JP4472148B2 - 電子部品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘電体膜を備える電子部品に関し、特にたとえばコンデンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、コンデンサなどに用いられる誘電体膜には、樹脂膜が用いられている。このような誘電体膜は、特公昭63−32929号、特開平11−147272号公報およびUSP5,125,138号に示されるように、基板に蒸着した樹脂モノマーに電子線や紫外線を照射し、前記樹脂モノマーを硬化させることによって形成されている。
【0003】
上記誘電体膜を形成するための樹脂モノマーとしては、たとえば、以下の化学式(A)で表されるジメチロールトリシクロデカンジアクリレートや、以下の化学式(B)で表される1,9−ノナンジオールジアクリレートなどが用いられてきた。
【0004】
【化3】
【0005】
【化4】
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記樹脂モノマーによって形成された誘電体膜を用いた電子部品は、特性が十分でないという問題があった。すなわち、化学式(A)の樹脂モノマーによって形成された誘電体膜を用いた電子部品は、高湿度下での特性が十分でないという問題があった。また、化学式(B)の樹脂モノマーによって形成された誘電体膜を用いた電子部品は、高温時に酸化分解しやすいという問題があった。
【0007】
上記問題を解決するため、本発明は、高湿度下や高温度下においても特性が良好な電子部品を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明の電子部品は、誘電体膜を備える電子部品であって、誘電体膜が、少なくとも一種以上の樹脂モノマーを含む薄膜を形成したのち薄膜中の樹脂モノマーを重合反応させることによって形成された膜であり、樹脂モノマーが、チオジアルキレン基(−CnH2n−S−CmH2m−。ここで、nおよびmは、それぞれ任意の自然数を示す。)を介して結合している複数の芳香環と、芳香環に結合したビニル基とを備えることを特徴とする。上記電子部品によれば、高湿度下や高温度下においても特性が良好な電子部品が得られる。
【0009】
上記電子部品では、樹脂モノマーに含まれる芳香環の数が2個以上4個以下であることが好ましい。
【0010】
上記電子部品では、樹脂モノマーに含まれるビニル基の数が2個であることが好ましい。
【0011】
上記電子部品では、チオジアルキレン基がチオジメチレン基(−CH2−S−CH2−)であることが好ましい。
【0012】
上記電子部品では、誘電体膜の少なくとも一部を挟むように対向して配置された一対の電極をさらに備えることが好ましい。上記構成によれば、高湿度下や高温度下においても特性が良好なコンデンサなどの電子部品が得られる。
【0013】
上記電子部品では、樹脂モノマーが、以下の化学式(1)、化学式(2)で表される樹脂モノマーを、いずれか単独、または両方とも含むことが好ましい。
【0014】
【化5】
【0015】
(式(1)中、2つのベンゼン環が置換されている位置は、それぞれ独立に、メタ位またはパラ位である)
【0016】
【化6】
【0017】
(式(2)中、3つのベンゼン環が置換されている位置は、それぞれ独立に、メタ位またはパラ位である)
上記電子部品では、薄膜が添加剤をさらに含むことが好ましい。上記添加剤が酸化防止剤を含むことが好ましい。上記構成によれば、誘電体膜の酸化を防止できる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
(実施形態1)
実施形態1では、本発明の電子部品として、コンデンサの一例を説明する。実施形態1のコンデンサ10の断面図を、図1(a)に示す。なお、本発明のコンデンサは、図1(b)に示すコンデンサ10aのような形状でもよい。
【0020】
図1(a)を参照して、コンデンサ10は、支持体11と、支持体11上に形成された下部電極膜12と、主に下部電極膜12上に配置された誘電体膜13と、主に誘電体膜13上に配置された上部電極膜14とを備える。ここで、誘電体膜13は、樹脂膜(なお、樹脂膜中にさらに添加剤などを含んでもよい)である。すなわち、コンデンサ10は、誘電体膜13と、誘電体膜13を挟むように対向して配置された一対の電極(下部電極膜12および上部電極膜14)とを備える。
【0021】
支持体11には、さまざまなものを用いることができる。具体的には、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという場合がある)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(PA)、またはポリイミド(PI)などの高分子フィルムを用いることができる。支持体11の厚さに限定はないが、一般的には、1μm〜75μm程度の場合が多い。なお、下部電極膜12が支持体を兼ねる場合には、支持体11は不要である。また、下部電極膜12、誘電体膜13および上部電極膜14を形成したのち、支持体11を除去してもよい。すなわち、本発明のコンデンサは、支持体がないものであってもよい。
【0022】
下部電極膜12および上部電極膜14には、導電性を有する膜を用いることができ、たとえば金属膜を用いることができる。具体的には、アルミ、亜鉛、銅などを主成分とする金属膜を用いることができる。電極膜の膜厚については特に限定はないが、たとえば、膜厚が10nm〜150nmの膜を用いることができ、好ましくは膜厚が20nm〜50nmの膜を用いることができる。コンデンサ10の下部電極膜12と上部電極膜14とは、それぞれ電気回路に接続される。電気回路に接続する方法としては、たとえば、はんだ付け、金属溶射、クランプなどの方法を用いることができる。
【0023】
誘電体膜13は、少なくとも一種以上の樹脂モノマーを含む薄膜を形成したのち、上記薄膜中の樹脂モノマーを重合反応させることによって形成された樹脂膜である。
【0024】
重合反応によって誘電体膜13となる薄膜13a(図2(b)参照)は、樹脂モノマーに加えて、さらに添加剤を含んでもよい。このような添加剤としては、たとえば、重合開始剤、酸化防止剤、可塑剤、界面活性剤、密着性向上剤などが挙げられる。重合開始剤としては、たとえば、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフェリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン(以上それぞれ、イルガキュア369、819および907、チバスペシャルティケミカルズ製)を用いることができる。また、酸化防止剤としては、たとえば、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ,C7−C9側鎖アルキルエステル、4,6ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール(以上それぞれ、IRGANOX−1076、1135および1520L、チバスペシャルティケミカルズ製)を用いることができる。
【0025】
薄膜13aが重合開始剤を含む場合には、重合開始剤の含有量は、0.5重量%〜10重量%であることが好ましく、1重量%〜3重量%であることが特に好ましい。重合開始剤の含有量を0.5重量%以上とすることによって、薄膜13aの硬化速度を速めることができる。また、重合開始剤の含有量を10重量%以下とすることによって、樹脂モノマー31(図3参照)のポットライフが短くなりすぎるのを防止できる。また、重合開始剤の含有量を1重量%〜3重量%とすることによって、硬化速度を速めるとともに、樹脂モノマー31のポットライフが短くなることを防止し、コンデンサ10の製造を容易にできる。
【0026】
薄膜13aが酸化防止剤を含む場合には、酸化防止剤の含有量は、0.1重量%〜10重量%であることが好ましく、0.5重量%〜5重量%であることが特に好ましい。酸化防止剤の含有量を0.1重量%以上とすることによって、誘電体膜13の酸化を防止できる。また、酸化防止剤の含有量を10重量%以下とすることによって、薄膜13aの硬化速度を実用的な値にすることができる。また、酸化防止剤の含有量を0.5重量%以上とすることによって、誘電体膜13の酸化を顕著に防止できる。また、酸化防止剤の含有量を5重量%以下とすることによって、薄膜13aの硬化速度を好ましい値にすることができる。
【0027】
薄膜13aは、チオジアルキレン基を介して結合している複数の芳香環と、芳香環に結合したビニル基とを備える樹脂モノマー(以下、樹脂モノマーAという場合がある)を少なくとも含む。樹脂モノマーAに含まれる芳香環の数は、2個以上4個以下であることが好ましい。また、樹脂モノマーAに含まれるビニル基の数は、2個であることが好ましい。また、樹脂モノマーAに含まれるチオジアルキレン基は、チオジメチレン基であることが好ましい。なお、薄膜13aは、一種類の樹脂モノマーを含んでも、複数の種類の樹脂モノマーを含んでもよい。また、薄膜13aは、樹脂モノマーAと、樹脂モノマーA以外の樹脂モノマーとを含んでもよい。
【0028】
具体的には、たとえば、薄膜13aとして、以下の化学式(1)で表される樹脂モノマーや、以下の化学式(2)で表される樹脂モノマーを、いずれか単独、または両方とも含む膜を用いることができる。
【0029】
【化7】
【0030】
(式(1)中、2つのベンゼン環が置換されている位置は、それぞれ独立に、メタ位またはパラ位である)
【0031】
【化8】
【0032】
(式(2)中、3つのベンゼン環が置換されている位置は、それぞれ独立に、メタ位またはパラ位である)
なお、薄膜13aは、上記化学式(1)、(2)の樹脂モノマーを任意の割合で含んでもよく、たとえば、化学式(1)の樹脂モノマーを50重量%以上の割合で含み、さらに化学式(2)の樹脂モノマーを含んでもよい。
【0033】
以下に、上記化学式(1)の樹脂モノマーの製造方法について一例を説明する。化学式(1)の樹脂モノマーは、以下の化学式(3)で表されるm−クロロメチルスチレンおよびp−クロロメチルスチレンから選ばれる少なくとも1つと、硫化ナトリウム(Na2S)とを、60℃〜120℃の温度で4〜8時間反応させることによって容易に製造できる。
【0034】
【化9】
【0035】
上記化学式(3)で表されるクロロメチルスチレンは、セイミケミカル株式会社からCMS-P(メタ体50%、パラ体50%)およびCMS-14(メタ体5%、パラ体95%)という商品名で販売されている。
【0036】
上記反応の溶媒としては、水、アルコール類または水を3〜30重量%含むアルコール類が適している。
【0037】
次に、上記化学式(2)の樹脂モノマーの製造方法について一例を説明する。化学式(2)の樹脂モノマーは、以下の化学式(3)で表されるm−クロロメチルスチレンおよびp−クロロメチルスチレンから選ばれる少なくとも1つと、以下の化学式(4)で表されるm−ビス(メルカプトメチル)ベンゼンおよびp−ビス(メルカプトメチル)ベンゼンから選ばれる少なくとも1つとを、塩基触媒の存在下で60℃〜120℃で4〜8時間反応させることによって容易に製造できる。
【0038】
【化10】
【0039】
【化11】
【0040】
上記化学式(4)で表されるm−ビス(メルカプトメチル)ベンゼンおよびp−ビス(メルカプトメチル)ベンゼンは、それぞれ、淀化学株式会社からm−キシレンジチオールおよびp−キシレンジチオールという商品名で販売されている。
【0041】
上記塩基触媒には、Na2CO3やK2CO3などのアルカリ金属炭酸塩、CaCO3やMgCO3などのアルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属のアルコキシドなどが適している。この中でも、特にアルカリ金属炭酸塩が好ましい。また、上記反応の溶媒としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類や、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類が適している。
【0042】
次に、コンデンサ10の製造方法について説明する。図2に、製造工程の一例を示す。
【0043】
図2(a)を参照して、まず、支持体11上に、下部電極膜12を形成する。下部電極膜12は、電子ビーム蒸着、抵抗加熱蒸着、誘導加熱蒸着などの真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法またはメッキ法などで形成できる。なお、下部電極膜12を所定の形状に形成するには、メタルマスクを用いたり、フォトリソグラフィーやエッチングなどの技術を用いることができる。
【0044】
次に、図2(b)に示すように、下部電極膜12上に、樹脂モノマーを含む薄膜13aを形成する。薄膜13aは、重合反応によって誘電体膜13となる膜であり、上述した化学式(1)、(2)で表される樹脂モノマーや添加剤を含む。薄膜13aは、図3に示すように、真空下で薄膜13aを形成する樹脂モノマー31を入れた容器32を下部電極膜12に向けて配置し、容器32を加熱して樹脂モノマーを蒸発させることによって形成できる。薄膜13aを所定の形状に形成するには、メタルマスク(図示せず)を用いればよい。
【0045】
次に、薄膜13a中で樹脂モノマーを重合反応させることによって、図2(c)に示すように、誘電体膜13を形成する。重合反応(硬化)は、たとえば、薄膜13aに紫外線や電子線を照射することによって起こさせることができる。
【0046】
次に、図2(d)に示すように、下部電極膜12と同様の方法によって、上部電極膜14を形成する。このようにして、コンデンサ10を製造できる。なお、コンデンサ10aについても同様の製造方法で製造できる。
【0047】
上記実施形態1のコンデンサでは、誘電体膜13が、高湿度下や高温度下でも変質しにくいため、高湿度下や高温度下においても特性が良好なコンデンサが得られる。
【0048】
(実施形態2)
実施形態2では、本発明の電子部品について、コンデンサの他の一例を説明する。実施形態2のコンデンサ40の断面図を図4に示す。なお、実施形態1で説明した部分と同様の部分については重複する説明を省略する。
【0049】
図4を参照して、コンデンサ40は、誘電体膜41(ハッチングは省略する)と、誘電体膜41中に配置された複数の電極42aと電極42aに対向するように配置された電極42bと、電極42aおよび42bがそれぞれ接続された外部電極43aおよび43bとを備える。すなわち、コンデンサ40は、誘電体膜41の少なくとも一部を挟むように対向して配置された少なくとも一対の電極を備える。さらにコンデンサ40は、誘電体膜41中であって、電極42aおよび42bの外側に配置された金属薄膜44を備える。コンデンサ40のうち、複数の電極42aと電極42aに対向するように配置された電極42bが存在する部分が素子層40aとなる。また、コンデンサ40のうち、金属薄膜44が形成されている部分が補強層40bとなる。また、コンデンサ40のうち、誘電体膜41のみの部分が保護層40cとなる。補強層40bおよび保護層40cは、素子層40aが熱負荷や外力によって損傷を受けるのを防止する層である。なお、補強層40bや保護層40cがないコンデンサであってもよいことはいうまでもない。
【0050】
誘電体膜41は、実施形態1で説明した誘電体膜13と同様のものであり、同様の製造方法によって製造できる。
【0051】
コンデンサ40は、実施形態1で説明した方法を用いて製造することができる。ただし、コンデンサ40を製造する場合には、誘電体膜と電極42aまたは42bとを交互に積層する必要がある点、および外部電極43aおよび43bを形成する必要がある点で、実施形態1の製造方法と異なる。なお、外部電極43aおよび43bは、たとえば、金属溶射法、バンプ電極形成法または導電性ペースト塗布法などによって形成できる。
【0052】
上記実施形態2のコンデンサ40では、誘電体膜41が、高湿度下や高温度下でも変質しにくいため、高湿度下や高温度下においても特性が良好なコンデンサが得られる。
【0053】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0054】
(実施例1)
実施例1では、化学式(1)で表される樹脂モノマーを作製した一例について説明する。
【0055】
硫化ナトリウム九水和物36.0g(0.15モル)と蒸留水60mlとを容量が1リットルのフラスコに採取し、硫化ナトリウムを溶解させた後、室温下で1時間をかけて上述したCMS-P(メタ体50%、パラ体50%のクロロメチルスチレン)30.5g(0.20モル)を滴下した。次に、溶液を90℃まで昇温し、3時間撹拌を続けることによって反応させた。反応終了後、油状の上層液と下層の水溶液とに分離した溶液から油状液を分液し、これにトルエン200mlを加えた。こうして得られた溶液を5%苛性ソーダ水で洗浄した後、さらに蒸留水を用いてpHが7になるまで繰り返し洗浄した。次に、洗浄後の溶液を、無水硫酸ナトリウムで乾燥させたのち、重合禁止剤であるp−メトキシフェノール0.015g(CMS-Pに対して10000分の5重量部)を加え、溶媒を留去して赤褐色透明の液体25gを得た。この液体について、赤外分光分析(IR)、およびゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)の測定を行った。
【0056】
IRの測定結果を図5に示す。図5から明らかなように、ビニル基に基づく1630cm-1の吸収ピークと芳香環に基づく1510cm-1、1580cm-1および1600cm-1の吸収ピークが見られた。また、GPCでは、原料および副生成物は検出されなかった。以上のことから、最終的に得られた液体は、以下の化学式(5a)、(5b)および(5c)(以下、これら3つの化学式をまとめて化学式(5)という場合がある)で表されるビス(ビニルベンジル)スルフィドであることが判明した。
【0057】
【化12】
【0058】
なお、本実施例では、化学式(1)で表されるビス(ビニルベンジル)スルフィドのうち、化学式(5)で表されるビス(ビニルベンジル)スルフィドを作製した一例について説明したが、CMS-Pに代えてCMS-14を用いることによって、ビス(p−ビニルベンジル)スルフィドについても同様に作製できる。
【0059】
(実施例2)
実施例2では、化学式(2)で表される樹脂モノマーのうち、1,3−ビス(ビニルベンジルチオメチル)ベンゼンを作製した一例について説明する。
【0060】
上述したCMS-P(メタ体50%、パラ体50%のクロロメチルスチレン)30.5g(0.20モル)と、上述したm−キシレンジチオール17.0g(0.10モル)と、炭酸カリウム27.6g(0.20モル)と、メチルイソブチルケトン300mlとを、容量が1リットルのフラスコに採取し、還流下で6時間撹拌を続けることによって反応させた。反応終了後、得られた溶液に5%の塩酸水50mlを撹拌しながら徐々に加え、その後さらにトルエン300mlを加えた。こうして得られた溶液を、pHが7になるまで蒸留水を用いて繰り返し洗浄した。次に、洗浄後の溶液を、無水硫酸ナトリウムで乾燥させたのち、重合禁止剤であるp−メトキシフェノール0.015g(CMS-Pに対して10000分の5重量部)を加え、溶媒を留去して淡黄色透明の液体38gを得た。この液体について、赤外分光分析(IR)、およびゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)の測定を行った。
【0061】
IRの測定結果を図6に示す。図6から明らかなように、ビニル基に基づく1630cm-1の吸収ピークと芳香環に基づく1510cm-1、1580cm-1および1600cm-1の吸収ピークが見られる。また、GPCでは、原料および副生成物は検出されなかった。以上のことから、最終的に得られた液体は、以下の化学式(6a)、(6b)および(6c)(以下、これら3つの化学式をまとめて化学式(6)という場合がある)で表される1,3−ビス(ビニルベンジルチオメチル)ベンゼンであることが判明した。
【0062】
【化13】
【0063】
なお、本実施例では、化学式(2)で表される樹脂モノマーのうち、1,3−ビス(ビニルベンジルチオメチル)ベンゼンを作製した一例について説明したが、m−キシレンジチオールに代えてp−キシレンジチオールを用いることにより、1,4−ビス(ビニルベンジルチオメチル)ベンゼンについても同様に作製できる。また、CMS-Pに代えてCMS-14を用いることにより、1,3−ビス(p−ビニルベンジルチオメチル)ベンゼンを同様に作製できる。m−キシレンジチオールとCMS-Pに代えてp−キシレンジチオールとCMS-14を用いることにより、1,4−ビス(p−ビニルベンジルチオメチル)ベンゼンを同様に作製できる。
【0064】
(実施例3)
実施例3では、本発明の電子部品として、図1(a)に示したコンデンサを作製した一例について、図2を参照しながら説明する。
【0065】
まず、厚さ25μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)基板(支持体11に相当)を用意し、このPET基板上に、アルミからなる下部電極膜12(厚さ30nm)を、100nm/秒の堆積速度で蒸着した。
【0066】
その後、下部電極膜12上に、樹脂モノマーを蒸着することによって、樹脂モノマーからなる薄膜13a(厚さ200nm)を形成した(図2(b)参照)。具体的には、図3に示すような樹脂モノマー31を入れた容器32を、蒸着速度が500nm/秒となるように加熱し、下部電極膜12の一部が露出する位置に薄膜13aを形成した。
【0067】
その後、−15kVの加速電子を50μA/cm2の密度で2秒間、薄膜13aに照射することによって、薄膜13a中の樹脂モノマーを重合させ、誘電体膜13を形成した(図2(c)参照)。
【0068】
その後、誘電体膜13の上方であって下部電極膜12と接触しない位置に、アルミからなる上部電極膜14を、100nm/秒の堆積速度で蒸着した(図2(d)参照)。このようにしてコンデンサを、作製した。
【0069】
実施例3では、化学式(5)、化学式(6)、酸化防止剤としてIRGANOX1520Lを3重量%添加した化学式(5)で示される樹脂モノマーを用いて3種類の異なるサンプルを作製し、実施サンプル1〜3とした。
【0070】
また、比較例として、化学式(A)および化学式(B)で表される樹脂モノマーを用いたコンデンサを作製し、比較サンプル1および2とした。
【0071】
以上の5種類のコンデンサについて、特性の評価を行った。具体的には、▲1▼吸湿容量変化率と、▲2▼高温負荷容量変化率と、▲3▼素子を温水に浸漬した時の素子厚の変化を調べた(測定方法の詳細については後述する)。上記評価の結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1から明らかなように、実施サンプル1〜3のコンデンサは、▲1▼、▲2▼、▲3▼のいずれの評価においても、比較サンプルおよび2のコンデンサよりも優れた特性を示した。すなわち、本発明の樹脂モノマーを用いてコンデンサの誘電体膜を形成することによって、高湿度下および高温度下においても優れた特性のコンデンサが得られる。
【0074】
なお、誘電正接(tanδ)についても、実施サンプル1〜3のコンデンサは比較サンプル1および2のコンデンサと同等またはそれ以上の特性を示した。
【0075】
以下、表1に示した評価の方法について詳述する。
【0076】
▲1▼吸湿容量変化率については、以下の様に評価した。まず、コンデンサを105℃の環境下で10時間乾燥させ、初期容量C11を測定した。容量は、周波数1kHz、電圧1Vrmsの正弦波をコンデンサに加えて測定した。その後、温度60℃、湿度95%Rhの環境下でコンデンサを100時間放置し、放置後の容量(吸湿時の容量)C12を、初期容量と同様の条件で測定した。吸湿容量変化率は、(C12−C11)/C11×100(%)で表される値である。吸湿容量変化率の絶対値が小さいほど、湿度環境下における容量安定性が高く、製品として好ましい。したがって、この吸湿容量変化率の絶対値ができるだけ小さいことが特に重要である。
【0077】
▲2▼高温負荷容量変化率については、以下のように評価した。まず、コンデンサを105℃の環境下で10時間乾燥させ、初期容量C21を測定した。容量は、周波数1kHz、電圧1Vrmsの正弦波をコンデンサに加えて測定した。その後、温度105℃の環境下でコンデンサに16Vの直流電圧を印加した状態で50000時間放置し、放置後の容量C22を、初期容量と同様の条件で測定した。高温負荷容量変化率は、(C22−C21)/C21×100(%)で表される値である。高温負荷容量変化率の絶対値が小さいほど、高温時に酸化しにくいことを示しており、製品として好ましい。特に、近年はCPUの高速化などに伴う電子部品の耐高温性が重要になってきており、高温負荷容量変化率の絶対値が小さいことが、コンデンサの評価の重要な指標となる。
【0078】
▲3▼温水に浸漬したときの厚さの変化は、以下の様に評価した。まず、コンデンサの厚さを測定した。次に、コンデンサを90℃の温水中に3.5時間浸漬し、その後コンデンサを温水から取り出して再度厚さを測定した。そして、温水浸漬前の厚さと浸漬後の厚さとを比較した。この厚さの変化が大きいほど、誘電体膜が吸湿し、金属からなる電極膜との密着性が低下していることを示している。したがって、厚さの変化が小さいほど、誘電体膜と電極膜との密着性が高く、製品として好ましい。
【0079】
なお、誘電正接(tanδ)については、周波数1kHz、電圧1Vrmsの正弦波をコンデンサに加えて測定した。誘電正接が小さいほど、コンデンサ自体で消費する電力がより小さく、製品として好ましい。
【0080】
以上、本発明の実施の形態について例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず本発明の技術的思想に基づき他の実施形態に適用することができる。
【0081】
たとえば、上記実施形態では、本発明の電子部品がコンデンサである場合について説明したが、本発明の電子部品はこれに限定されず、上記実施形態で説明した誘電体膜を備えるものであれば、いかなるものであってもよい。具体的には、たとえば、コイル、抵抗、容量性電池、他の電子部品の支持部材などに用いることができる。
【0082】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の電子部品によれば、高湿度下や高温度下においても特性が良好な電子部品が得られる。特に、本発明をコンデンサに適用することによって、環境による特性変化が少ない高品質なコンデンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のコンデンサについて(a)一例の断面および(b)他の一例の断面を示す図である。
【図2】 本発明のコンデンサについて製造方法の一例を示す工程図である。
【図3】 図2に示した製造工程の一過程を示す図である。
【図4】 本発明のコンデンサについてその他の一例を示す(a)断面図および(b)斜視図である。
【図5】 本発明の電子部品の製造に用いられる樹脂モノマーの一例のビス(ビニルベンジル)スルフィドについてのIRスペクトルを示す図である。
【図6】 本発明の電子部品の製造に用いられる樹脂モノマーの一例の1,3−ビス(ビニルベンジルチオメチル)ベンゼンについてのIRスペクトルを示す図である。
【符号の説明】
10、10a、40 コンデンサ(電子部品)
11 支持体
12 下部電極膜
13 誘電体膜
13a 薄膜
14 上部電極膜
Claims (9)
- 誘電体膜を備える電子部品であって、
前記誘電体膜が、少なくとも一種以上の樹脂モノマーを含む薄膜を形成したのち前記薄膜中の前記樹脂モノマーを重合反応させることによって形成された膜であり、
前記樹脂モノマーが、チオジアルキレン基を介して結合している複数の芳香環と、前記芳香環に結合したビニル基とを備えることを特徴とする電子部品。 - 前記樹脂モノマーに含まれる前記芳香環の数が2個以上4個以下である請求項1に記載の電子部品。
- 前記樹脂モノマーに含まれる前記ビニル基の数が2個である請求項1に記載の電子部品。
- 前記チオジアルキレン基がチオジメチレン基である請求項1に記載の電子部品。
- 前記誘電体膜の少なくとも一部を挟むように対向して配置された一対の電極をさらに備える請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子部品。
- 前記薄膜が添加剤をさらに含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子部品。
- 前記添加剤が酸化防止剤を含む請求項8に記載の電子部品。
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