを乾燥膜厚が約30μmとなるようバーコーターを用いて塗布し、80℃で30分間乾燥させた。1週間放置したのち、下記評価方法に従って塗膜を評価した。それらの結果を表3に示した。
【0073】
評価方法
1.外観
塗膜を目視で観察し、光沢の良好なものを○、不良なものを×として評価した。
【0074】
2.鉛筆硬度
JIS K−5400に準じて測定した。
【0075】
3.耐溶剤性
キシレンを含ませたガーゼで塗膜を10往復こすったあとの塗膜の状態を判定した。◎を良好、○をやや良好、△をやや不良、×を不良として判定した。
【0076】
4.耐汚染性
更に、この塗装板を屋外に4ヶ月暴露し、暴露前後の色差ΔEを測定して汚染度の評価を行った。ΔE3.5を基準とし、3.5以下のものを良好、3.5を超えるものを不良として判定した。
【0077】
実施例2〜8
表2に示すような配合で、実施例1と同じ方法でエマルジョンを合成し、同様の評価を実施した。
なお、表2中、乳化方法Aは転相乳化、Bは水分散化樹脂中に乳化する方法を表し、ソルベッソ150はエクソン化学社製の芳香族炭化水素系溶剤、MS56は三菱化学社製「メチルシリケートMS56」(平均縮合度10、有効成分100%)、ES40はコルコート社製「エチルシリケート40」(平均縮合度5、有効成分100%)、MS51SG1は三菱化学社製「MS51SG1」(上記MS51を更に縮合させて得られるシリカ分散体;有効成分44%;分散媒キシレン)を表す。
【0078】
比較例1
製造例1の樹脂をDMEAで中和した後、まず脱イオン水を加えて樹脂を水溶化し、攪拌しながらMS−56を加えた。しかし、乳化後、すぐにゲル化し、樹脂の評価は実施できなかった。
【0079】
比較例2
製造例2の樹脂の代わりに製造例4の樹脂を使ったこと以外は、実施例2と同じ配合及び方法でエマルジョンを作成した。このエマルジョンは、貯蔵安定性試験中に沈降物を発生したため塗膜の評価には至らなかった。
【0080】
比較例3
製造例1の樹脂の代わりに製造例4の樹脂を使ったこと以外は、実施例5と同じ配合及び方法でエマルジョンを作成した。このエマルジョンは、貯蔵安定性試験中にゲル化したため塗膜の評価には至らなかった。
【0081】
比較例4
製造例1の樹脂をDMEAで中和しトルエンを加えた後、攪拌しながら脱イオン水を加えてエマルジョンを得た。乳化の状態は良好で貯蔵安定性にも優れていた。これを実施例1に記載の方法で塗膜の評価を行った。結果を表3に示した。
【0082】
比較例5
製造例5の樹脂100重量部に造膜助剤としてテキサノール(イーストマンケミカル社製;高沸点アルコール)5重量部を添加し、一夜放置した後、実施例1に記載の方法で塗膜の評価を行った。結果を表3に示した。
【0083】
比較例6
比較例4で使用したエマルジョン樹脂167重量部にスノーテックスCを100重量部加えた混合液に、実施例1に記載の方法で塗膜の評価を行った。結果を表3に示した。
【0084】
比較例7
比較例4で使用したエマルジョン樹脂167重量部に、攪拌しながら、ES−40を10重量部添加して乳化させ、すぐに実施例1記載の方法で塗膜の作成を行った。結果を表3に示した。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
【発明の効果】
本発明の水性塗料組成物は、上述の構成よりなるので、貯蔵安定性に優れており、塗膜外観が良好でかつ硬度が高く、更に耐汚染性に優れた塗膜を得ることができる。
Claims (7)
- 有機シリケート化合物(A)を有機水性樹脂(B)とともにアミン類で中和し、乳化することより得られる水性樹脂分散体を必須成分とする上塗り塗料用水性塗料組成物であって、前記有機シリケート化合物(A)は、下記一般式(1);
前記有機水性樹脂(B)は、主鎖がアクリル樹脂であって、水分散性又は水可溶性であり、かつ、官能基として、カルボキシル基、並びに、下記一般式(2);
ことを特徴とする上塗り塗料用水性塗料組成物であって、
該水性樹脂分散体が、該有機シリケート化合物(A)、有機水性樹脂(B)および該アミン類を含む混合物を撹拌しながら中和し、水を添加して乳化することにより得られるものである、上塗り塗料用水性塗料組成物。 - 有機シリケート化合物(A)が、メチルシリケート及びエチルシリケートの加水分解−縮合により得られるシリカ分散体である請求項1から3のいずれか1つに記載の上塗り塗料用水性塗料組成物。
- さらに、コロイダルシリカおよびアルカリシリケートを含む請求項1から4のいずれか1つに記載の上塗り塗料用水性塗料組成物。
- 100℃以下で塗膜を形成する請求項1から5のいずれか1つに記載の上塗り塗料用水性塗料組成物。
- 硬化剤を含まない請求項1から6のいずれか1つに記載の上塗り塗料用水性塗料組成物。
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